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特開2024-3552部分放電検査方法及び部分放電検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003552
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】部分放電検査方法及び部分放電検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20240105BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102762
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 朋輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】白石 創
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA06
2G015AA30
2G015BA04
2G015BA06
2G015CA01
(57)【要約】
【課題】部分放電の発生の有無を検査するために有用な部分放電検査方法及び部分放電検査装置を提供することにある。
【解決手段】実施形態に係る部分放電検査方法は、センサによって計測された複数のパルス信号を含む電気信号を取得するステップと、取得された電気信号から複数のパルス信号の各々を抽出するステップと、抽出された複数のパルス信号の各々の時間成分を示す時間成分情報、周波数成分を示す周波数成分情報及び信号強度を示す信号強度情報を取得するステップと、取得された時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報が抽出されたパルス信号毎にプロットされたマップを作成するステップとを具備する。作成されたマップは、電力機器からの部分放電の発生の有無を検査するために用いられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力機器に取り付けられたセンサによって計測された複数のパルス信号を含む電気信号を取得するステップと、
前記取得された電気信号から前記複数のパルス信号の各々を抽出するステップと、
前記抽出された複数のパルス信号の各々の時間成分を示す時間成分情報、周波数成分を示す周波数成分情報及び信号強度を示す信号強度情報を取得するステップと、
前記取得された時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報が前記抽出されたパルス信号毎にプロットされたマップを作成するステップと
を具備し、
前記作成されたマップは、前記電力機器からの部分放電の発生の有無を検査するために用いられる
部分放電検査方法。
【請求項2】
前記抽出するステップは、前記取得された電気信号に対してローパスフィルタを適用し、当該ローパスフィルタを通過した信号値の平均値を超える信号値に基づいて当該電気信号に含まれる複数のパルス信号の各々を抽出するステップを含む請求項1記載の部分放電検査方法。
【請求項3】
前記時間成分情報によって示される時間成分は、前記パルス信号の時間幅の加重平均を含む請求項1記載の部分放電検査方法。
【請求項4】
前記周波数成分情報によって示される周波数成分は、前記パルス信号に対してフーリエ変換を適用した結果の加重平均を含む請求項1記載の部分放電検査方法。
【請求項5】
前記信号強度情報によって示される信号強度は、前記パルス信号の信号値の絶対値の最大値を含む請求項1載の部分放電検査方法。
【請求項6】
前記作成されたマップに基づいて、前記部分放電の発生の有無を検査するステップを具備する請求項1記載の部分放電検査方法。
【請求項7】
前記検査するステップは、前記作成されたマップの経時変化に基づいて前記部分放電の発生の有無を検査するステップを含む請求項6記載の部分放電検査方法。
【請求項8】
前記検査するステップは、前記作成されたマップと部分放電を発生している電力機器に取り付けられたセンサによって計測された電気信号に基づいて作成された過去のマップとを比較することによって前記部分放電の発生の有無を検査するステップを含む請求項6記載の部分放電検査方法。
【請求項9】
前記検査するステップは、過去に作成されたマップを学習することによって生成された統計モデルを用いて前記部分放電の発生の有無を検査するステップを含む請求項6記載の部分放電検査方法。
【請求項10】
前記統計モデルは、畳み込みニューラルネットワークである請求項9記載の部分放電検査方法。
【請求項11】
前記統計モデルは、ランダムフォレストである請求項9記載の部分放電検査方法。
【請求項12】
前記検査するステップは、前記作成されたマップにプロットされた信号強度情報によって示される信号強度が予め定められた値以上であるか否かに基づいて前記部分放電の発生の有無を検査するステップを含む請求項6記載の部分放電検査方法。
【請求項13】
前記検査するステップは、前記作成されたマップにおける前記時間成分情報、前記周波数成分情報及び前記信号強度情報の組み合わせに対応する複数のプロットが離散性を有するか否かに基づいて前記部分放電の発生の有無を検査するステップを含む請求項6記載の部分放電検査方法。
【請求項14】
前記作成されたマップを表示するステップを具備する請求項1記載の部分放電検査方法。
【請求項15】
前記電気信号は、前記電力機器の盤面の電位を表す信号である請求項1~14のいずれか一項に記載の部分放電検査方法。
【請求項16】
前記電気信号は、前記電力機器に接続される接地線を流れる電流を表す信号である請求項1~14のいずれか一項に記載の部分放電検査方法。
【請求項17】
