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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035579
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】撥水剤組成物および撥水剤処理物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20240307BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240307BHJP
【FI】
C09K3/18 101
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140141
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】花田 舞結
(72)【発明者】
【氏名】小見山 裕崇
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020AA04
4H020BA07
4J038DF011
4J038JA54
4J038KA03
4J038KA06
4J038MA09
4J038NA07
4J038PC09
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】溶媒への溶解性を示し、親水性の基材に対して優れた撥水性を付与可能な、撥水剤組成物および撥水剤処理物を提供することにある。
【解決手段】撥水剤組成物は、(A)下記式(1)で示される長鎖脂肪酸エステルおよび(B)溶媒を含有し、(A)長鎖脂肪酸エステルと(B)溶媒との合計量を100質量部としたとき、(A)長鎖脂肪酸エステルの質量が0.1~10質量部であり、(B)溶媒の質量が90~99.9質量部である。
【化1】

(R、Rは、それぞれ独立して、炭素数12~24のアシル基を示し、nは1~5を示す。)
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で示される長鎖脂肪酸エステルおよび(B)溶媒を含有し、(A)前記長鎖脂肪酸エステルと(B)前記溶媒との合計量を100質量部としたとき、(A)前記長鎖脂肪酸エステルの質量が0.1~10質量部であり、(B)前記溶媒の質量が90~99.9質量部であることを特徴とする、撥水剤組成物。

【化1】

(式(1)中、
、Rは、それぞれ独立して、炭素数12~24のアシル基を示し、
nは1~5を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の撥水剤組成物が塗布されていることを特徴とする、撥水剤処理物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水剤組成物および撥水剤処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維、衣料、皮革等の製品を処理する撥水剤に、フッ素化合物を含有する表面処理剤が用いられている。しかしながら、近年、フッ素化合物の環境への負荷が懸念されていることから、フッ素化合物を含まない非フッ素系撥水剤への関心が高まってきている。
【0003】
また、撥水剤組成物を用いて撥水性を付与する際は、通常溶媒に溶解させた組成物として用いられる。その際、溶媒は被処理物の材質への影響を考慮し、炭化水素系溶剤のような非極性の有機溶剤、または水が用いられる場合がある。
【0004】
そのような中で、特許文献1では、オレイン酸メチルやオレイン酸オレイル等の脂肪酸エステル化合物を、無機質材料のスラリー中に添加することで、撥水性が発現することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-69696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の脂肪酸エステル化合物は、溶媒に溶解性を示すものの、天然繊維や天然皮革等の親水性の基材に対する造膜性が乏しく、十分な撥水性を付与し難い。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の課題は、溶媒への溶解性を示し、親水性の基材に対して優れた撥水性を付与可能な、撥水剤組成物および撥水剤処理物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1) (A)下記式(1)で示される長鎖脂肪酸エステルおよび(B)溶媒を含有し、(A)長鎖脂肪酸エステルと(B)溶媒との合計量を100質量部としたとき、(A)長鎖脂肪酸エステルの質量が0.1~10質量部であり、(B)溶媒の質量が90~99.9質量部であることを特徴とする、撥水剤組成物。

【化1】

(式(1)中、
、Rは、それぞれ独立して、炭素数12~24のアシル基を示し、
nは1~5を示す。)
(2) (1)の撥水剤組成物が塗布されていることを特徴とする、撥水剤処理物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、合成繊維、天然繊維、天然皮革等の基材に対して優れた撥水性を付与可能な、撥水剤組成物、および撥水性を有する撥水剤処理物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(A)長鎖脂肪酸エステル>
(A)長鎖脂肪酸エステルは、下記式(1)で示される化合物である。
【化1】

