IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 新潟大学の特許一覧

特開2024-3567膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003567
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20240105BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240105BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240105BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
G01N33/574 Z
G01N33/53 M
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102786
(22)【出願日】2022-06-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「標的細胞ホーミングペプチド創成技術による実効的なスキルス癌標的化PDCの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 英作
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】新規の膵癌細胞膜表面発現分子をバイオマーカーとして用いた、膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法を提供する。
【解決手段】膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法は、被験者由来の試料中のSLC45A4タンパク質又は該SLC45A4タンパク質をコードする核酸を検出することを含み、前記SLC45A4タンパク質又は前記核酸が検出された場合に、前記被験者が膵癌若しくは前立腺癌に罹患している、又は、罹患する可能性を有することを示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法であって、
被験者由来の試料中のSLC45A4タンパク質又は該SLC45A4タンパク質をコードする核酸を検出することを含み、
前記SLC45A4タンパク質又は前記核酸が検出された場合に、前記被験者が膵癌若しくは前立腺癌に罹患している、又は、罹患する可能性を有することを示す、方法。
【請求項2】
前記検出において、前記SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質を用いて、前記SLC45A4タンパク質を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質が、前記SLC45A4タンパク質に結合する抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質、又は、SLC45A4タンパク質をコードする核酸を増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを備える、膵癌又は前立腺癌の診断用試薬。
【請求項5】
前記SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質が、前記SLC45A4タンパク質に結合する抗体である、請求項4に記載の膵癌又は前立腺癌の診断用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
2018年9月に発表された国立がん研究センターの最新データでは、癌患者は毎年100万人を超え、死亡者数は40万人前後で推移しつつも増加傾向にあるとされている。癌罹患数予測では、2018年度膵癌患者は4万人(1位大腸癌15万人、2位胃癌12万人)であるが、膵癌死亡者予測数は3万5千人である。さらに、2020年3月の公開情報では全癌患者の10年生存率が全体で55%であるところ、膵癌では5年生存率5%と部位別で最低を記録しており、現行医療上の最難治癌となっている。膵癌の征圧は本邦のみならず全世界的にも癌医療における危急の最重要解決課題である。
【0003】
現行の原発性浸潤性膵管癌に対する治療には、外科手術と化学療法の2種類の方法がある。比較的早期であるステージ1及び2期の膵癌には摘出手術を行い、進行したステージ3及び4機の膵癌に対しては多剤併用(例えば、FOLFIRINOX等)やGemcitabine等による化学療法を行っている。
【0004】
一方、発明者は、これまで、独自に確立した改良型mRNA display技術により構築したランダムペプチド-ライブラリーから、標的とする細胞系に「選択的かつ高度にシフトした吸収」を発揮する生体低侵襲性オリゴペプチド(「ホーミングペプチド」と命名)を分離する技術を完成している。また、これを用いて、新規ヒト膵癌細胞ホーミングペプチドの獲得に成功している(例えば、特許文献1及び2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/086090号
【特許文献2】国際公開第2019/212031号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在の治療方法では、予後改善の兆しがみえない。また、膵癌の治療が十分な奏功を得られない理由の一つに、早期発見が難しく、大多数の症例で発見時には進行期膵癌として手術適応外或いは癌の正確な浸潤範囲(浸潤領域)の同定が難しく、摘出後の再発が高頻度で起こること、さらに他臓器(肝や肺等)への転移巣を形成した症例となっていることが挙げられる。これは、膵癌の検査及び診断、さらには治療への応用において、膵癌患者症例に広く適用可能な汎用的、網羅的且つ実効的なバイオマーカーが発見されていないためである。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規の膵癌細胞膜表面発現分子をバイオマーカーとして用いた、膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法であって、
被験者由来の試料中のSLC45A4タンパク質又は該SLC45A4タンパク質をコードする核酸を検出することを含み、
前記SLC45A4タンパク質又は前記核酸が検出された場合に、前記被験者が膵癌若しくは前立腺癌に罹患している、又は、罹患する可能性を有することを示す、方法。
(2) 前記検出において、前記SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質を用いて、前記SLC45A4タンパク質を検出する、(1)に記載の方法。
(3) 前記SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質が、前記SLC45A4タンパク質に結合する抗体である、(2)に記載の方法。
(4) SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質、又は、SLC45A4タンパク質をコードする核酸を増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを備える、膵癌又は前立腺癌の診断用試薬。
(5) 前記SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質が、前記SLC45A4タンパク質に結合する抗体である、(4)に記載の膵癌又は前立腺癌の診断用試薬。
【発明の効果】
【0009】
上記態様の方法及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬は、膵癌又は前立腺癌の診断に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】SLC45A4タンパク質のバリアント1の全長遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列とSLC45A4タンパク質のバリアント1のショート遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を比較した図である。
図2】実施例1における膵癌細胞ホーミングペプチドを用いた取り込み制御分子の同定法のプロトコルを示す図である。
図3】実施例1における各候補分子の発現に用いたpEF1/Myc-Hisベクターの概略構成図である。
図4】実施例1における免疫沈降(IP)法の結果を示す図である。
図5A】実施例2におけるヒト膵癌細胞での膵癌細胞ホーミングペプチドの取り込み試験の結果を示す画像(左:明視野像、右:蛍光像)である。
図5B】実施例2におけるヒト膵癌細胞及びヒト前立腺癌細胞での膵癌細胞ホーミングペプチドの取り込み試験の結果を示す画像である。
図6】実施例3におけるトランスフェクションしたSLC45A4タンパク質(上段の画像)及びヒトSLC45A4の細胞内領域を特異的に認識するウサギポリクロナル抗体を用いた内因性SLC45A4タンパク質(下段の画像)のヒト膵癌細胞での局在を示す蛍光免疫染色像である。
図7】実施例4における膵癌患者由来の浸潤性膵管癌組織でのヒトSLC45A4の細胞内領域を特異的に認識するウサギポリクロナル抗体を用いた免疫組織化学染色像である。
図8】実施例4におけるヒト正常組織でのSLC45A4タンパク質の局在を示す免疫染色像である。
図9A】実施例4における膵癌患者由来の膵癌組織及び正常膵臓組織でのSLC45A4タンパク質の局在を示す免疫染色像である。
図9B】実施例4における前立腺癌患者由来の前立腺癌でのSLC45A4タンパク質の局在を示す免疫染色像である。
図10】実施例5における膵癌患者由来の膵癌原発巣及び転移巣でのSLC45A4タンパク質の局在を示す免疫染色像である。
図11】実施例5における膵癌以外のその他の癌患者由来の各種癌組織でのSLC45A4タンパク質の局在を示す免疫染色像である。
図12】実施例6における膵癌患者由来の膵癌組織及び膵癌以外のその他の癌患者由来の各種癌組織でのSLC45A4タンパク質の局在を示す蛍光免疫染色像である。
図13】実施例7における膵癌患者由来の膵癌組織でのSLC45A4タンパク質及びトランスフェリン受容体(CD71)の局在を示す蛍光免疫染色像である。
図14】実施例7におけるヒト正常腎臓組織でのSLC45A4タンパク質及びトランスフェリン受容体(CD71)の局在を示す蛍光免疫染色像である。
図15】実施例8における膵癌患者由来の膵癌組織でのSLC45A4タンパク質及びE-cadherinの局在を示す蛍光免疫染色像である。
図16】実施例8における膵癌患者由来の膵癌組織でのSLC45A4タンパク質及びEpCAM(CD326)の局在を示す蛍光免疫染色像である。
図17】実施例9における膵癌モデルマウスの腫瘍組織でのSLC45A4の局在を示す蛍光免疫染色像である。
図18】実施例10におけるヒト膵癌細胞及びヒト前立腺癌細胞でのSLC25A53遺伝子の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法、及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬について、詳細を説明する。
【0012】
なお、本明細書において、「膵癌」とは、膵臓から発生した腫瘍を意味し、膵臓癌とも言う。
膵臓は、膵液を産生する腺房、膵液を運ぶ膵管、及び内分泌腺であるランゲルハンス島等からなっており、癌はいずれの組織からも発生しうるが、それぞれ全く異なる性質を示す腫瘍となる。膵癌の種類としては、例えば、浸潤性膵管癌、膵内分泌腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、腺房細胞癌、漿液性嚢胞腺癌、転移性膵癌等が挙げられる。中でも、浸潤性膵管癌は膵臓にできる腫瘍性病変の80%以上90%以下程度を占めている。
【0013】
また、本明細書において、「前立腺癌」とは、前立腺から発生した腫瘍を意味する。
【0014】
本実施形態の膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法(以下、単に「本実施形態の方法」と称する場合がある)、及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬(以下、単に「本実施形態の試薬」と称する場合がある)の適用対象としては、SLC45A4、又は、SLC45A4及びSLC25A53を発現する細胞を有する動物種であればよく、例えば、ヒト、サル、マーモセット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の哺乳動物が挙げられ、中でも、ヒトが好ましい。
【0015】
<SLC45A4及びSLC25A53>
SLC45A4(Solute Carrier Family 45 Member 4)は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン(12回貫通)、細胞内ドメインを有する受容体-輸送体分子である。これまで、SLC45A4は、酵母において輸送体(トランスポーター)として働き、塩や糖の取り込みに関連していると報告されているが(例えば、参考文献1:「Bartolke R et al., “Proton-associated sucrose transport of mammalian solute carrier family 45: an analysis in Saccharomyces cerevisiae.”, Biochem J., Vol. 464, Issue 2, pp. 193-201, 2014.」参照)、ヒト細胞における具体的な機能はほとんど報告されていない。
