(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035792
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】管路ネットワークにおける弁開度決定方法、弁開度決定装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
F17D 5/02 20060101AFI20240307BHJP
G01M 3/28 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
F17D5/02
G01M3/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100816
(22)【出願日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2022139913
(32)【優先日】2022-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丸山 純平
(72)【発明者】
【氏名】坂田 優太
【テーマコード(参考)】
2G067
3J071
【Fターム(参考)】
2G067AA11
2G067BB03
2G067BB22
2G067DD13
2G067EE09
3J071AA01
3J071AA11
3J071BB14
3J071CC03
3J071CC12
3J071DD26
3J071EE30
3J071FF05
(57)【要約】
【課題】配管漏洩時に各配管に設けられた流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量の再構築を容易かつ迅速に行うことができる、管路ネットワークにおける弁開度決定方法、弁開度決定装置及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】管路ネットワークにおける弁開度決定方法は、各流量制御弁31a~39aが設けられた各配管21~29の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数から各配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する流量算出ステップ(ステップS1)と、流量算出ステップ(ステップS1)で算出された各配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度及び各分岐部4~7に流入する源流の流量を算出する弁開度算出ステップ(ステップS2)とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
源流からの流体を1又は複数の分岐部及び各々が流量制御弁を有する複数の配管を介して複数の設備へ供給する管路ネットワークにおいて、配管漏洩時に所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を決定する管路ネットワークにおける弁開度決定方法であって、
各流量制御弁が設けられた各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数から各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出する流量算出ステップと、該流量算出ステップで算出された各配管内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を算出する弁開度算出ステップとを含むことを特徴とする管路ネットワークにおける弁開度決定方法。
【請求項2】
前記流量算出ステップでは、予め取得しておいた各配管内の始点及び終点における流体のストローハル数St=fd/vと、各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各配管の内径d(mm)とから、各配管内の始点及び終点の流体の流速v(mm/s)を算出し、算出された各配管内の始点及び終点の流体の流速vに各配管内の流路の断面積を乗じて各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出することを特徴とする請求項1に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定方法。
【請求項3】
前記流体の振動周波数の測定は、各配管における曲がり部、各配管における流量制御弁を配置した箇所、各配管におけるフランジ部及び各配管における溶接部のうちの少なくとも1つから各配管の外径以下の距離を隔てた位置にて行うことを特徴とする請求項1に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定方法。
【請求項4】
前記弁開度算出ステップでは、前記管路ネットワークの全体を木構造グラフとみなしたとき、分岐部に対応する漏洩配管の上流側の分岐点をなす親ノードとその子ノードからなる部分木において、各配管に対応する親ノードと子ノードを繋ぐ各エッジの始点及び終点の流体の流量を用いて所望の流量の流体を各設備に対応する各リーフへ供給するための各流量制御弁の弁開度及び親ノードに流入する源流の流量を算出し、得られた親ノードに流入する源流の流量を用いて更にその親ノードに対する上流の親ノードに流入する源流の流量と各流量制御弁の弁開度を再帰的に算出することを特徴とする請求項1に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定方法。
【請求項5】
源流からの流体を1又は複数の分岐部及び各々が流量制御弁を有する複数の配管を介して複数の設備へ供給する管路ネットワークにおいて、配管漏洩時に所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を決定する管路ネットワークにおける弁開度決定装置であって、
各流量制御弁が設けられた各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数から各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出する流量算出部と、該流量算出部で算出された各配管内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を算出する弁開度算出部とを備えていることを特徴とする管路ネットワークにおける弁開度決定装置。
【請求項6】
前記流量算出部は、予め取得しておいた各配管内の始点及び終点における流体のストローハル数St=fd/vと、各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各配管の内径d(mm)とから、各配管内の始点及び終点の流体の流速v(mm/s)を算出し、算出された各配管内の始点及び終点の流体の流速vに各配管内の流路の断面積を乗じて各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出することを特徴とする請求項5に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定装置。
【請求項7】
前記流体の振動周波数の測定は、各配管における曲がり部、各配管における流量制御弁を配置した箇所、各配管におけるフランジ部及び各配管における溶接部のうちの少なくとも1つから各配管の外径以下の距離を隔てた位置にて行うことを特徴とする請求項5に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定装置。
【請求項8】
前記弁開度算出部は、前記管路ネットワークの全体を木構造グラフとみなしたとき、分岐部に対応する漏洩配管の上流側の分岐点をなす親ノードとその子ノードからなる部分木において、各配管に対応する親ノードと子ノードを繋ぐ各エッジの始点及び終点の流体の流量を用いて所望の流量の流体を各設備に対応する各リーフへ供給するための各流量制御弁の弁開度及び親ノードに流入する源流の流量を算出し、得られた親ノードに流入する源流の流量を用いて更にその親ノードに対する上流の親ノードに流入する源流の流量と各流量制御弁の弁開度を再帰的に算出することを特徴とする請求項5に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定装置。
【請求項9】
源流からの流体を1又は複数の分岐部及び各々が流量制御弁を有する複数の配管を介して複数の設備へ供給する管路ネットワークにおいて、配管漏洩時に所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量をコンピュータに算出させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
各流量制御弁が設けられた各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数から各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出する流量算出ステップと、
該流量算出ステップで算出された各配管内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を算出する弁開度算出ステップと、
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路ネットワークにおける弁開度決定方法、弁開度決定装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所などの工場においては、各種気体、液体の流体を源流から各々が流量制御弁を有する複数の配管を介して複数の設備へ供給する管路ネットワークが存在する。
この管路ネットワークにおいて、配管の漏洩は、輸送する流体の過剰使用、各設備への流体の供給不足や圧損増加によるトラブル、製品の品質低下に繋がる。このため、配管が漏洩した場合には、いち早くその漏洩箇所を特定し、早急にその漏洩箇所を塞ぐ必要がある。
