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  • 特開-熱膨張性耐火材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035637
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火材
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20240307BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240307BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240307BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20240307BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240307BHJP
   E06B 5/16 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C08J5/00 CEQ
C08L101/00
C08K3/04
C09K21/14
E04B1/94 F
E04B1/94 U
E06B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140226
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】牛見 建彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 泰輝
【テーマコード(参考)】
2E001
2E239
4F071
4H028
4J002
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001DE04
2E001FA32
2E001FA33
2E001HD11
2E001HE02
2E001HF12
2E001JA18
2E001JD02
2E239CA02
2E239CA12
2E239CA22
2E239CA47
2E239CA54
2E239CA62
4F071AA12
4F071AA13
4F071AA24
4F071AB03
4F071AB04
4F071AB25
4F071AC08
4F071AC10
4F071AC14
4F071AE02
4F071AE04
4F071AE07
4F071AF14Y
4F071AF53
4F071AF62Y
4F071AG05
4F071AH03
4F071BB03
4F071BB04
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC07
4H028AA03
4H028AA42
4H028AB03
4J002AA001
4J002AC031
4J002AC081
4J002AC091
4J002BD041
4J002DA026
4J002FD136
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】火災時において隙間を閉塞できる良好な膨張特性を有し、かつ建具の変形に追従できる熱膨張性耐火材を提供する。
【解決手段】本発明の熱膨張性耐火材は、バインダー樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する膨張層を備え、膨張倍率が3倍以上であり、最大せん断荷重が20N以上である、熱膨張性耐火材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する膨張層を備える熱膨張性耐火材であって、
前記熱膨張性耐火材を寸法50mm×50mmに切り取り400℃で20分加熱した際の厚み方向の膨張倍率が3倍以上であり、
前記熱膨張性耐火材を寸法25mm×25mmに切り取り、前記熱膨張性耐火材の膨張層の厚みに対して3倍の間隔で、かつSUS板同士が対向する面積が50mm×50mmとなるように互いに対向させて配置した2枚のSUS板のうちの一方のSUS板の表面に貼り付けた後、400℃で20分間加熱して得られたせん断荷重測定試料を、1mm/分の引張条件で測定した最大せん断荷重が20N以上である、熱膨張性耐火材。
【請求項2】
前記バインダー樹脂がゴム成分を含む、請求項1に記載の熱膨張性耐火材。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が分子構造中にハロゲンを含有しない、請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火材。
【請求項4】
前記バインダー樹脂がニトリル基を含む、請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火材。
【請求項5】
熱膨張性黒鉛を含有しない表層材を備える、請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火材。
【請求項6】
前記表層材に含まれるバインダー樹脂が分子構造中にハロゲンを含有しない、請求項5に記載の熱膨張性耐火材。
【請求項7】
防火ドアおよびサッシの耐火対策部材として使用される、請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性耐火材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野では、防火のために、建具、柱、壁材等の建築材料に耐火材が用いられる。耐火材としては、樹脂に、難燃剤、無機充填剤などに加えて、熱膨張性黒鉛が配合された熱膨張性耐火材等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような熱膨張性耐火材は、加熱により膨張して燃焼残渣が耐火断熱層を形成し、耐火断熱性能を発現する。
熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性耐火材は、例えば、建築物の開口部に設けられるドアやサッシなどの建具の隙間(例えば、ドアとドア枠の隙間など)に設けられ、火災時には該シートが厚み方向に膨張して、隙間を閉塞し、延焼を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-130005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火材において、火災時において隙間を閉塞できる良好な膨張特性を有していたとしても、耐火材がドア枠などの建具の変形に追従できずに剥がれ落ちるなどして、空隙が生じてしまい、耐火性が低下するという問題があった。
そこで、本発明は、火災時において隙間を閉塞できる良好な膨張特性を有し、かつ建具の変形に追従できる熱膨張性耐火材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者は、バインダー樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する膨張層を備える熱膨張性耐火材であって、特定の条件下で測定される膨張倍率及び最大せん断荷重が一定以上である熱膨張性耐火材により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]~[7]に関する。
[1]バインダー樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する膨張層を備える熱膨張性耐火材であって、前記熱膨張性耐火材を寸法50mm×50mmに切り取り400℃で20分加熱した際の厚み方向の膨張倍率が3倍以上であり、前記熱膨張性耐火材を寸法25mm×25mmに切り取り、前記熱膨張性耐火材の膨張層の厚みに対して3倍の間隔で、かつSUS板同士が対向する面積が50mm×50mmとなるように互いに対向させて配置した2枚のSUS板のうちの一方のSUS板の表面に貼り付けた後、400℃で20分間加熱して得られたせん断荷重測定試料を、1mm/分の引張条件で測定した最大せん断荷重が20N以上である、熱膨張性耐火材。
[2]前記バインダー樹脂がゴム成分を含む、上記[1]に記載の熱膨張性耐火材。
[3]前記バインダー樹脂が分子構造中にハロゲンを含有しない、上記[1]又は[2]に記載の熱膨張性耐火材。
[4]前記バインダー樹脂がニトリル基を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[5]熱膨張性黒鉛を含有しない表層材を備える、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[6]前記表層材に含まれるバインダー樹脂が分子構造中にハロゲンを含有しない、上記[5]に記載の熱膨張性耐火材。
[7]防火ドアおよびサッシの耐火対策部材として使用される、上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、火災時において隙間を閉塞できる良好な膨張特性を有し、かつ建具の変形に追従できる熱膨張性耐火材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】最大せん断荷重の測定方法を説明するための図である。
図2】最大せん断荷重の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[熱膨張性耐火材]
本発明の熱膨張性耐火材は、バインダー樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する膨張層を備える熱膨張性耐火材であって、前記熱膨張性耐火材を寸法50mm×50mmに切り取り400℃で20分加熱した際の厚み方向の膨張倍率が3倍以上であり、最大せん断荷重が20N以上である。最大せん断荷重は次のように測定される。熱膨張性耐火材を寸法25mm×25mmに切り取り、膨張層の厚みに対して3倍の間隔で、かつSUS板同士の対向する面積が50mm×50mmとなるように互いに対向させて配置した2枚のSUS板のうちの一方のSUS板の表面に貼り付け、400℃で20分間加熱してせん断荷重測定試料を得る。該せん断荷重測定試料を1mm/分の引張条件で測定して最大せん断荷重を測定する。以下、本発明の熱膨張性耐火材のことを、単に耐火材という場合もある。
なお、耐火材はシート状の形態であり、膨張層のみで構成されていてもよいし、後述するように、膨張層の他に、表層材や粘着剤層を備えていてもよい。
【0009】
(膨張倍率)
本発明の耐火材の膨張倍率は3倍以上である。耐火材の膨張倍率が3倍未満であると、火災時に建具の隙間を閉塞し難くなり、延焼を防止することが困難になる。
本発明の耐火材の膨張倍率は、隙間を閉塞し易くする観点から、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上である。また、火災時における建具への追従性の観点から、本発明の熱膨張性耐火材の膨張倍率は、好ましくは15倍以下であり、より好ましくは12倍以下である。
【0010】
本発明の耐火材の膨張倍率は、寸法(幅×長さ)50mm×50mmに切り取った耐火材を400℃で20分加熱した際の厚み方向の膨張倍率であり、加熱後の耐火材の厚さを加熱前の耐火材の厚さで除することにより求めることができる。
膨張倍率は、熱膨張性黒鉛、バインダー樹脂及び必要に応じて配合される可塑剤の種類及び量などにより調整することができる。
【0011】
(最大せん断荷重)