【0016】
SLC25A53(Solute Carrier Family 25 Member 53)は、主にミトコンドリア内膜に局在するSLC25ファミリーメンバーであり、約100アミノ酸ドメインの3つのタンデムリピートを有し、該リピートには2つの膜貫通αヘリックスとシグネチャー配列モチーフを有すると推定されている。しかしながら、SLC25A53のヒト細胞における具体的な機能はほとんど報告されていない。
【0017】
これらのタンパク質について、ヒト組織、特に浸潤性膵管癌組織や前立腺癌組織、特にGleason score3以上の分化度の前立腺癌における腫瘍細胞上での発現の有無や強弱、細胞内局在についての具体的な報告は未だ存在しない。発明者は、後述する実施例に示すように、発明者が開発した膵癌細胞ホーミングペプチドの結合分子として、SLC45A4及びSLC25A53を同定した。また、発明者は、後述する実施例に示すように、膵癌患者由来の腫瘍組織において浸潤及び転移巣を含めてSLC45A4が非常に広範に膵癌細胞膜上に発現していることを今回初めて明らかにし、本発明を完成するに至った。また、発明者は、後述する実施例に示すように、前立腺癌患者由来の腫瘍組織においてSLC45A4が非常に広範に前立腺癌細胞膜上に発現していることを今回初めて明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0018】
また、後述する実施例に示すように、SLC45A4は、正常細胞や膵癌及び前立腺癌以外の癌細胞の細胞膜上や細胞内での発現は極めて低い。従って、SLC45A4は、膵癌及び前立腺癌を特異的に検出するためのマーカーとして非常に有用である。
【0019】
[SLC45A4]
ヒトSLC45A4のアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号XP_016869137.1、XP_011515480.1、NP_001273577.1、XP_011515473.1、XP_011515476.1、XP_011515479.1、XP_011515471.1、XP_011515481.1、NP_001073900.1、XP_011515474.1、XP_016869139.1、XP_011515472.1、NP_001273575.1、XP_011515475.1、XP_011515478.1、XP_016869138.1に開示されている。ヒトSLC45A4のバリアント1の全長遺伝子(SLC45A4 v1 full length gene)がコードするタンパク質のアミノ酸配列として具体的には、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。ヒトSLC45A4のバリアント1のショート遺伝子(SLC45A4 short)がコードするタンパク質のアミノ酸配列として具体的には、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
【0020】
ヒトSLC45A4をコードする塩基配列は、Genbankアクセッション番号XM_011517179.2、NM_001286646.2、XM_011517176.2、XM_011517173.2、XM_017013649.1、XM_011517170.2、XM_011517171.2、XM_017013650.2、XM_017013648.1、XM_011517172.2、XM_011517177.2、NM_001080431.2、XM_011517174.2、NM_001286648.1に開示されている。ヒトSLC45A4のバリアント1の全長遺伝子の塩基配列として具体的には、例えば、配列番号3で表される塩基配列等が挙げられる。ヒトSLC45A4のバリアント1のショート遺伝子の塩基配列として具体的には、例えば、配列番号4で表される塩基配列等が挙げられる。
【0021】
本明細書において、SLC45A4タンパク質とは、全長タンパク質及びその断片の両方を含む。断片とは、SLC45A4タンパク質の任意の領域を含むポリペプチドであり、天然のSLC45A4タンパク質の機能を有していなくてもよい。断片の例として、SLC45A4タンパク質の細胞外領域を含む断片が挙げられる。
【0022】
例えば、ヒトSLC45A4のバリアント1の全長遺伝子がコードするタンパク質の細胞外領域は、配列番号1で表されるアミノ酸配列において83番目のアミノ酸から86番目のアミノ酸までの領域(配列番号5:PEQY)、145番目のアミノ酸から153番目のアミノ酸までの領域(配列番号6:LALGDVPNR)、217番目のアミノ酸から230番目のアミノ酸までの領域(配列番号7:DWTQTFLGSWFRTQN)、534番目のアミノ酸から559番目のアミノ酸までの領域(配列番号8:GQVIFEGDPKAPSNSTAWQAYNAGVK)、615番目のアミノ酸から617番目のアミノ酸までの領域(配列番号9:YVA)、680番目のアミノ酸から693番目のアミノ酸までの領域(配列番号10:SALGGVVDAVGTVR)に相当する。
【0023】
或いは、膜貫通領域は配列番号1で表されるアミノ酸配列において60番目から82番目までの領域(配列番号11:FGREFCYAMETALVTPILLQIGL)、87番目から109番目までの領域(配列番号12:YSLTWFLSPILGLIFTPLIGSAS)、122番目から144番目までの領域(配列番号13:FILALCVGVLFGVALFLNGSAIG)、154番目から173番目までの領域(配列番号14:RQPIGIVLTVLGVVVLDFSADAT)、194番目から216番目までの領域(配列番号15:MALNIHAFSAGLGGAIGYVLGGL)、231番目から253番目までの領域(配列番号16:QVLFFFAAIIFTVSVALHLFSID)、511番目から533番目までの領域(配列番号17:LCLCHLLTWFSVIAEAVFYTDFM)、560番目から579番目までの領域(配列番号18:MGCWGLVIYAATGAICSALL)、592番目から614番目までの領域(配列番号19:VIYVLGTLGFSVGTAVMAMFPNV)、618番目から640番目までの領域(配列番号20:MVTISTMGIVSMSISYCPYALLG)、660番目から679番目までの領域(配列番号21:FGIDCAILSCQVYISQILVA)、及び694番目から716番目までの領域(配列番号22:VIPMVASVGSFLGFLTATFLVIY)が相当する。
【0024】
例えば、ヒトSLC45A4のバリアント1のショート遺伝子がコードするタンパク質の細胞外領域は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において27番目のアミノ酸から28番目のアミノ酸までの領域(配列番号23:EQ)、87番目のアミノ酸から97番目のアミノ酸までの領域(配列番号24:GLALGDVPNRQ)、160番目のアミノ酸から175番目のアミノ酸までの領域(配列番号25:DWTQTFLGSWFRTQNQ)、482番目のアミノ酸から502番目のアミノ酸までの領域(配列番号26:EGDPKAPSNSTAWQAYNAGVK)、556番目のアミノ酸(配列番号27:N)、630番目のアミノ酸から637番目のアミノ酸までの領域(配列番号28:DAVGTVRV)に相当する。
【0025】
或いは、膜貫通領域は配列番号2で表されるアミノ酸配列において6番目から26番目までの領域(配列番号29:EFCYAMETALVTPILLQIGLP)、29番目から49番目までの領域(配列番号30:YYSLTWFLSPILGLIFTPLIG)、67番目から86番目までの領域(配列番号31:LALCVGVLFGVALFLNGSAI)、98番目から118番目までの領域(配列番号32:PIGIVLTVLGVVVLDFSADAT)、139番目から159番目までの領域(配列番号33:LNIHAFSAGLGGAIGYVLGGL)、176番目から196番目までの領域(配列番号34:VLFFFAAIIFTVSVALHLFSI)、461番目から481番目までの領域(配列番号35:TWFSVIAEAVFYTDFMGQVIF)、503番目から523番目までの領域(配列番号36:MGCWGLVIYAATGAICSALLQ)、535番目から555番目までの領域(配列番号37:VIYVLGTLGFSVGTAVMAMFP)、557番目から577番目までの領域(配列番号38:VYVAMVTISTMGIVSMSISYC)、609番目から629番目までの領域(配列番号39:ILSCQVYISQILVASALGGVV)、及び638番目から658番目までの領域(配列番号40:IPMVASVGSFLGFLTATFLVI)が相当する。
【0026】
ヒトSLC45A4のバリアント1の全長遺伝子及びショート遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列における細胞外領域及び膜貫通領域は、TMHMM-2.0膜貫通ヘリックス予測プログラム:(https://services.healthtech.dtu.dk/service.php?TMHMM-2.0)を用いて予測されたものである。
【0027】
図1は、SLC45A4タンパク質のバリアント1の全長遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)とSLC45A4タンパク質のバリアント1のショート遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)を比較した図である。図1に示すように、これらの膜タンパク質における細胞外領域は、ほぼ同一のアミノ酸配列からなっている。
【0028】
また、ヒトSLC45A4の他のバリアントのアミノ酸配列における細胞外領域及び膜貫通領域は、例えば、SOSUI、TMHMM(Transmembrane Hidden Markov Model)、KD5、KD9、ALOM2、HMMTOP、Eisenberg、PHD、KKD、TMAP、TMPred、MEMSAT、Toppred、DAS等の公知のバイオインフォマティクスツールを用いることで予測することができる。
【0029】
[SLC25A53]
ヒトSLC25A53のアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号NP_001012773.2、XP_005262186.1、XP_011529255.1、XP_011529254.1に開示されている。ヒトSLC45A4の全長遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列として具体的には、例えば、配列番号41で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
【0030】
ヒトSLC25A53をコードする塩基配列は、Genbankアクセッション番号NM_001012755.5、XM_005262129.6、XM_011530953.4、XM_011530952.4に開示されている。ヒトSLC45A4の全長遺伝子の塩基配列として具体的には、例えば、配列番号42で表される塩基配列等が挙げられる。
【0031】
本明細書において、ヒトSLC25A53タンパク質とは、全長タンパク質及びその断片の両方を含む。断片とは、ヒトSLC25A53タンパク質の任意の領域を含むポリペプチドであり、天然のヒトSLC25A53タンパク質の機能を有していなくてもよい。
【0032】
<膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法>
本実施形態の方法は、膵癌、好ましくは浸潤性膵管癌、又は前立腺癌の診断を補助する方法であり、被験者由来の試料中のSLC45A4タンパク質又は該SLC45A4タンパク質をコードする核酸を検出すること(以下、「検出工程」と称する場合がある)を含む。
【0033】
本実施形態の方法において、前記SLC45A4タンパク質又は前記核酸が検出された場合、好ましくは前記SLC45A4タンパク質の発現が腫瘍細胞膜上に検出された場合、又は、前記核酸、好ましくはSLC45A4のmRNAが有意な量で発現している場合に、前記被験者が膵癌若しくは前立腺癌に罹患している、又は、罹患する可能性を有することを示す。
【0034】
本実施形態の方法は、膵癌(好ましくは膵原発浸潤性膵管癌)又は前立腺癌の早期診断、確定診断、進展範囲の詳細な把握による精密診断に有効である。
【0035】
本実施形態の方法の工程について、以下に詳細を説明する。
【0036】
[検出工程]
検出工程では、被験者由来の試料中のSLC45A4タンパク質又は該SLC45A4タンパク質をコードする核酸を検出する。
【0037】
試料としては、被験者から採取されたものであればよく、膵臓組織及び前立腺組織に限定されず、その他の転移が疑われる組織(例えば、肝臓や肺等)から採取されたものも用いることができる。具体的には、例えば、外科的摘出組織又は生検採取組織の固定後の薄切切片、未固定新鮮組織の凍結薄切切片、さらに採取組織をほぐして得られる細胞塗抹標本及びその初代培養細胞により同様に得られる標本等が挙げられる。特に、被験者由来の新鮮生細胞又は生組織に直接SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質を接触させる場合には、その細胞膜上又は細胞内への該物質の結合の有無を検出することで、膵癌又は前立腺癌の迅速判定を行うことができる。この迅速判定は、膵癌又は前立腺癌の術中迅速病理診断ということもできる。当該迅速判定を行う場合には、SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質としては、SLC45A4タンパク質の細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体を用いることが好ましい。
