(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035447
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】蒸留装置、及び蒸留方法
(51)【国際特許分類】
B01D 3/14 20060101AFI20240307BHJP
B01D 3/42 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B01D3/14 Z
B01D3/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139903
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】若林 敏祐
(72)【発明者】
【氏名】大友 陽平
(72)【発明者】
【氏名】東郷 昌輝
【テーマコード(参考)】
4D076
【Fターム(参考)】
4D076BB04
4D076BB05
4D076BC01
4D076CB12
4D076CD33
4D076DA02
4D076DA33
4D076DA36
4D076EA06Y
4D076EA07Y
4D076EA14Y
4D076EA16Y
4D076JA05
(57)【要約】
【課題】コンプレッサーの所要動力を低減する。
【解決手段】蒸留装置は、バッチ式の蒸留塔と、蒸留塔に供給された液体を蒸発させて蒸気とするため加熱するリボイラーと、液体を加熱するための流体を流入させて当該流体を加圧昇温してリボイラーに供給する容積式のコンプレッサーと、蒸留塔の塔頂蒸気を凝縮し、凝縮液とするためのコンデンサーと、コンデンサーで凝縮した凝縮液を抜き出す留出液抜き部と、蒸留塔内の残留液を抜き出す缶出液抜き部とを備える。コンプレッサーは、蒸留装置の稼働中にリボイラーに要求される加熱温度の変化に合わせて、コンプレッサーで加圧昇温する流体の実体積流量を変化させる実体積流量調節機構を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチ式の蒸留塔と、
前記蒸留塔に供給された液体を蒸発させて蒸気とするため加熱するリボイラーと、
前記液体を加熱するための流体を流入させて当該流体を加圧昇温して前記リボイラーに供給する容積式のコンプレッサーと、
前記蒸留塔の塔頂蒸気を凝縮し、凝縮液とするためのコンデンサーと、
前記凝縮液を抜き出す留出液抜き部と、前記蒸留塔内の残留液を抜き出す缶出液抜き部とを備える蒸留装置であって、
前記流体は前記蒸気の凝縮熱を保持するものであり、前記コンプレッサーで加圧昇温されたのち、前記リボイラーで凝縮する際に前記凝縮熱を前記液体に与えて凝縮するものであって、
前記コンプレッサーは、前記蒸留装置の稼働中に前記リボイラーに要求される加熱温度の変化に合わせて、前記コンプレッサーで加圧昇温する前記流体の実体積流量を変化させる実体積流量調節機構を有することを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記蒸留塔が、内部に棚段あるいは充填物を有さず、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流部を有しない単蒸留を行うものである請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項3】
前記蒸留塔が、内部に棚段あるいは充填物を有する精留塔であり、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流部を有する請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項4】
前記実体積流量調節機構が、段階容量制御システムによるものである請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項5】
前記実体積流量調節機構が、無段階容量制御システムによるものである請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項6】
前記流体が作動流体であるとともに前記液体がプロセス流体であり、前記作動流体は前記コンデンサーで前記蒸気が凝縮する凝縮熱を受け取り、前記凝縮熱を受け取った前記作動流体は前記コンプレッサーで加圧昇温され、前記リボイラーで凝縮する際に前記凝縮熱をプロセス流体に与えて凝縮するものであって、前記凝縮された作動流体は減圧弁により減圧され温度が低下するものであって、前記減圧された作動流体はドラムで気液分離されるものであって、前記気液分離された作動流体のうち液体は前記コンデンサーに供給される間接式ヒートポンプ機構を有する請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項7】
前記流体が前記蒸気であり、前記コンプレッサーにより加圧昇温された後、前記リボイラーで前記蒸留塔に供給された液体を蒸発させて蒸気とし、
前記リボイラーで前記流体の蒸気は凝縮する直接式ヒートポンプ機構を有する請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項8】
前記蒸留塔が、内部に棚段あるいは充填物を有する精留塔であり、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流部を有するものであり、前記リボイラーに熱を与えて凝縮した前記流体の圧力を低下させて前記蒸留塔に還流させるための減圧弁を有する請求項7に記載の蒸留装置。
【請求項9】
バッチ式の蒸留塔に液体を供給する供給工程と、
前記液体を加熱するための流体を容積式のコンプレッサーで吸込んで、前記流体を加圧昇温してリボイラーに供給する加圧昇温工程と、
前記リボイラーにおいて、前記蒸留塔から供給された前記液体と、加圧昇温した前記流体との間で熱交換を行い、前記液体を加熱するとともに、前記流体を凝縮させる加熱工程と、
前記加熱工程での加熱によって前記蒸留塔の塔頂蒸気をコンデンサーに送り、熱交換によって前記蒸気を凝縮させ、凝縮液とする凝縮工程と、
前記凝縮液を抜き出す留出液抜き工程と、
前記蒸留塔内の残留液を抜き出す缶出液抜き工程とを有する蒸留方法であって、
前記加圧昇温工程において、より小さい昇温幅で動作するヒートポンプによる加熱によって前記液体の蒸留を行うことができるように、前記リボイラーに要求される加熱温度の変化に合わせて、前記コンプレッサーで加圧昇温する前記流体の実体積流量を実体積流量調節機構により変化させることを特徴とする蒸留方法。
