(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035938
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】サスペンション制御システム及びサスペンション制御方法
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
B60G17/015 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140581
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小灘 一矢
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】柳 貴志
(72)【発明者】
【氏名】川崎 善史
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】平尾 隆介
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA17
3D301AB02
3D301AB21
3D301DA08
3D301DA33
3D301DA38
3D301EA05
3D301EA73
3D301EA82
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC08
(57)【要約】
【課題】路面凹凸に応じて適切なプレビュー制御を行うサスペンション制御システムを提供する。
【解決手段】本発明のサスペンション制御システムは、車体に取り付けられた距離センサ11により、距離センサから車輪Wが通過する路面の位置までの路面距離を検出する路面距離検出部12と、車輪の転がり方向におけるタイヤ接地長さに対応する複数の位置に関する路面距離から車高を減じた複数の路面変位の平均路面変位を算出する平均路面変位算出部4と、平均路面変位に基づいて車体の姿勢が所定の車高に安定するようにアクティブサスペンションを制御するアクチュエータ制御部5と、を備えるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付けられた距離センサにより、前記距離センサから車輪が通過する路面の位置までの路面距離を検出する路面距離検出部と、
前記車輪の転がり方向におけるタイヤ接地長さに対応する複数の前記位置に関する前記路面距離から車高を減じた複数の路面変位の平均路面変位を算出する平均路面変位算出部と、
前記平均路面変位に基づいて、前記車体の姿勢が所定の車高に安定するようにアクティブサスペンションを制御するアクチュエータ制御部と、
を備えることを特徴とするサスペンション制御システム。
【請求項2】
前記平均路面変位算出部は、少なくとも車速又はタイヤ空気圧に基づいて、車輪の転がり方向のタイヤ接地長さを求める
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション制御システム。
【請求項3】
前記平均路面変位算出部は、車速とタイヤ空気圧の少なくともいずれかに基づいて、車輪の転がり方向のタイヤ接地長さを多段階的に求める
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション制御システム。
【請求項4】
前記路面距離検出部は、前記距離センサから車輪が通過する路面の位置までの路面距離を、前記車輪の幅方向に設けた複数の距離センサにより検出した路面距離を平均して求める
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のサスペンション制御システム。
【請求項5】
前記路面距離検出部は、複数の距離センサにより検出した路面距離に、車両の旋回に応じて旋回内周側が大きな重みになるように重みを付けて、加重平均値を路面距離として算出する
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション制御システム。
【請求項6】
車体に取り付けられた距離センサにより、前記距離センサから車輪が通過する路面の位置までの路面距離を検出するステップと、
