(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035500
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ノズル設計装置、ノズル設計方法、およびノズル設計用コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20240307BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20240307BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240307BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B22D11/10 330A
B22D41/50 520
G06N20/00 130
G06N3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139993
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100122116
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】難波 時永
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
【テーマコード(参考)】
4E004
4E014
【Fターム(参考)】
4E004FB00
4E014DB03
(57)【要約】
【課題】鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの好ましい形状を効率よく求める。
【解決手段】ノズル設計装置は、浸漬ノズルの候補形状パラメータを作成することと、候補形状パラメータを所定の規則に従って変更することと、機械学習モデルを用いて候補形状パラメータの欠陥度を推定することと、候補形状パラメータの変更および欠陥度の推定を所定回数繰り返すことと、最も好ましい欠陥度を有する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することとを含む探索処理を実行し、暫定最適形状パラメータについて、数値流体力学により暫定最適欠陥度を計算し、暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、暫定最適形状パラメータおよび暫定最適欠陥度を追加したデータセットを教師データとして学習された機械学習モデルを用いて探索処理を実行させ、暫定最適欠陥度が終了条件を満たす場合、暫定最適形状パラメータを出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの1以上の候補形状のそれぞれを表す1以上の候補形状パラメータを作成することと、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれを所定の規則に従って変更することと、前記浸漬ノズルの複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータに当該形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される気泡性欠陥の程度を表す欠陥度が対応づけられたデータセットを教師データとして前記浸漬ノズルの前記形状パラメータから当該形状パラメータに対応する前記欠陥度を推定するよう予め学習された機械学習モデルを用いて、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する1以上の前記欠陥度を推定することと、前記1以上の候補形状パラメータの変更および前記欠陥度の推定を所定回数繰り返すことと、前記1以上の候補形状パラメータのうち、前記推定された欠陥度として最も好ましい値を有する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することと、を含む探索処理を実行する探索部と、
前記連続鋳造において前記暫定最適形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた場合の前記欠陥度を表す暫定最適欠陥度を、数値流体力学により計算する計算部と、
前記暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、前記データセットに少なくとも前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度を追加し、前記データセットを教師データとして学習された更新機械学習モデルを前記機械学習モデルとして用いて前記探索部に前記探索処理を実行させ、前記暫定最適欠陥度が前記終了条件を満たす場合、前記暫定最適形状パラメータを出力する出力部と、
を備えるノズル設計装置。
【請求項2】
前記所定の規則は、前記データセットに含まれている形状パラメータが位置づけられる探索空間において、前記形状パラメータの位置から、より好ましい前記欠陥度を有する形状パラメータの予測位置に向かうよう設定されたベクトルにより表される請求項1に記載のノズル設計装置。
【請求項3】
前記出力部は、前記データセットに含まれている形状パラメータが位置づけられる探索空間において密度が疎となる領域に対応する前記形状パラメータを補充形状パラメータとして決定し、前記補充形状パラメータについて数値流体力学により計算された前記欠陥度を補充欠陥度とし、前記データセットに、前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度に加えて前記補充形状パラメータおよび前記補充欠陥度をさらに追加する請求項1に記載のノズル設計装置。
【請求項4】
