(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035891
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】抗病性及び病原体遺伝子の同時検査方法並びに抗病性及び病原体遺伝子の同時検査キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240308BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20240308BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20240308BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240308BHJP
C12N 15/33 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6883 Z
C12N15/12
C12N15/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140503
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】関口 敏
(72)【発明者】
【氏名】野津 昂亮
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA07
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】牛伝染性リンパ腫に関する抗病性及び病原体遺伝子を簡便かつ迅速に検査することができる抗病性及び病原体遺伝子の同時検査方法を提供する。
【解決手段】同時検査方法は、検査対象牛のゲノムDNAと、ゲノムDNAにおける牛伝染性リンパ腫に対する抗病性に関連する対立遺伝子に含まれる塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第1のプライマー対と、第1のプライマー対で増幅された塩基配列を検出するための第1のプローブと、ゲノムDNAに組み込まれた牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスの遺伝子に含まれる塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第2のプライマー対と、第2のプライマー対で増幅された塩基配列を検出するための第2のプローブと、を含む反応液で増幅反応を行う反応ステップを含む。
【選択図】
図22
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象牛のゲノムDNAと、
前記ゲノムDNAにおける牛伝染性リンパ腫に対する抗病性に関連する対立遺伝子に含まれる第1の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第1のプライマー対と、
第1の蛍光色素と前記第1の蛍光色素の発光を抑制する第1の消光剤とを有し、前記第1のプライマー対で増幅された前記第1の塩基配列にハイブリダイズして前記第1の消光剤による前記第1の蛍光色素の発光の抑制を解除する第1のプローブと、
前記ゲノムDNAに組み込まれた牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスの遺伝子に含まれる第2の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第2のプライマー対と、
第2の蛍光色素と前記第2の蛍光色素の発光を抑制する第2の消光剤とを有し、前記第2のプライマー対で増幅された前記第2の塩基配列にハイブリダイズして前記第2の消光剤による前記第2の蛍光色素の発光の抑制を解除する第2のプローブと、
を含む反応液で増幅反応を行う反応ステップを含む、
抗病性及び病原体遺伝子の同時検査方法。
【請求項2】
前記反応液は、
前記ゲノムDNAにおけるハウスキーピング遺伝子に含まれる第3の塩基配列をポリメラーゼ連鎖反応で増幅する第3のプライマー対と、
第3の蛍光色素と前記第3の蛍光色素の発光を抑制する第3の消光剤とを有し、前記第3のプライマー対で増幅された前記第3の塩基配列にハイブリダイズして前記第3の消光剤による前記第3の蛍光色素の発光の抑制を解除する第3のプローブと、
をさらに含む、
請求項1に記載の同時検査方法。
【請求項3】
前記反応ステップでは、
W/Oエマルションにおける前記反応液を含むドロップレット内で前記増幅反応を行う、
請求項1又は2に記載の同時検査方法。
【請求項4】
前記対立遺伝子は、
牛伝染性リンパ腫ウイルス抵抗性型であるBoLA-DRB3*009:02と、
牛伝染性リンパ腫ウイルス感受性型であるBoLA-DRB3*016:01と、
であって、
前記反応液は、
前記第1のプライマー対として、
BoLA-DRB3*009:02に対して、塩基配列が配列番号1に示されるフォワードプライマーと、
BoLA-DRB3*016:01に対して、塩基配列が配列番号2に示されるフォワードプライマーと、
BoLA-DRB3*009:02及びBoLA-DRB3*016:01に共通の、塩基配列が配列番号3に示されるリバースプライマーと、
を含み、
前記第1のプローブとして、
BoLA-DRB3*009:02を検出するための、塩基配列が配列番号4に示されるプローブと、
BoLA-DRB3*016:01を検出するための、塩基配列が配列番号5に示されるプローブと、
を含み、
前記第2のプライマー対として、
塩基配列が配列番号6に示されるフォワードプライマーと、
塩基配列が配列番号7に示されるリバースプライマーと、
を含み、
前記第2のプローブとして、
塩基配列が配列番号8に示されるプローブを含む、
請求項1又は2に記載の同時検査方法。
【請求項5】
配列番号1に示される前記フォワードプライマー及び配列番号2に示される前記フォワードプライマーの3’末端の核酸は、ロック核酸である、
請求項4に記載の同時検査方法。
【請求項6】
同一の増幅反応系内におけるポリメラーゼ連鎖反応に使用される以下(a)~(d)の試薬を備える、抗病性及び病原体遺伝子の同時検査キット。
(a)検査対象牛のゲノムDNAにおける牛伝染性リンパ腫に対する抗病性に関連する対立遺伝子に含まれる第1の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第1のプライマー対
(b)第1の蛍光色素と前記第1の蛍光色素の発光を抑制する第1の消光剤とを有し、前記第1のプライマー対で増幅された前記第1の塩基配列にハイブリダイズして前記第1の消光剤による前記第1の蛍光色素の発光の抑制を解除する第1のプローブ
(c)前記ゲノムDNAに組み込まれた牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスの遺伝子に含まれる第2の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第2のプライマー対
(d)第2の蛍光色素と前記第2の蛍光色素の発光を抑制する第2の消光剤とを有し、前記第2のプライマー対で増幅された前記第2の塩基配列にハイブリダイズして前記第2の消光剤による前記第2の蛍光色素の発光の抑制を解除する第2のプローブ
【請求項7】
前記増幅反応系内におけるポリメラーゼ連鎖反応に使用される以下(e)及び(f)の試薬をさらに備える、
請求項6に記載の同時検査キット。
(e)前記ゲノムDNAにおけるハウスキーピング遺伝子に含まれる第3の塩基配列をポリメラーゼ連鎖反応で増幅する第3のプライマー対
(f)第3の蛍光色素と前記第3の蛍光色素の発光を抑制する第3の消光剤とを有し、前記第3のプライマー対で増幅された前記第3の塩基配列にハイブリダイズして前記第3の消光剤による前記第3の蛍光色素の発光の抑制を解除する第3のプローブ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗病性及び病原体遺伝子の同時検査方法並びに抗病性及び病原体遺伝子の同時検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜における感染症は畜産業に甚大な経済的損失をもたらすのみならず、人類にとっての食料の安定的な確保を脅かす。特に、エイズ、牛伝染性リンパ腫(EBL)及びヨーネ病などの慢性難治性感染症は、年々発生数が増加しており、国際的に問題となっている。これらの感染症に罹患した個体は、病原体に生涯感染し続ける上に、有効な治療法及びワクチンが存在しない。