前記車輪の転がり方向におけるタイヤ接地長さに対応する複数の前記位置に関する前記路面距離から車高を減じた複数の路面変位の平均路面変位を算出するステップと、
前記平均路面変位に基づいて、前記車体の姿勢が所定の車高に安定するようにアクティブサスペンションを制御するステップと、
を含むことを特徴とするサスペンション制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション制御システム及びサスペンション制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも高齢者や障がい者や子供といった脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて車両の挙動安定性に関する開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【0003】
車両の挙動安定性を高めるアクティブサスペンション制御技術のひとつに、前方の路面変位をプレビューセンサで検出し、車体の上下加速度と検出した路面変位に応じて、検出した路面を走行する車体の上下動を制御するプレビュー制御がある。このプレビュー制御の制御性能を向上するため、種々の技術が考案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、車両の前方の路面変位を検出できるようにプレビューセンサを取り付ける対地角度を鋭角にした場合、プレビュー距離(路面変位の検出位置までの距離)が車両のピッチ運動(ピッチング)によって大きく変動する。このため、プレビュー距離と走行距離の加算値をプレビュー位置として、路面変位(アクチュエータの作動を制御するために必要な制御情報)をプレビュー位置毎に記憶し、アクチュエータの作動を制御する際にプレビュー位置の順に路面変位を読み出すことが開示されている。
また、特許文献1には、アクチュエータの作動を制御するために必要な制御情報が記憶される路面間隔は、タイヤ接地長とすることが望ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の挙動安定性に関する特許文献1の技術によれば、車速が速い場合でも、プレビュー制御する余裕時間をアクチュエータの制御遅れ時間より長くできるので、プレビュー制御の制御性能が悪化することがない。また、アクチュエータの作動を制御するために必要な制御情報が記憶される路面間隔をタイヤ接地長に等しくすることで、制御情報の記憶容量の増大を抑制することができる。
【0007】
しかし、溝等の検出した路面変位の幅がタイヤ接地長より短い場合には、その路面変位をタイヤが乗り越えることにより無視される場合があるが、特許文献1の技術では、検出した路面変位に基づいて、不要なアクチュエータ制御を行い制御性能が低下することがある。
【0008】
本発明は、この問題を解決し、路面凹凸に応じて適切なプレビュー制御を行うサスペンション制御システムを提供することを目的とする。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明のサスペンション制御システムは、車体に取り付けられた距離センサにより、前記距離センサから車輪が通過する路面の位置までの路面距離を検出する路面距離検出部と、前記車輪の転がり方向におけるタイヤ接地長さに対応する複数の前記位置に関する前記路面距離から車高を減じた複数の路面変位の平均路面変位を算出する平均路面変位算出部と、前記平均路面変位に基づいて、前記車体の姿勢が所定の車高に安定するようにアクティブサスペンションを制御するアクチュエータ制御部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明のサスペンション制御システムによれば、路面凹凸に応じて適切にプレビュー制御が行うことができ、乗り心地が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】サスペンション制御システムの概要を説明する図である。
【
図2】距離センサの取付け構造を示す側面図である。
【
図3】路面Rのプレビュー位置毎の路面変位と、車輪のタイヤの関係を示す図である。
【
図4A】所定のタイヤ空気圧における車速とタイヤ接地長さの関係を示す図である。
