IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

特開2024-35815生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035815
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/14 20060101AFI20240307BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240307BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20240307BHJP
   A01G 33/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C09D133/14
C12M1/00 E
C09D5/16
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139769
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022140030
(32)【優先日】2022-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小澤 歩未
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光人
【テーマコード(参考)】
2B026
4B029
4J038
【Fターム(参考)】
2B026AA05
2B026AB08
2B026AC06
4B029AA02
4B029BB04
4B029CC01
4B029GB09
4B029GB10
4J038CG141
4J038CH141
4J038MA13
4J038NA05
4J038PB02
4J038PC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、塗膜剥離耐性に優れ、かつ長期間の生物及び/又は生物由来物質の付着抑制効果の維持を可能とする、コート剤及び該コート剤を含む層を有する積層体を提供することである。
【解決手段】上記課題は、ポリエチレンオキサイド部位を有するアクリル系重合体を含む、生物及び/又は生物由来物質の付着抑制コート剤によって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンオキサイド部位を有するアクリル系重合体を含む、生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
【請求項2】
前記アクリル系重合体が、側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含むことを特徴とする、請求項1に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
【請求項3】
前記アクリル系重合体が、主鎖および側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含むことを特徴とする、請求項2に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
【請求項4】
前記アクリル系重合体の全質量中におけるポリエチレンオキサイド部位の含有率が、30~65質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
【請求項5】
前記アクリル系重合体の、FOXの式で算出されるガラス転移温度が-20~50℃であることを特徴とする、請求項1に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
【請求項6】
さらに架橋剤を含有し、かつ前記アクリル系重合体が架橋点となり得る官能基を有することを特徴とする、請求項1に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤からなる層と基材とを含む積層体。
【請求項8】
請求項7に記載の積層体を含む水槽。
【請求項9】
藻類の付着抑制用である、請求項8に記載の水槽。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤、及び該コート剤を含む層を有する、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類や藻類、貝類、甲殻類等の水生生物の生育環境に晒される構造物、例えば水生生物の飼育や養殖に用いられる水槽や関連設備は、水生生物の残餌や排泄物等の生物由来物質により表面にバイオフィルムが形成され、水生生物の生存、生育に悪影響を及ぼす。また、生育環境の富栄養化とともに水中へ取り込まれる光によって、構造物表面へ珪藻類などの藻類が付着形成し、外観の損失や設備不良を引き起こす。藻類養殖の場合には、生育した藻類が水槽等の養殖設備に付着することで、養殖効率の低下を引き起こす。
こうした課題に対し、特許文献1では、イソチオシアン酸アリルを含有する防汚剤を水中に添加することで水槽の汚れや藻付着を抑制する手法が開示されているが、水中への防汚剤添加は水生生物の生育や生長への悪影響が懸念されるため好ましくない。
また、特許文献2では、含フッ素ポリマーから成る水生生物付着防止塗料が開示されているが、付着防止効果が不十分であること、また、塗膜耐性が不十分であり、水生生物を長期間生育する過程において洗浄時などに塗膜が容易に剥離するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-284613号公報
【特許文献2】国際公開WO2016/104602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、塗膜剥離耐性に優れ、かつ長期間の生物及び/又は生物由来物質の付着抑制効果の維持を可能とする、コート剤及び該コート剤を含む層を有する積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記[1]~[6]の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤、及び[7]の積層体、[8]~[9]の積層体を有する水槽に関する。
【0006】
[1]ポリエチレンオキサイド部位を有するアクリル系重合体を含む、生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
[2]前記アクリル系重合体が、側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含むことを特徴とする、[1]に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
[3]前記アクリル系重合体が、主鎖および側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含むことを特徴とする、[1]または[2]に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
