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特開2024-35963状態量推定装置、状態量推定方法、及び状態量推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035963
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】状態量推定装置、状態量推定方法、及び状態量推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
G05B23/02 302R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140621
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 健太
(72)【発明者】
【氏名】水田 慎吾
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223BA03
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
(57)【要約】
【課題】運用コストが大きくなることがなく、学習済みモデルの更新に有用なデータであるか否かを高精度に判定し、状態量の推定に有効なデータの除去を回避すること。
【解決手段】状態量推定装置2は、対象装置で観測された観測値と、対象装置の実際の状態量とを取得するデータ取得部22と、データ取得部22にて取得された観測値を入力パラメータとして、ガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルに基づく演算を行うことにより、状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する推定部23と、推定値と標準偏差とに基づいて、入力パラメータとした観測値と当該観測値が観測された時刻における対象装置の実際の状態量とが正常な値であるか否かを判定する判定部24と、判定部24にて判定された観測値と状態量との組合せを少なくとも用いて学習済みモデルを更新するモデル更新部25と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
状態量の推定対象である対象装置で観測された観測値と、前記対象装置の実際の前記状態量とをそれぞれ取得するデータ取得部と、
前記データ取得部にて取得された前記観測値を入力パラメータとして、前記対象装置で過去に観測された前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量との組合せを複数用いたガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルに基づく演算を行うことにより、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の前記状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する推定部と、
前記推定部から出力された前記推定値と前記標準偏差とに基づいて、前記データ取得部にてそれぞれ取得され、前記入力パラメータとした前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量とがそれぞれ正常な値であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するモデル更新部と、を備える状態量推定装置。
【請求項2】
前記判定部による判定結果と前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量とを報知部から報知させるとともに、前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するか否かの選択を促す報知制御部と、
前記学習済みモデルを更新する選択操作を受け付ける入力部と、をさらに備え、
前記モデル更新部は、
前記入力部が前記選択操作を受け付けた場合に、前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する請求項1に記載の状態量推定装置。
【請求項3】
前記モデル更新部は、
前記判定部にて正常な値であるとそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する請求項1に記載の状態量推定装置。
【請求項4】
前記判定部は、
前記推定部から出力された前記標準偏差が所定の閾値以下である場合に、前記入力パラメータとした前記観測値が正常な値であると判定し、
前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量が、前記推定部から出力された前記推定値と前記標準偏差とから算出される所定の数値範囲内である場合に、当該対象装置の実際の状態量が正常な値であると判定する請求項1~3のいずれか1つに記載の状態量推定装置。
【請求項5】
状態量推定装置が実行する状態量推定方法であって、
