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特開2024-35495触媒およびその製造方法、ならびに液体燃料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035495
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】触媒およびその製造方法、ならびに液体燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/14 20060101AFI20240307BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240307BHJP
   B01J 37/30 20060101ALI20240307BHJP
   C07C 1/04 20060101ALI20240307BHJP
   C07C 9/14 20060101ALI20240307BHJP
   C07C 9/22 20060101ALI20240307BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
B01J29/14 M
B01J37/02 101D
B01J37/02 101Z
B01J37/30
B01J37/02 101A
C07C1/04
C07C9/14
C07C9/22
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139985
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土居 真
(72)【発明者】
【氏名】橋本 有佳子
(72)【発明者】
【氏名】浦部 治貴
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
(72)【発明者】
【氏名】郭 暁羽
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC04A
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC43A
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169CC23
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EC14X
4G169EC14Y
4G169EC15X
4G169EC15Y
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB19
4G169FC08
4G169ZA04B
4G169ZC04
4G169ZC07
4G169ZD01
4G169ZD06
4G169ZE03
4G169ZE05
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA16
4H006BA20
4H006BA23
4H006BA55
4H006BA71
4H006BE20
4H006BE40
4H006DA10
4H039CA99
4H039CL35
(57)【要約】
【課題】一酸化炭素および水素を原料として製造される炭素数が5以上の炭化水素の収率を向上させること。
【解決手段】フィッシャー・トロプシュ合成反応に活性を有する金属化合物を含有し、合成ガスから炭化水素を生成する金属系触媒と、金属系触媒を担持するゼオライトを含む担体触媒とを有し、合成ガスから炭化水素を製造可能な触媒であって、金属化合物が、コバルトと、マンガンおよびルテニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の金属とを含み、Mnの担持量は1~3重量%、Ruの担持量は0.5~2重量%、Coの担持量は10~30重量%である。ゼオライトは、生成された炭化水素の炭素鎖を分解する、細孔を有するゼオライトを含み、細孔は、開孔径が2nm以上50nm以下のメソ細孔であり、ゼオライトにおけるアルミニウムに対するケイ素の比は、2.5以上3.5以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ合成反応に活性を有する金属化合物を含有し、合成ガスから炭化水素を生成する金属系触媒と、前記金属系触媒を担持するゼオライトを含む担体触媒とを有し、合成ガスから炭化水素を製造可能な触媒であって、
前記金属化合物が、コバルトと、マンガンおよびルテニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の金属と、を含む
ことを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記マンガンの担持量は、1重量%以上3重量%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記ルテニウムの担持量は、0.5重量%以上2重量%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記コバルトの担持量は、10重量%以上30重量%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
前記ゼオライトは、生成された前記炭化水素の炭素鎖を分解する、細孔を有するゼオライトを含み、
前記細孔は、開孔径が2nm以上50nm以下のメソ細孔である
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記ゼオライトにおけるアルミニウムに対するケイ素の比(Si/Al比)は、2.5以上3.5以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の触媒を製造する触媒の製造方法であって、
担体触媒にメソ細孔を形成する細孔形成工程と、
前記担体触媒に前記金属化合物を担持させる触媒担持工程と、を含み、
前記触媒担持工程は、
前記担体触媒に、コバルトを含む金属化合物と、マンガンを含む金属化合物およびルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを担持させる工程を含む
ことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項8】
前記触媒担持工程は、
