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特開2024-35461抗ピリング性に優れたポリエステル短繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035461
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】抗ピリング性に優れたポリエステル短繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20240307BHJP
   D06M 11/00 20060101ALI20240307BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20240307BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20240307BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20240307BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20240307BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240307BHJP
【FI】
D01F6/62 303A
D01F6/62 302G
D06M11/00 111
D06M13/463
D04B1/16
D04B21/16
D03D15/37
D03D15/283
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139929
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】518381846
【氏名又は名称】東洋紡せんい株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】西田 右広
(72)【発明者】
【氏名】河端 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀子
【テーマコード(参考)】
4L002
4L031
4L033
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB00
4L002AB01
4L002AC00
4L002AC07
4L002BA00
4L002BA04
4L002DA00
4L002DA05
4L002EA00
4L002EA07
4L002FA01
4L031AA18
4L031AB03
4L031CA01
4L031DA07
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA85
4L035AA05
4L035BB33
4L035BB72
4L035DD19
4L035EE08
4L035EE10
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA33
4L048AA34
4L048AA48
4L048AB01
4L048AB11
4L048AC00
4L048AC09
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA01
4L048CA09
4L048DA01
4L048EB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コスト的にも安価であり、尚且つ優れた抗ピリング性能を有するポリエステル短繊維、それを含む織編物、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】繊維表面に繊維軸方向に平行でない一文字状の溝を有し、前記溝が繊維長さ1mmあたり300箇所以上3000箇所以下の頻度で存在しているポリエステル短繊維。ポリエステル短繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度[η]が0.45cm/g以上0.90cm/g以下の芳香族ポリエステルから構成され、その引張強さが0.35cN/tex以上0.65cN/tex以下、その引張強さと伸び率の平方根の積で示される力積が1.20以上2.40以下、その結節強さが0.20cN/tex以上0.55cN/tex以下であることが好ましい。このポリエステル短繊維を50重量%以上含有する織編物は、高い抗ピリング性を持つ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に繊維軸方向に平行でない一文字状の溝を有し、前記溝が前記溝が繊維長さ1mmあたり300箇所以上3000箇所以下の頻度で存在していることを特徴とするポリエステル短繊維。
【請求項2】
ポリエステル短繊維の平均クリンプ数が10~30個/25mmであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル短繊維。
【請求項3】
ポリエステル短繊維が、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度[η]が0.45cm/g以上0.90cm/g以下の芳香族ポリエステルから構成され、ポリエステル短繊維の引張強さが0.35cN/tex以上0.65cN/tex以下、ポリエステル短繊維の引張強さと伸び率の平方根の積で示される力積が1.20以上2.40以下、ポリエステル短繊維の結節強さが0.20cN/tex以上0.55cN/tex以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル短繊維。
【請求項4】
エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度[η]が0.45cm/g以上0.90cm/g以下の芳香族ポリエステルから構成され、かつ平均クリンプ数が10~30個/25mmであるポリエステル短繊維を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩の少なくともいずれかの存在下、第四級アンモニウム塩の0.1%o.w.f.以上1.5%o.w.f.以下の処理液中で湿熱処理することによって、繊維表面に繊維軸方向に平行でない一文字状の溝を形成させることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル短繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリエステル短繊維を50質量%以上含有し、かつJIS-L1076:2012A法のピリング性が3級以上であることを特徴とする織編物。
【請求項6】
エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度[η]が0.45cm/g以上0.90cm/g以下の芳香族ポリエステルから構成され、かつ平均クリンプ数が10~30個/25mmであるポリエステル短繊維を50質量%以上含有する織編物を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩の少なくともいずれかの存在下で第四級アンモニウム塩の0.1%o.w.f.以上1.5%o.w.f.以下の処理液中で湿熱処理することによって、繊維表面に繊維軸方向に平行でない一文字状の溝を形成させることを特徴とする請求項5に記載の織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル紡績糸、ポリエステル混紡績糸、ポリエステル混長短複合紡績糸などとして織編物、又はニードルパンチング、ステッチボンド、サーマルボンド、スパンレース、エアーレイドに代表されるポリエステル短繊維不織布に成したとき、優れた抗ピリング性を呈することができるポリエステル短繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から汎用熱可塑性合成繊維としてポリエステル繊維が広く一般に使用されている。ポリエステル繊維、とりわけポリエチレンテレフタレート繊維は、比較的安価で強度・伸度などの物理的特性や耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性に優れ、衣類などの一般衣料用途からカーテンや絨毯などの生活資材、産業資材用に広範に活用されており、今後も全世界的に生産量が増加の一途を辿る繊維素材である。しかしながら、ポリエステル繊維は、編物や組織がルーズな織物に使用した場合は、ピリングが発生しやすく、製品の外観品位を著しく損ねるという欠点を抱えていた。
【0003】
かかる欠点を改善させるため、例えば特許文献1には低強度短繊維を鞘側に高強度短繊維を芯側に配した芯鞘構造の複合紡績糸が提案されている。この提案では、実用的な強度は芯側の高強度短繊維で担い、鞘側は結節強力が弱い低強度短繊維を配しており、ピルの成長を抑制できるが、鞘部に配した低強度短繊維が選択的に強く脱落除去されてしまう摩耗減量が生じ、繰返し着用にて部分的に生地が薄くなるという問題が生じる。
【0004】
また、特許文献2には毛羽が少ない空気精紡糸を編地の表面に使用する方法が提案されている。この提案では、使用する空気精紡機は中空のエアーノズルを有し、エアーノズル内の空気流によって無撚の紡績糸の周囲に短繊維が結束した形状の紡績糸を形成する機構となっており、実質的にリング精紡糸よりも長手方向の単位長さ当たりの毛羽数が少なく、露出する毛羽の長さも短く、抗ピリング性に優れたものとなる。しかしながら、空気精紡糸は一般にリング紡績糸と比べて光沢感に乏しく、風合いも硬く、ドレープ性にも劣るため、ビジネスシャツ地や中東民族衣装など審美性を必要とする衣料分野には活用し難いという欠点がある。
【0005】
また、特許文献3にはリン酸ジアルキルエステル共重合ポリエステルと5-アルカリ金属イソフタル酸共重合ポリエステルのブレンドポリマーを用いた抗ピリング性に優れた異形断面繊維の製造技術が提案され、特許文献4にはリン酸ジアルキルエステル共重合ポリエステルとイソフタル酸共重合ポリエステルのブレンドポリマーを用いた抗ピリング性に優れたポリエステル繊維が提案され、特許文献5にはリン酸ジアルキルエステルと脂肪族オキシジカルボン酸を共重合させたポリエステルによる抗ピリング性に優れたポリエステル繊維とその製造方法が提案されている。これらの提案では、リン系化合物を共重合したポリエステルを用いて溶融紡糸し、生地を織編成後の染色工程で熱水処理することによって繊維の強伸度、結節強度を下げて抗ピリング性能を保持することができるが、使用するポリエステルは、変性ポリエステルであり、繊維自体の白度に乏しい他、レギュラー糸と比べて強度が低く、生地の引裂強力や破裂強力に乏しいといった問題を抱える。
【0006】
また、特許文献6にはテトラキステトラヒドロフルフリルオキシシランやトリス[テトラヒドロフルフリオキシ]メチルシランのようなテトラヒドロフルフリルアルコールの有機珪素化合物を共重合したポリエステルからなる抗ピリング性ポリエステル繊維が提案されている。しかしながら、この提案では、有機珪素化合物を共重合させることによって染料を吸尽しやすくなるため、特に濃色染色時の染色堅牢度が悪くなるという問題がある。
【0007】
また、特許文献7には5-ナトリウムスルフォイソフタル酸とテトラエチルシリケートの如き三官能価、又は四官能価のシリケートオルトエステルを共重合したポリエステルを用いた抗ピルポリエステルが提案されている。これも特許文献6と同様、染料吸尽しやすく濃色を得ることが容易であるが、逆に染色堅牢度の面で好ましいとは言えない。
【0008】
また、特許文献8には複合紡糸法により得られたポリエステル繊維からなる織物に起毛処理を施し、表面に切断毛羽を露出させた上、薬液処理を実施し、易溶解成分を溶出除去して極細繊維となした後に染色、表面を剪毛処理して立毛布帛を得る方法が提案されている。この提案では、表面の遊び毛を除去し、強い毛のみを残すことで耐摩耗性を高め、優れた抗ピリング性を実現するとあるが、易溶解成分除去時の排液負荷が大きく、更には作業者への暴露の問題もあり、SDGsの観点で好ましい実施態様とは言えない。
【0009】
一方、特許文献9には、中空断面で、繊維軸方向に太部と細部を有する単繊維からなる仮撚加工糸であって、各単繊維の繊維軸方向及び各単繊維間において太部と細部とがランダムに存在し、更に太部の片面には繊維軸と直角方向に単繊維の中空部に到達する溝が存在しているポリエステル仮撚加工糸が記載されている。また、特許文献10には、太細糸(シック&シンのフィラメント糸)を含む布帛であり、太細糸の太部に繊維軸に直交する方向にスリットが入った布帛が記載されている。これらの技術は、深みのある色や風合い、吸水性の向上を目的とするものである。
【0010】
これらの技術は、シック&シン(T&T)フィラメントをアルカリ減量加工するとシック部にスリット状の孔ができることを利用していることに特徴がある。これらの技術は、T&Tフィラメントを用いる必要があり、そもそも長繊維に関する技術である。長繊維は、短繊維に比べてピリングになり難いため、これらの技術に基づいて、本来の目的から逸脱して短繊維のピリング改善につなげようとする動機付けがなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-192943号公報
【特許文献2】特開2004-183167号公報
【特許文献3】特開平8-260243号公報
【特許文献4】特開2016-108702号公報
【特許文献5】特開2001-226825号公報
【特許文献6】特表2004-533553号公報
【特許文献7】特表2001-512509号公報
【特許文献8】特開平9-296355号公報
【特許文献9】特開2006-176902号公報
【特許文献10】特開2020-176355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ポリエステル繊維の抗ピリング性を改善させる手段としては、以上に示すように化学的処理、若しくは物理的処理、またはその併用により、繊維を脆くしてピルの成長を抑制することに主眼を置いた提案が多数であるが、いずれも強伸度や織編物の審美性、外観品位、若しくは染色堅牢度などの低下を伴うものである他、共重合ポリマーやブレンドポリマーを使用するものはオリゴマーやスカムの発生が懸念され、紡糸操業性の悪化などコスト的にも高価なものとなり、問題を抱えている。本発明は、かかる従来技術の問題を解消し、コスト的にも安価であり、尚且つ優れた抗ピリング性能を有するポリエステル短繊維、それを含む織編物、及びそれらの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリエステル短繊維の表面に繊維軸に対して直交する方向や斜め方向のように繊維軸方向に平行でない方向に一文字状の溝を作ることで、紡績糸や織編物の表面に存在する毛羽を取り除きやすくして、抗ピリング性を紡績糸や織編物に容易に付与できることを見出した。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づいて創案されたものであり、以下の(1)~(6)の構成を有するものである。