【0003】
しかしながら、配管の漏洩箇所を塞ぐ際には操業を中断せざるを得ない場合も多々ある。よって、配管の漏洩箇所を特定したとしても、それを塞ぐまでにタイムラグがあり、しばらくの間、漏洩状態での操業が必要になる。
従来から配管の漏洩箇所を迅速に検知する方法は数多く検討されてきた。例えば、特許文献1には、パイプラインの入口流量と出口流量との流量差に基づきパイプラインの漏洩検知を行うパイプライン漏洩検知方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、配管ネットワークにおける圧縮空気または液体の漏れ検知装置が開示されている。この漏れ検知装置は、供給槽から供給される供給槽圧力と供給槽流量及び末端設備の入口の末端設備圧力のそれぞれの時系列計測値を取得し、圧力変動が大きい時系列計測データを抽出する。そして、配管ネットワークモデルに基いて、抽出した時系列計測データを境界条件として、配管ネットワーク内の流量や圧力の時系列応答を計算する。そして、計算された流量や圧力の時系列応答に基づいて、配管ネットワーク内の圧縮空気または液体の漏れ位置及び漏れ量を決定し、漏れ位置と漏れ量を表示するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-281517号公報
【特許文献2】国際公開第2018/034187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら特許文献1に示すパイプライン漏洩検知方法及び特許文献2に示す漏れ検知装置にあっては、以下の課題があった。
即ち、特許文献1に示すパイプライン漏洩検知方法及び特許文献2に示す漏れ検知装置のいずれにおいても、配管での漏れ位置及び漏れ量を特定した後、当該配管の漏れ箇所の修復までの間の、所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量の再構築については言及されていない。製鉄業などにおいては配管漏洩後であっても操業をしばらく継続しなければならない場合があり、その場合に各配管に設けられた流量制御弁の弁開度及び源流の流量の再構築を容易かつ迅速に行う必要がある。一般的に配管の漏洩発覚時には配管の流量バランスが乱れるため、配管に設けられた流量制御弁の弁開度の設定等によって適切な流量に再構築することは容易ではない。つまり、各配管の適切な流量の再構築には、大量の流量計によって各配管の流量、流体の漏洩量を測定し、それを基に流量制御弁の弁開度や源流の流量を調整する必要がある。
【0007】
従って、本発明はこの従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、配管漏洩時に各配管に設けられた流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量の再構築を容易かつ迅速に行うことができる、管路ネットワークにおける弁開度決定方法、弁開度決定装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る管路ネットワークにおける弁開度決定方法は、源流からの流体を1又は複数の分岐部及び各々が流量制御弁を有する複数の配管を介して複数の設備へ供給する管路ネットワークにおいて、配管漏洩時に所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を決定する管路ネットワークにおける弁開度決定方法であって、各流量制御弁が設けられた各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数から各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出する流量算出ステップと、該流量算出ステップで算出された各配管内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を算出する弁開度算出ステップとを含むことを要旨とする。
【0009】
(2)また、(1)に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定方法において、前記流量算出ステップでは、予め取得しておいた各配管内の始点及び終点における流体のストローハル数St=fd/vと、各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各配管の内径d(mm)とから、各配管内の始点及び終点の流体の流速v(mm/s)を算出し、算出された各配管内の始点及び終点の流体の流速vに各配管内の流路の断面積を乗じて各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出することが好ましい。
【0010】
(3)また、(1)又は(2)に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定方法において、前記流体の振動周波数の測定は、各配管における曲がり部、各配管における流量制御弁を配置した箇所、各配管におけるフランジ部及び各配管における溶接部のうちの少なくとも1つから各配管の外径以下の距離を隔てた位置にて行うことが好ましい。
【0011】
(4)また、(1)~(3)のうちのいずれかに記載の管路ネットワークにおける弁開度決定方法において、前記弁開度算出ステップでは、前記管路ネットワークの全体を木構造グラフとみなしたとき、分岐部に対応する漏洩配管の上流側の分岐点をなす親ノードとその子ノードからなる部分木において、各配管に対応する親ノードと子ノードを繋ぐ各エッジの始点及び終点の流体の流量を用いて所望の流量の流体を各設備に対応する各リーフへ供給するための各流量制御弁の弁開度及び親ノードに流入する源流の流量を算出し、得られた親ノードに流入する源流の流量を用いて更にその親ノードに対する上流の親ノードに流入する源流の流量と各流量制御弁の弁開度を再帰的に算出することが好ましい。
【0012】
(5)また、本発明の別の態様に係る管路ネットワークにおける弁開度決定装置は、源流からの流体を1又は複数の分岐部及び各々が流量制御弁を有する複数の配管を介して複数の設備へ供給する管路ネットワークにおいて、配管漏洩時に所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を決定する管路ネットワークにおける弁開度決定装置であって、各流量制御弁が設けられた各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数から各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出する流量算出部と、該流量算出部で算出された各配管内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を算出する弁開度算出部とを備えていることを要旨とする。
【0013】
(6)また、(5)に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定装置において、 前記流量算出部は、予め取得しておいた各配管内の始点及び終点における流体のストローハル数St=fd/vと、各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各配管の内径d(mm)とから、各配管内の始点及び終点の流体の流速v(mm/s)を算出し、算出された各配管内の始点及び終点の流体の流速vに各配管内の流路の断面積を乗じて各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出することが好ましい。
【0014】
(7)また、(5)又は(6)に記載の管路ネットワークにおける弁開度決定装置において、前記流体の振動周波数の測定は、各配管における曲がり部、各配管における流量制御弁を配置した箇所、各配管におけるフランジ部及び各配管における溶接部のうちの少なくとも1つから各配管の外径以下の距離を隔てた位置にて行うことが好ましい。
【0015】
(8)また、(5)~(7)のうちのいずれかに記載の管路ネットワークにおける弁開度決定装置において、前記弁開度算出部は、前記管路ネットワークの全体を木構造グラフとみなしたとき、分岐部に対応する漏洩配管の上流側の分岐点をなす親ノードとその子ノードからなる部分木において、各配管に対応する親ノードと子ノードを繋ぐ各エッジの始点及び終点の流体の流量を用いて所望の流量の流体を各設備に対応する各リーフへ供給するための各流量制御弁の弁開度及び親ノードに流入する源流の流量を算出し、得られた親ノードに流入する源流の流量を用いて更にその親ノードに対する上流の親ノードに流入する源流の流量と各流量制御弁の弁開度を再帰的に算出することが好ましい。
【0016】
(9)更に、本発明の別の態様に係るコンピュータプログラムは、源流からの流体を1又は複数の分岐部及び各々が流量制御弁を有する複数の配管を介して複数の設備へ供給する管路ネットワークにおいて、配管漏洩時に所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量をコンピュータに算出させるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータに、各流量制御弁が設けられた各配管の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数から各配管内の始点及び終点の流体の流量を算出する流量算出ステップと、該流量算出ステップで算出された各配管内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各設備へ供給するための各流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量を算出する弁開度算出ステップと、を実行させることを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る管路ネットワークにおける弁開度決定方法、弁開度決定装置及びコンピュータプログラムによれば、配管漏洩時に各配管に設けられた流量制御弁の弁開度及び各分岐部に流入する源流の流量の再構築を容易かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る弁開度決定装置を管路ネットワークとともに示す概略構成図である。
