(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035903
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20240308BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20240308BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
H01J49/06 300
H01J49/06 800
H01J49/24
H01J49/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140520
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 愼一郎
(72)【発明者】
【氏名】西口 克
(57)【要約】 (修正有)
【課題】前段から送られて来るイオンの拡がりが大きい場合であっても、イオンを効率良く捕集して次段へと送る。
【解決手段】イオン輸送光学系は、N本のロッド電極21(Nは6以上の偶数)を含み、N本のロッド電極は、イオンの入口端においてN本のロッド電極の全てが直径がA1である円に外接するN重極の配置であり、イオンの出口端においてはN本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が直径がA2(但しA2<A1)である円に外接する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極が、イオンの輸送方向に進行するに従い、N重極配置又は四重極配置の中心軸に近づくように該中心軸に対し傾斜して配設され、且つ、N本のロッド電極のうち少なくとも4本のロッド電極は、イオン入口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径よりもイオン出口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径が小さい形状である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、を含み、
前記N本のロッド電極は、イオンの入口端において前記N本のロッド電極の全てが直径がA1である円に外接するN重極の配置であり、イオンの出口端においては前記N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が直径がA2(但しA2<A1)である円に外接する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極が、イオンの輸送方向に進行するに従い、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように該中心軸に対し傾斜して配設され、且つ、前記N本のロッド電極のうち少なくとも前記4本のロッド電極は、イオン入口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径よりもイオン出口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径が小さい形状であり、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極の中の、中心軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転するRF電圧を印加するとともに、前記4本のロッド電極に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極のうちの前記4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加する質量分析装置。
【請求項2】
前記N本のロッド電極の、イオン入口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径D1とイオン出口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径D2との比D1/D2と、 該N本のロッド電極が外接する円の径の比A1/A2との比(A1/A2)/(D1/D2)は、2~2.5の範囲である、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、1以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、2以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次々段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項5】
イオン源と質量分離部との間に、内部に所定のガスを導入し、該ガスとイオンとを接触させることで該イオンに対する操作を行うセルを有し、
