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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035534
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
A61B5/055 362
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140052
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今村 幸信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】羽原 秀太
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB42
4C096CA15
4C096CA16
4C096CA17
4C096CA18
4C096CA62
4C096CA70
(57)【要約】      (修正有)
【課題】RFシールドが傾斜磁場による渦電流の発生を抑制するためには,RFシールドをタイル状又はスリットを有する短冊形状の薄板の導電性材料で構成する必要がある。一方,渦電流による発熱温度上昇を抑制するためには冷却が必要であり、さらに,患者が挿入される開口部の拡大のためには静磁場磁石内にあって概略同心円筒状の傾斜磁場コイルとRFコイルおよびRFシールドは薄型化が求められる。
【解決手段】タイル状又はスリットを有する薄板の導電材をシート状に形成されたRFシールドを、傾斜磁場コイルの内円筒表面に接着又は貼付して設置する構造であって,RFシールドを傾斜磁場コイル内円筒面のX傾斜磁場コイルパターンおよびY傾斜磁場コイルパターンのターン中心付近を含む領域に接着又は貼付、又は,RFシールドを、RFシールドの薄板導電材のパターン又はスリットに沿って接着又は貼付する構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴イメージング装置であって、
撮像空間に静磁場を発生する磁極と,前記撮像空間内に位置に対して線形な磁場強度の動磁場を発生する傾斜磁場コイルと,前記撮像空間内に高周波磁場を発生させる高周波コイルと,前記傾斜磁場コイルと前記高周波コイルの間にあって前記高周波磁場と前記傾斜磁場コイルとの電磁気的な結合を軽減するRFシールドを有し、
前記RFシールドは前記傾斜磁場コイルの表面に接着又は貼付して設置され,かつ接着又は貼付位置は,前記傾斜磁場コイルを構成するX又はY傾斜磁場コイル導体が巻き回されたターン中心付近の領域である、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記RFシールドは絶縁材で構成されるシート状の部材に短冊状で薄膜の導電性部材のパターンを貼り付けて構成され,前記RFシールドを構成する導電性部材のパターン端部又はパターン間の溝に沿った位置で前記傾斜磁場コイルと接着又は貼付される、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
シート状に形成された前記RFシールドは,少なくとも1/3以上の面積を前記傾斜磁場コイルに接着又は貼付される、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記磁極と前記傾斜磁場コイルと前記高周波コイルと前記RFシールドは,概略同心円筒形状で前記撮像空間を含む概略同軸上にあり,前記RFシールドは前記傾斜磁場コイルの内円筒面に接着又は貼付される、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記磁極と前記傾斜磁場コイルと前記高周波コイルと前記RFシールドは,前記撮像空間を挟んで対向した一対の概略円盤形状であって,前記RFシールドは前記傾斜磁場コイルの撮像空間側の表面に接着又は貼付される、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