(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035693
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ALDH2活性向上核酸分子及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240307BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240307BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240307BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240307BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240307BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240307BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240307BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240307BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240307BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
A61K31/713
A61K48/00
A61K47/54
A61P3/00
A61P7/06
A61K35/12
A61K35/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140312
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】310015086
【氏名又は名称】株式会社ボナック
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】正山 祥生
(72)【発明者】
【氏名】内藤 浩太
(72)【発明者】
【氏名】與那嶺 孝
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076CC14
4C076CC21
4C076CC41
4C076DD33
4C076DD60
4C076DD63
4C076EE59
4C076FF34
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA55
4C084ZC21
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA55
4C086ZC21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087CA20
4C087NA14
4C087ZA55
4C087ZC21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】一塩基多型を特異的にノックダウンすることで野生型ALDH2の割合を増加させ、ALDH2の活性を向上させる核酸分子、および当該核酸分子を含む、ALDH2が関連する疾患の治療用の医薬組成物を提供する。
【解決手段】変異型ALDH2遺伝子における、特定のヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列中の、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を、変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列として含む、核酸分子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異型ALDH2遺伝子における、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列中の、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を、変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列として含む、核酸分子。
【請求項2】
(a)配列番号2n(nは1~11から選ばれる整数)で表されるヌクレオチド配列(但し、該配列中、各UはTであってもよい)中の、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列、
(b)(a)のヌクレオチド配列において、1個もしくは2個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列、又は
(c)(a)のヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列である、
請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記発現抑制配列に相補的なヌクレオチド配列をさらに含む、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記相補的なヌクレオチド配列が、
(d)配列番号2n+1(nは前記(a)と同じ)で表されるヌクレオチド配列(但し、GとUとの対合は相補的とみなす)、
(e)(d)のヌクレオチド配列において、1個もしくは2個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、もしくは付加されたヌクレオチド配列、又は
(f)(d)のヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列である、
請求項3に記載の核酸分子。
【請求項5】
配列番号2n(nは1~11から選ばれる整数)で表されるヌクレオチド配列と、配列番号2n+1で表されるヌクレオチド配列とを含む、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNAである、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記siRNAが、一方もしくは両方の鎖に3’-オーバーハングを有する、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
配列番号2m(mは12~45から選ばれる整数)で表されるヌクレオチド配列と、該配列にアニーリングした配列番号2m+1で表されるヌクレオチド配列とからなる、請求項7に記載の核酸分子。
【請求項9】
下記(1)~(34)のいずれかの構造を有する、請求項8に記載の核酸分子。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
式中、
下線は一塩基多型の変異を、
イタリック体の下線はミスマッチを、
下線(波線)はヌクレオチド間の結合がホスホロチオエート結合であることを、
枠で囲ったヌクレオチドは、2’-OmeRNAであることを、
小文字で標記したヌクレオチドは、2’-F RNAであることを、
それぞれ示す。
【請求項10】
下記一般式:
【化5】
[式中、X、Y、X
1、Y
1、X
2、Y
2は、それぞれ独立して、修飾されていてもよいリボヌクレオチド残基又は修飾されていてもよいデオキシリボヌクレオチド残基であり;
Zは(X)の糖部分の2’位若しくは5’位と(Y)の糖部分の2’位若しくは3’位とを連結するリンカーであり、又は(X)の塩基部分と(Y)の塩基部分とを連結するリンカーであり;
配列Tは請求項1又は2に記載される変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列(Ta)を含むヌクレオチド配列であり、配列Qは該発現抑制配列Taに相補的な配列(Qa)を含むヌクレオチド配列であり;
m
1及びm
2は、それぞれ独立して、0~5の整数であり;及び
n
1及びn
2は、それぞれ独立して、0~5の整数である]
で示される核酸分子。
【請求項11】
下記(35)~(74)のいずれかの構造を有する、請求項10に記載の核酸分子。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
式中、
下線は一塩基多型の変異を、
イタリック体の下線はミスマッチを、
下線(波線)はヌクレオチド間の結合がホスホロチオエート結合であることを、
枠で囲ったヌクレオチドは、2’-OmeRNAであることを、
小文字で標記したヌクレオチドは、2’-F RNAであることを、
細字の下線は、Wobble pairを、
塩基同士を結ぶ線は、-Z-に相当する部分であり、該部位で相補鎖と結合し得ることを、
それぞれ意味する。
【請求項12】
請求項2に記載される変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列(Ta)を含むヌクレオチド配列Tと、該発現抑制配列Taに相補的な配列(Qa)を含むヌクレオチド配列Qとが、リンカーLを介して、5’から3’方向又は3’から5’方向にT-L-Qの順序で、かつ発現抑制配列とそれに相補的な配列とが分子内で二重鎖を形成し得る配向で連結された、核酸分子。
【請求項13】
前記リンカーLが、下記式で表されるプロリン誘導体リンカーである、請求項12に記載の核酸分子。
【化10】
【請求項14】
前記配列Tが配列Taの5’末端に付加配列Tbを有し、かつ前記配列Qが配列Qaの3’末端に付加配列Qbを有し、配列Tbと配列Qbとが相補的である、請求項12に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記配列Tが3’-オーバーハングを有する、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
下記(75)~(79)のいずれかの構造を有する、請求項15に記載の核酸分子。
【化11】
式中、
下線は一塩基多型の変異を、
イタリック体の下線はミスマッチを
下線(波線)はヌクレオチド間の結合がホスホロチオエート結合であることを、
枠で囲ったヌクレオチドは、2’-OmeRNAであることを、
小文字で標記したヌクレオチドは、2’-F RNAであることを、
Pは、プロリン誘導体リンカーを、
それぞれ示す。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の核酸分子を発現する発現ベクター。
【請求項18】
請求項1~6のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項17に記載の発現ベクターを含む、医薬。
【請求項19】
変異型ALDH2遺伝子発現を抑制しALDH2活性を向上させる、請求項18に記載の医薬。
【請求項20】
ALDH2が関連する疾患の治療または予防用である、請求項18に記載の医薬。
【請求項21】
ALDH2が関連する疾患が、生後低身長・低体重、軽度の精神発達遅延、再生不良性貧血である請求項19に記載の医薬。
【請求項22】
ALDH2が関連する疾患が、ADD症候群及び/又はファンコニ貧血である請求項19に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一塩基多型を特異的にノックダウンすることで野生型ALDH2の割合を増加させ、ALDH2の活性を向上させる核酸分子、および当該核酸分子を含む、ALDH2が関連する疾患の治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ALDH2は2量体を活性単位とし、その活性単位が2つ配位した4量体の形で体内に存在する。ALDH2には遺伝子多型が多く存在するが、顕著な表現型の差異が認められるのはrs671変異体のみである。ALDH2遺伝子の遺伝子型は、野生型ホモ接合体、ヘテロ接合体、及び変異型ホモ接合体の3種があり、野生型ホモ接合体のALDH2活性は100%、変異型ホモ接合体のALDH2活性は0%となるが、ヘテロ接合体の場合、活性が50%ではなく、理論的には15.6%程度まで低下することが明らかにされている。rs671変異体が活性単位である2量体の架橋形成にかかわるアミノ酸の変異であるため、2量体中に一つでもrs671変異体を含むと活性は消失する。そのため4量体中にrs671変異体が一つ存在すると、4量体での活性は50%まで低下する。また4量体中にrs671変異体が2つ存在した場合、各活性単位にrs671変異体が1つずつ含まれると4量体の活性は完全に消失する。そのため、ヘテロ接合体では4量体のすべての組み合わせについて、酵素活性、出現頻度、半減期を考慮すると理論的には15.6%程度まで低下することになる。これまでに低分子化合物によるALDH2の活性化剤は存在するが、RNAi効果によって活性を向上させた報告はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、変異型ALDH2を有するヒトを対象とし、RNAi効果によって該変異型ALDH2のmRNAを選択的に切断することで、野生型ALDH2の割合を増加し、ALDH2活性を向上させ、ホルムアルデヒド代謝異常を改善すること、及び該作用により、ALDH2が関連する疾患、例えば、ADD(Aldehyde degradation deficiency)/AMeD(Aplastic anemia, Mental retardation, and Dwarfism)症候群やファンコニ貧血の治療及び/又は予防剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ALDH2活性減弱を引き起こす一塩基多型の変異型を特異的にノックダウンする遺伝子配列を有する核酸を見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]変異型ALDH2遺伝子における、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列中の、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を、変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列として含む、核酸分子。
[2]前記発現抑制配列が、
(a)配列番号2n(nは1~11から選ばれる整数)で表されるヌクレオチド配列(但し、該配列中、各UはTであってもよい)中の、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列、
