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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035635
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】開閉体制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/41 20150101AFI20240307BHJP
   E05F 15/611 20150101ALI20240307BHJP
   B60J 5/10 20060101ALI20240307BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20240307BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
E05F15/41
E05F15/611
B60J5/10 K
B60J5/04 C
B60J5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140222
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】ニデックモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】代田 康峻
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃史
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052BA01
2E052BA04
2E052CA06
2E052EA01
2E052EB01
2E052EC01
2E052GA08
2E052GB06
2E052GC06
2E052HA01
(57)【要約】

【課題】開閉体の全閉位置の手前で挟み込みが発生した場合であっても、速やかに挟み込みを検出できるようにする。
【解決手段】開閉体制御装置は、開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、開閉体の開度を検出する開度検出部と、開閉体による挟み込みを検出するための閾値を算出する閾値算出部と、挟み込みが発生したか否かを判定する挟み込み判定部とを備えている。開閉体の閉動作中において、開度が基準値αを超えている間は、閾値算出部は、モータ電流Iと所定値Kとに基づいて、挟み込み検出用の第1閾値Th1(n)を算出する。開閉体の閉動作中において、開度が基準値α以下になると、閾値算出部は、モータ電流の減少の傾向を示す傾向値R(n)を算出するとともに、第1閾値Th1(n)から|R(n)|を減算した値を、第2閾値Th2(n)として算出する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、
前記モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、
前記開閉体の開度を検出する開度検出部と、
前記モータ電流検出部が検出したモータ電流、および前記開度検出部が検出した開度に基づいて、前記開閉体による挟み込みを検出するための閾値を算出する閾値算出部と、
前記モータ電流検出部が検出したモータ電流、および前記閾値算出部が算出した閾値に基づいて、前記開閉体による挟み込みが発生したか否かを判定する挟み込み判定部と、を備え、
前記挟み込み判定部により挟み込みが発生したと判定された場合に、前記モータ駆動部が前記モータを停止または逆転させる開閉体制御装置であって、
前記閾値算出部は、
前記開閉体の閉動作中において、前記開度があらかじめ決められた基準値を超えている間は、前記モータ電流とあらかじめ決められた所定値とに基づいて、挟み込み検出用の第1閾値を算出し、
前記開閉体の閉動作中において、前記開度が前記基準値以下になると、前記モータ電流の減少の傾向を示す傾向値を算出するとともに、前記第1閾値と前記傾向値とに基づいて、前記第1閾値よりも小さい挟み込み検出用の第2閾値を算出する、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の開閉体制御装置において、
前記閾値算出部は、
現時点より前の第1時点における前記モータ電流に前記所定値を加算した値を、前記第1閾値として算出し、
前記第1時点における前記モータ電流と、当該第1時点よりさらに前の第2時点における前記モータ電流との差を、前記傾向値として算出し、
前記第1閾値から前記傾向値の絶対値を減算した値を、前記第2閾値として算出する、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の開閉体制御装置において、
