(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035698
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】トンネル剥落防止工法及びトンネル剥落防止工法用スプレー剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20240307BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20240307BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C09K3/10 D
E21D11/00 Z
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140318
(22)【出願日】2022-09-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和3年9月6日にハイウェイテクノフェア招待状を配布して公開。 ・令和3年10月6日~7日にハイウェイテクノフェア2021にて公開。 ・令和3年10月6日~20日にハイウェイテクノフェア2021にて公開。 ・令和3年11月4日に株式会社大林組ホームページにて公開。 ・令和3年11月5日に日刊建設工業新聞朝刊にて公開。 ・令和3年11月5日に建設通信新聞朝刊にて公開。 ・令和3年11月5日に日刊工業新聞朝刊にて公開。 ・令和3年11月24日~26日に第4回橋梁・トンネル技術展にて公開。 ・令和4年5月19日~20日にインフラメンテナンス国民会議近畿本部フォーラム2022にて公開。 ・令和4年6月1日にボンド100社会にて公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】500403309
【氏名又は名称】株式会社ケミカル工事
(71)【出願人】
【識別番号】000105648
【氏名又は名称】コニシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】服部 俊
(72)【発明者】
【氏名】富井 孝喜
(72)【発明者】
【氏名】青木 峻二
(72)【発明者】
【氏名】出口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木谷 憶人
(72)【発明者】
【氏名】國川 正勝
(72)【発明者】
【氏名】安永 秀憲
【テーマコード(参考)】
2D155
4H017
【Fターム(参考)】
2D155DB00
2D155KB11
2D155KC06
2D155LA16
4H017AA04
4H017AB03
4H017AD06
4H017AE03
(57)【要約】
【課題】一液型スプレー剤を使用するトンネル剥落防止工法であって、スプレー剤の塗布量を少なく抑えながらも、トンネル内面の剥落を防止するために十分な強度、例えば、コンクリート押し抜き試験での最大荷重1100N以上を実現することができるトンネル剥落防止工法を提供することを目的とする。
【解決手段】
イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物と潜在性硬化剤とを含む1液型のスプレー剤であり、
前記スプレー剤中のイソシアネートプレポリマーの種類及びイソシアヌレート化合物の種類を所定のものとしたスプレー剤をトンネルの内壁に吹き付ける、トンネル剥落防止工法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物と潜在性硬化剤とを含む1液型のスプレー剤であり、
前記スプレー剤中のイソシアネートプレポリマーが以下の化1で示される末端基を複数個含むものであり、イソシアヌレート化合物が以下の化5で示されるものであるスプレー剤をトンネルの内壁に吹き付ける、トンネル剥落防止工法。
【化1】
(化1中、R
1は窒素原子を含むことのある炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、R
2は以下の化2、化3及び化4のうちのいずれか一種以上を含むものである。)
【化2】
(化2中のR
3は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、m及びnは1以上の数である。)
【化3】
(化3中のpは1以上の数である。)
【化4】
(化4中のR
4は水素原子、又は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基であり、q及びrは1以上の数である。)
【化5】
(化5中、R
5、R
6及びR
7は、炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。)
【請求項2】
前記潜在性硬化剤がオキサゾリジン化合物である、請求項1に記載のトンネル剥離防止工法。
【請求項3】
前記スプレー剤が、イソシアネートシランカップリング剤をさらに含有するものである、請求項1又は2に記載のトンネル剥落防止工法。
【請求項4】
イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物と潜在性硬化剤とを含む1液型のスプレー剤であり、
前記スプレー剤中のイソシアネートプレポリマーが以下の化1で示される末端基を複数個含むものであり、イソシアヌレート化合物が以下の化5で示されるものであるトンネル剥落防止工法用スプレー剤。
【化1】
(化1中、R
1は窒素原子を含むことのある炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、R