前記セルの内部に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量分析装置におけるイオン輸送光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、イオン源で生成されたイオンを質量分析部まで輸送するために、イオンガイドやイオンレンズなどのイオン輸送光学系が用いられる。イオン輸送光学系の性能は、検出感度、信号の安定性などの、装置の性能に大きく影響する。例えばエレクトロスプレーイオン源などの大気圧イオン源を用いた質量分析装置では、一般に、略大気圧であるイオン化室と、質量分析部が配設され高真空雰囲気に保たれる高真空室との間に、隔壁で隔てられた真空度が異なる複数の部屋が設けられる多段差動排気系の構成が採られる。通常、その複数の部屋にはそれぞれ、イオン輸送光学系が配設される。イオン輸送光学系は主として、前段から送られて来たイオンを受け取り、イオンを閉じ込めつつ後段へと受け渡す機能を有する。
【0003】
イオン化室の次段の中間真空室などの、真空度が比較的低い領域に配設されるイオン輸送光学系としては、多くの場合、イオンと残留ガスとの衝突によるイオンのクーリング作用を利用したRF(Radio Frequency)イオンガイドが用いられる。RFイオンガイドは、主としてRF電場により発生する擬ポテンシャル(pseudopotential)を利用してイオンを所定の空間に閉じ込めつつ輸送するものである。
【0004】
イオン化室において生成されたイオンを次段の低真空の中間真空室へ取り込む場合、小径の大気圧隔壁孔(又はキャピラリー)を通して送られるイオンや各種の中性粒子は、その隔壁孔の出口に形成される超音速ガス流に乗って中間真空室に導入される。イオンの取込み量を増やすために隔壁孔の穴径を大きくすると、発生する超音速流ガス流の広がりも大きくなる。そのため、中間真空室内に配置されるRFイオンガイドは、そのガス流に乗って大きく拡がった又は拡がろうとするイオンを効率良く捕集する必要がある。
【0005】
このようにイオン入口側では空間的に拡がったイオンを効率良く捕集する一方、イオン出口側ではイオンを良好に収束させるRFイオンガイドとして、特許文献1に開示されている極数変換イオンガイドが知られている。極数変換イオンガイドは、イオン入口側では六重極以上の多重極場を形成し、イオン出口側では四重極場を形成するように、6本以上の偶数本のロッド電極のうちの一部をイオン入口からイオン出口に向かうに従い傾けて配置した多重極RFイオンガイドである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来よりも更に検出感度を向上させるためには、イオン化室から中間真空室へのイオンの取込量を増やす必要がある。そのために、大気圧隔壁孔の穴径を拡大すると、中間真空室内に発生する超音速ガス流の拡がりも大きくなる。そうしたガス流によって拡がったイオンを極数変換イオンガイドで収集するには、イオン入口側におけるロッド電極の内接円半径を大きくする必要がある。ところが、極数変換イオンガイドの内接円半径を拡げると、イオン入射領域における多重極RF電場の強度が低下するため、イオンの捕集能力が低下する。そのため、大気圧隔壁孔の穴径を拡大することで中間真空室へのイオンの導入量を増やしたとしても、イオンガイドのイオン入射領域におけるイオン捕集能力が不足するために、結果的に、後段へと送られるイオン量の増加が制約を受けるという問題があった。
【0008】
一方、細径のイオン通過孔を通して低真空の中間真空室から次段の中間真空室へとイオンを効率良く送るには、極数変換イオンガイドのイオン出射領域において、四重極場によるイオンの収束作用を高めることが望ましい。そのためには、イオン出口端において周方向に隣接するロッド電極の間隔を狭くするのが好ましいが、その間隔が狭すぎると、適切な電位分布を有する四重極RF電場が形成されず、イオンの挙動が不安定になり易い。また、ロッド電極を近付けすぎると電極間で放電等が生じる等、イオン出射領域においてロッド電極同士の干渉が問題となる場合がある。
【0009】
本発明の目的の一つは、前段から送られて来るイオンの拡がりが大きい場合であっても、イオンを効率良く捕集して次段へと送ることができる多重極RFイオンガイドを用いた質量分析装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、隣接するロッド電極の干渉等を回避しつつ、捕集したイオンを細径に絞って効率良く後段へと送ることができる多重極RFイオンガイドを用いた質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の一態様は、分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、を含み、
前記N本のロッド電極は、イオンの入口端において前記N本のロッド電極の全てが直径がA1である円に外接するN重極の配置であり、イオンの出口端においては前記N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が直径がA2(但しA2<A1)である円に外接する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極が、イオンの輸送方向に進行するに従い、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように該中心軸に対し傾斜して配設され、且つ、前記N本のロッド電極のうち少なくとも前記4本のロッド電極は、イオン入口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径よりもイオン出口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