【
図2】弁開度決定装置における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図2に示すフローチャートにおけるステップS1(流量算出ステップ)の詳細な流れを説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図2に示すフローチャートにおけるステップS2(弁開度算出ステップ)の詳細な流れを説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図1における管路ネットワークから構築された木構造グラフを説明するための図である。
【
図6】実施例における管路ネットワークから構築された木構造グラフを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る管路ネットワークにおける弁開度決定方法、弁開度決定装置、及びコンピュータプログラムの実施形態を図面に参照して説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
図1には、本発明の一実施形態に係る弁開度決定装置が管路ネットワークとともに示されている。
図1において、先ず、管路ネットワーク1は、製鉄所などの工場内に設けられ、源流からの流体を複数(本実施形態にあっては4つ)の分岐部(源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7)及び各々が流量制御弁31a,32a,33a,34a,35a,36a,37a,38a,39aを有する複数(本実施形態にあっては9本)の配管(第1乃至第9配管21,22,23,24,25,26,27,28,29)を介して複数(本実施形態にあっては6つ)の設備(第1乃至第6設備8,9,10,11,12,13)へ供給するものである。
【0021】
この管路ネットワーク1において、源流は、源流供給源2から源流供給管3を介して源流分岐部4に送られる。源流をなす流体は、各第1乃至第6設備8,9,10,11,12,13にて用いられる各種気体、液体である。
源流分岐部4には、第1配管21及び第5配管25がその源流分岐部4から分岐する形で接続されている。源流分岐部4に送られた源流をなす流体は、源流分岐部4から第1配管21及び第5配管25のそれぞれに分岐して流れる。
【0022】
第1配管21の入口近傍には、流量制御弁31aが設置されている。また、第1配管21の始点に相当する流量制御弁31aの出側には、始点側振動計31bが設置され、第1配管21の終点に相当する第1配管21の出口側端部には、終点側振動計31cが設置されている。流量制御弁31aは、源流分岐部4から第1配管21側に流入する流体の流量を制御するものである。後述する第5配管25に設置された流量制御弁35aは、源流分岐部4から第5配管25側に流入する流体の流量を制御するものであり、流量制御弁31aの弁開度(比率)と流量制御弁35aの弁開度(比率)とを併せて1になるように設定されている。始点側振動計31bは、第1配管21の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計31cは、第1配管21の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0023】
また、第5配管25の入口近傍には、流量制御弁35aが設置されている。また、第5配管25の始点に相当する流量制御弁35aの出側には、始点側振動計35bが設置され、第5配管25の終点に相当する第5配管25の出口側端部には、終点側振動計35cが設置されている。始点側振動計35bは、第5配管25の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計35cは、第5配管25の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0024】
また、第1配管21の末端部には、第1分岐部5が接続され、第5配管25の末端部には、第2分岐部6が接続されている。
そして、第1分岐部5には、第2配管22、第3配管23、及び第4配管24がその第1分岐部5から分岐する形で接続されている。第1配管21から第1分岐部5に送られた流体は、第1分岐部5から第2配管22、第3配管23、及び第4配管24のそれぞれに分岐して流れる。
【0025】
第2配管22の入口近傍には、流量制御弁32aが設置されている。また、第2配管22の始点に相当する流量制御弁32aの出側には、始点側振動計32bが設置され、第2配管22の終点に相当する第2配管22の出口側端部には、終点側振動計32cが設置されている。流量制御弁32aは、第1分岐部5から第2配管22側に流入する流体の流量を制御するものである。後述する第3配管23及び第4配管24のそれぞれに設置された流量制御弁33a、34aは、それぞれ第1分岐部5から第3配管23、第4配管24側に流入する流体の流量を制御するものであり、流量制御弁32aの弁開度(比率)と流量制御弁33aの弁開度(比率)と流量制御弁34aの弁開度(比率)とを併せて1になるように設定されている。始点側振動計32bは、第2配管22の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計32cは、第2配管22の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0026】
また、第3配管23の入口近傍には、流量制御弁33aが設置されている。また、第3配管23の始点に相当する流量制御弁33aの出側には、始点側振動計33bが設置され、第3配管23の終点に相当する第3配管23の出口側端部には、終点側振動計33cが設置されている。始点側振動計33bは、第3配管23の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計33cは、第3配管23の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0027】
また、第4配管24の入口近傍には、流量制御弁34aが設置されている。また、第4配管24の始点に相当する流量制御弁34aの出側には、始点側振動計34bが設置され、第4配管24の終点に相当する第4配管24の出口側端部には、終点側振動計34cが設置されている。始点側振動計34bは、第4配管24の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計34cは、第4配管24の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0028】
そして、第2分岐部6には、第6配管26及び第9配管29がその第2分岐部6から分岐する形で接続されている。第5配管25から第2分岐部6に送られた流体は、第2分岐部6から第6配管26及び第9配管29のそれぞれに分岐して流れる。
第6配管26の入口近傍には、流量制御弁36aが設置されている。また、第6配管26の始点に相当する流量制御弁36aの出側には、始点側振動計36bが設置され、第6配管26の終点に相当する第6配管26の出口側端部には、終点側振動計36cが設置されている。流量制御弁36aは、第2分岐部6から第6配管26側に流入する流体の流量を制御するものである。後述する第9配管29に設置された流量制御弁39aは、第2分岐部6から第9配管29側に流入する流体の流量を制御するものであり、流量制御弁36aの弁開度(比率)と流量制御弁39aの弁開度(比率)とを併せて1になるように設定されている。始点側振動計36bは、第6配管26の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計36cは、第6配管26の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0029】
また、第9配管29の入口近傍には、流量制御弁39aが設置されている。また、第9配管29の始点に相当する流量制御弁39aの出側には、始点側振動計39bが設置され、第9配管29の終点に相当する第9配管29の出口側端部には、終点側振動計39cが設置されている。始点側振動計39bは、第9配管29の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計39cは、第9配管29の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0030】
また、第2配管22の末端部には、第1設備8が接続され、第2配管23の末端部には、第2設備9が接続され、第4配管24の末端部には、第3設備10が接続されている。そして、第2配管22を流れる流体は、第1設備8に送られ、第3配管23を流れる流体は、第2設備9に送られ、第4配管24を流れる流体は、第3設備10に送られる。
また、第6配管26の末端部には、第3分岐部7が接続され、第9配管29の末端部には、第6設備13が接続されている。第9配管29を流れる流体は、第6設備13に送られる。
【0031】
そして、第3分岐部7には、第7配管27及び第8配管28がその第3分岐部7から分岐する形で接続されている。第6配管26から第3分岐部7に送られた流体は、第3分岐部7から第7配管27及び第8配管28のそれぞれに分岐して流れる。
【0032】
