(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035603
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】演算装置、プログラム、異常検知方法および演算方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20240307BHJP
G01V 8/10 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G01J1/02 C
G01J1/02 Q
G01J1/02 H
G01J1/02 W
G01V8/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140177
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000202361
【氏名又は名称】綜合警備保障株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加沢 徹
【テーマコード(参考)】
2G065
2G105
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA13
2G065BA34
2G065BB28
2G065BC33
2G065BC35
2G065BE08
2G105AA01
2G105BB16
2G105CC04
2G105EE06
2G105HH01
2G105JJ03
2G105KK01
(57)【要約】
【課題】軽量、低コスト、設置作業の軽減が実現できるセンサ装置から赤外線画像を演算して異常を検知する演算装置、プログラム、異常検知方法および演算方法を提供する。
【解決手段】表面に回折格子を設置した赤外線イメージセンサの信号出力を用いて当該赤外線イメージセンサの正面側の赤外線画像を算出する演算装置であって、前記赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数から、前記赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数へと積分変換する複数の積分核数値表を変換マップとして備え、前記変換マップを用途に応じて切り替えて、必要な前記赤外線画像を算出し、得られた前記赤外線画像より安全上の脅威となる対象物体を検知するか、または視野内を監視できない環境温度にあることを検知する異常検知部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に回折格子を設置した赤外線イメージセンサの信号出力を用いて当該赤外線イメージセンサの正面側の赤外線画像を算出する演算装置であって、
前記赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数から、前記赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数へと積分変換する複数の積分核数値表を変換マップとして備え、
前記変換マップを用途に応じて切り替えて、必要な前記赤外線画像を算出し、
得られた前記赤外線画像より安全上の脅威となる対象物体を検知するか、または視野内を監視できない環境温度にあることを検知する異常検知部を備える、
ことを特徴とする演算装置。
【請求項2】
前記異常検知部は、算出した前記赤外線画像の時間変化から、視野角内の移動物体の存在を検知し、検知した物体の存在する角度方向のみの画像を高精細画像で検出するための前記変換マップを用いて、対象物体の動きを検知する、
ことを特徴とする請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記異常検知部は、低精細度画像にて強度変化を監視した後、高精細度画像にて変化対象の確認を実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
表面に回折格子を設置した赤外線イメージセンサの信号出力を用いて当該赤外線イメージセンサの正面側の赤外線画像を算出する演算装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数から、前記赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数へと積分変換する複数の積分核数値表を変換マップとして用途に応じて切り替えて、必要な前記赤外線画像を算出する機能と、
得られた前記赤外線画像より安全上の脅威となる対象物体を検知するか、または視野内を監視できない環境温度にあることを検知する機能と、
を前記コンピュータで実現することを特徴とするプログラム。
【請求項5】
演算装置が行う異常検知方法であって、
前記演算装置が、表面に回折格子を設置した赤外線イメージセンサの信号出力である、前記赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数を入力とし、前記赤外線イメージセンサに入射する電磁波は特定の波長帯の強度が支配的であることを前提として、前記赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数を算出する工程と、
前記演算装置が、当該赤外線イメージセンサの正面側の温度に関する異常の有無を出力する工程と、
を含むことを特徴とする異常検知方法。
【請求項6】
表面に回折格子を設置した赤外線イメージセンサの信号出力を用いて当該赤外線イメージセンサの正面側の赤外線画像を算出する演算装置が行う演算方法であって、
前記演算装置が、前記赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数から、前記赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数へと積分変換する複数の積分核数値表を変換マップとして備える工程と、
前記演算装置が、前記変換マップを用途に応じて切り替えて、必要な前記赤外線画像を算出する工程と、
前記演算装置が、得られた前記赤外線画像より安全上の脅威となる対象物体を検知するか、または視野内を監視できない環境温度にあることを検知する工程と、
を含むことを特徴とする演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算装置、プログラム、異常検知方法および演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定のエリアにおける人物等の物体の存在を検知するセンサ装置が開示されている。
【0003】
特許文献1には、焦電効果を利用して移動する熱源としての人体の存在を検知するセンサ装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のセンサ装置によれば、センサ装置自体が大きく、外観が好ましくない、という課題があった。また、従来のセンサ装置によれば、工事負担も大きく、センサ装置の設置位置の柔軟な変更が難しい、という課題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、軽量、低コスト、設置作業の軽減が実現できるセンサ装置から赤外線画像を演算して異常を検知する演算装置、プログラム、異常検知方法および演算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、表面に回折格子を設置した赤外線イメージセンサの信号出力を用いて当該赤外線イメージセンサの正面側の赤外線画像を算出する演算装置であって、前記赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数から、前記赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数へと積分変換する複数の積分核数値表を変換マップとして備え、前記変換マップを用途に応じて切り替えて、必要な前記赤外線画像を算出し、得られた前記赤外線画像より安全上の脅威となる対象物体を検知するか、または視野内を監視できない環境温度にあることを検知する異常検知部を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軽量、低コスト、設置作業の軽減が実現できるセンサ装置から赤外線画像を演算して異常を検知する演算装置、プログラム、異常検知方法および演算方法を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態にかかるセンサ装置を用いたセンサシステムの概略構成を例示的に示す図である。