前記開度検出部は、前記モータの回転と同期して発生するパルスを計数することにより、前記開閉体の開度を検出し、
前記第1時点は、現時点から所定数の前記パルスが含まれる期間だけ遡った時点であり、
前記第2時点は、前記第1時点からさらに所定数の前記パルスが含まれる期間だけ遡った時点である、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項4】
開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、
前記モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、
前記開閉体の開度を検出する開度検出部と、
前記モータ電流検出部が検出したモータ電流に基づいて、前記開閉体による挟み込みが発生したか否かを判定する挟み込み判定部と、を備え、
前記挟み込み判定部により挟み込みが発生したと判定された場合に、前記モータ駆動部が前記モータを停止または逆転させる開閉体制御装置であって、
前記モータ電流検出部は、
現時点のモータ電流と現時点より前の第1時点におけるモータ電流との変化量である、第1変化量を算出するとともに、
前記第1時点におけるモータ電流と当該第1時点よりさらに前の第2時点におけるモータ電流との変化量である、第2変化量を算出し、
前記挟み込み判定部は、
前記開閉体の閉動作中において、前記開度があらかじめ決められた基準値以下になると、前記第1変化量と前記第2変化量との差分があらかじめ決められた所定値を超えているか否かを判定し、
前記差分が前記所定値を超えている場合に、前記開閉体による挟み込みが発生したと判定する、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の開閉体制御装置において、
前記開閉体は、車両の後部に設けられたバックドアであり、
前記基準値は、閉動作中の前記バックドアが全閉位置の直前の所定位置まで閉じたときの開度に設定されている、ことを特徴とする開閉体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備わるバックドアなどの開閉体を制御する装置に関し、特に、開閉体による挟み込みを迅速に検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の後方に設けられているバックドア(テールゲートともいう)は、モータの回転によって自動的に開閉動作を行い、モータが一方向に回転するとドアが開き、モータが他方向に回転するとドアが閉じるようになっている。バックドアが閉じる方向に動作している際に、ドアと車体との間に障害物が挟み込まれると、ドアを完全に閉じることが不可能となるとともに、人体が挟み込まれた場合には安全が脅かされることになる。そのため、挟み込みが発生した場合には、これを速やかに検出してモータを停止または反転させる必要がある。
【0003】
図9は、バックドアが全開位置から閉じて行く場合の、バックドアの開度(以下「ドア開度」という)と、モータに流れる電流(以下「モータ電流」という)との関係の一例である。横軸はドア開度を表しており、左端は全開位置、右端は全閉位置を示している。したがって、横軸の左に行くほどドア開度は大きくなり、横軸の右に行くほどドア開度は小さくなる。バックドアは、閉動作時に、モータの回転に伴って、全開位置から全閉位置に向って一定速度で閉じてゆく。縦軸はモータ電流の電流値を表している。モータ電流Iは、閉動作の開始時(全開位置付近)に過渡的に変化するが、その後はバックドアの閉動作に伴って増加してゆき、やがて一定値に至る。そして、バックドアがある位置まで閉じると、その後はモータ負荷の減少に伴い、ドアが全閉位置に至るまでモータ電流Iは減少してゆく。
【0004】
図10は、バックドアの全閉位置の手前(直前)で挟み込みが発生した場合の、モータ電流Iの変化を示している。挟み込みが発生すると、ドアが動かなくなってモータの負荷が大きくなるため、モータ電流Iは増加に転じる。そして、モータ電流Iが所定の閾値Thを超えた時点で、挟み込みが発生したと判定される。挟み込みが検出されると、バックドアが停止または反転するようにモータの制御が行われ、これによって挟み込みの状態が解消される。特許文献1および特許文献2には、このようなバックドアによる挟み込みを検出する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1の開閉体制御装置では、モータ負荷(モータ電流)の変化量の積算値を閾値と比較し、当該積算値が閾値を超えた場合に挟み込みが発生したと判定している。本文献では、モータ負荷の現在値と前回値との差分を変化量(微分値)として算出し、この変化量の積算値(積分値)を閾値と比較しているので、結局、モータ負荷が閾値を超えたときに挟み込みと判定することになる。また、本文献の場合、閾値の設定にあたってモータ負荷の変化量の差分は考慮されていない。
