(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035955
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】燃料電池および移動体
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0271 20160101AFI20240308BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20240308BHJP
H01M 8/0267 20160101ALI20240308BHJP
H01M 8/2483 20160101ALI20240308BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240308BHJP
【FI】
H01M8/0271
H01M8/0206
H01M8/0267
H01M8/2483
H01M8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140611
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布川 拓未
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA11
5H126AA12
5H126AA13
5H126AA23
5H126BB02
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE11
5H126GG02
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】一方のセパレータに平板を用い、気体導入口を大きくして圧損を低減しつつ薄型化も両立させた燃料電池およびこの燃料電池を搭載する移動体を提供する。
【解決手段】本開示の一形態における燃料電池は、平面セパレータと流路付きセパレータからなる複数の金属板セパレータを含んで構成されて、アノードガス流路、カソードガス流路及び冷却水流路がそれぞれ形成された燃料電池において、一方の面側が前記冷却水流路となる流路が形成された流路付きセパレータのマニホールド周縁に、他方の面側に配置される気体導入口の高さが広がるように当該マニホールド周縁を囲む段差部が設けられ、前記段差部の上には、前記マニホールド周縁以外の領域に設けられる周辺シール材に比して厚さの薄い短縮シール材が、前記マニホールド周縁を囲むように配置されてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面セパレータと流路付きセパレータからなる複数の金属板セパレータを含んで構成されて、アノードガス流路、カソードガス流路及び冷却水流路がそれぞれ形成された燃料電池において、
一方の面側が前記冷却水流路となる流路が形成された流路付きセパレータのマニホールド周縁に、他方の面側に配置される気体導入口の高さが広がるように当該マニホールド周縁を囲む段差部が設けられ、
前記段差部の上には、前記マニホールド周縁以外の領域に設けられる周辺シール材に比して厚さの薄い短縮シール材が、前記マニホールド周縁を囲むように配置されてなる、
燃料電池。
【請求項2】
前記一方の面側から順に、前記冷却水流路、前記カソードガス流路、及び、前記アノードガス流路の順で積層されている、
請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記他方の面側から順に、前記カソードガス流路、前記冷却水流路、及び、前記アノードガス流路の順で積層される、
請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記段差部上に配置された前記短縮シール材の厚みは、当該短縮シール材の周囲に配置されたシール材の厚みから前記段差部の厚み分を減じた値となるように設定されてなる、
請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池を備えた移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池とこの燃料電池を搭載する燃料電池車などの移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に燃料電池を利用した燃料電池システムでは、一方の電極(燃料極)に対して水素ガスを供給するとともに、他方の電極(空気極)に対して酸素ガスを供給し、これらが反応することで電気エネルギーを得ている。
【0003】
かような燃料電池を搭載する燃料電池車においては、燃料電池スタックとして例えばセパレータを介して区分けされた数百個程度の単セルが積層(スタック)されて搭載される。セパレータは、それぞれ隣接する単セルのカソードやアノードとの電気的接続を担う機能と、表面に設けられたガス流路から目的の極に対してそれぞれカソードガス(空気)やアノードガス(水素)を供給する機能と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-123181号公報