前記担体触媒に、コバルトを含む金属化合物と、マンガンを含む金属化合物およびルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを溶融含浸させる溶融含浸工程を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
前記溶融含浸工程は、
前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物を溶融含浸法により担持させた後、前記マンガンを含む金属化合物および前記ルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方を溶融含浸法により担持させる工程である
ことを特徴とする請求項8に記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
前記溶融含浸工程は、
前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物と、前記マンガンを含む金属化合物および前記ルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを、溶融含浸法によって略同時に担持させる工程である
ことを特徴とする請求項8に記載の触媒の製造方法。
【請求項11】
前記触媒担持工程は、
前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物を含浸法により担持させた後に、前記コバルトが担持された前記担体触媒を、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して前記担体触媒および前記担体触媒に担持された担持触媒に含浸させる含浸工程を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項12】
前記触媒担持工程は、
前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物を含浸法により担持させるとともに、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して前記担体触媒および前記担体触媒に担持された担持触媒の少なくとも一方に含浸させる含浸工程を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
前記触媒担持工程は、
前記担体触媒にコバルトを含む金属化合物を溶融含浸させる溶融含浸工程と、
前記溶融含浸工程において前記コバルトを含む金属化合物が担持された前記担体触媒を、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して前記担体触媒および前記担体触媒に担持された担持触媒の少なくとも一方に含浸させる含浸工程と、を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項14】
前記担体触媒は、あらかじめ陽イオンが配子されているか、前記触媒担持工程前に実行されるイオン交換法を用いた陽イオン交換工程によって陽イオンが配子される
ことを特徴とする請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項15】
前記陽イオンが、ランタン、カリウム、リチウム、ナトリウム、およびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの陽イオンである
ことを特徴とする請求項14に記載の触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか1項に記載の触媒を用いて、
合成ガスからフィッシャー・トロプシュ合成反応によって炭化水素からなる液体燃料を製造する
ことを特徴とする液体燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒およびその製造方法、ならびに液体燃料の製造方法に関し、特に、酸化炭素と水素との混合ガスを反応させて液体燃料を製造するための触媒およびその製造方法、ならびにこの触媒を用いて酸化炭素から液体燃料を製造する方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一酸化炭素(CO)と水素(H2)とから液状の炭化水素を合成する、フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch:FT)法による合成技術を用いて、複雑な反応経路を制御することにより、目的とする生成物の選択性を向上させるための研究開発が盛んに行われている。従来の目的生成物の選択性の向上にとって主な触媒であるコバルト(Co)以外にも、酸化物系助触媒や第二金属助触媒を添加する技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
また、修飾されたメソ体ゼオライトコバルト触媒を用いることによって、一酸化炭素と水素との混合ガスである合成ガスから、1段階で二次水素化精製処理なしに液体燃料を合成する技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
上述した非特許文献1においては、触媒として、メソ細孔を有するY型ゼオライト担体に対して、メソ細孔内における陽イオン(カチオン)をランタン(La)やカリウム(K)とし、コバルト(Co)の担持量を15重量%とした触媒が用いられている。このような触媒は、フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)合成反応に活性を有し、炭化水素系の液体燃料を生成するためのFT合成触媒と称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2019-529065号公報