前記電気信号は、前記電力機器の動作に応じて生じる電磁波を表す信号である請求項1~14のいずれか一項に記載の部分放電検査方法。
【請求項18】
前記電気信号は、前記電力機器の動作に応じて生じる音波を表す信号である請求項1~14のいずれか一項に記載の部分放電検査方法。
【請求項19】
電力機器に取り付けられたセンサによって計測された複数のパルス信号を含む電気信号を取得する第1取得手段と、
前記取得された電気信号から前記複数のパルス信号の各々を抽出する抽出手段と、
前記抽出された複数のパルス信号の各々の時間成分を示す時間成分情報、周波数成分を示す周波数成分情報及び信号強度を示す信号強度情報を取得する第2取得手段と、
前記取得された時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報が前記抽出されたパルス信号毎にプロットされたマップを作成する作成手段と
を具備し、
前記作成されたマップは、前記電力機器からの部分放電の発生の有無を検査するために用いられる
部分放電検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電検査方法及び部分放電検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備は、社会インフラを支える設備であり、例えばインバータ装置及びスイッチギヤ等の電力機器を備える。
【0003】
電力機器は例えば表面に絶縁部を有し、当該絶縁部(の絶縁性)は経年劣化する。絶縁部の劣化は、絶縁破壊(電力機器の故障)の要因となる。
【0004】
ところで、絶縁部が劣化すると当該劣化に応じて電力機器から部分放電が発生することが知られており、当該部分放電の発生の有無を検査することは、電力機器の絶縁診断(絶縁部の劣化診断)に有用である。
【0005】
なお、部分放電の発生の有無を検査する際には電力機器の動作に応じて生じる電気信号が計測されるが、当該電気信号には、当該部分放電に基づいて生じるパルス信号(以下、部分放電信号と表記)とは別に、ノイズに起因するパルス信号(以下、ノイズ信号と表記)が含まれている場合がある。
【0006】
これによれば、電気信号に含まれるパルス信号に基づいて部分放電の発生の有無を適切に検査することが困難であり、当該検査に有用な絶縁診断技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6702573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、電力機器からの部分放電の発生の有無を検査するために有用な部分放電検査方法及び部分放電検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る部分放電検査方法は、電力機器に取り付けられたセンサによって計測された複数のパルス信号を含む電気信号を取得するステップと、前記取得された電気信号から前記複数のパルス信号の各々を抽出するステップと、前記抽出された複数のパルス信号の各々の時間成分を示す時間成分情報、周波数成分を示す周波数成分情報及び信号強度を示す信号強度情報を取得するステップと、前記取得された時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報が前記抽出されたパルス信号毎にプロットされたマップを作成するステップとを具備する。前記作成されたマップは、前記電力機器からの部分放電の発生の有無を検査するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の比較例におけるT-Fマップについて説明するための図。
図2】本実施形態の比較例におけるT-Fマップについて説明するための図。
図3】本実施形態に係る部分放電検査装置の機能構成の一例を示すブロック図。
図4】部分放電検査装置のハードウェア構成の一例を示す図。
図5】部分放電検査装置の処理手順の一例を示すフローチャート。
図6】電気信号の一例を示す図。
図7】TFVマップの一例を示す図。
図8】電力機器からの部分放電の発生の有無を検査する処理の一例について説明するための図。
図9】電力機器からの部分放電の発生の有無を検査する処理の一例について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
本実施形態に係る部分放電検査装置は、電力機器が有する絶縁部の劣化に応じた当該電力機器からの部分放電の発生の有無を検査するために用いられる。
【0012】
ここで、電力機器からの部分放電の発生の有無を検査する際には当該電力機器の動作に応じて生じる電気信号が計測されるが、当該電気信号には部分放電に基づいて生じるパルス信号(以下、部分放電信号と表記)の他にノイズに起因するパルス信号(以下、ノイズ信号と表記)が含まれている(つまり、電気信号にはノイズが発生している)。
【0013】
この場合、例えば時間軸に沿った波形の周波数特性を得ることが可能なウェーブレット変換を電気信号(パルス信号)に適用することによって当該電気信号からノイズ信号を除去することが考えられるが、例えばインバータ駆動する電力機器(例えば、インバータ盤等)の場合には、スイッチングによるノイズが大きいため、ノイズ信号を除去することが困難である。
【0014】
そこで、インバータ盤のような電力機器からの部分放電の発生を、時間-周波数解析を実施することによって作成されるT-Fマップを用いて検査するという手法(以下、本実施形態の比較例と表記)がある。以下、本実施形態の比較例について簡単に説明する。
【0015】
まず、本実施形態の比較例において用いられるT-Fマップは、電力機器の動作に応じて生じる電気信号に含まれる複数のパルス信号の各々の時間成分を示す時間成分情報及び周波数成分を示す周波数成分情報をプロット(マッピング)することによって作成される。
【0016】