第7配管27の入口近傍には、流量制御弁37aが設置されている。また、第7配管27の始点に相当する流量制御弁37aの出側には、始点側振動計37bが設置され、第7配管27の終点に相当する第7配管27の出口側端部には、終点側振動計37cが設置されている。流量制御弁37aは、第3分岐部7から第7配管27側に流入する流体の流量を制御するものである。後述する第8配管28に設置された流量制御弁38aは、第3分岐部7から第8配管28側に流入する流体の流量を制御するものであり、流量制御弁37aの弁開度(比率)と流量制御弁38aの弁開度(比率)とを併せて1になるように設定されている。始点側振動計37bは、第7配管27の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計37cは、第7配管27の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0033】
また、第8配管28の入口近傍には、流量制御弁38aが設置されている。また、第8配管28の始点に相当する流量制御弁38aの出側には、始点側振動計38bが設置され、第8配管28の終点に相当する第8配管28の出口側端部には、終点側振動計38cが設置されている。始点側振動計38bは、第8配管28の始点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。また、終点側振動計38cは、第8配管28の終点を流れる流体の振動周波数f(Hz)を測定するものである。
【0034】
なお、始点側振動計31b~39b及び終点側振動計31c~39cによる流体の振動周波数fの測定は、第1乃至第9配管21~29における曲がり部(図示せず)、第1乃至第9配管21~29における流量制御弁31a~39aを配置した箇所、第1乃至第9配管21~29におけるフランジ部(図示せず)及び第1乃至第9配管21~29における溶接部(図すせず)のうちの少なくとも1つから第1乃至第9配管21~29の外径以下の距離を隔てた位置にて行う。第1乃至第9配管21~29の直管の箇所では、周期的な振動が発生しづらいからである。
【0035】
また、第7配管27の末端部には、第4設備11が接続され、第8配管28の末端部には、第5設備12が接続されている。そして、第7配管27を流れる流体は、第4設備11に送られ、第8配管28を流れる流体は、第5設備12に送られる。
このように構成された管路ネットワーク1において、所定の配管(第1乃至第9配管21~29のうちのいずれか1つ以上の配管)で漏洩が発生した際に、各第1乃至第9配管21~29に設けられた流量制御弁31a~39aの弁開度及び源流の流量の再構築を容易かつ迅速に行う必要がある。
【0036】
このため、本実施形態においては、
図1に示すように、弁開度決定装置50が備えられている。
弁開度決定装置50は、管路ネットワーク1において、所定の配管(第1乃至第9配管21~29のうちのいずれか1つ以上の配管)で漏洩が発生した際に、所望の流量の流体を各設備(各第1乃至第6設備8~13)へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度及び各分岐部(源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7)に流入する源流の流量を決定するものである。
【0037】
弁開度決定装置50は、
図1に示すように、流量算出部51、弁開度算出部52、及び出力表示部53を備えている。弁開度決定装置50は、演算処理機能を有するコンピュータシステムであり、記憶装置(図示せず)にインストールされたコンピュータプログラムの命令に従って、流量算出部51(ステップS1:流量算出ステップ、
図2参照)、弁開度算出部52(ステップS2:弁開度算出ステップ、
図2参照)、及び出力表示部53(ステップS3:出力表示ステップ)の各機能を実行する。
【0038】
ここで、流量算出部51は、各流量制御弁31a~39aが設けられた各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)から各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する。
また、弁開度算出部52は、流量算出部51で算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度、及び源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量を算出する。
【0039】
更に、出力表示部53は、弁開度算出部52によって算出して出力された結果、即ち、弁開度算出部52で算出された配管漏洩時における所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度、及び源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量を出力表示する。
【0040】
次に、弁開度決定装置50における処理の流れの詳細につき、
図2乃至
図4を参照して説明する。
図2は、弁開度決定装置における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図3は、
図2に示すフローチャートにおけるステップS1(流量算出ステップ)の詳細な流れを説明するためのフローチャートである。
図4は、
図2に示すフローチャートにおけるステップS2(弁開度算出ステップ)の詳細な流れを説明するためのフローチャートである。
【0041】
先ず、ステップS1において、弁開度決定装置50の流量算出部51は、各流量制御弁31a~39aが設けられた各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)から各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する(流量算出ステップ)。
このステップS1の処理の詳細な流れを、
図3を参照して説明する。
【0042】
先ず、ステップS11において、流量算出部51は、管路ネットワーク1の全体の木構造グラフを構築する。
木構造グラフの基となる管路ネットワーク1の全体の構成は
図1に示されているが、この管路ネットワーク1の全体の構成の情報は、作業者によって入力装置54に入力され、入力装置54からその情報を流量算出部51が取得する。
【0043】
図5には、
図1における管路ネットワーク1から構築された木構造グラフが示されている。
図5に示す木構造グラフにおいて、符号61は源流分岐部4に対応するノードである。また、符号62は第1分岐部5に対応するノード、符号63は第2分岐部6に対応するノード、符号64は第3分岐部7に対応するノードである。また、符号65は第1設備8に対応するリーフ、符号66は第2設備9に対応するリーフ、符号67は第3設備10に対応するリーフ、符号68は第4設備11に対応するリーフ、符号69は第5設備12に対応するリーフ、符号70は第6設備13に対応するリーフである。
【0044】
また、符号71i(i=1)は、第1配管21に対応するノード61とノード62とを繋ぐエッジ、符号71i(i=2)は、第2配管22に対応するノード62とリーフ65とを繋ぐエッジである。また、符号71i(i=3)は、第3配管23に対応するノード62とリーフ66とを繋ぐエッジ、符号71i(i=4)は、第4配管24に対応するノード62とリーフ67とを繋ぐエッジである。また、符号71i(i=5)は、第5配管25に対応するノード61とノード63とを繋ぐエッジ、符号71i(i=6)は、第6配管26に対応するノード63とノード64とを繋ぐエッジである。また、符号71i(i=7)は、第7配管27に対応するノード64とリーフ68とを繋ぐエッジ、符号71i(i=8)は、第8配管28に対応するノード64とリーフ69とを繋ぐエッジである。更に、符号71i(i=9)は、第9配管29に対応するノード63とリーフ70とを繋ぐエッジである。
【0045】
リーフ65~70を除くノード61~64は、それぞれ子の数だけ流量制御弁の弁開度に対応した変数を持っている。具体的には、ノード61は、流量制御弁31a,35aの弁開度に対応した変数を有し、ノード62は、流量制御弁32a~34aの弁開度に対応した変数を有している。また、ノード63は、流量制御弁36a,39aの弁開度に対応した変数を有し、ノード64は、流量制御弁37a,38aの弁開度に対応した変数を有している。
【0046】
更に、エッジ71i(i=1~9)は、それぞれ通過流量を変数として持っている。
次いで、ステップS12において、流量算出部51は、現在の各流量制御弁31a~39aの弁開度を各ノード61~64に設定する。具体的に、流量算出部51は、現在の流量制御弁31a,35aの弁開度をノード61に設定し、現在の流量制御弁32a~34aの弁開度をノード62に設定する。また、流量算出部51は、現在の流量制御弁36a,39aの弁開度をノード63に設定し、現在の流量制御弁37a,38aの弁開度をノード64に設定する。
【0047】
ここで、現在の各流量制御弁31a~39aの弁開度の情報は、作業者によって入力装置54に入力され、入力装置54からその情報を流量算出部51が取得する。
次いで、ステップS13において、流量算出部51は、各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する。
【0048】
ここで、各第1乃至第9配管21~29の始点の流体の流量の算出に際しては、流量算出部51は、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29内の始点における流体のストローハル数St=fd/vと、各第1乃至第9配管21~29の始点において各始点側振動計31b~39bで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29の内径d(mm)とから、各第1乃至第9配管21~29内の始点の流体の流速v(mm/s)を算出する。そして、流量算出部51は、算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点の流体の流速v(mm/s)に各第1乃至第9配管21~29内の流路の断面積を乗じて各第1乃至第9配管21~29内の始点の流量を算出する。