【0006】
特許文献2の開閉体制御装置では、バックドアの開度を角度センサによって検出し、バックドアの開度が大きい場合は挟み込み検出用の閾値を高くし、バックドアの開度が小さくなるほど閾値が低くなるようにしている。本文献では、ドアの開度のみに基づいて閾値を可変としており、閾値の設定にあたってモータ負荷の変化量は考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-161993号公報
【特許文献2】特開2016-65398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図10で示したように、挟み込みが発生した場合、モータ電流が増加して閾値Thを超えた時点で挟み込みが検出されるが、挟み込みの発生時点と挟み込みの検出時点との間には時間差tがある。このため、挟み込みが発生してからモータを停止または逆転させるまでに時間的な遅れが発生し、この間、挟み込みの状態が継続する。また、車両のバックドアの場合は、閉動作中のドアが全閉位置の手前まで至ると、モータ電流の値が小さくなるため、ドア開度が大きい場合の閾値と同じ閾値を用いて挟み込みを検出すると、モータ電流が閾値を超えるまでに時間を要し、挟み込みの検出が一層遅れるという特有の問題がある。
【0009】
本発明の課題は、開閉体の全閉位置の手前で挟み込みが発生した場合であっても、速やかに挟み込みを検出することが可能な開閉体制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る開閉体制御装置は、開閉体を開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、開閉体の開度を検出する開度検出部と、モータ電流検出部が検出したモータ電流、および開度検出部が検出した開度に基づいて、開閉体による挟み込みを検出するための閾値を算出する閾値算出部と、モータ電流検出部が検出したモータ電流、および閾値算出部が算出した閾値に基づいて、開閉体による挟み込みが発生したか否かを判定する挟み込み判定部とを備えている。挟み込み判定部により挟み込みが発生したと判定された場合、モータ駆動部はモータを停止または逆転させる。閾値算出部は、開閉体の閉動作中において、開度があらかじめ決められた基準値を超えている間は、モータ電流とあらかじめ決められた所定値とに基づいて、挟み込み検出用の第1閾値を算出する。また、閾値算出部は、開閉体の閉動作中において、開度が基準値以下になると、モータ電流の減少の傾向を示す傾向値を算出するとともに、第1閾値と傾向値とに基づいて、第1閾値よりも小さい挟み込み検出用の第2閾値を算出する。
【0011】
このような開閉体制御装置によると、開閉体の閉動作中において、開度が基準値を超えている間は、第1閾値に基づいて挟み込みが検出され、開度が基準値以下になると、第1閾値より小さい第2閾値に基づいて挟み込みが検出される。このため、挟み込みが発生してモータ電流が増加に転じてから、モータ電流が第2閾値を超えるまでの時間が従来より短くなって、挟み込みを速やかに検出することができる。また、本発明では、モータ電流の増減傾向に応じた傾向値を用いて、第2閾値を算出するので、モータ電流の減少傾向が大きくなると、それに応じて第2閾値も一層小さくなる。このため、閉動作中の開閉体が全閉位置の手前(直前)まで来て、モータ電流が小さい状態で挟み込みが発生した場合でも、迅速な挟み込みの検出が可能となる。
【0012】
本発明において、閾値算出部は、現時点より前の第1時点におけるモータ電流に前記の所定値を加算した値を、第1閾値として算出し、第1時点におけるモータ電流と、当該第1時点よりさらに前の第2時点におけるモータ電流との差を、傾向値として算出し、第1閾値から傾向値の絶対値を減算した値を、第2閾値として算出してもよい。
【0013】
本発明において、開度検出部は、モータの回転と同期して発生するパルスを計数することにより、開閉体の開度を検出してもよい。この場合、前記の第1時点は、現時点から所定数のパルスが含まれる期間だけ遡った時点であり、前記の第2時点は、第1時点からさらに所定数のパルスが含まれる期間だけ遡った時点である。
【0014】
本発明において、モータ電流検出部は、現時点のモータ電流と現時点より前の第1時点におけるモータ電流との変化量である、第1変化量を算出するとともに、第1時点におけるモータ電流と当該第1時点よりさらに前の第2時点におけるモータ電流との変化量である、第2変化量を算出し、挟み込み判定部は、開閉体の閉動作中において、開度があらかじめ決められた基準値以下になると、第1変化量と第2変化量との差分があらかじめ決められた所定値を超えているか否かを判定し、差分が所定値を超えている場合に、開閉体による挟み込みが発生したと判定してもよい。
