(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035778
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ホスホニウム含有ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20240307BHJP
C08G 79/02 20160101ALI20240307BHJP
H01M 8/1034 20160101ALI20240307BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20240307BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240307BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240307BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240307BHJP
【FI】
C08G61/12
C08G79/02
H01M8/1034
H01M8/1072
H01B1/06 A
C25B13/08 301
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034911
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022140037
(32)【優先日】2022-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基板技術研究開発/低コストAEM型水電解システムの実現に向けたアニオン交換膜材料の高ロバスト化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】冨田 育義
(72)【発明者】
【氏名】一二三 遼祐
(72)【発明者】
【氏名】外山 美春
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳典
(72)【発明者】
【氏名】井宮 弘人
【テーマコード(参考)】
4J030
4J032
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4J030CB22
4J030CD11
4J030CE02
4J030CE11
4J030CF02
4J030CG01
4J032CA04
4J032CA14
4J032CB04
4J032CC01
4J032CD01
4J032CE03
4J032CG01
5G301CD01
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG18
5H126HH10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐アルカリ性、耐酸化性に優れる材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(1);
(式中、R
1~R
4は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合を表し、その少なくとも2つは、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基であり、その少なくとも2つは、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合である。)で表されるカチオン構造を主鎖に有することを特徴とするホスホニウム含有ポリマー。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホニウム含有ポリマーであって、
該ポリマーは、下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合を表し、その少なくとも2つは、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基であり、その少なくとも2つは、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合である。p、q、r、sは、それぞれ、環構造に結合するR
1、R
2、R
3、R
4の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は4~20の整数である。R
1~R
4は、それぞれ、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造を主鎖に有することを特徴とするホスホニウム含有ポリマー。
【請求項2】
下記一般式(2);
【化2】
(式中、Aは、非共有電子対、S、NR
5、又は、Oを表し、R
5は、水素原子又は1価の置換基を表す。R
2~R
4は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合を表し、その少なくとも3つは、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基であり、その少なくとも2つは、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合である。q、r、sは、それぞれ、環構造に結合するR
2、R
3、R
4の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は5~15の整数である。R
2~R
4は、それぞれ、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表される構造を主鎖に有することを特徴とするポリマー。
【請求項3】
トリアリールホスフィン含有化合物を原料に用いてテトラアリールホスホニウム含有ポリマーを製造する方法であって、
該製造方法は、炭素-炭素結合を形成するカップリング反応にて重合する工程、及び、
アラインと反応させて芳香環を付加する工程を含むことを特徴とするホスホニウム含有ポリマーの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とするアニオン交換膜。
【請求項5】
請求項1に記載のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とする電解質材料。
【請求項6】
請求項4に記載のアニオン交換膜を含んで構成されることを特徴とする水電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホニウム含有ポリマーに関する。より詳しくは、燃料電池、水電解セルにおける電解質材料等として好適に用いられるホスホニウム含有ポリマー、その前駆体であるポリマー、ホスホニウム含有ポリマーの製造方法、アニオン交換膜、電解質材料、及び、水電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池や水電解セル等、水素をエネルギー源として活用することが期待され、種々の研究開発がなされている。
燃料電池や水電解セル等の心臓部材である固体高分子電解質膜としてプロトン交換膜(PEM:Proton Exchange Membrane)が利用されているが、Nafion(登録商標)に代表されるスルホン酸系の材料は強酸性であり腐食性が高いため、周辺部材の材質に高価な金属が必要(例えば、プロトン交換膜を含んで構成される水電解セルにおいて、給電体にTi、Pt等が、触媒にPt、Ir等が、バイポーラープレートにTi等がそれぞれ必要)となり、コスト増加の原因となっている。一方、プロトン交換膜の代わりに水酸化物イオンを伝導するアニオン交換膜(AEM:Anion Exchange Membrane)を利用すれば、周辺部材に安価な金属部材を使用できると考えられる。
【0003】
アニオン交換膜を構成するポリマーには、アニオン伝導性の他、化学安定性等の基本的特性が重要である。
アニオン伝導性を担うイオン交換基としては、第4級アンモニウム基が従来から用いられている(例えば、特許文献1~6、非特許文献1、2参照)。
また第4級ホスホニウム基を含むアニオン伝導性材料についての研究例(例えば、特許文献7、非特許文献3~5参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-70782号公報
【特許文献2】特開2013-107916号公報
【特許文献3】特開2015-125888号公報
【特許文献4】特開2010-92660号公報
【特許文献5】国際公開第2008/022775号明細書
【特許文献6】特開2009-173898号公報
【特許文献7】特開2021-161223号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Phys. Chem. Chem. Phys., 18, 12009-12023 (2016)
【非特許文献2】New J. Chem., 41, 8036-8044 (2017)
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6499-6502
【非特許文献4】ChemSusChem 2016, 9, 2374-2379
【非特許文献5】Polym. Chem., 2015, 6, 900-908
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特定のホスホニウム含有ポリマーが、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐アルカリ性に優れることを見出している(上記特許文献7参照)。ここで、例えば水電解は、高電圧が印加されるためラジカル(例えば、OH・)が発生し、ポリマーが酸化分解するおそれがある。耐アルカリ性とともに耐酸化性により優れる材料が望まれるところであった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐アルカリ性、耐酸化性に優れる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐アルカリ性、耐酸化性に優れる材料について種々検討し、特定のホスホニウムカチオン構造を有するホスホニウム含有ポリマーが、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐アルカリ性が優れるところ、当該ポリマーが、芳香環同士の直接結合により連結している主鎖構造を有するものであると、耐アルカリ性とともに耐酸化性が非常に優れるものとなり、種々の用途に好適に使用できることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明(1)は、ホスホニウム含有ポリマーであって、
