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特開2024-35405信号発生装置及びそれを用いたエンファシス切り替え方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035405
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】信号発生装置及びそれを用いたエンファシス切り替え方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/03 20060101AFI20240307BHJP
   H03H 17/06 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
H04L25/03 C
H03H17/06 681G
H03H17/06 655Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139841
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 達也
【テーマコード(参考)】
5K029
【Fターム(参考)】
5K029AA18
5K029DD04
5K029FF02
5K029GG05
5K029GG07
(57)【要約】
【課題】エンファシスの高速切り替えを実現しながら柔軟にタップ数を増やすことができる信号発生装置及びそれを用いたエンファシス切り替え方法を提供する。
【解決手段】信号発生装置1は、2値以上の多値からなるPAM信号のパターンにエンファシスを付加してエンファシス波形パターンを生成するFIRフィルタ部を少なくとも1つ備えるエンファシス付加回路5と、DUT100からのエンファシスの切り替え要求に応じて、各FIRフィルタ部にM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えて設定するタップ値設定部9と、を備え、各FIRフィルタ部が、FPGA又はASIC上に構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2値以上の多値からなるPAM信号のパターンにエンファシスを付加してエンファシス波形パターンを生成するFIRフィルタ部(50)を少なくとも1つ備えるエンファシス付加回路(5)と、
被測定物(100)からのエンファシスの切り替え要求に応じて、各前記FIRフィルタ部にM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えて設定するタップ値設定部(9)と、を備え、
各前記FIRフィルタ部は、
前記PAM信号のパターンを構成するn番目からn+M-1番目までのデータのうち、n+1番目からn+M-1番目までのデータをそれらの1つ前のデータに対してそれぞれ所定の遅延量ずつ遅延させて出力するとともに、前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記n番目からn+M-1番目までのデータとそれぞれ同じタイミングで出力する遅延部(51)と、
前記遅延部から出力された前記n番目からn+M-1番目までのデータを、前記遅延部から出力された前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)にそれぞれ乗算して出力する複数の乗算器(53)と、
前記複数の乗算器の出力値を加算して前記エンファシス波形パターンを生成する複数の加算器(55)と、を有し、
各前記FIRフィルタ部が、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)上に構成されたことを特徴とする信号発生装置。
【請求項2】
前記タップ値設定部は、
規格で定められた前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)の組を複数記憶するエンファシス設定テーブル(23)と、
前記被測定物からの前記切り替え要求に応じて、前記エンファシス設定テーブルの中から新たに各前記FIRフィルタ部に設定すべきタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を選択し、選択したタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記エンファシス設定テーブルから出力させるエンファシス切り替え指示部(22)と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の信号発生装置。
【請求項3】
前記複数の乗算器及び前記複数の加算器がDSP(Digital Signal Processor)(52)内に構成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号発生装置。
【請求項4】
前記エンファシス付加回路から出力された前記エンファシス波形パターンに応じたアナログ信号を前記被測定物に出力するNビットDAC(8)を更に備え、
前記FIRフィルタ部は、
前記複数の加算器により加算された前記複数の乗算器の出力値を0から2-1の範囲の整数値に変換して、Nビットの前記エンファシス波形パターンを生成するNビット変換部(52_M,52_0)を更に有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号発生装置。
【請求項5】
FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)上に構成された少なくとも1つのFIRフィルタ部(50)が、2値以上の多値からなるPAM信号のパターンにエンファシスを付加してエンファシス波形パターンを生成するエンファシス付加ステップ(S3)と、
被測定物(100)からのエンファシスの切り替え要求に応じて、各前記FIRフィルタ部にM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えて設定するタップ値設定ステップ(S6)と、を含み、
前記エンファシス付加ステップは、
前記PAM信号のパターンを構成するn番目からn+M-1番目までのデータのうち、n+1番目からn+M-1番目までのデータをそれらの1つ前のデータに対してそれぞれ所定の遅延量ずつ遅延させて出力するとともに、前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記n番目からn+M-1番目までのデータとそれぞれ同じタイミングで出力する遅延ステップと、
前記遅延ステップから出力された前記n番目からn+M-1番目までのデータを、前記遅延ステップから出力された前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)にそれぞれ乗算して出力する乗算ステップと、
