(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035970
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】産業資材シート、及びそれを連結してなるテント膜縫製物、防水シート縫製物、並びその廃材の利用方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20240308BHJP
B32B 25/10 20060101ALI20240308BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240308BHJP
E04H 15/54 20060101ALI20240308BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240308BHJP
D06N 3/06 20060101ALI20240308BHJP
D06M 15/248 20060101ALI20240308BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20240308BHJP
D06M 15/705 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B25/10
B32B27/30 101
E04H15/54
B32B3/30
D06N3/06
D06M15/248
D06M15/693
D06M15/705
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140636
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【テーマコード(参考)】
2E141
4F055
4F100
4L033
【Fターム(参考)】
2E141EE03
4F055AA07
4F055AA26
4F055BA16
4F055CA18
4F055DA02
4F055DA11
4F055DA12
4F055DA16
4F055EA04
4F055EA22
4F055FA04
4F055FA08
4F055GA01
4F100AK15A
4F100AK15C
4F100AK28C
4F100AN02A
4F100AN02C
4F100BA03
4F100CA02A
4F100CA02C
4F100DB01C
4F100DD01C
4F100DD07D
4F100DG11B
4F100EH46
4F100EJ05
4F100EJ05A
4F100EJ05C
4F100EJ39C
4F100GB90
4F100HB21C
4F100JK13A
4F100JK13C
4F100JK15C
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC15
4L033CA15
4L033CA68
(57)【要約】
【課題】刻印表示の刻印の深さが浅くても、鮮明、かつ堅牢に表示され、経年でのリサイクル/廃棄の仕分け判断が可能なテント膜縫製物、及び防水シート縫製物の提供と、これら縫製物の刻印表示に基づく廃材の利用方法の提供
【解決手段】布帛の表裏に、軟質塩化ビニル系樹脂被覆層を設けてなる長尺シートに、長手方向の片側端部に周期的に刻印領域Aを形成し、「鏡面凸部(表示部)/梨地凹部(背景)」、「鏡面凹部(表示部)/梨地凸部(背景)」、「梨地凸部(表示部)/鏡面凹部(背景)」、及び「梨地凹部(表示部)/鏡面凸部(背景)」、から選ばれた刻印領域Aを有する産業資材シートとし、これを縫製してテント膜縫製物などとし、刻印領域Aの情報に基づいてこの廃材を防草シートに再利用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の表裏に、軟質塩化ビニル系樹脂被覆層を設けてなる長尺シートであって、表裏の前記軟質塩化ビニル系樹脂被覆層の何れか一方に刻印領域Aを有し、この刻印領域Aは前記長尺シートの長手方向の片側端部に周期的に形成され、表示部、及び背景からなり、「鏡面凸部(表示部)/梨地凹部(背景)」、「鏡面凹部(表示部)/梨地凸部(背景)」、「梨地凸部(表示部)/鏡面凹部(背景)」、及び「梨地凹部(表示部)/鏡面凸部(背景)」、から選ばれた1パターン以上であることを特徴とする産業資材シート。
【請求項2】
前記軟質塩化ビニル系樹脂被覆層に架橋ゴムを含み、この層全体にゴム架橋が形成され、このゴム架橋が、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、及びファルネセン系ゴム、から選ばれた1種以上のゴム構造を含む請求項1に記載の産業資材シート。
【請求項3】