本実施形態の比較例においては、このように作成されたT-Fマップにおける時間成分情報及び周波数成分情報の組み合わせに対応する複数のプロットが離散性を有する(つまり、部分放電信号のプロットの集合とノイズ信号のプロットの集合とが離散的に配置されている)ような場合には、少なくとも当該T-Fマップの作成に用いられた電気信号に部分放電信号及びノイズ信号の両方が含まれていると推定し、電力機器からの部分放電の発生があると判定する(つまり、部分放電の発生を検出する)ことができる。
【0017】
しかしながら、上記した本実施形態の比較例においては、T-Fマップを参照したとしても電力機器からの部分放電の発生を検出することができない場合がある。
【0018】
ここで、図1は、部分放電を発生していない電力機器の動作に応じて生じる電気信号(複数のパルス信号)に基づいて作成されたT-Fマップ(以下、第1T-Fマップと表記)の一例を示す。また、図2は、部分放電を発生している電力機器の動作に応じて生じる電気信号(複数のパルス信号)に基づいて作成されたT-Fマップ(以下、第2T-Fマップと表記)の一例を示す。
【0019】
例えば部分放電信号とノイズ信号とで時間成分情報及び周波数成分情報とが異なるような場合には上記したようにT-Fマップにおいて複数のプロットが離散性を有するため、当該T-Fマップを参照することにより電力機器からの部分放電の発生があると判定することができる。しかしながら、図1に示す第1T-Fマップ及び図2に示す第2T-Fマップのように、部分放電信号のプロットの集合とノイズ信号のプロットの集合とが同じ領域に重なる(つまり、当該プロットの集合が離散的に配置されていない)場合には、部分放電の発生の有無にかかわらず同様のT-Fマップが作成されてしまうため、例えば第2T-Fマップを参照したとしても部分放電の発生があると判定することができない。
【0020】
すなわち、上記した本実施形態の比較例においては、部分放電信号とノイズ信号とで時間成分情報及び周波数成分情報が被るような場合には、電力機器からの部分放電の発生の有無を適切に検査することができない場合がある。
【0021】
本実施形態に係る部分放電検査装置は、このような事情を考慮して、電力機器からの部分放電の発生の有無を適切に検査することを実現するための構成を有する。
【0022】
以下、本実施形態に係る部分放電検査装置について説明する。図3は、本実施形態に係る部分放電検査装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0023】
ここで、本実施形態に係る部分放電検査装置10が電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査するために用いられる場合、当該電力機器20には、例えば後段に配置されるモータ等に供給される電圧を制御するように構成されたインバータ盤(インバータ装置)が含まれる。以下においては電力機器20がインバータ盤である場合を想定して説明するが、当該電力機器20は、例えば遮断器、断路器、整流器または変圧器等によって構成される機器(スイッチギヤ等の受配電機器)であってもよい。また、電力機器20は、電力用変圧器、ガス絶縁開閉器、発電機またはリアクトル等のように絶縁部の劣化に応じて部分放電を発生する可能性がある機器であればよい。
【0024】
電力機器20(インバータ盤)は表面が絶縁部で覆われた構造を有し、当該電力機器20には、センサ21が取り付けられている。
【0025】
なお、図3においては便宜的に1つの電力機器20のみが示されているが、当該電力機器20は複数であってもよい。また、複数の電力機器20が存在する場合には、当該複数の電力機器20と同じ数のセンサ21が用意されていてもよいし、着脱可能に構成された1つのセンサ21が当該複数の電力機器20に順次取り付けられてもよい。
【0026】
図3に示すように、部分放電検査装置10は、電気信号取得部11、パルス信号抽出部12、時間成分情報取得部13、周波数成分情報取得部14、信号強度情報取得部15、マップ作成部16及び検査部17を含む。なお、部分放電検査装置10は、電力機器20に取り付けられているセンサ21と接続されているものとする。
【0027】
ここで、センサ21は、当該センサ21が取り付けられている電力機器20の動作に応じて生じる電気信号を計測するように構成されている。電気信号取得部11は、このようなセンサ21によって計測された電気信号を取得する。電気信号取得部11によって取得される電気信号は、複数のパルス信号を含む。なお、電力機器20が部分放電を発生している場合、複数のパルス信号には、当該部分放電に基づいて生じるパルス信号(部分放電信号)及び当該部分放電信号とは異なるノイズに起因するパルス信号(ノイズ信号)が含まれる。一方、電力機器20が部分放電を発生していない場合、複数のパルス信号には、ノイズ信号のみが含まれる。
【0028】
パルス信号抽出部12は、電気信号取得部11によって取得された電気信号から複数のパルス信号の各々を抽出する。
【0029】
時間成分情報取得部13は、パルス信号抽出部12によって抽出された複数のパルス信号の各々の時間成分を示す時間成分情報を取得する。
【0030】
周波数成分情報取得部14は、パルス信号抽出部12によって抽出された複数のパルス信号の各々の周波数成分を示す周波数成分情報を取得する。
【0031】
信号強度情報取得部15は、パルス信号抽出部12によって抽出された複数のパルス信号の各々の信号強度を示す信号強度情報を取得する。
【0032】
すなわち、本実施形態においては、電気信号からパルス信号毎の時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報が読み取られる。
【0033】
マップ作成部16は、時間成分情報取得部13によって取得された時間成分情報、周波数成分情報取得部14によって取得された周波数成分情報及び信号強度情報取得部15によって取得された信号強度情報がパルス信号抽出部12によって抽出されたパルス信号毎にプロットされたマップを作成する。
