(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035884
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ガスセンサ用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240308BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20240308BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20240308BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
G01N27/41 325K
G01N27/419 327K
G01N27/416 371G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140492
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】下田 昭
(72)【発明者】
【氏名】古田 斉
(72)【発明者】
【氏名】吉川 慧
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BE10
2G004BE13
2G004BE22
2G004BE23
(57)【要約】
【課題】電極にPt及びAuを含ませて電極の反応性を向上させるとともに、生産性の低下を抑制したガスセンサ用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】Pt粒子と、Auとを含むガスセンサ用電極の製造方法であって、レーザー回折法により測定した平均粒径がD1(μm)である第1のPt粒子の表面にAuを担持させた後、熱処理して合金化させて合金粒子を調製する合金化工程と、合金粒子と、レーザー回折法により測定した平均粒径D2(μm)がD1(μm)より小さい第2のPt粒子とを混合する混合工程と、混合工程で得られた混合粒子を含む電極ペーストを調製する電極ペースト調製工程と、電極ペーストをセンサ素子の所定の位置に塗布して電極を形成する電極形成工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt粒子と、Auとを含むガスセンサ用電極の製造方法であって、
レーザー回折法により測定した平均粒径がD1(μm)である第1のPt粒子の表面にAuを担持させた後、熱処理して合金化させて合金粒子を調製する合金化工程と、
前記合金粒子と、レーザー回折法により測定した平均粒径D2(μm)がD1(μm)より小さい第2のPt粒子とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粒子を含む電極ペーストを調製する電極ペースト調製工程と、
前記電極ペーストをセンサ素子の所定の位置に塗布して電極を形成する電極形成工程と、
を有することを特徴とするガスセンサ用電極の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、前記第1のPt粒子と前記第2のPt粒子の合計量に対し、前記第2のPt粒子を5~60質量%の割合で混合することを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するガスセンサに好適に用いられるガスセンサ用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の排気ガス等の被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を測定できるガスセンサとして、ジルコニア等の酸素イオン伝導性の固体電解質層の表面に一対の電極を形成してなるセルを1つないし複数備えた構成が知られている(特許文献1参照)。ここで、各電極はPt等の貴金属粒子を含むペーストをスクリーン印刷した後、焼成して形成されている。
又、NOxやアンモニアを検出するガスセンサにおいては、電極にPt及びAuを含ませる必要があるが、Pt粒子の表面にAu粒子を析出、合金化させて白金金粉末を製造する技術が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-96888号公報
【特許文献2】特許第6795841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電極に含まれるPt粒子の粒径が小さいほど、測定対象のガス成分に対する電極の反応性が向上するが、微細なPt粒子は取り扱いが困難であり、その表面にAu粒子を析出させるのは生産性の点で難しい。また、微細なPt粒子にAu粒子を析出させた後に合金化させると、複数のPt粒子が焼結結合し、粗大化する恐れがある。そして、Pt粒子が粗大化すると、電極の反応性の向上効果が得られなくなる。
【0005】
