(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035915
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】成形装置の監視装置、成形装置の監視方法および成形装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/32 20060101AFI20240308BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20240308BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B22D17/32 J
B29C45/17
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140539
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】田中 元基
(72)【発明者】
【氏名】大西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 貴之
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM19
4F206AM23
4F206JA07
4F206JP11
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JP27
4F206JP30
(57)【要約】
【課題】成形装置の各部位の状態を容易に把握することができる監視装置を提供すること。
【解決手段】本発明の監視装置(50)は、記憶部(53)と表示部(57)を備える。
記憶部(53)は、成形装置の成形に関するショットデータと、ショットデータに対応付けられる成形装置の複数の監視対象(13,36)における状態データと、状態データが取得された画像データと、を保存する。
表示部(57)は、連続する複数のショットデータを含む履歴データと、複数のショットデータのそれぞれに対応する複数の状態データと、複数の状態データの中のいずれかの状態データに対応する画像データと、を同じ画面に一緒に表示する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形装置の複数の監視対象のそれぞれを撮影した画像データと、前記画像データのそれぞれから取得される状態データと、を対応付けて保存する記憶部と、
前記状態データのいずれか一つまたは複数と、いずれか一つまたは複数の前記状態データに対応する前記画像データと、を同じ画面に一緒に表示する表示部と、を備える成形装置の監視装置。
【請求項2】
前記記憶部は、
前記成形装置で行われる成形に関するショットデータに対応付けて前記画像データを記憶し、
前記表示部は、
連続する複数の前記ショットデータを含む履歴データと、複数の前記ショットデータのそれぞれに対応付けられる連続する複数の前記状態データと、複数の前記状態データの中のいずれか一つまたは複数の前記状態データに対応する前記画像データと、を同じ画面に一緒に表示する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記履歴データと連続する複数の前記状態データは、それぞれグラフ形式で前記表示部に表示される、
請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記画像データを画像処理することにより、前記状態データを取得する処理部を備える、
請求項2に記載の監視装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記状態データと比較される基準値データを保存し、
前記処理部は、対応付けられる前記状態データと前記基準値データとを比較することにより、前記状態データの程度を判定する、
請求項4に記載の監視装置。
【請求項6】
前記表示部は、前記状態データの状態の前記判定の結果を表示する、
請求項5に記載の監視装置。
【請求項7】
複数の前記監視対象のそれぞれに対応して設けられる、前記画像データを取得する複数のカメラを備え、
前記成形装置の動作に応じて設定される撮影タイミングにより、複数の前記カメラのそれぞれが対応する前記監視対象を撮影する、
請求項6に記載の監視装置。
【請求項8】
複数の前記監視対象における特定の撮影領域を撮影するように、複数の前記カメラの姿勢が設定される、
請求項7に記載の監視装置。
【請求項9】
前記カメラは、
連続する複数の成形ショットのそれぞれにおいて、前記監視対象を撮影し、
前記処理部は、
撮影により得られる前記成形ショットのそれぞれの前記画像データついて、前記状態データを取得し、かつ、前記判定を行う、
