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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035483
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240307BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240307BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240307BHJP
【FI】
F16C33/78 E
F16C19/18
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139967
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 仁
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE42
3J006AE46
3J006CA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】シール部材を形成する際の工程の増加を抑え、かつ、泥水の浸入防止性能を向上させることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1は、外方部材24と、ハブ輪31および内輪28からなる内方部材と、内方部材と外方部材24のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列のボール32と、を備えた車輪用軸受装置1であって、外方部材24とハブ輪31および内輪28との間をシールするインナー側シール部材40およびアウター側シール部材41と、を備えた車輪用軸受装置において、アウター側シール部材41は、金属製の部材からなる芯金、及び弾性部材からなり、芯金に接合されるシールリップ62を有し、芯金は、外方部材24の内面に接している第一の芯金61Aと、外方部材24の外側に設けられた第二の芯金61Bとを有するものである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に複列の内側軌道面を有する内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材との間をシールするシール部材と、
を備えた車輪用軸受装置であって、
前記シール部材は、金属製の部材からなる芯金、及び弾性部材からなり、前記芯金に接合されるシールリップを有し、
前記芯金は、前記外方部材の内面に接している第一の芯金と、前記外方部材の外側に設けられた第二の芯金とを有する
車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記シールリップは、前記外方部材の外径よりも大きな外径を有する堰部リップを備える、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記シール部材と前記外方部材との当接部において、前記金属製の部材および前記弾性部材が接触している、請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記シール部材の堰部リップと前記外方部材の外側面との当接部において前記弾性部材が接触している、請求項2または3に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記シール部材と前記外方部材のアウター側端面との当接部において前記弾性部材が接触している、請求項2または3に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記シール部材の堰部リップと前記外方部材の外側面との当接部において前記弾性部材が接触しており、前記シール部材と前記外方部材のアウター側端面との当接部において前記弾性部材が接触している、請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。この車輪用軸受装置は、車体取付フランジを有している外方部材と、ハブ輪に一つの内輪が嵌合されている内方部材と、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、で構成された第3世代構造が主流となっている。
【0003】
また、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部にはシール部材が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に浸入するのを防止している。
【0004】
シール部材は、芯金部材と、弾性部材と、スリンガとを有し、芯金部材と弾性部材とが一体的に形成されシール部材を構成している。弾性部材は、環状に形成され、基部とアキシアルリップとラジアルリップとを有する。弾性部材の基部が芯金部材の嵌合部の先端部に向かって傾斜して形成され、端部にスリンガの立板部の外縁が径方向すき間を介して対向することでラビリンスシールが構成されている。これにより、外部から雨水やダスト等が軸受内部に浸入するのを防止している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従来のシール部材において、外方部材の外径よりも大きな外径を有する堰部リップが設けられている。堰部リップは、外方部材の外側面に付着した泥水などの異物が環状空間の開口部から軸受内部に浸入するのを防ぐ部分である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-143703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