前記表示部が、文字、数字、記号、図形(マーク)、から選ばれた1種以上の凹部、または/及び、凸部の集合である請求項1または2に記載の産業資材シート。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の産業資材シートの端部をラップ連結してなるテント膜縫製物であって、このテント膜縫製物のラップ連結部に刻印領域Bが設けられているテント膜縫製物。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の産業資材シートの端部をラップ連結してなる防水シート縫製物であって、この防水シート縫製物のラップ連結部に刻印領域Bが設けられている防水シート縫製物
【請求項6】
請求項4に記載のテント膜縫製物の廃材を防草シートに転用するテント膜縫製物廃材の利用方法。
【請求項7】
請求項5に記載の防水シート縫製物の廃材を防草シートに転用する防水シート縫製物廃材の利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テント膜構造物用、及び防水シート用の産業資材シート(ターポリン、合成帆布)と、これらの産業資材シートを連結してなるテント膜縫製物(パビリオン、テントハウス、日除けテントなど)及び防水シート縫製物(トラック幌、荷台カバー、野積みシート、フロアシートなど)に関し、特に、出所、品番、材質などの情報が鮮明、かつ堅牢に刻印表示され、リサイクル/廃棄の仕分け判断が容易なテント膜縫製物(テント膜構造物から金属フレームを外したもの)、及び防水シート縫製物、さらにこれら縫製物廃材の刻印表示に基づく廃材利用に関する。
【背景技術】
【0002】
大型テント(パビリオン)、サーカステント、シートハウス、建築空間の膜屋根(天井)、スタジアム日除け屋根などのテント膜構造物には、ポリエステル長繊維糸条による織物に、軟質塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂フィルムを積層してなるターポリンが使用され、その多くの色相は景観的に、他の建築物との調和性に富んだ、白、アイボリーなどの淡色系が好まれている。その一方、トラック幌、荷台カバー、シート倉庫、野積みシートなどには、ポリエステル短繊維紡績糸条によるスパン織物に、軟質塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂溶液で含浸被覆して、加熱乾燥・固化させた合成帆布が使用され、その多くの色相は汚れの目立ち難いダークグリーン、オリーブドラブ、ネイビーブルーなどの濃色系が主流である。これらターポリンや合成帆布などの産業資材シートは、厚さ0.3~1.5mm、幅0.9~2.4m、長さ25~50m巻きの原反で流通し、これらの市場では、上記の理由により同系統の色相で同じ規格の競合品が複数混在している。
【0003】
これらの産業資材シートでは、メーカー、ブランド、品番、素材などの情報がシート本体に表示されないため、問屋、縫製屋の現場では包装紙を剥がしてしまうと、メーカーや品番の判別が付かなくなることがあった。特に最近では各メーカーが、REACH規制(欧州連合EUにおける化学品の登録・評価・認可および制限に関する規則)適合品、RoHS2指令(欧州連合EUにおける電気・電子機器における特定有害物質の使用制限)適合品、国土交通大臣認定品、耐久性保証品(8年、10年、15年)など、多様な法規適合品を展開しているため、問屋、縫製屋の現場での厳格な商品管理が必要となる。しかしながら、シートを混同せずに用いたとしても、一旦最終製品として世の中に出回ると、これらが10年以上の時を経て、解体、廃棄の段階ともなれば、メーカー、品番、材質などに無関係に、埋め立て処分に供されるのが現状である。これらがリサイクルに回らない理由は、経年劣化した素材に利用価値がないからである。しかしながら昨今の環境・資源問題において、テント膜構造物、防水シートなどの廃棄処理には、メーカー、品番、材質などの基礎情報が正しく認識できるシステムが必要であるが、まだ業界内での体制が構築されていない。また、これらの廃棄物の二次利用に関しては今まで検討されたことがなかった。
【0004】
当出願人は以前、携帯雑貨類の生地、家具類の生地、床材生地、装飾パーツ用生地などに使用し、エンボス加工による立体感豊かで意外性のある意匠表示が明瞭自在なパール調光輝性の合成皮革として、陥没部及び非陥没部とからなる意匠部分を有し、特定の陥没高低差がある合成皮革を提案し、その態様として「HIRAOKA」の文字が凸状に刻印された金型で型押しプレスを行い、文字が凹状に意匠賦型され、陥没部と非陥没部との陥没高低差0.2mmの合成皮革を特許文献1に開示した。この合成皮革は文字部分以外が観察角度の変化によって、ゴールド色とバイオレットの交互に干渉する装飾であるが、このような干渉凹凸文字では屋外使用時の識別性に劣るので、産業資材シートへの情報刻印として不適切であった。