,磁気共鳴イメージング装置において,高周波照射(以下、RFと称す)コイルによる高周波磁場と傾斜磁場コイルとの磁気的結合を遮断するために傾斜磁場コイルの内表面に貼付するRFシールドの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置(以下,MRI装置と称する)は,均一な静磁場中に置かれた被検体に高周波パルスを照射したときに生じる核磁気共鳴現象を利用して,被検体の物理的,化学的性質を示す断面画像を得る装置であり,特に,医療用として用いられている。
【0003】
MRI装置は,主に被検体が挿入される撮像空間に均一な静磁場を生成する磁石装置と,撮像空間に位置情報を付与するために空間的に勾配した磁場をパルス状に発生させる傾斜磁場コイル,被検体に高周波パルスを照射するRFコイル,被検体からの磁気共鳴信号を受信する受信コイル,および,受信した信号を処理して画像を表示するコンピュータシステムから構成されている。
【0004】
MRI装置の主な性能向上の手段として,磁石装置が発生する静磁場の強度向上がある。静磁場がより強いほど,鮮明な画像が得られるため,MRI装置は磁場強度の向上を指向して開発が続けられている。また,傾斜磁場コイルについては,画質向上と撮像時間の短縮のために発生する傾斜磁場の強度向上とパルス間隔の短縮が図られている。RFコイルは,原子核スピンに磁気共鳴現象を生じさせ,電磁波として磁気共鳴信号を取得する。このため,鮮明な画像取得には,静磁場強度で決まる周波数の高周波の電磁場を均一な分布で被検体に照射することによる,磁気共鳴信号と雑音の比(SN比)の向上が求められている。
【0005】
一般的な水平磁場型のMRI装置において,傾斜磁場コイルは概略円筒形状の磁石装置としての静磁場磁石の内周側に概略同心円形状で設置される。さらに,RFコイルも概略同心円筒形状であり,傾斜磁場コイルの内周側に静磁場磁石および傾斜磁場コイルと概略同心軸上に設置される。
【0006】
RFコイルに静磁場強度で決まる周波数の電流を通電して発生させた電磁場は,被検体に照射される以外に,RFコイルの外周側にある傾斜磁場コイルとの間に磁気的な結合を生じる。このため,RFコイルが発生する電磁場を傾斜磁場コイル側に漏らさないように,RFコイルと傾斜磁場コイルの間にはRFシールドが設置される。RFシールドもRFコイルと概略同心円筒形状であり,一般にMRI装置では銅材,アルミ材又はステンレス材などからなる薄板の非磁性体の導電性材料が用いられる。
【0007】
傾斜磁場コイルは被検体が置かれる撮像空間にパルス状の傾斜磁場を生成するが,傾斜磁場コイルと被検体との間にあるRFシールドは導電性の薄板材で傾斜磁場パルスを受けるために渦電流が発生する。この渦電流によるジュール発熱がRFシールドの温度上昇の要因となる。
【0008】
近年のMRI装置ではエコープラナーイメージング法(EPI)に代表される高速撮像法が多用される傾向にあるが,これらの高速撮像法は,高強度の傾斜磁場パルスを多数回に渡って俊敏に立上げ・立下げすることで実現される。このため,RFシールドに発生する渦電流も増加傾向にあり渦電流発熱に伴う温度上昇の増大を抑制することが課題となっている。
【0009】
従来,傾斜磁場によるRFシールドの渦電流発熱を低減する手法としては,特許文献1に示すようにRFシールドの薄板にスリットを入れる又はタイル状のパターンとすることで,渦電流の発生量を低減する手法が知られている。これは,RF照射コイルが発生する高周波電磁場の周波数(数10~数100MHz)に対して傾斜磁場パルスの周波数(~数kHz)が低いため,高周波電磁場に対しては低インピーダンスで傾斜磁場に対しては高インピーダンスとなるように成型したものである。しかしながら,スリット又はタイル分割の数を増やすと高周波電磁場に対しても抵抗が増加するため,RFシールドの効果が低下してしまう。従って,本方式ではRFシールドの効果が低減しない程度で渦電流の発生は許容せざるを得ない。
【0010】