【特許文献2】特開2013-54872号公報
【特許文献3】国際公開第2015/072584号公報
【特許文献4】特開2017-16942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述した各特許文献に限らず現在の技術では以下に述べる課題が存在する。
例えば上記した燃料電池を積層して燃料電池スタックとして利用する場合、例えば車載用途では数百程度の積層数となることもあり、燃料電池を構成する部材を可能な限り薄型化することが好ましい。この点、例えば燃料電池のセパレータとして金属の平板を用いることは、上記した薄型化にも資するものであると言える。
【0006】
より具体的に特許文献3では、流路とガス拡散層が表面上に形成された平板(主面が概ね平面の金属板)をセパレータとして用い、シール材を介して一対のセパレータで膜電極接合体(MEA)を挟持する構成が提案されている。しかしながら一方のセパレータを平板とした場合、この平板とMEAの間で一方のガス(例えば水素)が流通すると共に、他方のセパレータで冷却水と他方のガス(例えば空気)を流通させねばならない。このとき、MEAとの間で形成される空気導入口の厚さはガス拡散層の厚み相当と小さくなってしまうため、マニホールドから導入される空気の圧損が大きくなるという課題を内包している。
【0007】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、一方のセパレータに平板を用い、気体導入口を大きくして圧損を低減しつつ薄型化も両立させた燃料電池およびこの燃料電池を搭載する燃料電池車などの移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の一形態における燃料電池は、平面セパレータと流路付きセパレータからなる複数の金属板セパレータを含んで構成されて、アノードガス流路、カソードガス流路及び冷却水流路がそれぞれ形成された燃料電池において、一方の面側が前記冷却水流路となる流路が形成された流路付きセパレータのマニホールド周縁に、他方の面側に配置される気体導入口の高さが広がるように当該マニホールド周縁を囲む段差部が設けられ、前記段差部の上には、前記マニホールド周縁以外の領域に設けられる周辺シール材に比して厚さの薄い短縮シール材が、前記マニホールド周縁を囲むように配置されてなる。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本開示の他の形態における移動体は、本開示の燃料電池が搭載されてなる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、一方のセパレータに平板を用いたとしても、気体導入口を大きくして圧損を低減しつつ薄型化も両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る燃料電池スタックの模式図と、この燃料電池スタックを搭載する燃料電池車の機能ブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る燃料電池スタックを構成する燃料電池の一部を抜粋した斜視図である。
【
図3】第1実施形態の燃料電池のうち流路付きセパレータの一部を示した上面図である。
【
図4】第1実施形態の燃料電池のうち流路付きセパレータの一部を示した斜視図である。
【
図5】第1実施形態の燃料電池のうち膜電極接合体(MEA)の一部を抜粋して示した上面図である。
【
図6】第1実施形態の燃料電池のうち膜電極接合体(MEA)の一部を抜粋して示した斜視図である。
【
図7】第1実施形態の燃料電池のうち平面セパレータの一部を抜粋して示した上面図である。
【
図8】第1実施形態の燃料電池のうち平面セパレータの一部を抜粋して示した斜視図である。
【
図9】
図3などにおけるA-A断面を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図3などにおけるB-B断面を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図3などにおけるC-C断面を模式的に示す断面図である。
【
図12】第2実施形態に係る燃料電池スタックを示した模式図である。
【
図13】第2実施形態に係る燃料電池スタックの一部に関する上面図である。
【
図14】
図13におけるD-D断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本開示を実施するための好適な実施形態について説明する。また、詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知の燃料電池、燃料電池スタックおよびその駆動も含む燃料電池システムに関する要素技術や構成を適宜補完して実施することができる。