【請求項10】
前記蒸留方法が、内部に棚段あるいは充填物を有さず、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流工程を有しない前記蒸留塔における単蒸留操作である請求項9に記載の蒸留方法。
【請求項11】
前記蒸留方法が、内部に棚段あるいは充填物を有し、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流工程を有する前記蒸留塔における精留操作である請求項9に記載の蒸留方法。
【請求項12】
前記実体積流量調節機構が、段階容量制御システムによるものである請求項9に記載の蒸留方法。
【請求項13】
前記実体積流量調節機構が、無段階容量制御システムによるものである請求項9に記載の蒸留方法。
【請求項14】
前記流体が作動流体であるとともに前記液体がプロセス流体であり、前記作動流体は前記コンデンサーで前記蒸気が凝縮する凝縮熱を受け取り、前記凝縮熱を受け取った作動流体は前記コンプレッサーで加圧昇温され、前記リボイラーで凝縮する際に前記凝縮熱をプロセス流体に与えて凝縮し、減圧弁により減圧され温度が低下し、ドラムで気液分離された液体が前記コンデンサーに供給される間接式ヒートポンプ機構を有する請求項9に記載の蒸留方法。
【請求項15】
前記流体は前記蒸気であり、前記コンプレッサーにより加圧昇温された後、前記リボイラーで前記蒸留塔に供給された液体を蒸発させて蒸気とし、前記リボイラーで前記流体の蒸気は凝縮する直接式ヒートポンプ機構を有する請求項9に記載の蒸留方法。
【請求項16】
前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流工程と、減圧弁で減圧する減圧工程とを有し、前記減圧工程を前記還流工程に含む直接式ヒートポンプ機構を有する請求項15に記載の蒸留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置、及び蒸留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、蒸留塔と、リボイラーと、圧縮機と、コンデンサーとを備える蒸留装置について記載している。蒸留塔に供給される液体として、微量メタノールを含む含水エタノールを記載している。
【0003】
特許文献1の蒸留装置は、水を作動流体(冷媒)とする間接式ヒートポンプを有している。間接式ヒートポンプでは、コンプレッサーともいう圧縮機で昇圧、昇温した水蒸気を凝縮器(蒸留装置のリボイラー)に供給する。凝縮器(蒸留装置のリボイラー)に供給された水蒸気の温度は、蒸留塔の底部の含水エタノールの温度よりも高くなるように設定される。そのため、凝縮器(蒸留装置のリボイラー)に吐出された水蒸気は、含水エタノールに熱を与えて凝縮する。凝縮した水は、蒸発器(蒸留装置のコンデンサー)に送られる。また、凝縮器(蒸留装置のリボイラー)での加熱によって、蒸留塔の塔頂から不良アルコールの蒸気が排出されて、蒸発器(蒸留装置のコンデンサー)に送られる。蒸発器(蒸留装置のコンデンサー)に送られた水の温度は、不良アルコールの蒸気の温度よりも低くなるように設定される。そのため、不良アルコールの蒸気は、水に熱を与えて凝縮し、大部分が配管を通って蒸留塔へ戻る。凝縮した塔頂蒸気の一部は、不良アルコール液として抜き取られる。そして、メタノールを除去した含水エタノールが、蒸留塔の塔底から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1等の蒸留装置には、バッチ式蒸留装置と、連続式蒸留装置とが存在する。バッチ式蒸留装置では、蒸留塔に処理対象の液体を充填した後、蒸留を行う。そのため、バッチ式蒸留装置では、蒸留の進行にともない蒸留塔内の液体の量が減少する。
【0006】
バッチ式蒸留装置では、蒸留の進行にともない、より蒸発しにくい、言い換えれば、より沸点の高い液体が蒸留塔内に多く滞留した状態となる。そのため、蒸留の進行にともない、リボイラーでの加熱温度を高くする必要があった。
【0007】
しかし、特許文献1等の蒸留装置に用いられるコンプレッサーは、一般に、遠心式であり、遠心式のコンプレッサーは、流体の流量が略一定の条件で、略一定の昇圧、及び昇温を行う場合に適している。具体的には、遠心式のコンプレッサーは、設計点における流体の成分や流量に合わせて、特定のインペラの形状を設計している。ここで、あるヒートポンプ蒸留システムを、リボイラーに要求される加熱温度が幅広く変化する系に適用する場合について考える。その場合、ヒートポンプでの熱の汲み上げ幅を、リボイラーに要求される加熱温度変化の範囲全てを網羅するようにコンプレッサーでの圧縮比を設定することが考えられる。その一方で、リボイラーに要求される加熱温度の変化に合わせて、コンプレッサーの吸込圧力を高くしながらコンプレッサーでの圧縮比を適切に設定することで、コンプレッサーの吐出圧力および温度を高くすることも考えられる。この場合、温度の汲上げ幅、すなわち、圧縮比を、前述の、ヒートポンプでの熱の汲み上げ幅をリボイラーに要求される加熱温度変化の範囲全てを網羅するように設定する場合と比較して小さく抑えることが可能である。しかし、このような操作においては、コンプレッサーの吸込流体の圧力を高くすることで流体の密度が大きくなるため、実体積流量が設計点における実体積流量よりも過少となる。これにともない、遠心式コンプレッサーが通常運転可能な吸込実体積流量範囲から外れてしまう虞がある。ここで、一般的な遠心式コンプレッサーが通常運転可能な吸込実体積流量範囲の下限は、設計点を100%とした場合、例えば、80%である。蒸留装置側の要求として、コンプレッサーが吸込む流体の流量が設計点の80%以下となる場合でも、圧縮機で処理する吸込実体積流量が設計点の80%を保つことができるように、キックバックラインを用いた循環運転をする必要がある。そのため、循環する流体量の分、圧縮機の動力が大きな状態で運転することになる。さらに、前述の通り、遠心式コンプレッサーのインペラの形状は、設計点における流体の成分や流量に合わせて設計されており、流体の成分や流量が変化した際は、所定の昇圧能力が発揮できない虞がある。以上を鑑み、リボイラーに要求される加熱温度が幅広く変化する系への遠心式コンプレッサーを用いたヒートポンプの適用は、困難であるか、もしくは、ヒートポンプ蒸留システムに期待される省エネルギー効果が発揮できない虞がある。
