(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000359
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】コンクリート製品とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 40/02 20060101AFI20231225BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C04B40/02
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099102
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤沼 智洋
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055BA02
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を大量に固定したコンクリート製品、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】コンクリート製品の一つであるコンクリートブロックは、第1のコンクリート領域と、第1のコンクリート領域の内部に位置する第2のコンクリート領域とを有する。第2のコンクリート領域の表面の一部は、第1のコンクリート領域の表面の一部と同一面に存在する。第1のコンクリート領域の炭酸カルシウムの濃度は、第2のコンクリート領域の炭酸カルシウムの濃度よりも高い。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のコンクリート領域と、
前記第1のコンクリート領域の内部に位置する第2のコンクリート領域と、を有し、
前記第2のコンクリート領域の表面の一部は、前記第1のコンクリート領域の表面の一部と、同一面に存在し、
前記第1のコンクリート領域の炭酸カルシウムの濃度は、前記第2のコンクリート領域の炭酸カルシウムの濃度よりも高い、コンクリートブロック。
【請求項2】
第1のコンクリート領域と、
前記第1のコンクリート領域の内部に位置する第2のコンクリート領域と、を有し、
前記第2のコンクリート領域の表面の一部は、前記第1のコンクリート領域の表面の一部と、同一面に存在し、
前記第1のコンクリート領域の水酸化カルシウムの濃度は、前記第2のコンクリート領域の水酸化カルシウムの濃度よりも低い、コンクリートブロック。
【請求項3】
前記第2のコンクリート領域の側面の全体が前記第1のコンクリート領域によって囲まれる、請求項1または請求項2に記載のコンクリートブロック。
【請求項4】
前記第2のコンクリート領域は、前記第1のコンクリート領域の内部に複数ある、請求項1に記載のコンクリートブロック。
【請求項5】
鋳型内に第1のレディーミクストコンクリートを注入すること、
前記第1のレディーミクストコンクリートの内部に注入孔を形成すること、
前記注入孔に二酸化炭素を含むガスを導入すること、
前記第1のレディーミクストコンクリートを養生して第1のコンクリート領域を形成すること、
前記注入孔に第2のレディーミクストコンクリートを注入すること、および、
前記第2のレディーミクストコンクリートを養生して第2のコンクリート領域を形成することを含む、コンクリートブロックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、コンクリート製品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、主にセメント水和物、骨材、水、および添加剤によって構成され、その優れた機械的特性、耐候性、取り扱いの容易さ、経済性などに起因し、社会的生産基盤、経済基盤を創成するための重要な構造材料の一つとして様々な分野で幅広く利用されている。また、鉄筋を含まないコンクリートは、覆工コンクリートだけでなく、壁、縁石、各種大型設備の台座として機能するスライドブロック、アンカーブロック、排水溝、セーフティーブロック、パーキングブロック、レンガなどの小型のコンクリート製品としても広く活用されている。
【0003】
コンクリートの原料となるセメントは、その製造時において大量の二酸化炭素を排出することが知られており、これは温室効果の原因の一つとして挙げられている。そこで、この問題の解決に寄与するため、例えば特許文献1では、コンクリートを含む構造体の施工の際、コンクリートが硬化する前のレディーミクストコンクリートに二酸化炭素を接触させて二酸化炭素をコンクリートに固定する方法が開示されている。特許文献2では、コンクリートへの二酸化炭素の吸収を促進するために有効なコンクリート構造体の設計方法が開示されている。同様に、特許文献3では、コンクリート製品を養生槽に配置し、大気よりも高い濃度の二酸化炭素を含むガスを養生槽に導入することでコンクリート製品内に二酸化炭素を固定化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5957283号公報
