(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003586
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】防水シート
(51)【国際特許分類】
A47G 9/02 20060101AFI20240105BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20240105BHJP
A61F 5/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
A47G9/02 R
B32B27/12
A61F5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102820
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】598056272
【氏名又は名称】ア・プラン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】森前 成俊
【テーマコード(参考)】
3B102
4C098
4F100
【Fターム(参考)】
3B102BA12
4C098AA08
4C098FF01
4F100AK41A
4F100AK41E
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AK51D
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100DG11A
4F100DG11E
4F100GB66
4F100GB71
4F100JB07C
4F100JD05C
4F100JL06A
4F100JL06E
4F100JL10C
4F100JL11B
4F100JL11D
(57)【要約】
【課題】色素の固着や褐変により防水機能が低下する前に廃棄される製品を低減し、製品の長寿命化が可能な防水シートを提供すること。
【解決手段】織編物からなる表地及び防水フィルムが積層されてなる防水シートであって、該表地と該防水フィルムが接着剤により直接又は間接的に接着され、前記防水フィルムが、日本色研配色体系12色相での明度が4.5以下の暗色系フィルムである、シーツ用の防水シート、並びに織編物からなる表地、防水フィルム、及び織編物からなる裏地がこの順で積層されてなる防水シートであって、該表地と該防水フィルム及び該防水フィルムと該裏地が、それぞれ接着剤により直接又は間接的に接着され、前記防水フィルムが、日本色研配色体系12色相での明度が4.5以下の暗色系フィルムである、防水シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物からなる表地及び防水フィルムが積層されてなる防水シートであって、該表地と該防水フィルムが接着剤により直接又は間接的に接着され、前記防水フィルムが、日本色研配色体系12色相での明度が4.5以下の暗色系フィルムである、シーツ用の防水シート。
【請求項2】
織編物からなる表地、防水フィルム、及び織編物からなる裏地がこの順で積層されてなる防水シートであって、該表地と該防水フィルム及び該防水フィルムと該裏地が、それぞれ接着剤により直接又は間接的に接着され、前記防水フィルムが、日本色研配色体系12色相での明度が4.5以下の暗色系フィルムである、防水シート。
【請求項3】
暗色系フィルムの色味が、黒色、暗灰色、濃紺色、焦茶色又は黄土色である、請求項1又は2記載の防水シート。
【請求項4】
表地が、白色又は日本色研配色体系12色相での明度が7.5以上の淡色のポリエステル製織編物である、請求項1又は2記載の防水シート。
【請求項5】
シーツとして用いる、請求項2記載の防水シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用品、介護用品、衛生用品等の種々の用途に使用される防水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野で防水シートが汎用されている。シートへの防水機能の付与手段としては、例えば、基材シートへの防水フィルムの積層がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に、医療分野や介護分野で用いられる寝具用シーツやユニフォーム衣料、サニタリー用品等の衛生用品では、汗や血液等の体液、排泄物、食事等による付着汚れが洗濯しても落ちにくいことから、防水機能の低下ではなく汚れに起因する色素の固着が原因で製品が廃棄されているケースが多々ある。
【0005】
また、工業洗濯に供する防水シーツに関しては、次亜塩素酸ナトリウムで処理を行った際に、製品全体に接着剤の黄変に起因する黄ばみが発生する、「褐変」と呼称される劣化も製品廃棄の原因となっている。
【0006】
本発明の課題は、色素の固着や褐変により防水機能が低下する前に廃棄される製品を低減し、製品の長寿命化が可能な防水シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
防水シートにおける色素の固着及び褐変は、特に、その性質上汚れ等を引き込みやすい接着剤の層で顕著である。接着剤へ付着した色素は取り除くことが困難であり、これを大きく改善することは困難である。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、付着した色素を取り除くのではなく、限りなく目立たなくさせる方法を見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、
