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特開2024-35713沸騰式冷却器および沸騰式冷却器の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035713
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】沸騰式冷却器および沸騰式冷却器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20240307BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20240307BHJP
   F28F 13/02 20060101ALI20240307BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20240307BHJP
   B23K 26/354 20140101ALI20240307BHJP
【FI】
F28D15/02 101G
F28D15/04 B
F28F13/02 A
H01L23/46 A
B23K26/354
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140345
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【弁理士】
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】山中 清晶
(72)【発明者】
【氏名】安東 賢二
(72)【発明者】
【氏名】田辺 章裕
【テーマコード(参考)】
4E168
5F136
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168AD18
4E168CB02
4E168CB18
4E168DA42
4E168DA43
4E168JA03
5F136CC31
5F136CC37
5F136CC38
(57)【要約】
【課題】沸騰面部において凹凸の形成により気泡の発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することが可能な沸騰式冷却器を提供する。
【解決手段】この沸騰式冷却器100は、発熱体HSとの熱交換により冷媒5を沸騰させる沸騰部10と、沸騰部10で気化した冷媒5を凝縮させ、沸騰部10に戻す凝縮部20と、を備える。沸騰部10は、発熱体HSの取付面11aと、取付面11aとは反対側の面11bに設けられ冷媒5に接する沸騰面部13と、を含む。沸騰面部13は、線状に延びるとともに、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部14を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体との熱交換により冷媒を沸騰させる沸騰部と、
前記沸騰部で気化した前記冷媒を凝縮させ、前記沸騰部に戻す凝縮部と、を備え、
前記沸騰部は、前記発熱体の取付面と、前記取付面とは反対側の面に設けられ前記冷媒に接する沸騰面部と、を含み、
前記沸騰面部は、線状に延びるとともに、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部を含む、沸騰式冷却器。
【請求項2】
前記溝部は、前記沸騰面部に開口する穴部、前記穴部における開口部分の少なくとも一部が覆われた中空部、前記穴部または前記中空部から側方に延びる横穴部、前記溝部の開口の一部が覆われたトンネル形状部の少なくともいずれかからなる空間部を含む、請求項1に記載の沸騰式冷却器。
【請求項3】
前記空間部は、前記溝部の一部に部分的に形成された構造である、請求項2に記載の沸騰式冷却器。
【請求項4】
前記溝部の少なくとも一部は、前記溝部の延びる方向と直交する断面において、前記溝部の開口幅よりも幅広の底部を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の沸騰式冷却器。
【請求項5】
前記溝部は、前記沸騰面部に複数形成され、
複数の前記溝部は、
前記沸騰面部に沿って第1方向に延びる複数の第1溝部と、
前記沸騰面部に沿って前記第1方向と異なる第2方向に延びて、前記複数の第1溝部と互いに交差する複数の第2溝部と、を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の沸騰式冷却器。
【請求項6】
前記沸騰部は、前記沸騰部と前記凝縮部との間で前記冷媒を流通させる連通部を有し、
前記第1方向は、前記沸騰部のうちで、前記沸騰面部から前記連通部側に向かう方向であり、
前記第1溝部の数は、前記第2溝部の数よりも多い、請求項5に記載の沸騰式冷却器。
【請求項7】
前記沸騰面部は、
前記溝部が形成された複数の第1領域と、
前記複数の第1領域の間に配置されるとともに前記溝部が形成されていない第2領域と、を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の沸騰式冷却器。
【請求項8】
前記沸騰面部において、前記複数の第1領域と複数の前記第2領域とが、交互に並んで配置されており、
前記複数の第1領域の各々が、隣接する前記第2領域に対して、前記沸騰面部の厚み方向へずれた段差状に形成されている、請求項7に記載の沸騰式冷却器。
【請求項9】
前記溝部は、1μm以上1mm未満の最大開口幅を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の沸騰式冷却器。
【請求項10】
発熱体との熱交換により冷媒を沸騰させる沸騰部と、前記沸騰部で気化した前記冷媒を凝縮させ、前記沸騰部に戻す凝縮部とを備える沸騰式冷却器の製造方法であって、
前記凝縮部を形成する工程と、
前記発熱体の取付面と、前記取付面とは反対側の面に設けられ前記冷媒に接する沸騰面部と、を含む前記沸騰部を形成する工程と、を備え、
前記沸騰部を形成する工程は、前記沸騰面部にエネルギービームを線状パターンで照射して溝加工を施すことにより、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部を、前記沸騰面部に形成する工程を含む、沸騰式冷却器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、沸騰式冷却器および沸騰式冷却器の製造方法に関し、特に、冷媒を沸騰させる沸騰部と冷媒を凝縮させ沸騰部に戻す凝縮部とを備える沸騰式冷却器および沸騰式冷却器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷媒を沸騰させる沸騰部と冷媒を凝縮させ沸騰部に戻す凝縮部とを備える沸騰式冷却器が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1では、冷媒を沸騰させる受熱部(沸騰部)と、冷媒を凝縮させ受熱部に戻す放熱部(凝縮部)とを備える沸騰冷却装置(沸騰式冷却器)が開示されている。受熱部は、冷却対象物が取り付けられる発熱体取付部と、発熱体取付部の裏側に配置された沸騰伝熱面とを含む。沸騰伝熱面は、アルミニウム製板状素材にレーザービームが照射されることによって、内周面が粗面となっている複数の穴、および各穴の開口の周囲に形成された環状隆起部を有している。複数の穴は、いずれも、沸騰伝熱面に開口し、内周面および底部が形成された円形状を有する。環状隆起部は、アルミニウム製板状素材に高エネルギービームを照射することにより発生した溶融アルミニウムの液滴が飛散して穴の周囲に付着し、これが凝固すると共に堆積することによって形成されている。
【0004】
上記特許文献1では、発熱体から発せられる熱が、沸騰伝熱面を介して冷媒に伝わり、沸騰伝熱面に触れている部分において、液相冷媒が沸騰気化してガス状になり、沸騰伝熱面に気泡が発生して液相冷媒中に放出される。上記特許文献1には、表面が粗面になっているので、穴の内周面および環状隆起部の表面において気泡の発生率が向上すること、および、環状隆起部によって沸騰伝熱面の表面が蒸気膜で覆われにくくなるので、バーンアウトの発生を遅らせることができることが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-114304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、穴の内部における気泡の発生率を向上させている一方で、液相冷媒が開口を介してのみ穴の内部に進入可能な構造となっている。そして、穴の開口の周囲が環状隆起部で取り囲まれているため、液相冷媒が開口に流入しにくい構造となっている。このため、気泡が穴の内部から放出される際、穴の外部の液相冷媒が穴の内部へ円滑に供給されにくいため、穴の内部が継続的に気泡で充満し、乾いた状態(ドライアウト)になり易い。特に単位時間あたりの入熱量(熱流束)が大きい状況下で穴の内部のドライアウトが発生しやすいと考えられる。穴の内部がドライアウトの状態になると、沸騰伝熱面の熱伝達率が低下する要因となる。このため、凹凸の形成により気泡の発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することが望まれている。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、沸騰面部において凹凸の形成により気泡の発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することが可能な沸騰式冷却器および沸騰式冷却器の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1発明による沸騰式冷却器は、発熱体との熱交換により冷媒を沸騰させる沸騰部と、沸騰部で気化した冷媒を凝縮させ、沸騰部に戻す凝縮部と、を備え、沸騰部は、発熱体の取付面と、取付面とは反対側の面に設けられ冷媒に接する沸騰面部と、を含み、沸騰面部は、線状に延びるとともに、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部を含む。