【
図2】
図2は、センサ制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、センサ装置の概要構成を示す図である。
【
図4】
図4は、センサ装置の構成を示す断面図である。
【
図5】
図5は、回折格子の赤外線遮断パターンの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、視野角内を分割した領域のうち赤外線が到来する領域と、赤外線イメージセンサの赤外線が受光する赤外線イメージセンサのセルとの対応を示す図である。
【
図7】
図7は、視野領域からの赤外線が、赤外線イメージセンサのセルに受光される様子を示す図である。
【
図8】
図8は、分割された視野領域の四隅の端部と、それらの端部から到来する赤外線が受光される赤外線イメージセンサのセルとの対応を示す図である。
【
図9】
図9は、回折格子の赤外線遮断パターンの別の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、回折格子の赤外線遮断パターンにかかる回析波形の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、回折格子の赤外線遮断パターンにかかる回析波形の別の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、回折により得られる回折波形例について波形分解能を高める例を示す図である。
【
図14】
図14は、受電側電力供給カップラおよび送電側電力供給カップラの一例の構造を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、受電側電力供給カップラの受電側電磁コイル線の配線構成を示す図である。
【
図16】
図16は、受電側電力供給カップラと送電側電力供給カップラを介してセンサ装置と交流電源線を接続する構成例を示す断面図である。
【
図17】
図17は、受電側電力供給カップラと送電側電力供給カップラを介してセンサ装置と交流電源線を接続する別の構成例を示す断面図である。
【
図18】
図18は、受電側電力供給カップラと送電側電力供給カップラを介してセンサ装置と交流電源線を接続するさらに別の構成例を示す断面図である。
【
図20】
図20は、演算部の演算処理における事前計算処理の流れを示すフローチャートである。
【
図21】
図21は、第1のセンサデータテーブルの一例を示す図である。
【
図22】
図22は、第2のセンサデータテーブルの一例を示す図である。
【
図23】
図23は、2次元応答波形テーブルの一例を示す図である。
【
図24】
図24は、正規直交基底テーブルの一例を示す図である。
【
図27】
図27は、正規直交基底テーブルから積分核テーブルを生成する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図29】
図29は、演算部の演算処理におけるリアルタイム計算処理の流れを示すフローチャートである。
【
図30】
図30は、画像イメージテーブルの一例を示す図である。
【
図31】
図31は、正規直交基底テーブルから画像イメージテーブルを生成する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図32】
図32は、異常検知および警報発出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図33】
図33は、第2の実施の形態にかかるセンサ装置の構成を示す断面図である。
【
図35】
図35は、精細イメージ生成処理の流れを示すフローチャートである。
【
図37】
図37は、赤外線受光部のさらに別の一例を示す図である。
【
図38】
図38は、回折格子の赤外線遮蔽パターンを時間的に切り替えて主波長を絞り込んだ結果を示す図である。
【
図39】
図39は、第3の実施の形態にかかるセンサ装置および交流電源線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、演算装置、プログラム、異常検知方法および演算方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかるセンサ装置10を用いたセンサシステム1の概略構成を例示的に示す図である。
図1に示すように、センサシステム1は、警備対象30に設置されたセンサ装置10と、センサ制御装置20と、を備えている。
【0012】
センサ装置10は、警備対象30における検知範囲内の人(熱源)が発する赤外線を検出し、イメージセンサデータとして信号を出力する。
【0013】
センサ制御装置20は、センサ装置10から出力されたイメージセンサデータを用いてセンサ正面側の赤外線画像を演算復元する演算装置である。また、センサ制御装置20は、赤外線画像を用いて、各種の脅威を検知するプログラムを内蔵する。なお、センサ制御装置20は、物理的な実装位置はどこでも良いが、演算に電力を消費するため、電源コンセント21に対して電源線兼通信線22で接続される。
【0014】
センサ制御装置20は、警備システム100に対して、例えばLAN(Local Area Network)によるネットワーク50で接続され、互いに通信が可能とされている。なお、センサ制御装置20と警備システム100との間の通信方式は、無線通信方式であっても、有線通信方式であってもよい。センサ制御装置20は、例えば各種の脅威の検知結果を、警備システム100に送信する。
【0015】
図2は、センサ制御装置20の構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、センサ制御装置20は、制御部23と、記憶部24と、外部通信部25と、演算部26と、通信部27と、を備えている。
【0016】
通信部27は、センサ装置10との通信を制御し、センサ装置10から出力されたイメージセンサデータを取得する。
【0017】
外部通信部25は、警備システム100との通信を制御する。
【0018】
制御部23は、例えばCPU(Central Processing Unit)と、プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)と、ワークエリアとして使用されるRAM(Random Access Memory)とを備えたコンピュータ構成のものである。制御部23は、CPUがROMに格納されたプログラムを実行するなどして、各種の機能を実現する。
【0019】
なお、本実施の形態の制御部23で実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込まれて提供される。
【0020】
本実施の形態の制御部23で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0021】
さらに、本実施の形態の制御部23で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施の形態の制御部23で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0022】