(b)(a)のヌクレオチド配列において、1個もしくは2個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列、又は
(c)(a)のヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列である、
好ましくは(a)のヌクレオチド配列である、[1]に記載の核酸分子。
[3]前記発現抑制配列に相補的なヌクレオチド配列をさらに含む、[1]又は[2]に記載の核酸分子。
[4]前記相補的なヌクレオチド配列が、
(d)配列番号2n+1(nは前記(a)と同じ)で表されるヌクレオチド配列(但し、GとUとの対合は相補的とみなす)、
(e)(d)のヌクレオチド配列において、1個もしくは2個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、もしくは付加されたヌクレオチド配列、又は
(f)(d)のヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列である、
好ましくは(d)のヌクレオチド配列である、[3]に記載の核酸分子。
[5]配列番号2n(nは1~11から選ばれる整数)で表されるヌクレオチド配列と、配列番号2n+1で表されるヌクレオチド配列とを含む、[3]又は[4]に記載の核酸分子。
[6]変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNAである、[3]~[5]のいずれかに記載の核酸分子。
[7]前記siRNAが、一方もしくは両方の鎖に3’-オーバーハングを有する、[6]に記載の核酸分子。
[8]配列番号2m(mは12~45から選ばれる整数)で表されるヌクレオチド配列と、該配列にアニーリングした配列番号2m+1で表されるヌクレオチド配列とからなる、[7]に記載の核酸分子。
[9]下記(1)~(34)のいずれかの構造を有する、[8]に記載の核酸分子。
【0006】
【0007】
【0008】
【0009】
[10]下記一般式:
【0010】
【0011】
[式中、X、Y、X1、Y1、X2、Y2は、それぞれ独立して、修飾されていてもよいリボヌクレオチド残基又は修飾されていてもよいデオキシリボヌクレオチド残基であり;
Zは(X)の糖部分の2’位若しくは5’位と(Y)の糖部分の2’位若しくは3’位とを連結するリンカーであり、又は(X)の塩基部分と(Y)の塩基部分とを連結するリンカーであり;
配列Tは上記[1]又は[2]に記載される変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列(Ta)を含むヌクレオチド配列であり、配列Qは該発現抑制配列Taに相補的な配列(Qa)を含むヌクレオチド配列であり;
m1及びm2は、それぞれ独立して、0~5の整数であり;及び
n1及びn2は、それぞれ独立して、0~5の整数である]
で示される核酸分子。
[10-1]リンカーZが、内部にアミド結合を有するアルキル鎖を有する非ヌクレオチド構造、又は(X)の塩基部分と(Y)の塩基部分とを連結する構造である、[10]に記載の核酸分子。
[10-2]式中、リンカーZを含む下記
【0012】
【0013】
の構造が、[式1]、[式2]、[式3]又は[式4]から選ばれる[10]又は[10-1]に記載の核酸分子。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
又は
【0018】
【0019】
[式中、B及びB’は、それぞれ独立して核酸塩基骨格を有する原子団であり、
A1およびA1’は、それぞれ独立して-O-、-NR1a-、-S-又は-CR1aR1b-であり(ここで、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A2およびA2’は、それぞれ独立して-CR2aR2b-、-CO-、アルキニル基、アルケニル基又は単結合であり(ここで、R2a及びR2bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A3およびA3’は、それぞれ独立して-O-又は-NR3a-、-S-、-CR3aR3b-又は単結合であり(ここで、R3a及びR3bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A4およびA4’は、それぞれ独立して-(CR4aR4b)n-、-(CR4aR4b)n-環D-(ここで、環Dは、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~10のヘテロアリール基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基であり;R4a及びR4bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり;nは1~6の整数である)又は単結合であり、
A5およびA5’は、それぞれ独立して-NR5a-又は単結合であり(ここで、R5aは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A6およびA6’は、それぞれ独立して-(CR6aR6b)n-又は単結合であり(ここで、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり;nは1~6の整数である)、
W1は、-(CR1R2)n-、-CO-、-(CR1R2)n-COO-(CR1R2)n-COO-(CR1R2)n、-(CR1R2)n-O-(CR1R2CR1R2O)n-CH2-、-(CR1R2)n-環D-(CR1R2)n-又は-(CR1R2)n-SS-(CR1R2)n-であり(ここで、環Dは、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~10のヘテロアリール基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基であり;R1とR2は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり;nは1~6の整数である)、
E2およびE2’は、それぞれ独立して-CR2aR2b-、-CO-、アルキニル基、アルケニル基又は単結合であり(ここで、R2a及びR2bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
E3およびE3’は、それぞれ独立して-O-又は-NR3a-、-S-、-CR3aR3b-又は単結合であり(ここで、R3a及びR3bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
E4およびE4’は、それぞれ独立して-(CR4aR4b)n-、-(CR4aR4b)n-環D-(ここで、環Dは、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~10のヘテロアリール基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基であり;R4a及びR4bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり;nは1~6の整数である)又は単結合であり、
E5およびE5’は、それぞれ独立して-NR5a-又は単結合であり(ここで、R5aは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
E6およびE6’は、それぞれ独立して-(CR6aR6b)n-又は単結合である(ここで、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり:nは1~6の整数である)]。
[10-3]式中、リンカーZを含む下記
【0020】
【0021】
の構造が、[式4]
【0022】
【0023】
[式中、各記号の定義は、前記と同じである)]である、[10]、[10-1]又は[10-2]に記載の核酸分子。
[10-4]下記(35)~(74)のいずれかの構造を有する、[10]、[10―1]~[10-3]のいずれかに記載の核酸分子。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
[11]上記[1]又は[2]に記載される変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列(Ta)を含むヌクレオチド配列Tと、該発現抑制配列Taに相補的な配列(Qa)を含むヌクレオチド配列Qとが、リンカーLを介して、5’から3’方向又は3’から5’方向にT-L-Qの順序で、かつ発現抑制配列とそれに相補的な配列とが分子内で二重鎖を形成し得る配向で連結された、核酸分子。
[12]前記リンカーLが、下記式で表されるプロリン誘導体リンカーである、[11]に記載の核酸分子。
【0029】
【0030】
[13]前記配列Tが配列Taの5’末端に付加配列Tbを有し、かつ前記配列Qが配列Qaの3’末端に付加配列Qbを有し、配列Tbと配列Qbとが相補的である、[11]又は[12]に記載の核酸分子。
[14]前記配列Tが3’-オーバーハングを有する、[11]~[13]のいずれかに記載の核酸分子。
[15]下記(75)~(79)のいずれかの構造を有する、[14]に記載の核酸分子。
【0031】
【0032】
[16][1]~[15]及び[10-1]~[10-4]のいずれかに記載の核酸分子を発現する発現ベクター。
[17][1]~[15]及び[10-1]~[10-4]のいずれかに記載の核酸分子または[16]に記載の発現ベクターを含む、医薬。
[18]変異型ALDH2遺伝子発現を抑制しALDH2活性を向上させる、[17]に記載の医薬。
[19]ALDH2が関連する疾患の治療または予防用である、[17]に記載の医薬。
[20]ALDH2が関連する疾患が、生後低身長・低体重、軽度の精神発達遅延、再生不良性貧血である[19]に記載の医薬。
[21]ALDH2が関連する疾患が、ADD症候群及び/又はファンコニ貧血である[19]に記載の医薬。
【発明の効果】
【0033】
本発明の核酸分子によって、変異型ALDH2遺伝子の発現を抑え、それにより変異型ALDH2タンパクの発現を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
以下に本発明で使用する用語および記号を定義する。
【0035】
「アミノ基の保護基」とは、具体的には、アセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイル、N-フタルイミド等のアミド系、及び9-フルオニルメトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル等のカルバメート系が挙げられる。
【0036】
「水酸基の保護基」とは、水酸基の反応を防ぐために導入される、当業者に公知の一般的な水酸基の保護基を意味し、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis, published by John Wiley and Sons (1980)に記載の保護基等であり、具体的には、アセチル、ベンゾイル等のアシル系保護基、トリチル、4-メトキシトリチル、4,4’-ジメトキシトリチル、ベンジル等のアルキル系保護基、トリメチルシリル、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジフェニルシリル等のシリル系保護基が挙げられる。
【0037】
「電子求引基」とは、水素原子と比べて、結合原子側から電子をひきつけやすい基を示し、具体的には、シアノ、ニトロ、アルキルスルホニル(例、メチルスルホニル、エチルスルホニル)、ハロゲン(フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)、アリールスルホニル(例、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル)、トリハロメチル(例、トリクロロメチル、トリフルオロメチル)等が挙げられる。
【0038】
「ハロゲン」としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0039】
「アルキル基」(アルキル、アルキル鎖)とは、炭素数1~30、好ましくは1~12、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基を意味し、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等が挙げられる。好ましくは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ぺンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられる。「炭素数1~10のアルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられ、好ましくはC1-6アルキル基(例、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル)が挙げられる。
【0040】
「アルケニル基」(アルケニル)とは、炭素数2~30、好ましくは2~12、より好ましく2~8の直鎖又は分岐鎖アルケニル基を意味し、前記アルキル基において、1個又は複数の二重結合を有するもの等が挙げられる。具体的には、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1,3-ブタジエニル、3-メチル-2-ブテニル等が挙げられる。
【0041】
「アルキニル基」(アルキニル)とは、炭素数2~30、好ましくは2~12、より好ましく2~8の直鎖又は分岐鎖アルキニル基を意味し、前記アルキル基において、1個又は複数の三重結合を有するもの等が挙げられる。具体的には、エチニル、プロピニル、プロパルギル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル等が挙げられる。該アルキニル基は、さらに1個又は複数の二重結合を有していてもよい。
【0042】