【0009】
なお、「エネルギービーム」とは、エネルギーを持った粒子をビーム状に集束したものであり、たとえばレーザービーム、電子ビーム、イオンビームを含む広い概念である。「エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状」とは、沸騰面部を構成する材料表面にエネルギービームを照射して材料を除去する溝加工を行うことにより、材料表面に生じた温度上昇によって材料が急激に溶融および/または蒸発し、溶融および/または蒸発した材料が飛散すること、および飛散した材料がその後に堆積すること、などの結果として、沸騰面部に不規則に形成されるエネルギービーム加工特有の凹凸形状のことを意味する。
【0010】
第1発明による沸騰式冷却器では、上記のように、沸騰面部は、線状に延びるとともに、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部を含む。これにより、沸騰面部に形成された不規則的な凹凸形状の溝部が、核沸騰の起点となることにより、気泡の発生率を高めることができる。そして、凹凸形状が、周囲を囲まれた穴ではなく、線状に延びる溝部であるため、少なくとも溝部の延びる方向には壁が形成されず、液相冷媒を流通させることができる。つまり、溝部の幅方向には一対の内側面が形成されるため、液相冷媒への伝熱面積を大きく確保することで気泡の発生率を高くすることができ、溝部の延びる方向には内側面が形成されないため、発生した気泡が溝部から離脱するのに伴って溝部の外部から溝部内に液相冷媒を円滑に供給することができる。これらの結果、沸騰面部において凹凸の形成により気泡の発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することができる。
【0011】
上記第1発明において、好ましくは、溝部は、沸騰面部に開口する穴部、穴部における開口部分の少なくとも一部が覆われた中空部、穴部または中空部から側方に延びる横穴部、溝部の開口の一部が覆われたトンネル形状部の少なくともいずれかからなる空間部を含む。なお、「沸騰面部に開口する穴部」とは、溝部の内面において、全周が囲まれた局所的な穴(凹部)になっており、かつ、上端が開放されている(開口している)部分である。「中空部」とは、エネルギービームの照射によって飛散した材料の堆積などに起因して、エネルギービームによって形成された穴の開口部分の一部または全部が覆われた部分である。「横穴部」は、エネルギービームの照射に伴う材料の急激な膨張などに起因して、溝部の深さ方向(すなわち、エネルギービームの照射方向)とは異なる側方に向けて窪むように形成された空間部分である。トンネル形状部は、溝部の開口の一部(溝部の長手方向の一部)が、エネルギービームの照射によって飛散した材料の堆積などに起因して屋根状に覆われた結果、トンネル状に形成された空間部分である。このような凹凸形状の空間部を含んだ溝部を形成することにより、沸騰面部において核沸騰の起点となる部分を効果的に形成できる。その結果、沸騰面部における気泡の発生率を効果的に高めることができる。
【0012】
この場合、好ましくは、空間部は、溝部の一部に部分的に形成された構造である。このように構成すれば、溝部の部分構造として、気泡の発生に適した微細な空間部を溝部内に設けることができる。
【0013】
上記第1発明において、好ましくは、溝部の少なくとも一部は、溝部の延びる方向と直交する断面において、溝部の開口幅よりも幅広の底部を有する。このように構成すれば、溝部の内部空間の幅が開口幅よりも大きくなり、溝部の底部で発生した気泡を両側から開口部まで囲む形状の内部空間が形成されるので、溝部の内表面積(伝熱面積)を増大させることができる。その結果、溝部内の冷媒へ効率的に熱伝達を行うことができる。
【0014】
上記第1発明において、好ましくは、溝部は、沸騰面部に複数形成され、複数の溝部は、沸騰面部に沿って第1方向に延びる複数の第1溝部と、沸騰面部に沿って第1方向と異なる第2方向に延びて、複数の第1溝部と互いに交差する複数の第2溝部と、を含む。このように構成すれば、互いに異なる方向に延びる第1溝部と第2溝部とが交差するので、たとえば線状溝を平行に配列した構造と比べて、溝部の延びる方向への液相冷媒の供給を、より効率的に行うことができる。その結果、溝部内での局所的なドライアウトの発生をさらに効果的に抑制できる。
【0015】
この場合、好ましくは、沸騰部は、沸騰部と凝縮部との間で冷媒を流通させる連通部を有し、第1方向は、沸騰部のうちで、沸騰面部から連通部側に向かう方向であり、第1溝部の数は、第2溝部の数よりも多い。このように構成すれば、沸騰部と凝縮部との間で冷媒が循環する際の冷媒の流通方向と、個数の多い第1溝部が延びる第1方向とを、揃えることができる。すなわち、凝縮部から沸騰部に戻る液相冷媒は、連通部から沸騰部に流入して、沸騰面部の位置まで沸騰部中を移動することになるので、概略的には、第1方向と同じ方向に液相冷媒の流れが形成される。この液相冷媒の流れ方向に沿って、個数の多い第1溝部を主たる溝部として設けることで、第1溝部内への液相冷媒の供給を、より効果的に行うことができる。その結果、溝部内での局所的なドライアウトの発生をより一層効果的に抑制できる。
【0016】
上記第1発明において、好ましくは、沸騰面部は、溝部が形成された複数の第1領域と、複数の第1領域の間に配置されるとともに溝部が形成されていない第2領域と、を含む。このように構成すれば、沸騰面部に、相対的に気泡の発生効率が高い第1領域を設けつつ、第1領域の間に、相対的に気泡の発生効率が低く液相冷媒が多く存在する第2領域を設けることができる。これにより、たとえば熱流束が大きく、第1領域に形成された溝部においてもドライアウトが発生しやすい状況下でも、第2領域から第1領域へ液相冷媒を供給する作用が得られる。その結果、溝部内におけるドライアウトの発生を抑制することができる。
【0017】
この場合、好ましくは、沸騰面部において、複数の第1領域と複数の第2領域とが、交互に並んで配置されており、複数の第1領域の各々が、隣接する第2領域に対して、沸騰面部の厚み方向へずれた段差状に形成されている。このように構成すれば、隣り合う第1領域と第2領域とによって、相対的に大きな溝状または穴状の第1構造を沸騰面部に形成しつつ、第1構造のうちの第1領域の表面に、溝部によって、相対的に小さな溝状の第2構造が形成される。これにより、平坦な沸騰面部に第2構造(溝部)だけを設ける場合と比較して、沸騰面部の伝熱面積(液相冷媒と接する表面積)を大きくすることができる。
【0018】
上記第1発明において、好ましくは、溝部は、1μm以上1mm未満の最大開口幅を有する。このように構成すれば、液相冷媒中で、核沸騰の起点となるのに適した大きさの溝部を設けることができる。その結果、沸騰面部における気泡の発生率を効果的に高めることができる。
【0019】
第2発明による沸騰式冷却器の製造方法は、発熱体との熱交換により冷媒を沸騰させる沸騰部と、沸騰部で気化した冷媒を凝縮させ、沸騰部に戻す凝縮部とを備える沸騰式冷却器の製造方法であって、凝縮部を形成する工程と、発熱体の取付面と、取付面とは反対側の面に設けられ冷媒に接する沸騰面部と、を含む沸騰部を形成する工程と、を備え、沸騰部を形成する工程は、沸騰面部にエネルギービームを線状パターンで照射して溝加工を施すことにより、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部を、沸騰面部に形成する工程を含む。
【0020】