【0049】
各第1乃至第9配管21~29内の始点における流体のストローハル数St=fd/vについては、ストローハル数St=fd/vは配管の形状および配管の部位によって異なるため、流体シミュレーションを用いた振動解析によって予め算出しておく。そして、その算出した各第1乃至第9配管21~29内の始点における流体のストローハル数St=fd/vの情報は、作業者によって入力装置54に入力され、入力装置54からその情報を流量算出部51が取得する。ここで、各第1乃至第9配管21~29における流路にベンドやバルブを有する箇所の方が単なる直管よりも流れが乱れやすく、振動も発生しやすいため、これらの箇所を振動解析の対象とする。流体シミュレーションは、流体の振動を再現するために非定常手法を用い、タイムステップは流体の振動周波数fより十分小さくする。
【0050】
各第1乃至第9配管21~29内の始点における流体のストローハル数St=fd/vは、この流体シミュレーションによって得られた配管内流速vの時系列分布を用いて、振動解析を実施し、振動周波数fを求め、各第1乃至第9配管21~29内の内径dから算出することができる。
【0051】
振動解析手法としては、フーリエ変換やモード解析が挙げられる。フーリエ変換は基本的にある一点の座標の振動周波数を算出するのには適しているが、流体シミュレーションによって得られた配管内流速の時系列分布のような多次元データに適用するには、予め振動が特徴的な座標を特定する必要がある。このため、振動解析手法としてモード解析によって流速場全体の振動モードを解析する方法が有効である。また、モード解析によって得られた振動モードから振動が特徴的な座標を特定し、フーリエ変換を併用しても良い。モード解析手法としては、例えば動的モード分解が挙げられる。具体的には、流体シミュレーションによって得られた配管内流速vの時系列分布を空間方向と時間方向の2次元行列Yに変換し、2次元行列Yから1~t-1の時間を抜き出した行列を2~tの行列に変換する行列Aの固有値と固有ベクトルを求めることで配管内流体の振動モードを推定し、振動周波数fを求めることができる。
【0052】
また、第1乃至第9配管21~29の内径d(mm)、及び各第1乃至第9配管21~29内の流路の断面積の情報は、作業者によって入力装置54に入力され、入力装置54からその情報を流量算出部51が取得する。
また、流量算出部51は、各始点側振動計31b~39bで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)の時系列データをフーリエ変換し、得られたピーク値を流体の振動周波数f(Hz)として用いる。
【0053】
また、各第1乃至第9配管21~29の終点の流体の流量の算出に際しては、流量算出部51は、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29内の終点における流体のストローハル数St=fd/vと、各第1乃至第9配管21~29の終点において各終点側振動計31c~39cで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29の内径d(mm)とから、各第1乃至第9配管21~29内の終点の流体の流速v(mm/s)を算出する。そして、流量算出部51は、算出された各第1乃至第9配管21~29内の終点の流体の流速v(mm/s)に各第1乃至第9配管21~29内の流路の断面積を乗じて各第1乃至第9配管21~29内の終点の流量を算出する。
【0054】
ここで、各第1乃至第9配管21~29内の終点における流体のストローハル数St=fd/vについても、ストローハル数St=fd/vは配管の形状および配管の部位によって異なるため、流体シミュレーションを用いた振動解析によって予め算出しておく。そして、その算出した各第1乃至第9配管21~29内の終点における流体のストローハル数St=fd/vの情報は、作業者によって入力装置54に入力され、入力装置54からその情報を流量算出部51が取得する。ここで、各第1乃至第9配管21~29における流路にベンドやバルブを有する箇所の方が単なる直管よりも流れが乱れやすく、振動も発生しやすいため、これらの箇所を振動解析の対象とする。流体シミュレーションは、流体の振動を再現するために非定常手法を用い、タイムステップは流体の振動周波数fより十分小さくする。
【0055】
各第1乃至第9配管21~29内の終点における流体のストローハル数St=fd/vは、この流体シミュレーションによって得られた配管内流速vの時系列分布を用いて、振動解析を実施し、振動周波数fを求め、各第1乃至第9配管21~29内の内径dから算出することができる。
【0056】
振動解析手法としては、前述と同様に、モード解析によって流速場全体の振動モードを解析する方法が有効である。また、モード解析によって得られた振動モードから振動が特徴的な座標を特定し、フーリエ変換を併用しても良い。モード解析手法としては、例えば動的モード分解が挙げられる。具体的には、流体シミュレーションによって得られた配管内流速vの時系列分布を空間方向と時間方向の2次元行列Yに変換し、2次元行列Yから1~t-1の時間を抜き出した行列を2~tの行列に変換する行列Aの固有値と固有ベクトルを求めることで配管内流体の振動モードを推定し、振動周波数fを求めることができる。
【0057】
また、流量算出部51は、各終点側振動計31c~39cで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)の時系列データをフーリエ変換し、得られたピーク値を流体の振動周波数f(Hz)として用いる。
なお、始点側振動計31b~39b及び終点側振動計31c~39cによる流体の振動周波数fの測定は、第1乃至第9配管21~29における曲がり部(図示せず)、第1乃至第9配管21~29における流量制御弁31a~39aを配置した箇所、第1乃至第9配管21~29におけるフランジ部(図示せず)及び第1乃至第9配管21~29における溶接部(図すせず)のうちの少なくとも1つから第1乃至第9配管21~29の外径以下の距離を隔てた位置にて行う。第1乃至第9配管21~29の直管の箇所では、周期的な振動が発生しづらいからである。
【0058】
始点側振動計31b~39b及び終点側振動計31c~39cは、
図1に示すように、弁開度決定装置50の流量算出部51に接続され、始点側振動計31b~39b及び終点側振動計31c~39cによって測定された流体の振動周波数fの情報は、流量算出部51に入力される。なお、
図1においては、始点側振動計31b、35b及び終点側振動計31c、35cのみが弁開度決定装置50の流量算出部51に接続された状態が示されている。
【0059】
このように、各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点において各始点側振動計31b~39b及び終点側振動計31c~39cで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)を用いて各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出することにより、設置型の振動計での流量測定が可能となる。これにより、流量計を用いての各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点における流量測定に対し、低費用で流量測定を行うことが可能となる。振動測定には、通常の振動計だけでなく、ハイスピードカメラを用いてもよい。
【0060】
次いで、ステップS14において、流量算出部51は、木構造グラフの各エッジ71i(i=1~N)の始点及び終点に、ステップS13で算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を設定する。本実施形態において、配管の数は第1乃至第9配管21~29の9個あり、N=9に設定される。
次いで、ステップS15において、流量算出部51は、木構造グラフのエッジ71i(i=1~N)におけるiにi=1を設定する。
【0061】
次いで、ステップS16において、流量算出部51は、ステップS14で設定された木構造グラフのエッジ71i(先ず、ステップS14で設定されたi=1)の始点及び終点の流量から当該始点及び終点の流量差ΔQiを算出する。
次いで、ステップS17において、流量算出部51は、ステップS16で算出した流量差ΔQiが閾値εより大きいか否かを判定する。
【0062】
この閾値εは、流量誤差閾値であり、各第1乃至第9配管21~29において流体の漏洩が起こらない場合に通常起こり得る、各第1乃至第9配管21~29の始点と終点の流量差の最大値である。
そして、ステップS17における判定結果がNO(流量差ΔQiが閾値ε以下)の場合には、ステップS18に移行し、判定結果がYES(流量差ΔQiが閾値εより大きい)の場合には、木構造グラフの該当エッジ71i(i=1)に漏洩が発生したとしてステップS1における終了する。
【0063】
ステップS18では、流量算出部51は、木構造グラフのエッジ71i(i=1~N)におけるiにi+1(=2)を設定する。
次いで、ステップS19において、流量算出部51は、i(ステップS18で設定されたi+1(=2))がエッジ数N(本実施形態ではN=9)以下か否かを判定する。
そして、判定結果がYESの場合、ステップS16に移行し、判定結果がNOの場合、ステップS13に移行する。
【0064】
ステップS18で設定されたi=2はN=9よりも小さいので、判定結果はYESとなり、ステップS16に移行する。そして、流量算出部51は、ステップS18で設定された木構造グラフのエッジ71i(ステップS18で設定されたi=2)の始点及び終点の流量から当該始点及び終点の流量差ΔQiを算出する。
そして、ステップS17、ステップS18、ステップS19、ステップS16をステップS17の判定結果がYESとなるまで繰り返す。
【0065】