【0034】
なお、上記した本実施形態の比較例においては時間成分情報及び周波数成分情報がプロットされることによって2次元のT-Fマップが作成されるものとして説明したが、本実施形態においては、時間成分情報及び周波数成分情報に追加して信号強度情報がプロットされた3次元のマップが作成される。また、本実施形態において「時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報をプロットする」とは、当該時間成分情報(によって示される時間成分)、当該周波数成分情報(によって示される周波数成分)及び信号強度情報(によって示される信号強度)の組み合わせに対応する点(プロット)をマップ上に配置することをいう。以下、本実施形態において作成されるマップを、便宜的に、TFVマップと称する。
【0035】
検査部17は、マップ作成部16によって作成されたTFVマップに基づいて、電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査する。なお、本実施形態における「電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査する」とは、当該部分放電の発生があるか否かを判定すること等を含む。
【0036】
図4は、図2に示す部分放電検査装置10のハードウェア構成の一例を示す。部分放電検査装置10は、CPU101、不揮発性メモリ102、RAM103及び通信デバイス104等を備える。また、部分放電検査装置10は、CPU101、不揮発性メモリ102、RAM103及び通信デバイス104を相互に接続するバス105を有する。
【0037】
CPU101は、部分放電検査装置10内の各コンポーネントの動作を制御するためのプロセッサである。CPU101は、単一のプロセッサであってもよいし、複数のプロセッサで構成されていてもよい。CPU101は、不揮発性メモリ102からRAM103にロードされる様々なプログラムを実行する。本実施形態においてCPU101によって実行されるプログラムには、部分放電検査プログラム103aが含まれる。
【0038】
なお、上記した図3に示す電気信号取得部11、パルス信号抽出部12、時間成分情報取得部13、周波数成分情報取得部14、信号強度情報取得部15、マップ作成部16及び検査部17の一部または全ては、例えばCPU101(つまり、部分放電検査装置10のコンピュータ)が部分放電検査プログラム103aを実行すること、すなわち、ソフトウェアによって実現されるものとする。この部分放電検査プログラム103aは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納して頒布されてもよいし、ネットワークを通じて部分放電検査装置10にダウンロードされてもよい。
【0039】
ここでは各部11~17の一部または全てがソフトウェアによって実現されるものとして説明したが、当該各部11~17の一部または全ては、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェア及びハードウェアの組み合わせ構成によって実現されてもよい。
【0040】
不揮発性メモリ102は、補助記憶装置として用いられる記憶媒体である。RAM103は、主記憶装置として用いられる記憶媒体である。図4においては、不揮発性メモリ102及びRAM103のみが示されているが、部分放電検査装置10は、例えばHDD(Hard Disk Drive)及びSSD(Solid State Drive)等の他の記憶装置を備えていてもよい。
【0041】
通信デバイス104は、外部機器との有線通信または無線通信を実行するように構成されたデバイスである。なお、本実施形態における外部機器には例えば電力機器20に取り付けられているセンサ21が含まれるが、部分放電検査装置10は、通信デバイス104を介して、サーバ装置等の外部装置と通信可能に構成されていてもよい。
【0042】
図4においては省略されているが、部分放電検査装置10は、例えばマウスまたはキーボードのような入力装置及びディスプレイのような表示装置を更に備えていてもよい。
【0043】
次に、図5のフローチャートを参照して、部分放電検査装置10の処理手順の一例について説明する。なお、図5に示す処理は、例えば電力機器20(または部分放電検査装置10)の管理者等によって指示されたタイミングで実行されてもよいし、予め定められたタイミング(時刻)等に自動的に実行されてもよい。
【0044】
図5に示す処理が実行される場合、センサ21は、電力機器20の動作に応じて生じる電気信号を計測する。なお、例えばセンサ21が過渡接地電位センサ(TEVセンサ)である場合、当該センサ21は、例えば電力機器20(インバータ盤)の盤面に取り付けられており、当該電力機器20の盤面の電位を表す電気信号を計測する。センサ21によって計測された電気信号は、例えばケーブルを介して、当該センサ21から部分放電検査装置10に出力(送信)される。
【0045】
電気信号取得部11は、上記したようにセンサ21から部分放電検査装置10に出力された電気信号を取得する(ステップS1)。なお、図6はステップS1において取得される電気信号の一例を示しており、当該電気信号には複数のパルス信号が含まれている。
【0046】
次に、パルス信号抽出部12は、ステップS1において取得された電気信号からパルス信号を抽出する(ステップS2)。
【0047】
この場合、パルス信号抽出部12は、例えばステップS1において取得された電気信号(生波形)に対して所定のローパスフィルタを適用し、当該ローパスフィルタを通過した信号値(例えば、電圧値)の平均値を閾値とする。パルス信号抽出部12は、このような閾値を超える信号値のうちの最大値をパルス信号のピーク値として検出し、当該検出されたピーク値を含む所定の時間範囲の信号をパルス信号として抽出することができる。