【
図4B】所定の車速におけるタイヤ空気圧とタイヤ接地長さの関係を示す図である。
【
図5】車輪を車両の前方から見た際の3つの距離センサが路面距離を検出する様子を示す図である。
【
図6】プレビュー制御部の処理手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、実施形態のサスペンション制御システムの概要を説明する図である。
【0013】
実施形態のサスペンション制御システムでは、スカイフック理論等に基づいて、アクチュエータ制御部5が、車体部材3の姿勢が所定の車高に安定するようにアクティブサスペンションDを制御する。この際、アクチュエータ制御部5は、プレビュー制御部1で検出した車両前方の路面変位を予見情報として取得し、アクティブサスペンションDの応答遅れを補償することで、乗り心地の向上を図っている。
【0014】
詳しくは、車体を形成する車体部材3の下側に、車輪W(左、右の前輪)が設けられ、アクティブサスペンションDと車輪Wのタイヤ(不図示)が、路面Rの凹凸を吸収する。アクチュエータ制御部5は、車輪WのタイヤをばねW1とダンパW2とが並列接続した振動モデルとして制御する。
【0015】
アクティブサスペンションDは、懸架ばねD1と、油圧アクチュエータを用いて減衰力を制御するか、または、電磁力により減衰力および推力を制御する可変ダンパD2とが並列に構成され、車体部材3と車輪Wとの間に介装している。
アクチュエータ制御部5は、可変ダンパD2を制御対象として制御を行う。
【0016】
プレビュー制御部1は、車体部材3に設置され、超音波、レーザ光またはミリ波レーダにより路面Rの複数の計測点との距離を計測する距離センサ11と、距離センサ11の計測値に基づいて、車輪Wの前方の路面距離を検出する路面距離検出部12と、を備える。
より詳細には、プレビュー制御部1は路面距離検出部12の検出値から計測時の車高(車輪Wの接地点からの距離センサ11の取付け高さ、または、車体部材3の路面距離)を減じて、車輪Wの前方の路面変位を算出する。この際の計測時の車高は、アクチュエータ制御部5が制御変数として算出している値を参照する。
【0017】
プレビュー制御部1は、距離センサ11の車体取付け位置から求まる、車輪Wの接地点から路面変位の計測点までの予見距離に、車両の進行方向の走行位置を加算して、路面Rにおける予見位置(計測点の絶対位置)を求め、不図示の記憶部に予見位置毎の路面変位を記憶する。なお、車輪Wの接地点から路面変位の計測点までの予見距離は、プレビュー制御における余裕時間と車速から求まるプレビュー距離より大きな値とする。
【0018】
平均路面変位算出部4は、詳細を後述するが、車輪Wの接地長さに応じて、プレビュー位置の平均路面変位を算出する処理部である。算出された平均路面変位は、アクチュエータ制御部5に通知され、プレビュー制御における路面変位の予見情報とされる。
【0019】
プレビュー制御部1とアクチュエータ制御部5とは、周期的に処理を行う。プレビュー制御部1が、路面変位の予見情報、つまり、所定時間(余裕時間)後に通過する車輪Wの前方の路面変位(路面の凹凸状態)を検出し、アクチュエータ制御部5が、路面変位の予見情報に基づいてアクティブサスペンションDをスカイフック制御する。これにより、車両の乗り心地を向上する。
【0020】
具体的には、プレビュー制御部1は、計測周期が1000Hz(1msec/回)以上の路面変位の予見情報を得るよう距離センサ11による路面距離の検出を行う、又は15~30mmの間隔で路面変位の予見情報を得るよう、距離センサ11による路面距離の検出を周期的に行うことが好ましい。
【0021】
実施形態のサスペンション制御システムでは、距離センサ11が車体部材3に設置され、路面距離検出部12、平均路面変位算出部4、アクチュエータ制御部5が、車両のECU(Electronic Control Unit)に実装される。以下では、距離センサ11の取付けについて説明する。
【0022】
以下の距離センサ11の取付け構造は、説明の便宜上、簡略化して図示しているものであり、本実施形態に限定されるものではない。なお、車両の進行方向を「前」、後退方向を「後」、鉛直上方側を「上」、鉛直下方側を「下」、車幅方向を「左」、「右」として説明する。また、車両用センサの取付け構造は、左右対称であるため、以下では左右のうちの一方側(左側)を主に説明して、他方側(右側)の説明を適宜省略する。
