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特開2024-35456スピーカおよび前記スピーカを用いた音響装置
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  • 特開-スピーカおよび前記スピーカを用いた音響装置 図1
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  • 特開-スピーカおよび前記スピーカを用いた音響装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035456
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】スピーカおよび前記スピーカを用いた音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/02 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
H04R9/02 103Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139919
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【テーマコード(参考)】
5D012
【Fターム(参考)】
5D012BB00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】振動板およびエッジ部材が後方へ大きく変形して復元不能になること、を防止できるスピーカおよびそれを用いた音響装置を提供する。
【解決手段】スピーカ1において、フレーム2には、第1の側Y1に振動板21とエッジ部材22が設けられ、第2の側Y2に、磁気回路部10とボイスコイル18を有する磁気駆動部が設けられている。フレーム2のエッジ受け部2cとエッジ部材22の外周固定部22cとの間には、エッジ支持部材25が挟まれている。エッジ支持部材25の一部が、フレーム2の中心側に延びる規制部27となっており、規制部27の規制面27aが、エッジ部材22および振動板21に対し、後方から距離を空けて対向している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、振動板と、前記フレームと前記振動板の外周部との間に設けられたエッジ部材と、前記振動板を振動させる磁気駆動部と、が設けられ、前記振動板が第1の側に位置し、前記磁気駆動部が第2の側に位置しているスピーカにおいて、
前記フレームに形成されたエッジ受け部と前記エッジ部材の外周固定部との間に、エッジ支持部材が挟まれて固定され、前記エッジ支持部材の一部に、前記エッジ受け部よりもフレーム内方に延びる規制部が形成されており、
前記規制部が、前記エッジ部材よりも第2の側に位置し、前記エッジ部材に間隔を空けて対向していることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記規制部に、第1の側から第2の側に貫通する通気口が形成されている請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記規制部に、フレームの中心方向に向けて解放された溝部が、前記通気口として形成されており、前記溝部が円周方向へ間隔を空けて複数設けられている請求項2記載のスピーカ。
【請求項4】
前記フレームには、前記エッジ支持部材の外周端に対向する対向壁部が設けられている請求項1記載のスピーカ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のスピーカを用いた音響装置において、
前記フレームがケース内に固定され、
前記ケースの内部が、前記振動板よりも第1の側の外気通気空間と、前記振動板よりも第2の側の閉鎖空間とに区画されていることを特徴とする音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板の過大な動きを規制することができるスピーカおよびそれを用いた音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音響装置に使用されるスピーカは、コーン形状の振動板と磁気駆動部とを有しており、磁気駆動部によって振動板が振動させられて音圧が発生する。このスピーカでは、スピーカ内部の予期しない圧力の変化または磁気駆動部の過剰動作などで、振動板および振動板の外周部を支持しているエッジ部材が想定外に大きく移動し、エッジ部材の形状が反転するなどして、振動板とエッジ部材が復元できなくなることがある。