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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003593
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】地盤状態測定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20240105BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
E02D1/00
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102829
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】野中 隼人
(72)【発明者】
【氏名】黒川 紗季
(72)【発明者】
【氏名】升元 一彦
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 保幸
(72)【発明者】
【氏名】奈須野 恭伸
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘明
【テーマコード(参考)】
2D040
2D043
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040FA11
2D040GA02
2D043AA00
2D043AA05
2D043AC05
(57)【要約】
【課題】地盤の内部におけるグラウト材の注入状況を適切に把握することができる地盤状態測定方法を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る地盤状態測定方法は、地盤Bに形成されたボーリング孔Hにグラウト材Gを注入するグラウチング工程と、地盤Bの内部において延在する光ファイバケーブル11によって地盤Bの温度を測定する光ファイバセンサ温度測定工程と、光ファイバケーブル11が測定した温度を用いてボーリング孔Hから光ファイバケーブル11が配置されている地点までグラウト材Gが浸透しているか否かを判定するグラウト材注入判定工程と、を備える。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成されたボーリング孔にグラウト材を注入するグラウチング工程と、
前記地盤の内部において延在する光ファイバケーブルによって前記地盤の温度を測定する光ファイバセンサ温度測定工程と、
前記光ファイバケーブルが測定した温度を用いて前記ボーリング孔から前記光ファイバケーブルが配置されている地点まで前記グラウト材が浸透しているか否かを判定するグラウト材注入判定工程と、
を備える地盤状態測定方法。
【請求項2】
前記光ファイバセンサ温度測定工程では、前記地盤の複数の位置に配置された複数の前記光ファイバケーブルが前記複数の位置のそれぞれの温度を測定し、
前記複数の位置のそれぞれの温度を用いて前記グラウト材の注入到達範囲を判定する到達範囲判定工程を備える、
請求項1に記載の地盤状態測定方法。
【請求項3】
前記グラウチング工程では、加温又は冷却された前記グラウト材を注入する、
請求項1又は2に記載の地盤状態測定方法。
【請求項4】
前記ボーリング孔に対して水押し試験を実行する水押し試験工程と、
前記水押し試験を実行しているときに前記光ファイバケーブルによって前記地盤の温度を測定する水押し試験温度測定工程と、
を備え、
前記グラウト材注入判定工程では、前記光ファイバケーブルが測定した温度を用いて前記ボーリング孔から前記光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透するか否かを判定する、
請求項1又は2に記載の地盤状態測定方法。
【請求項5】
地盤に形成されたボーリング孔に対して水押し試験を実行する水押し試験工程と、
前記水押し試験を実行しているときに、前記地盤の内部において延在する光ファイバケーブルによって前記地盤の温度を測定する水押し試験温度測定工程と、