【0038】
なお、本明細書において、「被験者」としては、検査に供される者、すなわち被験試料を提供する者を指す。被験者は、何らかの疾患を有する患者又は健常者のいずれであってもよい。好ましくは、膵癌又は前立腺癌の疑いのある者、膵癌又は前立腺癌の罹患経験のある者、膵癌患者又は前立腺癌患者等が挙げられる。
【0039】
検出工程において、試料中のSLC45A4タンパク質を検出することが好ましい。SLC45A4の細胞膜内領域を検出してもよく、細胞外領域を検出してもよいが、SLC45A4の細胞外領域を検出することがより好ましい。
また、SLC45A4タンパク質の検出は、SLC45A4タンパク質に結合する抗体を用いて行なわれることが好ましい。SLC45A4タンパク質に結合する抗体は、SLC45A4タンパク質の細胞膜内領域に含まれるエピトープに結合する抗体であってもよく、細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体であってもよいが、SLC45A4タンパク質の細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体がより好ましい。
【0040】
本実施形態の方法において、検出には、定量的又は定性的な検出が含まれる。例えば、定性的な検出としては、次のような測定等が挙げられる。
1)単にSLC45A4タンパク質又は該タンパク質をコードする核酸(好ましくはSLC45A4タンパク質)、が(好ましくは、細胞膜上に)存在するか否かの測定;
2)SLC45A4タンパク質又は該タンパク質をコードする核酸(好ましくはSLC45A4タンパク質)が一定の量以上(好ましくは、細胞膜上に)存在するか否かの測定;
3)(好ましくは、細胞膜上に存在する)SLC45A4タンパク質又は該タンパク質をコードする核酸(好ましくはSLC45A4タンパク質)の量を対照と比較する測定;
【0041】
なお、本実施形態の方法において、対照とは、比較の基準となる試料をいい、陰性コントロールや健常者の生体試料が含まれる。陰性コントロールは、健常者の生体試料を採取し、必要に応じて混合することによって得ることができる。対照のSLC45A4の発現レベルは、被験者の生体試料におけるSLC45A4の発現レベルと平行して検出することができる。或いは、予め、多数の健常者の生体試料におけるSLC45A4の発現レベルを検出し、健常者における標準的な発現レベルを統計学的に決定することができる。具体的には、たとえば、平均値±2×標準偏差(S.D.)、或いは平均値±3×標準偏差(S.D.)を標準値として用いることもできる。統計学的に、平均値±2×標準偏差(S.D.)は80%の、また平均値±3×標準偏差(S.D.)は90%の健常者の値を含む。
【0042】
或いは、対照におけるSLC45A4の発現レベルを、ROC曲線を利用して設定することができる。ROC曲線(receiver operating characteristic curve;受信者操作特性曲線)は、縦軸に検出感度を、横軸に擬陽性率(すなわち“1-特異度”)を示すグラフである。本実施形態の方法において、試料中のSLC45A4の発現レベルを判定するための基準値を連続的に変化させたときの、感度と擬陽性率の変化をプロットすることによって、ROC曲線を得ることができる。
【0043】
なお、ROC曲線を得るための「基準値」は、統計学的な解析のために一時的に利用される数値である。ROC曲線を得るための「基準値」は、一般的には、選択しうる全ての基準値をカバーできる範囲内で、連続的に変化させられる。例えば、解析される集団のSLC45A4の測定値の最小値と最大値の間で、基準値を変化させることができる。
【0044】
得られたROC曲線に基づいて、所望の検出感度、並びに精度を期待できる標準値を選択することができる。ROC曲線等によって統計学的に設定された標準値は、カットオフ値(cut-off value)とも呼ばれる。カットオフ値に基づく膵癌又は前立腺癌の検出方法においては、検出されたSLC45A4の発現レベルが、カットオフ値と比較される。次いで、カットオフ値よりも検出されたSLC45A4の発現レベルが高いときに、被験者の膵癌又は前立腺癌が検出される。
【0045】
一方、定量的な検出としては、(好ましくは、細胞膜上に存在する)SLC45A4タンパク質の濃度の測定、(好ましくは、細胞膜上に存在する)SLC45A4タンパク質の量の測定、SLC45A4タンパク質をコードする核酸の量の測定等が挙げられる。
【0046】
検出工程において、SLC45A4タンパク質の検出方法としては、例えば、ウエスタンブロッティング法、ラジオイムノアッセイ(RIA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、発光イムノアッセイ(LIA)、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法、CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immuno Assay)法(化学発光酵素免疫測定法)、免疫沈降法(IP)、免疫比濁法(TIA)、免疫組織学的染色法(IHC)、酵素組織化学的染色、免疫拡散法(SRID)等の免疫学的方法が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、SLC45A4タンパク質の検出には、免疫組織学的染色法(IHC)が、膵癌又は前立腺癌の診断方法として好ましい免疫学的アッセイ法の一つである。すなわち、SLC45A4は、膵癌細胞又は前立腺癌細胞の細胞膜上において特異的に発現が増強している膜タンパク質であることから、抗SLC45A4抗体(好ましくは、SLC45A4タンパク質の細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体)によって、膵癌細胞若しくは膵癌組織、又は、前立腺癌細胞若しくは前立腺癌組織を検出することができる。
【0048】
ウエスタンブロッティング法は、例えば、試料からをアクリルアミドゲル電気泳動によりSLC45A4タンパク質を分離し、これをメンブランに転写し、SLC45A4タンパク質を認識する抗体(一次抗体)と反応させ、目的タンパク質と結合していない一次抗体を洗浄等により除去した後、生成した目的タンパク質(SLC45A4タンパク質)と一次抗体との免疫複合体を、標識した二次抗体を用いて検出する方法である。生成した免疫複合体と結合した標識二次抗体の標識量を測定することにより、存在するSLC45A4タンパク質の量を測定できる。
【0049】
二次抗体の標識物質が酵素である場合には、酵素による基質の分解物の量を測定する方法や、標識物質が蛍光物質である場合には、蛍光強度を測定する方法等、標識物質の種類に応じた公知の方法を適宜選択して用いて検出することができる。より具体的には、例えば、通常の光学顕微鏡又は蛍光顕微鏡を用いる方法、共焦点レーザー顕微鏡を用いる方法、個細胞レベルに単離した検体でのSLC45A4タンパク質の細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体を用いたフローサイトメトリー(FACS)法等が挙げられる。
【0050】
免疫組織学的染色法は、スライドガラス上に固定された組織切片や細胞等を、SLC45A4タンパク質を認識する抗体と反応させて免疫複合体を生成させ、目的タンパク質(SLC45A4タンパク質)と結合していない一次抗体を洗浄等により除去した後、免疫複合体と結合した標識二次抗体により検出するものであり、組織や細胞における目的タンパク質(SLC45A4タンパク質)の発現部位を解析するのに有効である。
【0051】
検出工程において用いられるSLC45A4タンパク質を認識する抗体の詳細については後述する。
【0052】
標識物質としては、例えば放射性同位元素、酵素、蛍光物質、ビオチン/アビジン等が挙げられる。これらの標識物質は市販の標識物質を使用することができる。
【0053】
放射性同位元素しては、例えば32P、33P、131I、125I、H、14C、35S等が挙げられる。
【0054】
酵素としては、例えばアルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ等が挙げられる。酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3’-diaminobenzidine(DAB)、3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine(TMB)、o-phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリフォスファターゼの場合、p-nitropheny phosphase(NPP)等を用いることができる。
【0055】
蛍光物質としては、例えば公知の量子ドット、インドシアニングリーン(ICG)、プロトポルフィリン、ポリフィリン類縁体(フォトフリン、レザフィリン等の光増感剤)、5-アミノレブリン酸(5-ALA;代謝産物プロトポルフィリンIX(PP IX))、近赤外蛍光色素(例えば、Cy5.5、Cy7、AlexaFluoro、ローダミン等)、その他公知の蛍光色素(例えば、GFP、FITC(Fluorescein)、TAMRA等)等が挙げられる。
これらは市販のものを入手することができ、公知の方法によって標識される。
【0056】
免疫組織学的染色法において、組織を固定する場合には、公知の方法を適宜使用でき、例えばPFA-AMeX-Paraffin法を用いることができる。被験者から採取された試料(凍結又は未凍結の臓器、組織又は細胞)をまずPFA液で固定する。PFA液とはパラホルムアルデヒドの1v/v%以上6v/v%以下程度の濃度の水溶液にリン酸緩衝液等の緩衝液を加えた細胞固定溶液であり、好ましくは4v/v%PFA固定液(4v/v%パラホルムアルデヒド/0.01M PBS(Phosphate-Buffered Saline)(pH7.4))を用いる。PFA固定液による固定は、目的とする臓器又は組織を1v/v%以上6v/v%以下、好ましくは4v/v%のパラホルムアルデヒドを含むPFA固定液に、0℃以上8℃以下、好ましくは約4℃の温度で、2時間以上40時間以下、好ましくは6時間以上30時間以下浸漬することにより行うことができる。次いで、固定した臓器又は組織をリン酸緩衝食塩水等で洗浄する。このとき、観察したい臓器又は組織の部分を切り出した後、洗浄してもよい。
【0057】
このようにして調製した臓器又は組織を次にAMeX法でパラフィン包埋を行う。AMeX法は、冷アセトン固定、アセトンによる脱水、安息香酸メチルとキシレンによる透徹及びパラフィン包埋を一連の操作とする、パラフィン包埋法である。具体的には、-25℃以上8℃以下、好ましくは-20℃以上6℃以下のアセトンに2時間以上24時間以下、好ましくは4時間以上16時間以下浸漬し、次に組織を入れたアセトンを室温に戻す、或いは室温のアセトンに臓器又は組織を移した後、室温で0.5時間以上5時間以下、好ましくは1時間以上4時間以下脱水する。次に、安息香酸メチル中に室温で0.5時間以上3時間以下、好ましくは0.5時間以上2時間以下浸漬、キシレン中に室温で0.5時間以上3時間以下、好ましくは0.5時間以上2時間以下浸漬して透徹を行い、その後55℃以上65℃以下、好ましくは58℃以上62℃以下のパラフィンに1時間以上4時間以下、好ましくは1時間以上3時間以下浸透して包埋する。このようにしてPFA-AMeX法で得られた臓器又は組織のパラフィンブロックは使用時まで低温で保存する。
【0058】
使用時には、上記で得られたパラフィンブロックを、ミクロトーム等を用いて薄切切片を作製し、さらに薄切切片の脱パラフィン及び親水化を行う。脱パラフィン及び親水化は公知の方法により実施することができる。例えば、脱パラフィンはキシレン、トルエンにより実施し、また親水化はアルコール、アセトンにより実施することができる。
【0059】
組織染色(特殊染色)する場合には、通常のパラフィン包埋切片で可能な染色であれば、いずれの染色方法も使用することができる。具体的には、例えば、PAS染色、ギムザ染色、トルイジンブルー染色等が挙げられる。
【0060】
酵素組織化学的染色としては、例えば、ALP、ACP、TRAP、エステラーゼ等の種々の染色が挙げられる。
【0061】
また、病理組織を染色するには、核染色として、ヘマトキシリン-エオジン(Hematoxylin-Eosin)染色;膠原線維用として、ワン・ギーソン(Van Gieson)染色、アザン(Azan)染色、マッソントリクローム(Masson Trichrome)染色;弾性線維用として、ワイゲルト(Weigert)染色、エラスチカワンギーソン(Elastica Van Gieson)染色;細網線維・基底膜用として、渡辺の鍍銀染色、PAM染色(Periodic acid methenamine silver stain)等を用いることができる。
【0062】
SLC45A4タンパク質をコードする核酸としては、DNA、RNAが挙げられる。RNAとしては、マイクロRNA、siRNA、tRNA、snRNA、mRNA、又はノンコーディングRNA等が挙げられる。例えば、SLC45A4のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、又はRT-PCR法を実施することによってSLC45A4遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、SLC45A4の発現レベルを測定することも可能である。
