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特開2024-35701日持ちする生麺、半生麺の日持ち向上を目的とした製剤およびその用途。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035701
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】日持ちする生麺、半生麺の日持ち向上を目的とした製剤およびその用途。
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20240307BHJP
【FI】
A23L7/109 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140322
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】592019947
【氏名又は名称】鳥越製粉株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片山 達也
(72)【発明者】
【氏名】郡谷 多一
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴志
(72)【発明者】
【氏名】渋田 隆伸
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA02
4B046LB01
4B046LB02
4B046LC09
4B046LE05
4B046LG07
4B046LG09
4B046LG13
4B046LG16
4B046LG19
4B046LG20
4B046LG29
4B046LG51
4B046LP12
4B046LP15
4B046LP72
(57)【要約】
【課題】有機酸由来の酸味を抑えたまま、食感、風味、外観の経時的変化を抑えた生麺及び半生麺を得ることができる。
【解決手段】 フマル酸、アジピン酸からなる群から選ばれる1種類以上の有機酸、ならびに2種類以上の加工デンプン、含硫還元剤を含む生麺及び半生麺用日持ち向上剤を小麦粉原料に粉体混合して製造した生地を麺線に切り出して製造した生麺及び半生麺は、有機酸由来の酸味を抑えたまま、常温で長期保存しても、麺が褐色に変色しにくく、麺の風味の変化が発生しにくく、粘弾性のある食感を維持する事が可能になる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸、アジピン酸からなる群から選ばれる1種類以上の有機酸、ならびに2種類以上の加工デンプンおよび含硫還元剤を含む生麺及び半生麺用日持ち向上剤。
【請求項2】
原料小麦粉100質量部に対して、フマル酸0.01~0.3質量部、アジピン酸0.01~0.3質量部である事を特徴とする請求項1記載の生麺及び半生麺用日持ち向上剤。
【請求項3】
加工デンプンが酢酸デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンからなる群から選ばれる2種類以上である事を特徴とする請求項1または請求項2に記載の生麺及び半生麺用日持ち向上剤。
【請求項4】
原料小麦粉100質量部に対して、2種類以上の加工デンプンの合計が0.5~10質量部である事を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の生麺及び半生麺用日持ち向上剤。
【請求項5】
含硫還元剤がシステイン、グルタチオンからなる群から選ばれる1種類以上である事を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の生麺及び半生麺用日持ち向上剤。
【請求項6】
原料小麦粉100質量部に対して、含硫還元剤が0.001質量部~0.03質量部含有する事を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の生麺及び半生麺用日持ち向上剤。
【請求項7】
生うどん、半生うどん用である、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の生麺及び半生麺用日持ち向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で長期保存可能な麺の食感、風味、外観における経時的変化の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で長期保存が可能な生麺及び半生麺は保存性向上のため、酒精、プロピレングリコール又は還元水あめを添加して、菌数を減らして、菌の増殖を防ぐ事は知られている。しかし、上記の方法だと、菌数を抑える事はできても経時的な食感、風味、外観の変化を抑制する事はできない。そのため、麺類の退色を抑制するために、酢酸やクエン酸などの有機酸とアスコルビン酸などの退色抑制成分を含む、総ルテイン含量が0.21μg/10mg以上の小麦粉を原料とする加工食品向けの、小麦粉本来の黄味を維持する技術がある(特許文献1参照)。また、乳酸を使用してpHを4.0以上5.0以下に調整して、水分19質量部以上23質量部以下になるように乾燥し、非鉄系脱酸素剤と共に脱気包装する事で半生麺の褐変を抑制できる事が知られている(特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1と特許文献2のように有機酸を生地に添加する事で、保存性の向上や褐変を抑制することは出来るが、十分な日持ち向上効果が得られる程度の有機酸を生地に添加する事で、最終製品の食感と食味に悪影響が生じる。また、常温で保存可能な麺の製造方法としてアルコール揮散剤及び脱酸素剤を製品と一緒に封入して酸素バリア製の包材に包装することが一般的に行われている。また菌数を減らす、又は増殖を抑える目的で酒精やプロピレングリコール又は還元水あめを使用する。しかし、上記方法では、保存日数が経過していくと麺が褐色に変色して、麺の風味の変化(味噌様の発酵臭)が発生し、食感に粘弾性がなくなる。特に保存温度が30℃以上になれば、その変化が顕著に現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012―10658
