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特開2024-35867画像処理装置、X線CT撮影システム、および画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035867
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】画像処理装置、X線CT撮影システム、および画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/51 20240101AFI20240308BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61B6/14 310
A61B6/03 360G
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140466
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 悠
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA13
4C093DA05
4C093EC16
4C093FF06
4C093FF18
4C093FF21
4C093FF42
(57)【要約】
【課題】金属アーティファクトを精度よく削除することができる画像処理装置、X線CT撮影システム、および画像処理方法を提供する。
【解決手段】画像処理装置8は、通信インタフェース86と、演算部84と、表示部81と、を備える。演算部84は、X線投影データを再構成して3次元CT画像データに金属アーティファクトAが含まれている場合に、3次元CT画像データから抽出した3次元形状データの各ボクセルと隣接するボクセルとの間において、構造物の連続性に変化があるときに当該変化の方向のベクトルを勾配ベクトルとして算出し、旋回軸の軸方向と平行な方向を軸平行方向として、当該軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の顎顔面領域を撮影領域とするX線CT撮影装置でX線検出器を旋回軸の軸回りに旋回させて取得したX線投影データを再構成する画像処理装置であって、
前記X線CT撮影装置から前記X線投影データの入力を受け付ける入力インタフェースと、
前記入力インタフェースで受け付けた前記X線投影データを再構成する演算処理装置と、
前記演算処理装置で再構成したデータを出力する出力インタフェースと、を備え、
前記演算処理装置は、
前記X線投影データを再構成して3次元CT画像データに金属アーティファクトが含まれている場合に、前記3次元CT画像データから抽出した3次元形状データの各ボクセルと隣接するボクセルとの間において、構造物の連続性に変化があるときに当該変化の方向のベクトルを勾配ベクトルとして算出し、
前記旋回軸の軸方向と平行な方向を軸平行方向として、当該軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を行う、画像処理装置。
【請求項2】
前記演算処理装置は、ボクセルに対して前記減算処理を行った前記3次元形状データの各ボクセルに対して勾配ベクトルをさらに算出し、前記軸平行方向に対する角度差が前記所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して前記減算処理を複数回繰り返して処理を行う、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記減算処理は、前記軸平行方向に対する角度差が前記所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルを前記3次元形状データから削除する処理である、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記演算処理装置は、前記3次元形状データに構造物が含まれるか否かに基づいて、構造物の連続性が変化するか否かを判断する、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記演算処理装置は、
前記軸平行方向の直交向に対して角度差が第1所定の範囲内にある方向を第1方向とし、前記軸平行方向に対して角度差が第2所定の範囲内にある方向を第2方向として、
前記減算処理の対象とするボクセルを、前記第2方向のベクトルとの内積の値が所定値以上の勾配ベクトルを有するボクセルとする、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記演算処理装置は、前記減算処理の対象とするボクセルから除外する条件をあらかじめ設定することができる、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記演算処理装置は、算出した勾配ベクトルのバラツキを求め、求めたバラツキに基づいてボクセルを前記減算処理の対象とする、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記被写体の構造物には、生体の硬組織を構成する生体構成的硬組織的構造物を含み、
前記演算処理装置は、
前記生体構成的硬組織的構造物のボクセルに対して前記減算処理を行った場合に前記減算処理を進めた方向と反対の方向にボクセルに硬組織的構造物の値を補う処理、または、前記生体構成的硬組織的構造物のボクセルに対して前記減算処理の対象から外す処理である生体構成的硬組織的構造物保全処理を行う、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記演算処理装置は、削除された前記生体構成的硬組織的構造物のボクセルを補間する、請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記演算処理装置は、削除されたボクセルをモルフォロジ処理のうちのクロージング処理とダイレーション処理とを組み合わせて補間する、請求項9に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記演算処理装置は、前記金属アーティファクトのボクセルを削除した前記3次元形状データを前記3次元CT画像データに適用して、前記金属アーティファクトを削除した前記3次元CT画像データを求める、請求項1または請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記被写体を挟んでX線発生器と対向するX線イメージセンサでX線投影データを取得するX線CT撮影装置と、
請求項1または請求項2に記載の画像処理装置と、を備える、X線CT撮影システム。
【請求項13】
被写体の顎顔面領域を撮影領域とするX線CT撮影装置でX線検出器を旋回軸の軸回りに旋回させて取得したX線投影データを再構成した3次元CT画像データから金属アーティファクトに対して減算処理を行う画像処理方法であって、
前記3次元CT画像データから抽出した3次元形状データの各ボクセルと隣接するボクセルとの間において、構造物の連続性に変化があるときに当該変化の方向のベクトルを勾配ベクトルとして算出するステップと、
前記旋回軸の軸方向と平行な方向を軸平行方向として、当該軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を行うステップと、を含む、画像処理方法。
【請求項14】
ボクセルに対して前記減算処理を行った前記3次元形状データの各ボクセルに対して勾配ベクトルをさらに算出し、前記軸平行方向に対する角度差が前記所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して前記減算処理を複数回繰り返して処理を行うステップをさらに含む、請求項13に記載の画像処理方法。
【請求項15】
算出した勾配ベクトルのバラツキを求め、求めたバラツキに基づいてボクセルを前記3次元形状データから削除するステップをさらに含む、請求項13または請求項14に記載の画像処理方法。
【請求項16】
前記被写体の構造物には、生体の硬組織を構成する生体構成的硬組織的構造物を含み、
前記生体構成的硬組織的構造物のボクセルに対して前記減算処理を行った場合に前記減算処理を進めた方向と反対の方向にボクセルに硬組織的構造物の値を補う処理、または、前記生体構成的硬組織的構造物のボクセルに対して前記減算処理の対象から外す処理である生体構成的硬組織的構造物保全処理を行うステップをさらに含む、請求項13または請求項14に記載の画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、X線CT撮影システム、および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野(例えば歯科矯正用途)において、歯科医師は、X線CT撮影装置を用いて被検者(被写体)の顎顔面領域を撮影する。X線CT撮影装置は、被検者に対してX線を照射して投影データを収集し、得られた投影データをコンピュータ上で再構成して、3次元CT(Computerized Tomography)画像データ(CT画像断層面画像データ、ボリュームレンダリング画像データ等)を生成する。
