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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035546
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】回転伝達装置及び操舵装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/10 20060101AFI20240307BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20240307BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20240307BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20240307BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
F16D27/10 A
F16D27/112 G
F16D27/112
F16D27/10 F
F16D41/08 Z
F16D41/067
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140073
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB30
3D333CB45
3D333CC23
3D333CD04
3D333CD14
3D333CD16
3D333CD21
3D333CD22
3D333CD23
3D333CD28
(57)【要約】
【課題】回転伝達装置が備える電磁クラッチにおける電磁石のコア及びそれに切離する部材の加工を容易にする。
【解決手段】内方部材30及び外方部材21を係合及び係合解除する2方向クラッチ50と、2方向クラッチ50の係合及び係合解除を制御する電磁クラッチ40とを備え、電磁クラッチ40は、保持器54に対して回り止めされて軸方向へ移動自在に支持されたアーマチュア51と、アーマチュア51と軸方向で対向するコア41とコア41に保持される電磁コイル42とを有する電磁石44と、アーマチュア51をコア41から離反する方向に付勢する離反用弾性部材57を備え、コア41のアーマチュア51との対向面41xに、離反用弾性部材57を収容する凹部46が形成されている回転伝達装置とした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸状に配置され軸回り相対回転可能に支持された内方部材(30)及び外方部材(21)と、前記内方部材(30)及び前記外方部材(21)を係合及び係合解除する2方向クラッチ(50)と、前記2方向クラッチ(50)の係合及び係合解除を制御する電磁クラッチ(40)と、を備え、
前記2方向クラッチ(50)は、前記内方部材(30)と前記外方部材(21)との間に組み込まれた保持器(54)と、前記保持器(54)に保持され前記内方部材(30)と前記外方部材(21)の一方に設けられた円筒面と他方に設けられたカム面との間に係合するローラ(55)と、前記ローラ(55)が係合解除される中立位置に前記保持器(54)を付勢する中立保持用弾性部材(53)と、を備え、
前記電磁クラッチ(40)は、前記保持器(54)に対して回り止めされて軸方向へ移動自在に支持されたアーマチュア(51)と、前記アーマチュア(51)と軸方向で対向するコア(41)と前記コア(41)に保持される電磁コイル(42)とを有する電磁石(44)と、前記アーマチュア(51)を前記コア(41)から離反する方向に付勢する離反用弾性部材(57)を備え、前記電磁石(44)に対する通電により前記アーマチュア(51)を磁気吸引して前記保持器(54)を前記内方部材(30)に対して軸回り相対回転させるものであり、
前記コア(41)の前記アーマチュア(51)との対向面(41x)に、前記離反用弾性部材(57)を収容する凹部(46)が形成されている回転伝達装置。
【請求項2】
前記アーマチュア(51)の前記コア(41)との対向面(51x)はフラット面である請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記コア(41)は、前記内方部材(30)の外周に配置される環状部材であり、前記コア(41)の前記対向面(41x)の少なくとも周方向の一部は、外径側と内径側との間で分断されている請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記コア(41)は、前記内方部材(30)の外周に配置される環状部材であり、前記コア(41)は、前記アーマチュア(51)へ向く側とは反対側の軸方向他端に設けられる基部(41c)と、前記基部(41c)の外径側端部から軸方向一端側へ立ち上がる外径側立上部(41a)と、前記基部(41c)の内径側端部から軸方向一端側へ立ち上がる内径側立上部(41b)とを備え、前記コア(41)の前記対向面(41x)の少なくとも周方向の一部は、前記外径側立上部(41a)と前記内径側立上部(41b)との間で分断されている請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記コア(41)は筒状部(22a)を有するケース(22)内に支持され、前記コア(41)は前記ケース(22)の軸方向他端に設けられた開口(27)から前記筒状部(22a)に挿入されており、
前記コア(41)の外径面と前記ケース(22)の内径面との間にシール部材(44c)を介在している請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の回転伝達装置の前記内方部材(30)又は前記外方部材(21)にステアリングシャフト(4)の軸回り回転が伝達され、前記回転伝達装置を前記ステアリングシャフト(4)の軸心と同一軸心上、又は、前記ステアリングシャフト(4)の軸心とは異なる軸心上に設けた操舵装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の回転伝達装置の前記内方部材(30)又は前記外方部材(21)にステアリングシャフト(4)の軸回り回転が伝達され、