【0003】
感染症の問題の解決には、病原体の伝播の防止及び感染個体に対する適切な医療措置が有効である。そのために必要な情報が個体における抗病性遺伝子の有無及び病原体の量である。抗病性遺伝子は、病原体に対する感受性又は抵抗性に関連する宿主因子である。家畜において、病原体への感受性又は抵抗性と強く関連しているのが主要組織適合抗原複合体-DRB3遺伝子の遺伝子型である。非特許文献1には、牛主要組織適合抗原複合体(BoLA)-DRB3*009:02という対立遺伝子を保有する牛がEBLの原因である牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)感染症に対して抵抗性を示すことが報告されている。非特許文献2では、BoLA-DRB3*016:01という対立遺伝子を保有する牛がBLV感染症に対して感受性を示すことが報告されている。
【0004】
抗病性遺伝子の検査には、シークエンス法による塩基配列の決定、PCR(Polymerase Chain Reaction)-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法及びアリル特異的PCRによる宿主の遺伝子のタイピングが使用されてきた。シークエンス法による塩基配列の決定は、解析に煩雑な手技と時間を要する。PCR-RFLP法は、PCRで増幅した対立遺伝子断片を制限酵素で処理し、電気泳動をしてそのバンドのパターンを確認することにより対立遺伝子を識別する方法である。
【0005】
アリル特異的PCRは、アリル特異的なPCRプライマーによって増幅産物(アンプリコン)を検出する方法である。非特許文献3では、SYBR(商標) Greenを用いたリアルタイムPCRを利用して、BoLA-DRB3*009:02が検出されている。
【0006】
病原体の量は、病原体遺伝子の定量によって評価することができる。例えば、宿主のDNA中にプロウイルスとして組み込まれ持続感染するBLVの場合は、病原体遺伝子としてプロウイルスの遺伝子を定量すればよい。病原体遺伝子の定量には、病原体特異的な遺伝子を標的としたリアルタイムPCR及びデジタルPCR(dPCR)が使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takumi HAYASHI、外7名、「Cattle with the BoLA class II DRB3*0902 allele have significantly lower bovine leukemia proviral loads」、2017年、Journal of Veterinary Medical Science、79(9)、1552-1555
【非特許文献2】Taku MIYASAKA、外7名、「Identification of bovine leukocyte antigen class II haplotypes associated with variations in bovine leukemia virus proviral load in Japanese Black cattle」、2013年、Tissue Antigens、81(2)、72-82
【非特許文献3】A.Forletti、外5名、「Identification of cattle carrying alleles associated with resistance and susceptibility to the Bovine Leukemia Virus progression by real-time PCR」、2013年、Research in Veterinary Science、95、991-995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
病原体の量のみならず、抗病性遺伝子の有無を把握して個体又は集団ごとに異なる、いわばオーダーメイドの感染症対策の需要が高まっている。現状では、抗病性遺伝子の検査と病原体遺伝子の定量検査は別々に行われている。このため、検査工程の多さと煩雑さから、検査に時間を要してきた。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、牛伝染性リンパ腫に関する抗病性及び病原体遺伝子を簡便かつ迅速に検査することができる抗病性及び病原体遺伝子の同時検査方法並びに抗病性及び病原体遺伝子の同時検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る抗病性及び病原体遺伝子の同時検査方法は、
検査対象牛のゲノムDNAと、
前記ゲノムDNAにおける牛伝染性リンパ腫に対する抗病性に関連する対立遺伝子に含まれる第1の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第1のプライマー対と、
第1の蛍光色素と前記第1の蛍光色素の発光を抑制する第1の消光剤とを有し、前記第1のプライマー対で増幅された前記第1の塩基配列にハイブリダイズして前記第1の消光剤による前記第1の蛍光色素の発光の抑制を解除する第1のプローブと、
前記ゲノムDNAに組み込まれた牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスの遺伝子に含まれる第2の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第2のプライマー対と、
第2の蛍光色素と前記第2の蛍光色素の発光を抑制する第2の消光剤とを有し、前記第2のプライマー対で増幅された前記第2の塩基配列にハイブリダイズして前記第2の消光剤による前記第2の蛍光色素の発光の抑制を解除する第2のプローブと、
を含む反応液で増幅反応を行う反応ステップを含む。
【0011】
前記反応液は、
前記ゲノムDNAにおけるハウスキーピング遺伝子に含まれる第3の塩基配列をポリメラーゼ連鎖反応で増幅する第3のプライマー対と、
第3の蛍光色素と前記第3の蛍光色素の発光を抑制する第3の消光剤とを有し、前記第3のプライマー対で増幅された前記第3の塩基配列にハイブリダイズして前記第3の消光剤による前記第3の蛍光色素の発光の抑制を解除する第3のプローブと、
をさらに含む、
こととしてもよい。
【0012】
前記反応ステップでは、
W/Oエマルションにおける前記反応液を含むドロップレット内で前記増幅反応を行う、
こととしてもよい。
【0013】
前記対立遺伝子は、
牛伝染性リンパ腫ウイルス抵抗性型であるBoLA-DRB3*009:02と、
牛伝染性リンパ腫ウイルス感受性型であるBoLA-DRB3*016:01と、
であって、
前記反応液は、
前記第1のプライマー対として、
BoLA-DRB3*009:02に対して、塩基配列が配列番号1に示されるフォワードプライマーと、
BoLA-DRB3*016:01に対して、塩基配列が配列番号2に示されるフォワードプライマーと、
BoLA-DRB3*009:02及びBoLA-DRB3*016:01に共通の、塩基配列が配列番号3に示されるリバースプライマーと、
を含み、
前記第1のプローブとして、
BoLA-DRB3*009:02を検出するための、塩基配列が配列番号4に示されるプローブと、
BoLA-DRB3*016:01を検出するための、塩基配列が配列番号5に示されるプローブと、
を含み、
前記第2のプライマー対として、
塩基配列が配列番号6に示されるフォワードプライマーと、
塩基配列が配列番号7に示されるリバースプライマーと、
を含み、
前記第2のプローブとして、
塩基配列が配列番号8に示されるプローブを含む、
こととしてもよい。
【0014】
配列番号1に示される前記フォワードプライマー及び配列番号2に示される前記フォワードプライマーの3’末端の核酸は、ロック核酸である、
こととしてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点に係る抗病性及び病原体遺伝子の同時検査キットは、
同一の増幅反応系内におけるポリメラーゼ連鎖反応に使用される以下(a)~(d)の試薬を備える。
(a)検査対象牛のゲノムDNAにおける牛伝染性リンパ腫に対する抗病性に関連する対立遺伝子に含まれる第1の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第1のプライマー対
(b)第1の蛍光色素と前記第1の蛍光色素の発光を抑制する第1の消光剤とを有し、前記第1のプライマー対で増幅された前記第1の塩基配列にハイブリダイズして前記第1の消光剤による前記第1の蛍光色素の発光の抑制を解除する第1のプローブ
