(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035555
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
B62D 7/18 20060101AFI20240307BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B62D7/18 Z
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140100
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】大畑 佑介
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 聡
【テーマコード(参考)】
3D034
3D333
【Fターム(参考)】
3D034BA03
3D034BA04
3D034BC04
3D034BC25
3D034BC26
3D034BC28
3D034BC30
3D034CC09
3D333CB02
3D333CB28
3D333CB39
3D333CB42
3D333CC10
3D333CC15
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD13
3D333CD14
3D333CE24
3D333CE45
(57)【要約】
【課題】アクチュエータの直進運動を回転運動に効率よく変換し車輪からの逆入力に対する強度も高い操舵機能付ハブユニットを提供する。
【解決手段】 車輪9を回転支持するハブベアリング15を有するハブユニット本体2、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在に支持するユニット支持部材3、および前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータ5を備え、前記操舵用アクチュエータは、モータと、モータの回転出力を直進運動に変換する直動機構25とを有し、前記直動機構と前記ハブユニット本体との間にジョイント部8が介在し、前記ハブユニット本体が操舵角の中立位置にあるときに、前記操舵用アクチュエータの直動機構軸心Lは、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心と前記ジョイント部の前記ハブユニット本体側の第1中心点JO1とを含む平面Pに直交する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材、および前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動をさせる操舵用アクチュエータを備え、
前記操舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転出力を直進運動に変換して前記回転駆動を行う直動機構とを有する操舵機能付ハブユニットであって、
前記直動機構と前記ハブユニット本体との間にジョイント部が介在し、
前記ハブユニット本体が操舵角の中立位置にあるときに、前記操舵用アクチュエータの直動機構軸心は、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心と前記ジョイント部の前記ハブユニット本体側の第1中心点とを含む平面に直交する、
操舵機能付ハブユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、
前記ハブユニット本体は、前記ハブユニット本体から延伸して前記操舵用アクチュエータが連結されるアーム部を有し、
前記操舵用アクチュエータは、前記転舵軸心に直交する方向に移動自在な出力ロッドを前記直動機構に有し、
前記出力ロッドとアーム部とが、前記ジョイント部によって連結された、
操舵機能付ハブユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、
前記操舵用アクチュエータの前記直動機構軸心上に、前記ジョイント部の前記第1中心点と、前記ジョイント部の前記直動機構側の第2中心点とが配置される、
操舵機能付ハブユニット。
【請求項4】
請求項1または2に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、
前記操舵用アクチュエータは、前記ユニット支持部材に対して、前記上下方向に延びる揺動軸心である第2中心点回りに揺動自在に支持された、
操舵機能付ハブユニット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、
前記ユニット支持部材における、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転自在に支持する上下の回転支持部材が、前記車輪のホイール内に配置される、
操舵機能付ハブユニット。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する操舵システム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持された車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の操舵を左右輪独立で行う機能を備えた操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車等の車両では、ハンドルとステアリング装置が機械的に接続され、ステアリング装置の両端はタイロッドによって左右輪にそれぞれつながっている。そのため、ハンドルの動きによる左右輪の切れ角度は初期の設定によって決まる。車両のジオメトリには、(1)左右輪の切れ角度が同じである「パラレルジオメトリ」と、(2)旋回中心を1箇所にするために旋回内輪車輪角度を旋回外輪車輪角度よりも大きく切る「アッカーマンジオメトリ」が知られている。
【0003】