前記ステアリングシャフト(4)の軸回り回転に基づいて転舵部材(3,3)の向きを変化させる転舵アクチュエータ(2)を備え、前記ステアリングシャフト(4)に操舵反力を付与する反力モータ(6)を、前記ステアリングシャフト(4)と前記内方部材(30)又は前記外方部材(21)との間に備えている操舵装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の回転伝達装置の前記内方部材(30)又は前記外方部材(21)にステアリングシャフト(4)の軸回り回転が伝達され、前記ステアリングシャフト(4)の軸回り回転に基づいて転舵部材(3,3)の向きを変化させる転舵アクチュエータ(2)を備えた操舵装置を搭載した輸送用機器。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転伝達装置及びその回転伝達装置を用いた操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるステアリングホイールの回転操作に応じて車両の転舵輪(一般には前輪)の向きを変化させる車両用の操舵装置として、ステアバイワイヤ方式のものが知られている。ステアバイワイヤ方式の操舵装置は、ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータとを有し、その転舵アクチュエータが、操舵センサで検知されるステアリングホイールの操作量に応じて作動し、左右一対の転舵輪の向きを変化させるものである。
【0003】
操舵装置に用いられる回転伝達装置として、例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載の回転伝達装置は、同軸上に配置された2軸の相互間において回転の伝達と遮断の切換えを行うために、2方向クラッチと、その2方向クラッチの係合、解除を制御する電磁クラッチとを備えている。2方向クラッチは、外輪の内側に内輪を組込み、その内輪の外周に、外輪の内周に形成された円筒面との間で周方向の両端部に向けて狭小となるくさび空間を形成する複数のカム面を備え、各カム面と円筒面との間にローラからなる係合子を組込んで、そのローラを保持器で保持している。また、保持器と内輪との間にはスイッチばねが組み込まれている。
【0004】
電磁クラッチは、外輪の開口端に対向して配置されたアーマチュアと、アーマチュアに対向して配置されて外輪に接続されたロータと、ロータに対向して配置された電磁石とを備えている。電磁石に通電しない状態では、アーマチュアとロータとの間に十分な摩擦力が働かないため、保持器及びローラは、スイッチばねの弾性力によって係合解除された中立位置に保持されている。電磁石に対する通電によりロータにアーマチュアを吸着させると、スイッチばねの弾性力に抗して保持器と内輪とが相対回転し、その相対回転により、ローラは外輪の円筒面および内輪のカム面に係合し、内輪と外輪との相互間で回転トルクが伝達可能な状態とされる。
【0005】
特許文献1の回転伝達装置を操舵装置に用いれば、ステアバイワイヤ方式で操舵される場合は2方向クラッチを係合解除状態に、ステアリングホイールと転舵輪との機械的な接続により操舵される場合は2方向クラッチを係合させることで、その操舵方式の切り替えが可能である。なお、ステアバイワイヤ方式のみの操舵装置とする場合は、ステアリングホイールと転舵輪とを機械的に接続する機構を必ずしも設ける必要はない。
【0006】
ところで、ステアバイワイヤ方式のように、ステアリングホイールと転舵輪とが機械的に切り離されている場合、運転者がステアリングホイールを操作して転舵輪の向きがその移動限界(ストロークエンド)に到達したときにも、運転者は、さらにステアリングホイールを回転操作することが可能である。このため、転舵輪の向きがストロークエンドに到達しているにもかかわらず、運転者は、転舵輪の向きがストロークエンドに到達していることに気付かないという問題が生じ得る。このような問題を解消するため、例えば、特許文献1に記載の2方向クラッチ及び電磁クラッチを、ステアリングホイールの回転を所定の時期又は所定の位置で規制するステアリングロック手段として用いることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-120341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のような従来の回転伝達装置では、電磁石への通電OFF時にアーマチュアと電磁石を離反させるために、アーマチュアと電磁石間に離反ばねが設けられている。また、その離反ばねを保持するために、アーマチュアの電磁石側の対向面に、離反ばねが入り込む凹部が設けられている(特許文献1の図1参照)。
【0009】
アーマチュアは板状を成す部材であるため、プレス加工等による成形が可能である。しかし、離反ばね用の凹部を形成するためには、プレス加工等の成形工程の後、凹部を形成するための旋削加工が必要である。一方で、電磁石のコアは鍛造等で成形するため、その鍛造等による成形後、アーマチュア側の対向面(摩擦面)を平面とするため、旋削加工を行う必要があった。したがって、アーマチュア、電磁石のコアともに旋削加工を行う必要があり、このことがコスト高の要因となっていた。
【0010】
そこで、この発明の課題は、回転伝達装置が備える電磁クラッチにおける電磁石のコア及びそれに切離する部材の加工を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明は、同軸状に配置され軸回り相対回転可能に支持された内方部材及び外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材を係合及び係合解除する2方向クラッチと、前記2方向クラッチの係合及び係合解除を制御する電磁クラッチとを備え、前記2方向クラッチは、前記内方部材と前記外方部材との間に組み込まれた保持器と、前記保持器に保持され前記内方部材と前記外方部材の一方に設けられた円筒面と他方に設けられたカム面との間に係合するローラと、前記ローラが係合解除される中立位置に前記保持器を付勢する中立保持用弾性部材とを備え、前記電磁クラッチは、前記保持器に対して回り止めされて軸方向へ移動自在に支持されたアーマチュアと、前記アーマチュアと軸方向で対向するコアと前記コアに保持される電磁コイルとを有する電磁石と、前記アーマチュアを前記コアから離反する方向に付勢する離反用弾性部材を備え、前記電磁石に対する通電により前記アーマチュアを磁気吸引して前記保持器を前記内方部材に対して軸回り相対回転させるものであり、前記コアの前記アーマチュアとの対向面に、前記離反用弾性部材を収容する凹部が形成されている回転伝達装置を採用した。