本発明の耐火材の最大せん断荷重は20N以上である。最大せん断荷重が20N未満であると、火災時に膨張した耐火材が、建具の変形に追従し難くなり、耐火性が低下する。耐火性向上の観点から、耐火材の最大せん断荷重は、好ましく30N以上であり、より好ましくは50N上である。耐火材の最大せん断荷重の上限値は、特に限定されないが例えば200Nである。
最大せん断荷重は、耐火材に含まれるバインダー樹脂、熱膨張性黒鉛、必要に応じて配合される可塑剤の種類及び量を調節することにより、所望の値に調整することができる。
【0012】
本発明の耐火材の最大せん断荷重の測定方法を、図面を用いて説明する。
まず、耐火材を寸法(幅×長さ)25mm×25mmに切り取り、最大せん断荷重を測定するための試料としての耐火材13を準備する。
次に、2枚のSUS板(ステンレス板)11及び12を用意する。2枚のSUS板11及び12は、耐火材13の厚みtに対して3倍の間隔で互いに対向するように配置する。すなわち、図1におけるSUS板11及びSUS板12の間隔Lは、耐火材13の厚みtの3倍となる。そして、SUS板11及びSUS板12が互いに対向している面積S(すなわち、厚み方向から見て、SUS板が重なり合っている領域)が、50mm×50mmとなるように配置する。なお、図示していないが、SUS板11及びSUS板12の間には、間隔をLに保つようにスペーサーが配置される。
そして、SUS板11のSUS板12に対向している側の表面に、上記した25mm×25mmに切り取った耐火材13を貼り付ける。SUS板11の表面に耐火材13を貼り付ける際には、厚み200μmのアクリル系粘着材を介して貼り付ける。アクリル系粘着材は、tesa社製の4965を用いるとよい。このようにしてして、2枚のSUS板11及びSUS板12と、該2枚のSUS板の一方のSUS板表面に貼り付けられた耐火材13とを有する構造体14を作製する。
次いで、上記のとおり作製した構造体14を400℃で20分間加熱する。加熱すると、図2に示すように、耐火材13が膨張して、SUS板11とSUS板12の間が閉塞される。このようにして、せん断荷重測定試料15を作製する。
【0013】
上記のとおり作製したせん断荷重測定試料15を用いて、最大せん断荷重を測定する。最大せん断荷重は、せん断荷重測定試料15のSUS板11及びSUS板12をせん断方向に引っ張る引張試験により測定される。具体的にはSUS板11を固定し、SUS板12を1mm/分の速度で引張る引張試験を行う。なお引張試験は、25℃で行うこととする。
そして、引張試験時において測定されるせん断荷重の最大値を最大せん断荷重とする。
最大せん断荷重が大きいほど、建具などの各種部材の変形に対して追従しやすいことを意味し、耐火性に優れる。
【0014】
本発明の耐火材は、バインダー樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する膨張層を備える。以下、耐火材の組成について説明する。
【0015】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、例えば、樹脂及びゴム成分から選択される少なくとも1種を含む。中でも、バインダー樹脂は、ゴム成分を含むことが好ましい。
また、バインダー樹脂は、その分子構造中にハロゲンを含有しないことが好ましい。ハロゲンを含有しないバインダー樹脂を用いることにより、耐火材を使用する各種部材の腐食を抑制することができる。
【0016】
<ゴム成分>
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンエラストマーなどが挙げられる。
これらの中でも、ゴム成分は、耐火材の膨張倍率及び最大せん断荷重を上記した所望の範囲とする観点から、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、これらゴム成分の中でも、耐火材を使用する各種部材の腐食を抑制する観点から、ハロゲンを含有しないものが好ましく、ゴム成分は、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム-ブタジエンゴム、及びブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0017】
また、バインダー樹脂はニトリル基を含むことが好ましい。ニトリル基を含むバインダー樹脂を用いることにより、耐火材の膨張後の残渣強度を高めやすくなり、耐火性が向上する。ニトリル基を含むバインダー樹脂としては、アクリロニトリルの単独重合体、及びアクリロニトリルとその他のエチレン性不飽和結合を有する化合物との共重合体が挙げられ、中でもアクリロニトリル-ブタジエンゴムが好ましい。
バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
アクリロニトリル-ブタジエンゴムのニトリル量は、8~40質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。ニトリル量が上記の範囲にあるアクリロニトリル-ブタジエンゴムを含む耐火材は、柔軟性が良好であり、また後述する可塑剤と併用することにより、より柔軟性を高められ、建具などの部材の変形に対する追従性が向上しやすくなる。
アクリロニトリル-ブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、20~90が好ましく、25~80がより好ましく、30~70がさらに好ましい。100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が上記の範囲にあるアクリロニトリル-ブタジエンゴムを含む耐火材は、建具などの各種部材に対して粘着力を確保しやすく、部材に対する追従性が向上しやすくなる。
アクリロニトリルブタジエンゴムは、100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が異なる2種以上を併用することも好ましく、その場合、それぞれのアクリロニトリルブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、20~90が好ましく、25~80がより好ましく、30~70がさらに好ましい。