【0063】
このような検出方法には、SLC45A4の既知の塩基配列情報に基づいて作製したプローブやプライマー、又はそれらを組み合わせて用いることができる。プライマーの詳細については後述する。
【0064】
本実施形態の方法において、試料中に(好ましくは、細胞膜上に存在する)SLC45A4タンパク質が検出された場合に、そのレベルを指標として膵癌(好ましくは、浸潤性膵管癌)又は前立腺癌が診断される。
【0065】
例えば、膵原発腺癌(特に、浸潤性膵管癌)に罹患していることを判定する基準としては、膵臓又は肝や肺等の転移巣から採取された組織又は細胞検体において、抗SLC45A4抗体との接触によりSLC45A4タンパクの発現が細胞膜局在を示した場合に、膵原発腺癌(膵由来腺癌)と判定することができる。細胞膜局在の検出は、抗SLC45A4抗体と他の膜局在分子(E-cadherin、EpCAM、Tranferrin receptor等、広汎に上皮系細胞膜上に発現している受容体分子や接着分子等、細胞膜発現又は細胞膜外発現分子)との二重免疫組織化学染色や蛍光二重免疫染色法を実施し、両分子の発現パターンの一致を分析することにより細胞膜局在を確認することも可能である。
【0066】
或いは、例えば、健常者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量と比較して、被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量が有意に高い場合には、被験者が膵癌又は前立腺癌に罹患している可能性が高いと判定することができる。一方で、健常者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量と比較して、被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量が同程度又は有意に低い場合には、被験者が膵癌又は前立腺癌に罹患している可能性が低いと判定することができる。
【0067】
或いは、例えば、経時的に被験者の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を測定している場合に、前回の測定時の被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量と比較して、被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量が有意に高い場合に、被験者において膵癌又は前立腺癌が進行している可能性が高いと判定することができる。一方で、前回の測定時の被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量と比較して、被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量が同程度又は有意に低い場合には、被験者において膵癌又は前立腺癌が進行している可能性が低いと判定することができる。
【0068】
或いは、例えば、被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量が、予め設定された基準値超である場合に、被験者が膵癌又は前立腺癌に罹患している可能性があると判定することができる。一方で、被験者での(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量が、予め設定された基準値以下である場合には、被験者が膵癌又は前立腺癌に罹患していない可能性があると判定することができる。
【0069】
当該基準値は、例えば、膵癌患者群と非患者群の膵癌組織試料中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を測定し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。
【0070】
或いは、例えば、前立腺癌患者群と非患者群の前立腺癌組織試料中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を測定し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。
【0071】
本実施形態における膵癌組織試料中又は前立腺癌組織試料中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量の基準値の決定方法としては特に限定されず、例えば、一般的な統計学的手法を用いて決定することができる。
【0072】
基準値の決定方法として具体的には、例えば、一般的に行われている内視鏡検査やPET検査等の方法によって膵癌患者であると診断されている患者について、採取された膵生検中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を測定する。複数の患者について測定した後に、その平均値又は中央値等からこれらの膵癌組織試料中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を算出し、これが含まれる数値を基準値とすることができる。
【0073】
或いは、例えば、一般的に行われている直腸内触診検査や画像検査(経直腸的超音波(エコー)検査、前立腺MRI検査)等の方法によって前立腺癌患者であると診断されている患者について、採取された前立腺生検中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を測定する。複数の患者について測定した後に、その平均値又は中央値等からこれらの前立腺癌組織試料中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を算出し、これが含まれる数値を基準値とすることができる。
【0074】
また、複数の膵癌患者と複数の非膵癌患者に対して、それぞれ採取された膵生検中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を測定し、平均値又は中央値等から膵癌患者群及び非膵癌患者群の膵癌組織試料中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量とそのばらつきをそれぞれ算出した後、ばらつきも考慮して両数値が区別されるような閾値を求めて、これを基準値とすることができる。
【0075】
また、複数の前立腺癌患者と複数の非前立腺癌患者に対して、それぞれ採取された前立腺生検中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量を測定し、平均値又は中央値等から前立腺癌患者群及び非前立腺癌患者群の前立腺癌組織試料中の(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(又はSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量とそのばらつきをそれぞれ算出した後、ばらつきも考慮して両数値が区別されるような閾値を求めて、これを基準値とすることができる。
【0076】
また、膵癌又は前立腺の進行度と、(好ましくは細胞膜上における)SLC45A4タンパク質(若しくはSLC45A4タンパク質をコードする核酸)の発現量とに相関がある場合には、膵癌又は前立腺の進行度に合わせた基準値を設定することで、被験者の膵癌又は前立腺の進行又は悪性の程度を判定することができる。
【0077】
本実施形態の方法は、例えば膵癌又は前立腺癌の診断、膵癌患者又は前立腺癌患者の選別、薬剤(医薬組成物)の有効性の予見や有効性の確認、治療のモニタリング、膵癌又は前立腺癌のイメージングに用いることができる。
【0078】
[他の実施形態]
他の実施形態において、生体内の膵癌組織又は前立腺癌組織をSLC45A4に特異的に結合する物質(好ましくは抗SLC45A4抗体、より好ましくはSLC45A4タンパク質の細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体)によって検出することもできる。すなわち、一実施形態において、本発明は、以下の工程を含む、膵癌又は前立腺癌の検出方法を提供する。
(1)放射性同位元素等の標識物質で標識された、SLC45A4に特異的に結合する物質を被験者に投与する工程;
(2)該標識物質の集積を検出する工程。
【0079】
生体内に投与した特異的結合物質を追跡するために、特異的結合物質は、検出可能に標識することができる。例えば、蛍光物質や発光物質、或いは放射性同位元素で標識された特異的結合物質の生体における挙動を追跡することができる。蛍光物質や発光物質で標識された特異的結合物質は、内視鏡や腹腔鏡を利用して観察することができる。放射性同位元素は、その放射活性を追跡することによって、抗体の局在を画像化することができる。本実施形態の検出方法において、生体内における特異的結合物質(好ましくはSLC45A4に特異的に結合する物質)の局在(好ましくは細胞膜局在)は、膵癌細胞又は前立腺癌細胞の存在を表している。すなわち、本実施形態の検出方法を用いることで、膵癌又は前立腺癌の拡がり(浸潤範囲)を正確に把握することができる。膵癌は、後腹膜臓器であり、進行すると十二指腸、胃、腹膜、腹腔神経叢にまで沁み拡がることが知られている。しかしながら、従来では、実際にどこまで膵癌の浸潤が拡がっているのか正確に把握することができず、手術で完全に切除及び摘出することが極めて難しいことから、再発率が高いことが課題となっている。これに対して、本実施形態の検出方法によれば、例えば、外科医が、手術中に被験者の体内に標識物質で標識された、SLC45A4に特異的に結合する物質を静脈注射、腫瘍血管への局所注入、腹腔内腫瘍への直接の散布等の方法で投与し、可視化する(術中イメージング)ことができる。或いは、例えば、肉眼で腫瘍の進展範囲を決める組織サンプリング等を行う際の判定方法としても活用することができる。
【0080】
生体内の癌を検出するために特異的結合物質を標識する放射性同位元素として、陽電子放出核種を利用することができる。例えば55Co、64Cu、66Ga、68Ga、76Br、89Zr、124I等の陽電子放出核種で抗体を標識することができる。これらの陽電子放出核種による抗SLC45A4抗体の標識には、公知の方法を利用することができる。
【0081】
陽電子放出核種で標識された特異的結合物質がヒトや動物に投与された後に、PET(ポジトロン断層撮影装置)により、その放射性核種が放射する放射線が体外から計測され、コンピュータートモグラフィーの手法で画像に変換される。PETは、薬物の体内挙動などに関するデータを非侵襲的に得るための装置である。PETによって、放射強度をシグナル強度として定量的に画像化することができる。上記のようにPETを使用することによって、患者から試料を採取することなく特定の癌で高発現する抗原分子が検出できる。特異的結合物質は、上記の核種の他に11C、13N、15O、18F、45Ti等の陽電子放出核種を用いた短寿命核種によって放射性標識することもできる。
【0082】
医療用サイクロトロンによる上記核種を用いた短寿命核種の生産、短寿命放射性標識化合物の製造技術等に関する研究開発が進められている。これらの技術により特異的結合物質が種々の放射性同位元素によって標識することができる。患者に投与された特異的結合物質は、各部位の病理組織に対する特異的結合物質の特異性に従って原発病巣及び転移病巣に集積する。特異的結合物質が陽電子放出核種で標識されていれば、その放射活性を検出することにより該原発病巣及び転移病巣の存在が放射活性の局在によって検出される。該診断用途に用いる場合には25keV以上4000keV以下のガンマ粒子又は陽電子放射量の活性値が適切に使用できる。また、適切な核種を選択して、さらに大量に投与すれば治療効果も期待できる。放射線による抗癌作用を得るためには、70keV以上700keV以下のガンマ粒子又は陽電子放射量値を与える核種を使用できる。
【0083】
<膵癌又は前立腺癌の診断用試薬>
本実施形態の試薬は、膵癌、好ましくは浸潤性膵管癌、又は前立腺癌の診断用試薬であって、SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質、又は、SLC45A4タンパク質をコードする核酸を増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを備える。
【0084】
本実施形態の試薬によれば、膵癌細胞若しくは膵癌組織、又は、前立腺癌細胞若しくは前立腺癌組織を検出することができ、膵癌(好ましくは膵原発浸潤性膵管癌)又は前立腺癌の早期診断、確定診断、進展範囲の詳細な把握による精密診断に有効である。
【0085】
[特異的結合物質]
SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質としては、例えば、SLC45A4タンパク質に結合する抗体(抗SLC45A4抗体)、アプタマー等が挙げられる。中でも、抗SLC45A4抗体が好ましい。固定された組織及び細胞試料に対して抗SLC45A4抗体を用いる場合には、抗SLC45A4抗体としては、SLC45A4タンパク質の細胞膜内領域に含まれるエピトープに結合する抗体であってもよく、細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体であってもよい。一方で、未固定の組織及び細胞試料に対して抗SLC45A4抗体を用いる場合には、抗SLC45A4抗体としては、SLC45A4タンパク質の細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体が好ましい。