(c)前記ゲノムDNAに組み込まれた牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスの遺伝子に含まれる第2の塩基配列を、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅するための第2のプライマー対
(d)第2の蛍光色素と前記第2の蛍光色素の発光を抑制する第2の消光剤とを有し、前記第2のプライマー対で増幅された前記第2の塩基配列にハイブリダイズして前記第2の消光剤による前記第2の蛍光色素の発光の抑制を解除する第2のプローブ
【0016】
上記本発明の第2の観点に係る抗病性及び病原体遺伝子の同時検査キットは、
前記増幅反応系内におけるポリメラーゼ連鎖反応に使用される以下(e)及び(f)の試薬をさらに備える、
こととしてもよい。
(e)前記ゲノムDNAにおけるハウスキーピング遺伝子に含まれる第3の塩基配列をポリメラーゼ連鎖反応で増幅する第3のプライマー対
(f)第3の蛍光色素と前記第3の蛍光色素の発光を抑制する第3の消光剤とを有し、前記第3のプライマー対で増幅された前記第3の塩基配列にハイブリダイズして前記第3の消光剤による前記第3の蛍光色素の発光の抑制を解除する第3のプローブ
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、牛伝染性リンパ腫に関する抗病性及び病原体遺伝子を簡便かつ迅速に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】試験例1の検体1を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図2】試験例1の検体2を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図3】試験例1の検体3を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図4】試験例1の検体4を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図5】試験例2の反応液1~15に係るドロップレットの振幅を示す図である。(A)は反応液1~3に係るドロップレットの振幅を示す。(B)は反応液4~7に係るドロップレットの振幅を示す。(C)は反応液8~12に係るドロップレットの振幅を示す。(D)は反応液13~15に係るドロップレットの振幅を示す。
【
図6】試験例3のプライマー/プローブセットAを含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図7】試験例3のプライマー/プローブセットBを含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図8】試験例3のプライマー/プローブセットCを含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図9】試験例3のプライマー/プローブセットDを含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図10】試験例4のM29由来のゲノムDNAを含む反応液に係るドロップレットの振幅を示す図である。
【
図11】試験例5の検体1を含む反応液に係るドロップレットの振幅を示す図である。
【
図12】試験例5のM29由来のゲノムDNAを含む反応液に係るドロップレットの振幅を示す図である。
【
図13】試験例5の検体1を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図14】試験例5の検体2を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図15】試験例5の検体3を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図16】試験例5の検体4を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図17】試験例5のM29由来のゲノムDNAを含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図18】M6由来のゲノムDNAを含む、試験例5の組成の反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図19】試験例6のM6由来のゲノムDNAを含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図20】試験例7の検体1を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図21】試験例7の検体2を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図22】試験例7の検体3を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図23】試験例7の検体4を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図24】試験例7の検体5を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図25】試験例7の検体6を含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図26】試験例7のM29由来のゲノムDNAを含む反応液に係るドロップレットの振幅の分布を示す図である。
【
図27】試験例9におけるdPCRで求めたBLV感染細胞率に対する定量的PCRで求めたBLV感染細胞率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0020】
(実施の形態)
本実施の形態に係る抗病性及び病原体遺伝子の同時検査方法は、反応液で増幅反応を行う反応ステップを含む。反応液は、DNAポリメラーゼと、検査対象牛のゲノムDNAと、当該ゲノムDNAにおけるEBLに対する抗病性に関連する対立遺伝子を検出するためのプライマー対1(第1のプライマー対)及びプローブ2(第1のプローブ)と、当該ゲノムDNAに組み込まれたBLVのプロウイルスの遺伝子を検出するためのプライマー対3(第2のプライマー対)及びプローブ4(第2のプローブ)と、を含む。
【0021】
DNAポリメラーゼは特に限定されず、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する市販のDNAポリメラーゼが利用できる。検査対象牛は、ウシ属に属する限り特に限定されないが、例えば、家畜牛(Bos Taurus)及びコブ牛(Bos Indicus)などである。ゲノムDNAは、牛の細胞、組織及び体液、特には血液から公知の方法で取得することができる。
【0022】
プライマー対1は、ゲノムDNAにおけるEBLに対する抗病性に関連する対立遺伝子に含まれる塩基配列S1(第1の塩基配列)を、DNAポリメラーゼによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅する。プライマー対1は、二本鎖DNAの各鎖にハイブリダイズして、5’末端から3’末端の方向に伸長されるフォワードプライマー1Fとリバースプライマー1Rとからなる。フォワードプライマー1Fは、塩基配列S1を含む領域の上流側の一部の塩基配列を有する。リバースプライマー1Rは、塩基配列S1を含む領域の下流側の一部の塩基配列に相補的な塩基配列を有する。
【0023】
EBLに対する抗病性に関連する対立遺伝子とは、例えば、BLV抵抗性型の対立遺伝子及びBLV感受性型の対立遺伝子である。BLV抵抗性型の対立遺伝子としては、BoLA-DRB3*009:02、BoLA-DRB3*011:01及びBoLA-DRB3*02:01が例示される。BLV抵抗性型の対立遺伝子は、好ましくは、BoLA-DRB3*009:02である。BoLA-DRB3*009:02の塩基配列を配列番号12に示す。BLV感受性型の対立遺伝子としては、BoLA-DRB3*016:01、BoLA-DRB3*005:02、BoLA-DRB3*015:01及びBoLA-DRB3*012:01が例示される。BLV感受性型の対立遺伝子は、好ましくは、BoLA-DRB3*016:01である。BoLA-DRB3*016:01の塩基配列を配列番号13に示す。以下、“BoLA-DRB3”を単に“DRB3”と表す。
【0024】