【0048】
なお、ここで説明したパルス信号を抽出する処理は一例であり、ステップS2においては、他の処理が実行されることによってパルス信号が抽出されてもよい。
【0049】
ステップS2の処理が実行されると、ステップS1において取得された電気信号から全てのパルス信号が検出されたか否かが判定される(ステップS3)。
【0050】
全てのパルス信号が検出されていないと判定された場合(ステップS3のNO)、ステップS2に戻って処理が繰り返される。このようにステップS2の処理が繰り返し実行されることにより、ステップS1において取得された電気信号から複数のパルス信号の各々が抽出される。
【0051】
一方、全てのパルス信号が検出されたと判定された場合(ステップS3のYES)、ステップS2において抽出された複数のパルス信号の各々についてステップS4~S7の処理が実行される。以下の説明においては、ステップS4~S7の処理に対象となるパルス信号を対象パルス信号と称する。
【0052】
まず、時間成分情報取得部13は、対象パルス信号の時間成分を示す時間成分情報を取得する(ステップS4)。なお、本実施形態における時間成分情報によって示される時間成分は、対象パルス信号の時間幅の加重平均を含む。この対象パルス信号の時間幅の加重平均Tは、以下の式(1)によって算出される。
【数1】
【0053】
なお、上記した式(1)において、t(i=1,2,…,N)は対象パルス信号に対するサンプリング時刻、tは対象パルス信号の重心の時刻を表している。また、式(1)におけるsは、サンプリング時刻tにおける対象パルス信号の信号出力(信号強度)を表している。
【0054】
ステップS4においては、上記した式(1)によって算出された対象パルス信号の時間幅の加重平均Tを時間成分として示す時間成分情報が取得される。
【0055】
次に、周波数成分情報取得部14は、対象パルス信号の周波数成分を示す周波数成分情報を取得する(ステップS5)。なお、本実施形態における周波数成分情報によって示される周波数成分は、対象パルス信号に対してフーリエ変換を適用した結果の加重平均(以下、対象パルス信号に対するフーリエ変換結果の加重平均と表記)を含む。この対象パルス信号に対するフーリエ変換結果の加重平均Fは、以下の式(2)によって算出される。
【数2】
【0056】
なお、フーリエ変換は時間領域表現を周波数領域表現に変換する解析手法であるが、上記した式(2)において、f(i=1,2,…,N)は、フーリエ変換後の周波数領域を表している。また、sは、周波数領域fにおける信号強度(周波数強度)を表している。
【0057】
ステップS5においては、上記した式(2)によって算出された対象パルス信号に対するフーリエ変換結果の加重平均Fを周波数成分として示す周波数成分情報が取得される。
【0058】
次に、信号強度情報取得部15は、対象パルス信号の信号強度を示す信号強度情報を取得する(ステップS6)。なお、本実施形態における信号強度情報によって示される信号強度は、対象パルス信号の信号値(電圧値)の絶対値の最大値Vを含む。
【0059】
ここで説明した時間成分情報(対象パルス信号の時間成分)、周波数成分情報(対象パルスの周波数成分)及び信号強度情報(対象パルス信号の信号強度)は一例であり、本実施形態においては、TFVマップを作成するために用いられる対象パルス信号の時間成分、周波数成分及び信号強度に関する情報が取得されればよい。
【0060】
また、図5においてはステップS4~S6の順に処理が実行されるものとして説明したが、当該ステップS4~S6の処理の順番は変更されてもよいし、当該ステップS4~S6の処理は並列に実行されても構わない。
【0061】
上記したステップS4~S6の処理が実行されると、マップ作成部16は、当該ステップS4~S6において取得された時間成分情報(対象パル信号の時間幅の加重平均T)、周波数成分情報(対象パルス信号に対するフーリエ変換結果の加重平均F)及び信号強度情報(対象パルス信号の信号値の絶対値の最大値V)を、予め用意されているTFVマップのフォーマット上にプロットする(ステップS7)。
【0062】
上記したようにステップS4~S7の処理は、ステップS2において抽出された全てのパルス信号について実行される。これによれば、ステップS4~S6の処理が実行されることによって取得される時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報が全てのパルス信号についてプロットされたTFVマップが作成される。
【0063】
なお、図7は、TFVマップ(TFVプロット)の一例を示す。本実施形態において、TFVマップは、例えば横軸を時間成分、縦軸を周波数成分とし、信号強度(電圧値)を色彩の変化で表現する形式を有するマップ(つまり、時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報を3次元的に表したマップ)であるものとする。
【0064】
再び図5に戻ると、検査部17は、上記したように作成されたTFVマップに基づいて、電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査する(ステップS8)。
【0065】
以下、ステップS8の処理の一例について説明する。上記したステップS4~S7の処理がパルス信号毎に実行されることによって作成されたTFVマップを対象TFVマップと称するものとすると、ステップS8の処理は、当該対象TFVマップと比較用TFVマップとを比較することによって実行される。なお、比較用TFVマップは、部分放電検査装置10(検査部17)の内部に予め保持されているものとする。
【0066】
