(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035729
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20240307BHJP
C22B 1/20 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C22B1/16 R
C22B1/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140381
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】安原 宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳也
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA32
4K001CA33
4K001CA34
4K001CA37
4K001CA40
4K001CA44
4K001CA48
4K001GA10
4K001GB11
(57)【要約】
【課題】焼結鉱の返鉱率を予測して目標値へ制御することを可能にする返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置が提供される。
【解決手段】返鉱率制御方法は、少なくともクーラーに関するデータを説明変数とし、返鉱率を目的変数とする返鉱率予測モデルを用いて予測された返鉱率の予測値に基づいて、焼結機及びクーラーを含む設備で実行される焼結プロセスを制御する返鉱率制御方法であって、返鉱率の目標値と、クーラーに関するデータを含む返鉱率予測モデルの入力データを、返鉱率を特定できるタイミングを基準とした遅れ時間を考慮して取得する取得ステップ(S1)と、入力データと返鉱率予測モデルを用いて返鉱率を予測する返鉱率予測ステップ(S2)と、返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、焼結プロセスについての操作変数の操作量を算出する操作量算出ステップ(S3)と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともクーラーに関するデータを説明変数とし、返鉱率を目的変数とする返鉱率予測モデルを用いて予測された前記返鉱率の予測値に基づいて、焼結機及び前記クーラーを含む設備で実行される焼結プロセスを制御する返鉱率制御方法であって、
前記返鉱率の目標値と、前記クーラーに関するデータを含む前記返鉱率予測モデルの入力データを、前記返鉱率を特定できるタイミングを基準とした遅れ時間を考慮して取得する取得ステップと、
前記入力データと前記返鉱率予測モデルを用いて前記返鉱率を予測する返鉱率予測ステップと、
前記返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、前記焼結プロセスについての操作変数の操作量を算出する操作量算出ステップと、を含む、返鉱率制御方法。
【請求項2】
前記クーラーに関するデータは、前記クーラーのダクト内圧力及び送風圧力の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の返鉱率制御方法。
【請求項3】
前記入力データは、焼成に関するデータを含む、請求項1又は2に記載の返鉱率制御方法。
【請求項4】
前記焼成に関するデータは、排ガスNOx濃度、排ガスO2濃度、排ガス温度及びパレットスピードの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の返鉱率制御方法。
【請求項5】
前記入力データは、前記焼結機に装入される原料に関するデータを含む、請求項1又は2に記載の返鉱率制御方法。
【請求項6】
前記原料に関するデータは、原料銘柄、原料水分、造粒ミキサーでの散水流量、凝結材の配合比率、生石灰の配合比率及び鉄鉱石の配合比率の少なくとも1つを含む、請求項5に記載の返鉱率制御方法。
【請求項7】
前記返鉱率予測モデルは、前記焼結プロセスにおける実績データから抽出された前記説明変数に対応するデータと、前記実績データから抽出された前記返鉱率と、を前記遅れ時間を考慮して対応させた学習データを用いた機械学習によって生成される、請求項1又は2に記載の返鉱率制御方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の返鉱率制御方法で算出された前記操作変数の操作量を用いて焼結鉱を製造する、焼結鉱の製造方法。
【請求項9】
少なくともクーラーに関するデータを説明変数とし、返鉱率を目的変数とする返鉱率予測モデルを用いて予測された前記返鉱率の予測値に基づいて、焼結機及び前記クーラーを含む設備で実行される焼結プロセスを制御する返鉱率制御装置であって、