DRB3*009:02を検出する場合、例えば、フォワードプライマー1F及びリバースプライマー1Rの塩基配列は、それぞれ配列番号1及び3に示される。DRB3*016:01を検出する場合、例えば、フォワードプライマー1F及びリバースプライマー1Rの塩基配列は、それぞれ配列番号2及び3に示される。
【0025】
好ましくは、DRB3*009:02及びDRB3*016:01の双方が同時に検出される。DRB3*009:02及びDRB3*016:01を同時に検出するには、DRB3*009:02に対するフォワードプライマー11F及リバースプライマー11Rと、DRB3*016:01に対するフォワードプライマー12F及リバースプライマー12Rとを使用すればよい。この場合、リバースプライマー11Rとリバースプライマー12Rとは共通であってもよい。なお、以下では、フォワードプライマー11F及リバースプライマー11Rで増幅される塩基配列を塩基配列S1aとし、フォワードプライマー12F及リバースプライマー12Rで増幅される塩基配列を塩基配列S1bとする。
【0026】
例えば、反応液は、プライマー対1として、DRB3*009:02に対して、塩基配列が配列番号1に示されるフォワードプライマー11F(上記DRB3*009:02に対するフォワードプライマー1F)と、DRB3*016:01に対して、塩基配列が配列番号2に示されるフォワードプライマー12F(上記DRB3*016:01に対するフォワードプライマー1F)と、DRB3*009:02及びDRB3*016:01に共通のリバースプライマーである塩基配列が配列番号3に示されるリバースプライマー1Rと、を含む。
【0027】
なお、フォワードプライマー1F及びリバースプライマー1Rの少なくとも一方の3’末端の核酸が、2’-Oと4’-Cがメチレンで架橋された人工合成核酸であるロック核酸であってもよい。例えば、上述のように、フォワードプライマー11Fと、フォワードプライマー12Fと、リバースプライマー1Rとを使用する場合、フォワードプライマー11F及びフォワードプライマー12Fのそれぞれの3’末端の核酸がロック核酸であってもよい。ロック核酸を3’末端に導入することでプライマー対1の特異性を向上させることができる。
【0028】
プローブ2は、塩基配列S1を検出するために使用される。プローブ2は、10~40mer程度のオリゴヌクレオチドである。プローブ2は、塩基配列S1の少なくとも一部に相補的な塩基配列を有し、塩基配列S1の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズする。好ましくは、プローブ2の塩基配列は、可能な限り検出対象の対立遺伝子以外の対立遺伝子において増幅される塩基配列にはハイブリダイズしない塩基配列である。
【0029】
なお、ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、プローブ2が、塩基配列が相補的な核酸とはハイブリダイズするが、相補的ではない塩基配列の核酸にはハイブリダイズしないストリンジェントな条件である。ストリンジェントな条件は、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第3版(2001年)などに基づき適宜決定でき、例えば、0.2×SSC、0.1%SDS、65℃で保温、である。
【0030】
プローブ2は、蛍光色素21(第1の蛍光色素)と蛍光色素21の発光を抑制する消光剤22(第1の消光剤、クエンチャーともいう)とを有する。好ましくは、プローブ2の5’末端に蛍光色素21が、3’末端に消光剤22が付加されている。加水分解プローブの例としては、例えば、TaqMan(商標)プローブが挙げられる。
【0031】
プローブ2はプライマー対1で増幅された塩基配列S1にハイブリダイズして消光剤22による蛍光色素21の発光の抑制を解除する。このようなプローブ2として加水分解プローブが使用できる。加水分解プローブであるプローブ2が増幅された塩基配列S1にハイブリダイズした状態では、蛍光色素21と消光剤22の物理的距離が近いため、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer、FRET)が起こり、蛍光色素21のエネルギーが消光剤22に移転し、蛍光の発生が抑制されている。プライマー対1の伸長反応が進むと、DNAポリメラーゼが有する5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によりプローブ2が加水分解され、蛍光色素21が消光剤22と乖離する。この結果、FRETが起こらなくなり、蛍光が発生する。プローブ2がハイブリダイズしたDNAを鋳型として塩基配列S1が増幅された場合にのみ、強い蛍光が検出される。したがって、PCRによって非特異的な断片の増幅が起こっていたり、プライマーダイマーが形成されていたりする場合には、強い蛍光は検出されない。
【0032】
プローブ2が塩基配列S1に完全にハイブリダイズしなければ、発生する蛍光強度は著しく低下する。プローブ2の塩基配列のうち、1塩基~数塩基がハイブリダイズしない場合には、融解温度(Tm)が低下し、プローブ2は塩基配列S1から遊離する。この場合、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によるプローブ2の分解が起こらず、プローブ2の5’末端及び3’末端にはそれぞれ蛍光色素21及び消光剤22が付加されたままの状態である。蛍光色素21が消光剤22から離れないため、消光剤22により蛍光の発生が抑制される。
【0033】
蛍光色素21としては、6-FAM、TET、HEX、JOE、Yakima Yellow、TAMRA、ATTO550、ATTO565、ATTO633、ATTO647、ROX、Texas Red-X、Cy3及びCy5などが例示される。使用するPCR装置に応じて検出可能な蛍光波長を有する蛍光色素21を選択すればよい。
【0034】
消光剤22としては、TAMRA、BHQ(商標)-1、BHQ(商標)-2、BHQ(商標)-3、Iowa Black(商標)RQ、Iowa Black(商標)FQ及びEclipse(商標)などが挙げられる。各消光剤により抑制できる蛍光の波長が異なるため、使用する蛍光色素21を抑制できる消光剤22を選択すればよい。
【0035】
また、消光剤22にさらにマイナーグルーブバインダー(MGB)を付加したプローブ2を用いてもよい。MGBはDNAの二重らせん構造の副溝に入り込み、プローブ2がハイブリダイズした際の二重らせん構造をさらに強固にする。このため、より高いTmを得ることができ、PCRにおいてアニーリング温度を高く設定することができる。この結果、プローブ2の特異性をさらに高めることができる。MGBを付加したプローブとしてはTaqMan(商標)MGBプローブが知られている。
【0036】
また、プローブ2にさらにもう1種類の消光剤を付加したダブルクエンチャープローブを使用してもよい。ダブルクエンチャープローブでは、塩基配列の間にZEN(商標)クエンチャー又はTAO(商標)クエンチャーなどのインターナルクエンチャーが付加されるため、プローブ2内での消光作用がより高くなり、バックグラウンドのレベルを低下させることができる。
【0037】
プローブ2の別の例としては、分子ビーコンプローブが挙げられる。分子ビーコンプローブは、塩基配列S1の一部と相補的な塩基配列を有し、さらにその両側に互いに相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドである。分子ビーコンプローブは、その両端に加水分解プローブと同様に、蛍光色素21及び消光剤22を有する。分子ビーコンプローブが塩基配列S1にハイブリダイズしていない状態では、分子ビーコンプローブの両端の相補的な塩基配列の部分がステム構造で、塩基配列S1と相補的な塩基配列の部分がループ構造となるヘアピン状のステム・ループ構造をとる。ステム・ループ構造の状態では両端の蛍光色素21及び消光剤22が近接しており、蛍光が抑制される。
【0038】
分子ビーコンプローブにおける蛍光の抑制は、上述の加水分解プローブとは異なり、蛍光色素21と消光剤22との電子軌道の重なりによって起こる衝突消光である。分子ビーコンプローブは熱変性によりステム構造が開いて直鎖状になり、その状態で塩基配列S1にハイブリダイズするため、蛍光色素21と消光剤22との物理的距離が遠くなる。蛍光色素21と消光剤22との物理的距離が遠くなることで、消光剤22による蛍光の抑制が解除される。分子ビーコンプローブの使用によって、バックグラウンドレベルが低く特異性の高い解析が可能となる。
【0039】
