(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035594
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】微細化改質セルロース繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/02 20060101AFI20240307BHJP
C08H 8/00 20100101ALI20240307BHJP
【FI】
C08B15/02
C08H8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140162
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA34
4C090BD02
4C090BD11
4C090CA22
4C090DA11
(57)【要約】
【課題】有機溶媒の使用量を低減でき、かつ従来法に比べて微細化改質セルロース繊維の分散性に優れる新規の微細化改質セルロース繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】(a)改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程、並びに(b)水が留去された前記混合物における前記改質セルロース繊維を微細化する工程、を含む、微細化改質セルロース繊維の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程、並びに
水が留去された前記混合物における前記改質セルロース繊維を微細化する工程、
を含む、微細化改質セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒の融点が0℃未満である、請求項1に記載の微細化改質セルロース繊維の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒の沸点が150℃以下である、請求項1又は2に記載の微細化改質セルロース繊維の製造方法。
【請求項4】
改質セルロース繊維が、水及び有機溶媒の存在下でアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させて得られたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の微細化改質セルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程、並びに
水が留去された前記混合物における前記改質セルロース繊維を微細化する工程、
を含む、微細化改質セルロース繊維及び有機溶媒を含有する組成物の製造方法。
【請求項6】
改質セルロース繊維が、水及び有機溶媒の存在下でアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させて得られたものである、請求項5に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細化改質セルロース繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂等の材料に微細セルロース繊維を添加することにより、材料の種々の機械的特性が著しく向上することが注目されている。
通常、微細セルロース繊維表面は親水的であるために、有機溶媒等の非水系溶剤や疎水的な樹脂中では凝集してしまう。そのためにかかる疎水的な系で微細セルロース繊維を用いる際は、微細セルロース繊維を疎水的に改質してから対象の媒体に分散させる必要がある。
【0003】
一方、微細セルロース繊維の原料である天然のセルロース繊維には、通常、多くの水が付随する。そのため、微細セルロース繊維を種々の媒体に分散させる際に、この水をいかに除去するかが重要である。既存技術では、分散させる前にセルロース繊維を固液分離し、有機溶媒に置換することによって、セルロース繊維に付随する水を除去している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロース繊維を固液分離し、そして有機溶媒で置換するという処理は、複数回の操作を繰り返すという手間が生じ、有機溶媒の使用量も相応に多いものであった。
【0006】
本発明は、微細化改質セルロース繊維の製造方法、並びに該微細化改質セルロース繊維及び有機溶媒を含有する組成物の製造方法に関し、有機溶媒の使用量を低減でき、かつ従来法に比べて微細化改質セルロース繊維の分散性に優れる新規の方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、下記の〔1〕~〔4〕に関するものである。
〔1〕 改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程、並びに
水が留去された前記混合物における前記改質セルロース繊維を微細化する工程、
を含む、微細化改質セルロース繊維の製造方法。
〔2〕 改質セルロース繊維が、水及び有機溶媒の存在下でアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させて得られたものである、前記〔1〕に記載の微細化改質セルロース繊維の製造方法。
〔3〕 改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程、並びに
水が留去された前記混合物における前記改質セルロース繊維を微細化する工程、
を含む、微細化改質セルロース繊維及び有機溶媒を含有する組成物の製造方法。
〔4〕 改質セルロース繊維が、水及び有機溶媒の存在下でアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させて得られたものである、前記〔3〕に記載の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機溶媒の使用量を低減でき、かつ従来法に比べて微細化改質セルロース繊維の分散性に優れる新規の方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の微細化改質セルロース繊維の製造方法は、
改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程、並びに
水が留去された前記混合物における改質セルロース繊維を微細化する工程、
を含む。
更に、本発明の微細化改質セルロース繊維及び有機溶媒を含有する組成物の製造方法は、
改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程、並びに
水が留去された前記混合物における改質セルロース繊維を微細化する工程、
を含む。
【0010】
本発明の方法によれば、改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去するという簡潔な処理により、有機溶媒の使用量を低減することができる。
