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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035895
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金基板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20240308BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240308BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20240308BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240308BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20240308BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240308BHJP
   B22D 11/00 20060101ALN20240308BHJP
   B22D 11/049 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
C22C21/06
C23C18/31 A
G11B5/82
G11B5/73
C22F1/047
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 661D
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684B
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
B22D11/00 E
B22D11/049
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140507
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】立山 真司
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢哉
【テーマコード(参考)】
4E004
4K022
5D006
【Fターム(参考)】
4E004NC08
4K022AA02
4K022AA44
4K022BA14
4K022CA03
4K022CA17
4K022CA29
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB26
4K022DB28
4K022EA04
5D006CB04
5D006DA03
(57)【要約】
【課題】コストを増加させることなく、Mg-Si系金属間化合物の再析出を抑制して窪み孔等の欠陥の発生を予防した、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供すること。
【解決手段】Mg:2.5~6.0mass%、Mn:0.1~0.5mass%、Si:0.01~0.06mass%、およびFe:0.045~1.1mass%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金からなり、1.0mm当たりAl-Mn-Fe-Si系の組成を有し最長径3μm~7μmを有する金属間化合物を300個以上有し、1.0mm当たりの最長径8μm以上を有するMg-Si系金属間化合物の個数が0個である、磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:2.5~6.0mass%、Mn:0.1~0.5mass%、Si:0.01~0.06mass%、およびFe:0.045~1.1mass%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、
1.0mm当たり、Al-Mn-Fe-Si系の組成を有し最長径3μm~7μmを有する金属間化合物を300個以上有し、
1.0mm当たりの最長径8μm以上を有するMg-Si系金属間化合物の個数が0個である、
磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項2】
さらに、下記(a)~(d)からなる群から選択された少なくとも一種の元素を含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
(a)Cu:0.003~0.15mass%、
(b)Zn:0.05~0.6mass%、
(c)Cr:0.01~0.3mass%、
(d)Be:0.0001~0.01mass%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアルミニウム合金製磁気ディスクの製造過程では、アルミニウム圧延材を円環状に打抜いて円環状にしたアルミニウム合金板を積層し、該アルミニウム合金板の積層体を両面から加圧しながら平坦化する焼鈍(加圧焼鈍)を行う工程により円環状アルミニウム合金基板を作製する。円環状アルミニウム合金基板には、前処理として切削加工、研削加工、脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで下地処理として硬質非磁性金属であるNi-P無電解メッキを行い、該メッキの表面にポリッシングを施した後、スパッタリングにより磁性体を成膜してアルミニウム合金製磁気ディスクを製造する。