(1)繊維表面に繊維軸方向に平行でない一文字状の溝を有し、前記溝が繊維長さ1mmあたり300箇所以上3000箇所以下の頻度で存在していることを特徴とするポリエステル短繊維。
(2)ポリエステル短繊維の平均クリンプ数が10~30個/25mmであることを特徴とする(1)に記載のポリエステル短繊維。
(3)ポリエステル短繊維が、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度[η]が0.45cm/g以上0.90cm/g以下の芳香族ポリエステルから構成され、ポリエステル短繊維の引張強さが0.35cN/tex以上0.65cN/tex以下、ポリエステル短繊維の引張強さと伸び率の平方根の積で示される力積が1.20以上2.40以下、ポリエステル短繊維の結節強さが0.20cN/tex以上0.55cN/tex以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリエステル短繊維。
(4)エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度[η]が0.45cm/g以上0.90cm/g以下の芳香族ポリエステルから構成され、かつ平均クリンプ数が10~30個/25mmであるポリエステル短繊維を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩の少なくともいずれかの存在下、第四級アンモニウム塩の0.1%o.w.f.以上1.5%o.w.f.以下の処理液中で湿熱処理することによって、繊維表面に繊維軸方向に平行でない一文字状の溝を形成させることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリエステル短繊維の製造方法。
(5)(1)又は(2)に記載のポリエステル短繊維を50質量%以上含有し、かつJIS-L1076:2012A法のピリング性が3級以上であることを特徴とする織編物。
(6)エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする固有粘度[η]が0.45cm/g以上0.90cm/g以下の芳香族ポリエステルから構成され、かつ平均クリンプ数が10~30個/25mmであるポリエステル短繊維を50質量%以上含有する織編物を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩の少なくともいずれかの存在下で第四級アンモニウム塩の0.1%o.w.f.以上1.5%o.w.f.以下の処理液中で湿熱処理することによって、繊維表面に繊維軸方向に平行でない一文字状の溝を形成させることを特徴とする(5)に記載の織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、強伸度などの物理的特性を損なうことなく、優れた抗ピリング性能を有するポリエステル短繊維を提供することができる。また、本発明のポリエステル短繊維を使用した織編物は、審美性、品位を損なうことなく、衣類としても長く着用することが可能となるため、買い替えの頻度も少なくなり、衣類の廃棄量も減り、SDGs的な観点からも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】繊維横断面方向に形成された一文字状の溝を繊維表面に有するポリエステル短繊維の表面を撮影した電子顕微鏡写真である。
図2】繊維軸方向に対して斜め方向に形成された一文字状の溝を繊維表面に有するポリエステル短繊維の表面を撮影した電子顕微鏡写真である。
図3】繊維軸方向に対して平行に形成された一文字状の溝を繊維表面に有するポリエステル短繊維の表面を撮影した電子顕微鏡写真である。
図4】溝になりきっていない浅いものを繊維表面に有するポリエステル短繊維の表面を撮影した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のポリエステル短繊維等の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明のポリエステル短繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする芳香族ポリエステル樹脂から構成されることが好ましい。かかるポリエステル樹脂の製造方法としては、テレフタル酸とエチレングリコールを用いてモル比1:1で重縮合させるPTA法、若しくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを用いてモル比1:1で重縮合させるDMT法が公知である。酸成分として、テレフタル酸以外に例えば5-ナトリウムイソフタル酸や2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、セバシン酸やアジピン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸成分を共重合していてもよいし、ジオール成分として、エチレングリコール以外に例えば1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどを共重合していてもよい。また、必要に応じて二酸化チタン、硫酸バリウム、二酸化珪素、カーボンブラック、カオリナイト、その他天然に算出する鉱物系微粒子、無機顔料、有機顔料、染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを混練してもよい。
【0019】
ポリエステル樹脂の固有粘度〔η〕は、好ましくは0.45cm/g以上0.90cm/g以下、より好ましくは0.48cm/g以上0.85cm/g以下、更に好ましくは0.52cm/g以上0.80cm/g以下である。固有粘度〔η〕が上記範囲より小さくなると、ポリエステル樹脂の溶融粘度が低くなることで曳糸性に乏しく、操業性が悪いばかりか、ポリエステル短繊維表面に形成される一文字状の溝の密度が大きくなりすぎて、得られた糸の物理的特性も低いものとなり、実用強度を保持できないおそれがある。逆に上記範囲より大きくなると、溶融粘度が高く、産業資材に用いることができる程度に物理的特性を向上させることが可能となるが、衣料用途には些かオーバースペックであり、生地の風合い的にも粗硬でドレープ性に欠けたものとなってしまうおそれがある。また、ポリエステル短繊維表面に形成される一文字状の溝の密度が小さくなりすぎて、抗ピリング性に劣るおそれがある。
【0020】
本発明のポリエステル短繊維の繊維長は、好ましくは22mm~55mm、より好ましくは28mm~45mm、更に好ましくは33mm~40mmである。繊維長が上記範囲を超えると、不織布や紡績する方法が非常に限定されてしまい、衣料や資材等の用途に用いることが難しくなり、上記範囲未満になると、均一で品質のよい紡績糸を作ることが難しくなってくる。
【0021】
本発明のポリエステル短繊維の直径は、好ましくは3μm~20μm、より好ましくは5μm~15μmの範囲である。直径が上記範囲未満であったり、上記範囲を超えると本発明の一文字状の溝を作ることが難しくなってくる。また、繊維横断面の形状は、丸断面が好ましく、楕円形や扁平断面であってもよく、また四角形のような4つ以上の角の数を有する多角形であってもよい。但し、多様断面等の突起がある横断面は、溝ができても抗ピル性能の向上効果が低下しやすい傾向がある。
【0022】