加えて、本発明者らは、意外にも、本発明の方法によって製造された微細化改質セルロース繊維の分散性が、従来の固液分離及び溶媒置換を経て得られる微細化改質セルロース繊維の分散性よりも高いことを見出した。かかる効果が発揮されるメカニズムは定かではないが、従来の固液分離及び溶媒置換では親水的なセルロース繊維が有機溶媒中で水素結合を形成して凝集する一方で、本発明の方法では、疎水化等の改質や有機溶媒との混合を水存在下で行った後で水を留去することで、改質セルロース繊維の凝集が生じにくいためだと推定される。
【0011】
〔改質セルロース繊維〕
本発明における改質セルロース繊維とは、修飾基をイオン結合又はアミド結合を介して有するセルロース繊維である。修飾基は、セルロース繊維が有するヒドロキシ基の一部若しくは全てのヒドロキシ基に結合しているか、又はそのヒドロキシ基がカルボキシ基に変換されたそのカルボキシ基に結合していることが好ましく、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に結合していることがより好ましく、グルコース単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CH2OH)がカルボキシ基(-COOH)に変換されたそのカルボキシ基に結合していることが更に好ましい。修飾基がイオン結合を介してカルボキシ基に結合している場合、例えば、「-COO-H3N+-修飾基」という結合様式となり、修飾基がアミド結合を介してカルボキシ基に結合している場合、例えば、「-CONH-修飾基」という結合様式となる。
【0012】
改質セルロース繊維の平均繊維径は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは15μm以上であり、一方、同様の観点から好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは60μm以下である。改質セルロース繊維の平均繊維長は、微細化改質セルロース繊維の分散性向上、入手性及び経済性の観点から、好ましくは700μm以上、より好ましくは1,000μm以上、より好ましくは1,200μm以上、更に好ましくは1,500μm以上であり、一方、同様の観点から好ましくは10,000μm以下、より好ましくは5,000μm以下、更に好ましくは3,000μm以下である。改質セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0013】
(修飾基)
修飾基としては、(a)炭化水素基及び(b)ポリマー基が挙げられる。これらの修飾基は1種又は2種以上が組み合わさって、アニオン変性セルロース繊維に結合してもよい。
【0014】
(a)炭化水素基
炭化水素基としては、一価の炭化水素基、例えば、直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、アリール基、アラルキル基及び複素環式芳香族炭化水素基が挙げられる。
炭化水素基の炭素数は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、1以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、同観点から、好ましくは30以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。炭化水素基は、後述する置換基を有していてもよく、炭化水素基の一部が窒化水素基に置換されていてもよい。
【0015】
直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは直鎖の鎖式飽和炭化水素基である。鎖式飽和炭化水素基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
【0016】
鎖式不飽和炭化水素基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。
【0017】
環式飽和炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0018】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基が挙げられる。
【0019】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、トリチル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基などが挙げられる。
複素環式芳香族炭化水素基としては、例えば、イミダゾール基、メチルイミダゾール基、エチルイミダゾール基、プロピルイミダゾール基、2-フェニルイミダゾール基、ベンゾイミダゾール基及びこれらの基が置換基で置換された基などが挙げられる。
【0020】
(b)ポリマー基
本発明におけるポリマー基とは、ポリマー構造を含有する官能基である。
ポリマー基の式量(分子量)は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上、更に好ましくは500以上、更に好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,500以上である。同様の観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは10,000以下、更に好ましくは7,000以下、更に好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,500以下、更に好ましくは2,500以下である。
【0021】
ポリマー基は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは、酸素原子を有する構造によって連結される繰り返し構造を有する官能基、より好ましくは、ポリオキシアルキレン構造、ポリシロキサン構造等の、酸素原子によって連結される繰り返し構造を有する官能基であり、より好ましくは、ポリオキシアルキレン構造を有し、更に好ましくはアルコキシポリオキシアルキレン基である。
【0022】
ポリオキシアルキレン構造は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは炭素数が2以上8以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、より好ましくは炭素数が2以上4以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)から選ばれる1種又は2種のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造(EO/PO共重合体構造)である。
【0023】
エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造としては、例えば、次式で示される構造が挙げられる。
【0024】
【0025】