前記乗算ステップの出力値を加算して前記エンファシス波形パターンを生成する加算ステップと、を含むことを特徴とするエンファシス切り替え方法。
【請求項6】
前記タップ値設定ステップは、
前記被測定物からの前記切り替え要求に応じて、規格で定められた前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)の組を複数記憶するエンファシス設定テーブル(23)の中から、新たに各前記FIRフィルタ部に設定すべきタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を選択し、選択したタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記エンファシス設定テーブルから出力させることを特徴とする請求項5に記載のエンファシス切り替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号発生装置及びそれを用いたエンファシス切り替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物(Device Under Test:DUT)が、PCIe(登録商標)(Peripheral Component Interconnect Express)や400GbE(Gigabit Ethernet)などの通信規格に準拠しているかを確認するためのコンプライアンステストにおいては、送信側となる信号発生装置(Pulse Pattern Generator:PPG)からDUTに出力されるテスト信号のビットレートの高速化に伴い、品質確保のためにテスト信号のエンファシスを設定する必要がある。このとき、DUTからのエンファシスの切り替え要求に応じて、テスト信号の波形を高速に切り替える必要がある。例えば、PCIeの規格では、1μs以下の切り替え時間でテスト信号の波形を切り替えることが要求されている。
【0003】
NRZ(Non Return to Zero)信号やPAM4(Pulse Amplitude Modulation 4)信号などをテスト信号として発生するPPGにおいては、これらのテスト信号のパターンにエンファシスを付加するエンファシス付加回路は、通常FIR(Finite Impulse Response)フィルタの構造となっており、DUTに最も近い側のIC(Integrated Circuit)で構成される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図8は、エンファシス付加に用いられるFIRフィルタ60の概略構成を示す回路図である。FIRフィルタ60は、入力されたパターンを1UI(Unit Interval)ずつ遅延させ、エンファシス付加のためのタップ値との積和演算を行ったものを出力する回路である。例えば、FIRフィルタ60は、入力されるパターンを順次1UIずつ遅延させて出力する4段の遅延回路61a~61dと、5個のタップ値C(-4),C(-3),C(-2),C(-1),C(0)に、入力されたパターンのn番目からn+4番目までのデータa~an+4をそれぞれ乗算する5個の乗算器62a~62eと、5個の乗算器62a~62eの出力値を加算し、エンファシスが付加されたパターンとして出力する4個の加算器63a~63dと、を有している。なお、各演算器の個数はあくまで一例である。
【0005】
FIRフィルタ60において、遅延回路61a~61dは、例えば、Dフリップフロップで構成され、それぞれ、入力クロックの立ち上がり又は立ち下がりのタイミングで、入力された値と同一の値を出力するようになっている。
【0006】
ここで、乗算器62aは、遅延のないパターンのn+4番目のデータan+4とタップ値C(-4)とを乗算する。乗算器62bは、遅延回路61aにより1UI遅延したパターンのn+3番目のデータan+3とタップ値C(-3)とを乗算する。乗算器62cは、遅延回路61a,61bにより2UI遅延したパターンのn+2番目のデータan+2とタップ値C(-2)とを乗算する。乗算器62dは、遅延回路61a~61cにより3UI遅延したパターンのn+1番目のデータan+1とタップ値C(-1)とを乗算する。乗算器62eは、遅延回路61a~61dにより4UI遅延したパターンのn番目のデータaとタップ値C(0)とを乗算する。
【0007】
また、加算器63dは、乗算器62dの出力値と乗算器62eの出力値とを加算する。加算器63cは、加算器63dの出力値と、乗算器62cの出力値とを加算する。加算器63bは、加算器63cの出力値と、乗算器62bの出力値とを加算する。加算器63aは、加算器63bの出力値と、乗算器62aの出力値とを加算することにより、乗算器62a~62eの出力値を全て加算した値を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5496940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された構造では、ICの設計によりタップ数が決定されるため、一度決定したタップ数を後から規格の変化に追従して増やすことができないという問題があった。
【0010】
また、特許文献1に開示された構造では、エンファシスの切り替えのためにハードウェアスイッチを導入しているため、FIRフィルタ全体の実装面積が増加して多タップの実現が難しいことや、柔軟にタップの値を切り替えるのが難しいという問題もあった。
【0011】
また、上記のFIRフィルタ60の構成では、例えば出力ビットレートの半分の周波数のクロックを用意する必要がある。しかしながら、仮にFIRフィルタ60をFPGA(Field Programmable Gate Array)上に構成する場合、FPGAは数100MHzのクロックでしか動作しないため、FIRフィルタ60のような1クロック1出力の回路では112Gなどの高速ビットレートに対応できないという問題もある。