特許文献1には、このような問題を解消することを目的とした車載用の音響装置が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された音響装置は、ケースの内部にスピーカユニットが固定されており、ケースの内部空間が振動板を境として二分され、一方が外気と通じる外部空間で、他方が実質的に閉鎖された内部空間となっている。スピーカユニットでは、振動板を支持しているエッジ部材とボビンを支持しているダンパーとの間に振動体規制部が設けられ、振動体規制部が振動板およびエッジ部材に対向している。この音響装置は、高温の環境に置かれた後に低温の水に接するなどして内部空間の圧力が低下すると、振動板およびエッジ部材が内部空間に向けて大きく変形しようとする。このとき、エッジ部材および振動板が振動体規制部に当たることで、振動板の移動量が規制され、エッジ部材が反転してエッジ部材と振動板とが復元できなくなる、などの問題が生じないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-34864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された音響装置は、コイルが巻かれたボビンを振動自在に支持するダンパーの外周部が、ブラケットの内部に接着剤で固定されており、振動体規制部を形成する規制部形成部材が、ダンパーの外周部の上に接着剤で固定されている。そのため、規制部形成部材の固定状態が不安定で、振動体規制部の位置が製品ごとにばらつきやすい。この構造で、規制部形成部材を高精度に位置決めして固定しようとすると、組立作業がきわめて煩雑になる。
【0006】
また、振動板とエッジ部材が磁気回路部の方向へ動くときに振動体規制部が空気の移動を規制し、振動板の動作抵抗が大きくなって、音響品質を低下させる原因となる。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、振動板が過剰に動作するのを規制でき、しかも簡単な組立作業で規制部を高精度に位置決めして設置することができるスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フレームと、振動板と、前記フレームと前記振動板の外周部との間に設けられたエッジ部材と、前記振動板を振動させる磁気駆動部と、が設けられ、前記振動板が第1の側に位置し、前記磁気駆動部が第2の側に位置しているスピーカにおいて、
前記フレームに形成されたエッジ受け部と前記エッジ部材の外周固定部との間に、エッジ支持部材が挟まれて固定され、前記エッジ支持部材の一部に、前記エッジ受け部よりもフレーム内方に延びる規制部が形成されており、
前記規制部が、前記エッジ部材よりも第2の側に位置し、前記エッジ部材に間隔を空けて対向していることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のスピーカは、前記規制部に、第1の側から第2の側に貫通する通気口が形成されていることが好ましい。
【0010】
例えば、本発明のスピーカは、前記規制部に、フレームの中心方向に向けて解放された溝部が、前記通気口として形成されており、前記溝部が円周方向へ間隔を空けて複数設けられているものとして構成できる。
【0011】
本発明のスピーカは、前記フレームに、前記エッジ支持部材の外周端に対向する対向壁部が設けられていることが好ましい。
【0012】
本発明のスピーカを用いた音響装置は、例えば、前記フレームがケース内に固定され、
前記ケースの内部が、前記振動板よりも第1の側の外気通気空間と、前記振動板よりも第2の側の閉鎖空間とに区画されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、スピーカの振動板が第2の側に大きく動いたときに、エッジ部材とさらに振動板が規制部に当たるため、エッジ部材が反転するまで大きく変形するのを抑制することができる。組立作業では、エッジ部材の外周固定部にエッジ支持部材を予め接合しておくことにより、保管時や組み立て作業中にエッジ部材が変形するのを防止することができる。また、エッジ支持部材をフレームに組み付けるための特別な接合作業も不要である。エッジ支持部材が、組み立て作業中にエッジ部材が変形するのを防止する機能と、エッジ部材が第2の方向へ移動したときの移動量を規制する機能と、さらにエッジ部材とフレームとの接合部を密閉するガスケットとしての機能を発揮するため、スピーカを構成する部品の数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態のスピーカの断面図、