【0013】
[第1実施形態]
<燃料電池車300>
まず本開示における移動体の一例としての燃料電池車300の構成について、
図1(a)を参照しながら説明する。
本実施形態における燃料電池車300は、燃料電池スタック200、DC/DCコンバータ210、インバータ220、負荷(電気モータなど)230、及び制御装置240を含んで構成されている。これにより、一例として、制御装置240による制御の下で、燃料電池スタック200で発電される電力がDC/DCコンバータ210及びインバータ220を介して負荷230としての電気モータに供給される。なお本実施形態における燃料電池車300は、例えば水素タンクや気体供給機構(アノードガス供給装置、カソードガス供給装置、冷媒供給装置等)など燃料電池車に搭載される公知の種々の装備をさらに含んで構成されてもよい。
【0014】
燃料電池スタック200は、後述する単セルとしての燃料電池セル100が積層方向に数十~数百程度だけ積層されて構成されている。個々の燃料電池セル100は、燃料ガス(水素ガス)と酸化ガス(空気中の酸素)とを反応させることにより発電する機能を備えている。
【0015】
DC/DCコンバータ210は、燃料電池スタック200の発電電力を所望の電圧まで昇圧してインバータ220に供給する公知の変圧機器である。一例として、DC/DCコンバータ210は、公知のチョッパ回路を介して上記した昇圧処理が実行される。
【0016】
インバータ220は、上記したDC/DCコンバータ210で昇圧して得られた直流電力を、後段の負荷230である電気モータの駆動に適した交流電力に変換する機能を有して構成されている。インバータ220としては、上記機能を発揮する限りにおいて特に制限はなく、例えば三相ブリッジ回路を含む公知の種々のインバータが適用できる。
【0017】
負荷230は、例えば燃料電池車300の駆動輪(不図示)を駆動させるための動力を出力可能な公知の電気モータを含んで構成されている。なお本実施形態では負荷230の一例として駆動輪に必要な動力を発生する電気モータを例示するが、負荷230としては燃料電池車300に搭載される他の電気機器であってもよい。また、電気モータとしては、一例として、公知の三相交流式の電気モータが例示できる。
【0018】
制御装置240は、電動車に車載される公知のEUC(Electronic Control Unit)であり、演算処理装置である公知のCPU、このCPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する記憶素子である公知のROM、及び各種の情報を一時記憶する記憶素子である公知のRAM等を含んで構成されている。また、制御装置240は、バッテリーの状態を監視たり制御したりする公知のBMU(Battery Management Unit)をさらに含んで構成されていてもよい。なお制御装置240は、燃料電池車300に搭載される他の公知のEUCや各種のセンサ(不図示)と通信可能に構成されていてもよい。
【0019】
なお以下では移動体の一例として燃料電池車を用いて説明するが、本開示は、例えば船舶や航空機あるいは電車など燃料電池システムを駆動源として搭載して移動可能な公知の種々の移動体に適用が可能である。すなわち、本開示の燃料電池スタックは燃料電池車だけに適用されるに留まらず、船舶や航空機など他の移動体に対しても適用が可能である。
【0020】
<燃料電池スタック200>
次に
図1(b)を参照しつつ、本実施形態における燃料電池スタック200の構成を説明する。同図から理解されるとおり、本実施形態における燃料電池スタック200は、積層方向に積層された複数の燃料電池セル100が一対のエンドプレート201で挟持されて構成される。また、それぞれのエンドプレート201の内側には集電板202が配置されることで、燃料電池セル100で発電された電力が当該集電板202の取出電極202eを介して取出し可能となっている。
【0021】
また、同図から理解されるとおり、一方のエンドプレート201aにおけるセルの積層方向の一側には、それぞれ酸化ガス供給ポート203a、冷媒供給ポート204a及び燃料ガス供給ポート205aが設けられている。これらの供給ポートを介して燃料電池セル100に酸化ガス、冷媒および燃料ガスが供給される。同様に一方のエンドプレート201aにおける長手方向の他側には、それぞれ酸化ガス排出ポート203b、冷媒排出ポート204b及び燃料ガス排出ポート205bが設けられている。
【0022】
これにより、例えば酸化ガスが、酸化ガス供給ポート203aから複数の燃料電池セル100内に供給された後に、酸化ガス排出ポート203bから排出される。同様に燃料ガスは、燃料ガス供給ポート205aから複数の燃料電池セル100内に供給された後に、燃料ガス排出ポート205bから排出される。また、冷媒(一例として公知の冷却水)は、上記した冷媒供給ポート204aから燃料電池スタック200内を循環した後に、冷媒排出ポート204bから排出される。
【0023】
