(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035426
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】コンクリートスラブ表面の補修時期予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240307BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20240307BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20240307BHJP
G01N 3/40 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N33/38
G01N3/00 M
G01N3/40 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139869
(22)【出願日】2022-09-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行日 令和4年 7月20日 刊行物 2022年度大会(北海道)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集 一般社団法人日本建築学会発行
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】竹本 喜昭
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 勇太郎
【テーマコード(参考)】
2G050
2G061
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050EB01
2G061AA20
2G061AB10
2G061BA15
2G061CA08
2G061CB20
2G061DA10
2G061EA10
2G061EB10
2G061EC09
(57)【要約】
【課題】微破壊の状態で、コンクリート表面の耐久性を判断できるコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法を提供する。
【解決手段】コンクリートスラブ表面の補修時期予測方法は、所定の載荷重量を備えた車輪でコンクリートの表面上を走行させた後に、コンクリートの表面のモース硬度を測定することを前記車輪の走行回数を変えて行って、走行回数ごとのモース硬度との関係値を算出して、近似式を導き出して、モース硬度の硬度2に到達する走行回数を算出し、車輪を5万回以上走行させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の載荷重量を備えた車輪でコンクリートの表面上を走行させた後に、前記コンクリートの表面のモース硬度を測定することを前記車輪の走行回数を変えて行って、前記走行回数ごとの前記モース硬度との関係値を算出して、近似式を導き出して、前記モース硬度の硬度2に到達する前記走行回数を算出するコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法。
【請求項2】
前記近似式は一次関数である請求項1に記載のコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法。
【請求項3】
前記載荷重量が200kgfの場合の前記モース硬度の硬度2に到達する前記走行回数は、前記載荷重量が600kgfの場合の前記モース硬度の硬度2に到達する前記走行回数の3倍である請求項1または2に記載のコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法。
【請求項4】
前記コンクリートの表面に塗布材が塗布されている場合には、前記走行回数を増やしても前記モース硬度が略一定となる状態を超えた前記走行回数での前記関係値を含めて前記近似式を導き出す請求項1または2に記載のコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートスラブ表面の補修時期予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信販売事業の拡大に伴って、大型物流倉庫においては短時間で多くの荷物を移動させる必要がある。自動搬送機(以下、AGV:Automatic Guided Vehicle)による荷物の搬送が不可欠となっている。例えば、ある物流倉庫では、数百台のAGVが年間ほぼ休みなく走り回っているため、走行頻度が多い箇所では、コンクリートスラブの表面に車輪の走行跡が短期間で見られるようになり、時間の経過とともに表面が摩耗して轍となる。このような轍は、AGVの走行時の振動や衝撃が大きくなるため、AGVの破損や搭載機器類の故障、誤作動につながることになり問題となっている。
【0003】
下記の特許文献1には、コンクリートの劣化の診断または予測方法が提案されている。この方法は、診断の対象となるコンクリートに発生している劣化の種類(例えば、アルカリ骨材反応(ASR)、エトリンガイトの遅延生成(DEF)、凍害、火害、塩害、または中性化による鉄筋腐食等を原因とする劣化)や、コンクリートの劣化の程度(劣化の大きさ)を診断または予測することを目的としている。また、診断の対象となるコンクリートに複数の種類の劣化が生じている場合には、各劣化の種類、各劣化の程度、及び各劣化の程度からコンクリートの劣化における主な原因(要因)を診断することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