前記機械学習モデルはニューラルネットワークである請求項1に記載のノズル設計装置。
【請求項5】
前記探索部は、前記データセットを教師データとした学習後の前記欠陥度の推定精度が高くなるよう予測される構造を有する前記ニューラルネットワークを用いて前記探索処理を実行する請求項4に記載のノズル設計装置。
【請求項6】
鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの形状を設計するノズル設計装置が、
前記浸漬ノズルの1以上の候補形状のそれぞれを表す1以上の候補形状パラメータを作成することと、
前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれを所定の規則に従って変更することと、
前記浸漬ノズルの複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータに当該形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される気泡性欠陥の程度を表す欠陥度が対応づけられたデータセットを教師データとして前記浸漬ノズルの前記形状パラメータから当該形状パラメータに対応する前記欠陥度を推定するよう予め学習された機械学習モデルを用いて、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する前記欠陥度を推定することと、
前記1以上の候補形状パラメータの変更および前記欠陥度の推定を所定回数繰り返すことと、
前記1以上の候補形状パラメータのうち、前記推定された欠陥度として最も好ましい値を有する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することと、
を含む探索処理を実行し、
前記連続鋳造において前記暫定最適形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた場合の前記欠陥度を表す暫定最適欠陥度を、数値流体力学により計算し、
前記暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、前記データセットに少なくとも前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度が追加し、前記データセットを教師データとして学習された更新機械学習モデルを前記機械学習モデルとして用いて前記探索処理を実行させ、
前記暫定最適欠陥度が前記終了条件を満たす場合、前記暫定最適形状パラメータを出力する、
ことを含む備えるノズル設計方法。
【請求項7】
コンピュータに、
鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの1以上の候補形状のそれぞれを表す1以上の候補形状パラメータを作成することと、
前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれを所定の規則に従って変更することと、
前記浸漬ノズルの複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータに当該形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される気泡性欠陥の程度を表す欠陥度が対応づけられたデータセットを教師データとして前記浸漬ノズルの前記形状パラメータから当該形状パラメータに対応する前記欠陥度を推定するよう予め学習された機械学習モデルを用いて、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する1以上の前記欠陥度を推定することと、
前記1以上の候補形状パラメータの変更および前記欠陥度の推定を所定回数繰り返すことと、
前記1以上の候補形状パラメータのうち、前記推定された欠陥度として最も好ましい値を有する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することと、
を含む探索処理と、
前記連続鋳造において前記暫定最適形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた場合の前記欠陥度を表す暫定最適欠陥度を、数値流体力学により計算する計算処理と、
前記暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、前記データセットに少なくとも前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度が追加し、前記データセットを教師データとして学習された更新機械学習モデルを前記機械学習モデルとして用いて前記探索処理を実行させ、前記暫定最適欠陥度が前記終了条件を満たす場合、前記暫定最適形状パラメータを出力する出力処理と、
を実行させるノズル設計用コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの好ましい形状を求めるノズル設計装置、ノズル設計方法、およびノズル設計用コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造プロセスにおいて、溶鋼はタンディッシュから浸漬ノズルを介して鋳型に供給される。溶鋼に含まれるアルミナなどの介在物が浸漬ノズルに付着すると、連続鋳造の操業効率、および、連続鋳造される鋳片の品質が損なわれる。
【0003】
浸漬ノズルにAr(アルゴン)ガスを吹き込むことにより、介在物の浸漬ノズルへの付着を抑制することができる。一方で、溶鋼とともに鋳型内に流入したArガスは、気泡として鋳片に捕捉され得る。鋳片の表層近くに捕捉されたAr気泡は、鋳片においてピンホール欠陥と呼ばれ、圧延後は引き延ばされたスジ疵となる。また、鋳片の表皮下数mmの位置に捕捉されたAr気泡は、鋳片においてブローホール欠陥と呼ばれ、圧延後の鋼板表面に膨らみが生じるフクレ疵となる。ピンホール欠陥やブローホール欠陥といった気泡性欠陥の発生を抑制するためには、鋳型内溶鋼流動を制御することで、Ar気泡を凝固界面から遠ざけるとともに、凝固界面に付着したAr気泡を除去することが有効となる。