演算部26は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)で構成される。演算部26は、センサ装置10から出力されたイメージセンサデータを用いてセンサ正面側の赤外線画像を演算復元する。
【0023】
制御部23は、CPUがROMに格納されたプログラムを実行するなどして、演算部26が復元した赤外線画像を用いて、各種の脅威を検知する異常検知部23aとして機能する。
【0024】
記憶部24は、情報の書き換えが可能な記憶部、例えばFlashROMなどである。記憶部24は、警備対象30における検知範囲内の人(熱源)の検知処理に使用する各種情報を記憶するデータメモリとして機能する。
【0025】
演算部26は、通信部27を介して受信したイメージセンサデータをデータメモリに一旦格納し、その後、並列かつシーケンシャルに演算を行う演算途中のテーブル値は、随時データメモリに格納する。
【0026】
データメモリである記憶部24は、第1のセンサデータテーブルT1、第2のセンサデータテーブルT2、2次元応答波形テーブルT3、正規直交基底テーブルT4、基底変換テーブルT5、積分核テーブルT6、成分テーブルT7、画像イメージテーブルT8として機能する。各テーブルについての詳細は、後述する。
【0027】
次に、センサ装置10について、詳述する。
【0028】
図1に示すように、センサ装置10は、電源コンセント40に対して、交流電源線31、通信線32および電流駆動回路34を介して接続される。なお、センサ装置10と、交流電源線31および通信線32との間は有線接続されず、短距離非接触接続となる。上述のセンサ制御装置20が接続される電源コンセント21とセンサ装置10が接続される電源コンセント40との間は、屋内電力線41を介して通信される。
【0029】
ここで、
図3はセンサ装置10の概要構成を示す図である。
図3に示すように、センサ装置10は、本体基板14の表面上に、赤外線受光部17と、集積回路13と、を搭載したシート形状のセンサ装置である。赤外線受光部17は、詳細は後述するが、赤外線イメージセンサ11の表面上に、スペーサ16と、回折格子12とが層状に積み重なった構造となっている。すなわち、センサ装置10は、粘着シート等を介して貼り付け可能な態様である。センサ装置10の表面の大きさは、数mm四方~数cm四方程度のサイズである。また、センサ装置10はレンズが不要であり、1~2mm程度の薄さが実現できる。
【0030】
ここで、
図4はセンサ装置10の構成を示す断面図である。なお、
図4においては、配線は表示していない。
【0031】
図4に示すように、センサ装置10は、本体基板14の上部に、赤外線イメージセンサ11、スペーサ16および回折格子12が層状に積み重なった構造の赤外線受光部17と、集積回路13と、コンデンサ15と、を搭載する。
【0032】
集積回路13は、センサ読出制御、センサ設定、信号伝送などを行う。また、集積回路13は、電源回路を含む。
【0033】
赤外線イメージセンサ11は、ドット精度が1~10μm程度である。
【0034】
回折格子12は、反射型液晶ドットマトリクスで構成した赤外線遮断パターン形成層である。回折格子12は、外部信号により任意のドット群を赤外線反射面にして赤外線を遮断し、その他のドット群を赤外線が透過可能な任意の回折格子を形成でき、かつ数ミリ秒から数10ミリ秒単位で変化できるものである。回折格子12は厚さ5μm程度である。
【0035】
赤外線イメージセンサ11と回折格子12との間には、赤外線透過層であるスペーサ16が設けられる。スペーサ16は、厚さ10~100μm程度である。より詳細には、赤外線イメージセンサ11と回折格子12との間の距離は、検知する対象の人(熱源)が放射する赤外線の主波長(36℃程度で、主となる10μm程度)と同じまたは数倍程度の厚さである。センサ装置10は、赤外線イメージセンサ11と回折格子12とスペーサ16とにより、視野内の赤外線を受光する赤外線受光部17を構成する。
【0036】
図4に示すように、センサ装置10は、本体基板14の下部に、信号を交流磁力線に変換して発し、または交流磁力線を受けて信号に変換することによって信号の送受信を行う複数の受電信号送受信回路である信号送受信カップラ18aと、外部からの交流磁力線を受けて電力に変換する複数の受電回路である受電側電力供給カップラ18bを備える。
【0037】
また、センサ装置10は、信号送受信カップラ18aおよび受電側電力供給カップラ18bの外面に、非導電性の粘着シート19を備える。詳細は後述するが、センサ装置10は、それに備わる信号送受信カップラ18aおよび受電側電力供給カップラ18bが、それぞれ粘着シート19と接触または非導電性の壁を介して、通信線32、および交流電源線31に設けられた送電側電力供給カップラ38bと対向するように設置され、交流磁力線を介して電磁的に結合する。なお、通信線32は、信号を交流磁力線に変換して発し、または交流磁力線を受けて信号に変換することによって信号送受信カップラ18aとの間で信号の送受信を行う信号送受信回路である。また、送電側電力供給カップラ38bは、電力を交流磁力線に変換して発する送電回路であって、受電側電力供給カップラ18bと類似する構造を備える(
図16等参照)。
【0038】
ここで、回折格子12について詳述する。
【0039】
図5は回折格子12の赤外線遮断パターンの一例を示す図である。回折格子12の斜線で示した部分が赤外線遮断面、白い部分は赤外線が透過する開口部である。
図5に示す例においては、赤外線遮断パターン形成層は1層である。
図5(a)は赤外線受光部17を構成する回折格子12の上面図、
図5(b)は
図5(a)のA-Aにおける、赤外線受光部17を構成する回折格子12、スペーサ16および赤外線イメージセンサ11の断面図の一例である。
【0040】
図5(b)に示す例では、回折格子12の開口部(白)の大きさは、100μm程度(波長10μmの赤外線でほとんど回折を起こさない大きさ)である。また、開口部(白)の間隔は、80μm程度である。
図5(a)では、開口部の配列の途中(図中の「・・・」で示した部分)を省略している。
【0041】
本実施形態においては、視野角内を9×9程度の領域に区切ってそれぞれの領域の赤外線強度をイメージ化し、一定以上の赤外線強度が検出される領域の移動の検知を以って、人の移動を検知する。したがって、赤外線イメージセンサ11のセルの大きさが10μmの時、10μm×8個=80μm程度の開口部間隔をとれば、9×9の分解能に対応する赤外線イメージセンサ11のセルが配置できる。
【0042】
また、
図5(b)に示す例において、赤外線透過層であるスペーサ16の厚さが10μmの場合、入射角60°以内での斜め入射光束が受光される赤外線イメージセンサ11のセルの範囲は、開口部端の直下より横側に10μm×√3=18μm程度離れた範囲に収まるため、80μm程度の開口部間隔があれば、入射角60°と入射角-60°の2つの斜め光束は、赤外線イメージセンサ11のセル上で互いに干渉することがない。なお、入射角60°の光束量はcos60°=0.5に減少するため、それ以上の入射角の光束量は誤差として無視するとしている。
【0043】
赤外線イメージセンサ11のサイズが2mmで上記開口部サイズの場合は、縦に2mm/(100μm+80μm)=11.1であるから、縦に10個、横も同様で、10個×10個=100個程度の開口部をセンサ装置10内に配置することができる。
【0044】
ここで、
図6は視野角内を分割した領域(以下、「視野領域」という。)のうち赤外線が到来する領域と、赤外線が受光する赤外線イメージセンサ11のセルとの対応を示す図である。
図6(a)は、分割された視野領域のうち、赤外線受光部17に対して入射角θが-5°~+5°で入射する赤外線が到来する領域(網掛けを付した部分)を示す。同様に、