具体的には、比較用TFVマップは、例えば部分放電が発生していない状態において電力機器20に取り付けられたセンサ21によって計測された電気信号に含まれる複数のパルス信号の各々の時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報をプロットしたTFVマップ(以下、第1比較用TFVマップと表記)であるものとする。換言すれば、第1比較用TFVマップは、部分放電信号を含まない電気信号に基づいて作成されたTFVマップ(部分放電が発生していない状態の電力機器20のTFVマップ)であるといえる。この場合、ステップS8においては、対象TFVマップと第1比較用TFVマップとの差異を評価することによって、電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査することができる。
【0067】
ここで、図8は対象TFVマップの一例を示し、図9は第1比較用TFVマップの一例を示している。この場合、図8に示す対象TFVマップと図9に示す第1比較用TFVマップとにおいては、主に信号強度の点において明確な差異が観察されるため、ステップS8においては、電力機器20からの部分放電の発生がある(つまり、センサ21によって計測された電気信号に部分放電信号が含まれている)と判定される。一方、対象TFVと第1比較用TFVマップとにおいて差異が観察されない場合、ステップS8においては、電力機器20からの部分放電の発生がない(つまり、センサ21によって計測された電気信号に部分放電信号が含まれていない)と判定される。
【0068】
すなわち、本実施形態においては、部分放電検査装置10の内部に予め保持されている第1比較用TFVマップ(電力機器20が部分放電を発生していない時点で事前に作成されたTFVマップ)から対象TFVマップへの経時変化に基づいて部分放電の発生の有無を検査することができる。
【0069】
ここでは電力機器20が部分放電を発生していない時点で事前に作成された第1比較用TFVマップを用いるものとして説明したが、比較用TFVマップは、部分放電を発生している状態の電力機器20のTFVマップ(以下、第2比較用TFVマップと表記)であってもよい。なお、第2比較用TFVマップは、部分放電を発生している電力機器20に取り付けられたセンサによって計測された電気信号に基づいて作成された過去のTFVマップに相当する。
【0070】
この場合、検査部17は、上記した対象TFVマップと第2比較用TFVマップとの類似度を評価することによって、電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査することができる。
【0071】
具体的には、検査部17は、例えば対象TFVマップと第2比較用TFVマップとの類似度が予め定められた値以上である場合には電力機器20からの部分放電の発生があると判定することができ、当該類似度が予め定められた値未満である場合には電力機器20からの部分放電の発生がないと判定することができる。対象TFVマップと第2比較用TFVマップとの類似度は、例えば当該対象TFVマップにおける複数のプロットの配置及び当該第2比較用TFVマップにおける複数のプロットの配置に基づいて算出することができるものとする。
【0072】
なお、上記した第2比較用TFVマップは例えば過去に発生した部分放電に関する情報を管理するデータベース等に予め格納されているものとし、本実施形態においては、このような第2比較用TFVマップを利用して部分放電の発生の有無を検査する構成を採用することができる。
【0073】
また、ここでは対象TFVマップと比較用TFVマップ(第1または第2比較用TFVマップ)とを比較することによって電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査するものとして説明したが、上記したステップS8の処理は、例えば機械学習または人工知能(AI:Artificial Intelligence)と称される技術に基づいて生成されている統計モデルを用いて実行されても構わない。
【0074】
統計モデルは、例えば上記した第1または第2比較用TFVマップのような過去に作成されたTFVマップ(つまり、部分放電信号を含まない電気信号から作成されたTFVマップまたは部分放電信号を含む電気信号から作成されたTFVマップ)を学習データとして用いた学習処理が実行されることによって予め生成されているものとする。これによれば、例えば対象TFVマップを入力することによって当該対象TFVマップと類似するTFVマップ(プロット)を識別し、当該識別結果に基づく電力機器20からの部分放電の発生の有無を示す検査結果を出力するような統計モデルを構築することができる。
【0075】
なお、TFVマップは電気信号の計測環境(例えば、センサ21の取り付け位置や当該センサ21と部分放電検査装置10とを接続するケーブルの長さ等)に応じて変化することが考えられるため、様々な計測環境において計測された電気信号に基づいて作成された過去のTFVマップを用いた学習処理を実行しておくことで、当該計測環境の変化に柔軟に対応することができる統計モデルを構築することができる。
【0076】
また、統計モデルは例えばニューラルネットワークであるが、上記したTFVマップを3次元情報として扱い、当該3次元情報を統計モデルに入力するような場合には、一般に3次元情報の認識に適していると考えられている畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を利用すればよい。ただし、統計モデルは、例えば全結合ニューラルネットワーク及び再帰型ニューラルネットワークであってもよい。更に、統計モデルは、ランダムフォレストであってもよいし、他の機械学習アルゴリズムによって生成されたものであってもよい。
【0077】
