IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEケミカル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035381
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】組成物およびビニル重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/32 20060101AFI20240307BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C08F212/32
C08F216/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139798
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
(72)【発明者】
【氏名】北原 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】若井 智也
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB00P
4J100AE09Q
4J100BA08Q
4J100BC44Q
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA47
4J100JA00
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】低粘度および高屈折率であり、かつ、硬化性および接着性にも優れる組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示されるビニル化合物(A)と、下記式(2)で示されるビニル化合物(B)と、を含有する組成物。
上記式(2)中、nは、1、2または3を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるビニル化合物(A)と、下記式(2)で示されるビニル化合物(B)と、を含有する組成物。
【化1】
前記式(2)中、nは、1、2または3を示す。
【請求項2】
前記ビニル化合物(A)と前記ビニル化合物(B)との質量比(A/B)が、5/95~75/25である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
20℃における粘度が3~50mPa・sである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
重合開始剤を含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記重合開始剤の含有量が、前記ビニル化合物(A)と前記ビニル化合物(B)との合計100質量部に対して、0.3~5.0質量部である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
下記式(1)で示されるビニル化合物(A)と、下記式(2)で示されるビニル化合物(B)と、を重合させてなるビニル重合体。
【化2】
前記式(2)中、nは、1、2または3を示す。
【請求項7】
前記ビニル化合物(A)と前記ビニル化合物(B)の質量比(A/B)が、5/95~75/25である、請求項6に記載のビニル重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物およびビニル重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
安全性、衛生面などの観点から、溶剤の使用を避けるため、溶剤に代わる希釈剤として、ビニル化合物の混合物が使用される場合がある(特許文献1~3)。希釈剤としてのビニル化合物の混合物は、それ自身が反応性(硬化性)を有し、無溶剤で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-037548号公報
【特許文献2】特開2003-226719号公報
【特許文献3】特開2005-60393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
希釈剤は、溶剤と同様に、主剤と組み合わされて、基材などに塗工される。このため、ビニル化合物の混合物は、希釈剤として使用される場合には、基材に対する濡れ性を確保する等の観点から、低粘度であることが要求される。
また、従来の希釈剤は、主剤の屈折率を低下させるものが多く、その場合、光学材料(ディスプレイ、センサなど)への応用が難しい。このため、高屈折率の希釈剤が望まれている。
更に、基本的な性能として、希釈剤には、良好な硬化性のほか、基材に対する良好な接着性も要求される。
【0005】
そこで、本発明は、低粘度および高屈折率であり、かつ、硬化性および接着性にも優れる組成物(ビニル化合物の混合物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]後述する式(1)で示されるビニル化合物(A)と、後述する式(2)で示されるビニル化合物(B)と、を含有する組成物。
[2]上記ビニル化合物(A)と上記ビニル化合物(B)との質量比(A/B)が、5/95~75/25である、上記[1]に記載の組成物。
[3]20℃における粘度が3~50mPa・sである、上記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]重合開始剤を含有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]上記重合開始剤の含有量が、上記ビニル化合物(A)と上記ビニル化合物(B)との合計100質量部に対して、0.3~5.0質量部である、上記[4]に記載の組成物。
[6]後述する式(1)で示されるビニル化合物(A)と、後述する式(2)で示されるビニル化合物(B)と、を重合させてなるビニル重合体。