状態量の推定対象である対象装置で観測された観測値と、前記対象装置の実際の前記状態量とをそれぞれ取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップで取得された前記観測値を入力パラメータとして、前記対象装置で過去に観測された前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量との組合せを複数用いたガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルに基づく演算を行うことにより、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の前記状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する推定ステップと、
前記推定値と前記標準偏差とに基づいて、前記データ取得ステップでそれぞれ取得され、前記入力パラメータとした前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量とがそれぞれ正常な値であるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するモデル更新ステップと、を含む状態量推定方法。
【請求項6】
前記判定ステップでの判定結果と前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量とを報知部から報知させるとともに、前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するか否かの選択を促す報知制御ステップをさらに含み、
前記モデル更新ステップでは、
入力部が前記学習済みモデルを更新する選択操作を受け付けた場合に、前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する請求項5に記載の状態量推定方法。
【請求項7】
前記モデル更新ステップでは、
前記判定ステップで正常な値であるとそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する請求項5に記載の状態量推定方法。
【請求項8】
前記判定ステップでは、
前記推定ステップで出力された前記標準偏差が所定の閾値以下である場合に、前記入力パラメータとした前記観測値が正常な値であると判定し、
前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量が、前記推定ステップで出力された前記推定値と前記標準偏差とから算出される所定の数値範囲内である場合に、当該対象装置の実際の状態量が正常な値であると判定する請求項5~7のいずれか1つに記載の状態量推定方法。
【請求項9】
状態量の推定対象である対象装置で観測された観測値と、前記対象装置の実際の前記状態量とをそれぞれ取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップで取得された前記観測値を入力パラメータとして、前記対象装置で過去に観測された前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量との組合せを複数用いたガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルに基づく演算を行うことにより、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の前記状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する推定ステップと、
前記推定値と前記標準偏差とに基づいて、前記データ取得ステップでそれぞれ取得され、前記入力パラメータとした前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量とがそれぞれ正常な値であるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するモデル更新ステップと、をコンピュータに実行させるための状態量推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態量推定装置、状態量推定方法、及び状態量推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロセス産業の分野等で広く活用され、オンライン計測が困難な状態量をオンラインセンサデータから推定するソフトセンサが知られている。通常、ソフトセンサでは、過去のオフラインで計測された状態量とオンラインセンサデータを基に、それらの関係を表す関数や式を導出することで、現在のオンラインセンサデータから、現在の状態量を推定する。一般的に、これら関数や式を導出する過程を学習と呼び、導出された関数や式は学習済みモデルと呼ばれる。
【0003】
ここで、ソフトセンサを長期間運用していくと、設備や計測機器の劣化等、プロセスの経時変化が原因で状態量の推定精度が低下することがある。そして、このような推定精度の低下を防ぐため、定期的に学習済みモデルを再学習させる適応型センサという技術が知られている。この適応型ソフトセンサでは、オフラインで状態量が計測される度に、当該状態量とオンラインセンサデータとを学習データに追加して学習済みモデルを再学習させることが多い。しかし、オフラインで計測された状態量やオンラインセンサデータには、機器の測定誤差による計測ノイズと測定ミスによる外れ値(異常値)とが含まれる可能性がある。このような計測ノイズや外れ値に対応する手法を採用していないと、適切な学習済みモデルを作成することができず、高精度の推定が不可能になる。
【0004】