該ポリマーは、下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合を表し、その少なくとも2つは、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基であり、その少なくとも2つは、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合である。p、q、r、sは、それぞれ、環構造に結合するR
1、R
2、R
3、R
4の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は4~20の整数である。R
1~R
4は、それぞれ、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表されるカチオン構造を主鎖に有することを特徴とするホスホニウム含有ポリマーである。
【0010】
本発明(2)は、下記一般式(2);
【化2】
(式中、Aは、非共有電子対、S、NR
5、又は、Oを表し、R
5は、水素原子又は1価の置換基を表す。R
2~R
4は、同一又は異なって、置換基、又は、ポリマーが有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合を表し、その少なくとも3つは、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基であり、その少なくとも2つは、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合である。q、r、sは、それぞれ、環構造に結合するR
2、R
3、R
4の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は5~15の整数である。R
2~R
4は、それぞれ、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。)で表される構造を主鎖に有することを特徴とするポリマーである。
【0011】
本発明(3)は、トリアリールホスフィン含有化合物を原料に用いてテトラアリールホスホニウム含有ポリマーを製造する方法であって、該製造方法は、炭素-炭素結合を形成するカップリング反応にて重合する工程、及び、アラインと反応させて芳香環を付加する工程を含むことを特徴とするホスホニウム含有ポリマーの製造方法である。
【0012】
本発明(4)は、本発明(1)のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とするアニオン交換膜である。
【0013】
本発明(5)は、本発明(1)のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とする電解質材料である。
【0014】
本発明(6)は、本発明(4)のアニオン交換膜を含んで構成されることを特徴とする水電解セルである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上述の構成よりなり、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐アルカリ性、耐酸化性に非常に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、溶液キャスト法を用いて本発明のホスホニウム含有ポリマーから成膜物を取得したことを示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施例2のホスホニウム含有ポリマーの熱重量測定の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2のホスホニウム含有ポリマーの膜状態での耐アルカリ性を評価するため、膜を1.0M KOH水溶液中、80℃で3日間、6日間、9日間、12日間、15日間加熱した後で赤外分光(IR)スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2のホスホニウム含有ポリマーの膜状態での耐アルカリ性を評価するため、膜を1.0M KOH水溶液中、80℃で15日間加熱した前後でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例2のホスホニウム含有ポリマーの膜状態での耐酸化性を評価するため、膜をフェントン試薬(3質量%H
2O
2水溶液+3ppmFeSO
4)中、80℃で8時間加熱した前後で赤外分光(IR)スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2のホスホニウム含有ポリマーの膜状態での耐酸化性を評価するため、膜をフェントン試薬(3質量%H
2O
2水溶液+3ppmFeSO
4)中、80℃で8時間加熱した前後でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を測定した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明のホスホニウム含有ポリマーの原料であるトリフェニルホスフィンモノマーの合成スキームを示す概略図である。
【
図8】
図8は、実施例1で得られたホスフィンモノマーの結晶の
1H-NMRの測定結果を示すチャートである。
【
図9】
図9は、実施例1で得られたホスフィンモノマーの結晶の
31P-NMRの測定結果を示すチャートである。
【
図10】
図10は、実施例1のホスホニウム含有ポリマーの
31P-NMRの測定結果を示すチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の水電解セルの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0018】
<本発明のホスホニウム含有ポリマー>
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上記一般式(1)で表されるカチオン構造を主鎖に有する。なお、本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上記カチオン構造を主鎖に有するとともに側鎖にも有していて構わない。以下では、上記カチオン構造の位置が、ポリマー中の主鎖である場合について説明する。
【0019】
本発明のホスホニウム含有ポリマーが、上記一般式(1)で表されるカチオン構造を主鎖に有するとは、上記一般式(1)で示されるP原子が主鎖にあることをいう。
本発明のホスホニウム含有ポリマーにおいて、R1~R4の少なくとも2つは、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合である。ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造は、他の一般式(1)で表されるカチオン構造が含む芳香環構造でもよく、一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造でもよい。ポリマーが主鎖に有する他のP原子は、4つのアリール基と結合していることが好ましい。これにより、耐アルカリ性とともに耐酸化性が非常に優れるものとなる。
【0020】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、その主鎖において、一般式(1)で表されるカチオン構造同士が、芳香環同士の直接結合によって連結している(繰返し)構造、及び/又は、一般式(1)で表されるカチオン構造と、該一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造又はP原子とが、芳香環同士の直接結合又は芳香環とP原子との直接結合によって連結している(繰返し)構造を含む。言い換えれば、本発明のホスホニウム含有ポリマーは、その主鎖において、一般式(1)で表されるカチオン構造同士、又は、一般式(1)で表されるカチオン構造と一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造又はP原子とが、芳香環同士の直接結合又は芳香環とP原子との直接結合によって連結している(繰返し)構造を含む。
上記一般式(1)で表されるカチオン構造では、例えば、少なくとも2つの芳香環それぞれが、ポリマーが有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合を有するものとすることができる。
【0021】
本発明のホスホニウム含有ポリマーが、上記一般式(1)で表されるカチオン構造と、一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造とをそれぞれ主鎖に有する場合、一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造としては特に限定されないが、例えば、ベンゼン環、ビフェニル、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環等が挙げられ、一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造としてこれらの1種又は2種以上を含むものを使用できる。
なお、上記一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子を含有する複素環であってもよいが、酸素原子、硫黄原子を含有しないことが好ましく、ヘテロ原子を含有しないことがより好ましい。
【0022】
本発明のホスホニウム含有ポリマー中、一般式(1)で表されるカチオン構造と、当該カチオン構造と芳香環同士の直接結合又は芳香環とP原子との直接結合によって連結している、該一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造及びP原子の合計質量割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。なお、本発明のホスホニウム含有ポリマーが、一般式(1)で表されるカチオン構造と直接結合によって連結している、一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造及び/又はP原子を含まない場合は、上記合計質量割合は、当該一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造及び/又はP原子を除いて算出することができる。