アッカーマンジオメトリは、車両に作用する遠心力を無視できるような低速域での旋回において車輪をスムースに旋回させるために、各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定している。しかしながら、遠心力を無視できない高速域の旋回においては、車輪は遠心力とつり合う方向にコーナリングフォースを発生させることが望ましいので、アッカーマンジオメトリよりもパラレルジオメトリとすることが好ましい。そこで、車速や旋回加速度に応じて車輪の切れ角を変更し、低速域ではアッカーマンジオメトリを、高速域ではパラレルジオメトリと任意に選択することで、走行抵抗を増大させることがなく、また低速でのスムースな旋回性と高速でのコーナリング性能とを両立させることが考えられてきた。
【0004】
上述のように、一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているので、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができないから、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかしながら、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪の車輪横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化および車輪の早期摩耗の原因となる。また、内外輪を効率的に利用できないことによって、コーナリングのスムースさが損なわれるといった課題がある。これらを踏まえて、様々な装置が提案されている(例えば、特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-226972号公報
【特許文献2】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2の装置では、ステアリングジオメトリを変更させることができるが、次のような課題がある。
【0007】
特許文献1の装置では、ナックルアームとジョイント位置を相対的に変化させてステアリングジオメトリを変化させている。このような部分で車両のジオメトリを変化させるほどの大きな力を得るモータアクチュエータを備えることは、空間の制約上、非常に困難である。また、この位置での変化による車輪角の変化が小さく、大きな効果を得るには、大きく変化させる、つまり大きく動かす必要がある。
【0008】
特許文献2の装置では、トー角とキャンバー角の両方を任意の角度に傾けることが可能であるが、モータが2つ用いられているので、モータ個数の増大によるコスト増が生じるうえ、制御が複雑になる。
【0009】
また、本出願人による特開2022-108179には、車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材、および前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータを備えた操舵機能付ハブユニットが記載されている。さらに該操舵機能付ハブユニットでは、前記操舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転出力を直進運動に変換して前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる直動機構とを有する。操舵用アクチュエータの直動機構の直動運動をハブユニット本体の操舵(回転運動)に変換するためには、直動機構とハブユニット本体の位置関係の補正が必要であり、例えば直動機構とハブユニット本体との間にジョイント(継手)部品を用いる必要がある。なお、1つの関節部分を有する1リンク式ジョイント方式(1ジョイント式)によるジョイント部品を使用する際にガタ(隙間などにおけるガタつき等)を利用して操舵させることも可能であるが、2つの関節部分を有する2リンク式ジョイント方式(2ジョイント式)によるジョイント部品で正確に位置が定まる方が好ましい。
【0010】
特開2022-108179では、取付誤差低減のために2方向以上の自由度を有するジョイント部(継手部)を介して直動機構とハブユニット本体が連結されている。これらのジョイント部(部品)は、アクチュエータからの動力を正確に伝え、ハブユニット本体を操舵させるだけではなく、タイヤからの反力を支えるために大きな負荷容量が必要となる。このため、上記リンクの部分にはボールジョイント等による負荷容量が大きいすべり軸受を用いることが望ましい。
【0011】
ここで、転舵軸部および転舵軸部周りの回転支持部材(軸受)は、車輪からの様々な方向からの荷重を支えるため、剛性、強度を高くする必要があるが、剛性を確保するために単純にサイズを大きくすると重量・サイズが増加し、バネ下荷重が増え車両の運動性能が低下する。また、転舵軸部をタイヤホイール外に配置すると、転舵軸心の中心から車輪の接地面中心までの距離が長くなり、車輪を操舵させる力が大きく必要になる。そのためアクチュエータが大きくなり、ひいてはハブユニット全体の重量が増加する。
【0012】
また、上記継手に要求される機能として、操舵用アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に効率よく変換することに寄与すること、車輪からの逆入力に対する強度が高いこと、がある。なお、上述のようにジョイントにおいてガタを意図的に使用すること等は取り得る方策であるが、アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に変換する際に、直動機構等にガタやこじりが生じないことが原則的に好ましい。上述のようなすべり軸受を用いた場合、内部材と該内部材を外包する外部材の相対的な滑りが大きいと、作業効率が悪化するだけではなく、耐久性の低下も招く恐れがある。上記の逆入力に対する強度を高くする対策として上述のすべり軸受を大きくすることが考えられるが、ホイール内に配置するには限度がある。特開2022-108179には、こうした点について明示が無い。
【0013】
本発明の目的は、アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に効率よく変換することに寄与しつつ車輪からの逆入力に対する強度も高い操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の操舵機能付ハブユニットは、
車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材、および前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動をさせる操舵用アクチュエータを備え、