前記光ファイバケーブルが測定した温度を用いて前記ボーリング孔から前記光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透するか否かを判定するグラウト材注入判定工程と、
を備える地盤状態測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グラウト材が注入される地盤の状態を測定する地盤状態測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基礎地盤に形成されたボーリング孔にグラウト材を注入する注入装置が記載されている。注入装置は、ダム工事におけるグラウチングに用いられる。ダム工事におけるグラウチングでは、複数の1次ボーリング孔にグラウト材を注入する。次に、複数の1次ボーリング孔の間に形成される2次ボーリング孔にグラウト材を注入する。
【0003】
グラウト材を1次ボーリング孔及び2次ボーリング孔に注入する前には、1次ボーリング孔及び2次ボーリング孔におけるルジオン値の測定が行われる。ルジオン値は、基礎地盤における遮水性又は強度の評価に用いられる。2次ボーリング孔におけるルジオン値が基準値を満たしていない場合には、2次ボーリング孔にグラウト材を注入した後に、1次ボーリング孔と2次ポーリング孔との間にそれぞれ形成される3次ボーリング孔にグラウト材を注入する。
【0004】
注入装置は、注入管にグラウト材を送出するポンプと、注入管におけるグラウト材の流れを制御する制御弁とを含む。更に、注入装置は、基礎地盤内に設置される光ファイバケーブルと、光ファイバケーブルの一端に接続されており光ファイバケーブルの歪みを計測する歪み計測部と、歪み計測部からの信号が入力されるコントローラとを備える。
【0005】
歪み計測部は、基礎地盤内に設置された光ファイバケーブルにおける複数の位置での歪みを計測する。コントローラは、計測された歪みから基礎地盤の変位量を算出し、変位量に応じてポンプ及び制御弁を制御する。光ファイバケーブルは基礎地盤の変位に応じて部分的に歪むため、グラウト材は基礎地盤の変位に応じて注入される。従って、基礎地盤の内部でのみ変位が生じる場合であっても、グラウトが適切な圧力及び量で基礎地盤に注入される。これにより、基礎地盤の破壊を防いで基礎地盤の遮水性及び強度を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6951995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した注入装置では、歪み計測部が光ファイバケーブルの歪みを計測し、コントローラが歪みから算出した基礎地盤の変位量に応じてグラウトの注入を制御する。ところで、地盤の内部におけるグラウト材の流れ又は注入範囲を適切に把握できない場合には、グラウチングの効果が低下する懸念がある。従って、グラウチングの効果を高めるために、地盤の内部におけるグラウト材の注入状況を適切に把握できることが求められる。
【0008】
本開示は、地盤の内部におけるグラウト材の注入状況を適切に把握することができる地盤状態測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面に係る地盤状態測定方法は、(1)地盤に形成されたボーリング孔にグラウト材を注入するグラウチング工程と、地盤の内部において延在する光ファイバケーブルによって地盤の温度を測定する光ファイバセンサ温度測定工程と、光ファイバケーブルが測定した温度を用いてボーリング孔から光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透しているか否かを判定するグラウト材注入判定工程と、を備える。
【0010】