DRB3*009:02及びDRB3*016:01を同時に検出する場合、プローブ2として、DRB3*009:02を検出するための、すなわち塩基配列S1aにハイブリダイズするプローブ2a及びDRB3*016:01を検出するための、すなわち塩基配列S1bにハイブリダイズするプローブ2bを反応液は含んでもよい。プローブ2aの塩基配列は、配列番号4に例示される。プローブ2bの塩基配列は、配列番号5に例示される。プローブ2aが有する蛍光色素23と、プローブ2bが有する蛍光色素24とは異なって(異なる波長の蛍光を発する)もよいし、同じであってもよい。同じ蛍光色素を使う場合には、反応液中のプローブ2aの濃度と、プローブ2bの濃度とが異なるようにすれば、蛍光強度の大きさに基づいてDRB3*009:02とDRB3*016:01とを識別して検出できる。プローブ2aの濃度と、プローブ2bの濃度とが異なる場合、一方の濃度に対して他方の濃度が、例えば、1.5~6倍、2~5倍、2~4.5倍又は2~4.3倍とすればよい。
【0040】
プライマー対1及びプローブ2は、例えば、市販の自動核酸合成機等を用いて化学的に合成することができる。
【0041】
プライマー対3は、ゲノムDNAに組み込まれたBLVのプロウイルスの遺伝子に含まれる塩基配列S2(第2の塩基配列)を、DNAポリメラーゼによるPCRで増幅する。プライマー対3については、その塩基配列及び増幅対象となる塩基配列S2がそれぞれプライマー対1の塩基配列及び塩基配列S1と異なる点を除いて、上記プライマー対1についての説明を参照できる。
【0042】
プロウイルスの遺伝子は、牛のゲノムDNAには本来含まれない、プロウイルスに特異的な遺伝子であれば任意である。プロウイルスの遺伝子としては、例えば、pol遺伝子及びtax遺伝子などが挙げられる。プライマー対3は、フォワードプライマー3Fとリバースプライマー3Rとからなる。pol遺伝子を標的とする場合、フォワードプライマー3Fの塩基配列及びリバースプライマー3Rの塩基配列として、それぞれ配列番号6に示される塩基配列及び配列番号7に示される塩基配列が例示される。tax遺伝子を標的とする場合、フォワードプライマー3Fの塩基配列及びリバースプライマー3Rの塩基配列として、それぞれ配列番号14に示される塩基配列及び配列番号15に示される塩基配列が例示される。
【0043】
プローブ4は、蛍光色素41(第2の蛍光色素)と蛍光色素41の発光を抑制する消光剤42(第2の消光剤)とを有する。プローブ4については、その塩基配列及びハイブリダイズの対象となる塩基配列S2がそれぞれプローブ2の塩基配列及び塩基配列S1と異なる点を除いて、上記プローブ2についての説明を参照できる。pol遺伝子を標的とする場合、プローブ4の塩基配列として、配列番号8に示される塩基配列が例示される。tax遺伝子を標的とする場合、プローブ4の塩基配列として、配列番号16に示される塩基配列が例示される。
【0044】
蛍光色素41は、プローブ2が有する蛍光色素21と同じであってもよいし、異なってもよい。DRB3*009:02及びDRB3*016:01を同時に検出する場合には、蛍光色素41は、例えば、プローブ2aが有する蛍光色素23及びプローブ2bが有する蛍光色素24の一方と同じとしてもよい。例えば、プローブ2aの蛍光色素23がHEXで、プローブ2bの蛍光色素24がFAMで、プローブ4の蛍光色素41がFAMとした場合には、プローブ2bの濃度と、プローブ4の濃度とが異なるようにしてもよい。
【0045】
好ましくは、上記反応液は、ゲノムDNAにおけるハウスキーピング遺伝子に含まれる塩基配列S3(第3の塩基配列)をPCRで増幅するプライマー対5(第3のプライマー対)と、蛍光色素61(第3の蛍光色素)と蛍光色素61の発光を抑制する消光剤62(第3の消光剤)とを有するプローブ6(第3のプローブ)と、をさらに含んでもよい。プライマー対5については、その塩基配列及び増幅対象となる塩基配列S3がそれぞれプライマー対1の塩基配列及び塩基配列S1と異なる点を除いて、上記プライマー対1についての説明を参照できる。
【0046】
ハウスキーピング遺伝子は、BLVのプロウイルスが有しておらず、牛に特異的であって、すべての牛が有する遺伝子であれば任意である。ハウスキーピング遺伝子としては、例えば、RPP30、RPPH1及びGAPDHなどが挙げられる。RPP30を標的とする場合、プライマー対5のフォワードプライマーの塩基配列及びリバースプライマーの塩基配列として、それぞれ配列番号9に示される塩基配列及び配列番号10に示される塩基配列が例示される。
【0047】
プローブ6については、その塩基配列及びハイブリダイズの対象となる塩基配列S3がそれぞれプローブ2の塩基配列及び塩基配列S1と異なる点を除いて、上記プローブ2についての説明を参照できる。RPP30を標的とする場合、プローブ6の塩基配列として、配列番号11に示される塩基配列が例示される。
【0048】
蛍光色素61は、プローブ2が有する蛍光色素21と同じであってもよいし、異なってもよい。また、蛍光色素61は、プローブ4が有する蛍光色素41と同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、プローブ2aの蛍光色素23がHEXで、プローブ2bの蛍光色素24がFAMで、プローブ4が有する蛍光色素41がFAMとした場合、プローブ6が有する蛍光色素61をHEXとすることができる。この場合、反応液中のプローブ2bの濃度と、プローブ4の濃度とが異なるようにし、プローブ2aの濃度と、プローブ6の濃度とが異なるようにすればよい。
【0049】
好ましくは、上述の反応ステップでは、増幅反応を、定量的PCR(Quantitative PCR、qPCR)、特にはdPCRで行う。dPCRでは、W/Oエマルションにおける上記反応液を含むドロップレット(微小区画)内で増幅反応を行う。dPCRは、限界希釈(各ドロップレットにゲノムDNAが1又は0となるように希釈)したゲノムDNAをドロップレット内に分散させてPCRを行う。これによって標的の遺伝子を含むドロップレットでは蛍光シグナルが陽性となり、標的遺伝子を含まない、又はゲノムDNAを含まないドロップレットでは蛍光シグナルが陰性となる。陽性のドロップレットの数を計数することでサンプル中の標的遺伝子の濃度を絶対的に測定することができる。
dPCRは市販の装置及び試薬によって行うことができる。
【0050】
増幅反応を定量的PCRで行うことで、プライマー対5及びプローブ6によって、ハウスキーピング遺伝子、すなわち牛のゲノムDNAを定量することができる。プライマー対3及びプローブ4によって定量したBLVのプロウイルスの遺伝子の量とゲノムDNAの量とからBLV感染細胞率を求めることができる。また、プライマー対1及びプローブ2によって定量した対立遺伝子の量とゲノムDNAの量とから、対立遺伝子の陽性率、さらには、対立遺伝子のホモ接合体であるか、ヘテロ接合体であるかなどの情報を得ることができる。
【0051】
反応液における鋳型となるゲノムDNAの量、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)の量、アニーリング温度、伸長反応時間及びサイクル数等のPCRのサーマルリサイクルは、使用するプライマー対1等の塩基配列及び長さ、使用するプローブ2等の塩基配列、増幅する塩基配列S1等の長さ、並びに使用するPCR装置の種類等に応じて適宜設定される。好ましくは、対立遺伝子の有無、プロウイルスの遺伝子の量が判明しているサンプルに、本実施の形態に係る同時検査方法を適用し、判定結果の精度に基づいて反応液の組成及びサーマルリサイクルの条件などを設定するのが好ましい。
【0052】
本実施の形態に係る同時検査方法は、上記反応ステップに続いて、検出ステップをさらに含む。検出ステップでは、反応ステップにおいて、プローブ2が塩基配列S1にハイブリダイズすることで消光剤22による抑制が解除された蛍光色素21の発光、及びプローブ4が塩基配列S2にハイブリダイズすることで消光剤42による抑制が解除された蛍光色素41の発光を検出する。蛍光色素21及び蛍光色素41の発光の検出は、市販の装置を用いて蛍光強度等を測定することで検出できる。
【0053】
検出ステップでは、プローブ6が塩基配列S3にハイブリダイズすることで消光剤62による抑制が解除された蛍光色素61の発光をさらに検出してもよい。
【0054】