第2発明による沸騰式冷却器の製造方法では、上記のように、沸騰部を形成する工程は、沸騰面部にエネルギービームを線状パターンで照射して溝加工を施すことにより、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部を、沸騰面部に形成する工程を含む。これにより、沸騰面部に形成された不規則的な凹凸形状の溝部が、核沸騰の起点となることにより、気泡の発生率を高めることができる。そして、凹凸形状が、周囲を囲まれた穴ではなく、線状に延びる溝部であるため、少なくとも溝部の延びる方向には壁が形成されず、液相冷媒を流通させることができる。つまり、溝部の幅方向には一対の内側面が形成されるため、液相冷媒への伝熱面積を大きく確保することで気泡の発生率を高くすることができ、溝部の延びる方向には内側面が形成されないため、発生した気泡が溝部から離脱するのに伴って溝部の外部から溝部内に液相冷媒を円滑に供給することができる。これらの結果、沸騰面部において凹凸の形成により気泡の発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、上記のように、沸騰面部において凹凸の形成により気泡の発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態による沸騰式冷却器を示した模式的な斜視図である。
図2】第1実施形態による沸騰式冷却器を示した模式的な分解斜視図である。
図3】第1実施形態による沸騰式冷却器を示した模式的な縦断面図である。
図4】沸騰面部の第1例を示した模式的な平面図である。
図5】沸騰面部の位置および溝部の向きを示した沸騰部の模式的な平面図である。
図6】溝部の第1例の加工イメージを示した模式的な断面図(A)および実際に形成される溝部の第1例の模式的な断面図(B)である。
図7】エネルギービーム加工による凹凸形成を説明するための模式図である。
図8】溝部の第2例(A)および変形例(B)を示した模式的な断面図である。
図9】溝部の第3例の平面図(A)および模式的な断面図(B)、第3例の変形例を示した平面図(C)および模式的な断面図(D)である。
図10】比較例による穴部の平面説明図(A)、穴部のP-P断面説明図(B)、穴部のQ-Q断面説明図(C)と、第1実施形態による溝部の平面説明図(D)、溝部のP-P断面説明図(E)、溝部のQ-Q断面説明図(F)とである。
図11】凝縮部を形成する工程の説明図である。
図12】沸騰部を形成する工程の説明図である。
図13】沸騰部と凝縮部とを接合する工程、および取付面への発熱体の取り付けを説明するための説明図である。
図14】溝部の形成パターンの第1変形例の説明図である。
図15】溝部の形成パターンの第2変形例の説明図である。
図16】第1実施形態の第1変形例による沸騰式冷却器を示した模式的な分解斜視図である。
図17】第1実施形態の第2変形例による沸騰式冷却器を示した模式的な分解斜視図である。
図18】第2実施形態による沸騰式冷却器を示した模式的な斜視図である。
図19】第2実施形態による沸騰式冷却器の沸騰部を示した模式的な分解斜視図(1)である。
図20】第2実施形態による沸騰式冷却器の沸騰部を示した模式的な分解斜視図(2)である。
図21】第2実施形態による沸騰式冷却器の取付部の蒸発部本体への取り付けを説明するための図である。
図22】第2実施形態による沸騰式冷却器の蒸発部の凝縮部への取り付けを説明するための図である。
図23】第2実施形態による沸騰式冷却器に発熱体を取り付けた状態を説明するための図である。
図24】第2実施形態の第1変形例による沸騰式冷却器の蒸発部を示した模式的な分解斜視図である。
図25】第2実施形態の第2変形例による沸騰式冷却器の蒸発部を示した模式的な分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
[第1実施形態]
図1図9を参照して、第1実施形態による沸騰式冷却器100(以下、冷却器100という)の構成について説明する。冷却器100は、冷媒5(図3参照)の気化と凝縮との相変化(潜熱)を利用して、発熱体HSからの熱を吸収して、外部に放熱する沸騰冷却方式による冷却器である。発熱体HSは、たとえば、CPU(中央処理装置)である。発熱体HSは、特に限定されない。冷媒5は、たとえば、フルオロカーボン、ハイドロカーボン、または、水である。冷媒5は、特に限定されない。
【0025】
以下では、水平面内において、互いに略直交する2つの方向を、それぞれX方向およびY方向とする。水平面(X-Y平面)と略直交する上下方向を、Z方向とする。なお、Z方向は重力方向と平行で、下方向に重力が作用するものとする。
【0026】
図1図3に示すように、冷却器100は、沸騰部10と、凝縮部20とを備える。沸騰部10は、発熱体HSとの熱交換により冷媒5(図3参照)を沸騰させる。凝縮部20は、沸騰部10で気化した冷媒5を凝縮させ、沸騰部10に戻す。沸騰部10と、凝縮部20とは、互いに連通した気密の内部空間を有し、内部空間内に冷媒5を収容している。第1実施形態では、沸騰部10と凝縮部20とは、一体型である。すなわち、沸騰部10と、凝縮部20とは、互いに隣接(接触)している。
【0027】
沸騰部10は、取付部11と、収容部12(図3参照)とを含む。取付部11は、水平方向に延びる板状形状を有する。また、取付部11の下側(Z2方向側)の面が、発熱体HSの取付面11aである。取付部11において、取付面11aと反対側の上側(Z1方向側)の面11bに、沸騰面部13が設けられている。収容部12は、液相の冷媒5を収容する。図3に示すように、収容部12は、底面部12aおよび周壁12bを有し、下方向(Z2方向)に窪む凹状部材である。収容部12は、上面が凝縮部20の下面に接合されている。底面部12aには孔部12dが設けられており、この孔部12dが取付部11によって塞がれている。沸騰面部13は、取付部11の面11bにおいて、孔部12dの内部に収まるように配置されている。収容部12内において、沸騰面部13は、液相の冷媒5に接する。なお、沸騰面部13の詳細については、後述する。
【0028】
凝縮部20は、プレートフィン型の熱交換器により構成されている。凝縮部20は、1つ以上の冷媒通路21と、1つ以上の外部通路22とを含む。図1図3の例では、4つの冷媒通路21と5つの外部通路22とが凝縮部20に設けられている。図3に示すように、冷媒通路21と外部通路22とは、仕切板23を間に挟んで、Z方向に交互に配置されている。それぞれの冷媒通路21は、X方向に延びる中空板状の空間であり、冷却器100の閉じた内部空間の一部を構成する。冷媒通路21は、冷媒5を流通させる流路である。冷媒通路21内には、X方向に延びるコルゲートフィン(図示せず)が配置されている。
【0029】
外部通路22は、外部流体を流通させる流路である。外部流体は、冷媒5を冷却させる流体であり、たとえば、空気である。外部流体は、特に限定されない。外部通路22(図1参照)は、外部に開口している。外部通路22は、冷媒通路21および沸騰部10(収容部12)とは連通していない。外部通路22は、冷却器100をY方向に貫通するように形成されている。外部通路22内には、Y方向に延びるコルゲートフィン22aが配置されている。
【0030】
図3に示すように、凝縮部20は、冷媒通路21と沸騰部10とを連通させる接続路24を含む。5つの冷媒通路21は、それぞれ、Z方向に延びる接続路24を介して、沸騰部10の収容部12に連通している。接続路24は、沸騰部10の連通部12cに繋がる1つの一端部を有し、X方向の側面においてそれぞれの冷媒通路21の端部開口に繋がるように形成された通路(分岐路)である。接続路24は、X方向における、冷媒通路21の一方側端部と他方側端部とに、それぞれ(2つ)設けられている。一方の接続路24が、沸騰部10で気化した気相の冷媒5を沸騰部10から各冷媒通路21に供給する機能を果たし、他方の接続路24が、各冷媒通路21で凝縮された液相の冷媒5を凝縮部20から沸騰部10に供給する機能を果たす。沸騰部10の連通部12cは、沸騰部10と凝縮部20との間で冷媒5を流通させるための接続口(開口)である。連通部12cは、収容部12と凝縮部20とを仕切る仕切板23aに形成されている。連通部12cは、2つの接続路24に対応して、X方向における、沸騰部10の一方側端部と他方側端部とに、それぞれ設けられている。
【0031】
発熱体HSの熱が取付部11を介して沸騰面部13に伝達されると、収容部12内に貯留された液相の冷媒5は、加熱されて沸騰する。沸騰に伴い気化した気相の冷媒5は、一方(図3では左側)の連通部12cおよび接続路24を通って冷媒通路21内に移動する。気相の冷媒5は、冷媒通路21内で、隣接する外部通路22を流通する外部流体との熱交換により冷却されて凝縮する。凝縮した液相の冷媒5は、冷媒通路21内を移動して、他方(図3では右側)の接続路24および連通部12cを通って収容部12内に戻る。このように、冷却器100内に封入された冷媒5は、発熱体HSからの入熱により、沸騰部10と凝縮部20との間で循環される。冷媒5の循環に伴い、発熱体HSが冷却される。
【0032】
(沸騰面部の構成)
ここで、第1実施形態では、図2に示すように、沸騰面部13は、線状に延びる溝部14を有している。そして、溝部14は、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状(図6(B)参照)を有する。溝部14は、(1)沸騰面部13における伝熱面積(冷媒5と接触する表面積)を増大させる機能、(2)冷媒5の核沸騰の起点となる凹凸を提供する機能、および、(3)溝部14の内部に発生した気泡が溝部14から離脱する際に新たな液相の冷媒5を離脱箇所へ供給する冷媒5の流動経路としての機能、を主として有する。なお、溝部14は、沸騰面部13側が開口し、底部を有する非貫通の凹溝である。溝部14は、沸騰面部13に対する深さよりも、沸騰面部13に沿った長さが大きい線状の凹部である。