また、ブルゾン、トレーニングウェア、Tシャツのような繊維製品またはカバン類やスポーツ靴などに汎用される熱転写ラベルとして、ラベル表面において、情報表示部は主に凹凸模様の凸部からなり、地模様部を構成する凹凸模様の凸部が光沢表面および凹部が艶消し表面となる表面質感の特異な熱転写ラベルをスクリーン印刷で形成する発明が特許文献2に開示されている。がこのようなスクリーン印刷で形成すされた転写ラベルを産業資材シートの情報表示に適用したとしても、スクリーン印刷では微細な凹凸模様が摩耗摩滅して短命となる。従って今現在は、メーカー、品番、材質などの情報が長期間安定的に表示された産業資材シートと、産業資材シート構築物からの廃材の有効な二次利用の活路が強く望まれているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-163013号公報
【特許文献2】特開2003-094891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、テント膜構造物用、及び防水シート用の産業資材シート(ターポリン、合成帆布)と、これらの産業資材シートを連結してなるテント膜縫製物(パビリオン、テントハウス、日除けテントなど)及び防水シート縫製物(トラック幌、荷台カバー、野積みシート、フロアシートなど)の用途において、特に、出所、品番、材質などの刻印表示の刻印深さが0.3mm程度でも、鮮明、かつ堅牢に表示され、経年でのリサイクル/廃棄の仕分け判断が可能なテント膜縫製物(テント膜構造物から金属フレームを外したもの)、及び防水シート縫製物の提供と、さらにこれら縫製物の刻印表示に基づく廃材の利用方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる点を考慮し鋭意検討した結果、布帛の表裏に、軟質塩化ビニル系樹脂被覆層を設けてなる長尺シートであって、表裏の前記軟質塩化ビニル系樹脂被覆層の何れか一方に刻印領域Aを有し、この刻印領域Aは前記長尺シートの長手方向の片側端部に周期的に形成され、表示部、及び背景からなり、「鏡面凸部(表示部)/梨地凹部(背景)」、「鏡面凹部(表示部)/梨地凸部(背景)」、「梨地凸部(表示部)/鏡面凹部(背景)」、及び「梨地凹部(表示部)/鏡面凸部(背景)」、から選ばれた1パターン以上を用いることで、表示部と背景の外観が、鏡面と梨地のコントラスト効果となって、例え刻印深さが0.3mm程度でも、表示部の視認性が格段に向上し、刻印領域Aが鮮明な、テント膜構造物用、及び防水シート用の産業資材シート(ターポリン、合成帆布)を得ることができる。これらの産業資材シートを連結してなるテント膜縫製物(パビリオン、テントハウス、日除けテントなど)及び防水シート縫製物(トラック幌、荷台カバー、野積みシート、フロアシートなど)の用途において、特に、出所、品番、材質などの情報が刻印領域Aとして、産業資材シートの特定部分に鮮明、かつ堅牢に刻印表示されることで、リサイクル/廃棄の仕分け判断が可能となること、さらにこの刻印表示に基づいての、テント膜縫製物(テント膜構造物から金属フレームを外したもの)、及び防水シート縫製物の廃材を防草シートとして利用できることを見出して本発明を完成させるに至った。すなわち、刻印領域Aが不明だと防草シート施工、及び廃棄の責任の所在が分からなくなるので、テント膜縫製物、防水シート縫製物などの廃材を防草シートに再利用する際には、少なくとも刻印領域Aの情報を必要とする。例えば、刻印領域A「PET&PVC」は、材質がポリエステル繊維織物と塩化ビニル樹脂であることを表し、この刻印領域Aの鮮明性が長期間維持されることによって、後のリサイクル(防草シート)/廃棄の分別を容易とする。
【0008】
本発明の産業資材シートは、前記軟質塩化ビニル系樹脂被覆層に架橋ゴムを含み、この層全体にゴム架橋が形成され、このゴム架橋が、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、及びファルネセン系ゴム、から選ばれた1種以上のゴム構造を含むことが好ましい。この軟質塩化ビニル樹脂被覆層内に、ゴム架橋の架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったハイブリッドを形成することで、刻印領域Aの刻印表示の耐摩耗・摩滅性に優れ、屋外で長期間経過した後も、刻印表示が安定保持されることで、リサイクル/廃棄の仕分け判断を可能とする。
【0009】
本発明の産業資材シートは、前記表示部が、文字、数字、記号、図形(マーク)、から選ばれた1種以上の凹部、または/及び、凸部の集合であることが好ましい。
【0010】