【0003】
しかし、撮影される被検者の歯列弓に金属(例えば、金属製の歯冠)が含まれる場合、当該金属の部分のX線反射吸収により、再構成した3次元CT画像データに、当該金属を中心とした放射状の金属アーティファクトが形成される。特開2010-201089号公報(特許文献1)には、3次元CT画像データにおける金属アーティファクトの自動削除処理を行う方法が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の3次元CT画像データにおける金属アーティファクトの自動削除処理を行う方法では、X線CT撮影装置で再構成した3次元CT画像データを表示させ、X線CT画像の撮像平面と垂直な仮想平面を構成し、仮想平面上に現れる所定の閾値内のCT値かつ所定値以下の画素数の領域を金属アーティファクトとして特定し除去を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-201089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の画像処理方法では、撮像平面に対して垂直な仮想平面に含まれる金属アーティファクトのうち所定の閾値より大きい金属アーティファクトを削除することができずに残る。逆に、例えば、撮像平面に対して歯が傾いた状態で撮影された場合、仮想平面上に現れる当該歯の断面が所定の閾値内となり誤って削除される。そのため、特許文献1の画像処理方法では、3次元CT画像データから金属アーティファクトを精度よく削除することができない虞があった。
【0007】
本開示は、上記問題点を解決するためになされたものであり、金属アーティファクトを精度よく削除することができる画像処理装置、X線CT撮影システム、および画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る画像処理装置は、被写体の顎顔面領域を撮影領域とするX線CT撮影装置でX線検出器を旋回軸の軸回りに旋回させて取得したX線投影データを再構成する画像処理装置である。画像処理装置は、X線CT撮影装置からX線投影データの入力を受け付ける入力インタフェースと、入力インタフェースで受け付けたX線投影データを再構成する演算処理装置と、演算処理装置で再構成したデータを出力する出力インタフェースと、を備える。演算処理装置は、X線投影データを再構成して3次元CT画像データに金属アーティファクトが含まれている場合に、3次元CT画像データから抽出した3次元形状データの各ボクセルと隣接するボクセルとの間において、構造物の連続性に変化があるときに当該変化の方向のベクトルを勾配ベクトルとして算出し、旋回軸の軸方向と平行な方向を軸平行方向として、当該軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を行う。
【0009】
本開示に係るX線CT撮影システムは、被写体を挟んでX線発生器と対向するX線イメージセンサでX線投影データを取得するX線CT撮影装置と、上記の画像処理装置と、を備える。
【0010】
本開示に係る画像処理方法は、被写体の顎顔面領域を撮影領域とするX線CT撮影装置でX線検出器を旋回軸の軸回りに旋回させて取得したX線投影データを再構成した3次元CT画像データから金属アーティファクトに対して減算処理を行う画像処理方法である。画像処理方法は、3次元CT画像データから抽出した3次元形状データの各ボクセルと隣接するボクセルとの間において、構造物の連続性に変化があるときに当該変化の方向のベクトルを勾配ベクトルとして算出するステップと、旋回軸の軸方向と平行な方向を軸平行方向として、当該軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を行うステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る画像処理装置では、軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を行うので、3次元形状データから金属アーティファクトを精度よく削除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】X線CT撮影システムの構成を示す概略図である。
図2】X線CT撮影システムの軸方向を説明するための概略図である。
図3】X線CT撮影装置の構成を概念的に示す図である。
図4】X線CT撮影システムの構成を示すブロック図である。
図5】X線CT撮影装置で被写体の下顎を撮影する様子を示す概略図である。
図6】X線CT撮影装置で撮影した被写体の下顎の一部の3次元形状データを表示した図である。
図7】実施の形態1に係る画像処理装置において金属アーティファクトの削除方法を模式的に示した図である。
図8】実施の形態1に係る画像処理装置において金属アーティファクトの削除方法を示すフローチャートである。
図9】実施の形態1に係る画像処理装置において金属アーティファクトのボクセルを削除する方法を説明する概略図である。
図10】実施の形態2に係る画像処理装置において金属アーティファクトの削除方法および補間方法を示すフローチャートである。
図11】ノイズとなる部分を含む3次元形状データを表示した図である。
図12】実施の形態2に係る画像処理装置において金属アーティファクトのボクセルを削除する方法を説明する概略図である。
図13】被写体の構造物の一部が削除された3次元形状データを表示した図である。
図14】実施の形態2に係る画像処理装置において被写体の構造物の一部が削除される様子を模式的に示した図である。
図15】実施の形態2に係る画像処理装置において削除した被写体の構造物のボクセルを補間する方法を説明する概略図である。
図16】ダイレーション処理で拡張する程度を説明する3次元形状データを表示した図である。
図17】ダイレーション処理で拡張する程度を説明する別の3次元形状データを表示した図である。
図18】金属アーティファクトを削除した3次元CT画像データを表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
X線CT撮影装置を用いて被検者(被写体)の顎顔面領域を撮影した場合、撮影される被検者の歯列弓に金属(例えば、金属製の歯冠)が含まれていると、当該金属の部分のX線反射吸収により、再構成した3次元CT画像データに、当該金属を中心とした放射状の金属アーティファクトが形成される。本実施の形態に係るX線CT撮影システムでは、X線CT撮影装置で撮影した被写体のX線投影データを画像処理装置で再構成し、画像処理装置は、得られた3次元形状データから金属アーティファクトに対し、を精度よく削除などの減算処理を行うことができる。まず、以下に、本実施の形態に係るX線CT撮影システムの構成について説明する。
[X線CT撮影システムの構成]
図1は、X線CT撮影システム100の構成を示す概略図である。図3は、X線CT撮影装置1の構成を概念的に示す図である。図4は、X線CT撮影システム100の構成を示すブロック図である。
【0014】
X線CT撮影システム100は、図1に示すように、X線CT撮影を実行して、投影データを収集するX線CT撮影装置1と、X線CT撮影装置1において収集した投影データを処理して、X線CT画像データなどを生成する画像処理装置8とを含む。なお、X線CT撮影装置1は、好ましくは中空の縦長直方体状の防X線室70に収容され、防X線室70の外部に配置された画像処理装置8と接続ケーブル83によって接続されている。
【0015】
X線CT撮影装置1は、被写体M1に向けてX線の束で構成するX線コーンビームBxやX線細隙ビームを出射するX線発生器10と、X線発生器10で出射されたX線を検出するX線検出面を備えたX線検出器20と、X線発生器10とX線検出器20とをそれぞれ支持する旋回アーム30と、鉛直方向に延びる支柱50と、旋回アーム30を吊り下げるとともに、支柱50に対して鉛直方向に昇降移動可能な旋回アーム昇降部40と、制御部60とで構成している。なお、X線発生器10、X線検出器20、およびX線発生器10のX線検出器20側に配置したビーム成形機構13を撮像機構3としている。
【0016】
X線発生器10、およびX線検出器20は、旋回アーム30の両端部にそれぞれ吊り下げ固定されており、互いに対向するように支持されている。旋回アーム30は、鉛直方向に延びる旋回軸31を介して、旋回アーム昇降部40に吊り下げ固定されている。
【0017】