そして、従来、外れ値を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の技術では、学習データで複数回SVR(Support Vector Regression)モデルを構築してデータ毎に回帰誤差を求めるとともに、当該回帰誤差が閾値εを超えた回数をカウントする。そして、当該閾値εを超えた回数が統計的に有意な場合に、当該データを外れ値と見なす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-276967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ソフトセンサの学習済みモデルとは別に外れ値検出用のモデルを構築する必要があり、運用コストが大きくなってしまう。また、特許文献1に記載の技術では、単純に学習データの分布の中心から外れているデータを外れ値として除くため、本来、推定に有効なデータを除去してしまう可能性がある。
そこで、運用コストが大きくなることがなく、学習済みモデルの更新に有用なデータであるか否かを高精度に判定し、状態量の推定に有効なデータの除去を回避することができる技術が要望されている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、運用コストが大きくなることがなく、学習済みモデルの更新に有用なデータであるか否かを高精度に判定し、状態量の推定に有効なデータの除去を回避することができる状態量推定装置、状態量推定方法、及び状態量推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る状態量推定装置は、状態量の推定対象である対象装置で観測された観測値と、前記対象装置の実際の前記状態量とをそれぞれ取得するデータ取得部と、前記データ取得部にて取得された前記観測値を入力パラメータとして、前記対象装置で過去に観測された前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量との組合せを複数用いたガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルに基づく演算を行うことにより、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の前記状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する推定部と、前記推定部から出力された前記推定値と前記標準偏差とに基づいて、前記データ取得部にてそれぞれ取得され、前記入力パラメータとした前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量とがそれぞれ正常な値であるか否かを判定する判定部と、前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するモデル更新部と、を備える。
【0009】
また、本発明に係る状態量推定装置では、上記発明において、前記判定部による判定結果と前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量とを報知部から報知させるとともに、前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するか否かの選択を促す報知制御部と、前記学習済みモデルを更新する選択操作を受け付ける入力部と、をさらに備え、前記モデル更新部は、前記入力部が前記選択操作を受け付けた場合に、前記判定部にてそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する。
【0010】
また、本発明に係る状態量推定装置では、上記発明において、前記モデル更新部は、前記判定部にて正常な値であるとそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する。
【0011】
また、本発明に係る状態量推定装置では、上記発明において、前記判定部は、前記推定部から出力された前記標準偏差が所定の閾値以下である場合に、前記入力パラメータとした前記観測値が正常な値であると判定し、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量が、前記推定部から出力された前記推定値と前記標準偏差とから算出される所定の数値範囲内である場合に、当該対象装置の実際の状態量が正常な値であると判定する。
【0012】
本発明に係る状態量推定方法は、状態量推定装置が実行する状態量推定方法であって、状態量の推定対象である対象装置で観測された観測値と、前記対象装置の実際の前記状態量とをそれぞれ取得するデータ取得ステップと、前記データ取得ステップで取得された前記観測値を入力パラメータとして、前記対象装置で過去に観測された前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量との組合せを複数用いたガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルに基づく演算を行うことにより、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の前記状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する推定ステップと、前記推定値と前記標準偏差とに基づいて、前記データ取得ステップでそれぞれ取得され、前記入力パラメータとした前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量とがそれぞれ正常な値であるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するモデル更新ステップと、を含む。