【0008】
また、特許文献1等のヒートポンプのように、別途選定した作動流体を用いてヒートポンプサイクルを形成するものは間接式ヒートポンプとも呼ばれる。間接式ヒートポンプとは異なり、プロセス流体を作動流体として利用してヒートポンプサイクルを形成するものは直接式ヒートポンプとも呼ばれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
態様1の蒸留装置は、バッチ式の蒸留塔と、前記蒸留塔に供給された液体を蒸発させて蒸気とするため加熱するリボイラーと、前記液体を加熱するための流体を流入させて当該流体を加圧昇温して前記リボイラーに供給する容積式のコンプレッサーと、前記蒸留塔の塔頂蒸気を凝縮し、凝縮液とするためのコンデンサーと、前記凝縮液を抜き出す留出液抜き部と、前記蒸留塔内の残留液を抜き出す缶出液抜き部とを備える蒸留装置であって、前記流体は前記蒸気の凝縮熱を保持するものであり、前記コンプレッサーで加圧昇温されたのち、前記リボイラーで凝縮する際に前記凝縮熱を前記液体に与えて凝縮するものであって、前記コンプレッサーは、前記蒸留装置の稼働中に前記リボイラーに要求される加熱温度の変化に合わせて、前記コンプレッサーで加圧昇温する前記流体の実体積流量を変化させる実体積流量調節機構を有することを要旨とする。
【0010】
態様2は、態様1に記載の蒸留装置において、前記蒸留塔が内部に棚段あるいは充填物を有さず、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流部を有しない単蒸留を行うものである。
態様3は、態様1に記載の蒸留装置において、前記蒸留塔が内部に棚段あるいは充填物を有する精留塔であり、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流部を有するものである。
【0011】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の蒸留装置において、前記実体積流量調節機構が、段階容量制御システムによるものである。
態様5は、態様1~3のいずれか一態様に記載の蒸留装置において、前記実体積流量調節機構が、無段階容量制御システムによるものである。
【0012】
態様6は、態様1~5のいずれか一態様に記載の蒸留装置において、前記流体が作動流体であり、前記作動流体は前記コンデンサーで前記蒸気が凝縮する凝縮熱を受け取り、前記凝縮熱を受け取った前記作動流体は前記コンプレッサーで加圧昇温され、前記リボイラーで凝縮する際に前記凝縮熱をプロセス流体に与えて凝縮するものであって、前記凝縮された作動流体は減圧弁により減圧され温度が低下するものであって、前記減圧された作動流体はドラムで気液分離されるものであって、前記気液分離された作動流体のうち液体は前記コンデンサーに供給される間接式ヒートポンプ機構を有する。
【0013】
態様7は、態様1~5のいずれか一態様に記載の蒸留装置において、前記流体が前記蒸気であり、前記コンプレッサーにより加圧昇温された後、前記リボイラーで前記蒸留塔に供給された液体を蒸発させて蒸気とし、前記リボイラーで前記流体の蒸気は凝縮する直接式ヒートポンプ機構を有する。
【0014】
態様8は、態様7に記載の蒸留装置において、前記蒸留塔が、内部に棚段あるいは充填物を有する精留塔であり、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流部を有するものであり、前記リボイラーに熱を与えて凝縮した前記流体の圧力を低下させて前記蒸留塔に還流させるための減圧弁を有する。
【0015】
態様9の蒸留方法は、バッチ式の蒸留塔に液体を供給する供給工程と、前記液体を加熱するための流体を容積式のコンプレッサーで吸込んで、前記流体を加圧昇温してリボイラーに供給する加圧昇温工程と、前記リボイラーにおいて、前記蒸留塔から供給された前記液体と、加圧昇温した前記流体との間で熱交換を行い、前記液体を加熱するとともに、前記流体を凝縮させる加熱工程と、前記加熱工程での加熱によって前記蒸留塔の塔頂蒸気をコンデンサーに送り、熱交換によって前記蒸気を凝縮させ、凝縮液とする凝縮工程と、前記凝縮液を抜き出す留出液抜き工程と、前記蒸留塔内の残留液を抜き出す缶出液抜き工程とを有する蒸留方法であって、前記加圧昇温工程において、より小さい昇温幅で動作するヒートポンプによる加熱によって前記液体の蒸留を行うことができるように、前記リボイラーに要求される加熱温度の変化に合わせて、前記コンプレッサーで加圧昇温する前記流体の実体積流量を実体積流量調節機構により変化させることを要旨とする。
【0016】
態様10の蒸留方法は、態様9に記載の蒸留方法において、内部に棚段あるいは充填物を有さず、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流工程を有しない前記蒸留塔における単蒸留操作である。
【0017】
態様11の蒸留方法は、態様9に記載の蒸留方法において、内部に棚段あるいは充填物を有し、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流工程を有する前記蒸留塔における精留操作である。
【0018】
態様12の蒸留方法は、態様9~11のいずれか一態様に記載の蒸留方法において、前記実体積流量調節機構が、段階容量制御システムによるものである。
態様13の蒸留方法は、態様9~11のいずれか一態様に記載の蒸留方法において、前記実体積流量調節機構が、無段階容量制御システムによるものである。
【0019】
態様14の蒸留方法は、態様9~13のいずれか一態様に記載の蒸留方法において、前記流体が作動流体であるとともに前記液体がプロセス流体であり、前記作動流体は前記コンデンサーで前記蒸気が凝縮する凝縮熱を受け取り、前記凝縮熱を受け取った作動流体は前記コンプレッサーで加圧昇温され、前記リボイラーで凝縮する際に前記凝縮熱をプロセス流体に与えて凝縮し、減圧弁により減圧され温度が低下し、ドラムで気液分離された液体が前記コンデンサーに供給される間接式ヒートポンプ機構を有する。
【0020】
態様15の蒸留方法は、態様9~13のいずれか一態様に記載の蒸留方法において、前記流体は前記蒸気であり、前記コンプレッサーにより加圧昇温された後、前記リボイラーで前記蒸留塔に供給された液体を蒸発させて蒸気とし、前記リボイラーで前記流体の蒸気は凝縮する直接式ヒートポンプ機構を有する。
【0021】