前記返鉱率の目標値と、前記クーラーに関するデータを含む前記返鉱率予測モデルの入力データを、前記返鉱率を特定できるタイミングを基準とした遅れ時間を考慮して取得する取得部と、
前記入力データと前記返鉱率予測モデルを用いて前記返鉱率を予測する返鉱率予測部と、
前記返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、前記焼結プロセスについての操作変数の操作量を算出する操作量算出部と、を含む、返鉱率制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業において、長年の採掘による鉄鉱石の品位低下が生じている。そのため、山元での選鉱を経た粉率の高い微粉鉱の使用割合が高まっており、微粉鉱を高炉装入前に凝結し焼結鉱を製造する焼結プロセスの重要度が高まっている。
【0003】
図1は焼結プロセスの概要を示す図である。焼結鉱は、凝結材の燃焼熱で粒径の小さい鉄鉱石を焼き固めて製造される。粉状の鉄鉱石をそのまま焼結機に装入すると通気悪化により燃焼反応が抑制される。そのため、造粒プロセスにおいて、生石灰、コークスなどの他の原料と共に鉄鉱石がミキサーで水と混合されて、元の原料よりも粒径が大きな造粒物に加工される。造粒物は焼結機に装入され、点火炉で点火された後、下方からの空気吸引により上方から下方へと層状に徐々に燃焼反応が進行する。焼成後の焼結鉱は、焼結機から排出されてクラッシャーで砕かれた後、クーラーへ送られる。クーラーのダクト内で空気により冷却された後に、篩により選別されて、粒径が大きなものが良品(
図1の「製品」)として高炉へ送られる。粒径が小さな焼結鉱(一例として粒径が4mm以下)は返鉱として焼結機に再度投入される。
【0004】
ここで、返鉱率は焼成後の焼結鉱に占める返鉱の割合として定義される。返鉱率を減らして歩留りを改善する手法としては、焼結鉱が未焼成のまま焼結機を通過することを防止するために燃焼を促進させることが有効である。例えば、熱源である凝結材の配合比率を高めること、通気改善のため造粒時にバインダーとして作用する生石灰の配合比率を高めること、点火炉で着火しやすくするために上層の粉コークスの割合を増やすことが有効である。また、焼成時間を確保するために、パレットスピードを下げることが有効である。一方で、返鉱率の低減と生産性はトレードオフの関係にあり、凝結材、生石灰、粉コークスの配合比率を増やすと生産コストが増加し、パレットスピードを下げると生産量が低下する。そのため、操業状況に応じて適切な目標値を設定して返鉱率を制御する必要がある。
【0005】
返鉱率は、篩による選別の後の工程で測定される。そのため、焼成を開始してから返鉱率が測定されるまで時間がかかり、一例として約2時間を要する。そのため、返鉱率が増加しても、検知されるのは例えば2時間後であり、是正のためのアクションが2時間遅れることになる。返鉱率が減少した場合も同様で、是正のためのアクションが遅れることになる。
【0006】
返鉱率の変動を早期に検知して制御するためには、将来の返鉱率を予測して事前にアクションを実施する必要がある。例えば特許文献1は、焼結鉱構成鉱物であるカルシュウムフェライト含有率、スラグ含有率、気孔径分布指数及び気孔率から返鉱量を予測する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1の方法は、物性同定のために抜き取り試験が必要であり、連続的に返鉱率を予測できない。そのため、返鉱率の変動を早期に検知することはできない。
【0009】
本開示の目的は、焼結鉱の返鉱率を予測して目標値へ制御することを可能にする返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本開示の一実施形態に係る返鉱率制御方法は、
少なくともクーラーに関するデータを説明変数とし、返鉱率を目的変数とする返鉱率予測モデルを用いて予測された前記返鉱率の予測値に基づいて、焼結機及び前記クーラーを含む設備で実行される焼結プロセスを制御する返鉱率制御方法であって、
前記返鉱率の目標値と、前記クーラーに関するデータを含む前記返鉱率予測モデルの入力データを、前記返鉱率を特定できるタイミングを基準とした遅れ時間を考慮して取得する取得ステップと、
前記入力データと前記返鉱率予測モデルを用いて前記返鉱率を予測する返鉱率予測ステップと、
前記返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、前記焼結プロセスについての操作変数の操作量を算出する操作量算出ステップと、を含む。
【0011】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記クーラーに関するデータは、前記クーラーのダクト内圧力及び送風圧力の少なくとも1つを含む。
【0012】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記入力データは、焼成に関するデータを含む。