前記操舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転出力を直進運動に変換して前記回転駆動を行う直動機構とを有する操舵機能付ハブユニットであって、
前記直動機構と前記ハブユニット本体との間にジョイント部が介在し、
前記ハブユニット本体が操舵角の中立位置にあるときに、前記操舵用アクチュエータの直動機構軸心は、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心と前記ジョイント部の前記ハブユニット本体側の第1中心点とを含む平面に直交する。
ここで言う「直交」とは、例えば90°±10°の範囲が許容されうる。なお、組立上、例えば90°±1°以下の範囲で製造可能である。
【0015】
この構成によると、本発明の操舵機能付ハブユニットは、車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部とを備える。操舵用アクチュエータが駆動する直動機構がハブユニット本体を転舵軸心回りに回転駆動する。この操舵用アクチュエータにより、ハブユニット本体を転舵軸心回りに一定の範囲で自由に回転させることができるので、車両の走行状況に応じて、例えば車輪のトー角を任意に変更することができる。
【0016】
本発明の操舵機能付ハブユニットは、前輪、後輪の両方に適用可能である。この操舵機能付ハブユニットを前輪に適用した場合、ステアリング装置(操舵装置)により運転者のハンドル操作で車輪は例えばナックルおよびユニット支持部材とともに操舵されるが、ハブユニット本体をこの操舵に付加する形で転舵軸心回りに例えば僅かな角度の操舵(補助操舵とも呼ぶ)を車輪毎に独立して行える。よって、旋回走行時に走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。また例えば、高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとするなど、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。さらに、左右の操舵輪の操舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。さらに直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角度の量を調整することで、低速時には燃費を悪化させることなく、高速時には走行安定性を確保するなど調整が可能となる。
【0017】
また、この操舵機能付ハブユニットを後輪に適用した場合は、該ハブユニット全体は操舵(回転駆動)されないが、ハンドル操作等の操舵機能により、前輪と同様にハブユニット本体の僅かな角度の操舵を車輪毎に独立して行える。舵角を前輪と同じ位相にすると、操舵時に発生するヨー方向の影響を抑え、車両の安定性を高めることができる。さらに、直線走行時にも左右独立でトー角度を調整することで、走行安定性を確保することができる。
【0018】
さらに本発明の操舵機能付ハブユニットは、ハブユニット本体が操舵角の中立位置(ハブユニット本体の操舵角度が0度の位置)にあるときに、操舵用アクチュエータは、アクチュエータの直動機構軸心が転舵軸心とジョイント部の第1中心点とを通る平面に直交するように配置される。なお典型的には、アクチュエータ直動機構軸心上に該第1中心点が存在する。よって、操舵用アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に効率よく変換することに寄与でき、加えて車輪からの逆入力に対する強度も高い構造とすることができる。この構成では、ハブユニット本体が操舵された場合に、第1中心点のアクチュエータの直動部軸心からの距離を最も小さくすることができる。なお少なくとも、上記構成は第1中心点のみが存在する1ジョイント式となり得るので、例えば1ジョイント式のジョイント部品による操舵においてガタが勘案される。
【0019】
なお、前記ハブユニット本体は、前記ハブユニット本体から延伸して前記操舵用アクチュエータが連結されるアーム部を有し、
前記操舵用アクチュエータは、前記転舵軸心に直交する方向に移動自在な出力ロッドを前記直動機構に有し、
前記出力ロッドとアーム部とが、前記ジョイント部によって連結されてもよい。なお、ジョイント部には所謂ボールジョイント構造が含まれうる。この構成により更に、操舵用アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に効率よく変換することに寄与でき、加えて車輪からの逆入力に対する強度も高い構造とすることができる。
【0020】
前記操舵用アクチュエータの前記直動機構軸心上に、前記ジョイント部の前記第1中心点と、前記ジョイント部の前記直動機構側の第2中心点とが配置されてもよい。この場合、2ジョイント式のジョイント部となり得、1ジョイント式のようなガタを利用した操舵ではなくて、2ジョイント式で正確に位置決めが可能となる。加えて第1中心点の操舵用アクチュエータの直動機構軸心に対する距離が最小にされた場合に、ハブユニット本体が操舵されたときに第2中心点における相対すべり(屈曲角度)を小さくすることができる。相対すべりとは例えば、アクチュエータの直動機構軸心の、第1中心点JO1および第2中心点JO2を通るジョイント部の軸心に対する傾きが変化すること(該2軸心がなす角度が変化すること)を意味する。よって、操舵用アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に変換する際に、ガタやこじりを生じさせることなく直進動作を効率よく行うことができる。また、車輪からの外力を直接(真っ直ぐ)受けることができるため、操舵用アクチュエータを小型化できる。
【0021】
前記操舵用アクチュエータは、前記ユニット支持部材に対して、前記上下方向に延びる揺動軸心である第2中心点回りに揺動自在に支持されてもよい。この場合、上述のジョイント部に直動機構側の第2中心点を有する構成と同様の効果を奏することができる。
【0022】
前記ユニット支持部材における、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転自在に支持する上下の回転支持部材が、前記車輪のホイール内に配置されてもよい。この回転支持部材(転舵軸心)の位置によって、操舵機能付ハブユニットのコンパクト化が可能となり、地面からの衝撃に安定的に対応できる。