【特許文献2】特許第4822373号公報
【特許文献3】特開2009-149456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、新しい構造を有する炭酸化したコンクリート製品とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、二酸化炭素を大量に固定したコンクリート製品、およびその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、二酸化炭素を固定する方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一つは、コンクリートブロックである。このコンクリートブロックは、第1のコンクリート領域と、第1のコンクリート領域の内部に位置する第2のコンクリート領域とを有する。第2のコンクリート領域の表面の一部は、第1のコンクリート領域の表面の一部と同一面に存在する。第1のコンクリート領域の炭酸カルシウムの濃度は、第2のコンクリート領域の炭酸カルシウムの濃度よりも高い。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、コンクリートブロックである。このコンクリートブロックは、第1のコンクリート領域と、第1のコンクリート領域の内部に位置する第2のコンクリート領域とを有する。第2のコンクリート領域の表面の一部は、第1のコンクリート領域の表面の一部と同一面に存在する。第1のコンクリート領域の水酸化カルシウムの濃度は、第2のコンクリート領域の水酸化カルシウムの濃度よりも低い。
【0008】
本発明の実施形態の一つは、炭酸化したコンクリートブロックの製造方法である。この製造方法は、鋳型内に第1のレディーミクストコンクリートを注入すること、第1のレディーミクストコンクリートの内部に注入孔を形成すること、注入孔に二酸化炭素を含むガスを導入すること、第1のレディーミクストコンクリートを養生して第1のコンクリート領域を形成すること、注入孔に第2のレディーミクストコンクリートを注入すること、および、第2のレディーミクストコンクリートを養生して第2のコンクリート領域を形成することを含む。
【0009】
本発明の実施形態の一つは、二酸化炭素を固定する方法である。この方法は、鋳型内に第1のレディーミクストコンクリートを注入すること、第1のレディーミクストコンクリートに注入孔を形成すること、注入孔に二酸化炭素を含むガスを導入しつつ、第1のレディーミクストコンクリートを養生して第1のコンクリート領域を形成すること、注入孔に第2のレディーミクストコンクリートを注入すること、および、第2のレディーミクストコンクリートを養生して第2のコンクリート領域を形成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の実施形態の一つであるコンクリート製品の模式的斜視図。
【
図1B】本発明の実施形態の一つであるコンクリート製品の模式的端面図。
【
図1C】本発明の実施形態の一つであるコンクリート製品の模式的端面図。
【
図1D】本発明の実施形態の一つであるコンクリート製品の模式的端面図。
【
図2】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示すフローチャート。
【
図3A】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的斜視図。
【
図3B】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的斜視図。
【
図3C】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的斜視図。
【
図4A】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図4B】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図4C】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図5A】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図5B】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図5C】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的上面図。