【特許文献2】特開2015-131768号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”Integrated tuneable synthesis of liquid fuels via Fischer-Tropsch technology”, Jie Li et al, Nature Catalysis volume 1, pages787-793 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したFT合成触媒を用いて、水素(H2)および一酸化炭素(CO)を含む合成ガスから、炭素数が5~20の炭化水素を含む液体燃料を生成する場合、液体燃料の選択率は高い一方、一酸化炭素転化率(以下、CO転化率)が低いという問題があった。CO転化率が低いと、転化率と選択率との積で導出される収率が低くなる。そのため、炭素数が5以上の炭化水素からなる液状生成物の収率を向上することができる高活性な触媒が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、一酸化炭素および水素を原料として製造される炭素数が5以上20以下の炭化水素の収率を向上できる触媒およびその製造方法、ならびに液体燃料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る触媒は、フィッシャー・トロプシュ合成反応に活性を有する金属化合物を含有し、合成ガスから炭化水素を生成する金属系触媒と、前記金属系触媒を担持するゼオライトを含む担体触媒とを有し、合成ガスから炭化水素を製造可能な触媒であって、前記金属化合物が、コバルトと、マンガンおよびルテニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の金属と、を含むことを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の一態様に係る触媒は、上記の(1)の発明において、前記マンガンの担持量は、1重量%以上3重量%以下であることを特徴とする。
【0011】
(3)本発明の一態様に係る触媒は、上記の(1)または(2)の発明において、前記ルテニウムの担持量は、0.5重量%以上2重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
(4)本発明の一態様に係る触媒は、上記の(1)~(3)のいずれか1つの発明において、前記コバルトの担持量は、10重量%以上30重量%以下であることを特徴とする。
【0013】
(5)本発明の一態様に係る触媒は、上記の(1)~(4)のいずれか1つの発明において、前記ゼオライトは、生成された前記炭化水素の炭素鎖を分解する、細孔を有するゼオライトを含み、前記細孔は、開孔径が2nm以上50nm以下のメソ細孔であることを特徴とする。
【0014】
(6)本発明の一態様に係る触媒は、上記の(1)~(5)の発明において、前記ゼオライトにおけるアルミニウムに対するケイ素のモル比は、2.5以上3.5以下であることを特徴とする。
【0015】
(7)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(1)~(6)のいずれか1つの発明による触媒を製造する触媒の製造方法であって、担体触媒にメソ細孔を形成する細孔形成工程と、前記担体触媒に前記金属化合物を担持させる触媒担持工程と、を含み、前記触媒担持工程は、前記担体触媒に、コバルトを含む金属化合物と、マンガンを含む金属化合物およびルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを担持させる工程を含むことを特徴とする。
【0016】
(8)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(7)の発明において、前記触媒担持工程は、前記担体触媒に、コバルトを含む金属化合物と、マンガンを含む金属化合物およびルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを溶融含浸させる溶融含浸工程を含むことを特徴とする。
【0017】
(9)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(8)の発明において、前記溶融含浸工程は、前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物を溶融含浸法により担持させた後、前記マンガンを含む金属化合物および前記ルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方を溶融含浸法により担持させる工程であることを特徴とする。
【0018】
(10)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(8)の発明において、前記溶融含浸工程は、前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物と、前記マンガンを含む金属化合物および前記ルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを、溶融含浸法によって略同時に担持させる工程であることを特徴とする。
【0019】
(11)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(7)の発明において、前記触媒担持工程は、前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物を含浸法により担持させた後に、前記コバルトが担持された前記担体触媒を、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して前記担体触媒および前記担体触媒に担持された担持触媒に含浸させる含浸工程を含むことを特徴とする。
【0020】
(12)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(7)の発明において、前記触媒担持工程は、前記担体触媒に前記コバルトを含む金属化合物を含浸法により担持させるとともに、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して前記担体触媒および前記担体触媒に担持された担持触媒の少なくとも一方に含浸させる含浸工程を含むことを特徴とする。
【0021】
(13)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(7)の発明において、前記触媒担持工程は、前記担体触媒にコバルトを含む金属化合物を溶融含浸させる溶融含浸工程と、前記溶融含浸工程において前記コバルトを含む金属化合物が担持された前記担体触媒を、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して前記担体触媒および前記担体触媒に担持された担持触媒の少なくとも一方に含浸させる含浸工程と、を含むことを特徴とする。