「アルコキシ基」(アルコキシ)とは、炭素数1~30、好ましくは1~12、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~4の直鎖又は分岐鎖アルコキシ基を意味し、具体的には、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、tert-ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、2-ペンチルオキシ、3-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、2-ヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0043】
「アリール基」とは、炭素数6~24、好ましくは6~10のアリール基を意味し、フェニル等の単環芳香族炭化水素基、1-ナフチル、2-ナフチル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル、1-フェナントリル、2-フェナントリル、3-フェナントリル、4-フェナントリル、9-フェナントリル等の多環芳香族炭化水素基が挙げられる。「炭素数6~10のアリール基」としては、上記アリール基のうち、炭素数が6~10のものが挙げられ、具体的にはフェニル、ナフチル等が挙げられる。
【0044】
「ヘテロシクロアルキル基」とは、炭素数6~24、好ましくは6~10のヘシクロアルキル基を意味する。ヘテロシクロアルキル基としては、後述のシクロアルキル基の環状構造を形成する1個若しくはそれ以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などで置換されたものが挙げられる。具体的には、[1,3]ジオキソラニル、ピロリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキサゾリジニル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、及びテトラヒドロフリル等が挙げられる。「炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基」としては上記ヘテロシクロアルキル基のうち、炭素数が4~10のものが挙げられ、具体的にはピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、オキセタニル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、チオキセタニル、テトラヒドロチエニル、及びテトラヒドロチオピラニル基等が挙げられる。
【0045】
「アラルキル基」とは、炭素数7~30、好ましくは7~11のアラルキル基を意味し、具体的には、ベンジル、2-フェネチル、およびナフタレニルメチル等が挙げられる。
【0046】
「シクロアルキル基」とは、炭素数3~24、好ましくは3~15のシクロアルキル基を意味し、具体的には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、橋かけ環式炭化水素基、スピロ炭化水素基等が挙げられ、好ましくは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、橋かけ環式炭化水素基等が挙げられる。「橋かけ環式炭化水素基」としては、ビシクロ[2.1.0]ペンチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル、ビシクロ[3.3.1]ノニル、1-アダマンチル、2-アダマンチル等が挙げられる。「スピロ炭化水素基」としては、スピロ[3.4]オクチル等が挙げられる。「炭素数4~10のシクロアルキル基」としては、上記シクロアルキル基のうち、炭素数が4~10のものが挙げられ、具体的にはシクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられる。
【0047】
「シクロアルケニル基」とは、少なくとも1個、好ましくは1または2個の二重結合を含む炭素数3~24、好ましくは3~7のシクロアルケニル基を意味し、具体的には、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル等が挙げられる。前記シクロアルケニル基は、環中に不飽和結合を有する橋かけ環式炭化水素基およびスピロ炭化水素基も含む。「環中に不飽和結合を有する橋かけ環式炭化水素基」としては、ビシクロ[2.2.2]オクテニル、ビシクロ[3.2.1]オクテニル、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプテニル等が挙げられる。「環中に不飽和結合を有するスピロ炭化水素基」としては、スピロ[3.4]オクテニル等が挙げられる。
【0048】
「シクロアルキルアルキル基」とは、前記シクロアルキル基で置換されたアルキル基(上述)を意味し、好ましくは炭素数4~30、より好ましくは4~11のシクロアルキルアルキル基を意味する。具体的には、シクロプロピルメチル、2-シクロブチルエチル、シクロペンチルメチル、3-シクロペンチルプロピル、シクロヘキシルメチル、2-シクロヘキシルエチル、シクロヘプチルメチル等が挙げられる。
【0049】
「アルコキシアルキル基」とは、前記アルコキシ基で置換されたアルキル基(上述)を意味し、好ましくは炭素数2~30、より好ましくは2~12の直鎖又は分岐鎖アルコキシアルキル基を意味する。具体的には、メトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチル、エトキシエチルおよびt-ブトキシメチル等が挙げられる。
【0050】
「アルキレン基」(アルキレン鎖)とは、炭素数1~30、好ましくは1~12、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~4の直鎖又は分岐鎖アルキレン基を意味し、具体的には、メチレン、エチレン、およびプロピレン等が挙げられる。
【0051】
「ヘテロアリール基」は、例えば、単環芳香族複素環式基および縮合芳香族複素環式基を含む。前記ヘテロアリールは、例えば、フリル(例:2-フリル、3-フリル)、チエニル(例:2-チエニル、3-チエニル)、ピロリル(例:1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル)、イミダゾリル(例:1-イミダゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル)、ピラゾリル(例:1-ピラゾリル、3-ピラゾリル、4-ピラゾリル)、トリアゾリル(例:1,2,4-トリアゾール-1-イル、1,2,4-トリアゾール-3-イル、1,2,4-トリアゾール-4-イル)、テトラゾリル(例:1-テトラゾリル、2-テトラゾリル、5-テトラゾリル)、オキサゾリル(例:2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、5-オキサゾリル)、イソキサゾリル(例:3-イソキサゾリル、4-イソキサゾリル、5-イソキサゾリル)、チアゾリル(例:2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル)、チアジアゾリル、イソチアゾリル(例:3-イソチアゾリル、4-イソチアゾリル、5-イソチアゾリル)、ピリジル(例:2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル)、ピリダジニル(例:3-ピリダジニル、4-ピリダジニル)、ピリミジニル(例:2-ピリミジニル、4-ピリミジニル、5-ピリミジニル)、フラザニル(例:3-フラザニル)、ピラジニル(例:2-ピラジニル)、オキサジアゾリル(例:1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)、ベンゾフリル(例:2-ベンゾ[b]フリル、3-ベンゾ[b]フリル、4-ベンゾ[b]フリル、5-ベンゾ[b]フリル、6-ベンゾ[b]フリル、7-ベンゾ[b]フリル)、ベンゾチエニル(例:2-ベンゾ[b]チエニル、3-ベンゾ[b]チエニル、4-ベンゾ[b]チエニル、5-ベンゾ[b]チエニル、6-ベンゾ[b]チエニル、7-ベンゾ[b]チエニル)、ベンズイミダゾリル(例:1-ベンズイミダゾリル、2-ベンズイミダゾリル、4-ベンズイミダゾリル、5-ベンゾイミダゾリル)、ジベンゾフリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、キノキサリニル(例:2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、6-キノキサリニル)、シンノリニル(例:3-シンノリニル、4-シンノリニル、5-シンノリニル、6-シンノリニル、7-シンノリニル、8-シンノリニル)、キナゾリニル(例:2-キナゾリニル、4-キナゾリニル、5-キナゾリニル、6-キナゾリニル、7-キナゾリニル、8-キナゾリニル)、キノリル(例:2-キノリル、3-キノリル、4-キノリル、5-キノリル、6-キノリル、7-キノリル、8-キノリル)、フタラジニル(例:1-フタラジニル、5-フタラジニル、6-フタラジニル)、イソキノリル(例:1-イソキノリル、3-イソキノリル、4-イソキノリル、5-イソキノリル、6-イソキノリル、7-イソキノリル、8-イソキノリル)、プリル、プテリジニル(例:2-プテリジニル、4-プテリジニル、6-プテリジニル、7-プテリジニル)、カルバゾリル、フェナントリジニル、アクリジニル(例:1-アクリジニル、2-アクリジニル、3-アクリジニル、4-アクリジニル、9-アクリジニル)、インドリル(例:1-インドリル、2-インドリル、3-インドリル、4-インドリル、5-インドリル、6-インドリル、7-インドリル)、イソインドリル、フェナジニル(例:1-フェナジニル、2-フェナジニル)またはフェノチアジニル(例:1-フェノチアジニル、2-フェノチアジニル、3-フェノチアジニル、4-フェノチアジニル)等が挙げられる。
「炭素数2~10のヘテロアリール基」としては上記ヘテロアリール基のうち、炭素数が2~10のものが挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、トリアゾリル基、ピリジル基、キノリニル基等が挙げられる。
【0052】
本発明において「置換基」としては、下記置換基群Aに記載のものが挙げられる。
置換基群A
(1)ハロゲン(フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子);
(2)アルキル基(上述);
(3)アルコキシ基(上述);
(4)アルケニル基(上述);
(5)アルキニル基(上述);
(6)ハロアルキル基(例、クロロメチル、フルオロメチル、ジクロロメチル、ジフルオロメチル、ジクロロフルオロメチル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル等);
(7)アリール基(上述);
(8)ヘテロアリール基(上述);
(9)アラルキル基(上述)
(10)シクロアルキル基(上述);
(11)シクロアルケニル基(上述);
(12)シクロアルキルアルキル基(上述);
(13)シクロアルケニルアルキル基(例、シクロペンテニルエチル、シクロヘキセニルエチル、シクロヘキセニルブチル等);
(14)ヒドロキシアルキル基(例、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル等);
(15)アルコキシアルキル基(上述);
(16)アミノアルキル基(例、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル等);
(17)ヘテロシクリル基(例、1-ピロリニル、2-ピロリニル、3-ピロリニル、1-ピロリジニル、2-ピロリジニル、3-ピロリジニル、ピロリジノニル、1-イミダゾリニル、2-イミダゾリニル、4-イミダゾリニル、1-イミダゾリジニル、2-イミダゾリジニル、4-イミダゾリジニル、イミダゾリジノニル、1-ピラゾリニル、3-ピラゾリニル、4-ピラゾリニル、1-ピラゾリジニル、3-ピラゾリジニル、4-ピラゾリジニル、ピペリジノニル、ピペリジノ、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-ピペリジニル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニル、ピペラジノニル、2-モルホリニル、3-モルホリニル、モルホリノ、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル等);
(18)ヘテロシクリルアルケニル基(例、2-ピペリジニルエテニル等);
(19)ヘテロシクリルアルキル基(例、ピペリジニルメチル、ピペラジニルメチル等);
(20)ヘテロアリールアルキル基(例、ピリジルメチル、キノリン-3-イルメチル等);
(21)シリル基;
(22)シリルオキシアルキル基(例、シリルオキシメチル、シリルオキシエチル等)
(23)モノ・ジもしくはトリアルキルシリル基(例、メチルシリル、エチルシリル等);及び
(24)モノ・ジもしくはトリアルキルシリルオキシアルキル基(例、トリメチルシリルオキシメチル等)。
【0053】
1.変異型ALDH2遺伝子の発現を抑制する核酸分子
本発明は、変異型ALDH2のmRNA中のヌクレオチド配列と相補的な配列を含む、変異型ALDH2の遺伝子発現を抑制する核酸分子(以下、「本発明の核酸分子」と記載する場合がある。)を提供する。
【0054】
本発明の核酸分子は、変異型ALDH2遺伝子の発現を抑制する配列として、変異型ALDH2のmRNAの特定の部位と相補的な配列を含む。ヒトのALDH2のゲノムDNA及びmRNAのヌクレオチド配列はNCBIデータベースに、それぞれGenBank Accession No.NG_012250.2及びNM_000690.4として登録されている。本発明の核酸分子が標的とする変異型ALDH2遺伝子は、ヒトALDH2遺伝子において観察される一塩基多型であり、具体的には42,076番目(エクソン12の104番目)の塩基のグアニンがアデニンに置き換わったrs671変異である。当該変異により前駆体ALDH2でいう504番、成熟ALDH2でいう487番アミノ酸であるグルタミン酸がリジンに置き換わる。
より詳細には、本発明の核酸分子は、変異型ALDH2遺伝子(rs671変異)における、配列番号1:
【0055】
【0056】
で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列中の、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を、変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列として含む、核酸分子である。ここで、配列番号1で表されるヌクレオチド配列は、変異型ALDH2遺伝子のrs671変異箇所を含む領域の配列である。変異箇所を太字で示す。