態様16の蒸留方法は、態様15に記載の蒸留方法において、前記凝縮液を蒸留塔に戻す還流工程と、減圧弁で減圧する減圧工程とを有し、前記減圧工程を前記還流工程に含む直接式ヒートポンプ機構を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の蒸留装置によれば、蒸留装置の稼働中にリボイラーに要求される加熱温度の変化に合わせて、コンプレッサーで加圧昇温する流体の実体積流量を好適に変化させることができる。コンプレッサーで加圧昇温する流体の実体積流量を好適に変化させることで、ヒートポンプで汲上げる温度幅を小さく抑えることができるため、コンプレッサーの所要動力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、間接式ヒートポンプ機構を有するバッチ式蒸留装置の模式図である。
【
図2】
図2は、直接式ヒートポンプ機構を有するバッチ式蒸留装置の模式図である。
【
図3】
図3は、段階容量制御システム(例えば、アンローダ式)の実体積流量調節機構による温度制御を示す模式図である。
【
図4】
図4は、無段階容量制御システムの実体積流量調節機構による温度制御を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
以下、本発明の蒸留装置を具体化した第1実施形態について説明する。
第1実施形態の蒸留装置は、バッチ式蒸留装置であり、間接式ヒートポンプ機構を有する。
【0025】
図1に示すように、蒸留装置20は、バッチ式の蒸留塔30と、蒸留塔30に供給された原料としての液体(以下、プロセス流体ともいう。)を加熱するリボイラー40とを備える。また、プロセス流体を加熱するための流体(以下、作動流体ともいう。)を流入させて、作動流体を加圧昇温してリボイラー40に供給する容積式のコンプレッサー50を備える。また、蒸留塔30の塔頂から排出された蒸気を凝縮するコンデンサー60を備える。また、リボイラー40で凝縮した作動流体の圧力を下げる減圧弁22を備える。さらに、コンデンサー60で凝縮した凝縮液であるプロセス流体を抜き出す留出液抜き部2aを備える。留出液抜き部2aでプロセス流体を抜き出すことを留出ともいう。
【0026】
蒸留の対象となるプロセス流体は、特に制限されず、例えば芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコール等を挙げることができる。また、作動流体は、特に制限されず、例えば水、アルコール等を挙げることができる。
【0027】
以下では、蒸留装置20を構成する各構成要素について説明する。
(蒸留塔30)
図1に示すように、蒸留塔30は、プロセス流体を所定量仕込むことのできるサンプ35を有する。サンプ35は蒸留塔30とは別の容器として蒸留塔30と配管で接続されていてもよく、または、直接接続されていてもよい。サンプ35は、蒸留塔30内に原料であるプロセス流体を供給する供給部31を有する。蒸留塔30は、蒸留塔30内に原料を供給した後、蒸留を行うバッチ式蒸留塔である。
【0028】
蒸留塔30は、塔頂部に、蒸留塔内で蒸発したプロセス流体を排出する排出部32を有する。排出部32には、コンデンサー60に連通する配管1(以下、第1配管ともいう。)が接続されている。また、蒸留塔30の塔頂部において、コンデンサー60で凝縮したプロセス流体が戻る還流部33を備えていてもよい。還流部33には、コンデンサー60で凝縮した凝縮液が流れる配管2(以下、第2配管ともいう。)が接続されている。
【0029】
蒸留装置20が、単蒸留を行う装置である場合、還流部33は省略されていてもよい。精留を行う装置である場合、還流部33を有する。また、蒸留装置20が単蒸留を行う装置(単蒸留装置)である場合、すなわち、蒸留方法が単蒸留操作である場合、蒸留塔30は、内部に棚段あるいは充填物を有さなくてもよい。蒸留装置20が精留を行う装置(精留装置)である場合、すなわち、蒸留方法が精留操作である場合、蒸留塔30(精留塔)は、内部に棚段あるいは充填物を有していることが好ましい。充填物としては特に制限されず、蒸留装置に用いられる公知の充填物を採用することができる。
【0030】
第1配管を介さず、蒸留塔30の塔頂部にコンデンサー60を有し、それよりも下方の位置に凝縮したプロセス流体を排出する排出部32を有してもよい。
蒸留塔30の塔底部に、リボイラー40にプロセス流体を供給する配管3(以下、第3配管ともいう。)が接続されている。第3配管の接続箇所よりも上方に、リボイラー40で加熱されたプロセス流体が蒸留塔30に戻る配管4(以下、第4配管ともいう。)が接続されている。また、サンプ35は、底部に、残留液であるプロセス流体を取り出す缶出液抜き部34を有する。缶出液抜き部34でプロセス流体を取り出すことを缶出ともいう。第3、第4配管を介さず(つまり加熱側の流体が流れる熱交換部がサンプ35に挿入ないし接続されているため第3、第4配管が省略され)、サンプ35にリボイラー40を有し、それよりも下方の位置にプロセス流体を排出する缶出液抜き部34を有してもよい。
【0031】
(リボイラー40)
第1実施形態におけるリボイラー40は、ヒートポンプサイクルの凝縮器に相当する。
図1に示すように、リボイラー40は、第3配管、及び第4配管を介して蒸留塔30に接続されている。また、リボイラー40に、コンプレッサー50に連通する配管5(以下、第5配管ともいう。)が接続されている。第5配管におけるコンプレッサー50側とは反対側の端部は、ドラム21に連通している。第5配管は、リボイラー40とドラム21の間に減圧弁22を有している。リボイラー40は、第3配管、及び第4配管を介さずに、蒸留塔30の塔底部に設置されていてもよい。
【0032】
リボイラー40には、第3配管を通じて、または、リボイラー40が蒸留塔30の内部に設置されている場合、重力により蒸留塔30内のプロセス流体が供給される。このプロセス流体は、第5配管を通じてコンプレッサー50から供給される作動流体の熱によって加熱される。すなわち、リボイラー40では、プロセス流体と作動流体との間で熱交換を行うことによって、プロセス流体を加熱している。加熱されたプロセス流体は、第4配管を通じて蒸留塔30に戻される。
【0033】
(コンプレッサー50)
コンプレッサー50は、容積式である。容積式としては、レシプロ式、又はスクリュー式等が挙げられる。レシプロ式は、往復動式とも呼ばれ、シリンダー内をピストンが往復運動することによってプロセス流体を圧縮している。スクリュー式は、ケーシングの中で雄形と雌形のスクリューローターを回転させてプロセス流体を圧縮している。