【0012】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、エンファシスの高速切り替えを実現しながら柔軟にタップ数を増やすことができる信号発生装置及びそれを用いたエンファシス切り替え方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る信号発生装置は、2値以上の多値からなるPAM信号のパターンにエンファシスを付加してエンファシス波形パターンを生成するFIRフィルタ部を少なくとも1つ備えるエンファシス付加回路と、被測定物からのエンファシスの切り替え要求に応じて、各前記FIRフィルタ部にM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えて設定するタップ値設定部と、を備え、各前記FIRフィルタ部は、前記PAM信号のパターンを構成するn番目からn+M-1番目までのデータのうち、n+1番目からn+M-1番目までのデータをそれらの1つ前のデータに対してそれぞれ所定の遅延量ずつ遅延させて出力するとともに、前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記n番目からn+M-1番目までのデータとそれぞれ同じタイミングで出力する遅延部と、前記遅延部から出力された前記n番目からn+M-1番目までのデータを、前記遅延部から出力された前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)にそれぞれ乗算して出力する複数の乗算器と、前記複数の乗算器の出力値を加算して前記エンファシス波形パターンを生成する複数の加算器と、を有し、各前記FIRフィルタ部が、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)上に構成されている。
【0014】
この構成により、本発明に係る信号発生装置は、少なくとも1つのFIRフィルタ部を用いて、2値以上の多値からなるPAM信号のパターンにエンファシスを付加することができる。また、本発明に係る信号発生装置は、各FIRフィルタ部に入力されるM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えることで、最終出力波形を高速に切り替えることができる。また、本発明に係る信号発生装置は、少なくとも1つのFIRフィルタ部を有するエンファシス付加回路をFPGA又はASIC上に構成することで、今後の規格動向により必要なタップ数が増えた場合に、エンファシスの高速切り替えを実現したまま柔軟にタップ数Mや出力ビット数Nを増やすことができる。
【0015】
また、本発明に係る信号発生装置は、前記タップ値設定部が、規格で定められた前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)の組を複数記憶するエンファシス設定テーブルと、前記被測定物からの前記切り替え要求に応じて、前記エンファシス設定テーブルの中から新たに各前記FIRフィルタ部に設定すべきタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を選択し、選択したタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記エンファシス設定テーブルから出力させるエンファシス切り替え指示部と、を含む構成であってもよい。
【0016】
この構成により、本発明に係る信号発生装置は、被測定物からの切り替え要求に応じて、エンファシス設定テーブルからタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を選択して、選択したタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を各FIRフィルタ部に設定することができる。
【0017】
また、本発明に係る信号発生装置は、前記複数の乗算器及び前記複数の加算器がDSP(Digital Signal Processor)内に構成されていてもよい。
【0018】
この構成により、本発明に係る信号発生装置は、各FIRフィルタ部がDSPを用いて構成されているため、FPGA又はASICのリソースを効率的に利用することができ、今後の規格動向により必要なタップ数が増えた場合に、柔軟にタップ数Mや出力ビット数Nを増やすことができる。
【0019】
また、本発明に係る信号発生装置は、前記エンファシス付加回路から出力された前記エンファシス波形パターンに応じたアナログ信号を前記被測定物に出力するNビットDACを更に備え、前記FIRフィルタ部は、前記複数の加算器により加算された前記複数の乗算器の出力値を0から2-1の範囲の整数値に変換して、Nビットの前記エンファシス波形パターンを生成するNビット変換部を更に有する構成であってもよい。
【0020】
この構成により、本発明に係る信号発生装置は、エンファシス付加回路からのNビットのエンファシス波形パターンをNビットDACに入力して被測定物のテスト信号を生成する構成であるため、ビットレートの高速化とエンファシス付加を両立し、多値化に対応した波形性能の高い信号発生装置を実現することができる。
【0021】
また、本発明に係るエンファシス付加方法は、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)上に構成された少なくとも1つのFIRフィルタ部が、2値以上の多値からなるPAM信号のパターンにエンファシスを付加してエンファシス波形パターンを生成するエンファシス付加ステップと、被測定物からのエンファシスの切り替え要求に応じて、各前記FIRフィルタ部にM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えて設定するタップ値設定ステップと、を含み、前記エンファシス付加ステップは、前記PAM信号のパターンを構成するn番目からn+M-1番目までのデータのうち、n+1番目からn+M-1番目までのデータをそれらの1つ前のデータに対してそれぞれ所定の遅延量ずつ遅延させて出力するとともに、前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記n番目からn+M-1番目までのデータとそれぞれ同じタイミングで出力する遅延ステップと、前記遅延ステップから出力された前記n番目からn+M-1番目までのデータを、前記遅延ステップから出力された前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)にそれぞれ乗算して出力する乗算ステップと、前記乗算ステップの出力値を加算して前記エンファシス波形パターンを生成する加算ステップと、を含む構成である。
【0022】
また、本発明に係るエンファシス付加方法は、前記タップ値設定ステップが、前記被測定物からの前記切り替え要求に応じて、規格で定められた前記タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)の組を複数記憶するエンファシス設定テーブルの中から、新たに各前記FIRフィルタ部に設定すべきタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を選択し、選択したタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を前記エンファシス設定テーブルから出力させる構成であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、エンファシスの高速切り替えを実現しながら柔軟にタップ数を増やすことができる信号発生装置及びそれを用いたエンファシス切り替え方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る信号発生装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る信号発生装置が備えるエンファシス付加回路のFIRフィルタ部の概略構成を示す回路図(その1)である。
