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  • 特開-緯二重織物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035726
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】緯二重織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 11/00 20060101AFI20240307BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20240307BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20240307BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240307BHJP
   D03D 15/533 20210101ALI20240307BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20240307BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D03D15/20 100
D03D15/292
D03D15/283
D03D15/533
D01F8/14 B
D01F6/92 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140370
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫨山 亮大
(72)【発明者】
【氏名】秋山 大紀
(72)【発明者】
【氏名】梶原 瑞生
【テーマコード(参考)】
4L035
4L041
4L048
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035JJ05
4L035KK01
4L041BA09
4L041BA22
4L041BC07
4L041CA06
4L041CB02
4L041CB05
4L041DD21
4L048AA20
4L048AA22
4L048AA28
4L048AA30
4L048AA34
4L048AA51
4L048AA52
4L048AA56
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB21
4L048AC12
4L048AC13
4L048BA02
4L048BA11
4L048CA00
4L048CA04
4L048CA05
4L048CA15
4L048DA01
4L048EA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ユニフォーム用途に好適な適度なストレッチ性に加え、形態安定性、温感効果、表面平滑性を有するユニフォーム用途に好適な緯二重織物を提供する。
【解決手段】緯二重組織の織物であって、表組織を構成する緯糸が種類の異なるポリエステル系ポリマーを繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わせた複合繊維であり、裏組織を構成する緯糸が吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を少なくとも一部に含有する繊維であり、以下の(1)~(4)の条件を同時に満足することを特徴とする、緯二重織物。
(1)緯方向の伸び率が13%以上
(2)緯方向と経方向の伸び率との和が15%以上
(3)1洗後の寸法変化率が+3%~-3%
(4)未伸長状態での表組織における、織物表面粗さの平均偏差(SMD)が6.5μm以下
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯二重組織の織物であって、表組織を構成する緯糸が種類の異なるポリエステル系ポリマーを繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わせた複合繊維であり、裏組織を構成する緯糸が吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を少なくとも一部に含有する繊維であり、以下の(1)~(4)の条件を同時に満足することを特徴とする、緯二重織物。
(1)JIS L1096 伸び率B法(荷重14.7N)により測定した緯方向の伸び率が13%以上
(2)JIS L1096 伸び率B法(荷重14.7N)により測定した緯方向の伸び率と経方向の伸び率との和が15%以上
(3)JIS L1096 F-2法(中温ワッシャ法;60℃×30分)で1洗後にタンブル乾燥を行った際の経方向の寸法変化率および緯方向の寸法変化率がいずれも+3%~-3%
(4)未伸長状態での表組織における、KES-Fシステムによる織物表面粗さの平均偏差(SMD)が6.5μm以下
【請求項2】
表組織を構成する緯糸が種類の異なるポリエステル系ポリマーを繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維であって、複合繊維の単糸繊度が1.0~5.0dtexである、請求項1に記載の緯二重織物。
【請求項3】
種類の異なるポリエステル系ポリマーのうち少なくとも一方が、ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステルである請求項1または2に記載の緯二重織物。
【請求項4】
以下の人工太陽光照射試験で求められる10分経過後の上昇温度が8℃以上である、請求項1に記載の緯二重織物。
<人工太陽光照射試験>
緯二重織物(100mm×100mm)の表面の中心部分に温度センサーを取り付け、緯二重織物の裏面が上になるように置いて、温度20℃、相対湿度65%RHの環境で静置する。緯二重織物の前記表面の温度が20℃で安定した後に、500Wの人工太陽照射灯(編地から高さ20cmに設置)を緯二重織物の前記裏面に対して、照度100,000luxで照射する。照射開始から10分後の緯二重織物の前記表面の温度を測定し、下記算出式に従って10分経過後の上昇温度を算出する。
10分経過後の上昇温度(℃)=照射開始から10分後の温度(℃)-20℃
【請求項5】