また,RFシールドの発熱による温度上昇を抑制する手法としては特許文献2に示すような水冷又は空冷による冷却構造を設けるなどの方策がとられる場合がある。一方で近年のMRI装置においては,撮像中の患者が閉塞感を感じることが無いように開口部が大きく取られる傾向にある。このため,傾斜磁場コイル,RFコイルおよびRFシールドは静磁場磁石に対して同心円筒状で薄型化が進んでおり,冷却構造などは簡略化されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平03―050543号公報
【特許文献2】特開2006―116300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1が示すように,RFシールドがRFコイルと傾斜磁場コイルの磁気的な結合を低減する機能を持ちながら傾斜磁場による渦電流の発生を抑制するためには,RFシールドをタイル状又はスリットを有した短冊形状の薄板の導電性材料で構成する必要がある。一方,特許文献2が示すように渦電流による発熱温度上昇を抑制するためには冷却が必要である。さらに,患者が挿入される開口部の拡大のためには静磁場磁石内にあって概略同心円筒状の傾斜磁場コイルとRFコイルおよびRFシールドは薄型化が求められる。
【0013】
本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,RFシールドを傾斜磁場コイル内周面の傾斜磁場が強い傾斜磁場コイルターン中心付近に貼り付け,傾斜磁場コイルとの熱抵抗を小さくすることで,専用の水冷又は空冷の冷却構造無しにRFシールドの温度上昇を抑制することが可能なMRI装置を構成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために,本発明においては、撮像空間に静磁場を発生する磁極と,前記撮像空間内に位置に対して線形な磁場強度の動磁場を発生する傾斜磁場コイルと,前記撮像空間内に高周波磁場を発生させる高周波コイルと,前記傾斜磁場コイルと前記高周波コイルの間にあって高周波電磁場と傾斜磁場コイルとの電磁気的な結合を軽減するRFシールドを有し、前記RFシールドは前記傾斜磁場コイルの表面に接着又は貼付して設置され,かつ前記接着又は貼付位置は,傾斜磁場コイルを構成するX又はY傾斜磁場コイル導体が巻き回されたターン中心付近の領域である構成のMRI装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のRFシールドの設置方法によるMRI装置によれば,傾斜磁場コイル通電に伴うRFシールドに発生する渦電流発熱を起因とする温度上昇が抑制され、追加の冷却構造なしにRFシールドの温度上昇が抑制されるため薄肉化が可能となり大口径のMRI装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1に係るRFシールドの一構成例を示す図である。
図2】実施例1に係る水平磁場型MRI装置の模式外観斜視図である。
図3】実施例1のMRI装置の他の方式を示す模式外観斜視図である。
図4】実施例1に係る水平磁場型のMRI装置に使用される傾斜磁場コイルのX傾斜磁場コイルの導体形状を示す展開図である。
図5】実施例1に係る開放型のMRI装置に使用される傾斜磁場コイルのX傾斜磁場コイルの導体形状を示す平面図である。
図6】実施例2に係るMRI装置に使用されるRFシールドと傾斜磁場コイル内円筒面への接着又は貼付位置を示す部分展開図である。
図7】実施例3に係る開放型MRI装置に使用されるRFシールドと傾斜磁場コイル内表面への接着又は貼付位置を示す部分展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例0018】
図2に示すように,一般的な水平磁場型MRI装置は,超電導コイルからなる円筒状の磁極1を有しており,撮像空間2に矢印3で示す方向に静磁場を発生する。被検者4は可動式のベッド5によって,撮像空間2に運ばれて画像を取得する。このようなMRI装置は,主に超電導コイルを用いた静磁場を発生する磁極1の内部に,同心円筒の傾斜磁場コイル6とRFコイル7を有しており,これらは,それぞれ画像取得の位置情報と磁気共鳴を生じさせ信号を取得する常伝導のコイルである。