(式中、R1は水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、又は-CH2CH(CH3)NH2基を示す。EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す正の数、bはPOの平均付加モル数を示す正の数である。)
【0026】
R1は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、より好ましくはメチル基である。
【0027】
aは、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上、更に好ましくは11以上、更に好ましくは15以上、更に好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、更に好ましくは30以上である。同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下、更に好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
【0028】
bは、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。同様の観点から、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、更に好ましくは25以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。
前記式におけるa+bはEOとPOの合計の平均付加モル数を示し、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上であり、同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。
【0029】
EO/PO共重合体構造におけるPOの含有率(モル%)は、前記aとbに基づいて計算することが可能であり、具体的にはb×100/(a+b)より求めることができる。POの含有率は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは7モル%以上、更に好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上である。同様の観点から、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは85モル%以下、更に好ましくは75モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
【0030】
(c)更なる置換基
なお、修飾基はさらに置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1以上6以下のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1以上6以下のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1以上6以下のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数1以上6以下のジアルキルアミノ基;ヒドロキシ基が挙げられる。
【0031】
〔改質セルロース繊維の製造方法〕
改質セルロース繊維は、例えば、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン変性セルロース繊維を製造し(工程1)、次いで、水及び有機溶媒の存在下でアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させること(工程2)によって、製造することができる。
【0032】
(工程1)
原料のセルロース繊維
アニオン変性セルロース繊維の原料であるセルロース繊維としては、環境面から天然セルロースが好ましく、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径は後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0034】
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは25μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下、より好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維長は後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0035】
アニオン性基の導入方法
セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロース繊維のヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロース繊維のヒドロキシ基に、カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0036】
セルロース繊維のヒドロキシ基を酸化処理する方法としては、例えば、特開2015-143336号公報又は特開2015-143337号公報に記載の、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を原料のセルロース繊維と反応させる方法が挙げられる。TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース繊維構成単位のグルコースのC6位のヒドロキシメチル基が選択的にカルボキシ基に変換され、後述のTEMPO酸化セルロース繊維を得ることができる。
【0037】
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基として(亜)リン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液に(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0038】
アニオン変性セルロース繊維
アニオン変性セルロース繊維とは、アニオン性基、例えばカルボキシ基、(亜)リン酸基及びスルホン酸基からなる群より選択される1種以上の基を分子内に有するセルロース繊維である。セルロース繊維へのアニオン性基の導入は上述の方法により達成できる。入手容易性及び効果の観点から、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロース繊維(「酸化セルロース繊維」と称する。)が好ましく、セルロース繊維を構成するグルコースユニットのC6位のヒドロキシメチル基が選択的にカルボキシ基に変換されたアニオン変性セルロース繊維(「TEMPO酸化セルロース繊維」と称する。)がより好ましい。なお、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、好ましくはプロトンである。
