(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035513
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
E21D9/093 G
E21D9/093 C
E21D9/093 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140012
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 剣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博一
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AA01
2D054AA02
2D054AC04
2D054BA02
2D054GA02
2D054GA04
2D054GA24
2D054GA62
2D054GA65
2D054GA96
(57)【要約】
【課題】AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフを確保することが可能なジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法を提供する。
【解決手段】AIモデルを用いて前記シールド掘進機18が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するAI予測部12と、今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部12により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するジャッキパターン選択部14を備えるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援するシステムであって、
前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するAI予測部と、
今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するジャッキパターン選択部を備えることを特徴とするジャッキパターンの選択支援システム。
【請求項2】
前記ジャッキパターン選択部で出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力する出力チェック部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のジャッキパターンの選択支援システム。
【請求項3】
シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援する方法であって、
前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するステップと、
今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するステップを有することを特徴とするジャッキパターンの選択支援方法。
【請求項4】
出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力するステップをさらに有することを特徴とする請求項3に記載のジャッキパターンの選択支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機を推進するために用いられるジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド工法によるトンネル掘削工事では、シールド掘進機を用いて地山を掘削しながら、シールド掘進機の後端部にリング状のセグメントを組み立てて設置し、このセグメントに反力をとってシールドジャッキが油圧操作により伸張することでシールド掘進機を推進させる方法が用いられている。シールドジャッキは通常、シールド掘進機の後方において周方向に間隔をあけて複数配置されている。オペレータは、各シールドジャッキの使用の有無を選択することで、シールド掘進機の掘進方向を制御している。
【0003】
シールド掘進機の掘進方向をトンネル計画線に沿うように制御することは、熟練を要し、難しいという問題があった。このような問題を解決するため、本特許出願人は、シールド掘進機の掘進方向を定めるシールドジャッキの力点の位置を予測するAIモデルについて、既に特許文献1に記載の推定モデルを提案している。
【0004】
また、本特許出願人は、AI予測力点に基づくシールド掘進機のジャッキパターン選択方法として、既に特許文献2に記載のものを提案している。この方法は、各シールドジャッキの推進合力の力点への寄与度を考慮し、少ない探索数で、推進合力の力点とAI予測力点の絶対偏差を小さくするジャッキパターンを算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-143385号公報
【特許文献2】特願2021-210677号(現時点で未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の特許文献1の推定モデルは、所定の入力に対して所定の出力をするだけであり、推定モデルが学習していないデータ(今までに発生したことのない状況など)を入力した場合や過学習が生じている場合などには、推定モデルが適切に予測できないおそれがある。そのような状況が生じた場合、推定モデルにより予測した力点(AI予測力点)が前回のAI予測力点と大きくずれてくる可能性があり、それに伴いAI予測力点に基づいて算出するジャッキパターンも前回のジャッキパターンから大きな変更が生じることから、掘進方向の急な変更やジャッキ操作への負荷が生じる。
【0007】