図6(c)と
図6(e)は、それぞれ入射角θが+15°~+30°の場合と入射角θが+45°~+60°の場合の当該領域を示す図である。
図6(b)は、
図5(a)のA-Aにおける赤外線受光部17の断面図で、回折格子12の複数ある開口部のうちのひとつ開口部の周辺における、入射角θが-5°~+5°の赤外線が入射する様子を示す。同様に、
図6(d)と
図6(f)は、それぞれ入射角θが+15°~+30°の場合と入射角θが+45°~+60°の場合の赤外線が入射する様子を示す図である。また、
図6(b)、(d)、(f)においては、空気中の屈折率と、赤外線遮断パターン形成層や赤外線透過層の屈折率の違いによる光の屈曲が発生するが、図示していない。
【0045】
ここで、
図7(a)、(b)、(c)はそれぞれ
図6(a)、(c)、(e)に示した視野領域からの赤外線が、赤外線イメージセンサ11のセルに受光される様子を示す図である。
図7においては、回折格子12の100個程度ある開口部のうちの1つの周辺における赤外線イメージセンサ11のセルのみを表示している。
図7(a)は視野領域からの赤外線の入射角θが-5°~+5°、
図7(b)は視野領域からの赤外線の入射角θが+15°~+30°、
図7(c)は視野領域からの赤外線の入射角θが+45°~+60°である。
【0046】
図7において網掛けを付した赤外線イメージセンサ11のセルの出力値を加算したものが、視野領域の赤外線量に対応する。この点については、以下において詳述する。
【0047】
図8は、分割された視野領域の四隅の端部と、それらの端部から到来する赤外線が受光される赤外線イメージセンサ11のセルとの対応を示す図である。
図8(a)は分割された視野領域のうちの四隅の端部、すなわち、その領域からの赤外線が赤外線受光部17に対して、入射角φが-60°~-45°、入射角θが-60°~-45°で入射する領域と、入射角φが-60°~-45°、入射角θが+45°~+60°で入射する領域と、入射角φが+45°~+60°、入射角θが+45°~+60°で入射する領域と、入射角φが+45°~+60°、入射角θが-60°~-45°で入射する領域とを示した図である。
図8(b)(c)は4つの端部の視野領域ごとの、赤外線が受光される赤外線イメージセンサ11のセルに対する対応を示す図である。
図8(b)(c)においては、回折格子12の100個程度の開口部の1つの周辺のみを表示している。
【0048】
あらゆる入射角からの赤外線が混在して赤外線イメージセンサ11のセルに到達するが、
図8(a)に示す視野領域の4端点については、その入射角の赤外線のみが
図8(b)に図示した対応する赤外線イメージセンサ11のセルに到達する(4種類の網掛けは対応を示す。)。したがって、
図8(b)に図示した赤外線イメージセンサ11のセルの4端点の赤外線検出値を用いて、入射角が異なる赤外線が混在して検出される隣接のセルの赤外線検出値から順次減算することで、全ての特定の入射角からの赤外線検出値が計算できる。例えば、
図8(b)に示す赤外線イメージセンサ11のセルの右上の端点に、入射角φが-60°~-45°、入射角θが-60°~-45°からの赤外線(a)のみが入射するとする。そして、
図8(c)に示す赤外線イメージセンサ11のセルの右上の端点に隣接する点には、入射角φが-60°~-45°、入射角θが-60°~-45°からの赤外線(a)と、入射角φが-45°~-30°、入射角θが-60°~-45°からの赤外線(b)が混在入射するが、当該セルの赤外線検出値から赤外線(a)のみが入射するセルでの赤外線検出値を減算すれば、赤外線(b)のみによる赤外線検出値を計算することができる。
【0049】
ここで、
図9は回折格子12の赤外線遮断パターンの別の一例を示す図である。
図9に示す例においては、赤外線遮断パターン形成層は1層である。
図9は
図5(a)のA-Aにおける、赤外線受光部17を構成する回折格子12、スペーサ16および赤外線イメージセンサ11の断面図である。
図9に示す回折格子12は厚さ10μm程度、スペーサ16は厚さ50μm程度、赤外線イメージセンサ11のドット精度は3μm程度である。
【0050】
図9に示すように、回折格子12の開口部(白)の大きさは、10μm程度(波長10μmの赤外線が回折により広がりを持って赤外線イメージセンサ11のセルに入射する大きさ)である。また、開口部(白)の間隔は、90μm程度である。
図9に示す例によれば、隣接する開口部からの波長10μmの赤外線が干渉し、赤外線イメージセンサ11のセンサ面に周期パターンを発生させる。
【0051】
赤外線イメージセンサ11のサイズが2mmで上記開口部サイズの場合は、縦に2mm/(10μm+90μm)=20であるから、縦に20個、横も同様で、20個×20個=400個程度の開口部をセンサ装置10内に配置することができる。
【0052】
上述のように、開口部(白)の大きさが10μm程度で、赤外線遮断パターン形成層の厚さが10μm程度であるため、入射角45°以上の入射光束(の0次回折成分)は赤外線イメージセンサ11のセンサ面に到達しない。赤外線イメージセンサ11のサイズが2mmでドット精度1μmであれば、レンズを用いれば2000×2000の解像度のポテンシャルがあるが、以降に説明する方法により、
図9では10×10以下程度の解像度を想定している。
【0053】
ここで、
図10は回折格子12の赤外線遮断パターンにかかる回析波形の一例を示す図である。
図10(a)は
図5(a)のA-Aにおける赤外線受光部17を構成する回折格子12、スペーサ16および赤外線イメージセンサ11の断面図、
図10(b)は特定視野角(θ=0°)からの回折波形の一例、
図10(c)は特定視野角(θ=20°)からの回折波形の一例である。
図10(a)に示す回折格子12は、開口部(白)の大きさが10μm程度、開口部(白)の間隔が90μm程度、厚さが10μm程度、スペーサ16は厚さ50μm程度、赤外線イメージセンサ11のドット精度は3μm程度である。
【0054】
図11は回折格子12の赤外線遮断パターンにかかる回析波形の別の一例を示す図である。
図11(a)は
図5(a)のA-Aにおける赤外線受光部17の断面図、
図11(b)は特定視野角(θ=0°)からの回折波形の一例、
図11(c)は特定視野角(θ=1°)からの回折波形の一例である。
図11(a)に示す回折格子12は、開口部(白)の大きさが10μm程度、開口部(白)の間隔が90μm程度、厚さが10μm程度、スペーサ16は厚さ50μm程度、赤外線イメージセンサ11のドット精度は3μm程度である。なお、
図10(b)、
図10(c)、
図11(b)および
図11(c)の回折波形の横座標xの原点は開口部直下である。
【0055】
図10および
図11に示すように、回折により得られる回折波形に比して、赤外線イメージセンサ11のセルの個数が少ないため、波形の検出分解能が低くなる。ただし、回折格子12の周期(開口部の大きさ+間隔)の直下の赤外線イメージセンサ11のセルの個数は、回折波形の周期とサンプリング間隔を非整数倍とする場合、波形分解能を高められる場合がある。
【0056】
ここで、
図12は回折により得られる回折波形例について波形分解能を高める例を示す図である。
図12は、特定視野角(θ=0°)からの回折波形の一例である。
【0057】
回折格子12の赤外線遮断パターンが周期的である場合、回折格子12から対象視野までの距離は回折格子12から赤外線イメージセンサ11のセンサ面までの距離に比して極めて大きいため、対象視野の1点からの光束は全開口部にほぼ同一入射角で入射する。ゆえに得られる回折波形も周期的となる。
【0058】
図12に示す矢印は、有限の赤外線イメージセンサ11のセルの間隔に対応し、回折波形の光強度をサンプリング検出する間隔を示している。
図12に示すように、繰り返し波形に対する位相の異なるサンプリング値を全部使うものとなっている。
【0059】