堰部リップの外径を大きくすれば、泥水などの浸入防止効果は高くなるが、芯金形状が複雑化し、シール部材を形成する際の工程が増加し、コストが高くなることが有った。また、シール部材を圧入する際に、外方部材の外側面に当接する芯金の直角度に影響を受け、圧入後のシール姿勢が悪化し、シール性が低下することで異物等の浸入が発生しやすくなるという課題があった。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、シール部材を形成する際の工程の増加を抑え、かつ、泥水の浸入防止性能を向上させることができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に複列の内側軌道面を有する内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材との間をシールするシール部材と、を備えた車輪用軸受装置であって、前記シール部材は、金属製の部材からなる芯金、及び弾性部材からなり、前記芯金に接合されるシールリップを有し、前記芯金は、前記外方部材の内面に接している第一の芯金と、前記外方部材の外側に設けられた第二の芯金とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、芯金を制作する際に、第一の芯金および第二の芯金を別体で製作することができ、一体で設けた場合と比較して金型の影響を受け難くなり、また、芯金自体の弾性変形が発生し難くなるため、外方部材との接触面における密着性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
図2】同じく、インナー側シール部材の構成を示す断面拡大図。
図3】同じく、アウター側シール部材の構成を示す断面拡大図。
図4】車輪用軸受装置の第二実施形態におけるアウター側シール部材の構成を示す断面拡大図。
図5】車輪用軸受装置の第三実施形態におけるアウター側シール部材の構成を示す断面拡大図。
図6】車輪用軸受装置の第四実施形態におけるアウター側シール部材の構成を示す断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図1から図3を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0013】
以下に、図1を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0014】
図1に示す実施形態の車輪用軸受装置1は、内周に複列の軌道面21、22を一体に設け、外周に車体取付用フランジ23を一体に有する外方部材24と、一端に車輪取付フランジ25、他端に円筒状小径段部26を設け、その小径段部26の外径に内輪28を圧入して外方部材24の軌道面22に対向する軌道面30を形成したハブ輪31と、外方部材24とハブ輪31のそれぞれの軌道面間に介在する複列の転動体であるボール32と、ハブ輪31と外方部材24との間に介在し、複列の転動体である複数のボール32を各列に円周方向等間隔に支持する保持器33と、を備える。内方部材は、ハブ輪31と内輪28とによって構成されている。また、アウター側の軌道面21と対向する軌道面29をハブ輪31の外径に直接形成した構造を有する。
【0015】
内輪28と外方部材24の両端には、外部からの異物の侵入や内部に充填したグリースの漏出を防止するためにインナー側シール部材40およびアウター側シール部材41を装着している。ハブ輪31の車輪取付フランジ25の円周方向等間隔位置に車輪ホイールを固定するためのハブボルト35が取り付けられている。さらに、外方部材24の車体取付用フランジ23には、ナックル(図示せず)を介して車体の懸架装置が取り付けられている。
【0016】
ハブ輪31は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪31は、略円筒状に形成され、例えば、S53C等の中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪31のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部26が設けられている。ハブ輪31のアウター側端部には車輪取付フランジ25が一体的に設けられている。車輪取付フランジ25には、ハブ輪31と図示せぬブレーキロータとを締結するためのハブボルト35が圧入されている。
【0017】
内輪28は、ハブ輪31の小径段部26に圧入されている。内輪28の外周面には、軌道面30が設けられている。ハブ輪31のインナー側には、内輪28によって内側軌道面30が構成されている。ハブ輪31は、インナー側端部の内輪28に設けられている軌道面30が外方部材24のインナー側の軌道面22に対向し、アウター側に設けられている軌道面29が外方部材24のアウター側の軌道面21に対向している。
【0018】
転動体である複数のボール32は、保持器33によって保持されることにより構成されている。インナー側のボール32の列は、内輪28の軌道面30と、外方部材24のインナー側の軌道面22との間に転動自在に挟まれている。アウター側のボール32の列は、ハブ輪31の軌道面29と、外方部材24のアウター側の軌道面21との間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側のボール32の列とアウター側のボール32の列とは、外方部材24と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。外方部材24は、インナー側のボール32の列およびアウター側のボール32の列を介してハブ輪31および内輪28を回転可能に支持している。