なお本実施形態では一方のエンドプレート201a側にそれぞれ酸化ガス供給ポート203a、冷媒供給ポート204a及び燃料ガス供給ポート205aが設けられているが、この形態に限られない。すなわち、上記した各供給ポートは、エンドプレート201a側でなくエンドプレート201b側に設けられる形態であってもよい。
【0024】
<燃料電池セル100>
次に
図2~11を適宜参照しつつ、本実施形態における燃料電池セル100の構成について説明する。
図2などに示すように、本実施形態の燃料電池セル100は、それぞれ後述する平面セパレータ10と流路付きセパレータ20からなる複数の金属板セパレータ30を含んで構成される。
なお以下では燃料電池セル100にそれぞれ気体や液体が流入する導入孔周辺の構造について説明するが、これらの気体や液体が排出される排出孔周辺の構造についても同様に適用できることは言うまでもない。
【0025】
これら平面セパレータ10及び流路付きセパレータ20並びに後述するシール材40によって、アノードガス流路11、冷却水流路22及びカソードガス流路23がそれぞれ形成される。なお本実施形態においては、一方の面20a側(流路付きセパレータ20のうち燃料電池セル100の外側に相当する面)から順に、冷却水流路22、カソードガス流路23、及び、アノードガス流路11の順で積層されているが、本開示の構成はこの形態には限られない。
【0026】
1-1.冷却水に関する流路構造
次に
図2~
図4及び
図9などを参照しつつ、燃料電池セル100における冷却水に関する流路構造について説明する。同図から明らかなように、燃料電池セル100における冷却水流路22は、流路付きセパレータ20のうち上記した一方の面20a上に設けられる。なお燃料電池スタック200では燃料電池セル100は複数積層されることから、この流路付きセパレータ20のうち上記した一方の面20aの上方には隣接する他の燃料電池セル100の平面セパレータが配置されることになる。
【0027】
図3及び
図4に示すように、流路付きセパレータ20は、周縁を第1シール材41で囲繞されてなる。また、流路付きセパレータ20のうち長手方向の端部には、それぞれアノードガスが流入する水素排出孔11
out(H
2マニホールド)、冷媒(冷却水など)が流入する冷媒導入孔22
in(冷媒マニホールド)、及び、カソードガスが流入する空気導入孔23
in(空気マニホールド)が設けられている。なお、本実施形態では冷媒マニホールドがH
2マニホールドと空気マニホールドの間に位置しているが、この導入孔の配置形態は上記に限らず適宜入れ替えてもよい。なお図示されるように本実施形態では空気導入孔23
inと水素排出孔11
outの間に冷媒導入孔22
inが配置される形態となっているが、例えば空気導入孔23
inと水素導入孔11
inの間に冷媒導入孔22
inが配置される形態となっていてもよい。
【0028】
また、水素排出孔11out、冷媒導入孔22in及び空気導入孔23inは、上記した第1シール材41で区分けされている。また、上述したとおり流路付きセパレータ20のうち上記した一方の面20a上には冷却水流路22が形成されることから、冷媒導入孔22in周囲のうち冷却水流路22側には冷却水を流通可能な第1補強部材61が配置されている。
第1補強部材61は、冷媒導入孔22inから流入する冷媒(本例では冷却水)を流通すると共に、流路付きセパレータ20と第3シール材43間および、第1補強部材61と積層方向に連なって配置された他のシール面のシール性能を確保可能な強度を有して構成される。かような第1補強部材61の具体例としては、樹脂材や金属材料などで形成された公知多孔質(ポーラス)状の部材や金属プレス部材が例示できる。
【0029】
また、流路付きセパレータ20のうち上記した一方の面20a上には冷却水流路22が形成されることから、この一方の面20a側において水素排出孔11outは上記した第1シール材41で囲まれている。同様に一方の面20a上にカソードガスが流入しないように、この一方の面20a側において空気導入孔23inは第1シール材41とは異なる第2シール材42で囲まれている。
【0030】
すなわち
図3及び
図4を対比して理解できるとおり、一方の面20a側が冷却水流路となる流路が形成された流路付きセパレータ20のうち気体(空気)マニホールド周縁には段差部25が形成されている。この段差部25は、流路付きセパレータ20における一方の面20a側が膨出する(凸部となる、突出する)ようにセパレータの主面から盛り上がった段部となっている。
【0031】
換言すれば、本実施形態の燃料電池セル100においては、この段差部25の裏面側である他方の面22b側に、上記膨出の分だけ高さ(間口)が拡大された気体導入口24が形成されることになる。このように本実施形態の燃料電池セル100は、一方の面側が冷却水流路22となる流路が形成された流路付きセパレータのマニホールド周縁に、他方の面側に配置される気体導入口24の高さが広がるように当該マニホールド周縁を囲む段差部25が設けられている。
【0032】
