(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035538
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】接着剤組成物、及びそれを用いた接着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 115/00 20060101AFI20240307BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240307BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240307BHJP
C09J 153/02 20060101ALI20240307BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20240307BHJP
【FI】
C09J115/00
C09J11/06
C09J11/08
C09J153/02
C09J7/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140061
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 憲明
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA05
4J004AB05
4J004BA02
4J004CA01
4J004CB03
4J004CC02
4J004CD02
4J004CE01
4J004EA05
4J004FA08
4J040DB032
4J040DF042
4J040DM011
4J040EF002
4J040HC16
4J040JA09
4J040JB02
4J040KA03
4J040KA16
4J040MA02
4J040MB05
4J040MB09
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】本発明では、SUSなどの金属セパレータに対する高い接着力を有し、さらに冷却水の浸漬後にもその接着力を維持する接着剤組成物の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有する、接着剤組成物に関する。また、本発明は、該 接着剤組成物を用いた接着シートに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有する、接着剤組成物。
【請求項2】
前記樹脂系ビーズ(C)がアクリルビーズ、スチレンビーズ及びウレタンビーズからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、前記ポリカルボジイミド(B)を0.1~45質量部含有する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、前記樹脂系ビーズ(C)を1~105質量部含有する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記接着剤組成物の全固形分中における前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有割合が40~98質量%である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)がカルボキシル基含有スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる接着剤組成物層を備える接着シート。
【請求項8】
芯材と、前記芯材の両面に積層された接着剤組成物層とを有する接着シートであって、
前記接着剤組成物層は請求項1~6のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる、接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関し、特に、燃料電池のセル内シールとして有用な接着剤組成物に関する。また、本発明は、該接着剤組成物を用いた接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、燃料電池は、発電セル(以降、単に「セル」とも称する。)を複数積層した燃料電池スタックの形態で用いられる。セルは、電極の両面にセパレータが積層された構造を有する。セル内部では、アノード電極に水素を含むガスを、カソード電極に酸素を含むガスを、別々に隔離して供給する。一方のガスが他方に混合すると、発電効率の低下を起こしてしまう恐れがあるため、水素を含むガスと酸素を含むガスが漏れないように、セパレータ同士を接着するためのセル内シールが用いられている。
【0003】
セル内シールは、セパレータに対する優れた接着力が求められる。セパレータ素材としては、炭素系および金属系が挙げられる。金属系のセパレータとして、今後、ステンレス鋼(steel use stainless:以降、SUSとも略する。)の使用が期待されている。
【0004】
燃料電池は、例えば自動車の動力源として用いられる。燃料電池を電源とする電気自動車である燃料電池自動車は、走行時に温室効果ガスや大気汚染物質を発生しないなど、地球温暖化対策や大気環境保全に役立つことから、次世代の自動車として期待されている。
【0005】