〔1〕 織編物からなる表地及び防水フィルムが積層されてなる防水シートであって、該表地と該防水フィルムが接着剤により直接又は間接的に接着され、前記防水フィルムが、日本色研配色体系12色相での明度が4.5以下の暗色系フィルムである、シーツ用の防水シート、
〔2〕 織編物からなる表地、防水フィルム、及び織編物からなる裏地がこの順で積層されてなる防水シートであって、該表地と該防水フィルム及び該防水フィルムと該裏地が、それぞれ接着剤により直接又は間接的に接着され、前記防水フィルムが、日本色研配色体系12色相での明度が4.5以下の暗色系フィルムである、防水シート、
〔3〕 暗色系フィルムの色味が、黒色、暗灰色、濃紺色、焦茶色又は黄土色である、前記〔1〕又は〔2〕記載の防水シート、
〔4〕 表地が、白色又は日本色研配色体系12色相での明度が7.5以上の淡色のポリエステル製織編物である、前記〔1〕~〔3〕いずれか記載の防水シート、並びに
〔5〕 シーツとして用いる、前記〔2〕~〔4〕いずれか記載の防水シート
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防水シートは、色素の固着や褐変により防水機能が低下する前に廃棄される製品を低減し、製品の長寿命化が可能になるという優れた効果を奏するものである。
防水シートの廃棄率の減少は、産業廃棄物や資源ごみの削減、次亜塩素酸ナトリウム等を使用する工業洗濯における劇薬の使用量減少や排水の低減にともなう環境保全への貢献等の多岐にわたって多大なメリットをもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の防水シートは、少なくとも織編物からなる表地と防水フィルムが接着剤により接着され積層した層を含む多層シートであり、防水フィルムが暗色系フィルムである点に大きな特徴を有する。
【0011】
表地と防水フィルムは接着剤を介して積層しているが、接着剤は汚れを引き込みやすく、色素が接着剤に吸着すると洗浄しても完全に除去することが困難であるため、使用とともに接着剤の層に色素が蓄積する。
そこで、本発明では、「色の原理」に着目した。通常、接着剤は透明・半透明のものを用いることが多く、表地から見て接着剤の奥側に存在する防水フィルムの色目の影響を大きく受ける。従来使用されている白色の防水フィルムでは、接着剤の汚れが背景の白色フィルムの影響を受け、より強く浮き出る状態となり、色素沈着によるシミが目立つため、外観や衛生上の観点から、防水シートの機能が低下する前に廃棄されることになる。
しかしながら、本発明では、暗色系の防水フィルムを用いることで、表地側から目視した際に、光がフィルムに吸収されることにより接着剤の色の変化が認識され難くなり、表面的には接着剤に沈着した色素が目立たず、防水機能が発揮される間、製品を長期にわたって使用することができる。
【0012】
従来、接着剤への色素移染を防止する技術は種々検討されているが、ポリウレタン系接着剤等の接着成分への色素移染の防止は、接着成分の性質上、非常に難易度が高く、未だ十分な解決策は見出されていないのが現状である。これに対し、接着剤への色素移染を阻害しようとする従来のアプローチとは全く異なる新たなアプローチにより、防水シートの色素汚染にともなう課題を解決したのが本発明である。
【0013】
例えば、従来のアプローチとしては、表地に染色を施し、汚れを目立ちにくくさせる方法がある。工業洗濯に供される業務用シーツの素材の主流はポリエステルであるが、一般的なポリエステル素材の染色に用いられている分散染料は、湿潤時に強度が低下し、染料が洗濯水へ溶出する可能性がある。溶出した染料は、接着剤や裏地に付着し、汚染を引き起こす可能性がある。また洗濯負荷により、染色された表地も色の変化が発生するが、本発明においては、洗濯水の汚染の可能性も極めて低く、初期からの変化は小さい。
【0014】
さらに、暗色系の防水フィルムは、白色のフィルムに比べて膜割れ等の劣化が確認しやすく、防水機能の低下の早期発見も可能である。
【0015】
本発明において、暗色系のフィルムとは、明度が4.5以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは1.5以下のフィルムをいう。フィルムの色味は、黒色、暗灰色、濃紺色、焦茶色又は黄土色が好ましく、黒色がより好ましい。本明細書において、明度は、日本色研配色体系12色相により測定した明度である。
【0016】
防水フィルムは、防水シートの裏面、中間層のいずれに用いられていてもよい。従って、本発明の防水シートは、表地と防水フィルムが接着剤を介して積層した層を含む防水シートであり、
第一の態様は、織編物からなる表地及び暗色系の防水フィルムが積層された防水シートであって、該表地と該防水フィルムが接着剤により直接又は間接的に接着された、表地と防水フィルムを基本骨格とする2層構造の防水シートであり、
第二の態様は、織編物からなる表地、暗色系の防水フィルム、及び織編物からなる裏地がこの順で積層された防水シートであって、該表地と該防水フィルム及び該防水フィルムと該裏地が、それぞれ接着剤により直接又は間接的に接着された、表地、防水フィルム及び裏地を基本骨格とする3層構造の防水シート
である。
本明細書において、「間接的」に接着される場合とは、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の素材を介して接着される場合を指す。素材としては、コーティング樹脂等が使用できるが、特に限定されない。
【0017】
防水フィルムを表地と裏地で挟んだ3層構造の防水シートの場合、表地と防水フィルムのみの2層構造に比べて、防水フィルムが暴露していないため耐久性に優れる。
【0018】