【0057】
変異型ALDH2の遺伝子発現を抑制する配列(以下、単に「発現抑制配列」ともいう)は、ALDH2のmRNAの特定の部位のヌクレオチド配列と相補的な配列である。ここで、「相補的な配列」とは、標的配列に対して完全相補的な(即ち、ミスマッチなくハイブリダイズする)配列だけでなく、哺乳動物細胞の生理的条件下で変異型ALDH2のRNAと特異的にハイブリダイズし得る限り、1ないし数ヌクレオチド、好ましくは、1又は2ヌクレオチドのミスマッチを含む配列であってもよい。例えば、変異型ALDH2のRNA中の標的ヌクレオチド配列の相補鎖配列に対して、90%以上、好ましくは95%以上、97%以上、98%以上、99%以上の同一性を有する配列が挙げられる。本発明における「ヌクレオチド配列の同一性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。また、個々の塩基における相補性は、対象となる塩基とワトソン・クリック型塩基対を形成することに限定されるものではなく、フーグスティーン型塩基対やゆらぎ塩基対(Wobble base pair)を形成することも含む。
【0058】
あるいは、「相補的なヌクレオチド配列」とは、標的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列である。ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6,1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50~65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
【0059】
発現抑制配列が標的とする変異型ALDH2遺伝子のヌクレオチド配列としては、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下のヌクレオチド配列が挙げられる。発現抑制配列は、これらの各標的配列の全部に相補的であってもよいし、該標的配列中の一部に対して相補的であってもよいが、変異型ALDH2遺伝子への特異性を考慮すれば、各標的配列中の連続する15ヌクレオチド以上の配列に対して相補的であることが好ましい。また、発現抑制配列は、上記各標的配列中の連続する15ヌクレオチド以上の配列に加えて、該標的配列に隣接する変異型ALDH2遺伝子のヌクレオチド配列に対して相補的な配列をさらに含むことができる。発現抑制配列が標的とするヌクレオチド配列の長さの上限は特に制限はないが、合成の容易さ等を考慮すれば、例えば100ヌクレオチド以下、好ましくは50ヌクレオチド以下、より好ましくは30ヌクレオチド以下、さらに好ましくは25ヌクレオチド以下の、変異型ALDH2遺伝子の連続する部分ヌクレオチド配列である。従って、発現抑制配列が標的とするヌクレオチド配列の長さは、変異型ALDH2遺伝子のヌクレオチド配列中、好ましくは、連続する15~30ヌクレオチド、より好ましくは、連続する15~25ヌクレオチドの部分ヌクレオチド配列であり得る。
【0060】
本発明の核酸分子は、変異型ALDH2の遺伝子発現を抑制し得る限りRNAであっても、DNAであってもよく、DNA/RNAキメラであってもよい。また、本発明の核酸分子は、変異型ALDH2の遺伝子発現を抑制し得る限り、二本鎖核酸であっても、一本鎖核酸であってもよい。二本鎖核酸の場合、二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッド、DNA/RNAキメラとDNA、RNA又はDNA/RNAキメラとのハイブリッドのいずれであってもよい。
【0061】
本発明の核酸分子が二本鎖核酸の場合、一方の鎖は変異型ALDH2遺伝子の発現抑制配列、即ち、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列中の連続する15ヌクレオチド以上の配列と相補的な配列を含み(以下、標的となる変異型ALDH2遺伝子に結合し、遺伝子発現を抑制する配列を含む鎖を「ガイド鎖」ともいう)、他方の鎖は、少なくとも該発現抑制配列に相補的な配列を含む(以下、発現抑制配列に相補的な配列を含む鎖を「パッセンジャー鎖」ともいう)。ここで「相補的な配列」とは、変異型ALDH2遺伝子のヌクレオチド配列に対する発現抑制配列の相補性について前記したのと同義である。
【0062】
本発明の核酸分子が一本鎖核酸の場合、上記のガイド鎖のみを有する場合と、ガイド鎖とパッセンジャー鎖とが任意のリンカーを介して連結され、分子内で変異型ALDH2遺伝子の発現を抑制する配列とそれに相補的な配列とがハイブリダイズして二重鎖を形成し得る場合とがある。
【0063】
本発明の核酸分子の構成単位としては、例えば、リボヌクレオチド残基およびデオキシリボヌクレオチド残基があげられる。これらのヌクレオチド残基は、例えば、修飾されていても非修飾であってもよい。本発明の核酸分子は、例えば、修飾ヌクレオチド残基を含むことによって、ヌクレアーゼ耐性が向上し、安定性の改善が可能である。また、本発明の核酸分子は、例えば、前記ヌクレオチド残基の他に、さらに、非ヌクレオチド残基を含んでもよい。
【0064】
本発明の核酸分子において、リンカー以外の領域(ガイド鎖やパッセンジャー鎖)の構成単位は、ヌクレオチド残基であることが好ましい。各領域は、例えば、下記(1)~(3)の残基で構成される。
(1)非修飾ヌクレオチド残基
(2)修飾ヌクレオチド残基
(3)非修飾ヌクレオチド残基および修飾ヌクレオチド残基
【0065】
本発明の核酸分子は、例えば、標識物質で標識化されてもよい。標識物質は、特に制限されず、例えば、蛍光物質、色素、同位体等があげられる。標識物質は、例えば、ピレン、TAMRA、フルオレセイン、Cy3色素、Cy5色素等の蛍光団があげられ、色素としては、例えば、Alexa488等のAlexa色素等があげられる。同位体としては、例えば、安定同位体および放射性同位体があげられる。安定同位体は、例えば、被曝の危険性が少なく、専用の施設も不要であることから取り扱い性に優れ、また、コストも低減できる。また、安定同位体は、例えば、標識した化合物の物性変化がなく、トレーサーとしての性質にも優れる。安定同位体としては、例えば、2H、13C、15N、17O、18O、33S、34Sおよび36Sがあげられる。
【0066】
ヌクレオチド残基は、構成要素として、糖、塩基およびリン酸を含む。リボヌクレオチド残基は、糖としてリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)およびウラシル(U)(チミン(T)に置き換えることもできる)を有し、デオキシリボヌクレオチド残基は、糖としてデオキシリボース残基を有し、塩基として、アデニン(dA)、グアニン(dG)、シトシン(dC)およびチミン(dT)(ウラシル(dU)に置き換えることもできる)を有する。
【0067】
修飾ヌクレオチド残基は、ヌクレオチド残基の構成要素のいずれが修飾されていてもよい。本発明において、「修飾」は、例えば、前記構成要素の置換、付加および/または脱離、前記構成要素における原子および/または官能基の置換、付加および/または脱離であり得る。修飾ヌクレオチド残基は、例えば、天然に存在する修飾ヌクレオチド残基であっても、人工的に修飾したヌクレオチド残基であってもよい。天然由来の修飾ヌクレオチド残基としては、例えば、リンバックら(Limbach et al.、1994、Summary:the modified nucleosides of RNA、Nucleic Acids Res.22:2183-2196)を参照できる。
【0068】
ヌクレオチド残基の修飾としては、例えば、リボース-リン酸骨格(以下、リボリン酸骨格)の修飾があげられる。
【0069】
前記リボリン酸骨格において、例えば、リボース残基を修飾できる。前記リボース残基は、例えば、2’位炭素を修飾でき、具体的には、例えば、2’位炭素に結合する水酸基を、水素原子、フッ素等のハロゲン原子又は-O-アルキル基(例、-O-Me基)、-O-アシル基(例、-O-COMe基)及びアミノ基からなる群より選ばれる原子又は基、好ましくは、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基に置換できる。前記2’位炭素の水酸基を水素に置換することで、リボース残基をデオキシリボースに置換できる。前記リボース残基は、例えば、立体異性体に置換でき、例えば、アラビノース残基に置換してもよい。
【0070】
リボリン酸骨格は、例えば、非リボース残基および/または非リン酸を有する非リボリン酸骨格に置換してもよい。非リボリン酸骨格は、例えば、リボリン酸骨格の非荷電体があげられる。非リボリン酸骨格に置換されたヌクレオチドの代替物としては、例えば、モルホリノ、シクロブチル、ピロリジン等があげられる。前記代替物は、この他に、例えば、人工核酸モノマー残基があげられる。具体例として、例えば、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)、ENA(2’-O,4’-C-Ethylene bridged Nucleic Acid)等があげられ、好ましくはPNAである。
【0071】
リボリン酸骨格において、リン酸基を修飾することもできる。リボリン酸骨格において、糖残基に最も隣接するリン酸基は、αリン酸基と呼ばれる。αリン酸基は、負に荷電し、その電荷は、糖残基に非結合の2つの酸素原子にわたって、均一に分布している。αリン酸基における4つの酸素原子のうち、ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と非結合である2つの酸素原子は、以下、「非結合(non-linking)酸素」ともいう。他方、ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と結合している2つの酸素原子は、以下、「結合(linking)酸素」という。αリン酸基は、例えば、非荷電となる修飾、または、非結合酸素における電荷分布が非対称型となる修飾を行うことが好ましい。
【0072】
リン酸基は、例えば、非結合酸素を置換してもよい。非結合酸素は、例えば、S(硫黄)、Se(セレン)、B(ホウ素)、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)およびOR(Rは、アルキル基またはアリール基)のいずれかの原子で置換でき、好ましくは、Sで置換される。非結合酸素は、例えば、両方が置換されていることが好ましく、より好ましくは、両方がSで置換される。このような修飾リン酸基としては、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、ボラノホスフェート、ボラノホスフェートエステル、ホスホネート水素、ホスホロアミデート、アルキルまたはアリールホスホネート、およびホスホトリエステル等があげられ、中でも、前記2つの非結合酸素が両方ともSで置換されているホスホロジチオエートが好ましい。
【0073】
リン酸基は、例えば、結合酸素を置換してもよい。結合酸素は、例えば、S(硫黄)、C(炭素)およびN(窒素)のいずれかの原子で置換でき、このような修飾リン酸基としては、例えば、Nで置換した架橋ホスホロアミデート、Sで置換した架橋ホスホロチオエート、およびCで置換した架橋メチレンホスホネート等があげられる。結合酸素の置換は、例えば、本発明の核酸分子の5’末端ヌクレオチド残基および3’末端ヌクレオチド残基の少なくとも一方において行うことが好ましく、5'側の場合、Cによる置換が好ましく、3’側の場合、Nによる置換が好ましい。
【0074】
リン酸基は、例えば、リン非含有のリンカーに置換してもよい。リンカーとしては、例えば、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチル、カルバメート、アミド、チオエーテル、エチレンオキサイドリンカー、スルホネート、スルホンアミド、チオホルムアセタール、ホルムアセタール、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾ、およびメチレンオキシメチルイミノ等があげられ、好ましくは、メチレンカルボニルアミノ基およびメチレンメチルイミノ基が挙げられる。
【0075】
本発明の核酸分子は、例えば、3’末端および5’末端の少なくとも一方のヌクレオチド残基が修飾されてもよい。当該修飾は前述のとおりであり、好ましくは、末端のリン酸基に行うことが好ましい。リン酸基は全体を修飾してもよいし、リン酸基における1つ以上の原子を修飾してもよい。前者の場合、例えば、リン酸基全体の置換でもよいし、欠失でもよい。
【0076】
末端のヌクレオチド残基の修飾としては、例えば、他の分子の付加があげられる。他の分子としては、例えば、標識物質、保護基等の機能性分子があげられる。保護基としては、例えば、S(硫黄)、Si(ケイ素)、B(ホウ素)、エステル含有基等があげられる。前記標識物質等の機能性分子は、例えば、本発明の核酸分子の検出等に利用できる。
【0077】
他の分子は、ヌクレオチド残基のリン酸基に付加してもよいし、スペーサーを介して、リン酸基または糖残基に付加してもよい。スペーサーの末端原子は、例えば、リン酸基の結合酸素、または、糖残基のO、N、SもしくはCに、付加または置換できる。糖残基の結合部位は、例えば、3’位のCもしくは5’位のC、またはこれらに結合する原子が好ましい。スペーサーは、例えば、前記PNA等のヌクレオチド代替物の末端原子に、付加または置換することもできる。
【0078】
スペーサーは特に制限されず、例えば、-(CH2)n-、-(CH2)nN-、-(CH2)nO-、-(CH2)nS-、O(CH2CH2O)nCH2CH2OH、無塩基糖、アミド、カルボキシ、アミン、オキシアミン、オキシイミン、チオエーテル、ジスルフィド、チオ尿素、スルホンアミド、およびモルホリノ等、ならびに、ビオチン試薬およびフルオレセイン試薬等が挙げられる。前記式において、nは、正の整数であり、n=3または6が好ましい。
【0079】