さらに本実施形態の燃料電池セル100では、上記した段差部25の上に、この気体(空気)マニホールド周縁以外の領域に設けられる周辺シール材(第1シール材41)に比して厚さ(積層方向における高さ)の薄い短縮シール材(第2シール材42)が、気体(空気)マニホールド周縁を囲むように配置されている。より具体的に
図9に示すように、本実施形態の第2シール材42の厚み(高さh2)は、上記した第1シール材41の厚み(高さh1)よりも段差部25の高さ分だけ小さく設定されていてもよい。これにより
図9などに示すように、燃料電池セル100として積層された状態において、流路付きセパレータ20における流路溝22aの頂部、段差部25上に配置された第2シール材42の頂部、及び、冷却水流路22の周囲を囲む第1シール材41の頂部は、互いに面一となっている。
【0033】
なお第1シール材41及び第2シール材42並びに後述する第3シール材43~第6シール材46の材質については、それぞれ本実施形態で説明する機能を発揮する限りにおいて例えばシリコンゴムを基材に添加剤が適宜添加された公知の種々の樹脂材や、熱接着もしくは感圧接着など種々の接着方法が可能な種々の樹脂素材、および、こうした樹脂素材が塗布された複合部材などが例示できる。また、本実施形態では第1シール材41と第2シール材42は同じ材料を用いて形成されているが、上記した厚みを異ならせることが可能な限りにおいてこれらシール材を互いに異なる材料で形成してもよく、また、一体型となっていてもよい。さらに第1シール材41及び第2シール材42並びに後述する第3シール材43~第6シール材46は、組み立て性を考慮すると、例えばシリコンゴムなどのようにある程度形状を自己保持できる公知の材料で形成されていることが好適である。
また、本実施形態では上記した第2シール材42を用いているが、この第2シール材42の代わりとして例えばレーザ溶接など公知の溶接手段で代用してもよい。
【0034】
また、外側シール材(第1シール材41、第3シール材43あるいは第5シール材45)の内側に位置して特定の流路の周囲に配置される内側シール材(第2シール材42、第4シール材44、第6シール材46)については、例えば2液性シール材など公知の液体型シール材にするなどして外側シール材よりも流動性の高い材料で構成してもよい。
【0035】
1-2.カソードガス(空気)に関する流路構造
次に
図2、
図5~
図6及び
図9などを参照しつつ、燃料電池セル100におけるカソードガス(空気)に関する流路構造について説明する。同図から明らかなように、燃料電池セル100におけるカソードガス流路23は、流路付きセパレータ20のうち他方の面22b側に設けられる。換言すれば、カソードガス流路23は、MEA50と流路付きセパレータ20の間に設けられる。
【0036】
MEA50は、電解質膜を中心として両面に配置される一対の触媒層を備えた公知の膜電極接合体である。
図2及び
図6から理解されるとおり、本実施形態のMEA50のうち一方の面50a側にはさらに公知のガス拡散層であるGDL1が配置されるとともに、他の面50b側にはさらに公知のガス拡散層であるGDL2が配置されている。なお本実施形態ではGDL1及びGDL2をMEA50とは別個のものとして説明したが、これらGDLを含めて膜電極接合体と定義してもよい。
【0037】
図5及び
図6に示すように、MEA50のうち一方の面50a側においては、第3シール材43がカソードガス流路23を密封するように周縁を囲繞している。そして水素排出孔11
outおよび冷媒導入孔22
inは上記した第3シール材43で互いに区分けされており、アノードガスや冷媒がカソードガス流路23へ流入することが防止されている。
またMEA50の一方の面50aと流路付きセパレータ20の他方の面22bの間にはカソードガス流路23が形成されることから、空気導入孔23
in周囲のうちカソードガス流路23側は上記した気体導入口24が形成されている。
【0038】
このとき上記した気体導入口24には、カソードガス(空気)を流通可能な第2補強部材62が配置されている。第2補強部材62は、空気導入孔23inから流入するカソードガスを流通すると共に、流路付きセパレータ20と第2シール材42間および、第2補強部材62と積層方向に連なって配置された他のシール面のシール性能を確保可能な強度を有して構成される。かような第2補強部材62の具体例としては、樹脂材や金属材料などで形成された公知多孔質(ポーラス)状の部材や金属プレス部材が例示できる。
【0039】
また、本実施形態では、空気導入孔23
inの周囲のうち上記した第2補強部材62以外の領域には、第4シール材44が配置されている。
図9に示すように、第4シール材44の厚みは、上記した段差部25の高さ分だけ上記した第3シール材43よりも高くなり、上記した第2補強部材62と略同じ高さとなるように設定してもよい。このようにMEA50のうち一方の面50a側において、上記した第4シール材44と第2補強部材62は、互いの頂部がほぼ同じ高さとなって上記段差部25に覆われるように空気導入孔23
inの周囲を囲んでいてもよい。