【0004】
特許文献1には、鋳型内溶鋼に浸漬ノズルを介して吹き込まれるArガスの気泡が鋳片に捕捉される確率を、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics; CFD)を用いた数値解析により算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋳型内溶鋼流動には、浸漬ノズルの形状が大きく影響する。また、鋳型内溶鋼流動は、連続鋳造に用いられる鋳型の形状、鋳造速度といった鋳造条件に応じて変動する。そのため、鋳造条件ごとに、その条件に適した形状の浸漬ノズルを設計することが求められる。
【0007】
鋳造条件に適した浸漬ノズルの形状は、粒子群最適化法、差分進化法といった最適化手法を用いて、気泡性欠陥の基準値との差を表す目的関数が最小となる解を求めることで、決定することができる。このような最適化手法においては、多数の候補形状について、それぞれの目的関数を計算する必要がある。CFDを用いた目的関数の計算には多大な計算リソースが求められるため、現実的な所要時間で最適化手法の解を得るのは困難である。
【0008】
そこで、本開示は、鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの好ましい形状を効率よく求めることができるノズル設計装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの1以上の候補形状のそれぞれを表す1以上の候補形状パラメータを作成することと、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれを所定の規則に従って変更することと、前記浸漬ノズルの複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータに当該形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される気泡性欠陥の程度を表す欠陥度が対応づけられたデータセットを教師データとして前記浸漬ノズルの前記形状パラメータから当該形状パラメータに対応する前記欠陥度を推定するよう予め学習された機械学習モデルを用いて、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する1以上の前記欠陥度を推定することと、前記1以上の候補形状パラメータの変更および前記欠陥度の推定を所定回数繰り返すことと、前記1以上の候補形状パラメータのうち、前記推定された欠陥度として最も好ましい値を有する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することと、を含む探索処理を実行する探索部と、
前記連続鋳造において前記暫定最適形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた場合の前記欠陥度を表す暫定最適欠陥度を、数値流体力学により計算する計算部と、
前記暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、前記データセットに少なくとも前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度を追加し、前記データセットを教師データとして学習された更新機械学習モデルを前記機械学習モデルとして用いて前記探索部に前記探索処理を実行させ、前記暫定最適欠陥度が前記終了条件を満たす場合、前記暫定最適形状パラメータを出力する出力部と、
を備えるノズル設計装置。
【0011】
(2)前記所定の規則は、前記データセットに含まれている形状パラメータが位置づけられる探索空間において、前記形状パラメータの位置から、より好ましい前記欠陥度を有する形状パラメータの予測位置に向かうよう設定されたベクトルにより表される上記(1)に記載のノズル設計装置。
【0012】
(3)前記出力部は、前記データセットに含まれている形状パラメータが位置づけられる探索空間において密度が疎となる領域に対応する前記形状パラメータを補充形状パラメータとして決定し、前記補充形状パラメータについて数値流体力学により計算された前記欠陥度を補充欠陥度とし、前記データセットに、前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度に加えて前記補充形状パラメータおよび前記補充欠陥度をさらに追加する上記(1)または(2)に記載のノズル設計装置。
【0013】
(4)前記機械学習モデルはニューラルネットワークである上記(1)-(3)のいずれか一つに記載のノズル設計装置。
【0014】
(5)前記探索部は、前記データセットを教師データとした学習後の前記欠陥度の推定精度が高くなるよう予測される構造を有する前記ニューラルネットワークを用いて前記探索処理を実行する上記(4)に記載のノズル設計装置。
【0015】
(6)鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの形状を設計するノズル設計装置が、
前記浸漬ノズルの1以上の候補形状のそれぞれを表す1以上の候補形状パラメータを作成することと、
前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれを所定の規則に従って変更することと、