本実施の形態に係る同時検査方法によれば、EBLに対する抗病性に関連する対立遺伝子と、BLVのプロウイルスの遺伝子とを、1反応かつ1チューブにおける増幅反応で同時に検出できる。これにより、抗病性及びプロウイルスの遺伝子を簡便かつ迅速に検査することができる。当該同時検査方法では、対立遺伝子として、BLV抵抗性型とBLV感受性型とを検出してもよいこととした。これにより、検査対象牛の抗病性をより正確に評価することができる。また、当該同時検査方法では、牛のハウスキーピング遺伝子も1反応かつ1チューブにおける増幅反応で同時に検出できる。ハウスキーピング遺伝子を定量することで、対立遺伝子の陽性率及びBLV感染細胞率などを評価することができる。さらに、当該同時検査方法では、増幅反応をdPCRで行ってもよいこととした。dPCRを用いることで、プロウイルスの遺伝子の量及び対立遺伝子の量を高精度に絶対定量できる。
【0055】
本実施の形態に係る同時検査方法によって判定された、BLV感受性型の対立遺伝子を有する牛及びBLVを多く有する牛を隔離又は淘汰することで、ウイルスの伝播リスクを低減することができる。また、当該同時検査方法によって判定された、BLV抵抗性型の対立遺伝子を有し、かつBLVを保有しない牛をBLV感染牛の牛舎とBLV非感染牛の牛舎との間に介在させることで、BLV感染牛からBLV非感染牛へのウイルスの伝播リスクを低減することができる。
【0056】
別の実施の形態では、抗病性及び病原体遺伝子の同時検査キットが提供される。当該同時検査キットは、同一の増幅反応系内におけるPCRに使用されるプライマー対1、プローブ2、プライマー対3及びプローブ4を備える。
【0057】
より具体的には、当該同時検査キットは、プライマー対1として、塩基配列が配列番号1に示されるフォワードプライマー11F、塩基配列が配列番号2に示されるフォワードプライマー12F及び塩基配列が配列番号3に示されるリバースプライマー1Rを備え、プローブ2として、塩基配列が配列番号4に示されるプローブ2a及び塩基配列が配列番号5に示されるプローブ2bを備え、プライマー対3として、塩基配列が配列番号6に示されるフォワードプライマー3F及び塩基配列が配列番号7に示されるリバースプライマー3Rを備え、塩基配列が配列番号8に示されるプローブ4を備えてもよい。
【0058】
なお、上記同時検査キットは、上記増幅反応系内におけるPCRに使用されるプライマー対5及びプローブ6をさらに備えてもよい。より詳細には、上記同時検査キットは、プライマー対5として、塩基配列が配列番号9に示されるフォワードプライマー及び塩基配列が配列番号10に示されるリバースプライマーを備え、塩基配列が配列番号11に示されるプローブ6を備えてもよい。
【0059】
塩基配列が配列番号1に示されるフォワードプライマー11F、塩基配列が配列番号2に示されるフォワードプライマー12F、塩基配列が配列番号3に示されるリバースプライマー1R、塩基配列が配列番号4に示されるプローブ2a、塩基配列が配列番号5に示されるプローブ2b、塩基配列が配列番号6に示されるフォワードプライマー3F、塩基配列が配列番号7に示されるリバースプライマー3R及び塩基配列が配列番号8に示されるプローブ4を含む反応液でのPCRにおけるアニーリング温度は、例えば55℃~60℃、好ましくは58℃である。当該アニーリング温度は、塩基配列が配列番号9に示されるフォワードプライマー、塩基配列が配列番号10に示されるリバースプライマー及び塩基配列が配列番号11に示されるプローブ6をさらに含む反応液にも適用できる。
【0060】
なお、上記同時検査キットは、PCR、特にはdPCRに必要な緩衝液及び上述の試薬以外の試薬を備えてもよい。
【0061】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0062】
(試験例1:DRB3*009:02、BLV tax遺伝子及びRPP30の同時検出の検討)
DRB3*009:02、BLV tax遺伝子及び牛のハウスキーピング遺伝子RPP30(アクセッションナンバー:NC_037353.1)をdPCRで同時に検出できるか検討した。下記表1に示す試薬を含む反応液をdPCRに供した。検体1として、BLV感受性遺伝子保有(DRB3*016:01と015:01のヘテロ)、かつBLVの高プロウイルスを有する牛のゲノムDNAを使用した。検体2として、BLV抵抗性遺伝子保有(DRB3*009:02と015:01のヘテロ)牛のゲノムDNAを使用した。検体3として、検体1と検体2とを混合した検体を使用した。検体3は、DRB3*016:01と009:02のヘテロで、プロウイルスが検出される牛を想定している。検体4として水を使用した。牛の血液からmagLEAD 12gC(Precision System Science社製)を用いて抽出したゲノムDNAを水で10倍希釈し、テンプレートとした。
【0063】
【0064】
DRB3*009:02ジェノタイピングプローブ及びRPP30_25236_プローブの各5’末端はHEXで標識され、各3’末端はMGB-Eclipseを有する。また、BLV tax 7454プローブの5’末端はFAMで標識され、3’末端はMGB-Eclipseを有する。
【0065】
ドロップレットは、Automated Droplet Generatorオイルfor Probe(1864110、Bio-Rad社製)を使用して、Automated Droplet Generator(Bio-Rad社製)にて調製した。PCRには、C1000 Touchサーマルサイクラー(Bio-Rad社製、1851196JA)を使用した。PCRのサーマルリサイクルは、95℃を10分の初期変性の後、94℃で30秒と65℃で2分とからなるサイクルを40サイクルに続いて98℃を10分、8℃で維持とした。
【0066】
PCR後、Droplet Readerオイル(Bio-Rad社製、1863004)を使用して、QX200(商標) droplet reader(Bio-Rad社製、1864003JA)にてドロップレットの発光強度として、発光強度に比例する励起波長の振幅を測定した。振幅の解析には、解析ソフトウェアQuantaSoft又はQX Manager 1.2 Standard Edition(どちらもBio-Rad社製)を用いた。
【0067】
(結果)
検体1では、
図1に示すようにBLV tax遺伝子(FAM)とRPP30(HEX)とが検出された。DRB3*009:02及びRPP30は同じHEXの振幅に基づいて検出されるが、表1に示すように、DRB3*009:02ジェノタイピングプローブをRPP30_25236_プローブよりも低濃度で使用している。よって、検体2では、
図2に示すようにDRB3*009:02陽性ドロップレットが“HEX low”として検出され、RPP30陽性ドロップレットが“HEX high”として検出された。また、DRB3*009:02及びRPP30の両方が陽性のドロップレット“Hex very high”として検出された。検体3では、
図3に示すようにBLV tax遺伝子と、DRB3*009:02と、RPP30とが検出された。検体4では、
図4に示すように、陽性のドロップレットは検出されなかった。本試験例において、標的とする3個の遺伝子を同時に検出できた。
【0068】
(試験例2:プローブの濃度の検討)
試験例1の結果において、HEX low陽性ドロップレット、HEX high陽性ドロップレット及びHEX very high陽性ドロップレットの分布をさらに明確に分離するために、プローブの濃度を検討した。表1に示す反応液におけるBLV tax 7454プローブ、DRB3*009:02ジェノタイピングプローブ及びRPP30_25236_プローブの量をそれぞれX、Y及びZとして、表2に示すX、Y及びZの反応液1~15を調整した。テンプレートには検体3由来のゲノムDNAを使用した。反応液1~15について、試験例1と同様にPCRを行い、振幅を解析した。
【0069】
【0070】
(結果)
反応液1~3、反応液4~7、反応液8~12及び反応液13~15のHEXの振幅をそれぞれ
図5(A)、(B)、(C)及び(D)に示す。DRB3*009:02ジェノタイピングプローブ0.4μLとRPP30_25236_プローブ0.8μLとを含む反応液10及び反応液15において、HEX low陽性ドロップレット、HEX high陽性ドロップレット及びHEX very high陽性ドロップレットが最も明確に互いに分離されて検出された。
【0071】
(試験例3:BLVプロウイルスの遺伝子の検出の検討)