繊維表面に繊維軸方向と平行でない一文字状の溝を作るためには、短繊維に対して「く」の字の座屈変形を付与することが必要である。このような「く」の字の座屈変形は、繊維に捲縮(クリンプ)を付与するために通常使用される押し込み法や賦形法によって容易に付与することができる。「く」の字に座屈した部分には圧縮変形が起こり、この圧縮された部分が続く湿熱処理中にアルカリ減量加工されることで、繊維軸方向と直交する方向または斜め方向に一文字状の溝ができやすくなる。短繊維上の座屈の数(平均クリンプ数)や、座屈の強さにより、一文字状の溝の数をある程度制御することができる。ここで、押し込み法は、一対のロールの後ろにスタッフィングボックスを備えた装置で、繊維がロールで押し込まれてスタッフィングボックス内で折り畳まれて繊維塊になった状態で加熱され、その後冷却されて引き出されることで捲縮を付与する方法であり、賦形法は、加熱された二枚の歯車に繊維を通すことで、繊維に捲縮を付与する方法である。
【0023】
ポリエステル短繊維の平均クリンプ数は、10~30個/25mmであることが好ましく、クリンプ数が多いほど嵩高性や生地表面の乱反射が多くなる。平均クリンプ数は、より好ましくは11~25個/25mm、さらに好ましくは12~25個/25mmである。平均クリンプ数が上記範囲未満では、短繊維表面に形成される一文字状の溝の密度が少なくなるおそれがあり、またカード通過性にも劣るおそれがある。平均クリンプ数が上記範囲を超えると、カード通過後にネップが多発したり、紡績糸の太さムラが極端に増えたりし、高次加工性や紡績糸の品質が低下するおそれがある。ポリエステル短繊維の平均クリンプ数は、押し込み法の場合は、ドクターブレード間の距離やニップローラー表面温度、スタッフィング圧、トウ総繊度などの諸条件を調整することにより制御することができる。繊維に適切に捲縮を付与しつつ繊維の破断を防止する点から、クリンパー直前の繊維(トウ)温度を50℃~95℃程度にすることが好ましく、またクリンパーの温度を60℃~110℃程度にすることが好ましい。一般的に、クリンパーの温度を高くするほど、平均クリンプ数が多くなり、短繊維表面に形成される一文字状の溝の密度が多くなる。捲縮を付与した短繊維は、無緊張状態で熱風加熱処理を施し、乾燥する。尚、ニップ圧は、好ましくは0.2~1.0MPa、より好ましくは0.3~0.6MPaの範囲で調整する。スタッフィング圧は、好ましくは0.05~0.6MPa、より好ましくは0.2~0.45MPaの範囲で調整する。一方、賦形法の場合は、ポリエステル短繊維の平均クリンプ数は、ギアの大きさ、ギアの表面温度、トウの温度、加工速度などの諸条件を調整することにより制御することができる。
【0024】
押し込み法の場合、具体的には、紡糸した未延伸糸を延伸倍率2~5倍で蒸気下もしくは熱水中で延伸した後、緊張熱処理を行って、押し込み式捲縮機(クリンパー)などを用いて捲縮(クリンプ)を付与する。賦形法の場合、具体的には、紡糸した未延伸糸を延伸倍率2~5倍で蒸気下もしくは熱水中で延伸した後、緊張熱処理を行い、その後、加熱された二枚の歯車に繊維を通すことで、繊維に捲縮を付与する。次いで、捲縮付与後の延伸トウを乾燥し、仕上げ油剤水溶液をスプレーでトウに付与し、トウを切断して短繊維を製造する。切断した繊維のカット長は32mmからバリカットまで可能であり、目的によって適宜選定される。一般的には、繊維カット長は、紡績糸の毛羽数や毛羽絡み度合い、風合い、糸質面から長くない方が好ましく、32mm~51mmの範囲が好適である。
【0025】
尚、紡績、製編織、染色加工を行なうと、クリンパーを通過した直後のクリンプ数と比べて、短繊維の平均クリンプ数は増加する。これは、紡績時に撚りが掛かったり、製編織で組織ができることで織クリンプ、編ループにより外観上のクリンプ数が増加するためである。また、染色加工中の熱収縮によって繊維長が縮むことにより見掛けのクリンプ数が増加するためである。紡績糸や仕上がった織編物中から取り出した短繊維における、本発明のポリエステル短繊維の平均クリンプ数は、10~30個/25mm、より好ましくは15~30個/25mmである。
【0026】
本発明のポリエステル短繊維の引張強さは、好ましくは0.35cN/tex以上0.65cN/tex以下、より好ましくは0.38cN/tex以上0.65cN/tex以下、更に好ましくは0.40cN/tex以上0.65cN/tex以下である。引張強さが上記範囲未満では、単繊維繊度にもよるが衣料用として必要な実用強度を保持できず、上記範囲を超えると、実用強度は十分なものとなるが、良好な抗ピリング性を確保することができない可能性がある。単繊維繊度は、特に限定されるものではないが、一般衣料用途では、好ましくは0.03tex以上0.25tex以下、より好ましくは0.05tex以上0.24tex以下、更に好ましくは0.07tex以上0.23tex以下、特に好ましくは0.10tex以上0.20tex以下である。
【0027】
また、本発明のポリエステル短繊維の引張強さと伸び率の平方根の積で示される力積は、好ましくは1.20以上2.40以下、より好ましくは1.23以上2.30以下、更に好ましくは1.25以上2.20以下である。この力積は、繊維のタフネス、粘り強さを示す「ものさし」であり、上記範囲より低くなると、紡績糸や生地にした際の物理的強度が低く、実用強度を保持することができず、また上記範囲を超えると、物理的強度も十分なものとなるが、本発明の目的である抗ピリング特性が乏しいものとなりやすい。この力積を上記範囲に制御することによって物理的強度と抗ピリング性を両立させることが可能となる。
【0028】
また、本発明のポリエステル短繊維の結節強さは、好ましくは0.20cN/tex以上0.55cN/tex以下、より好ましくは0.25cN/tex以上0.52cN/tex以下、更に好ましくは0.30cN/tex以上0.51cN/tex以下である。この結節強さが上記範囲より小さい場合、抗ピリング性は非常に良好であるが、ヤーンスプライサーやメカノッター、もしくは人の手でフィッシャーマンズノットやウィーバーズノットなど手結びで糸を結んだ部分の強度が弱く、紡績、糸加工、製織編操業性に支障を来たすおそれがある。また、上記範囲を超えると、結び目の強力は十分で、紡績、糸加工、製織編操業性も良好なものに成り得るが、抗ピリング性能が十分なものにはならないおそれがある。この結節強さを上記範囲に制御することによって、紡績、糸加工、製織編操業性を損ねることなく、十分な抗ピリング性能を発揮させることができる。
【0029】
繊維の製造については、公知の溶融紡糸法を採用することができるが、溶融紡糸時の冷却域にて非対称冷却とし、繊維に潜在捲縮能を持たせることも可能である。本発明のポリエステル短繊維は、有端繊維であるチョップドファイバー、短繊維ステープルファイバーを原糸として用い、目的を達成することができる。短繊維は、溶融紡糸後に浴中オフライン延伸した後、例えばスタッフィングボックスで押し込み方法により座屈捲縮を付与した上で所定の繊維長になるよう切断されることができる。いずれも公知の方法を用いて実施することができる。
【0030】
本発明のポリエステル短繊維は、繊維表面(繊維側面)に、繊維軸方向に平行でない斜め方向や直交方向に一文字状の溝を有する。本発明でいう一文字状の溝とは、繊維表面から繊維内部に延びる空隙を示すものであり、繊維表面の開口部が最も面積が大きく、内部に至るに従い開口部面積が漸減することを特徴とし、例えば深さ方向にV字型またはU字型の溝になっているものが挙げられる。一文字状の溝は、長さ1.0μm以上、好ましくは長さ1.0μm以上5.0μm以下である。また、一文字状の溝は、深さ0.1μm以上、好ましくは深さ0.1μm以上1.0μm以下である。尚、複数の一文字状の溝が重なると、V字やX字状などの複雑な形に見える場合がある。本発明のポリエステル短繊維では、繊維表面に形成された一文字状の溝が、繊維長さ1mmあたり平均で300箇所以上3000箇所以下、好ましくは400箇所以上2300箇所以下、より好ましくは500箇所以上1700箇所以下の頻度で存在することが好ましい。一文字状の溝が上記範囲より多く存在すると、深色性向上効果も期待できるようになるが、摩耗強度や引裂強度、破裂強度や引張強度といった物理的特性が極端に低下し、実用強度を保持することができない。また逆に上記範囲より少ないと、十分な抗ピリング性能を保持することができない。また一文字状の溝の長さ及び深さについては、上記範囲未満では、耐ピリング性が十分ではなくなるおそれがあり、長さ及び深さが上記範囲を超えると抗ピリング性が満足なものが得られるが、物理的強度に乏しくなるおそれがある。