請求項7に記載の監視装置。
【請求項10】
成形装置の複数の監視対象のそれぞれを撮影した画像データと、前記画像データのそれぞれから取得される状態データと、を対応付けて保存する記憶部から読み出す第1ステップと、
前記状態データのいずれか一つまたは複数と、いずれか一つまたは複数の前記状態データに対応する前記画像データと、を同じ画面に一緒に表示させる第2ステップと、
を備える成形装置の監視方法。
【請求項11】
固定金型と可動金型との型締を行う型締部と、
前記固定金型および前記可動金型との間に形成されるキャビティに向け被成形材を射出する射出部と、
前記型締部および前記射出部における監視対象を監視する監視部と、を備え、
前記監視部は、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の監視装置からなる、成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばダイカスト鋳造装置、射出成形装置などの成形装置の運転状態を監視する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイカスト鋳造装置、射出成形装置などの成形装置において、得られた成形品の品質を管理、維持することを目的として、成形条件について異常発生の有無を監視することが行われている。例えば、特許文献1は、成形条件に関わるショットデータとダイカスト鋳造装置に異常が発生したことを示す異常データとを保存する記憶部と、連続する複数のショットデータを含む履歴グラフと、履歴グラフの該当時刻に異常データが発生したことを示す異常データマークと、を表示する表示部と、を備えるデータの操作装置を備える。成形条件として、例えば射出速度、鋳造圧力が監視される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、射出速度、鋳造圧力などの成形条件だけを監視していたのでは、金型などの成形装置の各部位の状態を把握することは難しい。成形装置の各部位の状態は、成形品の品質にも影響を与えるが、鋳造などの生産現場おいてはオペレータの技能・感性に依存しているのが実状である。このことが、生産現場の省人化やトレーサビリティのさらなる強化を目指す際の課題となっている。
【0005】
そこで本発明は、成形装置の各部位の状態を容易に把握することができる監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の監視装置は、記憶部と表示部を備える。
記憶部は、成形装置の複数の監視対象のそれぞれを撮影した画像データと、画像データのそれぞれから取得される状態データと、を保存する。
表示部は、状態データのいずれか一つまたは複数と、いずれか一つまたは複数の状態データに対応する画像データと、を同じ画面に一緒に表示する。
【0007】
本発明の監視装置において、好ましくは、記憶部は、成形装置で行われる成形に関するショットデータに画像データを対応付けて記憶し、表示部は、連続する複数のショットデータを含む履歴データと、複数のショットデータのそれぞれに対応付けられる連続する複数の状態データと、複数の状態データの中のいずれか一つまたは複数の状態データに対応する画像データと、を同じ画面に一緒に表示する、
本発明の監視装置において、好ましくは、履歴データと連続する複数の状態データは、それぞれグラフ形式で表示部に表示される。
【0008】
本発明の監視装置において、好ましくは、画像データを画像処理することにより、状態データを取得する処理部を備える。
【0009】
本発明の監視装置において、好ましくは、記憶部は、状態データと比較される基準値データを保存し、処理部は、対応する状態データと基準値データとを比較して、比較された状態データの程度を判定する。
【0010】
本発明の監視装置において、好ましくは、表示部は、状態データの状態の判定の結果を表示する。
【0011】
本発明の監視装置において、好ましくは、複数の監視対象のそれぞれに対応して設けられる、画像データを取得する複数のカメラを備え、成形装置の動作に応じて設定される撮影タイミングにより、複数のカメラのそれぞれが対応する監視対象を撮影する。
【0012】
本発明の監視装置において、好ましくは、複数の監視対象における特定の撮影領域を撮影するように、複数のカメラの姿勢が設定される。
【0013】
本発明の監視装置において、好ましくは、カメラは、複数の成形ショットのそれぞれにおいて、監視対象を撮影し、処理部は、撮影により得られる成形ショットのそれぞれの画像データついて、状態データを取得し、かつ、判定を行う。
【0014】
成形装置の監視方法は、成形装置の複数の監視対象のそれぞれを撮影した画像データと、画像データのそれぞれから取得される状態データと、を対応付けて保存する記憶部から読み出す第1ステップと、