【0019】
車輪用軸受装置1においては、外方部材24と、内方部材であるハブ輪31および内輪28と、インナー側のボール32の列と、アウター側のボール32の列とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0020】
図1および図2に示すように、インナー側シール部材40は、外方部材24のインナー側開口部24aと、内輪28の外周面との間の隙間をシールする(塞ぐ)密閉機構であって、例えば2枚のシールリップを接触または近接させる2サイドリップタイプのパックシールによって構成される。インナー側シール部材40は、円環状のシール板51、及びスリンガ52を有する。
【0021】
シール板51は、図2に示すように、芯金51A、及びシールリップ51Bにより構成される。芯金51Aは金属製の部材からなり、例えば、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)などの素材によって構成される。また、芯金51Aは、軸方向との直交方向に見た断面視で略L字状に形成されている。
【0022】
そして、シール板51は、芯金51Aを介して、外方部材24のインナー側開口部24a内に嵌合され、当該外方部材24と同軸上に固定される。
【0023】
シールリップ51Bは、芯金51Aのインナー側(図2中の紙面右側)の側面に設けられるアキシアルリップ51B1及び中間リップ51B2、並びに芯金51Aの下部に設けられるグリスリップ51B3により構成され、例えば芯金51Aに加硫接着されている。シールリップ51Bは、例えば、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等の合成ゴムなどの素材によって構成される。
【0024】
そして、外方部材24のインナー側開口部24a内にシール板51が固定された状態において、シールリップ51B(アキシアルリップ51B1、中間リップ51B2)は、スリンガ52と、油膜を介して接触している。これにより、シール板51は、スリンガ52とともに、外方部材24のインナー側開口部24aと、内輪28の外周面との間の隙間を密閉可能な構成となっている。
【0025】
図1および図3において、アウター側シール部材41は、外方部材24のアウター側開口部24bとハブ輪31との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材41は、芯金である第一の芯金61A、第二の芯金61Bと、例えばNBR等の合成ゴムからなるシールリップ62と、を有している。
【0026】
第一の芯金61A、第二の芯金61Bは、例えば鋼板をプレス加工することによって形成されている。第一の芯金61Aは、外方部材24の内面に接しており、第二の芯金61Bは、外方部材24の外側に設けられている。第一の芯金61Aと、第二の芯金61Bとは、別部材で設けられている。したがって第一の芯金61Aと第二の芯金61Bとの間の距離は調整することが可能である。
【0027】
第一の芯金61Aは、外方部材24の内径と平行な面を有する第一面61A1と、第一面61A1から径方向内側であってさらにアウター側へ傾斜する第二面61A2と、第二面61A2のアウター側端部から径方向内側へ延伸する第三面61A3と、第三面61A3の径方向内側端部から、さらに径方向内側であってインナー側へ傾斜する第四面61A4と、第四面61A4の径方向内側端部から、径方向内側へ延伸する第五面61A5と、を備える。第五面61A5の径方向内側端部とハブ輪31の外面とは離隔している。
【0028】
シールリップ62は、第一の芯金61Aおよび第二の芯金61Bに接合されたシール体62Aと、シール体62Aから各方向に延伸しているラジアルリップ62B、内側アキシアルリップ62C、外側アキシアルリップ62D、庇リップ62E、堰部リップ62Fを備える。シールリップ62のシール体62Aは第一の芯金61Aおよび第二の芯金61Bに加硫接着されている。シールリップ62は、例えば、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等の合成ゴムなどの素材によって構成される。
【0029】
ラジアルリップ62Bは、第一の芯金61Aの第五面61A5の径方向内側端部から径方向内側であってインナー側へ延伸している。内側アキシアルリップ62Cは、第一の芯金61Aの第五面61A5の径方向内側端部から径方向外側であってアウター側へ延伸している。
【0030】
外側アキシアルリップ62Dは、第一の芯金61Aの第五面61A5のアウター側側面から径方向外側であってアウター側へ延伸している。内側アキシアルリップ62Cおよび外側アキシアルリップ62Dは、ハブ輪31の湾曲面に油膜を介して接触している。これにより、シールリップ62によって、外方部材24のアウター側開口部24bと、ハブ輪31の外周面との隙間を密閉可能な構成となっている。
【0031】
また、第二の芯金61Bは、外方部材24のアウター側端面と平行な面を有する第一面61B1と、第一面61B1からインナー側であって外方部材24の外側面と平行に延伸する第二面61B2と、を備える。本実施形態においては、第一面61B1と外方部材24のアウター側端面とは一部嵌合しており、外方部材24のアウター側端面の一部がシール体62Aと嵌合しているハーフ嵌合となっている。また、第二面61B2と外方部材24の外側面とは一部嵌合しており、外方部材24の外側面の一部がシール体62Aと嵌合しているハーフ嵌合となっている。