【0022】
(14)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(7)~(13)のいずれか1つの発明において、前記担体触媒は、あらかじめ陽イオンが配子されているか、前記触媒担持工程前に実行されるイオン交換法を用いた陽イオン交換工程によって陽イオンが配子されることを特徴とする。
【0023】
(15)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、上記の(14)の発明において、前記陽イオンが、ランタン、カリウム、リチウム、ナトリウム、およびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの陽イオンであることを特徴とする。
【0024】
(16)本発明の一態様に係る液体燃料の製造方法は、上記の(1)~(6)のいずれか1つの発明による触媒を用いて、合成ガスからフィッシャー・トロプシュ合成反応によって炭化水素からなる液体燃料を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る触媒およびその製造方法、ならびに液体燃料の製造方法によれば、一酸化炭素および水素を原料として製造される炭素数が5以上20以下の炭化水素の収率を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の一実施形態による触媒を製造する触媒の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は、図1に示す触媒の製造方法における触媒担持処理を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施形態による触媒におけるマンガンの添加による効果を説明するための、生成された炭化水素における触媒ごとの炭化水素分布を示すグラフである。
図4図4は、本発明の一実施形態による触媒におけるマンガンの添加による効果を説明するための、生成された炭化水素における触媒ごとの炭化水素分布を示すグラフである。
図5図5は、本発明の一実施形態による触媒を用いて生成された炭化水素におけるマンガンの担持量に対する、CO転化率、選択率、および収率を示すグラフである。
図6図6は、本発明の一実施形態による触媒を用いて生成された炭化水素におけるマンガンの担持量に対する、CO転化率、選択率、および収率を示すグラフである。
図7図7は、本発明の一実施形態による触媒におけるルテニウムの添加による効果を説明するための、生成された炭化水素における触媒ごとの炭化水素分布を示すグラフである。
図8図8は、本発明の一実施形態による触媒におけるルテニウムの添加による効果を説明するための、生成された炭化水素における触媒ごとの炭化水素分布を示すグラフである。
図9図9は、本発明の一実施形態による触媒を用いて生成された炭化水素におけるルテニウムの担持量に対する、CO転化率、選択率、および収率を示すグラフである。
図10図10は、本発明の一実施形態による触媒のSi/Al比ごとの、生成された炭化水素におけるCO転化率およびC8~C16の収率とワックス類C16+の比率とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。まず、本発明の一実施形態を説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上記課題を解決するために行った実験および鋭意検討について説明する。
【0028】
まず、本発明者は、従来のFT(Fischer-Tropsch)合成触媒として用いられる、Y型メソ細孔ゼオライトを担体触媒として、陽イオン交換処理を行ったメソ細孔に金属触媒としてのコバルト(Co)を担持させた触媒(Co担持FT合成触媒)に関する問題点について検討を行った。なお、メソ細孔とは、開孔径が2nm以上50nm以下の細孔であって、10nm以上20nm以下の範囲にピークを有する。
【0029】
すなわち、本発明者の知見によれば、上述したCo担持Y型メソ細孔ゼオライト触媒を用いて、炭素数nが5~20の炭化水素(Cn2n+2)からなる液体燃料を生成する際の収率を向上させるために、コバルト(Co)の担持量(触媒量とも言う)を増加させると、メソ細孔を閉塞させる可能性があるため好ましくない。そこで、本発明者は、Co以外の種々の金属触媒に関して検討を行い、高活性の触媒を追加することを想到した。本発明者の検討によれば、高活性の金属触媒を添加することによって、炭素数が5~20の炭化水素からなる液体燃料の収率を向上させるためには、金属触媒としてマンガン(Mn)を添加するのが望ましい。換言すると、炭素(C)および水素(H2)を含む合成ガスから炭化水素を生成する金属系触媒として、フィッシャー・トロプシュ合成反応に活性を有する金属化合物であるCoとMnとを含有する化合物を用いることを想到した。また、これらのCoおよびMnを担持させる担体触媒としては、検討を行ったゼオライトが好ましく、特にメソ細孔を有するY型ゼオライトが好ましいことを知見した。さらに、本発明者が行った実験から、Mnの担持量としては、好適には1重量%以上3重量%、より好適には1.5重量%以上2.5重量%以下、最適値としては約2.0重量%が好ましいことが判明した。
【0030】
本発明者は、以上のようなMnを追加したCo担持FT合成触媒(MnCo担持FT合成触媒)を用いて液体燃料を製造したところ、CO転化率が大きく向上しないことを知見した。そこで、本発明者はさらに検討を行い、CO転化率を向上可能な金属触媒について種々実験および鋭意検討を行い、Co担持FT合成触媒に対して、ルテニウム(Ru)を追加する方法を案出した。本発明者は、Ruを担持させたCo担持FT合成触媒(RuCo担持FT合成触媒)を用いて、合成ガスから炭化水素を製造する実験を行ったところ、炭素数の全域に亘って炭化水素の生成が向上し、CO転化率が向上することが確認された。また、これらのCoおよびRuを担持させる担体触媒としては、検討を行ったゼオライトが好ましく、特にメソ細孔を有するY型ゼオライトが好ましいことを知見した。さらに、本発明者が行った実験から、Ruの担持量としては、好適には0.5重量%以上2.0重量%、より好適には0.5重量%以上1.5重量%以下、最適値としては約1.0重量%が好ましいことが判明した。
【0031】