状態データのいずれか一つまたは複数と、いずれか一つまたは複数の状態データに対応する画像データと、を同じ画面に一緒に表示させる第2ステップと、を備える。
【0015】
本発明の成形装置は、型締部と、射出部と、監視部と、を備える。
型締部は、固定金型と可動金型との型締を行う。
射出部は、固定金型および可動金型との間に形成されるキャビティに向け被成形材を射出する。
監視部は、型締部および射出部における監視対象を監視する。監視部は、本発明のいずれかの監視装置からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の監視装置によれば、状態データと、状態データに対応する画像データと、を同じ画面に一緒に表示できる。したがって、この画面を参照することにより、オペレータならずとも、成形装置の各部位の状態を容易に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るダイカスト鋳造装置の概略構成例を示す側面図である。
【
図3】可動金型における鋳バリの発生状況を時系列順に示す図である。
【
図4】スリーブにおける金属付着の発生状況を時系列順に示す図である。
【
図7】撮影条件設定手順における入力画面を示す図である。
【
図8】状態判定手順における判定結果を示す図である。
【
図9】履歴データおよび状態データを表形式で示す図である。
【
図10】グラフ形式で表示される履歴データおよび状態データと画像データとが一緒の画面に表示される例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔全体構成〕
図1に示すダイカスト鋳造装置1は、固定金型11と可動金型13との型締を行う型締部10と、固定金型11および可動金型13とがなす図示しないキャビティに向けて溶湯(材料)を射出する射出部30と、型締部10および射出部30を撮影する撮像部40と、を備える。ダイカスト鋳造装置1は、型締部10および射出部30の動作を制御するとともに、撮像部40から得られる画像データを用いて型締部10および射出部30の状態を判定する制御部50を備えている。以下、型締部10、射出部30、撮像部40および制御部50の順に説明する。
【0019】
[型締部10:
図1参照]
型締部10は、固定金型11を支持面15において支持する固定プラテン12と、可動金型13を支持面16において支持する可動プラテン14と、を備える。固定プラテン12は位置が固定されるのに対して、可動プラテン14は固定プラテン12に対して進退移動に構成される。図示が省略されるレール等に沿って可動プラテン14が型締方向xに進退移動されることで、固定金型11および可動金型13を開閉するとともに、固定金型11と可動金型13とを型締する。なお、固定金型11が可動金型13に近づく移動を前進といい、その逆に固定金型11が可動金型13から遠ざかる移動を後退という。
この型締部10は、固定金型11と可動金型13とを型締するのに必要な力を発生させるトグルリンク機構20を備える。このトグルリンク機構20は、リンクハウジング22と可動プラテン14との間に設置されるトグルリンク23と、型締方向xに対して平行に配置される複数、典型的には4本のタイバー21と、トグルリンク23に連結されているクロスヘッド24と、リンクハウジング22に設けられているクロスヘッド24を駆動する型締シリンダ25と、を備えている。トグルリンク23は、ミッドリンク231およびクロスヘッドリンク232を含んでいる。本実施形態のタイバー21は、4本あり、リンクハウジング22、可動プラテン14および固定プラテン12のそれぞれの幅方向yおよび高さ方向zの四隅を貫通している。
【0020】
図示しない油圧回路により駆動される型締シリンダ25によりクロスヘッド24が可動プラテン14に向けて押し出されると、可動プラテン14が、タイバー21により案内されながら固定プラテン12に向けて前進する。このとき、トグルリンク23(ミッドリンク231、クロスヘッドリンク232)は、屈曲した状態から次第に伸長した状態になる。固定金型11に対して可動金型13が接触するとタイバー21の伸長が開始され、タイバー21には、引張応力に比例した歪が発生する。
タイバー21の張力は、固定金型11および可動金型13に型締力として与えられる。トグルリンク23が最大に伸長したとき、タイバー21も最大に伸長し、可動金型13が型締完了の位置に至ると、規定の型締力が固定金型11および可動金型13に与えられる。規定の型締力により、キャビティの溶湯の圧力に対して固定金型11および可動金型13を十分に型締可能である。型締および型開が繰り返されることで、タイバー21の歪は弾性域内で増減する。
【0021】
[射出部30:
図1参照]