燃料電池自動車が搭載する燃料電池においては、セル内シールは、エチレングリコールを主成分とする冷却水(クーラントともいう。)に高温で長時間浸漬される。燃料電池は一般的に約70~90℃の温度下で作動する。
【0006】
特許文献1には、二次電池用の電池容器の形成に好適な積層体に関する、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマーと、粘着付与剤と、ポリカルボジイミドとを含有する接着剤組成物が開示されている。特許文献2には、熱可塑性エラストマーと、オレフィン系熱可塑性樹脂と、シランカップリング剤と、を含む接着性シール部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5589897号公報
【特許文献2】特許第5558889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車用の燃料電池のセル内シールとして用いられる接着シートは、SUSなどのセパレータに対する高い接着力が求められる。また、このような接着シートでは、高温の冷却水に長時間浸漬した後にもその接着力を維持していることが求められる。
【0009】
特許文献1および2のように燃料電池に用いられる接着シートの検討が行われているが、長時間の冷却水の浸漬に対する影響については検討されていない。
【0010】
そこで本発明では、SUSなどのセパレータに対する高い接着力を有し、さらに高温の冷却水に長時間浸漬した後にもその接着力を維持する接着剤組成物及び該接着剤組成物を用いた接着シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、接着剤組成物が、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有することにより、接着剤組成物が高い接着力を有し、かつ高温の冷却水に長時間浸漬した後にもその接着力を維持することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は下記(1)~(7)のいずれかの構成を備える。
(1)スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有する、接着剤組成物。
(2)前記樹脂系ビーズ(C)がアクリルビーズ、スチレンビーズ及びウレタンビーズからなる群から選択される少なくとも1つである、上記(1)に記載の接着剤組成物。
(3)前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、前記ポリカルボジイミド(B)を0.1~45質量部含有する、上記(1)に記載の接着剤組成物。
(4)前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、前記樹脂系ビーズ(C)を1~105質量部含有する、上記(1)に記載の接着剤組成物。
(5)前記接着剤組成物の全固形分中における前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有割合が40~98質量%である、上記(1)に記載の接着剤組成物。
(6)前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)がカルボキシル基含有スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体である、上記(1)に記載の接着剤組成物。
(7) 上記(1)~(6)のいずれか1の接着剤組成物からなる接着剤組成物層を備える接着シート。
(8) 芯材と、前記芯材の両面に積層された接着剤組成物層とを有する接着シートであって、前記接着剤組成物層は上記(1)~(6)のいずれか1の接着剤組成物からなる、接着シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明の接着剤組成物及び接着シートは、SUSなどのセパレータに対する高い接着力を有する。また、本発明の接着剤組成物及び接着シートは、高温の冷却水に長時間浸漬した後においても、その高い接着力を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、発電セルを複数積層した燃料電池スタックの模式図を示す。
【
図2】
図2は、実施例で測定した膨潤距離の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
【0016】
本発明の一態様である接着剤組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有する。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、金属のセパレータ等の金属基材表面と良好な疎水性相互作用を発現し、また、ポリカルボジイミド(B)は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の疎水性相互作用を阻害せず、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と架橋構造を形成する。これにより、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)およびポリカルボジイミド(B)を含有する接着剤組成物は、高温下でも優れた耐水性を有すると推測される。また、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)およびポリカルボジイミド(B)に加えて、樹脂系ビーズ(C)を含有することで、冷却水が接着剤組成物層と接触した部分から、内部に浸透(膨潤)するのを抑制するため、水分子の浸透に起因する接着剤組成物層の劣化を抑えることが出来る。そのため、高温の冷却水に長時間浸漬させた後においても、金属基材に対する高い接着力を維持することが出来る。