【0023】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、その主鎖において、エーテル結合やチオエーテル結合、スチレン等のビニルモノマー由来の構成単位を含まないことが好ましい。また、本発明のホスホニウム含有ポリマーは、その主鎖において、ホスホニウムのP原子以外にはヘテロ原子を含まないことが好ましい。これにより、本発明の耐アルカリ性とともに耐酸化性の効果がより顕著なものとなる。
【0024】
上記一般式(1)で表されるカチオン構造において、R1~R4は、ポリマーが有する他の芳香環構造又は他のP原子との直接結合以外に、置換基を表す。
上記置換基は、特に限定されず、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、チオアルキル基等の有機基;エーテル基;アミド基;アミノ基;ハロゲン原子;これらの2種以上が結合してなる基等を使用できるが、例えば、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基であることが好ましい。
上記置換基が、炭化水素基、エーテル基、アシル基、アミド基、アミノ基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種からなる基であるとは、これら基・原子のうち1種のみからなる基であってもよく、2種以上が結合してなる基であってもよい。
なお、炭化水素基は、炭素及び水素からなる基をいい、脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)、脂肪族不飽和炭化水素基(アルケニル基等)、芳香族炭化水素基(アリール基)、これらの2種以上が結合してなる基のいずれであってもよい。エーテル基は、エーテル結合(エーテル結合している酸素原子)をいい、例えば、上記一般式(1)で示されるP原子に結合した芳香環の炭素原子と、1価の炭化水素基の炭素原子のそれぞれに直接結合した酸素原子が好適である。アシル基は、オキソ酸(好ましくは、カルボン酸)からヒドロキシ基を除いたかたちの有機基をいう。アミド基は、カルボニル基と窒素原子からなるアミド結合をいう。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
【0025】
上記置換基は、その価数は特に限定されないが、通常は1価又は2価である。
1価の置換基としては、特に限定されないが、例えば、1価の炭化水素基、アシル基、アミノ基、ハロゲン原子等が好ましいものとして挙げられる。1価の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、又は、炭素数7~18のアラルキル基等が好ましい。なお、アラルキル基は、ベンジル基のように、脂肪族炭化水素基とともに芳香環を有するものをいう。
1価の炭化水素基は、中でも、炭素数1~12の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~12の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数7~12のアラルキル基であることが好ましく、炭素数1~6の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~6の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6の芳香族炭化水素基であることがより好ましく、メチル基、エチル基であることが更に好ましい。
【0026】
2価の置換基としては、例えば、上述した1価の置換基から更に水素原子が1個脱離した構造のもの(2価の炭化水素基等)や、エーテル基(エーテル結合している酸素原子)、その他の2価の酸素原子、アミド基、硫黄原子等が挙げられる。2価の置換基は、一般式(1)で示される芳香環と結合するとともに、ポリマーが有する他の構造と結合していてもよく、後述するように、2価の置換基同士が結合して更に環構造を形成していてもよい。
【0027】
上記一般式(1)で表される構造において、上記置換基は、炭化水素基、エーテル基、及び、チオエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種からなる基であることがより好ましい。
例えば、上記置換基は、炭化水素基、又は、アルコキシ基であることが好ましい。また、アルキルチオ基もまた好ましい。アルコキシ基、アルキルチオ基のアルキル基としては、上述した脂肪族飽和炭化水素基として好ましいものを好適に使用できる。
また例えば、上記置換基が炭化水素基であることが、本発明におけるより好ましい形態の1つである。
また、上記置換基はアルコキシ基であることも、本発明における好ましい形態の1つである。特にアルコキシ基が-Pに対してオルト位又はパラ位の位置に置換すると電子的効果(電子供与基として正電荷を安定化する効果)からも、より一層耐久性が優れるものになると考えられる。
【0028】
本発明のホスホニウム含有ポリマーにおいて、R1~R4の少なくとも2つは、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基である。
環構造における-Pに対してオルト位の位置に置換基を導入し、カチオン中心(P)周辺の基を嵩高いものとすることで、アルカリ性条件下でも水酸化物イオンがカチオン中心(P)と反応することを立体障害により充分に防止でき、カチオン構造の分解を充分に防止して耐久性(特に、耐アルカリ性)がより向上すると考えられる。置換基が炭化水素基等の電子供与基である場合は、電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)からも、耐久性がより一層優れるものになると考えられる。
ここで、R1~R4の少なくとも2つが、上記オルト位の位置に結合するとは、例えば、R1、R2の各1つが、上記オルト位の位置に結合していてもよいし、R12つが、上記オルト位の位置に結合していてもよい。中でも、少なくとも2つの芳香環それぞれのオルト位に上記置換基があることが好ましい。
中でも、耐アルカリ性をより優れたものとする観点からは、R1~R4の少なくとも3つが、上記オルト位の位置に結合する置換基であることが好ましく、R1~R4の少なくとも4つが、上記オルト位の位置に結合する置換基であることがより好ましい。これにより、耐アルカリ性が顕著に優れたものとなる。中でも、少なくとも3つの芳香環それぞれのオルト位に上記置換基があることが更に好ましく、R1~R4の少なくとも各1つが、上記オルト位の位置に結合することが特に好ましい。言い換えれば、4つの芳香環それぞれのオルト位に上記置換基があることが特に好ましい。
なお、芳香環のオルト位に上記置換基があるとは、各芳香環に2つあるオルト位の少なくとも1つに上記置換基があることをいう。
【0029】
耐アルカリ性をより優れたものとする観点からは、R1~R4の少なくとも5つが、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基であることが本発明における好ましい実施形態の1つである。
またアニオン伝導性をより優れたものとする観点からは、イオン交換基のサイズが小さい方がよく、R1~R4のうち2つ~4つのみ(より好ましくは、R1~R4のうち2つ~3つのみ)が、環構造における-Pに対してオルト位の位置に結合する置換基であることもまた本発明における好ましい実施形態の1つである。
なお、上記一般式(1)で表される構造において、-Pに対してオルト位の位置に結合する上記置換基は合計8個まで可能である。
【0030】
更に、耐アルカリ性をより優れたものとする観点からは、上記R1~R4の少なくとも2つ(より好適には少なくとも3つ、更に好適には少なくとも4つ、特に好適には少なくとも5つ)が、オルト位の炭化水素基であることが好ましい。
【0031】
更に、上記R1~R4の少なくとも1つ(より好適には少なくとも2つ、更に好適には少なくとも3つ)が、環構造における-Pに対してメタ位に結合する置換基であることが好ましい。
中でも、少なくとも3つの芳香環それぞれのメタ位に上記置換基があることが好ましい。
これにより、立体障害による効果から、耐アルカリ性が更に優れるものとなる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐アルカリ性が一層優れる。
一方、アニオン伝導性をより優れたものとする観点からは、R1~R4のうち1つ以下が、環構造における-Pに対してメタ位の位置に結合する置換基であることもまた本発明における好ましい実施形態の1つである。
【0032】
更に、上記R1~R4の少なくとも1つは、環構造における-Pに対してパラ位に結合する置換基であることが好ましい。
これにより、立体障害による効果から、耐アルカリ性が更に優れるものとなる。なお、置換基が電子供与基である場合は電子的効果(電子供与基からの電子供与による正電荷の安定化)から、耐アルカリ性が一層優れる。
一方、アニオン伝導性をより優れたものとする観点からは、R1~R4が、環構造における-Pに対してパラ位の位置に結合する置換基ではないこともまた本発明における好ましい実施形態の1つである。
【0033】
上記一般式(1)で表されるカチオン構造において、R1~R4は、複数個が結合して更に環構造を形成していてもよい。
例えば、隣り合う2個の2価の置換基同士が結合して、当該置換基が結合する芳香環(ベンゼン環)とともに、ナフタレン環、ベンゾイミダゾール環等の縮環構造を形成していてもよい。
【0034】
上記一般式(1)で表されるカチオン構造において、R1~R4は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよい。
上記一般式(1)で表されるカチオン構造において、p、q、r、sは、それぞれ、環構造に結合するR1~R4の個数を表し、0~5の整数であり、その合計は4~20の整数である。
アニオン伝導性と耐アルカリ性とをより一層バランス良く発揮する観点からは、例えば、p、q、r、sは、それぞれ、1~5の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましく、1~3の整数であることが更に好ましく、2又は3であることが特に好ましい。また、p、q、r、sの合計は、4~14の整数であることが好ましく、5~13の整数であることがより好ましく、6~12の整数であることが更に好ましい。
【0035】
本発明のホスホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記一般式(1a)で表される構造を有するポリマーが挙げられる。
【化3】
【0036】