経糸または緯糸の少なくとも一方に導電糸を含む、請求項1に記載の緯二重織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ性、表面平滑性および温感効果に優れる緯二重織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、二重組織の織物がスポーツ衣料用途などに用いられている。例えば、特許文献1には、裏面に凹凸を有する経緯二重組織あるいは緯二重組織の織物で、裏組織の緯糸を構成する糸条が吸放湿性合成繊維であって、着用時にべとつき感が少なく快適である織物が提案されている。また、特許文献2には、二重組織の織物であって、表組織のカバーファクターや表組織と裏組織の緯糸密度の比率を特定範囲とし、さらに撥水加工や吸水加工を施すことで柔軟性および防水性や吸水性に優れた高密度織物が提案されている。
【0003】
一方、近年、ユニフォーム衣料やアウトドア衣料分野に使用する織物において、動作のしやすさの観点からスポーツ衣料用途と同様に適度なストレッチ性を有することが強く求められている。ストレッチ性を織物へ付与する方法としては、一般的にはポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどを用いた弾性繊維や、潜在捲縮性(熱水処理により捲縮、つまりクリンプが発現するという性質)を有するサイドバイサイド型フィラメント糸、仮撚加工が施された仮撚捲縮加工糸などを使用する方法が知られている。
さらに、屋外で使用されるアウトドア衣料には着用時のストレッチ性に加えて、防寒のための保温性能が要求されている。保温性能を付与する方法としては、太陽光の特定波長を吸収し、熱エネルギーに変換する効率の高い物質を繊維の内部や表面に固着させる方法や、遠赤外線放射の高いセラミックス等を繊維に練り込む方法、または繊維素材の上にコーティングする方法が開発されている。例えば、特許文献3には芯部に酸化アンチモンをドーピングした酸化第二錫の微粒子を含有したナイロン6を配し、鞘部にナイロン6を配した芯鞘繊維で光エネルギーを吸収し、遠赤外線を放射する能力を有する繊維を用いた布帛とすることで防寒衣料に適した保温性に優れる布帛が得られることが提案されている。
しかしながら、特許文献3に用いられるような繊維内部に微粒子を含有する繊維は、繊維自体が硬く、伸長性や強度が大きくないため、ストレッチ性を付与するために弾性繊維などと混繊したり交織した場合には、弾性繊維の伸長に十分に追随できないという問題があった。
【0004】
さらに、ユニフォーム衣料には衣服の形態の保持のしやすさや、ハリコシ感、表面平滑性が求められ、また、洗濯の頻度が高いものであるため、洗濯耐久性(洗濯後の形態安定性や帯電防止性能の耐久性)に優れることも要求される。しかしながら、これらの性能を十分に満足する織物は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-147657号公報
【特許文献2】特開2001―348754号公報
【特許文献3】特開平1-314716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は前記課題を解決することを目的とするものであり、ユニフォーム用途や屋外で着用するようなアウトドア衣料用途に好適な適度なストレッチ性に加え、形態安定性、表面平滑性および温感効果を有する織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の(イ)~(ホ)を要旨とするものである。
【0008】
(イ)緯二重組織の織物であって、表組織を構成する緯糸が種類の異なるポリエステル系ポリマーを繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わせた複合繊維であり、裏組織を構成する緯糸が吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を少なくとも一部に含有する繊維であり、以下の(1)~(4)の条件を同時に満足することを特徴とする、緯二重織物。
(1)JIS L1096 伸び率B法(荷重14.7N)により測定した緯方向の伸び率が13%以上
(2)JIS L1096 伸び率B法(荷重14.7N)により測定した緯方向の伸び率と経方向の伸び率との和が15%以上
(3)JIS L1096 F-2法(中温ワッシャ法;60℃×30分)で1洗後にタンブル乾燥を行った際の経方向の寸法変化率および緯方向の寸法変化率がいずれも+3%~-3%
(4)未伸長状態での表組織における、KES-Fシステムによる織物表面粗さの平均偏差(S
MD)が6.5μm以下
(ロ)表組織を構成する緯糸が種類の異なるポリエステル系ポリマーを繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維であって、複合繊維の単糸繊度が1.0~5.0dtexである、(イ)の緯二重織物。
(ハ)種類の異なるポリエステル系ポリマーのうち少なくとも一方が、ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステルである(イ)または(ロ)の緯二重織物。
(ニ)人工太陽光照射試験で求められる10分経過後の上昇温度が8℃以上である、(イ)の緯二重織物。
(ホ)経糸または緯糸の少なくとも一方に導電糸を含む、(イ)の緯二重織物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の緯二重織物は、適度なストレッチ性を有し、かつ、形態安定性、表面平滑性、温感効果にも優れており、また紫外線の遮蔽性にも優れているため、各種衣料、中でも屋外で着用するアウトドア衣料に好適にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の緯二重織物の一実施態様を示す、緯二重組織の組織図である。なお、図中1行目及び5行目に位置する緯糸は裏糸であることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の緯二重織物(以下、本発明織物と称することがある。)は、表組織を構成する緯糸が種類の異なるポリエステル系ポリマーを繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わせた複合繊維(以下、複合繊維と呼ぶことがある。)である。複合繊維は優れた伸長特性を有するものであることが好ましく、特に、高伸長性を実現するためにはサイドバイサイド型の複合繊維が好ましい。
【0012】