そこで、本発明は、電極にPt及びAuを含ませて電極の反応性を向上させるとともに、生産性の低下を抑制したガスセンサ用電極の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサ用電極の製造方法は、Pt粒子と、Auとを含むガスセンサ用電極の製造方法であって、レーザー回折法により測定した平均粒径がD1(μm)である第1のPt粒子の表面にAuを担持させた後、熱処理して合金化させて合金粒子を調製する合金化工程と、前記合金粒子と、レーザー回折法により測定した平均粒径D2(μm)がD1(μm)より小さい第2のPt粒子とを混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合粒子を含む電極ペーストを調製する電極ペースト調製工程と、前記電極ペーストをセンサ素子の所定の位置に塗布して電極を形成する電極形成工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
このガスセンサ用電極の製造方法によれば、電極にAuを含ませるとともに、2種類の粒径D1及びD2のPt粒子をそれぞれ安定して含むことができるので、電極の反応性を向上させるとともに、生産性の低下を抑制することができる。
【0008】
本発明のガスセンサ用電極の製造方法は、前記混合工程において、前記第1のPt粒子と前記第2のPt粒子の合計量に対し、前記第2のPt粒子を5~60質量%の割合で混合してもよい。
このガスセンサ用電極の製造方法によれば、微細な第2のPt粒子による電極の反応性の向上効果を発揮しつつ、微細な第2のPt粒子の取り扱いが困難なことに起因した生産性の低下をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、電極にPt及びAuを含ませて電極の反応性を向上させるとともに、生産性の低下を抑制したガスセンサ用電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明が適用される一例としてのガスセンサ(NOxセンサ)の長手方向に沿う断面図である。
【
図2】
図1のガスセンサにおけるセンサ素子の軸線に沿う断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る製造方法により製造したIp2-電極の組成(Au/Pt率)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明が適用される一例としてのガスセンサ(NOxセンサ)1の縦断面図(軸線AXに沿った長手方向に切断した断面図)、
図2は
図1のガスセンサにおけるセンサ素子10の軸線AXに沿う断面図である。
【0012】
ガスセンサ1は、測定対象ガスである排ガス中の特定ガス(NOx)の濃度を検出可能なセンサ素子10を備え、内燃機関の排気管(図示なし)に装着されて使用されるNOxセンサである。このガスセンサ1は、排気管に固定するためのネジ部21が外表面の所定位置に形成された筒状の主体金具20を備える。センサ素子10は、軸線AX方向に延びる細長板状をなし、主体金具20の内側に保持されている。
さらに詳しくは、ガスセンサ1は、センサ素子10の後端部10k(
図1において上端の部位)が挿入される挿入孔62を有する保持部材60と、この保持部材60の内側に保持された6個の端子部材とを備える。なお、
図1では、6個の端子部材のうち2個の端子部材(具体的には、端子部材75,76)のみを図示している。
【0013】
センサ素子10の後端部10kには、平面視矩形状の電極端子部13~18(
図1では、電極端子部14、17のみ図示)が合計6個形成されている。電極端子部13~18には、それぞれ、前述の端子部材が弾性的に当接して電気的に接続している。例えば、電極端子部14には、端子部材75の素子当接部75bが弾性的に当接して電気的に接続している。また、電極端子部17には、端子部材76の素子当接部76bが弾性的に当接して電気的に接続している。
さらに、6個の端子部材(端子部材75,76など)には、それぞれ、異なるリード線71が電気的に接続されている。例えば、
図1に示すように、端子部材75のリード線把持部77によって、リード線71の芯線が加締められて把持される。また、端子部材76のリード線把持部78によって、他のリード線71の芯線が加締められて把持される。
【0014】
また、センサ素子10の後端部10kの主面の一方には、電極端子部13~15よりも先端側で、後述するセラミックスリーブ45よりも後端側に大気導入口10hが開口しており(
図2参照)、大気導入口10hは保持部材60の挿入孔62内に配置されている。
これにより、後述する外筒51の内部に閉じ込められた基準大気が大気導入口10hからセンサ素子10の内部に導入される。
【0015】
主体金具20は、軸線AX方向に貫通する貫通孔23を有する筒状部材である。この主体金具20は、径方向内側に突出する形態で貫通孔23の一部を構成する棚部25を有している。主体金具20は、センサ素子10の先端部10sを自身の先端側外部(