【0086】
本実施形態の試薬において、抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、さらに抗体の機能的断片であってもよい。中でも、特異性が高く、定量性が優れていることから、抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0087】
本明細書中において、「特異的に結合」とは、抗体が標的タンパク質(抗原)にのみ結合することを意味し、例えば試験管内におけるアッセイ、好ましくは精製した野生型抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIAcore、GE-Healthcare Uppsala, Sweden等)における抗体の抗原のエピトープへの結合等により定量することができる。結合の親和性は、ka(抗体-抗原複合体からの抗体結合に関する速度定数)、kD(解離定数)、及びKD(kD/ka)によって規定することができる。抗体が抗原に特異的に結合している場合の結合親和性(KD)は、10-8mol/L以下であることが好ましく、10-13mol/L以上10-9mol/L以下であることがより好ましい。
【0088】
本実施形態において、「ポリクローナル抗体」とは、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物を意味する。すなわち、本実施形態の抗体がポリクローナル抗体である場合、SLC45A4タンパク質に対し、特異的に結合する異なる抗体を含み得る。
【0089】
また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。
また、ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものを意味する。
【0090】
本実施形態において、抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、標的タンパク質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。
【0091】
抗体は、市販のものであってもよく、作製したものであってもよい。
【0092】
抗体がポリクローナル抗体である場合、抗原(例えば、SLC45A4タンパク質、若しくはその断片、又はこれらを発現する細胞等)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィー等)によって、精製して取得することができる。
抗原として使用するSLC45A4タンパク質、又はその一部のアミノ酸配列を有するペプチド断片は、化学的に合成してもよく、SLC45A4の既知の塩基配列情報にも基づいて既知の遺伝子工学的手段によって製造してもよい。
【0093】
また、抗体がモノクローナル抗体である場合は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0094】
ハイブリドーマ法としては、例えば、コーラー及びミルスタインの方法(例えば、Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975)参照)等が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞としては、例えば抗原(SLC45A4タンパク質、若しくはその断片、又はこれらを発現する細胞等)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ等)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球等が挙げられる。また、免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球等に対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することができる。ミエローマ細胞としては、公知の種々の細胞株を使用することができる。抗体産生細胞及びミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、同一の動物種起源のものであることが好ましい。ハイブリドーマを得る方法としては、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、標的蛋白質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る方法等が挙げられる。ハイブリドーマにより産生されたモノクローナル抗体を得る方法としては、例えば標的蛋白質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得する方法等が挙げられる。
【0095】
組換えDNA法としては、例えば上記抗体又は抗体の機能的断片をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、本実施形態の抗体を組換え抗体として産生させる手法等が挙げられる(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775(1990)参照)。
【0096】
抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(例えば、国際特許出願第94/11523号参照)。本実施形態の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液から分離及び精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離及び精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いた方法では、例えば、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、又はブタ等)を作製し、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得する方法等が挙げられる。
【0097】
抗体は、SLC45A4タンパク質に特異的に結合できるものであれば、アミノ酸配列変異体であってもかわない。
【0098】
アミノ酸配列変異体は、抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、又はペプチド合成によって作製することができる。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖又は軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域及びCDR)であってもよい。また、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法等を用いてもよい(例えば、PNAS,102:8466-8471(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:485-493(2008)、国際公開第2002/051870号、J.Biol.Chem.,280:24880-24887(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:345-351(2008)参照)。
【0099】
改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。
【0100】
本明細書中において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・スレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)等で分類することができる。アミノ酸配列変異体は、抗原への結合活性が対照抗体よりも高いことが好ましい。
【0101】
本実施形態において、抗体(上述の抗体の機能的断片、アミノ酸配列変異体等も含む)の抗原への結合活性は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロッティング法、免疫沈降法、免疫染色法等により評価することができる。
【0102】
アプタマーとは、標的物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。抗原に特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、抗原に特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。
【0103】
また、SLC45A4タンパク質に対する特異的結合物質として、特許文献1及び2等に記載のヒト膵癌細胞ホーミングペプチドを用いることもできる。後述する実施例に示すように、ヒト膵癌細胞ホーミングペプチドは、SLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質であるため、該ヒト膵癌細胞ホーミングペプチドの膵癌細胞又は前立腺癌細胞への吸収は、膵癌又は前立腺癌の診断の証拠になり得る。また、ヒト膵癌細胞ホーミングペプチドの吸収が起こることは、膵癌細胞膜上にSLC45A4タンパク質が表出している証拠になり得る。
【0104】
ヒト膵癌細胞ホーミングペプチドとして具体的には、以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを用いることができる。
【0105】
一般式(I): X11-(Y11-X12n11
【0106】
(一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である;
(a)配列番号43~45のいずれかに示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号43~45のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含むアミノ酸配列;
11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である;
12は、前記(a)若しくは前記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
n11は0以上9以下の整数である。)
【0107】
上記(a)における配列番号43、44、又は45に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
RXPTTWHKP (配列番号43)
AXXYTWIRA (配列番号44)
RXWRQCRWR (配列番号45)
【0108】
なお、配列番号43におけるXは、R(アルギニン残基)又はmR(メチル化アルギニン残基)である。すなわち、配列番号43に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
RRPTTWHKP (配列番号46)
RmRPTTWHKP (配列番号47)
【0109】
また、配列番号44におけるXは、R(アルギニン残基)又はmR(メチル化アルギニン残基)である。すなわち、配列番号44に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
ARRYTWIRA (配列番号48)
AmRRYTWIRA (配列番号49)
ARmRYTWIRA (配列番号50)
AmRmRYTWIRA (配列番号51)
【0110】
また、配列番号45におけるXは、A(アラニン残基)又はmA(メチル化アラニン残基)である。すなわち、配列番号45に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
RAWRQCRWR (配列番号52)
RmAWRQCRWR (配列番号53)
【0111】
一般式(I)中、X11は、上記(a)のアミノ酸配列からなるペプチド残基と機能的に同等なペプチド残基として、下記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基であってもよい。
(b)配列番号43~45のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含むアミノ酸配列
【0112】
なお、本明細書中において、「置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本実施形態の製造方法で得られるポリペプチドの属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン及びヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン及びトレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン及びメチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン及びグルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン)等で分類することができる。一般的に起こり得るアミノ酸の置換としては、例えば、アラニン/セリン、バリン/イソロイシン、アスパラギン酸/グルタミン酸、トレオニン/セリン、アラニン/グリシン、アラニン/トレオニン、セリン/アスパラギン、アラニン/バリン、セリン/グリシン、チロシン/フェニルアラニン、アラニン/プロリン、リシン/アルギニン、アスパラギン酸/アスパラギン、ロイシン/イソロイシン、ロイシン/バリン、アラニン/グルタミン酸、アスパラギン酸/グリシン等が挙げられる。