上記のような複合繊維は潜在捲縮性を有するものであるため、本発明では、表組織を構成する緯糸に用いることで、製編織後の熱処理により捲縮が発現し、適度なストレッチ性を有する織物とすることができる。また、本発明においては後述するが、複合繊維の繊度や、緯二重織物の表面および裏面の織組織やカバーファクターなどを適宜変更して、製編織後の熱処理により複合繊維に捲縮を発現させ、複合繊維相互が適度に目の詰まったものとすることで、織物の表組織が表面平滑性に優れ、さらに適度なハリコシ感を有する緯二重織物とすることが可能となる。
【0013】
種類の異なるポリエステル系ポリマーの組み合わせとしては、一方にポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する)を使用し、他方にポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略記する)を使用するものが好ましく、また、一方に高粘度のPETを使用し、他方に低粘度のPETを使用するもの、もしくは、一方にPETを使用し、他方にポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと略記する)を使用するものであってもよい。
つまり、本発明でいう種類の異なるポリエステル系ポリマーとは、組成の異なる2種類以上のポリマーをいう場合と、組成は同じであっても粘度などの特性値が異なる2種類以上のポリマーをいう場合のいずれも含むものである。
【0014】
これらの複合繊維は、単繊維繊度が1.0~5.0dtex、総繊度が40~100dtexのフィラメント糸であることが好ましく、単繊維繊度が1.0~3.0dtex、総繊度が50~90dtexであることがより好ましい。単糸繊度や総繊度を前記範囲とすることで捲縮が発現しやすく、良好なストレッチ性を得ることができる。また、表組織表面のシボ感を抑え、平滑な表面とすることができる。
【0015】
なお、本発明の緯二重織物の表組織を構成する緯糸には、ストレッチ性の効果を損なわない範囲であれば、複合繊維以外の繊維、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリルニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの合成繊維、トリアセテートなどの半合成繊維、綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテートなどのセルロース系繊維が含まれていてもよい。また、該緯糸には後述するが導電糸を必要に応じて適宜含有させることができる。
中でも、表組織を構成する緯糸として、種類の異なるポリエステル系ポリマーを繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に貼り合わせた複合繊維は緯糸の合計質量を100としたときに、90質量%以上含まれることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0016】
また、本発明における複合繊維には付与すべき特性等に応じて、二酸化チタン、二酸化ケイ素、顔料等が含まれていてもよい。
【0017】
本発明織物は、裏組織を構成する緯糸として吸光熱変換性粒子を1~20質量%含有する吸光熱変換性繊維を少なくとも一部に含むものである。
本発明において、「吸光熱変換性繊維」とは、光を吸収して熱線に変換し放射する機能(吸光熱変換能)を有する吸光熱変換性粒子を含有する繊維を指す。
【0018】
吸光熱変換性繊維を構成する樹脂としては、溶融紡糸が可能である熱可塑性樹脂であることが好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ポリマー;ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー;PLA(ポリ乳酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)等のバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるバイオマスポリマー等が挙げられる。
【0019】
吸光熱変換性繊維の構成樹脂として、好ましくはポリエステル、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0020】
なお、吸光熱変換性繊維の構成樹脂としてポリエステルを用いる場合には、2種以上の構成モノマーを含む共重合体であってもよい。例えば、エチレングリコールとイソフタル酸を主成分とし、イソフタル酸、5-スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸:アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール;グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸;ε-カプロラクトン等の脂肪族ラクトンを含む共重合ポリエステルを使用してもよい。
【0021】
吸光熱変換性粒子としては、太陽光を熱線に変換して放射できるものであることが好ましく、具体的には、無機顔料としてはカーボンブラック(黒色顔料)、亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、バライト粉(以上、白色顔料)、鉛丹、酸化鉄赤(以上、赤色顔料)、黄鉛、亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)(以上、黄色顔料)、ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)(以上、青色顔料)、等を挙げることができる。有機顔料として例えばモノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合ジスアゾ顔料などのアゾ顔料、イソインドリノン、イソインドリン、アゾメチン、アントラキノン、アントロン、キサンテン(以上、黄色顔料)、ジケトピロロピロール、ペリレン、アントラキノン(アントロン)、ペリノン、キナクリドン、インジゴイド(以上、橙色顔料)、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アントラキノン、ペリレン、ペリノン、インジゴイド(以上、赤色顔料)、ジオキサジン、キナクリドン、ペリレン、インジゴイド、アントラキノン(アントロン)、キサンテン(以上、紫色顔料)、フタロシアニン、アントラキノン、インジゴイド(以上、青色顔料)、フタロシアニン、アゾメチン、ペリレン(以上、緑色顔料)などの多環顔料、等を挙げることができる。その他、炭化ジルコニウム、炭化珪素、炭化ホウ素、酸化錫、酸化アルミニウム、二酸化珪素、マイカ、タルク等が挙げられる。これらの吸光熱変換性粒子は、1種類を単独で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらの吸光熱変換性粒子の中でも、繊維中での分散性や吸光熱変換能の安定的発現の観点から、カーボンブラック(黒色顔料)、炭化ジルコニウムを用いることが好ましい。