また、シールド掘進機の自動運転を行う場合には、AIモデル(推定モデル)の予測精度が安全性や品質に直結する。AIモデルが適切に予測できなかった場合に備えて、なんらかのフェールセーフ機構を備える必要がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフを確保することが可能なジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムは、シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援するシステムであって、前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するAI予測部と、今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するジャッキパターン選択部を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他のジャッキパターンの選択支援システムは、上述した発明において、前記ジャッキパターン選択部で出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力する出力チェック部をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るジャッキパターンの選択支援方法は、上述した発明において、シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援する方法であって、前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するステップと、今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するステップを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他のジャッキパターンの選択支援方法は、上述した発明において、出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力するステップをさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムによれば、シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援するシステムであって、前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するAI予測部と、今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するジャッキパターン選択部を備えるので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフを確保することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他のジャッキパターンの選択支援システムによれば、前記ジャッキパターン選択部で出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力する出力チェック部をさらに備えるので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフ機能を向上することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係るジャッキパターンの選択支援方法によれば、シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援する方法であって、前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するステップと、今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するステップを有するので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフを確保することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他のジャッキパターンの選択支援方法によれば、出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力するステップをさらに有するので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフ機能を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法の実施の形態を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態が適用されるシールド掘進機の部分概略図であり、(1)は概略後面図、(2)はジャッキパターンおよび力点の説明図である。
【
図3】
図3は、本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法の実施の形態を示すジャッキパターン選択部のフロー図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法の実施の形態を示す出力チェック部のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るジャッキパターンの選択支援システム10は、AI予測部12と、ジャッキパターン選択部14と、出力チェック部16とを備えており、オペレータ室に設けられたPC(パーソナルコンピュータ)とこれに接続されるディスプレイ等の周辺機器で構成されている。選択支援システム10は、シールド掘進機18の制御装置と接続している。
【0020】
図2(1)に示すように、シールド掘進機18は、前面にカッタービットが設けられた略円筒状の掘削機械であり、後面には円筒形のプレート20の内周に沿って複数本(図の例では22本)のシールドジャッキ22が周方向に等間隔かつX軸(水平方向)、Y軸(鉛直方向)に関してそれぞれ軸対称に配置されている。シールド工法では、シールド掘進機18の後方において図示しないエレクタによりセグメントを組み立てて、一次覆工を施工する。その一方、後方の既設のセグメントから反力をとってシールドジャッキ22が伸張することでシールド掘進機18を前方に推進させ、地山を掘削する。各シールドジャッキ22のオン・オフ状態は、オペレータや制御装置などの操作を通じて切替可能である。いずれの位置のシールドジャッキ22を伸張させるかによりシールド掘進機18の後面を推進させる力点の位置(例えば、位置F)が設定され、シールド掘進機18の推進方向が決定される。ここで、ジャッキパターンとは、全てのシールドジャッキ22のうちシールド掘進機18を推進させるために使用するシールドジャッキ22の組み合わせを示した型をいう。
図2(2)に、ジャッキパターンの概略図を示す。
【0021】
(AI予測部)