そして、iがエッジ数N(本実施形態ではN=9)に至るまでステップS17の判定結果がYESとならない場合には、ステップS13に移行し、流量算出部51は、各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する。
ステップS15、ステップS16、ステップS17、ステップS18、及びステップS19における処理は、木構造グラフのエッジ71i(i=1~N(本実施形態ではN=9))のうちいずれのエッジに漏洩が発生したかを検知する処理である。
【0066】
弁開度決定装置50の弁開度算出部52は、
図2に示すように、ステップS1における流量算出部51による処理が終了した後、ステップS2において、ステップS1(流量算出ステップ)で算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度及び、源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量を算出する(弁開度算出ステップ)。
【0067】
このステップS2の処理の詳細な流れを、
図4を参照して説明する。
先ず、ステップS21において、弁開度算出部52は、ステップS17での判定結果がYES(流量差ΔQiが閾値εより大きい)となった、漏洩が発生した木構造グラフの該当エッジ71i(i=1~N(本実施形態ではN=9)のうちいずれか1つのエッジ)の始点の親ノード61~64(
図5参照)をルートとした最大深さ1の部分木を構築する。
【0068】
次いで、ステップS22において、弁開度算出部52は、部分木の親ノード61~64での各流量制御弁31a~39aの弁開度及び親ノード61~64に流入する源流の流量を算出する。
【0069】
ここで、部分木の親ノード61~64は、漏洩が発生した木構造グラフの該当エッジ71i(i=1~N(本実施形態ではN=9)のうちいずれか1つのエッジ)の始点の親ノードである。部分木におけるエッジ71iの数はNよりも少ない任意のnである。そして、部分木の親ノード61~64での各流量制御弁31a~39aの数は部分木におけるエッジ71iの数nと同数のnである。また、部分木の親ノード61~64に流入する源流の数は1つである。
【0070】
従って、部分木の親ノード61~64での各流量制御弁31a~39aの弁開度及び親ノード61~64に流入する源流の流量を算出するに際し、親ノード61~64での各流量制御弁31a~39aの弁開度の数nと親ノード61~64に流入する源流の流量の数1とを加えたn+1個の変数を連立方程式を用いて解く必要がある。
【0071】
先ず、部分木の親ノード61~64での各流量制御弁31a~39aの弁開度をOjとし、それによって決定される流量割合をRjとする。流量割合Rjと弁開度Ojとは、事前の流量測定により相互変換可能である。このため、部分木の親ノード61~64での各流量制御弁31a~39aの弁開度及び親ノード61~64に流入する源流の流量を算出するに際し、弁開度Ojの代わりに流量割合Rjを用いる。また、親ノード61~64に流入する源流の流量をQとする。
【0072】
流量割合Rjと親ノード61~64に流入する源流の流量Qを用いて、部分木の各エッジ71i(i=j)の流量Qjは、
Qj=Rj・Q
で表される。このうち、漏洩配管に対するエッジ71i(i=k)の流量Qkについては、測定流量から算出した漏洩率α(0<α<1)を用いて、
Qk=(1-α)・Rk・Q
となる。また、流量割合Rjの総和は1になるため、
【0073】
【0074】
が成り立つ。部分木の各エッジ71i(i=j)の流量Qjは各第1乃至第6設備8~13に対応する各リーフへの所望の流量で既知であり、n+1個の変数(未知数はRjとQ)に対してn+1個の式が成り立つため、この連立方程式を解くことで、部分木の親ノード61~64での流量割合Rj及び親ノード61~64に流入する源流の流量Qを求めることができる。
【0075】
そして、連立方程式を解くことによって得られた部分木の親ノードでの流量割合Rjから部分木の親ノードでの各流量制御弁の弁開度Ojに変換して部分木の親ノードでの各流量制御弁の弁開度Ojを求めればよい。
次いで、ステップS23において、弁開度算出部52は、ステップS22における親ノード61~64が管路ネットワーク1の全体の親ノード61か否かを判定する。
【0076】
そして、ステップS23での判定結果がYESのとき、ステップS24に移行し、ステップS23での判定結果がNOのとき、ステップS25に移行する。
ステップS25においては、弁開度算出部52は、部分木の親ノード61~64に対する上流の親ノード(親ノード64に対し親ノード63、親ノード63に対し親ノード61、親ノード62に対し親ノード61)をルートとした新たな部分木を構築し、ステップS22に戻る。
【0077】
一方、ステップS24においては、弁開度算出部52は、ステップS22で算出した全ての流量制御弁31a~39aの弁開度及び全ての親ノード61~64に流入する源流の流量を出力し、ステップS2での処理は終了する。
【0078】
このように、ステップS2(弁開度算出ステップ)では、弁開度算出部52は、管路ネットワーク1の全体を木構造グラフとみなしたとき、分岐部(源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5~7)に対応する漏洩配管の上流側の分岐点をなす親ノード61~64とその子ノード(親ノード64に対し子ノード68と69、親ノード63に対し子ノード64と子ノード70、親ノード62に対し子ノード65と66と67、親ノード61に対し子ノード62と63)からなる部分木を考慮する。そして、その部分木において、各第1乃至第9配管21~29に対応する親ノード61~64とその子ノード(親ノード64に対し子ノード68と69、親ノード63に対し子ノード64と子ノード70、親ノード62に対し子ノード65と66と67、親ノード61に対し子ノード62と63)を繋ぐ各エッジ71i(i=1~9)の始点及び終点の流体の流量を用いて所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13に対応する各リーフ65~70へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度及び親ノード61~64に流入する源流の流量を算出する(ステップS22)。そして、得られた親ノード61~64に流入する源流の流量を用いて更にその親ノード61~64に対する上流の親ノード(親ノード64に対し親ノード63、親ノード63に対し親ノード61、親ノード62に対し親ノード61、親ノード61に対してはその上流の親ノード)に流入する源流の流量と各流量制御弁31a~39aの弁開度を再帰的に算出する(ステップS23、ステップS25、ステップS22、ステップS23、ステップS24)。
【0079】
最後に、弁開度決定装置50の弁開度算出部52は、
図2に示すように、ステップS2における弁開度算出部52による処理が終了した後、ステップS3において、ステップS2(弁開度算出ステップ)で算出された配管漏洩時における所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度、及び源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量を出力表示する。
【0080】
このように、本実施形態に係る管路ネットワークにおける弁開度決定方法及び弁開度決定装置によれば、流量算出ステップ(ステップS1、流量算出部51)において、各流量制御弁31a~39aが設けられた各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)から各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する。また、弁開度算出ステップ(ステップS2、弁開度算出部52)において、流量算出ステップ(ステップS1、流量算出部51)で算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度、及び源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量を算出する。
【0081】
これにより、配管漏洩時に各第1乃至第9配管21~29に設けられた流量制御弁31a~39aの弁開度及び各源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量の再構築を容易かつ迅速に行うことができる。
また、本実施形態に係る管路ネットワークにおける弁開度決定方法及び弁開度決定装置によれば、流量算出ステップ(ステップS1、流量算出部51)では、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点における流体のストローハル数St=fd/vと、各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29の内径d(mm)とから、各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点の流体の流速v(mm/s)を算出する。そして、流量算出ステップ(ステップS1、流量算出部51)では、算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流速vに各第1乃至第9配管21~29内の流路の断面積を乗じて各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する。
【0082】
これにより、設置型の振動計を用いて各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量が可能となり、流量計を用いての各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点における流量測定に対し、低費用で流量測定を行うことが可能となる。
【0083】