【0113】
より具体的には、例えば、配列番号43、46又は47に示されるアミノ酸配列において、N末端から1番目のアルギニンがグリシン、アラニン、リシン、セリン、トレオニン又はヒスチジン、C末端から2番目のリシンがグリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、セリン又はトレオニン、C末端から1番目のプロリンをグリシン、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、ロイシン又はイソロイシン等への置換が想定される。
【0114】
上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基として具体的には、例えば、配列番号55又は配列番号56に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基等が挙げられる。後述する実施例に示すように、配列番号46で示されるアミノ酸配列において、「R-P-T-T-W-H」(配列番号54)からなるアミノ酸残基が消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性に必須である。そのため、X11が配列番号53又は配列番号54に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基であることで、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を発揮することができる。
RPTTWHKP(配列番号55)
RRPTTWH(配列番号56)
【0115】
また、上記(a)又は上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又は、これらの組み合わせからなるものであってもよい。中でも、X11はL-アミノ酸からなるペプチド残基であることが好ましい。
L-アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D-アミノ酸は、L-アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を高めるために、又は、他の物性を最適化するために上記(a)又は上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基を構成するアミノ酸残基は、メチル化等の化学的修飾を受けていてもよい。
【0116】
[X12
一般式(I)中、X12は、上記(a)もしくは上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
本明細書において、「レトロインバーソ型ペプチド残基」とは、アミノ酸配列が逆転し、且つ、鏡像異性体アミノ酸残基によって置換されているペプチド残基を意味する。
【0117】
中でも、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性をより高める観点から、X12は、X11と同一のアミノ酸配列からなるペプチド残基であることが好ましい。又は、生体内でのより優れた分解耐性を発揮する観点から、X12は、X11のレトロインバーソ型ペプチド残基であることが好ましい。
【0118】
[Y11
一般式(I)中、Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーである。Y11を構成する前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である。Y11におけるアミノ酸数は、1以上5以下であり、1以上3以下が好ましく、1がより好ましい。
中でも、Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基はそれぞれ独立して、グリシン残基、システイン残基又はリシン残基であることが好ましく、アミノ酸数1のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基はグリシン残基、システイン残基又はリシン残基であることがより好ましい。Y11を構成する前記アミノ酸残基がシステイン残基又はリシン残基である場合には、システイン残基のチオール基(-SH)又はリシン残基の側鎖を介して、後述する目的物質を共有結合により本実施形態のペプチドに結合させることができる。
【0119】
[n11]
一般式(I)中、n11は0以上9以下の整数であり、0以上8以下の整数が好ましく、0以上6以下の整数がより好ましく、0以上4以下の整数がさらに好ましく、0以上3以下の整数が特に好ましく、0以上2以下の整数が最も好ましい。
【0120】
好ましいアミノ酸配列(I)として具体的には、例えば、配列番号46、57、又は58で表されるアミノ酸配列等が挙げられるが、これに限定されない。
【0121】
これらの特異的結合物質は、標識物質が結合していてもよい。標識物質としては、上記「膵癌又は前立腺癌の診断を補助する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0122】
本実施形態の試薬に含まれるSLC45A4タンパク質に特異的に結合する物質は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0123】
中でも、本実施形態の試薬を用いて、SLC45A4を検出する場合には、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるSLC45A4タンパク質に結合する抗体が含まれることがより好ましく、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるSLC45A4タンパク質の細胞外領域に含まれるエピトープに結合する抗体が含まれることが好ましい。SLC45A4タンパク質の細胞外領域としては、上述したとおりである。また、当該抗体としては、SLC45A4タンパク質の細胞内領域を認識する市販のものであってもよい。市販の抗体としては、例えば、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体(Prestige Antibodies(登録商標)、Sigma-Aldrich社製、抗原配列:NVSEEAKEEQKGLSSPLAGEGRAGGNSEKPTVLKLTRKEGLQGPVETERLQVLTSVRSRHIGWCR(配列番号59))等が挙げられる。なお、上記ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体が認識するヒトSLC45A4タンパク質のアミノ酸配列のうち、1番目から48番目までのアミノ酸残基は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における718番目から765番目までの領域と相同であり、該718番目から765番目までの領域は細胞内領域と予測されるため、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体はSLC45A4タンパク質の細胞内領域を認識する抗体であると推定される。
【0124】
[標識試薬]
本実施形態の試薬は、特異的結合物質に加えて、さらに、特異的結合物質に標識物質が結合したもの(例えば、抗体に標識物質が結合したもの)、又は特異的結合物質に対する抗体に標識物質が結合したもの(例えば、抗体に対する抗体に標識物質が結合したもの)を、標識試薬として備えていてもよい。
【0125】
例えば、抗体に標識物質が結合したものを標識試薬として備える場合、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法や抗原測定系による化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)等を用いて、SLC45A4タンパク質を検出及び定量することができる。
【0126】
また、例えば、抗体に対する抗体に標識物質が結合したものを標識試薬として備える場合、抗体測定系によるELISA法、間接蛍光抗体法、抗体測定系によるCLEIA法等を用いて、SLC45A4タンパク質を検出及び定量することができる。
【0127】
抗体に対する抗体は、抗体の由来動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ等)に対する抗体であることが好ましい。例えば、抗体の由来がマウスである場合、抗マウス抗体であることが好ましい。また、抗体に対する抗体に標識物質が結合したものには、免疫グロブリンのすべてのクラス及びサブクラスが含まれる。
【0128】
本実施形態の試薬は、必要に応じて、さらに反応停止液を備えていてもよい。反応停止液としては、例えば、硫酸、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0129】
[プライマーセット]
以下、SLC45A4タンパク質をコードする核酸を増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーを「プライマーセット」と称する場合がある。
【0130】
プライマーセットは、RT-PCR法等により、SLC45A4タンパク質をコードする核酸の発現量(すなわち、mRNAの発現量)を測定する場合に用いることができる。
【0131】
フォワードプライマーは、SLC45A4をコードする核酸の3’末端領域の塩基配列に対して特異的な配列とすることができる。
リバースプライマーは、SLC45A4をコードする核酸の5’末端領域の塩基配列に対して特異的な配列とすることができる。
フォワードプライマー及びリバースプライマーが上記配列を有することにより、リアルタイムPCR反応において、SLC45A4をコードする核酸をより特異的に増幅することができる。
【0132】
SLC45A4タンパク質をコードする核酸を増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーは、SLC45A4の塩基配列情報を基に、当業者であれば適宜設計することができる。
【0133】
本実施形態の試薬は、上記プライマーセットに加えて、逆転写反応用のランダムプライマーを更に備えることができる。
【0134】
逆転写反応用のランダムプライマーとしては、例えば、ランダムな配列を有する6mer又は9merのデオキシリボヌクレオチドの混合物からなるもの等が挙げられ、前記デオキシリボヌクレオチドの5’末端がリン酸化されていることが好ましい。
【0135】
本実施形態の試薬は、さらに、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを備えていてもよい。前記標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、SLC45A4をコードする核酸の塩基配列の少なくとも3塩基と相補的な塩基配列を含む。前記塩基配列を含むことにより、プローブは前記フォワードプライマー及びリバースプライマーによる増幅産物に特異的にハイブリダイゼーションすることができる。
【0136】
標識されたオリゴヌクレオチドプローブとしては、例えば、5’末端にクエンチャーが、3’末端に標識物質が結合しているものを用いることができる。5’末端にクエンチャー、3’末端に標識物質を備えることにより、リアルタイムPCR反応のDNAポリメラーゼによる伸長反応の際に、ポリメラーゼの持つ5’-3’exonuclease活性により、SLC45A4をコードする核酸にハイブリダイズしたプローブが分解され、クエンチャーによる抑制が解除されて標識物質を検出することができる。
【0137】
プローブの3’末端に結合した標識物質としては、例えば、蛍光色素、蛍光ビーズ、量子ドット、ビオチン、抗体、抗原、エネルギー吸収性物質、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素等が挙げられる。
【0138】
蛍光色素としては、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647等が挙げられる。
【0139】
プローブの3’末端に結合した標識物質が蛍光色素である場合、プローブの3’末端に結合した標識物質とプローブの5’末端に結合したクエンチャーとの組み合わせとしては、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動;Fluorescence(Foerster) Resonance Energy Transfer)が起こり得る標識物質の組合せであることが好ましい。具体的には、例えば、励起波長が490nm付近の蛍光色素(例えば、FITC、ローダミングリーン、Alexa(登録商標)fluor 488、BODIPY FL等)と励起波長が540nm付近の蛍光色素(例えば、TAMRA、テトラメチルローダミン、Cy3)、又は励起波長が540nm付近の蛍光色素と励起波長が630nm付近の蛍光色素(例えば、Cy5等)の組合せ等が挙げられる。
【0140】