本発明者は、以上の検討をさらに進めて、MnとRuとを併せて追加したCo担持FT合成触媒(RuMnCo担持FT合成触媒)について検討を行い、収率を最大にする条件およびその効果について鋭意検討を行った。本発明者が、RuMnCo担持FT合成触媒を用いて、合成ガスから液体燃料を製造したところ、液体燃料の収率が大幅に向上したことが確認された。一方、本発明者は、炭化水素の収率を最大にする条件(最大収率条件)においては、炭素数が20を超えた高炭素数の炭化水素からなるワックス(Wax)が生成してFT合成触媒に被覆堆積し、時間の経過とともに、CO転化率が低下することを知見した。
【0032】
本発明者は、ワックスの低減についても検討を行い、ワックスの生成量を低減させるために、炭素数nが小さい低炭素数の炭化水素を増加させることを案出した。本発明者は、低炭素数の炭化水素を増加させる方法について検討を行い、ゼオライトのアルミニウム(Al)に対するケイ素(Si)の比(以下、Si/Al比)を調整して、表層の酸点を強くしてクラッキング力を向上させ、炭素鎖を分解して炭素数分布を低炭素数にシフトさせる方法を案出した。これにより、炭化水素の生成においてワックスの生成を抑制できる。ワックスの生成量に着目して本発明者が実験を行ったところ、ゼオライトのSi/Al比としては、ゼオライトの全体の平均として、典型的には2.5以上3.5以下、好適には2.7以上3.1以下、より好適には2.84以上3.03以下、最適値としては約2.94が好ましいことが判明した。
【0033】
本発明者は、以上の検討に基づいて、FT合成触媒に担持させる金属化合物として、コバルトと、マンガンおよびルテニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の金属とを含むことが好ましいことを案出した。また、ゼオライトのSi/Al比を2.5~3.5の範囲で調整することによって、炭化水素分布を調整することを案出した。本発明は、本発明者による以上の鋭意検討に基づいて案出されたものである。
【0034】
(担体触媒の例)
まず、本実施形態によるFT合成触媒に用いられる担体触媒は、水素化触媒として用いられ、ゼオライト、すなわちアルミノケイ酸塩からなり、本実施形態においては、好適にはY型ゼオライトからなる。なお、ゼオライトが表層に設けられていれば、支持体およびその支持体との中間材、バインダー材材料としては、活性炭、炭化ケイ素、二酸化ケイ素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、またはそれらの混合物が含まれていても良い。
【0035】
(触媒の製造方法)
次に、上述した鋭意検討により案出された一実施形態による触媒であるFT合成触媒の製造方法について説明する。図1は、一実施形態によるFT合成触媒の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0036】
図1に示すように、一実施形態による触媒の製造方法においてはまず、原材料として例えば、Y型ゼオライトからなるマイクロ細孔ゼオライト粉末(東ソー社製)を用意する。ここでは、質量が例えば6.7gであって、Si/Al比が2.8、分子骨格内にナトリウム(Na)イオンが配子されたY型ゼオライトを用いる。なお、ゼオライトしては、L型ゼオライトを用いることも可能である。
【0037】
ステップST1において、Y型ゼオライトに対してEDTA処理を行うことにより、ゼオライトにおいてメソ細孔を形成する(細孔形成工程)。また、Y型ゼオライトからAlを脱離させることにより、Y型ゼオライトのSi/Al比を増加させることができる。具体的に、ステップST1において、質量が6.7gのゼオライト粉末を、濃度が0.07mol/Lで容量が100mlのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)水溶液に混合させる。次に、フラスコなどの容器において還流させて、100℃(373K)の温度で6時間攪拌する。なお、EDTA処理の時間を調整することによって、Alの脱離量を調整できるので、ゼオライトのSi/Al比を調整できる。その後、固体粉末をろ過して例えば120℃の大気乾燥器で12時間乾燥させる。
【0038】
次に、ステップST2に移行して、メソ細孔が形成されたY型ゼオライトに対してアルカリ処理、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)処理を行うことにより、メソ細孔を拡大させる(細孔拡大工程)。また、Y型ゼオライトからSiを脱離させることにより、Y型ゼオライトのSi/Al比を低下させることができる。具体的に例えば、ステップST2においては、Y型ゼオライトの固体粉末を、濃度が0.4mol/Lで容量が50mlのNaOH水溶液に混合させる。次に、混合物を、例えば61℃(338K)の温度で30分間(0.5時間)攪拌する。
【0039】
その後、ステップST3に移行して、例えば9000rpmの回転数の遠心分離機を用いて、約5分間で粉末分離し、例えば120℃の大気乾燥器を用いて12時間の乾燥処理を行った。これにより、Y型メソ細孔ゼオライト(以下、Ymeso)担体が得られる。
【0040】
次に、ステップST4に移行して、イオン交換法により、あらかじめ陽イオンとしてナトリウム(Na)が配子されたY型メソ細孔ゼオライト担体に対して、陽イオンとして例えばランタン(La)を用いた陽イオン交換処理を行う(陽イオン交換工程)。なお、陽イオンとしては、La以外にも、カリウム(K)やリチウム(Li)やセリウム(Ce)などを用いることも可能である。具体的に例えば、ステップST4においては、質量が1.0gのY型メソ細孔ゼオライト担体を、濃度が0.2mol/Lで容量が100mlのランタン硝酸塩溶液に混合させる。次に、混合物を、80℃(353K)の温度で12時間攪拌させることにより、陽イオン交換処理を行う。その後、混合物に対して遠心分離によって粉末分離を行い、大気圧雰囲気において550℃(823K)の温度で6時間焼成処理を行うことにより、Y型メソ細孔ゼオライトLa(以下、Ymeso-La)担体の粉末が生成される。
【0041】
なお、陽イオンの交換量は、温度や時間条件によって0.1%以上10%以下の範囲で調整され、典型的には1%程度である。また、本実施形態においては、あらかじめ陽イオンとしてNaが配子されたゼオライトを使用した場合における、陽イオン交換工程について説明したが、あらかじめ陽イオンが配子されている場合に限定されず、陽イオンが配子されていないゼオライトに対して陽イオンを配子させるようにしても良い。
【0042】