図1において下方)に突出させると共に、センサ素子10の後端部10kを自身の後端側外部(
図1において上方)に突出させた状態で、センサ素子10を貫通孔23内に保持している。
また、主体金具20の貫通孔23の内部には、環状のセラミックホルダ42、滑石粉末を環状に充填してなる2つの滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が配置されている。詳細には、センサ素子10の径方向周囲を取り囲む状態で、セラミックホルダ42、滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が、この順に、主体金具20の軸線方向先端側(
図1において下端側)から軸線方向後端側(
図1において上端側)にわたって重ねて配置されている。
【0016】
また、セラミックホルダ42と主体金具20の棚部25との間には、金属カップ41が配置されている。また、セラミックスリーブ45と主体金具20のカシメ部22との間には、加締リング46が配置されている。なお、主体金具20のカシメ部22が、加締リング46を介してセラミックスリーブ45を先端側に押し付けるように、加締められている。
主体金具20の先端部20bには、センサ素子10の先端部10sを覆うように、複数の孔を有する金属製(具体的にはステンレス)の外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32が、溶接によって取り付けられている。一方、主体金具20の後端部には、外筒51が溶接によって取り付けられている。外筒51は、軸線AX方向に延びる筒状をなし、センサ素子10を包囲している。
【0017】
保持部材60は、絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、軸線AX方向に貫通する挿入孔62を有する筒状部材である。挿入孔62内には、前述した6個の端子部材(端子部材75,76など)が配置されている(
図1参照)。保持部材60の後端部には、径方向外側に突出する鍔部65が形成されている。保持部材60は、鍔部65が内部支持部材53に当接する態様で、内部支持部材53に保持されている。なお、内部支持部材53は、外筒51のうち径方向内側に向けて加締められた加締部51gにより、外筒51に保持されている。
保持部材60の後端面61上には、絶縁部材90が配置されている。絶縁部材90は、電気絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、円筒状をなす。この絶縁部材90には、軸線AX方向に貫通する貫通孔91が合計6個形成されている。この貫通孔91には、前述した端子部材のリード線把持部(リード線把持部77,78など)が配置されている。
【0018】
また、外筒51のうち軸線方向後端部(
図1において上端部)に位置する後端開口部51cの径方向内側には、フッ素ゴムからなる弾性シール部材73が配置されている。この弾性シール部材73には、軸線AX方向に延びる円筒状の挿通孔73cが、合計6個形成されている。各々の挿通孔73cは、弾性シール部材73の挿通孔面73b(円筒状の内壁面)によって構成されている。各々の挿通孔73cには、リード線71が1本ずつ挿通されている。各々のリード線71は、弾性シール部材73の挿通孔73cを通じて、ガスセンサ1の外部に延出している。弾性シール部材73は、外筒51の後端開口部51cを径方向内側に加締めることで径方向に弾性圧縮変形し、これにより、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとを密着させて、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとの間を水密に封止している。
【0019】
一方、
図2に示すように、センサ素子10は、固体電解質体111e、121e、131eと、これらの間に配置された絶縁体140、145とを備え、これらが積層方向に積層された構造を有する。さらに、センサ素子10には、固体電解質体131eの裏面側に、ヒータ161が積層されている。このヒータ161は、アルミナを主体とする板状の絶縁体162、163と、その間に埋設されたヒータパターン164(Ptを主体としている)とを備えている。
なお、固体電解質体111e、121e、131eはそれぞれ略矩形をなし、絶縁層111s、121s、131sの先端側には矩形の開口が設けられている。そして、この開口にそれぞれ固体電解質体111e、121e、131eが埋め込まれている。
【0020】
固体電解質体111e、121e、131eは、固体電解質であるジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。固体電解質体111eの表面側には、多孔質のIp1+電極112が設けられている。また、固体電解質体111eの裏面側には、多孔質のIp1-電極113が設けられている。さらに、Ip1+電極112の表面は、多孔質層114Bで覆われている。