この地盤状態測定方法では、グラウチング工程において、地盤に形成されたボーリング孔にグラウト材を注入する。地盤の内部には光ファイバケーブルが延在しており、光ファイバ温度測定工程では、この光ファイバケーブルによって地盤の温度を測定する。光ファイバケーブルによって測定された温度は、ボーリング孔から光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透しているか否かの判定に用いられる。すなわち、光ファイバケーブルが測定した温度を用いて光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透しているか否かが判定される。従って、測定された地盤の内部の温度変化から地盤の内部におけるグラウト材の流れを把握することができるので、地盤の内部におけるグラウト材の流れ及び位置を適切に把握することができる。よって、グラウチングの効果を高めることができる。
【0011】
(2)上記(1)において、光ファイバセンサ温度測定工程では、地盤の複数の位置に配置された複数の光ファイバケーブルが複数の位置のそれぞれの温度を測定してもよい。地盤状態測定方法は、複数の位置のそれぞれの温度を用いてグラウト材の注入到達範囲を判定する到達範囲判定工程を備えてもよい。この場合、地盤の内部において互いに異なる複数の位置のそれぞれに光ファイバケーブルが配置され、複数の光ファイバケーブルが各位置の温度を測定する。複数の位置のそれぞれの温度からグラウト材の注入到達範囲が判定される。従って、複数の光ファイバケーブルが測定した温度からグラウト材の注入到達範囲を把握できるので、地盤の内部におけるグラウト材の流れ及び位置をより適切に把握できる。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)において、グラウチング工程では、加温又は冷却されたグラウト材を注入してもよい。この場合、加温又は冷却されたグラウト材が注入されることにより、グラウト材が浸透したときにおける地盤の内部の温度変化が一層顕著となる。従って、この温度変化を光ファイバケーブルを用いて測定することによって地盤の内部におけるグラウト材の流れ及び位置をより適切に把握できる。よって、グラウチングの効果を一層高めることができる。
【0013】
(4)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、地盤状態測定方法は、ボーリング孔に対して水押し試験を実行する水押し試験工程と、水押し試験を実行しているときに光ファイバケーブルによって地盤の温度を測定する水押し試験温度測定工程と、を備えてもよい。グラウト材注入判定工程では、光ファイバケーブルが測定した温度を用いてボーリング孔から光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透するか否かを判定してもよい。この場合、グラウチング時に水みちへのグラウト材の到達是非を判定することができる。
【0014】
本開示の別の側面に係る地盤状態測定方法は、(5)地盤に形成されたボーリング孔に対して水押し試験を実行する水押し試験工程と、水押し試験を実行しているときに、地盤の内部において延在する光ファイバケーブルによって地盤の温度を測定する水押し試験温度測定工程と、光ファイバケーブルが測定した温度を用いてボーリング孔から光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透するか否かを判定するグラウト材注入判定工程と、を備える。
【0015】
この地盤状態測定方法では、水押し試験工程において、地盤に形成されたボーリング孔に水押し試験を行う。地盤の内部には光ファイバケーブルが延在しており、この光ファイバケーブルによって地盤の温度が測定される。光ファイバケーブルによって測定された温度は、ボーリング孔から光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透するか否かの判定に用いられる。すなわち、光ファイバケーブルが測定した温度を用いて光ファイバケーブルが配置されている地点までグラウト材が浸透するか否かが判定される。従って、測定された地盤の内部の温度変化から地盤の内部におけるグラウト材の流れを把握きるので、地盤の内部におけるグラウト材の流れ及び位置を適切に把握することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、地盤の内部におけるグラウト材の注入状況を適切に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】地盤の内部に形成されたボーリング孔及び光ファイバケーブルを模式的に示す地盤の縦断面図である。