本発明のテント膜縫製物は、上記産業資材シートの端部をラップ連結してなるテント膜縫製物であって、このテント膜縫製物のラップ連結部に刻印領域Bが設けられていることが好ましい。この刻印領域Bはテント膜縫製時に加熱金型の押圧によりスタンプされるもので、刻印領域Bにより、テント膜縫製物の縫製メーカー情報が明らかとなる。例えば、刻印領域B「HIRAOKA」は、縫製メーカーが平岡織染株式会社であることを表し、この刻印領域Bの鮮明性が長期間維持されることによって、メーカーへの照会を可能とする。
【0011】
本発明の防水シート縫製物は、上記産業資材シートの端部をラップ連結してなる防水シート縫製物であって、防水シート縫製物のラップ連結部に刻印領域Bが設けられていることが好ましい。この刻印領域Bは防水シート縫製時に加熱金型の押圧によりスタンプされるもので、刻印領域Bにより、防水シート縫製物の縫製メーカー情報が明らかとなる。
【0012】
本発明のテント膜縫製物廃材の利用方法は、テント膜縫製物の廃材を防草シートに転用することが好ましい。これによってテント膜縫製物の廃材が埋め立て処分される前に防草シートとして、テント膜のプロフィール(情報表示)に応じて適切に再利用されることで新品の防草シートが不必要となる。新品の防草シートが不要となる分、新たな石化原料の消費が押えられ、さらには将来的な二酸化炭素排出減に繋がる。
【0013】
本発明の防水シート縫製物廃材の利用方法は、防水シート縫製物の廃材を防草シートに転用することが好ましい。これによって防水シート縫製物の廃材が埋め立て処分される前に防草シートとして、防水シートのプロフィール(情報表示)に応じて適切に再利用されることで新品の防草シートが不必要となる。新品の防草シートが不要となる分、新たな石化原料の消費が押えられ、さらには将来的な二酸化炭素排出減に繋がる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、テント膜縫製物(パビリオン、テントハウス、日除けテントなど)及び防水シート縫製物(トラック幌、荷台カバー、野積みシート、フロアシートなど)の産業資材シートの用途において、特に、出所、品番、材質などの刻印が、例え刻印深さが0.3mm程度でも、刻印領域Aとして鮮明、かつ堅牢に表示されるので、長期経年でのリサイクル/廃棄の仕分け判断が容易となること、さらにこの刻印表示に基づいての、テント膜縫製物(テント膜構造物から金属フレームを外したもの)、及び防水シート縫製物の廃材を防草シートとして再利用することにより、新品の防草シートが不要となる分、石化原料の消費が押さえられ、さらには二酸化炭素排出減に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の産業資材シートの刻印領域Aの態様の1つを示す断面図
【
図2】本発明の産業資材シートの刻印領域Aの態様の1つを示す断面図
【
図3】本発明の産業資材シートの刻印領域Aの態様の1つを示す断面図
【
図4】本発明の産業資材シートの刻印領域Aの態様の1つを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の産業資材シートは、布帛の表裏に、軟質塩化ビニル系樹脂被覆層を設けてなる長尺シートであって、表裏の前記軟質塩化ビニル系樹脂被覆層の何れか一方に刻印領域Aを有し、この刻印領域Aは前記長尺シートの長手方向の片側端部に周期的に形成され、表示部、及び背景からなり、「鏡面凸部(表示部)/梨地凹部(背景)」、「鏡面凹部(表示部)/梨地凸部(背景)」、「梨地凸部(表示部)/鏡面凹部(背景)」、及び「梨地凹部(表示部)/鏡面凸部(背景)」、から選ばれた1パターン以上であり、軟質塩化ビニル系樹脂被覆層に架橋ゴムを含み、この層全体にゴム架橋が形成され、このゴム架橋が、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、及びファルネセン系ゴム、から選ばれた1種以上のゴム構造を含む態様である。例えば、刻印領域A「PET&PVC」は、材質がポリエステル繊維織物と塩化ビニル樹脂であることを表し、この刻印領域Aの鮮明性が長期間維持されることによって、後のリサイクル(防草シート)/廃棄の分別を容易なものとする。本発明において鏡面は光反射を伴う艶外観、梨地は微細凹凸で光が乱反射した艶消し外観を意味する。
【0017】
