(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035505
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】金属箔-ポリイミド積層体及びそれを用いた面状発熱体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/088 20060101AFI20240307BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240307BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20240307BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240307BHJP
H05B 3/20 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B32B15/088
B32B27/34
B32B15/18
B32B7/027
H05B3/20 312
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140000
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】592166137
【氏名又は名称】河村産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】藤平 恵
【テーマコード(参考)】
3K034
4F100
【Fターム(参考)】
3K034AA02
3K034AA06
3K034BB08
3K034BB13
3K034BC14
3K034JA01
4F100AA20B
4F100AB04A
4F100AB33A
4F100AK49B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DE01B
4F100GB41
4F100JA02B
4F100JJ03
4F100JJ06A
4F100JK06A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】生産プロセスの複雑化を招くことなく、密着力が大きく、かつ密着力のばらつきが低減され、高温で使用される面状発熱体に好適に使用される金属箔-ポリイミド積層体を提供する。
【解決手段】本実施形態の金属箔-ポリイミド積層体は、厚さ10~100μmの金属箔と、前記金属箔の少なくとも一方の面に直接形成され、厚さ1~50μmのポリイミド系樹脂層と、を備える金属箔-ポリイミド積層体である。前記ポリイミド系樹脂層は、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミド系樹脂である。前記ジアミン化合物は、少なくともパラフェニレンジアミン及びジアミン化合物であり、使用される全ジアミンのモル量のうち80モル%以上がパラフェニレンジアミンである。前記金属箔の剥離強度は、0.5kN/m以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ10~100μmの金属箔と、
前記金属箔の少なくとも一方の面に直接形成され、厚さ1~50μmのポリイミド系樹脂層と、を備える金属箔-ポリイミド積層体であって、
前記ポリイミド系樹脂層は、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物からなるポリイミド系樹脂であり、
前記ジアミン化合物は、少なくともパラフェニレンジアミン及び下記の式(1)で示されるジアミン化合物であり、使用される全ジアミンのモル量のうち80モル%以上がパラフェニレンジアミンであり、
前記テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、すべての前記テトラカルボン酸二無水物に占める3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の割合が90モル%以上であり、
前記金属箔の剥離強度は、0.5kN/m以上である、
金属箔-ポリイミド積層体。
【化1】
上記の式(1)において、X、Y及びZは、それぞれ直接結合、-O-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-CONH-のいずれかの結合を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nは0又は1である。
【請求項2】
前記金属箔は、ステンレス箔である、請求項1記載の金属箔-ポリイミド積層体。
【請求項3】
前記金属箔を除いて得られる前記ポリイミド系樹脂層の線膨張係数は、10~25ppm/Kの範囲にある、請求項1記載の金属箔-ポリイミド積層体。
【請求項4】
前記ポリイミド系樹脂層は、2~40重量%のナノシリカを含有する、請求項1記載の金属箔-ポリイミド積層体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の金属箔-ポリイミド積層体を備える、面状発熱体。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項記載の金属箔-ポリイミド積層体の製造方法であって、
厚さ10~100μmの金属箔を用意する工程と、
前記金属箔の少なくとも一方の面に、ポリイミド系樹脂による樹脂を塗布するキャスティング法によってポリイミド系樹脂層を形成する工程と、