【0033】
第1実施形態では、沸騰面部13は、取付部11の面11bに一体形成されている。図2の例では、沸騰面部13は、面11bから一段突出するように形成された平坦面部分である。溝部14は、この沸騰面部13に対して、エネルギービーム加工が施されることによって、形成されている。エネルギービーム加工とは、沸騰面部13にエネルギービームEB(図7参照)を線状パターンで照射して溝加工を施すことである。照射されるエネルギービームEBは、たとえばレーザービーム(レーザー光)である。
【0034】
沸騰面部13の材質は、特に限られないが、たとえば、アルミニウム材である。アルミニウム材は、熱伝導性が高いため沸騰面部13の材料として好適であり、軽量であるため冷却器100の重量低減のために好適である。なお、アルミニウム材とは、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を含む概念である。
【0035】
図4図9を参照して、沸騰面部13の構成例を説明する。なお、以下では、沸騰面部13に平行な面内において、互いに略直交する2つの方向を、それぞれA方向およびB方向とする。沸騰面部13に直交する方向(沸騰面部13の厚み方向)を、C方向とする。一例として、第1実施形態では、A方向はX方向と一致し、B方向はY方向と一致する。第1実施形態では、C方向はZ方向と一致する。なお、A方向およびB方向は、それぞれ特許請求の範囲の「第1方向」および「第2方向」の一例である。
【0036】
(溝部の形成範囲、向きおよび配置)
図4に示す例では、溝部14は、沸騰面部13における所定範囲に形成されている。所定範囲は、取付面11aにおける発熱体HS(図3参照)の設置領域と、取付部11の厚み方向に重なる領域FPの少なくとも一部を含む。領域FPは、取付部11の取付面11aにおける発熱体HSのフットプリントを、取付部11の厚み方向(Z方向)に向けて沸騰面部13に投影した投影形状を有する。図4では、所定範囲は、領域FPを包含し、領域FPよりも大きい範囲である。
【0037】
溝部14は、領域FPの全体にわたって形成されている。たとえば、領域FP内に形成された溝部14の全体を抽出し、溝部14を包絡線で取り囲むように閉じた図形を仮定したとき、当該図形の面積が、領域FPの面積の80%以上である。図4の例では、溝部14は、領域FPのいずれかの外周縁から、他の外周縁まで横切るように延びている。溝部14は、領域FPの外側と、領域FPの内側とに跨がるように延びている。
【0038】
沸騰面部13において、溝部14は、1本以上形成される。溝部14は、一筆書きのように、単一の溝部14が曲がることで領域FP内の全体に亘る範囲で形成(図14図15参照)されてもよいし、別々の複数の溝部14の配列によって、領域FP内の全体に亘る範囲で形成(図4参照)されてもよい。図4のように、溝部14が複数設けられる場合、溝部14は、領域FPにおいて、10本以上、100本以上、または、1000本以上形成される。なお、図4および図5は、複数の溝部14の概略的なパターンを説明するために、ごく少数の溝部14のみを模式的に図示している。複数の溝部14は、実際には、図示しているよりも高い密度で形成されうる。たとえば、平面視で、領域FP内における溝部14の総面積が、領域FP内における非溝部分(溝部14が形成されていない部分)の総面積の、30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。
【0039】
複数の溝部14のピッチは、1mm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。ピッチが小さいほど、溝部14が多く配置され、その分、沸騰面部13の伝熱面積(表面積)を大きくできるためである。単一の溝部14が設けられる場合(図14および図15参照)でも、単一の溝部14のうち隣り合う線分LSの間隔に、上記のピッチが適用されうる。
【0040】
溝部14の最大開口幅(すなわち、平面視における溝幅の最大値)は、1mm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。液相の冷媒5の核沸騰の起点となるのに適した溝幅が、数μm~数百μmの範囲であるためである。溝部14の最大開口幅は、1μm以上であり、たとえば10μm以上である。溝幅が1μm未満になると、溝幅が小さすぎて冷媒5の核沸騰の起点として機能しにくいためである。好ましくは、溝部14は、1μm以上1mm未満の最大開口幅を有する。
【0041】
(溝部の第1例)
図4に示す溝部14の第1例では、沸騰面部13には、複数の溝部14が形成されている。複数の溝部14の各々は、直線状に延びている。
【0042】
図4では、複数の溝部14は、複数の第1溝部14aと、複数の第2溝部14bと、を含む。複数の第1溝部14aは、沸騰面部13に沿って第1方向(A方向)に延びる。複数の第2溝部14bは、沸騰面部13に沿って第1方向(A方向)と異なる第2方向(B方向)に延びて、複数の第1溝部14aと互いに交差する。図4では、複数の第1溝部14aは、A方向に延びるとともに、B方向に沿って並んでいる。複数の第2溝部14bは、B方向に延びるとともに、A方向に沿って並んでいる。第1方向(A方向)と第2方向(B方向)とは互いに直交している。
【0043】
第1実施形態では、第1方向(A方向)は、沸騰部10のうちで、沸騰面部13から連通部12c側に向かう方向である。上記の通り、第1実施形態では、A方向とX方向とが一致している。図5に示すように、X方向において、沸騰部10の略中央に沸騰面部13が配置され、沸騰部10のX方向の両端部に連通部12c(図3参照)が設けられている。そのため、沸騰面部13から連通部12c側に向かう方向は、X方向(A方向)である。言い換えると、複数の第1溝部14aは、連通部12cから沸騰面部13に向かって移動する液相の冷媒5の流動方向に沿って延びている。そして、第1溝部14aの数は、第2溝部14bの数よりも多い。このため、複数の第1溝部14aが、沸騰部10内の冷媒5の流動方向に沿ってX方向(A方向)へ冷媒5を流動させる主たる経路として機能し、複数の第2溝部14bが、第1溝部14aに対して側方から冷媒5を流入させる副次的な経路として機能する。
【0044】
図4では、複数の第1溝部14aは、一定のピッチPt1で配列され、複数の第2溝部14bは、一定のピッチPt2で配列されている。そして、ピッチPt2が、ピッチPt1よりも大きく設定されている。沸騰面部13のうち、これらの複数の溝部14(第1溝部14a、第2溝部14b)の間の部分は、溝加工が施されていない平坦面である。
【0045】
図6は、第1例による溝部14の断面形状を示す。図6(A)は、沸騰面部13に対するエネルギービーム加工の模式的な概念図(加工イメージ)であり、図6(B)は、第1実施形態のエネルギービーム加工の結果、沸騰面部13に形成される溝部14の断面形状の模式図である。
【0046】
図6(A)に示すように、沸騰面部13に対して、所定のピッチおよびスポット径で、エネルギービームEB(図7参照)が線状に照射(走査)されることにより、沸騰面部13に線状の溝加工が施される。ここで、図7に示すように、エネルギービームEBが沸騰面部13の初期表面IS(溝部14の形成前の表面)に照射されると、沸騰面部13を構成する材料(母材)にエネルギービームEBが有するエネルギーが吸収されることにより、材料に急激な発熱が生じる。これにより、融点まで温度上昇した材料が溶融および/または蒸発し、エネルギービームEBの照射箇所から飛散する結果、材料が初期表面ISから除去される。図7の二点鎖線の矢印は、材料の膨張、飛散や堆積の様子を示している。この結果、沸騰面部13に溝状の凹部が形成されるが、飛散した材料の一部は、冷却され凹部の近傍に堆積する。また、エネルギービームEBの照射によって溶融/蒸発した材料が急激な膨張を伴って飛散するため、凹部の内面には、不規則かつ微小な凹凸が形成される。
【0047】
これらの結果、エネルギービーム加工後に沸騰面部13に形成される溝部14は、図6(A)に示した溝のパターンを基調として、図6(B)のように不規則的な凹凸形状を有するものとなる。この図6(B)に示すように、沸騰面部13に形成された溝部14の各々は、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する。
【0048】
なお、一般的なエネルギービーム加工(たとえばレーザー精密加工)では、上記のような不規則な凹凸形状は、加工精度の低さを示すものとして扱われ、凹凸形状が極力発生しないようにエネルギービームEBの照射条件(エネルギー密度や照射時間(パルス幅)など)が最適化される。その結果、一般的なエネルギービーム加工では、極力均一で、凹凸が少ない加工面が形成される。これに対して、第1実施形態の溝部14は、加工面に積極的に凹凸を形成する目的で、一般的なエネルギービーム加工において最適化されたエネルギービームEBの照射条件とは異なる照射条件が採用されることにより、不規則的な凹凸形状が形成される。特に、一般的には過剰とされるエネルギー密度でエネルギービームEBが照射されることにより、図6(B)に示すような不規則的な凹凸形状の溝部14が形成される。また、特に高エネルギーかつ短パルスのエネルギービームEBの照射を行うと、材料にアブレーションが生じる。アブレーションとは、照射部位にごく短時間で高いエネルギーが印加されることにより、材料表面が瞬間的に分解され、爆発的に蒸散する現象である。アブレーションを生じさせることで、加工部表面への凹凸の形成を効果的に行える。溝部14の形成には、このようなアブレーションを伴うエネルギービーム加工を行ってもよい。