【0039】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量としては、安定な修飾基導入及び修飾基の導入により微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、更に好ましくは0.6mmol/g以上、更に好ましくは0.7mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.9mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するグルコース中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0040】
アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が結合するとは、アニオン変性セルロース繊維が有するアニオン性基、好ましくはカルボキシ基に修飾基が結合することを意味する。修飾基とアニオン性基との結合様式としては、イオン結合及び/又は共有結合が挙げられる。共有結合としては、例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合が挙げられる。
【0041】
(工程2)
アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基への修飾基の導入は、アニオン性基に修飾基を導入するための化合物(「修飾用化合物」と称する。)とアニオン変性セルロース繊維とを、水及び有機溶媒の存在下で反応させることで達成される。本発明における改質セルロース繊維は、かかる工程2により得られたものが好ましい。
修飾基を導入する方法としては、(1)イオン結合を介して導入する場合は特開2015-143336号公報を参考にすることができ、(2)アミド結合を介して導入する場合は特開2015-143337号公報を参考にすることができる。
【0042】
例えば、イオン結合を介して、EO/PO共重合体構造を修飾基として導入する場合、好ましい修飾用化合物としては、例えば、EO/PO共重合体構造を有するアミン(具体的には、HUNTSMAN社製のジェファーミンM600やジェファーミンM2070等)が挙げられる。
【0043】
工程2の終了後、未反応の化合物等を除去するために、後処理を適宜行ってもよい。後処理の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0044】
〔水〕
水は、本発明における混合物を構成する成分の一つであり、上記工程2等における媒体として存在し得る。
【0045】
〔有機溶媒〕
有機溶媒は、本発明における混合物を構成する成分の一つであり、上記工程2や改質セルロース繊維を微細化する工程等における媒体として使用する。
【0046】
有機溶媒の融点としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは0℃未満、より好ましくは-50℃以下、さらに好ましくは-60℃以下である。一方、同様の観点から、-100℃以上の融点のものが好ましい。
有機溶媒の沸点としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。一方、有機溶媒の使用量を低減する観点から、70℃以上の沸点のものが好ましい。
【0047】
有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシー2-プロパノール(PGME)等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;ギ酸メチル、ギ酸エチル等のアルキル基の炭素数1~4のギ酸エステル;酢酸メチル、酢酸エチル等のアルキル基の炭素数1~4の酢酸エステル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のアルキル基の炭素数1~4のプロピオン酸エステル;酪酸メチル、酪酸エチル等のアルキル基の炭素数1~4の酪酸エステル;酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(PGMEA)等のP系グリコールエーテル;炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
〔その他の成分〕
混合物には、必要に応じて、重合開始剤、可塑剤、安定化剤、滑剤、界面活性剤、無機充填剤等の公知の成分が含まれていてもよい。かかる成分の量は特に制限されず、適切な量を適宜採用すればよい。
【0049】
〔混合物から水を留去する工程〕
本発明の製造方法は、改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有する混合物から水を留去する工程を含むことが特徴の一つである。留去する水の量は、混合物に含まれる水の少なくとも一部又は全部であり、例えば、後述の「水が留去された後の混合物中の水の量」に記述される値を満足させる量が好ましい。
【0050】
本発明における混合物は、改質セルロース繊維、水及び有機溶媒を含有し、更にその他の成分を含有していてもよい。かかる混合物が水を留去する工程に供される。
【0051】
水を留去する工程に供される混合物中の改質セルロース繊維の量としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、一方、同様の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0052】
水を留去する工程に供される混合物中の改質セルロース繊維の量としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、水100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部であり、一方、同様の観点から、水100質量部に対して、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは75質量部以下である。
【0053】
水を留去する工程に供される混合物中の水の量としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、一方、同様の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0054】
水を留去する工程に供される混合物中の有機溶媒の量としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、一方、有機溶媒の使用量を低減する観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98.5質量%以下、更に好ましくは98質量%以下である。
【0055】