更に、例えば上記した図8及び図9に示すように部分放電が発生している状態の電力機器20のTFVマップと部分放電が発生していない状態の電力機器20のTFVマップとは主に信号強度の点で差異が認められるため、上記したステップS8の処理は、当該信号強度(電圧値)に基づいて実行されてもよい。具体的には、例えば部分放電が発生していない状態の電力機器20のTFVマップにプロットされた信号強度情報によって示される信号強度を閾値とし、対象TFVマップにプロットされた信号強度情報によって示される信号強度が当該閾値を超えるようであれば、電力機器20からの部分放電の発生があると判定するようにしてもよい。
【0078】
なお、図9に示す例によれば、当該部分放電が発生していない状態の電力機器20のTFVマップにプロットされた信号強度(情報)の最大値(最大電圧値)は4V程度である。これに対して、図8に示すような部分放電が発生している状態の電力機器20のTFVマップにプロットされた信号強度の最大値は6V程度であるため、当該図8に示すTFVマップに基づいて電力機器20からの部分放電があると判定することができる。
【0079】
また、上記した図1及び図2に示すT-Fマップにおいては複数のプロットが離散性を有していないため、電力機器20からの部分放電の発生があると判定することが困難であるが、本実施形態におけるTFVマップは、時間成分情報及び周波数成分情報に追加して信号強度情報をプロットすることによって作成される。
【0080】
このように時間成分情報及び周波数成分情報に対して更に信号強度情報を加味したTFVマップによれば、部分放電が発生している際の複数のプロットの離散性を表現することができると考えられる。具体的には、例えば上記した図8に示すTFVマップは、信号強度が低いノイズ信号に対応するプロットが配置されている領域に対して、信号強度が高い部分放電信号に対応するプロットが離散的に配置されているといえる。このため、本実施形態においては、対象TFVマップにおける複数のプロットが離散性を有する(離散的に配置されている)か否かに基づいて部分放電の発生の有無を検査するようにしてもよい。
【0081】
なお、ここでは電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査する複数の手法について説明したが、本実施形態においては、これらのうちの2つ以上の手法を組み合わせて電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査してもよい。すなわち、本実施形態においては、例えば上記した複数の手法のうちの少なくとも2つ以上の手法に基づく検査結果を総合的に勘案して電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査する(部分放電の発生があるまたは部分放電の発生がないと判定する)ような構成であってもよい。
【0082】
図5に示す例ではステップS8の処理が実行された場合に当該図5に示す処理が終了されるものとして示されているが、当該ステップS8の処理の結果(つまり、電力機器20からの部分放電の発生の有無の検査結果)は、検査部17から出力される。この場合、検査結果は、例えば部分放電検査装置10の外部装置(例えば、サーバ装置等)に送信されてもよいし、当該部分放電検査装置10が備える表示装置(ディスプレイ)に表示されてもよい。また、検査結果は、部分放電検査装置10の内部に保持(蓄積)されてもよい。
【0083】
上記したように本実施形態に係る部分放電検査装置10は、電力機器20に取り付けられたセンサ21によって計測された複数のパルス信号を含む電気信号を取得し、当該取得された電気信号から複数のパルス信号の各々を抽出し、当該抽出された複数のパルス信号の各々の時間成分を示す時間成分情報、周波数成分を示す周波数成分情報及び信号強度を示す信号強度情報を取得し、当該取得された時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報がパルス信号毎にプロットされた対象TFVマップを作成する。
【0084】
なお、電気信号に含まれる複数のパルス信号の各々は、例えば当該電気信号に対してローパスフィルタを適用し、当該ローパスフィルタを通過した信号値の平均値を超える信号値に基づいて抽出することができるものとする。また、時間成分情報によって示される時間成分は、例えばパルス信号の時間幅の加重平均を含む。更に、周波数成分情報によって示される周波数成分は、例えばパルス信号に対してフーリエ変換を適用した結果の加重平均を含む。また、信号強度情報によって示される信号強度は、例えばパルス信号の信号値の絶対値の最大値を含む。
【0085】
本実施形態においては、上記した構成により、部分放電の発生の有無を検査するために有用な部分放電検査装置10を実現することができる。
【0086】
具体的には、本実施形態に係る部分放電検査装置10は、上記した対象TFVマップに基づいて、電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査するように構成されているものとする。
【0087】
この場合、部分放電の発生の有無は、例えば対象TFVマップと上記した第1比較用TFVマップ(例えば、部分放電が発生していない時点で事前に作成されたTFVマップ)とを比較することによって検査される。すなわち、本実施形態においては、TFVマップの経時変化(つまり、部分放電が発生していない新品時の電力機器20のTFVマップから現在の電力機器20のTFVマップへの時間推移)に基づいて電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査することができる。
【0088】
このような構成によれば、本実施形態の比較例のように部分放電信号とノイズ信号との時間成分情報及び周波数成分情報が類似することによって当該時間成分情報及び周波数成分情報がプロットされたT-Fマップでは複数のプロットの集合が離散性を有しない場合であっても、TFVマップを用いることによって適切に部分放電の発生の有無を検査することが可能となる。