[7]上記ビニル化合物(A)と上記ビニル化合物(B)の質量比(A/B)が、5/95~75/25である、上記[6]に記載のビニル重合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低粘度および高屈折率であり、かつ、硬化性および接着性にも優れる組成物(ビニル化合物の混合物)を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の組成物(ビニル化合物の混合物)について説明する。なお、以下の説明は、本発明のビニル重合体の説明も兼ねる。
【0010】
[組成物]
本発明の組成物は、ビニル化合物の混合物であり、より詳細には、後述するビニル化合物(A)およびビニル化合物(B)を含有する。
本発明の組成物は、低粘度および高屈折率であり、かつ、硬化性および接着性にも優れる。
【0011】
〈ビニル化合物(A)〉
ビニル化合物(A)は、下記式(1)で示される、単官能ビニルナフタレンである。
ビニル化合物(A)には、位置異性体があるが、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。位置異性体の具体例としては、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレンが挙げられる。
【0012】
【化1】
【0013】
〈ビニル化合物(B)〉
ビニル化合物(B)は、下記式(2)で示される、エチレングリコール基およびビフェニル基を有するビニルエーテルである。
【0014】
【化2】
【0015】
上記式(2)中、nは、1、2または3を示す。
n=1の場合、ビニル化合物(B)は、2-(ビニルオキシエトキシ)ビフェニル(他の名称は、フェニルフェノキシエチルビニルエーテル)である。n=2の場合、ビニル化合物(B)は、2-(ビニルオキシエトキシ)エトキシビフェニルである。n=3の場合、ビニル化合物(B)は、2-[2-(2-ビニルオキシエトキシ)エトキシ]ビフェニルである。
ビニル化合物(B)は、単一の化合物でも、複数の化合物の混合体でもよい。
【0016】
〈粘度〉
本発明の組成物は、ビニル化合物(A)およびビニル化合物(B)以外の成分を含まない場合、その粘度は、例えば、50mPa・s以下である。
本発明の組成物の粘度は、例えば、3~50mPa・sであり、ガラスなどの基材に対する濡れ性の観点からは、5~30mPa・sが好ましい。
粘度は、20℃において回転粘度計を用いて測定される。より詳細には、後述する[実施例]に記載した方法により測定される。
【0017】
〈質量比〉
ビニル化合物(A)とビニル化合物(B)との質量比(A/B)は、本発明の組成物の粘度が上述した範囲となるという理由から、5/95~75/25が好ましく、30/70~70/30がより好ましい。
【0018】
〈重合開始剤〉
本発明の組成物は、更に、重合開始剤を含有してもよい。
重合開始剤としては、ビニル化合物(A)およびビニル化合物(B)のオレフィン部位を活性化させるものであれば特に限定されず、一般的に公知なものを使用してよい。
例えば、アゾ構造を含む熱分解性ラジカル発生剤;ヒドロキシアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイド、オキシムエステルなどの分子内開裂型;分子内水素引き抜き型;ブレンステッド酸発生型;ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、六フッ化アンチモン酸塩などのオニウム塩系開始剤;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
重合開始剤の含有量は、ビニル化合物(A)とビニル化合物(B)との合計100質量部に対して、0.3~5.0質量部が好ましく、1.0~3.0質量部がより好ましい。
【0020】
〈その他の成分〉
本発明の組成物には、必要に応じて、他の重合性オレフィン類;エポキシやオキセタンなどの環状エーテル類;オルガノポリシロキサン;等を配合してもよい。
更に、本発明の組成物には、基材に対する密着性を向上させる密着向上剤、レベリング剤、帯電防止剤、高屈材、難燃剤、消泡剤、顔料、フィラー、タルクなどを、必要に応じて、添加してもよい。
本発明の組成物は、無溶剤で使用されることを志向しているが、有機溶剤で希釈して使用することもできる。
【0021】
〈調製〉
本発明の組成物を調製する方法は、特に限定されない。
例えば、ビニル化合物(A)およびビニル化合物(B)ならびに重合開始剤、更に、必要に応じて、その他の成分を混合することにより、容易に調製できる。
これらの成分は、同時に混合してもよいし、ビニル化合物(A)およびビニル化合物(B)を混合し、その後に、重合開始剤を添加してもよい。
【0022】
例えば重合開始剤の作用によって、ビニル化合物(A)とビニル化合物(B)とを重合させてなるビニル重合体(例えば、後述する硬化膜)が得られる。
【0023】
〈塗工および硬化〉
本発明の組成物は、例えば、基材に塗工される。これにより、塗膜が得られる。
塗工方法としては、特に限定されず、ロールコート、グラビアコート、ダイコート、ワイヤードクターコート、スプレー、ミスト噴霧、ディッピング、インクジェットなどの公知の塗工方法が挙げられる。
【0024】
本発明の組成物が塗工される基材としては、特に限定されず、フィルム、シート、成形体などが挙げられる。
基材の素材も、特に限定されず、スチール、銅、アルミなどの金属;合成樹脂;ガラス;カーボンファイバー;等が挙げられ、用途に応じて適宜選択される。
【0025】
得られた塗膜は、硬化される。これにより、硬化膜が得られる。
塗膜を硬化させる方法は、特に限定されず、例えば、加熱または紫外線照射により硬化させる方法が挙げられる。
例えば、加熱に用いる装置(加熱装置)としては、熱風乾燥機、遠赤外線ヒーター、加熱炉などが挙げられる。
紫外線照射装置の光源としては、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、水銀アーク灯、発光ダイオードなどが挙げられる。例えば、高圧水銀ランプ(80W/cm)を使用する場合、5~20cmの距離から、0.01~30秒照射する。