前記浸漬ノズルの複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータに当該形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される気泡性欠陥の程度を表す欠陥度が対応づけられたデータセットを教師データとして前記浸漬ノズルの前記形状パラメータから当該形状パラメータに対応する前記欠陥度を推定するよう予め学習された機械学習モデルを用いて、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する前記欠陥度を推定することと、
前記1以上の候補形状パラメータの変更および前記欠陥度の推定を所定回数繰り返すことと、
前記1以上の候補形状パラメータのうち、前記推定された欠陥度として最も好ましい値を有する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することと、
を含む探索処理を実行し、
前記連続鋳造において所定の前記暫定最適形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた場合の前記欠陥度を表す暫定最適欠陥度を、数値流体力学により計算し、
前記暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、前記データセットに少なくとも前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度が追加し、前記データセットを教師データとして学習された更新機械学習モデルを前記機械学習モデルとして用いて前記探索処理を実行させ、
前記暫定最適欠陥度が前記終了条件を満たす場合、前記暫定最適形状パラメータを出力する、
ことを含む備えるノズル設計方法。
【0016】
(7)コンピュータに、
鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの1以上の候補形状のそれぞれを表す1以上の候補形状パラメータを作成することと、
前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれを所定の規則に従って変更することと、
前記浸漬ノズルの複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータに当該形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される気泡性欠陥の程度を表す欠陥度が対応づけられたデータセットを教師データとして前記浸漬ノズルの前記形状パラメータから当該形状パラメータに対応する前記欠陥度を推定するよう予め学習された機械学習モデルを用いて、前記1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する1以上の前記欠陥度を推定することと、
前記1以上の候補形状パラメータの変更および前記欠陥度の推定を所定回数繰り返すことと、
前記1以上の候補形状パラメータのうち、前記推定された欠陥度として最も好ましい値を有する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することと、
を含む探索処理と、
前記連続鋳造において前記暫定最適形状パラメータで表される形状を有する前記浸漬ノズルを用いた場合の前記欠陥度を表す暫定最適欠陥度を、数値流体力学により計算する計算処理と、
前記暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、前記データセットに少なくとも前記暫定最適形状パラメータおよび前記暫定最適欠陥度が追加し、前記データセットを教師データとして学習された更新機械学習モデルを前記機械学習モデルとして用いて前記探索処理を実行させ、前記暫定最適欠陥度が前記終了条件を満たす場合、前記暫定最適形状パラメータを出力する出力処理と、
を実行させるノズル設計用コンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0017】
本開示にかかるノズル設計装置によると、鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの好ましい形状を効率よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】(a)は浸漬ノズルの側面を表す模式図であり、(b)は浸漬ノズルの上面を表す模式図であり、(c)は浸漬ノズルのA-A断面を表す模式図である。
【
図3】ノズル設計装置の動作概要を説明する模式図である。
【
図4】ノズル設計装置の概略構成を示す模式図である。
【
図5】ノズル設計装置が有するプロセッサの機能ブロック図である。
【
図6】実施例にかかる浸漬ノズルに対応する欠陥度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの好ましい形状を効率よく求めることができるノズル設計装置について詳細に説明する。ただし、本開示は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0020】
図1は、連続鋳造の工程を説明する模式図である。連続鋳造機100は、連続鋳造用の鋳型104を用いて溶鋼2を連続鋳造し、鋳片3を製造する装置である。連続鋳造機100は、取鍋101と、タンディッシュ102と、浸漬ノズル103と、鋳型104と、冷却装置105と、切断機106とを備える。本開示のノズル設計装置は、
図1で説明される連続鋳造の工程で用いられる浸漬ノズル103の形状を表す形状パラメータを出力する。
【0021】
取鍋101は、溶鋼2を外部からタンディッシュ102まで搬送するための可動式の容器である。取鍋101は、タンディッシュ102の上方に配置され、取鍋101内の溶鋼2がタンディッシュ102に供給される。タンディッシュ102は、鋳型104の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。浸漬ノズル103は、タンディッシュ102の下端から鋳型104に向けて下方に延び、その先端は鋳型104内の溶鋼2に浸漬されている。浸漬ノズル103は、タンディッシュ102にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型104内に連続供給する。