図2】(a)は、一例としての主カーテングラウチングを示す平面図である。(b)は、一例としての補助カーテングラウチングを示す平面図である。
図3】実施形態に係る地盤状態測定方法の工程の例を示すフローチャートである。
図4】(a)は、水押し試験時における注入圧力及び注入流量の時系列データを示すグラフである。(b)は、水押し試験時における孔口からの深度と温度変化量との関係を示すグラフである。
図5】(a)は、グラウト材の注入圧力及び注入流量の時系列データを示すグラフである。(b)は、グラウト材の注入に伴う温度の時系列データを示すグラフである。
図6】グラウチング時における孔口からの深度と温度変化量との関係を示すグラフである。
図7】ボーリング孔から光ファイバケーブルまでの距離と温度変化量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る地盤状態測定方法の実施形態について説明する。図面の説明について同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0019】
図1は、本実施形態に係る地盤状態測定方法が適用される例示的な現場A1の地盤Bを示す縦断面図である。一例として、現場A1はダムの構築現場であり、地盤Bは地山である。地盤Bにはグラウト材Gが注入されるボーリング孔Hが形成される。ボーリング孔Hは鉛直方向D1に延在する。ボーリング孔Hにグラウト材Gが注入されることにより、現場A1の地盤Bに対するグラウチングが行われる。グラウチングにおいて、地盤Bの内部におけるグラウト材Gの注入状況が適切でない場合には、グラウト材Gの注入が不十分で遮水性が改善できなかったり、強度が不十分であったり、地盤Bが隆起する等の問題が生じる可能性がある。従って、現場A1では、グラウト材Gの注入状況を適切に把握することが求められる。
【0020】
ボーリング孔Hには、現場A1の地面Sから所定距離C(一例として0.2m)だけ下方の位置からグラウト材Gが注入される。例えば、グラウト材Gは加温又は冷却されている。ボーリング孔Hに注入されるグラウト材Gの温度は、一例として、約25℃である。例えば、地盤Bの地下水の温度は約15℃であるため、注入されるグラウト材Gの温度はグラウト材Gが注入される前では地盤B、及び地盤Bの地下水の温度よりも高い。
【0021】
地盤Bには、グラウト材Gの注入状況を観測する観測孔Kが形成される。観測孔Kは、ボーリング孔Hから離隔した位置において鉛直方向D1に延在する鉛直ボーリング孔である。観測孔Kには、光ファイバケーブル11が通されている。光ファイバケーブル11は、地盤Bの温度及び歪みを測定可能な光ファイバセンサである。光ファイバケーブル11は、例えば、グラウト材Gの注入状況を把握する注入状況把握システム1の一要素であり、注入状況把握システム1では光ファイバケーブル11が地盤Bの温度(温度変化を含む)を測定することによってグラウト材Gの注入状況を把握する。
【0022】
例えば、注入状況把握システム1は、ボーリング孔Hに対するグラウト材Gの注入圧力を測定する注入圧力測定部2と、ボーリング孔Hに注入したグラウト材Gの流量を測定する注入流量測定部3とを有する。更に、注入状況把握システム1は、光ファイバケーブル11と、光ファイバケーブル11の端部に設けられた計測器12とを備える。計測器12は、光ファイバケーブル11を用いて地盤Bの温度を計測する。計測器12が光ファイバケーブル11に計測光を入力し、例えば、当該計測光の入力によって光ファイバケーブル11から生じた後方散乱光が計測器12に入力される。計測器12は、入力された後方散乱光のスペクトルの変化を計測して光ファイバケーブル11の周囲の地盤Bの温度を計測する。
【0023】
図2(a)は、現場A1の具体例を模式的に示す平面図及び縦断面図である。一例として、現場A1ではグラウト材Gによる地盤改良領域である主カーテンが構築される。図2(a)に示されるように、現場A1には、複数のボーリング孔(注入孔)H、及び複数の観測孔Kが形成される。この場合、注入状況把握システム1は、複数の観測孔Kのそれぞれに挿入される複数の光ファイバケーブル11を備える。複数の光ファイバケーブル11は、観測孔Kに挿入される温度計測用光ファイバケーブル11b、及び歪み計測用光ファイバケーブル11cを含む。