傷を付けたり、叩いたりしたような微破壊の状態で、コンクリート表面の耐久性を判断できる方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、微破壊の状態で、コンクリート表面の耐久性を判断できるコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係るコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法は、所定の載荷重量を備えた車輪でコンクリートの表面上を走行させた後に、前記コンクリートの表面のモース硬度を測定することを前記車輪の走行回数を変えて行って、前記走行回数ごとの前記モース硬度との関係値を算出して、近似式を導き出して、前記モース硬度の硬度2に到達する前記走行回数を算出する。
【0008】
また、本発明に係るコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法では、前記近似式は一次関数である。
【0009】
また、本発明に係るコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法では、前記載荷重量が200kgfの場合の前記モース硬度の硬度2に到達する前記走行回数は、前記載荷重量が600kgfの場合の前記モース硬度の硬度2に到達する前記走行回数の3倍である。
【0010】
また、本発明に係るコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法では、前記コンクリートの表面に塗布材が塗布されている場合には、前記走行回数を増やしても前記モース硬度が略一定となる状態を超えた前記走行回数での前記関係値を含めて前記近似式を導き出す。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法によれば、微破壊の状態で、コンクリート表面の耐久性を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コンクリートスラブ表面の補修時期予測方法で使用するモース硬度試験器を示す斜視図である。
【
図2】コンクリートに600kgfを載荷した車輪を繰り返し走行させた場合の走行回数と硬度の変化を示すグラフである。
【
図3】車輪の繰返し走行によるコンクリート表面の状態を示し、(a)10万回後のコンクリート表面を示す写真であり、(b)30万回後のコンクリート表面を示す写真である。
【
図4】コンクリートに、400kgf及び600kgfを載荷した車輪を繰り返し走行させた場合の走行回数と硬度の変化を示すグラフである。
【
図5】塗布材を塗った場合及び塗っていない場合(
図2)において、コンクリートに600kgfを載荷した車輪を繰り返し走行させた場合の走行回数と硬度の変化を示すグラフである。
【
図6】コンクリートスラブ表面の補修時期予測方法のイメージを示す。
【
図7】塗布材を塗った場合のコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法のイメージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法について説明する。
【0014】
図1は、コンクリートスラブ表面の補修時期予測方法で使用するモース硬度試験器を示す斜視図である。
所定の載荷重量を備えた車輪でコンクリートの表面上を走行させた後に、コンクリートの表面のモース硬度を測定する。モース硬度を測定する際には、
図1に示すモース硬度試験器1を用いる。
【0015】
モース硬度試験器1は、ペン状の試験ペン10を複数有している。複数の試験ペン10の先端部11は、それぞれ異なる種類の鉱物で形成されている。試験ペン10の先端部11で、対象物の表面を引っ掻いて、表面に傷がつくかどうかで、表面の硬さを評価する。表1に、試験ペン10の先端部11の鉱物とその説明を示す。
【0016】
【0017】
図2は、コンクリートに600kgfを載荷した車輪を繰り返し走行させた場合の走行回数と硬度の変化を示すグラフである。
モース硬度の測定は、車輪の走行回数を変えて行う。
図2に示すように、走行回数ごとのモース硬度との関係値を算出する。10万回までは直線的に硬度が低下して、10万回で硬度1まで低下している。その後、20万回から30万回では硬度2に戻って一定となっている。
【0018】
図3は、車輪の繰返し走行によるコンクリート表面の状態を示し、(a)10万回後のコンクリート表面を示す写真であり、(b)30万回後のコンクリート表面を示す写真である。
図3(a)に示すように、10万回ではコンクリート表面が削れて粉末状となっていて、部分的に骨材(砂)が見えている。
図3(b)に示すように、さらに30万回では、各所に骨材が見えていて、部分的には深く表面が摩耗していることが分かる。
【0019】
図2に示すように、20万回から30万回は硬度2であるが、これは骨材の周囲を埋めているセメントの評価であり、骨材の硬度は2よりも高い。AGVの車輪は骨材表面に接している状態であるため、硬度は2で変化がないが、骨材が取れてしまうと摩耗量が急に大きくなり、轍となっていくと考えられる。
【0020】
したがって、コンクリート表面においては、1回目の硬度2に到達した時点において、摩耗の閾値と考えることができる。表1における硬度の説明においても、硬度2は指の爪で傷が付く程度であるため、コンクリート表面としてはかなり脆い状態であると言える。
【0021】
600kgf載荷のこの試験結果においては、10万回までの結果から以下の式(1)で示す近似式が得られ、硬度2に到達するのは約84,000回である。走行回数と硬度との関係の近似式は、一次関数である。近似式を導き出すのに必要な走行回数は、コンクリートスラブの表面の硬さ、荷重値、車輪の素材等の組み合わせによって異なる。比例関係が把握できるまで測定すればよく、本実施形態では例えば5万回以上の走行回数から近似式を導き出すことが可能である。
【0022】
【0023】
式(1)において、Y=2の場合は、X=8.39(83,900回)である。
【0024】
図4は、コンクリートに、400kgf及び600kgfを載荷した車輪を繰り返し走行させた場合の走行回数と硬度の変化を示すグラフである。
図4に示すように、400kgf載荷の近似式は以下の式(2)となり、硬度2に到達するのは約139,000回である。