【
図6】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式図。
【
図7A】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図7B】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図7C】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図8A】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【
図8B】本発明の実施形態の一つである、コンクリート製品の製造方法を示す模式的端面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0012】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0013】
以下、「ある構造体が他の構造体から露出する」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。
【0014】
本明細書では、コンクリートとは、原料の一つであるセメントが水と反応して生成するセメント水和物が硬化することで得られる、流動性を示さない硬化物を指す。したがって、骨材を含まないセメントペーストもコンクリートの範疇に含まれる。コンクリートには直径が5mm以下の細骨材および直径が5mmを超える(例えば、5mmよりも大きく20mm以下、または10mm以上20mm以下)粗骨材を含んでもよい。一方、硬化前のコンクリート、すなわち、セメントと水を含み、かつ、完全に硬化せずに流動性を有する混合物をレディーミクストコンクリート(生コンクリートとも呼ばれる)と呼ぶ。レディーミクストコンクリートは、セメント、水、および骨材の他、AE剤(気泡分散剤)流動化剤、増粘剤などの添加剤を含んでもよい。
【0015】
本明細書では、「養生」とはレディーミクストコンクリートを硬化するための工程を指し、レディーミクストコンクリートを養生することにより、硬化したレディーミクストコンクリート、すなわちコンクリートが形成される。
【0016】
以下、本発明の実施形態の一つに係る、コンクリート製品とその製造方法、および本製造方法を利用して二酸化炭素を固定するための方法について、添付図面を用いて説明する。
【0017】
1.コンクリート製品
本発明の実施形態の一つに係る炭酸化されたコンクリート製品は、典型的にはコンクリートブロックである。コンクリート製品は、例えば道路や法面に敷設されるコンクリートブロックでもよく、あるいは壁や塀に利用されるコンクリートレンガでもよい。あるいは、縁石、各種設備のスライドブロック、アンカーブロック、セーフティーブロック、パーキングブロック、消波ブロックなどに利用されるコンクリートブロックでもよい。したがって、本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品の形状や大きさには制約はなく、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0018】
本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品の一例であるコンクリートブロック100の模式的斜視図を示す。後述するように、コンクリートブロック100はレディーミクストコンクリートを硬化させることによって製造されるため、無焼成レンガの一種である。
図1Aに示すコンクリートブロック100は直方体の形状を有しているが、上述したように、コンクリートブロック100の大きさや形状には制約はなく、直方体を含む多面体でもよく、円柱形状でもよい。あるいは、インターブロックに利用できるよう、隣接する面のリッジが曲線を含んでもよい。
【0019】
コンクリートブロック100は、主に二つの部分から構成される。一つは、コンクリートブロック100の主たる構成である第1のコンクリート領域102である。第1のコンクリート領域102は、コンクリートブロック100の三次元形状を決定付ける構成であり、セメント水和物であるコンクリートを含む。第1のコンクリート領域102はさらに、骨材を含んでもよい。もう一方の部分は、少なくとも一つの第2のコンクリート領域104である。