次に、ステップST5に移行して、生成されたYmeso-La担体に対して、例えば溶融含浸法によって金属触媒担持処理を行う(触媒担持工程)。具体的に例えば、硝酸コバルト(Co(NO32・6H2O)と、硝酸マンガン(Mn(NO32)および硝酸ルテニウム(Ru(NO33)の少なくとも一方と、Ymeso-La担体の粉末とを、例えば30分間(0.5時間)混錬させる。その後、例えば、混練物をガラス瓶などの容器に投入して密封し、50℃(333K)の温度で48時間、溶融含浸させる(溶融含浸工程)。これにより、メソ細孔内に、CoとMnおよびRuの少なくとも一方との金属化合物をYmeso-La担体に含浸させる。なお、メソ細孔が浅かったりメソ細孔の表面に担持されたりして、Coがメソ細孔から露出した状態になる場合も想定される。この場合には、露出したCoの表面や周囲にMnやRuが担持されると考えられる。
【0043】
ここで、Coの担持量としては例えば15重量%、Mnの担持量としては例えば2重量%、Ruの担持量としては例えば1重量%とする。なお、担持量とは、担持したFT合成反応に活性を有する金属化合物が最終的に100%還元されるとは限らないが、100%還元されたと仮定して、FT合成反応に活性を有する金属化合物における金属の質量が触媒質量全体(合成ガスから炭化水素を製造する触媒質量全体)に占める割合である。
【0044】
ステップST5における金属触媒担持処理後、ステップST6に移行して、乾燥処理および焼成処理を行う。焼成処理としては例えば、窒素(N2)ガスを400℃(673K)の温度、40mL/minの流量で4時間流通させることによって、窒素(N)を脱離させて酸化コバルト、酸化マンガン、または酸化ルテニウムにする。これにより、MnCo担持FT合成触媒(Mn-Co/Ymeso-La触媒)、RuCo担持FT合成触媒(Ru-Co/Ymeso-La触媒)、またはRuMnCoFT合成触媒(Ru-Mn-Co/Ymeso-La触媒)が得られる。なお、ステップST4におけるイオン交換処理において、陽イオンとしてカリウム(K)を用いた場合、MnCo担持FT合成触媒(Mn-Co/Ymeso-K触媒)、RuCo担持FT合成触媒(Ru-Co/Ymeso-K触媒)、またはRuMnCoFT合成触媒(Ru-Mn-Co/Ymeso-K触媒)などが得られる。また、陽イオンとしてセリウム(Ce)などの他の陽イオンを用いた場合には、それぞれのFT合成触媒における「-La」や「-K」の部分が、「-Ce」や他の陽イオンに置き換えられる。
【0045】
その後、必要に応じて、ステップST7に移行して、例えばX線回折やガスクロマトグラフィ法により、生成物の物性を確認することによって、FT合成触媒の物性が確認される。具体的には、触媒の反応性を評価するために、例えば管型反応器に、生成したFT合成触媒を充填した後、400℃の温度の水素ガスを流通させることにより、還元処理を行う。その後、温度を250℃、圧力を2.0MPaとした条件下において、合成ガスを、合成ガス流量Fに対する触媒質量W(W/F)を例えば10gh/molになるように流量を調整してFT合成触媒に接触させる。なお、個々で、合成ガスにおける、一酸化炭素(CO)に対する水素(H2)の比を1から2(H2/CO=1~2)とする。供給される合成ガスおよび管型反応器の出口から排出されるガスの組成を、例えばガスクロマトグラフィ法(GC法)により求めて、CO転化率、CH4選択率、炭素数nが5以上の炭化水素の選択率(C5+選択率)、および液状炭化水素の生産性を測定する。
【0046】
(金属触媒担持処理方法の変形例)
次に、上述したステップST5における触媒担持処理方法の変形例である含浸法(Impregnation:IM法)について説明する。図2は、変形例による金属触媒担持処理方法を示すフローチャートである。
【0047】
すなわち、ステップST11において、図1に示すステップST4において生成されたYmeso-La担体の粉末に対して、上述した溶融含浸法によって、金属化合物として硝酸コバルト(Co(NO32・6H2O)を溶融含浸させる。なお、溶融含浸法以外にも、含浸法で行っても良い。
【0048】
その後、ステップST12に移行して、焼成処理を行う。これによって、Co担持FT合成触媒(Co/Ymeso-La触媒)が得られる。なお、Coの担持量としては例えば15重量%とする。次に、ステップST13に移行して、焼成処理によって得られたCO/Ymeso-La触媒の粉末を、硝酸マンガン(Mn(NO32)溶液、および硝酸ルテニウム(Ru(NO33)溶液の少なくとも一方に浸して含浸させる。これにより、メソ細孔を有する担体触媒および担体触媒に担持された担持触媒に、溶液に対応したMnおよびRuの少なくとも一方が含浸される。なお、溶融含浸法と含浸法とを並行して行っても良い。
【0049】
その後、ステップST6に移行して、焼成処理として例えば、窒素(N2)ガスを400℃(673K)の温度、40mL/minの流量で4時間流通させることによって、窒素(N)を脱離させて酸化コバルト、酸化マンガン、または酸化ルテニウムにする。以上により、MnCo担持FT合成触媒(Mn-Co/Ymeso-La触媒)、RuCo担持FT合成触媒(Ru-Co/Ymeso-La触媒)、またはRuMnCoFT合成触媒(Ru-Mn-Co/Ymeso-La触媒)が得られる。なお、これらの触媒をまとめて呼称する場合には、FT合成触媒と称する。
【0050】
(炭化水素の製造方法)
次に、以上のようにして生成されたFT合成触媒を用いた炭化水素の製造方法、特に、例えばジェット燃料などの液体燃料の製造方法に付いて説明する。本実施形態による炭化水素の製造方法においては、FT合成触媒として、上述したCoとMnおよびRuの少なくとも一方とを担持させたY型メソ細孔ゼオライト触媒を用いる以外は、従来の液体燃料の製造方法と同様である。
【0051】
すなわち、まず、合成ガス製造工程によって、メタン(CH4)、水(H2O)、酸素(O2)、および二酸化炭素(CO2)から、水素(H2)ガスおよび一酸化炭素(CO)ガスを生成する。次に、上述したFT合成触媒を用いたフィッシャー・トロプシュ合成法(FT法、フィッシャー・トロプシュ合成反応法ともいう)によって、合成ガスから炭化水素(Cn2n+2)を生成する。
【0052】
続いて、アップグレーディング工程によって、各種の液体炭化水素を、低級オレフィン(炭素数n=2~4:C2~C4)、ナフサ(炭素数n=5~10:C5~C10)、灯油(炭素数n=10~14:C10~C14)、軽油(炭素数n=14~20:C14~C20)、ワックス(炭素数n>20:C20+)などに分離精製する。なお、ジェット燃料としては、炭素数nが8~16の炭化水素(C8~C16)が主に用いられる。また、液体燃料としては、炭素数nが5~20(C5~C20)の炭化水素が主に用いられる。以上により、FT合成触媒を用いたFT法によって、液状炭化水素を含む液体燃料が製造される。