本実施形態の試薬は、使用する核酸増幅方法によって異なるが、この他に、基質としてのヌクレオチド三リン酸、核酸合成酵素、増幅反応用緩衝液の1つ以上を含んでいてもよい。ヌクレオチド三リン酸は、核酸合成酵素に応じた基質(dNTP、rNTP等)である。核酸合成酵素は、使用する核酸増幅方法に応じた酵素であり、例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等が挙げられる。増幅反応用緩衝液としては、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられ、pHは特に限定されない。
【0141】
[緩衝液]
本実施形態の試薬は、さらに、緩衝液を備えていてもよい。緩衝液としては、当該分野において公知のものから適宜選択でき、例えば、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液等が挙げられる。緩衝液は、必要に応じて、NaCl、界面活性剤(例えば、Tween 20、Triton X-100等)及び防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)のうち少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。緩衝液の具体例としては、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline;PBS)、PBS-T(PBS-Tween 20)、トリス緩衝生理食塩水(Tris Buffered Saline;TBS)、又はTBS-T(TBS-Tween 20)等が挙げられる。
【0142】
本実施形態の試薬において、特異的結合物質及びプライマーは、乾燥状態であってもよく、上述の緩衝液に溶解した上であってもよい。中でも、保存安定性から、乾燥状態であることが好ましい。
【実施例0143】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0144】
[実施例1]
(膵癌細胞ホーミングペプチドの取り込み制御分子の同定)
膵癌細胞ホーミングペプチドとして、発明者が見出した特許文献1に記載のペプチドを用いた。具体的には、ビオチンが結合した、配列番号46で表されるアミノ酸配列(RRPTTWHKP)からなるペプチド(以下、単に「ビオチン化ペプチド」と称する場合がある)を用いた。膵癌細胞ホーミングペプチドを用いた取り込み制御分子の同定法のプロトコルを図2に示す。
【0145】
まず、培地中濃度が10μMとなるようにビオチン化ペプチドをヒト膵管癌細胞(PDAC細胞)に添加し、1時間培養後、Cross-linker(BS3、ThermoFisher製)による処理を行なった。次いで、処理後の細胞を回収し、膜タンパク質抽出キット(Trident Membrane Protein Extraction Kit、Gene Tex製)を用いて、膜タンパク質を含む画分を得た。次いで、膜タンパク質を含む画分についてアビジンビーズを用いて、膜タンパク質とビオチン化ペプチドとの複合体を精製し、溶出液を得た。次いで、溶出液をSDS-PAGEに供し、分離したバンドをLC/MS/MS解析を行ない、複数種類の候補分子を得た。
【0146】
次いで、各候補分子をコードする遺伝子をpEF1/Myc-Hisベクター(図3参照)のEcoRI-NotIサイトに挿入し、当該ベクターを用いて、各候補分子を膵癌細胞ホーミングペプチドの取り込みの低いネガコン細胞(NCl-H2110細胞、非小細胞肺癌由来細胞株)にMycタグ結合コンストラクトとして発現させた。次いで、当該細胞を用いて、ビオチン化ペプチドとの結合性を免疫沈降(IP)法により再度検証した。免疫沈降(IP)法として具体的には、上述した方法と同様に、まず、培地中濃度が10μMとなるようにビオチン化ペプチドを添加して上記各候補分子を発現する細胞を1時間培養後、Cross-linkerによる処理を行なった。さらに、処理後の細胞から膜タンパク質を含む画分を回収し、アビジンビーズを用いて精製し、溶出液を得た。得られた溶出液をSDS-PAGEに供し、抗Myc抗体を用いてウエスタンブロッティング解析を行なった。結果を図4に示す。なお、図4において、「biotinylated-PCPP11」とは、ビオチンが結合した、配列番号46で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(ビオチン化ペプチド)を示す。
【0147】
図4に示すように、膵癌細胞ホーミングペプチドの結合分子として、SLC45A4タンパク質(図4中のφ)及びSLC25A53(図4中のχ)を確認及び同定した。pEF1/Myc-Hisベクターに挿入した、SLC45A4タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号2に、SLC25A53タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号42に示す。なお、以下、SLC45A4タンパク質を「Receptor φ」、SLC25A53タンパク質を「Receptor χ」、と称する場合がある。
【0148】
[実施例2]
(BxPC3細胞及びPC3を用いた膵癌細胞ホーミングペプチドの取り込み制御分子の確認試験)
まず、予めCRISPR-Cas9システムを用いて、SLC45A4をノックアウトしたBxPC3細胞(ヒト膵臓腺癌由来細胞)を作製した。また、コントロールとして、野生型のBxPC3細胞も準備した。次いで、N末端に蛍光物質FAM(Fluorescein)が結合した、アミノ酸配列の異なる3種類の膵癌細胞ホーミングペプチド(single PCPP11:配列番号46で表されるアミノ酸配列(RRPTTWHKP)からなるペプチド、tandem PCPP11:配列番号57で表されるアミノ酸配列(RRPTTWHKPGRRPTTWHKP)からなるペプチド、NmLL:配列番号58で表されるアミノ酸配列(RmRPTTWHKPGRRPTTWHKP)からなるペプチド)をそれぞれ培地中濃度が3μMとなるように細胞に添加して、2時間培養した。次いで、培地中のペプチドを取り除くために、ペプチド不含の培地で3回洗浄した。次いで、倒立型蛍光顕微鏡で各細胞における各ペプチドの取り込みを視覚的に評価した。結果を図5Aに示す。
【0149】
図5Aに示すように、野生型のBxPC3細胞では、各膵癌細胞ホーミングペプチドの取り込みによる蛍光が検出されたのに対して、SLC45A4をノックアウトしたBxPC3細胞では、ほとんど蛍光が検出されず、各膵癌細胞ホーミングペプチドが取り込まれなかったことが確かめられた。
よって、SLC45A4タンパク質は、膵癌細胞ホーミングペプチドの細胞内への取り込みの制御に重要な役割を担っていることが確かめられた。
【0150】
また、N末端に蛍光物質FAMが結合した、上記ホーミングペプチド(single PCPP11:配列番号46で表されるアミノ酸配列(RRPTTWHKP)からなるペプチド)を、培地中濃度が4μMとなるように、PC3細胞(ヒト前立腺癌細胞)に添加して、37℃、120分間COインキュベーター内で培養した。次いで、培地中のペプチドを取り除くために、ペプチド不含の培地で3回洗浄した。次いで、倒立型蛍光顕微鏡で各細胞における各ペプチドの取り込みを視覚的に評価した。結果を図5Bに示す。
【0151】
図5Bに示すように、ヒト前立腺癌細胞であるPC3細胞においてもヒト膵臓腺癌由来細胞であるBxPC3細胞とほぼ同程度のホーミングペプチドの取り込みによる傾向が検出された。
よって、ヒト前立腺癌細胞においても、SLC45A4タンパク質がホーミングペプチドの細胞内への取り込みの制御に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
【0152】
[実施例3]
(SLC45A4の細胞における局在)
BxPC3細胞に、実施例1で作製したSLC45A4タンパク質をコードする遺伝子(配列番号3で表される塩基配列からなるcDNA)が挿入されたpEF1/Myc-Hisベクターをトランスフェクションした。次いで、細胞を固定し、洗浄後、ブロッキングを行なった。次いで、洗浄後、マウス抗ヒトc-Myc抗体(×500倍希釈、MBL社製)を添加して室温で1時間インキュベートして、1次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、Alexa555(赤色蛍光)標識抗マウスIgG抗体(×300倍希釈、ThermoFisher製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、2次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、Hoechst33342(励起波長:352nm、蛍光波長:461nm)を用いて核染色し、位相差/蛍光顕微鏡で観察した。結果を図6に示す。
【0153】
また、野生型のBxPC3細胞、AsPC1細胞(ヒト転移性膵臓腺癌由来細胞株)及びPanc-1細胞(ヒト膵臓腺癌由来細胞株)を固定し、洗浄後、ブロッキングを行なった。次いで、洗浄後、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体(Prestige Antibodies(登録商標)、×500倍希釈、Sigma-Aldrich社製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、1次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、Alexa555(赤色蛍光)標識抗ウサギIgG抗体(×300倍希釈、ThermoFisher製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、2次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、Hoechst33342(励起波長:352nm、蛍光波長:461nm)を用いて核染色し、位相差/蛍光顕微鏡で観察した。結果を図6に示す。
【0154】
図6に示すように、SLC45A4の塩基配列が挿入されたpEF1/Myc-HisベクターをトランスフェクションしたBxPC3細胞、並びに、内因性のSLC45A4を発現している野生型のBxPC3細胞、AsPC1細胞及びPanc-1細胞のいずれの細胞においても、SLC45A4タンパク質は膵癌細胞の細胞膜上に局在していた。
【0155】
[実施例4]
(ヒト膵癌患者由来のヒト膵癌組織における内因性SLC45A4の発現及び局在1)
ヒト浸潤性膵管癌(PDAC)患者(Case1~7の7検体)由来のヒト膵癌組織の標本をPFA-AMeX-Paraffin法を用いて作製し、当該標本を薄切りして組織切片を得た。次いで、組織切片を洗浄後、ブロッキングを行なった。次いで、洗浄後、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体(Prestige Antibodies(登録商標)、×500倍希釈、Sigma-Aldrich社製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、1次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、HRP(西洋わさび由来ペルオキシダーゼ)標識抗ウサギIgG抗体(ニチレイ製、ready-to-use)を添加して、室温で1時間インキュベートして、2次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、DAB(3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩)基質溶液を滴下し、1分間程度発色反応を行った。次いで、洗浄後、ヘマトキシリン溶液を滴下し、対比染色を行った。次いで、洗浄後、100v/v%エタノールを用いて3分間ずつ2回洗浄し、キシレンを用いて3分間ずつ2回洗浄して脱水処理を行なった。次いで、封入剤を用いて封入を行った。
【0156】
コントロールとして、膵管、膵腺房、膵ランゲルハンス島等の膵臓組織、肝臓、肺胞、胃粘膜上皮、腎糸球体及び精巣のヒト正常組織についても同様に免疫組織染色を行った。免疫組織染色後の各組織を位相差/蛍光顕微鏡で観察した結果を図7(膵癌患者のCase1~4の4検体の膵癌組織)、図8(各種正常組織)、図9A(膵癌患者のCase5~7の3検体の膵癌組織及び正常な膵腺房及び膵管)、及び図9B(前立腺癌患者のCase1~4の4検体の前立腺癌組織)に示す。なお、図9Aにおいて「D」は膵管を示し、「L」は膵ランゲルハンス島を示す。また、図9Bにおいて「GS」はGleason scoreの略称であり、前立腺癌の悪性度を示す指標である。5段階に分けられており、グレードが高いほど(グレード5)悪性度が高くなる。最も多いグレードと2番目に多いグレードを足して悪性度を判定する。
【0157】
図7及び図9Aに示すように、SLC45A4は増殖及び浸潤する膵癌腺管に強い発現が、細胞膜パターンで認められた。また、図9Bに示すように、SLC45A4は多様な分化度を示す前立腺癌患者の複数の症例において癌細胞膜と細胞質に確認された。
一方、図8に示すように、膵癌発生母地とされる正常な膵管、膵腺房、膵ランゲルハンス島等の正常膵臓組織、肝臓、肺胞、胃粘膜上皮、腎糸球体及び精巣では、SLC45A4の発現は陰性、或いは、低い発現であった。また、低い発現である正常組織において、SLC45A4の発現は核又は細胞質に局在しており、細胞膜上への有意な発現は認められなかった。
【0158】
[実施例5]
(ヒト膵癌患者由来の組織及びその他癌患者由来の組織における内因性SLC45A4の発現及び局在1)