[4]前記アクリル系重合体の全質量中におけるポリエチレンオキサイド部位の含有率が、30~65質量%であることを特徴とする、[1]~[3]いずれかに記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
[5]前記アクリル系重合体の、FOXの式で算出されるガラス転移温度が-20~50℃であることを特徴とする、[1]~[4]いずれかに記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
[6]さらに架橋剤を含有し、かつ前記アクリル系重合体が架橋点となり得る官能基を有することを特徴とする、[1]~[5]に記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤。
[7][1]~[6]いずれかに記載の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤からなる層と基材とを含む積層体。
[8][7]記載の積層体を含む水槽。
[9]藻類の付着抑制用である、[8]記載の水槽。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、塗膜剥離耐性に優れ、かつ長期間の生物及び/又は生物由来物質の付着抑制効果の維持を可能とする、コート剤及び該コート剤を含む層を有する積層体を提供することができる。
本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤は、魚類や貝類、藻類等の水生生物の飼育や養殖に使用される水槽内面又は関連設備等、生物及び/又は生物由来物質が付着することが想定される物質表面に、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。また、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0009】
本発明において、「生物」とは、アオノリやワカメをはじめとする海藻や藍藻、珪藻を含む藻類、及び貝類、甲殻類を意味する。「生物由来物質」とは、魚類や貝類、甲殻類、藻類等の飼育および養殖環境下において、水槽内壁表面等に付着するバイオフィルムや珪藻類の原因となる、残餌や排泄物、老廃物及びそれらに起因する細菌や微生物を意味する。
【0010】
<生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤>
本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤は、ポリエチレンオキサイド部位を有するアクリル系重合体を含むことを特徴とする。該アクリル系重合体を含むことにより、塗膜剥離耐性に優れ、かつ長期間の生物及び/又は生物由来物質の付着抑制効果の維持が可能となる。
【0011】
<アクリル系重合体>
本発明におけるアクリル系重合体は、ポリエチレンオキサイド部位を有する。ポリエチレンオキサイド部位は、以下、PEО部位ということもある。
ポリエチレンオキサイドの高い親水性と水中における高い運動性、排除体積効果により、生物及び/又は生物由来物質の付着を効果的に抑制することができる。
【0012】
アクリル系重合体は、アクリル系モノマーを含むモノマー混合物を重合してなる重合体であり、ホモポリマーであってもコポリマーであっても良い。アクリル系重合体がコポリマーである場合、重合法は特に限定されず、交互共重合、ランダム共重合、又はブロック共重合のいずれの方法でも良い。モノマー混合物は、アクリル系モノマー以外のエチレン性不飽和単量体を含んでも良い。
【0013】
[アクリル系モノマー]
アクリル系重合体を構成するアクリル系モノマーについて説明する。なお、本実施形態においてアクリル系モノマーは、アクリルモノマーとメタクリルモノマーの両方を意味する。アクリルとメタクリルを「(メタ)アクリル」とまとめて記す場合もある。
【0014】
アクリル系モノマーは、架橋点となり得る官能基を有しないアクリル系モノマーと架橋点となり得る官能基を有するアクリル系モノマーに大別される。架橋点となり得る官能基とは、後述の架橋剤と反応し得る官能基を指す。本発明に用いるアクリル系重合体は、アクリル系重合体の剥離や溶出を抑えるという観点から、架橋点となり得る官能基を有するモノマーを共重合させることが好ましい。これにより後述する架橋剤と反応し得る官能基を導入することができ、架橋塗膜を形成できる。
【0015】
架橋点となり得る官能基を有しないアクリル系モノマーとして、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
メトキシメチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環含有モノマー;
フェニルアクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート等の芳香環含有モノマー;
などが挙げられる。
【0016】
架橋点となり得る官能基を有するアクリル系モノマーとしては、カルボキシル基含有アクリル系モノマー、水酸基含有アクリル系モノマー、エポキシ基含有アクリル系モノマー、アミノ基含有アクリル系モノマー、及びイソシアネート基含有アクリル系モノマーなどを使用することができる。
例えば、カルボキシル基含有アクリル系モノマーを共重合したアクリル系重合体は、エポキシ化合物やアジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド化合物により架橋することができる。水酸基含有アクリル系モノマーを共重合したアクリル系重合体は、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物等により架橋することができる。アミノ基含有アクリル系モノマーを共重合したアクリル系重合体は、エポキシ化合物により架橋することができる。イソシアネート基含有アクリル系モノマーを共重合したアクリル系重合体は、水酸基含有化合物により架橋することができる。これら、架橋点となる官能基を有するモノマーの使用量は、全モノマーの合計100質量%中、10質量%以下で使用することが好ましい。10質量%以下で使用することで、架橋剤を併用した場合に適度な架橋密度を有する塗膜を得ることができる。
【0017】
カルボキシル基含有アクリル系モノマーとしては、その構造中にカルボキシル基有するものであれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル、あるいはエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが繰り返し付加した末端にカルボキシル基を有する、アルキレンオキサイド付加系コハク酸(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