図12に示すように、回折により得られる回折波形に比して、赤外線イメージセンサ11のセルの個数が少ないため、回折波形の周期とサンプリング間隔がちょうど整数倍となると、波形の検出分解能が低くなる。
【0060】
一方、例えば、回折格子12の1周期に対して赤外線イメージセンサ11の10セルが対応するとした場合、全周期の対応するサンプリング値を加算することで信号対雑音比を高くとれることになる。すなわち、回折格子12の周期(開口部の大きさ+間隔)の直下の赤外線イメージセンサ11のセルの個数は、回折波形の周期とサンプリング間隔を非整数倍とする場合、サンプリング周期が劇的に狭まらなくとも、繰り返し波形の、違う位相をサンプリングして合成することで、波形検出分解能を高められる。
【0061】
例えば、回折格子12の5周期に対して赤外線イメージセンサ11の38セルが対応する場合、すなわち回折格子12の1周期当り平均7.6セルの場合、5と38が互いに素のため、全周期のサンプリングを加算する際に、5周期単位で対応するサンプリング点が得られる。結果、繰り返し波形1周期当り38サンプリングに相当するが、信号対雑音比がやや劣ることになる。
【0062】
続いて、センサ装置10を貼り付ける交流電源線31について説明する。
【0063】
図13は、交流電源線31の構成例を示す図である。
図13に示すように、交流電源線31は、電流駆動回路34を介して屋内電力線41に接続される。交流電源線31は、シールテープ状の接着テープ35を介して、建築物の壁または仕切パネル(衝立)を構成する非導電性の建材の表側に設置される。なお、交流電源線31は、絶縁体の薄い壁材の裏または壁材内部でも設置可能である。すなわち、建材は、送電回路を該建材の内部または露出しない面に備える。
図13に示すように、交流電源線31には、送電側電力供給カップラ38bを構成する送電側電磁コイル線71(71a~71c)を備える。なお、
図13の送電側電磁コイル線71の形状は、簡易的に示したものである。より詳細には、送電側電磁コイル線71a~71cは、一対の交流電源線31の途中点から並列に引き出された交流電流線対およびその端点に接続された給電回路である。センサ装置10は、複数の送電側電磁コイル線71a~71cの内の必要な位置に貼り付けられる。
図13に示す例では、センサ装置10は、受電側電力供給カップラ18bを、非導電性の粘着シート19(図示せず)を介して、最上方の送電側電磁コイル線71aを備える送電側電力供給カップラ38bに対向するように貼り付けることで、交流磁力線を介して交流電源線31から電力の供給を受ける。また、
図13に示すように、センサ装置10の受電側電力供給カップラ18bを貼り付けない、空きの送電側電磁コイル線71b、71cには、高インダクタンスシール36(高インダクタンス素子の一例)を貼り付ける。高インダクタンスシール36は、受電側電力供給カップラ18bに比して巻数が多い(高インダクタンス)結果、送電側電磁コイル線71b、71cのインピーダンスが高まるよう作用して高いインピーダンス値を示すので、送電側電磁コイル線71b、71cには電流が流れにくく、交流磁力線の漏出を抑制することができる。なお、高インダクタンスシール36に代えて、送電側電磁コイル線71と交流電流線対の間にスイッチ素子を介在させ、センサ装置10への送電に使用する送電側電磁コイル線71aに接続されたスイッチ素子はオン、空きの送電側電磁コイル線71b、71cに接続されたスイッチ素子はオフにして、交流磁力線の漏出を抑制することとしてもよい。
【0064】
次に、受電側電力供給カップラ18bおよび送電側電力供給カップラ38bの構造について説明する。
【0065】
図14は受電側電力供給カップラ18bおよび送電側電力供給カップラ38bの一例の構造を示す斜視図である。
図14に示すように、センサ装置10の受電側電力供給カップラ18bは、閉曲線型給電配線としての受電側電磁コイル線61を内部に配置した複数の高透磁率ブロック62に対して、上下両方向から高透磁率シート(強磁性体シート)63を接着した構成である。高透磁率ブロック62は、例えばコイルの中心に位置する鉄心である。高透磁率シート63は、例えば鉄の金属箔である。高透磁率シート63は、受電側電磁コイル線61間に交差的に設置される(
図16等も参照)。
【0066】
なお、
図14に示すように、送電側電力供給カップラ38bと、受電側電力供給カップラ18bとは、類似構造とされる(
図16等も参照)。例えば、送電側電力供給カップラ38bは、閉曲線型給電配線としての送電側電磁コイル線71を内部に配置した複数の高透磁率ブロック72に対して、上下両方向から高透磁率シート(強磁性体シート)73を接着した構成である。高透磁率シート73は、例えば鉄の金属箔である。高透磁率シート73は、送電側電磁コイル線71間に交差的に設置される(
図16等も参照)。
【0067】
図15は、受電側電力供給カップラ18bの受電側電磁コイル線61の配線構成を示す図である。
図15(a)は受電側電磁コイル線61とスイッチ64との関係を示し、
図15(b)はスイッチ64からコンデンサ15または集積回路13に至る構成を示す図である。
図15(b)に示すように、複数の閉曲線型給電配線としての受電側電磁コイル線61からの交流電流をそれぞれ正負制御しながら加算する電流加算回路(トランジスタ)65,66を用いて、交流電流を変動の少ないリップル電流に変換する。
【0068】
ここで、
図16は受電側電力供給カップラ18bと送電側電力供給カップラ38bを介して、センサ装置10と交流電源線31を接続する構成例を示す断面図である。
図16に示す例は、壁の表面にテープ状の交流電源線31を貼り付けて設置した場合を示す例である。
図16に示すように、受電側電力供給カップラ18bと、送電側電力供給カップラ38bとは、互いに構造が類似し、互いの間には、電磁誘導相互作用によって交流磁力線(周波数50~100kHz程度)が発生し、無線電力供給が可能となる。なお、
図16においては、交流電源線31を絶縁保護部材37で覆っている。
【0069】
図17は、受電側電力供給カップラ18bと送電側電力供給カップラ38bを介して、センサ装置10と交流電源線31を接続する別の構成例を示す断面図である。
図17に示す例は、壁の裏側に交流電源線31を貼り付けて設置した場合を示す例である。
図17に示すように、受電側電力供給カップラ18bと送電側電力供給カップラ38bとの間には、電磁誘導相互作用によって交流磁力線(周波数50~100kHz程度)が発生し、無線電力供給が可能となる。なお、受電側電力供給カップラ18bを構成する高透磁率シート63は、受電側電力供給カップラ18bの位置が僅かにずれても交流磁力線の漏出を抑制する形にする。なお、
図17においては、交流電源線31を絶縁保護部材37で覆っている。
【0070】
図18は、受電側電力供給カップラ18bと送電側電力供給カップラ38bを介して、センサ装置10と交流電源線31を接続するさらに別の構成例を示す断面図である。
図18に示す例は、壁の裏側に交流電源線31を貼り付けて設置した場合を示す例である。
図18に示すように、受電側電力供給カップラ18bと送電側電力供給カップラ38bとの間には、電磁誘導相互作用によって交流磁力線(周波数50~100kHz程度)が発生し、無線電力供給が可能となる。なお、受電側電力供給カップラ18bを構成する高透磁率シート63は、受電側電力供給カップラ18bの位置が僅かにずれても交流磁力線の漏出を抑制する形にする。なお、
図18においては、交流電源線31を絶縁保護部材37で覆っている。
【0071】
次に、センサ装置10と通信線32との接続について説明する。
【0072】
ここで、
図19は通信線32の構成例を示す図である。