図1Aに示すように、少なくとも一つの第2のコンクリート領域104は、複数あってもよい。第2のコンクリート領域104もコンクリートを含み、さらに骨材を含んでもよい。第1のコンクリート領域102と第2のコンクリート領域104の間で、コンクリートと骨材の組成比は同一でもよく、異なってもよい。また、用いられる骨材の種類も同一でもよく、異なってもよい。第1のコンクリート領域102の体積は、第2のコンクリート領域104の総体積よりも大きい。
【0020】
第1のコンクリート領域102と第2のコンクリート領域104を跨ぐ鎖線A-A´に沿った端面の模式図を
図1Bに示す。
図1Aと
図1Bから理解されるように、第2のコンクリート領域104は、第1のコンクリート領域102に接するように設けられる。より具体的には、第2のコンクリート領域104は、側面の全体が第1のコンクリート領域102によって囲まれ、その上面104aが第1のコンクリート領域102の表面102aから露出する。また、第2のコンクリート領域104の上面104aと第1のコンクリート領域102の表面102aが互いに同一面内に存在するように第2のコンクリート領域104を第1のコンクリート領域102内に設けることができる。したがって、第2のコンクリート領域104の上面104aは、コンクリートブロック100の三次元形状の一部を構成する。
【0021】
図1Aと
図1Bに示される例では、第2のコンクリート領域104は棒状の形状を備え、その長手方向(延伸方向)は、上面104aや第1のコンクリート領域102の表面102aと垂直であるが、
図1Cに示すように、長手方向は第2のコンクリート領域104の上面104aや第1のコンクリート領域102の表面102aから傾いてもよい。また、複数の第2のコンクリート領域104が設けられる場合には、それぞれの延伸方向は互いに平行でもよく、あるいは、任意に選択される二つの第2のコンクリート領域104の延伸方向が互いに交差しないように第2のコンクリート領域104を設けてもよい。図示しないが、第2のコンクリート領域104は第1のコンクリート領域102内で湾曲または屈曲していてもよい。
【0022】
図1Bや
図1Cに示す例では、第2のコンクリート領域104の上面104aに対向する底面104bも第1のコンクリート領域102に覆われ、第1のコンクリート領域102と接する。しかしながら、
図1Dに示すように、第2のコンクリート領域104の全てまたは一部の底面104bは、第2のコンクリート領域104の表面(ここでは、表面102aに対向する表面102b)から露出してもよい。この場合も、第2のコンクリート領域104の底面104bと第2のコンクリート領域104の表面102bは互いに同一面内に存在してもよい。
【0023】
第1のコンクリート領域102の表面102aと102bにおける第2のコンクリート領域104の上面104aと底面104bの形状に制約はなく、円でもよく、楕円でもよく、あるいは多角形でもよい。あるいは、第2のコンクリート領域104の上面104aと底面104bの輪郭は、それぞれ直線のみ、または曲線のみで構成されてもよく、あるいは直線と曲線を含んでもよい。第2のコンクリート領域104の上面104aと底面104bの面積にも制約はなく、コンクリートブロック100の大きさに応じて適宜設定すればよい。例えば、上面104aと底面104bの面積は、それぞれ1cm2以上500cm2以下、1cm2以上300cm2以下、または1cm2以上100cm2以下の範囲から適宜選択すればよい。
【0024】
ここで、第1のコンクリート領域102と第2のコンクリート領域104は、いずれもセメントが水和して生成するケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO2・3H2O)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)とともに、炭酸カルシウム(CaCO3)を含む。また、第1のコンクリート領域102の炭酸カルシウムの平均濃度(組成)は、第2のコンクリート領域104のそれよりも高い。さらに、第1のコンクリート領域102の炭酸カルシウムの濃度は、第2のコンクリート領域104との界面からの距離が増大するに従って低下してもよい。逆に、第1のコンクリート領域102の水酸化カルシウムの平均濃度(組成)は、第2のコンクリート領域104のそれよりも低い。さらに、第1のコンクリート領域102の水酸化カルシウムの濃度は、第2のコンクリート領域104との界面からの距離が増大するに従って低下してもよい。
【0025】
このように、コンクリートブロック100の三次元形状を決定する構成である第1のコンクリート領域102が高い炭酸カルシウム濃度を有するため、コンクリートブロック100は高い圧縮強度を有する。したがって、本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品は、高い強度を有するコンクリートブロックとして利用することができる。
【0026】
2.コンクリート製品の製造方法