【0003】
上記のような従来のアルミニウム合金製磁気ディスクの製造工程において、エッチング、めっき処理などの化学処理時にディスク表面に磁気記録エラーとなる欠陥を作らないことが重要である。しかし、アルミニウム合金製磁気ディスクの表面に存在する最長径8μm以上のMg-Si系金属間化合物粒子が溶解・脱離して窪み孔を形成するため、該窪み孔が欠陥の原因として問題になる。このMg-Si系金属間化合物粒子は、アルミニウム地金中に存在するSiと、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度を確保するため必要な添加元素であるMgとが結合することで生成される。このため、従来はアルミニウム地金中のSi量を減らすため、99.99mass%を超える純度まで精錬された高純度アルミニウムを一部使用することで対応しており、コスト上問題になってきた。そこで、従来から高純度のアルミニウム地金を使用せずに粗大Mg-Si系金属間化合物の形成を抑える磁気ディスク用アルミニウム合金基板についての検討が行われてきた。
【0004】
特許文献1(特開平04-341535号公報)には、アルミニウム合金中にMnを0.05~0.5%添加することでアルミニウム合金中のSiを無害なAl-(Mn、Fe)-Si系化合物中に吸収させることができ、Mg-Si系化合物の鋳造時の晶出を抑えられることが示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、コスト上の問題の解決には至っていない。
【0005】
特許文献1に開示されている方法の問題点は、均質化処理後に一度、面削のための炉出しをしていることであり、この際に粗大なMg-Si系化合物が鋳造時の晶出だけでなく、均質化処理後の冷却中にも形成される。このため、引用文献1の方法では炉出し時の粗大析出が懸念され、それを抑えるためにアルミニウム合金中のSi、Fe量の要求水準も高くなってしまったものと推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04-341535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、Mnが所定含量範囲のアルミニウム合金を用いることにより、鋳造時に晶出するMg-Si系金属間化合物の形成量を抑えて窪み孔等の欠陥の発生を予防すると共に製造工程も改善されることを発見し、完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、均質化処理にてアルミニウム合金中に残存するMg-Si系金属間化合物を十分に固溶させ、炉出し後、特定の冷却速度で冷却して熱間圧延温度に到達次第、ただちに熱間圧延をする工程を適用することで製造工程を改善する。この結果、Mg-Si系金属間化合物の再析出を抑制して窪み孔等の欠陥の発生を予防すると共に、コストの高い99.99mass%を超える高純度アルミニウム地金を必要としない水準までFe、Si量を許容することを可能としたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、コストを増加させることなく、Mg-Si系金属間化合物の再析出を抑制して窪み孔等の欠陥の発生を予防した、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]Mg:2.5~6.0mass%、Mn:0.1~0.5mass%、Si:0.01~0.06mass%、およびFe:0.045~1.1mass%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板であって、
1.0mm当たり、Al-Mn-Fe-Si系の組成を有し最長径3μm~7μmを有する金属間化合物を300個以上有し、
1.0mm当たりの最長径8μm以上を有するMg-Si系金属間化合物の個数が0個である、
磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
[2]さらに、下記(a)~(d)からなる群から選択された少なくとも一種の元素を含有する、上記[1]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
(a)Cu:0.003~0.15mass%、
(b)Zn:0.05~0.6mass%、
(c)Cr:0.01~0.3mass%、
(d)Be:0.0001~0.01mass%
【発明の効果】
【0010】
コストを増加させることなく、Mg-Si系金属間化合物の再析出を抑制して窪み孔等の欠陥の発生を予防した、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.磁気ディスク用アルミニウム合金基板
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、Mg:2.5~6.0mass%、Mn:0.1~0.5mass%、Si:0.01~0.06mass%、およびFe:0.045~1.1mass%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金からなり、1.0mm当たり、Al-Mn-Fe-Si系の組成を有し最長径3μm~7μmを有する金属間化合物を300個以上有し、1.0mm当たりの最長径8μm以上を有するMg-Si系金属間化合物の個数が0個である。