図3】FIRフィルタ部が有するDSPの概略構成を示す回路図である。
図4】本発明の実施形態に係る信号発生装置が備えるエンファシス付加回路のFIRフィルタ部の概略構成を示す回路図(その2)である。
図5】エンファシス付加回路の構成を示すブロック図である。
図6】エンファシス付加回路の1クロックごとの出力を説明するための表である。
図7】本発明の実施形態に係る信号発生装置を用いるエンファシス切り替え方法の処理を示すフローチャートである。
図8】従来のエンファシス付加に用いられるFIRフィルタの概略構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る信号発生装置及びそれを用いたエンファシス切り替え方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0026】
図1に示す本実施形態に係る信号発生装置1は、パターン生成回路2と、エンコーディング回路3と、シンボル・レベル変換部4と、エンファシス付加回路5と、出力トランシーバ6と、マルチプレクサ(Multiplexer:MUX)7と、NビットDAC(Nbit Digital Analog Converter)8と、タップ値設定部9と、操作部10と、制御部11と、を備える。なお、パターン生成回路2、エンコーディング回路3、シンボル・レベル変換部4、エンファシス付加回路5、出力トランシーバ6、及びタップ値設定部9は、例えばFPGA又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)上に構成されるが、以下では、これらがFPGA上に構成されるものとして説明する。
【0027】
パターン生成回路2は、制御部11から入力されるパターン情報に基づいて、所定周期のクロックに同期した2値以上の多値K(Kは2以上の整数)からなるPAM信号のパターンを生成するようになっている。パターン生成回路2は、例えば、NRZ信号(K=2)、PAM3信号(K=3)、PAM4信号(K=4)、PAM5信号(K=5)、PAM6信号(K=6)、PAM7信号(K=7)、PAM8信号(K=8)などの任意の多値KからなるPAM信号のパターンを生成する。ここで、パターン情報とは、Kの値、パターンの種類(例えば、PRBS(Pseudo Random Binary Sequence)パターン、SSPRQ(Short Stress Pattern Random Quaternary)パターン、任意のパターン)などのPAM信号のパターンの情報であり、ユーザによる操作部10への操作入力により設定可能である。
【0028】
エンコーディング回路3は、制御部11から入力されるコーディング情報に基づいて、パターン生成回路2により生成されたPAM信号のパターンを構成するPAMシンボルに、グレイコーディング(Gray Coding)やプレコーディング(Precoding)などのコーディングを行うようになっている。ここで、コーディング情報とは、グレイコーディングやプレコーディングを行うか否かを示す情報であり、ユーザによる操作部10への操作入力により設定可能である。
【0029】
例えば、エンコーディング回路3は、あらかじめユーザによる操作部10への操作入力により、PAMシンボルに対するグレイコーディング処理のON設定がなされている場合に、PAMシンボルにグレイコーディングを行う。一方、エンコーディング回路3は、あらかじめユーザによる操作部10への操作入力により、グレイコーディング処理のOFF設定がなされている場合には、PAMシンボルにグレイコーディングを行わない。同様に、エンコーディング回路3は、あらかじめユーザによる操作部10への操作入力により、プレコーディング処理のON設定がなされている場合に、PAMシンボルにプレコーディングを行う。一方、エンコーディング回路3は、あらかじめユーザによる操作部10への操作入力により、プレコーディング処理のOFF設定がなされている場合には、PAMシンボルにプレコーディングを行わない。
【0030】
シンボル・レベル変換部4は、制御部11から入力される振幅情報に基づいて、エンコーディング回路3から出力されたPAM信号のパターンを構成するPAMシンボルを、例えば-1から1の範囲の振幅値のデータaに変換するようになっている。ここで、振幅情報とは、例えばPAM4信号(K=4)の場合には、PAMシンボル"00"を振幅値"-1"、PAMシンボル"01"を振幅値"-0.33"、PAMシンボル"10"を振幅値"0.33"、PAMシンボル"11"を振幅値"1"に対応付ける情報であり、ユーザによる操作部10への操作入力により設定可能である。つまり、振幅情報によって定められる振幅値の大きさに応じて、最終的にNビットDAC8から出力されるPAM信号のアイの振幅比率が変わる。
【0031】
エンファシス付加回路5は、シンボル・レベル変換部4から出力されたPAM信号のパターンにエンファシスを付加してエンファシス波形パターンを生成するFIRフィルタ部50(図2及び図4参照)を少なくとも1つ備えるものである。
【0032】
図2に示すように、FIRフィルタ部50は、タップ数がMであり、遅延部51を構成するM-1個の遅延回路51_1~51_M-1と、M+1個のDSP(Digital Signal Processor)52_0~52_Mと、を有する。タップ数Mは、FPGAの容量による制限はあるが、任意の値とすることができる。M+1個のDSP52_0~52_Mの構成は全て同一であってよく、以下では各DSPに符号52を付して示す場合もある。各FIRフィルタ部50は、例えばFPGA又はASIC上に構成される。
【0033】
遅延回路51_1~51_M-1は、それぞれ、同一クロックのタイミングでシンボル・レベル変換部4から出力されたn番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa,an+1,・・・,an+M-1のうち、n+1番目からn+M-1番目までのデータan+1,an+2,・・・,an+M-1をそれらの1つ前のデータa,an+1,・・・,an+M-2に対してそれぞれ所定の遅延量ずつ遅延させて出力するようになっている。また、遅延部51は、後述するタップ値設定部9により設定されるM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)をn番目からn+M-1番目までのデータa,an+1,・・・,an+M-1とそれぞれ同じタイミングで出力するようになっている。遅延回路51_1,51_2,・・・,51_M-1は、例えば、Dフリップフロップで構成される。