図2図1に示されたスピーカの半断面拡大図、
図3図1に示されたスピーカの分解斜視図、
図4図1に示されたスピーカの組立作業の一例を示す分解断面図、
図5図1に示されたスピーカがケース内に収納された車載用の音響装置を示す断面図、
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態のスピーカ1は、Y1方向が前方でY2方向が後方である。Y1側が第1の側で、Y2側が第2の側である。また、X方向が半径方向であるいは直径方向である。スピーカ1は、Y1方向とY2方向のいずれかが発音方向であるが、図5に示されるように、スピーカ1がケースに収納されて車載用の音響装置として使用されるときは、Y1方向が発音方向である。図3の分解斜視図に示されるように、実施形態のスピーカ1は、主要部を前方から見た平面形状が中心線Oを中心とする真円形状であるが、平面形状が楕円形状や長円形状であってもよい。
【0016】
スピーカ1はフレーム2を有している。フレーム2は非磁性材料または磁性材料で形成されている。図3に示されるように、フレーム2は円筒形状であり、平面形状が真円形状である。図1図2に示されるように、スピーカ1は、フレーム2の第1の側(Y1方向側)に、振動板21とエッジ部材22が支持され、第2の側に磁気駆動部を構成する磁気回路部10が固定されている。
【0017】
磁気回路部10は、円盤形状の磁石11と、磁石11の前方に接合された前方ヨーク12と、磁石11の後方に接合された後方ヨーク13とを有している。前方ヨーク12と後方ヨーク13は、鉄系の磁性金属材料で形成されている。後方ヨーク13には、外周部から前方に筒状に延びる外ヨーク部13aが一体に形成されており、前方ヨーク12の外周面と、外ヨーク部13aの内周面との間に円筒形状の磁気ギャップGが形成されている。また、磁気回路部10では、前方ヨーク12の前方に延長部材14,15が重ねて固定されている。
【0018】
図1図2に示されるように、フレーム2の後方には中心線Oと垂直な底板部2aが形成されており、底板部2aの後面に、磁気回路部10が回路固定部16を介して固定されている。回路固定部16は後方ヨーク13の外ヨーク部13aの前面から前方に突出する固定突部であり、この固定突部が底板部2aに形成された固定穴に圧入され、またはかしめ固定されている。なお、回路固定部16が、底板部2aに外ヨーク部13aを固定する固定ねじであってもよい。
【0019】
フレーム2の内部にボビン17が前後方向(Y1-Y2方向)へ移動自在に支持されている。ボビン17は円筒形状であり、後方(Y2方向)の端部の外周部にボイスコイル18が巻かれている。ボイスコイル18は磁気回路部10の磁気ギャップG内に位置している。磁気回路部10において磁石11から発生し磁気ギャップGを横断する磁束と、ボイスコイル18に流れるボイス電流とで、ボビン17を前後方向へ振動させる駆動力が発生する。磁気回路部10とボイスコイル18とで、「磁気駆動部」が構成されている。
【0020】
図1図2に示されるように、ボビン17の外周部にダンパー19が設けられている。ダンパー19は弾性復元力を有するシート素材で例えば紙材や樹脂を含浸した紙材などで形成されている。図3に示されるように、ダンパー19は円盤形状であり、図1図2に示されるように、断面はコルゲート形状である。ダンパー19の内周部19aはボビン17の外周面に接着されており、外周部19bは、フレーム2に形成されたダンパー固定部2bに接着されている。ダンパー19によりボビン17が前後方向へ振動できるように支持されている。またダンパー19の弾性復元力によって、外力が作用していないボビン17を前後方向の中立位置に支持することができる。
【0021】
振動板21は、紙材または樹脂を含浸した紙材などでコーン形状となるように成形されている。図1図2に示されるように、振動板21の断面形状は中心線Oに向かうにしたがって第2の側へ後退する方向へ傾斜している。振動板21の中心穴21aは、ボビン17の外径よりもやや大きな直径の真円形である。エッジ部材22は、ゴムまたはウレタン、あるいは布にゴムを含侵した材料などで形成されている。エッジ部材22は、中心側のテーパ部22aと、その外周側の変形部22b、さらに外周側の外周固定部22cを有している。図1図2の断面図に示されるように、テーパ部22aは、振動板21とほぼ同じ傾斜角度を有しており、テーパ部22aが、振動板21の外周部21bの前面に接着されて固定されている。変形部22bは、前方に向けて突形状となるように湾曲している。変形部22bは振動板21よりも曲げ剛性が低く、その変形により振動板21を前後方向に振動させることができる。また変形部22bはわずかな弾性復元力を有し、ダンパー19とともに、外力が作用していないときの振動板21を前後方向の中立位置に支持する機能も有する。エッジ部材22の外周固定部22cは、中心線Oを中心とするリング状であり半径方向(X方向)に向けて一定の厚み寸法を有している。