【0023】
図2は、距離センサ11の取付け構造を示す側面図である。なお、
図2では、車両Vの外形を二点鎖線で示している。
図2に示すように、距離センサ11は、車体を形成する車体部材3に固定して構成されている。
【0024】
車両Vは、車体部材3と、車両Vの外側部位(外郭)を形成する外装部材2と、路面状態を検出する距離センサ11と、を主に備えて構成されている。このように車両Vは、車体部材3と、外装部材2と、距離センサ11と、を備えた自動車であれば、その形式・種類は特に限定されない。つまり、車両Vは、乗用車、バス、トラック、作業車等である。
【0025】
車体部材3は、外装部材2を支持するものであり、フロントサイドフレーム31(フレーム部材)、アッパメンバ32(フレーム部材)、バンパビームエクステンション33、バンパビーム34(フレーム部材)などを備えて構成されている。
【0026】
外装部材2は、エンジンフード21と、フロントバンパ22(バンパ)と、フロントフェンダ23と、を備えて構成されている。エンジンフード21は、フロントガラスの前方の上面を覆うパネル部材である。フロントバンパ22は、車両Vの前面側に位置し、例えば合成樹脂製のパネル部材によって構成されている。また、フロントバンパ22は、エアインテークなどが設けられた前面部22aと、前面部22aの下端から後方に向けて延びる底面部22bと、を有している。フロントフェンダ23は、車輪W(左前輪)の周囲を覆うパネル部材である。
【0027】
距離センサ11は、車両Vの前方の路面Rの状態(路面状態)を検出して、車両VのアクティブサスペンションDを制御するセンサであり、車輪Wの前方に位置するアッパメンバ32に固定されている。
詳しくは、距離センサ11は、アッパメンバ32の車幅方向外側の側面に取り付けられている。また、距離センサ11は、アッパメンバ32の前後方向の前端部に位置している。
【0028】
本実施形態における距離センサ11は、太い実線矢印で示すように、車輪Wの直前の路面Rとの路面距離を検出するように構成されている。また、距離センサ11は、三角測量原理や発光した赤外光の反射光強度を距離に換算する方式やレーザ光の飛行時間を距離換算する方式等の赤外線方式の距離センサであり、レーダ式、カメラ式、レーザ式などのセンサから適宜選択することができる。また、距離センサ11としては、単一のセンサに限定されるものではなく、カメラ式とレーザ式など複数の方式のセンサを組み合わせて構成してもよい。
【0029】
図2では、距離センサ11が鉛直下方の路面Rまでの距離を測定するように車体部材3に取り付けている。車輪Wの接地点から距離センサ11の取付け位置分離れた距離を予見距離としたときに、プレビュー制御部1は、距離センサ11で検出した路面距離から車輪Wの接地点から距離センサ11の取付け高さ(本明細書では、車高と呼ぶ)を減じた値を、予見距離離れた路面の路面変位としている。
【0030】
距離センサ11は、距離センサ11の鉛直下方から車両前方の路面Rまでの距離を測定するように車体部材3に取り付けてもよい。この場合には、距離センサ11で検出した距離と対地角度の正弦との積を路面距離とし、距離センサ11で検出した距離と対地角度の余弦との積に、車輪Wの接地点から距離センサ11の取付け位置分離れた距離を加算した値をプレビュー距離とする。距離センサ11の設置の対地角度を、車両のピッチングに応じて補正するとなおよい。
【0031】
次に、
図3により、平均路面変位算出部4(
図1参照)について説明する。
図3は、路面Rの予見位置毎の路面変位と、車輪Wのタイヤの関係を示す図である。
【0032】
平均路面変位算出部4は、タイヤの接地面における車輪の転がり方向において、接地面の長さに対応する複数の予見位置の路面変位に基づいて路面変位の平均値を算出する。これにより、車輪の転がり方向の長さでの接触面によるランダムな路面凹凸によりタイヤが受ける応力変化に対応できる。
【0033】
つまり、タイヤ接地面の車輪の転がり方向の長さより狭い幅の凹(路面変位)に関し、タイヤは、必ずしも、路面変位に追従して変形するわけでなく、狭い幅の溝であれば、乗り越える。そこで、平均路面変位算出部4は、接地面に対応するプレビュー検知した路面変位を補正して、プレビュー制御の路面変位とする。