【0019】
RFシールドは傾斜磁場コイル6とRFコイル7の間にあって,接着又は両面テープを用いた貼付により傾斜磁場コイル6の内表面に設置されている。これらは,磁極と一体で図示されていないカバーで覆われている。なお,MRI装置には,これ以外の主要な構成機器として,傾斜磁場コイルやRFコイルなどの常伝導コイルに電流を供給する電源装置,これらの常伝導コイルや電源装置を冷却するための水冷又は空冷装置,および,操作や画像を表示するためのコンピュータシステムがあるが,これらは図では省略されている。
【0020】
図3には,MRI装置のもう一つの一般的な方式である開放型と呼ばれるMRI装置の一構成例を示す。静磁場を発生する円盤形状の上下磁極1を撮像空間2の上下に配置し,撮像空間2には矢印3の方向に静磁場を発生する。被検者4が可動式のベッド5によって撮像空間2に運ばれて画像を取得するのは図2の場合と同様である。
【0021】
本構成の開放型MRI装置では,上下磁極間は柱などの構造物で支持される他,図3のような概略C字形状を有する磁性体のリターンヨーク8で連結される場合があり,特に静磁場の磁場強度が1テスラ以下の装置にみられる。このような開放型のMRI装置では,傾斜磁場コイル6とRFコイル7は磁極と同じく撮像空間2の上下に配した円盤形状で,磁極と一体で図示していないカバーで覆われている。
【0022】
RFシールドも概略円盤形状で,それぞれ上下磁極の傾斜磁場コイルとRFシールドの間にあって傾斜磁場コイルの撮像空間側表面に設置されている。なお,これ以外の主要な構成機器として,傾斜磁場コイルやRFコイルなどの常伝導コイルに通電するための電源装置,これら常伝導コイルや電源装置を冷却するための冷却装置,および,操作や画像を表示するためのコンピュータシステムがあるが,これらは図3では図2の装置と同様に省略されている。
【0023】
図3に示すように、傾斜磁場は撮像空間2において,静磁場の方向3の成分が,中心からの距離に対して強さが比例するような勾配を有するパルス状に時間変化する磁場である。傾斜磁場コイル6は,例えば静磁場の方向3をZ方向として,撮像空間2の直交したXYZの3方向に任意に傾斜磁場を発生できるように3組のコイルから構成されており,それぞれ,傾斜磁場の方向に応じて独立にパルス状の電流を通電することが出来る。
【0024】
傾斜磁場コイル6はXYZの3組の傾斜磁場コイルからなるが,それぞれの方向の傾斜磁場コイルはメインコイルとシールドコイルで構成される場合がある。このうち,図2に示した水平磁場型MRI装置においてX方向の傾斜磁場を発生するX傾斜磁場コイルのメインコイルの展開図は、図4に示すように4つの渦巻形状の傾斜磁場コイル導体10で構成されている。
【0025】
傾斜磁場コイル導体10は例えば銅やアルミなどの良導体の板や棒などを巻き回したり,板材を溝加工して形成される。4つの渦巻形状はそれぞれターン中心付近の領域11を有しており,これらの位置は傾斜磁場9を生成する撮像空間2からは離れているが,傾斜磁場コイルの内円筒面でX傾斜磁場コイルが生成するパルス磁場の強度は最も強くなっている。同様にY傾斜磁場コイルでは,概略X傾斜磁場コイルを同軸円筒の中心Z軸回りに90度回転した形状を有している。
【0026】
図5には,図3に示した開放型のMRI装置におけるX傾斜磁場コイルの導体形状の一構成例を示す。図5は静磁場磁石の上下磁極の内の,下側磁極に設置するX傾斜磁場コイルの導体10を示す。静磁場方向は紙面に鉛直方向であり,X傾斜磁場コイルは,上下磁極のZ方向中間にある撮像空間2に,Z方向成分の磁場強度が中心からXの位置に概略比例したパルス状の磁場を発生する。
【0027】