径が小さい形状であり、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極の中の、中心軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転するRF電圧を印加するとともに、前記4本のロッド電極に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極のうちの前記4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る質量分析装置の上記態様によれば、イオン輸送光学系において、イオン入射領域では、大きく拡がりつつ入射して来るイオンを効率良く捕集し、イオン光軸に沿って後方へと送る間にイオンの空間的拡がりを徐々に絞り、イオン出射領域では高いイオン収束作用によってイオンを細径に絞って送り出すことができる。これにより、従来の極数変換イオンガイドに比べて、より高いイオン輸送効率を実現することができ、質量分析に供するイオンの量を増加させ、分析感度を向上させることができる。また、従来の極数変換イオンガイドに比べて、イオン出射領域ではロッド電極の径(中心軸に向いた円弧状断面の径)を小さくすることができるため、周方向に隣接するロッド電極の干渉を生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態である質量分析装置の概略構成図。
【
図2】本実施形態の質量分析装置における第1イオンガイドをイオン入射側から見た平面図。
【
図3】本実施形態の質量分析装置における第1イオンガイドをイオン光軸を含むX-Z平面からY軸の負方向に見た平面図。
【
図4】第1イオンガイドの一変形例をイオン入射側から見た平面図。
【
図5】本発明の一例による極数変換イオンガイドの、従来の極数変換イオンガイドに対するイオン強度増強効果を示す実測例。
【
図6】本発明の一変形例である質量分析装置の概略構成図。
【
図7】一変形例である質量分析装置における第1イオンガイドをイオン入射側から見た平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る質量分析装置の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
なお、以下の説明で用いる各図面は模式的なものであり、各構成部材の寸法の比率等は実際の装置を反映したものではない。また、説明に不要な構成要素が適宜省略されていることも当然である。
【0014】
[一実施形態の装置の全体構成]
図1は、本実施形態の質量分析装置の概略構成図である。本実施形態の質量分析装置は大気圧イオン化四重極型質量分析装置であり、多段差動排気系の構成を有している。
【0015】
チャンバー1内には、略大気圧であるイオン化室2と、高真空雰囲気である分析室5と、それら二つの部屋の間で段階的に真空度が高くなる、第1中間真空室3及び第2中間真空室4と、が配設されている。図では省略しているが、第1中間真空室3内はロータリーポンプにより真空排気され、第2中間真空室4及び分析室5内はターボ分子ポンプと粗引きポンプとしてのロータリーポンプとの組合せによって真空排気される。
【0016】
イオン化室2には、エレクトロスプレーイオン化を行うためのESIプローブ6が設けられている。イオン化室2と第1中間真空室3との間は、細径の脱溶媒管7を通して連通している。第1中間真空室3内には第1イオンガイド20が配設され、該第1イオンガイド20には第1イオンガイド電圧発生部13から所定の電圧が印加される。第1中間真空室3と第2中間真空室4との間は、スキマー8の頂部に形成されている小径のイオン通過孔9を通して連通している。
【0017】
第2中間真空室4内には第2イオンガイド10が配設され、該第2イオンガイド10には第2イオンガイド電圧発生部14から所定の電圧が印加される。分析室5内には、四重極マスフィルター11とイオン検出器12とが配設されている。四重極マスフィルター11にはマスフィルター電圧発生部15から所定の電圧が印加される。第1イオンガイド電圧発生部13、第2イオンガイド電圧発生部14、及びマスフィルター電圧発生部15においてそれぞれ生成される電圧は、制御部16により制御される。
【0018】
ここでは、チャンバー1内に配置された各要素の配置や相互の位置関係の理解を容易にするために、
図1中に示すように、X、Y、Zの互いに直交する3軸を定めている。Z軸は、ほぼ全体のイオン経路におけるイオン光軸201の方向の軸であり、X軸、Y軸は互いに直交し、且つZ軸に直交する方向の軸である。X軸、Y軸、Z軸は必ずしも装置の上、下、右、左等の方向を示すものではないが、説明の便宜上、Y軸方向は装置の上下方向を示すものとする。従って、この実施態様の質量分析装置では、ESIプローブ6は下向きに試料液を噴霧する構成となっているが、これは単なる一例であり、適宜に変更が可能である。
【0019】
[質量分析動作]
本実施形態の質量分析装置における典型的な分析動作は、以下の通りである。
目的成分を含む試料液はESIプローブ6に供給される。試料液は、ESIプローブ6の先端で片寄った電荷を付与されつつ略大気雰囲気中に噴霧される。噴霧された帯電液滴は大気と衝突して微細化され、液滴中の溶媒が蒸発する過程で、試料成分由来のイオンが生成される。生成された各種イオンは大気等と共に脱溶媒管7に吸い込まれ、第1中間真空室3へと送られる。第1中間真空室3へ導入されたイオンの多くは、第1イオンガイド電圧発生部13から第1イオンガイド20に印加される電圧により形成されるRF電場によって、捕捉且つ収束される。細径に収束されたイオン流は、イオン通過孔9を通して第2中間真空室4へと送られる。
