(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035662
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】吹付けコンクリート配合選定方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140261
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】文村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】福島 淳平
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA06
2D155CA01
2D155KA00
2D155KB02
(57)【要約】
【課題】実施工を行わずとも、室内試験の結果に基づいて、跳ね返り率が小さくなる配合を選定することができる吹付けコンクリート配合選定方法を提案する。
【解決手段】吹付けコンクリートとして必要な強度を発現する結合材量を決定する結合材量決定工程S1と、結合材量の結合材を含み、高性能減水剤を含まない配合のコンクリートについて測定したスランプが7.5~10cmの範囲内となる単位水量を決定する単位水量決定工程S2と、前記結合材量の結合材と前記単位水量の水と高性能減水剤とを含み、スランプが所定の大きさとなるコンクリートの配合を複数選定する高性能減水剤調整工程S3と、選定された配合のコンクリートついてモルタルフローの伸びの量を測定するモルタルフロー測定工程S4と、モルタルフローの伸びの量が小さい配合を選定するコンクリート配合選定工程S5とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹付けコンクリートとして必要な強度を発現する結合材量を決定する結合材量決定工程と、
前記結合材量の結合材を含み、高性能減水剤を含まない配合のコンクリートについて、JISA1101で規定するコンクリートのスランプ試験方法により測定したスランプが7.5~10cmの範囲内となる単位水量を決定する単位水量決定工程と、
前記結合材量の結合材と、前記単位水量の水と、高性能減水剤とを含み、前記スランプ試験方法で測定したスランプが所定の大きさとなるコンクリートの配合を複数選定する高性能減水剤調整工程と、
前記高性能減水剤調整工程において選定された配合のコンクリートついて、JISR5201で規定するモルタルフロー試験方法によるモルタルフローの伸びの量を測定するモルタルフロー測定工程と、
前記モルタルフローの伸びの量が小さい配合を選定するコンクリート配合選定工程と、
を備えることを特徴とする、吹付けコンクリート配合選定方法。
【請求項2】
前記高性能減水剤調整工程において、スランプの大きさが18~23cmの範囲内となるコンクリートの配合を選定することを特徴とする、請求項1に記載の吹付けコンクリート配合選定方法。
【請求項3】
前記結合材は、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュからなり、
前記単位水量決定工程および前記高性能減水剤調整工程におけるコンクリートには細骨材と粗骨材とが含まれており、
前記結合材量は、360~450kg/m3の範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の吹付けコンクリート配合選定方法。
【請求項4】
前記コンクリート配合選定工程において、粉じん低減剤または消泡剤を添加することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の吹付けコンクリート配合選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付けコンクリート配合選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NATM等の山岳トンネル工法では、掘削により露出した地山面にコンクリートを吹き付けることで地山の崩落を防止するのが一般的である。吹付けコンクリートは、ベースコンクリートを、コンクリートポンプを介して配管圧送しつつ、配管途中で圧縮空気と急結剤とを混入させて地山面に吹き付ける。
ベースコンクリートには、設計基準強度が18N/mm2の場合はスランプが7.5cm~10cm程度、高強度コンクリートの場合はスランプが18cm程度のフレッシュコンクリートを使用するのが一般的である。
なお、吹付けコンクリートを施工する際には、吹付けコンクリートの一部が吹付対象面に付着せずに落下(はね返り)してしまう。吹付けコンクリートのはね返り量が多いと、施工の手間や材料が増加してしまう。そのため、特許文献1には、吹付けコンクリートの施工により発生したはね返り材を回収して再生材として使用することで費用の低減化を図っている。
一方、はね返り量そのものを低減できれば、施工時の手間や、はね返り材の回収に要する手間を低減できる。しかしながら、室内試験の段階で、吹付けコンクリートのはね返りの大小を評価する試験方法はなく、実際に施工して測定しなければ、吹付けコンクリートのはね返りの大小を把握することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、実施工を行わずとも、室内試験の結果に基づいて、跳ね返り率が小さくなる配合を選定することができる吹付けコンクリート配合選定方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、吹付けコンクリートのはね返りの大半は、衝突時の落下であり、瞬間的に発生するものと考え、ベースコンクリートの粘性が高い方が、衝突時の材料分離を減らして、はね返り率を低減できることを見出し、本発明に至った。