【0049】
図6(B)に示す例では、溝部14は、沸騰面部13に開口する穴部、穴部における開口部分の少なくとも一部が覆われた中空部、穴部または中空部から側方に延びる横穴部、溝部14の開口の一部が覆われたトンネル形状部の少なくともいずれかからなる空間部15a~15dを含む。
【0050】
沸騰面部13に開口する穴部からなる空間部15aは、溝部14の内面において、全周が囲まれた局所的な穴(凹部)になっており、かつ、上端が開放されている(開口している)部分である。中空部からなる空間部15bは、エネルギービームEBの照射によって飛散した材料の堆積などに起因して、エネルギービームEBによって形成された穴の開口部分の一部または全部が覆われた部分である。空間部15bは、内部空間の最大幅と比べて開口部分が小さいか、または開口部分が形成されていない中空空間となっている。横穴部からなる空間部15cは、エネルギービームEBの照射に伴う材料の急激な膨張などに起因して、溝部14の深さ方向(すなわち、エネルギービームEBの照射方向)とは異なる側方に向けて窪むように形成された空間部分である。また、空間部15bのように飛散した材料の堆積などに起因して開口部分が覆われる形状が、溝部14の開口の部分に形成される場合がある。その場合、溝部14は、溝部14の延びる方向に沿って開口の一部が覆われたトンネル形状部からなる空間部15dを含む。エネルギービームEBの照射により形成される「不規則的な」凹凸形状とは、このような空間部15a~15dの少なくともいずれかを含むものである。
【0051】
このような空間部15a~15dは、溝部14の一部に部分的に形成された構造である。すなわち、空間部15a~15dは溝部14の一部(不規則的な凹凸形状の構成要素)であって、主要構造である溝部14よりも小さい部分構造である。このような局所的な凹凸が、冷媒5の核沸騰の起点として好適である。
【0052】
(溝部の第2例)
図8に、溝部14の第2例を示す。第2例では、溝部14の少なくとも一部は、溝部14の延びる方向と直交する断面において、溝部14の開口幅W1よりも幅広の底部16aを有する。すなわち、沸騰面部13の主表面における溝部14の開口幅W1よりも、溝部14の底部16aの幅W2が大きくなるように、溝部14が形成されている。なお、図8は、図6(A)と同様、エネルギービーム加工の模式的な概念図(加工イメージ)を示したものであり、溝部14の不規則的な凹凸形状を図示していない。
【0053】
幅広の底部16aを有する溝部14は、たとえば、沸騰面部13の同一箇所に、互いに異なる向きに光軸AXを傾けたエネルギービームEBをそれぞれ照射することにより形成される。つまり、沸騰面部13の同一箇所に対する複数パスのエネルギービームEBの照射(走査)によって溝部14が形成され、それぞれのパスにおけるエネルギービームEBの光軸AXが、沸騰面部13の主表面に対する法線方向から傾けられる。
【0054】
図8(A)では、溝部14の延びる方向と直交する断面において、沸騰面部13の同一箇所に対して、光軸AXを一方側に傾斜させた第1のエネルギービームEBと、光軸AXを他方側に傾斜させた第2のエネルギービームEBとが照射されることにより、1つの溝部14が形成されている。各エネルギービームEBの軌跡(破線部)は、沸騰面部13の主表面では互いに重なる位置を通過するため、溝部14には、相対的に幅狭の開口部16bが形成される。各エネルギービームEBの軌跡は、主表面から深さ方向に向かうに従って、互いに離れる方向に傾いているため、開口部16bよりも外側へ拡がる底部16aが形成される。
【0055】
図8(B)では、溝部14の延びる方向と直交する断面において、沸騰面部13の同一箇所に対して、一方側に傾斜させた第1のエネルギービームEBと、他方側に傾斜させた第2のエネルギービームEBと、傾斜させずに法線方向に沿った第3のエネルギービームEBとが、照射される。第3のエネルギービームEBによって、第1のエネルギービームEBの軌跡と第2のエネルギービームEBの軌跡との交点(開口部16b)の直下の部分の材料が除去される。その結果、開口部16bに対して下向きの扇状に拡がる断面形状の溝部14が形成される。
【0056】
(溝部の第3例)
図9に、溝部14の第3例を示す。第3例では、沸騰面部13は、溝部14が形成された複数の第1領域17aと、複数の第1領域17aの間に配置され、溝部14が形成されていない第2領域17bとを含む。第1領域17aおよび第2領域17bは、いずれも、発熱体HSの設置領域と重なる領域FP(図4参照)内に少なくとも設けられ、領域FPの外部まで延びていてもよい。
【0057】
溝部14は、たとえば第1領域17aの略全体に亘って形成される。たとえば、複数の溝部14(第1溝部14aおよび第2溝部14b)が、所定のピッチで第1領域17aに形成される。第2領域17bは、溝部14が形成されていない平坦面である。
【0058】
図9(A)および図9(B)では、第1領域17aおよび第2領域17bは、沸騰面部13において、それぞれ直線状に延びる。沸騰面部13において、複数の第1領域17aと複数の第2領域17bとが、交互に並んで配置されている。
【0059】
そして、図9(A)および図9(B)では、沸騰面部13の主表面が平坦面として形成され、第1領域17aおよび第2領域17bが平坦な主表面上に形成されている。
【0060】
図9(C)および図9(D)では、複数の第1領域17aの各々が、隣接する第2領域17bに対して、沸騰面部13の厚み方向(C方向)へずれた段差状に形成されている。すなわち、図9(C)および図9(D)の例では、沸騰面部13の主表面に、第1領域17aを凸部分の頂面、第2領域17bを凹部分の底面とする溝状構造17が形成されている。第1領域17aは、隣接する第2領域17bに対して、厚み方向に突出するようにずれた段差となっている。そして、凸部分の頂面を構成する第1領域17aに、溝部14(第1溝部14aおよび第2溝部14b)が形成されている。このように、図9(C)および図9(D)の例では、第1領域17aと第2領域17bとから構成される相対的に大きな(マクロな)溝状構造17と、その溝状構造17の一部である第1領域17aに形成される相対的に小さな(ミクロな)溝部14とが、沸騰面部13に形成されている。溝状構造17における溝幅W3(すなわち、第2領域17bの幅)は、溝部14の開口幅W1(図6(A)参照)よりも大きい。溝部14の開口幅W1が1mm以下であるのに対して、溝状構造17の溝幅W3は、1mmよりも大きく、たとえば2mm以上5mm以下である。なお、図9(C)および図9(D)では、第1領域17aの幅も、溝幅W3(すなわち、第2領域17bの幅)と等しい。
【0061】
(溝部の作用)
図10を参照して、沸騰面部13に溝部14を形成したことによる作用を説明する。
【0062】
伝熱面(沸騰面部13)における核沸騰は、単純化すると、伝熱面における冷媒5の蒸発、気泡の形成、伝熱面からの気泡の離脱および液相の冷媒5の伝熱面への供給、といった段階が繰り返される現象である。平坦な伝熱面であっても、微小な傷や穴が気泡の起点(発泡点)となる。
【0063】
図10の(A)~(C)は、伝熱面に円形穴90を形成した比較例による沸騰モデルを示した模式図であり、図10(A)は円形穴90の上面図、図10(B)は円形穴90のP-P断面図、図10(C)は円形穴90のQ-Q断面図である。円形穴90は、P-P断面およびQ-Q断面で略同一断面形状を有しており、円形穴90の内部空間は、全周にわたって、内周壁91に囲まれている。
【0064】
比較例の円形穴90には、開口部92の部分のみから、液相の冷媒5が流入できる。言い換えると、円形穴90からの気泡BGの離脱も、円形穴90への液相の冷媒5の供給も、同じ開口部92を介して行われるのみである。そのため、比較例では、入熱が小さく、小さな気泡BG(破線部参照)がまばらに形成される段階では、気泡BGの離脱と液相の冷媒5の供給とがバランスよく行える。一方、入熱が大きくなり、円形穴90内での気泡BGの形成および離脱が激しくなると、開口部92からの液相の冷媒5の供給が気泡BGによって妨げられる。その結果、円形穴90内で大きな気泡BG(実線部参照)が開口部92まで充満し、円形穴90の内部がドライアウト状態(膜沸騰の状態)となる。内周壁91および底部93がエネルギービーム加工によって粗面化されていたとしても、円形穴90内への液相の冷媒5の供給が妨げられる状況は改善できない。
【0065】
図10の(D)~(F)は、第1実施形態による沸騰面部13に形成された1つの溝部14の沸騰モデルを示した模式図であり、図10(D)は溝部14の上面模式図、図10(E)は溝部14のP-P断面図、図10(F)は溝部14のQ-Q断面図である。溝部14は、P-P断面では円形穴90(図10(B))と同じように内壁16cに囲まれるが、Q-Q断面では内壁16cに囲まれていない(溝部14がQ-Q断面に沿って延びている)。