又、Ip1+電極112にはIp1+リード(図示せず)が接続されている。又、Ip1-電極113にはIp1-リード117(図示せず)が接続されている。
【0021】
また、Ip1+電極112及びIp1+リードの表面には、空隙10Gを有し、アルミナ等からなるガス非透過性の第1緻密層118が積層され、空隙10Gから多孔質層114が露出すると共に、Ip1+リードが第1緻密層118の外周側で覆われている。
空隙10Gは、多孔質層114近傍から大気導入口10hに連通する部位までまっすぐに延びている。そして、空隙10Gの後端側の第1緻密層118には、電極端子部13~15と導通するためのスルーホール(図示せず)が設けられている。
【0022】
さらに、第1緻密層118の表面には、アルミナ等からなるガス非透過性の第2緻密層115が積層され、空隙10Gを閉塞している。これにより、多孔質層114で覆われたIp1+電極112が、緻密層115,118で囲まれた空隙10G内に配置されて被測定ガスとの接触を防止するようになっている。
そして、第2緻密層115のうち、空隙10Gの後端と重なる位置が矩形状に開口して大気導入口10hを形成し、空隙10Gは大気導入口10hに連通している。大気導入口10hは、後述する第1多孔質体151よりも後端側に開口しており、排ガスでなく、大気を導入することができる。これにより、Ip1+電極112は、多孔質層114を介して大気導入口10hから導入される大気に曝されるようになっている。
【0023】
さらに、固体電解質体111eを含む複合層(固体電解質体111eと絶縁層111s)と、第1緻密層118との間に、第3緻密層118Bが介装され、第3緻密層118Bの先端側には矩形の開口118Bhが設けられている。
そして、この開口118Bhに多孔質層114Bが充填され、多孔質層114Bの下面(Ip1+電極112側)にIp1+電極112が形成され、Ip1+電極112は第3緻密層118Bの下面よりも下側に突出している。そして、Ip1+電極112の上記した突出部位は固体電解質体111eに覆われている。
このように、Ip1+電極112の側面は固体電解質体111eで囲まれることになる。
【0024】
固体電解質体111e及び電極112、113は、Ip1セル110(ポンプセル)を構成する。このIp1セル110は、電極112、113間に流すポンプ電流Ip1に応じて、電極112の接する雰囲気(センサ素子10の外部の被測定ガスとは異なる、空隙10G内の大気)と、電極113の接する雰囲気(後述する第1測定室150内の雰囲気、つまりセンサ素子10の外部の被測定ガス)との間で酸素の汲み出し及び汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う。
【0025】
固体電解質体121eは、絶縁体140を挟んで、固体電解質体111eと積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体121eの表面側(
図2において上面側)には、多孔質のVs-電極122が設けられている。また、固体電解質体121eの裏面側(
図2において下面側)には、多孔質のVs+電極123が設けられている。
【0026】
固体電解質体111eと固体電解質体121eとの間には、センサ素子の内部空間としての第1測定室150が形成されている。この第1測定室150は、排気通路内を流通する被測定ガス(排ガス)が、センサ素子10内に最初に導入される内部空間であり、ガス透過性及び透水性を有する第1多孔質体(拡散抵抗部)151を通じてセンサ素子10の外部と連通している。第1多孔質体151は、センサ素子10の外部との仕切りとして、第1測定室150の側方に設けられており、第1測定室150内への排ガスの単位時間あたりの流通量(拡散速度)を制限する。
第1測定室150の後端側(
図2において右側)には、第1測定室150と後述する第2測定室160との間の仕切りとして、排ガスの単位時間あたりの流通量を制限する第2多孔質体152が設けられている。
【0027】
固体電解質体121e及び電極122、123は、Vsセル(検知セル)120を構成する。このVsセル120は、主として、固体電解質体121eにより隔てられた雰囲気(電極122の接する第1測定室150内の雰囲気と、電極123の接する基準酸素室170内の雰囲気)間の酸素分圧差に応じて起電力を発生する。
【0028】
固体電解質体131eは、絶縁体145を挟んで、固体電解質体121eと積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体131eの表面側(
図2において上面側)には、多孔質のIp2+電極132と多孔質のIp2-電極133が設けられている。
【0029】
Ip2+電極132とVs+電極123との間には、孤立した小空間としての基準酸素室170が形成されている。この基準酸素室170は、絶縁体145に形成されている開口部145bにより構成されている。なお、基準酸素室170内のうちIp2+電極132側には、セラミックス製の多孔質体が配置されている。