【0034】
図3に示すように、DSP52は、入力値aと入力値bとを乗算した値a×bを出力する乗算器53と、入力値cを0UI又は1UI遅延させて出力する遅延器54と、乗算器53の出力値a×bと遅延器54の出力値cとを加算した値dを出力する加算器55と、を含む。乗算器53の乗算処理と加算器55の加算処理は、共に2クロック分、すなわち2UI分の時間を要する。
【0035】
つまり、遅延器54の遅延量が0UIの場合、DSP52の出力値dは、入力値a,bの入力から4クロック遅延するとともに、入力値cの入力から2クロック遅延する。一方、遅延器54の遅延量が1UIの場合、DSP52の出力値dは、入力値a,bの入力から4クロック遅延するとともに、入力値cの入力から3クロック遅延する。
【0036】
図2は、DSP52の遅延器54の遅延量が0UIの場合のFIRフィルタ部50の構成を示す回路図である。図2に示す構成では、DSP52_0~52_M-1の乗算器53は、遅延部51から出力されたn番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa,an+1,・・・,an+M-1を、遅延部51から出力されたタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)にそれぞれ乗算して出力するようになっている。ここで、タップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)は、それぞれ-1から1の範囲の値であって、それらの絶対値の合計は1である。
【0037】
遅延回路51_1は、n+1番目のPAMシンボルのデータan+1とタップ値C(-1)を2UI遅延させる。同様に、遅延回路51_M-1は、n+M-1番目のPAMシンボルのデータan+M-1とタップ値C(1-M)を2(M-1)UI遅延させる。
【0038】
DSP52_0の乗算器53は、遅延のないn番目のPAMシンボルのデータaとタップ値C(0)とを乗算する。DSP52_1の乗算器53は、遅延回路51_1により2UI遅延したn+1番目のPAMシンボルのデータan+1とタップ値C(-1)とを乗算する。同様に、DSP52_M-1の乗算器53は、遅延回路51_M-1により2(M-1)UI遅延したn+M-1番目のPAMシンボルのデータan+M-1とタップ値C(1-M)とを乗算する。
【0039】
DSP52_0の加算器55は、DSP52_0の乗算器53の出力値に定数1を加算する。DSP52_0の加算器55で加算される定数1は、FIRフィルタ部50からの出力、すなわち、NビットDAC8への入力が0~2-1の範囲の整数になるように調整するための数値である。FIRフィルタ部50からの出力値を0~2-1の範囲の整数以外にする場合には、DSP52_0の加算器55で加算される定数は適宜他の適切な値に設定されればよい。
【0040】
DSP52_0~52_M-1の加算器55は、DSP52_0~52_M-1の乗算器53の出力値を加算してエンファシス波形パターンを生成するようになっている。DSP52_1の加算器55は、DSP52_0の加算器55の出力値とDSP52_1の乗算器53の出力値を加算する。同様に、DSP52_M-1の加算器55は、DSP52_M-2の加算器55の出力値とDSP52_M-1の乗算器53の出力値を加算する。
【0041】
DSP52_Mの乗算器53は、DSP52_M-1の加算器55の出力値に定数2N-1を乗算する。また、DSP52_Mの加算器55は、DSP52_Mの乗算器53の出力値に定数-0.5を加算してNビットのエンファシス波形パターンのデータbを得る。さらに、DSP52_Mは、得られたNビットのエンファシス波形パターンのデータbをNレーンに展開して出力する。
【0042】
DSP52_Mに入力される上記の定数2N-1と-0.5は、NビットDAC8への入力が0から2-1の範囲の整数になるように調整するための数値である。FIRフィルタ部50からの出力値を0~2-1の範囲の整数以外にする場合には、上記の定数2N-1と-0.5は適宜他の適切な値に設定されればよい。ここで、DSP52_MとDSP52_0は、M個のDSP52_0~52_M-1の加算器55により加算された、M個のDSP52_0~52_M-1の乗算器53の出力値を、0から2-1の範囲の整数値に変換して、Nビットのエンファシス波形パターンを生成するNビット変換部を構成する。
【0043】
n番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa,an+1,・・・,an+M-1がシンボル・レベル変換部4から出力されたタイミングを基準とすると、DSP52_0の加算器55の出力値の遅延量は4クロック分であり、DSP52_1の加算器55の出力値の遅延量は6クロック分である。同様に、DSP52_M-1の加算器55の出力値の遅延量は(M+1)×2クロック分である。さらに、DSP52_Mの加算器55の出力値の遅延量は(M+3)×2クロック分である。すなわち、図2に示すFIRフィルタ部50全体の遅延量は、(M+3)×2クロック分である。
【0044】
図4は、DSP52の遅延器54の遅延量が1UIの場合のFIRフィルタ部50の構成を示す回路図である。図2の構成と図4の構成とは、DSP52の遅延器54の遅延量と、遅延回路51_1~51_M-1の遅延量とが異なる点以外は同様である。
【0045】
図4に示す構成では、遅延回路51_1は、n+1番目のPAMシンボルのデータan+1とタップ値C(-1)を3UI遅延させる。同様に、遅延回路51_M-1は、n+M-1番目のPAMシンボルのデータan+M-1とタップ値C(1-M)を3(M-1)UI遅延させる。
【0046】
n番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa,an+1,・・・,an+M-1がシンボル・レベル変換部4から出力されたタイミングを基準とすると、DSP52_0の加算器55の出力値の遅延量は4クロック分であり、DSP52_1の加算器55の出力値の遅延量は7クロック分である。同様に、DSP52_M-1の加算器55の出力値の遅延量は(M+1)×3-2クロック分である。さらに、DSP52_Mの加算器55の出力値の遅延量は(M+1)×3+2クロック分である。すなわち、図4に示すFIRフィルタ部50全体の遅延量は、(M+1)×3+2クロック分である。
【0047】