を含む金属箔-ポリイミド積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔-ポリイミド積層体及びそれを用いた面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、面状発熱体用に、銅箔やステンレス等の金属箔上に、ポリイミド等の耐熱性樹脂層を形成した材料が提案されている。例えば、特許文献1には、線状あるいはシート状の金属からなる発熱体が、熱融着性ポリイミドと高耐熱性ポリイミドとが接合された熱融着性多層ポリイミドフィルムの間に、加熱圧着して発熱体の金属を除く空間を熱融着性多層ポリイミドフィルムによって充填して接合されてなる面状のポリイミドヒーターが提案されている。しかしながら、特許文献1で提案されたポリイミドヒーター(面状発熱体)は、加熱圧着方式により熱融着性ポリイミドに金属の発熱体を結合していることから、十分な金属とポリイミドの密着力が得難いとともに、密着力のばらつきが大きくなりやすく、生産プロセスが複雑となり、生産コストが増大するというか課題があった。
【0003】
このような状況を鑑み、本発明者らは面状発熱体等に好適に使用可能な、特定のポリイミド原料から合成されるポリイミドと金属箔からなる金属箔-ポリイミド積層体、及びその積層体を備えた面状発熱体について開示した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-355882号公報
【特許文献2】特開2021-30523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、生産プロセスの複雑化を招くことなく、密着力が大きく、かつ密着力のばらつきが低減され、高温で使用される面状発熱体に好適に使用される金属箔-ポリイミド積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金属箔上に、特定の構造を有するポリイミド膜をキャスティング法により形成することにより、密着性や耐熱性に極めて優れた金属箔-ポリイミド積層体を得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示す金属箔-ポリイミド積層体が提供される。
【0008】
[1]本実施形態の金属箔-ポリイミド積層体は、厚さ10~100μmの金属箔と、
前記金属箔の少なくとも一方の面に直接形成され、厚さ1~50μmのポリイミド系樹脂層と、を備える金属箔-ポリイミド積層体であって、
前記ポリイミド系樹脂層は、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミド系樹脂であり、
前記ジアミン化合物は、少なくともパラフェニレンジアミン及び下記の式(1)で示されるジアミン化合物であり、使用される全ジアミンのモル量のうち80モル%以上がパラフェニレンジアミンであり、
前記テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、すべてのテトラカルボン酸二無水物に占める3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の割合が90モル%以上であり、
前記金属箔の剥離強度は、0.5kN/m以上である。
【0009】
【0010】
上記の式(1)において、X、Y及びZは、それぞれ直接結合、-O-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-COO-、-CONH-のいずれかの結合を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nは0又は1である。
[2]前記金属箔は、ステンレス箔である。
[3]前記金属箔を除いて得られるポリイミドの線膨張係数は、10~25ppm/Kの範囲にある。
[4]前記ポリイミドが2~40重量%のナノシリカを含有している。
[5]一実施形態による面状発熱体は、上記の金属箔-ポリイミド積層体を備える。
【0011】
[6] 一実施形態による金属箔-ポリイミド積層体の製造方法は、
厚さ10~100μmの金属箔を用意する工程と、
前記金属箔の少なくとも一方の面に、ポリイミド系樹脂による樹脂を塗布するキャスティング法によってポリイミド系樹脂層を形成する工程と、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の金属箔-ポリイミド積層体の一実施形態について、詳細に説明する。
一実施形態による金属箔-ポリイミド積層体(以下、単に「積層体」ともいう。)は、金属箔及びポリイミド系樹脂層を備える。具体的には、積層体は、厚さ10~100μmの金属箔の少なくとも一方の面に、厚さ1~50μmのポリイミド系樹脂層がキャスティング法により形成されたものである。このうち、ポリイミド系樹脂層は、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミドである。ジアミン化合物は、少なくともパラフェニレンジアミン及び式(1)で示されるジアミン化合物が用いられる。テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が用いられる。一実施形態による積層体において、金属箔の剥離強度は、0.5kN/m以上である。
【0013】
本実施形態の積層体に用いられる金属箔は、厚さが10~100μmの範囲のものであり、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケル箔、ニクロム箔等をはじめとする任意の金属箔を用いることができる。そして、耐熱性、耐久性、機械的強度、電気特性等の観点から、金属箔はステンレス箔を用いるのが好ましい。