【0040】
また、
図9に示すように、本実施形態の燃料電池セル100においては、段差部25上(膨出する側)にある第2シール材42の厚み(高さ)は、第1シール材41の厚み(高さ)から段差部25の厚み分を減じた値(すなわち段差分だけ減じた値)となるように設定されていてもよい。同様に
図11から理解されるとおり、段差部25の下方に配置された第4シール材44の厚み(高さ)は、第3シール材43の厚み(高さ)に段差部25の厚み分を加算した値となるように設定されていてもよい。
【0041】
1-3.アノードガス(水素)に関する流路構造
次に
図2、
図7~
図9などを参照しつつ、燃料電池セル100におけるアノードガス(水素)に関する流路構造について説明する。同図から明らかなように、燃料電池セル100におけるアノードガス流路11は、平面セパレータ10のうち一方の面10A側に設けられる。換言すれば、アノードガス流路11は、MEA50と平面セパレータ10の間に設けられる。
【0042】
図7及び
図8に示すように、平面セパレータ10のうち一方の面10A側(MEA50のうち他方の面50b側)においては、第5シール材45がアノードガス流路11を密封するように周縁を囲繞している。そして冷媒導入孔22
inは、上記した第5シール材45で水素排出孔11
outと区分けされており、冷媒がアノードガス流路11へ流入することが防止されている。同様に、空気導入孔23
inは、上記した第5シール材45と略同じ厚みの第6シール材46で水素排出孔11
outと区分けされており、空気がアノードガス流路11へ流入することが防止されている。
【0043】
このように本実施形態では、上記した第5シール材45とは異なる第6シール材46で空気導入孔23inが囲繞されてシールされているが、第6シール材46を第5シール材45に繋げるようにして第5シール材45と第6シール材46を一体で構成してもよい。
【0044】
そして平面セパレータ10のうち上記した一方の面10A上にはアノードガス流路11が形成されることから、水素排出孔11out周囲のうちアノードガス流路11側には水素を流通可能な第3補強部材63が配置されている。
第3補強部材63は、水素排出孔11outへ排出される水素を流通すると共に、MEA50と第3シール材43間および、第3補強部材63と積層方向に連なって配置された他のシール面のシール性能を確保可能な強度を有して構成される。かような第3補強部材63の具体例としては、樹脂材や金属材料などで形成された公知多孔質(ポーラス)状の部材や金属プレス部材が例示できる。
【0045】
1-4.シール材と補強部材に関する厚み(高さ)比較
次に
図9~
図11を参照しつつ、本実施形態の燃料電池セル100で用いられる各シール材や各補強部材の厚みを比較する。
上述したとおり、本実施形態の燃料電池セル100は、少なくとも互いに異なる複数の厚みを備えたシール材40(第1シール材41~第6シール材46)を含んで構成されている。なお上記した複数のシール材40のうち第4シール材44については、必ずしも厳密なシール性を有することを要せず、少なくとも積層方向に連なるシール面のシール性を確保可能な程度の強度を有していればよい。
また、本実施形態の燃料電池セル100は、少なくとも互いに異なる複数の厚みを備えた補強部材60(第1補強部材61~第3補強部材63)を含んで構成されている。
【0046】
これら第1シール材41~第6シール材46および第1補強部材61~第3補強部材63は、一例として、下記に示す関係の少なくとも1つを有していることが好ましい。
【0047】
(関係1)第1シール材41の厚み(高さh1)>第2シール材42の厚み(高さh2)
【0048】
(関係2)第4シール材44の厚み(高さh4)>第3シール材43の厚み(高さh3)
【0049】
(関係3)第5シール材45の厚み(高さh5)≒第6シール材46の厚み(高さh5)
【0050】
(関係4)第1シール材41の厚み(高さh1)≒第1補強部材61の厚み(高さh6)
【0051】
(関係5)第2補強部材62の厚み(高さh7)>第3シール材43の厚み(高さh3)
【0052】
(関係6)第3補強部材63の厚み(高さh8)≒第5シール材45の厚み(高さh5)
【0053】
(関係7)段差部25の厚み(高さ)≒第1シール材41の厚み(高さh1)-第2シール材42の厚み(高さh2)
【0054】
なお本実施形態では複数の補強部材60(第1補強部材61~第3補強部材63)を用いているが、この補強部材の内部を流通する物体に応じて物理的な構造を異ならせてもよい。例えば冷却水を流通可能な第1補強部材61は、一例として、表面が波打った形状の金属板が適用できる。一方で気体(空気、酸素)を流通可能な第2補強部材62及び第3補強部材63は、一例として、耐圧用のリブが所定間隔で並んで気体通過領域が形成された金属板が適用できる。
【0055】