図2にコンクリートブロック100の製造方法の一例のフローチャートを示す。
【0027】
(1)レディーミクストコンクリートの調製
まず、レディーミクストコンクリートを調製する。レディーミクストコンクリートは、セメントと水を混合することで調製される。この時、砂や砂利、玉石(たまいし)、岩、砕石、砕砂などの骨材や、AE剤(気泡分散剤)流動化剤、増粘剤、急結剤などの添加剤をさらに添加してもよい。セメントの種類に制約はなく、普通ポルトランドセメント、酸化鉄を含む白色ポルトランドセメント、アルミナを含むアルミナセメント、鋼材の製造工程で副生する高炉スラグが添加された高炉セメント、石炭灰の燃焼時に副生するフライアッシュセメントが添加されたフライアッシュセメント、焼却灰や汚泥などの廃棄物を含むエコセメントなどを用いることができる。骨材としては、砂、砂利、軽石などを用いてもよく、あるいは、廃棄されたコンクリートを破砕して得られる再生砕石を用いてもよい。セメントと骨材の質量比も、得られるコンクリートブロックに求められる特性を考慮して適宜設定すればよく、例えば、セメントに対して3倍以上10倍以下の重量の骨材を使用すればよい。水セメント比にも制約はないが、10%から100%の範囲から選択すればよい。添加剤としては、上述した各種添加剤をコンクリートブロックの用途などに応じて適宜用いればよい。
【0028】
さらに、骨材と共に、あるいは骨材に替わり、フライアッシュ、スラグ、バイオマス灰や焼却灰などの灰、またはシリカヒュームなどを混和材として加えてもよい。混和材の量も適宜決定すればよいが、水結合材比(W/B)が35%以上70%以下となるように調整すればよい。ここで、結合材とはセメントと混和材を指し、水結合材比とはセメントと混和材の総質量に対する水の質量である。
【0029】
以上の工程により、流動性を有するレディーミクストコンクリートが得られる。ただし、ここで得られるレディーミクストコンクリートは、自立できない程度の高い流動性を有していてもよく、あるいは自立可能な程度の流動性を有してもよい。すなわち、ここまでの工程で得られるレディーミクストコンクリートは、外部から力が加わった場合に容易に変形する固体の状態を有していればよい。ここで、自立とは、鋳型から取り出された後でも外部から力を加えても容易に変形せず、成形によって創り出された三次元形状を維持することを指す。
【0030】
(2)成形
図3Aと
図3Bに示すように、成形は、レディーミクストコンクリート112を鋳型110に充填し、レディーミクストコンクリート112の上から加圧することで行われる。加圧時の圧力は、例えば1MPa以上10MPa以下の範囲から選択すればよい。鋳型110の内部全体に高密度でレディーミクストコンクリート112が充填されるよう、加圧前に振動を加えて鋳型110に混入した空気を除去してもよい。
【0031】
(3)一次養生
引き続き、養生(一次養生)が行われる。一次養生では、まず、鋳型110内のレディーミクストコンクリート112の内部に一つまたは複数の注入孔(開口)114を形成する。注入孔114の形成は、例えば木材や金属、あるいは樹脂製のロッド(コア材)をレディーミクストコンクリート112に突き刺し、引き抜くことで行うことができる(
図3C)。レディーミクストコンクリートが自立できない程度の高い流動性を有している場合には、コア材を突き刺した後、注入孔114の形状が維持できる程度にレディーミクストコンクリート112が硬化するまでコア材を静置することで、注入孔114を形成する。なお、コア材の外表面には、剥離剤(離型剤)または硬化遅延剤を塗布してもよい。離型剤または硬化遅延剤を塗布することで、後述するように、レディーミクストコンクリート112からコア材を容易に除去することができる。
【0032】
図3Cの鎖線B-B´に沿った端面の模式図である
図4Aに示すように、注入孔114はレディーミクストコンクリート112を貫通しない有底孔でもよく、あるいは
図4Bに示すように、レディーミクストコンクリート112を貫通する貫通孔でもよい。有底孔として注入孔114を形成する場合には、長さ(深さ)がレディーミクストコンクリート112の高さ(注入孔114が延伸する方向における長さ)の50%以上80%以下となるように注入孔114を形成することが好ましい。また、
図4Cに示すように、一つまたは複数の注入孔114は、レディーミクストコンクリート112の表面112aから斜めに延伸するように形成してもよい。
【0033】
注入孔114を形成した後、注入孔114に二酸化炭素を含むガスを注入する。ガスの注入方法に制約はなく、例えば