水を留去する工程に供される混合物中の有機溶媒の量としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、水100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは500質量部以上、更に好ましくは1000質量部以上であり、一方、有機溶媒の使用量を低減する観点から、水100質量部に対して、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは9000質量部以下、更に好ましくは8000質量部以下である。
【0056】
混合物から水を留去する際の温度条件としては、水を効率よく留去する観点から、好ましくは混合物中の有機溶媒の融点以上、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、設備負荷及び環境負荷低減の観点から、好ましくは混合物中の有機溶媒の沸点以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
【0057】
混合物から水を留去する際の圧力条件としては、常圧でも減圧でもよい。水の留去をより低温で行う観点から、減圧で留去を行うことが好ましい。減圧で留去を行う場合、圧力の上限としては、好ましくは60kPa(絶対圧)以下、より好ましくは50kPa(絶対圧)以下である。
【0058】
混合物から水を留去するための具体的な装置としては、上述の温度条件や圧力条件を満足できる装置であれば特に限定はないが、例えば、回分単蒸留装置、減圧蒸留装置、フラッシュエバポレーター等の薄膜式蒸留装置、回転式蒸留装置、攪拌式蒸発装置等が挙げられる。具体的には、ロータリーエバポレーター等の回転式減圧蒸留装置や、撹拌槽薄膜式蒸発装置、連続式多段蒸留装置、回分式多段蒸留装置などが挙げられる。
【0059】
水が留去された後の混合物中の水の量は、樹脂等との配合性の観点から、少なければ少ない方が好ましい。具体的には、水が留去された後の混合物中の水の量としては、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
改質セルロース繊維等を含む混合物における水の量は、後述の実施例に記載されたカールフィッシャー法により求められる。
水の留去に伴って、混合物に含まれる有機溶媒の一部が留去されても構わない。必要に応じて、水の留去工程後に有機溶媒を混合物に継ぎ足しても構わない。
【0060】
〔微細化工程〕
水が留去された後の混合物に含まれる改質セルロース繊維を微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。平均繊維径をナノメートルサイズにまで小さくすることによって、樹脂中での分散性が向上するため、好ましい。
【0061】
また、微細化工程での混合物中の固形分濃度は、樹脂中での微細化改質セルロース繊維の分散性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、低濃度であるほど好ましい。
他方、水の留去は、非水溶媒使用量低減の観点及び環境負荷低減の観点から、固形分濃度が高い混合物から行うことが好ましい。
したがって、微細化工程は、樹脂中での微細化改質セルロース繊維の分散性を向上させる観点、非水溶媒使用量低減の観点及び環境負荷低減の観点から、混合物から水を留去する工程の後に行うことが好ましい。
【0062】
微細化処理は公知の微細化処理方法を採用することができる。例えば、平均繊維径がナノメートルサイズの微細化改質セルロース繊維を得る場合は、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理方法や、媒体中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理方法を実施すればよい。
【0063】
媒体としては上記の有機溶媒の一種又は二種以上が挙げられる。媒体の使用量は、改質セルロース繊維を分散できる量であればよく、改質セルロース繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは2質量倍以上、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下である。
【0064】
微細化処理で使用する装置としては、高圧ホモジナイザー以外にも、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における改質セルロース繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。
【0065】
〔短繊維化処理〕
本発明に係る製造方法のいずれかの段階において、各種セルロース繊維、即ち、原料のセルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維、改質セルロース繊維及び微細化改質セルロース繊維の短繊維化処理を行ってもよい。かかる短繊維化処理を行うことにより、微細化改質セルロース繊維の分散性を向上させることができる。
短繊維化処理は、対象のセルロース繊維を(i)アルカリ処理、(ii)酸処理、(iii)熱処理、紫外線処理、電子線処理、機械処理及び酵素処理からなる群から選ばれる1種以上の処理方法を施すことにより、行うことができる。
【0066】
〔微細化改質セルロース繊維の性質〕
本発明における微細化改質セルロース繊維の主な性質は以下の通りである。
【0067】
(結晶構造)
微細化改質セルロース繊維は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、セルロースI型結晶構造を有するものが好ましい。微細化改質セルロース繊維の結晶化度は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、各種セルロース繊維の結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0068】
(平均繊維径)
微細化改質セルロース繊維は、ナノメートルサイズになるように微細化処理を受けたものである。従って、微細化改質セルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは3nm以上であり、取扱い性及び分散性を高める観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、更に好ましくは10nm以下である。
【0069】
(平均繊維長)
微細化改質セルロース繊維の平均繊維長としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、一方、吐出性や微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
【0070】
(平均アスペクト比)
微細化改質セルロース繊維の平均アスペクト比としては、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、一方、吐出性及び微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは100以下、更に好ましくは60以下である。