図19に示すように、通信線32は、エバネッセント通信線シールを適用する。エバネッセント通信線シールは、誘電体32aと信号導体メッシュ32bとを含む信号線である。誘電体32aと信号導体メッシュ32bとは、表面絶縁体32cと接地導体線32dとに挟まれ、接着剤32eにより貼り付けられる。エバネッセント通信線シールは、例えば特開2007-150652号公報に記載の方法で、エバネッセント波を使ってセンサ装置10から出力されたイメージセンサデータを伝送する。センサ装置10の信号送受信カップラ18aは、通信線32の表面絶縁体32c側に貼り付けられる。
【0073】
続いて、センサ制御装置20の演算部26におけるセンサ装置10の信号出力を用いたセンサ正面側の赤外線画像を演算する演算処理について説明する。本実施形態においては、レンズレスの赤外線イメージセンサ11から対象視界画像を生成する方法について説明する。
【0074】
概略的には、センサ装置10の信号出力(赤外線イメージセンサ11のx-y座標上の第1の受光強度関数)から、赤外線画像(赤外線イメージセンサ11への入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数)へと積分変換する複数の積分核数値表を変換マップとして備え、その変換マップを用途に応じて切り替えて、必要な赤外線画像を演算するものである。
【0075】
ここで、
図20は演算部26の演算処理における事前計算処理の流れを示すフローチャートである。
図20に示すように、演算部26は、事前計算を開始する。
【0076】
まず、演算部26は、特定入射角のみからの赤外線イメージセンサ11の2次元座標(x,y)上の出力信号(センサデータ)を受信して(ステップS1)、第1のセンサデータテーブルT1に格納する。
【0077】
ここで、
図21は第1のセンサデータテーブルT1の一例を示す図である。
図21に示すように、第1のセンサデータテーブルT1は、2次元配列状の赤外線イメージセンサ11の出力値を、サンプリング直後に格納するテーブルである。例えば、1000×800セル(画素)の赤外線イメージセンサ11の場合は、M=1000、N=800である。
【0078】
続いて、演算部26は、回析格子繰り返し周期毎のセンサデータを第1のセンサデータテーブルT1から読み込み、回折格子繰り返し単位でセンサ出力の応答波形を補完生成して(ステップS2)、第2のセンサデータテーブルT2に書き込む。
【0079】
ここで、
図22は第2のセンサデータテーブルT2の一例を示す図である。
図22に示すように、第2のセンサデータテーブルT2は、2次元配列状のイメージセンサの出力値(第1のセンサデータテーブルT1)のデータを基に、回折格子周期毎のデータになるように補完したデータを格納するテーブルである。例えば、回折格子1周期にイメージセンサセルが10個ある場合(
図11(c)のサンプリング例)にはm=10、n=10であり、回折格子5周期にイメージセンサセルが38個ある場合(
図11(d)のサンプリング例)にはm=38、n=38である。
【0080】
続いて、演算部26は、第2のセンサデータテーブルT2に格納したデータを、入射角毎の2次元応答波形テーブルT3に出力する(ステップS3)。
【0081】
ここで、
図23は2次元応答波形テーブルT3の一例を示す図である。
図23に示すように、2次元応答波形テーブルT3は、第2のセンサデータテーブルT2と同サイズで、視野角の横軸特定θ方向、縦軸特定φ方向毎に、その方向のみの赤外線入射に対するセンサ面波形(第2のセンサデータテーブルT2)を格納する。2次元応答波形テーブルT3は、視野角の横軸θ方向にs個分割、縦軸φ方向にt個分割であれば、s×t個のテーブルが存在する。2次元応答波形テーブルT3は、回折格子1周期にイメージセンサセルが10個ある場合(
図11(c)のサンプリング例)にはm=10、n=10、回折格子5周期にイメージセンサセルが38個ある場合(
図11(d)のサンプリング例)にはm=38、n=38である。
【0082】
演算部26は、所要の画像精細度の領域分解数だけ入射角を変えながら、ステップS1~S3の処理を繰り返す(ステップS4のNo)。
【0083】
演算部26は、全ての画像精細度の領域分解数について、ステップS1~S3の処理を繰り返した場合(ステップS4のYes)、2次元応答波形テーブルT3の各応答からGran-schmittの直交化法に基づき正規直交基底を計算する(ステップS5)。
【0084】
次いで、演算部26は、計算結果を、正規直交基底テーブルT4および基底変換テーブルT5に出力する(ステップS6)。
【0085】
ここで、
図24は正規直交基底テーブルT4の一例を示す図である。
図24に示すように、正規直交基底テーブルT4は、第2のセンサデータテーブルT2と同サイズで、2次元応答波形テーブルからGram-Schmittの直交化法を経て、正規直交基底の波形を示すテーブルであり、正規直交基底の個数だけ存在する。正規直交基底テーブルT4は、視野角の横軸θ方向にs個分割、縦軸φ方向にt個分割であれば、s×t個のテーブルが存在する。正規直交基底テーブルT4は、回折格子1周期にイメージセンサセルが10個ある場合(
図11(c)のサンプリング例)にはm=10、n=10、回折格子5周期にイメージセンサセルが38個ある場合(
図11(d)のサンプリング例)にはm=38、n=38である。
図24に示す正規直交基底テーブルT4は、Gram-Schmitt法で正規化された正規直交基底Bを表示したものであり、下記の関係が成り立つ(βの表示は
図25参照)。
B
st
mn=β
st
s’t’・R
s’t’
mn
【0086】
ここで、
図25は基底変換テーブルT5の一例を示す図である。
図25に示すように、基底変換テーブルT5は、2次元応答テーブル(
図23参照)の各波形を、正規直交基底テーブルT4(
図24参照)の波形で展開した展開係数を格納するテーブルであり、上記2種類の基底の相互変換に用いるものである。βは、両者の変換係数である。
B
st
mn=β
st
s’t’・R
s’t’
mn
【0087】
次いで、演算部26は、正規直交基底テーブルT4から積分核テーブルT6を生成して(ステップS7)、事前計算を終了する。積分核テーブルT6は、格子単位領域(x,y)内のセンサ面波形から(θ,φ)座標上の視野強度を算出するために使用する。
【0088】
ここで、
図26は積分核テーブルT6の一例を示す図である。
図26に示すように、積分核テーブルT6は、
図23、
図25の2つのテーブルから求められる変換係数である。積分核テーブルT6は、第2のセンサデータテーブルT2と同サイズで、正規直交基底の関数形状を示すテーブルが正規直交基底の個数だけ存在する。積分核テーブルT6は、θ方向にs個分割、φ方向にt個分割であれば、s×t個のテーブルが存在する。σ
-1
mn・β
-1
st
s’t’は積分核テーブルT6に対応する。
【0089】
ここで、正規直交基底テーブルT4から積分核テーブルT6を生成する方法について説明する。
【0090】
図27は、正規直交基底テーブルT4から積分核テーブルT6を生成する処理の流れを示すフローチャートである。
図27に示すように、演算部26は、特定画角方向(θ,φからの単独信号についてセンサ出力の応答波形(x,y座標上)を正規直交基底テーブルT4の基底毎の成分に分解して成分テーブルT7に出力する(ステップS11)。
【0091】
ここで、
図28は成分テーブルT7の一例を示す図である。
図28に示すように、成分テーブルT7は、第2のセンサデータテーブルT2のデータを、正規直交基底毎の成分に分解し、それぞれの大きさを示すテーブルである。テーブルの横軸は視野角の横軸θ、テーブルの縦軸は視野角の縦軸φに対応する。正規直交基底の数がs×tであれば、s×tの大きさの1つのテーブルとなり、横s番目、縦t番目の基底による成分が、成分テーブルT7の右下の横s-1、縦t-1の欄に格納される。センサ面上の波形D’は正規直交基底Bにて展開でき、その展開係数がαである。
D’
mn=α
s’t’・B
s’t’
mn
【0092】
次に、演算部26は、正規直交基底それぞれについて、x,y座標成分を入力とし、θ,φ座標成分を出力とする逆基底を計算する(