【0012】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、1.0mm当たり、Al-Mn-Fe-Si系の組成を有し最長径3μm~7μmを有する金属間化合物を300個以上有する。Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物は、磁気ディスク製造時のエッチング中に溶解・脱落することはないため、磁気ディスク用アルミニウム合金基板のめっき処理時に悪影響を及ぼさない。この上、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物はSiを含む化合物である。このため、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1.0mm当たり300個以上の、最長径3μm~7μmを有するAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物を有することにより、アルミニウム地金中のSiを十分に吸収してMg-Si系金属間化合物の形成を抑制できると共に、切削処理時に悪影響を及ぼすこともない。Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物の個数が300個/mm未満であると、Mg-Si系金属間化合物の形成を抑制する上で十分な効果が得られない。一方、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物で最長径が3μm未満のものは、多くの場合、存在するが、それらの粒子は微細であるためにMg-Si系金属間化合物の形成を抑制する上で実質的な効果が無い。このため、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1.0mm当たりの、最長径が3μm未満のAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の個数は考慮する必要はない。また、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物の最長径が7μmを超えると、切削上の悪影響が生じる。このため、本発明では、最長径3μm以上7μm以下の範囲のAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物粒子が300個/mm以上となるように、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造する。磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、1.0mm当たり最長径3μm~7μmを有するAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物を300~2000個有することが好ましく、300~1500個有することがより好ましく、300~1000個有することがさらに好ましい。なお、「1.0mm当たりAl-Mn-Fe-Si系の組成を有し最長径3μm~7μmを有する金属間化合物の個数」は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を10mm角に切断して表面を研磨したサンプルに対し走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と記載する場合がある)自動分析を行うことによって測定する。より具体的には、SEMの断面画像におけるAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の輪郭線上の一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を最長径として測定し、次いで1.0mm当たり最長径3μm~7μmを有するAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の個数をカウントすることによって測定することができる。また、Al-Mn-Fe-Si系の組成を有する金属間化合物としては、Al12(Fe,Mn)Siなどを挙げることができる。
【0013】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板に含まれる1.0mm当たりの最長径8μm以上を有するMg-Si系金属間化合物の個数は0個である。磁気ディスク用アルミニウム合金基板1.0mm当たりの最長径8μm以上を有するMg-Si系金属間化合物の個数が0個であることにより、窪み孔の発生を抑制して欠陥の発生を予防することができる。なお、「Mg-Si系金属間化合物の最長径」は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を10mm角に切断して表面を研磨したサンプルに対しSEM自動分析を行うことによって測定する。より具体的には、SEMの断面画像における断面におけるMg-Si系金属間化合物の輪郭線上における一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を測定することによって得ることができる。また、Mg-Si系金属間化合物としては、MgSiなどを挙げることができる。
【0014】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板はさらに、下記(a)~(d)からなる群から選択された少なくとも一種の元素を含有することが好ましい。
(a)Cu:0.003~0.15mass%、
(b)Zn:0.05~0.6mass%、
(c)Cr:0.01~0.3mass%、
(d)Be:0.0001~0.01mass%。
【0015】
以下では、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を構成するアルミニウム合金を構成する各元素について詳細に説明する。