なお、本明細書において「高温」とは、例えば、70℃以上の温度範囲を意味する。また、本明細書において「長時間」とは、例えば、1000時間以上の時間を意味する。
また、一般に無機フィラーは金属イオンが溶出し、これが燃料電池中の触媒層の白金を被毒する虞があるが、樹脂系ビーズは金属イオンを溶出しないため、触媒層の白金の被毒を防ぐことが出来る。これにより、白金による作用、具体的には、水素の分解と水の生成を促進する作用を円滑にすることが出来る。
【0017】
<スチレン系熱可塑性エラストマー(A)>
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、スチレンを構造単位に有している熱可塑性エラストマーであって、軟質成分(エラストマー)と硬質成分(ポリスチレン)との連続体からなるブロック共重合体をいう。一般にスチレン系熱可塑性エラストマーは疎水性を有することから、本発明の一態様である接着剤組成物は、耐水性を有しうる。また、本発明の接着剤組成物からなる接着剤組成物層を備える接着シートは、疎水性を有することから、高温の冷却水に長時間浸漬した後においても、接着剤組成物層が劣化し難く、SUSなどのセパレータに対して、高い接着力を維持することが出来る。
【0018】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)中には、スチレン単位が15~80質量%含まれることが好ましく、さらに好ましくは20~70質量%である。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)中のスチレン単位が15質量%より低い場合には高温の冷却水に対する耐性が低下する傾向があり、80質量%より高い場合には金属基材に対する接着力が低下する傾向がある。
【0019】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として、具体的には、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレンーイソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。中でも、分子構造の化学的安定性の観点から、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。
【0020】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、変性スチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はエポキシ基のいずれか1つ以上の残基を含有することが好ましく、カルボジイミドとの反応性の観点や金属基材への接着力が優れる点から、カルボキシル基を含有することが特に好ましい。
【0021】
これより、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、カルボキシル基含有スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体であることが特に好ましい。
【0022】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)のガラス転移温度(Tg)は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。上記ガラス転移温度(Tg)が100℃より高いと金属基材への接着力が低下する傾向がある。ガラス転移温度(Tg)は、例えば動的粘弾性測定(DMA)により測定できる。
【0023】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の酸価は、1~30mgCH3ONa/gであることが好ましく、5~20mgCH3ONa/gであることがより好ましい。上記酸価が1mgCH3ONa/gより低いと高温の冷却水に対する耐性が低下する傾向があり、30mgCH3ONa/gより高いと金属基材への接着力が低下する傾向がある。酸価は、例えば中和滴定法により測定できる。
【0024】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションカラムクロマトグラフィー(GPC)測定においてポリスチレン換算した値が、10,000~500,000の範囲が好ましく、50,000~200,000の範囲がより好ましい。上記分子量が10,000より低いと分子構造の隙間に冷却水が侵入し易くなるため、冷却水に浸漬した後の接着力が低下する傾向がある。上記分子量が500,000より高いと金属基材への接着力が低下する傾向がある。
【0025】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の市販品としては、例えば、旭化成株式会社製のタフテック(登録商標)Mシリーズ、Hシリーズ、Pシリーズ等が挙げられる。
【0026】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、1種類を単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0027】