水酸基含有アクリル系モノマーとしては、その構造中に水酸基を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシブチル、単官能(メタ)アクリル酸グリセロール、ラクトン環の開環付加により末端に水酸基を有するポリラクトン系(メタ)アクリル酸エステル、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの繰り返し付加した末端に水酸基を有するアルキレンオキサイド付加系(メタ)アクリル酸エステル、及びグルコース環系(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0019】
エポキシ基含有アクリル系モノマーとしては、その構造中にエポキシ基を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、及び(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル等が挙げられる。
【0020】
アミノ基含有アクリル系モノマーとしては、その構造中にアミノ基を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピル等が挙げられる。
【0021】
イソシアネート基含有アクリル系モノマーとしては、その構造中にイソシアネート基を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエ
チル、2-(2-イソシアナトエトキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0022】
さらに、本発明に用いるアクリル系重合体は、アクリル系重合体に部分的に架橋構造を導入するために多官能モノマーをさらに共重合させてもよい。
共重合しながら架橋する場合、用いる多官能モノマー量が多いほど架橋度が高くなり、反応中にゲル化する可能性も高まる。そのため、多官能モノマーの量としては、全モノマー100質量%中、0.01~10質量%の範囲が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。アクリル系重合体が多官能モノマーにより架橋している場合、難水溶性になるため、架橋剤を使用した場合と同様に、基材からはがれるという問題を低減することができる。
【0023】
多官能モノマーとしては、その構造中にエチレン性不飽和基を2つ以上有するものであ
れば、特に制限はなく、例えば、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、又はジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の三官能以上の多官能(メタ)アクリレート類;あるいは、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、グリセロールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールF型エポキシの(メタ)アクリル酸付加物、又はノボラック型エポキシの(メタ)アクリル酸付加物等のエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0024】
[アクリル系モノマー以外のエチレン性不飽和単量体]
アクリル系モノマー以外のエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ブタジエン、イソプレン、ビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのビニル基含有モノマー;
N-ビニルピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、1-ビニルイミダゾール、N-イソプロピルアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N ’-メチレンビスアクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリル
アミド、N-エチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N -ビニルピロリドン、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノ
プロピル(メタ) アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンなどのアミド基含
有モノマー;
スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0025】
アクリル系重合体を構成するモノマー混合物中にアクリル系モノマー以外のエチレン性不飽和単量体を含む場合、その含有量はモノマー混合物100質量%中1~35質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。1~35質量%であることによって、アクリル系モノマーから構成される重合体の特性を損なわず、アクリル系モノマー以外のエチレン性不飽和単量体による特性が発揮されるため好ましい。
【0026】
本発明におけるアクリル系重合体が有するポリエチレンオキサイド部位は、アクリル系重合体の主鎖に含まれていても良く、側鎖であっても良い。側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含むことが好ましく、主鎖と側鎖の両方にポリエチレンオキサイド部位を含むことがより好ましい。
ポリエチレンオキサイド部位がアクリル系重合体の主鎖に含まれる場合は、積層体の表面近傍においてポリエチレンオキサイド部位の高い親水性と分子運動性が発現し、生物及び/又は生物由来物質の付着を抑制できる。ポリエチレンオキサイド部位がアクリル系重合体の側鎖に含まれる場合は、ポリエチレンオキサイド部位の片端のみにアクリル系重合体が結合しており、また積層体面に対して垂直方向にポリエチレンオキサイド部位が存在するため、ポリエチレンオキサイド部位の高い分子運動性が十分に発現し、生物及び/又は生物由来物質の付着を抑制できる。
アクリル系重合体が主鎖と側鎖の両方にポリエチレンオキサイド部位を含むことで、積層体表面近傍での付着抑制効果と、ポリエチレンオキサイド部位の高い運動性に基づく付着抑制効果が十分に発揮され、生物及び/又は生物由来物質の付着を効果的に抑制できるため好ましい。
【0027】
本発明において、アクリル系重合体が主鎖にPEО部位を含む場合、該アクリル系重合体は、下記式(I)の構造(結合構造)を介してPEО部位とアクリル系モノマー構造単位が結合されていることが好ましい。
なお共重合体は、下記式(I)の結合構造を含むことが好ましく、これら以外の結合構造を一部に含んでいてもよい。
【0028】
【化1】
【0029】
以下に、PEО部位を主鎖に有するアクリル系重合体の合成法について説明するが、これに限定されない。
【0030】
上記の式(I)で示される結合構造を有する重合体の合成方法の一例を挙げる。