【0034】
図1に示すように、コンプレッサー50には、コンデンサー60に連通する配管6(以下、第6配管)が接続されている。第6配管におけるコンプレッサー50側とは反対側の端部は、循環ポンプ23に接続されている。また、循環ポンプ23には、ドラム21に連通する配管7(以下、第7配管ともいう。)が接続されている。
【0035】
また、第6配管におけるコンプレッサー50とコンデンサー60の間には、ドラム21に連通する配管8(以下、第8配管ともいう。)が接続されている。
コンプレッサー50は、蒸留装置20の稼働中にリボイラー40に要求される加熱温度の変化に合わせて、コンプレッサー50で加圧昇温する作動流体の実体積流量を変化させる実体積流量調節機構を有する。実体積流量調節機構については後述する。
【0036】
(コンデンサー60)
第1実施形態におけるコンデンサー60は、ヒートポンプサイクルの蒸発器に相当する。
【0037】
図1に示すように、コンデンサー60には、第1配管が接続されている。また、コンデンサー60に、第6配管が接続されている。また、コンデンサー60には、ドラム24に連通する配管9(以下、第9配管ともいう。)が接続されている。ドラム24には、ポンプ25に連通する配管10(以下、第10配管ともいう。)が接続されている。ポンプ25には、蒸留塔30に連通する第2配管が接続されている。コンデンサー60が、第1配管、第9配管、ドラム24、第10配管、ポンプ25、及び第2配管を介さずに蒸留塔30の塔頂部に設置されていてもよい。(つまり、冷却用の流体が流れる熱交換部が蒸留塔30の塔頂部に挿入ないし接続され、第1配管、第9配管、ドラム24、第10配管、ポンプ25、および第2配管を省略しても良い。)。
【0038】
コンデンサー60内には、蒸留塔30内で蒸発したプロセス流体が供給される。このプロセス流体は、第6配管を通じて供給される作動流体に熱を与えて凝縮し、凝縮液となる。すなわち、コンデンサー60では、プロセス流体と作動流体との間で熱交換を行うことによって、プロセス流体を凝縮している。
【0039】
(第2配管、留出液抜き部2a)
図1に示すように、第2配管は、蒸留塔30の還流部33に接続されている。コンデンサー60で凝縮したプロセス流体は、第9配管、ドラム24、第10配管、ポンプ25、第2配管を通じて蒸留塔30に戻される。そのため、第2配管は、コンデンサー60で凝縮した凝縮液を蒸留塔30に還流する配管として機能する。また、第2配管は、コンデンサー60で凝縮した凝縮液を抜き出す留出液抜き部2aを有する。留出液抜き部2aにおいて、蒸留されたプロセス流体が抜き出される。
【0040】
蒸留装置20が、単蒸留を行う装置である場合、蒸留塔30へ還流する第2配管は省略されていてもよい。精留を行う装置である場合は、蒸留塔30へ還流する第2配管を有する。
【0041】
コンデンサー60が、蒸留塔30の塔頂部に設置されている場合には、蒸留塔30の塔頂部のコンデンサー60より下方の位置に留出液抜き部2aを蒸留塔に設けてもよい。
(トリムコンデンサー70)
図1に示すように、トリムコンデンサー70には、第14配管が接続されている。また、トリムコンデンサー70に、ドラム24に連通する第15配管が接続されている。トリムコンデンサー70には、冷却水の配管28が接続されている。トリムコンデンサー70は、ヒートポンプシステムの冷却部と凝縮部の熱負荷の不均衡を吸収して安定的な運転を行うために設置される。蒸留システムによっては、トリムコンデンサー70の代わりに、リボイラー40と並列でトリムリボイラー、すなわち、外部熱源により加熱されるリボイラーが設置されても良い。
【0042】
以上の各構成要素によって蒸留装置20は構成されている。
図1に示すように、第1実施形態の蒸留装置20には、その他複数の制御弁26や、ポンプ27等が配置されている。また、各配管に記載された矢印は、各配管を流通するプロセス流体、もしくは作動流体の流通方向を意味する。
【0043】
以下では、間接式ヒートポンプ機構について説明する。
(間接式ヒートポンプ機構)
図1に示すように、第6配管を通じてコンプレッサー50に流入した作動流体は、コンプレッサー50で加圧昇温された後、第5配管を通じてリボイラー40に供給される。その際、加圧昇温された作動流体の温度は、リボイラー40内のプロセス流体の温度よりも高く、プロセス流体の蒸発を促進する温度に設定する。リボイラー40に供給された作動流体は、リボイラー40内のプロセス流体に熱を与えて凝縮する。
【0044】
すなわち、作動流体は蒸気の凝縮熱を保持するものであり、コンプレッサー50で加圧昇温されたのちリボイラー40で凝縮する際に凝縮熱をプロセス流体に与えて凝縮する。
凝縮した作動流体は、第5配管の減圧弁22を通過した際に圧力が下げられ、温度が低下する。条件により作動流体の一部が蒸発する。さらに、ドラム21では蒸発した一部の作動流体と残りの作動流体とが気液分離され、液体部分は、第7配管、循環ポンプ23、第6配管を通じてコンデンサー60内を流通する。蒸発した一部の作動流体は、ドラム21から第8配管、第6配管を通じてコンプレッサー50に戻される。
【0045】
コンデンサー60内には、蒸留塔30内で蒸発したプロセス流体が供給される。その際、作動流体の温度は、プロセス流体の温度よりも低く、プロセス流体を凝縮することができる温度に設定する。コンデンサー60に供給されたプロセス流体は、作動流体に熱を与えて凝縮し、凝縮液となる。作動流体はコンデンサー60においてプロセス流体から熱を受け取って蒸発し、第6配管を通ってコンプレッサー50に流入し、再度、リボイラー40での加熱のために加圧昇温される。
【0046】
以上のように、間接式ヒートポンプ機構では、プロセス流体を直接コンプレッサーで加圧昇温せず、作動流体をコンデンサーで加熱して蒸発させ、そしてコンプレッサー50で加圧昇温して、間接的にプロセス流体を加熱し、作動流体は凝縮する。凝縮した作動流体は減圧弁で減圧され、温度が低下する。条件により作動流体の一部が蒸発する。圧力が下げられた作動流体はドラムで気液分離された後、液体部分はさらにコンデンサーでプロセス流体を冷却して作動流体自身は蒸発することによって、プロセス流体の蒸留を行っている。
【0047】
以下では、実体積流量調節機構について説明する。
(実体積流量調節機構)
容積式のコンプレッサー50が有する実体積流量調節機構としては、段階容量制御システム(例えば、アンローダによる段階容量制御)によるものと、無段階容量制御システムによるものとを挙げることができる。