【0031】
本発明のポリエステル短繊維の一文字状の溝の具体例について図面を使って更に説明する。本発明の一文字状の溝は、繊維軸方向に平行でない一文字状の溝をいい、例えば、図1の写真に示すように繊維横断面方向に形成された一文字状の溝や、図2の写真に示すように繊維軸方向に対して斜め方向に形成された一文字状の溝が包含される。一方、図3の写真に示すように繊維軸に平行なものは、本発明の一文字状の溝としてカウントしない。また、一文字状の溝は、直線状にできた溝の端から端の長さが、溝の幅に対して5倍以上のものをいい、5倍未満の短いものは一文字状の溝としてカウントしない。また、図4の写真に示すように溝になりきっていない浅いものも一文字状の溝としてカウントしない。
【0032】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、座屈変形を付与されたポリエステル短繊維に、アルカリ性環境にて湿熱処理を施すことで、短繊維表面に一文字状の溝を形成させることができ、この一文字状の溝を特定割合で存在させることにより、抗ピリング性が大幅に改善されることを見出した。尚、ここで湿熱処理とは、熱水処理や水蒸気処理を指している。熱水処理にはオーバーマイヤー染色機、ビーム染色機、ウインス染色機、ジッガー染色機、液流染色機、気流染色機などバッチ処理出来る加工機が適しており、より好ましくはウインス染色機や液流染色機等の柔布効果の高い染色機が一文字状の溝ができやすい。また、更には高圧下で処理できるものが好ましい。例えば、オーバーマイヤー染色機(パッケージ型染色機)を使用すれば、繊維の形態としてワタ(短繊維)やスライバー、紡績糸、織編物などに応用が可能である。加えて、処理したワタ、スライバー、または紡績糸を用い、混紡、交織、交編を実施した後、新たな機能加工を付与するなど複数の機能を具備する機能加工布帛を得ることも可能である。水蒸気処理には、コンベア式のL-BOX、J-BOX、ロングループ式のノーテンション連続スチーマやロールトゥロール式の連続スチーマを用いることができる。このような連続スチーマでは、織物や編物の布帛形態で加工することができる。
【0033】
湿熱処理の処理温度は、特に限定されないが、好ましくは80℃以上140℃以下、より好ましくは90℃以上135℃以下、更に好ましくは100℃以上130℃以下である。熱水処理の場合、処理浴比は特に限定しないが、被処理物:浴液の重量比としては、好ましくは1:5以上1:30以下、より好ましくは1:7以上1:20以下である。具体的には、アルカリ条件下で第四級アンモニウム塩を配合した処理液で浸漬中、または浸漬後に湿熱処理する。上記の処理後には、硫酸エステル系、スルフォン酸系、リン酸エステル系などのアニオン系界面活性剤で処理しておくのが望ましい。繊維に第四級アンモニウム塩などカチオン化剤が残存すると耐光堅牢度や染色堅牢度など各種堅牢度を悪化させる場合があるので、いわゆる「アニオン返し」をしておくことが品質面でも効果的である。
【0034】
使用する第四級アンモニウム塩としては、アンモニウムヒドロキシドの他、ハロゲン化物イオンを対イオンとしたアンモニウムフルオリド、アンモニウムクロリド、アンモニウムブロミド、アンモニウムヨージドの他、硫酸イオン、硫酸水素イオン、ニクロム酸イオンなど1価から3価のマイナスイオンを対イオンとした第四級アンモニウム塩が例示される。通常、第四級アンモニウム塩は、ほとんどがカチオン性界面活性剤としての特性を有するが、ラウリルスルフォベタイン、カプリリルスルフォベタイン、ステアリルスルフォベタインのようなアミドスルフォベタイン型とした両性界面活性剤のタイプも本発明に用いる第四級アンモニウム塩に含有される。好適な第四級アンモニウム塩としては、ベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩、トリエチルメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリメチルステアリルアンモニウム塩、オクチルトリエチルアンモニウム塩等が挙げられる。特に好ましくは、トリエチルメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩である。
【0035】
使用する第四級アンモニウム塩の量は、繊維重量に対し、好ましくは0.1%o.w.f.以上1.5%o.w.f.以下、より好ましくは0.2%o.w.f.以上1.2%o.w.f.以下、更に好ましくは0.3%o.w.f.以上1.0%o.w.f.以下である。第四級アンモニウム塩を含む排液は、高CODであるため、排液負荷が大きく、環境を考慮すると使用量は必要最小限に留めておくのが望ましい。また、第四級アンモニウム塩を使用すると起泡が多くなる場合があるので、シリコーンエマルション系消泡剤などを併用することも可能である。
【0036】
上記の第四級アンモニウム塩とともに、有機溶剤、粘度調整剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、キレート剤などを併用してもよい。特に有機溶剤は、第四級アンモニウム塩とともに用いると溝形成を助長するので好ましい。有機溶剤の種類としては、多分枝型高級アルコール、多価アルコールエーテル等が好ましい。多価多分枝型高級アルコールとしては、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコールなどが挙げられる。多価アルコールエーテルとしてはブチルセロソルブ、セロソルブ、メチルセロソルブが好ましい。これらの化合物は、沸点がおよそ100℃から180℃付近に存在する有機溶剤であるが、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールを除き、沸点が処理温度より高いため、バッチ加工の際の内圧上昇も少なく留まる。処方量としては、湿熱処置における処理浴中の溶液濃度として多価アルコールエーテルの濃度が0.005%sol.以上0.050%sol.以下、多分枝型高級アルコールの濃度が0.005%sol.以上0.050%sol.以下の極僅かな使用量でよい。使用量的には有機溶剤中毒予防規則(有機則)適用には非該当であるが、全体換気、局所換気など作業環境には重々考慮し、作業員の曝露量を極力少なく留める配慮がSDGsの観点からも必要である。
【0037】
また、アルカリ条件下にするにはアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムなどが好適に使用される。処方量としては、湿熱処置における処理浴中の溶液濃度として水酸化ナトリウムを例に取ると、好ましくは0.10%sol.以上0.50%sol.以下、より好ましくは0.15%sol.以上0.30%sol.以下である。これらの処方量は、非常に僅かな使用量であり、ポリエステルのアルカリ加水分解によるアルカリ減量が積極的に進むような条件ではないため、繊維径が極端に小さくなるなどの影響は限りなく小さく留まる。
【0038】