【0022】
鋳型104は、鋳片3の所定の幅および厚さの四角筒形状を有し、例えば、一対の長辺鋳型板および一対の短辺鋳型板を含む。鋳型104は、かかる鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。溶鋼2が鋳型104の下方に向かって移動するにつれて、溶鋼2の外部から凝固し、凝固シェルが形成される。
【0023】
連続鋳造機100は、鋳型104の鋳型板の外側面に電磁攪拌装置を備えていてもよい。電磁攪拌装置を有する連続鋳造機100は、電磁攪拌装置を駆動させながら連続鋳造を行うことにより、鋳片3の品質を確保しつつ、より高速での鋳造を可能とする。
【0024】
冷却装置105は、鋳型104の下端から引き抜かれた鋳片3を搬送しながら冷却する。冷却装置105は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロールと、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(不図示)とを有する。
【0025】
切断機106は、冷却装置105における鋳片3の搬送経路の終端に配置され、搬送され冷却された鋳片3を所定の長さに切断する。鋳片3から切断された厚板状のスラブ4は、搬送装置(不図示)により次工程の設備に搬送される。
【0026】
図2(a)は浸漬ノズル103の側面を表す模式図であり、
図2(b)は浸漬ノズル103の上面を表す模式図であり、
図2(c)は浸漬ノズル103のA-A断面を表す模式図である。浸漬方向IDは、浸漬ノズル103が鋳型104内の溶鋼2に浸漬される方向を示す。なお、
図2では、浸漬ノズル103のうち、鋳型104の溶鋼2に浸漬される先端部分のみを示している。
【0027】
浸漬ノズル103は、溶鋼2を鋳型104へ流し込むノズル形状の耐火物であり、吹込口ILおよび吐出口OLを有する。浸漬ノズル103は、浸漬方向IDに直交する平面で切断したときの断面が、一辺がOWx、他辺がOWyである略正方形となる略直方体形状の外形を有する。吹込口ILは、浸漬ノズル103に、一辺がIWx、他辺がIWyである略正方形となる略直方体形状に設けられた空洞部分の開口部に該当する。高さhおよび幅OLWを有する吐出口OLは、浸漬ノズル103の側面の、浸漬面から深さdの箇所に、浸漬ノズル103の側面に対して、角度θだけ傾けて設けられる。
【0028】
本開示のノズル設計装置では、
図2に示す浸漬ノズル103の形状のうち、例えば浸漬深さd、吐出口高さh、および吐出口角度θが、形状パラメータに含まれる。形状パラメータは、その他のパラメータ、例えば吐出口幅OLW、浸漬ノズル103の外形寸法OW
x、OW
y、浸漬ノズル103の空洞部分の寸法IW
x、IW
yを含むパラメータ群から選択されるパラメータであってもよい。
【0029】
図3は、ノズル設計装置の動作概要を説明する模式図である。
【0030】
ノズル設計装置1は、鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの形状を表す形状パラメータを、機械学習モデルMLMを用いて最適化手法を実行することにより求める。
【0031】
ノズル設計装置1は、まず、探索処理S1を実行して暫定最適形状パラメータPIBを決定する。
【0032】
探索処理S1において、ノズル設計装置1は、浸漬ノズル103の1以上の候補形状のそれぞれを表す候補形状パラメータPA0、PB0を作成する(ステップS11)。
【0033】
図3において形状パラメータと欠陥度との関連を模式的に表したグラフG1-G5の縦軸は、形状パラメータにより表される形状の欠陥度を表す。欠陥度は、所定の形状パラメータで表される形状を有する浸漬ノズル103を用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される気泡性欠陥の程度である。
【0034】
本実施形態において、ノズル設計装置1により決定される浸漬ノズルの形状は複数種類の形状パラメータにより表される。グラフG1-G5の横軸は、複数種類の形状パラメータを説明の簡単化のため仮想的に一次元の値で表現した形状パラメータ対応値を表す。
【0035】
次に、ノズル設計装置1は、1以上の候補形状パラメータPA0、PB0のそれぞれを所定の規則に従って変更し(ステップS12)、新たな候補形状パラメータPA1、PB1を得る。所定の規則は、変更後の候補形状パラメータが変更前の候補形状パラメータよりも好ましい欠陥度を有するように設定される。
【0036】
そして、ノズル設計装置1は、1以上の候補形状パラメータPA1、PB1のそれぞれについて、機械学習モデルMLMを用いて欠陥度DA1e、DB1eを推定する(ステップS13)。機械学習モデルMLMは、データセットDSを教師データとして浸漬ノズル103の形状パラメータから欠陥度を推定するよう予め学習されている。
【0037】
データセットDSにおいて、浸漬ノズル103の複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータには、当該形状パラメータに対応する欠陥度が対応づけられている。
【0038】
ノズル設計装置1は、変更された1以上の候補形状パラメータPA1、PB1のそれぞれを新たな1以上の候補形状パラメータとして、1以上の候補形状パラメータの変更および欠陥度の推定を所定回数(例えば500回)繰り返す(ステップS14)。
【0039】