図2及び図4に示すFIRフィルタ部50の構成によれば、NビットDAC8への入力であるデータbの初項のデータbは、データa,a,・・・,aM-1を用いた下記の式(1)で表される。
【0048】
【数1】
【0049】
同様に、データbは、データa,a,・・・,aを用いた下記の式(2)で表される。
【0050】
【数2】
【0051】
よって、データbの一般項は、データa,an+1,・・・,an+M-1を用いた下記の式(3)で表される。ここで、データbは、0から2-1の範囲の整数である。
【0052】
【数3】
【0053】
図2及び図4は、FIRフィルタ部50がタップ数M個分のデータa,an+1,・・・,an+M-1を処理するための構成を示しているが、エンファシス付加回路5が構成されるFPGAは、同一クロックでレーンごとに256や512などのビット数を同時に処理することができる。このため、図5に示すように、エンファシス付加回路5は、図2及び図4のFIRフィルタ部50の回路構成をFPGAのリソースに応じて、並列に複数個設けたものとして構成することができる。すなわち、図5に示すように構成されたエンファシス付加回路5は、例えばデータb,bn+1,bn+2,・・・などのエンファシス付加後のパターンを構成する複数のデータを同一クロックのタイミングで出力することができる。
【0054】
例えば、エンファシス付加回路5の出力レーン数N、すなわちデータbのビット数Nが4であり、出力レーンごとの1クロックにおける処理ビット数Bが8ビットであるとすると、1クロック目と2クロック目のエンファシス付加回路5からのデータbの出力は、図6に示すようになる。すなわち、エンファシス付加回路5は、データbを構成するNビットをN個のレーンに1ビットずつ振り分けて、1クロックでB個のデータbi×B~bi×B+B-1を同時に出力する。ここで、iは0以上の整数である。なお、ビット数Nは、上記の値に限定されるものではなく、NビットDAC8の入力ビット数に応じた任意の値であってよい。
【0055】
図1に示す出力トランシーバ6は、エンファシス付加回路5により生成されたNビットのエンファシス波形パターンのデータbをN×Xレーンに展開して出力するようになっている。ここで、Xは2以上の整数である。本実施形態においては、出力トランシーバ6は、FPGAの出力部であって、各出力レーンから0又は1のデジタル信号を出力する。
【0056】
MUX7は、後段のNビットDAC8から出力される多値KのPAM信号のビットレートを高速化するために設けられたものであり、出力トランシーバ6のN×Xレーンの出力をNレーンに多重化して、所望のビットレートのNビットのエンファシス波形パターンのデータbを復元するようになっている。なお、出力トランシーバ6のN×Xレーンの出力はそれぞれ0又は1のデジタル信号であるため、MUX7がこのデジタル信号を所定のクロックで取り込む際に、エンファシス付加回路5によるPAM信号のパターンへのエンファシス付加が消えることはない。
【0057】
NビットDAC8は、MUX7により復元されたNビットのエンファシス波形パターンのデータbに応じたアナログ信号、すなわち多値KのPAM信号をDUT100に出力するようになっている。なお、MUX7とNビットDAC8とは、別体のものであってもよく、一体化されたものであってもよい。NビットDAC8から出力されたPAM信号は、テスト信号としてDUT100に入力される。
【0058】
DUT100は、信号発生装置1から出力されたテスト信号が入力されるようになっている。また、DUT100は、入力されるテスト信号に付加されるエンファシスを切り替えるための切り替え要求を出力可能に構成されている。切り替え要求は、例えば、0レベルと1レベルの2値を取る切り替え要求信号の0レベルから1レベルへ立ち上がるタイミング、又は、1レベルから0レベルに立ち下がるタイミングで表される。
【0059】
DUT100が対応する規格の例としては、PCIe Gen1~6、USB3.1~4、DP1.4~2、CEI(Common Electrical Interface)、IEEE802.3、InfiniBandなどが挙げられる。例えば、DUT100がリンク状態管理機構(Link Training and Status State Machine:LTSSM)を搭載したものである場合には、DUT100は、LTSSMにおいて特定のステート遷移が起こったときに切り替え要求を出力するようになっている。
【0060】
なお、通常のNビットDACは、任意波形発生器(Arbitrary Waveform Generator:AWG)のように任意波形を発生可能であるため、本実施形態のエンファシス付加回路5を用いずに、NビットDAC8から直接エンファシスが付加されたPAM信号のパターンを出力することも可能である。その場合、NビットDACに直結されているRAMの値を書き換えることでエンファシスを切り替えることができる。しかしながら、設定するパターン長にもよるが、RAMへのエンファシス波形パターンの書き込みには数秒~数10秒オーダー程度のかなりの時間を要するため、NビットDACをAWGとして用いる構成では、エンファシスの高速切り替えはできない。
【0061】
これに対して、本実施形態の信号発生装置1を用いれば、1μs以内の高速なエンファシス切り替えを行うことが可能になる。以下、本実施形態の信号発生装置1におけるエンファシス切り替え、すなわち、タップ値の切り替えを行うための構成について説明する。
【0062】
図1に示すタップ値設定部9は、テスト信号が入力されたDUT100からのエンファシスの切り替え要求に応じて、各FIRフィルタ部50にM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えて設定するものである。タップ値設定部9は、入力トランシーバ21と、エンファシス切り替え指示部22と、エンファシス設定テーブル23と、エンファシス切り替えスイッチ24と、を含む。
【0063】
入力トランシーバ21は、DUT100から出力された切り替え要求をエンファシス切り替え指示部22に出力するようになっている。
【0064】
エンファシス設定テーブル23は、DUT100が対応する規格で定められたタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)の組を複数記憶している。また、エンファシス設定テーブル23は、ユーザによる操作部10への操作入力により任意に設定されたタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)の組を記憶していてもよい。
【0065】