前記課題を解決するための本発明の吹付けコンクリート配合選定方法は、吹付けコンクリートとして必要な強度を発現する結合材量を決定する結合材量決定工程と、前記結合材量の結合材を含み、高性能減水剤を含まない配合のコンクリートについて、JISA1101で規定するコンクリートのスランプ試験方法により測定したスランプが7.5~10cmの範囲内となる単位水量を決定する単位水量決定工程と、前記結合材量の結合材と、前記単位水量の水と、高性能減水剤とを含み、前記スランプ試験方法で測定したスランプが所定の大きさとなるコンクリートの配合を複数選定する高性能減水剤調整工程と、前記高性能減水剤調整工程において選定された配合のコンクリートついて、JISR5201で規定するモルタルフロー試験方法によるモルタルフローの伸びの量を測定するモルタルフロー測定工程と、前記モルタルフローの伸びの量が小さい配合を選定するコンクリート配合選定工程とを備えるものである。
【0006】
かかる吹付けコンクリート配合選定方法によってモルタルフローの伸びの量が小さい配合を選定すると、粘性の高いコンクリートを選定できるので、はね返り率の低減化を図ることができる。そのため、実施工を行わずとも、室内試験(スランプ試験およびモルタルフロー試験)の計測結果によって、はね返りの大小を評価することが可能となる。
モルタルフロー試験は、モルタルの打撃によるフローの伸びであることから、吹付による衝撃やそれに伴うはね返りの評価に適している。なお、モルタルフロー試験に使用する材料は、コンクリートからスクリーニングしたモルタルであってもよいし、コンクリート配合中の粗骨材を取り除いたモルタル配合により製造したモルタルであってもよい。
【0007】
前記高性能減水剤調整工程におけるスランプの大きさは、18~23cmの範囲内とするのが望ましい。
また、前記結合材は普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュからなり、前記単位水量決定工程および前記高性能減水剤調整工程におけるコンクリートには細骨材と粗骨材とが含まれており、前記結合材量は360~450kg/m3の範囲内とするのが望ましい。
さらに、前記コンクリート配合選定工程において、粉じん低減剤または消泡剤を添加してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吹付けコンクリート配合選定方法によれば、実施工を行わずとも、室内試験の結果に基づいて、跳ね返り率が小さくなる配合を選定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】吹付けコンクリート配合選定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】はね返り率と吹付けコンクリート施工時のPM4.0粉じん濃度との関係の例を示すグラフである。
【
図3】実証実験に係るモルタルフローの伸びを示すグラフである。
【
図4】実施例に係るモルタルフローの伸びを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、跳ね返りを低減できる吹付けコンクリートの配合を決定するための吹付けコンクリート配合選定方法について説明する。
図1に吹付けコンクリート配合選定方法の手順を示す。
図1に示すように、本実施形態の吹付けコンクリート配合選定方法は、結合材量決定工程S1と、単位水量決定工程S2と、高性能減水剤調整工程S3と、モルタルフロー測定工程S4と、コンクリート配合選定工程S5とからなる。
結合材量決定工程S1は、吹付けコンクリートとして必要な強度を発現するのに必要な結合材量を決定する工程である。結合材は、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュからなる。また、結合材量は、360~450kg/m
3の範囲内になるようにする。
【0011】
単位水量決定工程S2は、コンクリート(ベースコンクリート)の単位水量を決定する工程である。単位水量は、結合材量決定工程S1で決定した結合材量の結合材を含み、高性能減水剤を含まない配合のコンクリートについて、JISA1101で規定するコンクリートのスランプ試験方法により測定したスランプが7.5~10cmの範囲内となるようにする。スランプの測定に用いるコンクリートには、細骨材と粗骨材が含まれている。
高性能減水剤調整工程S3は、スランプが所定の大きさとなるコンクリートの配合を複数選定する工程である。このとき、コンクリートには、結合材量決定工程において決定した結合材量の結合材、単位水量決定工程で決定した単位水量の水、高性能減水剤、細骨材および粗骨材が含まれている。高性能減水剤の添加量を調整することで、コンクリートのスランプの大きさを調整する。スランプは、JISA1101で規定するコンクリートのスランプ試験方法により測定した値とする。本実施形態では、スランプの大きさが18cm、21cm、23cmとなる配合(高性能減水剤の添加量)を選定する。
【0012】
モルタルフロー測定工程S4は、モルタルフローの伸びの量(フロー値)を測定する工程である。モルタルフローの伸びの量は、高性能減水剤調整工程において選定された配合のコンクリートから骨材を除いたモルタルについて、JISR5201で規定するモルタルフロー試験方法(打撃によるフローの変動の測定)により測定する。