ポリエステル短繊維に施す上記湿熱処理は、ポリエステル短繊維がワタの形態で行ってもよいし、スライバーや紡績糸の形態で行ってもよい。また、織編物や不織布の形態で行ってもよく、縫製品等の最終製品の形態で行っても構わない。ポリエステル短繊維の形態に合わせた染色機を用いて湿熱処理を行えばよい。尚、湿熱処理を行う時点でポリエステル短繊維に別の繊維が混ざっていても構わない。
【0039】
アルカリ条件下での湿熱処理でポリエステル短繊維は減量されるが、減量率が高まると溝も多く発生する。繊維上の一文字状の溝の最大発生可能数は、座屈処理の強さやクリンプ数によると考えられるが、加工機の選定、加工条件、減量率で変わってくる。減量率は好ましくは3~30%、より好ましくは5~20%、更に好ましくは8~15%の範囲で行うことが好ましい。減量率が上記範囲未満であると、一文字状の溝の発生数が少なくなりすぎ、上記範囲を超えると、一文字状の溝の発生数は高止まりしたまま、繊維強度が大きく低下しやすくなる。
【0040】
本発明のポリエステル短繊維から紡績糸を製造する場合、ポリエステル短繊維の混率は50~100質量%であることが好ましい。より好ましくは60質量%以上である。更に好ましくは80質量%以上である。本発明のポリエステル短繊維の混率が上記範囲未満であると、最終製品における本発明のポリエステル短繊維による抗ピリング効果が低下しやすくなる。また、本発明のポリエステル短繊維の紡績糸を使って織編物にする場合、織編物中に含まれるポリエステル短繊維の混率は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは55質量%以上である、更に好ましくは60質量%以上である。織編物中のポリエステル短繊維の混率が上記範囲未満であると、最終製品における最終製品の抗ピリング効果が低下しやすくなる。尚、ポリエステル短繊維を含む紡績糸の総繊度は、求める織編物に応じて総繊度を適宜設定すればよく、例えば英式番手5~100の範囲で製造するのがよい。紡績糸の英式番手は、JIS-L1095(2010)9.4.2に準じ、英式番手の見掛け綿番手として測定できる。
【0041】
本発明のポリエステル短繊維は、上記のように、一文字状の溝を形成させるためのアルカリ条件下での湿熱処理を施した後、紡績や不織布、織編物に供してもよいし、糸や不織布、織編物を得た後に一文字状の溝を形成させるためのアルカリ条件下での湿熱処理を施してもよい。とりわけ、ワタや糸の状態で処理しておくとその他繊維との混紡、混繊、交織、交編など適用範囲が広がるので好適である。また、織編物を得る際には、必要に応じて生機毛焼処理や起毛加工などの公知の加工を施すことも可能である。
【0042】
本発明の織編物の組織は、限定しないが、織物としては、例えば、平織、綾織(ツイル)、朱子織、多重織、ドビー織、ジャガード織等の織組織を有するものが挙げられる。織物は、異なる色の先染め糸を複数種用いてストライプやチェック等の柄物にしてもよいし、ジャガード織機にて織柄物にしてもよい。特に生地をシャツ地、ブラウス地等の衣類に用いる場合には、平織、綾織(ツイル)が好ましい。緯編物(丸編物)としては、例えば天竺編(平編)、ベア天竺編、ウエルト天竺編、フライス編(ゴム編)、パール編、片袋編、スムース編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等の編組織を有するものが挙げられる。これらのうち天竺編、タック編(鹿の子)、フライス編、またはスムース編が好ましい。経編物としては、例えば、シングルデンビー編、開目デンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、トリコット編、ハーフトリコット編、ラッセル編、ジャガード編等の編組織を有するものが挙げられる。
【0043】
ピリング試験については、2012年版JIS-L1076.8.1.1 A法(ICI形試験機を用いる方法)に従い、織物の場合は10時間、編物の場合は5時間操作し、同9.2に記載の通り、ピリング判定標準写真を参照して等級判定する。本発明の抗ピリング性に優れたポリエステル短繊維を用いることで、該ピリング試験等級は3-4級以上、好適には4級以上、更に好適には4-5級とすることが可能である。
【実施例0044】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの記載に限定されるものではない。実施例中の特性値は、下記の測定方法に基づいて評価される。
【0045】
(固有粘度)
ポリエステル樹脂をフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(60/40(重量比))の混合溶媒中に溶解し、30±2℃に調整された恒温水槽に設置したウベローデ粘度計を用い、四点希釈法により固有粘度(cm/g)を求めた。更に固有粘度の説明を加えると、ポリマーの固有粘度はポリマーの分子量に依存し、Mark-Houwink-Sakuradaの式[η]=KMαが成立する。ポリマー溶液粘度をη、溶媒の粘度をη、ポリマーの単位濃度をcとしたとき、還元粘度ηredはηred=[(η-η)/η]/cで表すことができ、固有粘度[η]は還元粘度ηredをポリマー濃度cがc→0になるように外挿することで求めることができる。実験的に固有粘度[η]はウベローデ粘度計のキャピラリーを流体が流下する時間から求めることが可能であり、ポリマー溶液の流下時間をt、溶媒の流下時間をtとしたとき、還元粘度ηredは流下時間tとポリマー濃度cを用いて、ηred=(t―t)/tcで示すことができる。
【0046】
(単繊度)
JIS-L1015:2010 8.5.1 B法(簡便法)記載の方法に準じて測定した。
【0047】
(短繊維の繊維長)
JIS-L1015:2010 8.4繊維長のC法(直接法)に記載の方法に準じて測定した。
【0048】
(短繊維の結節強さ)
JIS-L1015:2010 8.8.1 標準時試験記載の方法に準じて測定した。試験機の種類は定速伸長形、つかみ間隔は10mm、引張速度は10mm/分、試験回数10回の算術平均値を測定値とした。
【0049】
(短繊維の引張強さ及び伸び率)
JIS-L1015:2010 8.7.1 標準時試験記載の方法に準じて測定した。試験機の種類は定速伸長形、つかみ間隔は10mm、引張速度は10mm/分、試験回数10回の算術平均値を測定値とした。
【0050】
(短繊維の力積)
上記の引張強さ(DT)と伸び率(DE)から以下の式1を用いて力積を求めた。
力積=DT×√DE・・・・・(式1)
【0051】
(短繊維のクリンプ数)
JIS-L1015:2010 8.12.1(捲縮数)に記載の方法に準じて測定した。
【0052】
(織編物の引張強さ)
JIS-L1096:2010 8.14.1 A法(ストリップ法)記載の方法に準じて測定した。
【0053】
(織物の引裂強さ)
JIS-L1096:2010 8.17.4 D法(ペンジュラム法)記載の方法に準じて測定した。
【0054】
(編物の破裂強さ)
JIS-L1096:2010 8.18.1A ミューレン法に記載の方法に準じて測定した。
【0055】
(滑脱抵抗力)
JIS-L1096:2010 8.23.1 B法記載の方法に準じ、荷重を79.0Nとして測定した。
【0056】
(織編物のピリング試験)
JIS-L1076:2012 8.1.1 A法(ICI形試験機を用いる方法)記載の方法により、織物試料では10時間、編物試料では5時間の操作を実施し、ピリング判定標準写真に基づき、等級判定を行った。
【0057】
(一文字状の溝の数の測定)
