(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035679
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル
(51)【国際特許分類】
H05B 6/40 20060101AFI20240307BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20240307BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20240307BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20240307BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
H05B6/40
H05B6/10 331
C21D1/42 J
C21D1/10 G
C21D9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140292
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】金田 祐実
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘子
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AB22
3K059AD05
4K042AA25
4K042BA03
4K042DA01
4K042DB01
4K042DD02
4K042DD04
4K042DE02
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】ワークの突出部の基部に近接する辺を有し、且つ各部材が一筆書きの如く直列に接続された構造の誘導加熱コイルを提供することを課題とする。
【解決手段】ワーク100は基礎平面100と、突出部102を有し、当該突出部は、傾斜平面103となっており、誘導加熱コイル1の通電部52は、傾斜平面と対向する2以上の傾斜辺部7、8と、傾斜平面と基礎平面の境界部と対向する下辺部12と、傾斜平面に対して交差する方向に配されて基礎平面と対向する2以上の延設辺15、16を有し、通電部の外面同士が直接的に又は間接的に接触していて通電可能であるが直接的な冷却液の行き来が遮断された接続部57があり、2以上の傾斜辺部と、下辺部と、2以上の延設辺と、接続部が直列的に接続されて二か所の給電部に接続されていることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二か所に給電部を有し、当該給電部を繋ぐ通電部があり、当該通電部の一部又は全部は断面形状が中空であって内部に冷却液が通過する誘導加熱コイルであって、
加熱対象のワークは基礎平面と、当該基礎平面から突出する突出部を有し、当該突出部は、前記基礎平面から鋭角且つオーバーハング状に傾斜する傾斜平面となっており、
前記ワークの基礎平面側を下としたとき、
前記通電部は、
前記傾斜平面と対向する2以上の傾斜辺部と、前記傾斜平面と前記基礎平面の境界部と対向する下辺部と、前記傾斜平面に対して交差する方向に配されて前記基礎平面と対向する2以上の延設辺を有し、
前記通電部の外面同士が直接的に又は間接的に接触していて通電可能であるが直接的な冷却液の行き来が遮断された接続部があり、
前記二か所の前記給電部の間で、前記2以上の傾斜辺部と、前記下辺部と、前記2以上の延設辺と、前記接続部が直列的に接続されて前記二か所の給電部に接続されていることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
第1傾斜辺部及び第2傾斜辺部と、1本の前記下辺部と、第1延設辺及び第2延設辺を有し、前記第1傾斜辺部及び前記第2傾斜辺部の上端同士を繋ぐ渡り通電部があり、