例えば、ラジカル重合開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(例えば、富士フイルム和光純薬株式会社の市販品「V-501」等)を用いてアクリル系重合体を合成すると、末端にカルボキシル基を有するアクリル系重合体が得られる。これに、PEО部分を構成する原料としてポリエチレングリコールを加え、エステル化反応をさせることで、アクリル系モノマー構造単位と、PEО部位とが上記式(I)で結合してなる重合体を得ることができる。
【0031】
あるいは、上記の式(I)で示される結合構造を有する重合体は、アクリル系重合体を合成する際のラジカル重合開始剤として、下記式(II)で示される、ポリエチレンオキサイドブロックとアゾ基を含む構造単位を有する高分子アゾ重合開始剤を用いて好ましく合成することができる。式中、m及びnは、それぞれ独立に1以上の整数である。高分子アゾ重合開始剤は、高分子セグメントとアゾ基(-N=N-)が繰り返し結合した構造を有しており、本実施形態では、高分子セグメントとしてポリエチレンオキサイド部位を含む高分子アゾ開始剤を用いることで、容易に重合体を合成できる。
【0032】
【化2】
(式中、m及びnは、それぞれ1以上の整数を示す。)
【0033】
高分子アゾ重合開始剤の重量平均分子量は、5,000~100,000であることが好ましく、10,000~50,000であることがより好ましい。また、該開始剤のPEО部分の分子量は、800~10,000であることが好ましく、1,000~8,000であることがより好ましい。また好ましくはmが15~200、より好ましくはmが20~100であり、好ましくはnが3~50、より好ましくはnが4~30である。
高分子アゾ重合開始剤の重量平均分子量が前記範囲内であることで、重合体の主鎖に複数のPEO部分を効率的に導入することが可能である。また、PEO部分の分子量が前記範囲内であることで、PEO部分の分子運動性に由来する付着抑制性が効果的に発揮される。
【0034】
前記高分子アゾ重合開始剤は、ポリエチレンオキサイド部位を有しているため、水、アルコール、及び有機溶剤に可溶であり、溶液重合、乳化重合、又は分散重合により重合体
の合成が可能である。また、分子鎖骨格中に重合開始部分(ラジカル発生部分:-N=N-)を有しているため、別途重合開始剤を使用しなくても重合可能であり、さらには末端反応性マクロモノマーに比べてラジカルの反応性、及び安定性が高いという特徴を有している。
【0035】
前記高分子アゾ重合開始剤は、
【化3】
にて示されるようなラジカルを生じ、後述するアクリル系モノマーを重合させる。そして、アクリル系モノマーから形成されるアクリル系重合体部位と前記ラジカル由来の部分とが結合した主鎖を形成し、重合体を形成する。ポリエチレンオキサイド部位は、ラジカルの一部に由来する。
高分子アゾ重合開始剤の具体例としては、富士フイルム和光純薬株式会社製の高分子アゾ開始剤VPE-0201などが例示される。
【0036】
必要に応じて、高分子アゾ重合開始剤の他に、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ開始剤や、過酸化ベンゾイルのような有機過酸化物開始剤を併用することができる。これらの開始剤を併用することにより、開始効率を高め、効率よくアクリル系重合体にPEО部位を組み込むことができ、残留モノマーを減らすことができる。
【0037】
重合の際、用途に応じてラウリルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、α-メチルスチレンダイマー、リモネン等の連鎖移動剤を使用して、分子量や末端構造を制御しても良い。
【0038】
次に、PEO部位を側鎖に有するアクリル系重合体の合成法について説明するが、これに限定されない。
アクリル系重合体の側鎖にポリエチレンオキサイド部位を有する重合体は、ポリエチレンオキサイド部位を有する(メタ)アクリル系モノマーを他のモノマーと共重合することで容易に得ることができる。
【0039】
ポリエチレンオキサイドを有する(メタ)アクリル系モノマーとしては特に限定はされないが、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n-ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0040】
以下に、PEО部位を主鎖と側鎖の両方に有するアクリル系重合体の合成法について説明するが、これに限定されない。
例えば、前述の「PEO部位を主鎖に有するアクリル系重合体の合成法」に基づき、ラジカル重合開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(例えば、富士フイルム和光純薬株式会社の市販品「V-501」等)を用い、また「PEO部位を側鎖に有するアクリル系重合体の合成法」に基づき、ポリエチレンオキサイド部位を有する(メタ)アクリル系モノマーを他のモノマーと共重合すると、末端にカルボキシル基を有し、側鎖
にPEO部位を有するアクリル系重合体が得られる。これに、PEО部分を構成する原料としてポリエチレングリコールを加え、エステル化反応をさせることで、PEО部位を主鎖と側鎖に有するアクリル系重合体を得ることができる。
【0041】
あるいは、前述の「PEO部位を主鎖に有するアクリル系重合体の合成法」に基づき、アクリル系重合体を合成する際のラジカル重合開始剤として、前記式(II)で示される、ポリエチレンオキサイドブロックとアゾ基を含む構造単位を有する高分子アゾ重合開始剤を用い、また「PEO部位を側鎖に有するアクリル系重合体の合成法」に基づき、ポリエチレンオキサイド部位を有する(メタ)アクリル系モノマーを他のモノマーと共重合することで、PEО部位を主鎖と側鎖に有するアクリル系重合体を得ることができる。
【0042】
アクリル系重合体の全質量中におけるポリエチレンオキサイド部位の含有率は、30~65質量%であることが好ましく、より好ましくは35~60質量%である。アクリル系重合体の全質量中におけるポリエチレンオキサイド部位の含有率が30質量%より高いと、ポリエチレンオキサイド部位の高い分子運動性による付着抑制効果が十分に発揮され、65%より低いと、親水性のポリエチレンオキサイド部位による耐水性低下を抑制できるため、十分な塗膜剥離耐性を維持できる。
【0043】
なお、アクリル系重合体の全質量中におけるポリエチレンオキサイド部位の含有率は、合成に使用したモノマー及び開始剤の質量と、モノマー及び開始剤それぞれの質量中におけるポリエチレンオキサイド部位の含有率から算出される。
すなわち、アクリル系重合体の全質量は、合成に使用したモノマーと開始剤の質量の合計量であり、ポリエチレンオキサイド部位の質量は、合成に使用したモノマー及び開始剤の質量に、モノマー及び開始剤それぞれのポリエチレンオキサイド部位の含有率を乗じた値である。
例えば、ポリエチレンオキサイド部位を有さないアクリル系モノマー50部、ポリエチレンオキサイド部位を有するアクリル系モノマー50部、ポリエチレンオキサイド部位を有する開始剤10部、前記ポリエチレンオキサイド部位を有するアクリル系モノマーのポリエチレンオキサイド部位の含有率が80%、前記ポリエチレンオキサイド部位を有する開始剤のポリエチレンオキサイド部位の含有率が90%の場合、アクリル系重合体の全質量中におけるポリエチレンオキサイド部位の含有率は、