【0020】
第2中間真空室4へ導入されたイオンは、第2イオンガイド電圧発生部14から第2イオンガイド10に印加される電圧により形成されるRF電場によって捕捉且つ収束され、分析室5へ送られる。分析室5内に入った試料由来の各種イオンは、四重極マスフィルター11の内部空間に導入される。この各種のイオンのうち、マスフィルター電圧発生部15から四重極マスフィルター11に印加される電圧に応じた特定の質量電荷比(m/z)を有するイオンのみが該四重極マスフィルター11を選択的に通り抜け、イオン検出器12に到達する。
【0021】
イオン検出器12は、到達したイオンの量に応じたイオン強度信号を生成し出力する。例えばマスフィルター電圧発生部15は、観測対象である試料成分のイオンのm/zに対応する電圧を四重極マスフィルター11に印加する。これにより、試料に含まれる夾雑物由来のイオンの影響を除外し、目的とする試料成分のイオンの強度信号を得ることができる。
【0022】
[第1イオンガイド20の詳細な構成及び動作]
上記質量分析装置において、第1イオンガイド20は、脱溶媒管7を通して第1中間真空室3内に送られて来たイオンを、イオン通過孔9まで案内するものである。この第1イオンガイド20の構成と動作について詳細に説明する。
【0023】
図2は、第1イオンガイド20をイオン入射側(
図1で言えば左方)から見た平面図である。
図3は、第1イオンガイド20を、イオン光軸201を含むX-Z平面からY軸の負方向に見た平面図である。
【0024】
イオンガイド20は、細長い略円柱形状である8本のロッド電極211~218を含む。1本のロッド電極21(特定のロッド電極ではなく任意のロッド電極を指す場合には符号21を用い、特定の1本のロッド電極を指す場合には符号211~218を用いる)は、イオン入口端において直径が最大であり、Z軸方向に向かうに従って直径が徐々に減少し、イオン出口端において直径が最小となる、切頭円錐形状を呈する。本例では、8本のロッド電極211~218は概ね同一形状であるが、後述するように、本発明においてそれは必須の事項ではない。
【0025】
図2及び
図3に示すように、イオン入口端では、8本のロッド電極211~218は、イオン光軸201を中心とする円202に外接し、その円202の周りに略等角度(45°)間隔で配置されている。一方、その8本のロッド電極211~218のうちの4本のロッド電極211、214、215、218は、イオン出口端では、イオン光軸201を中心とし円202よりも直径が小さい円203に外接し、その円203の周りに略等角度(90°)間隔で配置されている。即ち、4本のロッド電極211、214、215、218は、Z軸つまりはイオン光軸201に平行ではなく斜めに延伸するように傾斜して配置されている。
【0026】
一方、8本のロッド電極211~218のうちの他の4本のロッド電極212、213、216、217はZ軸に対して略平行であるか、又は非平行であるものの、上記4本のロッド電極211、214、215、218に比べて小さい角度でZ軸つまりはイオン光軸201に対して斜めに延伸するように傾斜して配置されている。
【0027】
8本のロッド電極211~218は上述したように配置されるため、これらロッド電極211~218は、イオン入口端においては八重極配置であり、イオン出口端において四重極配置である。また、イオン入口端において八重極配置であるロッド電極211~218に内接する円202の直径に比べて、イオン出口端において四重極配置であるロッド電極211、214、215、218に内接する円203の直径の方が小さいため、ロッド電極211~218で囲まれる空間、換言すればRF電場の作用によってイオンが閉じ込められる空間はイオンの進行方向に徐々に狭くなっている。
【0028】
第1イオンガイド電圧発生部13から各ロッド電極211~218に印加される電圧は
図2中に記載した通りであり、イオン光軸201の周りで隣接する2本のロッド電極には、互いに位相が反転した同一振幅のRF電圧+Vcosωt又は-Vcosωtが印加される。このRF電圧に加えて、イオン出口端において四重極配置である4本のロッド電極211、214、215、218には、第1イオンガイド20の内部空間でイオンを効率よく輸送するための直流電圧U1が印加される。一方、それ以外の、つまりは四重極配置から外れる4本のロッド電極212、213、216、217には、分析対象であるイオンの極性が正である場合には直流電圧U1よりも高い直流電圧U2が印加され、分析対象であるイオンの極性が負である場合には直流電圧U1よりも低い直流電圧U2が印加される。
なお、一般的に、4本のロッド電極211、214、215、216に印加される直流電圧U1は同一であるが、必ずしも完全に同一である必要はない。直流電圧U2についても同様である。
【0029】
上述したRF電圧によって、第1イオンガイド20のイオン入射領域にはイオンの閉込め作用が強い八重極RF電場が形成される。この領域では各ロッド電極211~218の直径が大きいため、円202の直径、つまりはイオン受入開口の面積が大きいにも拘わらず、強い八重極RF電場が作用する。イオン化室2から第1中間真空室3へと送るイオンの量を増やすために脱溶媒管7の開口径を大きくした場合、脱溶媒管7の出口から第1中間真空室3内へと放出されるイオン流の拡がりも大きくなる。それに対し、第1イオンガイド20では、そのように拡がったイオンを強い八重極RF電場によって効率良く捕集し、内部空間に取り込むことができる。