AI予測部12は、AIモデルを用いてシールド掘進機18の掘進方向における力点の位置を予測するものである。予測した力点(AI予測力点)の位置に基づいて、ジャッキパターンを算出することができる。AIモデルは、シールド掘進機18の掘進方向における力点の位置を予測する学習済モデルである。このAIモデルには、例えば、特許文献1に記載の推定モデルを用いることができる。なお、特許文献1に記載の推定モデルは、シールド掘進機18の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データにシールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成される。入力データは、テールクリアランス、ジャッキストロークなどのシールド掘進機18の掘進の方向に関するデータである。
【0022】
(ジャッキパターン選択部)
ジャッキパターン選択部14は、前回オペレータが操作したジャッキパターンに対して、AI予測部12により新たに予測された力点(AI予測力点)に基づいて算出されるジャッキパターンが大きく変更をするのを防ぐシステム部分である。
【0023】
次に、ジャッキパターン選択部14の処理フローについて、
図3を参照しながら説明する。
図3に示すように、まず初めに、操作有無の情報とAI予測力点を読み込み(ステップS1)、これからジャッキ操作を行うか否かを判定する(判定J:ステップS2)。この結果、操作を行わないと判定した場合は(ステップS3でJF=1)、そのままジャッキ操作を行わずにログファイルにログを書き込み(ステップS4)、ジャッキパターンを出力するとともに(ステップS14)、ジャッキパターンを記録し、ファイルに書き込む(ステップS15)。
【0024】
ステップS2の判定の結果、操作を行うと判定した場合は(ステップS3でJF=0)、現在の掘進距離、掘進時刻を取得して(ステップS5)、リング開始時かリング継続時かの判定を行う(判定L:ステップS6)。ここで、リング開始時とは、セグメントをリング状に組み立てたリング幅に相当する区間の掘進を開始する時をいう。また、リング継続時とは、その区間の途中の掘進を継続している時をいう。なお、シールド掘進機18は、計画された掘進指示書に従って掘削を進める。掘進指示書には、リング毎に掘削終了時における水平方向の方位(指示方位)、鉛直方向の方位(指示ピッチ)が示されたトンネル計画線が記載されており、このトンネル計画線に沿って掘進する必要がある。
【0025】
ステップS6の判定の結果、リング開始時と判定した場合は(ステップS7でLf=0)、前リング(直前に掘進完了したリング幅に相当する区間)の最終ジャッキパターンを取得する(ステップS8)。リング継続時と判定した場合は(ステップS7でLf=1)、実機掘進データから実機(現時点)のジャッキパターンを取得する(ステップS9)。ステップS8またはステップS9で取得した実機ジャッキパターンと、AI予測力点に基づいて算出したジャッキパターンとを比較し、両者の差分を算定する(ステップS10、S11)。そして、制約条件をチェックし、判定する(判定C:ステップS12)。具体的には、算出後のジャッキ最小使用本数、および算出後のジャッキ変更本数をチェックし、あらかじめ設定していた制約条件を示す管理値(例えば、ジャッキ数が全16本の場合、最小使用本数は10本、変更可能本数は5本など)を超えるか否かを判定する。
【0026】
ステップS12の判定の結果、管理値を超えない場合は(ステップS13でCf=0)、AI予測力点に基づいて算出したジャッキパターンを出力する(ステップS14)。一方、管理値を超える場合は(ステップS13でCf=1)、エラーをPCの操作画面に出力してオペレータに知らせるとともに(ステップS16)、例えば、以下のようなジャッキパターン内で優先順位を付けて再選定を行うようにする(ステップS17~S20)。なお、優先順位としている力点位置はパラメータとして、任意の位置(1/2パターンや1/3パターンなど)を設定できるようにすることで、現場や施工状況などに対応できるようにする。
【0027】
(優先順位の一例)
・優先順位1:1/2パターン
これは、
図2(2)のような座標平面上において、AI予測力点の位置Fと現時点の力点の位置F0を結ぶ直線上において、現時点の力点の位置F0から直線の長さLの1/2となる位置FAを推進合力の力点として算出されるジャッキパターンである。
・優先順位2:1/3パターン
これは、
図2(2)のような座標平面上において、AI予測力点の位置Fと現時点の力点の位置F0を結ぶ直線上において、現時点の力点の位置F0から直線の長さLの1/3となる位置FBを推進合力の力点として算出されるジャッキパターンである。
・優先順位3:0パターン
これは、現在のジャッキパターン(現時点の力点の位置F0)のまま変更なしを意味する。優先順位1と優先順位2で再選定を行っても、依然として管理値を超えるような場合には、この優先順位3を付けるようにし、管理値を超える場合のループを脱出するようにする。
【0028】
管理値を超えないで最終的に選定されたジャッキパターンを出力するとともに(ステップS14)、ジャッキパターンを記録し、ファイルに書き込む(ステップS15)。記録する内容は、出力日時、リング番号(掘進位置)、掘進距離(実ストローク)、算出したジャッキパターン、再選定したジャッキパターン、選定したジャッキパターンから算出される推進合力の力点などである。
【0029】
(出力チェック部)
出力チェック部16は、ジャッキパターン選択部14で最終的に選定したジャッキパターンを実際にシールド掘進機18側に出力するタイミングと、AI予測力点との違いをチェックし、最終的にシールド掘進機18側に出力、または外部の自動運転システムによる自動運転を中止してオペレータに操作権を返すシステム部分である。
【0030】
次に、出力チェック部16の処理フローについて、
図4を参照しながら説明する。
図4に示すように、まず初めに操作権がオペレータ側にあるか否かを判定する(判定R:ステップT1)。判定の結果、操作権がオペレータ側になく自動運転システム側にあると判定された場合には(ステップT2でRf=0)、ジャッキパターン選択部14と同様に、再度、AI予測部12によりジャッキ操作を行うかの予測結果を判定する(判定A:ステップT3)。操作権がオペレータ側にあると判定された場合には(ステップT2でRf=1)、ログをとり(ステップT18)、終了する。
【0031】