(50×0%+50×80%+10×90%)/(50+50+10)=45%
となる。
【0044】
アクリル系重合体の、FOXの式で計算されるガラス転移温度は、-20℃~50℃であることが好ましく、より好ましくは、-10℃~45℃である。アクリル系重合体のFOXの式で計算されるガラス転移温度が-20℃~50℃であると、塗膜が適度な硬さを有し、塗膜と下地基材との密着性が良好となり、十分な塗膜剥離耐性を発揮することができる。
【0045】
本明細書においてFOXの式で計算されるガラス転移温度とは、下記のFOXの式より計算値で得られるものである。
FOX式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・+Wn/Tgn
上記FOX式は、n種の単量体からなる重合体のガラス転移温度をTg(K)、前記重合体を構成する各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度をTgi(K)とし、各モノマーの質量分率をWiとしており、(W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1)である。
前記Tgiは、例えば「Polymer handbook(1999年版、J Brandrup;E H Immergut;Eric A Grulke著)」に記載の
値や、カタログ値を使用できる。
例えば、後述する[製造例1]のアクリル系重合体の場合では、MMAの質量分率=50/100=0.5、Tg=378(K)であり、PME-1000の質量分率=50/100=0.5、Tg=221(K)であるから、1/Tg=0.5/378+0.5/221=0.00358となり、アクリル系重合体のTg=279(K)=6(℃)と計算できる。
【0046】
アクリル系重合体の重量平均分子量Mwは、10,000~500,000であることが好ましく、より好ましくは、25,000~350,000である。アクリル系重合体の重量平均分子量Mwが上記範囲内であることで、重合体の高い凝集力と水への低い溶出性、及び高い基材密着性を実現でき、良好な塗膜剥離耐性を発揮できる。
【0047】
<生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤の調整>
本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤は、コート剤100質量%中、前記アクリル系重合体を0.1~50質量%含むことが好ましく、1~40質量%含むことがより好ましい。前記 アクリル系重合体含有量を0.1~50質量%とすることで、PEO部位による生物及び/又は生物由来物質付着抑制の効果を発揮することができる。
【0048】
本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤は、前記アクリル系重合体以外の成分を含んでも良い。前記アクリル系重合体以外の成分としては、溶媒や添加剤、PEO部位を持たないアクリル系重合体等が挙げられる。
溶媒を添加する場合、その添加量は、コート剤100質量%中40~99.9質量%含むことが好ましい。すなわち、コート剤の固形分率は0.1~60%が好ましい。コート剤の固形分率を0.1~60%とすることで、良好な塗工性及び造膜性が得られる。
また、コート剤中の前記アクリル系重合体以外の成分のうち、溶媒以外の成分の含有率は、0~20%が好ましい。この範囲に調整することで、前記アクリル系重合体の特性を損なうことなく、添加した成分の機能を発揮することができる。
【0049】
<溶媒>
本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤は、前記アクリル系重合体以外の成分として溶媒を含有してもよい。溶媒は、PEО量に依存する前記アクリル系重合体の溶解性や塗工性を考慮し、従来公知の溶媒から適宜選択することができる。
例えば、前記アクリル系重合体中のPEО量が多い場合、水、メタノールやエタノール等のアルコール類、アセトンやエチルメチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ギ酸や酢酸等の有機酸、N,N-ジメチルホルムアミド等の有機塩基を選択することができる。
一方、前記アクリル系重合体中のPEО量が少ない場合、アセトンやエチルメチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルに加え、ジクロロメタンやトリクロロメタン等のハロゲン溶媒を選択することができる。
溶媒は1種類のみを含んでいてもよく、2種以上を併用して含んでもよい。
【0050】
さらに、本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、ラジカル捕捉剤、充填剤、増粘剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導改良剤、可塑剤、だれ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、顔料分散剤、シランカップリング剤、保湿剤、pH調整剤、無機微粒子、有機微粒子、親水性微粒子、等の各種添加剤を含むことができる。
【0051】
<架橋剤>
本発明で用いることのできる架橋剤について説明する。架橋剤としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、およびアジリジニル基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものの他、金属キレート化合物、カルボジイミド基含有化合物、β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は、塗膜の弾性率や耐性を上げる目的で使用したり、接着力を調製したりするために用いることができる。
【0052】
[エポキシ基を有する架橋剤]
本発明で用いられるエポキシ基を有する架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
2官能エポキシ基を有する架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレンオキサイドジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、N,N-ジグリシジルアニリン等の芳香族エポキシ化合物、上記記載の芳香族エポキシ化合物の水素添加物、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。
エポキシ基を3つ以上有する架橋剤としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、トリスフェノール型エポキシ化合物、テトラキスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0053】