ノズル設計装置1は、1以上の候補形状パラメータの変更および欠陥度の推定を所定回数繰り返して得られた1以上の候補形状パラメータのうち、最も好ましい値を有する前記推定された欠陥度DIBeに対応する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータPIBとして決定し(ステップS15)、探索処理S1を終了する。
【0040】
ノズル設計装置1は、次に、計算処理S2を実行し、CFD計算機20により暫定最適形状パラメータPIBに対応する暫定最適欠陥度DIBを計算する。CFD計算機20は、連続鋳造において所定の形状パラメータで表される形状を有する浸漬ノズルを用いた場合の欠陥度を、数値流体力学により計算する計算機である。
【0041】
そして、ノズル設計装置1は、出力処理S3を実行し、所定の終了条件が満たされるか否かに応じて、データセットへの形状パラメータの追加、機械学習モデルMLMの学習、および、探索処理S1の実行、または、暫定最適形状パラメータPIBの出力を実行する。
【0042】
ノズル設計装置1は、暫定最適欠陥度DIBが所定の終了条件を満たす(例えば暫定最適欠陥度DIBが所定の閾値未満である)か否かを判定する。ノズル設計装置1は、暫定最適欠陥度DIBが所定の終了条件を満たさない場合、データセットDSに少なくとも暫定最適形状パラメータPIBおよび暫定最適欠陥度DIBを追加する。また、ノズル設計装置1は、暫定最適形状パラメータPIBおよび暫定最適欠陥度DIBが追加されたデータセットDSを教師データとして用いて機械学習モデルMLMを学習し、更新機械学習モデルを得る。ノズル設計装置1は、更新機械学習モデルを機械学習モデルMLMとして、探索処理S1を実行する。
【0043】
ノズル設計装置1は、暫定最適欠陥度DIBが所定の終了条件を満たす場合、当該暫定最適欠陥度DIBに対応する暫定最適形状パラメータPIBを出力する。
【0044】
CFD計算機20による欠陥度の計算には、CFD計算機20のハードウェア構成および計算精度などの実行される計算内容にも依存するが、数日程度の時間を要することがある。一方、機械学習モデルMLMによる欠陥度の推定は、実行するコンピュータのハードウェア構成および計算内容にも依存するが、数秒程度で完了することができる。したがって、以上のように動作することにより、ノズル設計装置1は、鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの好ましい形状を効率よく求めることができる。
【0045】
図4は、ノズル設計装置1の概略構成を示す模式図である。
【0046】
ノズル設計装置1は、入出力インタフェース11と、メモリ12と、プロセッサ13とを備えるコンピュータである。
【0047】
入出力インタフェース11は、ノズル設計装置1が処理すべきデータを受け付け、または、ノズル設計装置1により処理されたデータを出力するためのインタフェース回路を有する。入出力インタフェース11は、例えばノズル設計装置1を通信ネットワークに接続するための通信インタフェース回路、またはノズル設計装置1をキーボード、マウス、ディスプレイといった各種周辺機器と接続するための周辺機器インタフェース回路を含む。入出力インタフェース11は、通信インタフェース回路を介して端末機器から、または、周辺機器インタフェース回路を介してキーボード、マウスといった入力機器から、操作入力を受け付ける。また、入出力インタフェース11は、通信インタフェース回路を介して端末機器に、または、周辺機器インタフェース回路を介してディスプレイに、暫定最適形状パラメータを表すデータを出力する。
【0048】
メモリ12は、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク装置および光ディスク装置のうちの少なくとも1つを有する。メモリ12は、プロセッサ13による処理に用いられるデータ、コンピュータプログラム等を保存する。メモリ12に保存されるデータには、鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルの複数の形状のそれぞれを表す複数の形状パラメータに、当該形状パラメータで表される形状の欠陥度が対応づけられたデータセットDS、機械学習モデルMLMを規定するためのパラメータ群、暫定最適形状パラメータを出力するか否かを判定する終了条件などが含まれる。
【0049】
ノズル設計方法を実行する前にメモリ12に保存されるデータセットDSは、所定の形状パラメータに対応する欠陥度をCFD計算機20に計算させることによって作成されてよい。形状パラメータに含まれる各パラメータ(例えば浸漬深さd、吐出口高さh、および吐出口角度θ)の種別ごとに、探索範囲が設定されていてよい。データセットDSに保存される所定の形状パラメータには、各パラメータの探索範囲の境界に相当する値を有するパラメータ(例えば浸漬深さdの探索範囲が60mm≦d≦120mmである場合、浸漬深さdについて60mmまたは120mm)が含まれてよい。
【0050】
メモリ12には、コンピュータプログラムとして、ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、ノズル設計用コンピュータプログラム等が保存される。上記コンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な可搬性の記録媒体に記録された形で提供されてもよい。
【0051】
プロセッサ13は、1以上のプロセッサおよびその周辺回路を備える。プロセッサ13は、ノズル設計装置1の全体的な動作を統括的に制御する処理回路であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ13は、ノズル設計装置1の各種処理がメモリ12に記憶されているコンピュータプログラム等に基づいて適切な手段で実行されるように、入出力インタフェース11等の動作を制御する。プロセッサ13は、メモリ12に記憶されている各種プログラムに基づいて処理を実行する。また、プロセッサ13は、複数の各種プログラムを並列に実行することができる。