【0015】
本発明において、開閉体は、典型的には車両の後部に設けられたバックドアである。この場合、前記の基準値は、閉動作中のバックドアが全閉位置の直前の所定位置まで閉じたときの開度に設定される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、開閉体の全閉位置の手前で挟み込みが発生した場合であっても、速やかに挟み込みを検出することが可能な開閉体制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によるバックドア制御装置の一例を示すブロック図である。
図2】バックドアとその開閉の様子を示す図である。
図3】閾値算出部の具体的構成を示すブロック図である(ドア開度大)。
図4】閾値算出部の具体的構成を示すブロック図である(ドア開度小)。
図5】従来の挟み込み検出の原理を説明する図である。
図6】本発明による挟み込み検出の原理を説明する図である。
図7】本発明による挟み込み検出の手順を示すフローチャートである。
図8】本発明による挟み込み検出の他の例を説明する図である。
図9】バックドアの開閉に伴うモータ電流の変化を示す図である。
図10】挟み込みが発生した場合のモータ電流の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図を通して、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付してある。以下では、開閉体として、図2に示すような車両50のバックドア51を例に挙げる。
【0019】
図1は、バックドア51の開閉を制御するためのシステム構成を示している。バックドア制御装置10は、本発明の開閉体制御装置の一例であって、挟み込み判定部1、モータ駆動部2、閾値算出部3、モータ電流検出部4、およびドア開度検出部5を備えている。モータ駆動部2は、バックドア51を開閉するためのモータ24を駆動する。モータ24の回転により、モータ24と連動するバックドア開閉機構25が作動して、バックドア51が開閉動作を行う。モータ電流検出部4は、モータ24に流れるモータ電流を検出する。ドア開度検出部5は、モータ24の回転と同期して発生するパルスを検出するパルス検出部26の出力に基づいて、バックドア51の開度を検出する。閾値算出部3は、モータ電流検出部4が検出したモータ電流と、ドア開度検出部5が検出したドア開度とに基づいて、バックドア51による挟み込みを検出するための閾値を算出する。挟み込み判定部1は、モータ電流検出部4が検出したモータ電流と、閾値算出部3が算出した閾値とを比較して、バックドア51による挟み込みが発生したか否かを判定する。
【0020】
図2は、バックドア51の開閉の様子を示している。バックドア51は、自動四輪車などの車両50の後部に設けられた、跳ね上げ式のドアから成る。バックドア51は、上端部にある回転軸52を中心にして、下端部が上方(A方向)へ揺動することで開いてゆき、下端部が下方(B方向)へ揺動することで閉じてゆく。図2では、全閉位置にあるバックドア51aを実線で示し、全開位置にあるバックドア51cを一点鎖線で示し、全閉位置と全開位置の間の中間位置にあるバックドア51bを二点鎖線で示している。
【0021】
図1において、バックドア制御装置10には、操作部21と通信部22が接続されている。操作部21は、車両50(図2)の車室内に設けられた各種のスイッチから構成されている。これらのスイッチには、バックドア51の開閉を行うためのバックドア開閉スイッチ(図示省略)が含まれている。通信部22は、車両50のユーザが所持する携帯機23(リモコン)と無線通信を行うための通信回路やアンテナから構成されている。この携帯機23にも、バックドア開閉スイッチ(図示省略)を含む各種のスイッチが備わっている。
【0022】
操作部21または携帯機23においてバックドア開閉スイッチを操作すると、バックドア制御装置10のモータ駆動部2が動作し、モータ駆動部2からモータ駆動信号が出力されて、モータ24が回転する。たとえば、バックドア開閉スイッチが「開」操作されると、モータ24が正転し、バックドア開閉機構25を介して、バックドア51が図2のA方向へ開いてゆく。また、バックドア開閉スイッチが「閉」操作されると、モータ24が逆転し、バックドア開閉機構25を介して、バックドア51が図2のB方向へ閉じてゆく。
【0023】
図3および図4は、図1における閾値算出部3の具体的構成の一例を示している。ここでは便宜上、閾値算出部3をハードウェアで示しているが、実際には、閾値算出部3の機能はソフトウェアによって実現される。
【0024】