【0026】
〈用途〉
本発明の組成物は、低粘度であることから、希釈剤として使用できる。その場合、主剤(例えば、公知の樹脂成分)と組み合わされて使用される。
本発明の組成物を、塗工し、硬化させることにより、容易に、透明性に優れ、かつ、高屈折率な硬化膜が得られる。このため、本発明の組成物は、例えば、ディスプレイ、センサーレンズなどのトップコートまたは中間層;金属、プラスチックなどの保護コーティング剤;等として使用できる。もっとも、本発明の組成物の用途は、これらの用途に限定されない。
【実施例0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
【0028】
〈実施例1〉
遮光したガラス瓶に、1-ビニルナフタレン(1-VN)5.0g、2-ビニルナフタレン(2-VN)1.0g、2-(ビニルオキシエトキシ)ビフェニル(式(2)においてn=1)(BP-EG-VE)4.0gを入れ、外気温を23±1℃に管理した振とう機で2時間混合し、無色透明溶液10.0gを得た。得られた溶液を、実施例1の試験液とした。
【0029】
〈実施例2〉
遮光したガラス瓶に、1-ビニルナフタレン2.5g、2-ビニルナフタレン2.5g、2-(ビニルオキシエトキシ)ビフェニル((式(2)においてn=1)5.0gを入れ、外気温を23±1℃に管理した振とう機で2時間混合し、無色透明溶液10.0gを得た。得られた溶液を、実施例2の試験液とした。
【0030】
〈実施例3〉
遮光したガラス瓶に、1-ビニルナフタレン4.0g、2-(ビニルオキシエトキシ)ビフェニル((式(2)においてn=1)6.0gを入れ、外気温を23±1℃に管理した振とう機で2時間混合し、無色透明溶液10.0gを得た。得られた溶液を、実施例3の試験液とした。
【0031】
〈実施例4〉
遮光したガラス瓶に、1-ビニルナフタレン2.5g、2-ビニルナフタレン1.5g、2-(ビニルオキシエトキシ)ビフェニル((式(2)においてn=1)6.0gを入れ、外気温を23±1℃に管理した振とう機で2時間混合し、無色透明溶液10.0gを得た。得られた溶液を、実施例4の試験液とした。
【0032】
〈比較例1〉
遮光したガラス瓶に、1-ビニルナフタレン7.0g、2-ビニルナフタレン3.0gを入れ、外気温を23±1℃に管理した振とう機で2時間混合し、無色透明溶液10.0gを得た。得られた溶液を、比較例1の試験液とした。
【0033】
〈比較例2〉
遮光したガラス瓶に、2-(ビニルオキシエトキシ)ビフェニル((式(2)においてn=1)10.0gを入れ、これを比較例2の試験液とした。
【0034】
〈比較例3〉
遮光したガラス瓶に、アクリル酸2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチル10.0gを入れ、これを比較例3の試験液とした。
【0035】
〈比較例4〉
遮光したガラス瓶に、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル10.0gを入れ、これを比較例4の試験液とした。
【0036】
〈比較例5〉
遮光したガラス瓶に、ビニルメタクリレート10.0gを入れ、これを比較例5の試験液とした。
【0037】
〈評価〉
実施例1~4および比較例1~5の試験液を用いて、以下に説明する試験を実施して、各種特性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0038】
《粘度》
試験液を入れたガラス瓶を恒温槽内に静置して、内容物(試験液)の温度が20℃になるように調整した。ブルックフィールド型粘度計(DVIIIULTRA、ブルックフィールド社製)に取り付けたローターLV-1を回転速度60rpmで30秒間動作させ、その後、試験液の粘度(単位:mPa・s)を測定した。
【0039】
《屈折率》
JIS K 7105に準拠して、アッベ屈折計(アタゴ社製)を用いて、25℃における試験液の屈折率(nD25)を測定した。
なお、試験液に含まれる重合成分(ビニル化合物)を重合させてなる重合体の屈折率は、試験液の屈折率よりも0.04~0.05大きくなる。
【0040】
《硬化性》
(塗工)
試験液10.0gに対し、感光性の重合開始剤(CPI-210S、サンアプロ社製)0.2gを添加し、重合開始剤の溶解を確認した。その後、試験液を、ガラス板(スライドガラスS9112、松浪硝子工業社製)上に載せ、ドクターブレード(2ミル、安田精機製作所社製)を使用して、厚さ約50μmの塗膜を形成し、テストパネルを得た。
【0041】
(硬化)
得られたテストパネルに、高圧水銀灯を備えるUV照射機(ユニキュアシステムUVC-1212、ウシオ電機社製)を用いて、紫外線を20秒間露光させて、塗膜を硬化させた。
【0042】
(評価基準)
硬化後の塗膜に指を接触させることにより、硬化性を以下の基準で評価した。
塗膜の表面がタック感(ベタつき)を失っていた場合は「○」を、塗膜が硬化せず液状のまま、または、塗膜の表面にタック感(ベタつき)が残っていた場合は「×」を、下記表1に記載した。「○」であれば、硬化性に優れると評価できる。
【0043】
《接着性》
硬化性の評価結果が「○」であったテストパネルについて、硬化後の塗膜(硬化膜)とガラス板との間に、カッターナイフを差し込み、指で力を加えて、引き剥がし(界面出し)を実施した。
引き剥がし時に十分な抵抗力があり、界面出しができなかった(硬化膜が剥がれなかった)場合は「○」を、界面出しが可能であった(硬化膜が剥がれた)場合は「×」を、下記表1に記載した。「○」であれば、接着性に優れると評価できる。
【0044】
【表1】
【0045】
〈評価結果まとめ〉
上記表1に示すように、実施例1~4の試験液は、低粘度および高屈折率であり、かつ、硬化性および接着性も良好であった。
これに対して、比較例1の試験液は、接着性が不十分であった。
比較例2の試験液は、実施例1~4と比べて高粘度であった。
比較例3の試験液は、実施例1~4と比べて低屈折率であった。
比較例4~5の試験液は、実施例1~4と比べて低屈折率であり、かつ、硬化性が不十分であった。