なお、本明細書においてムーニー粘度はJIS K6300に準拠して測定される。
【0019】
クロロプレンゴムは、耐火材における含有炭素の割合を低くすることができるため、耐火性を高める観点から、耐火材に含まれるゴムとしてクロロプレンゴム使用することも好ましい。
クロロプレンゴムとしては、硫黄変性タイプ(Gタイプ)、非硫黄変性タイプ(Wタイプ)等も用いることができる。
クロロプレンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、耐火材の部材に対する追従性向上の観点から、20~120が好ましく、30~90がより好ましい。
【0020】
スチレン-ブタジエンゴムとしては、スチレンとブタジエンのランダム共重合体が挙げられる。スチレン-ブタジエンゴムのスチレン量は、20~60質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましく、30~45質量%がさらに好ましい。
スチレン-ブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、耐火材の部材に対する追従性向上の観点から、20~60が好ましく、30~55がより好ましく、40~50がさらに好ましい。
【0021】
ブタジエンゴムとしては、特に限定されないが、耐火材の部材に対する追従性向上の観点から、100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、20~60が好ましく、30~55がより好ましい。
【0022】
<樹脂>
樹脂としては熱硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよいが、好ましくは熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ウレタンエラストマーなどのウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0023】
耐火材の膨張層に含まれるバインダー樹脂の含有量は、特に限定されないが、例えば、膨張層全量基準で、例えば20~90質量%であり、好ましくは30~80質量%であり、より好ましくは40~70質量%である。
【0024】
(熱膨張性黒鉛)
本発明の耐火材における膨張層は、熱膨張性黒鉛を含有する。熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の原料粉末を、強酸化剤で酸処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。強酸化剤としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
熱膨張性黒鉛は中和処理されてもよい。つまり、上記のように強酸化剤などで処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和してもよい。
【0025】
膨張層における熱膨張性黒鉛の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは20~300質量部であり、より好ましくは30~150質量部であり、さらに好ましくは40~70質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、熱膨張性耐火材の膨張圧力を高めやすくなり、膨張倍率を所望の範囲に調整しやすくなる。他方、熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、耐火材の最大せん断荷重を上記した所望の値に調整しやすくなり、建具などの部材の変形に対する追従性が向上しやすくなる。
【0026】
本発明における熱膨張性黒鉛は、平均アスペクト比が好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上であり、そして通常は1000以下である。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比がこれら下限値以上であると、耐火材の膨張圧力を高めやすくなる。
熱膨張性黒鉛のアスペクト比は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法(長径)と最小寸法(短径)を測定し、これらの比(最大寸法/最小寸法)の平均値として求める。
【0027】
熱膨張性黒鉛の平均粒径は、好ましくは50~500μmであり、より好ましくは100~400μmである。なお、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法の平均値として求める。
上記した熱膨張性黒鉛の最小寸法及び最大寸法は、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0028】
(難燃剤)
本発明の耐火材は、難燃剤を含有することが好ましい。難燃剤を含有することにより、耐火性が向上する。
難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。難燃剤としては、下記一般式(1)で表される化合物等も挙げられる。
【0029】
【化1】
【0030】
前記一般式(1)中、R及びRは、同一又は異なって、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を示す。Rは、水酸基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は炭素数6~16のアリールオキシ基を示す。