コンクリート配合選定工程S5は、配合を選定する工程である。選定する配合は、モルタルフローの伸びの量が小さい配合とする。本実施形態では、選定された配合のコンクリートに対して、粉じん低減剤または消泡剤を添加して、吹付けコンクリートの最終的な配合を決定する。
【0013】
本実施形態の吹付けコンクリート配合選定方法によれば、モルタルフローの伸びの量が小さい配合を選定することで、粘性の高いコンクリートを選定できるので、はね返り率の低減化を図ることができる。そのため、実施工を行わずとも、室内試験(スランプ試験およびモルタルフロー試験)の計測結果から、はね返りの大小を評価することが可能となる。
また、モルタルフロー試験は、モルタルの打撃によるフローの伸びであることから、吹付による衝撃やそれに伴うはね返りの評価に適している。なお、モルタルフロー試験に使用する材料は、コンクリートからスクリーニングしたモルタルであってもよいし、コンクリート配合中の粗骨材を取り除いたモルタル配合により製造したモルタルであってもよい。
【0014】
以下、モルタルフローの大きさとはね返り率との関係を調べた実験結果を示す。
実験では、既にはね返り率が既知なコンクリート配合について、粘性とはね返り率との関係を把握する。測定には、コンクリートからスクリーニングしたモルタルと、粗骨材を除いた配合のモルタルを使用した。
表1に実験に使用した材料を示し、表2にコンクリートの配合を示す。さらに、表3におよび
図2に各配合のはね返り率と粉じん濃度を示す。なお、表2中、「FA-B」は、結合材としてのフライアッシュ(FA)であり、「FA-S」は、細骨材としてのフライアッシュ(FA)である。
図2に示すように、はね返り率をみると、N>N+NT>N+UG>N+NT+Dsの順となった。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
モルタルフロー試験は、JISR5201に準じて行うものとし、(1)フローコーンを抜いた後、5秒間に5回落下運動を与える、(2)フローコーンを抜いた後、10秒間に10回落下運動を与える、(3)フローコーンを抜いた後、15秒間に15回落下運動を与える、という3つのパターンについて測定を行った。
図3に、各配合のモルタルフローの試験結果を示す。
図3に示すように、モルタルフローの伸びをみると、N>N+NT>N+UG>N+NT+Dsの順となった。これは、
図2に示す実測の跳ね返り率と同様の順である。したがって、モルタルフローの伸びが小さい配合ほど、跳ね返り率が小さくなる配合であることが推測される。なお、モルタルフローは、打撃の度にフローが伸びる(フロー値が大きくなる)ことから、吹付けによる衝撃やそれに伴う跳ね返りを評価することに適していると考えられる。
【0019】
次に、本実施形態の吹付けコンクリートの配合選定方法の実施例を示す。実施例で使用する材料は、表1に示す材料とする。表4に、本実施例において選定された配合を示す。配合の選定は、以下の手順により行う。
まず、表1の配合Nを基本配合として、結合材量を決定する(結合材量決定工程S1)。
結合材量決定工程S1で決定した配合のコンクリートについて、JISA1101で規定するコンクリートのスランプ試験方法により測定したスランプが10cmになる単位水量を決定する(表4の配合N10参照)(単位水量決定工程S2)。
次に、高性能減水剤調整工程S3を行う。すなわち、配合N10のコンクリートに対して、スランプが18cmになるように、高性能減水剤の添加量を調整して配合NT18を設定する。また、配合N10のコンクリートに対して、スランプが21cmになるように、高性能減水剤の添加量を調整して配合NT21を設定する(表4参照)。
【0020】
【0021】
次に、表4に示す配合のコンクリートについて、モルタルフローの測定を行う(モルタルフロー測定工程S4)。測定結果を
図4に示す。
図4に示すように、モルタルフローの伸びは、N10>NT18>NT21となった。したがって、配合NT21が最もはね返りが少ない配合となる。よって、配合NT21を吹付けコンクリートのベースコンクリートの配合に採用する(コンクリート配合選定工程S5)。
【0022】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、単位水量決定工程S2で用いるスランプの目標値は限定されるものではなく、適宜決定すればよいが、7.5~10cmの範囲内とするのが望ましい。同様に、高性能減水剤調整工程S3で用いるスランプの目標値は限定されるものではなく、適宜決定すればよいが、18~23cmの範囲内とするのが望ましい。
結合材を構成する材料は、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュに限定されるものではなく、適宜他の材料を添加してもよいし、また、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュ以外の材料であってもよい。
また、結合材量も使用材料および吹付けコンクリートとして必要は強度に応じて適宜決定すればよい。
粉じん低減剤または消泡剤は、必要に応じて添加すればよい。
吹付けコンクリートの用途は限定されるものではなく、トンネルの他、斜面安定に用いてもよい。
【符号の説明】
【0023】
S1 結合材量決定工程
S2 単位水量決定工程
S3 高性能減水剤調整工程
S4 モルタルフロー測定工程
S5 コンクリート配合選定工程