【0053】
(FT合成触媒へのMnの追加の効果)
次に、以上のように製造されたFT合成触媒の効果について説明する。図3および図4は、本実施形態による触媒におけるマンガン(Mn)の添加による効果を説明するための、生成された炭化水素における触媒ごとの炭化水素分布を示すグラフである。なお、図3および図4における炭化水素分布は、H2/CO比が2.0(H2/CO=2.0)の合成ガスから炭化水素を生成した場合の分布を示す。また、図3および図4に示すグラフにおいて、「Co/Ymeso-La」は、陽イオンとしてLaを用いてイオン交換されたFT合成触媒である、Co担持Y型メソ細孔ゼオライトLa触媒、すなわちCo/Ymeso-La触媒を示す。同様に、「Mn-Co/Ymeso-La」は、さらにMnが担持されたFT合成触媒である、MnCo担持Y型メソ細孔ゼオライトLa触媒を示す。さらに、「Mn-Co/Ymeso-La-IM」は、MnおよびCoが図2に示すIM法によって含浸されて担持されたFT合成触媒を示す。その他のグラフにおいても同様である。
【0054】
まず、図3における「Co/Ymeso-La」および図4における「Co/Ymeso-K」は、従来技術としての非特許文献1に記載されたFT合成触媒である。この従来技術においては、非特許文献1に記載のように、H2/CO比が1.0(H2/CO=1.0)の条件下では、炭素数が5~20の炭化水素からなる液体燃料において、選択率は72~86%と高くなる一方、CO転化率が30~40%と極めて低かった。CO転化率を上げるためH2/CO比が2.0(H2/CO=2.0)の条件下で合成を行うと、図3に示すように、「Co/Ymeso-La」においては、CO転化率が62%で炭素数が5~16の炭化水素からなる液体燃料において、選択率が55%となる。また、図4に示すように、「Co/Ymeso-K」においては、CO転化率が78%で炭素数が5~16の炭化水素からなる液体燃料において、選択率が66%となった。
【0055】
これに対し、上述した一実施形態においては、図3に示す「Mn-Co/Ymeso-La」および「Mn-Co/Ymeso-La-IM」から、H2/CO比が2.0(H2/CO=2.0)の条件下では、炭素数が5~20の炭化水素からなる液体燃料において、選択率が60~71%であり、CO転化率が75~88%と大幅に向上していることが分かる。また、図4に示す「Mn-Co/Ymeso-K」および「Mn-Co/Ymeso-K-IM」から、H2/CO比が2.0(H2/CO=2.0)の条件下では、CO転化率は72~82%と大きく変わらないが、炭素数が5~20の炭化水素からなる液体燃料において、選択率が71~78%に向上していることが分かる。
【0056】
よって、非特許文献1に記載されたFT合成触媒を用いた場合には、H2/CO比が2.0(H2/CO=2.0)の条件下では、CO転化率および炭素数が5~16の炭化水素からなる液体燃料の選択率はともに低かった。これに対し、上述した一実施形態においては、図3および図4から、Mnを2%程度追加することによって、炭素数が5~20の液体燃料においてその選択率を5~16ポイント増加でき、選択率とCO転化率との積(選択率×CO転化率)によって得られる収率は11~29ポイント増加することが分かる。
【0057】
また、図3から、IM法(図2参照)によって金属触媒が担持されたFT合成触媒においては、溶融含浸法によって金属触媒が担持されたFT合成触媒に比して、炭素数nが5以上(C5+)の炭化水素の選択率が、60%から71%にまで増加していることが分かる。同様に、CO転化率も75%から88%にまで向上していることが分かる。また、図4から、IM法によって金属触媒が担持されたFT合成触媒においては、溶融含浸法によって金属触媒が担持されたFT合成触媒に比して、炭素数nが5以上(C5+)の炭化水素の選択率が、71%から78%にまで増加していることが分かる。すなわち、図3および図4から、FT合成触媒においては、IM法によりMnを担持させることによって、液体燃料(C5+)の選択率とCO転化率とを向上させることが可能になることが分かる。
【0058】
また、図5および図6は、本実施形態による触媒を用いて生成された炭化水素におけるマンガンの担持量に対する、CO転化率、選択率、および収率を示すグラフである。図5は、H2/CO比が1.5(H2/CO=1.0)の合成ガス、図6は、H2/CO比が2.0(H2/CO=1.0)の合成ガスを用いた場合のグラフである。
【0059】
図6から、FT合成触媒に金属触媒としてMnを追加することによって、CO転化率を低下させることなく、炭素数nが5~16(C5~C16)および8~16(C8~C16)の炭化水素、すなわちジェット燃料に好適な液体燃料の選択率が向上していることが分かる。CO転化率が低下することなく、炭素数nが5~16および8~16の炭化水素の選択率が向上していることから、炭素数nが5~16および8~16の炭化水素の収率を向上させることができる。
【0060】
また、図5および図6から、FT合成触媒にMnを担持させる担持量としては、0重量%より大きく3重量%以下であれば、CO転化率および炭素数nが5~16および8~16の炭化水素の選択率および収率を向上できることが分かる。さらに、図5から、Mnの担持量としては、好適には、1重量%以上3重量%以下、より好適には、1.5~2.5重量%といった2重量%前後が好ましいことが分かる。
【0061】
(FT合成触媒へのRuの追加の効果)
図7および図8は、本実施形態による触媒におけるルテニウムの添加による効果を説明するための、生成された炭化水素における触媒ごとの炭化水素分布を示すグラフである。なお、合成ガスとしては、H2/CO比が2.0(H2/CO=2.0)の合成ガスを用いる。図7および図8から、本実施形態においては、従来技術によるFT合成触媒(Co/Ymeso-K触媒)にRuを追加することによって、炭素数nが5~16(C5~C16)の炭化水素、すなわち液体燃料において、CO転化率を略100%にまで増加できることが分かる。
【0062】