【0024】
計測器12は、歪み計測用光ファイバケーブル11cを用いて、例えば、レイリー計測によって地盤Bの歪みを計測する。しかしながら、計測器12は、歪み計測用光ファイバケーブル11cを用いてブリルアン計測によって歪みを計測してもよい。計測器12が歪み計測用光ファイバケーブル11cに計測光を入力すると、歪み計測用光ファイバケーブル11cにおいて後方散乱光が生じる。この後方散乱光のスペクトル(周波数ごとの強度)は、歪みによって変化する。後方散乱光の強度は計測光の強度よりも小さい。
【0025】
レイリー計測では、後方散乱光のスペクトルの変化を計測することによって、歪み計測用光ファイバケーブル11cに生じる歪みを検出する。後方散乱光を用いたレイリー計測は、精度が高く、光のロスに強いという利点がある。歪み計測用光ファイバケーブル11cでは、例えば、1μの歪みといった精度で地盤Bの歪みの検知が可能である。温度計測用光ファイバケーブル11bは、歪み計測用光ファイバケーブル11cと同様、地盤Bの温度の高精度な検知が可能である。更に、グラウチングのときに地盤Bの歪み及び温度を連続的に測定することができる。
【0026】
例えば、複数の光ファイバケーブル11は、導線用光ファイバケーブル11dを含んでおり、温度計測用光ファイバケーブル11b及び歪み計測用光ファイバケーブル11cのそれぞれは、導線用光ファイバケーブル11dを介して計測器12に接続されている。計測器12は、例えば、地面Sに設置された計測小屋の内部に設けられる。注入状況把握システム1は、例えば、光ファイバケーブル11の計測器12とは反対側の端部(下端)に取り付けられた錘13を備える。この錘13によって、観測孔Kへの光ファイバケーブル11の設置を容易に行うことができる。
【0027】
複数のボーリング孔Hは、例えば、パイロット孔H1、1次孔H2、及び2次孔H3を含む。現場A1では、所定の方向D2に複数のパイロット孔H1が並んでおり、平面視における2つのパイロット孔H1の間に1次孔H2が形成される。そして、パイロット孔H1及び1次孔H2の間に2次孔H3が形成される。パイロット孔H1のルジオン値が測定された後にパイロット孔H1にグラウト材Gが充填され、1次孔H2のルジオン値が測定された後に1次孔H2にグラウト材Gが充填される。そして、2次孔H3にグラウト材Gが注入される前にもルジオン値の測定が行われる。
【0028】
ルジオン値は、地盤Bにおける遮水性又は強度の評価に用いられる。ルジオン値を測定する試験は、水押し試験とも称される。ルジオン値の測定では、例えば、ボーリング孔に1MPaの水圧を付与し、ボーリング孔の1mの領域において1分間に地盤Bに浸透する水の量が測定される。2次孔H3のルジオン値が基準値を満たしている場合には、2次孔H3にグラウト材Gが充填される。一方、2次孔H3のルジオン値が基準値を満たしていない場合には、2次孔H3にグラウト材Gが充填された後に、1次孔H2(又はパイロット孔H1)と2次孔H3の間に3次孔H4が削孔され、3次孔H4にグラウト材Gが充填される。
【0029】
一例として、現場A1に形成される観測孔Kの数は3以上である。例えば、観測孔Kは、1次孔H2及び2次孔H3を接続する仮想の基準線Xに対して方向D3に離隔した位置に形成される。方向D3は、鉛直方向D1及び方向D2に双方に交差する方向である。一例として、観測孔Kは、1次孔H2(又はパイロット孔H1)と2次孔H3とを接続する線分の中点(3次孔H4が形成される位置)から方向D3に離隔した位置に形成される。
【0030】
以上、現場A1の具体例について説明した。しかしながら、実施形態に係る注入状況把握システム1及び地盤状態測定方法を適用可能な現場は、現場A1に限られない。図2(b)は、図2(a)の現場A1とは異なる現場A2を模式的に示す平面図である。一例として、現場A2ではダムの補助カーテンが構築される。現場A2は、例えば、複数のブロックRに区分けされており、各ブロックRに複数の1次孔H2、複数の2次孔H3、及び複数の観測孔Kが形成される。
【0031】