BLVプロウイルスの遺伝子の検出能をさらに高めるために、株間において塩基配列の保存性が高いpol遺伝子に対してプライマー及びプローブを設計した。NCBI Genbankデータベース上に登録されているBLVの各株のpol遺伝子の塩基配列をアライメントし、pol遺伝子の保存領域を調べ、保存領域に対して表3に示すプライマー/プローブセットA、プライマー/プローブセットB、プライマー/プローブセットC及びプライマー/プローブセットDを設計した。なお、BLV_pol_4639 プローブ、BLV_pol_4560 プローブ及びBLV_pol_4635 プローブの各5’末端はFAMで標識されている。また、BLV_pol_4639 プローブ、BLV_pol_4560 プローブ及びBLV_pol_4635 プローブの各3’末端はBHQ-1を有する。BLV_pol_4635 プローブの3’末端はBHQ-1を有する。表4に示す組成の反応液について試験例1と同様にdPCRを行った。表4におけるBLV_pol フォワードプライマー、BLV_pol リバースプライマー及びBLV_pol プローブとして、プライマー/プローブセットA、プライマー/プローブセットB、プライマー/プローブセットC又はプライマー/プローブセットDを使用した。テンプレートには検体3由来のゲノムDNAを使用した。
【0072】
【0073】
【0074】
(結果)
図6、
図7、
図8及び
図9は、それぞれプライマー/プローブセットA、プライマー/プローブセットB、プライマー/プローブセットC及びプライマー/プローブセットDを使用した反応液について解析したドロップレットの振幅の分布を示す。プライマー/プローブセットB及びプライマー/プローブセットCを使用した反応液において、FAM陽性ドロップレットとFAM陰性ドロップレットとがより明確に分離して検出された。
【0075】
(試験例4:PCRの条件検討)
試験例3において、プライマー/プローブセットBを使用した場合に、FAM陽性ドロップレットの蛍光強度が低い検体(BLV感染牛;M29)が見られた。これは、プローブの塩基配列とBLVプロウイルスのpol遺伝子の塩基配列との間にミスマッチがあり、プローブが十分にハイブリダイズできなかったことを示す。そこでPCRの温度条件及び増幅時間を検討した。
【0076】
上記表4に示す組成において、BLV_pol フォワードプライマー、BLV_pol リバースプライマー及びBLV_pol プローブとしてプライマー/プローブセットBを使用した反応液について、PCRのサーマルリサイクル以外は試験例1と同様にdPCRを行った。本試験例でのPCRのサーマルリサイクルは、95℃を10分の初期変性の後、94℃で30秒とD℃で2分とからなるサイクルを60サイクルに続いて98℃を10分、8℃で維持とした(Dは65、64.6、63.7、62.4、60.8、59.5、58.6又は58である)。テンプレートには試験例1の検体1~4に加え、M29由来のゲノムDNAを使用した。
【0077】
(結果)
M29由来のゲノムDNAをテンプレートとして含む反応液のFAM(BLV pol遺伝子)の振幅を
図10に示す。58℃の場合に、陽性ドロップレットと陰性ドロップレットとが最も分離して検出された。なお、検体1~4については、すべてのDにおいて検出能を維持した。
【0078】
(試験例5:DRB3*009:02、DRB3*016:01、BLV pol遺伝子及びRPP30の同時検出の検討)
DRB3*009:02、DRB3*016:01、BLV pol遺伝子及びRPP30に加えて、対立遺伝子DRB3*016:01の同時検出を検討した。DRB3*016:01に対するリバースプライマーはDRB3*009:02に対するリバースプライマーと同じとし(“共通リバースプライマー”ともいう)、DRB3*016:01に対するフォワードプライマーとプローブとを設計した。非特異的なシグナルを検出しないように、DRB3*016:01に対するフォワードプライマーと共通リバースプライマーとによって増幅される塩基配列にDRB3*009:02に対するプローブがハイブリダイズしない位置に、表5に示すDRB3*016:01に対するフォワードプライマーとプローブとを設計した。なお、DRB3*016:01に対するプローブの5’末端はFAMで標識され、3’末端はMGB-Eclipseを有する。
【0079】
【0080】
表6に示す組成の反応液について、PCRのサーマルリサイクル以外は試験例1と同様にdPCRを行った。表6中のMは、0.25、0.2、0.15、0.1とした。本試験例でのPCRのサーマルリサイクルは、95℃を10分の初期変性の後、94℃で30秒と58℃で2分とからなるサイクルを60サイクルに続いて98℃を10分、8℃で維持とした。テンプレートには試験例1の検体1~4及びM29由来のゲノムDNAを使用した。
【0081】
【0082】
(結果)
図11及び
図12は、それぞれ検体1及びM29由来のゲノムDNAを含む反応液のFAMの振幅を示す。プローブの添加量が0.15μLの場合にFAM low陽性ドロップレット、FAM high陽性ドロップレット及びHEX very high陽性ドロップレットが最も明確に互いに分離されて検出された。
【0083】
Mが0.15μLの反応液で測定した検体1についてのFAM及びHEXの振幅の分布を
図13に示す。BLV感受性遺伝子及び高プロウイルスを保有する検体1では、RB3*016:01、BLV pol遺伝子及びRPP30において陽性のドロップレットが検出された。Mが0.15μLの反応液で測定した検体2についてのFAM及びHEXの振幅の分布を
図14に示す。BLV抵抗性遺伝子を保有する検体2では、RB3*009:02及びRPP30において陽性のドロップレットが検出された。Mが0.15μLの反応液で測定した検体3についてのFAM及びHEXの振幅の分布を
図15に示す。BLV抵抗性遺伝子、BLV抵抗性遺伝子及び高プロウイルスを保有する検体3では、RB3*016:01、BLV pol遺伝子、RB3*009:02及びRPP30において陽性のドロップレットが検出された。Mが0.15μLの反応液で測定した検体4についてのFAM及びHEXの振幅の分布を
図16に示す。陰性対照の検体4では、陽性のドロップレットは検出されなかった。Mが0.15μLの反応液で測定したM29についてのFAM及びHEXの振幅の分布を
図17に示す。高プロウイルスを保有するM29では、BLV pol遺伝子及びRPP30において陽性のドロップレットが検出された。
【0084】
(試験例6:ロック核酸による特異性の向上の検討)
上記試験例5におけるMが0.15μLの反応液で野外検体について測定した場合に、非特異反応を示す検体M6が見られた。M6は、BLV非感染牛で、DRB3*018:01と*028:01とヘテロアリルであった。非特異反応の原因として、DRB3*016:01に対するフォワードプライマーと他のプライマーの交差反応が考えられることから、各プライマーの特異性の向上を検討した。
【0085】
特異性を向上させるために、2’-Oと4’-Cがメチレンで架橋された人工合成核酸であるロック核酸を3’末端に導入し、塩基配列のRB3*009:02に対するプライマー(RB3*009:02 LF1)及びDRB3*016:01に対するプライマー(DRB3*016:01 LF1)を設計した。RB3*009:02 LF1及びDRB3*016:01 LF1の塩基配列を表7に示す。
【0086】
【0087】
表8に示す組成の反応液について、試験例5と同様にdPCRを行った。テンプレートにはM6由来のゲノムDNAを使用した。
【0088】
【0089】
(結果)
比較のために、上記試験例5におけるMが0.15μLの反応液を用いて測定したM6についてのFAM及びHEXの振幅の分布を
図18に示す。
図19は本試験例に係るM6についてのFAM及びHEXの振幅の分布を示す。
図18の分布に現れた非特異反応による陽性ドロップレットを、ロック核酸を含むフォワードプライマーを使用することで抑制することができた。
【0090】
(試験例7:ロック核酸を有するプライマーを用いる検査方法の調整)
表9に示す組成の反応液について、試験例5と同様にdPCRを行った。テンプレートには検体1~4及びM29に加え、DRB3*016:01及びDRB3*009:02を有していないBLV感染牛(検体5)、DRB3*016:01及びDRB3*009:02を有していないBLV非感染牛(検体6)由来のゲノムDNAを使用した。
【0091】
【0092】
(結果)
検体1~6及びM29における振幅の分布を、それぞれ
図20~25及び
図26に示す。検体1~6及びM29の抗病性に関連する対立遺伝子及びBLVの感染有無を正しく反映した陽性ドロップレットを検出することができた。
【0093】