【0022】
吸光熱変換性粒子の平均粒径については、繊維中で分散されて保持できるものであれば特に制限されないが、例えば、10μm以下、好ましくは0.05~1.0μm、より好ましくは0.05~0.5μmが挙げられる。このような平均粒径を満たす吸光熱変換性粒子を使用することにより、紡糸工程において濾材の目詰まりや糸切れ等を抑制することができる。本発明において、吸光熱変換性粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置を用いて測定される体積平均粒子径である。
【0023】
吸光熱変換性繊維における吸光熱変換性粒子の含有量は、1~20質量%である。吸光熱変換性粒子の含有量が1質量%未満であると、所望の温感効果が得られなくなる。一方、吸光熱変換性粒子の含有量が20質量%を超えると、紡糸性が悪化すると同時に吸光熱変換性繊維の強度が低下しやすくなる。吸光熱変換性繊維における吸光熱変換性粒子の含有量として、好ましくは1~15質量%、より好ましくは3~10質量%、特に好ましくは3~5質量%である。
【0024】
吸光熱変換性繊維は、吸光熱変換性粒子を含む樹脂のみからなる単一型のものであってもよく、また、吸光熱変換性粒子を含む樹脂とそれ以外の樹脂からなる複合型の複合繊維であってもよい。複合繊維の例としては、芯鞘構造、サイドバイサイド構造、海島構造、多分割型等が挙げられる。本発明で使用される吸光熱変換性繊維の好適な一例として、芯鞘構造の複合繊維が挙げられる。
【0025】
吸光熱変換性繊維が芯鞘構造である場合、芯部及び鞘部のいずれか少なくとも一方が吸光熱変換性粒子を含んでいればよいが、好ましくは、芯部に吸光熱変換性粒子が含まれ、鞘部に吸光熱変換性粒子が含まれていない態様が挙げられる。このように、芯部のみに吸光熱変換性粒子が含まれる芯鞘構造の吸光熱変換性繊維は、吸光熱変換性粒子同士がより近接して存在するため、温感効果が効率的に奏され、吸光熱変換性粒子の含有量を減少させても十分な温感効果が奏され得る。そして、吸光熱変換性粒子の含有量を減少させることができるため、紡糸操業性も一層安定化させることができる。
【0026】
芯鞘構造の吸光熱変換性繊維である場合の好適な一例として、芯部が吸光熱変換性粒子を含むポリエステル(好ましくはポリエチレンテレフタレート)で構成され、鞘部が吸光熱変換性粒子を含まないポリエステル(好ましくはポリエチレンテレフタレート)で構成されている態様が挙げられる。
【0027】
また、吸光熱変換性繊維が芯鞘構造である場合、芯部と鞘部との質量比については、特に制限されないが、例えば、芯部/鞘部の質量比で、50/50~85/15、好ましくは70/30~80/20が挙げられる。芯部と鞘部の質量比が、前記範囲を充足することにより、紡糸操業性に悪影響を及ぼすことなく、かつ、優れた温感効果を奏することができる。
【0028】
吸光熱変換性繊維は、フィラメント又はステープルのいずれの形態であってもよいが、好ましくはフィラメントが挙げられる。また、吸光熱変換性繊維がフィラメントである場合、モノフィラメント又はマルチフィラメントのいずれであってもよいが、好ましくはマルチフィラメントが挙げられる。
【0029】
吸光熱変換性繊維の繊度(マルチフィラメントの場合は総繊度)については、10~2000dtexが好ましく、75~900dtexがより好ましく、75~300dtexがさらに好ましい。本発明において、吸光熱変換性繊維の繊度(マルチフィラメントの場合は総繊度)は、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って測定される値である。
【0030】
また、吸光熱変換性繊維がマルチフィラメントである場合、その単糸繊度については、例えば、0.5~200dtexが好ましく、1~20dtexがより好ましく、1~10dtexがさらに好ましい。このような単糸繊度を充足するマルチフィラメントを使用することによって、繊維表面積が増加し、それに伴って吸光熱変換能が向上し、温感効果を高めることが可能になる。なお、本発明において、単糸繊度は、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って測定される値である。
【0031】
さらに、吸光熱変換性繊維の好適な一例として、マルチフィラメントの仮撚加工糸であることが好ましい。仮撚加工糸であると捲縮形態に起因してフィラメント同士間に空気層が増加し、その結果、デッドエアーに起因する保温効果が更に付加され得る。仮撚加工の方法は特に限定されず、従来公知の条件を採用して行うことができる。
【0032】
裏組織を構成する緯糸は上記吸光熱変換性繊維を少なくとも一部に含有するものである。すなわち、本発明において裏組織を構成する緯糸は、吸光熱変換性繊維のみで構成されていてもよいが、温感効果を損なわない範囲であれば、前記吸光熱変換性繊維以外の繊維が含まれていてもよい。前記吸光熱変換性繊維以外の繊維については、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ビニロン等の熱可塑性樹脂からなる合成繊維;綿、麻等の天然繊維;レーヨン、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維等が挙げられる。
【0033】
裏組織を構成する緯糸における、吸光熱変換性繊維の混率については、25質量%以上であることが好ましく、30~100質量%がより好ましくは、50~100質量%がさらに好ましい。このような混率を満足することによって、本発明織物により一層優れた温感効果を奏させることが可能になる。吸光熱変換性繊維の含有量が25質量%未満であると、吸光熱変換性繊維が有する優れた温感効果を本発明織物に十分に付与することができない恐れがある。
【0034】