【0066】
第1実施形態による溝部14には、開口部16bの部分から上下方向に沿って液相の冷媒5が流入できるだけでなく、図10(F)に示すように、溝部14内の液相の冷媒5がQ-Q線に沿った方向(溝部14が延びる方向)に流通できる。溝部14内で発生した気泡BGは、その直上の開口部16bを介して溝部14内から離脱する一方、液相の冷媒5は、溝部14に沿った方向に流動して気泡BGの離脱箇所へ供給されうる。つまり、溝部14の場合、気泡BGの離脱経路と、液相の冷媒5の供給経路とを異ならせることができる。
【0067】
溝部14は、P-P断面においては、比較例と同じように伝熱面(内壁16c)に囲まれた狭い空間となっているため、その空間内の液相の冷媒5への熱伝導が効率的に行われる。また、不規則な凹凸形状の溝部14には、核沸騰の起点となる箇所が多数存在するため、入熱が小さい状況でも、平坦な伝熱面と比較して、気泡BG(破線部参照)の発生率を高めることが可能である。入熱が大きくなり気泡BGの形成及び離脱が激しくなると、P-P断面においては溝部14内が気泡BG(実線部参照)で充填されうる。しかし、その場合でも、Q-Q断面では、内壁16cが存在せず液相の冷媒5が流動できるため、気泡BGの離脱に伴う液相の冷媒5の供給が円滑に行われる。その結果、第1実施形態の溝部14では、比較例と比べて、溝部14の内部における局所的なドライアウトの発生が抑制される。
【0068】
また、第1実施形態では、第1溝部14aと第2溝部14bとが交差(図4参照)しているため、第1溝部14aと第2溝部14bとの交差点では、P-P断面およびQ-Q断面のどちらにも内壁16cが存在しないことになる。このため、交差点は、溝部14内の他の部位と比べて、気泡BGの発生率が相対的に低く、ドライアウト状態になりにくい(液相の冷媒5が存在しやすい)といえる。溝部14内に、部分的に、他の部位よりも液相の冷媒5が存在しやすい箇所が設けられることによって、入熱が大きくなり溝部14の大部分で激しく気泡BGが発生する場合でも、溝部14内における液相の冷媒5の供給が継続されやすくなる。つまり、交差する溝部14を設けることは、ドライアウトが発生するまでの入熱量の限界レベルを引き上げることに寄与する。
【0069】
(沸騰式冷却器の製造方法)
図11図13を参照して、第1実施形態による冷却器100の製造方法を説明する。冷却器100の製造方法は、発熱体HSとの熱交換により冷媒5を沸騰させる沸騰部10と、沸騰部10で気化した冷媒5を凝縮させ、沸騰部10に戻す凝縮部20とを備える沸騰式冷却器の製造方法である。
【0070】
図11に示すように、冷却器100の製造方法は、凝縮部20を形成する工程を備える。凝縮部20を形成する工程は、冷媒通路21となる冷媒通路構成部21bと、外部通路22となる外部通路構成部22bとを接合することにより、凝縮部20を形成する工程を含む。接合は、たとえば溶接、またはろう付けなどにより行うことができる。
【0071】
図12に示すように、冷却器100の製造方法は、沸騰部10を形成する工程を備える。
【0072】
ここで、第1実施形態では、図6および図7に示したように、沸騰部10を形成する工程は、溝部14を沸騰面部13に形成する工程を含む。すなわち、溝部14を沸騰面部13に形成する工程において、沸騰面部13にエネルギービームEBを線状パターンで照射して溝加工を施す。そして、この溝加工により、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部14(図6参照)を、沸騰面部13に形成する。
【0073】
上記第1実施形態では、沸騰面部13に対して、所定間隔(ピッチPt1)で、互いに平行に、A方向(図4参照)に沿った直線状パターンのエネルギービームEBの照射を行うことにより、複数の第1溝部14aが形成される。また、沸騰面部13に対して、所定間隔(ピッチPt2)で、互いに平行に、B方向(図4参照)に沿った直線状パターンでエネルギービームEBの照射を行うことにより、複数の第2溝部14bが形成される。エネルギービームEBの照射は、連続照射でも、パルス照射(間欠照射)でもよい。エネルギービームEBの照射に関わる各パラメータは、上記の通り、不規則な凹凸形状を有する溝部14を形成するのに適した値に設定される。設定されるパラメータは、たとえばエネルギービームEBがレーザービームである場合、レーザー出力、エネルギー密度、レーザー光の波長などを含む。エネルギービームEBのビーム径(スポット径)および焦点位置は、溝部14の開口幅W1(図6参照)に応じて設定される。
【0074】
エネルギービームEBは、1つの溝部14の形成に際して、複数回(複数パス)照射されうる。特に、上記第2例(図8参照)の場合、光軸AXの角度を異ならせた複数回のビーム照射(走査)が行われる。また、上記第3例の場合、沸騰面部13のうち、予め設定された第1領域17aに対して、選択的にエネルギービーム加工(溝加工)が施され、第2領域17bはエネルギービーム加工(溝加工)の対象から除外される。なお、上記第3例のうち、図9(C)および(D)に示した溝状構造17を設ける場合、たとえば切削加工によって沸騰面部13の主表面から第1領域17aの間の部分を除去して段差を形成することにより、第2領域17bが形成される。
【0075】
また、第1領域17aおよび第2領域17bが平行な直線状である場合、溝状構造17を設ける方法としては、押出成形がある。すなわち、沸騰面部13が形成される取付部11を、A方向に沿った押出加工を行い、沸騰面部13に溝状構造17を形成することができる。なお、沸騰面部13を取付部11とは別個の押出型材の一方面に形成して、押出型材の他方面を取付部11の面11bに接合してもよい。
【0076】
第1実施形態では、沸騰部10を形成する工程は、図12に示すように、沸騰面部13を設けた取付部11を、収容部12に接合する工程を含む。たとえば、第1溝部14aの向き(A方向)がX方向に一致する(図5参照)ように取付部11の向きを合わせて、収容部12の孔部12dを覆う位置に取付部11を配置(この際、孔部12d内に沸騰面部13が配置される)した状態で、取付部11と収容部12との接触部分の4辺(全周)が収容部12に溶接される。
【0077】
冷却器100の製造方法は、図13に示すように、沸騰部10と凝縮部20とを接合する工程をさらに備える。たとえば溶接により、凝縮部20の下面に収容部12の上端面の周縁部(周壁12bの端面の外周部)が接合される。冷却器100が完成される。その後、取付部11の取付面11aに、発熱体HSが取り付けられる。
【0078】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0079】
第1実施形態では、上記のように、沸騰面部13が、線状に延びるとともに、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部14(図6参照)を含むので、この沸騰面部13に形成された不規則的な凹凸形状の溝部14が、核沸騰の起点となることにより、気泡BGの発生率を高めることができる。そして、凹凸形状が、周囲を囲まれた穴ではなく、線状に延びる溝部14であるため、少なくとも溝部14の延びる方向には壁が形成されず、液相の冷媒5を流通させることができる。つまり、溝部14の幅方向には一対の内側面(内壁16c、図10参照)が形成されるため、液相の冷媒5への伝熱面積を大きく確保することで気泡BGの発生率を高くすることができ、溝部14の延びる方向には内側面(内壁16c)が形成されないため、発生した気泡BGが溝部14から離脱するのに伴って溝部14の外部から溝部14内に液相の冷媒5を円滑に供給することができる。これらの結果、沸騰面部13において凹凸の形成により気泡BGの発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することができる。
【0080】
第1実施形態(図6参照)では、上記のように、溝部14が、沸騰面部13に開口する穴部、穴部における開口部分の少なくとも一部が覆われた中空部、穴部または中空部から側方に延びる横穴部、溝部14の開口の一部が覆われたトンネル形状部の少なくともいずれかからなる空間部15a~15dを含むので、沸騰面部13において核沸騰の起点となる部分を効果的に形成できる。その結果、沸騰面部13における気泡BGの発生率を効果的に高めることができる。
【0081】
第1実施形態(図6参照)では、上記のように、空間部15a~15dが、溝部14の一部に部分的に形成された構造であるので、溝部14の部分構造として、気泡BGの発生に適した微細な空間部15a~15dを溝部14内に設けることができる。
【0082】
第1実施形態の第2例(図8参照)では、上記のように、溝部14の少なくとも一部が、溝部14の延びる方向と直交する断面において、溝部14の開口幅W1よりも幅広の底部16aを有するので、溝部14の内部空間の幅が開口幅W1よりも大きくなり、溝部14の底部16aで発生した気泡BGを両側から開口部16bまで囲む形状の内部空間が形成される。これにより、溝部14の内表面積(伝熱面積)を増大させることができる。その結果、溝部14内の冷媒5へ、効率的に熱伝達を行うことができる。