射出部30は、固定金型11と可動金型13との間に形成される図示しないキャビティに向けて例えばアルミニウム合金の溶湯を射出する。射出部30は、射出シリンダ31と、キャビティに供給される溶湯を保持するスリーブ35と、備える。
射出シリンダ31は、シリンダ本体31Aと、シリンダ本体31Aの内部にその一部が配置されるピストンロッド31Bと、ピストンロッド31Bの一方端に設けられるプランジャチップ31Cと、ピストンロッド31Bの他方端に設けられるピストン31Dと、を備える。
【0022】
また、スリーブ35は、図示が省略されるラドルにより溶湯が注入される注湯口36が内外を貫通するように形成される筒状の部材である。スリーブ35は、一端が固定プラテン12を貫通して固定金型11まで達する一方、他端が射出シリンダ31に対向するように配置されている。スリーブ35の内部には、射出シリンダ31のプランジャチップ31Cおよびピストンロッド31Bの一部が挿入されている。
注湯口36からスリーブ35の内部に溶湯が注湯されると、図示が省略される油圧回路を構成しているシリンダ本体31Aに結合したプランジャチップ31Cを前進させる。そうすると、溶湯はキャビティに射出される。
【0023】
型締部10および射出部30により成形品を得る成形サイクルの概略は以下の通りである。以下の各工程は、制御部50の指示により型締部10および射出部30が動作することにより実行される。ダイカスト鋳造装置1は、通常、成形サイクルを繰り返すことにより、成形品を連続して得る。
【0024】
型締工程:トグルリンク機構20を動作させて、可動プラテン14を固定プラテン12に向けて移動させる。可動金型13が固定金型11に所定の圧力で押し付けられるまで前進させて、固定金型11と可動金型13とを型締めする。型締めにより、固定金型11と可動金型13の間に成形品に相似する空隙であるキャビティが形成される。
射出工程:型締めを終えると、スリーブ35の内部に蓄えられている溶湯を射出シリンダ31のプランジャチップ31Cを前進させて、溶湯をキャビティに射出、充填する。
【0025】
保圧工程:溶湯がキャビティに充填されると、射出シリンダ31のヘッド側31Eへの圧力導入によりキャビティの溶湯の圧力を規定圧力まで増加させ、キャビティの溶湯圧力を保つ。
型開/排出工程:溶湯が凝固して成形品が得られたならば、トグルリンク機構20を動作させることにより可動プラテン14および可動金型13を所定の位置まで後退さて型開きする。型開きをした後に、図示が省略される成形品の排出機構により、成形品を固定金型11と可動金型13の間から排出させる。
【0026】
[撮像部40:
図1参照]
撮像部40は、型締部10および射出部30を構成する要素を撮影する複数台のカメラを備える。ここでは、一例として、可動金型13を撮影する第1カメラ41と、注湯口36を介してスリーブ35の内部を撮影される第2カメラ43と、が
図1に示されているが、カメラの台数および設置位置は任意である。第1カメラ41は、可動金型13の全体を撮影し得る位置に設けられるが、可動金型13の特定の領域に絞って撮影ができるように、可動機構により姿勢が変えられるようになっているのが好ましい。可動機構の動作は、後述する制御部50の処理部55の指示により行われる。第2カメラ43および他のカメラについても同様である。
【0027】
第1カメラ41、第2カメラ43としては、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサが適用されるカメラ、特にネットワークカメラが好適に用いられる。このネットワークカメラは、例えばLAN(Local Area Network)ケーブルにより、ルーターなどのネットワーク機器を介して制御部50に接続される。第1カメラ41および第2カメラ43は、それぞれが撮影するタイミングになったならば、制御部50からの指示に基づいて所定領域を撮影する。撮影された画像データは、第1カメラ41および第2カメラ43から制御部50に転送される。
【0028】
[制御部50:
図2参照]
制御部50は、前述したように、型締部10および射出部30の鋳造工程制御をするとともに型締部10および射出部30の状態判定を実行する。制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、半導体メモリおよびディスプレイなどを備えるコンピュータ装置により構成される。
【0029】
制御部50は、送受信部51、記憶部53、処理部55および入力/表示部57を備える。この機能の区分は一例であり、さら機能を細分化したり、機能を統合したりしてもよい。一例として、入力/表示部57は、入力に特化される部分と表示に特化される部分に分けることができる。