【0012】
このとき、前記アーマチュアの前記コアとの対向面はフラット面である構成を採用できる。
【0013】
前記コアは、前記内方部材の外周に配置される環状部材であり、前記コアの前記対向面の少なくとも周方向の一部は、外径側と内径側との間で分断されている構成を採用できる。
【0014】
また、前記コアは、前記内方部材の外周に配置される環状部材であり、前記コアは、前記アーマチュアへ向く側とは反対側の軸方向一端に設けられる基部と、前記基部の外径側端部から軸方向他端側へ立ち上がる外径側立上部と、前記基部の内径側端部から軸方向他端側へ立ち上がる内径側立上部とを備え、前記コアの前記対向面の少なくとも周方向の一部は、前記外径側立上部と前記内径側立上部との間で分断されている構成を採用できる。
【0015】
さらに、前記コアは筒状部を有するケース内に支持され、前記コアは前記ケースの軸方向一端に設けられた開口から前記筒状部に挿入されており、前記コアの外径面と前記ケースの内径面との間にシール部材を介在している構成を採用できる。
【0016】
上記の各態様からなる回転伝達装置を用い、前記内方部材又は前記外方部材にステアリングシャフトの軸回り回転が伝達され、前記回転伝達装置を前記ステアリングシャフトの軸心と同一軸心上、又は、前記ステアリングシャフトの軸心とは異なる軸心上に設けた操舵装置を採用できる。
【0017】
また、上記の各態様からなる回転伝達装置を用い、前記内方部材又は前記外方部材にステアリングシャフトの軸回り回転が伝達され、前記ステアリングシャフトの軸回り回転に基づいて転舵部材の向きを変化させる転舵アクチュエータを備え、前記ステアリングシャフトに操舵反力を付与する反力モータを、前記ステアリングシャフトと前記内方部材又は前記外方部材との間に備えている操舵装置を採用できる。
【0018】
上記の各態様からなる回転伝達装置を用い、前記内方部材又は前記外方部材にステアリングシャフトの軸回り回転が伝達され、前記ステアリングシャフトの軸回り回転に基づいて転舵部材の向きを変化させる転舵アクチュエータを備えた操舵装置を搭載した輸送用機器を採用できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、電磁石のコア側に離反用弾性部材を挿入するための凹部を設けて、対向する部材側の旋削加工を廃止したので、コスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明のステアバイワイヤ方式の操舵装置を模式的に示す図
図2】第1の実施形態の回転伝達装置近傍の縦断面図
図3図2の要部拡大図
図4図2及び図3のIV-IV線に沿った断面図
図5】第1の実施形態の変形例を示す縦断面図
図6】第2の実施形態の回転伝達装置近傍の縦断面図
図7図6のVII-VII線に沿った断面図
図8】第3の実施形態の回転伝達装置近傍の縦断面図
図9図8の底面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、この発明に係る回転伝達装置、及び、その回転伝達装置を用いた操舵装置の実施形態を示す。この操舵装置は、運転者によるステアリングホイール1の操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータ2を制御することで、転舵部材3の向きを変化させるステアバイワイヤ方式のものである。
【0022】
操舵装置は、図1に示すように、運転者により操舵されるステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に連結されたステアリングシャフト4と、ステアリングホイール1の操作量を検知する操舵センサ5と、ステアリングホイール1に操舵反力を与える反力モータ6と、ステアリングホイール1に対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータ2と、制御部8とを有する。また、ステアリングシャフト4の回転は、反力モータ6の反対側に設けた回転伝達装置20に伝達されるようになっている。
【0023】
ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を操舵したときに、ステアリングホイール1と一体に軸回りに回転する。操舵センサ5は、ステアリングシャフト4に取り付けられている。操舵センサ5としては、例えば、ステアリングホイール1の操舵角を検知する操舵角センサ、運転者によってステアリングホイール1に入力される操舵トルクを検知する操舵トルクセンサなどが挙げられる。
【0024】
ステアリングシャフト4には反力モータ6が取り付けられている。反力モータ6は、通電により回転トルクを発生する電動モータである。反力モータ6は、ステアリングシャフト4の端部に連結されている。反力モータ6は、回転トルクをステアリングシャフト4に入力することで、そのステアリングシャフト4を介してステアリングホイール1に操舵反力を付与する。
【0025】
転舵アクチュエータ2は、転舵軸10と、転舵軸ハウジング11と、転舵軸10を車両の左右方向に移動させる転舵モータ12と、転舵軸10の位置を検知する転舵センサ13とを有する。転舵軸10は、車両の左右方向に移動可能に転舵軸ハウジング11で支持されている。転舵軸ハウジング11は、転舵軸10の左右両端が転舵軸ハウジング11から突出した状態となるように転舵軸10の中央部を収容している。
【0026】