図23のテーブルと
図25のテーブルとの行列演算)(ステップS12)。
【0093】
次に、演算部26は、計算結果を、逆基底テーブル(積分核テーブルT6)に逆基底として出力する(ステップS13)。
【0094】
次に、演算部26は、ステップS11~S13の処理を、特定画角方向(θ,φ)を変えながら、繰り返す(ステップS14のNo)。
【0095】
そして、演算部26は、全ての計算が終了すると(ステップS14のYes)、処理を終了する。
【0096】
次に、
図29は演算部26の演算処理におけるリアルタイム計算処理の流れを示すフローチャートである。
図29に示すように、演算部26は、動画像サンプリングタイミングでの赤外線イメージセンサ11の2次元座標(x,y)上の出力信号(センサデータ)を受信して(ステップS21)、第1のセンサデータテーブルT1に格納する。
【0097】
続いて、演算部26は、回析格子繰り返し周期毎のセンサデータを第1のセンサデータテーブルT1から読み込み、回折格子繰り返し単位でセンサ出力の応答波形を補完生成して(ステップS22)、第2のセンサデータテーブルT2に書き込む。
【0098】
続いて、演算部26は、積分核テーブルT6を用いて特定画角方向(θ,φ)座標上の視野強度を算出する(ステップS23)。
【0099】
続いて、演算部26は、算出結果を画像イメージテーブルT8に出力する(ステップS24)。
【0100】
ここで、
図30は画像イメージテーブルT8の一例を示す図である。
図30に示すように、画像イメージテーブルT8は、s×t個の積分核テーブルT6それぞれの中のθ、φ毎の値にそれぞれに対応する成分テーブルT7中の値を乗算して求めた画像成分波形を、全て加算することで得られる画像イメージデータを格納する。
【0101】
演算部26は、ステップS23~S24の処理を、特定画角方向(θ,φ)を変えながら繰り返す(ステップS25のNo)。
【0102】
演算部26は、全ての計算が終了すると(ステップS25のYes)、ステップS21~S25の処理について、次の動画像サンプリングタイミングで同様の計算を繰り返す(ステップS26のNo)。
【0103】
そして、演算部26は、全ての計算が終了すると(ステップS26のYes)、処理を終了する。
【0104】
ここで、正規直交基底テーブルT4から画像イメージテーブルT8を生成する方法について説明する。
【0105】
図31は、正規直交基底テーブルT4から画像イメージテーブルT8を生成する処理の流れを示すフローチャートである。
図31に示すように、演算部26は、赤外線イメージセンサ11のセンサ出力の応答波形(x,y座標上)を正規直交基底テーブルT4の基底毎の成分に分解し、成分テーブルT7に出力する(ステップS31)。
【0106】
次いで、演算部26は、成分テーブルT7および積分核テーブルT6の行列演算により画像イメージを計算する(ステップS32)。下記式は、演算式の一例を示すものである。
I
st=σ
-1
mn・β
-1
st
s’t’・α
-1
s’t’・D’
mn
D’:センサ面上の強度波形(
図22)
I
st:画像イメージ(
図30)
σ:2次元応答(
図23)
α:正規直交基底による展開係数(
図28)
β:2種類の基底の変換係数(
図25)
σ
-1
mn・β
-1
st
s’t’は積分核テーブルT6(
図26)に対応する
添字s,tは視野角におけるθ方向、φ方向に対応する
添字m,nはセンサ面上のx方向、y方向に対応する
【0107】
次いで、演算部26は、計算結果を、画像イメージテーブルT8に出力する(ステップS33)。
【0108】
次に、異常検知部23aによる異常検知および警報発出について説明する。異常検知部23aは、上記で得られた画像イメージにより、安全上の脅威となる対象を検知するか、または視野内を監視できない環境温度にあることを検知して、警告を出力する。
【0109】
ここで、
図32は異常検知および警報発出処理の流れを示すフローチャートである。
図32に示すように、異常検知部23aは、まず、低精細度画像にて強度変化を監視する(ステップS101)。
【0110】
次いで、異常検知部23aは、過半数の画素で強度増大を検知する(ステップS102)。
【0111】
過半数の画素で強度増大を検知した場合(ステップS102のYes)、異常検知部23aは、検知不可能状態を示す警報を発出して(ステップS103)、ステップS101に戻る。
【0112】
過半数の画素で強度増大を検知しなかった場合(ステップS102のNo)、異常検知部23aは、特定画素の強度増大または隣接画素への強度移動を検知する(ステップS104)。
【0113】
特定画素の強度増大または隣接画素への強度移動を検知した場合(ステップS104のYes)、異常検知部23aは、1次警報を発出する(ステップS105)。
【0114】
一方、特定画素の強度増大または隣接画素への強度移動を検知しなかった場合(ステップS104のNo)、異常検知部23aは、ステップS101に戻る。
【0115】
次いで、異常検知部23aは、変化点中心の高精細度画像にて変化対象の確認を実行し(ステップS106)、変化対象を侵入者と判定する(ステップS107)。
【0116】
侵入者と判定しない場合(ステップS107のNo)、異常検知部23aは、ステップS101に戻る。
【0117】
一方、変化対象を侵入者と判定した場合(ステップS107のYes)、異常検知部23aは、2次警報(警報要因)を発出し(ステップS108)、ステップS101に戻って、動画像サンプリングタイミングで同様の計算を繰り返す(ステップS109のNo)。
【0118】
そして、異常検知部23aは、全ての計算が終了すると(ステップS109のYes)、処理を終了する。
【0119】
上述したように、異常検知部23aは、演算した赤外線画像の時間変化から、視野角内の移動物体の存在を検知し、その物体の存在する角度方向のみの画像を高精細画像で検出して、対象物体の動きを検知する。
【0120】
このように本実施形態によれば、レンズが不要なため、フェルトシール並みの1~2mm程度の薄さ、軽量、低コストでの赤外線人感センサが実現でき、設置作業の軽減が実現でき、火災検知や対象視野内の人物みまもり検知にも利用できる。また、本実施形態によれば、対象物体の大きさ、形、距離、方向に基づく効率的な異常検知が可能である。
【0121】
また、本実施形態によれば、反射型液晶ドットマトリクスであって、外部信号により任意のドット群を赤外線反射面にして任意の回折模様を形成でき、かつ数ミリ秒から数10ミリ秒単位で変化できる回折格子にて実現される任意の回折模様から、開口サイズaの第1の回折模様と、開口サイズbの第2の回折模様と、・・・開口サイズzの第Nの回折模様を順次切り替え、かつ、対応する変換マップ(信号出力(赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数)から、赤外線画像(赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数)へと積分変換する複数の積分核数値表)を連動して切り替えることにより、特定波長の赤外線を弁別して赤外線画像を演算することができる。
【0122】
さらに、反射型液晶ドットマトリクスであって、外部信号により任意のドット群を赤外線反射面にして任意の回折模様を形成でき、かつ数ミリ秒から数10ミリ秒単位で変化できる回折格子にて実現される任意の回折模様から、画像の時間変動の検出を目的に調整された疑似直交系列である疑似ランダムパターンを用いた一連の時系列回折模様と、対応する変換マップ(信号出力(赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数)から、赤外線画像(赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数)へと積分変換する複数の積分核数値表)を用いて、対象物体の動きの存在を検知することができる。