【0023】
本発明の操舵システムは、本発明の上記いずれかの構成の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する。
【0024】
この構成によると、操舵制御部は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。アクチュエータ駆動制御部は、操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータを駆動制御する。したがって、上記の操舵機能付ハブユニットについて前述したのと同様の各効果が得られる上に、運転者のハンドル操作による操舵に付加して車輪角度を任意に変更することができる。
【0025】
本発明の車両は、本発明の上記いずれかの構成の操舵機能付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持される。このため、上記の操舵機能付ハブユニットについて前述したのと同様の各効果が得られる。前輪は一般的に操舵輪とされるが、操舵輪に、本発明の操舵機能付ハブユニットを適用した場合は、走行中におけるトー角調整に効果的である。後輪は一般的に非操舵輪とされるが、非操舵輪に適用した場合は、非操舵輪の若干の操舵によって低速走行時における最小回転半径の低減および高速走行時における車両安定性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両により、アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に効率よく変換することに寄与しつつ車輪からの逆入力に対する強度も高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの外観を示す斜視図である。
【
図2】同操舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す横断面図である。
【
図6】ハブユニット本体が操舵角中立位置にあるときの同操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータと転舵軸心との位置関係を示す図である。
【
図7】ハブユニット本体が操舵角中立位置にあるときの同操舵用アクチュエータと転舵軸心との位置関係を示す他の図である。
【
図8】ハブユニット本体が操舵角中立位置にあるときの同操舵用アクチュエータと転舵軸心との位置関係を示すさらに他の図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータと転舵軸心との位置関係を示す(A)平面図および(B)側面図である。
【
図10】本発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを例に転舵軸心との位置関係による作用効果を説明する図である(操舵角中立位置)。
【
図11】同操舵用アクチュエータを例に転舵軸心との位置関係による作用効果を説明する図である(操舵角中立位置から移動)。
【
図13】従来の操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータと転舵軸心との位置関係による作用を説明する図である(操舵角中立位置)。
【
図14】同操舵用アクチュエータと転舵軸心との位置関係による作用を説明する図である(操舵角中立位置から移動。
【
図16】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【
図17】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両の他の例の模式平面図である。
【
図18】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両のさらに他の例の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1を、図面を参照しつつ説明する。
図1~9は、ハブユニット本体が後述の操舵角の中立位置(ハブユニット本体の操舵角度が0度の位置)にある。
図1に示すように、この操舵機能付ハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3と、操舵用アクチュエータ5とを備える。
図16に示すように、本実施形態では、操舵機能付ハブユニット1は、トーションビーム式の懸架装置12Rで支持される左右の後輪9R,9Rを各輪独立して操舵する機能を有し、操舵装置による前輪操舵付きの車両10における後輪9R,9Rに適用される(後輪搭載)。懸架装置は、トーションビーム式のサスペンションに限定されるものではなく、ストラット式サスペンションやマルチリンク式サスペンション等他のサスペンションを適用可能である。
【0029】
操舵機能付ハブユニット1は、操舵装置のハンドル11aの操作等による左右の前輪9F,9Fの操舵と共に、左右の後輪9R,9Rを微小な角度(約±5deg)で独立して操舵(補助操舵とも呼ぶ)可能である。但し、操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前記微小な角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
【0030】
懸架装置12Rの左右両側部には、
図3のII-II線断面図に相当する
図2のユニット支持部材3が、例えば車載用のインロー構造SP1を介して、それぞれ取り付けられている。図に示すように、ユニット支持部材3は、例えば、平板状の部材から成る。ユニット支持部材3のインボード側に、操舵用アクチュエータ5が設けられ、ユニット支持部材3のアウトボード側に、ハブユニット本体2が設けられる。なおユニット支持部材3は、マルチリンク式サスペンションのナックルであっても構わない。操舵機能付ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。なお、操舵機能付ハブユニット1を単に、ハブユニット1と言う場合がある。
【0031】