アルカリ処理後の加工わた、紡績糸、または織編物を分解して、ポリエステル短繊維を採取した。紡績糸や織編物の場合は、外気に接している表面部分に位置する短繊維を10本採取した。この採取した短繊維についてJIS-L1015 8.4 C法にて繊維長を求めた。その後、採取した短繊維1本を黒台紙に両端をセロハンテープで固定し、繊維の中央部に0.5cmの間隔でマジックペンでマーキングした。光学顕微鏡(キーエンス製VH-Z100UR)を用いて倍率1000倍にて、短繊維1本の片方マーキングからもう一方のマーキングまで観察しながら、片側から見た繊維軸方向に平行でない一文字状の溝の数を数えた。数えた溝数をマーキング間の長さ(5mm)で除した後、2倍にして全周の1mm当たりの溝数を算出した。採取した残りの繊維9本についても同様に行い、算術平均値をとり、繊維長さ1mmあたりの溝の数とした。なお、一文字状の溝は、繊維表面から繊維内部に延びる一文字で形成される溝であり、繊維表面の開口部が最も面積が大きく、内部に至るに従い、開口部面積が漸減するものを数える。また、観察視野に完全に存在する一文字状の溝は、長さ1.0μm未満のものを数えないとともに、観察視野の末端にかかる一文字状の溝は、長さ0.5μm未満のものを数えないとする。また、深さ0.1μm未満の溝は数えないものとする。
【0058】
〔実施例1〕
固有粘度〔η〕が0.63cm/gのポリエチレンテレフタレートセミダルペレット(二酸化チタン0.2重量%含有)を用い、公知の溶融紡糸方法により紡糸引取速度1500m/分の条件で単糸繊度が4.5デシテックスとなるポリエステルセミダル丸断面未延伸糸(トウ)を得た。このポリエステル未延伸糸(トウ)をオフラインで浴中延伸した。延伸比は3.0倍、延伸浴温度は70℃であった。次に、クリンパー温度70℃でスタッフィングボックスを使用した押し込み法により、平均クリンプ数15.5個/25mmの座屈捲縮を付与した後、定長38ミリにカットし、1.5デシテックス38ミリカットのポリエステルセミダル短繊維を得た。
【0059】
得られたポリエステル短繊維をワタのまま、日阪製作所社製オーバーマイヤー染色機(パッケージ型染色機)に投入し、先ずは処理浴温度80℃でアルカリ条件下でアニオン系界面活性剤が主成分である精練剤で精練処理を施し、油剤成分を除去した後に湯洗・水洗を繰返し、残留するアニオン系界面活性剤を除去した上、浴比1:10、湿熱処理温度120℃、処理浴液をイン→アウト、アウト→インに液循環させながら処理した。排液後、湯洗・水洗を実施した後、竹本油脂社製紡績用油剤ホノールMGRを浴中で処理し、排液後に脱水・乾燥し、ポリエステル短繊維の湿熱処理ワタを得た。湿熱処理時に使用した溶液等の詳細、及び得られたポリエステル短繊維の詳細を表1に示す。
【0060】
このポリエステル短繊維の湿熱処理ワタを100%用い、英式綿番手24番単糸のポリエステル紡績糸を公知・常法のリング精紡によって得た。得られた24番単糸のポリエステル紡績糸を経糸及び緯糸に用い、豊田自動織機社製エアージェット織機JAT810型を用いて平織に製織し、織物生機を得た。得られた織物生機に関し、常法の生機毛焼、連続精練、連続アルカリ減量加工、連続染色を施した後、一次帯電防止剤を付与して染色加工布を得た。仕上密度は経88本/インチ、緯82本/インチ、引張強さは経方向660N、緯方向790N、引裂強さは経方向33.0N、緯方向42.0N、滑脱抵抗は経方向1.0ミリ、緯方向1.0ミリ、ピリング等級は4.5級であり、実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えた、シャツ、ユニフォーム、中東民族衣装など一般衣料に好適な織物が得られた。得られた織物の詳細を表1に示す。
【0061】
〔実施例2〕
クリンパー温度を80℃に変更して、ポリエステル短繊維の平均クリンプ数を20.5個/25mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。得られたポリエステル短繊維及び織物の詳細を表1に示す。実施例2のポリエステル短繊維及び織物は、実施例1のものと同じレベルの高い実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えていた。
【0062】
〔実施例3〕
織物中の本発明のポリエステル短繊維の混率を65%に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。具体的には、実施例1で得られたポリエステル短繊維の湿熱処理ワタ1.5デシテックス38ミリカットと綿(アップランド綿)を重量比65:35として練条混紡し、公知のリング精紡法で英式綿番手30番手単糸及び20番手単糸を得た。30番単糸紡績糸を経糸に20番単糸を緯糸に用い、2/2綾織(左綾)に製織し、織物生機を得た。得られた織物生機に関し、常法の生機毛焼、連続精練、連続染色を施した後、一次帯電防止剤を付与して染色加工布を得た。得られたポリエステル短繊維及び織物の詳細を表1に示す。実施例3のポリエステル短繊維及び織物は、実施例1のものと同じレベルの高い実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えていた。
【0063】
〔実施例4〕
湿熱処理に使用する処理機械及び湿熱処理の時間、使用薬剤の種類、処方量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。具体的には、実施例1のポリエステル短繊維を100%用い、英式綿番手24番単糸のポリエステル紡績糸を公知・常法のリング精紡によって得た。得られた24番単糸のポリエステル紡績糸を経糸及び緯糸に用い、豊田自動織機社製エアージェット織機JAT810型を用いて平織に製織し、織物生機を得た。得られた織物生機に関し、常法の生機毛焼、連続精練を施した後、日阪製作所社製液流染色機(商品名サーキュラー)を用いて、浴比1:10、湿熱処理温度120℃、表1に示す薬剤条件で湿熱処理した上、脱水・湯洗・水洗後に液流アルカリ減量、連続染色を施した後、一次帯電防止剤を付与して染色加工布を得た。得られたポリエステル短繊維及び織物の詳細を表1に示す。実施例4のポリエステル短繊維及び織物は、実施例1のものと同じレベルの高い実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えていた。
【0064】
〔実施例5〕
織物中の本発明のポリエステル短繊維の混率を50%に変更した以外は、実施例4と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。具体的には、実施例4のポリエステル短繊維を100%用い、英式綿番手24番単糸のポリエステル紡績糸を公知・常法のリング精紡によって得た。得られた24番単糸のポリエステル紡績糸を経糸に、緯糸にはアップランド綿100%使いの英式綿番手24番単糸の綿紡績糸を用い、豊田自動織機社製エアージェット織機JAT810型を用いて平織に製織し、織物生機を得た。得られた織物生機に関し、常法の生機毛焼、連続精練を施した後、日阪製作所社製液流染色機(商品名サーキュラー)を用いて、浴比1:10、湿熱処理温度120℃、表1に示す薬剤条件で湿熱処理した上、脱水・湯洗・水洗後に液流アルカリ減量、連続染色を施した後、一次帯電防止剤を付与して染色加工布を得た。得られたポリエステル短繊維及び織物の詳細を表1に示す。実施例5のポリエステル短繊維及び織物は、実施例4のものと同じレベルの高い実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えていた。
【0065】
〔実施例6〕