【0013】
(4)本開示の一実施形態として、(3)において、
前記焼成に関するデータは、排ガスNOx濃度、排ガスO2濃度、排ガス温度及びパレットスピードの少なくとも1つを含む。
【0014】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記入力データは、前記焼結機に装入される原料に関するデータを含む。
【0015】
(6)本開示の一実施形態として、(5)において、
前記原料に関するデータは、原料銘柄、原料水分、造粒ミキサーでの散水流量、凝結材の配合比率、生石灰の配合比率及び鉄鉱石の配合比率の少なくとも1つを含む。
【0016】
(7)本開示の一実施形態として、(1)から(6)のいずれかにおいて、
前記返鉱率予測モデルは、前記焼結プロセスにおける実績データから抽出された前記説明変数に対応するデータと、前記実績データから抽出された前記返鉱率と、を前記遅れ時間を考慮して対応させた学習データを用いた機械学習によって生成される。
【0017】
(8)本開示の一実施形態に係る焼結鉱の製造方法は、
(1)から(7)のいずれかの返鉱率制御方法で算出された前記操作変数の操作量を用いて焼結鉱を製造する。
【0018】
(9)本開示の一実施形態に係る返鉱率制御装置は、
少なくともクーラーに関するデータを説明変数とし、返鉱率を目的変数とする返鉱率予測モデルを用いて予測された前記返鉱率の予測値に基づいて、焼結機及び前記クーラーを含む設備で実行される焼結プロセスを制御する返鉱率制御装置であって、
前記返鉱率の目標値と、前記クーラーに関するデータを含む前記返鉱率予測モデルの入力データを、前記返鉱率を特定できるタイミングを基準とした遅れ時間を考慮して取得する取得部と、
前記入力データと前記返鉱率予測モデルを用いて前記返鉱率を予測する返鉱率予測部と、
前記返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、前記焼結プロセスについての操作変数の操作量を算出する操作量算出部と、を含む。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、焼結鉱の返鉱率を予測して目標値へ制御することを可能にする返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、焼結プロセスの概要を示す図である。
【
図2】
図2は、説明変数の数に応じた返鉱率予測モデルの予測値の誤差を示す図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る返鉱率制御装置の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る返鉱率制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置が説明される。本実施形態に係る返鉱率制御方法は、概要として、クーラーダクト内圧力が説明変数に含まれる機械学習モデルにより返鉱率を予測する。そして、予測値に基づいて返鉱率の変動を小さくするように操作量を算出し、出力することによって、返鉱率が目標値となるように制御したり、適切な操業アクションを実施させたりすることができる。
【0022】
本実施形態に係る返鉱率制御方法は、焼結機の後段のクーラーのダクト内において返鉱率が多い(すなわち焼結鉱の粒径が細かい)ほど通気が悪化し、クーラーで焼結鉱を冷却する際の空気の吸引圧力が低下(負圧が増加)する又は送風圧力が増加する関係を用いる。つまり、返鉱率予測モデルの説明変数として、少なくとも「クーラーに関するデータ」が用いられる。クーラーに関するデータは、クーラーのダクト内圧力及び送風圧力の少なくとも1つを含む。ダクト内圧力、送風圧力は、例えばクーラーに設けられたセンサなどによって測定される。本実施形態において、クーラーに関するデータはダクト内圧力であるとして説明する。ダクト内圧力を測定するセンサは、圧力を測定できるものであればよく、例えば、ひずみゲージ式、金属ゲージ式、半導体ゲージ式、半導体隔膜式の圧力計を用いることができる。
【0023】
本実施形態に係る返鉱率制御方法では、返鉱率予測モデルを用いて返鉱率を予測する。返鉱率予測モデルは、少なくともクーラーに関するデータを説明変数とし、返鉱率を目的変数とする。そして、予測した返鉱率の予測値に基づいて、焼結機及びクーラーを含む設備で実行される焼結プロセスを制御することができる。例えば設備は自動的に又はオペレータの操作を介して、焼結プロセスにおいて返鉱率の変動が小さくなるように操業アクションを実施できる。
【0024】