本発明で使用されるカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)で重合に使用されるモノマーとしてエチレン性不飽和カルボン酸の無水物を使用した場合、カルボン酸の無水物の状態で使用しても良いし、これらを水やアルコール、アミンなどで開環させた状態で使用しても良い。
【0028】
熱可塑性エラストマーへのカルボキシル基の導入方法としては、熱可塑性エラストマーを製造するためのモノマーの重合の際に、適量のマレイン酸や無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸や前記不飽和カルボン酸の無水物を共重合させる方法や、熱可塑性エラストマーを合成した後に、適量のマレイン酸や無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸や前記不飽和カルボン酸の無水物と過酸化物を用いてグラフト化反応させる方法が一般的である。
【0029】
<ポリカルボジイミド(B)>
ポリカルボジイミドとは、カルボジイミド基を複数有する化合物である。本発明の一態様である接着剤組成物は、硬化剤として、ポリカルボジイミド(B)を含有する。
【0030】
ポリカルボジイミド(B)の、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1個当たりの分子量)は、100~700g/eqであることが好ましく、150~500g/eqであることがより好ましい。上記カルボジイミド当量が100g/eqより低いと硬化物の架橋密度が高くなり、可とう性が低下するため、金属基材への接着力が低下する。上記カルボジイミド当量が700g/eqより高いと硬化物の架橋密度が低く、分子構造の隙間に冷却水が侵入し易くなるため、高温の冷却水に長時間浸漬した後の接着力が低下する。
【0031】
ポリカルボジイミド(B)は、溶媒に溶解されていてもよい。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0032】
ポリカルボジイミド(B)の市販品としては、例えば、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト(登録商標)シリーズ(V-05、V-09等)などが挙げられる。
【0033】
ポリカルボジイミド(B)は、1種類を単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0034】
ポリカルボジイミド(B)は、一般的に芳香族系ないし脂肪族系のジイソシアネートおよび/またはトリイソシアネートを、末端封止剤の存在下または非存在下において脱二酸化炭素を伴う縮合反応を行うことにより製造される。この時使用されるイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12-ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、及び2,4-ビス-(8-イソシアネートオクチル)-1,3-ジオクチルシクロブタン(OCDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)およびこれらから誘導された化合物、即ち、前記ジイソシアネートヌレート体、トリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット型、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、イソシアネート残基を有するウレトジオン体、アロファネート体、若しくはこれらの複合体等が挙げられ、これらを単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0035】
<樹脂系ビーズ(C)>
本発明の一態様である接着剤組成物は、高温の冷却水に長時間浸漬した後においても高い接着力を確保し、且つ、触媒中の白金の被毒を回避するため、樹脂系ビーズ(C)を含有する。樹脂系ビーズとは、ナノメートルオーダーのサイズからマイクロメートルオーダーサイズまでのサイズを有する、樹脂からなる粒子をいう。樹脂系ビーズ(C)としては、公知の様々な樹脂のビーズを用いることができ、一種類のビーズでもよく、異なる樹脂からなるビーズの混合物でもよい。
【0036】
耐熱性の観点から、例えば、樹脂系ビーズ(C)は、アクリルビーズ、スチレンビーズ及びウレタンビーズからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、樹脂系ビーズ(C)は、所定の官能基を含有するものを用いることも出来る。官能基としては、水酸基、イソシアネート基及びカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0037】
樹脂系ビーズ(C)の最大粒子径は、接着剤組成物層の厚さに対して、50%以下であることが好ましい。上記最大粒子径が接着剤組成物層の厚さの50%より大きいと金属基材への接着力が低下する傾向がある。樹脂系ビーズの最大粒子径は、粒度分布における積算値99%(D99)での粒径を意味し、レーザー回折式粒度分布測定によって求めることができる。
【0038】
樹脂系ビーズ(C)は、接着剤組成物層への冷却水の侵入を防ぐ観点から、接着剤組成物および接着シートの製造過程、および使用中において、粒子形状が保持されることが好ましい。すなわち、製造時の加熱や、使用環境の温度下で、溶融しない樹脂を選択することが好ましい。