送受信部51は、型締部10および射出部30に成形条件データを送信するのに加えて、撮像部40に撮影条件データを送信する。また、送受信部51は、型締部10および射出部30からのショットデータを受信するのに加えて、撮像部40で得られた画像データを受信する。ショットデータについては後述する。
【0030】
記憶部53は、型締部10および射出部30に送信する成形条件データを保存するのに加えて、撮像部40に送信する撮影条件データを保存する。また、記憶部53は、型締部10および射出部30から送受信部51が受信したショットデータを保存するのに加えて、撮像部40から送受信部51が受信した画像データを保存する。また、記憶部53は、画像データに基づいて演算処理により取得された状態データを保存する。具体的には後述するが、画像データおよび状態データはショットデータに対応付けて記憶される。この対応付けは後述するショットNo.に基づいて行われる。さらにまた、記憶部53は、状態データと比較される基準値データを保存する。
【0031】
処理部55は、記憶部53に記憶される成形条件データ、撮影条件データを送受信部51から送信するように処理する。また、処理部55は、送受信部51で受信したショットデータおよび画像データを対応付けて記憶部53に記憶させる。また、処理部55は、記憶部53に記憶した画像データを用いて画像データに対応する部位の状態データを演算により求めるとともに、状態データをショットデータに対応付けて記憶部53に記憶させる。また、処理部55は、状態データと基準値データとを比較することで客観性をもって状態判定を行い、状態判定の結果である判定データをショットデータに対応付けて記憶部53に記憶させる。さらにまた、処理部55は、記憶部53に記憶されるショットデータ、画像データおよび状態データを、入力/表示部57に表示させることができる。
処理部55を主体として行われる鋳造工程制御および状態判定制御については、入力/表示部57の説明の後に言及する。
【0032】
入力/表示部57は、例えば液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)からなり、ダイカスト鋳造装置1を操作するオペレータが成形条件、撮影条件の入力を受け付ける。ここで入力される成形条件および撮影条件がそれぞれ成形条件データおよび撮影条件データを構成する。また、入力/表示部57は、記憶部53に記憶されるショットデータの表示を受け付ける。ショットデータの表示は、ショットデータに対応付けられている画像データ、状態データおよび判定データを伴うことができる。
【0033】
[鋳造工程概要]
送信される成形条件データに従って、型締部10および射出部30における動力源、型締シリンダ25、射出シリンダ31の動作が制御される。そのために型締部10および射出部30に設けられる各種センサで得られる検出値を取得するとともに、取得した検出値と成形条件のしきい値とを処理部55が比較することにより、成形条件に合致するように当該動力源の動作を制御する。このときに送信されるのが、検出値はショットデータと称され、鋳造ショットごとに割り当てられる識別記号であるショットNo.(Shot No.)と、当該ショットNo.に係る鋳造ショットが行われたショット時刻(Shot Time)とを伴う。ショットデータは、ビスケット厚、メタル圧、射出速度、金型温度などの成形条件に該当する各種の検出値を含む。ショットデータは、時刻だけでなく、年、月および日に関する情報を含むこともできる。
【0034】
[状態判定概要:
図3,
図4]
状態判定は、撮像部40から送信される画像データに基づいて処理部55において行われる。
図3および
図4に画像データが例示されている。
図3は判定対象としての可動金型13における鋳バリに関するものであり、
図4には判定対象としてのスリーブ35における金属付着に関するものである。付着する金属は、例えばアルミニウム合金である。
図3および
図4において、破線で囲まれる矩形の領域が、画像データが撮影される撮影領域SA1,SA2であり、
図3の撮影領域SA1の中の点の集合が鋳バリを表しており、
図4の撮影領域SA2の中の点の集合が金属付着を表している。
図3および
図4において、上段から下段に向けて鋳造ショット数が増えている。つまり、上段においては鋳バリおよび金属付着が生じていないが、中段、下段と鋳造ショット数が増えるのにつれて、鋳バリおよび溶湯付着の面積が増えている。
【0035】
撮影領域SA1,SA2について第1カメラ41および第2カメラ43で撮影した画像データSD1,SD2をグレースケール色調に変換した後に、二値化して状態データを生成する。グレースケール色調は、一例として、0~255の256段階で明るさが表現される。二値化は、グレースケール色調で表現される画像データから予め定められる色調の範囲を特定の色に着色する有色化を行う。次いで、有色化された範囲の面積を求め、これを状態データとする。例えば、鋳バリについては面積21.5、金属付着については面積8.3といった具合である。