転舵モータ12および転舵センサ13は、転舵軸ハウジング11に取り付けられている。転舵モータ12と転舵軸10の間には、転舵モータ12が出力する回転を転舵軸10の直線運動に変換する運動変換機構(図示せず)が組み込まれている。転舵軸10の左右両端は、タイロッド14を介して左右一対の転舵部材3(この実施形態では転舵部材3としてタイヤホイールを採用しているので、以下、これを転舵輪3と称する)に連結され、転舵軸10が軸方向に移動するとこれに連動して左右一対の転舵輪3の向きが変化するようになっている。
【0027】
図1に示すように、反力モータ6、転舵モータ12は、制御部8で制御される。制御部8の入力側には、外部センサ9、操舵センサ5、転舵センサ13が電気的に接続されている。外部センサ9は、車両の走行速度を検知する車速センサ等である。制御部8の出力側には、反力モータ6、転舵アクチュエータ2が電気的に接続されている。
【0028】
制御部8は、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の操作量と、外部センサ9で検知される車両の走行状況(車速等)とに応じて転舵モータ12を作動させ、左右一対の転舵輪3の向きを変化させる制御を行なう。また、このとき、制御部8は、ステアリングホイール1の操作量と車両の走行状況とに応じた大きさの操舵反力が発生するように反力モータ6を作動させる制御を行なう。
【0029】
(第1の実施形態)
図2図4は、第1の実施形態に係る回転伝達装置20の要部を示している。図2に示すように、反力モータ6は、モータケース6aと、モータケース6aからステアリングホイール1(図1参照)の側とは反対側に突出するモータシャフト31とを有する。以下、モータケース6aに対してステアリングホイール1の側を軸方向一端、その反対側を軸方向他端と称する。モータシャフト31は、モータケース6aの内部に組み込まれた図示しない転がり軸受によって、軸回り回転可能に支持されている。また、モータシャフト31は、ステアリングホイール1およびステアリングシャフト4と一体に回転するように、そのステアリングシャフト4に連結されている。モータケース6aは、それ自体が回転しないように車体(図示せず)に固定されている。
【0030】
モータシャフト31は、モータケース6aの軸方向他端側に設けられた回転伝達装置20に接続されている。
【0031】
回転伝達装置20は、同軸状に配置される内方部材30と外方部材21を備えている。外方部材21は、モータケース6aに固定されるケース22の内面に圧入固定され、止め輪25で抜け止めされている。ケース22に設けられた穴22dにボルト24が挿通され、そのボルト24がモータケース6aに設けられた雌ネジ穴(図示せず)にねじ込まれることで、ケース22がモータケース6aに固定されている。これにより、外方部材21は固定である。また、内方部材30は、軸受61を介して外方部材21に対して軸回り回転自在に支持されている。
【0032】
ケース22は、図2に示すように、円筒状を成す筒状部22aと、その筒状部22aの軸方向他端を閉じる端壁部22bとを備えている。ボルト24用の穴22dは、筒状部22aの軸方向一端において、外径方向へ突出する外縁突出部22cに設けられている。外縁突出部22c及び穴22dは、周方向に沿って複数設けられている。
【0033】
内方部材30は、図2及び図3に示すように、モータシャフト31とそのモータシャフト31に取り付けられる補助内方部材32とで構成される。補助内方部材32は、軸方向一端側に開口する挿入部32cを有しており、その挿入部32cにモータシャフト31が挿入されて、モータシャフト31と補助内方部材32とは軸回り一体に回転する。実施形態では、モータシャフト31と補助内方部材32とは、スプライン39a,39bによって結合されている。なお、モータシャフト31と補助内方部材32との接続構造はスプライン結合には限定されず、それ以外にも、例えば、セレーション結合、圧入等による接続構造としてもよい。また、モータシャフト31と補助内方部材32とを一体に成形された部材で構成して、それを内方部材30としてもよい。
【0034】
補助内方部材32は、モータシャフト31の挿入部32cが設けられる円環状の内輪部32bと、その内輪部32bから軸方向他端側に突出する円柱状の延長部32aとを備えている。外方部材21と補助内方部材32とを軸回り回転自在に支持する軸受61は、外方部材21の内径面、及び、補助内方部材32の内輪部32bの外径面との間に圧入され、止め輪62,63によって抜け止めされている。
【0035】
また、回転伝達装置20は、外方部材21と補助内方部材32とを軸回り回転可能な状態と回転不能な状態との切り替えを行なう2方向クラッチ50、及び、その2方向クラッチ50の係合、解除を制御する電磁クラッチ40とを備えている。2方向クラッチ50及び電磁クラッチ40は、ステアリングホイール1及びステアリングシャフト4の回転を所定の時期又は所定の位置で規制するステアリングロック手段として機能する。
【0036】
2方向クラッチ50は、外方部材21及び補助内方部材32と、その外方部材21と補助内方部材32の対向部間に組み込まれた係合子としてのローラ55と、そのローラ55を保持する環状の保持器54等を備えている。補助内方部材32の外周には、外方部材21の内周に形成された円筒面23との間で周方向の両端が狭小となるくさび空間を形成する複数の平坦なカム面33が、周方向に沿って等間隔に形成されている。ローラ55は円筒状を成し、カム面33と円筒面23との間に組み込まれている。
【0037】
保持器54には、補助内方部材32のカム面33と径方向で対向する位置にポケット54aが形成され、そのポケット54a内にそれぞれローラ55が収容されている(図2参照)。補助内方部材32に対して保持器54が軸回り相対回転した際に、ローラ55は、円筒面23及びカム面33に係合して外方部材21と補助内方部材32とを結合させ、内方部材30の軸回り回転をロックする。
【0038】
補助内方部材32の内輪部32bの軸方向他端には、ローラ55が円筒面23及びカム面33と係合解除する中立位置に、保持器54を弾性保持する中立保持用弾性部材53が設けられている。中立保持用弾性部材53は、内輪部32bの軸方向他端に設けられた凹部32dに収容されている(図3参照)。この実施形態では、中立保持用弾性部材53として、図4に示すスイッチばねを採用しているが、他の種別からなるスプリング等であってもよい。