【0030】
取り込まれたイオンは、RF電場に捕捉されるとともに、主として4本のロッド電極212、213、216、217に印加されている直流電圧により形成される直流電場によって、他の4本のロッド電極211、214、215、218で囲まれる空間に押し込まれる。即ち、各ロッド電極21に印加されている直流電圧により形成される直流電場は、イオンの散逸を防止する役割を有する。イオンが進行するに従ってイオンの閉込め空間は狭くなり、出口に近づくに伴い、4本のロッド電極211、214、215、218で囲まれる空間に形成される四重極RF電場によってイオン光軸201付近に収束される。こうして細径に絞られたイオン流は、第1イオンガイド20から放出され、イオン通過孔9を経て第2中間真空室4へと入る。
【0031】
このようにして、この第1イオンガイド20では、前段から送られて来るイオンの損失を抑えつつ後段へと送ることができ、その前後の部材(脱溶媒管7及びスキマー8)と共に高いイオン輸送効率を達成することができる。
【0032】
図2の例では、各ロッド電極21は断面略円形状であるが、それらロッド電極21で囲まれる空間にRF電場や直流電場を形成するためには、イオン光軸201に向いた部分の断面形状が略円弧状であれば十分であり、外方に向いた部分の断面形状は重要でない。そこで、各ロッド電極の断面形状は、例えば
図4に示すような略半円形状など、適宜に変更することができる。
【0033】
[ロッド電極の配置及びサイズの変形例]
上述したように、第1イオンガイド20では、イオン入口端における8本のロッド電極21の内接円202の径に比べてイオン出口端における4本のロッド電極211、214、215、218の内接円203の径の方が小さい。また、各ロッド電極21の径はイオン入口端よりもイオン出口端の方が小さい。これらのサイズはいずれもイオン強度に影響を及ぼす。そこで、本発明者は、ロッド電極自体とその配置に関するサイズの相違する2種類のイオンガイドA、Bを試作し、ロッド電極の径がイオン入口端から出口端まで一様である、従来の極数変換イオンガイドに対するイオン強度の増加効果を実験的に調べた。
【0034】
イオンガイドA、Bにおいて、イオン入口端における八重極配置の内接円の径A1と、イオン入口端におけるロッド電極の径B1は同じである。一方、イオン入口端における八重極配置の内接円の径A1とイオン出口端における四重極配置の内接円の径A2との比(内接円比)A1/A2は、イオンガイドAで5、イオンガイドBで4.44である。また、各ロッド電極21の、イオン入口端における径B1とイオン出口端における径B2との比(電極径比)B1/B2は、イオンガイドAで2.25、イオンガイドBで1.91である。即ち、イオンガイドBに比べてイオンガイドAの方が、イオンの進行方向におけるイオン閉込め空間の狭まり度合が急であり、それに伴って、各ロッド電極の径の縮小の度合も急である。
【0035】
図5は、イオンガイドA、Bの、イオンのm/zと従来の極数変換イオンガイドに対するイオン強度増加比との関係の実測結果である。
図5から、低m/z範囲ではイオンガイドBの方がイオン強度増加の効果は大きいが、m/z 700程度以上のm/z範囲ではイオンガイドAの方がイオン強度増加の効果は大きく、その差は顕著であることが分かる。また、イオンガイドA、Bのいずれでも、従来の極数変換イオンガイドに対しては、明確なイオン強度増加の効果があることが確認できる。
【0036】
イオン出口端の内接円の径が同一であるとすると、内接円比が大きいほどイオン入口端において周方向に隣接するロッド電極の間隔が広くなる。これは、RF電場が弱まることを意味するから、イオンを十分に捕集するにはロッド電極の間隔が拡がったのに対応して、イオン入口端におけるロッド電極の径を大きくする必要がある。つまり、電極径比を大きくする必要がある。従って、拡がりながら進行するイオンを効率良く捕集するには、内接円比/電極径比を或る程度の範囲に収める必要があると考えることができる。例えば、上記のイオンガイドAでは、内接円比/電極径比=5/2.25=2.22、イオンガイドBでは、内接円比/電極径比=4.44/1.91=2.32である。この結果から考えると、確定的な数値ではないものの、概ね、内接円比/電極径比を2~2.5程度に収めることが好ましいものと推定することができる。
【0037】
[変形例による質量分析装置の全体構成]
上記実施形態の質量分析装置では、脱溶媒管7の出口端の中心軸とイオン通過孔9の中心軸とが一直線上に位置している。これに対し、特許文献1にも例示されているように、脱溶媒管7の出口端の中心軸とイオン通過孔9の中心軸とをずらした軸ずらしの構成を採用することも可能である。これは、イオンと共に第1中間真空室3へ送られて来る、イオン化していない試料成分分子や活性中性粒子を第1中間真空室3内で排除し、第2中間真空室4へ送らないようにするためである。
【0038】
図6は、軸ずらしの構成を採用した、一変形例による質量分析装置の概略構成図である。
図1に示した質量分析装置と同じ又は相当する構成要素には同じ符号を付して詳しい説明を省く。この例では、脱溶媒管7の出口端の中心軸331とイオン通過孔9の中心軸332とはY軸方向にずれている。第1イオンガイド30は、脱溶媒管7を通して送られて来るイオンを捕集し細径に絞る機能と、イオンをその進行に伴ってY軸方向にずらしてイオン通過孔9に導く機能とを併せ持つ。