また、本実施形態に係る管路ネットワークにおける弁開度決定方法及び弁開度決定装置によれば、流体の振動周波数の測定は、各第1乃至第9配管21~29における曲がり部、各第1乃至第9配管21における流量制御弁31a~39aを配置した箇所、各第1乃至第9配管21~29におけるフランジ部及び各第1乃至第9配管21~29における溶接部のうちの少なくとも1つから各第1乃至第9配管21~29の外径以下の距離を隔てた位置にて行う。
【0084】
これにより、周期的な流体の振動が発生し易い各第1乃至第9配管21~29の測定箇所で振動の測定を行うことになり、設置型の振動計を用いての各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を正確に行うことができる。
【0085】
また、本実施形態に係る管路ネットワークにおける弁開度決定方法及び弁開度決定装置によれば、弁開度算出ステップ(ステップS2、弁開度算出部52)では、管路ネットワーク1の全体を木構造グラフとみなしたとき(ステップS11)、分岐部(源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5~7)に対応する漏洩配管の上流側の分岐点をなす親ノード61~64とその子ノード(親ノード64に対し子ノード68と69、親ノード63に対し子ノード64と子ノード70、親ノード62に対し子ノード65と66と67、親ノード61に対し子ノード62と63)からなる部分木において(ステップS21)、各第1乃至第9配管21~29に対応する親ノード61~64とその子ノード(親ノード64に対し子ノード68と69、親ノード63に対し子ノード64と子ノード70、親ノード62に対し子ノード65と66と67、親ノード61に対し子ノード62と63)を繋ぐ各エッジ71i(i=1~9)の始点及び終点の流体の流量を用いて所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13に対応する各リーフ65~70へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度及び親ノード61~64に流入する源流の流量を算出する(ステップS22)。そして、得られた親ノード61~64に流入する源流の流量を用いて更にその親ノード61~64に対する上流の親ノード(親ノード64に対し親ノード63、親ノード63に対し親ノード61、親ノード62に対し親ノード61、親ノード61に対しその上流の親ノード)に流入する源流の流量と各流量制御弁31a~39aの弁開度を再帰的に算出する(ステップS23、ステップS25、ステップS22)。
【0086】
これにより、配管漏洩時に各第1乃至第9配管21~29に設けられた流量制御弁31a~39aの弁開度及び各源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量の再構築を木構造グラフを用いて容易かつ迅速に行うことができる。
【0087】
また、本実施形態に係るコンピュータプログラムによれば、コンピュータ(弁開度決定装置50)に、流量算出ステップ(ステップS1)と、弁開度算出ステップ(ステップS2)とを実行させる。流量算出ステップ(ステップS1)は、各流量制御弁31a~39aが設けられた各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)から各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する。また、弁開度算出ステップ(ステップS2)は、流量算出ステップ(ステップS1)で算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度及び各源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量を算出する。
【0088】
これにより、配管漏洩時に各第1乃至第9配管21~29に設けられた流量制御弁31a~39aの弁開度及び各源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量の再構築を容易かつ迅速に行うことができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
【0089】
例えば、管路ネットワーク1は、源流供給源2、源流供給管3、源流分岐部4、第1乃至第3分岐部5,6,7、第1乃至第6設備8,9,10,11,12,13、及び第1乃至第9配管21,22,23,24,25,26,27,28,29を備えている。しかし、管路ネットワーク1の構造は、これら源流供給源2、源流供給管3、源流分岐部4、第1乃至第3分岐部5~7、第1乃至第6設備8~13、及び第1乃至第9配管21~29を備えたものに限られない。
【実施例0090】
発明の効果を確認するため、
図1に示す管路ネットワーク1において、本発明の弁開度決定方法を用いて配管漏洩時の各流量制御弁31a~39aの弁開度を決定した。この方法の処理は、前述した
図2乃至
図4に示すフローチャートに示されている。
先ず、ステップS1において、弁開度決定装置50の流量算出部51は、各流量制御弁31a~39aが設けられた各第1乃至第9配管21~29の始点及び終点において測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)から各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出する(流量算出ステップ)。
【0091】
このステップS1の処理において、先ず、ステップS11において、流量算出部51は、管路ネットワーク1の全体の木構造グラフを構築した。
図6には、実施例における管路ネットワークから構築された木構造グラフが示されている。
図6に示す木構造グラフにおいて、符号61は源流分岐部4に対応するノードである。また、符号62は第1分岐部5に対応するノード、符号63は第2分岐部6に対応するノード、符号64は第3分岐部7に対応するノードである。また、符号65は第1設備8に対応するリーフ、符号66は第2設備9に対応するリーフ、符号67は第3設備10に対応するリーフ、符号68は第4設備11に対応するリーフ、符号69は第5設備12に対応するリーフ、符号70は第6設備13に対応するリーフである。
【0092】
また、符号71i(i=1)は、第1配管21に対応するノード61とノード62とを繋ぐエッジ、符号71i(i=2)は、第2配管22に対応するノード62とリーフ65とを繋ぐエッジである。また、符号71i(i=3)は、第3配管23に対応するノード62とリーフ66とを繋ぐエッジ、符号71i(i=4)は、第4配管24に対応するノード62とリーフ67とを繋ぐエッジである。また、符号71i(i=5)は、第5配管25に対応するノード61とノード63とを繋ぐエッジ、符号71i(i=6)は、第6配管26に対応するノード63とリーフ64とを繋ぐエッジである。また、符号71i(i=7)は、第7配管27に対応するノード64とリーフ68とを繋ぐエッジ、符号71i(i=8)は、第8配管28に対応するノード64とリーフ69とを繋ぐエッジである。更に、符号71i(i=9)は、第9配管29に対応するノード63とリーフ70とを繋ぐエッジである。
【0093】
次いで、ステップS12において、流量算出部51は、現在の各流量制御弁31a~39aの弁開度を各ノード61~64に設定した。具体的に、流量算出部51は、現在の流量制御弁31a,35aの弁開度をノード61に設定し、現在の流量制御弁32a~34aの弁開度をノード62に設定した。また、流量算出部51は、現在の流量制御弁36a,39aの弁開度をノード63に設定し、現在の流量制御弁37a,38aの弁開度をノード64に設定した。
【0094】
次いで、ステップS13において、流量算出部51は、各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を算出した。
【0095】
ここで、各第1乃至第9配管21~29の始点の流体の流量の算出に際しては、流量算出部51は、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29内の始点における流体のストローハル数St=fd/vと、各第1乃至第9配管21~29の始点において各始点側振動計31b~39bで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29の内径d(mm)とから、各第1乃至第9配管21~29内の始点の流体の流速v(mm/s)を算出する。そして、流量算出部51は、算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点の流体の流速v(mm/s)に各第1乃至第9配管21~29内の流路の断面積を乗じて各第1乃至第9配管21~29内の始点の流量を算出する。
【0096】
また、各第1乃至第9配管21~29の終点の流体の流量の算出に際しては、流量算出部51は、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29内の終点における流体のストローハル数St=fd/vと、各第1乃至第9配管21~29の終点において各終点側振動計31c~39cで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)と、予め取得しておいた各第1乃至第9配管21~29の内径d(mm)とから、各第1乃至第9配管21~29内の終点の流体の流速v(mm/s)を算出する。そして、流量算出部51は、算出された各第1乃至第9配管21~29内の終点の流体の流速v(mm/s)に各第1乃至第9配管21~29内の流路の断面積を乗じて各第1乃至第9配管21~29内の終点の流量を算出する。
【0097】
ここで、流量算出部51は、各始点側振動計31b~39b及び終点側振動計31c~39cで測定されて取得した流体の振動周波数f(Hz)の時系列データをフーリエ変換し、得られたピーク値を流体の振動周波数f(Hz)として用いた。