【0048】
なお、実体積流量とは、コンプレッサー50の実吸込気体質量流量を、気体密度で除算した値を意味するものとする。
以下では、それぞれの詳細について説明する。
【0049】
(段階容量制御システム)
段階容量制御システムを有するレシプロ式コンプレッサー50は、吸込み弁アンローダやクリアランスポケットを備えている。また、段階容量制御システムを備えたレシプロ式のコンプレッサー50は、シリンダーの吸込弁板を押さえつけて開放し、いったん吸い込んだガスを吸込側へ逆流させて圧縮仕事を行わないようにして流量を調節することができる。ただし、開閉動作となるため、段階的な調節となる。もしくは、シリンダヘッドなどに取付けられたクリアランスポケットを開閉することによって筒隙(クリアランス)容積を変化させて体積効率を変え、流量を調節することができる。これらにより、遠心式のコンプレッサーに比べて、作動流体の流入量をより広範囲に制御することができる。そのため、間接式ヒートポンプ機構において、コンプレッサー50の作動流体の吸込圧力を上げることで、実体積流量を小さくしても、コンプレッサー50での吐出圧力を高めることが可能になる。具体的には、初期運転時を100%体積流量とすると、例えば75%、50%、25%等の段階的な容量制御を行い、吐出圧力を段階的に高めることが可能になる。
【0050】
図3に示すように、バッチ式蒸留装置では、蒸留の進行にともない、より蒸発しにくい、言い換えれば、より沸点の高いプロセス流体が蒸留塔30内に多く滞留した状態となる。そのため、蒸留の進行にともない、コンプレッサー50の吐出圧力を高くして、リボイラー40での加熱温度を、
図3の実線TPで示す蒸留に必要な温度と同程度か、それよりも高い温度にする必要がある。
【0051】
なお、
図3では、横軸が時間の経過を表しており、コンプレッサー50の吸込圧力P1および吐出圧力P2を高くして、昇温幅ΔTとなるようにリボイラー40での加熱温度を高くすることを示している。蒸留の終了時点で、コンプレッサー50を停止させる。
【0052】
図3に示すように、段階容量制御システムの実体積流量調節機構を有していると、必要な昇温幅ΔTを維持した状態で、コンプレッサー50で加圧昇温する作動流体の実体積流量を段階的に変化させることができる。すなわち、コンプレッサー50に吸込まれる作動流体の吸込圧力P1を段階的に変化させて、コンプレッサー50から吐出される作動流体の吐出圧力P2を段階的に変化させることができる。
【0053】
これにより、リボイラー40に要求される加熱温度TPの変化に合わせて、コンプレッサー50に吸込まれる作動流体の温度T1と、コンプレッサーから吐出される作動流体の温度T2を段階的に変化させることができる。具体的には、コンプレッサー50に吸込まれる作動流体の温度T1と、コンプレッサー50から吐出される作動流体の温度T2を段階的に高くすることができる。これにより、作動流体の温度を好適に制御しながら加圧昇温することが可能になるため、遠心式コンプレッサーを用いたヒートポンプ蒸留システムに比べて、より小さい昇温幅ΔTで動作するヒートポンプによる加熱によって液体の蒸留を行うことが可能になる。ここで、より小さい昇温幅ΔTとしては特に制限されない。リボイラーにおけるプロセス流体の蒸発温度と、コンデンサーにおけるプロセス流体の凝縮温度が共にTPであるとする。すると、遠心式コンプレッサーを適用した間接式ヒートポンプでは、TPが最小となる時にコンデンサーにおいて作動流体がプロセス流体から熱を受け取って蒸発するための熱交換に必要な温度差は、例えば10℃である。同様に、TPが最大となる時にリボイラーにおいて作動流体がプロセス流体に熱を与えて凝縮するための熱交換に必要な温度差は、例えば10℃である。したがって、TPの最小値と最大値の差に20℃を加えたものが昇温幅ΔTとなり、TPの最小値と最大値の差が例えば50℃であるとすると昇温幅ΔTは70℃となる。一方で、段階容量制御システムを有する容積式コンプレッサーを適用した間接式ヒートポンプによると、
図3のT1およびT2に示す4つの段階のように、容量を制御する各段階がカバーする時間において、熱交換に必要な温度差を持てばよい。したがって、各段階がカバーする時間におけるTPの最小値と最大値の差が例えば15℃であるとすると昇温幅ΔTは35℃とすることができる。
【0054】
(無段階容量制御システム)
無段階容量制御システムを有するコンプレッサー50は、作動流体の吸込量を無段階で制御することができる。無段階容量制御システムの具体例としては、例えばホルビガー社製の無段階容量制御システム(商品名:ハイドロコム)を有するレシプロ式コンプレッサーや、スライドバルブによる無段階容量制御システムを有するスクリュー式コンプレッサー等が挙げられる。
【0055】
図4に示すように、無段階容量制御システムによる実体積流量調節機構を有していると、コンプレッサー50での圧縮比が一定の状態で、コンプレッサー50で加圧昇温する作動流体の実体積流量を連続的に変化させることができる。すなわち、コンプレッサー50に流入させる作動流体の吸込圧力P1を連続的に変化させて、コンプレッサー50から吐出される作動流体の吐出圧力P2を連続的に変化させることができる。
【0056】
これにより、リボイラー40に要求される加熱温度TPの変化に合わせて、コンプレッサー50に流入させる作動流体の温度T1と、コンプレッサー50から吐出される作動流体の吐出温度T2を連続的に変化させることができる。具体的には、コンプレッサー50に流入させる作動流体の温度T1と、コンプレッサー50から吐出される作動流体の温度T2を連続的に高くすることができる。これにより、作動流体の温度を好適に制御しながら加圧昇温することが可能になるため、遠心式コンプレッサーを用いたヒートポンプ蒸留システムに比べて、より小さい昇温幅ΔTで動作するヒートポンプによる加熱によって液体の蒸留を行うことが可能になる。ここで、より小さい昇温幅ΔTとしては特に制限されない。前記の段階容量制御に関するヒートポンプの例と同様のプロセス流体温度挙動であるとすると、
図4のT1およびT2に示すように、プロセス流体の温度に併せて連続的に作動流体の温度を制御することができる。そのため、昇温幅ΔTは、熱交換に必要な温度差を持てばよく、例えば20℃とすることができる。
【0057】
以下では、蒸留装置20を用いた蒸留方法について説明する。
(蒸留方法)