【0016】
(Mg:2.5~6.0mass%)
Mgは主として磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度を向上させる効果がある。Mgの含有量を2.5~6.0mass%に規定した理由は、2.5mass%未満では磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度が不十分であり、6.0mass%を超えると8μm以上の粗大なAl-Mg系金属間化合物が生成し、磁気ディスクを製造する際のエッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時にAl-Mg系金属間化合物が脱落して大きなピットが発生し、メッキ面の平滑性が低下するためである。Mgの含有量は、強度および製造の容易さの兼合いから2.5~6.0mass%とする。
【0017】
(Mn:0.1~0.5mass%)
Mnはアルミニウム地金中のSiと結合してAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物を生成する。このAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物は磁気ディスクを製造する際のめっき処理において特に有害な効果はなく、更にアルミニウム地金中のSiを吸収するためエッチング時に脱落孔を生じる有害なMg-Si系金属間化合物の生成を抑制させる効果がある。Mnの含有量はアルミニウム地金中のSiを吸収するのに十分な量が必要であり、0.10mass%未満では効果が不十分である。また、Mnの含有量は、0.50mass%を超えると生成する晶出物が大きくなり、生成する化合物はAl-Mn系化合物が中心となってAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物によるSiの吸収効果の増大が望めない。そのため、Mnの含有量は、0.1~0.5mass%の範囲とするが、0.1~0.4mass%が好ましく、0.1~0.3mass%がより好ましく、0.1~0.2mass%がさらに好ましい。
【0018】
(Si:0.01~0.06mass%)
Siは本発明の必須元素であるMgと結合してメッキ欠陥の原因となるMg-Si系金属間化合物を生成するため、アルミニウム合金中にSiが含まれることは好ましくない。しかし、Siはアルミニウム合金中に微量で存在することから、通常は純度の高い例えば純度99.9mass%のアルミニウム地金を採用する。このような地金にも0.01mass%の微量なSiは含まれるが、これ以上Siを取り除くにはアルミニウム地金を高純度に精錬することとなりコスト高を招く。そのため、アルミニウム合金中のSiの含有量は0.01~0.06mass%とする。Siの含有量は0.06mass%を超えると、Mnによる抑制効果が働かず、最長径8μm以上の粗大なMg-Si系金属間化合物を形成するため、好ましくない。
【0019】
(Fe:0.045~1.1mass%)
Feはアルミニウム地金中に存在し、ほとんど固溶せずAl-Fe系化合物などの形で存在する。アルミニウム合金中のFeが1.1mass%超と多すぎると粗大なAl-Fe系化合物が生成して切削性を低下させることから、Fe量は1.1mass%以下とする。また、Fe量を0.045mass%未満とするためにはアルミニウム合金からFeを積極的に取り除くためにアルミニウム地金を高純度に精錬することになり、コスト高を招き好ましくない。そのため、アルミニウム合金中のFeの含有量は0.045~1.1mass%とする。
【0020】
(Cu:0.003~0.15mass%)
Cuは、磁気ディスクを製造する際のジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に薄く、緻密に付着させる効果がある。その結果、次の下地処理工程のNi-Pからなるメッキ表面の平滑性を向上させる。アルミニウム合金中のCuの含有量は0.003~0.15mass%であることが好ましい。Cuの含有量は0.003~0.15mass%が好ましい理由は、0.003mass%未満ではその効果が十分に得られない可能性があり、0.15mass%を超えると粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が生成して、メッキ処理後ピットが発生し平滑性が低下するおそれがあるためである。さらに、材料自体の耐食性を低下させるため、ジンケート処理により生成するジンケート皮膜が不均一となり、メッキの密着性や平滑性が低下する場合がある。アルミニウム合金中のより好ましいCu含有量は、0.005~0.1mass%の範囲内である。
【0021】
(Zn:0.05~0.6mass%)
ZnはCuと同様に、磁気ディスクを製造する際のジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に薄く緻密に付着させ、次の下地処理工程のメッキ表面の平滑性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のZnの含有量は0.05~0.6mass%であることが好ましい。Znの含有量は0.05~0.6mass%が好ましい理由は、0.05mass%未満ではその効果が十分に得られない場合があり、0.6mass%を超えると、粗大なAl-Cu-Mg-Zn系金属間化合物が生成して、メッキ処理後ピットが発生し平滑性が低下する場合があるためであり、さらに材料自体の加工性や耐食性を低下させる可能性があるためである。アルミニウム合金中のより好ましいZn含有量は、0.05~0.5mass%の範囲内である。