【0036】
状態データ、ここでは一例として鋳バリ面積A1(=21.5)および金属付着面積A2(=8.3)のそれぞれについて記憶部53に記憶されている基準値データと比較される。基準値データは、例えば、鋳バリについてはSV1(=20)および金属付着についてはSV2(=10)とする。また、状態データが基準値データ以下の範囲であれば合格(G)と判定し、状態データが基準値データを超えれば不合格(NG)と判定する。したがって、鋳バリに関しては不合格(NG)と判定され、金属付着に関しては合格(G)と判定される。画像データ、状態データおよび判定データは、前述したように、ショットデータに対応付けて記憶部53に記憶される。
【0037】
[撮影条件設定手順:
図5,
図7参照]
状態判定を行う前提として、鋳造に先立って撮影条件を入力して設定する必要がある。撮影条件の入力は、オペレータが入力/表示部57に行い、処理部55が入力された撮影条件データを記憶部53に保存することで設定がなされる。撮影条件の設定は、
図5に示すように、撮影位置設定(
図5 S101)と撮影タイミング設定(
図5 S103)により行われる。
【0038】
撮影範囲設定は、撮影対象を入力するとともに、撮影対象の中で撮影する領域を入力することにより行われる。一例として、
図7に示すように、撮影対象が複数種類存在する可動金型13の中の「可動金型 ♯1」が入力され、かつ、「可動金型 ♯1」の中の特に「領域SA1」を特定する。撮影領域を特定するのは、例えば、可動金型が♯1,♯2,♯3…と複数種類存在する場合、可動金型♯1,♯2,♯3…のそれぞれにおいて鋳バリの生じやすい領域を特定するためである。
【0039】
次に、撮影タイミングを入力する。
図7の例では、「タイミング T1」が入力されているが、撮影対象が可動金型13の場合であれば、一例として型開きの際に可動金型13が最も後退する後退限まで移動してから1秒後に撮影する、ということになる。多くの監視対象において、型締部10および射出部30の動作に応じてり適切な撮影タイミングが設定されることになろう。
【0040】
入力された以上の条件は、制御部50に送信されると、処理部55の指示により記憶部53に保存される。処理部55は、鋳造が開始される前に、例えば第1カメラ41が領域SA1を撮影できるように、第1カメラ41の駆動機構に動作指令を送信する。
【0041】
[状態判定手順:
図6,
図8参照]
撮影条件が設定され、鋳造が開始されると
図6に示される手順で状態判定が行われる。
状態判定は、はじめに、設定された撮影タイミングによりそれぞれの撮影領域で撮影が行われる(
図6 S201)。例えば、可動金型13(♯1)については設定されたタイミング(T1)で第1カメラ41により撮影領域SA1が撮影され、スリーブ35については設定されたタイミング(T2)で第2カメラ43により撮影領域SA2が撮影される。
撮影により得られた画像データ、例えば画像データSD1および画像データSD2は、制御部50に送信され、処理部55により記憶部53に保存される(
図6 S203)。
【0042】
処理部55は、記憶部53に保存した画像データを用いて二値化および有色化を順に行った後に、有色化された範囲の面積を求めることで状態データを取得する(
図6 S205)。状態データは、例えば前述した鋳バリ面積A1および金属付着面積A2である。状態データは、記憶部53に記憶される。
【0043】
状態データが取得されると、処理部55は、状態データと基準値データとを比較する状態判定を行う(
図6 S207)。処理部55は、状態データが基準値データ以下の範囲の合格(G)と判定し、状態データが基準値データを超えれば不合格(NG)と判定する。
【0044】
状態判定の結果は、入力/表示部57に表示される(
図6 S209)。
図8は表示の一例を示している。
図8は、可動金型13(♯1)についての判定結果の表示例であり、上段が合格(G)の表示例、下段が不合格(NG)の表示例である。この表示例は、判定の結果自体に加えて、コメントが表示されている。ダイカスト鋳造装置1のオペレータは、このコメントを参照して当該部位のメンテナンスを行うことができる。なお、ここでは視覚的な表示を示しているが、聴覚的な表示、つまり音声による表示を行うこともできる。
【0045】
[履歴表示:
図9,
図10,
図11]
画像データおよび状態データは、ショットデータに対応付けて記憶部53に保存される。
図9はショットデータの集合である履歴データ(Historical Data)の一例を示している。