蒸留方法は、供給工程と、加圧昇温工程と、蒸留側における加熱工程(ヒートポンプサイクルにおける凝縮工程(ヒートポンプサイクル側凝縮工程ともいう。))と、減圧工程と、蒸留側における凝縮工程(ヒートポンプサイクルにおける蒸発工程ともいう。)と、留出液抜き工程と、缶出液抜き工程とを有する。また、凝縮工程の後、還流工程を有していてもよく、間接式ヒートポンプ機構を有する場合には加熱工程(ヒートポンプサイクル側凝縮工程ともいう。)の後に減圧工程を有していてもよく、直接式ヒートポンプ機構および還流工程を有する場合には、還流工程に減圧工程を含んでもよい。
【0058】
供給工程は、バッチ式の蒸留塔30にプロセス流体を供給する工程である。
加圧昇温工程は、作動流体を、容積式のコンプレッサー50に流入させて、作動流体を加圧昇温してリボイラー40に供給する工程である。
【0059】
蒸留側における加熱工程(ヒートポンプサイクル側凝縮工程)は、リボイラー40において、蒸留塔30から供給されたプロセス流体と、加圧昇温した作動流体との間で熱交換を行う。そして、プロセス流体を加熱して蒸留塔30に戻すとともに、作動流体を凝縮させる工程である。
【0060】
減圧工程は、前記蒸留側における加熱工程(ヒートポンプサイクルにおける凝縮工程)で凝縮した作動流体を減圧弁22で減圧する工程である。減圧された作動流体は温度が低下し、条件により作動流体の一部が蒸発する。
【0061】
凝縮工程(ヒートポンプサイクルにおける蒸発工程)は、加熱工程(ヒートポンプサイクル側凝縮工程)での加熱によって蒸留塔30の塔頂蒸気をコンデンサー60に送る。そして、熱交換によって蒸気を凝縮させ、凝縮液とする工程である。熱交換は、コンデンサー60に送られる作動流体との間で行う。
【0062】
還流工程は、蒸留側における凝縮工程(ヒートポンプサイクルにおける蒸発工程)を経たプロセス流体を蒸留塔30に還流する工程である。
留出液抜き工程は、蒸留側における凝縮工程(ヒートポンプサイクルにおける蒸発工程)で凝縮した凝縮液を留出液抜き部2aから抜き出す工程である。
【0063】
缶出液抜き工程は、蒸留塔30内の残留液を缶出液抜き部34から抜き出す工程である。
以上の各工程を行なうことによって蒸留を行うことができる。各工程の順番は、適宜入れ替えて行ってもよい。
【0064】
<第2実施形態>
以下、本発明の蒸留装置20を具体化した第2実施形態について説明する。
第2実施形態の蒸留装置20は、バッチ式蒸留装置であり、直接式ヒートポンプ機構を有する。なお、第1実施形態の蒸留装置20と重複する構成要素については詳細な説明を省略する。
【0065】
図2に示すように、蒸留装置20は、バッチ式の蒸留塔30と、蒸留塔30に供給されたプロセス流体を加熱するリボイラー40とを備える。リボイラー40は、コンデンサー60としても機能する。また、プロセス流体を流入させて加圧昇温し、リボイラー40(コンデンサー60)に供給する容積式のコンプレッサー50を備える。コンプレッサー50は、第1実施形態のコンプレッサー50と同様に、実体積流量調節機構を有している。
【0066】
また、蒸留装置20は、蒸留塔30から排出されたのち、コンプレッサー50で加圧昇温した蒸気を凝縮するトリムコンデンサー70を備える。また、リボイラー40(コンデンサー60)およびトリムコンデンサー70で凝縮したプロセス流体を抜き出す留出液抜き部2aを備える。リボイラー40(コンデンサー60)およびトリムコンデンサー70で凝縮したプロセス流体を蒸留塔30に還流する配管である第2配管を備えていてもよい。第2配管はドラム24と蒸留塔30の間に減圧弁22を有している。
【0067】
図2に示すように、蒸留塔30は、塔頂部に、蒸留塔30内で蒸発したプロセス流体を排出する排出部32を有する。排出部32には、ドラム29に連通する配管6(1)(以下、第6(1)配管ともいう。)が接続されている。ドラム29では偶発的な温度低下や圧力上昇により発生しうる液滴を蒸気中から除去する。
【0068】
ドラム29には、配管6a(1)(以下、第6a(1)配管ともいう。)が接続されている。第6a(1)配管におけるドラム29側とは反対側の端部は、コンプレッサー50に接続されている。また、コンプレッサー50には、配管5(1)(以下、第5(1)配管ともいう。)が接続されている。第5(1)配管は、リボイラー40(コンデンサー60)に接続されている。リボイラー40(コンデンサー60)は配管5(9)(以下、第5(9)配管ともいう。)を通じて、ドラム24に接続されている。第5(9)配管は、リボイラー40(コンデンサー60)とドラム24の間に制御弁26を有している。
【0069】
第5(1)配管におけるコンプレッサー50とリボイラー40(コンデンサー60)の間に、配管14(以下、第14配管ともいう。)が接続されている。第14配管は、トリムコンデンサー70に接続されている。また、トリムコンデンサー70には、ドラム24に連通する配管15(以下、第15配管ともいう。)が接続されている。トリムコンデンサー70には、冷却水の配管28が接続されている。
【0070】
以下では、直接式ヒートポンプ機構について説明する。
(直接式ヒートポンプ機構)
図2に示すように、蒸留塔30内で蒸発したプロセス流体は、第6(1)配管を通ってドラム29に流入する。さらに、第6a(1)配管を通ってコンプレッサー50に流入する。さらに、コンプレッサー50で加圧昇温された後、第5(1)配管を通じてリボイラー40(コンデンサー60)に供給される。
【0071】
リボイラー40(コンデンサー60)に供給されたプロセス流体の温度は、リボイラー40(コンデンサー60)内のプロセス流体の温度よりも高く、プロセス流体の蒸発を促進する温度に設定する。リボイラー40(コンデンサー60)に吐出されたプロセス流体は、リボイラー40(コンデンサー60)内のプロセス流体に熱を与えて凝縮する。すなわち、リボイラー40(コンデンサー60)では、プロセス流体同士の間で熱交換を行うことによって、蒸留塔内のプロセス流体を加熱している。凝縮したプロセス流体は、ドラム24に供給される。また、コンプレッサー50で加圧昇温されリボイラー40(コンデンサー60)に供給されなかった一部のプロセス流体は、第14配管を通じてトリムコンデンサー70に供給される。トリムコンデンサー70内には、冷却水が供給されているため、第14配管を通じてトリムコンデンサー70に供給されたプロセス流体は、冷却水に熱を与えて凝縮する。さらに、第15配管を通じてドラム24に供給される。ドラム24に供給されたプロセス流体は、第10配管、ポンプ25、留出液抜き部2aを通じて抜き出される。また、第2実施形態の蒸留装置20が還流部33を有する精留装置である場合には、ドラム24に供給されたプロセス流体は、第2配管を通じて蒸留塔30に還流される。プロセス流体の還流を行う場合には、第2配管は減圧弁22を有し、還流されるプロセス流体の圧力が減圧弁22により下げられ、温度が低下する。条件によりプロセス流体の一部が蒸発する。