2は以下の化2、化3及び化4のうちのいずれか一種以上を含むものである。)
【化2】
(化2中のR
3は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、m及びnは1以上の数である。)
【化3】
(化3中のpは1以上の数である。)
【化4】
(化4中のR
4は水素原子、又は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基であり、q及びrは1以上の数である。)
【化5】
(化5中、R
5、R
6及びR
7は、炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの表面からコンクリート片が剥落するのを防止する工法及びこの工法に使用されるスプレー剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルの表面からコンクリート片が剥落するのを防止するために、トンネル内壁に樹脂を含有するスプレー剤を吹き付けて剥落防止層を形成する工法が行われている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の従来の工法に用いられるスプレー剤として2種類の溶液を混合して用いる2液型のものであり、より簡単な設備で塗工が可能な1液型のスプレー剤を用いたトンネル剥落防止工法の開発が望まれている。
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、1液型スプレー剤を使用するトンネル剥落防止工法であって、トンネル内面の剥落を防止するために十分な強度、例えば、コンクリート押し抜き試験での最大荷重1100N以上を実現することができるトンネル剥落防止工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係るトンネル剥落防止工法は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物と潜在性硬化剤とを含む1液型のスプレー剤であり、
前記スプレー剤中のイソシアネートプレポリマーが以下の化1で示される末端基を複数個含むものであり、イソシアヌレート化合物が以下の化5で示されるものであるスプレー剤をトンネルの内壁に吹き付けることを特徴とするものである。
【0007】
【化1】
(化1中、R
1は窒素原子を含むことのある炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、R
2は以下の化2、化3及び化4のうちのいずれか一種以上を含むものである。)
【0008】
【化2】
(化2中、R
3は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、m及びnは1以上の数である。)
【0009】
【0010】
【化4】
(化4中のR
4は水素原子、又は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基であり、q及びrは1以上の数である。)
【0011】
【化5】
(化5中、R
5、R
6及びR
7は、炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。)
【0012】
このように構成したトンネル剥落防止工法によれば、前述したような組成の1液型のスプレー剤をトンネル内壁に吹き付けるので、1液型のスプレー剤でありながらも十分に強度の高い剥落防止層をトンネル内壁上に形成することができる。
【0013】
本発明の具体的な実施態様としては、前記潜在性硬化剤がオキサゾリジン化合物であるものを挙げることができる。
【0014】
前記スプレー剤によって形成される剥落防止層とトンネル表面との接着性をより向上させるためには、前記スプレー剤が、イソシアネートシランカップリング剤をさらに含有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、1液型のスプレー剤でありながら、トンネル内面の剥落を防止するために十分な強度、例えば、コンクリート押し抜き試験での最大荷重1100N以上を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本実施形態に係るトンネル剥落防止工法について説明する。
本実施形態に係るトンネル剥落防止工法は、例えば、トンネル内壁の表面にプライマー層を形成する工程と、このプライマー層の表面に剥落防止層をさらに形成する工程とを含むものである。以下に各工程について説明する。
【0017】
<プライマー層形成工程>
プライマー層は、トンネル内壁上に形成される剥落防止層との接着性を高めるためのものであり、例えば、市販のプライマーをトンネル内壁の全体又は一部に塗布することによって形成されるものである。
プライマー層の塗布量は、適宜選択することができるが、例えば、0.05kg/m2以上0.2kg/m2以下であることが好ましい。
前記プライマーとしては、1液型または2液型のエポキシ樹脂、1液型または2液型のウレタン樹脂、2液型アクリルシリコン樹脂などを挙げることができる。作業性の観点から、1液型の湿気硬化型エポキシ樹脂を使用することが好ましい。前記プライマーとして、1液型の湿気硬化型エポキシ樹脂を使用する場合には、例えば、常温で16時間以上72時間以下養生してプライマー層を形成することができる。
【0018】
<剥落防止層形成工程>
前記剥落防止層は、前述したように形成されたプライマー層の表面にスプレー剤を吹き付けることによって形成することができる。
スプレー剤の吹き付けに用いるスプレー装置は、スプレー剤をトンネル内壁に吹き付けることができるものであれば特に限定されないが、エアレスガンであることが好ましい。