例えば、1次孔H2は、方向D2及び方向D3のそれぞれに沿って千鳥状に並ぶように形成される。そして、前述と同様、1次孔H2に対してルジオン値の測定が行われた後に1次孔H2にグラウト材Gが充填される。その後、方向D2に沿って並ぶ2つの1次孔H2の間、及び方向D3に沿って並ぶ2つの2次孔H3の間、のそれぞれに2次孔H3が形成され、2次孔H3に対してルジオン値の測定が行われる。そして、2次孔H3にグラウト材Gが充填される。更に、2次孔H3のルジオン値が基準値を満たしていない場合には、前述と同様、3次孔H4が形成される。
【0032】
観測孔Kは、例えば、各ブロックRの隅部(一例として四隅)のそれぞれ、及び各ブロックRの中央付近に形成される。例えば、観測孔Kは、1次孔H2及び2次孔H3を結ぶ仮想の線分の中点の位置に形成される。前述したように各観測孔Kには光ファイバケーブル11が挿入され、光ファイバケーブル11が地盤Bの温度を測定することによって注入状況把握システム1は地盤Bにおけるグラウト材Gの注入状況を測定する。
【0033】
次に、本実施形態に係る地盤状態測定方法の工程について図3のフローチャートを参照しながら説明する。図3は、本実施形態に係る地盤状態測定方法の工程の例を示すフローチャートである。本実施形態に係る地盤状態測定方法は、例えば、注入状況把握システム1を用いて行われる。まず、ボーリング孔Hに注入するグラウト材Gを加温又は冷却する(グラウト材を加温又は冷却する工程)。このとき、例えば、グラウト材Gを所定温度(一例として25℃)となるように加温(又は冷却)する。
【0034】
また、例えば図1に示されるように、地盤Bにボーリング孔Hを形成すると共に、地盤Bのボーリング孔Hから離隔した位置に観測孔Kを形成する(観測孔を形成する工程)。そして、観測孔Kに光ファイバケーブル11を挿入して注入状況把握システム1を設置する(光ファイバケーブルを挿入する工程)。
【0035】
そして、水押し試験を行う(水押し試験工程)。具体的には、ボーリング孔Hに対してルジオン値を測定する。このとき、地盤Bの水みちを測定すると共に、光ファイバケーブル11によって地盤Bの温度を測定する(水押し試験温度測定工程)。図4(a)は、水押し試験時における注入圧力及び注入流量の時系列データを示している。図4(a)のグラフでは、注入圧力を破線で示すと共に注入流量を実線で示している。図4(b)は、水押し試験時における地盤Bの温度分布を示すグラフである。図4(a)及び図4(b)に示されるように、光ファイバケーブル11によって測定された温度から地盤Bにおける水みちの場所を特定できる。図4(b)の例では、孔口からの深さが2.5m~4.5mの箇所に水みちが存在していることが分かる。
【0036】
次に、ボーリング孔Hに加温(又は冷却)したグラウト材Gを注入してグラウチングを行う(グラウチング工程、ステップS1)。図5(a)に示されるように、グラウチングと共に、注入圧力測定部2がグラウト材Gのボーリング孔Hへの注入圧力を測定し、注入流量測定部3がグラウト材Gのボーリング孔Hへの単位時間あたりの注入流量を測定する。図5(a)は、1つのボーリング孔Hにおけるグラウト材Gの注入圧力及び注入流量の時系列データを示すグラフである。実際は、複数のボーリング孔Hのそれぞれに対して注入圧力及び注入流量が測定される。
【0037】
図5(b)に示されるように、地盤Bの内部において延在する光ファイバケーブル11が地盤Bの温度を測定する(光ファイバセンサ温度測定工程)。図5(b)は、観測孔Kに挿入された光ファイバケーブル11によって得られた地盤Bの温度の時系列データである。
【0038】
図5(a)及び図5(b)に示されるように、地盤Bの光ファイバケーブル11が配置された位置(観測孔K)の温度は、ボーリング孔Hへのグラウト材Gの注入開始時から徐々に高くなる。グラウト材Gの単位時間あたりの注入流量は、注入直後に大幅に増加するが、その後徐々に減少する。グラウト材Gの注入圧力は、注入直後に増加するが、その後一定となる。
【0039】