平均アスペクト比を上記の範囲とすることで、樹脂等の機械的特性向上と良好な分散性を両立できるため、好ましい。
微細化改質セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0071】
(修飾基の結合量及び導入率)
微細化改質セルロース繊維における修飾基の結合量は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは0.01mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に微細化改質セルロース繊維に導入されている場合、修飾基の結合量は、前記範囲内であることが好ましい。
【0072】
微細化改質セルロース繊維における修飾基の導入率は、微細化改質セルロース繊維の分散性を高める観点から、好ましくは10mol%以上、より好ましくは20mоl%以上、更に好ましくは25mоl%以上であり、同様の観点から、好ましくは100mоl%以下、より好ましくは50mоl%以下、更に好ましくは40mоl%以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100mol%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
【0073】
修飾基の結合量及び導入率は、修飾用化合物の種類や添加量、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。修飾基の結合量(mmol/g)及び導入率(mol%)とは、微細化改質セルロース繊維において、アニオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合のことである。微細化改質セルロース繊維における修飾基の結合量及び導入率は、例えば、アニオン性基がカルボキシ基の場合には、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0074】
本発明の組成物における微細化改質セルロース繊維中のグルコース部分の量は、微細化改質セルロース繊維の分散性を向上させる観点から、好ましくは本発明の組成物中の0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、一方、製造時のハンドリング性の観点から、本発明の組成物中の好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
【0075】
本明細書における「グルコース部分」とは、各種セルロース繊維におけるグルコース単位からなる部分を意味し、未修飾セルロース繊維の場合はグルコース単位の全体であり、アニオン変性セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合したアニオン性基を含めたグルコース単位の全体であり、(微細化)改質セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合した修飾基を除いたグルコース単位の全体である。即ち、本明細書におけるグルコース単位は、ヒドロキシメチル基がカルボキシ基に変換されたグルコース単位も含む。
【0076】
本発明の組成物における有機溶媒の量は、配合量で換算して、微細化改質セルロース繊維の分散性向上の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、同様の観点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下である。
【実施例0077】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0078】
〔セルロース繊維、(短繊維化)アニオン変性セルロース繊維、改質セルロース繊維及び微細化改質セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維のサイズによって、下記の二通りの測定方法のうちのいずれかを選択して測定した。
(1) 測定対象のセルロース繊維又は測定対象のセルロース繊維を含有する分散液に脱イオン水又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて、その含有率が0.0001質量%の分散液を調製した。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製、Nanoscope II Tappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定した。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出した。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出した。
【0079】
(2) 測定対象のセルロース繊維又は測定対象のセルロース繊維を含有する懸濁液に脱イオン水を加えて、その含有率が0.01質量%の分散液を調製した。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定した。そして、セルロース繊維を長方形と近似した際の短軸の長さを繊維径、長軸の長さを繊維長として、それぞれの値をセルロース繊維100本について測定し、平均値を算出した。
【0080】
〔アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維をビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/脱イオン水=2/1(体積比)の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製した。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌した。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定した。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得た。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出した。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム水溶液滴定量(mL)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0081】
〔改質セルロース繊維及び微細化改質セルロース繊維の修飾基の結合量及び導入率〕