傾斜磁場コイル導体10は水平磁場型のMRI装置と同様に,銅板や銅線を巻き回したり,平板に溝加工して形成される。水平磁場型のMRI装置と同様に傾斜磁場コイルの表面では,撮像空間2の外側にあるターンの中心付近領域11において傾斜磁場コイルが生成するパルス磁場の強度が最も強くなる。開放型MRI装置では1つの傾斜磁場軸に対して上下磁極面に設置される傾斜磁場コイルの表面それぞれ2か所にターン中心領域11を有する。なお,Y傾斜磁場コイルはX傾斜磁場コイルをZ軸回りに概略90度回転させた形状を有している。
【0028】
図1(A)に,水平磁場型のMRI装置における実施例1に係るRFシールド12の部分展開図を示す。RFシールド12は銅材,ステンレス材又はアルミ材などの導電性材料の薄板又は網状の構造でRFコイルによる高周波磁場(以下,RF磁場と称する)が撮像空間2に均一に照射され,かつ,傾斜磁場コイルとの磁気的な結合が小さくなるようにRFシールドパターン13の形状や板厚などが決定される。RFシールド12は傾斜磁場コイルの内表面に設置されるが,本実施例においては傾斜磁場コイルの内円筒表面に接着又は貼付される。
【0029】
接着の場合は例えばエポキシ系樹脂による接着剤が使用され,貼付の場合には例えばアクリル系の粘着テープが使用される。RFシールドは導電性材料を直接傾斜磁場コイルの内表面に接着又は貼付しても良いが,傾斜磁場による渦電流発生を低減するためにパターン形状とした場合には,例えば繊維強化プラスチック(以下,FRPと称する)のシートに導電性材料のパターンを貼り付けて一体化したものをRFシールド12として傾斜磁場コイルの内円筒表面に接着又は貼付することで傾斜磁場コイルとの位置精度の向上が期待できる。
【0030】
この時,X傾斜磁場コイル導体のターン中心部付近の領域11はX傾斜磁場コイルが発生するパルス磁場の強度が最も近い領域であり,RFシールドを構成する導電性材料のRFパターン13に大きな渦電流が発生する。渦電流はRFパターンの電気抵抗によりジュール発熱し,RFシールドの温度上昇の原因となる。このため,温度上昇が過大とならないような対策が必要であり,これに対して一般的には空冷又は冷却などの冷媒による冷却手段がとられる。又は,温度上昇が過大とならないような傾斜磁場コイルの通電パルスを制限するなどの方法も取られることがある。
【0031】
そこで,本発明の第1の実施例においては,少なくともRFシールド12の傾斜磁場コイル導体のターン中心部領域11を含むように傾斜磁場コイルの内円筒表面に接着又は貼付14する。これにより,RFシールドで発生した渦電流による発熱は傾斜磁場コイルで冷却されることになり過大な温度上昇が避けられる。一般に傾斜磁場コイルは水冷又は空冷などの冷却手段を有しているために双方ともに過大な温度上昇が抑制することができる。なお,一般に傾斜磁場コイルの通電に伴う発熱に対してRFシールドの渦電流発熱は1/10以下であるので,本実施例による傾斜磁場コイル自体の温度上昇に対する影響は小さい。
【0032】
さらに,本実施例においては,RFシールドを構成する導電性材料のパターン13は図1(B)に示すような短冊形状13(a)、または図1(C)に示すようなタイル形状13(b)であり,これらの短冊またはタイルの間はパターンのないスリット15構造を有している。これら短冊状またはタイル形状のRFシールドパターン13に発生する渦電流は、短冊またはタイルの端部分で最も電流密度が大きいことがわかっており,短冊またはタイルの端部分に合わせて傾斜磁場コイルの内円筒表面に接着又は貼付14すると温度上昇の抑制に効果的である。
【0033】
RFシールド全面を傾斜磁場コイルの内円筒表面に接着又は貼付した場合には,RFシールドの温度上昇抑制効果が最大となるが,全面貼付する場合は施工時にRFコイルに対してRFシールドの位置がずれたり,RFシールドが薄膜の場合は皺が生じる場合がある。また,使用中にRFシールドの剥離が生じた場合、広範囲に剥がれると温度上昇の原因となる。
【0034】
実験および解析による検討から,RFシールドのおよそ30%以上の面積が傾斜磁場コイルの内表面に接着又は貼付14されていれば,傾斜磁場によるRFシールドの発熱量が大きいとされるエコープラナーイメージング法(EPI)による撮像時でも,全面貼付に対して遜色のない温度上昇抑制効果を得られることがわかっている。