本発明では、裏組織を構成する緯糸に吸光熱変換性繊維を少なくとも一部に用いることで、本発明織物に吸光熱変換性繊維による温感効果を付与することができる。また、吸光熱変換性繊維の含有量を変更することで温感効果を調節ができるため、本発明織物に所望の機能性を付与することができる。なお、裏組織を構成する緯糸は、必要に応じて常法の起毛加工、抗菌剤、消臭剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0035】
本発明織物の経糸としては、特に限定されるものではなく、例えば綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、パラ系アラミド、メタ系アラミド、ポリアリレート、ポリベンズオキサゾール等の合成繊維などが挙げられる。また、形態としては紡績糸、フィラメント糸、複合糸およびそれらを組み合わせた合糸などのいずれであってもよい。中でも強度や耐洗濯性の観点から、合成繊維を用いることが好ましく、ポリエステル系のマルチフィラメントであることが特に好ましい。
【0036】
経糸は、仮撚加工が施されていない原糸であってもよく、仮撚加工糸であってもよい。また、原糸や仮撚加工糸を撚糸したものであってもよい。
経糸の横断面形状についても特に限定されず、円形断面や異形断面、中空断面などのいずれであってもよい。また、付与すべき特性等に応じて、二酸化チタン、二酸化ケイ素、顔料等が含まれていてもよい。
【0037】
経糸の繊度については特に限定されるものではないが、単繊維繊度が0.8~5.0dtex、総繊度が50~120dtexのフィラメント糸であることが好ましく、単繊維繊度が1.0~3.0dtex、総繊度が60~100dtexであることがより好ましい。単糸繊度や総繊度を前記範囲とすることで、ユニフォーム衣料として用いた際に風合いが硬すぎることなく、好適なハリコシ感を有し、形態安定性を保持するものとなりやすい。
【0038】
本発明織物の経糸や緯糸には、織物に制電性を付与する目的で、各種導電糸を適用することも有効である。導電糸は経糸に用いる場合は、好ましくは1~5本/2.54cm、より好ましくは1~2本/2.54cmの割合で配されるのが好ましく、緯糸に用いる場合は、好ましくは1~5本/2.54cm、より好ましくは1~2本/2.54cmの割合で配されるのが好ましい。また、制電性の指標としては、JIS T8118に記載されている「制電作業服」の要件を満足することが好ましい。
【0039】
なお、導電糸としては、導電性成分を繊維中に練り込んだものであることが好ましいが、具体的には、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂などの繊維形成性樹脂に導電性物質を練り込んだもの(導電性樹脂)で形成される導電性繊維(単一型)や、導電性樹脂と非導電性樹脂で形成される導電性繊維(複合型)のいずれであってもよい。中でも、導電性樹脂の少なくとも一部が単繊維表面に露出している形態のものが好ましい。
導電性物質としては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどの導電性カーボンブラック;銀、ニッケル、銅、鉄、錫などの金属単体;硫化銅、硫化亜鉛、ヨウ化銅などの金属化合物などが挙げられる。
【0040】
本発明織物は、緯二重組織の織物である。本発明においては、表組織の緯糸に前記複合繊維、かつ裏組織の緯糸に前記の吸光熱変換性繊維を用いた緯二重組織の織物とすることで、ユニフォーム用途やアウトドア衣料用途に好適な適度なストレッチ性に加え、形態安定性や表面平滑性および温感効果を有する織物とすることができる。
【0041】
本発明のように緯二重組織にすると、一重組織の場合より経糸密度を大きく設定でき、肉厚感のある織物を容易に形成できる。また、組織点が密になる場合であっても経糸が連続して長く浮く部位が存在するので、その部位の糸条の屈曲性は失われず、織物としては柔軟な織物とすることができる。本発明織物は、後述する(1)~(4)の特性値を有する織物とするために、次のような織組織とすることが好ましい。まず、表組織としては、織物表面を平滑にする観点から平織組織が好ましい。一方で、裏組織としては緯糸が表組織の緯糸の複合繊維の伸長に追随しやすくなるという観点から、糸相互の拘束が少ない組織であることが好ましい。中でも、該組織における浮き糸の数は、織物全体として適度なストレッチ性を有しながら、織物の強度や洗濯耐久性などを良好とする観点から、連続浮き数が2~9本が好まく、中でも、3~7本がより好ましい。
【0042】
本発明における緯二重組織の一実施態様について図面を用いて説明する。
図1は、表組織が平組織で、裏組織が裏糸5本飛びである緯二重組織の例である。裏組織では緯糸の浮きが平織よりも長く、交錯点が少ないため糸密度を大きくできる。そのため、図1の緯二重織物では、裏組織の糸に引っ張られて表組織の緯糸に用いる複合繊維相互の拘束が強まることになる。その結果、表組織の表面はより平滑なものとなり、また、織物全体として適度なストレッチ性を有するものとなる。また、裏組織は糸相互の拘束が少なくなるため、本発明織物を緯方向や経方向に伸長させた場合にも、表組織の複合繊維の伸長性を妨げることなく追随するものとできる。
【0043】
本発明の緯二重織物は(1)~(4)の条件を同時に満足するものである。
(1)JIS L1096 伸び率B法(荷重14.7N)により測定した緯方向の伸び率が13%以上
(2)JIS L1096 伸び率B法(荷重14.7N)により測定した緯方向の伸び率と経方向の伸び率との和が15%以上
(3)JIS L1096 F-2法(中温ワッシャ法;60℃×30分)で1洗後にタンブル乾燥を行った際の経方向の寸法変化率および緯方向の寸法変化率がいずれも3%以内
(4)未伸長状態での表組織における、KES-Fシステムによる織物表面粗さの平均偏差(SMD)が6.5μm以下
これらを満足することによって、ユニフォーム用途に適したストレッチ性や形態安定性、ハリ感、表面平滑性を有する織物とすることができる。
【0044】
まず、(1)の条件は、JIS L1096 伸び率B法に従って、荷重14.7Nを加えて測定された緯方向の伸び率が13%以上であることが必要であり、中でも15~35%であることが好ましく、さらには18~30%であることが好ましい。
本発明織物の伸び率が13%未満であると、本発明織物をユニフォーム衣料として用い、着用動作をした時に、皮膚の伸びに追随する適度なストレッチ性が得られないため、着用快適性に劣るものとなる。上限値は特に限定されないが、35%程度であればユニフォーム衣料として用いた際に好適なハリコシ感や形態安定性を有するものとなる。本発明においては、上記したように、表組織と裏組織の緯糸に特定の糸を用いた緯二重組織とすることで、特定範囲の伸び率を有する緯二重織物を得ることが可能となる。