【0052】
図5は、ノズル設計装置1が有するプロセッサ13の機能ブロック図である。プロセッサ13は、探索部131と、計算部132と、出力部133とを有する。プロセッサ13が有するこれらの各部は、プロセッサ13が有するプロセッサ上で実行されるプログラムによって実装される機能モジュールである。あるいは、プロセッサ13が有するこれらの各部は、独立した集積回路、マイクロプロセッサ、またはファームウェアとしてノズル設計装置1に実装されてもよい。
【0053】
探索部131は、推定される欠陥度と理想値との差を目的関数として探索処理S1を実行することにより、目的関数の値が最小となる浸漬ノズル103の形状を求める。探索処理S1は、例えば粒子群最適化法により最適解を求解する処理である。探索部131は、探索部131は、探索処理S1として、その他の最適化手法を用いて最適解を求解する処理を実行してもよい。
【0054】
探索処理S1は、1以上(例えば100)の候補形状パラメータを作成すること(ステップS11)を含む。候補形状パラメータは、形状パラメータに含まれる各パラメータについて、探索範囲内の値を設定することにより作成される。探索部131は、各パラメータの値を、探索範囲内でランダムに設定してもよい。浸漬深さd、吐出口高さh、および吐出口角度θを有する候補形状パラメータは、形状パラメータの探索空間の内部に存在する粒子の位置ベクトルとして、xi=(di,hi,θi)T(iは粒子の番号)のように表される。
【0055】
探索処理S1は、1以上の候補形状パラメータのそれぞれを所定の規則に従って変更すること(ステップS12)を含む。探索部131は、以下の式により所定の移動ベクトルを用いて各粒子の位置を移動することで、候補形状パラメータを変更する。移動ベクトルは上記位置ベクトルとともに各粒子に与えられ、vi=(vi1,vi2,vi3)Tで表される。ここで、tは反復回数である。
【0056】
xi
(t+1)=xi
(t)+vi
(t)
【0057】
各粒子の移動ベクトルの初期値は、位置ベクトルの初期値と同様にランダムに設定されてよい。各粒子の2回目以降の移動に用いられる移動ベクトルの算出については後述する。
【0058】
探索処理S1は、機械学習モデルMLMを用いて、変更された1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する1以上の欠陥度を推定すること(ステップS13)を含む。機械学習モデルMLMは、データセットDSを教師データとして浸漬ノズル103の形状パラメータから当該形状パラメータに対応する欠陥度を推定するよう予め学習されている。探索部131は、機械学習モデルMLMに1以上の候補形状パラメータのそれぞれを入力し、機械学習モデルMLMの出力を取得することにより、1以上の候補形状パラメータのそれぞれに対応する1以上の欠陥度を推定する。
【0059】
機械学習モデルMLMは、ニューラルネットワーク(例えば多層パーセプトロンのような全結合型ニューラルネットワーク)とすることができる。機械学習モデルMLMをニューラルネットワークとすることにより、ノズル設計装置1は、非線形性の極めて高い流動を対象とする欠陥度の推定を適切に行うことができる。
【0060】
また、探索部131は、データセットDSを教師データとした学習後の欠陥度の推定精度が高くなるよう予測される構造を有するニューラルネットワークを機械学習モデルMLMとしてもよい。このようにニューラルネットワークの構造を定めることにより、機械学習モデルMLMの推定精度を向上させることができる。
【0061】
ニューラルネットワークの構造は、層数、各層の入力変数の次元、ドロップアウトの割合、活性化関数の種類、正則化項におけるパラメータ、確率的勾配降下法における学習率等により表すことができる。探索部131は、データセットDSを教師データとした学習後の欠陥度の推定精度が高くなるよう予測されるニューラルネットワークの構造を、ベイズ最適化により求めることができる。
【0062】
探索処理S1は、変更された1以上の候補形状パラメータのそれぞれを新たな1以上の候補形状パラメータとして、1以上の候補形状パラメータの変更および欠陥度の推定を所定回数(例えば500回)繰り返すこと(ステップS14)を含む。
【0063】
探索部131は、各粒子について、目的関数が最小となった位置lbesti=(lbesti1,lbesti2,lbesti3)Tと、そのときの目的関数の値L(F(lbesti))とをメモリ12に保存する。また、探索部131は、すべての粒子がこれまでの探索で発見した最良解gbest=(gbest1,gbest2,gbest3)Tをメモリ12に保存する。
【0064】
反復回数をtとするとき、現在の位置xi
(t)からの移動ベクトルvi
(t)は、以下の式で与えられる。
【0065】
vi
(t)=wvi
(t)+c1r1(lbesti
(t)-xi
(t))+c2r2(gbest(t)-xi
(t))
【0066】
ここで、r1およびr2は0から1までの間に分布する一様乱数であり、w、c1、c2は事前に設定する重みパラメータである。なお、xi
(t+1)のj番目の成分xij
(t+1)が当該パラメータの探索範囲の下限値を下回った場合にはxij
(t+1)の値を当該下限値に変更し、上限値を上回った場合も同様としてよい。このように処理することで、探索部131は、候補形状パラメータを探索範囲内で探索することができる。
【0067】
探索処理S1は、1以上の候補形状パラメータの変更および欠陥度の推定を所定回数繰り返して得られた1以上の候補形状パラメータのうち、最も好ましい値を有する推定された欠陥度に対応する候補形状パラメータを暫定最適形状パラメータとして決定することを含む。
【0068】