[イソシアネート基を有する架橋剤]
本発明で用いられるイソシアネート基を有する架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有した化合物であればよく、特に限定されるものではない。
2官能イソシアネート化合物としては、例えば、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-トリレンジイソシアネート、2,6’-トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。
3官能イソシアネート化合物としては、上記で説明したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
また、イソシアネート基を有する架橋剤中のイソシアネート基は、ブロック化されていても良いし、ブロック化されていなくても良い。
本発明で用いられるブロック化イソシアネート架橋剤としては、前記イソシアネート化合物中のイソシアネート基がε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックされたブロック化イソシアネート化合物であればよく、特に限定されるものではない。
【0054】
[アジリジニル基を有する架橋剤]
本発明で用いられるアジリジン化合物としては、1分子中に2個以上のアジリジン基を有した化合物であればよく、特に限定されるものではない。アジリジン化合物としては、例えば、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
【0055】
[金属キレート化合物]
本発明で用いられる金属キレート化合物としては、例えば、アルミニウムキレート化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、アルミニウムアシレート化合物などの有機アルミニウム化合物、チタンキレート化合物、チタンアルコキシド化合物、チタンアシレート化合物などの有機チタン化合物、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアシレート化合物などの有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0056】
[カルボジイミド基含有化合物]
本発明で用いられる多価カルボジイミド基含有化合物としては、例えば日清紡績株式会社のカルボジライトシリーズを用いることができ、V-02、V-04、V-06などの水性タイプ、V-01、V-03、V-05、V-07、V-09などの油性タイプ等が挙げられる。
カルボジイミドは酸成分と架橋可能であることから、特定の酸価を有するアクリル系重合体と混合した後、基材に塗工することで、生物由来物質付着抑制の機能を維持しながら耐久性のある塗膜を形成することができるため、アクリル系重合体の溶出を抑制したり、基材の剥離密着性を向上させたり、生物由来物質付着抑制時間をより長くすることが可能となる。
さらにカルボジイミドは、他の架橋剤と比較して低毒性であり、水性で可用であり、架橋速度も低温で進行し、保存安定性も良好であるため、架橋剤として特に好ましい。
【0057】
[β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物]
本発明では、β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物も架橋剤として用いることができる。
β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、分子内にβ-ヒドロキシアルキルアミド基を含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、N,N,N’,N’-テトラキス(ヒドロキシエチル)アジパミド(エムスケミー社製Primid XL-552)をはじめとする種々の化合物を挙げることができる。
【0058】
本発明において、架橋剤は、一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用しても良い。架橋剤の使用量は、アクリル系重合体中に含まれる架橋点となり得る官能基の種類やモル数を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、通常はアクリル系重合体中100質量部に対して0.1質量部~30質量部の範囲で用いられる。アクリル系重合体中に含まれる架橋点となり得る官能基のモル数よりも少ない範囲で配合することで、未反応の架橋剤が遊離する懸念をなくすことができる。
【0059】
<積層体>
本発明の積層体は、基材と、本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤からなる層とを有する。
該コート剤からなる層を形成する方法としては、基材に応じて、様々な方法(塗工・印刷・乾燥方法)を選択することができる。一例として、グラビア・オフセット等の各種印
刷方式のほか、インクジェット方式、スプレー方式、ディップコーティング方式等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。塗工後の乾燥は、溶媒を除去できればよく、生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤に含まれる溶媒等から適宜乾燥温度を選択することができる。工業的には、30~180℃で2分間程度であるのが望ましい。
生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤を含む層の厚みは、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択でき、特に付着抑制性と薄膜化による経済性両立の観点から0.1~50μmが好ましい。
【0060】
<基材>
基材としては、水生生物の飼育又は養殖に使用される水槽や関連設備等で従来公知に用いられる基材であれば制限無く使用することができ、例えば、プラスチック、繊維強化プラスチック(FRP)、ガラス、セラミックス、金属等の材質からなる基材が挙げられる。
【0061】
<水槽>
本発明の水槽は、基材と、本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤からなる層とを有する積層体を含む。具体的には、生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤からなる層を有する基材を用いた水槽であり、生物由来物質付着抑制コート剤からなる層が水槽内面となる。
本発明の生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤は、種々の対象物の表面に塗布し、対象物への生物及び/又は生物由来物質の付着を抑制できるが、特に藻類の付着抑制に効果を示し、藻類養殖で使用される水槽や、魚類の養殖又は飼育に使用される水槽など珪藻付着が発生する水槽に好適に用いることができる。