図7は、第1イオンガイド30をイオン入射側(
図6で言えば左方)から見た平面図である。
【0039】
第1イオンガイド30における6本のロッド電極341~346は、イオン入口端では六重極配置であり、イオン出口端では四重極配置である。イオン入口端において6本のロッド電極341~346は円333に外接しており、その6本のロッド電極341~346のうちの4本のロッド電極341、344、345、346は、イオン出口端において円334に外接している。六重極配置の中心軸331と四重極配置の中心軸332とは、互いに平行であるものの一直線上には位置していない。
【0040】
第1イオンガイド電圧発生部13から各ロッド電極34に印加される電圧は
図7中に記載の通りである。即ち、中心軸331の周りで隣接する任意の2本のロッド電極には、互いに位相が反転した同じ振幅のRF電圧+Vcosωt又は-Vcosωtが印加される。従って、中心軸331の周りの周回方向に、+Vcosωtと-Vcosωtとが交互に印加されている。また、上記RF電圧に加えて、4本のロッド電極341、344、345、346には、第1イオンガイド30の内部でイオンを効率よく輸送するための直流電圧U1が印加される。一方、他の2本のロッド電極342、343には、分析対象であるイオンの極性が正である場合には直流電圧U1よりも高い(正極性側に大きい)直流電圧U2が印加され、分析対象であるイオンの極性が負である場合には直流電圧U1よりも低い(負極性側に大きい)直流電圧U2が印加される。
【0041】
各ロッド電極34に印加されるRF電圧Vcosωt又は-Vcosωtにより、それら6本のロッド電極34で囲まれる空間には、イオンを閉じ込める作用を有する多重極RF電場が形成される。この多重極RF電場は、イオン入射領域では中心軸331を中心とする六重極RF電場であるが、イオン出射領域では中心軸332を中心とする四重極RF電場であり、イオン入口端と出口端との間では六重極RF電場から四重極RF電場に徐々に電場の状態が変化する。
【0042】
一方、6本のロッド電極34に印加される直流電圧U1と直流電圧U2との電圧差によって、当初、中心軸331を中心に分布しているイオンを中心軸332に近づくように押圧する、つまりはイオンの軌道を偏向させるように作用する直流電場が形成される。つまり、6本のロッド電極34に印加される直流電圧によって形成される直流電場の作用の一つは、輸送中のイオンを偏向させる作用である。
【0043】
また、6本のロッド電極34で囲まれる空間の入射領域における中心軸331上の直流的な電位は、直流電圧U1と直流電圧U2に依存するのに対し、イオン出射領域における中心軸332上の直流的な電位は、主として直流電圧U1のみに依存する。分析対象であるイオンの極性が正である場合、直流電圧U2はU1よりも高いため、直流電圧U2の影響が相対的に強く現れる、入射領域における中心軸331上の直流的な電位のほうがイオン出射領域における中心軸332上の直流的な電位よりも高くなる。このため、6本のロッド電極34で囲まれる空間内を輸送されるイオンの光軸上のポテンシャル分布を考えると、概ね、入口端から出口端に向かうに従い下り勾配の分布となる。これは、言い換えれば正極性のイオンを加速させる加速電場であるから、上記空間内に入ったイオンには出口端へと向かう運動エネルギーが付与される。つまり、6本のロッド電極34に印加される直流電圧によって形成される直流電場の他の作用は、輸送中のイオンを加速する作用である。
【0044】
これにより、6本のロッド電極34で囲まれる空間に、概ねZ軸方向に入射したイオンは六重極RF電場により捕集され、Z軸方向に進行するに従い、全体的にロッド電極345、346に近づく方向に偏向される。また、イオンが進行する際に運動エネルギーを付与されるため、例えば途中で残留ガスとの接触によりエネルギーを失った場合でも滞留することなく出口に向かって円滑に進行する。そして、イオンが第1イオンガイド30の出口に近づくに伴い、四重極配置となる4本のロッド電極341、344、345、346による四重極RF電場に捕捉され、中心軸332付近に収束されて、細径のイオン流となって出射する。一方、イオン化していない試料分子や活性中性粒子などの中性粒子がイオンと共に入射して来た場合でも、そうした中性粒子は偏向されないためイオン通過孔9に到達しにくい。このようにして、この質量分析装置では、イオンを効率良く後段へと輸送する一方、中性粒子を途中で除去することができる。
【0045】
[他の変形例]
上記実施形態における第1イオンガイド20は8本のロッド電極を含み、イオン入口端において八重極配置である。また、上記変形例におけるイオンガイド30は6本のロッド電極を含み、イオン入口端において六重極配置である。本発明に用いられるイオンガイドにおけるロッド電極の数はこれらに限るものではなく、6以上の偶数であればよい。一般に、ロッド電極の数を増やすほどイオン入射領域でのイオンの閉込め能力は高くなるものの、ロッド電極の数を或る程度以上多くしても閉込めの能力の向上の程度は僅かである。また、ロッド電極の数が多いほど、イオンガイドの構成は複雑になり、組立性やメンテナンス性は低下する。こうしたことから考えると、実用的には、ロッド電極の数は、6本、8本、10本、又は12本程度でよい。
【0046】