末端に付加する分子は、これらの他に、例えば、色素、インターカレート剤(例えば、アクリジン)、架橋剤(例えば、ソラレン、マイトマイシンC)、ポルフィリン(TPPC4、テキサフィリン、サッフィリン)、多環式芳香族炭化水素(例えば、フェナジン、ジヒドロフェナジン)、人工エンドヌクレアーゼ(例えば、EDTA)、親油性担体(例えば、コレステロール、コール酸、アダマンタン酢酸、1-ピレン酪酸、ジヒドロテストステロン、1,3-ビス-O(ヘキサデシル)グリセロール、ゲラニルオキシヘキシル基、ヘキサデシルグリセロール、ボルネオール、メントール、1,3-プロパンジオール、ヘプタデシル基、パルミチン酸、ミリスチン酸、O3-(オレオイル)リトコール酸、O3-(オレオイル)コール酸、ジメトキシトリチル、またはフェノキサジン)およびペプチド複合体(例えば、アンテナペディアペプチド、Tatペプチド)、アルキル化剤、リン酸、アミノ、メルカプト、PEG(例えば、PEG-40K)、MPEG、[MPEG]2、ポリアミノ、アルキル、置換アルキル、放射線標識マーカー、酵素、ハプテン(例えば、ビオチン)、輸送/吸収促進剤(例えば、アスピリン、ビタミンE、葉酸)、合成リボヌクレアーゼ(例えば、イミダゾール、ビスイミダゾール、ヒスタミン、イミダゾールクラスター、アクリジン-イミダゾール複合体、テトラアザマクロ環のEu3+複合体)等があげられる。
【0080】
本発明の核酸分子は、5’末端が、例えば、リン酸基またはリン酸基アナログで修飾されてもよい。リン酸基は、例えば、5’一リン酸((HO)2(O)P-O-5’)、5’二リン酸((HO)2(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’三リン酸((HO)2(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’-グアノシンキャップ(7-メチル化または非メチル化、7m-G-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’-アデノシンキャップ(Appp)、任意の修飾または非修飾ヌクレオチドキャップ構造(N-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’一チオリン酸(ホスホロチオエート:(HO)2(S)P-O-5’)、5’ジチオリン酸(ホスホロジチオエート:(HO)(HS)(S)P-O-5’)、5’-ホスホロチオール酸((HO)2(O)P-S-5’)、硫黄置換の一リン酸、二リン酸および三リン酸(例えば、5’-α-チオ三リン酸、5’-γ-チオ三リン酸等)、5’-ホスホルアミデート((HO)2(O)P-NH-5’、(HO)(NH2)(O)P-O-5’)、5’-アルキルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、(OH)2(O)P-5’-CH2、Rはアルキル(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル等))、5’-アルキルエーテルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、Rはアルキルエーテル(例えば、メトキシメチル、エトキシメチル等))等があげられる。
【0081】
ヌクレオチド残基において、塩基は特に制限されない。塩基は、天然の塩基でもよいし、非天然の塩基でもよい。例えば、一般的な塩基、その修飾アナログ等が使用できる。
【0082】
塩基としては、例えば、アデニンおよびグアニン等のプリン塩基、シトシン、ウラシルおよびチミン等のピリミジン塩基があげられる。前記塩基は、この他に、イノシン、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン、ヌバラリン(nubularine)、イソグアニシン(isoguanisine)、ツベルシジン(tubercidine)等があげられる。塩基は、例えば、2-アミノアデニン、6-メチル化プリン等のアルキル誘導体;2-プロピル化プリン等のアルキル誘導体;5-ハロウラシルおよび5-ハロシトシン;5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシン;6-アゾウラシル、6-アゾシトシンおよび6-アゾチミン;5-ウラシル(プソイドウラシル)、4-チオウラシル、5-ハロウラシル、5-(2-アミノプロピル)ウラシル、5-アミノアリルウラシル;8-ハロ化、アミノ化、チオール化、チオアルキル化、ヒドロキシル化および他の8-置換プリン;5-トリフルオロメチル化および他の5-置換ピリミジン;7-メチルグアニン;5-置換ピリミジン;6-アザピリミジン;N-2、N-6、およびO-6置換プリン(2-アミノプロピルアデニンを含む);5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシン;ジヒドロウラシル;3-デアザ-5-アザシトシン;2-アミノプリン;5-アルキルウラシル;7-アルキルグアニン;5-アルキルシトシン;7-デアザアデニン;N6,N6-ジメチルアデニン;2,6-ジアミノプリン;5-アミノ-アリル-ウラシル;N3-メチルウラシル;置換1,2,4-トリアゾール;2-ピリジノン;5-ニトロインドール;3-ニトロピロール;5-メトキシウラシル;ウラシル-5-オキシ酢酸;5-メトキシカルボニルメチルウラシル;5-メチル-2-チオウラシル;5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウラシル;5-メチルアミノメチル-2-チオウラシル;3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウラシル;3-メチルシトシン;5-メチルシトシン;N4-アセチルシトシン;2-チオシトシン;N6-メチルアデニン;N6-イソペンチルアデニン;2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン;N-メチルグアニン;O-アルキル化塩基等であり得る。また、プリンおよびピリミジンには、例えば、米国特許第3,687,808号、「Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering」、858~859頁、クロシュビッツ ジェー アイ(Kroschwitz J.I.)編、John Wiley & Sons、1990、およびイングリッシュら(Englischら)、Angewandte Chemie、International Edition、1991、30巻、p.613に開示されるものが含まれる。
【0083】
修飾ヌクレオチド残基は、これらの他に、例えば、塩基を欠失する残基、すなわち、無塩基のリボリン酸骨格を含んでもよい。また、修飾ヌクレオチド残基は、例えば、米国仮出願第60/465,665号(出願日:2003年4月25日)、および国際出願第PCT/US04/07070号(出願日:2004年3月8日)に記載される残基が使用でき、本発明は、これらの文献を援用できる。
【0084】
本発明の核酸分子の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。前記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法があげられる。前記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。前記化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法およびH-ホスホネート法等があげられる。前記化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。前記化学合成法は、一般に、アミダイトが使用される。前記アミダイトは、特に制限されず、市販のアミダイトとして、例えば、RNA Phosphoramidites(2’-O-TBDMSi、商品名、三千里製薬)、ACEアミダイトおよびTOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト等があげられる。
【0085】
本発明の核酸分子としては、例えば、変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNA、変異型ALDH2遺伝子に対するアンチセンス核酸等が挙げられる。また、本発明の核酸分子としては、ガイド鎖とそれに相補的なパッセンジャー鎖とが、リンカーを介して連結された二重鎖を形成し得る一本鎖核酸分子を挙げることができる。
【0086】
(i)変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNA
変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNAとは、変異型ALDH2遺伝子における、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部もしくは一部と相補的な配列を含むガイド鎖と、それに相補的な配列を含むパッセンジャー鎖とからなる二本鎖オリゴRNAであって、RISC複合体に取り込まれ、ガイド鎖中の変異型ALDH2遺伝子にコードされるmRNAに相補的な配列が当該mRNA中の標的配列と二重鎖を形成することで、当該mRNAを切断し、遺伝子発現を抑制する核酸をいう。ここで「相補的な配列」とは、前記と同義である。
【0087】
変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNAの長さは、ガイド鎖中に、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部もしくは一部と相補的な配列を含む限り特に限定されないが、siRNAが標的とするヌクレオチド配列は、原則的には15~50ヌクレオチド、好ましくは19~30ヌクレオチド、更に好ましくは19~27ヌクレオチド、特に好ましくは19~21ヌクレオチドであり得る。また、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖は、5’または3’末端に、付加的なヌクレオチドを有していてもよい。該付加的ヌクレオチドの長さは、通常2~4ヌクレオチド程度であり、siRNAの全長として19ヌクレオチド以上である。該付加的ヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いると核酸の安定性を向上させることができる場合がある。このような付加的ヌクレオチドの配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNAは、変異型ALDH2遺伝子の発現を抑制する配列として、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部もしくは一部に相補的な配列をガイド鎖中に含むが、好ましい一実施態様においては、発現抑制配列として、下記のいずれかのヌクレオチド配列(配列番号2n(nは1~11から選ばれる整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)を含むガイド鎖と、それに相補的なパッセンジャー鎖(好ましくは配列番号2n+1(nは1~11から選ばれる整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)を含む)とからなる核酸分子等が挙げられる。
【0089】
【0090】
変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNAは、一方もしくは両方の鎖に3’-オーバーハングを有していてもよい。オーバーハングを有する場合、オーバーハングの長さは、特に限定されず、下限が、例えば、1塩基長であり、上限が、例えば、4塩基長、3塩基長であり、範囲が、例えば、1~4塩基長、1~3塩基長、1~2塩基長である。
【0091】
オーバーハングの配列は、特に限定されず、A、U、G、C、Tのいずれであってもよい。オーバーハングの配列は、例えば、3’側から、TT、UU、CU、GC、UA、AA、CC、UG、CG、AU等が例示できる。前記オーバーハングは、例えば、TT、UUとすることで、RNA分解酵素に対する耐性を付加できる。
【0092】
好ましい一実施態様においては、3’-オーバーハングを有する発現抑制配列として、下記のいずれかのヌクレオチド配列(配列番号2m(mは12~45の整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)を含むガイド鎖と、それに相補的な、3’-オーバーハングを有するパッセンジャー鎖(好ましくは配列番号2m+1(mは12~45の整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)を含む)とからなる核酸分子等が挙げられる。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
変異型ALDH2遺伝子に対するsiRNAの合成方法は、特に限定されず、従来公知の核酸の製造方法が採用できる。合成方法としては、例えば、前記相補的な配列を含む核酸およびそれに相補的な配列の核酸をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90~約95℃で約1分程度変性させた後、約30~約70℃で約1~約8時間アニーリングさせることにより調製する方法等が挙げられる。また、siRNAの前駆体となるshRNAを合成し、ダイサー(dicer)を用いてこれを切断することにより調製することもできる。siRNAを構成するヌクレオチド残基もまた、安定性、比活性などを向上させるために、上記と同様の修飾を受けていてよい。
【0098】
(ii)変異型ALDH2遺伝子に対するアンチセンス核酸
変異型ALDH2遺伝子に対するアンチセンス核酸とは、変異型ALDH2遺伝子における、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部もしくは一部、好ましくは該ヌクレオチド配列中、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列と相補的な配列を含み、ALDH2 RNA中の標的配列と特異的な二重鎖を形成して結合することにより、遺伝子発現を抑制する作用を有する核酸をいう。ここで「相補的な配列」とは、前記と同義である。
【0099】
変異型ALDH2遺伝子に対するアンチセンス核酸の長さは特に限定されないが、例えば、10~100ヌクレオチドであり、好ましくは15~40ヌクレオチドであり、より好ましくは15~30ヌクレオチドであり得る。
【0100】
変異型ALDH2遺伝子に対するアンチセンス核酸は、好ましい一実施態様においては、発現抑制配列として、上記配列番号2n(nは1~11の整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)のいずれかで表されるヌクレオチド配列を含む。
【0101】