前記スプレー剤の塗布量は任意であるが、0.35kg/m2(0.4mm)以上1.5kg/m2(1.8mm)以下とするのが好ましい。塗布量を0.35kg/m2以上とすれば、剥落防止層の強度を十分に高めることができる。また、塗布量が1.5kg/m2以下であればスプレー剤の使用量を十分に少ない量とすることができる。前記スプレー剤の塗布量は、0.4kg/m2(0.5mm)以上1.0kg/m21.2mm)以下であることがより好ましく、0.5kg/m2(0.6mm)以上0.8kg/m2(1.0mm)以下であることがさらに好ましい。なお、括弧内の数字は各塗布量を塗布した際に形成される剥落防止層の厚みを示している。
【0019】
本実施形態において、前記スプレー剤は1液型のものとしてある。
前記1液型スプレー剤は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物と潜在性硬化剤とを含むものである。
【0020】
<イソシアネートプレポリマー>
前記イソシアネートプレポリマーは、以下の化1で示される末端基を複数個含むものである。
【0021】
【化1】
(化1中、R
1は窒素原子を含むことのある炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、R
2は化2、化3及び化4のうちいずれか1種以上を含むものである。)
【0022】
【化2】
(化2中、R
3は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であり、m及びnは1以上の数である。)
【0023】
【0024】
【化4】
(化4中のR
4は水素原子、又は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基であり、q及びrは1以上の数である。)
【0025】
前述したようなイソシアネートプレポリマーは、例えば、ポリオール化合物とイソシアネート化合物とを、錫触媒等の触媒の存在下又は触媒の無存在下、イソシアネート基が過剰の条件で反応して得られるものである。イソシアネート基が過剰の条件で生成されるので、得られるイソシアネートプレポリマーの末端にはNCO基が結合している。
R1は窒素原子を含むことのある炭素数3以上20以下の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であればよく、R1を構成する脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基の炭素数は6以上20以下のものであることがより好ましく、6以上10以下であることが特に好ましい。
【0026】
前記ポリオール化合物としては、前述した化2、化3及び化4のような構造を分子内に有するポリテトラメチレングリコール(PTMG)やその誘導体等のポリエーテルポリオールを用いることができる。
化2中のR3は、炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基であれば良いが、脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基の炭素数が1以上10以下であることがより好ましく、1以上5以下であることが特に好ましい。
化4中のR4は、水素原子、又は炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基であればよいが、脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基の炭素数が1以上10以下であることがより好ましく、1以上5以下であることが特に好ましい。
【0027】
前記イソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物や脂肪族・脂環式ジイソシアネート化合物を広く使用することができる。具体例としては、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシジルジイソシアネート等を挙げることができる。
脂肪族・脂環式ジイソシアネート化合物の方が、芳香族ジイソシアネート化合物よりもスプレー剤の保存可能時間を延ばすことができることや、剥落防止層の黄変を抑えるという観点から脂環式ジイソシアネート化合物を使用することが特に好ましい。
【0028】
前記イソシアネートプレポリマーとしては、ポリテトラメチレングリコール又はその誘導体とイソホロンジイソシアネートとを、錫触媒の存在下、イソシアネート基が過剰の条件で反応して得られるものを用いるのが特に好ましい。
イソシアネートは、NCO基とOH基との数の比(NCO/OH)が1.5以上2.5以下となる範囲で過剰となっていることが好ましい。
【0029】
前記イソシアネートプレポリマーのスプレー剤中の含有量は、15質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上45質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
<イソシアヌレート化合物>
前記イソシアヌレート化合物は、以下の化5で示されるものである。
【0031】
【化5】
(化5中、R
5、R
6及びR
7は、炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基である。)
【0032】
前記イソシアヌレート化合物は、例えば、以下の化合物に挙げる化合物の三量体、すなわち三分子が縮合して生成したものである。三量体を構成する3つの分子は互いに同じものであっても良いし、異なっていても良い。前記イソシアヌレート化合物を構成する化合物の例としては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシジルジイソシアネート等を挙げることができる。