【特許文献2】特開2019―136001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、常温で長期保存しても、麺が褐色に変色しにくく、麺の風味の変化(味噌様の発酵臭)が発生しにくく、粘弾性のある食感が維持される生麺及び半生麺用日持ち向上剤に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、フマル酸、アジピン酸からなる群から選ばれる1種類以上の有機酸、ならびに2種類以上の加工デンプン、含硫還元剤を含む生麺及び半生麺用日持ち向上剤を生地に添加する事で、有機酸由来の酸味を抑えたまま、食感、風味、外観の経時的変化を抑える事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本願の第1の発明は、フマル酸、アジピン酸からなる群から選ばれる1種類以上の有機酸、ならびに2種類以上の加工デンプンおよび含硫還元剤を含む生麺及び半生麺用日持ち向上剤である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明における有機酸が、原料小麦粉100質量部に対して、フマル酸0.01~0.3質量部、アジピン酸0.01~0.3質量部である事を特徴とする生麺及び半生麺用日持ち向上剤である。
【0009】
第3の発明は、第1の発明における2種類以上の加工デンプンが酢酸デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンである事を特徴とする生麺及び半生麺用日持ち向上剤である。
【0010】
第4の発明は、第1の発明における2種類以上の加工デンプンの合計が原料小麦粉100質量部に対して、0.5~10質量部である事を特徴とする生麺及び半生麺用日持ち向上剤である。
【0011】
第5の発明は、第1の発明における含硫還元剤がシステイン、グルタチオンからなる群から選ばれる1種類以上である事を特徴とする生麺及び半生麺用日持ち向上剤である。
【0012】
第6の発明は、第1の発明における含硫還元剤が、原料小麦粉100質量部に対して、0.001質量部~0.03質量部含有する事を特徴とする生麺及び半生麺用日持ち向上剤である。
【0013】
第7の発明は、第1の発明における生麺及び半生麺用日持ち向上剤が生うどん、半生うどん用である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、従来の方法と比較して有機酸由来の酸味を抑えたまま、食感、風味、外観の経時的変化を抑えた生麺及び半生麺を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の日持ちする生麺、半生麺の品質保持を目的とした製剤は、フマル酸、アジピン酸からなる群から選ばれる1種類以上の有機酸、ならびに2種類以上の加工デンプンおよび含硫還元剤を含む生麺及び半生麺用日持ち向上剤である。
【0016】
本発明における生麺とはアルコール、還元水あめを麺用生地に練り込み、製麺後切り出した麺線を乾燥、加熱調理する前に、アルコール揮散剤又は脱酸素剤と一緒に封入して酸素バリア製の包材に包装したものをいう。
【0017】
本発明における半生麺とは、上記生麺を常温又は加熱空気を使用し乾燥させ水分値を約20質量部~27質量部に調製した麺をアルコール揮散剤又は脱酸素剤と一緒に封入して酸素バリア製の包材に包装したものをいう。
【0018】
本発明で言う有機酸とは、酸性を示す有機化合物の総称である。本発明では、フマル酸、アジピン酸を用いる。
【0019】
本発明に用いる加工澱粉とは穀物またはイモ類由来の天然澱粉に物理的、化学的、又は酵素的処理を加えることによって、天然澱粉の特性を改良した澱粉の総称である。
【0020】
本発明に用いる含硫還元剤とは、還元性を有する含硫化合物であれば何れでも良い。含硫還元剤の例としてはシスチン、グルタチオン、還元型グルタチオン、システイン及びそれらの食品として許容しうる塩等を挙げることができ、好ましくはシスチン、グルタチオンからなる群から選ばれる1種以上である。
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる小麦粉は、種類、品種は制限されず、例として強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦を使用する事ができる。
【0022】
製麺における生地の混合方法は、常法に従って行う事ができる。使用するミキサーの種類は加水混合型ミキサー、混錬型ミキサー、連続式ミキサー、真空ミキサー等が挙げられ、特に限定されない。
【0023】
一般的な常温日持ち可能な麺は、菌数を減らす、又は菌の増殖を抑える目的で酒精やプロピレングリコール又は還元水あめを使用する。また、脱酸素剤を製品と一緒に封入して酸素バリア製の包材に包装することが一般的に行われている。
【0024】
本発明において、フマル酸とアジピン酸を生地に添加する。原料小麦粉100質量部に対して、好ましくはフマル酸0.01~0.3質量部、アジピン酸0.01~0.3質量部である。有機酸の添加量が少ない場合、麺の褐変抑制効果が小さく、有機酸の添加量が多い場合、麺の酸味が感じられて、麺の食感がざらついたものになる。
【0025】