【0031】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。前記難燃剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の難燃剤としては、ホウ素系化合物及び金属水酸化物を使用することもできる。
ホウ素系化合物としては、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及びハイドロタルサイト等が挙げられる。金属水酸化物を用いた場合、発火により生じた熱によって水が生成し、速やかに消火することができる。
【0033】
前記難燃剤の中でも、安全性やコスト等の観点から、赤リン、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)等のリン酸エステル、亜リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、及びホウ酸亜鉛が好ましい。中でも、亜リン酸アルミニウム、及びポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
なお、上記に列挙した難燃剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよいが、1種を単独で使用することが好ましく、亜リン酸アルミニウムを使用することがより好ましい。亜リン酸アルミニウムは、膨張性があるため、これを含む耐火材は、膨張圧力が高まりやすく、より効果的に耐火性を向上させ易い。
【0034】
難燃剤の平均粒子径は、1~200μmが好ましく、1~60μmがより好ましく、3~40μmがさらに好ましく、5~20μmがさらに好ましい。難燃剤の平均粒子径が上記範囲内であると、耐火材における難燃剤の分散性が向上し、難燃剤をバインダー樹脂中に均一に分散させたり、バインダー樹脂に対する難燃剤の配合量を多くしたりすることができる。また、平均粒子径が上記範囲外となると、バインダー樹脂中に難燃剤が分散しにくくなり、バインダー樹脂中に難燃剤を均一に分散させたり、多量に配合させたりすることが難しくなる。
なお、難燃剤の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)の値である。
【0035】
本発明の耐火材の難燃剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、1~500質量部であることが好ましく、3~100質量部がより好ましく、5~50質量部が更に好ましい。
難燃剤の含有量がこれら下限値以上であると、耐火材の耐火性が向上する。また、難燃剤の含有量がこれら上限値以下であると、樹脂中に均一に分散しやすくなり、成形性などが優れたものとなる。
【0036】
(加硫剤)
本発明の耐火材における膨張層は、加硫剤を含有していてもよい。特に、バインダー樹脂としてゴム成分を使用する場合は、加硫剤を含有することにより、耐火材の膨張時における弾性が高まり、膨張した耐火材の残渣強度が向上し、また各種部材から落脱することなどを抑制しやすくなる。
加硫剤としては、公知のものが制限なく使用でき、例えば、硫黄系化合物、有機過酸化物、アゾ化合物などを挙げることができる。
硫黄系化合物としては、硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、塩化硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄等の無機系のものでもよいが、含硫黄有機架橋剤であってもよい。含硫黄有機架橋剤としては、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、N,N’-ジチオ-ビス(ヘキサヒドロ-2H-アゼピノン-2)、チウラムポリスルフィド、2-(4’-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、3-ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、α,α’ -ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート:ベンゾイルパーオキサイド:t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート等が挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
加硫剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
【0037】
また、上記した加硫剤の中でも、耐火材を製造する際に、各成分を混練する温度で架橋反応が生じ難く、かつ、火災時の熱によりアクリロニトリル-ブタジエンゴムなどのゴム成分の架橋反応が生じやすいものが好ましい。具体的には、硫黄系化合物が好ましく、これらの中では、架橋性の観点から無機系のものが好ましく、硫黄がより好ましい。
耐火材が加硫材を含有する場合は、加硫剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.2~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~3質量部である。
【0038】
(架橋促進剤)
本発明の耐火材は、加硫剤に加えて加硫促進剤が配合されていてもよい。加硫促進剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物、チアゾール系化合物、スルフェンアミド系化合物、チウラム系化合物、ジチオカルバミン酸塩系化合物、グアニジン系化合物、チオウレア系化合物などが挙げられる。加硫促進剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の耐火材において加硫促進剤を使用する場合の加硫促進剤の配合量は、特に限定されないが、バインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~15質量部であり、より好ましくは0.5~10質量部であり、さらに好ましくは1~8質量部である。