(式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数12~24のアシル基を示す。ここで、アシル基は、エーテル酸素原子(O)に対して結合するカルボニル基(-C(O)―)と、カルボニル基に結合するアルキル基からなる。アシル基の炭素数は、アルキル基の炭素数とカルボニル基の炭素数(1)との合計値である。
【0011】
一つの(A)長鎖脂肪酸エステルにおいて、RとRとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、本発明の観点からは、式(1)中、RおよびRの炭素数は、それぞれ、16以上が好ましく、18以上が更に好ましい。また、RおよびRの炭素数は、それぞれ、22以下が更に好ましい。また(A)長鎖脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸からなることが好ましい。
【0012】
式(1)において、nは1~5とする。本発明の観点からは、nは1~3で あることが好ましく、1~2であることが更に好ましい。
【0013】
(A)長鎖脂肪酸エステルで表される化合物の具体例としては、例えば、ジパルミチン酸エチレングリコール、ジパルミチン酸ジエチレングリコール、ジパルミチン酸トリエチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール、ジステアリン酸ジエチレングリコール、ジステアリン酸トリエチレングリコール、ジイソステアリン酸エチレングリコール、ジイソステアリン酸ジエチレングリコール、ジベヘニン酸エチレングリコール、ジベヘニン酸ジエチレングリコール、ジベヘニン酸トリエチレングリコールなどが挙げられる。撥水性に特に優れる点から、ジステアリン酸エチレングリコール、ジステアリン酸ジエチレングリコールが好ましく、ジステアリン酸エチレングリコールが特に好ましい。なお、(A)長鎖脂肪酸エステルは、単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
<(B)溶媒>
溶媒(B)は、(A)長鎖脂肪酸エステルが溶解、または分散するものであれば特に制限はないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、水、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソパラフィン系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、被処理物の風合いや劣化を防げる点から、脂肪族炭化水素溶剤であることが好ましい。特に好ましくは、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンが挙げられるが、特にn-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサンが好ましい。
これらの溶媒(B)は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明の観点からは、(A)長鎖脂肪酸エステルと(B)溶媒との合計含有量を100質量部としたとき、(A)長鎖脂肪酸エステルの質量は、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量%以上とすることが更に好ましい。また、(A)長鎖脂肪酸エステルと(B)溶媒との合計含有量を100質量部としたとき、(A)長鎖脂肪酸エステルの質量は、10質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下とすることが更に好ましく、4質量部以下とすることが特に好ましい。
【0016】
撥水剤組成物は、本発明の効果を損ねない範囲において、添加剤を更に含有してもよい。たとえば、(A)長鎖脂肪酸エステルと(B)溶媒との合計含有量を100質量部とした場合、添加剤の含有量は10質量部以下が好ましく、5質量部以下とすることが更に好ましい。
【0017】
添加剤としては、(A)長鎖脂肪酸エステル以外の撥水性を付与可能な化合物、架橋剤、抗菌防臭剤、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤等が挙げられる。
【0018】
<撥水剤処理物>
撥水剤組成物は、被処理物に対して撥水性を付与して撥水剤処理物とすることができる。
適用可能な被処理物としては、例えば、綿、麻、絹などの天然繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール等の合成繊維、天然皮革、合成皮革、毛皮、紙、木、これらの混合繊維及びこれらによる布地、衣料、靴、その他、ガラス繊維、ガラス、レンガ、セメント、金属、プラスチック等が挙げられる。
【0019】
特に好ましくは、被処理物が、親水性被処理物である。親水性被処理物としては、綿、麻、絹などの天然繊維、牛革、ポニー革、へび革などの天然皮革等が好適例として挙げられる。
【0020】
撥水剤処理物を用いた処理方法としては、スプレーコート、バーコート、ディップコート等の一般的な方法により塗布することができる。また、撥水剤組成物を被処理物に塗布させた後、適宜室温、熱処理等で溶媒を揮発させ、被処理物を乾燥することが好ましい。乾燥時の温度条件は特に制限はないが、被処理物の熱による劣化を考慮し、20℃~200℃であることが好ましく、20℃~150℃であることが更に好ましい。
【実施例0021】
以下、本発明の具体的な実施例および比較例について説明する。
【0022】
(被処理物)
評価用の被処理物として、ポリエステル布、綿布および牛革を用いた。ここで、綿布および牛革は親水性被処理物である。
【0023】
(撥水剤組成物の作製)
表1に記載の(A)長鎖脂肪酸エステル、(A’)、(B)溶媒を、表2、表3に記載の組成で配合し、室温で30分撹拌し溶解させることで、撥水剤組成物を調製した。スプレーガンを用いて、被処理物に各撥水剤組成物を噴霧することで塗布し、その後、室温で1時間自然乾燥させることで撥水剤処理物を作製した。
【0024】
(撥水剤組成物の溶解性)
25℃に設定した箱型恒温槽に、1日静置した各撥水剤組成物の外観を目視にて観察し、溶解性を表4に示す基準により評価した。
【0025】
(撥水性試験)
撥水剤処理物の撥水性は、JIS L 1092に基づいて、評価した。試験機にはスプレー・テスター AW-5(インテック株式会社製)を用いた。撥水剤処理物を試験機に取り付け、250mLの水を散布した。散布後の撥水剤処理物の湿潤状態を、表5に示す基準により評価した。数値が高いほど、撥水性が良好であることを示す。
なお、撥水性の目標値は、ポリエステル布では4以上とし、親水性が高く撥水性の付与が困難な綿布および牛革では3以上とした。
【0026】
[評価結果]
表2は実施例1~8の評価結果を示し、表3は比較例1~3の評価結果を示している。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
表2の実施例の結果から明らかなように、実施例1~8は、溶媒に対して優れた溶解性と、種々の被処理物、特に親水性被処理物に対して優れた撥水性を示した。
【0033】
一方で、表3の比較例の結果から明らかなように、比較例1~3は、溶解性または撥水性が不十分であった。
【0034】
具体的には、比較例1では、(A)長鎖脂肪酸エステルの比率が過大であるため、長鎖脂肪酸エステルが溶剤に不溶であった。比較例2では、長鎖脂肪酸エステルがモノステアリン酸エチレングリコールであり、(A)長鎖脂肪酸エステル由来の構成単位を有していないため、天然繊維と天然皮革に対する撥水性が劣っていた。比較例3では、長鎖脂肪酸エステルがステアリン酸ステアリルであり、(A)長鎖脂肪酸エステル由来の構成単位を有していないため、天然繊維と天然皮革に対する撥水性が劣っていた。