【0013】
本発明に係る状態量推定方法では、上記発明において、前記判定ステップでの判定結果と前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量とを報知部から報知させるとともに、前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するか否かの選択を促す報知制御ステップをさらに含み、前記モデル更新ステップでは、入力部が前記学習済みモデルを更新する選択操作を受け付けた場合に、前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値及び前記状態量の組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する。
【0014】
本発明に係る状態量推定方法では、上記発明において、前記モデル更新ステップでは、前記判定ステップで正常な値であるとそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新する。
【0015】
本発明に係る状態量推定方法では、上記発明において、前記判定ステップでは、前記推定ステップで出力された前記標準偏差が所定の閾値以下である場合に、前記入力パラメータとした前記観測値が正常な値であると判定し、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量が、前記推定ステップで出力された前記推定値と前記標準偏差とから算出される所定の数値範囲内である場合に、当該対象装置の実際の状態量が正常な値であると判定する。
【0016】
本発明に係る状態量推定プログラムは、状態量の推定対象である対象装置で観測された観測値と、前記対象装置の実際の前記状態量とをそれぞれ取得するデータ取得ステップと、前記データ取得ステップで取得された前記観測値を入力パラメータとして、前記対象装置で過去に観測された前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量との組合せを複数用いたガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルに基づく演算を行うことにより、前記入力パラメータとした前記観測値が観測された時刻における前記対象装置の前記状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する推定ステップと、前記推定値と前記標準偏差とに基づいて、前記データ取得ステップでそれぞれ取得され、前記入力パラメータとした前記観測値と当該観測値が観測された時刻における前記対象装置の実際の前記状態量とがそれぞれ正常な値であるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップでそれぞれ判定された前記観測値と前記状態量との組合せを少なくとも用いて前記学習済みモデルを更新するモデル更新ステップと、をコンピュータに実行させるための状態量推定プログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る状態量推定装置、状態量推定方法、及び状態量推定プログラムによれば、運用コストが大きくなることがなく、学習済みモデルの更新に有用なデータであるか否かを高精度に判定し、状態量の推定に有効なデータの除去を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施の形態に係る状態量推定システムを示す概略構成図である。
図2図2は、状態量推定装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、推定部が実行する推定処理を模式的に示す図である。
図4図4は、推定部が実行する推定処理における入力パラメータであるデータと出力パラメータである推定値及び当該推定値の標準偏差との関係を模式的に示す図である。
図5図5は、モデル更新部の構成を示すブロック図である。
図6図6は、状態量推定装置が実行する状態量推定方法を示すフローチャートである。
図7図7は、判定部が実行する判定処理を模式的に示す図である。
図8図8は、実施の形態の効果を説明する図である。
図9図9は、実施の形態の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態)について説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0020】
〔状態量推定システムの概略構成〕
図1は、実施の形態における状態量推定システム100を示す概略構成図である。
状態量推定システム100は、状態量の推定対象である対象装置で観測された観測値から、当該観測値が観測された時刻における当該対象装置の状態量を推定するシステムである。
【0021】
本実施の形態では、本発明に係る対象装置として、図1に示すように、樹脂製造プロセスPを採用している。
そして、本発明に係る観測値は、樹脂製造プロセスPにおけるプロセス情報であって、例えば当該樹脂製造プロセスPにおける重合、予熱、脱気等の各プロセスの温度や圧力の実績値の履歴情報と、樹脂の製造条件とを含む情報である。具体的に、当該プロセス情報としては、反応槽内温度、反応槽内圧力、吐出制御部回転数、生産速度、及び生産情報(品種等)等を例示することができる。
また、本発明に係る状態量は、例えば樹脂製造プロセスPで製造された樹脂の粘度に関する品質の情報である。当該粘度に関する品質は、樹脂製造プロセスPで溶融した原料の化学反応や与える熱、滞留時間に起因して変動する。また、当該粘度に関する品質には管理範囲があり、与える熱や滞留時間を変更することで当該管理範囲内に収まるように制御される。