この結果、第1配管21(エッジ71i(i=1))の始点及び終点の流量は4.3であった。計算を単純化するため、流量は各源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5~7に流入する源流が10となるように無次元化している。また、第2配管22(エッジ71i(i=2))の始点及び終点の流量は1.1であった。また、第3配管23(エッジ71i(i=3))の始点及び終点の流量は1.5であった。第4配管24(エッジ71i(i=4))の始点及び終点の流量は1.7であった。第5配管25(エッジ71i(i=5))の始点及び終点の流量は5.7であった。第6配管26(エッジ71i(i=6))の始点及び終点の流量は4.2であった。また、第8配管26(エッジ71i(i=8))の始点及び終点の流量は2.2であった。また、第9配管29(エッジ71i(i=9))の始点及び終点の流量は1.5であった。
【0098】
但し、操業中に第7配管27(エッジ71i(i=7))で漏洩が起こり、0.2の流量が漏洩し、第7配管27(エッジ71i(i=7))の始点の流量は2.0、終点の流量は1.8であった。
次いで、ステップS14において、流量算出部51は、木構造グラフの各エッジ71i(i=1~9)の始点及び終点に、ステップS13で算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を設定した。
【0099】
次いで、ステップS15において、流量算出部51は、木構造グラフのエッジ71i(i=1~9)におけるiにi=1を設定してから、ステップS16、ステップS17、ステップS18、及びステップS19を繰り返した。
第7配管27(エッジ71i(i=7))の始点の流量は2.0、終点の流量は1.8であることから、エッジ71i(i=7)の始点及び終点の流量差ΔQ7が0.2となり、閾値εよりも大きく、ステップS17での判定結果がYESとなった。これにより、ステップS1(流量算出ステップ)を終了した。
【0100】
次いで、弁開度決定装置50の弁開度算出部52は、ステップS2において、ステップS1(流量算出ステップ)で算出された各第1乃至第9配管21~29内の始点及び終点の流体の流量を用いて配管漏洩時における所望の流量の流体を各第1乃至第6設備8~13へ供給するための各流量制御弁31a~39aの弁開度及び、源流分岐部4及び第1乃至第3分岐部5,6,7に流入する源流の流量を算出した(弁開度算出ステップ)。
【0101】
このステップS2の処理では、先ず、ステップS21において、弁開度算出部52は、ステップS17での判定結果がYESとなった、漏洩が発生した木構造グラフの該当エッジ71i(i=7)の始点の親ノード64をルートとした最大深さ1の部分木を構築した。
【0102】
次いで、ステップS22において、弁開度算出部52は、部分木の親ノード64での各流量制御弁37a,38aの弁開度及び親ノード64に流入する源流の流量を算出した。
【0103】
ここで、親ノード64に流入する源流の流量をQ6、親ノード64での各流量制御弁37a、38aの弁開度をO7、O8とし、それによって決定される流量割合をR7、R8、部分木のエッジ71i(i=7)の流量をQ7、エッジ71i(i=8)の流量をQ8とすると、次の連立方程式が成立する。
【0104】
R7+R8=1
Q7=(1-α)R7・Q6
Q8=R8・Q6
【0105】
ここで、αは、エッジ71i(i=7)での漏洩率であり、エッジ71i(i=7)の始点の流量が2.0、終点の流量が1.8であることから、α=(2.0-1.8)/2.0=0.1が分かる。
【0106】
また、Q7は部分木のエッジ71i(i=7)の流量、即ち、リーフ68への所望の流量で2.0と既知である。また、Q8は部分木のエッジ71i(i=8)の流量、即ち、リーフ69への所望の流量で2.2と既知である。
これら既知の数値を前述の連立方程式に代入して、R7=0.5025、R8=0.4975、Q6=4.4221が得られた。
【0107】
次いで、ステップS23において、弁開度算出部52は、ステップS22における親ノード64が管路ネットワーク1の全体の親ノード61か否かを判定し、その判定結果はNOとなるので、ステップS25に移行した。
ステップS25においては、弁開度算出部52は、部分木の親ノード64に対する上流の親ノード63をルートとした新たな部分木を構築し、ステップS22に戻った。
【0108】
再度、ステップS22において、弁開度算出部52は、部分木の親ノード63での各流量制御弁36a,39aの弁開度及び親ノード63に流入する源流の流量を算出した。
ここで、親ノード63に流入する源流の流量をQ5、親ノード63での各流量制御弁36a、39aの弁開度をO6、O9とし、それによって決定される流量割合をR6、R9、部分木のエッジ71i(i=6)の流量をQ6、エッジ71i(i=9)の流量をQ9とすると、次の連立方程式が成立する。
【0109】
R6+R9=1
Q6=R6・Q5
Q9=R9・Q5
【0110】
ここで、Q6は部分木のエッジ71i(i=6)の流量、即ち、ノード64に流入する源流の流量で前に算出したQ6=4.4221である。また、Q9は部分木のエッジ71i(i=9)の流量、即ち、リーフ70への所望の流量で1.5と既知である。
【0111】
これら既知の数値を前述の連立方程式に代入して、R6=0.7467、R9=0.2533、Q5=5.9218が得られた。
次いで、ステップS23において、弁開度算出部52は、ステップS22における親ノード63が管路ネットワーク1の全体の親ノード61か否かを判定し、その判定結果はNOとなるので、ステップS25に移行した。
【0112】
ステップS25においては、弁開度算出部52は、部分木の親ノード63に対する上流の親ノード61をルートとした新たな部分木を構築し、ステップS22に戻った。
再度、ステップS22において、弁開度算出部52は、部分木の親ノード61での各流量制御弁31a,35aの弁開度及び親ノード61に流入する源流の流量を算出した。
ここで、親ノード61に流入する源流の流量をQ0、親ノード61での各流量制御弁31a、35aの弁開度をO1、O5とし、それによって決定される流量割合をR1、R5、部分木のエッジ71i(i=1)の流量をQ1、エッジ71i(i=5)の流量をQ5とすると、次の連立方程式が成立する。
【0113】
R1+R5=1
Q1=R1・Q0
Q5=R5・Q0
【0114】
ここで、Q5は部分木のエッジ71i(i=5)の流量、即ち、ノード63に流入する源流の流量で前に算出したQ5=5.9218である。また、Q1は部分木のエッジ71i(i=1)の流量、即ち、ノード62への流量でステップS14で設定された4.3と既知である。
【0115】
これら既知の数値を前述の連立方程式に代入して、R1=0.4207、R5=0.5793、Q0=10.2211が得られた。
次いで、ステップS23において、弁開度算出部52は、ステップS22における親ノード61が管路ネットワーク1の全体の親ノード61か否かを判定し、その判定結果はYESとなるので、ステップS24に移行した。
【0116】
ステップS24において、弁開度算出部52は、ステップS22で算出した全ての流量制御弁31a~39aの弁開度及び全ての親ノード61~64に流入する源流の流量を出力し、ステップS2での処理を終了した。
ここで、流量制御弁31aの弁開度O1は、流量割合R1=0.4207を変換した値、流量制御弁35aの弁開度O5は流量割合R5=0.5793を変換した値である。また、流量制御弁36aの弁開度O6は流量割合R6=0.7467を変換した値、流量制御弁39aの弁開度O9は流量割合R9=0.2533を変換した値である。また、流量制御弁37aの弁開度O7は流量割合R7=0.5025を変換した値、流量制御弁38aの弁開度O8は流量割合R8=0.4975を変換した値である。
【0117】
また、ノード61に流入する流量Q0は、10.2211を実際の流量単位に変換した値、ノード62に流入する流量Q1は、4.3実際の流量単位に変換した値である。また、ノード63に流入する流量Q5は、5.9218を実際の流量単位に変換した値、ノード64に流入する流量Q6は4.4221を実際の流量単位に変換した値である。
なお、流量制御弁32aの弁開度O2、流量制御弁33aの弁開度O3、流量制御弁34aの弁開度O4について、弁開度算出部52は、次のように算出して処理を終了した。
【0118】
親ノード62に流入する源流の流量をQ1、親ノード62での各流量制御弁32a、33a、34aの弁開度をそれぞれO2、O3、O4とし、それによって決定される流量割合をR2、R3、R4、部分木のエッジ71i(i=2)の流量をQ2、エッジ71i(i=3)の流量をQ3、エッジ71i(i=4)の流量をQ4とすると、次の連立方程式が成立する。
【0119】
R2+R3+R4=1
Q2=R2・Q1
Q3=R3・Q1
Q4=R4・Q1
【0120】
ここで、Q1は部分木のエッジ71i(i=1)の流量、即ち、ノード62への流量でステップS14で設定された4.3と既知である。また、Q2は部分木のエッジ71i(i=2)の流量、即ち、リーフ65へ流入する所望の流量で1.1と既知である。また、Q3は部分木のエッジ71i(i=3)の流量、即ち、リーフ66へ流入する所望の流量で1.5と既知である。また、Q4は部分木のエッジ71i(i=4)の流量、即ち、リーフ67へ流入する所望の流量で1.7と既知である。
【0121】
これら既知の数値を前述の連立方程式に代入して、R2=0.2558、R3=0.3488、R4=0.3953が得られた。
従って、流量制御弁32aの弁開度O2は、流量割合R2=0.2558を変換した値、流量制御弁33aの弁開度O3は流量割合R3=0.3488を変換した値、流量制御弁34aの弁開度O4は、流量割合R4=0.3953を変換した値である。
【0122】
このように、
図1に示す管路ネットワーク1において、本発明の弁開度決定方法を用いて配管漏洩時(第7配管27(エッジ71i(i=7))の漏洩時)の各流量制御弁31a~39aの弁開度を適切に決定することができた。