一方の前記給電部が前記第1傾斜辺部の下端に接続され、前記第1傾斜辺部の上端と前記第2傾斜辺部の上端が前記渡り通電部で接続され、前記第2傾斜辺部の下端が前記下辺部の一端に接続され、前記下辺部の他端が前記第1延設辺に接続され、前記第1延設辺と前記第2延設辺が直接的に又は間接的に接触して前記接続部が構成され、前記第2延設辺が他方の給電部に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記第2延設辺の端部が前記下辺部の近傍に至っていることを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記渡り通電部は、上辺部を有し、当該上辺部は、前記傾斜辺部の上端よりも前記ワークの前記突出部から離れた位置にあることを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記延設辺又は前記延設辺の延長上に給排水口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料を誘導加熱するための誘導加熱コイルに関するものであり、特に、鋭角かつオーパハング状の突起を有するワークを加熱する用途に使用される誘導加熱コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械等に、アリ溝と称される形状のガイドレールを有するものがある。アリ溝を構成する突起部分やその周辺部は、他の部材と接触してこすれる。
そのため、アリ溝を構成する壁面やその周辺部を焼き入れして硬度を上げる処理を行うことがある。
アリ溝を構成する壁面やその周辺部を誘導加熱する高周波焼入コイルが例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された高周波焼入コイル200及びワーク100は、
図8、
図9に示す様な形状を呈している。
図8、
図9は、特許文献1の
図3及び
図2から主要部分を書き起こしたものである。
【0004】
加熱対象のワーク100は、
図9の様であり、基礎平面101を有し、基礎平面101上に突出部102がある。突出部102は、基礎平面101と連続し、基礎平面101に対して傾斜した傾斜平面103を有している。
突出部102は、ガイドとして機能するものであり、ある程度の長さを有する突条である。
【0005】
特許文献1に開示された高周波焼入コイル200は、
図9に示す様に、ワーク100の基礎平面101に近接対向する平坦面加熱部201a,201bと、ワーク100の傾斜平面103に近接対向する斜面加熱部202a,202bを有している。
【0006】
図8に示す様に、平坦面加熱部201a,201bは、直線状であって互いに平行であり、連結部203を介して接続されている。斜面加熱部202a,202bは、直線状であって互いに平行であり、平坦面加熱部201a,201bに対して鋭角(ワーク100の基礎平面101と傾斜平面103が成す角度と同じ角度)に傾斜して接続されている。
【0007】
高周波焼入コイル200は、
図9の様にワーク100に近接させた状態で高周波電流を通電し、ワーク100の基礎平面101と傾斜平面103を誘導加熱する。
即ち
図9の様に、高周波焼入コイル200の 平坦面加熱部201a(201b)と斜面加熱部202a(202b)の鋭角に接続された部分をワーク100の基礎平面101と傾斜平面103の接続部(交差部)である基部105に近接させ、高周波焼入コイル200に高周波電流を通電してワーク100の基礎平面101と傾斜平面103を誘導加熱する。
【0008】
前記した様に、突出部102は、ガイドとして機能するものであり、ある程度の長さを有している。そのため焼き入れは、ワーク100と高周波焼入コイル200とを相対移動させて実施される。即ち、高周波焼入コイル200を焼入対象部位(基礎平面101,傾斜平面103)に近接した状態として高周波焼入コイル200をワーク100の突出部102に沿って直線移動させ、突出部102を順次加熱してゆく。
なおこの方法は「移動焼き」と称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された高周波焼入コイル200を使用して
図9に示す様なワーク100を焼き入れすると、突出部102の基部105の昇温が不十分である場合があった。
即ち、特許文献1に開示された高周波焼入コイル200は、突出部102の基部105に対向するのは、斜面加熱部202a,202bと平坦面加熱部201a,201bとの接続部分だけである。そのため、突出部102の基部105の温度が上がりきらず、焼き入れ深度が浅くなってしまう傾向があった。
【0011】
また高周波焼き入れコイルに要求される品質として、各部を流れる電流が等しいことがあげられる。この要求を実現するため、多くの高周波焼き入れコイルは、通電部を構成する各部位が一筆書きの如く直列に接続された構造となっている。
そのため、突出部102の基部105を十分に加熱することができる高周波焼き入れコイルは、突出部102の基部105に近接する辺を有し、且つ各部材が一筆書きの如く直列に接続されたものであることが必要である。