ハブユニット本体2と操舵用アクチュエータ5とは、例えばボールジョイント構造(以下、単にボールジョイントと呼ぶ)を含むジョイント部8により連結されている。本実施形態では、具体的には、後述の直動機構25とハブユニット本体2との間のジョイント部8により連結されており、さらに具体的には、該直動機構25の出力ロッド25aとハブユニット本体2の後述のアーム部17とがジョイント部8によって連結されている。なお本実施形態のジョイント部8は、2ジョイント式の例を示す。通常、このジョイント部8は、防水、防塵のために図示外のブーツが取り付けられている。
【0032】
図5に示すように、ハブユニット本体2は、操舵角の中立位置(ハブユニット本体2の操舵角度が0度の位置)から車輪の回転軸心Oに直交しかつ上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で回転支持部材4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。例えば車輪の回転軸心Oは水平方向に延び、転舵軸心Aはハブユニット本体2側に存在して鉛直方向に延びている。ここでハブユニット本体2の操舵角度が0度の位置とは、車両が直進するように(左右にぶれないように)操舵装置が設定されている状態において、車両が直進するような(左右にぶれないような)操舵機能付ハブユニット1の転舵軸心Aに対する位置のことをいう。
図2に示すように、車輪9は、ホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0033】
<ハブユニット本体2について>
図2に示すように、ハブユニット本体2は、車輪9を回転支持するハブベアリング15と、上下の転舵軸部16b,16b(
図5)と、操舵力受け部であるアーム部17とを備える。アーム部17は、ハブユニット本体2から延伸して、ジョイント部8を介して操舵用アクチュエータ5(出力ロッド25a)に連結される。ハブベアリング15は、内方部材18と、外方部材19と、これら内方部材18,外方部材19間に介在した鋼球等の転動体20と、転動体20を保持する保持器とを有し、車体側の部材と車輪9とを繋ぎ、車輪9を滑らかに回転させる。
【0034】
このハブベアリング15は、外方部材19が固定輪、内方部材18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内方部材18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。ハブフランジ18aaに、車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内方部材18は車輪とともに、車輪の回転軸心O回りに回転する。
【0035】
上下の転舵軸部16b,16bは、外方部材19の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状である。この例では、上下の転舵軸部16b,16bは、外方部材19に一体に形成されている。前記「一体に形成されている」とは、各転舵軸部16bと外方部材19とが、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部として成形されたことを意味する。なお外方部材19の外周面に嵌合された円環部を備え、この円環部の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の転舵軸部16b,16bであってもよい。
【0036】
図2および
図3に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、図示外のブレーキキャリパとを有し、前記ブレーキキャリパは上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22に取付けられる。上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22は、外方部材19の外周面におけるインボード側端部からアーム状に突出して設けられている。よってハブベアリング15とブレーキキャリパ取付部22は、一体に操舵される。
【0037】
<回転支持部材等>
図4および
図5に示すように、各回転支持部材4は転がり軸受であり、この例では、転がり軸受として、円すいころ軸受が適用されている。転がり軸受は、転舵軸部16bの外周に嵌合された内方部材4aと、保持部材Bhに嵌合された外方部材4bと、内方部材4a,外方部材4b間に介在する複数の転動体4cとを有する。なお回転支持部材4に隣接して、防水、防塵のためにOリング等のシール部材RNGが取り付けられている。
【0038】
上下の転舵軸部16b,16bは、それぞれユニット支持部材3に設けられた上下の保持部材Bh,Bhの軸受嵌合凹部13,13にそれぞれ嵌合する上下一対の前記回転支持部材4,4を介して、ユニット支持部材3に回転自在に支持されている。各保持部材Bhは、外方部材4bの外周面が嵌合される略円筒形状の保持部材本体部Bbを有する。
図1および
図4に示すように、上下の保持部材Bh,Bhには、上下の保持部材本体部Bb,Bb同士を互いに連結する一対のビームBm,Bmが設けられている。各ビームBmはそれぞれ上下方向に延び、長手方向上端部が上側の保持部材本体部Bbのねじ部にボルト33で締結され、長手方向下端部が下側の保持部材本体部Bbのねじ部にボルト33で締結される。これにより転舵軸部16b(
図5)の剛性をより高め得る。本実施形態では、各回転支持部材4,4は車輪9のホイール9a(
図2)内に位置する。この例では、各回転支持部材4が、ホイール9a(
図2)内でこのホイール9a(
図2)内の幅方向中間付近に配置される。
【0039】
各転舵軸部16bには、転舵軸心Aに沿って延びる雌ねじ部がそれぞれ形成され、この雌ねじ部に螺合する
図5のボルト23が設けられている。ボルト23は、フランジ23a(
図4)付きのボルト23であって、
図5の内方部材4aの端面にフランジ23aを当接させた状態で前記雌ねじ部に螺合することで内方部材4aの端面に押圧力を付与し得る。これにより各回転支持部材4にそれぞれ予圧を与えることで各回転支持部材4の剛性を高め得る。車両の重量がこのハブユニット1に作用した場合でも初期予圧が抜けないように設定される。
【0040】