【0039】
(可塑剤)
本発明の耐火材は、可塑剤を含有していることが好ましい。可塑剤を用いることにより、上記した最大せん断荷重を所望の範囲に調整しやすくなり、火災時における各種部材に対する追従性が良好になりやすい。
可塑剤としては、特に限定されないが、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、アルキルスルホン酸系可塑剤などが挙げられる。
【0040】
フタル酸系可塑剤としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、又は炭素原子数10~13程度の高級アルコール又は混合アルコールのフタル酸エステル等などが挙げられる。
アジピン酸系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸系ポリエステルなどが挙げられる。
【0041】
リン酸系可塑剤としては、例えば、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクロロエチルホスフェート、トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)-2,3-ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
アルキルスルホン酸系可塑剤としては、アルキルスルホン酸フェニルエステル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等が挙げられる。
【0042】
上記した可塑剤の中でも、アジピン酸系可塑剤又はアルキルスルホン酸系可塑剤が好ましく、中でも、バインダー樹脂としてゴム成分を使用する場合は、耐火材の火災時における各種部材への形状追従性の観点から、アルキルスルホン酸系可塑剤がより好ましい。また、アルキルスルホン酸系可塑剤の中でも、アルキルスルホン酸フェニルエステルがより好ましい。
【0043】
可塑剤を使用する場合において、可塑剤の含有量は、特に限定されないが、バインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは5~100質量部であり、より好ましくは10~60質量部であり、さらに好ましくは15~40質量部である。
可塑剤の含有量を上記の範囲に調整することにより、最大せん断荷重を所望の値に調整しやすくなり、耐火材の火災時における各種部材への形状追従性が向上する。
【0044】
(無機充填材)
本発明の耐火材は、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填材を更に含有してもよい。
難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填材としては特に制限されず、例えば、アルミナ、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウム等の金属炭酸塩、シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、及び脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填材は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
無機充填材の平均粒子径は、0.5~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。無機充填材は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、耐火材の粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
【0046】
本発明の耐火材が、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填材を含有する場合、その含有量はバインダー樹脂100質量部に対して、好ましくは10~300質量部、より好ましくは10~200質量部である。無機充填材の含有量が前記範囲内であると、耐火材の機械的物性を向上させることができる。
【0047】
本発明の耐火材は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、分散剤、ゲル化促進剤、充填材、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加剤の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択できる。添加剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、本発明の耐火材は、耐火性の観点から、熱膨張後の残渣強度が、好ましくは0.1kgf/cm以上、より好ましくは0.3kgf/cm以上、さらに好ましくは0.5kgf/cm以上、よりさらに好ましくは0.7kgf/cm以上である。上記残渣強度は、耐火材が膨張しやすくすることで耐火性を確保する観点から、好ましくは2.0kgf/cm以下であり、より好ましくは1.5kgf/cm以下である。なお、残渣強度は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0049】
(厚さ)
本発明の耐火材の膨張層は、シート状の形状であることが好ましく、その厚みは特に限定されないが、耐火性及び取扱い性の観点から、0.2~10mmが好ましく、0.5~3.0mmがより好ましい。
【0050】
(膨張層の製造方法)