【0034】
詳しくは、まず、平均路面変位算出部4は、プレビュー制御の余裕時間と車両の車速からプレビュー距離を求め、車両の進行方向の走行位置を加算して、プレビュー制御する路面Rにおけるプレビュー位置を求める。
【0035】
次に、平均路面変位算出部4は、上記で求めたプレビュー位置をタイヤ接地長さの中央として、タイヤ接地面のタイヤ接地長さに対応する、路面変位を記録する複数の予見位置を求める。そして、平均路面変位算出部4は、求めた予見位置毎の路面変位を取得する。
【0036】
平均路面変位算出部4は、取得した路面変位の平均値を算出し、プレビュー位置における平均路面変位とする。この際に、平均路面変位算出部4は、複数の路面変位を単純平均してもよいし、タイヤ接地長さの中心に重み付けして加重平均するか、又は車輪の転がり方向に重み付けして加重平均するようにしてもよい。
【0037】
なお、平均路面変位算出部4は、車両の走行中に、周期的にプレビュー制御の路面変位を求めているので、タイヤ接地長さに応じて路面変位を移動平均し、プレビュー制御の平均路面変位を求めているとも言える。
【0038】
図3では、平均路面変位算出部4が車輪の転がり方向のタイヤ接地長さに応じてプレビュー制御の平均路面変位を求める場合について示したが、後述するように、路面距離検出部12が車輪の幅方向に複数の路面距離を求めて平均を算出し、平均路面距離から予見位置の路面変位を算出する。そして、平均路面変位算出部4が、車輪の転がり方向のタイヤ接地長さに応じた複数の予見位置の路面変位から平均路面変位を算出して、プレビュー制御の平均路面変位とするようにしてもよい。
【0039】
以上のようにして、サスペンション制御システムは、車輪の転がり方向の長さでの接触面によるランダムな路面凹凸によりタイヤが受ける応力変化に対応しつつ、あるいはタイヤが接触していない路面凹凸を路面距離の平均値に組み込むことで起きる不要なアクチュエータ制御を抑制できる。これにより、サスペンション制御システムは、アクチュエータ/サスペンションの適切な制御ができる。
【0040】
次に、
図4Aと
図4Bにより、タイヤ接地面のタイヤ接地長さの取得方法について説明する。
【0041】
車輪としてのタイヤの接地長さと車速・タイヤ空気圧の関係は、接地長さはタイヤの接地部に加わる内側から、外側からの応力による接地部付近の変形の程度により決まり、車速(車輪速)が高くなるほど接地部付近に内側から加わる遠心力が大きくなるため、接地長さは短くなり、空気圧が高いほど路面からの反力に対する変形が抑えられるため、接地長さは短くなる。なお、タイヤの変形がゼロであれば、接地部は点・線になる。
【0042】
図4Aは、所定のタイヤ空気圧(例えば、220kPa)における車速とタイヤ接地長さの関係を示すグラフであり、車速とタイヤ接地長さの関係を点線で示している。
【0043】
平均路面変位算出部4(
図1参照)は、タイヤ空気圧毎に設定された
図4Aの点線で示される車速に対するタイヤ接地長さを示す関係式に基づいて、車両に設けられた空気圧センサで検出したタイヤ空気圧と車両のECUが検出した車速とから、タイヤ接地長さを算出する。この際、タイヤ空気圧が車両指定空気圧(車両特有の標準空気圧)に設定されているとして、車両指定空気圧に対応する車速に対するタイヤ接地長さを示す関係式に基づいて、車速からタイヤ接地長さを算出してもよい。
【0044】
また、平均路面変位算出部4は、
図4Aの点線で示される車速に対するタイヤ接地長さを示す関係式を近似する、タイヤ空気圧毎に所定の車速区間毎に対応するタイヤ接地長さを多段階に示す関係式を実線のように定め、タイヤ空気圧と車速とから、タイヤ接地長さを算出するようにしてもよい。
【0045】
詳しくは、平均路面変位算出部4は、タイヤ空気圧毎に車速区間毎のタイヤ接地長さを示すテーブルを設け、このテーブルを参照して、タイヤ空気圧と車速とからタイヤ接地長さを求める。なお、TPMS(Tire Pressure Monitoring System)というタイヤ空気圧を監視するシステムを搭載している車両の場合は、TPMSからタイヤ空気圧を取得することができる。TPMSは、空気圧センサを備えて、タイヤ空気室の空気圧を直接測定する直接式と、空気圧センサを備えず、車輪速からタイヤ空気圧を推定する間接式がある。タイヤ空気圧は、TPMSではなく、車両の運転開始前の日常点検時に測定したものを、入力するようにしてもよい。