上記一般式(1a)中、R1~R4は、置換基を表す。rは、一般式(1)におけるrと同様である。p′、q′、s′は、それぞれ、0~4の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。p′、q′、r、s′の合計は、2~18の整数であり、3~15の整数であることが好ましく、4~12の整数であることがより好ましく、5~10の整数であることが更に好ましい。Arは、一般式(1)で表されるカチオン構造と芳香環同士の直接結合によって連結している、一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造を表す。m及びnはそれぞれ繰返し構造の総数であり、mは1以上の整数であり、nは0以上の整数である。mは、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。mは、上限は特に制限されないが、好ましくは800以下である。また、nは、1以上であることが本発明のホスホニウム含有ポリマーにおける好ましい形態の1つである。なお、nが1以上である場合、本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上記一般式(1)で表されるカチオン構造と、一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造とをそれぞれ主鎖に有するものとなる。nは、より好ましくは10以上であり、更に好ましくは20以上である。nは、上限は特に制限されないが、好ましくは800以下である。
なお、本明細書中、「m」とは、本発明のホスホニウム含有ポリマー中に含まれる、mを付した丸カッコで括られた構造(以下、構造Aともいう)の総数をいう。例えば「mが10以上」とは、本発明のホスホニウム含有ポリマー中に含まれる、構造Aの総数が10以上であることをいい、例えば、構造Aが、nを付した丸カッコで括られた芳香環構造(以下、構造Bともいう)と交互に繋がった形態で構造Aが10個以上存在するポリマーの形態や、構造Aが10個以上連続して繋がったブロックが存在するようなポリマーの形態や、構造Aと構造Bが不規則に繋がった形態で構造Aが10個以上存在するポリマーの形態を含む。「n」についても同様である。なお、「n」とは、本発明のホスホニウム含有ポリマー中に含まれる、構造Aと芳香環同士の直接結合によって連結している、構造Bの総数をいう。
更に、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体等の形態によらず、ポリマーは以下の形態であることが好ましい。すなわち、ポリマー中に構造Aが10個以上(より好ましくは20個以上)含まれる形態が好ましい。また、ポリマー中に構造Aが800個以下含まれる形態が好ましい。そして、ポリマー中に、構造Aと芳香環同士の直接結合によって連結している構造Bが、1個以上(より好ましくは10個以上、更に好ましくは20個以上)含まれる形態が好ましい。また、ポリマー中に、構造Aと芳香環同士の直接結合によって連結している構造Bが800個以下含まれる形態が好ましい。
ブロックコポリマー、及びランダムコポリマーの場合にmとnの比率として、mとnの合計に対する、mの割合が高いほど好ましい。具体的にはmの割合が30%以上であることが好ましい。また、m>nであることもまた好ましい。イオン交換容量をより優れたものとする観点から、ホスホニウム構造(カチオン構造)である構造Aが多い方が好ましい。
【0037】
また上記一般式(1)で表されるカチオン構造を含む本発明のホスホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記一般式(1b)で表される構造のみからなるポリマーが好適なものとして挙げられる。
【化4】
【0038】
上記一般式(1b)中、R1~R4、p′、q′、r、s′は、一般式(1a)におけるR1~R4、p′、q′、r、s′と同様である。mは、繰返し単位数であり、通常は2以上である。mは、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。mは、その上限は特に制限されないが、好ましくは800以下である。
【0039】
なお、上記一般式(1a)、(1b)では、R2、R4が結合する環構造における-Pに対してパラ位の位置に、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造との直接結合が形成されている。ここで、一般式(1)において、R2、R4がそれぞれ複数あってもよいところ、R2、R4の各1個が、環構造における-Pに対してパラ位の位置に結合する、ポリマーが主鎖に有する他の芳香環構造との直接結合を表すと考えることができる。
【0040】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、カウンターアニオンX-を有していてもよい。カウンターアニオンX-としては、カウンターアニオンとして一般的な無機塩を用いることができ、例えばF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオンや、水酸化物イオン、トリフルオロメタンスルホナート(TfO-)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0041】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、成膜性の観点から、その重量平均分子量(Mw)が5000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更に好ましい。重量平均分子量は、その上限値は特に限定されないが、例えば300000以下であることが好ましい。
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法により、重量平均分子量が高い本発明のホスホニウム含有ポリマーを好適に得ることができる。
重量平均分子量は、溶離液としてクロロホルムを用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレン換算で求めることができる。
【0042】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、機械的強度の観点からその分散度(重量平均分子量〔Mw〕/数平均分子量〔Mn〕)が1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。分散度(Mw/Mn)は、12以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。
分散度を算出するための数平均分子量は、上述した重量平均分子量を求める方法と同様の方法で求めることができる。
【0043】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、そのヒドロキシイオン交換容量が、特に制限されないが、0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.4mmol/g以上であることがより好ましく、0.5mmol/g以上であることが更に好ましい。該ヒドロキシイオン交換容量は、その上限は特に限定されないが、通常、3.0mmol/g以下である。
なお、イオン交換容量は、下記式で表され、実施例の方法で測定される。
IEC(イオン交換容量)=1000/EW(mmol/g)
EW(等価容量):イオン交換基1モル当たりの乾燥状態の材料のグラム数
【0044】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、アニオン伝導性に優れながら、耐アルカリ性、耐酸化性に非常に優れるものであり、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜の他、相間移動触媒、光酸発生剤等の多くの用途に好適に使用できる可能性がある。
【0045】
<本発明のホスホニウム含有ポリマーの前駆体であるポリマー>
本発明のホスホニウム含有ポリマーの前駆体であるポリマーは、上記一般式(2)で表される構造を主鎖に有する。
【0046】
上記一般式(2)中、Aは、非共有電子対、S、NR5、又は、Oを表し、R5は、水素原子又は1価の置換基を表す。R5における1価の置換基、その好ましい形態は、R1~R4における1価の置換基、その好ましい形態と同様である。中でも、Aは、非共有電子対であることが好ましい。
q、r、sの合計は、5~15の整数であり、5~9の整数であることが好ましい。
その他、上記一般式(2)では、上記R2~R4が表す置換基、q、r、s、これらの好ましい形態は、上記一般式(1)におけるR2~R4が表す置換基、q、r、s、これらの好ましい形態と同様である。
本発明のホスホニウム含有ポリマーの前駆体であるポリマーは、ホスホニウム化後のポリマーの成膜性の観点から、その重量平均分子量(Mw)が3500以上であることが好ましく、6000以上であることがより好ましく、7500以上であることが更に好ましい。重量平均分子量は、その上限値は特に限定されないが、例えば230000以下であることが好ましい。
重量平均分子量は、溶離液としてクロロホルムを用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレン換算で求めることができる。
本発明のポリマーは、本発明のホスホニウム含有ポリマーの原料として好適なものである。
【0047】
<本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法>
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、種々の方法により得ることができる可能性があるが、例えば、トリアリールホスフィン含有化合物を原料に用いてテトラアリールホスホニウム含有ポリマーを製造する方法であって、該製造方法は、炭素-炭素結合を形成するカップリング反応にて重合する工程、及び、アラインと反応させて芳香環を付加する工程を含むことを特徴とするホスホニウム含有ポリマーの製造方法が好ましい。なお、上記重合する工程と、上記芳香環を付加する工程の順序は、特に限定されず、上記重合する工程の後に上記芳香環を付加する工程をおこなってもよいし、上記芳香環を付加する工程の後に上記重合する工程をおこなってもよい。当該製造方法により、トリアリールホスフィン含有化合物を重合したうえで、アラインを反応させて芳香環を付加したり、トリアリールホスフィン含有化合物にアラインを反応させて芳香環を付加し、テトラアリールホスホニウム含有化合物としたうえで、これを重合したりすることで、ホスホニウム含有ポリマーを高い重合度で得ることができる。
本発明の製造方法で用いるトリアリールホスフィン含有化合物は、トリアリールホスフィン構造を有するものであればよいが、例えば、トリアリールホスフィンスルフィド構造、トリアリールホスファゼン構造、トリアリールホスフィンオキシド構造を有するものが好ましい。トリアリールホスフィン含有化合物は、例えば、
図7に示すようなグリニャール反応を利用する方法等により適宜得ることができる。