【0014】
一実施形態による積層体の金属箔としてステンレス箔を用いる場合、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系やそれらの複合系等の任意のステンレスの箔が使用できる。これらのステンレスは、その合金組成によりSUS410、SUS440,SUS430、SUS304、SUS316等と称される。これらのうち、機械的強度、耐熱性、加工性等の観点からSUS304箔を用いることがより好ましい。
【0015】
一実施形態による積層体は、上述の金属箔にキャスティング法により、ポリイミド系樹脂層が形成されたものである。ここで、積層体に用いられるポリイミド系樹脂は、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から合成される。ジアミン化合物は、少なくともパラフェニレンジアミン及び式(1)で示されるジアミン化合物の2種類のジアミン化合物である。テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。
【0016】
【0017】
式(1)において、X、Y及びZは、それぞれ直接結合、-O-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-COO-、-CONH-のいずれかの結合を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nは0又は1である。
【0018】
一実施形態による積層体において、ポリイミド系樹脂の合成にパラフェニレンジアミンとともに用いられる式(1)で示されるジアミン化合物の具体例としては、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェニル)スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェニル)スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。好ましくは、下記の式(2)で示されるジアミン化合物である。
【0019】
【0020】
一実施形態による積層体において、ポリイミド系樹脂の合成に使用されるジアミン化合物の比率は、パラフェニレンジアミンのモル比率をA、式(1)で示されるジアミン化合物のモル比率をBとした場合、A:B=80~99:1~20である。A:B=80~99:1~20とすることにより、機械強度が良好であり、金属箔に近い熱膨張係数を示し、更には0.5kN/m以上の強固な金属箔の密着力を与え、耐熱性に極めて優れたポリイミド系樹脂を得ることができる。
【0021】
一実施形態による積層体において、ポリイミド系樹脂の合成には、パラフェニレンジアミンと式(1)で示されるジアミン化合物以外のジアミン化合物を、本発明の効果を損なわない範囲で少量用いても差し支えない。
【0022】
一実施形態による積層体において、ポリイミド系樹脂の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物は、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を必須成分として用いられる。この場合、例えば、3,4,3’,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3, 3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物などのように、ピロメリット酸二無水物及び3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物も併用することができる。
【0023】
一実施形態の積層体において、ポリイミド系樹脂の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物の比率は、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のモル比率をC、それ以外のテトラカルボン酸二無水物のモル比率をDとした場合、C:D=90~100:0~10である。C:Dのモル比率を90~100:0~10とすることにより、機械強度が良好であり、金属箔に近い熱膨張係数を示し、更には0.5kN/m以上の強固な金属箔の密着力を与え、極めて耐熱性に優れるポリイミド系樹脂を得ることができる。
【0024】
一実施形態の積層体に用いられるポリイミド系樹脂は、N,N-ジメチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の溶剤中において、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を出発原料とした溶液重合によりポリイミド前駆体であるポリアミド酸として合成される。そして、合成されたポリアミド酸は、金属箔上に当該ポリアミド酸の溶液が所定の厚さになるようにキャスティングされる。その後、溶剤の乾燥及びイミド化を行うことにより、ポリイミド系樹脂が得られる。
【0025】
ポリアミド酸への重合反応は、攪拌装置を備えた反応容器で攪拌しながら行うことが好ましい。例えば、上記溶剤に所定量のジアミン化合物を溶解させて、攪拌しながらテトラカルボン酸二無水物を投入して反応を行い、ポリアミド酸を得る方法、テトラカルボン酸二無水物を溶剤に溶解させて、攪拌しながらジアミン化合物を投入して反応を行い、ポリアミド酸を得る方法、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を交互に投入して反応させてポリアミド酸を得る方法などが挙げられる。