本発明の産業資材シートに用いる布帛は、織布、編布、不織布などの何れの形態でも使用できる。織布としては、平織物(経糸/緯糸からなる二軸織物、経糸/バイアス糸からなる三軸織物、経糸/緯糸/バイアス糸からなる四軸織物)、斜子織物(例えば2×2、3×3、4×4などの正則斜子織、3×2、4×2、4×3、5×3、2×3、2×4、3×4、3×5などの不規則斜子織)、綾織物(経糸、緯糸とも最少3本ずつ用いた最小構成単位を有する:3枚斜文、4枚斜文、5枚斜文、6枚斜文、8枚斜文など)、朱子織物(経糸、緯糸とも最少5本ずつ用いた最小構成単位を有する:2飛び、3飛び、4飛び、5飛びなどの正則朱子)、及び変化平織物、変化綾織物、変化朱子織物など、さらに蜂巣織物、梨子地織物、破れ斜文織物、昼夜朱子織物、もじり織物(紗織物、絽織物)、縫取織物、二重織物なども使用できるが、特に平織物、2×2斜子織物が経緯物性バランスに優れ好ましい。編布としてはラッセル編物、不織布としては、湿式法、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法によるフリースを、熱、接着剤などで固定したものが使用できる。上記の織物、編物、不織布には精練、漂白、染色、柔軟化、撥水、吸水防止、防炎、毛焼き、カレンダー、バインダー固着、接着剤塗布などの公知の繊維処理加工を、本発明の産業資材シートの性能向上のために、単数、または複数を施したものを使用してもよい。
【0018】
布帛を構成する糸条は、合成繊維、天然繊維(綿、ケナフ)、半合成繊維(レーヨン、アセテート)、無機繊維、またはこれらの2種以上から成る混合繊維など何れも使用できるが、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル(PET、再生PET、植物由来の原料から合成されたバイオマスPET、PBT、PNT)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、植物由来の原料から合成されたバイオマス繊維(ポリエチレンフラノエート繊維、ポリプロピレンフラノエート繊維、ポリブチレンフラノエート繊維、ポリトリメチレンフラノエート繊維、フラン系ポリアミド繊維など)、ナイロン繊維、全芳香族ポリアミド繊維、芳香族ヘテロ環ポリマー(ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾールなど)繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、または、これらの混合繊維などの合成繊維が好ましい。これらの糸条の態様は、モノフィラメント、マルチフィラメント、短繊維紡績(スパン)、スプリット、テープなどであるが、産業資材シートのフレキシブル性、及び引裂強度を確保するためにはマルチフィラメント、または短繊維紡績(スパン)が好ましい。また、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭素繊維などの無機系マルチフィラメント糸条も使用でき、これらの無機系繊維は特に国土交通大臣認定の不燃材料(テント構造物)用に適し、特にガラス繊維マルチフィラメント糸条が汎用的である。
【0019】
本発明に使用する布帛は、マルチフィラメント糸条からなる織物、または短繊維紡績布(スパン)であることが好ましく、マルチフィラメント糸条は、250~3000デニール(277~3333dtex)の範囲、特に500~2000デニール(555~2222dtex)が好ましく、必要に応じて無撚糸(断面が楕円または扁平)、または撚糸が使用できる。また短繊維紡績糸条は、10番手(591dtex)~60番手(97dtex)の範囲、特に10番手(591dtex)、14番手(422dtex)、16番手(370dtex)、20番手(295dtex)、24番手(246dtex)、30番手(197dtex)など、これらの単糸、または双糸(片撚糸)、単糸2本以上による合撚糸(諸撚糸)などが好ましい。織物の経糸及び緯糸の打込み密度に制限は無く、用いる糸条の太さ(デニール、番手)に応じて任意の設計が可能であるが、織物の空隙率(目抜け)が、0~30%の範囲となる打込み密度で、目付量100~500g/m2の織物が産業資材シートの布帛に適している。空隙率は布帛の単位面積中に占める糸条の面積を百分率として求め、100から差し引いた値として求めることができる。マルチフィラメント糸条で製織された織物(空隙率10~35%)の好ましくは両面に、軟質塩化ビニル系樹脂組成物フィルムを熱ラミネートして軟質塩化ビニル系樹脂被覆層を形成する製造に適し、また短繊維紡績布(スパン)の場合、空隙率0~10%の短繊維紡績布(スパン)の好ましくは両面に、ペースト状の軟質塩化ビニル系樹脂組成物を用いてのコーティング~熱処理、またはデッピィング~熱処理による軟質塩化ビニル系樹脂被覆層の形成に適している。
【0020】