ヒト浸潤性膵管癌(PDAC)患者由来のヒト膵癌組織、肝転移巣及びリンパ節転移巣の標本をPFA-AMeX-Paraffin法を用いて作製し、当該標本を薄切りして組織切片を得た。次いで、得られた組織切片について、実施例4と同様の方法を用いて、抗SLC45A4抗体を用いて免疫組織染色を行った。また、コントロールとして、大腸癌(CRC)、胃癌(GC)、胆のう癌(GBC)、転移性胃癌(MGC)、扁平上皮癌(SCCs)等のその他癌患者由来の各種ヒト癌組織についても同様に免疫染色を行った。免疫組織染色後の各組織を位相差/蛍光顕微鏡で観察した結果を図10(ヒト膵癌組織、肝転移巣及びリンパ節転移巣)及び図11(膵癌以外の癌患者由来の各種癌組織)に示す。なお、図10において、「primary site」とは原発巣を示し、「liver meta.」とは肝転移巣を示し、「LN meta.」とはリンパ節転移巣を示す。図11において、「invasive front」とは浸潤の最先端部を示し、「Lung SCC」は肺扁平上皮癌組織を示し、「Pharyngeal SCC」は咽頭扁平上皮癌組織を示す。
【0159】
図10に示すように、ヒト浸潤性膵管癌(PDAC)患者由来の組織において、SLC45A4は原発巣だけでなく、肝転移巣及びリンパ節転移巣においても、強い発現が、細胞膜パターンで認められた。一方、図11に示すように、大腸癌(CRC)、胃癌(GC)、胆のう癌(GBC)及び扁平上皮癌(SCCs)の組織では、SLC45A4の発現は陰性、或いは、低い発現であった。また、また、低い発現であるその他の癌組織及び転移性胃癌(MGC)組織におけるSLC45A4の発現は、核又は細胞質に局在しており、細胞膜上への有意な発現は認められなかった。
【0160】
[実施例6]
(ヒト膵癌患者由来の組織及びその他癌患者由来の組織における内因性SLC45A4の発現及び局在2)
ヒト浸潤性膵管癌(PDAC)患者由来のヒト膵癌組織の標本をPFA-AMeX-Paraffin法を用いて作製し、当該標本を薄切りして組織切片を得た。次いで、得られた組織切片を洗浄後、ブロッキングを行なった。次いで、洗浄後、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体(Prestige Antibodies(登録商標)、×500倍希釈、Sigma-Aldrich社製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、1次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、HRP標識抗ウサギIgG抗体(ニチレイ製、ready-to-use)を添加して、室温で1時間インキュベートして、2次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、ヘマトキシリン溶液を滴下し、対比染色を行った。次いで、洗浄後、100v/v%エタノールを用いて3分間ずつ2回洗浄し、キシレンを用いて3分間ずつ2回洗浄して脱水処理を行なった。次いで、封入剤を用いて封入を行った。コントロールとして、結腸腺癌、胃腺癌、腎臓癌、肝臓癌等のその他癌患者由来の各種ヒト癌組織についても同様に免疫染色を行った。免疫組織染色後の各組織を位相差/蛍光顕微鏡で観察した結果を図12(上段の画像:倍率40倍、下段の画像:倍率80倍)に示す。図12において、「pancreatic adenoca.」は膵臓腺癌組織を示し、「colon adenoca.」は結腸腺癌組織を示し、「gastric adenoca.」は胃腺癌組織を示し、「renal tubules」は腎臓癌組織における尿細管を示し、「hepatocytes」は肝癌組織における肝実質細胞を示す。
【0161】
図12に示すように、ヒト浸潤性膵管癌(PDAC)患者由来の膵臓腺癌組織において、SLC45A4は、強い発現が細胞膜パターンで認められた。一方、結腸腺癌、胃腺癌、腎臓癌、及び肝臓癌の組織では、SLC45A4の発現は見られたが、膵臓腺癌組織での発現よりも低く、核又は細胞質に局在しており、細胞膜上への有意な発現は認められなかった。
【0162】
[実施例7]
(ヒト膵癌患者由来の組織及びその他癌患者由来の組織における内因性SLC45A4の発現及び局在3)
ヒト浸潤性膵管癌(PDAC)患者由来のヒト膵癌組織の標本をPFA-AMeX-Paraffin法を用いて作製し、当該標本を薄切りして組織切片を得た。次いで、得られた組織切片を洗浄後、ブロッキングを行なった。次いで、洗浄後、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体(Prestige Antibodies(登録商標)、×500倍希釈、Sigma-Aldrich社製)、及び、マウス抗CD71抗体(×200倍希釈、Santa Cruz Biotechnology製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、1次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、Alexa555(赤色蛍光)標識抗ウサギIgG抗体(×300倍希釈、ThermoFisher製)、及び、Alexa488(緑色蛍光)標識抗マウスIgG抗体(×300倍希釈、ThermoFisher製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、2次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、ヘマトキシリン溶液を滴下し、対比染色を行った。次いで、洗浄後、100v/v%エタノールを用いて3分間ずつ2回洗浄し、キシレンを用いて3分間ずつ2回洗浄して脱水処理を行なった。次いで、封入剤を用いて封入を行った。コントロールとして、ヒト正常腎臓組織についても同様に免疫染色を行った。免疫組織染色後の各組織を位相差/蛍光顕微鏡で観察した結果を図13(ヒト膵癌組織)及び図14(ヒト正常腎臓組織)に示す。
【0163】
図13に示すように、ヒト膵癌組織におけるSLC45A4の発現はトランスフェリン受容体であるCD71の局在と一致しており、細胞膜上に局在していることが確かめられた。一方で、図14に示すように、ヒト正常腎臓組織におけるSLC45A4の発現はCD71の局在と一致しておらず、尿細管上皮の核及び細胞質に局在していることが確かめられた。すなわち、ヒト正常腎臓組織では、細胞膜上及び細胞膜外へのタンパク質の表出及び発現は見られなかった。
【0164】
[実施例8]
(ヒト膵癌患者由来のヒト膵癌組織における内因性SLC45A4の発現及び局在2)
ヒト浸潤性膵管癌(PDAC)患者由来のヒト膵癌組織の標本をPFA-AMeX-Paraffin法を用いて作製し、当該標本を薄切りして組織切片を得た。次いで、得られた組織切片を洗浄後、ブロッキングを行なった。次いで、洗浄後、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体(Prestige Antibodies(登録商標)、×500倍希釈、Sigma-Aldrich社製)、及び、マウス抗E-cadherin抗体(×200倍希釈、ThermoFisher製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、1次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、Alexa555(赤色蛍光)標識抗ウサギIgG抗体(×300倍希釈、ThermoFisher製)、及び、Alexa488(緑色蛍光)標識抗マウスIgG抗体(×300倍希釈、ThermoFisher製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、2次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、ヘマトキシリン溶液を滴下し、対比染色を行った。次いで、洗浄後、100v/v%エタノールを用いて3分間ずつ2回洗浄し、キシレンを用いて3分間ずつ2回洗浄して脱水処理を行なった。次いで、封入剤を用いて封入を行った。
【0165】
また、マウス抗E-cadherin抗体(×200倍希釈、ThermoFisher製)の代わりに、マウス抗EpCAM(CD326)抗体(×200倍希釈、Myltenyi Biotec製)を用いた以外は、上述した方法と同様の方法を用いて、免疫染色を行った。免疫組織染色後の各組織を位相差/蛍光顕微鏡で観察した結果を図15(抗E-cadherin抗体使用)及び図16(抗EpCAM(CD326)抗体使用)に示す。
【0166】
図15及び図16に示すように、ヒト膵癌組織におけるSLC45A4の発現は細胞膜マーカーであるE-cadherin及びEpCAM(CD326)の局在と一致しており、細胞膜上に局在していることが確かめられた。
【0167】
[実施例9]
(膵癌モデルマウスの腫瘍組織におけるSLC45A4の発現及び局在)
スキルス膵癌モデルマウスは、参考文献2(Saito K et al., “Stromal mesenchymal stem cells facilitate pancreatic cancer progression by regulating specific secretory molecules through mutual cellular interaction.”, Journal of Cancer, Vol. 9, No. 16, p2916-2929, 2018.)に記載の方法に従い、作製した。具体的には、6週齢のNOD/SCIDマウス(CLEA Japan Inc、Japan)を無病原体条件下で飼育した。BxPC3細胞(1×10cells)とヒト間葉系幹細胞(hMSC)(1×10cells)との混合細胞をマウスの皮下に注射した。細胞注射から6週間飼育することで、ヒト膵癌患者組織を模倣する豊富な癌間質の発達した腫瘍を有するスキルス膵癌モデルマウスを得た。また、BxPC3細胞の代わりに、AsPC1細胞を用いた以外は同様の方法を用いて、AsPC1細胞を用いたスキルス膵癌モデルマウスも作製した。
【0168】
次いで、得られた各スキルス膵癌モデルマウスから腫瘍組織を採取した。次いで、腫瘍組織の標本をPFA-AMeX-Paraffin法を用いて作製し、当該標本を薄切りして組織切片を得た。次いで、得られた組織切片を洗浄後、ブロッキングを行なった。次いで、洗浄後、ウサギ抗ヒトSLC45A4ポリクローナル抗体(Prestige Antibodies(登録商標)、×500倍希釈、Sigma-Aldrich社製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、1次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、Alexa555(赤色蛍光)標識抗ウサギIgG抗体(×300倍希釈、ThermoFisher製)を添加して、室温で1時間インキュベートして、2次抗体反応を行った。次いで、洗浄後、ヘマトキシリン溶液を滴下し、対比染色を行った。次いで、洗浄後、100v/v%エタノールを用いて3分間ずつ2回洗浄し、キシレンを用いて3分間ずつ2回洗浄して脱水処理を行なった。次いで、封入剤を用いて封入を行った。コントロールとして、抗サイトケラチン(CAM5.2)抗体及び抗ビメンチン抗体を用いて免疫組織染色を行った切片も準備した。結果を図17に示す。
【0169】
図17に示すように、BxPC3細胞を用いたスキルス膵癌モデルマウス及びAsPC1細胞を用いたスキルス膵癌モデルマウスのいずれの腫瘍組織においても、SLC45A4の強い発現が細胞膜パターンで認められた。
【0170】
以上のことから、SLC45A4タンパク質は、膵癌細胞及び前立腺癌細胞を直接捕捉及び検知可能なバイオマーカーとして有用であることが明らかとなった。
【0171】
[実施例10]
(SLC25A53の各種細胞における発現量の比較)
SLC25A53は細胞及び組織染色に使用可能な抗体が存在しないことから、各種細胞におけるSLC25A53遺伝子の発現量をRT-PCR法により検討した。
【0172】
まず、以下に示す各細胞においてmRNAを抽出後、逆転写酵素反応によりcDNAを合成した。
HeLa細胞:子宮頸癌細胞株
BxPC3細胞、AsPC1細胞、PK8細胞、Panc-1細胞:浸潤性膵管癌(膵癌)細胞株
LNCap細胞:前立腺癌細胞株
【0173】
得られたcDNAを鋳型として、以下に示すヒトSLC25A53遺伝子に特異的なプライマーセットを用いたPCR法により、ヒトSLC25A53遺伝子の発現を検出した。
Forward primer:5’-CTACCCTCCTCTTCTCTCCAAGA-3’(配列番号60)
Reverse primer:5’-TAGGCAGGTGATTGTTCCATTGA-3’(配列番号61)
【0174】
SLC25A53遺伝子及びβ-アクチン遺伝子の増幅条件をそれぞれ以下に示す。なお、鋳型cDNA量は、β-アクチン遺伝子の増幅量を指標に揃えて標準化した。結果を図18に示す。
【0175】
(SLC25A53遺伝子の増幅条件)
[98℃ 2秒間→68℃ 5秒間→72℃ 8秒間]×30サイクル
【0176】
(β-アクチン遺伝子の増幅条件)
[98℃ 2秒間→68℃ 5秒間→72℃ 8秒間]×20サイクル
【0177】
図18に示すように、膵癌細胞株及び前立腺癌細胞株において、ヒトSLC25A53遺伝子の発現が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本実施形態の方法及び膵癌又は前立腺癌の診断用試薬は、膵癌又は前立腺癌の診断に有効である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2024003567000001.app