【0022】
(Cr:0.01~0.3mass%)
Crは鋳造時に微細な金属間化合物を生成するが、一部はマトリックスに固溶して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度向上に寄与する。また、Crは、切削性と研削性を高めさらに再結晶組織を微細にして、メッキ層の密着性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のCrの含有量は0.01~0.3mass%が好ましい。Crの含有量は0.01~0.3mass%が好ましい理由は、0.01mass%未満ではその効果が十分に得られない場合があり、0.3mass%を超えると鋳造時に過剰分が晶出すると同時に粗大なAl-Cr系金属間化合物が生成し、磁気ディスクを製造する際のエッチング時、ジンケート処理時、切削や研削加工時に金属間化合物が脱落して大きなピットが発生し、メッキ面の平滑性が低下する場合があるためである。アルミニウム合金中のより好ましいCr含有量は、0.01~0.2mass%の範囲内である。
【0023】
(Be:0.0001~0.01mass%)
鋳造時に、Mgの溶湯酸化を抑制するためにアルミニウム合金中には微量のBeを添加してもよい。従って、本発明のアルミニウム合金においても、微量のBeを含有することは許容される。アルミニウム合金中のBeの含有量は0.0001~0.01mass%が好ましい。アルミニウム合金中のBeの含有量が0.0001mass%未満では上記の効果が得られない場合があり、Beの含有量が0.01mass%を越えて添加してもその添加効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない場合がある。アルミニウム合金がBeを添加する場合のBe添加量は、0.0001~0.0025mass%の範囲内とすることがより好ましい。
【0024】
アルミニウム合金は上記各元素の他に、残部Alおよび不可避的不純物を含有する。ここで、不可避的不純物としては例えばTi、V、Ga、B等を挙げることができ、各々の元素は0.05mass%以下であり、かつ合計で0.15mass%以下であれば、本発明で得られる磁気ディスク用アルミニウム合金基板としてその特性を損なうことはない。
【0025】
2.磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法
以下では、本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法を構成する各工程を説明します。
【0026】
(鋳造工程)
まず、Mg:2.5~6.0mass%、Mn:0.1~0.5mass%、Si:0.01~0.06mass%、およびFe:0.045~1.1mass%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金溶湯を、半連続鋳造(DC鋳造)法などの常法に従って鋳造した後、冷却する。鋳造後に得られた鋳塊の冷却速度は0.1℃/秒以上とするのが好ましい。冷却速度が0.1℃/秒未満の場合は、粗大な金属間化合物が生成するため切削や研削の加工時において、これらの金属間化合物が連続して脱落し大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する場合がある。なお、上記冷却速度の上限値は特に限定されるものではなく鋳造装置の能力によって自ずと決まるが、本発明の一例では0.5℃/秒とする。
【0027】
(均質化処理工程)
鋳塊は520℃を超え580℃以下の温度で1~24時間、好ましくは540以上560℃以下の温度で3~15時間、加熱することによって均質化処理を行う。この均質化処理によりMg-Si系金属間化合物を固溶させ、めっき表面における欠陥発生の原因となる大きな孔の発生を抑制する。
【0028】
(熱間圧延工程)
均質化処理工程後に、鋳塊を熱間圧延する。均質化処理後に炉出しした鋳塊を冷却し、熱間圧延開始温度に到達後、ただちに熱間圧延を行うことで、Mg-Si系金属間化合物の再析出を抑制する。均質化処理後に炉出した鋳塊の冷却速度は好ましくは100℃/h以上とし、熱間圧延開始温度は好ましくは350~500℃とし、熱間圧延終了温度を好ましくは260~380℃とする。
【0029】
(冷間圧延工程)
熱間圧延工程終了後の熱間圧延板は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げられる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めれば良く、例えば圧延率を好ましくは20~90%とする。更に、冷間圧延の前又は冷間圧延の途中において、冷間圧延加工性を確保するために好ましくは280~380℃の温度で、好ましくは0~10時間の焼鈍処理を施してもよい。以上のようにして、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を作製する。
【0030】
3.磁気ディスクの製造方法
以上のようにして製造した磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いて、磁気ディスクを製造する。まず、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を円環状に打ち抜き円環状磁気ディスク用アルミニウム合金基板を調製する。次いで、この円環状磁気ディスク用アルミニウム合金基板に300~450℃、30分以上の加圧焼鈍を行なって、平坦化したディスクブランクを調製する。