【0025】
【0026】
式(2)において、Y=2の場合は、X=13.91(139,100回)である。
【0027】
400kgf載荷において、硬度2に到達する回数の約139,000回は、600kgf載荷の約84,000回と比較すると約1.65倍となる。400kgf載荷に対して600kgf載荷は1.50倍であるため、載荷重量と走行回数はおおよそ比例関係であると考えられる。したがって、載荷重量が200kgfの場合を仮定すると、硬度2に到達するのは、約3倍の約251,700回であると予測できる。
【0028】
図5は、塗布材を塗った場合及び塗っていない場合(
図2)において、コンクリートに600kgfを載荷した車輪を繰り返し走行させた場合の走行回数と硬度の変化を示すグラフである。塗布材を塗った場合とは、コンクリート表面に耐摩耗性を付与する塗布材を塗ったコンクリートを用いた場合である。
図5に示すように、塗布材を塗った場合には、2万回から6万回では硬度に変化は見られない。6万回から10万回にかけて、硬度は低下している。これは、塗布材の耐摩耗性効果と考えられるが、6万回以降はその効果が失われたと考えられる。この場合、10万回以降は直線的に低下すると考えられるため、硬度2に到達するのは以下の式(3)により約121,000回と算出できる。
【0029】
【0030】
式(3)において、Y=2の場合は、X=12.1(121,000回)である。
【0031】
したがって、この塗布材を用いたコンクリートの場合は、400kgf載荷では182,000回、200kgf載荷では364,000回と予測することができる。
【0032】
図2、
図4及び
図5は、スラブを模擬して作製したコンクリートの試験体の結果である。コンクリートスラブ表面は、コンクリートの配合、押え方(手押え、機械押え)、養生方法(散水、シート、浸漬)などによって表面の耐摩耗性が異なる。また、耐摩耗性を付与する塗布材も多くのメーカーから各種あり、塗布量、塗布方法、コンクリートへの浸透状態によっても効果が異なる。また、AGVの車輪については、車輪の載荷重量、形状、素材の硬さなど様々な条件がある。したがって、コンクリートスラブ仕様と車輪の素材、載荷重量などについては、実現場で計画されている組合せの試験を行う必要がある。
【0033】
ただし、実際の使用条件は、車輪の載荷重量が例えば100kgf~200kgfのケースもあり、硬度2に達する走行回数が100万回以上となる可能性もあり、条件を合わせた試験を最後まで行うのは相当な時間と労力がかかる。したがって、上記の方法により、実際よりも大きい載荷重量で促進的にコンクリート表面を摩耗して、短時間で結果を得ることで、実際の走行回数を算出することができる。
【0034】
図6には、コンクリートスラブ表面の補修時期予測方法のイメージを示す。
例えば、600kgf載荷で(走行回数を違えた)複数の硬度を測定する。近似式によって硬度2に到達する走行回数を算出する。実際の載荷重が200kgfならば、走行回数を3倍にする。必要に応じて、実現場での硬度測定を実施する。補修時期と補修方法を事前に検討する。
【0035】
図7は、塗布材を塗った場合のコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法のイメージを示す。
例えば、600kgf載荷で(走行回数を違えた)複数の硬度を測定する。途中の硬度一定の時期を含めて測定する。塗布材の効果が失われて、硬度低下した時期で測定する。硬度低下した時期以降の測定したデータから、近似式によって硬度2に到達する走行回数を算出する。実際の載荷重が200kgfならば、走行回数を3倍にする。必要に応じて、実現場での硬度測定を実施する。補修時期と補修方法を事前に検討する。
【0036】
また、この方法は、実際の現場でも簡単に表面の硬さを測定できるため、コンクリート表面の硬さの変化を定期的に測定することで、硬度2に到達する時期を算定できる。したがって、大きな轍になる前に早めにメンテナンス時期と補修方法を検討することができ、労力と費用を最小限に抑えることができる。
【0037】
以上より手順を示す。
(手順1)
・コンクリート配合、仕上げ方法、塗布材種類、車輪の素材(硬さ)、載荷重量(AGVの重量)など組合せた試験体における車輪の走行試験を実施する。
【0038】
(手順2)
・複数回の走行回数におけるコンクリート表面のモース硬度を測定する。
【0039】
(手順3)
・走行回数による硬度低下から近似式を取得する。
・硬度2に到達する走行回数を算出する。
・実際の載荷重量に合わせて走行回数を算出する。
【0040】
(手順4)
・スラブの仕様に反映する。
・車輪の素材、載荷重量を検討する。
・メンテナンス計画を立案する。
【0041】
・実建物での硬度測定を定期的に実施して、手順3,4を繰り返してもよい。
【0042】
このように構成されたコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法では、微破壊の状態で、コンクリート表面の耐久性を判断することができる。
【0043】
また、実際の使用条件による試験を行うよりも早く試験結果を得ることができ、試験における時間、費用、労力の削減となる。
【0044】
また、試験によって得られた結果により、設計段階でAGVの仕様や走行条件に合わせたスラブ仕様を検討できる。
【0045】
また、実現場での硬度測定が容易であり、コンクリート表面の状態が把握できる。
【0046】
また、メンテナンス時期を事前に検討することができ、労力と費用を最小限に抑えることができる。
【0047】
以上、本発明に係る外装材の風荷重評価方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0048】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係るコンクリートスラブ表面の補修時期予測方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。