【0032】
庇リップ62Eは、第一の芯金61Aの第二面61A2と、第二の芯金61Bの第一面61B1との間のアウター側面から径方向外側であってアウター側へ延伸している。庇リップ62Eは円環状であり、アウター側端部は外方部材24の内面よりも径方向外側に位置している。またハブ輪31の車輪取付フランジ25には、湾曲部が設けられており、庇リップ62Eのアウター側端部と湾曲部とは近接しているが接触はしていない。庇リップ62Eはアウター側シール部材41の径方向外側からの異物の浸入を防止する屋根としての機能を有している。
【0033】
堰部リップ62Fは、外方部材24のアウター側端部において、外方部材24の外周面よりも径方向外側に突出している部分である。すなわち、図3にしめすように、堰部リップ62Fの外周面の接線L1は、外方部材24の外周面よりも外側に位置している。堰部リップ62Fは、第二面61B2の外側面を覆っている。堰部リップ62Fは外方部材24の外周面を通って流れてくる泥水等の異物を堰き止めて内面への浸入を防止することができる。
【0034】
このように、第一の芯金61Aと第二の芯金61Bとを有することにより、シールに用いられる芯金形状を簡易化でき、芯金の組立工数を低減させることができる。また、外方部材24のアウター側端面に当接する第二の芯金61Bとその他の部分と当接する第一の芯金61Aとを分離することにより、圧入後のシール姿勢の悪化を防ぐことができる。これにより、アウター側シール部材41の耐水性を向上させることができる。さらに、アウター側シール部材41の堰部リップ62Fは、外方部材24の外周面よりも大きな外径であるから、外方部材24の外径よりも小さい外径を持つ堰部リップに比べて堰部で堰き止められる泥水の量が多いため、耐泥水性が向上する。
【0035】
また、庇リップ62Eが第一の芯金61Aの第二面61A2と、第二の芯金61Bの第一面61B1との間のアウター側面から突出しているため、第一の芯金61Aと第二の芯金61Bとの間のシール体62Aの強度を高め破損を防ぐことができる。
【0036】
このように、第一の芯金61Aと第二の芯金61Bとは離隔して設けられているため、第一の芯金61Aを外方部材24の内面嵌合部に沿うように圧入する際にも、第二の芯金61Bの位置に影響を与え難い。また、分離した二つの芯金を有することにより、シール製作工程において、離隔している第一の芯金61Aと第二の芯金61B間のシール体62Aが圧入する際の相対的な移動に追従するため、圧入工程後の位相ごとの芯金同士の距離のばらつきを抑制することができる。
【0037】
アウター側シール部材41を圧入する際には、第二の芯金61Bは、外方部材24のアウター側端面と当接する第一面61B1を有するため、正確に位置合わせを行うことができる。しかし、第一の芯金61Aは外方部材24のアウター側端面と当接する面を有しないため、第一の芯金61Aに圧入する力が伝わらない可能性がある。そこで、第二面61A2のアウター側端部から径方向内側へ延伸する第三面61A3を設けた。これにより、アウター側シール部材41を圧入する際には、第二の芯金61Bの第一面61B1および第一の芯金61Aの第三面61A3を同時に治具で押圧することができ、第一の芯金61Aおよび第二の芯金61Bに力が加わり、圧入時の姿勢悪化を防ぎ、正確に圧入することができる。
【0038】
以上のように、車輪用軸受装置1は、内周に複列の外側軌道面21、22を有する外方部材24と、外周にハブ輪31の軌道面29と内輪28の軌道面30とを有するハブ輪31および内輪28からなる内方部材と、内方部材と外方部材24のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列のボール32と、外方部材24とハブ輪31および内輪28との間をシールするインナー側シール部材40およびアウター側シール部材41と、を備えた車輪用軸受装置1であって、アウター側シール部材41は、金属製の部材からなる芯金、及び弾性部材からなり、芯金に接合されるシールリップ62を有し、芯金は、外方部材24の内面に接している第一の芯金61Aと、外方部材24の外側に設けられた第二の芯金61Bとを有するものである。
【0039】
このように構成することにより、芯金を制作する際に、第一の芯金61Aおよび第二の芯金61Bを別体で製作することができ、一体で設けた場合と比較して金型の影響を受け難くなり、また、芯金自体の弾性変形が発生し難くなるため、外方部材24との接触面における密着性を高めることができる。
【0040】
また、シールリップ62は、外方部材24の外径よりも大きな外径を有する堰部リップ62Fを備えるものである。
このように構成することにより、堰部リップ62Fが、第二面61B2の外側面を覆うので、堰部リップ62Fは外方部材24の外周面を通って流れてくる泥水等の異物を堰き止めて内面への浸入を防止することができる。
【0041】
また、アウター側シール部材41と外方部材24との当接部において、金属製の部材および弾性部材が接触しているものである。
第一面61B1と外方部材24のアウター側端面とは一部嵌合しており、外方部材24のアウター側端面の一部がシール体62Aと嵌合しているハーフ嵌合となっている。また、第二面61B2と外方部材24の外側面とは一部嵌合しており、外方部材24の外側面の一部がシール体62Aと嵌合しているハーフ嵌合となっている。したがって、シール体62Aが収縮した場合であっても、第一の芯金61Aおよび第二の芯金61Bが嵌合するのでシール性の悪化を防止することができる。
【0042】
[第二実施形態]