ステップT3の判定結果、操作しないという予測が出た場合(ステップT3、T4でAf=1)、ジャッキパターンの出力は行わないが、AI予測部12がきちんと動作しているかをAI予測力点の変化でチェックするようにし(チェックD:ステップT19)、AI予測力点が変化していないようであれば、エラーメッセージを操作画面に出力し(ステップT20)、ログをとり(ステップT16)、終了する。
【0032】
ステップT3の判定結果、操作するという予測が出た場合(ステップT3、T4でAf=0)、現在の掘進ステップ、掘進距離を取得し(ステップT5、T6)、掘進距離に応じてジャッキパターンを出力するタイミングを判定する(判定T:ステップT7)。なお、この出力するタイミングの掘進距離はパラメータで適宜変更可能である。
【0033】
そして、出力するタイミングが正常であった場合は(ステップT7、T8でTf=0)、座標平面上のAI予測力点の座標値(Fx,Fy)を取得する(ステップT10)。続いて、ジャッキパターン選択部14で決定したジャッキパターンを読み込んで(ステップT11)、ジャッキパターンから力点の座標値(Fx,Fy)を算定する(ステップT12)。そして、AI予測力点と、ジャッキパターン選択部14で決定したジャッキパターンから算出された力点との間の距離をチェックし(判定C:ステップT13)、その値が管理値を超えていないかどうかでAI予測力点が問題ないか否かを判定する。出力するタイミングが異常の場合は(ステップT7、T8でTf=1)、エラーメッセージ(警報)を操作画面に出力し(ステップT9)、ログをとり(ステップT16)、終了する。
【0034】
管理値を超える場合は(ステップT13、T14でCf1=1)、エラーメッセージ(警報)を出力し、自動運転を中止して、オペレータに操作権を返すとともに、その旨をオペレータに音で知らせるようにする(ステップT17)。その後ログをとり(ステップT18)、終了する。
【0035】
管理値を超えない場合は(ステップT13、T14でCf1=0)、最終的なジャッキパターンとしてシールド掘進機18側の操作画面に出力するとともに(ステップT15)、ログをとり(ステップT16)、終了する。
【0036】
本実施の形態によれば、AI予測部12のAIモデルを用いて適切に予測できなかった場合でも、ジャッキパターン選択部14で、前回のジャッキパターンから大きな変更が生じることを防ぐことにより、ジャッキ操作への負荷を減らすとともに、スムースなジャッキ操作が可能となる。
【0037】
さらに出力チェック部16でも、AI予測部12による予測がきちんと行われているかなどをチェックして、AI予測力点に異常がある場合などは、自動運転を中止してオペレータに操作権を返すようにする。このように、本実施の形態は、ジャッキパターン選択部14と出力チェック部16による二重のフェールセーフ機能を有している。
【0038】
また、本実施の形態は、ジャッキパターンをシールド掘進機18側に出力するタイミングを掘進距離に応じて行うようなシステムであることから、掘進に時間を要するような場合でも頻繁なジャッキ操作が起きるおそれはない。
【0039】
また、本実施の形態は、現場ごとに適した管理値、ジャッキパターンを再選定できる優先順位、パラメータを設定できることから、異なる現場でもそのまま使用可能である。
【0040】
以上説明したように、本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムによれば、シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援するシステムであって、前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するAI予測部と、今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するジャッキパターン選択部を備えるので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフを確保することができる。
【0041】
また、本発明に係る他のジャッキパターンの選択支援システムによれば、前記ジャッキパターン選択部で出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力する出力チェック部をさらに備えるので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフ機能を向上することができる。
【0042】
また、本発明に係るジャッキパターンの選択支援方法によれば、シールド掘進機に備わる複数のシールドジャッキのうち前記シールド掘進機を推進させるために使用する前記シールドジャッキの組み合わせを示すジャッキパターンの選択を支援する方法であって、前記シールド掘進機の推進方向に関するデータを入力データとし、当該入力データに前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置が出力データとして対応付けられた学習データを用いて機械学習を実行することにより作成されたAIモデルを用いて前記シールド掘進機が掘進すべき力点の位置を予測し、予測した力点の位置に基づいて、前記ジャッキパターンを算出するステップと、今回選定する前記ジャッキパターンとして前記AI予測部により算出された前記ジャッキパターンが、前回実行された前記ジャッキパターンに対して所定の管理値を超えて変更されるのを防ぐために、前記管理値を超えない前記ジャッキパターンを出力するステップを有するので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフを確保することができる。
【0043】
また、本発明に係る他のジャッキパターンの選択支援方法によれば、出力した前記ジャッキパターンによる力点の位置と、算出された前記ジャッキパターンによる力点の位置の距離が所定の管理値を超えるか否かを判定し、前記管理値を超えると判定した場合に、警報を出力するステップをさらに有するので、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフ機能を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明に係るジャッキパターンの選択支援システムおよび選択支援方法は、シールド掘進機を推進するために用いられるジャッキパターンの選択に有用であり、特に、AIモデルが適切に予測できなかった場合のフェールセーフを確保するのに適している。
【符号の説明】
【0045】
10 ジャッキパターンの選択支援システム
12 AI予測部
14 ジャッキパターン選択部
16 出力チェック部
18 シールド掘進機
20 プレート
22 シールドジャッキ