改質セルロース繊維及び微細化改質セルロース繊維の修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその結合量及び導入率を算出した。IR測定は、具体的には、乾燥させた測定対象のセルロース繊維の赤外吸収スペクトルを赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、式Aにより、修飾基の結合量及び導入率を算出した。以下はアニオン性基がカルボキシ基の場合、即ち、酸化セルロース繊維の場合を示す。以下の「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のアニオン性基の場合は波数の値を適宜変更し、修飾基の結合量及び導入率を算出すればよい。
<式A>
修飾基の結合量(mmol/g)=a×(b-c)÷b
a:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
b:酸化セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
c:改質セルロース繊維及び微細化改質セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
<式B>
修飾基の導入率(mol%)=100×f/g
f:修飾基の結合量(mmol/g)
g:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0082】
〔各成分の含有量〕
各成分の含有量は各成分の配合量から算出した。
グルコース部分の質量に関しては、改質セルロース繊維の調製時に配合した短繊維化アニオン変性セルロース繊維と修飾用化合物の全てがイオン結合したものと仮定して、配合した改質セルロース繊維に含まれる短繊維化アニオン変性セルロース繊維の質量をグルコース部分の質量とみなして算出した。
また、分散液や懸濁液中の水の含有量は、三菱アナリテック社製CA-200を用いるカールフィッシャー滴定にて測定した。
また、アニオン変性セルロース繊維及び短繊維化アニオン変性セルロース繊維における固形分濃度は、赤外線水分計(島津製作所社製、MОC―120H)を用いて、試料中の水分濃度を測定し、100質量%との差分から算出した。水分濃度は、試料1gに対して、150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、30秒間の質量減少が0.1%以下となった時点で表示された数値を用いた。
【0083】
〔ろ液の電気伝導率の測定〕
コンパクト電気伝導率計(堀場製作所社製、LAQUAtwin EC-33B)を用いて、ろ液の電気伝導率を測定した。
【0084】
〔各種セルロース繊維における結晶構造の確認〕
セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維、改質セルロース繊維や微細化改質セルロース繊維等の各種セルロース繊維の結晶構造は、回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認した。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロース繊維に圧力を印加することで、面積320mm2×厚さ1mmの平滑なペレットを調製した。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kv、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングした。
【0085】
セルロースI型結晶構造の結晶化度は前述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0086】
〔アニオン変性セルロース繊維の平均重合度の測定〕
アニオン変性セルロース繊維の平均重合度は、次のようにして測定した。
(1)測定用溶液の調製
測定対象のアニオン変性セルロース繊維を0.06g精秤(乾燥質量)して50mLビーカーにとり、固形分濃度が1質量%になるように水を加えた。水素化ホウ素ナトリウムを0.006g加えて、常温で2時間撹拌した後、アセトンを18g添加し、続いて高速冷却遠心機(工機ホールディングス社製、CR21G III)を用いて、10℃、10000G、1分間の条件で遠心分離して上澄み液を除去した。残渣にエタノール18gを加えて、同様に遠心分離し上澄み液を除去する工程を3回行い、エタノールで洗浄された沈殿物を得た。得られた沈殿物を40℃、12時間真空乾燥することで、アニオン変性セルロース繊維中のアルデヒド基が還元された還元パルプを得た。
乾燥した還元パルプ0.03gに対して、0.5M銅エチレンジアミン溶液を15mL添加し、セルロース繊維が完全に溶解するまで1時間撹拌し、測定用溶液を調製した。
【0087】
(2)平均重合度の測定
上記(1)で得られた測定用溶液をウベローデ粘度計に入れ、恒温槽(20±0.1)℃中で1時間静置した後、液の流下時間(t(秒))と、セルロース無添加の銅エチレンジアミン溶液の流下時間(t0(秒))とを測定し、下記式により固有粘度[η](dL/g)を求めた。
【0088】
[η]=[(t/t0-1)/c]/[1+0.28×(t/t0-1)]
(c:セルロース濃度(g/dL))
【0089】
得られた固有粘度[η]から、下記式よりアニオン変性セルロース繊維の平均重合度(DPv)を算出した。
【0090】
[η] = 0.094 × 162 × DPv
0.67
【0091】
〔分散液の透過率〕
紫外可視分光光度計(アズワン社製、ASV11D-H)を用いて、実施例及び比較例で得られた微細化改質セルロース繊維の分散液(即ち、微細化改質セルロース繊維の組成物)の660nmでの透過率を測定した。微細化改質セルロース繊維を含有していない、分散液を構成する媒体のみの660nmでの透過率を100%として、各例における透過率を示した。透過率が高いほど、微細化改質セルロース繊維の分散性が高いことを意味する。
【0092】
〔アニオン変性セルロース繊維〕
原料として、表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維1及びアニオン変性セルロース繊維2を用いた。
【0093】
【0094】
かかるアニオン変性セルロース繊維1は、例えば下記のTEMPO酸化処理のようにして調製することができる。
【0095】
〔TEMPO酸化処理〕
メカニカルスターラー、撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、原料の天然セルロース繊維としての針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gをはかり取り、25℃、100rpmで30分撹拌する。次いで、該パルプ繊維10gに対し、TEMPOを0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加する。次いで、自動滴定装置を用いてpHスタット滴定を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持する。撹拌速度100rpmにて反応25℃で120分行う。次いで、撹拌しながら、それに0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。次いで、吸引濾過で、固形分を濾別する。固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μs/cm以下になるまで繰り返す。得られる固形分に対して脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0096】