【0026】
ポリアミド酸への重合反応の温度については特に制約はないが、0~70℃の温度で行うことが好ましく、より好ましくは10~60℃であり、更に好ましくは20~50℃である。
【0027】
また、ポリアミド酸への重合に使用するジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とは概ね等モル量で用いられる。但し、これらは、得られるポリアミド酸の重合度をコントロールして安定した溶液粘度のポリアミド酸溶液を得るために、使用されるテトラカルボン酸二無水物のモル量/ジアミン化合物のモル量(モル比率)を0.9~1.1の範囲で変化させることも可能である。そして、ポリアミド酸の溶液粘度をハンドリング性の良い適度な粘度としつつ、金属箔とポリイミドの密着力を高めることができるという観点から、テトラカルボン酸二無水物のモル量/ジアミン化合物のモル量(モル比率)を1.003~1.02の範囲でコントロールすることが好ましい。
【0028】
生成するポリアミド酸溶液の濃度は、溶液の粘度を適正に保ち、その後の工程での取り扱いが容易になるよう、適切な濃度(例えば、10~30重量%程度)に整えることが好ましい。
【0029】
一実施形態の積層体に用いられるポリイミド系樹脂は、アルキルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール等のイミダゾール類、ベンゾトリアゾール、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、N’1,N’12-ビス(2-ヒドロキシベンゾイル)ドデカンヒドラジド、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン等、ポリイミドとの親和性が高く、金属と錯体を形成しやすい添加物を添加してもよい。これらの添加物の添加は、金属箔との密着力を高め、密着力やポリイミド系樹脂の機械強度の熱的な低下を抑制するという観点から好ましい。
【0030】
一実施形態の積層体に用いられるポリイミド系樹脂には、2~40重量%の範囲でナノシリカを添加してしてもよい。ナノシリカを添加することにより、ポリイミド系樹脂の耐熱性を向上させることができ好ましい。
【0031】
以下、一実施形態による積層体の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
なお、本実施例で使用する略号は、以下のものを示している。
PPD:p-フェニレンジアミン
TPE-M:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0033】
<金属箔の密着力>
積層体を構成する金属箔上に感光性のドライフィルムレジストをラミネートした後、所定のマスクを通して露光し、塩化第二鉄水溶液を用いて金属箔のエッチング加工を行う。エッチング加工の後、ドライフィルムレジストの剥離、水洗、乾燥を行って、1mm×150mmの複数のパターンにエッチング加工した。
【0034】
次に、エッチング加工を施した積層体のポリイミド面を、両面テープを用いて厚み1mmのステンレス板に固定し、引張試験機(島津製作所株式会社製オートグラフAGS-H)を用いて、1mm幅にエッチング加工した金属箔をポリイミドから90°方向に引きはがして、剥離強度として密着力を測定した。
【0035】
<ポリイミドの熱膨張係数>
塩化第二鉄水溶液を用いて、積層体の金属箔をエッチング除去してポリイミドフィルムとした。次に、ポリイミドフィルムを3mm×15mmの大きさに切り出して測定用サンプルとし、熱機械分析装置(島津製作所株式会社製TMA-60)を用いて、設定荷重を加えながら、室温から210℃まで10℃/分で昇温した後、210℃で10分間ホールドし、10℃/分の速度で降温させて、200℃から100℃の冷却時の寸法変化からポリイミドの熱膨張係数を求めた。設定荷重は、2.5gである。
【0036】
<耐熱試験後のポリイミドの引張強度保持率>
ポリイミドの熱膨張係数測定の場合と同様に積層体の金属箔をエッチング除去して得られたポリイミドフィルムを10mm×200mmの大きさに切り出して測定用サンプルとした。引張試験機(島津製作所株式会社製オートグラフAGS-H)を用いて、ポリイミドフィルムの引張試験を行い、ポリイミドフィルムの引張強度(単位:MPa)を求めた。各ポリイミドフィルムについてN=10サンプルの試験を行い、その平均の引張強度を当該ポリイミドフィルムの引張強度とし、以下の式から耐熱試験後の引張強度保持率を求めた。
ポリイミドフィルムの引張強度保持率=耐熱試験後の引張強度/耐熱試験前の引張強度×100(%)
【0037】
(実施例1)
撹拌機と撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコ中にジアミン化合物であるPPD9.742g(0.090モル)、TPE-M2.923g(0.010モル)を入れ、そこに240gのDMAcを加えて撹拌を行って、ジアミン化合物を溶解及び分散させた。次に、窒素気流中において撹拌を続けながら、テトラカルボン酸二無水物であるBPDA29.716g(0.101モル)を加え、さらに室温で6時間撹拌を続けて重合を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
【0038】