旋回アーム30は、正面視略逆U字状であり、上端部に備えた旋回軸31を旋回中心Scとして旋回する。旋回アーム30は、旋回軸31の軸周りに旋回する旋回部30Rと、旋回部30Rの一端から下方に備えられた、X線発生器10を備えるX線発生部30Gと、旋回部30Rの他端から下方に備えられた、X線検出器20を備えるX線検出部30Dで構成される。なお、旋回アーム30の形状はこれに限定されず、例えば、円環状部分の中心を回転中心として回転する部材に、X線発生器10とX線検出器20とを対向するように支持してもよい。
【0018】
ここで、以下においては、旋回軸31の軸方向と平行な方向(図示の実施形態、鉛直方向)を「Z軸方向」とし、このZ軸に交差する方向を「X軸方向」とし、さらにX軸方向およびZ軸方向に交差する方向を「Y軸方向」とする。軸方向と平行な方向(Z軸方向)を軸平行方向と呼んでもよい。軸方向と平行な方向(Z軸方向)を軸平行方向と呼んでもよい。なお、X軸およびY軸方向は任意に定め得るが、図示の実施形態では、被写体M1である被検者がX線CT撮影装置1において位置決めされた時の被検者の左右の方向、さらに具体的には支柱50に正対した被験者の頭部MHの左右方向をX軸方向とし、被検者の前後の方向、さらに具体的には被検者の頭部MHの前後の方向をY軸方向と定義する。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、本実施の形態では互いに直交するものとする。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向のそれぞれを単にX方向、Y方向、Z方向と表現することもありうる。
【0019】
さらに、図を用いてX線CT撮影システム100の軸方向を説明する。図2は、X線CT撮影システム100の軸方向を説明するための概略図である。図2(a)にX軸、Y軸、Z軸の三次元座標を直交座標系XYZCで示す。当座標では、X線CT撮影する場合に位置付けられる頭部MH中の体軸の軸方向より、頭部MHの頭頂側を上方とし、頭部MHの頸部側を下方とし、Z軸について上方を+Z側とし、下方を-Z側とする。X軸について上記頭部MHの左右の右側を+X側とし、左側を-X側とする。Y軸について上記頭部MHの前後の前側を+Y側とし、後側を-Y側とする。3次元座標の交点を交点ISで示すものとする。
【0020】
本実施形態のような場合、Z軸方向を鉛直方向、X軸方向とY軸方向の2次元で規定される平面上の方向を水平方向と呼ぶこともある。これらの方向の合成方向を構成要素の複数の方向の文字で表現することもありうる。例えば、X方向とY方向から成る二次元の広がりに沿う方向をXY方向と表現できる。X方向もY方向もXY方向の一例である。また、これらのうちの2方向に広がりがある面を構成要素の複数の方向の文字で表現することもありうる。例えば、X方向とY方向から成る二次元の広がりがある面をXY面と表現できる。
【0021】
また、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向のうち、2方向の合成方向をS、T、Uで表現してもよい。X方向とY方向に広がる2次元平面をSS面とする。SS面上のX方向とY方向の合成方向がS方向である。図2(a)にS方向の一例S1方向と他の一例S2方向を示す。交点ISを通るSS面であるSSI面はSS面の基準面である。SS面はSSI面と同一面でなくともSSI面と平行に広がればよく、図示のようなSS面上のS3方向もS方向の一例である。S方向がX方向やY方向と一致することもありうる。
【0022】
図2(c)に示すように、X方向とZ方向に広がる2次元平面をTT面とする。TT面上のX方向とZ方向の合成方向がT方向である。交点ISを通るTT面であるTTI面はTT面の基準面である。考え方はSS面、S方向と同様であるので、詳述は略する。
【0023】
図2(d)に示すように、Y方向とZ方向に広がる2次元平面をUU面とする。UU面上のY方向とZ方向の合成方向がU方向である。交点ISを通るUU面であるUUI面はUU面の基準面である。考え方はSS面、S方向と同様であるので、詳述は略する。
【0024】
Z方向とS方向に広がる2次元平面をZS面としてもよい。ZS面上のZ方向とS方向の合成方向をZS方向としてもよい。ZS面において、S方向は微分でS方向となっていてもよく、図2(b)のZS1面のような面もZS面と考えてよい。同様に、Y方向とT方向に広がる2次元平面をYT面としてもよい。YT面上のY方向とT方向の合成方向をYT方向としてもよい。同様に、X方向とU方向に広がる2次元平面をXU面としてもよい。XU面上のX方向とU方向の合成方向をXU方向としてもよい。
【0025】
これに対して、旋回する旋回アーム30上の三次元座標については、X線発生器10とX線検出器20とが対向する方向を「y軸方向」とし、y軸方向に直交する水平方向を「x軸方向」とし、これらxおよびy軸方向に直交する鉛直方向を「z軸方向」とする。本実施の形態およびそれ以降の実施形態においては、上記のZ軸方向はz軸方向と共通する同一の方向となっている。また本実施の形態の旋回アーム30は、鉛直方向に延びる旋回軸31を回転軸として旋回する。したがって、xyz直交座標系は、XYZ直交座標系に対してZ軸(=z軸)周りに回転することとなる。x軸方向、y軸方向、z軸方向のそれぞれを単にx方向、y方向、z方向と表現することもありうる。これらの方向の合成方向を構成要素の複数の方向の文字で表現することもありうる。例えば、x方向とy方向から成る二次元の広がりに沿う方向をxy方向と表現できる。x方向もy方向もxy方向の一例である。また、これらのうちの2方向に広がりがある面を構成要素の複数の方向の文字で表現することもありうる。例えば、x方向とy方向から成る二次元の広がりがある面をxy面と表現できる。
【0026】
また、図1に示すX線発生器10、X線検出器20を上から平面視したときにX線発生器10からX線検出器20へ向かう方向を(+y)方向とし、この(+y)方向に直交する水平な、仮にX線発生器10とX線検出器20の間に頭部MHを、頭頂側を鉛直方向上側に頭部MHの頸部側を鉛直方向下側にしてX線検出器20の方を見るように位置付けした場合の位置付けされた頭部MHの右手方向を(+x)方向とし、鉛直方向上向きを(+z)方向とする。
【0027】
旋回アーム昇降部40は、上部フレーム41と下部フレーム42とで構成し、鉛直方向に沿って立設された支柱50に係合する係合基端から一方向に、すなわち図示の例では支柱50を正面視したときに、概ね向かって右前側に突出する構成である。
【0028】
上部フレーム41には、旋回アーム30における旋回軸31が取り付けられており、旋回アーム昇降部40が支柱50に沿って鉛直方向に移動することによって、旋回アーム30を上下に移動することができる。
【0029】
下部フレーム42は、支柱50より伸延する被写体保持用アーム422を有し、被写体保持用アーム422には被写体M1(ここでは、人体の頭部MH)を左右から固定するヘッドホルダや、顎を固定するチンレスト等で構成される被写体固定部423が設けられている。なお、人体の頭部の左右の耳孔に挿入する部分を備えるイヤロッドを被写体固定部423に用いてもよい。被写体固定部423は頭部MHを頭部中の体軸の軸方向と旋回軸31の軸方向が概ね平行になるように固定するよう構成されている。
【0030】
上部フレーム41の内部には、図3に示すように旋回軸移動機構34が備えられている。この旋回軸移動機構34は、旋回軸31の一端に接続されている。この旋回軸31の他端には、旋回アーム30に設けられた旋回駆動機構35が接続されている。旋回駆動機構35は、旋回軸31とモータ(不図示)に巻回されたベルト(不図示)を備えており、旋回駆動機構35のモータの駆動により、旋回軸31を中心にして旋回アーム30が旋回する。旋回軸31は、図示しない軸受けを介して、旋回アーム30に接続されており、旋回アーム30が旋回する際には、旋回軸31は回転せずに旋回アーム30のみが回転する。
【0031】
旋回軸移動機構34は、例えばボルトやモータ、ガイド機構などで構成される。旋回軸移動機構34を駆動することによって、旋回軸31が水平面内で移動し、旋回アーム30を所定範囲内の任意の位置へ移動させることができる。
【0032】
図示しないが、旋回駆動機構35を旋回軸移動機構34に設けて、旋回駆動機構35が旋回軸31を旋回駆動し、旋回軸31に固定された旋回アーム30が旋回するように構成してもよい。この場合、旋回軸移動機構34が旋回駆動機構35を旋回軸31と一緒に水平面内で2次元に移動する構成にすることができる。
【0033】