【0022】
この状態量推定システム100は、図1に示すように、管理サーバー1と、状態量推定装置2と、表示装置3とを備える。
【0023】
管理サーバー1は、樹脂製造プロセスPにおけるプロセス情報及び当該樹脂製造プロセスPにおける実際の状態量の情報を当該樹脂製造プロセスPから取得して管理(記憶)する。ここで、管理サーバー1は、当該プロセス情報については、例えば5分毎に連続して取得する。一方、管理サーバー1は、当該実際の状態量の情報については、例えば手動で計測されるため、連続的に取得することができず、例えば4時間に1回等、定期的に取得する。
【0024】
状態量推定装置2は、管理サーバー1から送られてくるプロセス情報から、当該プロセス情報が観測された時刻における樹脂製造プロセスPの状態量を推定する。
なお、状態量推定装置2の詳細な構成については、後述する「状態量推定装置の構成」において説明する。
【0025】
表示装置3は、本発明に係る報知部に相当する。この表示装置3は、液晶または有機EL(Electro Luminescence)からなるディスプレイであり、状態量推定装置2による制御の下、所定の画像を表示する。なお、表示装置3としては、スピーカ等の音声出力機能を有していても構わない。
【0026】
〔状態量推定装置の構成〕
次に、状態量推定装置2の構成について説明する。
図2は、状態量推定装置2の構成を示すブロック図である。
状態量推定装置2は、図2に示すように、入力部21と、データ取得部22と、推定部23と、判定部24と、モデル更新部25と、制御部26と、記憶部27とを備える。
【0027】
入力部21は、キーボード、マウス、マイク、タッチパネル等のユーザーインターフェースを用いて構成され、推定部23が実行する推定処理に関する設定等の情報を含む各種情報の入力を受け付ける。
【0028】
データ取得部22は、管理サーバー1からプロセス情報と実際の状態量の情報とをそれぞれ取得する。そして、当該プロセス情報及び当該実際の状態量の情報は、記憶部27に記憶される。
【0029】
推定部23は、以下に示す推定処理を実行する。
図3は、推定部23が実行する推定処理を模式的に示す図である。
具体的に、推定部23は、図3に示すように、データ取得部22にて取得されたプロセス情報を入力パラメータIPとして、ガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルMDを用いて、当該プロセス情報が観測された時刻における樹脂製造プロセスPの状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力パラメータOPとして出力する。
【0030】
図4は、推定部23が実行する推定処理における入力パラメータIPであるデータと出力パラメータOPである推定値及び当該推定値の標準偏差との関係を模式的に示す図である。なお、図4において、グラフIP1は、横軸を時間として、入力パラメータIPであるD個のデータ(データ1、データ2、・・・、データD)を示している。また、グラフOP1は、縦軸を状態量とし、横軸を時間としたグラフであり、ガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルMDが出力する出力パラメータOPである推定値及び当該推定値の標準偏差から算出された状態量の存在範囲を示している。当該グラフOP1では、状態量の推定値を実線で示し、当該推定値±当該推定値の標準偏差の範囲をドット(網掛け)で示している。
【0031】
ここで、ガウス過程回帰の特徴について説明する。
ガウス過程回帰は、入力パラメータXから出力パラメータYへの関数であるY=F(X)を推定するモデルの一種であり、非線形かつノンパラメトリックなモデルである。当該ガウス過程回帰で推定される関数Fは1つの関数ではなく、関数の分布として得られる。そのため、当該ガウス過程回帰で生成された学習済みモデルMDは、出力パラメータYとして、推定値と当該推定値の標準偏差とを出力する。当該標準偏差が得られることで、学習済みモデルMDによる推定の確信度が分かる。すなわち、図4に示すように、学習済みモデルMDに過去学習したデータと同様の入力パラメータX1を入力すれば、出力パラメータY1の推定値の標準偏差が小さくなるため、学習済みモデルMDによる推定の確信度は高い。一方、学習済みモデルMDに過去学習したデータと異なる入力パラメータX2を入力すると、出力パラメータY2の推定値の標準偏差が大きくなるため、学習済みモデルMDによる推定の確信度は低い。
【0032】
判定部24は、推定部23から出力された推定値と当該推定値の標準偏差とに基づいて、データ取得部22にてそれぞれ取得されたプロセス情報と当該プロセス情報が観測された時刻における樹脂製造プロセスPの実際の状態量の情報とがそれぞれ正常な値であるか否かを判定する判定処理を実行する。
【0033】
モデル更新部25は、判定部24にてそれぞれ判定されたプロセス情報と実際の状態量の情報との組合せを少なくとも用いて学習済みモデルMDを更新(再学習)する。
なお、モデル更新部25の詳細な構成については、後述する「モデル更新部の構成」において説明する。
【0034】
制御部26は、状態量推定システム100全体の動作を統括的に制御する。この制御部26は、図2に示すように、表示制御部261を備える。