上述したとおり、燃料電池セルの核となるMEAを挟持するセパレータのうちの一方のセパレータを平板としつつ他方を流路付きセパレータで構成した場合、仮に上記した段差部が存在しないと、MEAと流路付きセパレータの間で形成される気体(本実施形態の場合は空気)の導入口における厚さ(高さ)はガス拡散層(GDL1)程度の厚みとなってしまう。このためマニホールドから導入される空気の圧損は、気体導入口の狭さによって大きくなってしまう。
【0056】
一方で本実施形態における燃料電池セル100は、一方の面側が冷却水流路となる流路が形成された流路付きセパレータのマニホールド周縁に、他方の面側に配置される気体導入口の高さが広がるように当該マニホールド周縁を囲む段差部が設けられると共に、この段差部の上にはマニホールド周縁以外の領域に設けられる周辺シール材(第1シール材41)に比して厚さの薄い短縮シール材(第2シール材42)がマニホールド周縁を囲むように配置されてなる。これにより燃料電池セル100においては、一方のセパレータに平板を用いたとしても、上記した段差部によって上記気体導入口の間口を大きくして圧力損失を低減しながら全体としての薄型化も両立可能となっている。
【0057】
[第2実施形態]
次に本開示における第2実施形態に係る燃料電池セル110について、
図12~
図14を参照しながら説明する。上記した第1実施形態の燃料電池セル100は、流路付きセパレータ20の一方の面20a側から順に、冷却水流路22、カソードガス(空気)流路23、及び、アノードガス(水素)流路21の順で積層されていた。これに対して第2実施形態の燃料電池セル110は、流路付きセパレータ20の他方の面22b側から順に、カソードガス(空気)流路23、冷却水流路22、及び、アノードガス(水素)流路21の順で積層される点に主とした特徴がある。
よって以下の第2実施形態において、第1実施形態で既述した構成と同様の構成は、同じ参照番号を付すると共にその説明は適宜省略する。
【0058】
図12に示すように、燃料電池セル110は、GDL1とGDL2がMEA50を挟持する第1ユニット110Aと、平面セパレータ10と流路付きセパレータ20とが貼り合わされた第2ユニット110Bと、を含んで構成されている。これら第1ユニット110Aと第2ユニット110Bが交互に積層されることで、本実施形態の燃料電池スタックが形成される。
【0059】
従って
図13及び
図14を対比すると理解されるとおり、燃料電池セル110では、流路付きセパレータ20の他方の面22b側から順に、カソードガス(空気)流路23、冷却水流路22、及び、アノードガス(水素)流路21の順で積層される。換言すれば、MEA50側から第2ユニット110Bを見た場合、平面セパレータ10の一方の面10A側から順に、アノードガス(水素)流路21、冷却水流路22、及び、カソードガス(空気)流路23の順で積層される。
【0060】
また、
図12に示すMEA50のうちGDL2にはアノードガスが流入することになる。よって、MEA50のうちGDL1側には、この燃料電池セル110と隣り合う他の燃料電池セル110におけるカソードガス(空気)流路23を流通したカソードガスが流入することになる。
【0061】
このように本開示における燃料電池セルにおいては、必ずしもMEA50が平面セパレータ10と流路付きセパレータ20で挟持される必要はなく、例えば本実施形態のごとく平面セパレータ10がMEA50と流路付きセパレータ20で挟持される構成であってもよい。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば上記した各実施形態において互いに厚み(高さ)の異なる複数のシール材を用いていたが、同じ層に位置するシール材同士(例えば第1シール材41と第2シール材42の組み合わせや、第3シール材43と第4シール材44の組み合わせなど)を連続した一体のシール材として成形されていてもよい。
【0064】
また、上記した補強部材60は、例えばアルミニウムやチタンで成形された多孔質の金属材料で構成されていてもよい。さらに、補強部材60の周囲にリブや支柱を隣接させて耐圧性を向上させてもよい。また上記した補強部材60は、圧力損失の低減が維持可能な限りにおいて密度の高い多孔質材料で構成されていてもよい。
【0065】
また、上記した第1実施形態において第3シール材43の内側と第4シール材44の外側との間には空間が形成されているが、例えば第3シール材43と第4シール材44の少なくとも一方を延長させてこの空隙を埋めるようにしてもよい。この空隙を充填させることで、気体導入孔付近で水分などが滞留することを抑制できる。このとき第3シール材43や第4シール材44との間の空隙は、第3シール材43や第4シール材44の材料以外の他の材料で充填されていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
100、110 燃料電池セル
30 セパレータ
10 平面セパレータ
20 流路付きセパレータ
40 シール材
50 MEA(膜電極接合体)
60 補強部材
200 燃料電池スタック
210 DC/DCコンバータ
220 インバータ
230 負荷
240 制御装置
300 燃料電池車(移動体)