また、上記の例では、ロッド電極に印加する直流電圧U2を直流電圧U1よりも高くしていたが、輸送途中でイオンを偏向させる必要がない場合には、直流電圧U2が直流電圧U1よりも高くなくても(イオンが正極性である場合)よい。分析対象のイオンが正極性であって、直流電圧U2が直流電圧U1よりも低い場合、上記説明から明らかであるように、イオンガイドの入口付近における中心軸上の直流的な電位は、出口付近における中心軸上の直流的な電位よりも低くなる。即ち、複数本のロッド電極で囲まれる空間内を輸送されるイオンの光軸上のポテンシャル分布を考えると、概ね、入口から出口に向かうに従い上り勾配の分布となる。これは、正極性のイオンを減速させる減速電場であるから、上記空間内に入ったイオンは出口へと向かうに伴い徐々に運動エネルギーを奪われる。つまり、複数のロッド電極に印加される直流電圧によって形成される直流電場の作用は、輸送中のイオンを減速する作用である。
【0047】
例えば
図1に示した質量分析装置の構成において、脱溶媒管7の両端の圧力差、脱溶媒管7の開口径などの関係で、イオン化室2から第1中間真空室3内に流入する大気の流速が大きい場合に、第1中間真空室3内に導入されるイオンが持つ初期的な運動エネルギーが大き過ぎてRF電場で捕捉しにくいことがある。こうした場合には、イオンガイドの内部空間に、出口に向かう加速電場を形成するのではなく減速電場を形成しておき、この減速電場の作用によって、イオンが持つ運動エネルギーを積極的に減じるようにするとよい。それによって、RF電場でイオンを良好に捕捉し、収束させつつ出口に導くことができる。
【0048】
このように、直流電圧U1と直流電圧U2との大小の関係は、イオンガイドに入射して来るイオンの挙動をどのように制御したいのかによって、適宜変更することができる。
【0049】
また、上記実施形態や変形例の説明では、分析対象のイオンの極性を正としていたが、分析対象のイオンの極性が負である場合、イオンガイドに含まれる各ロッド電極に印加する直流電圧やそれ以外の各部に印加する直流電圧を適宜に変更すれば対応可能であることは明らかである。
【0050】
また、上記実施形態の質量分析装置では、第1イオンガイド20、30を第1中間真空室3内に配置していたが、第1中間真空室3に比べればガス圧が低いものの分析室5に比べればガス圧が高い第2中間真空室4内に、第1イオンガイド20、30を配置する構成としてもよい。
【0051】
また、シングルタイプの四重極型質量分析装置ではなく、トリプル四重極型質量分析装置や四重極-飛行時間型質量分析装置、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置など、大気圧又はそれに近いガス圧の下でイオン化を行い、高真空雰囲気中に配設された質量分離器まで、1又は複数の中間真空室を経てイオンを輸送する質量分析装置において、それら中間真空室の内部に第1イオンガイド20、30を配置する構成としてもよい。また、イオン源はESIイオン源に限らず、大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化(APPI)法、探針エレクトロスプレーイオン化(PESI)法、リアルタイム直接分析(DART)法など、様々なイオン化法によるイオン源に置き換えることができる。即ち、イオン源や質量分離器は上記記載のものに限らず、様々な種類又は方式のものを用いることができる。
【0052】
また、中間真空室の内部に第1イオンガイド20、30を配置するのではなく、外部からコリジョンガスやリアクションガスなどの種々のガスが導入され、そのガスを利用してイオンに対する各種の操作を行うセルの内部に、上記第1イオンガイド20、30を配置する構成としてもよい。
【0053】
具体的には、例えばトリプル四重極型質量分析装置や四重極-飛行時間型質量分析装置は、イオンを衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation:CID)により解離させるコリジョンセルを備えるが、そのコリジョンセルの内部に、第1イオンガイド20、30を配置する構成としてもよい。また、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)質量分析装置は、一般的に、干渉イオンや分子を排除するためにコリジョンセルやリアクションセルを備えるが、そのコリジョンセルやリアクションセルの内部に、第1イオンガイド20、30を配置する構成としてもよい。
【0054】
さらにまた、上記実施形態や変形例はあくまでも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、追加、修正を加えても、本特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0055】
(第1項)本発明に係る質量分析装置の一態様は、分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、を含み、