【0083】
第1実施形態(図4参照)では、上記のように、複数の溝部14が、沸騰面部13に沿って第1方向(A方向)に延びる複数の第1溝部14aと、沸騰面部13に沿って第1方向(A方向)と異なる第2方向(B方向)に延びて、複数の第1溝部14aと互いに交差する複数の第2溝部14bと、を含むので、たとえば線状溝を平行に配列しただけの構造と比べて、溝部14の延びる方向への液相の冷媒5の供給を、より効率的に行うことができる。その結果、溝部14内での局所的なドライアウトの発生をさらに効果的に抑制できる。
【0084】
第1実施形態(図5参照)では、上記のように、第1方向(A方向)は、沸騰部10のうちで、沸騰面部13から連通部12c側に向かう方向であるので、沸騰部10と凝縮部20との間で冷媒5が循環する際の冷媒5の流通方向と、個数の多い第1溝部14aが延びる第1方向(A方向)とを、揃えることができる。すなわち、凝縮部20から沸騰部10に戻る液相の冷媒5は、連通部12cから沸騰部10に流入して、沸騰面部13の位置まで沸騰部10中を移動することになるので、概略的には、第1方向(A方向)と同じ方向に液相の冷媒5の流れが形成される。そして、第1溝部14aの数が、第2溝部14bの数よりも多いので、この液相の冷媒5の流れ方向に沿って、第1溝部14a内への液相の冷媒5の供給を、より効果的に行うことができる。その結果、溝部14内での局所的なドライアウトの発生をより一層効果的に抑制できる。
【0085】
第1実施形態の第3例(図9参照)では、上記のように、沸騰面部13が、溝部14が形成された複数の第1領域17aと、複数の第1領域17aの間に配置されるとともに溝部14が形成されていない第2領域17bと、を含むので、沸騰面部13に、相対的に気泡BGの発生効率が高い第1領域17aを設けつつ、第1領域17aの間に、相対的に気泡BGの発生効率が低く液相の冷媒5が多く存在する第2領域17bを設けることができる。これにより、たとえば熱流束が大きく、第1領域17aに形成された溝部14においてもドライアウトが発生しやすい状況下でも、第2領域17bから第1領域17aへ液相の冷媒5を供給する作用が得られる。その結果、溝部14内におけるドライアウトの発生を抑制することができる。
【0086】
さらに、第3例のうち図9(C)および(D)に示した例では、上記のように、複数の第1領域17aの各々が、隣接する第2領域17bに対して、沸騰面部13の厚み方向へずれた段差状に形成されているので、隣り合う第1領域17aと第2領域17bとによって、相対的に大きな溝状の第1構造(溝状構造17)を沸騰面部13に形成しつつ、溝状構造17のうちの第1領域17aの表面に、溝部14によって、相対的に小さな溝状の第2の溝状構造が形成される。これにより、平坦な沸騰面部13に溝部14だけを設ける場合と比較して、沸騰面部13の伝熱面積(液相の冷媒5と接する表面積)を大きくすることができる。
【0087】
第1実施形態では、上記のように、溝部14が、1μm以上1mm未満の最大開口幅を有するので、液相の冷媒5中で、核沸騰の起点となるのに適した大きさの溝部14を設けることができる。その結果、沸騰面部13における気泡BGの発生率を効果的に高めることができる。
【0088】
(溝部の形成パターンの第1変形例)
図14は、図4に示した溝部14の形成パターンの第1変形例を示す。図14の例では、溝部14は、沸騰面部13に1本のみ設けられている。溝部14は、A方向に沿って延びるととともに、溝部14の形成範囲のA方向の端部においてB方向に屈曲し、その後A方向に沿って逆向きに延びるように、蛇行している。この蛇行が複数回反復されることにより、溝部14は、発熱体HS(図3参照)の設置領域と重なる領域FPを含む所定範囲の全体にわたる蛇行形状(ミアンダ形状)に形成されている。図14では、単一の溝部14のうち隣り合う線分LS同士が、図4と同じ一定のピッチPt1で配置されている例を示している。
【0089】
(溝部の形成パターンの第2変形例)
図15は、溝部14の形成パターンの第2変形例を示す。図15の例では、溝部14は、沸騰面部13に1本のみ設けられている。溝部14は、渦巻形状のパターンで形成されている。溝部14は、発熱体HS(図3参照)の設置領域と重なる領域FPの中央部から、外周側に向けて半径が拡大するように渦巻状に形成されている。渦巻形状を構成する個々の線分LSは、直線状である。溝部14は、発熱体HS(図3参照)の設置領域と重なる領域FPを含む所定範囲の全体にわたる渦巻形状に形成されている。図15では、単一の溝部14のうち隣り合う線分LS同士が、図4と同じ一定のピッチPt1で配置されている例を示している。
【0090】
(溝部の形成パターンの他の例)
溝部14の形成パターンは、図4図14および図15に示した例には限られない。たとえば、溝部14は、環状パターンで形成されていてもよい。たとえば、複数の環状の溝部14が、同心状(たとえば同心円状または同心矩形状)に形成されていてもよい。溝部14は、直線状に限らず、曲線状に延びていてもよい。
【0091】
(第1実施形態の第1変形例)
図16を参照して、上記第1実施形態の第1変形例を説明する。この第1変形例では、収容部12に取付部11が溶接により接合された上記第1実施形態と異なり、取付部11と収容部12(図3参照)とが一体形成されている例を説明する。
【0092】
図16に示す例では、取付部11に凹部11cが設けられている。凹部11cの内部空間が、上記第1実施形態(図12参照)の収容部12の内部空間として機能する。そのため、図16では、収容部12が別部材として設けられていない。凹部11cの内底面によって面11bが構成されており、この面11bに沸騰面部13が形成されている。
【0093】
図16に示す例では、沸騰部10と凝縮部20とを接合する工程は、凝縮部20に取付部11をろう付けにより接合する工程を含む。この場合、凝縮部20と取付部11との間に、心材と、心材の両面に設けられたろう材とを有するブレージングシート30が設けられる。ブレージングシート30を介して、凝縮部20に取付部11がろう付けされる。これにより、沸騰部10と凝縮部20とが接合され、冷却器100が完成される。そして、取付部11の取付面11aに、発熱体HSが取り付けられる。
【0094】
なお、沸騰面部13に溝部14を形成した後、沸騰部10を構成する各部と、凝縮部20を構成する各部とを、ろう材を介在させつつ組み立てた組立体を用意して、この組立体の全体に対してろう付けをおこなってもよい。この場合、凝縮部20を形成する工程と、沸騰部10を形成する工程と、沸騰部10と凝縮部20とを接合する工程とが、1回のろう付け工程によって一括して実行されうる。
【0095】
(第1実施形態の第2変形例)
図17を参照して、上記第1実施形態の第2変形例を説明する。この第2変形例では、収容部12に取付部11が溶接により接合された上記第1実施形態と異なり、収容部12に取付部11がねじ止めにより接合される例を説明する。
【0096】
図17に示すように、沸騰部10を形成する工程は、収容部12に取付部11をねじ止めにより接合する工程を含む。この場合、取付部11にねじ40の挿通孔が設けられるとともに、収容部12にねじ40の螺合孔が設けられる。また、収容部12と取付部11との間に、Oリングなどのシール部材50が設けられる。シール部材50を間に挟んだ状態で、ねじ40により、収容部12に取付部11がねじ止めされる。これにより、収容部12が形成されて沸騰部10が形成される。この例では、収容部12を、予め凝縮部20に接合しておいてもよい。また、ねじ止めの場合にも、シール部材50により、収容部12内に冷媒5を密閉することができる。そして、取付部11の取付面11aに、発熱体HSが取り付けられる。
【0097】
[第2実施形態]
次に、図18図20を参照して、本発明の第2実施形態による沸騰式冷却器200(以下、冷却器200という)の構成について説明する。第2実施形態では、沸騰部10と凝縮部20とが一体型である上記第1実施形態とは異なり、沸騰部210と凝縮部220とが分離型である例について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を用いるとともに説明を省略する。
【0098】
図18図20に示すように、冷却器200は、沸騰部210と、凝縮部220と、接続部260とを備える。沸騰部210は、発熱体HSとの熱交換により冷媒5を沸騰させる。凝縮部220は、沸騰部210により沸騰された冷媒5を凝縮させ、沸騰部210に戻す。接続部260は、沸騰部210と凝縮部220とを接続して連通させる接続管である。第2実施形態の冷却器200は、沸騰部210と凝縮部220とが、互いに離れて配置されるとともに接続部260を介して互いに連通している分離型である。なお、冷媒5は、第2実施形態(図18図20)では図示を省略する。
【0099】