ここで、返鉱率予測モデルは、説明変数にクーラーに関するデータを含むが、その他の操業因子を併用してよい。返鉱率予測モデルの説明変数(すなわち返鉱率予測モデルの入力データ)は「焼成に関するデータ」を含んでよい。焼成に関するデータは、排ガスNOx濃度、排ガスO2濃度、排ガス温度及びパレットスピードの少なくとも1つを含んでよい。排ガスNOx濃度、排ガスO2濃度、排ガス温度は、それぞれ焼成で生じる排ガスのNOx濃度、O2濃度、温度である。パレットスピードは、サージホッパーより装入された原料(擬似粒子)を搬送するパレットの移動速度である。例えば熱が不足した場合に、CO分圧が低下して排ガスのNOx濃度が増加するため、NOx濃度が増加するほど返鉱率が増加する。そのため、排ガスNOx濃度を説明変数として併用することが考えられる。
【0025】
また、返鉱率予測モデルの入力データは、焼結機に装入される「原料に関するデータ」を含んでよい。原料に関するデータは、原料銘柄、原料水分、造粒ミキサーでの散水流量、凝結材の配合比率、生石灰の配合比率及び鉄鉱石の配合比率の少なくとも1つを含んでよい。原料銘柄、原料水分は、それぞれ原料における鉄鉱石の銘柄、原料における水分量である。
【0026】
返鉱率予測モデルは、説明変数から目的変数(返鉱率)を得るように構成されていれば、特定のものに限定されない。返鉱率予測モデルは、例えば物理モデルであってよいし、機械学習モデルであってよい。本実施形態において、返鉱率予測モデルは機械学習によって生成される。機械学習の手法としては、線形回帰、ニューラルネットワーク、決定木、GBDT(Gradient Boosting Decision Tree)、ランダムフォレストなどを用いることができ、特に限定されない。返鉱率予測モデルは、返鉱率の予測が行われる前に、例えば焼結プロセスにおける実績データ(過去の測定値及び設定値など)を用いて生成される。
【0027】
図2は、線形回帰の手法によって生成された返鉱率予測モデルを評価した一例を示す。機械学習における説明変数の数(種類)を追加していき、それぞれの機械学習モデルによる返鉱率の予測値と実際の返鉱率との誤差が測定された。例えば説明変数がダクト内圧力のみである返鉱率予測モデルによる予測の誤差は1.4%である。これに対して、例えば説明変数がダクト内圧力、排ガスNO
x濃度、排ガスO
2濃度及び排ガス温度である返鉱率予測モデルによる予測の誤差は1.0%である。このように、説明変数の数を増やすほど誤差が低下する傾向が見られた。ここで、
図2は説明変数の追加順の一例を示すものであり、例えば説明変数としてダクト内圧力の次に凝結材の配合比率を追加してよく、
図2の追加順によらず説明変数の数を増やすほど誤差が低下する傾向が見られる。
【0028】
また、上記のように、返鉱率予測モデルの入力データとして様々な操業因子(焼結プロセスについての操作変数)を用いることができるが、操作変数によって返鉱率に影響するまでの時間が異なる。例えば原料に関するデータである生石灰の配合比率は、焼結プロセスの上流に位置するため、3時間後に返鉱率に影響し得る。例えば焼成に関するデータである排ガスNOx濃度は、焼結プロセスの中流に位置するため、2時間後に返鉱率に影響し得る。例えばクーラーに関するデータであるダクト内圧力は、焼結プロセスの下流に位置するため、1時間後に返鉱率に影響し得る。また、返鉱率に影響するまでの時間は、パレットスピードによっても変動し得る。したがって、正確な予測のために、返鉱率予測モデルの入力データは、返鉱率を特定できるタイミングを基準とした遅れ時間を考慮して取得されることが好ましい。ここで、返鉱率を特定できるタイミングは、例えばクーラーでの冷却後に篩により選別されて粒径が基準以下であるかを判定する処理の実行時である。この判定時の焼結鉱に影響した操作変数が、上記の遅れ時間を考慮して取得される。同様に、返鉱率予測モデルは、焼結プロセスにおける実績データから抽出された説明変数に対応するデータと、実績データから抽出された返鉱率と、を上記の遅れ時間を考慮して対応させた学習データを用いた機械学習によって生成されることが好ましい。
【0029】
上記のような入力データと返鉱率予測モデルを用いて、返鉱率を予測する処理が実行される。また、返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、焼結プロセスについての操作変数の操作量が算出される。操作量の算出では、操作量を説明変数とする機械学習モデルを構築しておき、返鉱率の予測値と目標値が一致するような操作量を逆解析により算出してよい。
【0030】
返鉱率を低減するためのアクションとしては、焼結鉱が未焼成のまま焼結機を通過することを防止するために燃焼を促進させることが有効である。例えば、熱源である凝結材の配合比率を高めることが考えられる。また、通気改善のため造粒時にバインダーとして作用する生石灰の配合比率を高めること、点火炉で着火しやすくするために上層の粉コークスの割合を増やすこと、パレットスピードを下げることで焼成時間を確保することも有効である。返鉱率が低い場合に生産性を改善するためのアクションとしては、凝結材の配合比率を下げること、生石灰の配合比率を下げること、上層の粉コークスの割合を減らすこと、パレットスピードを上げることが有効である。ここで、上記のように、返鉱率の低減と生産性はトレードオフの関係にあり、凝結材、生石灰、粉コークスの配合比率を増やすと生産コストが増加し、パレットスピードを下げると生産量が低下する。そのため、返鉱率の目標値は、生産コストと生産量の観点から定められることが好ましく、返鉱率が目標値に保たれるようにすることが好ましい。ここで、是正のためのアクションは、過度な操作(過大な操作量)を抑えるように、1回あたりの操作変数の操作量の範囲を決めておき、範囲内での操作を行ってよい。