軟質塩化ビニル系樹脂被覆層は、軟質塩化ビニル樹脂組成物(可塑剤含有)から形成されるもので、ペースト塩化ビニル樹脂(乳化重合タイプ)を用いたコーティングまたはディッピング~ゲル化熱処理による被膜形成、或いはストレート塩化ビニル樹脂(懸濁重合タイプ)を用いて、カレンダー圧延成型またはTダイス押出成型した塩化ビニル樹脂フィルム(シート)による被膜形成が特に好ましい。ペースト塩化ビニル樹脂は帆布の被覆層に適し、ストレート塩化ビニル樹脂はターポリンの被覆層に好適である。塩化ビニル樹脂は植物由来のモノマーからなる塩化ビニル樹脂を用いてバイオマス対応の産業資材シートとしてもよい。可塑剤は、アジピン酸ジエステル化合物、セバシン酸ジエステル化合物、フタル酸ジエステル化合物、イソフタル酸ジエステル化合物、テレフタル酸ジエステル系化合物、シクロヘキサンジカルボン酸ジエステル系化合物、シクロヘキセンジカルボン酸ジエステル化合物、塩素化パラフィン化合物、ポリエステル化合物、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素三元共重合体樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素三元共重合体樹脂などを1種または複数種を、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して35~150質量部程度使用できる。可塑剤は植物由来の化合物からなる可塑剤を用いてバイオマス対応の産業資材シートとしてもよい。植物由来の可塑剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物、フランジカルボン酸ジアルキルエステル化合物などが例示できる。
【0021】
軟質塩化ビニル系樹脂被覆層には塩化ビニル系樹脂用安定剤として、カルシウム亜鉛複合系、バリウム亜鉛複合系、有機錫ラウレート、有機錫メルカプタイト、エポキシ系などの安定剤を単独あるいは複数種併用して用いることが、本発明の産業資材シートの製造時の熱劣化や変色を抑止し、さらに屋外使用時の耐候性を向上させる。また本発明の産業資材シートは顔料着色が自在で、酸化チタン(白)、カーボンブラック(黒)、無機化合物複合体、アゾ系化合物(赤)、フタロシアニン系化合物(青~緑)、アントラキノン系化合物(黄~赤)、キナクリドン系化合物(黄~紫)などを用い任意に調色できるが、特に白(酸化チタン)、パステル色(酸化チタンに差し色)などはテント膜構造物での需要が高く、ダークグリーン、オリーブドラブなどはトラック幌、防水シートでの需要が高い。その他、軟質塩化ビニル系樹脂被覆層には、塩化ビニル系樹脂用の公知の添加剤を種々任意量配合することができ、必要に応じて、難燃剤(三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレートなど)、耐光安定剤(HALS)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系など)、酸化防止剤(フェノール系)、帯電防止剤(第四級アンモニウムカチオン、イオン液体など)、硬化剤(イソシアネート系、シランカップリング剤など)、防虫剤(ピレスロイド系など)、防黴剤(イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、フェノキシアルシン化合物など)、抗菌剤(銀ゼオライト系)、消臭剤(酸化珪素・金属酸化物複合系など)、遮熱フィラー(中空粒子、粗粒酸化チタンなど)、芳香剤、蓄光顔料(アルミン酸ストロンチウム系など)、アルミフレーク顔料、パール顔料、無機充填剤(炭酸カルシウム、硫酸バリウムなど)などを含むことができる。
【0022】
特に軟質塩化ビニル系樹脂被覆層は架橋ゴムを含み、この層全体にゴム架橋が形成され、このゴム架橋が、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、及びファルネセン系ゴム、から選ばれた1種以上のゴム構造を含み、ゴム架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったハイブリッドを形成することで、刻印領域A、刻印領域Bの刻印表示の耐摩耗・摩滅性を向上させ、屋外で長期間経過した後も、刻印表示が安定保持されることで、リサイクル/廃棄の仕分け判断を容易とする。このようなゴム架橋ネットワークは、ブタジエン系液状ゴム、イソプレン系液状ゴム、及びファルネセン系液状ゴム、から選ばれた1種以上の液状合成ゴムを塩化ビニル樹脂100質量部に対して5~30質量部配合し、塩化ビニル樹脂の加熱ゲル化と併行して液状合成ゴム間を架橋させることより形成できる。この架橋前の状態は、液状合成ゴムが可塑剤と共に塩化ビニル樹脂微粒子内に浸透して塩化ビニル樹脂の軟化剤として作用している。この状態で軟質塩化ビニル樹脂組成物を加熱ゲル化させることで、ゴム架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったハイブリッドな軟質塩化ビニル樹脂被覆層が形成される。すなわち軟質塩化ビニル樹脂被覆層内の全域に、ゴム架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったハイブリッドが形成されたものとなる。
【0023】