【0012】
本発明は、ワークの突出部の基部に近接する辺を有し、且つ各部材が一筆書きの如く直列に接続された構造の誘導加熱コイルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するための態様は 二か所に給電部を有し、当該給電部を繋ぐ通電部があり、当該通電部の一部又は全部は断面形状が中空であって内部に冷却液が通過する誘導加熱コイルであって、加熱対象のワークは基礎平面と、当該基礎平面から突出する突出部を有し、当該突出部は、前記基礎平面から鋭角且つオーバーハング状に傾斜する傾斜平面となっており、前記ワークの基礎平面側を下としたとき、前記通電部は、前記傾斜平面と対向する2以上の傾斜辺部と、前記傾斜平面と前記基礎平面の境界部と対向する下辺部と、前記傾斜平面に対して交差する方向に配されて前記基礎平面と対向する2以上の延設辺を有し、前記通電部の外面同士が直接的に又は間接的に接触していて通電可能であるが直接的な冷却液の行き来が遮断された接続部があり、前記二か所の前記給電部の間で、前記2以上の傾斜辺部と、前記下辺部と、前記2以上の延設辺と、前記接続部が直列的に接続されて前記二か所の給電部に接続されていることを特徴とする誘導加熱コイルである。
【0014】
本態様の誘導加熱コイルの通電部は、傾斜辺部と延設辺を有し、傾斜辺部によってワークの傾斜平面が加熱され、延設辺によってワークの基礎平面が加熱される。
また本態様の誘導加熱コイルの通電部は、下辺部を有し、当該下辺部が傾斜平面と基礎平面の境界部と対向する、そのため本態様の誘導加熱コイルでは、下辺部によって、ワークの突出部の基部を加熱することができる。
本態様の誘導加熱コイルの通電部は、各部が直列的に接続されている。本態様の誘導加熱コイルは前記通電部の外面同士が直接的に又は間接的に接触した接続部がある。本態様の誘導加熱コイルでは、接続部によって、いくつかの部材間の通電が確保されるので、各部材を直列に接続する助けとなる。
また前記した接続部は、通電が確保される部材間に、直接的な冷却液の行き来が無いので、冷却液の流れが円滑であり、通電部の過度の昇温を防ぐことができる。
【0015】
上記した態様において、第1傾斜辺部及び第2傾斜辺部と、1本の前記下辺部と、第1延設辺及び第2延設辺を有し、前記第1傾斜辺部及び前記第2傾斜辺部の上端同士を繋ぐ渡り通電部があり、一方の前記給電部が前記第1傾斜辺部の下端に接続され、前記第1傾斜辺部の上端と前記第2傾斜辺部の上端が前記渡り通電部で接続され、前記第2傾斜辺部の下端が前記下辺部の一端に接続され、前記下辺部の他端が前記第1延設辺に接続され、前記第1延設辺と前記第2延設辺が直接的に又は間接的に接触して前記接続部が構成され、前記第2延設辺が他方の給電部に接続されていることが望ましい。
【0016】
本態様の誘導加熱コイルでは、通電部を構成する各部が直列的に接続されている。
【0017】
上記した態様において、前記第2延設辺の端部が前記下辺部の近傍に至っていることが望ましい。
【0018】
本態様によると、第2延設辺によってワークの基礎平面が隙間なく加熱される。
【0019】
上記した態様において、前記渡り通電部は、上辺部を有し、当該上辺部は、前記傾斜辺部の上端よりも前記ワークの前記突出部から離れた位置にあることが望ましい。
【0020】
本態様の誘導加熱コイルでは、渡り通電部の上辺部がワークから離れた位置にあるので、ワークを加熱しすぎない。
【0021】
上記した態様において、前記延設辺又は前記延設辺の延長上に給排水口が設けられていることが望ましい。
【0022】
本態様の誘導加熱コイルでは、冷却液の流れが円滑であり、通電部の過度の昇温を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の誘導加熱コイルは、ワークの突出部の基部に近接する辺を有しており、突出部の基部を十分に加熱することができる。
また本発明の誘導加熱コイルは各部材が一筆書きの如く直列に接続された構造であり、加熱むらが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態の誘導加熱コイルの斜視図である。
【
図2】
図1の誘導加熱コイルを部位ごとに分けた斜視図である。
【
図3】
図1の誘導加熱コイルの形状を模式的に線図で表した構造図であり、(a)は、その全体を示し、(b)は、管路を分けて図示したものである。
【
図4】
図3に電流の経路に太線を加筆した説明図である。
【
図5】
図3に太線を加筆したものであり、(a)は、第1冷却水経路を示し、(b)は、第2冷却水経路を示す。
【