【0039】
樹脂系ビーズ(C)の分解温度は、耐熱性の観点から、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。上記分解温度が200℃より低いと、製造工程中や使用環境下において製品に掛かる熱量により、樹脂系ビーズが分解する虞がある。ここで、分解温度とは、TG曲線における、初期の重量減少のない、或いは漸減しているところの接線と、重量減少が10%減少したところの接線が交差するところの温度である。TG曲線は熱重量示差熱分析装置を用いて、昇温速度が5℃/min、大気雰囲気下、測定温度範囲が室温~600℃で測定することにより求めることが出来る。
【0040】
樹脂系ビーズ(C)の市販品としては、例えば、綜研化学株式会社製の架橋アクリル粒子「MXシリーズ」、架橋スチレン粒子「SXシリーズ」、根上工業株式会社製「アートパールシリーズ」(登録商標)などが挙げられる。
【0041】
樹脂系ビーズ(C)は懸濁重合、シード重合、乳化重合などによって調製することができる。
【0042】
<接着剤組成物>
本発明の一態様である接着剤組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有する。
【0043】
本発明の一態様である接着剤組成物において、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、ポリカルボジイミド(B)を0.1~45質量部含有することが好ましく、1~30質量部含有することがより好ましく、1~20質量部含有することが最も好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、ポリカルボジイミド(B)が0.1質量部よりも少ないと硬化物の架橋密度が低く、分子構造の隙間に冷却水が侵入し易くなるため、高温の冷却水に長時間浸漬した後の接着力が低下する傾向がある。ポリカルボジイミド(B)が45質量部よりも多いと、硬化物の架橋密度が高くなり、可とう性が低下するため、金属基材に対する接着力が低下する傾向がある。
【0044】
本発明の一態様である接着剤組成物において、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、樹脂系ビーズ(C)を1~105質量部含有することが好ましく、10~80質量部含有することがより好ましく、10~70質量部が最も好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、樹脂系ビーズ(C)が1質量部より少ないと硬化物の分子構造の隙間に冷却水が侵入し易くなるため、高温の冷却水に長時間浸漬した後の接着力が低下する傾向がある。樹脂系ビーズ(C)が105質量部より多いと、金属基材に対する接着力が低下する傾向がある。
【0045】
本発明の一態様である接着剤組成物の全固形分中において、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有割合が40~98質量%であることが好ましく、75~90質量%であることがより好ましい。接着剤組成物の全固形分中において、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有割合が40質量%よりも少ないとスチレン系熱可塑性エラストマー(A)による金属基材表面との疎水性相互作用が得られにくくなり、高温の冷却水に長時間浸漬した後の金属基材への接着力が低下する傾向がある。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有割合が98質量%よりも多いと、硬化物の架橋密度が低下し、分子構造の隙間に冷却水が侵入し易くなるため、高温の冷却水に長時間浸漬した後の金属基材への接着力が低下する傾向がある。
【0046】
本発明の一態様である接着剤組成物において、公知の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、粘着付与剤、軟化剤、加工助剤、ワックス、分散剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0047】
本発明の一態様である接着剤組成物は、エポキシ樹脂を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、エポキシ樹脂を実質的に含有しないとは、本発明の一態様である接着剤組成物において、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、エポキシ樹脂は1質量部以下であることを意味する。スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、エポキシ樹脂を1質量部より多く用いると、エポキシ基の開環により生じた水酸基が金属のセパレータ表面で水素結合を一定量以上形成する可能性がある。水素結合はエネルギーが低いため、金属セパレータ表面に水素結合が一定量以上形成されると、高温下における接着剤組成物の耐水性が低くなる可能性があると懸念される。
【0048】
本発明の一態様である接着剤組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)と、必要に応じその他の成分を混合して作製しうる。