【0039】
スイッチばねからなる中立保持用弾性部材53は、図4に示すように、1本の線材を円周状に曲げたリング部53bの両端に、一対の係合片53a,53aを外向きに突出して設けた構成とされている。スイッチばねは、リング部53bが内輪部32bの環状凹部32dに嵌め合されて、一対の係合片53a,53aが、補助内方部材32の外周壁に形成された切欠部32eを通って、保持器54の一端部に形成された切欠き54a内に挿入される。スイッチばねの組み込みによって、一対の係合片53a,53aが切欠部32e及び切欠き54aの周方向で対向する両端壁を相反する方向に向けて押圧する。その押圧によって保持器54は、ローラ55が円筒面23及びカム面33に対して係合解除する中立位置に弾性保持される。すなわち、スイッチばねは、補助内方部材32に対する保持器54の相対回転により弾性変形した際、その弾性力によりローラ55が中立位置に維持されるように、保持器54を周方向へ付勢する。
【0040】
電磁クラッチ40は、保持器54に対して回り止めされてその保持器54に対して軸方向へ移動自在に支持された連結部材52と、連結部材52の軸方向他端側に設けられたアーマチュア51と、アーマチュア51に対して軸回り回転自在に支持されて、そのアーマチュア51と軸方向で対向する電磁石44とを備えている。
【0041】
連結部材52は、環状を成す板状部材で構成され、図3に示すように、その内径側縁は補助内方部材32の延長部32aの外周に嵌合して止め輪58で抜け止めされている。連結部材52は、少なくとも周方向一箇所に設けられた係合部52bが、保持器54の軸方向他端に設けた切欠き54bに入り込むことで保持器54と一体に軸回り回転する。この実施形態では、連結部材52は環状を成す板状部材で構成しているが、連結部材52は、その内径部に内方部材30(補助内方部材32)がぴったりと挿通される孔を有する各種形状の部材で構成してもよい。また、連結部材52と保持器54とを軸回り相対回転不能に接続する構造も、この実施形態に限定されず、各種構造を採用できる。
【0042】
電磁石44は、磁性体からなる電磁石コア(フィールドコア)41と、その電磁石コア41の凹部41dに保持された電磁コイル(ソレノイドコイル)42とを備えている。電磁石コア41(以下、単にコア41と称する)は、ケース22の奥部、すなわち、ケース22の軸方向他端側の端部に挿入されて、止め輪45で抜け止めされている。電磁石44は、電磁コイル42に通電することにより、コア41とアーマチュア51を通る環状の磁路を形成し、アーマチュア51をコア41に吸着させる。この電磁石44への通電と通電の遮断は、外部の制御装置(図示省略)からの指令に基づいて切り替えられる。
【0043】
コア41は、図2及び図3に示すように、内方部材30の外周に配置される環状部で構成されている。アーマチュア51とコア41とは、軸方向に対向している。コア41は、アーマチュア51へ向く側とは反対側の軸方向他端に設けられる基部41cと、基部41cの外径側端部から軸方向一端側へ立ち上がる外径側立上部41aと、基部41cの内径側端部から軸方向一端側へ立ち上がる内径側立上部41bとを備えている。外径側立上部41aと内径側立上部41bはそれぞれ円筒状を成し、外径側立上部41a、内径側立上部41b及び基部41cで、周方向全周に亘って断面コ字状を成す筒状部材を構成している。コア41の軸方向一端側の対向面41xは、アーマチュア51の軸方向他端側の対向面51xと対向している。また、コア41は磁性体で構成され、ケース22に相対回転不能に固定されている。
【0044】
ここで、コア41とケース22との固定方位は、コア41の軸方向他端側に設けられた位置決め突起43aが、ケース22の端壁部22bに設けられた凹部43bに入り込むことによって決定される。また、突起43aと凹部43bとの係合により、コア41とケース22との相対回転がより確実に防止されている。実施形態では、突起43aは軸回り1箇所、凹部43bも軸回り1箇所としているが、この設置の箇所数と設置の方位は仕様に応じて適宜変更できる。
【0045】
なお、ケース22の軸方向他端側の端壁部22b及びコア41の基部41cには、ケーブル挿通孔41eが設けられており、そのケーブル挿通孔41eを通って電気供給用の電線ケーブルが電磁石44に接続されている。外部の電源から電線ケーブルを通じて、電磁コイル42に電気が供給されるようになっている。
【0046】
連結部材52は、その外径側端部の少なくとも1箇所に連結突起52aを備えている。また、アーマチュア51は、その外径側端部の少なくとも1箇所に連結突起52aが入り込むことができる係合部51aを備えている。連結部材52の連結突起52aがアーマチュア51の係合部51aに係合することで、アーマチュア51と連結部材52とは軸回り相対回転不能に連結されている。なお、アーマチュア51と連結部材52との周方向への若干の相対回転(ガタ)は許容される。これは、保持器54と連結部材52との間においても同様である。
【0047】
連結突起52aは、アーマチュア51に設けた係合部(回り止め孔)51a内に軸方向へスライド自在に挿入されている。このため、アーマチュア51が軸方向へ移動すると、連結突起52aが係合部(回り止め孔)51a内で進退することで、アーマチュア51の軸方向移動がガイドされている。前述のように、連結部材52と保持器54は一体に軸回り回転し、連結部材52は軸方向へ不動であるので、アーマチュア51は、保持器54に対して回り止めされて、且つ、保持器54に対して軸方向へ移動自在に支持された状態である。
【0048】
図4は、電磁クラッチ40の電磁石44への通電の遮断状態を示している。この状態で、2方向クラッチ50のローラ(係合子)55は、外方部材21の円筒面23及び内方部材30のカム面33に対して係合解除する中立位置に保持されている。すなわち、ローラ55は、カム面33の中央付近(周方向に対する中央付近)に位置し、2方向クラッチ50は係合解除状態にある。
【0049】
電磁石44に対する通電により、その電磁石44が発生する磁力でアーマチュア51を