【0072】
以上のように、直接式ヒートポンプ機構では、プロセス流体の一部を作動流体として利用する。プロセス流体の一部をコンプレッサー50で加圧昇温し、蒸留塔30内のプロセス流体を加熱することによって、プロセス流体の蒸留を行っている。
【0073】
直接式ヒートポンプ機構では、プロセス流体の一部を作動流体として利用するため、蒸留の進行にともない、作動流体自体の性質が変化する。そのため、遠心式のコンプレッサーによって、コンプレッサー50で加圧昇温する流体の流量を、リボイラー40(コンデンサー60)に要求される加熱温度の変化に合わせて変化させることは困難であった。
【0074】
第2実施形態の蒸留装置20においても、コンプレッサー50は実体積流量調節機構を有する。そのため、蒸留装置20の稼働中にリボイラー40(コンデンサー60)に要求される加熱温度TPの変化に合わせて、コンプレッサー50に流入させるプロセス流体の実体積流量を変化させることができる。第2実施形態の蒸留装置20では、プロセス流体から見るとリボイラー40とコンデンサー60の機能が兼ねられている。第1実施形態のようにコンデンサー60でプロセス流体から熱を受け取り、作動流体を蒸発させ、作動流体を加圧昇温し、リボイラー40でプロセス流体に熱を与えて作動流体を凝縮させる。この操作のうち、プロセス流体と作動流体の間の熱交換操作2つが1つとなる。従い、昇温幅ΔTは、熱交換に必要な温度差、例えば間接式では10℃が2カ所で20℃考慮する必要があったものが10℃であり、それにプロセス流体の温度変化を加えたものである。
【0075】
したがって、段階容量制御システムを有する容積式コンプレッサーを適用した直接式ヒートポンプ機構では、容量を制御する各段階がカバーする時間におけるTPの最小値と最大値の差が例えば15℃となるとすると、昇温幅ΔTは25℃とすることができる。また、無段階容量制御システムを有する容積式コンプレッサーを適用した直接式ヒートポンプによると、例えば昇温幅は10℃とすることができる。
【0076】
第2実施形態の蒸留装置20においても、第1実施形態の蒸留装置20と同様の蒸留方法によって蒸留を行うことができる。第2実施形態の蒸留装置20が還流工程を有しない場合には、減圧工程も有しない。
【0077】
<本実施形態の作用及び効果>
第1実施形態、及び第2実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)蒸留塔30がバッチ式の蒸留塔30であり、コンプレッサー50は、蒸留装置20の稼働中にリボイラー40に要求される加熱温度TPの変化に合わせて、コンプレッサー50で加圧昇温する作動流体の実体積流量を変化させる実体積流量調節機構を有する。
【0078】
したがって、コンプレッサー50に流入させる作動流体の吸込圧力P1と、コンプレッサー50から吐出される作動流体の吐出圧力P2を変化させることができる。これにより、リボイラー40に要求される加熱温度TPの変化に合わせて、コンプレッサー50から吐出される作動流体の吐出温度T2を変化させることができる。作動流体の温度T2を好適に制御しながら加圧昇温することが可能になるため、遠心式コンプレッサーを用いたヒートポンプ蒸留システムに比べて、より小さい昇温幅ΔTで動作するヒートポンプによる加熱によって液体の蒸留を行うことが可能になる。
【0079】
ヒートポンプで汲上げる温度幅を小さく抑えることができるため、コンプレッサー50の所要動力を低減して省エネルギーを達成することができる。
(2)実体積流量調節機構が、段階容量制御システムによるものである。したがって、作動流体の温度を段階的に好適に制御しながら加圧昇温することが可能になる。
【0080】
(3)実体積流量調節機構が、無段階容量制御システムによるものである。したがって、作動流体の温度を連続的に好適に制御しながら加圧昇温することが可能になる。
(4)蒸留装置20は、間接式ヒートポンプ機構を有する。したがって、間接式ヒートポンプ機構におけるコンプレッサー50で加圧昇温する作動流体の実体積流量を好適に変化させることができる。
【0081】
(5)蒸留装置20は、直接式ヒートポンプ機構を有する。したがって、直接式ヒートポンプ機構におけるコンプレッサー50で加圧昇温する作動流体の実体積流量を好適に変化させることができる。
【0082】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0083】
・蒸留装置は、間接式ヒートポンプ機構と、直接式ヒートポンプ機構のいずれを有していてもよい。
・本実施形態において、蒸留装置20は、ドラム21、減圧弁22、循環ポンプ23、ドラム24、ポンプ25、制御弁26、ポンプ27、トリムコンデンサー70等を有していたが、これらの少なくとも一部は省略されていてもよい。また、
図1、2に示された箇所以外に、追加で設けられていてもよい。
【0084】
・本実施形態の蒸留装置20において、トリムコンデンサー70には、冷却水の配管28が接続されていたが、この態様に限定されない。トリムコンデンサー70は、冷却水以外の冷却手段によって、プロセス流体を凝縮してもよい。冷却水以外の冷却手段としては、例えば送風や冷媒が挙げられる。第1実施形態の蒸留装置20において、トリムコンデンサー70が、冷却水や送風や冷媒による冷却手段を有していてもよい。
【0085】
・第1実施形態の間接式ヒートポンプ機構において、コンプレッサー50とドラム21とを連通する第5配管は、リボイラー40(ヒートポンプ装置の冷却器に相当)を経由しなくてもよい。コンプレッサー50とドラム21とを連通させるキックバック用の配管が接続されていてもよい。
【0086】
・第2実施形態の直接式ヒートポンプ機構において、コンプレッサー50とドラム24とを連通する第5(1)配管と蒸留塔30とドラム29とを連通する第6(1)配管との間にコンプレッサー50とドラム29とを連通させるキックバック用の配管が接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0087】
2…第2配管、2a…留出液抜き部、20…蒸留装置、30…蒸留塔、40…リボイラー、50…コンプレッサー、60…コンデンサー。