閾値算出部3には、第1電流記憶部31、第2電流記憶部32、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2、第1加算器33、および第2加算器34が備わっている。第1電流記憶部31は、図1のモータ電流検出部4で検出された電流のうち、現時点(n)より所定期間(D1)前の第1時点(n-D1)におけるモータ電流(I(n-D1))を記憶する。第2電流記憶部32は、モータ電流検出部4で検出された電流のうち、上記の第1時点(n-D1)よりさらに所定期間(D2)前の第2時点(n-D1-D2)におけるモータ電流(I(n-D1-D2))を記憶する。期間D1、D2については、後で詳しく説明する。
【0025】
第1加算器33には、第1電流記憶部31の電流値I(n-D1)と、第2加算器34から出力される傾向値R(n)と、あらかじめ決められた所定値Kとが入力される。傾向値R(n)と所定値Kについては、後で詳しく説明する。第1加算器33は、これらのパラメータに基づいて演算を行い、挟み込み判定用の閾値Th1(n)、Th2(n)を算出する。
【0026】
なお、図3は、バックドア51のドア開度Yがあらかじめ決められた基準値αを超えている場合(Y>α)の回路状態を示しており、この場合、第1スイッチSW1と第2スイッチSW2は、ともにOFF状態となっている。したがって、図3においては、第2加算器34が動作しないので、第1加算器33は、閾値Th1(n)を次式により算出する。
Th1(n)=I(n-D1)+K ・・・(1)
この閾値Th1(n)は、本発明における第1閾値に相当する。
【0027】
一方、バックドア51が閉じてきて、ドア開度Yが基準値α以下になると(α≧Y)、図4に示す回路状態へ遷移し、第1スイッチSW1と第2スイッチSW2は、ともにON状態となる。このため、第2加算器34がI(n-D1)-I(n-D1-D2)の演算を行い、この演算結果を傾向値R(n)として出力する。したがって、図4においては、第1加算器33と第2加算器34が共に動作する結果、第1加算器33は、閾値Th2(n)を次式により算出する。
Th2(n)=I(n-D1)+K+R(n) ・・・(2)
この閾値Th2(n)は、本発明における第2閾値に相当する。
【0028】
上記のようにして算出された閾値Th1(n)、Th2(n)は、挟み込み判定部1へ与えられる。挟み込み判定部1は、バックドア51のドア開度Yに応じて、モータ電流検出部4から入力される現時点の電流I(n)と、上記の閾値Th1(n)またはTh2(n)とを比較し、その比較結果に基づいてバックドア51による挟み込みが発生したか否かを判定する。
【0029】
次に、本発明による挟み込み検出の原理につき、従来の場合と対比しながら詳細に説明する。
【0030】
図5は、従来例における挟み込み検出の原理を模式的に示した図である。図のように、バックドア51の閉動作によりドア開度Yが小さくなるに伴ってモータ電流Iは減少してゆくが、挟み込みが発生すると、モータ負荷の増大によりモータ電流Iは増加に転じ、モータ電流Iが閾値Th1を超えた時点で挟み込みが検出される。ここで、従来の場合は、モータ電流Iに所定値Kを加算した値を以って、閾値Th1としている。
【0031】
詳しくは、任意の時点n(ここでは現時点)における閾値Th1(n)は、1つ前の第1時点(n-D1)、つまり現時点nから期間D1だけ遡った時点におけるモータ電流I(n-D1)に、所定値Kを加算した値として設定されている。すなわち、
Th1(n)=I(n-D1)+K ・・・(3)
ここで、D1は、図1のパルス検出部26から出力されるパルスが所定数含まれる期間であり、Kは、車種ごとの挟み込み荷重の仕様等に基づいて、あらかじめ決められた固定値である。なお、上記(3)式は前記の(1)式と同じである。
【0032】
図5の場合、モータ電流Iの変化にかかわらず、どの時点においても、閾値Th1(n)は、1つ前の時点のモータ電流I(n-D1)に、一定値であるKを加算した値となる。したがって、モータ電流Iが減少しても、閾値Th1(n)は、上記(3)式の関係を維持したまま変化する。このため、モータ電流Iが小さくなる全閉位置の直前で挟み込みが発生した場合に、モータ電流Iが増加に転じてから閾値Th1(n)を超えるまで、つまり挟み込みが検出されるまでの期間taが長くなる。
【0033】
図6は、本発明における挟み込み検出の原理を模式的に示した図である。本発明では、ドア開度Yが基準値αを超えている間は、従来と同様に、前記(3)式によって、閾値Th1(n)を算出する。しかるに、ドア開度Yが基準値α以下になると、前記(2)式によって閾値Th2(n)を算出し、この閾値Th2(n)を用いて挟み込みを検出する。基準値αは、閉動作中のバックドア51が全閉位置の直前の所定位置(たとえば、図2における二点鎖線のバックドア51bの位置)まで閉じたときのドア開度に設定されている。
【0034】
ここで、(2)式における傾向値R(n)は、図6中にも示したとおり、