表示制御部261は、本発明に係る報知制御部に相当する。この表示制御部261は、推定部23の推定処理による推定結果(状態量の推定値及び当該推定値の標準偏差等)を表示装置3に表示させる。なお、表示制御部261は、当該推定結果に加えて、学習済みモデルMDを更新したか否かを示すモデル更新結果、判定部24にて判定されたプロセス情報及び実際の状態量の情報等を表示装置3に表示させても構わない。
【0035】
記憶部27は、状態量推定装置2を動作させるための各種プログラム、及び状態量推定装置2の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータを記憶する。当該各種プログラムには、本発明に係る状態量推定プログラムも含まれる。
以上説明した記憶部27は、各種プログラム等を予めインストールしたROM(Read Only Memory)及び各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いて構成される。
【0036】
なお、上述した各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。また、データ取得部22が通信ネットワークを介して当該各種プログラムを取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0037】
以上説明した状態量推定装置2は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の1または複数のハードウェアを用いて構成されるコンピュータである。
【0038】
〔モデル更新部の構成〕
次に、モデル更新部25の構成について説明する。
図5は、モデル更新部25の構成を示すブロック図である。
モデル更新部25は、図5に示すように、入力部251と、学習部252と、制御部253と、記憶部254とを備える。
【0039】
入力部251は、キーボード、マウス、マイク、タッチパネル等のユーザーインターフェースを用いて構成され、モデル更新部25が生成する学習済みモデルMDが有するパラメータの設定や学習処理の詳細に関する情報を含む各種情報の入力を受け付ける。
【0040】
学習部252は、ガウス過程回帰のパラメータを最適化する学習を行うことによって、学習済みモデルMDを生成する。この学習部252は、少なくとも現時刻のプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報を組み合わせたデータを教師データとして取得し、当該教師データを用いて、学習済みモデルMDを生成する。当該教師データとして取得されるデータは、現時刻から過去全てのデータであることが好ましいが、現時刻から過去一定期間分のデータのみを教師データとして取得してもよく、または、現時刻のデータと近いデータを指定したデータ数分だけ、教師データとして取得しても構わない。当該近いとは、例えば、現時刻のデータと過去データとでユークリッド距離を計算して、距離が短いデータを言う。当該距離の計算方法としては、ユークリッド距離に限らず、マハラノビス距離やコサイン類似度等の計算方法でも構わない。
【0041】
制御部253は、モデル更新部25の動作を統括的に制御する。なお、制御部253としては、モデル更新部25の処理に関する情報を表示装置3に表示させる表示制御機能を有していても構わない。
【0042】
記憶部254は、学習部252が学習に用いる教師データ、当該学習部252が生成した学習済みモデルMD、モデル更新部25を動作させるための各種プログラム、及びモデル更新部25の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータを記憶する。
以上説明した記憶部254は、各種プログラム等を予めインストールしたROM及び各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM、HDD、SSD等を用いて構成される。
なお、上述した各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録してもよいし、通信ネットワークを介してダウンロード可能としても構わない。
【0043】
〔状態量推定装置が実行する状態量推定方法〕
次に、上述した状態量推定装置2が実行する状態量推定方法について説明する。
図6は、状態量推定装置2が実行する状態量推定方法を示すフローチャートである。
先ず、データ取得部22は、管理サーバー1からプロセス情報及び実際の状態量の情報のデータを取得する(ステップS1:データ取得ステップ)。
なお、上述したように、プロセス情報については連続的に取得されるが、実施の状態量の情報については連続的ではなく定期的に取得される。このため、ステップS1では、プロセス情報のみを取得する場合と、当該プロセス情報と実際の状態量の情報との双方を取得する場合とがある。以下では、ステップS1で取得されたプロセス情報を現時刻のプロセス情報と記載し、当該ステップS1で取得された当該現時刻(当該プロセス情報が観測された時刻)における実際の状態量の情報を現時刻における実際の状態量の情報と記載する。
【0044】
ステップS1の後、推定部23は、推定処理を実行する(ステップS2:推定ステップ)。具体的に、推定部23は、ステップS2において、現時刻のプロセス情報を入力パラメータIPとして、学習済みモデルMDを用いて、当該現時刻における樹脂製造プロセスPの状態量を推定した推定値と当該推定値の標準偏差とを出力パラメータOPとして出力する。
【0045】
ステップS2の後、推定部23は、当該ステップS2で入力パラメータIPとした現時刻のプロセス情報と、当該ステップS2で得られた推定値及び当該推定値の標準偏差とを記憶部27に書き込んで記憶させる(ステップS3)。
【0046】