本発明において、酢酸デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの群からなる2種類以上の加工デンプンを用いる。加工デンプンの合計が原料小麦粉100質量部に対して、好ましくは0.5質量部~10質量部である。加工デンプンの合計が原料小麦粉100質量部に対して0.5質量部より少なければ、粘弾性の経時変化を抑える効果がなく、10質量部より多ければ、軟らかく、歯にくっつくようなネチャついた食感となる。
【0026】
本発明において、含硫還元剤を生地に添加する。生地に添加する含硫還元剤が、好ましくはシステイン、グルタチオンからなる群から選ばれる1種類以上である。生地に添加する含硫還元剤が、より好ましくは原料小麦粉100質量部に対し、含硫還元剤が0.001質量部~0.03質量部である。含硫還元剤が原料小麦粉100質量部に対して0.001質量部より少なければ、食感改良効果がなく、0.03質量部より多ければ、軟らかく、歯にくっつくようなネチャついた食感となる。
【実施例0027】
本発明における評価基準は表1に示される。本発明における評価の基準として、小麦粉100質量部、食塩水(食塩濃度10%)23質量部、酒精5質量部、ソルビトール3質量部の配合にて製造した製造直後の麺を「コントロール」とした。「コントロール」を製造後に1食ずつ脱酸素剤を封入して、ガスバリア性の包材にいれ、30℃で1か月間保存した麺を「コントロール(30℃1か月保存)」とした。
【0028】
外観の評価は、目視で麺の色調を確認比較したものであり、目視による変色抑制評価において、「コントロール」と同等の外観であるものを5点とし、「コントロール(30℃1か月保存)」と同等のものを1点とした。「コントロール」よりやや変色があるが概ね良好なものを4点 、「コントロール」より変色があるが概ね可(商品価値がある)のものを3点 、「コントロール(30℃1か月保存)」より良いが変色が強いものを2点、として評価した。
【0029】
食感の官能評価については、麺の粘弾性を比較したものであり、「コントロール」と同等の粘弾性であるものを5点とし、「コントロール(30℃1か月保存)」と同等のものを1点とした。「コントロール」より麺の粘弾性がやや弱いが概ね良好なものを4点、「コントロール」より麺の粘弾性が弱いが概ね可(商品価値がある)のものを3点、「コントロール(30℃1か月保存)」より良いが粘弾性が弱いものを2点、として評価した。
【0030】
食味の官能評価については、有機酸由来の酸味感の強さと風味の変化(味噌様の発酵臭)による劣化とを分けて評価した。酸味の強さに関しては、「コントロール」と同等のものを5点とし、「コントロール」より僅かに酸味を感じるが概ね良好なものを4点 、「コントロール」より少し酸味を感じるが概ね可(商品価値がある)のものを3点、「コントロール」より酸味がやや強く感じられるものを2点、「コントロール」より酸味が強く感じられるものを1点とした。
【0031】
風味の変化(味噌様の発酵臭)による劣化に関しては、「コントロール」と同等のものを5点とし、最も劣るものとして「コントロール(30℃1か月保存)」と同等のものを1点とした。「コントロール」より僅かに風味の変化を感じるが概ね良好なものを4点、「コントロール」より少し風味の変化を感じるが概ね可(商品価値がある)のものを3点、風味の変化を感じるが「コントロール(30℃1か月保存)」より風味の変化が弱いものを2点、として評価した。
【0032】
【表1】
【0033】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例1~10及び比較例1~12について、表2~4の示す生地配合で各々、均一に混合し、生地100質量部に食塩水(食塩濃度10%)23質量部、酒精5質量部、ソルビトール3質量部を麺用ミキサーで10分混合してそぼろ状の生地を得た。得られた、そぼろ状の生地を圧延ロールで複合して3mmの麺帯として、圧延方向に2枚重ねて複合圧延して5mmの麺帯を得た。
得られた麺帯をビニール袋で密封して20℃で60分間緩和熟成した。緩和熟成とは、麺帯に水分を馴染ませて、硬直化したグルテン結合組織の網目状構造の歪みや捻りを解消して、柔らかくて弾力のある麺帯にするための工程である。
緩和熟成した麺帯を圧延ロールで段階的に薄くして、最終的に1.7mmの麺帯を得た。
得られた麺帯を切刃#12角刃で切り出し、1食ずつ脱酸素剤を封入したガスバリア性の包材にいれ、30℃で1か月間保存した。保存したものを10人のパネラーにより、各評価項目を5段階で評価し、平均点を求めた。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例1~3及び比較例1~5に示すように、フマル酸、アジピン酸からなる群から選ばれる1種類以上の有機酸を含む実施例1~3は、フマル酸、アジピン酸以外の有機酸を含む比較例1~4、有機酸を含まない比較例5と比べて、外観における劣化と風味の変化(味噌様の発酵臭)による劣化が小さくて、かつ酸味が弱い事が確認された。
【0036】
【表3】
【0037】
実施例4~6及び比較例6~比較例9に示すように、2種類以上の加工デンプンを含む実施例4~6は加工デンプンを1種類含む比較例6~8及び加工デンプンを含まない比較例9と比べて、食感における変化が小さい事が確認された。
【0038】
【表4】
【0039】
実施例7~10及び比較例10~12に示すように、原料小麦粉100質量部に対し、含硫還元剤が0.001質量部及び0.03質量部含む実施例7 ~ 10は含硫還元剤が原料小麦粉100質量部に対し、0.04質量部含有する比較例10及び比較例11と比べて、食感における変化が小さい事が確認された。また、含硫還元剤を含む実施例7 ~ 10は含硫還元剤を含まない比較例12と比べて、食感における変化が小さい事が確認された。