R(n)=I(n-D1)-I(n-D1-D2) ・・・(4)
により算出される。I(n-D1-D2)は、第1時点(n-D1)よりさらに1つ前の第2時点(n-D1-D2)、すなわち第1時点(n-D1)から期間D2だけ遡った時点におけるモータ電流である。D2は、D1と同様、パルス検出部26から出力されるパルスが所定数含まれる期間であり、本実施形態では、D2=D1となっている。
【0035】
ドア開度Yが基準値α以下となって、モータ電流Iが減少傾向を示している場合は、(4)式においてI(n-D1)<I(n-D1-D2)であるから、傾向値R(n)は負の値となる(R(n)<0)。したがって、この場合の前記(2)式は、傾向値R(n)の絶対値|R(n)|を用いて、次のように書き換えることができる。
Th2(n)=I(n-D1)+K-|R(n)| ・・・(2’)
【0036】
この結果、(3)式の閾値Th1(n)と、(2’)式の閾値Th2(n)との関係は、Th2(n)<Th1(n)となって、図6に示されるように、閾値Th2(n)は閾値Th1(n)より|R(n)|だけ小さくなる。換言すれば、バックドア51の開度Yが基準値α以下になって(α≧Y)、モータ電流Iが減少傾向にある場合は、閾値が傾向値R(n)の絶対値の分だけ低くなる。したがって、全閉位置の直前で挟み込みが発生した場合、モータ電流Iが増加に転じてから閾値Th2(n)を超えるまで、つまり挟み込みが検出されるまでの期間tbは、図5における期間taに比べて短くなることがわかる。
【0037】
図7は、上述した挟み込み検出の手順を示すフローチャートである。図7において、ステップS1~S7は閾値算出部3における処理を示しており、ステップS8~S11は挟み込み判定部1における処理を示している。
【0038】
ステップS1では、モータ電流検出部4で検出された現時点のモータ電流I(n)を、モータ電流検出部4から取得する。ステップS2では、第1電流記憶部31(図3)に記憶されている、1つ前の時点のモータ電流I(n-D1)を読み出す。ステップS3では、ドア開度Yを基準値αと比較する。ドア開度Yが基準値αを超えておれば(Y>α)、図3のスイッチSW1、SW2をOFFにしたまま、ステップS4へ進んで、挟み込み検出用の第1閾値をTh1(n)=I(n-D1)+Kにより算出する(前記(3)式)。
【0039】
一方、ドア開度Yが基準値α以下であれば(α≧Y)、図4のようにスイッチSW1、SW2をONにして、ステップS5へ進む。ステップS5では、第2電流記憶部32に記憶されている、2つ前の時点のモータ電流I(n-D1-D2)を読み出す。そして、ステップS6において、ステップS2で読み出した1つ前の時点のモータ電流I(n-D1)と、ステップS5で読み出した2つ前の時点のモータ電流I(n-D1-D2)とを用いて、モータ電流の傾向値をR(n)=I(n-D1)-I(n-D1-D2)により算出する(前記(4)式)。次に、ステップS7において、傾向値R(n)と前述の所定値Kとを用いて、挟み込み検出用の第2閾値をTh2(n)=I(n-D1)+K-|R(n)|により算出する(前記(2’)式)。
【0040】
ステップS4の処理が終わると、ステップS8へ進んで、現時点のモータ電流I(n)を第1閾値Th1(n)と比較する。また、ステップS7の処理が終わると、ステップS8へ進んで、現時点のモータ電流I(n)を第2閾値Th2(n)と比較する。ステップS8での比較の結果、I(n)>Th1(n)またはI(n)>Th2(n)であれば、ステップS9へ進んで、挟み込みが発生した(挟込あり)と判定する。また、ステップS8での比較の結果、Th1(n)≧I(n)またはTh2(n)≧I(n)であれば、ステップS10へ進んで、挟み込みが発生していない(挟込なし)と判定する。
【0041】
その後、ステップS11において、ステップS9およびS10の判定結果が、挟み込み判定部1から出力される。モータ駆動部2は、この判定結果に基づき、挟み込みが発生した場合は、モータ24を停止または反転(バックドア51の開く方向へ回転)させる信号を出力する。これにより、バックドア51が停止するか、または開方向へ反転するので、挟み込みの状態が解除される。
【0042】
以上のように、本発明においては、バックドア51の閉動作中において、ドア開度Yが基準値αを超えている間は、第1閾値Th1(n)に基づいて、挟み込みを検出し、ドア開度Yが基準値α以下になると、第1閾値Th1(n)より小さい第2閾値Th2(n)に基づいて、挟み込みを検出している。このため、挟み込みが発生してモータ電流が増加に転じてから、モータ電流が第2閾値Th2(n)を超えるまでの時間が従来より短くなって、挟み込みを速やかに検出することができる。
【0043】