本発明の製造方法で得られるホスホニウム含有ポリマーは、オルト位の置換基が3つ以上のホスホニウム含有ポリマーが特に好ましい。本発明の製造方法により、オルト位の置換基が3つ以上のホスホニウム含有ポリマーであっても高い重合度で、また、ホスホニウム構造(カチオン構造)の含有割合が高いものを製造できるため、技術的意義が大きいものである。
【0048】
(炭素-炭素結合を形成するカップリング反応にて重合する工程)
上記カップリング反応は、炭素-炭素結合を形成するものである限り、ホモカップリング反応であってもよく、クロスカップリング反応であってもよい。該カップリング反応は、例えば触媒を用いて行うものが本発明における好ましい実施形態の1つである。
触媒としては、パラジウム触媒、ニッケル触媒、銅触媒等の遷移金属触媒が好ましい。
なお、上記カップリング反応は、触媒を使用せず、化学量論量の金属(塩)(銅塩、銀塩等)を媒介させるものであってもよい。
【0049】
上記カップリング反応で用いるトリアリールホスフィン含有化合物又はテトラアリールホスホニウム含有化合物としては、ハロゲン化トリアリールホスフィン含有化合物又はハロゲン化テトラアリールホスホニウム含有化合物が好ましく、2つ又は3つのアリール基がそれぞれハロゲン原子を有するものがより好ましく、2つのアリール基がそれぞれハロゲン原子を1つ有するものが更に好ましい。
【0050】
本発明のホスホニウム含有ポリマーとして、上記一般式(1)で表されるカチオン構造以外の芳香環構造を含むものを得る場合は、原料であるトリアリールホスフィンに、対応する芳香族化合物を所望の割合で混合することができる。
上記芳香族化合物は、ハロゲン化芳香族化合物であることが好ましく、ハロゲン原子を2つ以上有するハロゲン化芳香族化合物がより好ましく、単環芳香族化合物の場合は、互いにパラ位の位置にハロゲン原子を有し、多環式又は縮合環式の芳香族化合物の場合は、異なる環にハロゲン原子を有するものが更に好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好適なものとして挙げられる。
【0051】
カップリング反応の反応温度は、例えば30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。反応温度は、その上限は特に限定されないが、300℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。カップリング反応は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、トルエン等の有機溶媒中で行うことができる。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0052】
(アラインと反応させて芳香環を付加する工程)
トリアリールホスフィン含有化合物1当量、又は、上記重合する工程で得られたトリアリールホスフィン含有ポリマーにおけるトリアリールホスフィン構造1当量に、アラインを1当量反応させることで、ホスホニウム含有化合物又は本発明のホスホニウム含有ポリマーを得ることができる。アラインとの反応は、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば-10~40℃であることが好ましい。反応時間は、例えば10~100時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
なお、トリアリールホスフィン含有ポリマーは、上述した本発明のホスホニウム含有ポリマーの前駆体であるポリマーであることが好ましい。
【0053】
上記アラインは、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
(式中、R
1は、一般式(1)に関して上述したR
1と同様である。p′は、0~4の整数であり、1~3の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。)
【0054】
上記一般式(3)で表される化合物は、例えば下記一般式(4):
【化6】
(式中、TMSは、トリメチルシリル基を表す。Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基を表す。R
1、p′は、一般式(3)で上述したとおりである。)で表される化合物を、例えばフッ化セシウム等のフッ化物と反応させて得ることができる。
【0055】
なお、上述した一般式(4)で表される化合物をフッ化物と反応させて上記一般式(3)で表される化合物を得る工程は、上記反応する工程と同時に行うことができる。上記反応する工程は、安定な原料化合物(例えば、上記一般式(4)で表される化合物)から一段階の反応で行うことが可能であり、非常に簡便である。
【0056】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば一般式(1a)で表される構造を有するポリマーを、重合する工程、芳香環を付加する工程をこの順でおこなって得る場合は、下記反応式:
【化7】
で表される反応工程を含むものとすることができる。式中、R
1~R
4、p′、q′、r、s′、Ar、m、nは、一般式(1a)におけるR
1~R
4、p′、q′、r、s′、Ar、m、nと同様である。Aは、一般式(2)におけるAと同様である。Xは、ハロゲン原子を表す。TMSは、トリメチルシリル基を表す。Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基を表す。
【0057】
また本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば一般式(1b)で表される構造を有するポリマーを同様に得る場合は、下記反応式:
【化8】
で表される反応工程を含むものとすることができる。式中、R
1~R
4、p′、q′、r、s′、mは、一般式(1b)におけるR
1~R
4、p′、q′、r、s′、mと同様である。Aは、一般式(2)におけるAと同様である。Xは、ハロゲン原子を表す。TMSは、トリメチルシリル基を表す。Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基を表す。
【0058】
なお、上記一般式(4)で表される化合物の合成スキームは、下記式に示す通りである。
【化9】
上記反応式において、R
1、p′、TMS、Tfは、一般式(4)におけるR
1、p′、TMS、Tfと同様である。Xは、ハロゲン原子を表す。
【0059】
一般式(6)で表される化合物から一般式(7)で表される化合物へのハロゲン化反応は、NBS(N-ブロモスクシンイミド)等のハロゲンスクシンイミドによりおこなうことができる。溶媒としては、四塩化炭素、二硫化炭素を好適に使用できる。一般式(7)で表される化合物から一般式(8)で表される化合物へのシリル化反応は、HMDS(ビス(トリメチルシリル)アミン)等のシリル化剤によりおこなうことができる。溶媒としては、四塩化炭素、二硫化炭素や、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等の有機溶媒を使用できる。一般式(8)で表される化合物から一般式(4)で表される化合物への反応は、ブチルリチウムと反応させた後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物 (Tf2O)と反応させること等でおこなうことができる。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等の有機溶媒を使用できる。反応温度、反応時間、精製方法は、適宜選択できる。
【0060】
また本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば一般式(1b)で表される構造を有するポリマーを同様に得る場合は、先ず、下記反応式:
【化10】
で表される反応工程を含むものとすることができる。式中、R
2~R
4、q′、r、s′は、一般式(1b)におけるR
2~R
4、q′、r、s′と同様である。X
1~X
4、Y
1、Y
2は、それぞれ、ハロゲン原子を表す。
先ず、例えば、ハロゲン原子を有する芳香族化合物(9a)をマグネシウムと反応させて、グリニャール反応剤を合成する。このグリニャール反応剤をハロゲン化亜鉛、トリクロロホスフィン等のハロゲン化ホスフィンと順次反応させ、角カッコ内の一置換体を生成する。この一置換体と、ハロゲン化芳香族化合物由来のグリニャール反応剤(9b)、(9c)とを反応させ、ホスフィンモノマー(10)を得る。
マグネシウムとの反応は、例えば、THF等の有機溶媒中で行うことができる。該反応は、例えば50~90℃の反応温度とし、還流しながら行うことができる。反応時間は、例えば10分~5時間の範囲内とすることができる。
ハロゲン化亜鉛との反応は、例えば、THF等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば-100~0℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば10分~5時間の範囲内とすることができる。
ハロゲン化ホスフィンとの反応は、例えば、THF等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば-100~50℃の範囲内とすることができる。反応時間は、例えば10分~5時間の範囲内とすることができる。
一置換体と、ハロゲン化芳香族化合物由来のグリニャール反応剤(9b)、(9c)との反応は、例えば、THF等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば0~90℃の範囲内とし、還流しながら行うことができる。反応時間は、例えば10~50時間の範囲内とすることができる。
【0061】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、次いで、下記反応式:
【化11】
で表される反応工程を含むものとすることができる。式中、R
2~R
4、q′、r、s′、mは、一般式(1b)におけるR
2~R
4、q′、r、s′、mと同様である。Y
1、Y
2は、それぞれ、ハロゲン原子を表す。
先ず、ハロゲン原子を2つ有するホスフィンモノマー(10)を反応させてポリマー化し、ホスフィン含有ポリマー(11)を得る。この反応は、例えば、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、ビピリジル、1,5-シクロオクタジエンの存在下、THF等の有機溶媒中で行うことができる。この反応は、例えば50~90℃の反応温度とし、還流しながら行うことができる。反応時間は、例えば10分~50時間の範囲内とすることができる。
【0062】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、更に、下記反応式:
【化12】
で表される反応工程を含むものとすることができる。式中、R
1~R
4、p′、q′、r、s′、mは、一般式(1b)におけるR
1~R
4、p′、q′、r、s′、mと同様である。TMS、Tfは、一般式(4)におけるTMS、Tfと同様である。
ホスフィン含有ポリマー(11)と一般式(4)で表される化合物とを反応させてホスホニウム含有ポリマー(12)を得る。この反応は、例えば、THF、アセトニトリル等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば15~60℃であることが好ましい。反応時間は、例えば3~200時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0063】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、下記反応式:
【化13】
で表される反応工程を含むものであってもよい。
上記反応式において、Y
1、Y
2、R
2~R
4、q′、r、s′は、上述した通りである。Zは、2価の有機基を表し、好ましくは2価の炭化水素基を表し、より好ましくは2価の、芳香環を含む炭化水素基を表す。m及びnは一般式(5a)におけるm及びnと同様である。Y
3、Y
4は、同一又は異なって、ハロゲン原子を表す。
先ず、ハロゲン原子を2つ有するホスフィンモノマー(10)と、有機ジハロゲン化合物とを反応させてポリマー化し、ホスフィン含有ポリマー(13)(ランダム共重合体)を得る。この反応は、例えば、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル、ビピリジル、1,5-シクロオクタジエンの存在下、THF等の有機溶媒中で行うことができる。この反応は、例えば50~90℃の反応温度とし、還流しながら行うことができる。反応時間は、例えば3~100時間の範囲内とすることができる。
【0064】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、更に、下記反応式:
【化14】
で表される反応工程を含むものとすることができる。式中、R
1~R
4、p′、q′、r、s′、m、nは、一般式(1a)におけるR
1~R
4、p′、q′、r、s′、m、nと同様である。Zは、2価の有機基を表し、好ましくは2価の炭化水素基を表し、より好ましくは2価の、芳香環を含む炭化水素基を表す。TMS、Tfは、一般式(4)におけるTMS、Tfと同様である。
ホスフィン含有ポリマー(13)と一般式(4)で表される化合物とを反応させてホスホニウム含有ポリマー(14)を得る。この反応は、例えば、THF、アセトニトリル等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば15~60℃であることが好ましい。反応時間は、例えば3~200時間であることが好ましい。
【0065】
<本発明のアニオン交換膜>
本発明は、本発明のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とするアニオン交換膜でもある。
本発明のアニオン交換膜は、アニオン伝導性に優れるとともに、耐アルカリ性、耐酸化性に優れるため、例えば、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜として有用である。
【0066】
本発明のアニオン交換膜は、平均膜厚が10~1000μmであることが好ましい。該平均膜厚は、より好ましくは、20~500μmである。
本発明のアニオン交換膜の平均膜厚は、マイクロメーターを用いて任意の5点を測定した平均値である。
【0067】
本発明のアニオン交換膜を製造する方法は、膜が形成される限り特に制限されず、本発明のホスホニウム含有ポリマーを溶媒に溶解し、平坦面上に注いで有機溶媒を蒸発させる方法や、後述する本発明の電解質材料をロールで圧延して膜状に成形する方法、平板プレス等で圧延して膜状に成形する方法や、射出成形法、押出成形法、キャスト法等の膜状に成形する方法を用いることができる。これらの成形方法は単独で用いてもよく、2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
上記製造方法は、本発明の電解質材料を膜状に成形する工程の他に、膜を乾燥させる工程を含んでいてもよい。乾燥温度は適宜設定すればよいが、例えば60℃~160℃で行うことができる。乾燥時間は、例えば1~60時間で行うことができる。乾燥時の圧力は、常圧下、減圧下が好ましい。
また乾燥後、膜をアルカリ性水溶液に浸漬する等してアニオン交換してもよい。アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が挙げられる。
【0068】
<本発明の電解質材料>
本発明は、本発明のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とする電解質材料でもある。
本発明の電解質材料は、本発明のホスホニウム含有ポリマーの他、その他の成分、溶媒等を含んでいてもよい。
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アルキレングリコールモノアルキルエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、水等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
また、本発明の電解質材料は、燃料電池セルや水電解セルの膜電極接合体(MEA)を形成する際に使用されるアイオノマーにもなる。アイオノマーは、MEAを形成する際に触媒(層)を固定するためのバインダー樹脂として使用できる。
例えば、本発明の電解質材料がアイオノマーである場合、MEAを形成するためにアイオノマーの溶液や分散液を調製する際に上述した溶媒を使用できる。
本発明の電解質材料は、アニオン伝導性に優れるとともに、耐アルカリ性、耐酸化性に優れる。
【0069】
<本発明の水電解セル>
本発明は、本発明のアニオン交換膜を含んで構成されることを特徴とする水電解セルでもある。
本発明の水電解セルとしては、例えば、陽極、陰極、及び、陽極と陰極の間に配置された本発明のアニオン交換膜を含むものが挙げられる。
【0070】
本発明の水電解セルは、アニオン交換膜型水電解セルであることが好ましい。例えば、
図11に示すように、アニオン交換膜型水電解セル1は、陽極10と、陰極20と、陽極10と陰極20との間に配置された本発明のアニオン交換膜30と、陽極10と陰極20の両方に導線を介して電気的に接続する電源を備えている。
【0071】
上記アニオン交換膜型水電解セル1は、更に、陽極10及び陰極20の外側にそれぞれセパレータ17、27を含むことができる。また、上記アニオン交換膜型水電解セル1は、通常、陽極10及び/若しくは陰極20、又は、電解槽内に、純水等の水又はアルカリ水溶液を供給する供給部を備える。
【0072】
上記アニオン交換膜型水電解セル1において、水又はアルカリ水溶液を供給しながら、陽極10及び陰極20に電圧を印加すると、下記の反応が起こり、陰極20側で水素ガスが発生し、陽極10側で酸素ガスが発生する。なお、陰極20側では水酸化物イオン(OH-)も発生するが、発生した水酸化物イオンはアニオン交換膜30を透過して陽極10に移動する。
(陰極側)2H2O+2e-→H2+2OH-
(陽極側)2OH-→H2O+1/2O2+2e-
【0073】
なお、発生した水素及び酸素は、各々セパレータ17及び27に設けられたガス回収管等のガス流路15、25を通じてセルから排出される。水素及び酸素は、それぞれ、セルから排出された後、必要に応じて気液分離タンクを介して水が分離される等したうえで、貯蔵用タンク等に収容される。
【0074】
上記アニオン交換膜型水電解セル1には、アルカリ水溶液を供給することが好ましい。アルカリ水溶液を用いることで、水電解をより高効率で行うことができる。なお、アルカリ水溶液としては、例えば、0.1M~2Mのアルカリ金属水酸化物やアルカリ金属炭酸塩(例えば、水酸化カリウムや炭酸カリウム)水溶液を好適に使用できる。
【0075】
陽極10は、触媒層11を有し、更に外側に拡散層13を有していてもよい。触媒層11の触媒は、特に限定されず、例えば、コバルト、ニッケル、パラジウム、鉄、銀、金、白金、銅、鉛、イリジウム、モリブデン、ロジウム、クロム、チタン、タングステン、マンガン、ルテニウム、これらの金属酸化物、及び、これらの金属の2種以上を含む合金からなる粒子が挙げられる。
【0076】
拡散層13は上記触媒層11を支持するため等に用いられる。拡散層13は、特に限定されず、例えば発泡金属層、多孔質炭素層等が挙げられる。
【0077】
陰極20は、触媒層21を有し、更に外側に拡散層23を有していてもよい。触媒層21の触媒は、上述した陽極10における触媒層11の触媒と同様のものを用いることができる。拡散層23は、上述した拡散層13と同様のものを用いることができる。
【0078】
セパレータ17、27の材質は、炭素、ステンレス等を適宜使用できる。なお、セパレータ17、27が導電性である場合、電源をセパレータに接続することで、陽極及び/又は陰極に電圧を印加してもよい。
【0079】
陽極10の触媒層11、拡散層13、陰極20の触媒層21、拡散層23、セパレータ17、27の厚み等は、適宜設定することができる。
【0080】
本発明の水電解セルは、アルカリ水電解セルであってもよい。アルカリ水電解セルは、本発明のアニオン交換膜によって隔てられた、陽極が存在する陽極室と、陰極が存在する陰極室とを備えた電解槽である。
【0081】
本発明のアニオン交換膜は、陽極及び/又は陰極と接するように設置されることが好ましく、陽極及び陰極と接するように設置されることがより好ましい。電極間の距離がより小さくなると、電気抵抗がより小さくなり、電解装置の電解効率をより高くすることができる。本発明のアニオン交換膜は、電極間の距離が極力小さくなるように、アニオン交換膜と各電極とが接するように設置した、いわゆる「ゼロギャップ構造」の電解装置においても好適に使用することができる。
【0082】
上記陽極及び陰極の形状は、特に制限されず、シート状、棒状、角柱状等、公知の形状が挙げられるが、本発明のアニオン交換膜との接触面積が大きく、水電解セルの電解効率をより一層向上させることができる点で、上述したように、シート状であることが好ましい。
【0083】
また、本発明の水電解セルは、通常使用されるその他の部材を備えていてもよい。その他の部材としては、例えば、発生したガスと電解液を分離するための気液分離タンク、電解を安定して行うためのコンデンサー、ミストセパレーター等が挙げられる。
なお、本発明の水電解セルは、1つのセルであってもよく、複数のセルがスタッキングしたものであってもよい。