また、Ip2-電極133と積層方向に対向する位置には、センサ素子の内部空間としての第2測定室160が形成されている。この第2測定室160は、絶縁体145を積層方向に貫通する開口部145cと、固体電解質体121eを積層方向に貫通する開口部125と、絶縁体140を積層方向に貫通する開口部141とにより構成されている。
第1測定室150と第2測定室160とは、ガス透過性及び透水性を有する第2多孔質体152を通じて連通している。従って、第2測定室160は、第1多孔質体151、第1測定室150、及び第2多孔質体152を通じて、センサ素子10の外部と連通している。
【0030】
固体電解質体131e及び電極132、133は、NOx濃度を検知するためのIp2セル130(第2ポンプセル)を構成する。このIp2セル130は、第2測定室160内で分解されたNOx由来の酸素(酸素イオン)を、固体電解質体131eを通じて、基準酸素室170に移動させる。このとき、電極132及び電極133の間には、第2測定室160内に導入された排ガス(測定対象ガス)に含まれるNOxの濃度に応じた電流が流れる。
【0031】
又、本実施形態では、固体電解質体111eの裏面上のIp1-電極113を除く部位には、アルミナ絶縁層119が形成され、Ip1-電極113はアルミナ絶縁層119を積層方向に貫通する貫通孔119b(
図4参照)を通じて、固体電解質体111eと接触する。
【0032】
さらに、本実施形態では、固体電解質体121eの表面上のVs-電極122を除く部位に、アルミナ絶縁層128が形成され、Vs-電極122はアルミナ絶縁層128を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121eと接触する。
さらに、固体電解質体121eの裏面上のVs+電極123を除く部位に、アルミナ絶縁層129が形成され、Vs+電極123はアルミナ絶縁層129を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121eと接触する。
【0033】
さらに、本実施形態では、固体電解質体131eの表面上のIp2+電極132を除く部位に、アルミナ絶縁層138が形成され、Ip2+電極132はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体131eと接触する。さらに、固体電解質体131eの表面上のIp2-電極133を除く部位にも、アルミナ絶縁層138が形成され、電極133はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体131eと接触する。
【0034】
ここで、本実施形態のガスセンサ1によるNOx濃度検知について、簡単に説明する。
センサ素子10の固体電解質体111e、121e、131eは、ヒータパターン164の昇温に伴い加熱され、活性化する。これにより、Ip1セル110、Vsセル120、及びIp2セル130が動作するようになる。
排気通路(図示なし)内を流通する排ガスは、第1多孔質体151による流通量の制限を受けつつ第1測定室150内に導入される。このとき、Vsセル120には、電極123側から電極122側へ微弱な電流Icpが流されている。このため、排ガス中の酸素は、負極側となる第1測定室150内の電極122から電子を受け取ることができ、酸素イオンとなって固体電解質体121e内を流れ、基準酸素室170内に移動する。つまり、電極122、123間で電流Icpが流されることによって、第1測定室150内の酸素が基準酸素室170内に送り込まれる。
【0035】
第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より薄い場合、電極112側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、センサ素子10の外部から第1測定室150内へ酸素の汲み入れを行う。一方、第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より濃い場合、電極113側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、第1測定室150内からセンサ素子10外部へ酸素の汲み出しを行う。
【0036】
このように、第1測定室150において酸素濃度が調整された排ガスは、第2多孔質体152を通じて、第2測定室160内に導入される。第2測定室160内で電極133と接触した排ガス中のNOxは、電極132、133間に電圧Vp2を印加されることで、電極133上で窒素と酸素に分解(還元)され、分解された酸素は、酸素イオンとなって固体電解質体131e内を流れ、基準酸素室170内に移動する。このとき、第1測定室150で汲み残された残留酸素も同様に、Ip2セル130によって基準酸素室170内に移動する。これにより、Ip2セル130には、NOx由来の電流及び残留酸素由来の電流が流れる。なお、基準酸素室170内に移動した酸素は、基準酸素室170内に接するVs+電極123とVsリード及びIp2+電極132とIp2+リードを介して外部(大気)に放出される、このため、Vs+リード及びIp2+リードは多孔質となっている。