図6】
図3の誘導加熱コイルの構造図であり、焼き入れに際して当該誘導加熱コイルをワークに近接させた状態を示す。
【
図7】
図1の誘導加熱コイルの部分側面図であり、焼き入れに際して当該誘導加熱コイルをワークに近接させた状態を示す。
【
図8】特許文献1の誘導加熱コイルの斜視図である。
【
図9】
図8の誘導加熱コイルをワークに近接対向させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の誘導加熱コイル1は、アリ溝と称される部位を備えたワーク100を高周波焼き入れするものである。
最初に焼き入れ対象のワーク100について説明する。ワーク100は、従来技術の説明の欄に記載したものと同じ構造のものである。
即ち、ワーク100は、
図7、
図8の様であり、基礎平面101を有し、基礎平面101上に突出部102がある。突出部102は、等脚台形を天地逆にした様な形状であり、上辺側が長く、下辺側が短い。
即ち、突出部102は、天面110が平坦であり、左右の側面が傾斜平面103である。
傾斜平面103は、基礎平面101と連続し、傾斜平面103と基礎平面101がなす角は鋭角である。そのため傾斜平面103は、オーバーハング状であり、天面側が下部よりも外側に張出している。
【0026】
次に、誘導加熱コイル1について説明する。
誘導加熱コイル1は、例えば銅板等の良導体を板金加工して作られたものである。本実施形態の誘導加熱コイル1は、
図2の様に次の部材が一体的に連結されて構成されたものである。なお作図の関係上、
図2は細部を省略している。また作図の関係上、各部材の太さや長さは、必ずしも
図1と一致しない。
(1)第1給電部2、第2給電部3。
(2)第1リード部5、第2リード部6。
(3)第1傾斜辺部7、第2傾斜辺部8。
(4)渡り通電部10。
(5)下辺部12。
(6)第1延設辺15、第2延設辺16。
(7)第1延長部17、第2延長部18。
(8)第1通水専用路20、第2通水専用路21。
(9)第1給排水口25、第2給排水口26、第3給排水口27、第4給排水口28。
【0027】
(1)の第1給電部2及び第2給電部3は、導電板である。
(9)の第1給排水口25、第2給排水口26、第3給排水口27、第4給排水口28は、冷却水の供給源に接続される接続金具である。
(2)から(8)の部材は、いずれも内部が中空であり、冷却水が通過する管路を構成するものである。本断面形状では、管路を構成する部材は、いずれも断面形状が四角形である。
【0028】
次に各部材の取り付け姿勢及び位置関係について説明する。以下の説明においては、ワーク100の基礎平面101を基準面とする。またワーク100の突出部102に近い側を前方側、離れる側を後方側とする。
第1傾斜辺部7及び第2傾斜辺部8は、焼き入れ時に、ワーク100の傾斜平面103と対向する部材であり、基礎平面101に対して傾斜した姿勢で取り付けられている。
第1傾斜辺部7と第2傾斜辺部8の前面側の面は同一平面上にある。
【0029】
下辺部12は、ワーク100の突出部102の基部105の長手方向に延びて基部105に対向する辺であって、基準面(基礎平面101)に対して平行に配置される。
第1傾斜辺部7、第2傾斜辺部8及び下辺部12は、誘導加熱コイル1の最も前面側(突出部102に近い側の面)を構成する部材である。
【0030】
第1延設辺15と第2延設辺16は、ワーク100の基礎平面101に対向する辺であって、基準面(基礎平面101)に対して平行に配置される。第1延設辺15と第2延設辺16は、前記した下辺部12と略同じ高さであるが、延びる方向は、下辺部12に対して直交する方向である。即ち第1延設辺15と第2延設辺16は、誘導加熱コイル1の前後方向(突出部102に近接離反する方向)に延びる。
第1延設辺15と第2延設辺16の下側の面は同一平面上にある。
第1延設辺15の前端は、下辺部12の一端に接続されている。第2延設辺16の前端は、下辺部12に近傍にあるが、
図1の様に下辺部12とは繋がっていない。
【0031】
渡り通電部10は、第1傾斜辺部7及び第2傾斜辺部8の上端同士を繋ぐ部材であり、「コ」字状の部材である。即ち、渡り通電部10は、第1接続辺30と、上辺部31と、第2接続辺38によって構成されている。
第1接続辺30及び第2接続辺38は、後方に向かって傾斜している。第1接続辺30及び第2接続辺38の傾斜角度は、前記した第1傾斜辺部7及び第2傾斜辺部8よりも緩傾斜である。
渡り通電部10の上辺部31は、第1傾斜辺部7及び第2傾斜辺部8の上端よりも後方に位置する。即ち渡り通電部10の上辺部31は、ワーク100の突出部102から離れた位置にある。