【0031】
ここで、算出された操作変数の操作量は、焼結プロセスを管理するプロセスコンピュータが反映できるように出力されてよい。ここで、操作量の出力は、焼結機の操業を行うオペレータに対する操業ガイダンスとしての出力を含む。つまり、オペレータによる判断を介して焼結プロセスで適切な操作変数の操作量が反映されるように、操作量の出力が行われてよい。操業ガイダンスとして出力される情報は、少なくとも最適な操作変数の操作量を含んでおり、オペレータが見ることができるディスプレイに表示されてよい。
【0032】
図3は、一実施形態に係る返鉱率制御装置10の構成例を示す図である。
図3に示すように、返鉱率制御装置10は、記憶部11と、取得部12と、返鉱率予測部13と、操作量算出部14と、出力部15と、を備える。返鉱率制御装置10は、操業データサーバ60から、焼結機及びクーラーを含む設備で実行される焼結プロセスにおける実績値と目標値とを取得する。実績値は、操業状態を示す各種の測定値及び現在の操作変数を含んでよい。目標値は返鉱率の目標値である。操業データサーバ60は、ネットワーク経由で返鉱率制御装置10と通信可能であって、例えば焼結鉱の製造を管理するコンピュータで実現されてよい。ネットワークは例えばインターネットである。返鉱率制御装置10は、上記の処理、すなわち返鉱率予測モデルを利用して返鉱率を予測し、将来の返鉱率が目標値近傍に保持されるように、ダクト内圧力などの操作変数の操作量を求める処理を実行する。また、本実施形態において、返鉱率制御装置10は、出力部15によって操作変数の操作量を設備に出力する機能又はガイダンス操作量として提示する機能を備えている。出力部15がガイダンス操作量を提示する場合に、返鉱率制御装置10は操業ガイダンス装置として機能する。表示部30は、返鉱率制御装置10(操業ガイダンス装置)から出力されたガイダンス操作量を表示する。返鉱率制御装置10は、操業データサーバ60とは別のコンピュータ(例えば焼結機の操業を管理するプロセスコンピュータ又は焼結操業ガイダンスサーバ)で構成されてよい。表示部30は、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)又は有機ELパネル(Organic Electro-Luminescence Panel)などの表示装置であってよい。また、表示部30は、スマートフォン又はタブレットなどの端末装置のディスプレイによって実現されてよい。端末装置はネットワーク経由で返鉱率制御装置10と通信可能である。返鉱率制御装置10の機能を有する焼結操業ガイダンスサーバと表示部30の機能を有する端末装置とで、焼結操業ガイダンスシステムが構成されてよい。焼結操業ガイダンスサーバと端末装置とは、同じ場所(例えば同じ工場内)にあってよいし、物理的に離れて配置されていてよい。焼結操業ガイダンスシステムは、さらに操業データサーバ60を含んで構成されてよい。
【0033】
ここで、返鉱率予測モデルは返鉱率制御装置10によって生成されて記憶部11に記憶されてよいし、別のコンピュータによって生成されて記憶部11に記憶されてよい。返鉱率制御装置10が返鉱率予測モデルを生成する場合に、上記の手法で返鉱率予測モデルを生成して記憶部11に記憶させるモデル生成部をさらに備えてよい。
【0034】
以下、返鉱率制御装置10の構成要素が説明される。記憶部11は返鉱率予測モデルを記憶する。また、記憶部11は、返鉱率制御に関するプログラム及びデータを記憶する。記憶部11は、取得した実績値と目標値とを記憶してよい。記憶部11は、返鉱率制御のための処理で得られた各種の情報を記憶してよい。記憶部11は、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス及び磁気記憶デバイスなどの任意の記憶デバイスを含んでよい。半導体記憶デバイスは例えば半導体メモリを含んでよい。記憶部11は、複数の種類の記憶デバイスを含んでよい。
【0035】
取得部12は、返鉱率の目標値と、クーラーに関するデータを含む返鉱率予測モデルの入力データを、返鉱率を特定できるタイミングを基準とした遅れ時間を考慮して取得する。
【0036】
返鉱率予測部13は、入力データと返鉱率予測モデルを用いて返鉱率を予測する。
【0037】
操作量算出部14は、返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、焼結プロセスについての操作変数の操作量を算出する。