【0037】
ここで、第1測定室150で汲み残された残留酸素の濃度は、上記のように所定値に調整されているため、その残留酸素由来の電流は略一定とみなすことができ、NOx由来の電流の変動に対し影響は小さく、Ip2セル130を流れる電流は、NOx濃度に比例することとなる。従って、Ip2セル130を流れる電流Ip2を検出し、その電流値に基づいて、排ガス中のNOx濃度を検知することができる。
【0038】
そして、本実施形態では、Ip1+電極112は緻密層115,118で囲まれた空隙10G内に配置されて被測定ガスとの接触を防止されつつ、大気導入口10hから導入される大気に曝される。
これにより、Ip1+電極112は常に大気を基準雰囲気とするので、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化してもIp1+電極112の雰囲気が一定に保たれる。
【0039】
次に、本発明の実施形態に係るガスセンサ用電極の製造方法について説明する。なお、一例として、Vsセル(検知セル)120を構成するVs-電極122を、本実施形態により製造するものとする。
【0040】
まず、レーザー回折法により測定した平均粒径がD1(μm)である第1のPt粒子の表面にAuを担持させた後、熱処理して合金化させて合金粒子を調製する(合金化工程)。
第1のPt粒子の表面にAuを担持させる方法は、例えば特許第6795841号公報に記載の方法を採用することができる。
上記方法では、白金粉末と金化合物溶液を減圧下で(例えば、70℃以下)攪拌しながら溶媒を蒸発乾固させて、白金粉末の粒子表面に金化合物を高分散担持させる。これにより、白金粒子表面に金化合物をコーティングする。金化合物としては、例えば塩化金(III)酸、、亜硫酸金(I)ナトリウムなどを溶解させた水溶液を用いる。
ただし、Auを担持させる方法は、上記方法に限られず、他の公知の方法でもよい。
【0041】
次に、上記方法に従い、Au化合物が担持された第1のPt粒子を560~650℃で熱処理する。560~650℃で熱処理すると、金化合物の分解温度(約360℃)を超えるので、金化合物を分解して金属の金になると同時に白金粒子表面と金との結合を強める(合金化する)ことで白金粒子表面に金を高分散担持させ、合金粒子を得ることができる。
【0042】
D1(μm)は、例えば2.5~13.5μmとすることができる。D1が2.5μm未満であると、電極が緻密になりすぎ、ポンプ性能が低下する場合がある。D1が13.5μmを超えると、電極膜の凹凸が大きくなり、断線する場合がある。
【0043】
なお、レーザー回折法による粒度分布の測定は、粒子に光を照射した際、粒子径により散乱光量とパターンが異なること(Mie散乱理論)を利用したものである。但し、粒度測定機によって散乱光から粒度分布を算定する方法が異なるため、本発明においては、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 (堀場製作所製の型番LA-750、光源:He-Neレーザ(632.8nm)、1mW)によって測定する。又、粒度分布の測定方法は、純水中に試料を滴下混合して均一分散体としたものをサンプルに用いて行う。
又、電極は、一般に電極ペーストをスクリーン印刷等により所定位置に塗布して製造するが、電極ペーストは、電極金属材料以外にセラミックス粒子を含むのが一般的なので、電極ペースト中の電極金属材料の粒径を測定する場合は、以下の手順で行う。なお、ペーストにする前の金属材料の粒径を測定しても良い。
1)電極ペーストを加熱(例えば、500℃×1時間保持)してバインダーと溶剤成分を除去する
2)残った固形分の粒度分布を測定する
3)固形分を加熱王水に浸漬し、貴金属成分(電極金属材料)を溶かす
4)残った固形分の粒度分布を測定する
5)2)及び4)の粒度分布の差から、電極金属材料及びセラミックス粒子の平均粒径をそれぞれ算出する
【0044】
次に、合金化工程で得られたPt-Auの合金粒子と、レーザー回折法により測定した平均粒径D2(μm)がD1(μm)より小さい第2のPt粒子とを混合する(混合工程)。
混合には、ハイブリッドミキサ(自転・公転ミキサ)、ロールミル(トリロール)等の撹拌機を用いることが好ましい。撹拌機は、擂潰機(らいかい機)などの粒子をすり潰す方法に比べ、柔らかいAuが潰れることが少なく、粒子径が大きく変動することを抑制できる。
Auが潰れて箔状に大きくなると、後述する電極ペーストに調製してスクリーン印刷して電極を形成する際、スクリーンにAuが引っかかって捕捉されてしまい、電極に含まれるAu量がバラつく恐れがある。
D2(μm)は、例えば0.5~5.0μmとすることができる。D2が0.5μm未満であると、焼成時に焼結が進み過ぎて断線する場合がある。D2が5.0μmを超えると、電極膜の凹凸が大きくなり、断線する場合がある。
【0045】