【0046】
図4Bは、所定の車速(例えば、60km/h)におけるタイヤ空気圧とタイヤ接地長さの関係を示すグラフであり、タイヤ空気圧とタイヤ接地長さの関係を点線で示している。
【0047】
平均路面変位算出部4(
図1参照)は、車速毎に設定された
図4Bの点線で示されるタイヤ空気圧に対するタイヤ接地長さを示す関係式に基づいて、車両に設けられた空気圧センサで検出したタイヤ空気圧と車両のECUが検出した車速とから、タイヤ接地長さを算出する。
【0048】
また、平均路面変位算出部4は、
図4Bの点線で示されるタイヤ空気圧に対するタイヤ接地長さを示す関係式と近似する、車速毎に所定のタイヤ空気圧区間毎に対応するタイヤ接地長さを示す関係式を実線のように定め、タイヤ空気圧と車速とから、タイヤ接地長さを算出するようにしてもよい。
【0049】
上記のように、平均路面変位算出部4は、少なくとも車速又はタイヤ空気圧に基づいて、車輪の転がり方向のタイヤ接地長さを求め、タイヤ接地長さに応じてプレビュー制御の平均路面変位を求めている。つまり、実施形態のサスペンション制御システムでは、車速とタイヤ空気圧の少なくともいずれかに基づいて平均路面変位算出部4におけるタイヤ接地長さを変えている。具体的には、車速、タイヤ空気圧が大きくなると、タイヤ接地長さが短くなる。
【0050】
これにより、タイヤ接地長さを一定にする場合よりも、路面変位の算出精度を向上でき、アクチュエータ/サスペンションの制御精度を高めることができる。
【0051】
また、平均路面変位算出部4は、車速とタイヤ空気圧の少なくともいずれかに基づいて、車輪の転がり方向のタイヤ接地長さを多段階的に求め、タイヤ接地長さに応じてプレビュー制御の平均路面変位を求めている。
これにより、平均路面変位算出部4における処理を簡素なものにでき、平均路面変位算出部4の処理負荷を低減できる。なお、
図4Aや
図4Bでは、多段階的なグラフになっているが、多段階的なものでなくてもよい。
【0052】
次に、車輪の幅方向に複数の路面変位を求める距離センサを設ける場合について説明する。
図5は、車輪Wを車両の前方から見た際の、3つの距離センサ11(11a、11b、11c)が路面距離を検出する様子を示している。
【0053】
車輪Wは、路面Rのタイヤの路面接地面に接地している。そして、
図1に示したように、距離センサ11a、11b、11cは、車輪Wのタイヤ接地幅の中央部、又はタイヤ接地幅の内側の所定幅に対応する車両前方における計測面の測定点(図の矢印先端)の距離を検出する。
【0054】
距離センサ11a、11b、11cがこの測定点の距離を検出することで、コーナリング等のステア角操作により車輪Wに加わる荷重が変化してタイヤが変形し、タイヤ接地幅が変わる場合でも、プレビュー制御部1は路面変位を正確に算出できる。また、路面に落ちている石ころやゴミや路面の凹凸などの影響を低減できる。
【0055】
詳しくは、プレビュー制御部1の路面距離検出部12(
図1参照)は、距離センサ11a、11b、11cで検出した距離の平均値を求めて、路面距離とする。
図5では、3つの距離センサ11a、11b、11cを示し、3つの計測点までの距離の平均値を路面距離とする場合を説明したが、少なくとも2つの計測点までの距離を検出するようにする。これにより、コーナリング等のステア角操作により車輪Wに加わる荷重が変化しても、路面変位の検出精度を向上することができる。
【0056】
また、路面距離検出部12は、距離センサ11a、11b、11cで検出した距離をXa、Xb、Xcとし、距離センサ11a、11b、11cの距離の重みをwa、wb、wcとし、(wa×Xa+wb×Xb+wc×Xc)/(wa+wb+wc)を算出して路面距離としてもよい。つまり、路面距離検出部12は、距離センサ11a、11b、11cで検出した距離の加重平均値を路面距離としてもよい。
【0057】