例えば、グラウト材Gの単位時間あたりの注入流量が0になったときにボーリング孔Hへのグラウト材Gの注入ができなくなり終了する。計測器12は、光ファイバケーブル11によって測定されたグラウト材Gの注入終了時における地盤Bの温度と、光ファイバケーブル11によって測定されたグラウト材Gの注入開始時における地盤Bの温度との差分(以下では温度変化量と称する)を算出する。そして、計測器12は、温度変化量から観測孔K(光ファイバケーブル11が配置されている地点)までグラウト材Gが浸透しているか否かを判定する(グラウト材注入判定工程)。
【0040】
グラウト材注入判定工程は、水押し試験のときに特定した水みちの場所に基づいて実行されてもよい。具体的には、水押し試験時に取得した地盤Bの温度分布を用いてボーリング孔Hから光ファイバケーブル11が配置されている地点までグラウト材Gが浸透するか否かを判定してもよい。例えば、グラウチング時に光ファイバケーブル11が測定した温度分布と、水押し試験時に光ファイバケーブル11が測定した温度分布とを比較してグラウト材Gが浸透しているか否かを判定してもよい。図6は、グラウチング時に光ファイバケーブル11が測定した温度分布の例を示している。図6及び図4(b)に示されるように、一例として、グラウチング時における温度分布が水押し試験時における温度分布に近似したときにグラウト材Gが浸透したと判定されてもよい。
【0041】
図7は、複数の観測孔Kのそれぞれによって観測された温度変化量と、ボーリング孔Hから観測孔Kまでの距離との関係を示すグラフである。図2(b)及び図7に例示されるように、ボーリング孔Hからの距離が近い観測孔Kほど温度変化量が大きくなっている。具体例として、ボーリング孔Hから最も近い観測孔K6,K8では温度変化量が大きく、ボーリング孔Hから遠い観測孔K1,K3では温度変化量が小さい。
【0042】
例えば、計測器12は、各光ファイバケーブル11によって測定された複数の観測孔Kのそれぞれの温度変化量を用いてグラウト材Gの注入到達範囲を判定する(到達範囲判定工程、ステップS2)。具体例として、計測器12は、温度変化量の閾値V(一例として0.5℃)を有し、複数の観測孔Kのうち閾値Vを超えた観測孔K6,K7,K8までグラウト材Gが到達していると判定する。一例として、計測器12はボーリング孔Hから10mの範囲までグラウト材Gが到達したと判定する。上記の到達判定工程は、例えば、図2(b)に示されるボーリング孔Hのそれぞれに対して実行される。
【0043】
グラウト材Gの注入到達範囲が判定された後には、ボーリング孔Hからの距離に対する温度変化量が整理される(ステップS3)。そして、ボーリング孔Hの現行仕様及び変更仕様のどちらの方がグラウト材Gの注入効果が高いかが判定される(ステップS4)。「仕様」は、例えば、ボーリング孔Hの数及び配置、グラウト材Gの注入圧、又はグラウト材Gの材料を示している。現行仕様とは、現行のボーリング孔Hの数及び配置、現行のグラウト材Gの注入圧、並びに、現行のグラウト材Gの材料の少なくともいずれかを示している。変更仕様とは、ボーリング孔Hの数及び配置、グラウト材Gの注入圧、並びに、グラウト材Gの材料の少なくともいずれかを変更した後の仕様を示している。
【0044】
本実施形態では、例えば、仕様を変更しながらグラウト材Gの注入効果を判定する。一例として、変更仕様におけるボーリング孔Hからのグラウト材Gの到達距離が、現行仕様におけるボーリング孔Hからのグラウト材Gの到達距離よりも長い場合には、変更仕様の方が注入効果が高いと判定される。この場合、仕様を変更仕様に切り替えて(ステップS5)、一連の工程が完了する。
【0045】
一方、変更仕様におけるボーリング孔Hからのグラウト材Gの到達距離が、現行仕様におけるボーリング孔Hからのグラウト材Gの到達距離以下である場合には、変更仕様の注入効果が現行仕様以下であると判定される。この場合、仕様を現行仕様のままとして(ステップS6)、一連の工程が完了する。以上のように、仕様を変更しながらボーリング孔Hの削孔、グラウト材Gの注入、及び光ファイバケーブル11による測定を繰り返すことにより、グラウチングを合理的に進めることができる。場合によっては、ボーリング孔Hの数を減らすといったことも可能となる。
【0046】