上記試験例におけるdPCRでは、BLV感染細胞率がBLV pol遺伝子陽性ドロップレット数をRPP30陽性ドロップレット数の1/2で除した値として算出できる。DRB3*016:01陽性率がDRB3*016:01陽性ドロップレット数をRPP30陽性ドロップレット数で除した値として算出できる。DRB3*009:02陽性率がDRB3*009:02陽性ドロップレット数をRPP30陽性ドロップレット数で除した値として算出できる。DRB3*016:01陽性率が約1の場合、DRB3*016:01のホモ接合体であって、約0.5の場合、DRB3*016:01と他のアリルとのヘテロ接合体であることを示す。同様に、DRB3*009:02陽性率が約1の場合、DRB3*009:02のホモ接合体であって、約0.5の場合、DRB3*009:02と他のアリルとのヘテロ接合体であることを示す。
【0094】
(試験例8:アリルタイピングの感度及び特異度の分析)
牛のゲノムDNA58検体について、PCR-RFLP及びシークエンス法で塩基配列を決定した。一方で、上記表9に示す組成の反応液を用いて、試験例5と同様にdPCRを行った。
【0095】
PCR-RFLP法は、TaKaRa Ex Taq(商標)Hot Start Version(RR006A、タカラバイオ社製)を使用して以下のように行った。制限酵素(いずれもNew England BioLabs社製)として、Rsa I(R0167S)、Hae III(R0108S)及びBstY I(R0523S)を使用し、反応液にはNEB Buffer ver 2.1及びCutSmart(いずれもNew England BioLabs社製)を使用した。テンプレートを牛血液由来DNA(100~200ng/μL)とした。
【0096】
まず、DRB3 エクソン2を標的としたセミネステッドPCRを行った。第1ラウンドのPCRの反応ミックスの組成はNuclease-free water 14.8μL、10×バッファー(20mM Mg2+添加) 2.0μL、dNTP Mixture(各2.5mM) 1.6μL、プライマーHL030(10μM) 0.2μL、プライマーHL031(10μM) 0.2μL、及びTakara Ex Taq HS(5U/μL) 0.2μLとした。プライマーHL030及びプライマーHL031の塩基配列をそれぞれ配列番号26及び27に示す。
【0097】
上記の反応ミックスにサンプルDNAを1μL入れて、PCRを行った。反応条件は、98℃で2分間保持した後、98℃で10秒間と、60℃で15秒間と、72℃で30秒と、からなるサイクルを10サイクル繰り返し、72℃で7分間保持し、10℃とした。
【0098】
第2ラウンドのPCRの反応ミックスの組成はNuclease-free water 30.2μL、10×バッファー(20mM Mg2+添加) 4.0μL、dNTP Mixture(各2.5mM) 3.2μL、プライマーHL030(10μM) 0.2μL、プライマーHL032(10μM) 0.2μL、及びTakara Ex Taq HS(5U/μL) 0.2μLとした。プライマーHL032の塩基配列をそれぞれ配列番号28に示す。
【0099】
上記の反応ミックスに第1ラウンドのPCR産物を2μL入れて、PCRを行った。反応条件は、98℃で2分間保持した後、98℃で10秒間と、60℃で15秒間と、72℃で30秒と、からなるサイクルを35サイクル繰り返し、72℃で7分間保持し、10℃とした。
【0100】
続いて、第2ラウンドのPCRで得たPCR産物をBstY I、Rsa I及び Hae IIIで切断処理した。BstY Iの反応の反応ミックスの組成は、蒸留水 3.0μL、10×NEB Buffer 1.5μL及びBstY I(10U/μL) 0.5μLとした。当該反応ミックスに、PCR産物を10μL加え、60℃で5時間インキュベートした。
【0101】
Rsa I及び Hae IIIの反応の反応ミックスの組成は、蒸留水 3.0μL、10×CutSmart Buffer 1.5μL及びRsa I又はHae III(10U/μL) 0.5μLとした。当該反応ミックスに、PCR産物を10μL加え、37℃で6時間インキュベートした。
【0102】
ポリアクリルアミドゲルの組成は、1×Tris-Borate-EDTA Buffer(TBE緩衝液、T9121、タカラバイオ社製) 16.3mL、アクリルアミド液(40w/v%-アクリルアミド/ビス混合液(19:1)、06140-45、ナカライテスク社製) 3.5mL、10% APS(過硫酸アンモニウム、1610700、BIORAD社製) 200μL及びTEMED(テトラメチルエチレンジアミン、1610800、BIORAD社製) 14μLとした。ポリアクリルアミドゲルを電気泳動装置に固定後、1×TBE緩衝液を装置に入れて、6×sample loading bufferと混ぜたサンプルを15μLずつ各ウェルに入れた。140Vで28分間、電気泳動を行った。蒸留水 40mLとGelRed(41002、コスモ・バイオ社製) 2μLとの混合液にゲルを入れ、20分間撹拌した。紫外線下でゲルを撮影し、バンドパターンにより牛MHC クラスIIアリルのタイピングを行った。
【0103】
さらにシークエンス法により、これらの全検体のDNA配列を決定した。シークエンス法は、BigDye(商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(4337456、Applied Biosystems社製)を使用したサンガー法にて行い、プライマーとしてHL030及びHL032を使用した。もし検体の対立遺伝子がヘテロ接合体で、シークエンシングにおいて異なる対立遺伝子のベースコーリング波形が重なった所見が得られた場合、PCR-RFLP法のバンドパターンと併せて対立遺伝子の遺伝子型を決定した。
【0104】
(結果)
dPCRで得られた振幅の分布からDRB3*016:01が陽性と判定された検体数と、塩基配列から判明した対立遺伝子との比較を表10に示す。dPCRで得られた振幅の分布からDRB3*009:02が陽性と判定された検体数と、塩基配列から判明した対立遺伝子との比較を表11に示す。dPCRによる対立遺伝子の判定は、塩基配列から判明した対立遺伝子と完全に一致した。
【0105】
【0106】
【0107】
(試験例9:プロウイルスの定量性能の評価)
牛のゲノムDNA40検体について、上記表9に示す組成の反応液を用いて、試験例5と同様にdPCRを行った。BLV pol遺伝子陽性ドロップレット数及びRPP30陽性ドロップレット数からBLV感染細胞率として求め、qPCRによって定量したBLV感染細胞率と比較した。
【0108】
リアルタイムPCRによるBLVの感染細胞率(プロウイルスのコピー数÷(0.5×ハウスキーピング遺伝子のコピー数)×100)は、ウシ白血病ウイルス検出キット(with ROX Reference Dye、タカラバイオ社製)を用いて、QuantStudio 3リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社製)で測定した。
【0109】
(結果)
dPCRで求めたBLV感染細胞率に対するqPCRで求めたBLV感染細胞率を
図27に示す。本試験例に係るdPCRは、qPCRと同等の精度でウイルスを定量できることが示された。
【0110】
(試験例10:プロウイルスの検出限界の評価)
BLV感染牛(感染細胞率1.5%)の血液を非感染牛の血液で系列希釈した。系列希釈したサンプルからゲノムDNAを抽出し(n=3)、試験例9と同様に、dPCR及びqPCRを行った。
【0111】
(結果)
表12に示すように、本試験例に係るdPCRによるウイルス検出限界は、qPCRと同等であることが示された。
【0112】
【0113】
(試験例11:ELISAによるBLV感染牛の検出能力との比較)
牛のゲノムDNA65検体について、上記表9に示す組成の反応液を用いて、試験例5と同様にdPCRを行い、各検体のBLV pol遺伝子の陽性又陰性を判定した。一方、BLVに対する抗体を検出するELISAキット(ニッポンジーン社製)を用いて、抗体の陽性又は陰性を判定した。
【0114】
(結果)
表12に示すように、本試験例に係るdPCRによる感染牛の判定結果は、ELISAによる判定結果と高い一致度を示した。dPCRが陽性でELISAが陰性の検体は、初期感染牛であると考えられる。dPCRが陰性でELISAが陽性の検体は、BLVに対して抵抗性のある個体である可能性が高い。dPCRが陰性でELISAが陽性の検体の内、1検体は、BLV抵抗性遺伝子DRB3*009:02が陽性であった。
【0115】
【0116】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
1,3,5 プライマー対、2,2a,2b,4,6 プローブ、1F,11F,12F フォワードプライマー、1R,11R,12R リバースプライマー、21,23,24,41,61 蛍光色素、22,42,62 消光剤、S1,S1a,S1b,S2,S3 塩基配列