【実施例0062】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ表し、Mwは重量平均分子量、計算TgはFOXの式で計算されるガラス転移温度を意味する。
【0063】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「GPC-101」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「KF-805L」(昭和電工社製:GPCカラム:8mmID×300mmサイズ)を直列に2本接続して用い、試料濃度1質量%、流量1.0ml/min、圧力3.8MPa、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。データ解析はメーカー内蔵ソフトを使用して検量線及び分子量、ピーク面積を算出し、保持時間15~30分の範囲を分析対象として重量平均分子量を求めた。
【0064】
<アクリル系重合体の合成>
[製造例1]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてメチルメタクリレート(以下、MMAと略す)を50質量部、ブレンマーPME-1000(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を50質量部、重合開始剤としてVPE-0201(富士フイルム和光純薬株式会社製:マクロアゾ開始剤)を10質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダ
イヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは58,000であった。なお、得られた重合体は、主鎖及び側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0065】
[製造例2~11、14~19]
製造例1と同様の方法で、表1の組成及び仕込み量に従って反応を行った後に希釈し、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体は、主鎖及び側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。その特性値を表1に示す。
【0066】
[製造例20]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを48質量部、メタクリル酸(以下、MAAと略す)を4部、ブレンマーPME-1000(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を48質量部、重合開始剤としてVPE-0201(富士フイルム和光純薬株式会社製:マクロアゾ開始剤)を10質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは60,000であった。なお、得られた重合体は、主鎖及び側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0067】
[製造例21]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを48質量部、MAAを4部、ブレンマーPME-400(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を19質量部、ブレンマーPME-1000(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を29質量部、重合開始剤としてVPE-0201(富士フイルム和光純薬株式会社製:マクロアゾ開始剤)を10質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは63,000であった。なお、得られた重合体は、主鎖及び側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0068】
[製造例12]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを30質量部、ブチルメタクリレート(以下、BMAと略す)を70質量部、重合開始剤としてVPE-0201(富士フイルム和光純薬株式会社製:マクロアゾ開始剤)を30質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは37,000であった。
得られた重合体は、主鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0069】
[製造例22]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを28質量部、BMAを68質量部、MAAを4重量部、重合開始剤としてVPE-0201(富士フイルム和光純薬株式会社製:マクロアゾ開始剤)を30質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは38,000であった。
得られた重合体は、主鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0070】
[製造例13]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを50質量部、ブレンマーPME-1000(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を50質量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと略す)を1質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは35,000であった。
得られた重合体は、側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0071】
[製造例23]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを48質量部、MAAを4重量部、ブレンマーPME-1000(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を48質量部、重合開始剤としてAIBNを1質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは36,000であった。
得られた重合体は、側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0072】
[製造例24]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを50質量部、ブレンマーPME-400(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を50質量部、重合開始剤としてAIBNを1質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは37,000であった。