なお、本発明織物の経方向の伸び率は、2~30%であることが好ましく、中でも5~15%であることが好ましい。
【0045】
また、本発明織物はJIS L1096 伸長回復率B-1法(定荷重法による徐重1時間後)に従って測定された緯方向の伸長回復率が70%以上であることが好ましい。70%未満である場合には、衣料として着用した時に生地が回復しにくく、膝や肘部がたるみを引き起こし、シワとなる場合がある。本発明においては、上記したように、表組織と裏組織の緯糸に特定の糸を用いた緯二重織物とすることで、特定範囲の伸長回復率を有する緯二重織物を得ることが可能となる。
【0046】
(2)の条件は、JIS L1096 伸び率B法に従って、荷重14.7Nを加えて測定された緯方向の伸び率と経方向の伸び率との和が15%以上であることが必要であり、中でも25~50%であることが好ましく、さらには25~40%であることが好ましい。
緯方向の伸び率と経方向の伸び率との和が15%未満であると、本発明織物を衣料として用い、着用動作をした時に、皮膚の伸びに追随する適度なストレッチ性が得られないため、着用快適性に劣るものとなる。上限値は特に限定されないが、50%程度であればユニフォーム衣料として用いた際に好適なハリコシ感や形態安定性を有するものとなる。本発明においては、上記したように、表組織と裏組織の緯糸に特定の糸を用いた緯二重組織とすることで、特定範囲の伸び率を有する緯二重織物を得ることが可能となる。
【0047】
(3)の条件は、JIS L1096 F-2法(中温ワッシャ法;60℃×30分)で1洗後にタンブル乾燥を行った際の経方向の寸法変化率および緯方向の寸法変化率がいずれも+3%~-3%である必要があり、中でも前記寸法変化率がいずれも+2.5~-2.5%であることが好ましく、さらには+1.0~-2.0%以下であることが好ましい。1洗後にタンブル乾燥を行った際の経方向および緯方向の寸法変化率が3%を超えると、本発明織物を衣料として用いて着用と洗濯を繰り返した場合に、寸法安定性に劣り、収縮による型崩れやシワが発生する。本発明においては、上記したように、表組織と裏組織の緯糸に特定の糸を用いた緯二重組織とすることで、特定範囲の寸法変化率を満足し、形態安定性を有する緯二重織物を得ることが可能となる。
【0048】
そして、本発明織物の前記寸法変化率は、前記の洗濯・乾燥操作を1回行った後(1洗後)の緯二重織物を用いて次のようにして測定するものである。
まず、JIS L1096 8.39に従って、洗濯前の緯二重織物にマーキングし、その後、前記の洗濯・乾燥操作を1回行った後(1洗後)、緯二重織物の経方向と緯方向のマーキング間の長さを測定し、下記の計算式によって求める。
寸法変化率(%)=100-〔(洗濯後のマーキング間の長さ/洗濯前のマーキング間の長さ)×100〕
【0049】
(4)の条件は、未伸長状態での表組織における、KES-Fシステムに従って測定された織物表面粗さの平均偏差(SMD)が6.5μm以下であることが必要である。表組織におけるSMDが6.5μmを超えると、織物表面が平滑でなく凹凸やシボを有するものとなり、ユニフォーム衣料に適したハリコシ感や高品位な外観に劣るものとなる。本発明においては、表組織の緯糸に上記のような複合繊維を用いたり、また表組織が平組織の緯二重織物とし、表組織を構成する糸相互が適度に目の詰まったものとすることで、特定範囲の織物表面粗さの平均偏差を有し、表面平滑性に優れたものとすることが可能となる。
なお、本発明織物の未伸長状態での裏組織における、KES-Fシステムに従って測定された織物表面粗さのSMDは、裏組織の糸相互の拘束を柔軟なものとして、裏組織の緯糸が表組織の緯糸の複合繊維の伸長に追随しやすくする観点より、表組織のSMDよりも大きいことが好ましく、具体的にはSMDが3.0μmを超えることが好ましい。未伸長状態での裏組織におけるSMDを前記範囲とするには、例えば裏組織を綾組織(ツイル、斜紋)もしくは朱子組織とすることなどが挙げられる。また、後述するが本発明織物は温感効果を有するものであり、裏組織において構成する繊維を起毛することにより、さらに保温効果も付与することが可能となる。
【0050】
本発明織物は表組織のカバーファクター(CF)が1500~4000の範囲であることが好ましく、1800~3000であることがより好ましい。表組織のカバーファクターが前記範囲内であれば、織物の組織が甘すぎず、また緻密すぎないため、織物全体として適度なストレッチ性やハリコシ感を有するものとできる。ここで、表組織のカバーファクター(CF)は、次式で定義する。
CF=D1/2×M+E1/2×N
Dは経糸の繊度(デシテックス)であり、Eは表組織を構成する緯糸の繊度(デシテックス)で、Mは経糸の密度(本/2.54cm)であり、Nは表組織を構成する緯糸の密度(本/2.54cm)である。
【0051】
裏組織のカバーファクター(CF)は1500~4000の範囲であることが好ましく、1800~3000であることがより好ましい。裏組織のカバーファクターが前記範囲内であれば、織物の組織が甘すぎず、また緻密すぎないため、織物全体として適度なストレッチ性やハリコシ感を有するものとできる。ここで、裏組織のカバーファクター(CF)は、次式で定義する。
CF=D1/2×M+X1/2×Y
Dは経糸の繊度(デシテックス)であり、Xは裏組織を構成する緯糸の繊度(デシテックス)で、Mは経糸の密度(本/2.54cm)であり、Yは裏組織を構成する緯糸の密度(本/2.54cm)である。
【0052】
また、本発明織物における裏組織の密度は、表組織の密度の25~100%とし、表組織の密度より大きくしないことが好ましい。すなわち緯二重組織において、裏組織の緯糸密度は、表組織の緯糸密度の25~100%とすることが好ましい。裏組織の密度が、表組織の密度の25%未満であると、厚みに欠ける織物になり、適度なハリコシ感を発現させることが困難となる。
糸密度は上記カバーファクターを満足するように適宜変更することが好ましいが、具体的には、表組織の緯糸密度は50~150本/2.54cmが好ましく、裏組織の緯糸密度は12~150本/2.54cmが好ましい。また、経糸密度は30~200本/2.54cmが好ましい。
【0053】
さらに、本発明織物の目付は用途に応じて適宜選択すればよいが、100~250g/mであることが好ましく、中でも120~220g/mであることが好ましい。
【0054】