次に、金属箔として厚さ30μmのステンレス箔(SUS304)を準備し、その上にアプリケータを用いてポリアミド酸の溶液を塗膜し、大気中で90℃、110℃、130℃、160℃、190℃、250℃の各温度で4分間熱処理を行い、さらに大気中400℃で10分間熱処理をすることにより、溶剤の乾燥及びイミド化反応を行って、厚さ25μmのポリイミド膜を形成し、目的とするステンレス箔-ポリイミド積層体(以下、「ステンレス積層体」という。)を作製した。
【0039】
得られたステンレス積層体は、概ねフラットであり、ステンレス箔の密着力は1.5kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、ステンレス箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、18ppm/Kであった。
【0040】
(実施例2)
撹拌機と撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコ中にジアミン化合物であるPPD9.742g(0.09モル)、TPE-M2.923g(0.01モル)を入れ、そこに236gのDMAcを加えて撹拌を行って、ジアミン化合物を溶解及び分散させた。次に、窒素気流中において撹拌を続けながら、テトラカルボン酸二無水物であるPMDA2.203g(0.0101モル)及びBPDA26.745g(0.0909モル)を加え、さらに室温で6時間撹拌を続けて重合を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
【0041】
以下、実施例1と同様に処理を行い、ステンレスとポリイミド系樹脂の厚さがそれぞれ30μm及び25μmのステンレス積層体を作製した。得られたステンレス積層体は、概ねフラットであり、ステンレス箔の密着力は1.5kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、ステンレス箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、15ppm/Kであった。
【0042】
(実施例3)
撹拌機と撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコ中にジアミン化合物であるPPD8.659g(0.080モル)、TPE-M5.847g(0.020モル)を入れ、そこに251gのDMAcを加えて撹拌を行って、ジアミン化合物を溶解及び分散させた。次に、窒素気流中において撹拌を続けながら、テトラカルボン酸二無水物であるBPDA29.716g(0.101モル)を加え、さらに室温で6時間撹拌を続けて重合を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
【0043】
以下、実施例1と同様に処理を行い、ステンレスとポリイミドの厚さがそれぞれ30μm及び25μmのステンレス積層体を作製した。得られたステンレス積層体は、概ねフラットであり、ステンレス箔の密着力は1.8kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、ステンレス箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、22ppm/Kであった。
【0044】
(実施例4)
撹拌機と撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコ中にDMAc206.3gと粒径12nmのナノシリカがDMAcに分散されたナノシリカ分散液(日産化学株式会社製、DMAC-ST、ナノシリカ含有量20重量%)33.9gを入れ、そこにジアミン化合物であるPPD9.742g(0.090モル)、TPE-M2.923g(0.010モル)を加えて撹拌し、ジアミン化合物を溶解及び分散させた。次に、窒素気流中において撹拌を続けながら、テトラカルボン酸二無水物であるBPDA29.716g(0.101モル)を加え、さらに室温で6時間撹拌を続けて重合を行い、ナノシリカを含む粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
【0045】
以下、実施例1と同様に処理を行い、ステンレスとナノシリカ含有ポリイミド系樹脂厚さがそれぞれ30μm及び25μmのステンレス積層体を作製した。得られたステンレス積層体は、概ねフラットであり、ステンレス箔の密着力は1.7kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、ステンレス箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、18ppm/Kであった。
【0046】
(実施例5)
ポリイミド膜を厚さ12μmになるように塗膜した以外は実施例4と同様に処理を行い、ステンレスとナノシリカ含有ポリイミド系樹脂の厚さがそれぞれ30μm及び12μmのステンレス積層体を作製した。得られたステンレス積層体は概ねフラットであり、ステンレス箔の密着力は2.0kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、ステンレス箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、17ppm/Kであった。
【0047】
(実施例6)