【0032】
第1リード部5は、垂直管部32と、傾斜管部33を有している。第2リード部6も同様に、垂直管部35と、傾斜管部36を有している。
第1リード部5と第2リード部6は、第1傾斜辺部7及び第2傾斜辺部8の後方にある。第1リード部5の傾斜管部33は、第1延設辺15の真上の位置にあり、両者の間には隙間がある。第2リード部6の傾斜管部36は、第2延設辺16の真上の位置にあり、両者の間には隙間がある。
第1リード部5の垂直管部32は、第1傾斜辺部7の真後の位置にある。第2リード部6の垂直管部35は、第2傾斜辺部8の真後の位置にある。
【0033】
誘導加熱コイル1は、管路の構成から見ると二系統の管路によって構成されている。即ち、
図3(b)の様に、第1管路50と、第2管路51が組み合わされたものであると言える。
また誘導加熱コイル1は、コイルとしての観点からみると、
図4の太線で示す通電部52と付属部材の組合せであると言える。
さらに誘導加熱コイル1の通水経路の観点から見ると、
図5(a)の太線で示す第1冷却水経路55と、
図5(b)の太線で示す第2冷却水経路56に分かれている。
【0034】
次に誘導加熱コイル1の管路の構成について説明する。本実施形態の誘導加熱コイル1は、前記した様に、第1管路50と第2管路51が組み合わされたものである。 第1管路50は、第1給電部2から第1給排水口25に至る一連の管路であり、付属部材として、第1通水専用路20及び第3給排水口27がある。
【0035】
第1管路50は、仮に第1給電部2を起点とすると、第1給電部2、第1リード部5、第1傾斜辺部7、渡り通電部10、第2傾斜辺部8、下辺部12、第1延設辺15、第1延長部17、第1給排水口25が直列に接続されたものである。
第1通水専用路20は、第1リード部5の垂直管部32から分岐されてワーク100の突出部102側に向かって水平方向に延び先端に第3給排水口27が接続されている。
【0036】
第2管路51は、第2給電部3から第2給排水口26に至る一連の管路であり、付属部材として、第2通水専用路21及び第4給排水口28がある。
第2管路51は、仮に第2給電部3を起点とすると、第2給電部3、第2リード部6、第2延設辺16、第2延長部18、第2給排水口26が直列に接続されたものである。
第2通水専用路21は、第2リード部6の垂直管部35から分岐されてワーク100の突出部102側に向かって水平方向に延び先端に第4給排水口28が接続されている。
【0037】
第1管路50の第1傾斜辺部7と第2傾斜辺部8は略平行であり、傾斜角度も同じである。また第1傾斜辺部7と第2傾斜辺部8の傾斜角度は、ワーク100の傾斜平面103の傾斜平面と略等しい。
第1管路50の第1延設辺15と第2管路51の第2延設辺16は略平行である。
【0038】
また本実施形態では、
図1の様に、第1管路50の第1延長部17と、第2管路51の第2延長部18の側壁同士が直接的に接して接続部57が構成されている。
第1延長部17及び第2延長部18は、いずれも銅管であるから、第1管路50と第2管路51は、当該接続部57を介して電気的に導通する。ただし、接続部は、独立した銅管である第1延長部17と第2延長部18が並列的に並べられたものに過ぎないので、第1延長部17と第2延長部18の接合面において、冷却液の行き来はない。
【0039】
次に、誘導加熱コイル1の通電経路について説明する。
本実施形態の誘導加熱コイル1は、第1給電部2と第2給電部3に図示しない高周波電源が接続され、
図4の太線で示す様に誘導加熱コイル1の通電部52に高周波電流が流れる。
ここで本実施形態の誘導加熱コイル1は、通電経路が一筆書きのごとく、直列構造となっている。
仮に、第1給電部2から第2給電部3に向かって電流が流れると仮定すると、電流は、第1給電部2、第1リード部5、第1傾斜辺部7、渡り通電部10、第2傾斜辺部8、下辺部12、第1延設辺15、第1延長部17の経路を順次流れる。そして第1管路50と第2管路51が接触する接続部57を経由して、第2管路51を流れる。即ち、接続部57から第2延長部18、第2延設辺16、第2リード部6、第2給電部3の経路を順次流れる。
【0040】
次に、誘導加熱コイル1の通水経路について説明する。前記した様に、誘導加熱コイル1の通水経路は、
図5の様に、二系統に分かれている。
第1冷却水経路55は、
図5(a)の太線で示す様に、第3給排水口27と第1給排水口25を結ぶ流路である。