本発明織物は、太陽光の暴露を受けると、吸光熱変換性繊維によって効率的に熱線に変換することができ、例えば衣服として使用すると、衣服内が素早く暖まり、皮膚の表面温度が上昇することによって、優れた温感効果を奏することができる。本発明織物が具備し得る温感効果として、以下の人工太陽光照射試験で求められる10分経過後の上昇温度が8℃以上であることが好ましく、9℃以上であることがより好ましく、10℃以上であることがさらに好ましい。
<人工太陽光照射試験>
緯二重織物(100mm×100mm)の表面の中心部分に温度センサーを取り付け、緯二重織物の裏面が上になるように置いて、温度20℃、相対湿度65%RHの環境で静置する。緯二重織物の前記表面の温度が20℃で安定した後に、500Wの人工太陽照射灯(編地から高さ20cmに設置)を緯二重織物の前記裏面に対して、照度100,000luxで照射する。照射開始から10分後の緯二重織物の前記表面の温度を測定し、下記算出式に従って10分経過後の上昇温度を算出する。
10分経過後の上昇温度(℃)=照射開始から10分後の温度(℃)-20℃
【0055】
本発明織物は、染色されていても染色されていなくても前記の温感効果を発現するものであるが、中でもブラック、チャコールグレー、ネービー、ブラウンなどの濃色に染色されることによって蓄熱保温効果が促され、太陽光の暴露を受けた際の上昇温度がより大きくなり、温感効果にさらに優れたものとすることが可能となる。
【0056】
本発明織物の紫外線防止指数(UPF)は、30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることが特に好ましい。該紫外線防止指数を所定以上とするためには、緯二重組織として織物の厚みを出すことや、表組織や裏組織の織組織をより密なものにすること、緯糸や経糸にフルダルポリエステル繊維を用いる等により可能となる。
【0057】
本発明では、紫外線防止指数(UPF)はJIS L 1925(2019)「繊維製品の紫外線遮蔽評価方法」に従い、分光光度計を使用して、波長290~400nmの紫外線により試料の分光透過率を測定し、太陽分光放射照度の相対エネルギー値や皮膚の影響度合いを表す値などを用い算出する。
【0058】
さらに本発明織物は、紫外線遮蔽率が96.0%以上であることが好ましく、97.0%以上であることがより好ましい。紫外線遮蔽率が上記範囲であると紫外線防止性に優れることの指標となる。紫外線遮蔽率の算出方法は、実施例において後述する。
本発明では、紫外線防止指数や紫外線遮蔽率が上記範囲を満足するものとすることで、本発明織物を衣服として用いた場合に、前述した優れた温感効果に加え、紫外線防止効果を奏するものとなる。そのため、本発明織物は屋外で使用するアウトドア衣料やユニフォーム衣料用途に好適なものとなる。
【0059】
本発明の緯二重織物は、適度なストレッチ性や形態安定性、ハリコシ感、表面平滑性を有することで、ユニフォーム用途への使用に好適な衣料を提供することができる。また、裏組織は吸光熱変換性繊維を含有するものであり、温感効果に優れるものであるため、屋外にて使用されるアウトド用防寒衣料用途にも好適なものである。さらに本発明の緯二重織物は表組織表面が平滑であり、スナッグなどが生じにくいものであるため、本発明織物を衣料として用いる場合には、表組織が肌面から遠い側、裏組織が肌面に近い側となるように配置された状態で使用することが好ましい。
【実施例0060】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。各種の特性値などの測定、評価方法は次の通りである。
【0061】
(a)伸び率
得られた緯二重織物を60mm×300mmに切り出したものを試験片として用いて、JIS L1096(2010)の8.16.1に記載のB法に規定されている方法に従って伸び率を測定した。つかみ間隔を200mm、引っ張り速度20cm/分の条件で引張荷重14.7Nまで伸長させたときの伸び率をタテ方向およびヨコ方向についてそれぞれ求めた。
(b)伸長回復率
得られた緯二重織物を60mm×300mmに切り出したものを試験片として用いて、JIS L1096(2010)の8.16.2に記載のB-1法(定荷重法)に規定されている方法に従って伸長回復率を測定した。試験片を上部クランプに固定し、初荷重をかけた後、下部クランプを固定し、次いで200mmの間隔(L0)に印をつけ14.7Nの荷重をかけ、1時間放置後、印間の長さ(L1)を計測した。次いで除重し、30秒後および1時間後に初荷重をかけ、再度印間の長さ(L2)を計測し、次式で伸長回復率を算出した。
伸長回復率(%)=[(L1-L2)/(L1-L0)]×100
(c)寸法変化率
得られた緯二重織物を40cm×40cmに切り出したものを試験片として用いて、経方向と緯方向の寸法を測定した後、JIS L1096 F-2法(中温ワッシャ法;60℃×30分)に従って1回洗濯、脱水を行い、経方向が垂直に、緯方向が水平になるように吊り下げ、一昼夜乾燥した後、経方向と緯方向の寸法を再度測定し、下記の式で寸法変化率を算出した。
寸法変化率(%)=[(洗濯前の寸法-洗濯後の寸法)/洗濯前の寸法]×100
(d)織物表面粗さの平均偏差(SMD)
自動化表面試験機(カトーテック株式会社製「KESFB4-AUTO-A」)を使用してSMDを測定した。得られた緯二重織物を20cm×20cmに切り出したものを試験片として用いて、400gの張力をかけた試験片を上記試験機に設置した。次に、金属摩擦子を含めて50gの垂直方向の荷重を掛け、バネの接触圧により10gの力で摩擦子を接触させ、試験片を前後に30mm移動して、試験片の表面粗さの変動を計測した。測定は、WARP、WEFTの2方向で各3回行い、その平均値をSMDとした。SMDは表面粗さの変動を示すものであり、値が大きいほど突出部による凹凸があると判定できる。なお、SMDの測定は、緯二重織物の縦方向に摩擦子を移動させることによって行った。
(e)発熱特性
<人工太陽光照射試験>
100mm×100mmのサイズに裁断した緯二重織物を準備した。この緯二重織物の表面(表組織により構成された面)の中心部分に温度センサーを取り付け、緯二重織物の裏面(裏組織により構成された面)が上になるように置いて、温度20℃、相対湿度65%RHの環境で静置した。緯二重織物の前記表面の温度が20℃で安定した後に、編地から高さ20cmに設置した集光形人工太陽照射灯(セリック社製のソーラーライト「XC-100」、500ワット)を用いて、照度100,000luxで照射を開始した。照射開始から10分後の緯二重織物の表面の温度を測定し、下記算出式に従って10分経過後の上昇温度を算出した。