磁気吸引すると、内方部材30側からの回転の入力に対して、保持器54は、電磁石44側に吸着固定されたアーマチュア51、及び、それに接続された連結部材52とともに、内方部材30に対して軸回り相対回転しようとする。保持器54と内方部材30との相対回転により、ローラ55は、外方部材21の円筒面23及び内方部材30のカム面33に係合し、2方向クラッチ50は係合状態となる。これにより、内方部材30の回転はロックされるので、ステアリングホイール1及びステアリングシャフト4の軸回り回転は規制される。
【0050】
保持器54と内方部材30とが相対回転した際、図4に示す内方部材30の切欠部32eの端面と保持器54の切欠き54aの端面とが周方向に位置がずれ、スイッチばね53の係合片53a,53a同士が接近するとともに、リング部53bが弾性変形して縮径する。このため、電磁石44に対する通電を解除すると、スイッチばね53の復元弾性により保持器54が復帰回動し、ローラ55が係合解除する中立位置に戻される。これにより、2方向クラッチ50が係合解除する。その係合解除によって、内方部材30の回転のロックは解除され、ステアリングホイール1及びステアリングシャフト4は回転可能となる。
【0051】
運転者がステアリングホイール1を操作して、転舵輪3の向きがいずれかの側の移動限界(ストロークエンド)に到達したときに、操舵センサ5や転舵センサ13等からの情報に基づいて、2方向クラッチ50がロックするように予め設定されている。また、そのロック状態から、運転者がステアリングホイール1を逆方向へ操作した際に、2方向クラッチ50のロックが解除されるように予め設定されている。これにより、ステアリングホイール1及びステアリングシャフト4の過大な回転が規制される。
【0052】
ここで、コア41の対向面41xとアーマチュア51の対向面51xとの間には、離反用弾性部材(離反ばね)57が組み込まれている。その離反用弾性部材57によって、アーマチュア51はコア41から離反する方向に向けて付勢されている。
【0053】
離反用弾性部材57は、コア41のアーマチュア51との対向面41xに形成された凹部46に収容されている。これに対して、アーマチュア51のコア41との対向面51xはフラット面であることが望ましい。
【0054】
離反用弾性部材57としては、例えば、コイルばね、皿ばね、板ばね等のばね部材に例示される各種の弾性部材を採用することができる。この実施形態では、離反用弾性部材57として内方部材30の外周に配置される環状の皿ばねを採用し、凹部46は、離反用弾性部材57の形態に合わせて軸回り全周に亘る連続的な環状凹部としたが、この実施形態には限定されず、離反用弾性部材57の種別は適宜変更でき、凹部46の形態も離反用弾性部材57の形態に合わせて適宜変更できる。例えば、離反用弾性部材57として内方部材30の外周に沿って配置される複数のコイルばねを採用した場合には、凹部46は、離反用弾性部材57の形態に合わせて軸回りに沿って断続的な複数の凹部としてもよい。
【0055】
従来の技術では、アーマチュア51の対向面51x(摩擦面)に、離反用弾性部材57を受ける凹部(溝)を設ける旋削加工を行っていた。アーマチュア51は板状を成す部材であるため、通常はプレス加工等による成形工程の後、旋削加工のためにアーマチュア51の素材の外径側をチャックすることとなる。このため、チャックの締め付け力でアーマチュア51の素材が変形し、平面度が悪化し、摩擦トルクが安定しないという問題が生じ得た。しかし、この発明によれば、アーマチュア51に対する旋削加工を省略できるため、アーマチュア51の平面度の悪化を防止でき、電磁石44との摩擦トルクを安定させることができる。
【0056】
なお、コア41については鍛造等で成形されるため、その鍛造等による成形後に、アーマチュア51側の対向面41x(摩擦面)を平面とするため旋削加工を行う必要がある。このため、コア41の対向面41xに凹部46を旋削加工することに対して、新たな作業工程は発生しない。
【0057】
また、従来の技術では、アーマチュア51の対向面51xに凹部を設けるため、その凹部を設けた箇所におけるアーマチュア51の肉厚が、部分的に薄くなってしまうという問題があった。アーマチュア51の肉厚が部分的に薄くなると磁路が狭くなるので、磁気飽和が発生しないようにアーマチュア51全体の肉厚を厚く設定する必要があった。しかし、この発明によれば、アーマチュア51に凹部を設ける必要がないので、アーマチュア自体の肉厚をより薄く設定でき、回転伝達装置20の軸方向への全長の短縮が可能となる。
【0058】
また、この実施形態では、コア41の対向面41xは、周方向全周に亘って連続的に、外径側立上部41aと内径側立上部41bとの間で分断されている。すなわち、コア41は、基部41c、外径側立上部41a及び内径側立上部41bとからなる断面コの字状であり、対向面41xは内径側と外径側とで分断されている。このため、アーマチュア51が吸着した際に、アーマチュア51を通る磁路が形成されやすく、高い吸着性能を発揮させることができる。また、磁路の確保の観点から、コア41における外径側立上部41aと内径側立上部41bとの連結は、基部41cのみであることが望ましい。なお、対向面41xの内径側と外径側との分断は、この実施形態のように周方向全周に亘って連続的であることが望ましいが、その分断を周方向に沿って一部の方位のみとした態様も考えられる。
【0059】
ここで、凹部46は、外径側立上部41a側の対向面41xに設けられていてもよいし、内径側立上部41b側の対向面41xに設けられていてもよい。この実施形態では、外径側立上部41aよりも内径側立上部41bを肉厚(半径方向に対して肉厚)に形成しており、その相対的に肉厚な内径側立上部41bに凹部46を形成することで、コア41の強度低下を防止し、且つ、離反用弾性部材57を小型化している。
【0060】
ところで、電磁石44のコア41は、筒状部22aを有するケース22内に支持され、コア41とケース22とは互いに異なる素材で形成されている。例えば、この実施形態では、コア41は磁性体(鋼製)であり、ケース22は磁気の遺漏防止等を目的としてアルミ製とされている。
【0061】