そして、路面距離検出部12は、加重平均値を路面距離とする際に、路面距離検出部12は、車両が左旋回中の場合には、路面接地幅の左側(車両進行方向に向かって左側)に対応する側(距離センサ11a)の重みwaを大きくし、反対側(距離センサ11c)の重みwcを小さくして距離の加重平均値を算出するようにしてもよい。車両が右旋回中の場合には、重み付けを逆にする。
【0058】
つまり、路面距離検出部12は、距離センサ11a、11b、11cで検出した複数の車輪前方の路面距離それぞれに重みを付けて加重平均値を路面距離として算出するようにし、車両の旋回に応じて、旋回内周側が大きな重みの配置になるようにしてもよい。これにより、旋回時に実際に車輪が通過する路面の状態により即したアクチュエータ/サスペンションの適切な制御ができる。
【0059】
プレビュー制御部1は、路面距離検出部12で算出した平均又は加重平均した路面距離から計測時の車高を減じて、路面変位を算出する。そして、プレビュー制御部1は、距離センサ11a、11b、11cの車体取付け位置から求まる、車輪Wの接地点から路面変位の計測点までの予見距離に、車両の進行方向の走行位置を加算して、路面Rにおける予見位置(計測点の絶対位置)を求め、不図示の記憶部に予見位置毎の路面変位を記憶する。
【0060】
そして、平均路面変位算出部4が、車輪の転がり方向のタイヤ接地長さに応じた複数の予見位置の路面変位から平均路面変位を算出して、プレビュー制御の平均路面変位とする。
【0061】
これにより、車幅方向におけるランダムな路面凹凸に応答し、アクチュエータ/サスペンションのより適切な制御ができるとともに、旋回時のアクチュエータ/サスペンションのより適切な制御ができる。
【0062】
次に、
図6により、プレビュー制御部1の処理手順を説明する。
プレビュー制御部1は、以下の処理を周期的に行う。
【0063】
ステップ61で、路面距離検出部12が、距離センサ11により、車輪Wの前方の路面距離を検出する。
【0064】
ステップ62で、プレビュー制御部1は、距離センサ11の車体取付け位置から求まる、車輪Wの接地点から路面変位の計測点までの予見距離に、車両の進行方向の走行位置を加算して、路面Rにおける予見位置(計測点の位置)を求める。
【0065】
ステップ63で、プレビュー制御部1は、路面距離検出部12で検出した路面距離から計測時の車高を減じて、車輪Wの前方の路面変位を算出する。
【0066】
ステップ64で、プレビュー制御部1は、ステップS63で算出した路面変位を、ステップS62で求めた予見位置の路面変位として記憶する。
【0067】
ステップ65で、プレビュー制御部1は、現時点がプレビュー制御のタイミングであるか否かを判定し、プレビュー制御のタイミングであれば(S65のYes)、ステップS66に進む。プレビュー制御のタイミングでなければ(S65のNo)、処理を終了する。
【0068】
ステップ66で、平均路面変位算出部4は、プレビュー制御の余裕時間と車両の車速からプレビュー距離を求め、車両の進行方向の走行位置を加算して、プレビュー制御する路面Rにおけるプレビュー位置を取得する。
【0069】
ステップ67で、平均路面変位算出部4は、少なくとも車速又はタイヤ空気圧から、輪の転がり方向のタイヤ接地長さを取得する。
【0070】
ステップ68で、平均路面変位算出部4は、タイヤ接地長さの中央をプレビュー位置とし、タイヤ接地長さに対応する複数の予見位置を特定する。
【0071】
ステップ69で、平均路面変位算出部4は、ステップS68で特定した複数の予見位置における路面変位を単純平均又は加重平均して平均路面変位を算出する。
【0072】
ステップ610で、平均路面変位算出部4は、ステップS69で算出した平均路面変位をプレビュー制御の路面変位としてアクチュエータ制御部5に通知する。
【0073】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、サスペンションの沈み具合を計測等することで、重量(搭乗人員や搭載荷物)に応じて、タイヤ接地長さを補正するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 プレビュー制御部
11 距離センサ
12 路面距離検出部
2 外装部材
3 車体部材
D アクティブサスペンション
D1 懸架ばね
D2 可変ダンパ
W 車輪
W1 ばね
W2 ダンパ
4 平均路面変位算出部
5 アクチュエータ制御部