【0038】
出力部15は、算出された操作変数の操作量を設備に出力する、又は、ガイダンス操作量として表示部30に提示する。
【0039】
出力部15から操作変数の操作量が焼結鉱を製造する設備に出力される場合に、設備によって自動的に操作変数が更新されてよい。つまり、本実施形態に係る返鉱率制御方法は、焼結鉱を製造する製造方法の一部として実行され得る。また、オペレータは、表示部30に示されたガイダンス操作量に基づいて、焼結機の操業条件を変更してよい。このような焼結機についての操業ガイダンスは、焼結鉱を製造する製造方法の一部として実行され得る。
【0040】
返鉱率制御装置10は、上記のように例えばコンピュータによって実現され得る。コンピュータは、例えばメモリ及びハードディスクドライブ(記憶装置)、CPU(処理装置)などを備える。プログラムは、ハードディスクドライブに格納することができ、CPUにより実行される際にはハードディスクドライブからメモリに読み出される。また、処理途中のデータについては、メモリに格納され、必要があればHDDに格納される。記憶部11は、例えば記憶装置で実現されてよい。取得部12、返鉱率予測部13、操作量算出部14及び出力部15は、例えばプログラムを読み込んで実行したCPUによって実現されてよい。
【0041】
図4は、一実施形態に係る返鉱率制御方法を示すフローチャートである。返鉱率制御装置10は、
図4に示されるフローチャートに従って、操作変数の操作量を算出し、ガイダンス操作量として出力してよい。
図4に示される返鉱率制御方法は、操業ガイダンス方法でもあり、焼結鉱の製造方法の一部として実行されてよい。
【0042】
取得部12は実績値及び目標値を取得する(ステップS1、取得ステップ)。本実施形態において、実績値にはクーラーに関するデータ、具体的にはダクト内圧力が含まれる。返鉱率予測部13は、入力データと返鉱率予測モデルを用いて返鉱率を予測する(ステップS2、返鉱率予測ステップ)。操作量算出部14は、返鉱率の予測値と目標値との偏差が低減するように、焼結プロセスについての操作変数の操作量を算出する(ステップS3、操作量算出ステップ)。出力部15は、算出された操作変数を出力する(ステップS4)。
【0043】
(実施例1)
以下、上記の制御方法によって最適な操作変数の操作量が決定される具体例(実施例)が説明される。実施例1では、焼結ラインにおいて、クーラーのダクト内圧力を説明変数とする線形モデルである返鉱率予測モデルにより2時間先の返鉱率が予測された。返鉱率が目標値である操業が行われているとして、2時間先の返鉱率の予測値が15%より高くなる場合に生石灰を増やすアクションを実施した。また、2時間先の返鉱率の予測値が目標値より15%未満となる場合に生石灰を減らすアクションを実施した。1回あたりの生石灰の操作量が0.1%に固定されて1時間毎にアクションを行った。その結果、
図5に示すように、100時間操業して返鉱率の目標と実績の差(MAE:絶対平均誤差)が1.5%となった。比較例として、従来操業では100時間操業して返鉱率の目標と実績の差(MAE:絶対平均誤差)が3.1%であった。従来操業では、予測値を求めるモデルを使用することなく、現在の測定値である返鉱率に対してアクションを実施した。
【0044】
(実施例2)
また、実施例2では、焼結ラインにおいて、クーラーのダクト内圧力及び生石灰の配合比率を説明変数とする線形モデルである返鉱率予測モデルにより2時間先の返鉱率が予測された。実施例1に比べて、説明変数が追加された返鉱率予測モデルが用いられた。その他の条件は実施例1と同じであった。その結果、
図6に示すように、100時間操業して返鉱率の目標と実績の差(MAE:絶対平均誤差)が1.3%となった。上記の制御方法によって、焼結鉱の返鉱率を高精度に予測して目標値へ制御することが可能であることが示された。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置10は、焼結鉱の返鉱率を予測して目標値へ制御することを可能にする。また、本実施形態に係る返鉱率制御方法、焼結鉱の製造方法及び返鉱率制御装置10では、連続的に返鉱率を予測することができ、変動を早期に検知できる。そのため、返鉱率が目標値近傍に保たれ、焼結鉱の製造において歩留りを向上させることができる。
【0046】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0047】
図3に示される返鉱率制御装置10の構成は一例である。返鉱率制御装置10は、
図3に示す構成要素の全てを含まなくてよい。また、返鉱率制御装置10は、
図3に示す以外の構成要素を備えてよい。例えば、返鉱率制御装置10は、さらに表示部30を備える構成であってよい。
【符号の説明】
【0048】
10 返鉱率制御装置
11 記憶部
12 取得部
13 返鉱率予測部
14 操作量算出部
15 出力部
30 表示部
60 操業データサーバ