仮に、第3給排水口27から第1給排水口25に向かって冷却水が流れると仮定すると、冷却水は、第3給排水口27、第1通水専用路20、第1リード部5、第1傾斜辺部7、渡り通電部10、第2傾斜辺部8、下辺部12、第1延設辺15、第1延長部17を流れて第1給排水口25から排水される。
【0041】
第2冷却水経路56は、
図5(b)の太線で示す様に、第4給排水口28と第2給排水口26を結ぶ流路である。
仮に、第4給排水口28から第2給排水口26に向かって冷却水が流れると仮定すると、冷却水は、第4給排水口28、第2通水専用路21、第2リード部6、第2延設辺16、第2延長部18を流れて第2給排水口26から排水される。
【0042】
次に、誘導加熱コイル1を使用してワーク100を高周波焼き入れする際の態様について説明する。
本実施形態の誘導加熱コイル1は、
図6、
図7の様に、ワーク100に近接して使用される。即ち、
図6、
図7の様に、ワーク100の基礎平面101に誘導加熱コイル1の第1延設辺15と第2延設辺16を対向する姿勢で近接させ、ワーク100の傾斜平面103に、第1傾斜辺部7と第2傾斜辺部8を対向する姿勢で近接させる。その結果、ワーク100の突出部102の基部105に誘導加熱コイル1の下辺部12が対向する。
【0043】
焼き入れに際しては、誘導加熱コイル1の第1冷却水経路55と第2冷却水経路56に冷却水が流される。
そして第1給電部2と第2給電部3に図示しない高周波電源を接続して、誘導加熱コイル1の通電部52に高周波電流を通電する。
その結果、ワーク100の基礎平面101と傾斜平面103に誘導電流が励起され、ワーク100の基礎平面101と傾斜平面103が加熱される。本実施形態の誘導加熱コイル1は下辺部12を有し、当該下辺部12は、ワーク100の突出部102の基部105に対向する部位であってある程度の長さを有する。そのため、本実施形態の誘導加熱コイル1を使用すると、ワーク100の突出部102の基部105が十分に加熱される。
【0044】
この状態で誘導加熱コイル1をワーク100に沿って直線移動し、ワーク100の基礎平面101と傾斜平面103及び基部105を順次加熱してゆく。そして図示しない冷却液噴射装置によって、ワーク100の赤熱部位に冷却水が噴射され赤熱部位を急冷する。その結果、ワーク100の基礎平面101と傾斜平面103及び基部105が焼き入れされて硬化する。
【0045】
本実施形態の誘導加熱コイル1は、下辺部12を有し、当該下辺部12は、ワーク100の突出部102の基部105に対向する部位であってある程度の長さを有するものであるから、ワーク100の突出部102の基部105が十分に昇温し、急冷することによって、基部105に適切な深度の焼き入れ硬化層を形成することができる。
【0046】
また本実施形態の誘導加熱コイル1は、通電経路が一筆書きのごとく直列構造であるから、いずれの部位を流れる電流も等しい。そのためワーク100に加熱むらが生じにくい。
【0047】
以上説明した実施形態では、管路の側壁同士を直接的に接触させて接続部57を構成したが、管路の側壁同士の間に導電部材が挟まれていてもよい。また管路の
壁面を銅板等で繋いで接続部としてもよい。
以上説明した実施形態では、第1管路50の第1延長部17と第2管路51の第2延長部18の間に接続部57を設けたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。接続部は、ワーク100の加熱に寄与しない部位に設けることが望ましい。
第1給排水口25、第2給排水口26、第3給排水口27、第4給排水口28の位置は限定するものではなく、ワーク100の加熱に寄与しない部位に設けられていればよい。例えば、第1リード部5、第2リード部6、渡り通電部10、下辺部12等に第1給排水口25、第2給排水口26、第3給排水口27、第4給排水口28が設けられていてもよい。
【0048】
前記した様に、誘導加熱コイル1は、二系統の管路によって構成されている。また前記した様に、誘導加熱コイル1は通水経路が二系統に分かれている。
本発明は、管路の構成や通水経路の構成を二系統に限定するものではなく、三系統以上であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 誘導加熱コイル
2 第1給電部
3 第2給電部
7 第1傾斜辺部
8 第2傾斜辺部
10 渡り通電部
12 下辺部
15 第1延設辺
16 第2延設辺
17 第1延長部
18 第2延長部
25 第1給排水口
26 第2給排水口
27 第3給排水口
28 第4給排水口
52 通電部
57 接続部
100 ワーク
101 基礎平面
102 突出部
103 傾斜平面
105 基部