【0022】
図1図2に示されるように、フレーム2の前方にエッジ受け部2cが形成されている。エッジ受け部2cはリング形状の領域であり、前方(Y1方向)に向く前面(受け面)が、中心線Oと垂直な平面である。フレーム2には、エッジ受け部2cの外周からさらに前方へ向けて延びる対向壁部2dが形成されている。対向壁部2dは中心線Oを中心とする円筒形状である。図3に示されるように、フレーム2のエッジ受け部2cよりも後方(Y2方向)の外周面には複数の開口部2eが形成されており、振動板21およびエッジ部材22とダンパー19とで囲まれた空間は開口部2eを介してフレーム2の外側の空間に連通している。
【0023】
図1図2に示されているように、フレーム2のエッジ受け部2cにエッジ支持部材25が接着されて固定されており、エッジ支持部材25の前方に、エッジ部材22の外周固定部22cが接着されて固定されている。エッジ支持部材25は、組立作業の際にエッジ部材22の変形を防止するエッジ部材支持機能と、エッジ受け部2cとエッジ部材22との接合部の気密性を確保するガスケットとしての機能と、さらにスピーカに組み込まれたときにエッジ部材22と振動板21の後方への移動を規制する振動規制機能と、を有している。
【0024】
図3に示されるように、エッジ支持部材25は、最外周のリング状の介在部26と、介在部26よりもフレーム2の内方に延びる規制部27を有している。図2に示されるように、規制部27の前方(Y1方向)に向く前面は規制面27aである。規制面27aは、中心線Oに向かうにしたがって後方(Y2方向)へ後退するように傾斜するテーパ面である。図3に示されるように、規制部27は、多数の通気口28を有する櫛歯形状である。個々の通気口28は溝部であり、開放端28aが中心線Oに向けて解放され、外周内端28bが、介在部26と規制部27との境界部に位置している。通気口28である溝部は、円周方向に一定のピッチで並んでおり、隣り合う通気口28の間が櫛歯部となっている。個々の通気口28は、エッジ支持部材25の規制部27において、第1の側(Y1側)から第2の側(Y2側)に貫通している。規制部27を櫛歯形状とすることにより通気口28の総開口面積率を大きくできる。通気口28は櫛歯状の溝部に限られず、規制部27において、円形や矩形の貫通穴が多数形成されて通気口28が構成されていてもよい。
【0025】
スピーカ1の組立作業では、フレーム2の底板部2aに、磁気回路部10を、回路固定部16を介して固定する。ボイスコイル18が巻かれたボビン17は、筒状治具に嵌装した状態でフレーム2内に前方から挿入し、磁気ギャップG内でボイスコイル18を位置決めする。ボイスコイル18を磁気ギャップG内で位置決めした状態で、筒状治具で位置決めされたボビン17の外周にダンパー19を組み込み、ダンパー19の内周部19aをボビン17の外周面に接着し、ダンパー19の外周部19bを、フレーム2のダンパー固定部2bに接着する。
【0026】
図3図4に示されるように、振動板21とエッジ部材22およびエッジ支持部材25の3つの部材は、予め接合されて部分組立体20が構成される。振動板21とエッジ部材22は、治具を用いて互いに位置決めされて接着される。エッジ部材22とエッジ支持部材25も治具を用いて互いに位置決めされ、エッジ部材22の外周固定部22cがエッジ支持部材25の介在部26の前面に接着剤を用いて固定される。この部分組立体20を後述するようにフレーム2に組み込むことで、振動板21とエッジ部材22およびエッジ支持部材25を、フレーム2内に高精度に位置決めして組み付けることができる。また、保管時や組み立て作業時に、エッジ部材22の外周固定部22cがエッジ支持部材25で補強され保護されて取り扱われるため、振動板21とエッジ部材22がフレーム2に組み付けられる前に、エッジ部材22が変形するのを防止しやすくなる。
【0027】
前記ボビン17が前記筒状治具で位置決めされている状態で、図4に示されるように、部分組立体20をフレーム2に前方から組み込んで振動板21の中心穴21aをボビン17の外周に装着すると、ボビン17の外周面で振動板21の中心穴21aが位置決めされて、部分組立体20の全体がフレーム2に対して高精度に位置決めされる。フレーム2の最前部に形成された対向壁部2dの内径寸法は、エッジ支持部材25の外周端25aの外径寸法よりもわずかに大きく形成されているため、部分組立体20をフレーム2内に組み込む際に、エッジ支持部材25の外周端25aを対向壁部2dの内面に向けてスムースに挿入することができる。この位置決め状態で、ボビン17の外周面に、振動板21の中心穴21aの内周縁を、接着剤を介して固定し、エッジ支持部材25の介在部26を、フレーム2のエッジ受け部2cに接着する。