ここで、電磁石44の径方向支持(半径方向への支持)は、そのケース22の内径面及び電磁石44のコア41の外径面と間で行っている。このため、従来から、電磁石44及び2方向クラッチ50の同軸を正確に確保するためには、ケース22の内径面及び電磁石44の外径面(コア41の外径面)の寸法精度をある程度良くする必要があり、加工にコストが掛かるという問題があった。また、実施形態のようにコア41とケース22の素材が異なる場合、その素材の線膨張係数の違いから、高温では、ケース22の内径面と電磁石44の外径面との間に隙間が出来てしまい、正確な同軸を確保できないという問題もあった。さらに、この隙間が生じた状態で振動等を受け続けると、ケース22の内径面と電磁石44の外径面との間でフレッティング摩耗等の異常が発生する可能性があった。
【0062】
このため、この実施形態では、コア41の外径面とケース22の筒状部22aの内径面との間に、ゴム等の弾性を有する素材からなる弾性部材44aを介在させている。弾性部材44aによって、ケース22に対して電磁石44のコア41を押圧固定することで、電磁石44の外径面とケース22の内径面との寸法公差を拡大でき、加工費の低減を図ることができる。また、電磁石44の外径面とケース22の内径面との間におけるフレッティング摩耗等の発生を抑えることができる。
【0063】
ここで、弾性部材44aは、電磁石44及びケース22の周方向に沿って一部であってもよいが、実施形態のように周方向全周に亘る環状の部材であることが望ましい。弾性部材44aは、図2に示すように、ケース22に設けた溝44b内に収容してもよいし、図5に示す変形例のように、コア41に設けた溝44b内に収容してもよい。
【0064】
(第2の実施形態)
この発明の第2の実施形態を図6及び図7に示す。装置の基本構成は第1の実施形態と同様であるので説明を省略し、以下、その差異点を中心に説明する(後述の第3の実施形態においても同様)。
【0065】
第1の実施形態では、電磁石44のコア41を一体構造としていたのに対し、第2の実施形態では、電磁石44のコア41を複数の部品で構成している。具体的には、コア41を、アーマチュア51側の基部41gと、その基部41gの外径側端部から軸方向他端側へ立ち上がる外径側立上部41a、及び、基部41gの内径側端部から軸方向他端側へ立ち上がる内径側立上部41bとからなる断面コの字状のコア本体41hと、そのコア本体41hとは別体の部材からなる電磁石プレート47で構成している。電磁石プレート47は、断面コの字状のコア本体41hの軸方向他端側の端部の開口を塞いでいる。図6中の符号49は電磁石ボビンを示しており、符号47aはケーブル挿通孔を示している。コア本体41hと電磁石プレート47は磁性体で構成されている。
【0066】
前述の第1の実施形態では、コア41の形状を対向面41x側が開口している断面コの字状としていたが、第2の実施形態では、対向面41xと反対側の面を開口させた断面コの字状にして、対向面41xに円弧状の複数のスリット41fを設けている。このスリット41fを設けたことにより、そのスリット41fを設けた箇所で、対向面41xは内径側と外径側とで分断されている。対向面41xを内径側と外径側とで分断する効果は、第1の実施形態と同様である。
【0067】
電磁石プレート47は環状のプレートであり、そのプレートがコア本体41hの内径側立上部41bの外径面に圧入固定されている。このコア本体41hと電磁石プレート47とで樹脂製の電磁石ボビン49を挟み込む構造となっている。第1の実施形態と第2の実施形態とで電磁石44としての機能は同じであるが、比較的量産数量が少ない場合は、第1の実施形態の構造、比較的量産数量が多い場合は、第2の実施形態の構造を採用することが有効である。
【0068】
ここで、離反用弾性部材57を収容する凹部46は、スリット41fよりも外径側に設けられていてもよいし、スリット41fよりも内径側に設けられていてもよい。この実施形態では、スリット41fよりも内径側の幅を外径側の幅よりも長く(いずれも半径方向に対して長く)しており、その相対的に幅が広い内径側の部分に凹部46を形成することで、コア41の強度低下を防止している。
【0069】
(第3の実施形態)
この発明の第3の実施形態を図8及び図9に示す。第3の実施形態では、第1の実施形態及び第2の実施形態に対して、ケース22の構造、電磁石44の構造、及び、ケース22と電磁石44との固定構造を変更している。
【0070】
第1の実施形態及び第2の実施形態では、ケース22は、筒状部22aとその筒状部22aの軸方向他端を閉じる端壁部22bとを備えたカップ状であり、電磁石44をケースの軸方向一端側の開口から内部に挿入していた。この挿入の際に、コア41の位置決め突起43aの方位と、ケース22の底部の端壁部22bの凹部43bの方位とを位相を合わせる必要があるが、その挿入の途中では、作業者はケース22の底部を視認できない。このため、位相のずれを把握できず、電磁石を正規の位置に挿入しにくいという問題もあった。
【0071】
そこで、第3の実施形態では、図8に示すように、ケース22の軸方向他端側、すなわち、モータシャフト31側とは反対側の端部に開口27を設け、電磁石44を軸方向他端側の開口27からケース22内に挿入するようにしている。
【0072】
ケース22は、円筒状を成す筒状部22aの軸方向一端において外径方向へ突出する外縁突出部22cを備えている。外縁突出部22cに設けられた穴22dにボルト24が挿通され、そのボルト24がモータケース6aに設けられた雌ネジ穴(図示せず)にねじ込まれることで、ケース22がモータケース6aに固定されている。外縁突出部22c及び穴22dは、周方向に沿って複数設けられている。この実施形態では、図9に示すように、外縁突出部22c及び穴22dはそれぞれ周方向に沿って3箇所設けられている。
【0073】
電磁石44のコア41は、図8に示すように、内方部材30の外周に配置される環状部と、その環状部の中央の空間の軸方向他端側を閉じるベース部41kで構成されている。。コア41の環状部は、第1の実施形態と同様に、軸方向他端に設けられる基部41cと、基部41cの外径側端部から軸方向一端側へ立ち上がる外径側立上部41aと、基部41cの内径側端部から軸方向一端側へ立ち上がる内径側立上部41bとを備えている。外径側立上部41aと内径側立上部41bはそれぞれ円筒状を成し、外径側立上部41a、内径側立上部41b及び基部41cで、周方向全周に亘って断面コ字状を成す筒状部材を構成している。コア41の軸方向一端側の対向面41xは、アーマチュア51の軸方向他端側の対向面51xと対向している。ベース部41kは、軸心を挟んで両側の基部41c同士を結ぶように、その基部41cと一体の板状部材となっている。
