(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035561
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20240307BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240307BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B01J19/00 321
C12M1/00 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140112
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】595040205
【氏名又は名称】株式会社東海ヒット
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晴紀
【テーマコード(参考)】
4B029
4G075
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB01
4B029DG06
4G075AA13
4G075AA39
4G075DA02
4G075EB50
4G075EC06
4G075EC25
4G075FA01
4G075FB12
4G075FC17
(57)【要約】
【課題】閉鎖系では、薬液の少量投与でも圧力が掛かる。マイクロ流路ではこの圧力が有意的な流量の増大になり、マイクロ灌流環境を破壊する恐れがある。
【解決手段】薬液を投与する際には、蓋部35が開けられ、薬液を吸引したピペットEを、出入り口27から差込み空間25に差込んで、スリット23を挿通させる。ピペットEの挿通により形成された開口29により、隙間29a、29aを介して密閉空間33は開放される。その状態で、ピペットEの孔から薬液が吐出されると、その薬液の分だけ気相の空気が隙間29a、29aから矢印に示すように上方に向けて逃げるので、圧が掛かることはなく、薬液の投与に伴う流量の増大が抑制される。密閉空間33の開放は一時的であり、ピペットEを引き抜くと、元の閉鎖系に直ちに戻る。従って、閉鎖系のマイクロ灌流環境も維持できる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖系マイクロ灌流用のマイクロ流路に設けられる薬液投与機構であって、
マイクロ流路に気密に接続されるケースと、
前記ケースの上側の開口部に気密に装着される弁部を備え、
前記弁部は、弾性材によって成形され、且つスリットが形成された開閉部を下端側に有しており、前記スリットが薬液投与用のピペットの挿通により弾性的に拡開することを特徴とする閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構。
【請求項2】
請求項1に記載した閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構において、
ケース内では、弁部の下端位置は、マイクロ流路の延長上の仮想上端位置よりも上方にあることを特徴とする薬液投与機構。
【請求項3】
請求項2に記載した閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構において、
ケースには、内底面にマイクロ流路の内周面とほぼ同じ曲率の円弧状の溝路が形成されており、前記溝路と前記マイクロ流路がほぼ面一で連なっていることを特徴とする薬液投与機構。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構において、
弁部はダックビル状に一体成形されており、一対のリップ部を備えて下端側に開閉部を構成するくちばし部がケースの内部で垂下されていることを特徴とする薬液投与機構。
【請求項5】
請求項4に記載した閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構において、
ケースは蓋部により弁部を包んでネジ閉塞可能になっており、前記ケースまたは前記蓋部のいずれか一方にエア逃げ用のネジ無し部が設けられていることを特徴とする薬液投与機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖系マイクロ灌流用のマイクロ流路に設ける薬液投与機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年になって、マイクロ流路チップが開発されているが、このチップはμmスケールの極めて微小な流路を集積したものになっており、少量の細胞・薬液での実験が可能なことから、実験の効率化が期待されている。