図5に示すように、二酸化炭素供給源に接続される二酸化炭素ライン116を注入孔114に接続し、二酸化炭素ライン116から二酸化炭素を含むガスを導入すればよい。この時、レディーミクストコンクリート112の表面112aは大気に露出されていてもよい。二酸化炭素を含むガスは、一定の流量で定常的に供給してもよく、あるいは断続的に供給してもよい。後者の場合、二酸化炭素を含むガスを供給しない時にキャップ118を用いて注入孔114を密閉してもよい(
図5B)。注入孔114を密閉することにより、二酸化炭素を注入孔114内に確実に保持することができるとともに、二酸化炭素の漏洩を防ぐことができる。
【0034】
二酸化炭素を含むガスの二酸化炭素の濃度は、大気の二酸化炭素濃度よりも高い。より具体的には、二酸化炭素濃度は、400ppm以上100%以下の濃度から適宜選択される。二酸化炭素を含むガスには、酸素や窒素、アルゴン、水などが含まれてもよい。二酸化炭素を含むガスは、二酸化炭素が充填されたボンベから供給してもよく、あるいは、二次養生を行う現場付近に二酸化炭素を大量に排出する施設(化学プラント、ゴミ焼却施設、火力発電所、その他各種工場など)が既設されている場合、これらの施設で排出されるガス、または排出ガスに対して脱塵、脱硫、脱硝などを行うことで得られる精製された二酸化炭素を、二酸化炭素を含むガスとして利用してもよい。この場合、これらの施設が二酸化炭素を含むガスの供給源として機能し、二酸化炭素を運搬するためのコストが削減され、運搬に伴う二酸化炭素の更なる排出が防止される。
【0035】
一次養生において、レディーミクストコンクリート112に含まれるセメントは水と反応し、水和が進行する。例えばセメントとしてポルトランドセメントを用いる場合、主成分を構成する鉱物であるエーライト(ケイ酸三カルシウム:3CaO・SiO
2)とビーライト(ケイ酸二カルシウム:2CaO・SiO
2)が水と接触すると、ケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO
2・3H
2O)と水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)を与える。このケイ酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムがコンクリートのセメントペーストに相当する。この時、注入孔114から二酸化炭素を導入すると、二酸化炭素がケイ酸カルシウム水和物および水酸化カルシウムと反応(炭酸化)し、二酸化ケイ素と炭酸カルシウムが生成される。この反応が進行すると、ケイ酸カルシウム水和物は、レディーミクストコンクリート112中の隙間を埋めるように炭酸カルシウムの結晶を成長させて針状のネットワークを形成する。その結果、炭酸カルシウムの結晶のネットワーク内に酸化ケイ素が固定された強固な硬化物が生成する。すなわち、レディーミクストコンクリート112が硬化し、高い圧縮強度を有する第1のコンクリート領域102が得られる(
図5C)。さらに、レディーミクストコンクリート112の調整時においてフライアッシュ、高炉スラグ、またはシリカヒュームなどの酸化ケイ素や酸化アルミニウムを含む混和材を用いる場合には、水酸化カルシウムとの反応(ポラゾン反応)も進行する。ポラゾン反応によって生成する安定なケイ酸カルシウム水和物やアルミン酸カルシウム水和物が第1のコンクリート領域102内に存在する間隙を埋めるため、第1のコンクリート領域102をより緻密にすることができる。
【0036】
炭酸化の速度は、二酸化炭素の濃度だけでなく、温度や湿度にも影響される。したがって、炭酸化の速度を調整するため、二酸化炭素供給源120と二酸化炭素ライン116の間に加湿器122を接続し、加湿器122を用いて二酸化炭素を含むガスに水蒸気を添加してもよい(
図6)。例えば、二酸化炭素を含むガスの湿度が40%以上100%以下に調整されるよう、水蒸気を添加すればよい。二酸化炭素を含むガスの温度は室温または外気温度と同じでもよいが、
図6に示すように、二酸化炭素を含むガスの温度を制御するための温調装置124を二酸化炭素供給源120と二酸化炭素ライン116の間に設置し、室温以上の二酸化炭素を含むガスを供給してもよい。この場合、二酸化炭素を含むガスの温度は、例えば40℃以上60°以下の範囲で調整すればよい。
【0037】
導入される二酸化炭素を含むガスの圧力は、未硬化のレディーミクストコンクリート112の変形を防ぐため、1気圧(0.10MPa)以上1.3気圧(0.13MPa)以下が好ましい。圧力を監視するための圧力計またはフローメータ126は、二酸化炭素ライン116に設けてもよく(
図6)、あるいは加湿器122または温調装置124に設けてもよい。
【0038】