変異型ALDH2遺伝子に対するアンチセンス核酸は、ギャップマー型であってもよい。ギャップマー型のアンチセンス核酸とは、DNAと、その両側に、修飾や架橋が導入された核酸とを有する核酸である。DNA鎖を主鎖として、主鎖に相補的なRNAがヘテロ2本鎖核酸を形成し、RNAは、RNAase Hにより分解される。糖部の2’位のO-メチル化により、アンチセンス核酸の安定性が向上し、ターゲットへの結合親和性が増大する。また、リン酸結合をホスホロチオエート結合に置換することにより、アンチセンス核酸のヌクレアーゼ耐性が高まる。
【0102】
変異型ALDH2遺伝子に対するアンチセンス核酸の合成方法は、特に限定されず、従来公知の核酸の製造方法が採用できる。合成方法としては、例えば、前記相補的な配列を含む核酸をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成することにより調製する方法等が挙げられる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、従来公知の手法により、化学的に合成することができる。
【0103】
(iii)変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子
本発明において、「変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子」とは、変異型ALDH2遺伝子における、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部もしくは一部と相補的な配列Taを含むガイド鎖配列Tと、Taに相補的な配列Qaを含むパッセンジャー鎖配列Qとが、リンカーLを介して、5’から3’方向又は3’から5’方向にT-L-Qの順序で、かつ配列Taと配列Qaとが分子内で二重鎖を形成し得る配向で連結された、ALDH2遺伝子の発現を抑制する核酸分子をいう。ここで「相補的な配列」とは、前記と同義である。
【0104】
配列Taは、変異型ALDH2遺伝子の、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部又は一部と相補的な配列を含む限り特に限定されないが、Taが標的とするヌクレオチド配列は、原則的には15~49ヌクレオチド、好ましくは19~30ヌクレオチド、更に好ましくは19~27ヌクレオチド、特に好ましくは19~21ヌクレオチドであり得る。
【0105】
変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子は、発現抑制配列として、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部もしくは一部に相補的な配列を、配列Taとしてガイド鎖配列T中に含むが、好ましい一実施態様においては、配列Taとして、上記配列番号2n(nは1~11の整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)のいずれかで表されるヌクレオチド配列を含むガイド鎖配列Tと、配列Taに相補的な配列Qa(好ましくは配列番号2n+1(nは1~11の整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)のいずれかで表されるヌクレオチド配列)を含むパッセンジャー鎖配列Qとを含む核酸分子等が挙げられる。
また、別の実施態様においては、配列Taとして、配列番号2n(nは上記と同義)で表されるヌクレオチド配列(但し、該配列中、各UはTであってもよい)を含み、かつ配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列中の、連続する15ヌクレオチド以上のヌクレオチド配列を含むガイド鎖配列Tと、配列Taに相補的な配列Qa(好ましくは配列Qaに完全相補的な配列(但し、GとUとの対合は相補的とみなす))を含むパッセンジャー鎖配列Qとを含む核酸分子等が挙げられる。
特に好ましい実施態様において、変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子は、配列Taとして、配列番号2n(nは1~11から選ばれる整数)で表されるヌクレオチド配列と、配列Qaとして、配列番号2n+1で表されるヌクレオチド配列とを含む。
【0106】
ガイド鎖配列Tは、例えば、配列Taのみからなってもよいし、さらに付加配列Tbを有してもよい。後者の場合、付加配列Tbは変異型ALDH2遺伝子のヌクレオチド配列と相補的であることを要しない。付加配列Tbは、Taの5’末端もしくは3’末端のいずれに付加されてもよく、両端に付加されてもよい(Tb及びTb’)。好ましくは、TaのリンカーLと連結される側の末端に付加される。配列Tb(Tb’)の長さは、例えば、1~35ヌクレオチドであり、好ましくは、1~25ヌクレオチドであり、より好ましくは、1~11ヌクレオチドであり、特に好ましくは、1、2、3、4、5又は6ヌクレオチドである。
【0107】
パッセンジャー鎖配列Qは、配列Taに相補的な配列Qaを含む限り、特に限定されず、例えば、配列Qaのみからなってもよいし、さらに付加配列Qbを有してもよい。後者の場合、付加配列Qbは付加配列Tbと相補的であることを要しないが、相補的であることが望ましく、特に、付加配列Tb及びQbが、それぞれTa及びQaのリンカーLと連結される側の末端に付加される場合、TbとQbとは相補的であることがより望ましい。付加配列Qbは、Qaの5’末端もしくは3’末端のいずれに付加されてもよく、両端に付加されてもよい(Qb及びQb’)。好ましくは、QaのリンカーLと連結される側の末端に付加される。配列Yb(Yb’)の長さは、例えば、1~35ヌクレオチドであり、好ましくは、1~25ヌクレオチドであり、より好ましくは、1~11ヌクレオチドであり、特に好ましくは、1、2、3、4、5又は6ヌクレオチドである。
【0108】
ガイド鎖配列T及びパッセンジャー鎖配列Qは、リンカーLに連結しない側の末端に、さらにオーバーハングを有してもよい。オーバーハングは、好ましくは、ガイド鎖配列及びパッセンジャー鎖配列のうち、その5’末端がリンカーLに連結される方の配列の3’末端に付加される。
【0109】
オーバーハングの長さは、特に限定されず、下限が、例えば、1ヌクレオチド長であり、上限が、例えば、4ヌクレオチド長、3ヌクレオチド長であり、範囲が、例えば、1~4ヌクレオチド長、1~3ヌクレオチド長、1~2ヌクレオチド長である。
【0110】
オーバーハングの配列は、特に限定されず、A、U、G、C、Tのいずれであってもよい。オーバーハングの配列は、例えば、5’側から、TT、UU、CU、GC、UA、AA、CC、UG、CG、AU等が例示できる。オーバーハングは、例えば、TT、UUとすることで、RNA分解酵素に対する耐性を付加できる。
【0111】
好ましい一実施態様において、変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子は、ヌクレオチド配列Tと、ヌクレオチド配列Qとが、リンカーLを介して、5’から3’方向又は3’から5’方向にT-L-Qの順序で、かつ配列Taと配列Qaとが分子内で二重鎖を形成し得る配向で連結される。リンカーLは、例えば、ヌクレオチド残基から構成されてもよいし、非ヌクレオチド残基から構成されてもよく、ヌクレオチド残基および非ヌクレオチド残基から構成されてもよい。ヌクレオチド残基としては、リボヌクレオチド残基およびデオキシリボヌクレオチド残基があげられる。
【0112】
リンカーLがヌクレオチド残基から構成されている場合、一分子内でセンス領域とアンチセンス領域が互いに塩基対合してステム構造を形成し、同時にリンカーLのヌクレオチド配列がループ構造を形成することによって、分子全体としてヘアピン型のステム-ループ構造を形成しており、変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子は、shRNA(small hairpin RNAまたはshort hairpin RNA)とも言える。リンカーLの長さは、特に限定されないが、例えば、配列Taと配列Qaとが分子内で二重鎖を形成可能な長さであることが好ましい。リンカーLの塩基数は、その下限が、例えば、1塩基、2塩基、3塩基であり、その上限が、例えば、100塩基、80塩基、50塩基である。各リンカー領域の塩基数は、具体例として、例えば、1~50塩基、1~30塩基、1~20塩基、1~10塩基、1~7塩基、1~4塩基等が例示できるが、これには限定されない。リンカーLは、自己アニーリングを生じない構造であることが好ましい。
【0113】
非ヌクレオチド残基から構成されているリンカーL、又はヌクレオチド残基および非ヌクレオチド残基から構成されているリンカーLは、例えば、下記式(I)で表わされる。
【0114】
【0115】
式(I)中、例えば、X1aおよびX1bは、共に水素原子であるか、一緒になって=O、=Sまたは=NHを形成し;X2aおよびX2bは、共に水素原子であるか、一緒になって=O、=Sまたは=NHを形成し;
R3は、環A上のC-3、C-4、C-5またはC-6に結合する水素原子または置換基であり、
L1は、mL個の炭素原子からなるアルキレン鎖であり、ここで、アルキレン炭素原子上の水素原子は、OH、ORa、NH2、NHRa、NRaRb、SH、もしくはSRaで置換されても置換されていなくてもよく、または、L1は、アルキレン鎖の一つ以上の炭素原子が、酸素原子で置換されたポリエーテル鎖であり、ただし、Y1が、NH、OまたはSの場合、Y1に結合するL1の原子は炭素であり、OR1に結合するL1の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接せず;
L2は、nL個の炭素原子からなるアルキレン鎖であり、ここで、アルキレン炭素原子上の水素原子は、OH、ORc、NH2、NHRc、NRcRd、SHもしくはSRcで置換されても置換れていなくてもよく、または、L2は、アルキレン鎖の一つ以上の炭素原子が、酸素原子で置換されたポリエーテル鎖であり、ただし、Y2が、NH、OまたはSの場合、Y2に結合するL2の原子は炭素であり、OR2に結合するL2の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接せず;
Ra、Rb、RcおよびRdは、それぞれ独立して、置換基または保護基であり;
lは、1または2であり;
mLは、0~30の範囲の整数であり;
nLは、0~30の範囲の整数であり;
環Aは、環A上のC-2以外の1個の炭素原子が、窒素、酸素、硫黄で置換されてもよく、
環A内に、炭素-炭素二重結合または炭素-窒素二重結合を含んでもよく、
ヌクレオチド配列Tおよびヌクレオチド配列Qは、それぞれ、-OR1-または-OR2-を介して、非ヌクレオチド構造に結合し、ここで、R1およびR2は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヌクレオチド残基または式(I)の構造である。
【0116】
式(I)中、X1aおよびX1bは、例えば、共に水素原子であるか、一緒になって=O、=Sまたは=NHを形成する。X2aおよびX2bについても同様である。
【0117】
式(I)中、Y1およびY2は、それぞれ独立して、単結合、CH2、NH、OまたはSである。
【0118】
式(I)中、環Aにおいて、lは、1または2である。l=1の場合、環Aは、5員環であり、例えば、ピロリジン骨格である。ピロリジン骨格は、例えば、プロリン骨格、プロリノール骨格等があげられ、これらの二価の構造が例示できる。l=2の場合、環Aは、6員環であり、例えば、ピペリジン骨格である。環Aは、環A上のC-2以外の1個の炭素原子が、窒素、酸素または硫黄で置換されてもよい。また、環Aは、環A内に、炭素-炭素二重結合または炭素-窒素二重結合を含んでもよい。環Aは、例えば、L型およびD型のいずれでもよい。
【0119】
式(I)中、R3は、環A上のC-3、C-4、C-5またはC-6に結合する水素原子または置換基である。R3が置換基の場合、置換基R3は、1でも複数でも、存在しなくてもよく、複数の場合、同一でも異なってもよい。
【0120】
置換基R3は、例えば、ハロゲン、OH、OR4、NH2、NHR4、NR4R5、SH、SR4またはオキソ基(=O)等である。
【0121】
R4およびR5は、例えば、それぞれ独立して、置換基または保護基であり、同一でも異なってもよい。置換基は、上記置換基群Aに記載のものが挙げられ、例えば、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルアルキル、シクロアルケニルアルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アミノアルキル、ヘテロシクリルアルケニル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロアリールアルキル、シリル、シリルオキシアルキル等があげられる。以下、同様である。置換基R3は、これらの列挙する置換基であってもよい。
【0122】
保護基は、例えば、反応性の高い官能基を不活性に変換する官能基であり、公知の保護基等があげられる。保護基は、例えば、文献(J. F. W. McOmie, 「Protecting Groups in Organic Chemistry」 PrenumPress, London and New York, 1973)の記載を援用できる。保護基は、特に制限されず、例えば、tert-ブチルジメチルシリル基(TBDMS)、ビス(2-アセトキシエチルオキシ)メチル基(ACE)、トリイソプロピルシリルオキシメチル基(TOM)、1- (2-シアノエトキシ) エチル基(CEE)、2-シアノエトキシメチル基(CEM)およびトリルスルフォニルエトキシメチル基(TEM)、ジメトキシトリチル基(DMTr)等があげられる。R3がOR4の場合、保護基は、特に制限されず、例えば、TBDMS基、ACE基、TOM基、CEE基、CEM基およびTEM基等があげられる。この他にも、シリル含有基もあげられる。以下、同様である。
【0123】
式(I)中、L1は、mL個の炭素原子からなるアルキレン鎖である。アルキレン炭素原子上の水素原子は、例えば、OH、ORa、NH2、NHRa、NRaRb、SH、もしくはSRaで置換されてもよいし、置換されていなくてもよい。または、L1は、アルキレン鎖の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されたポリエーテル鎖でもよい。ポリエーテル鎖は、例えば、ポリエチレングリコールである。なお、Y1が、NH、OまたはSの場合、Y1に結合するL1の原子は炭素であり、OR1に結合するL1の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接しない。つまり、例えば、Y1がOの場合、その酸素原子とL1の酸素原子は隣接せず、OR1の酸素原子とL1の酸素原子は隣接しない。