10分経過後の上昇温度(℃)=照射開始から10分後の温度(℃)-20℃
(f)紫外線防止指数(UPF)
得られた緯二重織物を用いて、上記の通り算出した。
(g)紫外線遮蔽率
得られた緯二重織物を用いて、JIS L 1925(2019)「繊維製品の紫外線遮蔽評価方法」に従って測定した。分光光度計(島津製作所社製、「UV-3100PC」)を用い、測定波長領域290~400nmの紫外線に対する透過率を測定して、分光光度計を使用し、波長290~400nmの紫外線に対する透過率を測定して、下記式により紫外線遮蔽率を求めた。
紫外線遮蔽率(%)=100-紫外線に対する平均透過率(%)
(g)表面平滑性(シボ立ち)
得られた緯二重織物を用いて、表組織に対して以下の基準で官能評価を行った。
○:表面平滑性が良い(シボ立ちがない)
×:表面平滑性に劣る(シボ立ちがある)
(h)ハリコシ感
得られた緯二重織物を用いて、以下の基準で官能評価を行った。
○:適度なハリコシ感に優れる
×:ハリコシ感に劣る
【0062】
実施例、比較例で使用する吸光熱変換性繊維について説明する。
まず、鞘成分としてポリエチレンテレフタレート樹脂(極限粘度0.65)を使用し、芯成分には、カーボンブラック粒子(平均粒径0.4μm)1.25質量%含むポリエチレンテレフタレート樹脂(極限粘度0.65)を使用した。
孔数が48孔の芯鞘複合ノズルプレートを有する複合紡糸装置を用いて、芯部と鞘部との質量比(芯部/鞘部)が80/20になるように、前記鞘成分と芯成分を紡糸温度295℃で3000m/分で紡出し、280dtex/48フィラメントの半未延伸糸を得た。次いで、得られた半未延伸糸を、TMTマシナリー社製の高速仮撚機「TMC-1」を用い、延伸倍率1.7倍、仮撚速度600m/分で仮撚を行い、芯鞘構造の吸光熱変換性繊維の仮撚加工糸(170dtex/48フィラメント)を得た。なお、吸光熱変換性繊維全体中のカーボンブラック粒子の含有量は1質量%であった。
【0063】
実施例1
(糸使い)
表組織の緯糸:ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートのサイドバイサイド複合繊維(55dtex/48f、強度3.58N/dtex、伸度26.2%)を2本引き揃えたもの
裏組織の緯糸:上記の吸光熱変換性繊維
経糸:下記、糸条Xと糸条Yを使用した
糸条X;ポリエチレンテレフタレートからなる酸化チタンを2.0質量%含有するポリエステルマルチフィラメント糸(84dtex/72f)
糸条Y;以下に示す非導電糸と導電糸からなる複合糸(撚り数(Z撚)400T/mの合撚糸)
非導電糸;ポリエチレンテレフタレートからなるポリエステルマルチフィラメント(56dtex/24f)
導電糸;KBセーレン社製「ベルトロン」(22dtex/3f、鞘部の導電性ポリマーが外周長の100%を占める)
(編組織)
エアージェットルーム(AJL)織機を用いて、図1に示す組織(表組織が平織で裏組織が裏糸5本飛び)にて製織し、生機を得た。その際、経糸は糸条Xと糸条Yを24:1の比率で用いた。
得られた生機を非イオン系界面活性剤(日華化学製サンモールFL)2g/lで80℃×20分で精練し、100℃×20分でリラックス処理した。次いで160℃で1分間乾熱セットし、経糸密度150本/2.54cm、表組織緯糸密度96本/2.54cm、裏組織緯糸密度32本/2.54cmである緯二重織物を得た。
【0064】
実施例2
裏組織の緯糸として、上記の吸光熱変換性繊維とポリエチレンテレフタレートからなる酸化チタンを0.5質量%含有するポリエステルマルチフィラメント糸(167dtex/48fの2本引き揃え糸であり、以下「セミダル糸」と略記する)を用いて、本数比が吸光熱変換性繊維/セミダル糸=1/1(質量比が吸光熱変換性繊維/セミダル糸=170/167)となるように緯糸挿入した以外は実施例1と同様にして生機を得た。その後、実施例1同様にして精練・リラックス処理・乾熱セットし、経糸密度150本/2.54cm、表組織緯糸密度96本/2.54cm、裏組織緯糸密度32本/2.54cmである緯二重織物を得た。
【0065】
実施例3
裏組織の緯糸として、上記の吸光熱変換性繊維とセミダル糸を用いて、本数比が吸光熱変換性繊維/セミダル糸=1/2(質量比が吸光熱変換性繊維/セミダル糸=170/334)となるように緯糸挿入した以外は実施例1と同様にして生機を得たあと、実施例1同様にして精練・リラックス処理・乾熱セットし、経糸密度150本/2.54cm、表組織緯糸密度96本/2.54cm、裏組織緯糸密度32本/2.54cmである緯二重織物を得た。
【0066】
実施例4
実施例1で得られた生機を、非イオン系界面活性剤(日華化学製サンモールFL)2g/lで80℃×20分で精練し、100℃×20分でリラックス処理をした。次いて、下記染色条件で染色処理し、160℃で1分間乾熱セットして、経糸密度150本/2.54cm、表組織緯糸密度96本/2.54cm、裏組織緯糸密度32本/2.54cmの、濃色(チャコールグレー)に染色された緯二重織物を得た。
(染色条件)
・染料:Dianix Yellow UN-SE200NEW 0.31%o.m.f
Dianix Blue UN-SE 0.3%o.m.f
Dianix Red UN-SE 0.3%o.m.f
・助剤:ニッカサンソルトSN-130(日華化学社製) 0.5g/l
:酢酸 0.2cc/l
・温度×時間:130℃×30分
・浴比:1:30
【0067】
比較例1
裏組織の緯糸として、吸光熱変換性繊維を用いることなく、セミダル糸のみを用いた以外は実施例1と同様にして生機を得たあと、実施例1同様にして精練・リラックス処理・乾熱セットし、経糸密度150本/2.54cm、表組織緯糸密度96本/2.54cm、裏組織緯糸密度32本/2.54cmである緯二重織物を得た。
【0068】
実施例1~3および比較例1の緯二重織物の構成および特性値を表1、表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1から明らかなように、実施例1~3は表組織の緯糸にサイドバイサイド型の複合繊維、裏組織の緯糸に吸光熱変換性繊維を用いた緯二重織物で、さらに伸び率や寸法変化率、SMDが特定範囲を満足するものであったため、得られた織物はストレッチ性、形態安定性、表面平滑性、ハリコシ感、また温感効果にも優れるものであった。また、実施例4は、濃色に染色された織物であったため、人工太陽光照射試験での上昇温度が大きく、温感効果にさらに優れるものであった。
図1