このような構成を備えるX線CT撮影装置1は、X線コーンビームBxを被写体M1の撮影領域CAに照射しながら、旋回軸31まわりに旋回アーム30を旋回させて、撮影領域(撮影対象領域)CAに対するX線投影データを収集する。旋回軸31の軸心をZ方向視で撮影領域CAの中心の位置に固定して旋回駆動機構35によって旋回アーム30を旋回させてX線CT撮影を行ってもよいが、例えば、旋回軸移動機構34によって旋回軸31が円軌道上を移動するのと同期して旋回駆動機構35によって旋回アーム30を旋回させてX線CT撮影を行ってもよい。また、X線CT撮影中に旋回軸移動機構34によって特定の旋回角度で拡大率を下げるためにX線検出器20を撮影領域CAに近づけると同時にX線発生器10を撮影領域CAから遠ざけたり、特定の旋回角度で拡大率を上げるためにX線検出器20を撮影領域CAから遠ざけると同時にX線発生器10を撮影領域CAに近づけたりする変則の制御でX線CT撮影を行うようにしてもよい。いずれにしても、X線発生器10とX線検出器20を撮影領域CAに旋回の中心域をおいて旋回軸31の軸回りに旋回させてX線CT撮影を行う。そして収集されたX線投影データは、画像処理装置8へ送信される。なお、旋回軸移動機構34および旋回駆動機構35は、旋回アーム駆動部30Kを構成している。
【0034】
X線CT撮影装置1では、旋回アーム駆動部30Kが図4に示すように制御部60に接続されており、予め決められたプログラムに従って駆動することによって、旋回アーム30を旋回させながら、XY方向に移動する。これにより、旋回軸31を前後左右のXY方向に2次元的に移動制御することができる。
【0035】
制御部60は、X線CT撮影装置1の各構成の動作を制御することができ、図1に示すように、X線検出部30Dの内部に配置されている。詳しくは、制御部60には、図4に示すように、X線発生器10、X線検出器20、旋回アーム駆動部30K、表示部61、操作部62、通信インタフェース63、記憶部64、および報知部90が接続され、各構成と通信して各構成を制御している。
【0036】
なお、本実施の形態において、表示部61をタッチパネル等で構成することで、操作部62の機能の一部を備えている。すなわち、表示部61は操作部62としても機能する。さらに、操作部62には、スイッチ部65が接続されている。スイッチ部65は、例えば、CT撮影前に、押下することで、旋回アーム30を撮影開始位置に移動させることができる。
【0037】
通信インタフェース63は、接続ケーブル83と接続され、画像処理装置8と通信するためのインタフェースである。記憶部64は、制御部60によって各構成を制御するための制御プログラム、X線投影データ等を記憶する。報知部90は、所定のブザー音を発するなどの報知動作を実行することができる。
【0038】
画像処理装置8は、画像処理本体部80と、例えば液晶モニタ等のディスプレイ装置からなる表示部81、およびキーボードやマウス等で構成される操作部82、演算部84、演算部84で実行するプログラム等を記憶する記憶部85、および通信インタフェース86で構成している。
【0039】
表示部81、操作部82、記憶部85、および通信インタフェース86は、演算部84に接続され、記憶部85に記憶された制御プログラムを演算部84で実行することにより制御されている。また、演算部84は、記憶部85に記憶された画像処理プログラムを実行することで、X線投影データに対して逆投影などの演算処理を行って、撮影領域CAの3次元領域を表現する3次元CT画像データ(ボリュームデータ)を生成する。つまり、演算部84は、X線投影データを再構成する演算処理装置である。さらに、演算部84は、3次元CT画像データから撮影領域CAの3次元形状を抽出した3次元形状データを生成することができ、さらに後述するように3次元形状データから金属アーティファクトを削除する演算処理を行うことができる。ここで、3次元CT画像データは、各ボクセルにおいてX線吸収の強弱の値(CT値)が格納されているデータである。一方、3次元形状データは、各ボクセルにおいて被写体M1の構造物があるボクセルに”1”を、構造物がないボクセルに”0”を格納したデータである。つまり、3次元形状データは、3次元CT画像データから被写体M1の内部情報を削除して被写体M1の形状情報のみを抽出したデータである。このように、構造物の有無に従って”1”か”0”かを割り振ってもよいが、構造物には、後述する生体的硬組織的構造物(以下、単に硬組織的構造物ともいう)、生体的軟組織的構造物(以下、単に軟組織的構造物ともいう)などを含むので、例えば、硬組織的構造物に”1”、生体的軟組織的構造物に”0.5”など、実数値や連続値を格納するようにして、閾値によって処理対象とするか否かの選別をするようにしてもよい。
【0040】
演算部84で生成された3次元CT画像データ、3次元形状データは、記憶部85にそれぞれ記憶される。画像処理装置8において、操作者(術者)は、操作部82を介して画像処理装置8に対して各種指令を入力することができる。なお、表示部81は、タッチパネルで構成することも可能であり、この場合は、表示部81が操作部82の機能の一部または全部を備え、操作部82としても機能することとなる。また、表示部81に各種のボタン等の画像の表示をして、マウス等でポインタを操作してONできるようにしてもよく、この場合も表示部81が操作部82としても機能する。表示部81は、演算部84で生成された3次元CT画像データ、3次元形状データが表示される。表示部81は、演算部84で再構成したデータを出力する出力インタフェースでもある。
【0041】
画像処理装置8は、例えばコンピュータやワークステーション等で構成され、通信ケーブルである接続ケーブル83で通信インタフェース86と通信インタフェース63とを接続し、X線CT撮影装置1との間で各種データを送受信している。通信インタフェース86は、X線CT撮影装置1からX線投影データの入力を受け付ける入力インタフェースである。ただし、画像処理装置8とX線CT撮影装置1との通信を有線でなく無線で行ってもよい。
[金属アーティファクトの画像処理方法]
図5は、X線CT撮影装置1で被写体M1の下顎を撮影する様子を示す概略図である。被写体M1の下顎の歯列弓には、図5に示すように、金属製の歯冠Rが含まれている。X線CT撮影装置1は、X線発生器10から被写体M1の下顎に対してX線コーンビームBxを照射しながら、旋回軸31まわりに旋回アーム30を旋回させて、X線検出器20でX線を検出することでX線投影データを収集する。図5では、図示を簡易化するため、X線コーンビームBxはX線照射軸Xaxのみを示すこととする。X線照射軸Xaxの幾何学的な軌跡は旋回することでX線照射旋回面XSFを形成する。X線照射軸Xaxは、例えば、X線コーンビームのxz面の断面の重心を通るものと定めるようにしてよい。収集したX線投影データを画像処理装置8で再構成して得られた3次元CT画像データ(または3次元CT画像データから抽出した3次元形状データ)には、歯冠Rの光子情報欠乏やビームハードニングにより、当該歯冠Rを中心とした放射状の金属アーティファクトが形成される。
【0042】
図6は、X線CT撮影装置1で撮影した被写体M1の下顎の一部の3次元形状データ3FDを表示した図である。図6に表示している3次元形状データは、図5に示す領域Sに含まれる被写体M1の下顎の一部である。図6では、被写体M1の歯牙S1の3次元形状、および顎骨S2の3次元形状以外に、歯冠Rを中心に放射状に延びた金属アーティファクトAが表示されている。
【0043】
歯科分野では、被写体M1の顎顔面領域を撮影領域とするX線CT撮影が行われる。このX線CT撮影において、被写体M1の構造物と金属アーティファクトAとに一定の規則性を見出すことができる。具体的には、金属領域から金属アーティファクトAが伸延する方向が、概ねX線照射旋回面XSFに沿った方向であり、歯牙S1や顎骨S2などの被写体M1の構造物の主たる表面が概ねZS面沿いの広がりを有するという関係があり、これにより、歯牙S1や顎骨S2などの被写体M1の構造物の表面の法線方向と、金属アーティファクトAの表面の法線方向とが所定の角度以上異なる規則性を有する。例えば、図6に示すように、X線発生器10から照射されたX線がS方向に進んでX線検出器20で受光されるX線撮影装置でX線CT撮影した場合、金属アーティファクトAが形成するX線照射旋回面XSFに沿った面がSS面に沿った面となり、被写体M1の構造物の表面の法線方向が主にXY方向(S方向)となるのに対して、金属アーティファクトAの表面の法線方向が主にZ方向となる。歯牙S1や顎骨S2などの被写体M1の構造物の主たる表面が概ねZS面沿いの広がりを有するのは、前述のとおり、頭部MHの位置付けが、頭部中の体軸の軸方向と旋回軸31の軸方向が概ね平行になるようになされていることによる。そのため、この法線方向の規則性を利用することで被写体M1の3次元形状データから金属アーティファクトAを削除することができる。金属アーティファクトAにS方向の広がりがあるか否かは、例えば、対象ボクセルとS方向に隣接するボクセルとが共に同閾値内のレベルの値にあれば、S方向への広がりありと判断するようにしてよい。
【0044】
本実施形態では、X線発生器10とX線検出器20の取付位置が同じ高さにあるX線撮影装置のほか、例えば、X線発生器10が低い取付位置で、X線検出器20が高い取付位置となるような打上照射の関係にある場合でも対応できる。金属アーティファクトAの広がりは、打上照射のX線照射旋回面XSFに沿ったものとなるのであるが、前述の場合でも概ねS方向の広がりとなるので、金属アーティファクトAの表面の法線方向が主にZ方向になるものとして処理してよい。無論、厳密にX線照射旋回面XSFの法線方向を演算するようにしてもよい。または、単純にS方向から所定角度以内の範囲にある方向を金属アーティファクトAの広がり方向として処理してもよい。