【0084】
なお、電気分解を行う場合の温度としては、電解液のイオン電導性がより向上し、電解効率がより一層高くなりうる点で、50~120℃が好ましく、80~90℃がより好ましい。電流の印加条件は、公知の条件・方法で行うことができ、通常0.2A/cm2以上、好ましくは0.3A/cm2以上である。印加する電流密度が高い方が、短時間に多くの水素ガス、酸素ガスを得ることができるため効率的に水素を生産できる。
電解電圧は、約2Vとなるように、例えば1.5~2.5Vを越えない範囲で、電流密度が高くなるように調整されることが好ましい。
【実施例0085】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「%」は「モル%」を意味するものとする。
【0086】
(数平均分子量、重量平均分子量の測定)
溶離液としてクロロホルムを用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により以下の条件で測定した。
装置:島津製作所LC-9A
(視差屈折計検出器:島津製作所RID-10A、UV/VIS検出器:SPD-10A)
カラム:TSK-gel(GMH-HRM×2)
カラム温度:40℃
溶離液:クロロホルム
流速:1.0mL/min
分子量標準物質:ポリスチレン
【0087】
実施例1
(トリフェニルホスフィンモノマーの合成)
【化15】
削り状マグネシウム(1.24g,50.8mmol,1.6eq.)を真空下ヒートガンで10分間加熱した。放冷後、ヨウ素(0.034g,0.13mmol)とTHF(22ml)を加え、室温で10分間攪拌した。そこに2-ブロモトルエン(5.74g,33.6mmol,1.1eq.)のTHF(23ml)溶液を1時間かけて滴下した。得られた溶液を加熱環流下で2時間攪拌し、グリニャール反応剤を調製した。
【0088】
別のフラスコで塩化亜鉛(5.56g,40.8mmol,1.3eq.)をTHF(45ml)に溶解させ、-78℃に冷却した。この溶液に、室温まで冷却した上記グリニャール反応剤を15分間かけて滴下したのち、THF(40ml)を更に加えて希釈した。-78℃で2時間攪拌したのち、三塩化リン(4.28g,31.1mmol,1eq.)を加えた。-78℃で30分間攪拌したのち、室温に昇温し、28時間攪拌した(この溶液をAとする)。
【0089】
新たなフラスコに削り状マグネシウム(2.01g,82.5mmol,2.7eq.)を入れ、真空下ヒートガンで10分間加熱した。放冷後、ヨウ素(0.044g,0.17mmol)とTHF(30ml)を加え、室温で10分間攪拌した。そこに2-ブロモ-5-クロロトルエン(14.70g,71.5mmol,2.3eq.)のTHF(40ml)溶液を30分間かけて滴下した。得られた溶液を加熱環流下で1.5時間攪拌した。室温まで冷却したのち、このグリニャール反応剤を上記の溶液Aに30分間かけて滴下した。この反応溶液を加熱環流下40時間攪拌した。
【0090】
反応溶液を室温まで放冷したのち、塩化アンモニウム水溶液を適量加え反応を止め、酢酸エチルにより抽出した。有機層を塩化アンモニウム水溶液で2回、イオン交換水で4回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥したのち、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)と再結晶(クロロホルム/メタノール)で精製し、ホスフィンモノマーの結晶を得た(6.53g,収率56%)。
得られたホスフィンモノマーの結晶の
1H-NMR、
31P-NMRの測定結果をそれぞれ
図8、
図9に示す。
【0091】
(重合)
【化16】
ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(8.52g,31.0mmol,5.2eq.)、1,5-シクロオクタジエン(3.8ml,30.9mmol,5.2eq.)、2,2′-ビピリジン(4.88g,31.2mmol,5.2eq.)を蒸留DMF(25ml)に溶解し、80℃で30分間加熱・攪拌した。その触媒溶液に、ホスフィンモノマー(2.24g,6.0mmol)のトルエン(5ml)溶液を滴下し、80℃で22時間重合した。反応液を放冷したのち、デカンテーションで重合溶媒不溶部を回収した。クロロホルムに溶解させ、有機層を濃塩酸で1回、イオン交換水で3回洗浄した。有機層をNa
2SO
4で乾燥し、濾過したのち、メタノールへ再沈澱した。得られた固体をメタノールで3回洗浄したのち、真空乾燥し、上記ポリマーを得た(0.27g,収率15%)。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量は6400、重量平均分子量は49000であった。
【0092】
(オニウム化)
【化17】
窒素雰囲気下で、CsF(1.47g,9.7mmol,12eq.)、ホスフィンポリマー(0.24g,0.80mmol)、THF(80mL)、アセトニトリル(8mL)を混合し、0℃に冷却したのち、ベンザイン前駆体(2.05g,6.3mmol,8eq.)を滴下した。室温に昇温したのち、69時間反応させた。溶媒を減圧溜去したのち、塩化メチレンに溶解させた、有機層をイオン交換水で3回洗浄した。有機層をヘキサンに再沈澱し、得られた固体をヘキサンで3回洗浄したのち、真空乾燥し上記ホスホニウム含有ポリマーを得た(0.42g、収率95%)。
得られたホスホニウム含有ポリマーの
31P-NMRの測定結果を
図10に示す。
【0093】
実施例2
重合工程におけるホスフィンモノマーの溶解にDMFを使用した以外は実施例1と同様の方法でホスホニウム含有ポリマーを得た。重合工程後のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析から、前駆体ホスフィンポリマーの数平均分子量は3200、重量平均分子量は6700であった。
【0094】
実施例3
ホスフィンモノマーM2の合成
【化18】
マグネシウム(0.802g,33.0mmol,1.10eq.)を真空下で、ヒートガンで15分間加熱した。その後アルゴン置換を行い、THF(40mL)に溶解させたブロモメシチレン(6.57g,33.0mmol,1.10eq.)を滴下ロートから滴下すると自己還流が起こった。自己還流ののち、加熱還流下で2時間攪拌しグリニャール反応剤(メシチルマグネシウムブロミド)を合成した。別のフラスコで塩化亜鉛(4.91g,36.0mmol,1.20eq.)をTHF(80mL)に溶解させ、-78℃に冷却した。この溶液に、室温まで冷却した上記グリニャール反応剤を、カニューレを用いてゆっくり滴下し、-78℃で2時間攪拌した。この溶液に-78℃でトリクロロホスフィン(4.12g,30.0mmol,1.00eq.)を加え室温に昇温し2時間攪拌したのち
31P-NMRで選択的に一置換体が生成していることを確認した。この反応溶液にマグネシウム(3.20g,132mmol,4.40eq.)、THF(140mL)、2,5-ジブロモ-p-キシレン(34.8g,132mmol,4.40eq.)から合成した(4-ブロモ-2,5-ジメチルフェニル)マグネシウムブロミドの溶液を、カニューレを用いてゆっくり滴下し、加熱還流下で18時間攪拌した。塩化アンモニウム水溶液を加えて反応をクエンチしたのち、酢酸エチルで有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)と再結晶(エタノール、クロロホルム)で精製しホスフィンモノマーM2(6.22g,12.0mmol,収率40%)を白色結晶として得た。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
1H-NMR(300MHz,CDCl
3)δ2.12(s,6H),2.16(s,6H),2.23(s,6H),2.94(s,3H),6.76(d,2H),6.88(s,2H),7.37(s,2H)ppm.
【0095】
ホスフィン含有ポリマーP2の合成
【化19】
2,2’-ビピリジル(0.487g,3.12mmol,5.20eq.)とビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(0.858g,3.12mml,5.20eq.)、1,5-シクロオクタジエン(0.338g,3.12mml,5.20eq.)をフラスコに入れTHF(0.5mL)を加えて溶解させ、還流条件下で30分間攪拌した。その後、THF(1mL)に溶解させたホスフィンモノマーM2(0.311g,0.600mmol,1.00eq.)を滴下ロートから滴下し、加熱条件下で48時間反応させた。反応後、反応溶液に塩酸/メタノール混合溶媒を加えることで析出した固体を吸引ろ過で回収した。回収した固体を少量のTHFに溶解させ塩酸/メタノール混合溶媒にゆっくり滴下し固体を析出させた。吸引ろ過で固体を濾別後、メタノールで3回洗浄し回収した固体を減圧乾燥し、ホスフィン含有ポリマーP2(0.156g,収率73%)を白色固体として得た。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ1.89(6H),2.25(15H),7.00-6.82(6H)ppm.
31P-NMR(161MHz,CDCl
3)δ-29.6ppm.
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量は7900、重量平均分子量は22000であった。
【0096】
ホスホニウム含有ポリマーP2-TAPの合成
【化20】
ホスフィン含有ポリマーP2(0.100g,1.00eq.)とフッ化セシウム(0.253g,1.67mmol,6.00eq.)をTHF(25.1mL)とアセトニトリル(2.8mL)の混合溶媒に溶解させ、0°Cに冷却したのち、ベンザイン前駆体(0.545g,1.67mmol,6.00eq.)をゆっくり加え、室温に昇温して72時間撹拌した。得られた反応混合物に脱イオン水を加え、ジクロロメタンで有機物を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残渣を少量のジクロロメタンに溶解し、ヘキサンにゆっくり滴下し固体を析出させた。吸引ろ過で固体を濾別後、ヘキサンで3回洗浄し回収した固体を減圧乾燥し、ホスホニウム含有ポリマーP2-TAP(0.152g,収率90%)を白色固体として得た。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
1H-NMR(400MHz,CD
3OD)δ1.90-2.43(27H),7.30-7.60(9H)ppm.
13C-NMR(75Hz,CD
3OD)δ-113.5ppm.
19F-NMR(376Hz,CD
3OD):δ=-79.6ppm.
31P-NMR(161MHz,CDCl
3)δ18.6ppm.