本発明の接着剤組成物の製造方法は限定されないが、例えば、ポリカルボジイミド(B)、樹脂系ビーズ(C)、必要に応じて適宜添加されるトルエン溶剤を混合、撹拌した溶液に、トルエン溶剤で溶解させたスチレン系熱可塑性エラストマー(A)を混合して接着剤樹脂組成物を調整し、その後、溶剤を除去する方法等が挙げられる。
【0049】
<接着シート>
本発明の一態様の接着シートは、本発明の一態様である接着剤組成物からなる接着剤組成物層を備える接着シート(以下、「芯材無接着シート」とも称する。)である。また、本発明の一態様の接着シートは、芯材と、前記芯材の両面に積層された接着剤組成物層とを有する接着シートであって、前記接着剤組成物層は本発明の一態様である接着剤組成物からなる接着シート(以下、「芯材付接着シート」とも称する。)である。芯材付接着シートは、接着される部材同士の間隔が広い場合に使用してもよい。
【0050】
芯材付接着シートに用いられる芯材の素材は特に限定されないが、例えばポリエチレンナフタレート、ポリエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエチレンプロペンコポリマーなどが挙げられる。芯材の厚みは、5~300μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。芯材の厚みが5μmより薄いとロールトゥロール方式で芯材付接着シートを搬送する際、シワなどの外観不良が生じ易くなる傾向がある。芯材の厚みが300μmより厚いとロールトゥロール方式において、芯材付接着シートをロール状に連続加工することが困難となる傾向がある。
【0051】
芯材および接着剤組成物層の厚み合計は、セパレータ間の間隔に応じて適宜設定できるが、接着剤組成物層の厚みは金属基材に対する接着力の観点から25μm以上であることが好ましい。
【0052】
芯材無接着シートおよび芯材付接着シートのいずれも、接着シート表面は離型フィルムで覆われていてもよい。離型フィルムは接着シート表面の保護のために用いられ、接着シートの使用前にはがされる。
【0053】
本発明の一態様である芯材付接着シートの作製方法は限定されないが、例えば、以下の工程1.~4.の手順で作製することができる。
1. スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)と、必要に応じその他の成分を混合し、接着剤組成物を作製する。
2. 1.で得られた接着剤組成物を離型フィルムの離型面に塗布し、乾燥して溶剤を除去することで、離型フィルム付接着シートを作製する。同様の作業により、離型フィルム付接着シートを計2枚作製する。
3. 2.で得られた2枚の離型フィルム付接着シートのうちの1枚と、芯材とを、離型フィルム付接着シートの接着剤組成物層の面と芯材フィルムが対向する様に貼り合せ、芯材付片面接着シートを作製する。
4. 3.で得られた芯材付片面接着シートと、2.で得られた離型フィルム付接着シートとを、離型フィルム付接着シートの接着剤組成物層の面と、芯材付片面接着シートの芯材が対向する様に、貼り合わせる。
【0054】
なお、工程1.で作製した接着剤組成物を、芯材フィルムの両面に直接塗布し、乾燥して溶剤を除去することで、工程2.~4.を経ないで、芯材付接着シートを作製する方法(所謂、塗布方法)を用いることも出来る。また、工程1.~3.により作製した芯材付片面接着シートの接着剤組成物層が設けられていない面に、上述した塗布方法を用いて、芯材付接着シートを作製することも出来る。
【0055】
本発明の一態様である芯材無接着シートの作製方法は限定されないが、例えば、以下の工程1.~3.の手順で作製することができる。
1. スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)と、必要に応じその他の成分を混合し、接着剤組成物を作製する。
2. 1.で得られた接着剤組成物を離型フィルムの離型面に塗布し、乾燥して溶剤を除去することで、離型フィルム付接着シートを作製する。
3. 2.で得られた離型フィルム付接着シートの接着剤組成物層の面に、他の離型フィルムの離型面を貼り合わせる。
【0056】
<燃料電池への適用>
本発明の一態様である接着剤組成物および接着シートは、燃料電池の発電セル内部に積層されているセパレータ同士の接着に好適に用いられる。本発明の一態様である接着剤組成物および接着シートのセパレータへのシール方法は限定されないが、例えば、金型成形機を用いて、金型温度160℃、成形圧力3.0MPa、成形時間30秒で圧縮成形する方法が挙げられる。
ここで、セパレータの素材としては金属が挙げられ、金属としては例えばSUS、チタン等が挙げられる。
【0057】
本発明の一態様である接着剤組成物および接着シートは、セパレータにシールされた後、8N/cm以上の接着力を有することが好ましく、15N/cm以上の接着力を有することがより好ましい。接着剤組成物および接着シートの接着力が8N/cmより低い場合には、セパレータ同士が剥がれてしまい、シール性が損なわれうるなどの問題がある。接着力は引張り試験機によって測定できる。
【0058】
本発明の一態様である接着剤組成物および接着シートは、セパレータにシールされた後、70~90℃の冷却水に1,000時間以上浸漬(浸漬)された後にも、8N/cm以上の接着力を有することが好ましく、15N/cm以上の接着力を有することがより好ましい。接着剤組成物および接着シートの、70~90℃の冷却水に1,000時間以上浸漬された後の接着力が、8N/cmより低い場合にはセパレータ同士が剥がれてしまい、シール性が損なわれうるなどの問題がある。
【0059】