【0124】
式(I)中、L2は、nL個の炭素原子からなるアルキレン鎖である。アルキレン炭素原子上の水素原子は、例えば、OH、ORc、NH2、NHRc、NRcRd、SHもしくはSRcで置換されてもよいし、置換されていなくてもよい。または、L2は、アルキレン鎖の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されたポリエーテル鎖でもよい。なお、Y2が、NH、OまたはSの場合、Y2に結合するL2の原子は炭素であり、OR2に結合するL2の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接しない。つまり、例えば、Y2がOの場合、その酸素原子とL2の酸素原子は隣接せず、OR2の酸素原子とL2の酸素原子は隣接しない。
【0125】
L1のmLおよびL2のnLは、特に制限されず、それぞれ、下限は、例えば、0であり、上限も、特に制限されない。nLおよびmLは、例えば、非ヌクレオチド構造の所望の長さに応じて、適宜設定できる。nLおよびmLは、例えば、製造コストおよび収率等の点から、それぞれ、0~30が好ましく、より好ましくは0~20であり、さらに好ましくは0~15である。nLとmLは、同じでもよいし(nL=mL)、異なってもよい。nL+mLは、例えば、0~30であり、好ましくは0~20であり、より好ましくは0~15である。
【0126】
Ra、Rb、RcおよびRdは、例えば、それぞれ独立して、置換基または保護基である。置換基および保護基は、例えば、前述と同様である。
【0127】
式(I)において、水素原子は、例えば、それぞれ独立して、Cl、Br、FおよびI等のハロゲンに置換されてもよい。
【0128】
ヌクレオチド配列Tおよびヌクレオチド配列Qは、例えば、それぞれ、-OR1-または-OR2-を介して、非ヌクレオチド構造に結合する。ここで、R1およびR2は、存在しても存在しなくてもよい。R1およびR2が存在する場合、R1およびR2は、それぞれ独立して、ヌクレオチド残基または式(I)の構造である。R1および/またはR2がヌクレオチド残基の場合、リンカーLの構造は、例えば、ヌクレオチド残基R1および/またはR2を除く式(I)の構造からなる非ヌクレオチド残基と、ヌクレオチド残基とから形成される。R1および/またはR2が式(I)の構造の場合、非ヌクレオチド構造は、例えば、式(I)の構造からなる非ヌクレオチド残基が、2つ以上連結された構造となる。式(I)の構造は、例えば、1個、2個、3個または4個含んでもよい。このように、複数含む場合、式(I)の構造は、例えば、直接連結されてもよいし、ヌクレオチド残基を介して結合してもよい。他方、R1およびR2が存在しない場合、非ヌクレオチド構造は、例えば、式(I)の構造からなる非ヌクレオチド残基のみから形成される。
【0129】
ヌクレオチド配列Tおよびヌクレオチド配列Qと、-OR1-および-OR2-との結合の組合せは、特に制限されず、例えば、以下のいずれかの条件があげられる。
条件(1)
ヌクレオチド配列Tは、-OR2-を介して、ヌクレオチド配列Qは、-OR1-を介して、式(I)の構造と結合する。
条件(2)
ヌクレオチド配列Tは、-OR1-を介して、ヌクレオチド配列Qは、-OR2-を介して、式(I)の構造と結合する。
【0130】
式(I)の構造は、例えば、下記式(I-1)~式(I-9)が例示でき、下記式において、nLおよびmLは、式(I)と同じである。下記式において、qは、0~10の整数である。
【0131】
【0132】
式(I-1)~(I-9)において、nL、mLおよびqは、特に制限されず、前述の通りである。
具体例として、式(I-1)において、nL=8、式(I-2)において、nL=3、式(I-3)において、nL=4または8、式(I-4)において、nL=7または8、式(I-5)において、nL=3およびmL=4、式(I-6)において、nL=8およびmL=4、式(I-7)において、nL=8およびmL=4、式(I-8)において、nL=5およびmL=4、式(I-9)において、q=1およびmL=4があげられる。式(I-4)の一例(nL=8)を、下記式(I-4a)に、式(I-8)の一例(nL=5、mL=4)を、下記式(I-8a)に示す。
【0133】
【0134】
また、式(I-8)の一例(nL=5、mL=4)である、下記式で表されるプロリン誘導体リンカーを以下に示す。
【0135】
【0136】
変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子としては、例えば、下記の核酸分子を挙げることができる。Lは上記の構造で表されるリンカーであり、スペーサー1とスペーサー2とは相補的であることが望ましい。
【0137】
5’-(配列番号2n)-(スペーサー1)-L-(スペーサー2)-(配列番号2n+1)-UU-3’(nは1~11の整数。UUはttであってもよい)
【0138】
特に好ましい実施態様において、変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子として、下記の構造を有するものが挙げられる。
【0139】
【0140】
変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子として、T-L-Qで表されるヘアピン型核酸分子だけでなく、発現抑制配列を含むガイド鎖の両端にリンカーが付加され、各リンカーを介してガイド鎖の一部に相補的なヌクレオチド配列と、ガイド鎖の残りの部分に相補的なヌクレオチド配列とが結合した、ダンベル型の構造を有する一本鎖核酸分子(例えば、特許第4968811号、特許第4965745号等)も包含される。
【0141】
さらに、変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子はL型構造を有する核酸分子であってもよい(L型一本鎖核酸分子)。L型一本鎖核酸分子としては、(i)アンチセンス鎖及びセンス鎖の連結がヌクレオシドの糖部の2’,3’間又は2’,5’間をクロスリンクして得られたL型一本鎖核酸分子、(ii)リンカーとして、内部にアミド結合を有するアルキル鎖を用いたL型一本鎖核酸分子、(iii)ヌクレオシドの塩基間を直接連結したL型一本鎖核酸分子、及び(iv)ヌクレオシドの糖部の1’がHで置換され且つ、アンチセンス鎖及びセンス鎖の連結がヌクレオシドの糖部の2’,2’間をクロスリンクして得られたL型一本鎖核酸分子が挙げられる。
L型一本鎖核酸分子としては、下式の一般式:
【0142】
【0143】
[式中、X、Y、X1、Y1、X2、Y2は、それぞれ独立して、修飾されていてもよいリボヌクレオチド残基又は修飾されていてもよいデオキシリボヌクレオチド残基であり、
T及びQは、標的核酸配列に対して相補的な、連続する14~30個の修飾されていてもよいリボヌクレオチド残基からなる配列とそれに相補的なリボヌクレオチド配列であり(一方が標的核酸配列に対して相補的な配列であれば、他方はそれに相補的な配列である)、
Zは(X)の糖部分の2’位若しくは5’位と(Y)の糖部分の2’位若しくは3’位を連結するリンカーであり、又は(X)の塩基部分と(Y)の塩基部分とを連結するリンカーであり、
m1及びm2は、それぞれ独立して、0~5の整数であり;
n1及びn2は、それぞれ独立して、0~5の整数である]
で示される核酸分子、が挙げられる。
好適な態様において本発明の核酸分子における
【0144】
【0145】
の構造は、
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
又は
【0152】
【0153】
である。
上記式において、
A1およびA1’は、それぞれ独立して-O-、-NR1a-、-S-又は-CR1aR1b-であり(ここで、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A2およびA2’は、それぞれ独立して-CR2aR2b-、-CO-、アルキニル基、アルケニル基又は単結合であり(ここで、R2a及びR2bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A3およびA3’は、それぞれ独立して-O-又は-NR3a-、-S-、-CR3aR3b-又は単結合であり(ここで、R3a及びR3bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A4およびA4’は、それぞれ独立して-(CR4aR4b)n-、-(CR4aR4b)n-環D-(ここで、環Dは、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~10のヘテロアリール基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基であり、R4a及びR4bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり;nは1~6の整数である)又は単結合であり、
A5およびA5’は、それぞれ独立して-NR5a-又は単結合であり(ここで、R5aは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
A6およびA6’は、それぞれ独立して-(CR6aR6b)n-又は単結合であり(ここで、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり;nは1~6の整数である)、
W1は、-(CR1R2)n-、-CO-、-(CR1R2)n-COO-(CR1R2)n-COO-(CR1R2)n、-(CR1R2)n-O-(CR1R2CR1R2O)n-CH2-、-(CR1R2)n-環D-(CR1R2)n-又は-(CR1R2)n-SS-(CR1R2)n-であり(ここで、環Dは、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~10のヘテロアリール基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基であり;R1とR2は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基でありnは1~6の整数である)、
E2およびE2’は、それぞれ独立して-CR2aR2b-、-CO-、アルキニル基、アルケニル基又は単結合であり(ここで、R2a及びR2bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
E3およびE3’は、それぞれ独立して-O-又は-NR3a-、-S-、-CR3aR3b-又は単結合であり(ここで、R3a及びR3bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
E4およびE4’は、それぞれ独立して-(CR4aR4b)n-、-(CR4aR4b)n-環D-(ここで、環Dは、炭素数6~10のアリール基、炭素数2~10のヘテロアリール基、炭素数4~10のシクロアルキル基又は炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基であり;R4a及びR4bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり;nは1~6の整数である)又は単結合であり、
E5およびE5’は、それぞれ独立して-NR5a-又は単結合であり(ここで、R5aは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である)、
E6およびE6’は、それぞれ独立して-(CR6aR6b)n-又は単結合である(ここで、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり:nは1~6の整数である)。
【0154】
上記式において、「炭素数1~10のアルキル基」、「炭素数6~10のアリール基」、「炭素数2~10のヘテロアリール基」、「炭素数4~10のシクロアルキル基」及び「炭素数4~10のヘテロシクロアルキル基」は置換可能な位置で置換されていてもよく、置換基としては前述の置換基群Aに記載のものが挙げられる。
【0155】
ここで、当該L型一本鎖核酸分子は、変異型ALDH2遺伝子の発現を抑制する配列として、配列番号1で表されるヌクレオチド配列で示される領域中の連続する25ヌクレオチド以下の標的配列の全部もしくは一部に相補的な配列をアンチセンス鎖中に含むが、好ましい一実施態様においては、発現抑制配列として、下記のいずれかのヌクレオチド配列(配列番号2k(kは93~132から選ばれる整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)を含むアンチセンス鎖と、それに相補的なセンス鎖(好ましくは配列番号2k-1(kは93~132から選ばれる整数;但し、該配列中、UはTであってもよい)を含む)とからなる核酸分子等が挙げられる。
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
上段:センス鎖、下段:アンチセンス鎖
【0160】
特に好ましい実施態様において、変異型ALDH2遺伝子に対するL型一本鎖核酸分子として、下記の構造を有するものが挙げられる。
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子の合成方法は、特に限定されず、従来公知の核酸の製造方法が採用できる。合成方法としては、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法があげられる。ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法およびH-ホスホネート法等があげられる。化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。化学合成法は、一般に、アミダイトが使用される。アミダイトは、特に制限されず、市販のアミダイトとして、例えば、RNA Phosphoramidites(2’-O-TBDMSi、商品名、三千里製薬)、ACEアミダイトおよびTOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト等があげられる。
【0167】