これに対して、特許文献1に示すような閉鎖系流路にT字コネクタを介してディスペンサを接続して、薬液を投与する薬液投与機構が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような薬液投与機構であれば、閉鎖系を維持しつつ薬液を投与することができるが、閉鎖系では、薬液の少量投与でも圧力が掛かる。マイクロ流路ではこの圧力が有意的な流量の増大をもたらし、マイクロ灌流環境を破壊して、細胞にダメージを与える恐れがある。また、薬液を収容しているディスペンサはT字コネクタに固定的に接続されており、投与する薬液を都度交換することができないことから、複数種類の薬液の投与を前提とするような実験に利用することは難しい。
【0005】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、閉鎖系のマイクロ灌流環境を維持でき、且つ、投与する薬液を交換可能とする薬液投与機構を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、閉鎖系マイクロ灌流用のマイクロ流路に設けられる薬液投与機構であって、マイクロ流路に気密に接続されるケースと、
前記ケースの上側の開口部に気密に装着される弁部を備え、前記弁部は、弾性材によって成形され、且つスリットが形成された開閉部を下端側に有しており、前記スリットが薬液投与用のピペットの挿通により弾性的に拡開することを特徴とする閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構である。
【0007】
好ましくは、ケース内では、弁部の下端位置は、マイクロ流路の延長上の仮想上端位置よりも上方にある。
好ましくは、ケースには、内底面にマイクロ流路の内周面とほぼ同じ曲率の円弧状の溝路が形成されており、前記溝路と前記マイクロ流路がほぼ面一で連なっている。
【0008】
好ましくは、弁部はダックビル状に一体成形されており、一対のリップ部を備えて下端側に開閉部を構成するくちばし部がケースの内部で垂下されている。
好ましくは、ケースは蓋部により弁部を包んでネジ閉塞可能になっており、前記ケースまたは前記蓋部のいずれか一方にエア逃げ用のネジ無し部が設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の薬液投与機構を、閉鎖系マイクロ灌流用のマイクロ流路に設ければ、閉鎖系のマイクロ灌流環境を維持でき、且つ、投与する薬液を簡単に交換できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る薬液投与機構を設けた、閉鎖系マイクロ灌流システムの構成図である。
【
図6】
図4の弁部の下方から見た斜視図と破断斜視図である。
【
図7】
図6の弁部のスリットの閉鎖時と拡開時の状態図である。
【
図9】
図2の薬液投与機構による薬液投与作業のイメージ図である。
【
図10】
図2の薬液投与機構を複数マイクロ流路に接続した状態のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る閉鎖系マイクロ灌流用薬液投与機構1について、図面にしたがって説明する。
マイクロ流路チップAには、
図1に示すように閉鎖系でマイクロ流路Bが接続されており、灌流液を溜めたリザーバーCから、ポンプDの作動により灌流液が送液されるようになっている。
このマイクロ流路Bに、薬液投与機構1が設けられている。
【0012】
マイクロ流路Bを構成するチューブが分断されており、それぞれの分断側に、
図2~
図4に示す薬液投与機構1の備えるSUS製の円筒状のパイプ2、2の軸方向一端部が気密に外嵌接続されている。従って、マイクロ流路Bはパイプ2内でも実質的に延長されている。
図5にも示すように、符号3はケースを示しており、このケース3は剛性の耐熱プラスチック製で、有底円筒状になっている。ケース3の底面部3aの内底面には溝路5が形成されており、この溝路5は直径方向に延びている。溝路5の流れ方向に直交する断面は半円弧になっており、上方が開放されている。
【0013】
一方、周面部3bの外周面は直径方向で対向した一部の部位が平面状になっており、この平面部3c、3cを貫通して一対の接続穴7、7が形成されている。この接続穴7は円形で、ケース3の軸方向中心に向かって同軸状に段差が形成されており、円形は内方に向かって小さくなっている。内周面側の最も小さい接続穴7aの円形サイズは、溝路5を下半部として、それに上半部を合わせた仮想円形のサイズと同じになっている。