【0035】
実際の静磁場強度1.5テスラの水平磁場型MRI装置において,厚さおよそ20マイクロメートルで幅およそ40mmの銅製の短冊形状のRFシールドパターンを厚さおよそ25マイクロメートルの樹脂シートの表裏両面に貼り付けて形成したRFシールドを,両面テープを介して傾斜磁場コイルの内円筒表面に貼付し,エコープラナーイメージング法(EPI)による撮像を実施したところ,両面テープの貼付面積をRFシールドの表面積の15%以上とした場合にRFシールドの温度上昇が40度以下となることがわかった。
【0036】
一方で,同一体系を対象にした温度上昇解析により,両面テープが貼られていない部分のRFシールドから傾斜磁場コイルへの熱伝達率は両面テープ貼付部分の0.2倍程度であることがわかった。
【0037】
従って,両面テープで貼付していない部分の熱伝達が無い断熱の場合は,上記実験の両面テープ貼付面積であるRFシールドの表面積の15%と,実験と解析結果による両面テープ非貼付面積85%の熱伝達率0.2倍を考慮すると,15+85×0.2=15+17=32%,すなわちRFシールドのおよそ1/3の面積を傾斜磁場コイル表面に接着または両面テープで貼付設置すればよい。
【0038】
このように,RFシールド全面ではなく部分的に傾斜磁場コイルの内円筒表面に接着又は貼付14することにより,施工時のしわや浮き上がり又は傾斜磁場コイルとの熱膨張の差による位置ずれを防止することで傾斜磁場コイル導体位置に対して設置精度の向上が期待でき,高周波電磁場の照射効率の低下やRFシールドの局所的な発熱を抑制することができる。また,RFシールドを傾斜磁場コイルと一体に樹脂でモールドした場合に対して,傾斜磁場コイル導体との位置精度が向上する他,長期間使用時にRFシールドの交換が容易になる。
【実施例0039】
図6には,実施例2に係るRFシールド12の傾斜磁場コイル内円筒面への接着又は貼付方法を示す。本実施例においては,RFシールド12を傾斜磁場コイル導体のターン中心領域付近を覆うように傾斜磁場コイルの内円筒面に接着又は貼付14する。本実施例はRFシールドの導電性部材がメッシュ形状の場合に好適である。RFシールドの導電性部材の形状がシート状の場合には,RFシールド12の端部と傾斜磁場コイル導体のターン中心付近の領域のみを接着又は貼付14すればよく,本実施例によれば,RFシールドの貼り付け位置精度向上と接着個所の削減が実現する。
【実施例0040】
図7に,実施例3に係るRFシールド12の傾斜磁場コイル表面への接着又は貼付方法を示す。本実施例では開放型MRI装置に対するRFシールド12の設置形態を示している。本実施例では,RFシールド12の形状は円盤状であるが,X軸傾斜磁場コイル導体とY軸傾斜磁場コイル導体のターン中心付近領域11は上下磁極片側で合計4か所あるので,対応する部分とRFシールドパターン13の端部を傾斜磁場コイルの撮像k空間側表面に接着又は貼付14している。
【0041】
本実施例によれば,水平磁場型MRI装置だけでなく開放型MRI装置に対しても傾斜磁場コイル通電時のRFシールドに発生する渦電流発熱に伴う温度上昇が抑制される。
【0042】
なお,実施例1から実施例3において,RFシールド12は一体又は分割構造のどちらでも製作などの都合で形状を選択することが可能で,傾斜磁場コイルへの接着又は貼付位置が同様であれば同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0043】
1 磁極
2 撮像空間
3 静磁場およびその方向を示す→
4 被検者
5 可動式ベッド
6 傾斜磁場コイル
7 RFコイル
8 リターンヨーク
9 傾斜磁場
10 傾斜磁場コイル導体
11 ターン中心付近領域
12 RFシールド
13 RFシールドパターン
13(a) 短冊形状RFシールドパターン
13(b) タイル形状RFシールドパターン
14 RFシールドの傾斜磁場コイルへの接着又は貼付位置
15 スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7