表1に記載のアニオン変性セルロース繊維2は、例えば、前記のTEMPO酸化処理により得られたアニオン変性セルロース繊維に、更に下記のアルカリ加水分解処理のようにして調製することができる。
〔アルカリ加水分解処理〕
前記のTEMPO酸化処理により得られたアニオン変性セルロース繊維の懸濁液(固形分量144.5g)を1000gの脱イオン水で希釈し、これに35%過酸化水素水を1.4g(原料セルロース繊維の固形分量100質量部に対して過酸化水素1質量部)加え、1M水酸化ナトリウム水溶液でpH12に調整する。次いで、2時間、80℃でアルカリ加水分解処理を行う(アニオン変性セルロース繊維の懸濁液の固形分濃度4.3質量%)。懸濁液を常温まで冷却後、0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。吸引濾過で、懸濁液の固形分を濾別する。固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μS/cm以下になるまで繰り返す。得られる固形分に対して脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維2を得ることができる。
【0097】
〔短繊維化アニオン変性セルロース繊維の調製〕
表1に記載の物性値を有するアニオン変性セルロース繊維1及びアニオン変性セルロース繊維2の各ケークを用いて、短繊維化アニオン変性セルロース繊維1及び短繊維化アニオン変性セルロース繊維2を得た。
具体的には、アニオン変性セルロース繊維のケークを214g(固形分量75g)採り、固形分濃度が、表2に示す値から5質量%になるまで脱イオン水を添加した。希釈した懸濁液を95℃で、表2に記載の時間撹拌することで、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得た。得られた懸濁液を高速冷却遠心機(工機ホールディングス社製、CR21G III)を用いて、25℃、10000G、1分間の条件で遠心分離し、沈殿物として表2に記載の短繊維化アニオン変性セルロース繊維を得た。
【0098】
【0099】
実施例1~4
〔改質セルロース繊維の調製〕
上記沈殿物として得られた各短繊維化アニオン変性セルロース繊維をビーカーに入れ、表3の組成となるように修飾用化合物及び有機溶媒を加えた。続いて常温にて一晩撹拌することによって、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基がイオン結合を介して結合した改質セルロース繊維の懸濁液を得た。修飾用化合物として下記のM600及びM2070を使用することにより、上述のEO/PO共重合体構造が修飾基として改質セルロース繊維に提供される。
【0100】
〔水の留去〕
得られた懸濁液を、ロータリーエバポレーター(BUCHI社製)を用いて、表3に記載の温度の水浴で加熱しながら、表3に記載の圧力の範囲で、懸濁液全体の質量が元の3分の1になるまで濃縮して、有機溶媒とともに水を留去した。その後、蒸発した質量と同じ質量、同じ種類の有機溶媒を加えた。
【0101】
〔微細化処理〕
次いで、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150MPaで5回、微細化処理を行い、表5に記載の微細化改質セルロース繊維の分散液を得た。
【0102】
【0103】
比較例1~4
〔溶媒置換〕
上記沈殿物として得られた各短繊維化アニオン変性セルロース繊維を、固形分量1.5gに対し30gのアセトンを加えて懸濁し、遠心分離で上清を取り除く操作を2回繰り返した。その後、表4に記載の有機溶媒を用いて同様の操作を2回繰り返すことで、短繊維化アニオン変性セルロース繊維に含まれていた水を表4に記載の溶媒に置換した。
【0104】
〔改質セルロース繊維の調製〕
上記で得られた溶媒置換後の短繊維化アニオン変性セルロース繊維をビーカーに入れ、表4に記載の組成となるように修飾用化合物と有機溶媒を加えた。続いて室温にて一晩撹拌することによって、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基がイオン結合を介して結合した改質セルロース繊維の懸濁液を得た。
【0105】
〔微細化処理〕
得られた懸濁液に対して、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150MPaで5回、微細化処理を行い、表5に記載の微細化改質セルロース繊維の分散液を得た。
【0106】
【0107】
上記の各実施例及び各比較例で得られた微細化改質セルロース繊維の分散液(即ち、微細化改質セルロース繊維及び有機溶媒を含有する組成物)の組成と透過率を表5にまとめた。
【0108】
【0109】
本発明の方法(実施例1~4)では、溶媒置換を行うこと無く有機溶媒中に微細化改質セルロース繊維を分散させることができたため、溶媒置換を行った方法(比較例1~4)に比べて、有機溶媒の使用量を明らかに低減することができた。
さらに、表5から、本発明の方法(実施例1~4)で製造された、微細化改質セルロース繊維を含有する組成物の透過率は、対応する比較例1~4で製造された組成物の透過率と比較して、明らかに高いことが分かった。このことは、本発明の方法によって製造された微細化改質セルロース繊維の疎水性媒体中の分散性が高いことを意味する。
【0110】
〔試薬〕
上記の実施例等では、以下の試薬を特別の精製なく用いた。
0.1M塩酸:0.1mol/L 塩酸(富士フイルム和光純薬工業社製)
0.5M銅エチレンジアミン溶液:エチレンジアミン銅 II溶液(Merk社製)
アセトン:アセトン(富士フイルム和光純薬工業社製)、融点:-94.6℃、沸点:56.5℃
[有機溶媒]
酢酸エチル:酢酸エチル(富士フイルム和光純薬工業社製)、融点:-83.6℃、沸点:77.1℃
MEK:メチルエチルケトン(富士フイルム和光純薬工業社製)、融点:-87.3℃、沸点:79.6℃
PGMEA:酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(富士フイルム和光純薬工業社製)、融点:-61.7℃、沸点:146.4℃
[修飾用化合物]
M600:メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン(HUNTSMAN社製、ジェファーミンM600、Mw=600、EO:PO=1:9)
M2070:メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン(HUNTSMAN社製、ジェファーミンM2070、Mw=2000、EO:PO=31:10)