【0123】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0124】
第2の実施の形態は、回折格子が2層構造(多層構造)である点が、第1の実施の形態と異なる。以下、第2の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0125】
図33は、第2の実施の形態にかかるセンサ装置10の構成を示す断面図である。なお、
図33においては、配線は表示していない。
図33に示すように、センサ装置10は、
図4に示したセンサ装置10に比べて、回折格子が2層構造(多層構造)である点が異なる。なお、本実施形態では、回折格子を2層構造として説明するが、3層以上も可能である。
【0126】
図33に示すように、センサ装置10は、赤外線遮断パターン第1形成層である回折格子12aと、赤外線第1透過層16aと、赤外線遮断パターン第2形成層である回折格子12bと、赤外線第2透過層16bと、を備える。回折格子12aは、厚さ5μm程度、ドット精度1~10μm程度である。赤外線第1透過層16aは、厚さ10~100μm程度である。回折格子12bは、厚さ5μm程度、ドット精度1~10μm程度である。赤外線第2透過層16bは、厚さ10~100μm程度である。センサ装置10は、赤外線イメージセンサ11と回折格子12a,12bとスペーサ16a,16bとにより、視野内の赤外線を受光する赤外線受光部17を構成する。
【0127】
図34は、赤外線受光部17の一例を示す図である。
図34に示すように、赤外線受光部17は、赤外線遮断パターン第1形成層である回折格子12aで対象画角を制限し、赤外線遮断パターン第2形成層である回折格子12bで回折させる。赤外線遮断パターン第1形成層である回折格子12aで回折を発生させないため、波長の数倍程度の開口を確保すると、赤外線遮断パターン第2形成層である回折格子12bから見た画角ξは、赤外線遮断パターン第1形成層である回折格子12aの開口幅wと赤外線遮断パターン第1形成層である回折格子12aの厚さdから算出される。
画角ξ=2×arctan(w/2d)
【0128】
次に、演算部26の精細イメージ生成処理の流れについて説明する。
【0129】
ここで、
図35は精細イメージ生成処理の流れを示すフローチャートである。
図35に示すように、まず、演算部26は、
図5で示したパターン例または
図9で示したより広角でのパターン例により、低精細画像イメージを生成して監視する(ステップS41)。
【0130】
次に、演算部26は、低精細画像イメージにて輝度の変動(隣接画素への移動等)を検出する(ステップS42)。
【0131】
次に、演算部26は、変動を検出した画素中心に、回折格子12aおよび回折格子12bを用いて、画角の絞り込みを行う(ステップS43)。
【0132】
ここで、
図36は赤外線受光部17の別の一例を示す図である。
図36に示すように、赤外線受光部17は、赤外線遮断パターン第1形成層である回折格子12aの位相をずらすことにより、画角の中心方向を変えることが可能である。
【0133】
次に、演算部26は、2層目に狭画角、高分解能向け格子パターンを設定行う(ステップS44)。
【0134】
図37は、赤外線受光部17のさらに別の一例を示す図である。
図37に示す例においては、赤外線遮断パターン形成層は2層である。
図37(a)は赤外線受光部17の上面図、
図37(b)は赤外線受光部17の断面図である。
【0135】
図37に示すように、赤外線遮断パターン第2形成層である回折格子12bに狭画角な高分解能向け格子パターン(非周期ランダムパターン)を設定することも可能である。
図37に示す例では、回折格子12a,12bの開口部の大きさと間隔はランダムであり、混在している。このようにすることで、解像度の高い特定の方向と、解像度の低い広い範囲の監視を混在させることができる。大きい開口部と間隔は、粗い分解能で広い領域を検知し易くする。小さい開口部と間隔は、細かい分解能で狭い領域を検知し易くする。
【0136】
図35に戻り、演算部26は、対象画角の高精細イメージを生成する(ステップS45)。
【0137】
なお、赤外線受光部17の回析格子をさらに多層にして、画角と精細度の絞り込みを続けることも可能である。
【0138】
ここで、
図38は回折格子の赤外線遮断パターンを時間的に切り替えて主波長を絞り込んだ結果を示す図である。
図38は、特定視野角(θ=0°)からの回折波形の一例を示している。
図38においては、赤外線遮断パターン第2形成層である回折格子12bの厚さ50μm、繰り返し周期100μmとしている。
図38に示す例は、2層の回折格子12a,12bの赤外線遮断パターンを時間的に切り替えて主波長を絞り込むようにしたものである。
【0139】
例えば、常温物体(310K)からの赤外線放射最大強度波長は、10μm程度である。一方、炎などの高い温度(数100℃から1000℃前後)の赤外線放射最大強度波長は、5μmから2μm程度である。赤外線波長が短い程、回折像の最小振動間隔は狭くなりやすく、また振動の広がりは集中しやすいことが分かっている。また、同一波長では、波長より回折格子12a,12bの開口幅が大きいと、回折範囲は小さくなることが分かっている。
【0140】
そこで、2層の回折格子12a,12bの赤外線遮断パターンを時間的に切り替えて、赤外線強度の高い精密な方向を絞り込んだ上で、10μm以下、1μm程度まで回折格子12a,12bの開口幅を絞りこみ波形を分別する。こうすることで、炎などの高い温度対象を、検知することができる。
【0141】
このように本実施形態によれば、回折格子が2層構造(多層構造)の任意の回折模様から、方向0°からの入射光束が赤外線イメージセンサ11に入射しないように調整された第1層および第2層の回折模様と、対応する変換マップ(信号出力(赤外線イメージセンサのx-y座標上の第1の受光強度関数)から、赤外線画像(赤外線イメージセンサへの入射光束の方向θ-φ座標上の第2の受光強度関数)へと積分変換する複数の積分核数値表)を用いて、斜め特定方向の高精細画像を検出することができる。
【0142】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について説明する。
【0143】
第3の実施の形態は、蛍光灯を覆う天井照明カバーに対してセンサ装置を貼り付ける点が、第1の実施の形態と異なる。以下、第3の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0144】
図39は、第3の実施の形態にかかるセンサ装置10および交流電源線31の一例を示す図である。
図39(a)はセンサ装置10および交流電源線31の断面図、
図39(b)はセンサ装置10の受電側電力供給カップラ18bを裏面から見た図である。
【0145】
図39に示した例は、蛍光灯80を覆う天井照明カバー81に対してセンサ装置10を貼り付ける例を示したものである。この場合、天井照明カバー81の内部に、通信線32および送電側電力供給カップラ38bが備えられる。例えば、送電側電力供給カップラ38bは、閉曲線型給電配線としての送電側電磁コイル線71を配置した高透磁率ブロック72に対して、天井照明カバー81の頂点からの高透磁率シート73aと、天井照明カバー81の側面からの高透磁率シート73bと、を上下両方向から接着した構成である。なお、送電側電磁コイル線71は、電源分配器82を介して電源線83から電力供給を受けるものとする。
【符号の説明】
【0146】
1 センサシステム
10 センサ装置
11 赤外線イメージセンサ
12、12a、12b 回折格子
16、16a、16b スペーサ
18b 受電側電力供給カップラ
19 粘着シート
20 演算装置
23a 異常検知部
38b 送電側電力供給カップラ
61 受電側電磁コイル線
63 強磁性体シート
71 送電側電磁コイル線