本発明における耐火材の膨張層は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、所定量の熱膨張性黒鉛、バインダー樹脂、必要に応じて配合される可塑剤、難燃剤、加硫剤、無機充填材、及びその他の成分を、混練ロールなどの混練機で混練して、耐火性樹脂組成物を得る。
次に、得られた耐火性樹脂組成物を、例えば、プレス成形、カレンダー成形、押出成形等、公知の成形方法によりシート状などに成形することで膨張層を得ることができる。
混練する際の温度及びシート状に成形する温度は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満であることが好ましく、加硫剤を配合する場合は、加硫剤が架橋し難い温度であることが好ましい。そのため、混練する温度は、40~100℃が好ましく、50~80℃がより好ましい。シート状に成形する温度は、70~110℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
【0051】
(膨張層以外の層)
本発明の耐火材は、膨張層のみで構成されていてもよいが、以下説明する表層材、粘着剤層などの膨張層以外の層を有していてもよい。
【0052】
(表層材)
本発明の耐火材は、外観を良好にする観点、耐傷付き性向上の観点などから、膨張層の一方又は両方の表面に表層材を設けてもよい。表層材はバインダー樹脂を含有する樹脂層である。表層材は、バインダー樹脂の他に、上記した難燃剤、可塑剤、無機充填材などを含んでもよいが、バインダー樹脂のみから構成されるものであってもよい。
表層材のバインダー樹脂は、特に制限されないが、耐火材を使用する各種部材の腐食を抑制する観点から、分子構造中にハロゲンを含有しないことが好ましい。
【0053】
表層材におけるバインダー樹脂の種類は特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、エチレンーメチルメタクリレート共重合体樹脂などのαオレフィン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体樹脂、アクリロニトリルゴム-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどのゴム系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。
表層材は、好ましくは熱膨張性黒鉛を含有しない層である。したがって、表層材を備える耐火材は、火災時には膨張層が平面及び厚み方向に膨張し、表層材は膨張しないため、一般には表層材が膨張した膨張層に覆われる形態となる。
表層材の厚みは、例えば5~1000μmであり、好ましくは5~500μmである。
【0054】
(粘着剤層)
本発明の耐火材は、各種部材に貼り付け易くする観点から、膨張層の一方又は両方の表面に粘着剤層を有していてもよい。粘着剤層は、特に限定されず一般に使用される粘着材を用いるとよいが、例えばアクリル系粘着材を用いることができる。
粘着剤層の厚みは、例えば10~500μmであり、好ましくは50~300μmである。
また、耐火材は、粘着剤層及び表層材の両方を有していてもよい。この場合、膨張層の一方の面に粘着剤層、他方の面に表層材を有する耐火材とすることが好ましい。
【0055】
(用途)
本発明の耐火材は、具体的には、一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設等の各種の建具、自動車、電車などの各種車両、船舶、航空機などに使用できるが、これらの中では建具に使用されることが好ましい。建具としては、具体的には、壁、梁、柱、床、レンガ、屋根、板材、サッシ、障子、扉、防火ドア、戸、ふすま、欄間、配線、配管などに使用することができるが、防火ドア又はサッシに使用することが好ましい。本発明の耐火材は、隙間を閉塞できる良好な膨張特性を有し、火災時の部材の変形に追従しやすいため、特に防火ドア又はサッシの隙間に適用し、耐火対策部材として使用することが好ましい。
【実施例0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0057】
[評価方法]
(1)膨張倍率
各実施例、及び比較例の耐火材を所定のサイズにした(幅50mm、長さ50mm)。該所定のサイズの耐火材をステンレス製の板(98mm角・厚み0.3mm)の底面に設置し、あらかじめ400℃に設定しておいた電気炉に該耐火材を入れ、該耐火材を20分間加熱した。加熱後の耐火材の厚さを加熱前の耐火材の厚さで除することにより、膨張倍率を求めた。
【0058】
(2)残渣強度
上記した膨張倍率の試験により膨張させた耐火材の膨張層を試験片として、圧縮試験機(カトーテック社製フィンガーフィリングテスター)により、0.25cmの圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、破断点応力を測定し、これを残渣強度(kgf/cm)とした。
【0059】
(3)最大せん断荷重
図1~2により説明する。耐火材を寸法(幅×長さ)25mm×25mmに切り取り、最大せん断荷重を測定するための試料として耐火材13を準備した。次に、2枚のSUS板11及びSUS板12を用意した。それぞれのSUS板のサイズは、厚み0.3mm、幅50mm、長さ100mmであった。
2枚のSUS板11及びSUS板12は、耐火材13の厚みtに対して3倍の間隔で互いに対向するようにスペーサー(図示せず)を用いて配置した。またSUS板同士の対向する面積が50mm×50mmとなるように配置した。次いで、一方のSUS板11の表面に、上記した25mm×25mmに切り取った耐火材13を貼り付けた。貼り付けは、厚み200μmのアクリル系粘着材(tesa社製4965)を介して行った。なお、表層材を備える耐火材の場合は、表層材と逆側の面をアクリル系粘着剤によりSUS板11の表面に貼り付けた。
このようにして、2枚のSUS板11及びSUS板12と、該2枚のSUS板の一方のSUS板表面に貼り付けられた耐火材13を有する構造体14を作製した。