前記イソシアヌレート化合物は、NCO基が炭素数3~20の脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基を介して環を構成している窒素原子と結合しているため、反応性が低下し、塗装材の保存可能期間を延ばしうるものである。また、形成された剥離防止層の経時的な黄変を抑制することができるため好ましい。
【0033】
前記イソシアヌレート化合物中に導入される脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基の炭素数は3~20である。この炭素数が3以上とすれば、反応性をコントロールしやすく、スプレー剤の可使時間をより延ばすことができるため好ましい。また、炭素数が20以下であれば、剥落防止層の強度をさらに向上させることができるため好ましい。
前記イソシアヌレート化合物としては、イソホロンジイソシアネートの三量体であるイソシアヌレート化合物を用いるのが特に好ましい。
【0034】
本実施形態に係るスプレー剤中のイソシアネートプレポリマーの含有量に対してイソシアヌレート化合物の含有量を増やすと剥落防止層の強度を向上させることができる。一方で、イソシアネートプレポリマーの含有量に対してイソシアヌレート化合物の含有量を減らすことによって、剥落防止層が脆くなることを抑えることができるため好ましい。
そこで、前述した2つの効果のバランスが最もよくなる好適範囲としては、スプレー剤中のイソシアヌレート化合物の含有量と、スプレー剤中のイソシアネートプレポリマーの含有量との比(イソシアネートプレポリマー:イソシアヌレート化合物)が90:10~50:50の範囲内となるように調整されることが好ましく、85:15~60:40の範囲内とすることがより好ましく、80:20~65:35の範囲内とすることが特に好ましい。
また、スプレー剤中のイソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計含有量は、40質量%以上75質量%以下であることが好ましく、45質量%以上65質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
【0035】
<潜在性硬化剤>
前記潜在性硬化剤としては、例えば、オキサゾリジン又はケチミン等を使用することができる。
この潜在性硬化剤の含有量は、前記スプレー剤中に含まれるイソシアネートプレポリマー及びイソシアヌレート化合物が備えるNCO基の総数と潜在性硬化剤由来のNH基の総数との比(NCO/NH)が0.9以上1.5以下となる量であることが好ましく、1.0以上1.38以下となる量であることが特に好ましい。そのため、前記スプレー剤に添加する前記潜在性硬化剤の量(含有量)は、この比(NCO/NH)の目標値と、イソシアネートプレポリマー及びイソシアヌレート化合物中に存在するNCO基の数から適切な量を算出して決めることができる。
【0036】
<その他の成分>
前記スプレー剤は、前述した成分の他にも、目的に応じて触媒、着色剤、揺変剤、接着性付与剤、消泡剤、酸化防止剤、希釈剤等の添加剤をさらに含有するものとしても良い。ただし、これら成分は必須成分ではない。
【0037】
前記触媒としては、前述した潜在性硬化剤であるオキサゾリジンを開環させて反応を促進するオキサゾリジン開環触媒などを挙げることができる。この開環触媒としては、例えば、サリチル酸に代表されるカルボン酸などの酸触媒などを挙げることができる。本実施形態に係るイソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物とは触媒を添加しなくても反応させることが可能なものではあるが、触媒を少量添加することによってより反応を促進させることができる。触媒を添加する場合の前記スプレー剤中の前記触媒の含有量は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計質量を100質量部とした場合に、0.01質量部以上0.1質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上0.05質量部以下であることが特に好ましい。
【0038】
着色剤は、スプレー剤を着色する目的及び/又は紫外線吸収剤や光安定剤等として機能してスプレー剤の老化を防止する目的で添加されるものである。着色剤としては、例えば、市販のトナーやチタン粉末等を挙げることができる。前記着色剤のスプレー剤中の含有量は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計質量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上3質量部以下であることが特に好ましい。
【0039】
揺変剤は、スプレー剤の流動性をコントロールするために添加されるものである。前記揺変剤としては、疎水性シリカやフュームドシリカ等を挙げることができる。前記揺変剤のスプレー剤中の含有量は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計質量を100質量部とした場合に、1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、3質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。
【0040】