【0045】
図7は、実施の形態1に係る画像処理装置8において金属アーティファクトAの削除方法を模式的に示した図である。図8は、実施の形態1に係る画像処理装置8において金属アーティファクトAの削除方法を示すフローチャートである。まず、図7(a)に、金属アーティファクトAが形成されている被写体M1の構造物の断面図が図示されている。なお、被写体M1の構造物には、歯牙S1および顎骨S2が含まれている。図7(a)に示す断面図は、被写体M1の3次元形状データの断面図である。
【0046】
画像処理装置8は、3次元形状データを得るために以下のような処理を行っている。まず、画像処理装置8の演算部84は、図8に示すステップS101で、X線CT撮影装置1からX線投影データを取得したか否かを判断する。X線投影データを取得していない場合(ステップS101でNO)、演算部84は、処理をステップS101に戻し、X線CT撮影装置1からX線投影データが送信されるのを待つ。
【0047】
X線投影データを取得した場合(ステップS101でYES)、演算部84は、取得したX線投影データに対して逆投影などの演算処理を行って、3次元CT画像データを再構成する(ステップS102)。さらに、演算部84は、再構成した3次元CT画像データから被写体M1の形状情報のみの3次元形状データを抽出する(ステップS103)。図7(a)に示す断面図は、ステップS103で抽出した被写体M1の3次元形状データの断面図である。
【0048】
この3次元形状データに含まれている金属アーティファクトAを削除するため、被写体M1の構造物の表面の法線方向と、金属アーティファクトAの表面の法線方向とが所定の角度以上異なる規則性を利用する。そこで、演算部84は、3次元形状データの各ボクセルの勾配ベクトルを算出する(ステップS104)。ここで、勾配ベクトルは、各ボクセルと隣接するボクセルとの間において、構造物の連続性に変化があるときに当該変化の方向のベクトルである。演算部84は、例えば、隣接するボクセルに構造物が含まれるか否かに基づき勾配ベクトルを算出してもよいし、硬組織と軟組織との境界について、硬組織の写るボクセルに隣接する軟組織の写るボクセルへの変化を見る場合(双方に構造物はある)に勾配ベクトルを算出するようにしてもよい。
【0049】
本実施形態の構造物を分類してもよい。例えば、歯牙や顎骨などの生体的硬組織は生体的硬組織的構造物とし、歯肉などの生体的軟組織は生体的軟組織的構造物とし、補綴金属などの診療処置として生体的硬組織的構造物に付加された硬組織を補うまたは補強する人工的な構造物は人工的硬組織的構造物とし、金属アーティファクトAのような画像データ上偽像として存在する構造物は偽像的構造物とする。生体的硬組織的構造物も人工的硬組織的構造物も生体の硬組織を構成する生体構成的硬組織的構造物と考えてよい。偽像的構造物のうち、硬組織的構造物と同等またはそれ以上の値を有するものを偽像的硬組織的構造物としてよい。偽像的硬組織的構造物は、実空間には存在しない、純演算派生の硬組織的構造物と考えてよい。純演算派生であっても、硬組織的構造物であるゆえに勾配ベクトルが算出できる。
【0050】
本実施形態で処理対象となる構造物を限定してもよい。本実施形態の処理対象となる構造物を硬組織的構造物および硬組織的構造物と同等以上の値を持つ構造物を構造物とし、軟組織的構造物および軟組織的構造物と同等以下の値を持つ構造物を対象外とするようにしてもよい。
【0051】
図9は、実施の形態1に係る画像処理装置8において金属アーティファクトAのボクセルを削除する方法を説明する概略図である。まず、各要素の位置は、座標表現で列と行の各何番目かでB(列,行)のように示すこととする。例えば、図9(d)に示すように、8列×10行のボクセル、ボクセルB(1,1)~ボクセルB(8,10)が図示されており、3列目で2行目のボクセルをB(3,2)と表す。なお、ボクセルB(6,2)とボクセルB(3,2)とは同行のボクセルであり、ボクセルB(3,5)とボクセルB(3,2)とは同列のボクセルである。
【0052】
図9(a)では、画像処理装置8で処理する構造物の一例が図示されている。具体的に、構造物は、
ボクセルB(1,1)~ボクセルB(6,5)[1列目から6列目までの5行分]と、
ボクセルB(1,6)~ボクセルB(3,6)[1列目から3列目までの1行分]と、
ボクセルB(7,1)~ボクセルB(7,4)[7列目の3行分]
とに存在している。なお、図9では、説明を簡単にするため、ボクセルBの座標を2次元で説明しているが、本来、ボクセルBの座標は3次元である。
【0053】
各ボクセルにおいて格納されている値は、例えば、被写体M1の構造物(歯牙S1、顎骨S2)があれば”1”の値を、当該構造物がなければ”0”値である。もちろん、各ボクセルにおいて格納されている値は、”1”また”0”の値のみでなく連続値であってもよい。また、各ボクセルに”1”また”0”の値を格納した後に、ガウシアンフィルタなどを用いることで、各ボクセルにおいて格納されている値を連続値とすることが考えられる。各ボクセルに値が格納されているので、勾配ベクトルは、各ボクセル間の関数の微分値として計算することができる。なお、微分値は、数値計算しやすいように正規化することが望ましい。例えば、構造物の有無により対処を分ける処理を採用する例として、ボクセルB(1,1)は、隣接するボクセルのすべてに構造物が存在しているので勾配が生じることがなく勾配ベクトルK(1,1)=”0”となる。
【0054】
一方、ボクセルB(7,1)は、隣接するボクセル(8,1)に構造物が存在しないので、ボクセルB(7,1)からボクセルB(8,1)への方向に勾配が生じて図9(a)に示す勾配ベクトルK(7,1)となる。また、ボクセルB(7,4)は、隣接するボクセル(8,4)、ボクセル(8,5)、ボクセル(7,5)に構造物が存在しないので、これらの方向にそれぞれ勾配が生じ、これらの勾配の合成ベクトルが図9(a)に示す勾配ベクトルK(7,4)となる。
【0055】
ここで、XY方向(S方向)と角度差が第1所定の範囲内にある方向を第1方向とする。軸平行方向に直交する方向(S方向)と角度差が第1所定の範囲内にある方向を第1方向と考えてもよい。また、Z方向と角度差が第2所定の範囲内にある方向を第2方向とする。第1所定の範囲内および第2所定の範囲内の角度差は適宜考えうる。例えば、第1方向をXY方向(S方向)と45度以内の角度差がある方向とし、第2方向をZ方向と45度未満の角度差がある方向とする処理、第1方向をXY方向(S方向)と45度未満の角度差がある方向とし、第2方向をZ方向と45度以内の角度差がある方向とする処理、第1方向をXY方向(S方向)と45度未満の角度差がある方向とし、第2方向をZ方向と45度未満の角度差がある方向とする処理、それぞれを30度以内の角度差とする処理、それぞれを20度以内の角度差とする処理、それぞれを10度以内の角度とする処理、それぞれを角度差0度とする処理など、さまざまに考えうる。
【0056】
各ボクセルの勾配ベクトルは、構造物の表面の法線方向に対応している。そのため、被写体M1の構造物の各ボクセルの勾配ベクトルは、第1方向(XY方向、S方向を主とする)であるのに対して、金属アーティファクトAの各ボクセルの勾配ベクトルは第2方向(Z方向を主とする)となる。なお、金属アーティファクトAの各ボクセルの勾配ベクトルは、厳密にはX線照射軸Xaxの軌跡の形成するX線照射旋回面XSFの法線方向の勾配ベクトルであり、第2方向は少なくともX線照射旋回面XSFの法線方向を含む。そのため、減算処理として削除を行う構成例として、勾配ベクトルが主に第2方向(Z方向を主とする)となるボクセルを削除することで3次元形状データから金属アーティファクトAを削除することができる。
【0057】
図8に戻って、演算部84は、ステップS104で算出したボクセルの勾配ベクトルの方向の軸平行方向(Z方向)に対する角度差が所定の範囲内にあるか否かを判断する(ステップS105)。ボクセルの勾配ベクトルの方向の軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある場合(ステップS105でYES)、演算部84は、ボクセルの勾配ベクトルの方向が、第2方向であると判断して当該ボクセルに対して減算処理を行う。減算処理としては、例えば、当該ボクセルを3次元形状データから削除する(ステップS106)。減算処理として問題にならない程度に値を低いものとするようにしてもよい。構造物にレベル差があるときに、レベル差に応じた減算処理をするようにしてもよい。例えば、標準的な生体硬組織の値が”1”であるとして、金属の値が”1.2”であるとする。このようなレベル差がある場合に、”1”の値に対して”-1”の減算、”1.2”の値に対して”-1.2”の減算を行うようにしてもよい。レベルごとに乗算の減弱係数を変えるようにしてもよい。なお、各ボクセルに格納される値が連続値の場合、”1”の値が構造物在り、”0”の値が構造物無しとすると、ボクセルに格納された特定の値に対して例えば”-1”の値を加算することが減算処理となる。もちろん、減算処理において、加算する値は”-0.8”の値などでもよい。