厚さ30μmのステンレス箔の代わりに厚さ20μmのステンレス箔を用いた以外は実施例4と同様に処理を行い、ステンレスとナノシリカ含有ポリイミド系樹脂の厚さがそれぞれ20μm及び25μmのステンレス積層体を作製した。得られたステンレス積層体は概ねフラットであり、ステンレス箔の密着力は1.8kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、ステンレス箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、18ppm/Kであった。
【0048】
(実施例7)
厚さ30μmのステンレス箔の代わりに厚さ18μmの電解銅箔を用いた以外は実施例1と同様に処理を行い、厚さがそれぞれ18μm、25μmの銅箔-ポリイミド積層体(以下、「銅箔積層体」という。)を作製した。得られた銅箔積層体は概ねフラットであり、銅箔の密着力は1.6kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、銅箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、19ppm/Kであった。
【0049】
(実施例8)
撹拌機と撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコ中にDMAc206.3gと粒径12nmのナノシリカがDMAcに分散されたナノシリカ分散液(日産化学株式会社製、DMAC-ST、ナノシリカ含有量20重量%)33.9gを入れ、そこにジアミン化合物であるPPD9.742g(0.090モル)、TPE-M2.923g(0.010モル)を加えて撹拌し、ジアミン化合物を溶解及び分散させた。次に、窒素気流中において撹拌を続けながら、テトラカルボン酸二無水物であるBPDA29.716g(0.101モル)を加え、さらに室温で6時間撹拌を続けて重合を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。その後、ポリアミド酸溶液の撹拌を続けながら、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール0.175gを加えて溶解させた。
【0050】
次に、金属箔として厚さ30μmのステンレス箔(SUS304)を準備し、その上にアプリケータを用いて、ナノシリカと3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾールを含有するポリアミド酸溶液を塗膜し、大気中で90℃、110℃、130℃、160℃、190℃、250℃の各温度で4分間熱処理を行い、さらに大気中400℃で10分間をすることにより、溶剤の乾燥ならびにイミド化反応を行って、厚さ25μmのポリイミド膜を形成し、目的とするステンレス積層体を作製した。
【0051】
得られたステンレス積層体は概ねフラットであり、ステンレス箔の密着力は2.1kN/mであって、面状発熱体として使用するのに好ましい密着力を示した。また、ステンレス箔をエッチング除去後のポリイミド膜の熱膨張係数は、18ppm/Kであった。
【0052】
(比較例1)
撹拌機と撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコ中にジアミン化合物であるPPD7.577g(0.070モル)及びTPE-M8.770g(0.030モル)を入れ、そこに261gのDMAcを加えて撹拌を行って、ジアミン化合物を溶解及び分散させた。次に、窒素気流中において撹拌を続けながら、テトラカルボン酸二無水物であるBPDA29.716g(0.101モル)を加え、さらに室温で6時間撹拌を続けて重合を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
【0053】
以下、実施例1と同様に行い、厚さがそれぞれ30μm及び25μmのステンレス積層体を作製した。得られたステンレス積層体のステンレスの接着力は2.0kN/mと良好であったが、ステンレス箔をエッチングして得られたポリイミド膜の熱膨張係数が35ppm/Kと大きく、そのためステンレス積層体においてポリイミド面を内側に強い反りが生じていた。
【0054】
(比較例2)
撹拌機と撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコ中にジアミン化合物であるPPD9.742g(0.090モル)及びTPE-M2.923g(0.010モル)を入れ、そこに208gのDMAcを加えて撹拌を行って、ジアミン化合物を溶解及び分散させた。次に、窒素気流中において撹拌を続けながら、テトラカルボン酸二無水物であるPMDA22.030g(0.101モル)を加え、さらに室温で6時間撹拌を続けて重合を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
【0055】
以下、実施例1と同様に行い、厚さがそれぞれ30μm及び25μmのステンレス積層体を作製した。得られたステンレス積層体は概ねフラットであったが、ステンレスの接着力が0.4kN/mと低く、面状発熱体に使用する上で実用に耐えるものではなかった。
【0056】
<耐熱試験>
実施例8で作成したステンレス積層体からステンレス箔をエッチングして厚さ25μmのポリイミドフィルムを作成した。比較として、市販の厚さ25μmのポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製、カプトン100H)を用いて、350℃で24時間の耐熱試験を行い、耐熱試験後の引張強度の保持率を調べた。その結果、市販のポリイミドフィルム(カプトン100H)では引張強度保持率が78%と顕著な引張強度の低下が認められたのに対して、実施例8で作成したステンレス積層体から得られたポリイミドフィルムでは引張強度保持率が97%と極めて優れていることが確認された。