接着付与剤は、トンネル内壁のコンクリート表面に対する剥落防止層の接着性を向上させるものである。前記接着性付与剤としては、例えば、シランカップリング剤を挙げることができ、特にイソシアネートシランカップリング剤を好適に使用することができる。該接着付与剤のスプレー剤中の含有量は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計質量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
消泡剤は、スプレー剤中の気泡を消去するためのものであり、必要に応じて市販のものを使用することができる。前記消泡剤のスプレー剤中の含有量は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計質量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0042】
希釈剤は、スプレー剤をスプレー装置で塗布しやすい粘度に希釈するために用いられる有機溶媒等であり、前述した各成分を溶解又は分散させるために適したものを適宜選択して用いることができる。前記希釈剤のスプレー剤中の含有量は特限定されないが、スプレー剤を適切な粘度に調整し、かつスプレー剤の塗布量をできるだけ減らす観点から、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計質量を100質量部とした場合に、1質量部以上60質量部以下であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上40質量部以下であることが特に好ましい。
【0043】
これら添加剤のスプレー剤中における合計含有量は、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との合計質量を100質量部とした場合に、0.1質量部以上60質量部以下の範囲で添加することが好ましく、55質量部以下とすることが好ましい。
【0044】
<本実施形態による効果>
このように構成したトンネル剥落防止工法及びトンネル剥落防止用スプレー剤によれば、前述したような組成のスプレー剤としているので、スプレー剤を何度も重ね塗りすることなく、一回の塗布作業で十分な強度、例えば、コンクリート押し抜き試験での最大荷重1100N(1.1kN)以上を実現することができる剥落防止層を形成することが可能である。
【0045】
1液型のスプレー剤は、従来の2液型スプレー剤に比べて粘度が高いために、スプレー剤に希釈剤を含有させて粘度を調製することが考えられる。このような1液型スプレー剤とする場合には、所望の強度の剥落防止層を形成するために、2液型の場合に比べてスプレー剤の塗布量が多くなってしまうことが考えられる。一方で、本実施形態に係るスプレー剤によれば、少量でも十分な強度の剥落防止層を形成することができる。そのため、本実施形態に係るスプレー剤によれば、希釈剤を含有するものとした場合であっても、塗工量をできるだけ少なく抑えることができる。
【0046】
接着性付与剤としてシランカップリング剤を含有しているので、プライマーへの剥落防止層の接着性を向上させることができる。さらに言えば、シランカップイング剤を含有させることによって、トンネルの内壁(コンクリート)への接着性も向上させることができるので、プライマー層を形成せずにトンネル内壁に直接剥落防止層を形成することも可能であり、前述した実施形態よりもさらに工数を低減することも可能である。
【0047】
本実施形態に係るスプレー剤によれば、前述したように十分に強度の高い剥落防止層を形成することができるために、補強用の繊維シート等の他の補強材を用いる必要がない。
【0048】
本発明は前述した実施形態に限られず、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【実施例0049】
以下に、実施例を挙げて本願発明についてより詳細に説明するが、本願発明はこれらに限られない。
【0050】
<実施例1>
(イソシアネートプレポリマーの作成)
保土谷化学工業株式会社製「PTG-L2000」(分子量2000の変性ポリテトラメチレングリコール)100質量部と、イソホロンジイソシアネート21質量部とを均一に混合し、触媒である日東化成株式会社製「ネオスタン U-830」(ジオクチル錫)0.003質量部の存在下、80℃で2時間反応させて、化1のR2が化2で示されるものでありR3がメチル基であるものに相当するイソシアネートプレポリマーを得た。
【0051】
(1液型スプレー剤の調整)
前述したようにして作製したイソシアネートプレポリマーとその他の成分を混合し、以下の表1に示す組成の1液型スプレー剤を調製した。
【0052】
<実施例2>
三菱ケミカル株式会社製「PTMG1000」(分子量1000のポリテトラメチレングリコール)100質量部と、イソホロンジイソシアネート40質量部とを出発物質として用いた以外は実施例1と同様の手順で化1のR2が化3に相当するイソシアネートプレポリマーを作成し、このイソシアネートプレポリマーを用いて、実施例1と同様の手順で表1に示す組成の1液型スプレー剤を調整した。
【0053】
<実施例3、4、6~8及び比較例1)
日油株式会社製「ポリセリンDCB-1000」(分子量1000のポリオキシテトラメチレン・ポリオキシプロピレングリコール)100質量部と、イソホロンジイソシアネート40質量部とを出発物質として用いた以外は実施例1と同様の手順で化1のR2が化4で示されるものでありR4がメチル基であるものに相当するイソシアネートプレポリマーを作成し、このイソシアネートプレポリマーを用いて、実施例1と同様の手順で表1に示す組成の1液型スプレー剤を調整した。
【0054】
<実施例5>