図9に示されるように、履歴データ(Historical Data)は、ショットNo.(Shot No.)、ショット時刻(Shot Time)、検出値(Detection Value)としての射出速度(V)およびビスケット長(B)が対応付けられている。また、履歴データは、状態データ(State Date)としての鋳バリ(Cast Burrs)の面積および金属付着(Metal Adhesion)が対応付けられている。さらに、履歴データは、判定データ(Judgment Data)として、鋳バリ(Cast Burrs)および金属付着(Metal Adhesion)についての判定結果が対応付けられている。履歴データは、
一例として、Shot No.の昇順に並んで表示されている。なお、
図9は、鋳造条件として射出速度(V)とビスケット長(B)だけが示されているが、他の鋳造条件が表示されてもよい。また、状態データおよび判定データについても、他の状態データが表示されてもよい。
図9の同一行に示される個々のデータはショットデータを構成するが、複数のショットデータを時系列に並べた集合が履歴データを構成する。
【0046】
履歴データは、例えば、
図10に示すように、各種履歴データを時系列的に表示した履歴グラフが入力/表示部57に表示される。
図10はその一例として上段に射出速度Vがグラフ形式(履歴グラフ)で表示され、その下に状態データとしての鋳バリ面積A1がグラフ形式(状態グラフ)で表示されている。履歴グラフは、横軸が時刻を示し、縦軸がそれぞれ射出速度および鋳バリ面積を示している。グラフ形式の射出速度Vおよび鋳バリ面積A1と一緒に、可動金型13についての画像データSD1が同じ画面に示されている。グラフ形式で表示すれば、状態データ、ここでは鋳バリ面積A1の変動の傾向を認識しやすい。
【0047】
オペレータは、ダイカスト鋳造装置1の運転中または所定の運転を終えた後の任意の時機に履歴グラフおよび状態グラフを表示させることができる。また、オペレータの指示によらず、予め定められる特定の時機に履歴グラフおよび状態グラフを表示させることができる。
オペレータは、履歴グラフおよび状態グラフに表示させる対象についても任意に選択できる。また、オペレータの指示によらず、予め定められる特定の対象を履歴グラフおよび状態グラフに表示させることもできる。
【0048】
履歴ブラフおよび状態グラフは、
図10に示すように、画像データの表示を伴うこともできる。この場合、履歴グラフに表示されているショットデータのいずれかを特定する。特定されるショットデータに対応付けられている画像データが履歴データとともに入力/表示部57に表示される。
【0049】
[ダイカスト鋳造装置1が奏する効果]
ダイカスト鋳造装置1の監視部50によれば、履歴データと、状態データと、状態データに対応する画像データと、を同じ画面に一緒に表示できる。したがって、この画面を参照することにより、オペレータならずとも、型締部10および射出部30の各部位の状態を容易に把握できる。
さらに、制御部50によれば、画像データに基づいて状態判定を行うことで、オペレータによる状態判定と同等の状態判定ができる。
しかも、ダイカスト鋳造装置1によれば、各部位に設けるカメラによって撮影し、得られた画像データを画像処理することによって状態データを取得し、ショットデータと対応付けて保存する。これによって、オペレータが担っていた金型状態、鋳造品外観、鋳造機の目視評価、などの鋳造品質、生産性の維持に直結するような管理項目を自動判定することで品質管理体制(運転停止、警報発出、鋳造条件自動調整など)が大幅に強化される。また、それぞれのショットデータに検出値と合わせて画像データを保管し、表示させることでトレーサビリティを拡張できる。
【0050】
本発明の好ましい上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0051】
[撮影条件設定について]
撮影条件の設定については、鋳造を行うたびに行う必要はない。例えば、過去に撮影条件が設定されている固定金型11および可動金型13を用いて鋳造する際には、記憶部53に記憶されている当該撮影条件に基づいて状態判定を行うことができる。
また、可動金型13における撮影領域SA1については、可動金型13の特定の部位を撮影できるように、第1カメラ41を動作させる例を示したが、必ずしもこのような動作が必要なわけではない。注湯口36を介したスリーブ35の内部を撮影する場合には、撮影領域SA2は固定されているとみなせる。このように、撮影対象によっては撮影領域が一義的に定まる場合には、撮影領域の設定を省くことができる。このような場合であっても、当該カメラが一義的に定まる撮影領域を撮影し得る位置にカメラが据え付けられている必要はある。
【0052】