図4に示すように、第二の実施形態においては、アウター側シール部材41の堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との当接部において弾性部材である堰部リップ62Fが接触しているものである。なお、第一の実施形態と同一の構成については、第一の実施形態と同一の符号を付しており、説明を省略する。
【0043】
第二の芯金61Bは、外方部材24のアウター側端面と平行な面を有する第一面61B1と、第一面61B1からインナー側であって外方部材24の外側面と平行に延伸する第二面61B2と、を備える。本実施形態においては、第一面61B1と外方部材24のアウター側端面とは嵌合しており、外方部材24のアウター側端面の一部がシール体62Aと嵌合している。また、第二面61B2と外方部材24の外側面とは離間しており、外方部材24の外側面の一部が弾性部材である堰部リップ62Fのみと嵌合している。
【0044】
このように構成することにより、外方部材24の外側面と第二の芯金61Bとが嵌合しないため、組立性が優れる。
【0045】
また、堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との締め代は20μm以上としている。堰部リップ62Fは、弾性部材であるため、低温時に収縮すると堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との間に隙間が発生するおそれがある。しかし、堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との締め代は20μm以上とすることで、低温時に堰部リップ62Fが収縮しても、シール構造を保つことができる。
【0046】
[第三実施形態]
図5に示すように、第三の実施形態においては、アウター側シール部材41と外方部材24のアウター側端面との当接部において弾性部材であるシール体62Aが接触しているものである。なお、第一の実施形態と同一の構成については、第一の実施形態と同一の符号を付しており、説明を省略する。
【0047】
第二の芯金61Bは、外方部材24のアウター側端面と平行な面を有する第一面61B1と、第一面61B1からインナー側であって外方部材24の外側面と平行に延伸する第二面61B2と、を備える。本実施形態においては、第一面61B1と外方部材24のアウター側端面とは離間しており、外方部材24のアウター側端面の一部がシール体62Aとのみ嵌合している。また、第二面61B2と外方部材24の外側面とは嵌合しており、外方部材24の外側面の一部が弾性部材であるシール体62Aと嵌合している。
【0048】
このように構成することにより、外方部材24のアウター側端面と第二の芯金61Bとが嵌合しないため、組立性が優れ、圧入後におけるシール姿勢の悪化を低減することができる。
【0049】
[第四実施形態]
図6に示すように、第四の実施形態においては、アウター側シール部材41の堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との当接部において弾性部材である堰部リップ62Fが接触しており、アウター側シール部材41と外方部材24のアウター側端面との当接部において弾性部材であるシール体62Aが接触しているものである。なお、第一の実施形態と同一の構成については、第一の実施形態と同一の符号を付しており、説明を省略する。
【0050】
第二の芯金61Bは、外方部材24のアウター側端面と平行な面を有する第一面61B1と、第一面61B1からインナー側であって外方部材24の外側面と平行に延伸する第二面61B2と、を備える。本実施形態においては、第一面61B1と外方部材24のアウター側端面とは離間しており、外方部材24のアウター側端面の一部がシール体62Aとのみ嵌合している。また、第二面61B2と外方部材24の外側面とは離間しており、外方部材24の外側面の一部が弾性部材である堰部リップ62Fのみと嵌合している。
【0051】
このように構成することにより、、外方部材24の外側面と第二の芯金61Bとが嵌合せず、外方部材24のアウター側端面と第二の芯金61Bとが嵌合しないため、組立性が優れ、圧入後におけるシール姿勢の悪化を低減することができる。
【0052】
また、堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との締め代は20μm以上としている。堰部リップ62Fは、弾性部材であるため、低温時に収縮すると堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との間に隙間が発生するおそれがある。しかし、堰部リップ62Fと外方部材24の外側面との締め代は20μm以上とすることで、低温時に堰部リップ62Fが収縮しても、シール構造を保つことができる。
【0053】
なお、本実施形態では、車輪用軸受装置1は、ハブ輪31の外周にアウター側のボール32の列の内側軌道面30が形成されている第三世代構造の車輪用軸受装置1として構成されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明は、ハブ輪31に一対の内輪が圧入固定された第二世代構造であっても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 車輪用軸受装置
21 軌道面
22 軌道面
24 外方部材
25 車輪取付フランジ
28 内輪
29 軌道面
30 軌道面
40、41 シール部材
61A 第一の芯金
61B 第二の芯金
62 シールリップ
62A シール体
62B ラジアルリップ
62C 内側アキシアルリップ
62D 外側アキシアルリップ
62E 庇リップ
62F 堰部リップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6