得られた重合体は、側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0073】
[製造例25]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを48質量部、ブレンマーPME-400(日油社製:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を48質量部、メタクリル酸を4重量部、重合開始剤としてAIBNを1質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノール及び水を加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは42,000であった。
得られた重合体は、側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含む重合体である。
【0074】
[比較製造例1]
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてMMAを40質量部、ブチルメタクリレートを20質量部、メトキシエチルアクリレートを40部、重合開始剤としてAIBNを1質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後5時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプで酢酸エチルを除去した後、エタノールを加えて希釈することで、固形分10質量%のアクリル系重合体溶液を得た。得られた重合体のMwは41,000であった。なお、得られた重合体は、ポリエチレンオキサイド部位を含まない重合体である。
【0075】
【表1】
【0076】
表1中の略称を以下に示す。
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
MAA:メタクリル酸
BMA:n-ブチルメタクリレート
MEA:メトキシエチルアクリレート
PME-200:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレンオキサイド部位(CHCHO)の繰り返し数=約4(日油株式会社製、ブレンマーPME-200)
PME-400:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレンオキサイド部位(CHCHO)の繰り返し数=約9(日油株式会社製、ブレンマーPME-400)
PME-1000:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレンオキサイド部位(CHCHO)の繰り返し数=約23(日油株式会社製、ブレンマーPME-1000)
VPE-0201:ポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製)
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
【0077】
<生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤の調整>
[実施例1~19、24]、[比較例1]
製造例1~19、24、比較製造例1記載の各アクリル系重合体溶液にエタノールを加え、固形分が5%になるように調整し、生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤を得た。
【0078】
[実施例20~23、25]
製造例20~23、25記載の各アクリル系重合体溶液(固形分10質量%)に、架橋剤としてカルボジライトV-02(固形分40%、日清紡ケミカル社製)を、アクリル系重合体:カルボジライトV-02=85:15(固形分比)となるように加え、さらにエタノールを加え、固形分が5%になるように調整し、生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤を得た。
【0079】
<評価>
得られた生物及び/又は生物由来物質付着抑制コート剤を用いて生物及び/又は生物由来物質付着抑制積層体を作製し、以下の方法で塗膜剥離耐性及び付着抑制性(24時間後、72時間後、120時間後、200時間後)を評価した。結果を表2に示す。
【0080】
[塗膜剥離耐性試験]
得られたコート剤を、縦10cm、横3cm、厚さ2mmのポリカーボネート板(タキロンシーアイ(株)製)上に、乾燥後のコート剤層の厚みが1μmとなるようにディップコーティングし、80℃で2分乾燥した後、積層体を得た。
水を含ませたポリウレタンスポンジ(キクロン(株)製、製品名 キクロンA、ポリウレタン面を使用)で積層体のコート剤を含む層の表面を10往復こすり、層剥離の面積を目視観察し、下記評価基準に基づいて評価した。
◎: 層剥離なし:非常に良好
○: 層の10%未満が剥離:良好
△: 層の10%以上30%未満が剥離:使用可
×: 層の30%以上が剥離:使用不可
【0081】
[付着抑制性試験(24時間後、72時間後、120時間後、200時間後)]
上記塗膜剥離耐性試験と同様の方法で作製した積層体を用いて、生物の細胞内に含まれるアデノシン三リン酸(ATP)の付着量を定量することにより付着抑制性を評価した。
得られた積層体及びコート剤を塗工していないポリカーボネート板(無塗工板)を、4匹の金魚を飼育するガラス製水槽(縦19cm、横30cm、水深20cm)内に積層体又は無塗工板がすべて水に浸漬するように設置し、静置した。24時間又は72時間又は120時間又は200時間後、水槽から積層体及び無塗工板を取り出し、それぞれの層および板の表面2cm×2cm面積をATPふき取り用検査試薬Ultrasnap(Hygiena社製)でふき取り、スタンダードルミノメータ SystemSURE Plus(Hygiena社製)を使用してATP(アデノシン三リン酸)に由来する発光量を測定した。下記式と下記評価基準に基づき、生物由来物質の付着抑制性を評価した。

コート剤を含む層表面の生物及び/又は生物由来物質の付着率(%)=(X/Y)×100
X:コート剤を含む層表面のATP由来発光量
Y:無塗工板表面のATP由来発光量

◎:付着率が40%未満:非常に良好
○:付着率が40%以上60%未満:良好
△:付着率が60%以上80%未満:使用可能
×:付着率が80%以上:使用不可
【0082】
【表2】
【0083】
表2の結果から明らかなように、比較例1で用いたアクリル系重合体はポリエチレンオキサイド部位を含有しないため、生物及び/又は生物由来物質の付着抑制性が確認できなかった。
一方、ポリエチレンオキサイド部位を含有するアクリル系重合体は、生物及び/又は生物由来物質の付着抑制に対して優れた効果を示すことが確認された。特に、アクリル系重合体が主鎖及び側鎖にポリエチレンオキサイド部位を含有する場合は、優れた付着抑制効果を長期間維持することが確認された。