一般的に炭酸化は発熱反応であるため、二次養生において炭酸化が進行している部分は、それ以外の部分よりも温度が高い。このため、レディーミクストコンクリート112の温度を監視することで、炭酸化の進行を把握することができる。例えば、レディーミクストコンクリート112の表面に熱電対、測温抵抗体、サーミスタ、バイメタル、充満式温度計などを備える接触式の温度センサを複数配置し、温度センサからの情報を収集してもよい。あるいは、サーモグラフィなどの非接触式の温度センサを用いてレディーミクストコンクリート112の温度を監視してもよい。非接触式の温度センサを用いることで、レディーミクストコンクリート112の表面温度を容易に可視化することができる。
【0039】
図5Aに示すように、炭酸化は、二酸化炭素を含むガスと接する注入孔114の側壁から内部に向かって進行する。このため、二次養生開始時には注入孔114の周辺の温度が高く、次第に温度の高い領域が注入孔114から徐々に離隔する。その後、レディーミクストコンクリート112の硬化と炭酸化が完了すると、得られる第1のコンクリート領域102の表面102aの温度は略均一となる。したがって、表面102aの温度が略均一になった時点を一次養生、すなわち、レディーミクストコンクリート112の硬化、および硬化によって生成するコンクリートの炭酸化が完了した時点と認識すればよい。
【0040】
上述したように、コンクリートの炭酸化では水酸化カルシウムが炭酸カルシウムへ変化するため、レディーミクストコンクリート112の質量が増大する。したがって、上述したように温度を監視するとともに、あるいは温度の監視に替えて、レディーミクストコンクリート112の質量を監視し、質量変化を利用して硬化と炭酸化の進行を把握してもよい。二次養生の際には、レディーミクストコンクリート112からの水の蒸発も生じるため、炭酸化による質量増加と水の蒸発が質量変化に影響を与える。したがって、レディーミクストコンクリート112の質量が一定または略一定となった時点をレディーミクストコンクリート112の硬化、および硬化によって生成するコンクリートの炭酸化が完了した時点と認識すればよい。
【0041】
(4)注入孔の充填
次に、第1のコンクリート領域102に存在する注入孔114を充填する。具体的には、一次養生が終了した後、注入孔114にレディーミクストコンクリート128を注入する(
図7A)。レディーミクストコンクリート128の組成は、第1のコンクリート領域102を与えるレディーミクストコンクリート112と同一でもよく、異なってもよい。この時、レディーミクストコンクリート128が注入孔114の内部全体に高密度で充填されるよう、振動を加えてレディーミクストコンクリート128に混入した空気を除去してもよい。また、得られるコンクリートブロックの表面を平坦にするため、レディーミクストコンクリート128の上面128aと第1のコンクリート領域102の表面102aが同一平面になるよう、レディーミクストコンクリート128の上面128aを均してもよい。さらに、第1のコンクリート領域102、および注入孔114に充填されたレディーミクストコンクリート128に対し、加圧治具130を用いて圧力を加えてもよい(
図7B)。加える圧力は、例えば1MPa以上10MPaの範囲から選択すればよい。
【0042】
(5)二次養生
引き続き、二次養生を行い、レディーミクストコンクリート128を硬化する。二次養生は、大気下で行ってもよく、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行ってもよい。前者の場合には、屋外で二次養生を行ってもよく、養生室などの屋内で行ってもよい。二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行う場合には、例えば養生室内で二次養生を行い、養生室に二酸化炭素を含むガスを導入すればよい。二次養生を二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で行う場合、上述した一次養生の条件と同様の条件で行えばよい。
【0043】
一次養生と同様、二次養生の進行状況を把握するため、二次養生においてもレディーミクストコンクリート128の上面128aの温度の監視、および/または第1のコンクリート領域102とレディーミクストコンクリート128の総質量の変化の監視を行ってもよい。二次養生により、レディーミクストコンクリート128は第2のコンクリート領域104を与え、コンクリートブロック100が得られる(
図7C)。
【0044】