本発明の一態様である接着剤組成物および接着シートにおいて、下記(式1)で示される接着力保持率が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。冷却水に1000時間浸漬した後の接着力保持率が高いほど、実用上問題ない接着力を長時間維持できる蓋然性が高いと考えられる。接着力保持率が60%より低い場合には冷却水に長時間(1000時間、或いはそれ以上の時間)浸漬した場合において、接着力が実用上問題ない値を下回る可能性がある。
【0060】
(式1)R=A/B×100
R:接着力保持率
A:95℃の冷却水に1,000時間浸漬された後の接着力
B:95℃の冷却水に浸漬する前の接着力
【0061】
本発明の一態様である接着剤組成物および接着シートは、セパレータにシールされた後、70~90℃の冷却水に1,000時間以上浸漬された後にも、冷却水による接着剤の膨潤が少ないことが好ましい。膨潤が顕著に見られる場合、より長期期間の浸漬において接着力が実用上問題ない接着力を下回る可能性がある。ここで、膨潤とは、接着剤に冷却水が染み込んでいることを意味する。
冷却水が接着剤の分子構造上の隙間に侵入すると、冷却水は徐々に接着剤全体に浸透する。そして、浸透した冷却水が接着剤とセパレータの金属基材の界面に到達すると、界面での剥離が生じやすくなると考えられる。このため、冷却水の接着剤への染み込みが小さいほど、冷却水が界面まで到達するのに時間を要し、高い接着力を長時間維持できる蓋然性が高いと考えられる。
【0062】
以上説明したように、本明細書には次の事項が開示されている。
[1]スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有する、接着剤組成物。
[2]前記樹脂系ビーズ(C)がアクリルビーズ、スチレンビーズ及びウレタンビーズからなる群から選択される少なくとも1つである、上記[1]に記載の接着剤組成物。
[3]前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、前記ポリカルボジイミド(B)を0.1~45質量部含有する、上記[1]または[2]に記載の接着剤組成物。
[4]前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対し、前記樹脂系ビーズ(C)を1~105質量部含有する、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の接着剤組成物。
[5]前記接着剤組成物の全固形分中における前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有割合が40~98質量%である、上記[1]~[4]のいずれか1に記載の接着剤組成物。
[6]前記スチレン系熱可塑性エラストマー(A)がカルボキシル基含有スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体である、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の接着剤組成物。
[7]上記[1]~[6]のいずれか1に記載の接着剤組成物からなる接着剤組成物層を備える接着シート。
[8]芯材と、前記芯材の両面に積層された接着剤組成物層とを有する接着シートであって、前記接着剤組成物層は上記[1]~[6]のいずれか1に記載の接着剤組成物からなる、接着シート。
【実施例0063】
以下に、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0065】
<スチレン系熱可塑性エラストマー(A)>
・カルボキシル基含有スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(旭化成株式会社製、“タフテック(登録商標)M1913”)
【0066】
<ポリカルボジイミド(B)>
・ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル株式会社製カルボジライト(登録商標)シリーズ、“V-05”及び“V-09GB”)
【0067】
<樹脂系ビーズ(C)>
・アクリルビーズ(綜研化学株式会社製、“MX-1000”(平均粒子径:10μm))
・スチレンビーズ(綜研化学株式会社製、“SX-500H”(平均粒子径:5.0μm))
・ウレタンビーズ(根上工業株式会社製、“C-600T”(平均粒子径:10μm)。
【0068】
<アクリルポリマー(X)>
・カルボキシル基含有アクリルポリマー(綜研化学株式会社製、“SKダイン(登録商標)1838”)。
【0069】
<エポキシ樹脂(Y)>
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、“JER(登録商標)604”)。
【0070】
[芯材無接着シートの作製]
・実施例1
ポリカルボジイミド(B)(日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト「V-05」)2.31質量部と、樹脂系ビーズ(C)(綜研化学株式会社製の架橋アクリル粒子「MX-1000」)を12.5質量部添加し、トルエン溶剤25質量部を加えて均一になるまで撹拌する。その後、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)(タフテックM1913)100質量部をトルエン溶剤400質量部で溶解させた溶液と混合し、接着剤組成物を得た。各成分の質量部を表1及び表2に示す。