エンファシス切り替え指示部22は、入力トランシーバ21を介してDUT100から入力された切り替え要求に応じて、エンファシス設定テーブル23の中から新たに各FIRフィルタ部50に設定すべきタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を選択し、選択したタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)をエンファシス設定テーブル23から出力させるようになっている。
【0066】
例えば、エンファシス切り替え指示部22は、DUT100がLTSSMを搭載したものである場合には、DUT100から出力された切り替え要求に基づいて、LTSSMがどのステートからどのステートに遷移したかを把握できるようになっていてもよい。この場合、エンファシス切り替え指示部22は、LTSSMの特定のステート遷移に対応したタップ値C(0)~C(1-M)をエンファシス設定テーブル23から出力させることができる。
【0067】
エンファシス切り替えスイッチ24は、ユーザによる操作部10への操作入力により信号発生装置1の動作モードが規格モードに設定されている場合に、エンファシス設定テーブル23から出力されたタップ値C(0)~C(1-M)を、DUT100から出力された切り替え要求に基づくタイミングで各FIRフィルタ部50に出力するようになっている。これにより、各FIRフィルタ部50に新たなタップ値C(0)~C(1-M)が設定される。
【0068】
一方、エンファシス切り替えスイッチ24は、ユーザによる操作部10への操作入力により信号発生装置1の動作モードがユーザ定義モードに設定されている場合に、ユーザによる操作部10への操作入力により任意に設定されたタップ値C(0)~C(1-M)を、ユーザによる操作部10への操作入力により任意に設定されたタイミングで各FIRフィルタ部50に出力するようになっている。これにより、各FIRフィルタ部50に新たなタップ値C(0)~C(1-M)が設定される。
【0069】
なお、n番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa~an+M-1は、各FIRフィルタ部50のDSP52_0並びに遅延回路51_1~51_M-1に同一クロックのタイミングで入力される。また、M個のタップ値C(0)~C(1-M)は、タップ値設定部9によるタップ値の設定時に、n番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa~an+M-1と同一のタイミングで、DSP52_0並びに遅延回路51_1~51_M-1に入力され、以後新たな切り替え要求が発生するまでDSP52_0並びに遅延回路51_1~51_M-1に常時入力される。一方、DSP52_0に入力される定数1、並びに、DSP52_Mに入力される定数2N-1及び-0.5は、DSP52_0とDSP52_Mに常時入力されている。
【0070】
以下、本実施形態の信号発生装置1によるエンファシスの切り替えに要する時間について説明する。
【0071】
まず、出力トランシーバ6は、エンファシス付加回路5から入力されたNビットのエンファシス波形パターンのデータbをN×Xレーンに展開して出力するまでに、約4クロック分の時間を要する。また、入力トランシーバ21は、DUT100から出力された切り替え要求をエンファシス切り替え指示部22に出力するまでに、約4クロック分の時間を要する。
【0072】
エンファシス切り替え指示部22は、入力トランシーバ21から切り替え要求が入力されてから、エンファシス設定テーブル23から各FIRフィルタ部50に設定すべきタップ値C(0)~C(1-M)を出力させるまでに、3クロック分程度の時間を要する。
【0073】
さらに、DSP52の遅延器54の遅延量が1UIであり、かつ、FIRフィルタ部50のタップ数Mが5である場合、FIRフィルタ部50全体の遅延量は、(M+1)×3+2クロック分=20クロック分である。
【0074】
すなわち、信号発生装置1のFPGAにおけるエンファシスの切り替えに要する時間は、約31クロック分の時間となる。このため、例えば、テスト信号が32GbaudのPAM4信号であり、このテスト信号に対するFPGA内の動作クロック周波数が125MHzであるとすると、上記の約31クロック分の時間は約248nsとなる。その他、MUX7、NビットDAC8、DUT100の信号送受信部などのハードウェア部分での遅延時間があるが、これらは全て合わせても数ns~10数ns程度の遅延時間である。したがって、FPGAでの遅延時間と、ハードウェア部分での遅延時間とを全て考慮した遅延時間は、多くても約300ns程度と推測される。そのため、本実施形態の信号発生装置1は、PCIeで要求される1μs以内の切り替え時間を満たす高速なエンファシス切り替えを実現できる。
【0075】
また、本実施形態の信号発生装置1は、動作クロック周波数のより高いFPGAを使用することで、FPGA内の処理時間が更に短縮され、更に高速なエンファシス切り替えを実現することができる。
【0076】
操作部10は、ユーザによる操作入力を受け付けるためのものであり、例えば表示装置の表示画面に対応する入力面への接触操作による接触位置を検出するためのタッチセンサを備えるタッチパネルで構成される。あるいは、操作部10は、キーボード又はマウスのような入力デバイスを含んで構成されてもよい。操作部10への操作入力は、制御部11により検知されるようになっている。例えば、操作部10により、パターン生成回路2に入力されるパターン情報、エンコーディング回路3に入力されるコーディング情報、シンボル・レベル変換部4に入力される振幅情報、FIRフィルタ部50に入力されるタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)、動作モードの選択、DUT100が対応している規格の選択などの設定をユーザが任意に行うことが可能である。
【0077】
制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などを含むマイクロコンピュータ又はパーソナルコンピュータ等で構成され、ROMにあらかじめ記憶されたプログラムに従って信号発生装置1を構成する上記各部の動作を制御するものである。
【0078】
以下、本実施形態の信号発生装置1を用いるエンファシス切り替え方法について、図7のフローチャートを参照しながらその処理の一例を説明する。
【0079】
まず、制御部11は、ユーザによる操作部10への操作入力により、パターン生成回路2に入力されるパターン情報、エンコーディング回路3に入力されるコーディング情報、シンボル・レベル変換部4に入力される振幅情報、FIRフィルタ部50に入力されるタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)などの初期設定を行う(ステップS1)。
【0080】