特に、本発明では、特許文献2のようにドアの開度のみに基づいて閾値を変更するのではなく、モータ電流の増減傾向に応じた傾向値R(n)を用いて、第2閾値Th2(n)を算出しているので、モータ電流の減少傾向が大きくなると、それに応じて閾値Th2(n)も一層小さくなる。このため、閉動作中のバックドア51が全閉位置の手前(直前)まで来て、モータ電流が小さい状態で挟み込みが発生した場合でも、迅速な挟み込みの検出が可能となる。
【0044】
次に、本発明を別の側面から考察してみる。前述したように、ドア開度Yが基準値α以下となった以降は、モータ電流I(n)が閾値Th2(n)を超えたときに挟み込みと判定される。すなわち、この場合の挟み込み判定の条件は、
I(n)>Th2(n) ・・・(5)
である。ここで、前記の(2)式より、Th2(n)=I(n-D1)+K+R(n)であるから、上記(5)式は、
I(n)>I(n-D1)+K+R(n) ・・・(6)
となる。さらに、前記の(4)式より、R(n)=I(n-D1)-I(n-D1-D2)であるから、上記(6)式は、
I(n)>I(n-D1)+K+I(n-D1)-I(n-D1-D2)
・・・(7)
となる。
【0045】
上記(7)式において、右辺のI(n-D1)と、I(n-D1)-I(n-D1-D2)とを左辺へ移項すると、
{I(n)-I(n-D1)}-{I(n-D1)-I(n-D1-D2)}>K
・・・(8)
となる。
【0046】
上記(8)式において、左辺の第1項{I(n)-I(n-D1)}は、現時点のモータ電流I(n)と1つ前の第1時点のモータ電流I(n-D1)との変化量(第1変化量)であり、左辺の第2項{I(n-D1)-I(n-D1-D2)}は、1つ前の第1時点のモータ電流I(n-D1)と、2つ前の第2時点のモータ電流I(n-D1-D2)との変化量(第2変化量)である。したがって、(8)式の左辺は、モータ電流の第1変化量と第2変化量の差分を表している。また、右辺の所定値Kは、この差分に対する閾値となっている。
【0047】
以上のことから、本発明では、ドア開度Yが基準値α以下である場合に、モータ電流の第1変化量{I(n)-I(n-D1)}と第2変化量{I(n-D1)-I(n-D1-D2)}との差分を所定値Kと比較し、当該差分が所定値Kを超えている場合に、バックドア51による挟み込みが発生したと判定することができる。すなわち、(8)式は次のような挟み込み判定式を表している。
(モータ電流の第1変化量)-(モータ電流の第2変化量)>K
【0048】
図8は、上記(8)式を検証するための図である。ここでは便宜上、期間D1において挟み込みが発生し、モータ電流Iが増加に転じて閾値Th2(n)を超え、nの時点で挟み込みが検出されるものとする。このとき、挟み込みが検出される条件は、I(n)>Th2(n)である。ここで図8より、Th2(n)=I(n-D1)+K-|R(n)|であるから、挟み込み検出条件は、
I(n)>I(n-D1)+K-|R(n)|
である。また、図8より、|R(n)|=I(n-D1-D2)-I(n-D1)であるから、上記の挟み込み検出条件は、
I(n)>I(n-D1)+K-{I(n-D1-D2)-I(n-D1)}
と表すことができる。これを変形すると、
{I(n)-I(n-D1)}-{I(n-D1)-I(n-D1-D2)}>K
となり、(8)式と一致することがわかる。
【0049】
本発明では、上述した実施形態以外にも、種々の実施形態を採用することが可能である。たとえば、上述した実施形態では、パルス検出部26の出力パルスに基づいて、バックドア51の開度Yを検出したが、開度Yが基準値α以下となったことを検出するセンサやスイッチなどを別に設けてもよい。
【0050】
また、上述した実施形態では、図6における所定値Kを基準値αの前後にかかわらず一定としたが、基準値αの前後で所定値Kを異ならせてもよい。また、所定値Kは、ドア開度Yに応じて変えてもよい。
【0051】
また、上述した実施形態では、図6における期間D1と期間D2を同じ長さとしたが、期間D1と期間D2の長さは異なっていてもよい。
【0052】
さらに、上述した実施形態では、開閉体としてバックドア51を例に挙げたが、本発明は、たとえば車庫のゲートなどの開閉体を制御する装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 挟み込み判定部
2 モータ駆動部
3 閾値算出部
4 モータ電流検出部
5 ドア開度検出部(開度検出部)
10 バックドア制御装置(開閉体制御装置)
24 モータ
26 パルス検出部
50 車両
51 バックドア(開閉体)
I モータ電流
I(n) 現時点のモータ電流
I(n-D1) 第1時点のモータ電流
I(n-D1-D2) 第2時点のモータ電流
Th1(n) 第1閾値
Th2(n) 第2閾値
K 所定値
R(n) 傾向値
Y 開度
α 基準値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10