表地と裏地は、織編物、即ち編物及び織物のいずれであってもよいが、ポリウレタンフィルムのストレッチ性への追随の観点から、編物であることが好ましい。織物を使用する場合はカールと呼ばれる、表地とフィルムの収縮差を要因とする巻上がりが発生する可能性がある。材質は、用途に応じて適宜選択されるが、ポリエステル、ポリエステル綿混用品等が挙げられ、本発明においては、前記のごとく、より顕著に本発明の効果が現れるポリエステル製織編物が好ましい。また、表地と裏地の色味は、医療分野や介護分野において清潔感の観点から濃色は好まれないため、白色又は淡色が好ましい。ここで、「淡色」とは、白色又は日本色研配色体系12色相での明度が7.5以上、好ましくは9.5以上のものをいう。
【0019】
表地は、防汚加工されていることが好ましい。防汚加工としては、吸水剤を用いて吸水拡散性を付与する加工(ソイルリリース加工)、撥水剤・撥油剤を用いた加工(ソイルガード加工)等が挙げられる。
【0020】
表地と裏地の厚みは、用途によるが、好ましくは0.3~1.5mmである。
【0021】
防水フィルムの素材としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等が挙げられるが、これらのなかでは、織編物との接着の相性や加工性、高温洗濯処理への耐性、フィルムへの嫌悪感を感じ難い等の観点から、ポリウレタンが好ましい。
【0022】
防水フィルムの厚みは、用途によるが、好ましくは0.005~0.1mmである。
【0023】
接着剤としては、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、シリコン系接着剤等が挙げられるが、これらの中では、汚れを引き込みやすいポリウレタン系接着剤を用いた場合に、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0024】
接着剤による層の厚みは、接着剤が表地と防水フィルム、裏地と防水フィルムを接着することができる程度に用いられていれば特に限定されない。
【0025】
本発明の防水シートの製造方法は特に限定されず、表地と防水フィルム、裏地と防水フィルムを、接着剤を用いて、ボンディング、ホットメルト等のラミネート技術により張り合わせて防水シートを製造することができる。
【0026】
本発明において、2層構造の防水シートは、医療分野や介護分野等で用いられる寝具等に用いられるシーツとして用いられるものであり、3層構造の防水シートは、前記シーツ以外に、ユニフォーム衣料、サニタリー用品等の衛生用品等としても用いることができる。
【実施例0027】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0028】
実施例1
吸水剤による防汚加工(ソイルリリース加工)を施した厚み0.5mmの白色(明度:9.5)のポリエステル編物に、ポリウレタン系接着剤を介して、厚み0.03mmの黒色(明度:1.5)のポリウレタンフィルムをラミネートし、2層構造の防水シートを得た。
【0029】
実施例2
吸水剤による防汚加工を施していない白色のポリエステル編物を用いた以外は、実施例1と同様にして、2層構造の防水シートを得た。
【0030】
比較例1
黒色のポリウレタンフィルムの代わりに、厚み0.03mmの白色(明度:9.5)のポリウレタンフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、防水シートを得た。
【0031】
比較例2
吸水剤による防汚加工(ソイルリリース加工)を施していない厚み0.5mmの白色(明度:9.5)のポリエステル編物に、ポリウレタン系接着剤を介して、厚み0.03mmの白色(明度:9.5)のポリウレタンフィルムをラミネートした。さらに、裏側(ポリウレタンフィルムの面)に、厚み0.5mmの吸水剤による防汚加工を施していない白色(明度:9.5)のポリエステル編物をポリウレタン系接着剤を塗布して接着し、3層構造の防水シートを得た。
【0032】
試験例1
実施例1及び実施例2、比較例1及び比較例2で得られた防水シートの表地側にデミグラスソースを直径3cmで9箇所(3列×3段)に塗布して、室温で1日放置後、熊本県精神科病院協同組合あかねクリーン(熊本県)にて次亜塩素酸ナトリウムを用いて工業洗濯処理を行った。
【0033】
目視にて観察した結果、以下の通りであった。
実施例1:シミを判別できない。
実施例2:薄くシミが残っているが、実用的には問題のないレベルである。
比較例1:うすく黄色いシミが残っている。
比較例2:明らかに黄色いシミが残っている。
【0034】
試験例2
実施例1及び比較例2で得られた防水シートを、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤に30分間浸漬した後、50℃の湯ですすぎ、低温でアイロンをかけた。
この一連の工程を50回繰り返した後、接着剤の褐変の程度を表地側から目視にて観察した。その結果、比較例2の防水シートは明らかに褐変していたのに対し、実施例1の防水シートは若干黄色く着色しているもの、実用的には問題のない程度であった。
【0035】
実施例3
吸水剤による防汚加工を施した厚み0.5mmの白色(明度:9.5)のポリエステル編物に、ポリウレタン系接着剤を介して、厚み0.03mmの黒色のポリウレタンフィルムをラミネートする。さらに、裏側(ポリウレタンフィルムの面)に、厚み0.5mmの白色(明度:9.5)のポリエステル編物をポリウレタン系接着剤を塗布して接着し、3層構造の防水シートを得る。
【0036】
実施例3の3層構造の防水シートについても、2層構造の防水シートと同様に、試験例1において、シミを判別し難くする効果があること、また、試験例2において、褐変を抑制する効果があることは明らかである。