【0028】
部分組立体20がフレーム2の内部に組み付けられた後に、前記筒状治具を取り去ってキャップ部材29を装着する。キャップ部材29の裾部29aを振動板21の前面に接着剤により固定する。キャップ部材29は空気を遮断できるシート材で形成されている。図1図2に示されるスピーカ1が組み立てられると、キャップ部材29によってボビン17の内部空間が前方から塞がれ、フレーム2の内部は、振動板21とエッジ部材22およびキャップ部材29を境として前方(Y1側)の空間と後方(Y2方向)の空間に区画される。
【0029】
図2に示されるように、組み立て完了後のスピーカ1では、エッジ支持部材25が、フレーム2のエッジ受け部2cの内側の端部(a)よりもさらにフレーム2の内方に向けて延長されており、この延長部分が規制部27となる。また、規制部27の前面である規制面27aがエッジ部材22および振動板21に後方(第2の側)から対向する。振動板21およびエッジ部材22のテーパ部22aを断面で見たときの傾斜角度αと、エッジ支持部材25の規制面27aの傾斜角度βは同じであり、またはほぼ同じである。ここでの「ほぼ同じである」とは、傾斜角度αと傾斜角度βの差が±5度以下であることを意味しており、さらに好ましくは±3度以下である。
【0030】
図2では、振動板21およびエッジ部材22と規制面27aとの前後方向(Y1-Y2方向)の対向距離の最小値がH1で示されている。ボビン17の最後端17aと、磁気回路部10を構成する後方ヨーク13の内底部13bとの前後方向の対向距離の最小値がH2であり、ダンパー19と、ダンパー規制部として機能する回路固定部16との前後方向の対向距離の最小値がH3である。各対向距離の好ましい関係は、H2>H1>H3である。または、H1>H2>H3である。
【0031】
次に、スピーカ1の動作の一例を説明する。
図5に本発明の実施形態のスピーカ1を使用した車載用の音響装置30が示されている。音響装置30は自動車の車体に設置され、車体の外部に向けて走行警告音などを発する。音響装置30は温度変化が激しく、雨水などの水分が与えられやすい厳しい環境下で使用される。
【0032】
音響装置30は、前方ケース31と後方ケース32とがパッキング33を介して接合されている。スピーカ1は前方ケース31の内部で図示しない固定支持部材によって固定されている。前方ケース31の内部では、前方にリング形状のスピーカ当接部34が形成され、フレーム2の前方の対向壁部2dがスピーカ当接部34の外周に設置され、スピーカ当接部34と対向壁部2dとが、隙間が生じないように接合されている。その結果、ケース31,32の内部は、振動板21とエッジ部材22およびキャップ部材29によって前方空間41と後方空間42とに区画されている。
【0033】
前方ケース31には、前方壁31aに発音口35が貫通して形成されており、前方空間41が、発音口35を通じて外部空間に連通する「外気通気空間」となっている。後方ケース32の後端壁32aに通気穴36が貫通して形成され、通気穴36が内側から閉鎖膜37で閉鎖されている。閉鎖膜37は空気を通過させるが液体を透過させない素材で形成されている。その結果、後方空間は「閉鎖空間」となっており、スピーカ1の磁気回路部10を含む磁気駆動部に、外部から浸入した水分が直接に触れないようになっている。
【0034】
スピーカ1のボイスコイル18に通電されると、磁気回路部10の磁気ギャップGを横断する磁束と、ボイスコイル18に流れるボイス電流とで、ボビン17に前後方向への駆動力が作用し、ボビン17と振動板21およびエッジ部材22が前後方向に振動する。この振動により前方空間41に与えられる音圧が発音口35から外部空間に与えられ、車体の外部に走行警告音が発せられる。また、振動板21とエッジ部材22の振動により後方空間42へ、前方空間41への音圧と位相が反転した音圧が与えられる。後方空間42の内部の空気の密度の変化は、通気穴36を介して後方ケース32の外部に通じるため、後方空間42内の空気の圧縮により過剰なダンパー効果が発揮されるのが抑制される。
【0035】