【0058】
具体的に、図9(b)を用いて説明する。今、ボクセルB(7,1)の勾配ベクトルK(7,1)、ボクセルB(3,6)の勾配ベクトルK(3,6)に注目する。勾配ベクトルK(7,1)は図中左右方向(XY方向)を向いているので第1方向の勾配ベクトルである。これに対して、勾配ベクトルK(3,6)は図中上下方向(Z方向)を向いているので第2方向の勾配ベクトルである。前述のように、第2方向は、軸平行方向(Z方向)に対する角度差が所定の範囲内にある方向である。例えば、所定の範囲を45度とすると、ボクセルB(7,4)の勾配ベクトルK(7,4)は、軸平行方向に対して45度の方向であるため、第2方向の勾配ベクトルである。なお、所定の範囲は、操作者によりあらかじめ設定可能であり、複数回処理を繰り返した後に処理結果に基づいて設定してもよい。
【0059】
図9(b)では、第2方向の勾配ベクトルを持つボクセルは、
ボクセル(1,6)~ボクセル(3,6)、
ボクセル(3,5)~ボクセル(6,5)、
ボクセル(6,4)~ボクセル(7,4)である。
一方、第1方向の勾配ベクトルを持つボクセルは、
ボクセル(7,1)~ボクセル(7,3)である。
そのため、図9(c)に示すように、3次元形状データから
ボクセル(1,6)~ボクセル(3,6)、
ボクセル(3,5)~ボクセル(6,5)、
ボクセル(6,4)~ボクセル(7,4)が削除される。
【0060】
演算部84は、ボクセルの勾配ベクトルの方向が、平行方向(Z方向)に対する角度差が所定の範囲内にある場合に削除するボクセルであると判断すると説明したが、当該判断は一例であって、これに限定されない。例えば、あるボクセルB(m,n)に着目したとき、この着目ボクセルB(m,n)から第2方向に延びるベクトルを第2方向ベクトルVHとする。一定のベクトル量を第2方向ベクトルVHに定め、これを演算対象ベクトルVCとする。演算部84は、3次元形状データから削除するボクセルを、第2方向ベクトルVH(具体的な例としては演算対象ベクトルVC)との内積の値が所定値以上となる勾配ベクトルのボクセルを削除するボクセルであると判断してもよい。なお、各ボクセルに格納される値が連続値の場合、演算部84は、内積の値に応じて加算する値(負の値)を変えてもよい。演算部84は、例えば内積の値が”1”なら加算する値を”-1”、内積の値が”cos(π/4)”なら加算する値を”0”というように線形に変えてもよい。
【0061】
図8に戻って、演算部84は、ステップS106後、処理をステップS104に戻す。つまり、1回のボクセルの削除では、図9(c)に示したように3次元形状データの表面のボクセルを削除しただけであるため、金属アーティファクトAは、図7(b)のようにZ方向に薄くなるだけである。そのため、演算部84は、ボクセルを削除した3次元形状データの各ボクセルに対して勾配ベクトルをさらに算出し、第2方向の勾配ベクトルを有するボクセルを3次元形状データから削除する処理を複数回数繰り返す。
【0062】
処理を複数回数繰り返し、第2方向の勾配ベクトルを有するボクセルを3次元形状データから削除して、各ボクセルの勾配ベクトルの方向が、第1方向から所定の角度未満となった場合(ステップS105でYE)、演算部84は、処理を終了する。これにより、3次元形状データは、図7(c)に示すように金属アーティファクトAを削除することができる。なお、処理を繰り返す回数は、操作者が設定してもよく、金属アーティファクトAの削除の程度を見ながら回数を設定してもよい。
【0063】
以上のように、実施の形態1に係る画像処理装置8は、被写体M1の顎顔面領域を撮影領域CAとするX線CT撮影装置1でX線検出器20を旋回軸の軸回りに旋回させて取得したX線投影データを再構成する画像処理装置である。画像処理装置8は、X線CT撮影装置1からX線投影データの入力を受け付ける通信インタフェース86と、通信インタフェース86で受け付けたX線投影データを再構成する演算部84と、演算部84で再構成したデータを出力する表示部81と、を備える。演算部84は、X線投影データを再構成して3次元CT画像データに金属アーティファクトAが含まれている場合に、3次元CT画像データから抽出した3次元形状データの各ボクセルと隣接するボクセルとの間において、構造物の連続性に変化があるときに当該変化の方向のベクトルを勾配ベクトルとして算出し、旋回軸の軸方向と平行な方向を軸平行方向として、当該軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を行う。演算部84は、ボクセルに対して減算処理を行った3次元形状データの各ボクセルに対して勾配ベクトルをさらに算出し、軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルに対して減算処理を複数回繰り返して処理を行うことが好ましい。また、減算処理は、例えば、軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有するボクセルを3次元形状データから削除する処理である。
【0064】
これにより、実施の形態1に係る画像処理装置8では、軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある第2方向の勾配ベクトルを有するボクセルを3次元形状データから削除するので、3次元形状データから金属アーティファクトAを精度よく削除することができる。
(実施の形態2)
金属アーティファクトAは、実施の形態1で説明したように、表面の法線方向がZ方向となる部分だけでなく、ランダムな法線方向を有する部分がノイズとして含まれる場合がある。実施の形態2では、さらに精度よく金属アーティファクトAを削除するために、ノイズとなる部分を削除する方法について説明する。さらに、実施の形態2では、金属アーティファクトAを削除した際に、被写体M1の構造物の一部をあわせて削除してしまった部分を補間する方法についても説明する。
【0065】
図10は、実施の形態2に係る画像処理装置において金属アーティファクトAの削除方法および補間方法を示すフローチャートである。なお、図10に示すフローチャートのうち、ステップS101~ステップS106までは、図8で示したフローチャートと同じであるため、同じステップに同じステップ番号を付して詳細な説明を繰り返さない。図10に示すフローチャートでは、勾配ベクトルが第2方向となるボクセルを削除した後、演算部84は、算出した勾配ベクトルのバラツキを求め、求めたバラツキに基づいてボクセルを3次元形状データから削除する(ステップS107)。
【0066】
図11は、ノイズとなる部分を含む3次元形状データを表示した図である。図11(a)は、勾配ベクトルが第2方向となるボクセルを削除する前の3次元形状データであり、図11(b)は、勾配ベクトルが第2方向となるボクセルを削除した後の3次元形状データである。図11(b)に示すように、勾配ベクトルが第2方向となるボクセルを削除しただけでは、ランダムな方向の勾配ベクトルを有する金属アーティファクトAの部分が削除できずに残っている。そこで、演算部84は、ステップS107で、勾配ベクトルのバラツキに基づいてボクセルを3次元形状データから削除することで、残った金属アーティファクトAの部分を削除する。
【0067】
図12は、実施の形態2に係る画像処理装置8において金属アーティファクトAのボクセルを削除する方法を説明する概略図である。図12(a)では、画像処理装置8で処理する構造物の一例が図示されている。具体的に、構造物は、
ボクセルB(2,2)~ボクセルB(2,3)[2列目の2行分]と、
ボクセルB(4,2)~ボクセルB(6,3)[4列目から6列目までの2行分]と、
ボクセルB(2,6)~ボクセルB(7,8)+ボクセルB(5,9)~ボクセルB(7,9)[2列目から7列目までの3行分]+[5列目から7列目までの1行分]
とに存在している。つまり、図12(a)では、3つのクラスタが存在している。なお、図12では、説明を簡単にするため、ボクセルBの座標を2次元で説明しているが、本来、ボクセルBの座標は3次元である。
【0068】
まず、クラスタ毎に勾配ベクトルの局所平均を求める。演算部84は、例えば、勾配ベクトルの局所平均として、勾配ベクトルに対してガウシアンフィルタを用いる。具体的に、ボクセルB(2,2)~ボクセルB(2,3)のクラスタ(クラスタCL1)は、方向が逆の2つの勾配ベクトルK(2,2)、K(2,3)を有している。そのため、当該クラスタに対して局所平均を求めると、互いの勾配ベクトルK(2,2)、K(2,3)が打ち消しあい、図12(b)に示すように局所平均後の勾配ベクトルKa(2,2)、Ka(2,3)の値(ベクトルの長さ)が小さくなっている。同様に、ボクセルB(4,2)~ボクセルB(6,3)のクラスタ(クラスタCL2)の局所平均前の勾配ベクトルK(4,2)~K(6,3)に対し局所平均後の勾配ベクトルKa(4,2)~Ka(6,3)の値(ベクトルの長さ)が勾配ベクトルの打ち消しあいによって小さくなる。