計算部132は、形状パラメータについて、CFD計算機20により欠陥度を計算する。計算部132は、探索部131から取得した暫定最適形状パラメータを、入出力インタフェース11を介してCFD計算機20に送信する。計算部132は、鋳型の形状、鋳造速度といった鋳造条件を、入出力インタフェース11を介してCFD計算機20に送信してもよい。鋳造条件は、CFD計算機20に予め保存されていてもよい。また、計算部132は、CFD計算機20から入出力インタフェース11を介して暫定最適欠陥度を受信する。
【0069】
CFD計算機20は、通信インタフェース、メモリ、およびプロセッサを有するコンピュータである。CFD計算機は、数値流体力学による計算に適した構成、例えば複数の演算を並列処理可能なプロセッサを有していることが好ましい。
【0070】
CFD計算機20は、形状パラメータおよび鋳造条件に基づいて、溶鋼中に発生するローレンツ力密度の分布を算出することにより電磁場シミュレーションを行う。そして、CFD計算機20は、得られたローレンツ力密度を用いて流体シミュレーションを実施し、凝固シェルに捕捉されるArガス気泡の個数の評価を行う。
【0071】
出力部133は、計算部132から取得した暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たすか否かを判定する。終了条件は、例えばその暫定最適欠陥度が所定の閾値未満であることである。また、終了条件は、その暫定最適欠陥度が得られるまでの探索処理S1の実行回数が所定の回数閾値以上であることであってもよい。
【0072】
暫定最適欠陥度が所定の終了条件を満たさない場合、出力部133は、データセットDSに少なくとも暫定最適形状パラメータおよび暫定最適欠陥度を追加する。また、出力部133は、暫定最適形状パラメータおよび暫定最適欠陥度が追加されたデータセットDSを教師データとして用いて機械学習モデルMLMを学習し、更新機械学習モデルを得る。そして、出力部133は、更新機械学習モデルを機械学習モデルMLMとして、探索部131に探索処理S1を実行させる。
【0073】
機械学習モデルMLMの学習において、出力部133は、探索部131と同様に、データセットDSを教師データとした学習後の欠陥度の推定精度が高くなるよう予測される構造を有するニューラルネットワークを機械学習モデルMLMとしてもよい。
【0074】
出力部133は、データセットDSへの暫定最適形状パラメータおよび暫定最適欠陥度の追加において、暫定最適形状パラメータおよび暫定最適欠陥度以外の形状パラメータおよび欠陥度をデータセットDSに追加してもよい。
【0075】
例えば、出力部133は、データセットDSに含まれている形状パラメータが位置づけられる探索空間において密度が疎となる領域に対応する形状パラメータを補充形状パラメータとして決定する。
【0076】
出力部133は、動径基底関数ネットワークによる密度関数を用いて探索空間において密度が疎となる領域に対応する形状パラメータを特定することができる。動径基底関数ネットワークは、既存のデータ点上に基底関数を置き、すべての点について和を取ったもので、出力部133はこれによりデータ密度を測ることができる。出力部133は、基底関数としてガウス関数を使用してよい。出力部133は、動径基底関数ネットワークの最小点を補充形状パラメータとしてデータセットDSに追加する。
【0077】
出力部133は、決定した補充形状パラメータを計算部132に渡し、CFD計算機20により補充形状パラメータについて計算させた補充欠陥度を計算部132から取得する。出力部133は、データセットDSに、暫定最適形状パラメータおよび暫定最適欠陥度に加えて補充形状パラメータおよび補充欠陥度をさらに追加する。出力部133は、補充形状パラメータおよび補充欠陥度を追加して得られたデータセットを教師データとして機械学習モデルMLMを学習する。このような機械学習モデルMLMを用いることで、ノズル設計装置1は、これまでに追加された暫定最適形状パラメータの近傍にない候補形状パラメータについても、欠陥度を適切に推定し、より効率よく浸漬ノズルの好ましい形状を求めることができる。
【0078】
以下に、本開示のノズル設計装置1による実施例を示す。本実施例では、ノズル設計処理開始前に用意したデータセット(初期データセット)を用いてノズル設計処理を実行し、初期データセットにおける形状の欠陥度と、ノズル設計処理によって得られた暫定最適形状パラメータに対応する暫定最適欠陥度とを比較した。
【0079】
図6は、実施例にかかる浸漬ノズルに対応する欠陥度を表すグラフである。グラフG6において、縦軸および横軸は、所定の形状パラメータで表される形状を有する浸漬ノズルを用いた連続鋳造により得られる鋳片について予測される、ブローホール欠陥およびピンホール欠陥の程度をそれぞれ示す。グラフG6に表される点から原点までの距離が短いほど、その点に対応する浸漬ノズルにより得られる鋳片に予測される欠陥が少ないことを表す。
【0080】
グラフG6において、黒丸は初期データセットに含まれる形状の欠陥度を示し、白丸はノズル設計処理により得られた形状の欠陥度を示している。グラフG6に示されるように、最も原点に近い白丸で表される暫定最適欠陥度DIBは、最も原点に近い黒丸DDSよりも原点に近い。これは、初期データセットを用いたノズル設計処理により、初期データセットに含まれる形状よりも欠陥度の低い浸漬ノズルの形状を得ることができたことを示している。
【0081】
このように、ノズル設計装置1は、初期データセットに含まれる形状よりも欠陥度の低い浸漬ノズルの形状を適切に出力することができた。
【0082】
当業者は、本開示の精神および範囲から外れることなく、種々の変更、置換および修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0083】
1 ノズル設計装置
13 プロセッサ
131 探索部
132 計算部
133 出力部