接続穴7a、7aは、それぞれ、下半部が溝路5の内周面とほぼ面一に連なっている。
【0014】
外周面側の最も大きい接続穴7cから、中間の接続穴7bに向かって、パイプ2の軸方向他端部が差込まれており、パイプ2の外周面が接続穴7bの内周面に摺接しつつ、接続穴7a側との境界の段差で突き当って固定されおり、パイプ2とケース3とは気密に接続されている。パイプ2の内周面は接続穴7aの内周面とほぼ面一になっている。
このような構成により、ケース3はマイクロ流路Bに対して気密に接続され、ケース3の内底面に形成されたマイクロ流路Bの内周面とほぼ同じ曲率の断面円弧状の溝路5が、マイクロ流路Bとほぼ面一で流れ方向で連なっている。
【0015】
ケース3の周面部3bの上部側の外周面には、ネジ部9が設けられている。このネジ部9は周方向に延びているが、平面部3c、3cでは途切れてネジ無し部9a、9aが作られている。
【0016】
図6にも示すように、符号11は弁部を示しており、この弁部11は弾性を有する耐熱樹脂製で、一体成形されて、アヒルのくちばしのようなダックビル状になっている。
弁部11の基部13は円筒状になっており、上端部の外周面には径方向外方に向かって環状フランジ15が延びている。また、基部13の中間の外周面には上下に間隔をあけて環状突起17、17が突設されている。環状フランジ15、環状突起17とも、軸方向の断面は矩形になっており、環状フランジ15の方が環状突起17よりも径方向外方に大きく突出している。
【0017】
基部13の下側には、くちばし部19が連設されており、一対のリップ部21、21で形付けられている。
リップ部21は、矩形状の平板が変形したようになっている。上辺縁は半円弧状に外方に向かって膨らんでおり、下方に向かってその膨らみが徐々に戻されており、下辺縁では平らになっている。
一方のリップ部21の板面の左右両側部が、他方のリップ部21の板面の左右両側部にそれぞれ接合したような形状になっており、その接合部分に相当する部位の外面が平面部21a、21aになっている。そして、その間の板面側が変形部21b、21bになっている。変形部21bは、左右両縁側が下方に向かうにつれて互いに近づく方向に僅かにテーパ状になっている。
【0018】
くちばし部19は上端側では円環状に開口しているが、下端側ではリップ部21、21のそれぞれの変形部21b、21bの平らな板面どうしが重なり合って閉じている。但し、リップ部21、21の板面の中央部分は物理的に一体化されているわけではないので、下端面ではスリット23(切れ目)になっている。
くちばし部19の円環状の上端縁が基部13の円環状の下端縁と同じサイズになっており、基部13の下端縁にくちばし部19の上端縁が連設されて、基部13からくちばし部19が同軸状に垂下されている。
弁部11の基部13とそれに連なるくちばし部19の内面側は下方に向かって先細りの凹状の差込み空間25になっており、環状フランジ15で囲まれて部分が出入り口27になっている。
【0019】
図7に示すように、くちばし部19のスリット23は、通常はスリット縁23a、23aが直線状になって相対して閉じており、いるが、薬液投与時は、棒状で断面円形のピペットEが出入り口27から差込み空間25に差込まれて、スリット23を挿通させると、ピペットEを中心としてスリット縁23a、23aが円弧状に後退して開口29になる。この開口29の曲率半径はピペットEの曲率半径よりも大きくなっており、ピペットEを挟んでその両側にも隙間29a、29aができている。
開口29は弾性的に拡開されてできているので、ピペットEが引き抜かれると、直ちに閉じる。すなわち、弁部11の下端部が開閉部31になっている。
【0020】
弁部11は、ケース3に気密に装着されている。弁部11の基部13がケース3に同軸状に内嵌されている。基部13の外周面はケース3の内周面よりも径寸法が小さくなっているが、環状突起17、17がケース3の内周面に当たって弾性的に圧縮されている。また、環状フランジ15がケース3の周面部3bの上端面に圧接している。従って、ケース3の上側の開口部は、弁部11によって気密に覆われ、その気密状態はスリット23が拡開されるときにのみ解かれる。なお、図面では描画上の制限から、ケース3の内周面に環状凹部があり、これに環状突起17が嵌り込んでいるように描かれているが、ケース3の内周面に環状凹部は無い。
【0021】
この取付け状態では、弁部11のくちばし部19がケース3の内部で垂下されており、開閉部31の位置は、接続穴7aの上端位置、すなわちマイクロ流路Bの延長上の仮想円形の上端位置よりも十分に上方にある。