実施例4で製造したポリエステル短繊維100%からなる英式綿番手24番単糸のリング精紡糸にニット用ワックス仕上げを行った。この紡績糸を用いて、福原精機製26インチ28G(ゲージ)のシングル丸編機を用いて、糸長265mm/100ウエ-ルにて表鹿の子を製造した。この生機を開反してテンターを用いて180℃×60秒のプレセットを行った。その後、日阪製作所製の液流染色機にて、常法にて精練を行い、浴比1:10、湿熱処理温度120℃、表1に示す薬剤条件で湿熱処理して、湯洗・水洗後に酢酸中和した。その後、染色機から生地を取り出さずに、分散染料(C.I.Disperse Blue 165 0.5%o.w.f.) と分散剤を用いて常法にて高圧染色(130℃×30分)を行ったのち、ソーピング、湯洗・水洗を行い、染色機から取り出した。その後、遠心脱水・拡布したのち、パッダーにてウエットオンウェットで帯電防止剤を付与して、テンターでファイナルセット(160℃×90秒)を行って仕上げた。出来上がった編地はコース数36、ウエール数33で目付185g/mであった。得られた編物の詳細を表1に示す。実施例6のポリエステル短繊維及び編物は、実施例4のものと同じレベルの高い実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えていた。
【0066】
〔実施例7〕
固有粘度〔η〕が0.62cm/gのポリエチレンテレフタレートフルダルペレット(二酸化チタン2.0重量%含有)を用い、公知の溶融紡糸方法により紡糸引取速度1500m/分の条件で単糸繊度が4.5デシテックスとなるポリエステルフルダル三葉断面未延伸糸(トウ)を得た。このポリエステル未延伸糸(トウ)をオフラインで浴中延伸した。延伸比は3.0倍、延伸浴温度は70℃であった。次に、クリンパー温度70℃でスタッフィングボックスを使用した押し込み法により、平均クリンプ数12.5個/25mmの座屈捲縮を付与した後、定長38ミリにカットし、1.5デシテックス38ミリカットのポリエステルフルダル短繊維を得た。
【0067】
湿熱処理に使用する使用薬剤の種類、処方量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。仕上密度は経87本/インチ、緯83本/インチ、引張強さは経方向650N、緯方向765N、引裂強さは経方向31.5N、緯方向40.5N、滑脱抵抗は経方向1.0ミリ、緯方向1.2ミリ、ピリング等級は4級であり、実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えた、シャツ、ユニフォーム、中東民族衣装など一般衣料に好適な織物が得られた。得られた織物の詳細を表1に示す。
【0068】
〔実施例8〕
固有粘度〔η〕が0.54cm/gのポリエチレンテレフタレートブライトペレット(二酸化チタン0.02重量%含有)を用い、公知の溶融紡糸方法により紡糸引取速度1500m/分の条件で単糸繊度が4.5デシテックスとなるポリエステルブライト三角断面未延伸糸(トウ)を得た。このポリエステル未延伸糸(トウ)をオフラインで浴中延伸した。延伸比は3.0倍、延伸浴温度は70℃であった。次に、クリンパー温度70℃でスタッフィングボックスを使用した押し込み法により、平均クリンプ数22.5個/25mmの座屈捲縮を付与した後、定長38ミリにカットし、1.5デシテックス38ミリカットのポリエステルブライト短繊維を得た。
【0069】
湿熱処理に使用する使用薬剤の種類、処方量を表1に示すように変更した以外は、実施例3と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。仕上密度は経152本/インチ、緯63本/インチ、引張強さは経方向600N、緯方向750N、引裂強さは経方向36.5N、緯方向32.0N、滑脱抵抗は経方向1.5ミリ、緯方向1.3ミリ、ピリング等級は4.5級であり、実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えた、シャツ、ユニフォーム、中東民族衣装など一般衣料に好適な織物が得られた。得られた織物の詳細を表1に示す。
【0070】
〔実施例9〕
固有粘度〔η〕が0.77cm/gのポリエチレンテレフタレートセミダルペレット(二酸化チタン0.2重量%含有)を用い、公知の溶融紡糸方法により紡糸引取速度1500m/分の条件で単糸繊度が4.5デシテックスとなるポリエステルセミダル丸断面未延伸糸(トウ)を得た。このポリエステル未延伸糸(トウ)をオフラインで浴中延伸した。延伸比は3.0倍、延伸浴温度は70℃であった。次に、クリンパー温度80℃でスタッフィングボックスを使用した押し込み法により、平均クリンプ数14.5個/25mmの座屈捲縮を付与した後、定長38ミリにカットし、1.5デシテックス38ミリカットのポリエステルセミダル短繊維を得た。
【0071】
湿熱処理に使用する使用薬剤の種類、処方量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。仕上密度は経88本/インチ、緯82本/インチ、引張強さは経方向720N、緯方向850N、引裂強さは経方向38.5N、緯方向47.0N、滑脱抵抗は経方向1.0ミリ、緯方向1.2ミリ、ピリング等級は4級であり、実用強力と抗ピリング性能を兼ね備えた、シャツ、ユニフォーム、中東民族衣装など一般衣料に好適な織物が得られた。得られた織物の詳細を表1に示す。
【0072】
〔比較例1〕
固有粘度〔η〕が0.42cm/gであり、芳香族ジカルボン酸成分として5-ナトリウムスルフォイソフタル酸を10モル%共重合したポリエチレンテレフタレートコポリマーのブライトペレット(二酸化チタン0.02重量%含有)を原料ペレットとして用いた以外は実施例1と同様の方法でポリエステル短繊維の湿熱処理ワタを得た。湿熱処理時に使用した溶液の詳細、及び得られたポリエステル短繊維の物性を表1に示す。
【0073】
このポリエステル短繊維の湿熱処理ワタを100%用い、実施例1と同様にして染色加工布を得た。得られた織物の詳細を表1に示す。比較例1の織物は、抗ピリング性能は抜群であるが、生地強度としては実用に耐え得る性能を保持できず、シャツやユニフォーム用途には好適なものにはならなかった。
【0074】
〔比較例2〕
固有粘度が0.95cm/gのポリエチレンテレフタレートセミダルペレット(二酸化チタン0.2重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様の方法でポリエステル短繊維の湿熱処理ワタを得た。湿熱処理時に使用した溶液の条件、及び得られた繊維の物性を表1に示す。
【0075】
このポリエステル短繊維の湿熱処理ワタを100%用い、実施例1と同様にして染色加工布を得た。得られた織物の詳細を表1に示す。比較例2の織物は、生地の物理的強度は良好であるが、狙いとする抗ピリング性能については今一歩であった。
【0076】
〔比較例3〕
ポリエステル短繊維の平均クリンプ数が8.0個/25mmになるようにクリンパー温度50℃、及びクリンパーに導入するトータルトウ繊度を下げる方向にクリンプ付与条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル短繊維及び織物を得た。得られたポリエステル短繊維及び織物の詳細を表1に示す。比較例3の織物は、一般衣料用としては十分な物理的特性を保持するものとなったが、ピリング等級が低く、繰り返し着用時の外観品位の低下を予見させるものとなり、好ましい態様とは言えない生地となった。
【0077】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のポリエステル短繊維は、シャツ、ユニフォームなど衣料用織編物に使用して繰返し着用してもピリングが生じにくく、審美性や品位を損ねることがない。また、衣料用繊維として必要な物理的特性も犠牲にしていないため、衣類としても長く着用が可能であり、買い替え頻度も少なくなり、廃棄量を減らすことが可能となり、サスティナブルの観点でも有効である。
図1
図2
図3
図4