さらに、図8から、Ruのみを担持させたFT合成触媒に比して、MnおよびRuをともに追加して担持させたFT合成触媒を用いることにより、CO転化率を略100%弱から低下させることなく、炭素数nが5~16の液体燃料の選択率を向上できることが分かる。すなわち、本実施形態によるRu-Mn-Co/Ymeso-La触媒によれば、炭素数が5~16の液体燃料の収率を向上できることが分かる。
【0063】
また、図9は、本実施形態による触媒を用いて生成された炭化水素におけるルテニウムの担持量に対する、CO転化率、選択率、および収率を示すグラフである。図9は、H2/CO比が1.5(H2/CO=1.5)の合成ガスを用いた場合のグラフである。
【0064】
図9から、FT合成触媒に金属触媒としてのRuを、担持量が0.5重量%、1.0重量%、および1.5重量%となるように増加させた場合において、担持量を1.0重量%程度までは、CO転化率を向上できることが分かる。また、1.5重量%までは、CO転化率を十分な値に維持できることが分かる。すなわち、Ruの担持量としては、好適には0.5重量%以上1.5重量%以下、より好適には1.0重量%前後とするのが好ましいことが分かる。
【0065】
(ワックスの生成の抑制)
図10は、本実施形態による触媒のSi/Al比ごとの、生成された炭化水素におけるCO転化率および炭素数nが5~16(C5~C16)の液体燃料の収率と、炭素数16超のワックスを主成分とする炭化水素であるワックス類C16+の比率とを示すグラフである。
【0066】
図10から、FT合成触媒において、EDTA処理の時間を0~6時間に変化させることによって、ゼオライトのSi/Al比を、2.5以上3.5以下(Si/Al比=2.5~3.5)、好適には2.7以上3.1以下(Si/Al比=2.7~3.1)、より好適には2.84以上3.03以下(Si/Al比=2.84~3.03)の範囲で調整すると、ワックスの生成を制御できることが分かる。なお、Si/Al比は、上述したEDTA処理の時間によって調整可能である。図10からは、特に、EDTA処理を2時間として、Si/Al比を2.94程度することにより、ワックスの生成を抑制しつつ収率およびCO転化率を高い値にできることが分かる。
【0067】
以上説明した一実施形態によれば、特許文献1,2に対して、以下のような優位性を有する。すなわち、特許文献1に記載された技術は、コバルト系触媒とシリカ(SiO2)触媒担体を使用しており、特許文献2に記載された技術においては、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、および鉄(Fe)の群から選ばれる少なくとも1種の金属または化合物を含む触媒と、Si/Al比が13以上になるβ型ゼオライト担体とを使用している。これに対し、上述した一実施形態においては、コバルト系触媒を使用したSi/Al比が10以下のY型やL型などのゼオライトを担体としている点が相違する。また、上述した一実施形態による触媒によれば、特許文献1,2に記載された触媒に対して、反応性および選択性を向上させることができる。
【0068】
以上説明した一実施形態によれば、一酸化炭素(CO)および水素(H2)を原料として製造される炭素数が5以上20以下(C5~C20)、好適には、炭素数が8以上16以下(C8~C16)の炭化水素、すなわちジェット燃料の収率を向上させることができる。
【0069】
産業上においては、一酸化炭素と水素とからジェット燃料などの液体燃料を直接的に製造可能な触媒を提供することができ、液体燃料の製造技術を効率的で安価に提供可能となる。上述した一実施形態による触媒においては、触媒性能が従来技術に比して優位であることを確認された。
【0070】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いても良い。上述した各実施形態および各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。
【0071】
(金属化合物の担持方法の変形例)
触媒担体へのFT合成反応に活性を有する金属化合物の担持方法は、上述した溶融含浸法と含浸法との選択および処理方法に限定されず、量産化や製造コストの低減のために、製造条件や方法を最適化することによって、溶融含浸のみ、または含浸法のみで担持すること、さらには、Co、Mn、およびRuを一度の処理で担持する方法も可能である。
【0072】
すなわち、触媒担持工程は、担体触媒に、コバルトを含む金属化合物と、マンガンを含む金属化合物およびルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを溶融含浸させる溶融含浸工程を含んでいても良い。また、溶融含浸工程は、担体触媒にコバルトを含む金属化合物を溶融含浸法により担持させた後、マンガンを含む金属化合物およびルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方を溶融含浸法により担持させる工程としても良い。または、溶融含浸工程は、担体触媒にコバルトを含む金属化合物と、マンガンを含む金属化合物およびルテニウムを含む金属化合物の少なくとも一方とを、溶融含浸法によって略同時に担持させる工程としても良い。
【0073】
さらに、触媒担持工程は、担体触媒にコバルトを含む金属化合物を含浸法により担持させた後に、コバルトが担持された担体触媒を、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して担体触媒および担体触媒に担持された担持触媒に含浸させる含浸工程を含んでいても良い。または、触媒担持工程は、担体触媒にコバルトを含む金属化合物を含浸法により担持させるとともに、マンガンを含む溶液およびルテニウムを含む溶液の少なくとも一方の溶液に浸して担体触媒および担体触媒に担持された担持触媒の少なくとも一方に含浸させる含浸工程を含んでいても良い。ここで、担持触媒とは、担体触媒に担持された、Co、Mn、およびRuなどの触媒である。
【0074】
(Coの担持量)
触媒担体へのFT合成反応に活性を有する金属化合物の担持量は、5~50質量%である。例えば、コバルト(Co)を用いた場合では、好適には10~30重量%、より好適には15重量%である。担持量の範囲が10重量%未満になると、FT合成活性を十分発現できず、30重量%を超えるとゼオライト細孔が閉塞して、担持したCoの利用効率が低下してしまう。
【0075】
また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付のクレームおよびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10