【0074】
ケース22は、筒状部22aの軸方向他端において外径方向へ突出する外縁突出部21hを備えている。外縁突出部21hには、雌ネジ穴21iが形成されている。また、コア41は、軸方向他端において外径方向へ突出する外縁突出部41iを備えている。コア41の外縁突出部41iに設けられた穴41jにボルト26が挿通され、そのボルト26がケース22の雌ネジ穴21iにねじ込まれることで、電磁石44がケース22に固定されている。このように、電磁石44をケース22に対してねじ止め固定することで、前述の実施形態のようなコア41の位置決め突起43aとケース22の凹部43b(図2参照)との位相合わせを不要としている。
【0075】
また、図8に示すように、コア41の外径面とケース22の内径面との間にシール部材44cを介在している。シール部材44cは、ゴム等の止水性を有する素材で構成されている。この実施形態では、電磁石44の軸方向他端側がケース22外の外部環境に露出する構造となるため、このようなシール部材44cを介在させることが望ましい。また、電磁石44へ通じる電線ケーブルは、ケーブル挿通孔41eに嵌められたグロメットを介して外部に引き出されているので、ケーブル引出位置のシール性が確保されている。
【0076】
ここで、シール部材44cは、電磁石44及びケース22の周方向全周に亘る環状の部材である。シール部材44cは、図8に示すように、ケース22に設けた溝44b内に収容してもよいし、これを変形して、コア41に設けた溝44b内に収容してもよい。また、第1の実施形態及び第2の実施形態における弾性部材44aと、第3の実施形態におけるシール部材44cを、同一の部材で兼用する態様としてもよい。なお、電磁石44のコア41の表面、特に、コア41の外周面に、例えば、粗面加工等の表面処理を施しておけば、電磁石44とケース22との間の摩擦力が増大し、両者間のガタツキ防止と摩耗抑制を図ることができる。
【0077】
上記の各実施形態では、回転伝達装置20の軸心、すなわち、内方部材30及び外方部材21の軸心をステアリングシャフト4の軸心と同一軸心上に配置したが、この実施形態以外にも、例えば、回転伝達装置20の軸心をステアリングシャフト4の軸心とは異なる軸心上に設けた構成を採用してもよい。
【0078】
上記の各実施形態では、2方向クラッチ50として、外方部材21の内周に円筒面23、内方部材30の外周にカム面33を備えた構成としたが、これを逆転させて、内方部材30の外周に円筒面、外方部材21の内周にカム面を備えた2方向クラッチ50の構成を採用してもよい。
【0079】
さらに、上記の各実施形態では、ステアリングホイール1に操舵反力を付与する反力モータ6を備え、その反力モータ6を、ステアリングシャフト4と内方部材30(回転伝達装置20)の間に備えている構成としたが、この実施形態には限定されず、反力モータ6の位置は自由に設定できる。例えば、モータシャフト31を延長してそのモータシャフト31を回転伝達装置20の軸方向他端側へ突出させ、その突出させたモータシャフトの端部に反力モータ6を設けてもよい。
【0080】
さらに、上記の各実施形態の内外を逆転させて、内方部材30を固定とし、外方部材21が内方部材30に対して軸回り回転自在に支持されているとしてもよい。この場合、ステアリングシャフト4の軸回り回転は、外方部材21に入力される構成となる。
【0081】
上記の各実施形態では、2方向クラッチ50及び電磁クラッチ40を、ステアリングホイール1及びステアリングシャフト4の回転を所定の時期又は所定の位置で規制するステアリングロック手段として用いた回転伝達装置20を例に、この発明の内容を説明したが、この発明は上記の各実施形態には限定されない。例えば、特許文献1の回転伝達装置を操舵装置に用いた場合のように、同軸上に配置された2軸の相互間において回転の伝達と遮断の切換えを行うために、2方向クラッチ50と、その2方向クラッチ50の係合、解除を制御する電磁クラッチ40とを備えた回転伝達装置20においても、この発明を適用できる。この場合、ステアバイワイヤ方式で操舵される場合は2方向クラッチ50を係合解除状態に、ステアリングホイール1及びステアリングシャフト4と転舵輪3との機械的な接続により操舵される場合は2方向クラッチ50を係合させることで、その操舵方式の切り替えが可能である。
【0082】
また、上記の各実施形態では、ステアバイワイヤ方式等の操舵装置を例に、この発明の構成を説明したが、この実施形態には限定されず、この発明は、ステアバイワイヤ方式以外の各種の車両用の操舵装置、あるいは、車両用以外の操舵装置、その他各種の装置にも使用できる。なお、実施形態の車両用の操舵装置では、転舵部材3としてタイヤホイールを採用しているのでこれを転舵輪3と称したが、車輪を備えない輸送用機器、例えば、ステアリングホイール1の回転操作によりステアリングシャフト4を軸回り回転させ、その回転により舵(ラダー)を左右に動作させる舵取り装置を備えた輸送用機器(例えば、船舶や航空機等)においては、転舵部材3は舵(ラダー)に相当する。
【0083】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 ステアリングホイール
2 転舵アクチュエータ
3 転舵部材
4 ステアリングシャフト
6 反力モータ
20 回転伝達装置
21 外方部材
30 内方部材
31 モータシャフト
32 補助内方部材
40 電磁クラッチ
41 コア
41a 外径側立上部
41b 内径側立上部
41c 基部
41x、51x 対向面
42 電磁コイル
44 電磁石
50 2方向クラッチ
51 アーマチュア
53 中立保持用弾性部材
54 保持器
55 ローラ
57 離反用弾性部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9