【0089】
なお、本実施形態は、対象TFVマップと第2比較用TFVマップ(部分放電が発生している電力機器20に取り付けられたセンサ21によって計測された電気信号に基づいて作成された過去のTFVマップ)とを比較することによって部分放電の発生の有無を検査する構成であってもよい。換言すれば、本実施形態においては、対象TFVマップが過去の部分放電に関する情報を管理するデータベース等に格納されている過去のTFVマップと類似するか否か等に基づいて電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査するようにしてもよい。
【0090】
また、本実施形態においては、対象TFVマップに基づいて部分放電の発生の有無を検査する構成であればよい。このため、本実施形態は、例えば過去に作成されたTFVマップを学習することによって生成された統計モデル(例えば、畳み込みニューラルネットワークまたはランダムフォレスト等)を用いて部分放電の発生の有無を検査する構成であってもよいし、対象TFVマップにプロットされた信号強度情報によって示される信号強度が予め定められた値(閾値)以上であるか否かに基づいて部分放電の発生の有無を検査する構成であってもよいし、対象TFVマップにおける時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報の組み合わせに対応する複数のプロットが離散性を有するか否かに基づいて部分放電の発生の有無を検査する構成であってもよい。
【0091】
すなわち、本実施形態においては、部分放電の発生の有無を検査するために、電気信号から抽出された複数のパルス信号の時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報がプロットされたTFVマップを作成する構成であればよく、当該TFVマップを用いた当該部分放電の発生の有無を検査する処理については様々な処理が実行され得る。
【0092】
また、本実施形態においては部分放電検査装置10がTFVマップを用いて自動的に部分放電の発生の有無を検査する機能を有するものとして説明したが、当該部分放電検査装置10は、当該部分放電の発生の有無を検査するために用いられる構成であればよい。すなわち、本実施形態に係る部分放電検査装置10は、例えばマップ作成部16によって作成されたTFVマップを当該部分放電検査装置10に備えられる表示装置等に表示(出力)するように構成されていてもよい。この場合には、例えば表示装置に表示されたTFVマップを参照して、電力機器20の管理者等が当該電力機器20からの部分放電の発生の有無を判断すればよい。また、マップ作成部16によって作成されたTFVマップは、外部装置(サーバ装置等)に送信されてもよいし、部分放電検査装置10の内部に保持(蓄積)されてもよい。
【0093】
上記したように部分放電検査装置10が部分放電の発生の有無を検査しない場合、当該部分放電検査装置10は、検査部17が省略された構成であってもよい。すなわち、本実施形態に係る部分放電検査装置10は、少なくとも電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査するために利用されるTFVマップを作成する機能を有するように構成されていればよい。
【0094】
なお、上記した本実施形態の比較例において用いられるT-Fマップにおいては、図1及び図2に示すように時間成分情報と当該時間成分情報に対応するパルス信号の周波数成分との組み合わせに対応するプロットが配置される。これに対して、本実施形態におけるTFVマップは、本実施形態の比較例において用いられるT-Fマップに信号強度(電圧値)を追加して電気信号に含まれる部分放電信号の特徴をより適切に表現する(例えば、部分放電信号とノイズ信号との離散性を明示する)ことが可能であるため、部分放電の発生の有無の検査精度を向上することができる。
【0095】
また、本実施形態においてはセンサ21がTEVセンサであり、当該センサ21によって電力機器20(インバータ盤)の盤面の電位を表す電気信号が計測されるものとして説明したが、当該電気信号は、電力機器20の動作に応じて生じる物理量を表す信号であればよい。具体的には、電気信号は電力機器20に接続される接地線を流れる電流を表す信号であってもよく、この場合にはセンサ21としてカレントトランスフォーマー等を使用することができる。更に、電気信号は電力機器20の動作に応じて生じる電磁波を表す信号であってもよく、この場合にはセンサ21としてTEVセンサ等を使用することができる。また、電気信号は電力機器20の動作に応じて生じる音波を表す信号であってもよく、この場合にはセンサ21としてAE(Acoustic Emission)センサ等を使用することができる。本実施形態においては、電力機器20の盤面の電位以外の物理量を表す電気信号が計測された場合であっても、当該電気信号(から抽出された複数のパルス信号)から取得される時間成分情報、周波数成分情報及び信号強度情報の組み合わせが当該パルス信号毎にプロットされたTFVマップを作成し、電力機器20からの部分放電の発生の有無を検査するために当該TFVマップを用いることが可能である。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
10…部分放電検査装置、11…電気信号取得部、12…パルス信号抽出部、13…時間成分情報取得部、14…周波数成分情報取得部、15…信号強度情報取得部、16…マップ作成部、17…検査部、20…電力機器、21…センサ、101…CPU、102…不揮発性メモリ、103…RAM、103a…部分放電検査プログラム、104…通信デバイス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9