混合工程において、第1のPt粒子と第2のPt粒子の合計量に対し、第2のPt粒子を10~60質量%の割合で混合してもよい。
第2のPt粒子の混合割合が10質量%未満であると、微細な第2のPt粒子による電極の反応性の向上効果が得られなくなることがある。
第2のPt粒子の混合割合が60質量%を超えるものは、微細な第2のPt粒子の取り扱いが困難なことに起因して生産性を低下させることがある。
【0046】
次に、混合工程で得られた混合粒子を含む電極ペーストを調製する(電極ペースト調製工程)。
電極ペーストの組成は、上記混合粒子に加え、例えばセラミックス粒子と、バインダーと、溶剤とを含む。
セラミックス粒子は、固体電解質体に対する電極の密着性を高める共素地として用いられる。セラミックス粒子がアルミナ及び/又はジルコニアからなることが好ましい。ジルコニアとしてはYSZ(イットリア部分安定化ジルコニア)を挙げることができる。
【0047】
バインダーとしては、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、酢酸セルロース、アルキド、フェノール、アクリル、エポキシ、ポリウレタン等が挙げられる。なお、バインダーとは、電極ペーストに含まれる溶剤に溶けるものをいう。
溶剤としては、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テルピネオールアセテート、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ジヒドロテルピネオール、プロピレングリコールジアセテート等が挙げられる。
なお、電極ペーストの固形分は混合粒子とセラミックス粒子であり、バインダーは溶剤に溶けてペーストに所定の粘性を付与する。
【0048】
次に、上記した電極ペーストをセンサ素子10の所定の位置に塗布して電極を形成する(電極形成工程)。なお、本実施形態では、電極ペーストを、それぞれ固体電解質体111e、121eの表面に塗布してIp1-電極113及びVs-電極122を形成する。
電極ペーストの塗布方法は限定されないが、スクリーン印刷が好ましい。スクリーン印刷は、まず所定のスクリーンマスク(メタルマスク等)の上から電極ペーストを対象物に印刷する。次に、印刷した電極パターンを乾燥させ、所定温度(例えば1000℃以上)で焼成して電極を形成する。
なお、「スクリーン印刷」とは、スクリーンマスクと対象物が離間した状態での印刷の他、スクリーンマスクが対象と接するコンタクト印刷も含む。
【0049】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、本発明は、NOxセンサの他、全領域空燃比センサ等の酸素センサに適用することができるが、これらの用途に限られない。
【0050】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論これらの例に限定されるものではない。
【実施例0051】
第1のPt粒子と、塩化金(III)酸溶液を減圧下で攪拌しながら溶媒を蒸発乾固させ、第1のPt粒子表面に金化合物を担持させた。次に、Au化合物が担持された第1のPt粒子を熱処理した。これにより、金化合物を分解して金属の金になると同時に第1のPt粒子と金とを合金化させた。
次に、上記のPt-Auの合金粒子と、第1のPt粒子より粒径の小さい第2のPt粒子とをトリロールを用いて混合した。
【0052】
次に、上記混合粒子に加え、ジルコニア粒子と、バインダーと、溶剤とを含む電極ペーストを調製し、
図2に示したセンサ素子10の固体電解質体131eの表面に塗布した。塗布後、センサ素子10を1000℃以上で焼成してVs-電極122を形成した。
比較として、第1のPt粒子と、第2のPt粒子と、Au粒子(レーザー回折法により測定した平均粒径が0.6(μm))を単純に混合して電極ペーストの電極材料として用い、同様にVs-電極122を形成した。
【0053】
得られたセンサ素子10におけるVs-電極122の組成(Au/Pt率:質量比)を、TOF-SIMS分析して求めた。
得られた結果を
図3に示す。なお、
図3は、Au/Pt率の狙い値(
図3の破線)を1としたときの各実施例および比較例のセンサ素子10におけるAu/Pt率の相対値である。
【0054】
図3から明らかなように、実施例1~3の場合、Vs-電極122の組成(Au/Pt率)が目標値の上下限の範囲内に収まり、電極がAu、及び2種類の粒径のPt粒子をそれぞれ安定して含むことがわかる。これにより、電極の反応性を向上させるとともに、生産性の低下を抑制することができる。
一方、比較例の場合、Vs-電極122の組成(Au/Pt率:質量比)が目標値の上下限を外れ、電極に含まれるAuの割合が低下した。これにより、電極の反応性の低下が懸念される。
なお、比較例の場合、Au粒子を各Pt粒子と混合した際、柔らかいAu粒子が潰れて展伸して箔状となり、電極をスクリーン印刷で形成する際に箔状のAuがスクリーンに引っ掛かり、電極に到達しなかったためと考えられる。