次に、本実施形態に係る地盤状態測定方法から得られる作用効果についてより詳細に説明する。図1に示されるように、本実施形態に係る地盤状態測定方法では、グラウチング工程において、地盤Bに形成されたボーリング孔Hにグラウト材Gを注入する。地盤Bの内部には光ファイバケーブル11が延在しており、光ファイバ温度測定工程では、光ファイバケーブル11によって地盤Bの温度を測定する。光ファイバケーブル11によって測定された温度は、ボーリング孔Hから光ファイバケーブル11が配置されている地点(観測孔Kの地点)までグラウト材Gが浸透しているか否かの判定に用いられる。すなわち、光ファイバケーブル11が測定した温度を用いて光ファイバケーブル11が配置されている地点までグラウト材Gが浸透しているか否かが判定される。従って、測定された地盤Bの内部の温度変化から地盤Bの内部におけるグラウト材Gの流れを把握することができるので、地盤Bの内部におけるグラウト材Gの流れ及び位置を適切に把握することができる。よって、グラウチングの効果を高めることができる。
【0047】
本実施形態において、光ファイバセンサ温度測定工程では、地盤Bの複数の位置(例えば観測孔K1~K8)に配置された複数の光ファイバケーブル11が複数の位置のそれぞれの温度を測定する。地盤状態測定方法は、複数の位置のそれぞれの温度を用いてグラウト材Gの注入到達範囲を判定する到達範囲判定工程を備える。よって、地盤Bの内部において互いに異なる複数の位置のそれぞれに光ファイバケーブル11が配置され、複数の光ファイバケーブル11が各位置の温度を測定する。複数の位置のそれぞれの温度からグラウト材Gの注入到達範囲が判定される。従って、複数の光ファイバケーブル11が測定した温度からグラウト材Gの注入到達範囲を把握できるので、地盤Bの内部におけるグラウト材Gの流れ及び位置をより適切に把握できる。
【0048】
本実施形態において、グラウチング工程では、加温又は冷却されたグラウト材Gを注入する。従って、加温又は冷却されたグラウト材Gが注入されることにより、グラウト材Gが浸透したときにおける地盤Bの内部の温度変化が一層顕著となる。従って、この温度変化を光ファイバケーブル11を用いて測定することによって地盤Bの内部におけるグラウト材Gの流れ及び位置をより適切に把握できる。よって、グラウチングの効果を一層高めることができる。
【0049】
本実施形態において、地盤状態測定方法は、ボーリング孔Hに対して水押し試験を実行する水押し試験工程と、水押し試験を実行しているときに光ファイバケーブル11によって地盤Bの温度を測定する水押し試験温度測定工程と、を備えてもよい。グラウト材注入判定工程では、光ファイバケーブル11が測定した温度を用いてボーリング孔Hから光ファイバケーブル11が配置されている地点までグラウト材Gが浸透するか否かを判定してもよい。この場合、グラウチング時に水みちへのグラウト材Gの到達是非を判定することができる。
【0050】
以上、本開示に係る地盤状態測定方法の実施形態について説明した。しかしながら、本開示に係る地盤状態測定方法は、前述した実施形態に限られず、特許請求の範囲に記載した要旨の範囲内において適宜変更可能である。すなわち、地盤状態測定方法の工程の内容及び順序は、前述の実施形態に限られず適宜変更可能である。更に、注入状況把握システムの各部の構成及び機能も、前述の実施形態に限られず適宜変更可能である。例えば、前述した実施形態では、ダムの構築現場である現場A1,A2に適用される地盤状態測定方法について説明した。しかしながら、本開示に係る地盤状態測定方法は、ダムの構築現場以外の現場にも適用可能であり、種々の現場に採用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…注入状況把握システム、2…注入圧力測定部、3…注入流量測定部、11…光ファイバケーブル、11b…温度計測用光ファイバケーブル、11c…歪み計測用光ファイバケーブル、11d…導線用光ファイバケーブル、12…計測器、13…錘、A1,A2…現場、B…地盤、C…所定距離、D1…鉛直方向、D2,D3…方向、G…グラウト材、H…ボーリング孔、H1…パイロット孔、H2…1次孔、H3…2次孔、H4…3次孔、K,K1,K2,K3,K4,K5,K6,K7,K8…観測孔、R…ブロック、S…地面、V…閾値、X…基準線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7