ステップS3の後、判定部24は、ステップS1で現時刻における実際の状態量の情報が取得されたか否かを判断する(ステップS4)。
現時刻における実際の状態量の情報が取得されなかったと判断された場合(ステップS4:No)には、状態量推定装置2は、ステップS9に移行する。
一方、判定部24は、現時刻における実際の状態量の情報が取得されたと判断した場合(ステップS4:Yes)には、判定処理を実行する(ステップS5:判定ステップ)。
【0047】
図7は、判定部24が実行する判定処理を模式的に示す図である。具体的に、図7の(a)は、現時刻におけるプロセス情報の正常判定の方法を説明するためのグラフであり、縦軸を状態量の推定値の標準偏差とし、横軸を時間としている。また、図7の(b)は、実際の状態量の情報の正常判定の方法を説明するためのグラフであり、縦軸を状態量とし、横軸を時間としている。
【0048】
先ず、図7の(a)を用いて、ステップS5における判定処理のうち、現時刻におけるプロセス情報の正常判定の方法について説明する。
図7の(a)のグラフの実線は、状態量の推定値の標準偏差の時間変化を示している。また、σ1は、ガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルMDにおいて、過去に学習したプロセス情報のデータを入力パラメータIPとした場合に出力パラメータOPとして出力される推定値の標準偏差である。さらに、σ2は、ガウス過程回帰によって生成された学習済みモデルMDにおいて、過去に学習したプロセス情報と異なるデータを入力パラメータIPとした場合に出力パラメータOPとして出力される推定値の標準偏差である。この場合、ガウス過程回帰の性質からσ1<σ2である。そして、現時刻におけるプロセス情報の正常判定では、これら推定値の標準偏差σ1,σ2が用いられる。
【0049】
具体的に、判定部24は、ステップS5において、現時刻における状態量を推定した推定値の標準偏差が予め設定された閾値TH1(図7の(a))よりも小さい場合は、当該現時刻におけるプロセス情報が過去学習したプロセス情報に近いため、当該現時刻におけるプロセス情報を正常な値と判定する。すなわち、図7の(a)では、σ1<TH1のため、σ1の期間におけるプロセス情報は、正常な値と判定される。
一方、判定部24は、ステップS5において、現時刻における状態量を推定した推定値の標準偏差が閾値TH1よりも大きい場合は、当該現時刻におけるプロセス情報が過去学習したプロセス情報と異なる可能性が高いため、当該現時刻におけるプロセス情報を異常な値と判定する。すなわち、図7の(a)では、TH1<σ2のため、σ2の期間におけるプロセス情報は、異常な値と判定される。
ここで、閾値TH1は、過去の状態量の推定値の標準偏差の履歴から算出されることが望ましく、例えば推定値の標準偏差の履歴の最頻値や平均値等である。
【0050】
次に、図7の(b)を用いて、ステップS5における判定処理のうち、現時刻における実際の状態量の情報の正常判定の方法について説明する。
図7の(b)の黒丸点は、状態量の実測値を示している。また、図7の(b)では、状態量の推定値を実線で示し、当該推定値±3×(当該推定値の標準偏差)の範囲をドット(網掛け)で示している。
具体的に、判定部24は、ステップS5において、予め設定された正の値Nを用いた以下に示す条件(1)を満たした場合に、現時刻における実際の状態量の情報を正常な値と判定する。一方、判定部24は、以下に示す条件(1)を満たしていない場合に、現時刻における実際の状態量の情報を異常な値と判定する。
条件(1)は、状態量の推定値-N×(状態量の推定値の標準偏差)≦現時刻における実際の状態量の情報の値≦状態量の推定値+N×(状態量の推定値の標準偏差)である。
例えば、図7の(b)では、実測値O1は、推定値±3×(推定値の標準偏差)の範囲内に存在しているため、正常な値と判定される。一方、実測値O2は、推定値±3×(推定値の標準偏差)の範囲から外れているため、異常な値と判定される。ここで、正の値Nは、3以上であることが望ましい。
【0051】
現時刻におけるプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報の双方が正常な値と判定された場合(ステップS5:Yes)には、モデル更新部25は、ステップS5で正常な値と判定された現時刻におけるプロセス情報と当該現時刻における実際の状態量の情報とを組み合わせたデータを少なくとも用いて、学習済みモデルMDを更新(再学習)する(ステップS6:モデル更新ステップ)。この後、状態量推定装置2は、ステップS9に移行する。
【0052】
一方、現時刻におけるプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報の少なくともいずれかが異常な値と判定された場合(ステップS5:No)には、表示制御部261は、ステップS5での当該判定結果と、ステップS5でそれぞれ判定された現時刻におけるプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報とを表示装置3に表示させるとともに、学習済みモデルMDを更新するか否かの選択を促す(ステップS7:報知制御ステップ)。
【0053】
ステップS7の後、制御部26は、ユーザによって入力部21への学習済みモデルMDを更新する選択操作が行われたか否かを判断する(ステップS8)。
選択操作が行われたと判断された場合(ステップS8:Yes)には、状態量推定装置2は、ステップS6に移行し、ステップS5でそれぞれ判定された現時刻におけるプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報を組み合わせたデータを少なくとも用いて学習済みモデルMDを更新する。