【0097】
実施例4
ホスフィン含有ポリマーP2Fの合成
【化21】
2,2’-ビピリジル(1.22g,7.80mmol,5.20eq.)とビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(2.15g,7.80mmol,5.20eq.)、1,5-シクロオクタジエン(0.843g,7.80mmol,5.20eq.)をフラスコに入れTHF(6mL)を加えて溶解させ、還流条件下で30分間攪拌した。その後、THF(9mL)に溶解させたホスフィンモノマーM2(0.777g,1.50mmol,0.50eq.)と2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチル-9H-フルオレン(0.823g,1.50mmol,0.50eq.)を、滴下ロートを用いて滴下し、加熱還流下で48時間反応させた。反応後、反応溶液をクロロホルムと希塩酸を用いて分液し有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。回収した固体を少量のTHFに溶解させ塩酸/メタノール混合溶媒にゆっくり滴下し固体を析出させた。吸引ろ過で固体を濾別後、メタノールで3回洗浄し回収した固体を同様の条件でさらに再沈殿を行った。固体を回収したのち減圧乾燥を行い、ホスフィン含有ポリマーP2F(0.856g,収率76%)を白色固体として得た。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ0.79(10H),1.21(20H),1.90-2.33(25H),6.83-7.20(6H),7.30-7.81(6H)ppm.
31P-NMR(161MHz,CDCl
3)δ-29.4ppm.
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、数平均分子量は17900、重量平均分子量は56400であった。
【0098】
ホスホニウム含有ポリマーP2F-TAPの合成
【化22】
P2F(0.747g,1.00eq.)とフッ化セシウム(0.911g,6.00mmol,6.00eq.)をTHF(90mL)とアセトニトリル(10mL)の混合溶媒に溶解させ,0℃に冷却したのちベンザイン前駆体(1.96g,6.00mmol,6.00eq.)をゆっくり加え、室温に昇温して72時間撹拌した。得られた反応混合物に脱イオン水を加え、ジクロロメタンで有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残渣を少量のジクロロメタンに溶解し、ヘキサンにゆっくり滴下し固体を析出させた。吸引ろ過で固体を濾別後、ヘキサンで3回洗浄し回収した固体を減圧乾燥し、ホスホニウム含有ポリマーP2F-TAP(0.891g,収率89.1%)を白色固体として得た。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
1H-NMR(400MHz,CD
3OD)δ1.90-2.43(27H),7.30-7.60(9H)ppm.
13C-NMR(75Hz,CD
3OD)δ-113.5ppm.
19F-NMR(376Hz,CD
3OD):δ=-79.5ppm.
31P-NMR(161MHz,CDCl
3)δ17.3ppm.
【0099】
実施例5
ホスホニウム含有ポリマーP3-TAPの合成
【化23】
出発原料として、ブロモメシチレンの代わりに2-ブロモ-5-メトキシ-1,3-ジメチルベンゼンを使用する以外はP2-TAPと同じ方法でP3-TAPを合成した。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
【0100】
比較例1
アンモニウム化ポリフェニレンオキシドPPO-1の合成
【化24】
先行技術文献(Chem.Mater.2017,29,5321-5330)に記載の方法で上記式に示す構造のポリマーPPO-1を合成した(前駆体ポリマーの数平均分子量は約22000、重量平均分子量は約42000)。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
【0101】
比較例2
ホスホニウム含有ポリマーP4-TAPの合成
【化25】
先行技術文献(特開2021-161223号広報)に記載の方法で上記式に示す構造のポリマーP4-TAPを合成した(前駆体ポリマーの数平均分子量は50100、重量平均分子量は207000)。
NMRにて上記式に示す構造であることを確認した。
【0102】
(アニオン交換膜の成膜)
図1に示すように、膜はドロップキャスト法で作製した。76.5cm×26.5cmのガラス基板にホスホニウム含有ポリマーの20重量%DMF溶液を滴下し、オーブンで60℃,24時間常圧下で加熱後、更に60℃,24時間減圧下で加熱した。その後、ガラス基板から膜を剥がし、成膜物を得た。
各実施例で得られた成膜物についてクラックの有無を目視で確認した。その結果を表1に示す。
【表1】
実施例2のポリマーから得られた膜を1M NaOH溶液に24時間室温で浸漬させ、脱イオン水で洗浄後、各種測定を行った。
【0103】
<イオン交換容量(Ion Exchange Capacity:IEC)測定>
イオン交換容量とはアニオン交換膜の取り込める対アニオンの量を示し、通常は取り込んだヒドロキシイオンについて測定される。IECが高いほど相対的に膜抵抗は低くなり、燃料電池、水電解槽などのデバイスにおいて高い発電効率が期待される。
【0104】
IECは次のように測定した。アニオン交換膜を1M水酸化ナトリウム水溶液に室温で48時間浸漬し、軽くペーパータオルで水気を取った後0.025M HCl溶液に24時間浸漬させた。指示薬としてBTB溶液を数滴加え、0.025M水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行った。IECを、下記式を用いて算出した。
IEC[mmol/g]=(VHCl×CHCl-VNaOH×CNaOH)/M
VHCl:塩酸の体積 CHCl:塩酸の濃度 VNaOH:水酸化ナトリウムの体積 CNaOH:水酸化ナトリウムの濃度 M:試料の重量
算出したイオン交換容量は0.89[mmol/g]であった。
【0105】
<熱安定性評価>
アニオン交換膜の熱安定性を熱重量測定(TGA)によって測定した。30~600℃の温度範囲で測定を行い
図2のTGA曲線が得られた。熱分解温度(Td:5重量%熱分解温度)は383℃であった。
【0106】
<耐アルカリ性評価>
ガラス製サンプル瓶(20mL)中にアニオン交換膜の断片(50mg)と1M KOH水溶液(10mL)を加え、オイルバスで80℃に加熱した。所定の時間が経過した時点で加熱を停止し、取り出した膜をイオン交換水で洗浄して赤外分光(IR)スペクトルを測定した。3日、6日、9日、12日、15日経過時点のデータを取得し並べた結果、
図3のようにスペクトルにはほとんど変化が見られず、アルカリ水溶液中でも高い化学安定性を有することが確認された。
【0107】
また、加熱前の膜と15日が経過した時点の膜をそれぞれクロロホルムに溶解させ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、
図4のようなチャートが得られた。加熱前後でピーク位置、形状の変化は殆どなく、アルカリ中での分子量分布も安定していることが確認された。
【0108】
<耐酸化性評価(1)>
ガラス製サンプル瓶(20mL)中にアニオン交換膜の断片(50mg)とフェントン試薬(3質量%H
2O
2水溶液+3ppmFeSO
4、10mL)を加え、オイルバスで80℃に加熱した。8時間が経過した時点で加熱を停止し、取り出した膜をイオン交換水で洗浄して赤外分光(IR)スペクトルを測定した。
図5のようにスペクトルにはほとんど変化が見られず、高い酸化耐性を有することが確認された。
また、加熱前の膜と8時間が経過した時点の膜をそれぞれクロロホルムに溶解させ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、
図6のようなチャートが得られた。加熱前後でピーク位置、形状の変化は殆どなく、アルカリ中での分子量分布も安定していることが確認された。
【0109】
<耐酸化性評価(2)>
ポリマーの耐酸化性を粉末状態で評価した。ガラス製試験管にポリマーの粉末(25mg)とフェントン試薬(3質量%H
2O
2水溶液+3ppmFeSO
4、10mL)を加え、攪拌しながらオイルバスで80℃に加熱した。2時間経過後、加熱を停止し、メンブレンフィルター(親水性PTFE、孔径1μm)でろ過して固体を回収した。減圧下で48時間乾燥させた後、重量を計量し、下記式にて試験前後の重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(W
0-W)/W
0×100
W
0:試験前の固体重量、W:試験後の固体重量
各ポリマーの評価結果を表2に示す。
【表2】
表2に示す通り、比較例1のポリマーは試験後殆ど固体が残らなかった。酸化条件で主鎖が切断され、可溶化したことが示唆される。比較例2のポリマーは比較例1に比べて重量減少は少なかった。実施例のポリマーは、重量減少が殆どなく、その主鎖構造を保っていることが示唆される。
【0110】
上記の結果から、本発明の実施例の膜は、充分なアニオン伝導性が期待できると同時に、優れた安定性を達成することができる。