沸騰部210は、取付部11と、収容部212(図20参照)とを含む。収容部212は、液相の冷媒5を収容する。収容部212は、沸騰部210の本体214に形成された凹部214a(図20参照)と、取付部11の面11bとにより区画されている。収容部212は、箱状の空間として設けられている。収容部212内において、沸騰面部13は、液相の冷媒5に接する。なお、沸騰面部13は、上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明はしないが、沸騰面部13にエネルギービーム加工による溝部14が形成されている。
【0100】
凝縮部220は、プレートフィン型の熱交換器により構成されている。凝縮部220は、冷媒通路221と、外部通路222とを含む。冷媒通路221と外部通路222とは、仕切板を間に挟んで、交互に配置されている。冷媒通路221は、冷媒5を流通させる流路である。冷媒通路221は、接続部260を介して、沸騰部10の収容部212に連通している。冷媒通路221内には、X方向に延びるコルゲートフィン(図示せず)が配置されている。外部通路222は、外部流体を流通させる流路である。外部通路222は、外部に開口している。外部通路222内には、Y方向に延びるコルゲートフィン222aが配置されている。
【0101】
発熱体HSの熱が取付部11を介して沸騰面部13に伝達されると、収容部212内の液相の冷媒5は、加熱されて沸騰する。沸騰により気化した冷媒5は、接続部260を介して収容部212に連通する冷媒通路221内に移動し、外部通路222を流通する外部流体により冷却されて凝縮する。凝縮により液化した冷媒5は、冷媒通路221内および接続部260内を移動して、収容部212内に戻る。このように、冷却器200内に封入された冷媒5は、沸騰部210と凝縮部220との間で循環される。これにより、発熱体HSが冷却される。
【0102】
(沸騰式冷却器の製造方法)
図21図23を参照して、第2実施形態による冷却器200の製造方法を説明する。
【0103】
図21に示すように、冷却器200の製造方法は、沸騰部210を形成する工程を備える。沸騰部210を形成する工程は、沸騰面部13を形成する工程と、本体214に取付部11を接合する工程とを含む。沸騰面部13を形成する工程は、上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明はしないが、沸騰面部13にエネルギービームEBを線状パターンで照射して溝加工を施すことにより、不規則的な凹凸形状を有する溝部14を沸騰面部13に形成する工程を含む。
【0104】
本体214に取付部11を接合する工程は、本体214に取付部11を溶接により接合する工程を含む。この際、たとえば、取付部11と本体214との接触部分の4辺(全周)が溶接される。また、本体214に取付部11が溶接により接合されることにより、収容部212が形成される。これにより、沸騰部210が形成される。図22に示すように、冷却器200の製造方法は、凝縮部220を形成する工程を備える。凝縮部220を形成する工程は、冷媒通路221となる冷媒通路構成部221bと、外部通路222となる外部通路構成部222bとを接合することにより、凝縮部220を形成する工程を含む。また、冷却器200の製造方法は、沸騰部210と凝縮部220とを接続部260を介して接合する工程を備える。その後、冷却器200が完成される。そして、図23に示すように、取付部11の取付面11aに、発熱体HSが取り付けられる。
【0105】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0106】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態による沸騰式冷却器200および沸騰式冷却器200の製造方法では、沸騰面部13にエネルギービームEBを線状パターンで照射して溝加工を施すことにより、エネルギービーム加工による材料の溶融凝固に伴う不規則的な凹凸形状を有する溝部14を、沸騰面部13に形成するので、上記第1実施形態と同様に、沸騰面部13において凹凸の形成により気泡BGの発生率を高めつつ、局所的なドライアウトの発生を抑制することができる。
【0107】
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0108】
(第2実施形態の第1変形例)
図24を参照して、上記第2実施形態の第1変形例を説明する。この第1変形例では、本体214に取付部11が溶接により接合された上記第2実施形態と異なり、本体214に取付部11がろう付けにより接合される例を説明する。
【0109】
図24に示すように、本体214に取付部11を接合する工程は、本体214に取付部11をろう付けにより接合する工程を含む。この場合、本体214と取付部11との間に、心材と、心材の両面に設けられたろう材とを有するブレージングシート230が設けられる。ブレージングシート230を介して、本体214に取付部11がろう付けされる。本体214に取付部11がろう付けされると、収容部212が形成される。これにより、沸騰部210が形成され、冷却器200が完成される。そして、取付部11の取付面11aに、発熱体HSが取り付けられる。
【0110】
(第2実施形態の第2変形例)
図25を参照して、上記第1実施形態の第2変形例を説明する。この第2変形例では、本体214に取付部11が溶接により接合された上記第1実施形態と異なり、本体214に取付部11がねじ止めにより接合される例を説明する。
【0111】
図25に示すように、本体214に取付部11を接合する工程は、本体214に取付部11をねじ止めにより接合する工程を含む。この場合、取付部11にねじ240の挿通孔が設けられるとともに、本体214にねじ240の螺合孔が設けられる。また、本体214と取付部11との間に、Oリングなどのシール部材250が設けられる。シール部材250を間に挟んだ状態で、ねじ240により、本体214に取付部11がねじ止めされる。これにより、収容部212が形成されて沸騰部210が形成され、冷却器200が完成される。また、ねじ止めの場合にも、シール部材250により、収容部212内に冷媒5を密閉することができる。そして、取付部11の取付面11aに、発熱体HSが取り付けられる。
【0112】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0113】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、沸騰面部が水平な水平型の沸騰式冷却器の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、沸騰式冷却器は、沸騰面部が垂直な垂直型であってもよい。また、上記第1および第2実施形態の沸騰式冷却器は、あくまでも一例であり、沸騰式冷却器の各部の形状や配置などは特に限定されない。
【0114】
また、上記第1および第2実施形態では、1つの沸騰面部13を設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、沸騰面部13が複数設けられてもよい。取付面11aには、複数の発熱体HSが設定されてもよい。その場合、1つの発熱体HSに対応して(領域FPに)1つの沸騰面部13を設けてもよいし、複数の発熱体HSに対応した体面積の1つの沸騰面部13を設けてもよい。
【0115】
上記第1実施形態(図4参照)では、第1溝部14aが延びる方向(A方向)と、第2溝部14bが延びる方向(B)とが、直交している例を示したが、本発明はこれに限られない。第1溝部14aが延びる方向(A方向)と、第2溝部14bが延びる方向(B)とが、直交していなくてもよい。第1溝部14aと、第2溝部14bとは、任意の方向に延びていてよく、任意の角度で交差してよい。
【0116】
上記第1実施形態(図9参照)では、第1領域17aおよび第2領域17bを、直線状に設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。第1領域17aおよび第2領域17bを、たとえば格子状に配列してもよい。また、図9(C)および(D)の例では、第1領域17aが第2領域17bに対して突出する(凸部となる)例を示したが、第1領域17aの方が、第2領域17bに対して窪んだ凹部(凹溝)となっていてもよい。図9(C)および(D)の例のように、沸騰面部13に溝状構造17を設けて、溝状構造17の頂面(第1領域17aの部分)および底面(第2領域17bの部分)の両方に、溝部14を形成してもよい。
【0117】
上記第1および第2実施形態では、エネルギービームEBがレーザービームである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、エネルギービームEBが電子ビームまたはイオンビームであってもよい。
【符号の説明】
【0118】
5 冷媒
10、210 沸騰部
11a 取付面
11b 面
12c 連通部
13 沸騰面部
14 溝部
14a 第1溝部
14b 第2溝部
15a、15b、15c 空間部
16a 底部
17a 第1領域
17b 第2領域
20、220 凝縮部
100、200 冷却器(沸騰式冷却器)
HS 発熱体
EB エネルギービーム
W1 溝部の開口幅
W2 底部の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25