得られた接着剤組成物を離型フィルム(リンテック株式会社製「PET 50GSY40」)の離型面に、乾燥後の厚さが25μmになるように塗布し、150℃で5分間乾燥させ、離型フィルムに接着剤組成物層が積層した接着シートを作製した。この接着剤組成物層側の面に上記と同じ離型フィルムの離型面を貼り合わせ、芯材無接着シートを得た。
【0071】
・実施例2~11及び比較例1~3
実施例2~11及び比較例1~3における各成分の質量部は表1及び表2に示すとおりである。接着剤組成物を表1及び表2に示す組成としたこと以外は実施例1と同様にして、接着シートを作製した。比較例1では、樹脂系ビーズ(C)を用いなかった点以外は、上記と同じ方法で接着シートを作製した。比較例2では、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の代わりにアクリルポリマー(X)を用いた点以外は上記と同じ方法で接着シートを作成した。比較例3では、ポリカルボジイミド(B)の代わりにエポキシ樹脂(Y)を計量した点以外は上記と同じ方法で接着シートを得た。
【0072】
[初期接着力の測定]
実施例1~11及び比較例1~3の芯材無接着シートについて、一方の離型フィルムを剥がし、露出した接着剤組成物層に厚さ30μmのSUS304を配した。その後、加熱加圧成型機を用いて、温度70℃、圧力1.0MPaで10秒間加圧成型を行い、積層構成が“SUS304/接着剤組成物層/離型フィルム”となる積層体を得た。次に、積層体の離型フィルムを剥がし、露出した接着剤に厚さ30μmのSUS304を配した。その後、加熱加圧成型機を用いて、温度160℃、圧力3.0MPaで60秒間成型を行い、積層構成が“SUS304/接着剤組成物層/SUS304”となる試験片を得た。その後、試験片を乾燥機にて175℃で1時間加熱させ、接着剤組成物を硬化させた。この試験片を、幅10mm、長さ100mmに切出し、引張り試験機にて、180°方向に、30mm/分の速度でSUS304を引張り、初期接着力を評価した。結果を表1及び表2に示す。判定基準は以下の通りとした。
・Excellent:15N/cm以上
・Good:8N/cm以上、15N/cm未満
・Poor:8N/cm未満
【0073】
[95℃冷却水に1000時間浸漬した後の接着力の測定]
上記[初期接着力の測定]に記載した方法と同様にして、実施例1~11及び比較例1~3の芯材無接着シートを用いて積層構成がSUS304/接着剤組成物層/SUS304”となる試験片を得た。その後、試験片を乾燥機にて175℃で1時間加熱させ、接着剤組成物を硬化させた。この試験片を幅10mm、長さ100mmに切出し、冷却水(株式会社コメリ製、CRUZARD(登録商標) ストレートクーラントレッド)に95℃で1,000時間浸漬させた。1000時間浸漬後、試験片を取り出して冷却水を拭きとった後、温度23±2℃、相対湿度50±5%の恒温室にて12時間以上静置した後、静置の開始から24時間以内に接着力を測定した。接着力の測定方法は、上記「初期接着力の測定」に記載した方法と同様である。結果を表1及び表2に示す。判定基準は以下の通りとした。
・Excellent:15N/cm以上
・Good:8N/cm以上、15N/cm未満
・Poor:8N/cm未満
【0074】
[95℃冷却水に1000時間浸漬後の接着シートの膨潤の程度]
「冷却水浸漬後の接着力の測定」にて用いた、測定後の試験片について、試験片の冷却水と触れる端部から膨潤していない部分までの距離(膨潤距離)を測定した。
膨潤距離の模式図を
図2に示す。測定は、100mmの1辺から膨潤している部分を包含する領域(
図2の領域A)における任意の3点と、100mmの他方の1辺から膨潤している部分を包含する領域(
図2の領域B)における任意の3点で行った。
また、膨潤距離は、領域Aにおける任意の3点と、領域Bにおける任意の3点の、計6点の平均値を採用した。
評価基準は以下の通りとした。
・Poor(膨潤あり):膨潤距離が1mmより大きい。
・Excellent(膨潤なし):膨潤距離が1mm以下。
【0075】
[接着力保持率の算出]
測定した初期接着力および冷却水浸漬後の接着力に基づき、下記(式2)で示される接着力保持率を算出した。
(式2)r=a/b×100
r:接着力保持率(%)
a:95℃の冷却水に1000時間浸漬した後の接着力
b:初期接着力
【0076】
接着力保持率の結果を表1及び表2に示す。判定基準は以下の通りとした。
・Excellent:80%以上
・Good:60%以上、80%未満
・Poor:60%未満
【0077】
【0078】
【0079】
樹脂系ビーズ(C)を含まない比較例1、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を含まない比較例2及びポリカルボジイミド(B)を含まない比較例3と比較し、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、ポリカルボジイミド(B)、及び樹脂系ビーズ(C)を含有する実施例1~11は、優れた初期接着力に加えて、冷却水に1000時間浸漬した後の接着力及び接着力保持率にも優れることが示された。
本発明の一態様である接着剤組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、ポリカルボジイミド(B)と、樹脂系ビーズ(C)を含有する。このような組成であることで、本発明の一態様である接着剤組成物は、高い接着力を有する。また、冷却水の浸漬後にも、本発明の接着剤組成物は、その高い接着力を維持する。