通常の発音動作では、振動板21とボビン17などを含む可動部分がフレーム2の内部に当たることがないが、音響回路の誤動作などにより、ボイスコイル18に規格外の過大な電流が流れると、可動部分が後方(Y2方向)に向けて大きな距離を強制的に移動させられることがある。図2に示されるように、可動部分とフレーム2の内面との間での各部の対向距離の最短値の関係が、H2>H1>H3となっている。そのため、可動部分が距離H3だけ後方に移動した時点で、ダンパー19がダンパー規制部として機能する回路固定部16に当たり、振動板21およびエッジ部材22が、エッジ支持部材25の規制面27aに衝撃的に当たることがなく、ボビン17の最後端17aが、後方ヨーク13の内底部13bに衝撃的に当たることもない。その結果、振動板21とエッジ部材22さらにはボビン17の変形や損傷を防止することができる。
【0036】
組み立てられた音響装置30の出荷前の環境試験や、車体に設置されて実際に使用されている状況で、音響装置30が設置されている環境温度が非常に高くなり、その後に水が掛けられるなどしてケースの温度が急激に低下することがある。このとき、通気穴36内の空気の流れが圧力の変化に追従しきれずに、後方空間42の内部の圧力が急激に低下する。後方空間42の内部の圧力が低下すると、可動部分が後方へ移動してダンパー19が回路固定部16に当たった後に、振動板21とエッジ部材22が後方へ向けてさらに吸引されて変形しようとする。ただし、エッジ部材22および振動板21がエッジ支持部材25の規制面27aに当たることで、振動板21およびエッジ部材22に過剰な変形が生じるのを防止できる。
【0037】
図2に示されるように、振動板21およびエッジ部材22のテーパ部22aと、エッジ支持部材25の規制面27aとが同じ向きに傾斜しており、傾斜角度αとβがほぼ同じで、振動板21およびテーパ部22aと規制面27aとがほぼ平行に対向している。そのため、振動板21とエッジ部材22が後方へ変形しようとしたときに、規制面27aに当たることで、振動板21のコーン形状とテーパ部22aのテーパ形状を保つことができる。その結果、エッジ部材22の変形部22bの突方向が反転するなどの過剰な変形を防止でき、後方空間42の内部圧力が回復したときに、振動板21とエッジ部材22の形状を復元させることが可能になる。
【0038】
実施形態のスピーカ1は、振動板21とエッジ部材22の後方に規制面27aが対向距離H1を空けて対向している。そのため、通常の発音動作で、振動板21とエッジ部材22が前後方向に振動したときに、振動板21およびエッジ部材22と規制面27aとの間に挟まれている空気の圧力変化により、振動板21の振動特性に影響を与えるおそれがある。しかし、図3に示されるように、エッジ支持部材25の規制部27には、櫛歯状に形成された多数の溝部が通気口28として形成されているため、振動板21およびエッジ部材22と規制面27aとの間の空間と、規制部27よりも後方の空間とで、多くの空気が出入りできる。したがって、振動板21とエッジ部材22が前後に振動したときに、振動板21およびエッジ部材22と規制面27aとの間の空間が過剰なダンパー効果を発揮するのを抑制でき、振動板21の振動特性に悪影響を及ぼすのを防止できる。
【0039】
エッジ支持部材25は、組立作業の際にエッジ部材22の変形を防止するエッジ部材支持機能と、エッジ受け部2cとエッジ部材22との接合部の気密性を確保するガスケットとしての機能と、さらにエッジ部材22と振動板21の後方への移動を規制する振動規制機能を有している。従来のスピーカにおいても、フレームとエッジ部材との間にガスケットを介在させることが多いが、実施形態のスピーカ1は、ガスケットを規制部としても機能させているため、特に部品数が多くなることがない。また、図3図4に示されるように、振動板21とエッジ部材22およびエッジ支持部材25とを互いに接合した部分組立体20を形成し、部分組立体20をフレーム2に組み込むことにより、規制部27の組み込み作業が容易であり、規制部27と振動板21およびエッジ部材22との相対位置を高精度に決めることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 スピーカ
2 フレーム
2c エッジ受け部
2d 対向壁部
10 磁気回路部
17 ボビン
18 ボイスコイル
19 ダンパー
20 部分組立体
21 振動板
21b 外周部
22 エッジ部材
22a テーパ部
22b 変形部
22c 外周固定部
25 エッジ支持部材
25a 外周端
26 介在部
27 規制部
27a 規制面
28 通気口
30 音響装置
31 前方ケース
32 後方ケース
35 発音口
36 通気穴
41 前方空間(外気通気空間)
42 後方空間(閉鎖空間)
O 中心線
Y1 第1の側
Y2 第2の側
図1
図2
図3
図4
図5