従って、ケース3内では、溝路5の上方には密閉空間33が作られている。
【0022】
図8にも示すように、符号35は蓋部を示しており、この蓋部35は剛性のプラスチック製で、被せ蓋タイプになっている。蓋部35の内周面にはネジ部37が形成されている。
蓋部35をケース3に被せて、ネジ部9にネジ部37を合わせて螺進させると、蓋部35の天面部35aの内面が環状フランジ15に圧接し、蓋部35がケース3に対して、弁部11を包みながら、蓋ネジ閉塞した状態になる。
なお、ネジ部9にはネジ無し部9aが設けられているので、螺進の際には、そこからエアが逃げる。従って、弁部11が押圧されて変形することもない。
【0023】
薬液投与機構1はこのような構成でマイクロ流路Bに着脱自在に設けられる。全てオートクレーブ滅菌可能になっている。また、蓋部35を被せて弁部11を保護しておけるので、弁部11の特にピペットEが触れやすい出入り口27や差込み空間25に菌が付着することが阻止できる。
【0024】
図9では、マイクロ灌流中における薬液投与機構1を使用した薬液投与作業を示している。
灌流中は、マイクロ流路Bに灌流液が極低流量で流れており、ケース3の内部の密閉空間33でも、灌流液の流路が確保されているが、
図9(2)の断面図に示すように、その液位はパイプ2の内周面の上端位置とほぼ同じになっている。すなわち、密閉空間33では、下側が液相(灌流液)で、上側が気相(空気)になっている。開閉部31は気相中に位置している。
薬液を投与する際には、
図9(1)に示すように、蓋部35が開けられ、薬液を吸引したピペットEを、出入り口27から差込み空間25に差込んで、スリット23を挿通させる。ピペットEの挿通により形成された開口29により、隙間29a、29aを介して密閉空間33は開放される。その状態で、ピペットEの孔から薬液が吐出されると、その薬液の分だけ気相の空気が隙間29a、29aから矢印に示すように上方に向けて逃げるので、圧が掛かることはなく、薬液の投与に伴う流量の増大が抑制される。従って、細胞へのダメージが抑制される。そのため、特にマイクロ灌流に適している。
【0025】
密閉空間33の開放は一時的であり、ピペットEを引き抜くと、元の閉鎖系に直ちに戻る。従って、閉鎖系のマイクロ灌流環境も維持できる。
その後に、蓋部35を被せれば、弁部11の汚染も最小限に抑えられる。薬液投与機構1は全てオートクレーブ処理した上でマイクロ流路Bに接続されており、ピペットチップも使用前に滅菌されているので、無菌での薬液投与が可能になっている。
薬液はピペットEに吸引させたものを投与しており、薬液を交換することが容易になっている。また、ピペット操作により薬液を投与するので、投与量もその都度自在に調整可能になっている。
【0026】
なお、灌流液には気泡がトラップされている場合があるが、ケース3の内部を通過する際には、上側が気相になっている密閉空間33と連通するので気泡が抜ける。 気泡があると、細胞の増殖や接着が妨げられたりするので、このような気泡抜け作用は有利な効果になっている。
また、薬液投与機構1は、非常に軽量でコンパクトであることから、複数取り付けても、灌流の回路構成に邪魔にならない。従って、
図10に示すように、マイクロ流路Bに、2つ以上を直列に接続させて、薬液投与口を拡張することが容易になっている。
更に、弁部11はケース3に押し込んで装着されており、環状突起17、17がケース3の内周面との当接面になっているので、引き抜き易くなっている。従って、長期間の使用により弁部11が劣化した場合には、交換が容易になっている。
【0027】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、薬液投与機構を構成する各部材の形状や材質は、本発明の要旨を変更しない範囲で、変更可能であり、現在または将来案出されるものも含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1…薬液投与機構 2…パイプ 3…ケース
3a…底面部 3b…周面部 3c…平面部
5…溝路 7a、7b、7c…接続穴
9…ネジ部 9a…ネジ無し部 11…弁部
13…基部 15…環状フランジ 17…環状突起
19…くちばし部 21…リップ部 21a…平面部
21b…変形部 23…スリット 23a…スリット縁
25…差込み空間 27…出入り口 29…開口
29a…隙間 31…開閉部 33…密閉空間
35…蓋部 35a…天面部 37…ネジ部
A…マイクロ流路チップ B…マイクロ流路
C…リザーバー D…ポンプ
E…ピペット