一方、選択操作が行われないと判断された場合(ステップS8:No)、すなわち、ユーザがステップS5でそれぞれ判定された現時刻におけるプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報を組み合わせたデータを少なくとも用いた学習済みモデルMDの更新を望まなかった場合には、状態量推定装置2は、ステップS9に移行する。
【0054】
現時刻における実際の状態量の情報が取得されなかったと判断された場合(ステップS4:No)、ステップS6の後、または、選択操作が行われないと判断された場合(ステップS8:No)には、表示制御部261は、ステップS2での推定処理による推定結果(状態量の推定値及び当該推定値の標準偏差等)と、学習済みモデルMDを更新したか否かを示すモデル更新結果とを表示装置3に表示させる(ステップS9)。
【0055】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
図8及び図9は、実施の形態の効果を説明する図である。具体的に、図8及び図9は、推定値と状態量の実測値とを比較した例を示す図である。なお、図8及び図9において、状態量を縦軸とし、日付を横軸としている。また、図8及び図9において、状態量の実測値を黒丸点で示し、状態量の推定値を実線で示し、当該推定値±N×(当該推定値の標準偏差)の範囲をドット(網掛け)で示している。
【0056】
図8に示す第1例では、9月2日を境に状態量の推定値で構成される推定曲線L1の変動が激しくなっている。ここで、9月2日の実測値O(図8)は、人の記入ミスによる値であり、実際の値ではない。そして、図8に示す第1例では、実測値Oを含むデータを基に学習済みモデルMDを更新(再学習)したことにより、誤ったプロセス情報と状態量の情報との関係を学習してしまったことで、状態量の推定精度が低下している。これでは、推定値を信用することができず、実際の製造プロセスにおいて、品質管理に向けた対策を講じることはできない。
【0057】
図9に示す第2例は、図8に示す第1例と日付及び実測値が同じである。
本実施の形態に係る状態量推定装置2では、上述したように現時刻におけるプロセス情報と当該現時刻における実際の状態量とが正常な値であるか否かを判定する。すなわち、状態量推定装置2によれば、図8に示す9月2日の実測値Oを含むデータを学習済みモデルMDの更新(再学習)に用いるデータから外すことができる。このため、本実施の形態に係る状態量推定装置2では、当該状態量推定装置2で推定された状態量の推定値で構成される推定曲線L2(図9)を見て分かるように、高精度に状態量を推定することができる。この結果では、推定値を信用することができ、実際の製造プロセスにおいて、品質管理に向けた対策を講じることができる。
【0058】
特に、本実施の形態に係る状態量推定装置2では、特許文献1に記載の技術のように学習済みモデルMDとは別に上述したような実測値Oを外れ値として検出するためのモデルを構築する必要がなく、運用コストが大きくなることがない。また、本実施の形態に係る状態量推定装置2では、上述した判定処理において状態量の推定値の標準偏差の大きさを考慮するため、学習済みモデルMDの更新に有用なデータであるか否かを高精度に判定し、状態量の推定に有効なデータの除去を回避することができる。
【0059】
ところで、判定処理にてそれぞれ判定された現時刻におけるプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報の少なくともいずれかのデータが異常な値であっても、当該データが過去にない運転状態で、状態量の推定に重要である可能性も考えられる。当該データが状態量の推定に重要なデータであるか否かの判断については、状態量推定装置2では行うことができない。
ここで、本実施の形態に係る状態量推定装置2は、上述した判定処理による判定結果と、当該判定処理にてそれぞれ判定された現時刻におけるプロセス情報及び当該現時刻における実際の状態量の情報の少なくともいずれかのデータとを表示装置3に表示させるとともに、学習済みモデルMDを更新するか否かの選択を促す。そして、状態量推定装置2は、ユーザによって入力部21への学習済みモデルMDを更新する選択操作が行われた場合に、当該判定処理にて判定された当該データを少なくとも用いて学習済みモデルMDを更新する。このため、上述した判断を人に任せることで、当該データを状態量の推定に重要なデータとして学習済みモデルMDの更新に用いることができ、状態量の推定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の状態量推定装置、状態量推定方法、及び状態量推定プログラムは、連続的に観測可能なプロセス情報等の観測値を用いて、連続的に観測が困難な状態量の推定に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 管理サーバー
2 状態量推定装置
3 表示装置
21 入力部
22 データ取得部
23 推定部
24 判定部
25 モデル更新部
26 制御部
27 記憶部
100 状態量推定システム
251 入力部
252 学習部
253 制御部
254 記憶部
261 表示制御部
IP 入力パラメータ
IP1 グラフ
MD 学習済みモデル
O,O1,O2 実測値
OP 出力パラメータ
OP1 グラフ
P 樹脂製造プロセス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9