上述したように、第1のコンクリート領域102を与えるレディーミクストコンクリート112に対し、注入孔114を利用して炭酸化が行われる。したがって、レディーミクストコンクリート112は、比較的広い面積で二酸化炭素を含むガスと接触するので、炭酸化が効果的に進行する。一方、第2のコンクリート領域104を与えるレディーミクストコンクリート128は、二酸化炭素を含むガスの雰囲気下で二次養生を行っても、二酸化炭素を含むガスとの接触面は上面128aのみであるため、炭酸化は上面128a近傍に限られる。したがって、第1のコンクリート領域102の炭酸カルシウムの平均濃度は、第2のコンクリート領域104の炭酸カルシウムの平均濃度よりも高くなる。また、炭酸化の程度によっては、第1のコンクリート領域102の炭酸カルシウムの濃度は、第2のコンクリート領域104からの距離が増大するに従って低下する。逆に、第1のコンクリート領域102の水酸化カルシウムの平均濃度は、第2のコンクリート領域104の水酸化カルシウムの平均濃度よりも低くなる。また、炭酸化の程度によっては、第1のコンクリート領域102の水酸化カルシウムの濃度は、第2のコンクリート領域104からの距離が増大するに従って増大する。
【0045】
(6)脱型
その後、コンクリートブロック100を鋳型110から取り出す(脱型)ことにより、コンクリートブロック100を単離する。なお、脱型は、必ずしも二次養生が終了した後に行う必要は無く、例えば、注入孔114を形成する前のレディーミクストコンクリート112が自立可能な程度に低い流動性を有する場合には、レディーミクストコンクリート112を脱型し、その後、注入孔114の形成、一次養生、注入孔114の充填、二次養生を行ってもよい。あるいは、注入孔114が形成されたレディーミクストコンクリート112の一次養生の後に脱型し、その後、注入孔114の充填、二次養生を行ってもよい。なお、注入孔114が貫通孔として形成されたレディーミクストコンクリート112を脱型した後に一次養生を行う場合には、二酸化炭素を含むガスの漏洩を防ぐため、注入孔114の一端に二酸化炭素ライン116を接続し、他端はキャップ118などを用いて塞ぐことが好ましい。
【0046】
また、
図8Aと
図8Bに示すように、注入孔114の形成は、側面に複数の開口を有する金属製または樹脂製の穿孔チューブ132を用いて行い、穿孔チューブ132をレディーミクストコンクリート112内に配置した状態で穿孔チューブ132に二酸化炭素ライン116を接続してもよい。穿孔チューブ132と二酸化炭素ライン116は一体化されていてもよい。穿孔チューブ132を用いることで、注入孔114形成と二酸化炭素の導入を効率良く行うことができる。
【0047】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品の製造方法では、一次養生においてコンクリートペースト中の水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムを与える。すなわち、二酸化炭素が炭酸カルシウムとしてコンクリート製品に固定される。したがって、本製造方法は、二酸化炭素の固定方法であると言える。したがって、本発明の実施形態に係るコンクリート製品の製造方法は、大気中の二酸化炭素の削減と地球温暖化の抑制に寄与することができる。また、コンクリート製品の第1のコンクリート領域102は、炭酸カルシウムを高い濃度で有するため、二酸化炭素を固定することで第1のコンクリート領域102は密度が増大し、その結果、圧縮強度が増大する。実際、発明者らは、セメントの約20%(60kg/m3)の二酸化炭素を固定した場合、コンクリートの圧縮強度が8%から10%程度増大することを確認している。このため、本製造方法を適用することで、強度に優れたコンクリート製品を提供することが可能である。
【0048】
また、本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品の製造方法では、硬化前のレディーミクストコンクリート112に注入孔114を形成し、注入孔114に二酸化炭素を含むガスを導入しつつレディーミクストコンクリート112の養生(一次養生)が行われる。このため、レディーミクストコンクリート112を密閉する容器を必要とせず、また、レディーミクストコンクリート112の表面を外気に露出した状態で炭酸化を行うことができる。したがって、より簡便に、低コストで高強度のコンクリート製品を提供することができる。
【0049】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0050】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0051】
100:コンクリートブロック、102:第1のコンクリート領域、102a:表面、102b:表面、104:第2のコンクリート領域、104a:上面、104b:底面、110:鋳型、110a:上面、112:レディーミクストコンクリート、112a:表面、114:注入孔(開口)、114:注入孔、116:二酸化炭素ライン、118:キャップ、120:二酸化炭素供給源、122:加湿器、124:温調装置、126:フローメータ、128:レディーミクストコンクリート、128a:上面、130:加圧治具、132:穿孔チューブ