また、撮影条件として撮影タイミングを設定して自動的に撮影する実施形態を示した。しかし、本発明において、例えば、所定の時間的な間隔を空けて断続的に撮影を行うこともできる。ダイカスト鋳造装置1の各部位の動作の速度に合わせて時間的な間隔を設定すれば、必要なタイミングで漏れなく撮影することが可能である。また、オペレータからの指示に基づいて撮影することもできる。この場合も、オペレータはダイカスト鋳造装置1の動作を熟知しているので、必要なタイミングで漏れなく撮影することが可能である。例えば、撮影タイミングを設定する自動的な撮影と、時間間隔の設定に基づく撮影およびオペレータの指示に基づく撮影とを組み合わせて撮影することもできる。
【0053】
[状態判定について]
鋳造ショットの度に撮影および判定を行う実施形態を説明した。しかし、本発明において、撮影および判定の頻度を実施形態に比べて下げることができる。例えば、状態の変動、つまり状態データの変動が小さければ、例えば数ショットごとの撮影および判定であっても、状態を適切に把握することができる。鋳造ショットの度に撮影および判定を行う対象と、数ショットごとに撮影および判定を対象とを区別することもできる。
【0054】
判定を行うための状態データを取得するための画像処理として二値化を行う実施形態を説明した。しかし、本発明においては、二値化以外の他の画像処理の手法を適用できる。例えば、撮影された画像データとマスタ画像とを比較することによっても状態データを取得できる。
【0055】
図10には、特に好ましい形態として、履歴ブラフおよび状態グラフが表示されているが、本発明において、履歴グラフの表示を省略し、状態グラフと画像データだけを表示させることができる。状態グラフと画像データだけでも型締部10および射出部30の各部位の状態を十分に把握できるからである。
図10には、履歴データおよび状態データがグラフ形式で表示されているが、本発明における表示はグラフ形式ではなく、グラフの基になる数値そのものを表示させることもできる。この場合、例えば複数の履歴データおよび複数の状態データを表形式で表示させてもよいし、複数の履歴データの中のいずれか一つだけ、および、複数の状態データの中のいずれか一つだけを表示させてもよい。この一例として、終えたばかりのショットについての一つの状態データと、当該状態データに対応する画像データを対応付けて表示させることもできる。
図10には一つの画像データ(SD1)だけが示されている。しかし、本発明において、例えば、可動金型13の鋳バリに関する複数の画像データを時系列の順に並べて表示させることもできる。また、複数の画像データを表示させる場合、必ずしも履歴ブラフおよび状態グラフの表示を伴うことなく、複数の画像データだけを表示させることもできる。
【0056】
本発明は基準値データを複数段階として状態データ比較することもできる。例えば、第1基準値と第2基準値を備える場合、状態データが第1基準値よりも小さい、状態データが第1基準値と第2基準値の間、状態データが第2基準値よりも大きい、という三つの程度に分かれる判定が行われる。
【0057】
状態判定の対象、つまり監視対象として、可動金型13およびスリーブ35を実施形態において説明した。しかし、本発明においては、以下に示すダイカスト鋳造装置1の各部位について状態判定を行うことができる。なお、以下の部位は、
図1には示されていないものを含むが、いずれも当業者間で周知である。
鋳抜ピンの有無、水漏れ:金型保全の妥当性、鋳造品の品質
鋳造品の型残り:鋳造品の品質、金型保全の妥当性
注湯口の湯こぼれ:鋳造条件の妥当性、鋳造品の品質、安全
チップ潤滑剤の吐出、付着:鋳造条件の妥当性、鋳造品の品質
金型の焼き付き:金型保全の妥当性、鋳造品の品質
湯面検知棒のアルミ付着:マシン保全の妥当性、鋳造品の品質
ラドルのアルミ付着:マシン保全の妥当性、鋳造品の品質
チルベント充填状況:鋳造条件の妥当性、鋳造品の品質
【0058】
上記実施形態は、本発明の適用対象としてダイカスト鋳造装置を例にして説明したが、本発明の適用対象はこれに限らない。他の鋳造装置、例えば低圧鋳造装置が本発明の適用対象になる。また、鋳造装置に限らず、射出成形装置、押出成形装置などの他の成形装置も本発明の適用対象になる。
【符号の説明】
【0059】
1 ダイカスト鋳造装置
10 型締部
11 固定金型
12 固定プラテン
13 可動金型
14 可動プラテン
20 トグルリンク機構
21 タイバー
22 リンクハウジング
23 トグルリンク
24 クロスヘッド
25 型締シリンダ
30 射出部
31 射出シリンダ
31A シリンダ本体
31B ピストンロッド
31C プランジャチップ
31D ピストン
31E ヘッド側
35 スリーブ
36 注湯口
40 撮像部
41 第1カメラ
43 第2カメラ
50 制御部
51 送受信部
53 記憶部
55 処理部
57 入力/表示部
231 ミッドリンク
232 クロスヘッドリンク
A1 鋳バリ面積
A2 金属付着面積
SA1,SA2 撮影領域
SD1,SD2 画像データ