回転支持部材4は、円すいころ軸受に限るものではなく、最大負荷等の使用条件によってはアンギュラ玉軸受、球面滑り軸受等の他の形式の軸受を用いることも可能である。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。なお、フランジ無しのボルトの頭部と内方部材4aの端面との間に円板状の押圧部材(図示せず)を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルトにより、内方部材4aの端面に押圧力を付与することで、各回転支持部材4にそれぞれ予圧を与えてもよい。
【0041】
<操舵用アクチュエータ5>
図2に示すように、操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A回りに回転駆動させる機能を有する。操舵用アクチュエータ5は、モータ26と、モータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転出力を出力ロッド25aの前記転舵軸心Aに直交するスラスト方向Xの往復直線動作に変換する直動機構25とを備える。なお、減速機27は必要に応じて省略されてもよい。出力ロッド25aは、直動機構25に含まれ、上記スラスト方向Xおよび操舵用アクチュエータ5の直動機構25の軸心L(後述)と平行である。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。
【0042】
<減速機27>
図1の減速機27は、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構または歯車列等を用いることができ、本実施形態ではベルト伝達機構が用いられている。減速機27は、ドライブプーリ(不図示),ドリブンプーリ27b(
図2)と、これらのプーリに掛け渡されたベルト(不図示)とを有する平行軸式の減速機である。モータ26のモータ軸に上記ドライブプーリが結合され、直動機構25のナット部25c(
図2)にドリブンプーリ27bが設けられている。このドリブンプーリ27bは、前記モータ軸に平行に配置されている。モータ26の駆動力は、前記ドライブプーリからベルトを介してドリブンプーリ27bに伝達される。前記ドライブプーリ,ドリブンプーリ27bとベルトとで、巻き掛け式の減速機27が構成される。
【0043】
<直動機構25>
図2に示すように、直動機構25は、滑りねじ等の送りねじ機構、またはラック・ピニオン機構等を用いることができ、本実施形態では台形ねじの滑りねじ式の送りねじ機構38が用いられている。この直動機構25は、送りねじ機構38、後述の回転支持部28およびこれを含む各構成部品を覆うカバーであるアクチュエータケース46を備える。アクチュエータケース46により、直動機構25は送りねじ機構38および回転支持部28に異物等が侵入することを防止できると共に、送りねじ機構38および回転支持部28に潤滑剤を保持することができる。
【0044】
図2には、足回り部品を含む、操舵用アクチュエータ5の直動機構25の軸心Lに対し直交する上方向から見た水平方向の図が示されている。同図の操舵用アクチュエータ5は、直動機構軸心Lが、転舵軸心Aと、ジョイント部8のハブユニット本体2側のボールジョイントJ1の第1中心点JO1とを含む平面Pに直交するように配置される。さらに本実施形態では、操舵用アクチュエータ5は、直動機構軸心LがボールジョイントJ1の第1中心点JO1を通るように配置される。加えて本実施形態では、ジョイント部8の直動機構25側にボールジョイントJ2およびその中心点(第2中心点)JO2が配置され、第2中心点JO2は直動機構軸心L上に配置される。本実施形態では、2方向以上の角度に対する自由度を有する継手としてボールジョイントを使用したが、この他に2つの直交するリンクを組み合わせたクロスジョイント(カルダンジョイント)等でも同様の機能が実現可能である。
【0045】
図2に示すように、操舵用アクチュエータ5は、インロー構造SP2によってユニット支持部材3に取り付けられ、更にボルトBLT(
図3)によりボルト締結結合される。インロー構造SP2を用いることで、取付精度が向上し、トー方向以外の外力を保持することが可能となる。なお、より剛性を高めるためにユニット支持部材3とアクチュエータケース46は一体であっても構わない。
【0046】
図6に、ハブユニット本体2が操舵角中立位置にあるときの、本実施形態における操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5(直動機構25)と転舵軸心Aとの位置関係を示す。
図6では、直動機構軸心Lが、
図2のように上記平面Pに直交するように配置され、さらにボールジョイントJ1の第1中心点JO1およびボールジョイントJ2の第2中心点JO2を通るように配置されており、車輪の回転軸心Oと平行となっている例が示されている。同図では、転舵軸心Aに直交し第1中心点JO1を含む平面上において、直線Lが、転舵軸心Aを中心とする第1中心点JO1の軌跡円Cに対する接線となっている。
図7、
図8は、ハブユニット本体2が操舵角中立位置にあるときの上記位置関係の他の例を示しており、
図7では直動機構軸心Lが車輪の回転軸心Oと平行となっていない点、
図8では直動機構軸心Lが車輪の回転軸心Oと直交している点を除き、他の構成、作用および効果は
図6の例と略同じである。直動機構軸心Lが、ボールジョイントJ1の第1中心点JO1と転舵軸心Aを含む上記平面Pに直交するように配置され、加えてボールジョイントJ1の第1中心点JO1を通るように配置されていれば、操舵用アクチュエータ5は
図6~8のように配置することが可能である。さらに、ジョイント部8に含まれるボールジョイントJ2の第2中心点JO2が、直動機構軸心Lを通るように配置されていれば好ましい。これにより、ジョイント部8のボールジョイントJ1、J2に内包される球状の部材(
図2)におけるすべり軸受部を最大限に大きく設計することができ、強度や信頼性を向上させることが可能となる。
【0047】
[第2の実施形態]
図6の構成の変形例として、上記ボールジョイントJ2の第2中心点JO2に対応する
図9(A)、(B)のような第2中心点JO2’を中心軸心Mに含むトラニオン軸状部材をアクチュエータケース46と一体化させて、操舵用アクチュエータ5自身が揺動する構造であってもよい。具体的には、操舵用アクチュエータ5は、ユニット支持部材3に対して、前記上下方向に延びる揺動軸心である第2中心点JO2’回りに揺動自在に支持されている。この場合、ジョイント部8はボールジョイントJ2を有さない、ボールジョイントJ1のみを有する1ジョイント式の例であるが、ハブユニット本体2が操舵角中立位置にあるときに、直動機構軸心LがボールジョイントJ1の第1中心点JO1と転舵軸心Aを含む上記平面Pに直交するように配置されていれば、さらに直動機構軸心LがボールジョイントJ1の第1中心点JO1を通るように配置されていれば、こうした構成の操舵用アクチュエータ5であっても採用可能であり、