三菱ケミカル株式会社製「PTMG1000」50質量部と、日油株式会社製「ポリセリンDCB-1000」50質量部と、イソホロンジイソシアネート40質量部とを出発物質として用いた以外は実施例1と同様の手順で、化1のR2が化3で示されるものと化4で示されるものでありR4がメチル基であるものとのを両方含むイソシアネートプレポリマーを作成し、このイソシアネートプレポリマーを用いて、実施例1と同様の手順で表1に示す組成の1液型スプレー剤を調整した。
【0055】
<比較例2、3>
三井化学株式会社製「アクトコールD1000」(分子量 1000のポリプロピレングリコール)100質量部と、イソホロンジイソシアネート40質量部とを出発物質として用いた以外は実施例1と同様の手順でイソシアネートプレポリマーを作成し、このイソシアネートプレポリマーを用いて、実施例1と同様の手順で表1に示す組成の1液型スプレー剤を調整した。
【0056】
【表1】
表1中の単位の記載がない項目の単位は全て(g、すなわち質量部)である。
表1中の各成分は以下の通りである。
イソシアヌレート化合物:住化コベストロウレタン株式会社製「デスモジュール Z4470 BA」(イソホロンジイソシアネート三量体)。
接着性付与剤:信越シリコーン株式会社製「KBE-9007N」(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)。
消泡剤:BYK社製「BYK-1790」。
揺変剤:日本アエロジル株式会社製「アエロジルRY200S」。
希釈剤:Exxon Mobil社製「エクソールD40」。
酸化防止剤:BASFジャパン株式会社製「Irganox1076」
着色剤:テイカ株式会社製「TITANIX JR-600E」。
潜在性硬化剤:化6に示す市販の化合物を用いた。
【化6】
(化6中、R
8は化7で表される化合物である。)
【化7】
開環触媒:市販のサリチル酸を用いた。
【0057】
<コンクリート押し抜き試験>
(供試体の作製)
600×400×60mmのU字溝蓋(JIS A 5372 U形ふた 1種 呼び名300)の中央部にφ100mmの形状でコンクリート用コアカッターにより貫通させ、削孔する。削孔したコアをバックアップ材とシーリング材を用いてU字溝蓋に固定し、施工面の原形を復旧した。シーリング材の硬化を確認した後、施工面の研磨したものを試験体とした。施工面に、一液湿気硬化型エポキシ樹脂プライマーを0.1kg/m2の塗布量となるようにできるだけ均一に塗布し、常温で24時間養生してプライマー層を形成した。プライマー層を形成した後、実施例1~8及び比較例1~3の1液型スプレー剤のいずれかをプライマー層の上に0.5kg/m2の塗布量となるようにできるだけ均一に塗布し、常温で14日間養生して剥落防止層を形成したものを供試体とした。
【0058】
(試験方法)
前述したようにして供試体の表面形成された剥落防止層に対して、NECXO試験方法 試験法734に記載の方法で、23℃の環境下にて、島津オートグラフリフレッシュAG-RX(島津製作所製)を用いて押抜き試験を行い、荷重-変位曲線を得た。そして、最大荷重を求め、これを押抜き強度(kN)とした。この結果を表1の下段に示した。
【0059】
<耐久性試験>
(供試体の作製)
離型紙上に実施例1~5及び比較例1~3の1液型スプレー剤のうちの何れかを平均膜厚が約1mmとなるように塗布し、温度が23℃、湿度が50%の環境下で2週間養生させた後、離型紙から剥がし取ることで各スプレー剤によって形成された薄膜を得た。この薄膜をダンベル3号(JIS K 6251)の型に抜いたものを複数個作製し、そのままブランクとして引張試験に用いる供試体(1)と、温度85℃、湿度85%の環境下で500時間養生させた後の供試体(2)とを用意した。
【0060】
(試験方法)
前述したように作製した各供試体について、オートグラフAGS-X(島津サイエンス社製)を用いて試験速度200mm/min、N=3の条件で引張試験を行った。各供試体について測定した引張強度から以下の計算式(式1)を用いて耐久性を算出した。結果を表1の下段に示す。耐久性は80%以上であれば、実用上耐久性が十分に高いということができる。
耐久性(%)=供試体(2)の引張強度[N/mm2]/供試体(1)の引張強度[N/mm2] ・・・(1)
【0061】
<実施例及び比較例についての考察>
表1の実施例1~8の結果から、本発明に係る一液型スプレー剤を用いた剥落防止工法によれば、トンネル内壁の剥落防止に求められている押抜き強度1100N以上を十分に達成できることが分かった。
【0062】
一方で、比較例1~3に係る一液型スプレー剤を用いた場合には、前述した押抜き強度が達成できておらず、イソシアヌレート化合物の有無や、イソシアネーートプレポリマーの骨格が重要なファクターとなっていることが分かる。
【0063】
また、実施例3と実施例6~8の対比から、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との含有率を変化させると、押抜き強度が変化することも観察されており、イソシアネートプレポリマーとイソシアヌレート化合物との含有比(イソシアネートプレポリマー:イソシアヌレート化合物)が90:10~50:50の範囲内となるように調整されることが好ましいことが分かる。
【0064】
実施例1~3及び5の結果から、耐久性は、イソシアネートプレポリマーの骨格によって影響を受けており、イソシアネートプレポリマーの原料としては、PTMG及びその誘導体であってできるだけ分岐の少ないものを使用すればより耐久性を向上させることができると考えられる。
【0065】
実施例1~8及び比較例1~3においては、各種添加剤を含有するものとしているが、これら添加剤の含有量については目的に応じて適宜変化させることが可能なものであり、これらの含有量を変化させることによって押抜き強度に大きな変化がないことは当業者であれば十分に理解できる範囲内のものである。