上記のとおり作製した構造体14を電気炉により400℃で20分間加熱することで、図2に示すように、耐火材13が膨張して、SUS板11と12の間が閉塞された、せん断荷重測定試料15を作製した。
このように作製したせん断荷重測定試料15のSUS板11及びSUS板12をせん断方向に引っ張る引張試験を行った。具体的にはSUS板11を固定し、SUS板12を1mm/分の速度で引張る引張試験を行った。引張試験機としては、オリエンテック社製のテンシロンRTC1210Aを用い、測定温度は25℃とした。引張試験において、引張条件は、1mm/分とした。引張試験時において測定されるせん断荷重の最大値を、最大せん断荷重(N)とした。
【0060】
(4)腐食性
上記した(3)最大せん断荷重の試験後に、膨張後の耐火材を取り除き、SUS板表面を目視により観察し、以下の基準で評価した。
<評価>
〇:腐食が確認されなかった。
×:腐食が確認された。
【0061】
(5)200℃におけるtanδ
耐火材の200℃における動的粘弾性測定でのtanδ(損失正接)の値を動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社製「ARES」)により測定した。測定は、せん断法にて、歪み1%、周波数1Hz、昇温速度5℃/分の条件で行った。
【0062】
各実施例、比較例で使用した各種成分は以下のとおりである。
(バインダー樹脂)
・NBR(高粘度) アクリロニトリル-ブタジエンゴム、日本ゼオン社製「Nipol DN401」、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:77.5、ニトリル含有量18質量%
・NBR(中粘度) アクリロニトリル-ブタジエンゴム、日本ゼオン社製「Nipol DN401L」、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:65、ニトリル含有量18質量%
・NBR(低粘度) アクリロニトリル-ブタジエンゴム、日本ゼオン社製「Nipol DN101LL」、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:32、ニトリル含有量18質量%
・NBR(中NT) アクリロニトリル-ブタジエンゴム、日本ゼオン社製「NipolDN302」、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:62.5、ニトリル含有量27.5質量%

・CR クロロプレンゴム、デンカ社製「M―40」、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:46
・BR ブタジエンゴム、日本ゼオン社製「NipolBR1220」、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:44
・SBR スチレン-ブタジエンゴム、日本ゼオン社製「Nipol1723」、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:47
・PVC ポリ塩化ビニル、カネカ社製「S1001」
【0063】
(難燃剤)
・亜リン酸アルミニウム 太平化学産業株式会社製「APA100」
【0064】
(可塑剤)
・アルキルスルホン酸系 アルキルスルホン酸フェニルエステル、LANXESS社製「Mesamoll」
・アジピン酸系 ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート、大八化学工業株式会社製「BXA-N」
【0065】
(加硫剤)
・硫黄系、細井化学工業社製「コロイド硫黄」
・過酸化物系(パーオキサイド系)、日本油脂社製「パークミルD」
【0066】
(熱膨張性黒鉛)
・熱膨張性黒鉛1 ADT社製「ADT351」、膨張開始温度170℃
・熱膨張性黒鉛2 富士黒鉛工業株式会社製「EXP42S160」、膨張開始温度160℃
・熱膨張性黒鉛3 富士黒鉛株式会社製「EXP50HO」、膨張開始温度220℃
【0067】
(表層材)
以下の各バインダー樹脂により構成された表層材を用いた。
・PET ポリエチレンテレフタレート 厚み50μm
・エチレンーメチルメタクリレート共重合体樹脂 、厚み300μm
・NBR アクリロニトリル-ブタジエンゴム、厚み100μm
・PVC ポリ塩化ビニル、厚み100μm
【0068】
(実施例1~14、比較例1~2)
表1~2に示す配合にて、膨張層を形成するための各成分をプラストミルにより、60℃で5分間混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、90℃で3分間プレス成形して、厚さ1.5mmのシート状の膨張層からなる耐火材を得た。評価結果を表1~2に示した。
【0069】
(実施例15~19)
表2に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ1.5mmのシート状の膨張層を得た。そして、該膨張層の片面に表2に示す表層材を積層して、耐火材を得た。表層材の積層は熱プレス(90℃)により行った。評価結果を表2に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
各実施例の耐火材は、膨張倍率が3倍以上であり、良好な膨張特性を有しており、また最大せん断荷重は20N以上であることにより、火災時において防火ドアやサッシなどの各種部材の変形に対する追従性が良好であり、耐火性に優れることが分かった。これに対して、比較例1~2の耐火材は、最大せん断荷重は20N未満であることにより、火災時における各種部材の変形に対しる追従性が悪く、耐火性に劣ることが分かった。
【符号の説明】
【0073】
11 SUS板
12 SUS板
13 耐火材
14 構造体
15 せん断荷重測定試料
図1
図2