図6の構成と同様の効果を奏しうる。また、このアクチュエータケース46が上記の第2中心点JO2’を中心軸心に含むトラニオン軸状部材を有する構成において、
図7、
図8のように直動機構軸心Lが車輪の回転軸心Oと平行となっていない位置関係、車輪の回転軸心Oと直交している位置関係で操舵用アクチュエータ5を配置することもできる。
【0048】
<操舵用アクチュエータ5と転舵軸心Aとの位置関係における効果>
上記の各実施形態の操舵用アクチュエータ5と転舵軸心Aとの位置関係による効果を、本発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を例に、
図10~15の模式図を使用して説明する。ここで、
図10、11、12は同実施形態の位置関係の構成を示し、
図13、14、15は従来の位置関係の構成、すなわちハブユニット本体2が操舵角中立位置にあるときに直動機構軸心Lが上記平面Pに直交しない操舵機能付ハブユニットを示す。
図10、13は、ハブユニット本体2が操舵角の中立位置(操舵角が0度)である状態を示し、
図11、14は、ハブユニット本体2が操舵角中立位置にある状態からジョイント部8(直動機構25)がスラスト方向Xに移動した後の状態を示す。
図12、15は、
図11、14のそれぞれのジョイント部8部周りの拡大図である。
【0049】
図10に示すように、ハブユニット本体2が操舵角中立位置にあるときに、直動機構軸心Lが転舵軸心Aとジョイント部8の第1中心点JO1を通る平面Pに直交しかつ直動機構軸心Lが第2中心点JO2および第1中心点JO1を通るように配置されることで、ジョイント部8の相対すべり(以下、屈曲角度θとも呼ぶ)を小さくできる。この相対すべりを小さくすることで直動機構25がこじりを発生することなくスラスト方向Xの進退動作が行えるため、作業効率が良くなるため操舵用アクチュエータ5の小型化が可能である。
【0050】
すなわち、
図11のようにジョイント部8(直動機構25)がスラスト方向Xに移動した場合に、直動機構軸心Lが、
図12に示すようにボールジョイントJ1の第1中心点JO1およびボールジョイントJ2の第2中心点JO2を通るジョイント部8の軸心たる直線JJに対して変化角度(屈曲角度)θをとる。このとき、転舵軸心Aに直交し第1中心点JO1を含む上記平面上で直線Lが転舵軸心Aを中心とする第1中心点JO1の軌跡円Cに対する接線となっているから、上記スラスト方向Xの移動において第1中心点JO1の平面Pに平行な偏向方向の移動量が微小となって屈曲角度θが微小角となるため、従来の場合(
図15)よりも屈曲角度θを小さくできる。なお従来例では、
図13に示すハブユニット本体2が操舵角中立位置にある状態から直動機構25の出力ロッド25aが
図14のようにスラスト方向Xに移動した場合に、上記平面上で
図15に示す直線Lが上記軌跡円Cに対する接線となっていないから第1中心点JO1の上記偏向方向の移動量が大きくなり直動機構軸心Lに対して直線JJが同図における下方へ大きく傾くため、該直線JJに対する屈曲角度θが本実施形態の場合(
図12)よりも大きくなる。
【0051】
<センサ等>
車輪の操舵角度をより正確に制御するために、アクチュエータケース46には、直動機構25における位置を検出する位置センサ52が設けられている。本実施形態の位置センサは、出力ロッド25aの軸方向(スラスト方向X)の移動量を検出し位置センサ値として出力可能である。位置センサは、磁気式、光学式、静電容量式等の各種のセンサを用いることができるが、この実施形態では、磁気センサが用いられている。
【0052】
<操舵機能付ハブユニット1の作用効果>
以上説明した操舵機能付ハブユニット1は、ハブユニット本体2の内部に車輪の回転軸Oとは異なる転舵軸心Aを持ち、ハブユニット本体2は回転支持部材4と、転舵軸部16bとボルト23とにより上下の両端部でこの転舵軸心Aに対して回転可能に保持されている。すなわちこの操舵機能付ハブユニット1よれば、車輪9を支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2を、操舵機能付ハブユニット1内に配置される操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。ハブユニット本体2は、操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aをモータ26の駆動により進退させることで、出力ロッド25aに連結されたジョイント部8およびアーム部17を介して回転させられる。
【0053】
操舵用アクチュエータ5によりハブベアリング15(
図2)によってハブユニット本体2を転舵軸心A回りに一定の範囲で自由に回転させることができ、車両の走行状況に応じて、例えば、車輪9のトー角を任意に変更することができる。この操舵機能付ハブユニット1の構成を前輪に適用した場合、ステアリング装置11(
図17)により運転者のハンドル11aの操作で、車輪9はナックル6(
図17)およびユニット支持部材3と共に操舵されるが、この操舵に付加する形で転舵軸心A回りに僅かな角度の補助操舵を車輪毎に独立して行える。補助操舵の角度については、車両の運動性能の向上、走行の安定・安全性向上を図るにつき、僅かな角度で足り、補助操舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助操舵の角度は操舵用アクチュエータ5の制御により行う。
【0054】
また、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば、高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとする等、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。さらに、左右輪の操舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。さらに直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角を調整することで、低速時には燃費を悪化させることなく、高速時には走行安定性を確保する等調整が可能である。