前記N本のロッド電極は、イオンの入口端において前記N本のロッド電極の全てが直径がA1である円に外接するN重極の配置であり、イオンの出口端においては前記N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が直径がA2(但しA2<A1)である円に外接する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極が、イオンの輸送方向に進行するに従い、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように該中心軸に対し傾斜して配設され、且つ、前記N本のロッド電極のうち少なくとも前記4本のロッド電極は、イオン入口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径よりもイオン出口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径が小さい形状であり、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極の中の、中心軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転するRF電圧を印加するとともに、前記4本のロッド電極に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極のうちの前記4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加するものである。
【0056】
第1項に記載の質量分析装置によれば、イオン輸送光学系において、イオン入射領域では、大きく拡がりつつ入射して来るイオンを効率良く捕集し、イオン光軸に沿って後方へと送る間にイオンの空間的拡がりを徐々に絞り、イオン出射領域では高いイオン収束作用によってイオンを細径に絞って送り出すことができる。これにより、従来の極数変換イオンガイドに比べて、より高いイオン輸送効率を実現することができ、質量分析に供するイオンの量を増加させ、分析感度を向上させることができる。また、従来の極数変換イオンガイドに比べて、イオン出射領域ではロッド電極の径(中心軸に向いた円弧状断面の径)を小さくすることができるため、周方向に隣接するロッド電極の干渉を生じにくくすることができる。
【0057】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置において、前記N本のロッド電極の、イオン入口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径D1とイオン出口端における中心軸に向いた部分の円弧状断面の径D2との比D1/D2と、 該N本のロッド電極が外接する円の径の比A1/A2との比(A1/A2)/(D1/D2)は、2~2.5の範囲であるものとすることができる。
【0058】
第2項に記載の質量分析装置によれば、イオン輸送光学系の前段から拡がりつつ到来するイオンを該イオン輸送光学系のイオン入射領域において良好に捕集しつつ、該イオン輸送光学系のイオン閉じ込め空間内を輸送する間に、イオンを中心軸付近に良好に収束させることができる。それによって、高いイオン輸送効率を実現することができる。
【0059】
(第3項)第1項又は第2項に記載の質量分析装置であって、大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、1以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されているものとすることができる。
【0060】
(第4項)第1項又は第2項に記載の質量分析装置であって、大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、2以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次々段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されているものとすることができる。
【0061】
第3項及び第4項に記載の質量分析装置は、典型的にはいずれも多段差動排気系の構成を有するものである。これら質量分析装置によれば、大気圧雰囲気中において生成された試料成分由来のイオンの損失を極力抑えながら、多くの量のイオンを質量分離部へと導入することができる。それによって、高い分析感度を達成することができる。
【0062】
(第5項)第1項又は第2項に記載の質量分析装置であって、イオン源と質量分離部との間に、内部に所定のガスを導入し、該ガスとイオンとを接触させることで該イオンに対する操作を行うセルを有し、
前記セルの内部に前記N本のロッド電極が配設されているものとすることができる。
【0063】
ここでいうセルは、不活性ガスとの接触によりイオンを解離させたりイオンが持つ運動エネルギーを減衰させたりするコリジョンセル、或いは反応性ガスとの接触によりイオンに特定の物質を付加するリアクションセルである。第5項に記載の質量分析装置によれば、操作対象のイオンを良好に捕集しつつ、該イオンを解離させたり反応させたりして所望のイオンを取り出すことができる。
【符号の説明】
【0064】
1…チャンバー
2…イオン化室
3…第1中間真空室
4…第2中間真空室
5…分析室
6…ESIプローブ
7…脱溶媒管
8…スキマー
9…イオン通過孔
10…第2イオンガイド
11…四重極マスフィルター
12…イオン検出器
13…第1イオンガイド電圧発生部
14…第2イオンガイド電圧発生部
15…マスフィルター電圧発生部
16…制御部
20、30…第1イオンガイド
201…イオン光軸
202、333…(イオン入口端の)内接円
203、334…(イオン出口端の)内接円
21、211~218、34、341~346…ロッド電極
331、332…中心軸