【0031】
このようにして平坦化したディスクブランクに、切削加工、研削加工、ならびに、好ましくは、300~400℃の温度で5~15分の歪取り加熱処理からなる加工処理をこの順序で施して磁気ディスク用基板とする。次いで、この磁気ディスク用基板に、めっき前処理として、脱脂処理、エッチング処理及びジンケート処理をこの順序で行なう。脱脂処理は市販のAD-68F(上村工業製)脱脂液等を用い、温度40~70℃、処理時間3~10分、濃度200~800mL/Lの条件で脱脂を行うことが好ましい。エッチング処理は、市販のAD-107F(上村工業製)エッチング液等を用い、温度50~75℃、処理時間0.5~5分、濃度20~100mL/Lの条件でエッチングを行うことが好ましい。なお、エッチング処理と後述のジンケート処理の間に、通常のデスマット処理を行なっても良い。ジンケート処理は市販のAD-301F-3X(上村工業製)のジンケート処理液等を用い、温度10~35℃、処理時間0.1~5分、濃度100~500mL/Lの条件で行うことが好ましい。
【0032】
ジンケート処理をした磁気ディスク用基板の表面に、下地めっき処理として無電解でのNi-Pめっき処理が施される。無電解でのNi-Pめっき処理は、市販のニムデンHDX(上村工業製)めっき液等を用い、温度80~95℃、処理時間30~180分、Ni濃度3~10g/Lの条件でめっき処理を行うことが好ましい。以上のめっき前処理と無電解でのNi-Pめっき処理によって、下地処理した磁気ディスク用基板が得られる。最後に、下地めっき処理とした磁気ディスク用基板の表面にスパッタリングによって磁性体を付着させ磁気ディスクとする。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0034】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1~7および比較例1~4)
まず、各例において、溶解炉で表1に示す化学成分を有する溶湯を調製した。
【表1】
【0036】
次に、溶解炉内の溶湯を移し、鋳造を行い鋳塊を作製した。次いで、鋳塊の表面を面削し、鋳塊表面に存在する偏析層を除去した。面削を行った後に鋳塊を表2に示す条件で加熱することによって均質化処理を行なった。均質化処理後に炉出しした鋳塊を、比較例2を除くすべての場合において、冷却速度150℃/hで冷却し、熱間圧延開始温度である450℃になったら直ぐに熱間圧延を行った。尚、比較例2の場合については、均質化処理後に炉出しした鋳塊を、冷却速度50℃/hで冷却し、熱間圧延開始温度である450℃になったら直ぐに熱間圧延を行った。次いで、熱間圧延を板厚30mmから板厚3mmまで行い、板温度320℃で熱間圧延を終了した。更に、室温にて、板厚3mmから板厚0.7mmまで冷間圧延を実施して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得た。得られた磁気ディスク用アルミニウム合金基板について、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物およびMg-Si系金属間化合物のサイズ分布の評価は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を10mm角に切断して表面を研磨したサンプルに対し、走査型電子顕微鏡(SEM)自動分析にて行った。より具体的には、SEM画像をサイズ分布の評価に用いることでAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物およびMg-Si系金属間化合物の種類を明確に判断することができる。SEMの観察倍率としては×1000、評価範囲としては1mm範囲を指定して最長径3μm~7μmを有するAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物および最長径8μm以上のMg-Si系金属間化合物の個数をカウントした。この結果を表2に示す。
【表2】
【0037】
実施例1~7の磁気ディスク用アルミニウム合金基板ではいずれも本発明の組成の成分範囲内であり、最長径3~7μmのAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物が300個/mm以上であり、最長径8μm以上のMg-Si系金属間化合物は0個/mmとなっており、磁気ディスク用アルミニウム合金基板として満足するものであることが分かる。
【0038】
比較例1では、最長径8μm以上のMg-Si系金属間化合物(MgSi)が2個/mmとなっており、好ましくない。
【0039】
比較例2は、実施例3と同じ組成で本発明の成分範囲だが、均質化処理後の冷間圧延開始までの冷却速度が、50℃/hと小さかった。このために、この冷却途中における、Mg-Si系金属間化合物(MgSi)の形成と、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物の形成とが競合した。この結果、最長径3~7μmのAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の個数が300個/mm未満となり、また、最長径8μm以上のMg-Si系金属間化合物(MgSi)が5個/mmであり、磁気ディスク用アルミニウム合金基板として好ましくない。比較例3および4は、本発明で規定した成分より多いSi量であるため、Mg-Si系金属間化合物の形成量が増加しMn添加の効果が及ばなくなる。このため、比較例3および4では、最長径8μm以上のMg-Si系金属間化合物(MgSi)の数が増加しており、磁気ディスク用アルミニウム合金基板として好ましくない。