【0055】
この操舵機能付ハブユニット1の構成を後輪に適用した場合は(
図16)、ハブユニット全体は操舵しないが、操舵機能により、前輪と同様に僅かな角度の操舵を車輪毎に独立して行える。後輪の舵角を前輪と同じ位相にすると、操舵時に発生するヨーを抑え、車両の安定性を高めることができる。これによって、簡単な構造でハブユニット1に取り付けられた車輪のトー角度を任意に変更することができる。さらに車両の走行条件に応じて、直線走行時にも左右独立でトー角を調整することで、燃費の向上および走行安定性を確保することができる。
【0056】
操舵用アクチュエータ5の直動機構軸心Lを、ハブユニット本体2の操舵角の中立位置(ハブユニット本体2の操舵角度が0度の位置)で、ハブユニット本体2の転舵軸心Aと第1中心点JO1を含む平面Pに、直交して配置することで、ハブユニット本体2が操舵された場合に第1中心点JO1が、操舵用アクチュエータ5の直動機構軸心Lからの距離を最も小さくすることができる。この距離が小さいほどスラスト方向Xの移動時の相対すべり(屈曲角度θ)が小さくなり、操舵用アクチュエータ5の効率及び耐久性の向上が可能となる。さらに、操舵用アクチュエータ5の直動機構軸心L上にジョイント部8の第1中心点JO1と第2中心点JO2とが配置されることで、ハブユニット本体2が操舵されたときに第2中心点における相対すべり(屈曲角度)を小さくすることができ、操舵用アクチュエータの直進運動を転舵軸心回りの回転運動に変換する際に、ガタやこじりを生じさせることなく直進動作を効率よく行うことができる。また、車輪からの外力を直接(真っ直ぐ)受けることができるため、操舵用アクチュエータを小型化できる。なお、継手においてピン構造を採用した場合は、ピンの中心軸を第1(第2)中心点とできる。また、ボールジョイント構造を採用した場合は、上述のようにボールジョイントに内包される球状部材の中心を第1(2)中心点とできる。
【0057】
ナット部25cの中径部でナット部25cを回転支持する回転支持部28(
図2)として、背面合わせされた一対の円すいころ軸受28a,28aを採用することで、正面合わせの場合よりも作用点間の距離が拡がり、アキシアル荷重に対する剛性に加えて、モーメント荷重に対する剛性を向上させることができる。例えば、操舵角度が増大すると、ハブユニット本体2から直動機構25に加わる荷重が、直動機構25の直進方向に対して斜めにずれる。このため、モーメント荷重に対する剛性が高いと、路面から外力が作用した際の操舵角度を正確に保つうえで有利である。
【0058】
[他の実施形態]
図17に示すように、前輪操舵の車両において、上記各実施形態の操舵機能付ハブユニット1は、操舵輪である左右の前輪9Fに装備されてもよい。この場合、ユニット支持部材3(
図1)が、懸架装置12のナックル(足回りフレーム部品)6に一体または別体に設けられる。前記操舵機能付ハブユニット1の転舵軸心Aは、主な操舵を行うキングピン軸とは異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、この実施形態の操舵機能付ハブユニット1は、前記キングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸心を有する。
【0059】
その他
図18に示すように、上記各実施形態の操舵機能付ハブユニット1を、操舵輪である左右の前輪9F,9Fおよび非操舵輪である左右の後輪9R,9Rにそれぞれ用いてもよい。
【0060】
<操舵システムSYについて>
図1に示すように、この操舵システムSYは、いずれかの実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1と、この操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、操舵制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた補助操舵角指令信号(操舵角指令信号)に応じた電流指令信号を出力する。
【0061】
上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段であり、車両の状況に合わせた操舵角指令信号等を出力する。この上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU、または、Electronic Control Unit,略称ECU)が適用される。アクチュエータ駆動制御部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。このアクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整し得る。
【0062】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば直動機構25には台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構38を示したが、ボールねじ(図示せず)を用いた直動機構としてもよい。また、操舵システムは、運転者のハンドル操作に代えて、図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータ5を動作させてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…操舵機能付ハブユニット、2…ハブユニット本体、3…ユニット支持部材、6…ナックル(足回りフレーム部品)、8…ジョイント部、9…車輪、9F…前輪、9R…後輪、10…車両、12,12R…懸架装置、15…ハブベアリング、17…アーム部、25…直動機構、25a…出力ロッド、25c…ナット部、26…モータ、27…減速機、27b…ドリブンプーリ、28…回転支持部、28a…円すいころ軸受、28c…アンギュラ玉軸受、29…制御装置、30…操舵制御部、31…アクチュエータ駆動制御部、38…送りねじ機構、46…アクチュエータケース、A…転舵軸心、JO1…第1中心点、JO2、JO2’…第2中心点、L…直動機構軸心、O…車輪軸心、、P…平面