変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子が、天然の非修飾リボヌクレオチド残基のみで構成される場合、該核酸分子の前駆体として、該核酸分子を発現可能な状態でコードするベクターの形態で提供することもできる。該発現ベクターは、変異型ALDH2遺伝子に対する一本鎖核酸分子をコードするDNAを標的細胞内で機能的なプロモーターの制御下に含むことを特徴とし、その他の構成は何ら制限されない。前記DNAを挿入するベクターは特に制限されず、一般的なベクターを使用することができ、例えば、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクター等があげられる。非ウイルスベクターとしては、例えば、プラスミドベクターがあげられる。該発現ベクターを、自体公知の遺伝子導入法を用いて、標的細胞(変異型ALDH2遺伝子を発現し得る哺乳動物細胞)に導入することにより、該細胞内での変異型ALDH2遺伝子の発現を抑制することができる。
【0168】
2.変異型ALDH2遺伝子発現抑制剤・ALDH2が欠損して発症する疾患治療・予防剤
本発明の核酸分子は、前述のように、変異型ALDH2遺伝子の発現を抑制することができる。したがって、本発明の核酸分子は、変異型ALDH2の発現を抑制することで、ALDH2が欠損して発症する疾患の治療及び発症予防に有効である。ALDH2が欠損して発症する疾患としては、生後低身長・低体重、軽度の精神発達遅延、及び再生不良性貧血等が挙げられる。また、ADD症候群やファンコニ貧血とALDH2欠損との関連性も報告されている。
【0169】
本発明の医薬は、有効量の本発明の核酸分子を単独で用いてもよいし、任意の担体、例えば医薬上許容される担体とともに、医薬組成物として製剤化することもできる。
【0170】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0171】
本発明の核酸分子の標的細胞内への導入を促進するために、本発明の医薬は更に核酸導入用試薬を含むことができる。該核酸導入用試薬としては、アテロコラーゲン;リポソーム;ナノパーティクル;リポフェクチン、リプフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質等を用いることが出来る。
【0172】
好ましい一実施態様において、本発明の医薬は、本発明の核酸分子がリポソームに封入されてなる医薬組成物であり得る。リポソームは、1以上の脂質二重層により包囲された内相を有する微細閉鎖小胞であり、通常は水溶性物質を内相に、脂溶性物質を脂質二重層内に保持することができる。本明細書において「封入」という場合には、本発明の核酸分子はリポソーム内相に保持されてもよいし、脂質二重層内に保持されてもよい。本発明に用いられるリポソームは単層膜であっても多層膜であってもよく、また、粒子径は、例えば10~1000nm、好ましくは50~300nmの範囲で適宜選択できる。標的組織への送達性を考慮すると、粒子径は、例えば200nm以下、好ましくは100nm以下であり得る。
【0173】
核酸のような水溶性化合物のリポソームへの封入法としては、リピドフィルム法(ボルテックス法)、逆相蒸発法、界面活性剤除去法、凍結融解法、リモートローディング法等が挙げられるが、これらに限定されず、任意の公知の方法を適宜選択することができる。
【0174】
別の好ましい一実施態様において、本発明の医薬は、本発明の核酸分子のリガンドとのコンジュゲート体として投与される医薬組成物であり得る。一例として、糖鎖の一種であるGalNAc(N-アセチルガラクトサミン)が付加された核酸分子が挙げられる。GalNAcは肝実質細胞の細胞表面に特異的に発現するアシアロ糖タンパク質受容体と強く結合し、エンドサイトーシスされるが、この受容体はエンドサイトーシスとエキソサイトーシスのリサイクリングが活発に行われるため、核酸分子が効率よく肝実質細胞に引き込まれる。
【0175】
本発明の医薬は、経口的にまたは非経口的に、哺乳動物(例、ヒト、ネコ、フェレット、ミンク、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル)に対して投与することが可能であるが、非経口的に投与するのが望ましい。
【0176】
非経口的な投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
非経口的な投与に好適な別の製剤としては、噴霧剤等を挙げることが出来る。
【0177】
医薬組成物中の本発明の核酸分子の含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
【0178】
本発明の医薬の投与量は、投与の目的、投与方法、対象疾患の種類、重篤度、投与対象の状況(性別、年齢、体重など)によって異なるが、例えば、成人に全身投与する場合、通常、本発明の核酸分子の一回投与量として2nmol/kg以上50nmol/kg以下、局所投与する場合、1pmol/kg以上10nmol/kg以下が望ましい。かかる投与量を1~10回、より好ましくは5~10回投与することが望ましい。
【0179】
本発明の医薬は、例えば、他のALDH2が欠損して発症する疾患に対する治療効果が報告されている他の医薬と組み合わせて用いることができる。これらの併用薬剤は、本発明の医薬とともに製剤化して単一の製剤として投与することもできるし、あるいは、本発明の医薬とは別個に製剤化して、本発明の医薬と同一もしくは別ルートで、同時もしくは時間差をおいて投与することもできる。また、これらの併用薬剤の投与量は、該薬剤を単独投与する場合に通常用いられる量であってよく、あるいは通常用いられる量より減量することもできる。
【0180】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されない。
【実施例0181】
実施例1:二本鎖RNA(siRNA)の合成
表9に示すsiRNAをホスホロアミダイト法に基づき合成した。
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
式中の各記号の定義は以下の通り:
下線:一塩基多型の変異
イタリック体の下線:ミスマッチ
下線(波線):ヌクレオチド間の結合がホスホロチオエート結合
□:2’-Ome RNA
小文字:2’-F RNA
【0187】
実施例2:L型一本鎖核酸分子の合成
表10に示す核酸分子を、ホスホロアミダイト法に基づき、核酸合成機(商品名ABI 3900 DNA Synthesizer、アプライドバイオシステムス)により合成した。RNAアミダイトとして、EMMアミダイト(WO/2013/027843)あるいはTBDMSアミダイト(Proligo)を用い、2’位架橋用アミダイトとしてAEMアミダイトあるいはAECアミダイトを用いた。アミダイトの脱保護は、定法に従った。合成した核酸分子は、HPLCにより精製した。
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
上段はQ配列、下段はT配列
式中の各記号の定義は以下の通り:
下線:一塩基多型の変異
イタリック体の下線:ミスマッチ
下線(波線):ヌクレオチド間の結合がホスホロチオエート結合
□:2’-Ome RNA
小文字:2’-F RNA
細字の下線:Wobble pair
塩基同士を結ぶ線は、-Z-に相当する部分であり、該部位で相補鎖と結合し得ることを意味する。
【0193】
実施例3:一本鎖核酸分子の合成
表11に示す各一本鎖核酸分子を、ホスホロアミダイト法に基づき、核酸合成機(商品名ABI 3900 DNA Synthesizer、アプライドバイオシステムス)により3’側から5’側に向かって合成した。合成には、RNAアミダイトとしてEMMアミダイト(WO/2013/027843)を用いた。また、リンカー領域にはL-プロリンアミダイト(WO/2012/017919)を用いた。アミダイトの脱保護は、WO/2013/027843に記載の方法に従った。合成した一本鎖核酸分子は、HPLCにより精製した。
本発明の一本鎖核酸分子のリンカー領域には、下記L-プロリンアミダイト(以下、Pとする)を用いた。
【0194】
【0195】
【0196】
式中の各記号の定義は以下の通り:
下線:一塩基多型の変異
イタリック体の下線:ミスマッチ
下線(波線):ヌクレオチド間の結合がホスホロチオエート結合
□:2’-Ome RNA
小文字:2’-F RNA
P:前記式で表されるプロリン誘導体リンカー
【0197】
実施例4:ALDH2 mRNA KD活性評価(SNP選択的RT-qPCR)
JHH-7細胞(JCRB細胞バンクより分与)は、トリプシン-EDTA溶液により培養ディッシュから剥がし、細胞数を計測した後、2.5×105 cells/mLとなるように10%FBS含有William’s E Medium(Thermo Fisher Scientific) で調整した。次に、24ウェルプレートに1ウェル当たり98μLのOpti-MEM(Invitrogen)に対し、1μLのLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)となるように調整した混合液を99μLずつ分注した。実施例1~3で調製した各核酸分子(5μM)を1μLずつウェルに加え、室温にて15分間静置した後、細胞数を調節した細胞懸濁液を400μLずつウェルに加え、培養を開始した。
培養24時間後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAの抽出及び精製を行った。尚、RNeasy Mini Kitを用いたtotal RNAの抽出及び精製は、製品プロトコルに従った。回収したtotal RNAは、NanoDrop One(Thermo Fisher Scientific)を用い、濃度を測定した。測定後、total RNAは、10ng/μLとなるように注射用水(大塚製薬)で希釈し、これを逆転写反応のテンプレートとした。逆転写反応には、PrimeScript RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ) を用いた。表12に従い、reaction mixを調整し、96ウェル PCRプレートにreaction mixを5μLずつ加え、テンプレートを5μLずつ加えた。スピンダウンを行った後、サーマルサイクラーを用い、反応を開始した。反応条件は、表13の通りである。
【0198】
【0199】
【0200】
反応終了後、各ウェルに140μLの注射用水を加えた。攪拌した後、スピンダウンし、-30℃で保存した。qPCRは、Brilliant III Ultra-Fast SYBR(登録商標)Green QPCR Master Mix(アジレント・テクノロジー)を使用した。表14に従いreaction mixを調整した。尚、Forward Primerの配列は、5’-AACAATTCCACGTACGGGCT-3’(配列番号182)とし、野生型ALDH2を検出する場合のReverse Primerの配列は、5’-TGACTGTGACAGTTTTCTCTTC-3’(配列番号183)であり、変異型ALDH2を検出する場合のReverse Primerの配列は、5’-TGACTGTGACAGTTTTCTCTTT-3’(配列番号184)であった。
【0201】
【0202】
調整したreaction mixを96ウェル PCRプレートに14μLずつ加え、cDNAを6μLずつ加えた。スピンダウンを行った後、リアルタイム定量PCRシステムを用い、反応を開始した。反応条件は、表15の通りである。
【0203】
【0204】
反応終了後、各サンプルのCt値からΔΔCt法によりMockに対するALDH2(野生型、変異型)の相対発現量を算出した。尚、相対発現量は、HPRT1により標準化した。
結果を表16に示す。
【0205】
実施例5:ALDH2酵素活性測定
ALDH2酵素活性の測定には、Mitochondrial Aldehyde Dehydrogenase(ALDH2) Activity Assay Kit (abcam)を使用した。キット内の1×Extraction Bufferには、protease inhibitorとしてcOmpleteTM Protease Inhibitor Cocktailを加えた。
JHH-7細胞は、トリプシン-EDTA溶液により培養ディッシュから剥がし、細胞数を計測した後、2.5×105 cells/mLとなるように10%FBS含有William’s E Mediumで調整した。次に、10cmディッシュに1ディッシュ当たり1,960μLのOpti-MEMに対し、20 μLのLipofectamine RNAiMAXとなるように調整した混合液を1,980μLずつディッシュに分注した。実施例1~3で調製した各核酸分子(5μM)を20μLずつディッシュに加え、室温にて15分間静置した後、細胞数を調節した細胞懸濁液を8 mLずつディッシュに加え、培養を開始した。
培養3日後、JHH-7細胞はトリプシン-EDTA溶液により培養ディッシュから剥がし、1.5 mLチューブに回収し、遠心分離(1,000×g,5min,RT)した。上清を除き、PBS(-)で洗浄し、遠心分離(1,000×g,5min,RT)した。再度上清を除き、PBS(-)で洗浄し、遠心分離(1,000×g,5min,RT)した。上清を除き、50μLの1×Extraction Buffer containing protease inhibitorを加えた。氷上で20分間静置したのち、遠心分離 (16,000×g,20min,4℃)した。上清を新たな1.5mLチューブに移し、これをサンプルとした。サンプルの一部は、タンパク質定量によって総タンパク濃度を測定した。以降の操作は、製品プロトコルに従った。マイクロプレートリーダー(Multiskan GO, Thermo Fisher Scientific)を用いて10分毎に60分間、計6回吸光度(450nm)を測定した。得られた吸光度から近似曲線の傾きを算出し、これをタンパク質濃度で除することで単位タンパク質当たりのALDH2活性とし、Mockに対する相対活性を求めた。結果を表16に示す。
【0206】
【0207】
本発明により、変異型ALDH2遺伝子の発現を効果的に抑制できる核酸分子、および該核酸分子を含む医薬が提供される。該医薬は、ALDH2活性を向上させ、ホルムアルデヒド代謝異常を改善することにより、ADD(Aldehyde degradation deficiency)/AMeD(Aplastic anemia, Mental retardation, and Dwarfism)症候群やファンコニ貧血の治療及び/又は予防剤として極めて有用である。