次に、ステップS2において、パターン生成回路2は、ステップS1で設定されたパターン情報に基づいて、2値以上の多値KからなるPAM信号のパターンを生成する。エンコーディング回路3は、ステップS1で設定されたコーディング情報に基づいて、パターン生成回路2により生成されたPAM信号のパターンを構成するPAMシンボルに、グレイコーディングやプレコーディングを行う。シンボル・レベル変換部4は、ステップS1で設定された振幅情報に基づいて、エンコーディング回路3から出力されたPAMシンボルを-1から1の範囲の振幅値のデータaに変換する。
【0081】
次に、エンファシス付加回路5は、ステップS1又は後述するステップS6で設定されたタップ値に基づいて、ステップS2で振幅値のデータaに変換されたPAM信号のパターンに各FIRフィルタ部50を用いてエンファシスを付加してエンファシス波形パターンを生成する(エンファシス付加ステップS3)。
【0082】
なお、上記のエンファシス付加ステップS3は、遅延ステップと、乗算ステップと、加算ステップと、Nビット変換ステップと、を含む。
【0083】
遅延ステップは、PAM信号のパターンを構成するn番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa~an+M-1のうち、n+1番目からn+M-1番目までのデータan+1~an+M-1をそれらの1つ前のデータa~an+M-2に対してそれぞれ所定の遅延量ずつ遅延させて出力するとともに、M個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)をn番目からn+M-1番目までのデータa~an+M-1とそれぞれ同じタイミングで出力するステップである。
【0084】
乗算ステップは、遅延ステップから出力されたn番目からn+M-1番目までのPAMシンボルのデータa~an+M-1を、遅延ステップから出力されたM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)にそれぞれ乗算して出力するステップである。
【0085】
加算ステップは、乗算ステップの出力値を加算してエンファシス波形パターンを生成するステップである。Nビット変換ステップは、加算ステップにより加算された乗算ステップの出力値を、0から2-1の範囲の整数値に変換して、Nビットのエンファシス波形パターンを生成するステップである。
【0086】
次に、ステップS4において、出力トランシーバ6は、エンファシス付加回路5から出力されたNビットのエンファシス波形パターンをN×Xレーンに展開して出力する。MUX7は、出力トランシーバ6の出力をNレーンに多重化してNビットのエンファシス波形パターンを復元して、NビットDAC8に出力する。NビットDAC8は、MUX7により復元されたNビットのエンファシス波形パターンに応じたアナログ信号をDUT100に出力する。
【0087】
次に、エンファシス切り替え指示部22は、DUT100から切り替え要求が出力されたか否かを判断する(ステップS5)。
【0088】
DUT100から切り替え要求が出力された場合には、エンファシス切り替え指示部22は、各FIRフィルタ部50に設定すべき新たなM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を、エンファシス設定テーブル23の中から選択し、選択した新たなタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)をエンファシス設定テーブル23から出力させて、各FIRフィルタ部50に設定する(タップ値設定ステップS6)。すなわち、タップ値設定ステップS6において、エンファシス切り替え指示部22は、各FIRフィルタ部50に既に設定されていたタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を、切り替え要求に応じた新たなタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)に切り替えて各FIRフィルタ部50に設定する。タップ値設定ステップS6が実行されると、再びステップS3以降の処理が実行される。
【0089】
以上説明したように、本実施形態に係る信号発生装置1は、少なくとも1つのFIRフィルタ部50を用いて、2値以上の多値からなるPAM信号のパターンにエンファシスを付加することができる。また、本実施形態に係る信号発生装置1は、各FIRフィルタ部50に入力されるM個のタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を切り替えることで、最終出力波形を高速に切り替えることができる。また、本実施形態に係る信号発生装置1は、少なくとも1つのFIRフィルタ部50を有するエンファシス付加回路5をFPGA又はASIC上に構成することで、今後の規格動向により必要なタップ数が増えた場合に、エンファシスの高速切り替えを実現したまま柔軟にタップ数Mや出力ビット数Nを増やすことができる。
【0090】
また、本実施形態に係る信号発生装置1は、DUT100からの切り替え要求に応じて、エンファシス設定テーブル23からタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を選択して、選択したタップ値C(0),C(-1),・・・,C(1-M)を各FIRフィルタ部50に設定することができる。
【0091】
また、本実施形態に係る信号発生装置1は、各FIRフィルタ部50がDSP52を用いて構成されているため、FPGA又はASICのリソースを効率的に利用することができ、今後の規格動向により必要なタップ数が増えた場合に、柔軟にタップ数Mや出力ビット数Nを増やすことができる。
【0092】
また、本実施形態に係る信号発生装置1は、エンファシス付加回路5からのNビットのエンファシス波形パターンをNビットDAC8に入力してDUT100のテスト信号を生成する構成であるため、ビットレートの高速化とエンファシス付加を両立し、多値化に対応した波形性能の高い信号発生装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 信号発生装置
2 パターン生成回路
3 エンコーディング回路
4 シンボル・レベル変換部
5 エンファシス付加回路
6 出力トランシーバ
7 MUX
8 NビットDAC
9 タップ値設定部
10 操作部
11 制御部
21 入力トランシーバ
22 エンファシス切り替え指示部
23 エンファシス設定テーブル
24 エンファシス切り替えスイッチ
50 FIRフィルタ部
51 遅延部
51_1~51_M-1 遅延回路
52,52_0~52_M DSP
53 乗算器
54 遅延器
55 加算器
60 FIRフィルタ
100 DUT
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8