【0069】
一方、ボクセルB(2,6)~ボクセルB(7,9)のクラスタ(クラスタCL3)は、様々な方向の勾配ベクトルK(2,6)~K(7,9)を有している。そのため、当該クラスタに対して局所平均を求めると、互いの勾配ベクトルK(2,6)~K(7,9)で打ち消しあうことができず、図12(b)に示すように局所平均後の勾配ベクトルKa(2,6)~Ka(7,9)の値(ベクトルの長さ)が大きくなる。
【0070】
次に、演算部84は、局所平均後の勾配ベクトルKaと元の勾配ベクトルKとの差分を計算する。具体的に、ボクセルB(2,2)~ボクセルB(2,3)のクラスタ(クラスタCL1)は、局所平均後の勾配ベクトルKa(2,2)、Ka(2,3)の値(ベクトルの長さ)が小さいので、元の勾配ベクトルK(2,2)、K(2,3)との差分が大きくなる。図12(c)には、差分の勾配ベクトルKb(2,2)、Kb(2,3)が図示されている。同様に、ボクセルB(4,2)~ボクセルB(6,3)のクラスタ(クラスタCL2)は、局所平均後の勾配ベクトルKa(4,2)~Ka(6,3)の値(ベクトルの長さ)が小さいので、元の勾配ベクトルK(4,2)~K(6,3)との差分が大きくなる。図12(c)には、差分の勾配ベクトルKb(4,2)~Kb(6,3)が図示されている。
【0071】
一方、ボクセルB(2,6)~ボクセルB(7,9)のクラスタ(クラスタCL3)は、局所平均後の勾配ベクトルKa(2,6)~Ka(7,9)の値(ベクトルの長さ)が大きいので、元の勾配ベクトルK(2,6)~K(7,9)との差分が小さくなる。図12(c)には、差分の勾配ベクトルKb(2,6)~Kb(7,9)が図示されている。なお、差分の勾配ベクトルKb(2,6)~Kb(7,9)は、差分の勾配ベクトルKb(2,2)、Kb(2,3)や差分の勾配ベクトルKb(4,2)~Kb(6,3)に比べて値(ベクトルの長さ)が小さくなる。
【0072】
次に、クラスタ毎、差分の勾配ベクトルKbに対して値(ベクトルの長さ)の局所平均を求める。演算部84は、例えば、勾配ベクトルKbの値の局所平均として、勾配ベクトルKbの値に対してガウシアンフィルタを用いる。具体的に、ボクセルB(2,2)~ボクセルB(2,3)のクラスタ(クラスタCL1)は、差分の勾配ベクトルKb(2,2)、Kb(2,3)の値が大きいので、勾配ベクトルKbの値の局所平均も大きくなる。同様に、ボクセルB(4,2)~ボクセルB(6,3)のクラスタ(クラスタCL2)は、差分の勾配ベクトルKb(4,2)~Kb(6,3)の値が大きいので、勾配ベクトルKbの値の局所平均も大きくなる。
【0073】
一方、ボクセルB(2,6)~ボクセルB(7,9)のクラスタ(クラスタCL3)は、差分の勾配ベクトルKb(2,6)~Kb(7,9)の値が小さいので、勾配ベクトルKbの値の局所平均も小さくなる。そして、勾配ベクトルKbの値の局所平均に対して所定の閾値を設定し、例えば、ボクセルB(2,6)~ボクセルB(7,9)のクラスタ(クラスタCL3)は、勾配ベクトルKbの値の局所平均が所定の閾値より小さいので削除対象とならない。しかし、ボクセルB(2,2)~ボクセルB(2,3)のクラスタ(クラスタCL1)およびボクセルB(4,2)~ボクセルB(6,3)のクラスタ(クラスタCL2)は、勾配ベクトルKbの値の局所平均が所定の閾値以上となるので削除対象となる。
【0074】
図12(d)では、削除対象であるクラスタCL1のボクセルB(2,2)~ボクセルB(2,3)およびクラスタCL2のボクセルB(4,2)~ボクセルB(6,3)に対して、他のボクセルと異なるハッチングが付されている。このハッチングが所定の閾値以上となるボクセルであることを示している。図12(e)は、削除対象であるクラスタCL1のボクセルB(2,2)~ボクセルB(2,3)およびクラスタCL2のボクセルB(4,2)~ボクセルB(6,3)が削除された後の図である。このように、演算部84は、勾配ベクトルのバラツキに基づいてボクセルを3次元形状データから削除することで、図11(b)に示したランダムな方向の勾配ベクトルを有する金属アーティファクトAの部分を削除することができる。なお、図12で示した勾配ベクトルのバラツキに基づいてボクセルを3次元形状データから削除する方法は一例であり、演算部84は、他の方法(例えば、勾配ベクトルの分散を用いる方法など)で勾配ベクトルのバラツキに基づいてボクセルを3次元形状データから削除してもよい。
【0075】
クラスタのサイズ(体積)が所定のサイズ以下になったら一律に減算処理するようにしてもよい。例えば、2列×2行以下のクラスタになった場合に一律に削除すると設定する例で考える。図12(f)のようなクラスタCLAがあるとして、ボクセルB(a,a)~ボクセルB(b,d)からなるとする。前述の勾配ベクトルの勾配が第2方向となるボクセルを減算処理(削除)した結果、図12(g)のようなボクセルB(a,b)~ボクセルB(b,c)からなるクラスタCLBとなれば、クラスタCLBは2列×2行以下のクラスタであるので、減算処理例えば削除の対象となる。所定のサイズ(体積)のことを減算処理対象サイズと呼んでもよい。なお、減算処理の対象とするクラスタのサイズ(体積)を所定のサイズ以下に制限する場合、図10に示すように、ステップS107の前段において破線で示す構造物のクラスタが所定のサイズか否かを判断するステップ(ステップS107(a))を追加してもよい。
【0076】
図10に戻って、演算部84は、ステップS107で勾配ベクトルのバラツキに基づいてボクセルを3次元形状データから削除した後、ステップS106において削除してしまった被写体M1の構造物の部分を補間する(ステップS108)。図13は、被写体M1の構造物の一部が削除された3次元形状データを表示した図である。図13(a)には、金属アーティファクトAが削除される前の3次元形状データが図示されている。演算部84は、当該3次元形状データに対して、ステップS106で金属アーティファクトAを削除するが、図13(b)のように被写体M1の構造物の一部Sa2もあわせて削除されてしまう。
【0077】
図14は、実施の形態2に係る画像処理装置8において被写体M1の構造物の一部が削除される様子を模式的に示した図である。図14(a)に、金属アーティファクトAが形成されている被写体M1の構造物の断面図が図示されている。なお、被写体M1の構造物には、歯牙S1および顎骨S2が含まれている。図14(a)に示す断面図は、被写体M1の3次元形状データの断面図である。
【0078】
演算部84は、ステップS106で第2方向の勾配ベクトルを有するボクセルを削除することで、金属アーティファクトAを図14(b)のようにZ方向に薄くすることができる。しかし、被写体M1の構造物の図中上下の端部にも第2方向の勾配ベクトルを有するボクセルがあるため、ステップS106での処理であわせて削除されてしまう。そのため、図14(b)に示すように、被写体M1の歯牙S1の一部Sa1および顎骨S2の一部Sa2のボクセルも削除される。図14(c)では、被写体M1の3次元形状データから金属アーティファクトAが削除されているが、歯牙S1の一部Sa1および顎骨S2の一部Sa2のボクセルがさらに削除されている。
【0079】
演算部84は、ステップS108で削除された歯牙S1の一部Sa1および顎骨S2の一部Sa2のボクセルを補間する。図15は、実施の形態2に係る画像処理装置8において削除した被写体M1の構造物のボクセルを補間する方法を説明する概略図である。まず、図15(a)では、ボクセルB(1,1)~ボクセルB(8,10)が図示されており、そのうちハッチングを付したボクセルBに構造物が存在している。なお、図15では、説明を簡単にするため、ボクセルBの座標を2次元で説明しているが、本来、ボクセルBの座標は3次元である。
【0080】
演算部84は、図15(a)に示すような、金属アーティファクトAが形成されている被写体M1の構造物に対して、第2方向の勾配ベクトルを有するボクセルを削除することで、ボクセルB(1,4)以外にボクセルB(6,1)などが削除される。その結果、被写体M1の構造物は、図15(b)に示すように被写体M1の構造物の側面部分にあるボクセルB(3,3)(残る部分の一部例)を残し、ボクセルB(5,6)(削除部分の一部例)までボクセルが削除される。
【0081】
演算部84は、モルフォロジ処理を利用して削除された被写体M1の構造物を補間する。具体的に、演算部84は、モルフォロジ処理のうちのクロージング処理を用いて図15(c)のように削除されたボクセルを埋める。図15(c)では、クロージング処理でボクセルB(5,3)やボクセルB(5,6)などが埋められた3次元形状データが図示されている。さらに、演算部84は、モルフォロジ処理うちのダイレーション処理を用いて図15(d)のようにボクセルが埋められた3次元形状データの周りを拡張する。図15(d)では、ダイレーション処理でボクセルが埋められた3次元形状データの周りのボクセルB(2,2)やボクセルB(8,10)などまで拡張した3次元形状データが図示されている。
【0082】
演算部84は、ブーリアン演算を用いて、ダイレーション処理で拡張した3次元形状データと、元の3次元形状データ(図15(a))との和集合(AND)を求める。和集合の結果が図15(e)に示されている。図15(e)では、ボクセルB(2,4)やボクセルB(6,1)などまで補間した3次元形状データが図示されている。
【0083】
図15(d)では、ダイレーション処理として3次元形状データの周りを1ボクセル分拡張する例を説明したが、拡張する程度は任意に設定することができる。しかし、拡張する程度を大きくすると削除した金属アーティファクトAの部分まで補間することなり、逆に拡張する程度を小さくすると削除した被写体M1の構造物を十分に補間することができなくなるトレードオフの関係が生じる。そこで、ダイレーション処理で拡張する程度を被写体M1の構造物の領域ごとに変更することでトレードオフの関係を低減することができる。
【0084】
具体的に、図16は、ダイレーション処理で拡張する程度を説明する3次元形状データを表示した図である。図17は、ダイレーション処理で拡張する程度を説明する別の3次元形状データを表示した図である。図16(a)は、金属アーティファクトAを削除する前の被写体M1の構造物の3次元形状データを表示している。図16(b)は、金属アーティファクトAを削除した後の被写体M1の構造物に対して、ダイレーション処理での拡張する程度を小さくして補間を行った場合の3次元形状データを表示している。図16(b)では、削除された被写体M1の構造物の一部Sa2が補間できずに残っている。
【0085】
一方、図17(a)は、金属アーティファクトAを削除した後の被写体M1の構造物に対して、ダイレーション処理での拡張する程度を大きくして補間を行った場合の3次元形状データを表示している。図17(a)では、削除された被写体M1の構造物の一部Sa2は補間できているが、金属アーティファクトAまで補間されている。
【0086】
金属アーティファクトAは、金属製の歯冠などにより生じることから主に歯牙S1の領域に形成されることが多い。そこで、歯牙S1の領域に対するダイレーション処理での拡張する程度を小さくしつつ、顎骨S2の領域に対するダイレーション処理での拡張する程度を大きくすることでトレードオフの関係を低減する。図17(b)は、金属アーティファクトAを削除した後の被写体M1の構造物に対して、歯牙S1の領域に対するダイレーション処理での拡張する程度を小さくしつつ、顎骨S2の領域に対するダイレーション処理での拡張する程度を大きくして補間を行った場合の3次元形状データを表示している。図17(b)では、削除された被写体M1の構造物の一部Sa2を補間できるとともに、金属アーティファクトAまで補間されることを防いでいる。
【0087】
このように、演算部84は、被写体M1の構造物の一部が削除された3次元形状データを補間することができる。しかし、補間する方法は、モルフォロジ処理のうちのクロージング処理とダイレーション処理とを組み合わせる方法に限定されず、例えば、被写体M1の構造物の一部が削除された3次元形状データの部分を元の3次元形状データで置換するなどの方法でもよい。
【0088】
また、演算部84は、ステップS106においてボクセルを削除する際に、3次元形状データから削除するボクセルから除外する条件をあらかじめ設定しておいてもよい。つまり、演算部84は、図14(a)に示す歯牙S1および顎骨S2の端部をステップS106においてボクセルを削除する対象から除外する。これにより、ステップS106での処理で歯牙S1および顎骨S2のボクセルが削除されることを防止して、ボクセルを補間する処理を不要にできる。
【0089】
以上は3次元形状データのボクセルに関し、旋回軸31の軸方向と平行な方向を軸平行方向として、当該軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある勾配ベクトルを有する硬組織的構造物のボクセルに対して減算処理を行った場合に、減算処理の対象となったボクセルに対して硬組織的構造物の値を補う処理の例である。この処理が結果的に生体構成的硬組織的構造物のボクセルに対して減算処理を行った場合に、減算処理の対象となったボクセルに対して硬組織的構造物の値を補う処理となる。この処理は減算処理の方向から考えた場合に、減算処理を進めた方向と反対の方向にボクセルに硬組織的構造物の値を補う処理となる。
【0090】
また、ボクセルB(4,3)、ボクセルB(5,2)、ボクセルB(6,1)等はバラツキが小のボクセルB(3,3)~ボクセル(7,9)のZS面表面であるボクセルB(3,3)~ボクセルB(3,9)やボクセルB(7,2)~ボクセルB(7,9)と連なる表面であり、このような表面のボクセルについては上述のようにいったん減算処理をしたとしても補間処理を行うようにしてもよく、または、はじめから減算対象から外す処理を行うようにしてもよい。ZS面表面は、軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある方向に連続性がある表面の例である。対象表面が軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある方向に連続性がある表面であると定める判断は、例えば、軸平行方向に対する角度差が所定の範囲内にある方向に連続性があることにより行ってよく、さらに、軸平行方向に垂直な方向にも硬組織的構造物の連続性もあることにより行ってよい。連続性の判断に要するボクセルの数に閾値を設けて一定域以上のボクセル数があれば足りるように計算してよい。この処理が、結果的に生体構成的硬組織的構造物のボクセルに対して減算処理の対象から外す処理となる。
【0091】
このように、構造物に含まれる生体構成的硬組織的構造物のボクセルに対して減算処理を行った場合に減算処理を進めた方向と反対の方向にボクセルに硬組織的構造物の値を補う処理、または、構造物に含まれる硬組織的構造物のボクセルに対して減算処理の対象から外す処理を硬組織的構造物保全処理と呼んでよく、特に、生体構成的硬組織的構造物に対する硬組織的構造物保全処理を生体構成的硬組織的構造物保全処理と呼んでよい。
【0092】
なお、図10に示すフローチャートでは、ステップS107およびステップS108の処理をともに行う構成が図示されているが、実施の形態2に係る画像処理装置8では、ステップS107およびステップS108の処理のうちいずれか一方の処理を行う構成でもよい。
【0093】
前述の実施の形態では、3次元形状データから金属アーティファクトAを削除する方法について説明した。しかし、演算部84は、金属アーティファクトAのボクセルを削除した3次元形状データを3次元CT画像データに適用して、金属アーティファクトAを削除した3次元CT画像データを求めることができる。図18は、金属アーティファクトAを削除した3次元CT画像データを表示した図である。図18(a)には、金属アーティファクトAを削除する前の被写体M1の歯列弓の一部をZ方向から見た3次元CT画像データが表示されている。歯牙S1に金属製の歯冠などがあるため金属アーティファクトAが生じている。
【0094】
当該3次元CT画像データから抽出した3次元形状データに対して、前述の実施の形態で説明した方法で金属アーティファクトAを削除する。金属アーティファクトAを削除した3次元形状データを元の3次元CT画像データに適用することで、同じ位置にある金属アーティファクトAを元の3次元CT画像データから削除することができる。図18(b)には、金属アーティファクトAを削除する後の被写体M1の歯列弓の一部をZ方向から見た3次元CT画像データが表示されている。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
1 撮影装置、3 撮像機構、8 画像処理装置、10 X線発生器、13 ビーム成形機構、20 X線検出器、30 旋回アーム、30D X線検出部、30G X線発生部、30K 旋回アーム駆動部、30R 旋回部、31 旋回軸、34 旋回軸移動機構、35 旋回駆動機構、40 旋回アーム昇降部、41 上部フレーム、42 下部フレーム、50 支柱、60 制御部、61,81 表示部、62,82 操作部、63,86 通信インタフェース、64,85 記憶部、65 スイッチ部、70 X線室、80 画像処理本体部、84 演算部、90 報知部、100 撮影システム、422 被写体保持用アーム、423 被写体固定部。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
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