ゴム架橋を形成するブタジエン液状ゴムは、分子末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有することで三次元架橋を可能とする。分子量Mnは1000~5000もの、特に1300~3500の分子量,粘度50~1000ポイズ(25℃)、特に200~500ポイズ(25℃)の範囲のものが好ましい。ブタジエン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてスチレン、及び/またはアクリロニトリルを5~25質量%含むもの、及び共重合成分としてイソプレン、または水素添加イソプレンを10~50質量%含むものである。ブタジエン液状ゴムは、1,4-シス構造、または1,4-トランス構造を75~80%程度、1,2-ビニル構造を20~25%程度とするものだと粘度が低く、ゴム化した時のゴム弾性に優れる。この生成比率はラジカル重合方法により可能とされる。ゴム架橋を形成するイソプレン系液状ゴムは、分子(両)末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有する、分子量Mn3000~25000の範囲のものが好ましい。イソプレン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてスチレン、及び/またはアクリロニトリルを5~25質量%含むもの、及び共重合成分としてブタジエン、または水素添加イソプレンを10~50質量%含むものである。ゴム架橋を形成するファルネセン系ゴムは、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)、β-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)などをモノマーとするゴム、さらにファネルセンとスチレンとの共重合ゴム、ファネルセンとブタジエンとの共重合ゴムが例示できる。ファネルセン系液状ゴムは、分子(両)末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有する、分子量Mn3000~50000の範囲のものが好ましい。これらの液状合成ゴムの三次元架橋は、分子(両)末端の-COOH基,-OH基、の脱水縮合によって形成されるが、ジアミン、ポリアミン、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどの架橋剤との付加反応、あるいはジオール、ポリオール、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、などの化合物との縮合反応により形成することができる。さらにゴム架橋の一部として、シリカを含む有機無機ハイブリッドゴム架橋とすることができる。
【0024】
ゴム架橋には、ゴム架橋の一部としてシリカ粒子が介在する有機無機ハイブリッドゴム架橋が好ましい。シリカは、液状合成ゴムに対し1~25重量%の量で併用し、シリカ表面の官能基と、液状合成ゴムの分子(両)末端に-COOH基,-OH基との間での化学結合を生成させることで三次元架橋の一部とする。この反応は、液状合成ゴムの分子(両)末端の-COOH基,-OH基、とシリカ表面のシラノール基との脱水縮合によって形成されるが、液状合成ゴムの官能基とシリカ粒子のシラノール基を、ジアミン、ポリアミン、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどの架橋剤との付加反応、あるいはジオール、ポリオール、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、などの化合物との縮合反応により結合することが好ましい。このゴム架橋の生成は、軟質塩化ビニル樹脂被覆層を形成する軟質塩化ビニル樹脂ペーストのゲル化熱処理と同時に行い、軟質塩化ビニル樹脂被覆層全体に均質なゴム架橋ネットワークを形成する。軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物には、シランカップリング剤を含み、液状合成ゴムとシリカとの化学結合を補助することが好ましい。これによってゴム架橋が強靭化して、産業資材シートの特定部分に刻印表示された刻印領域A、刻印領域Bの表示部が堅牢化することで、長期経年後の、リサイクル/廃棄の仕分け判断を明確とすることができる。
【0025】
シリカは、BET比表面積100~300m2/g、または二次粒子径1~40μmの合成非晶質シリカが好ましい。合成非晶質シリカは、湿式法シリカ(沈降法またはゲル法)、乾式法シリカ(ヒュームドシリカ)の何れであってもよい。シリカの表面はシラノール(Si-OH基)を有し、シラノール基が液状合成ゴムの分子(両)末端の-COOH基,-OH基など反応して、シリカ粒子がゴム成分の一部となることによって、ゴム架橋が強靭化して耐摩耗性を向上させ、また産業資材シートの特定部分に刻印表示された刻印領域A、刻印領域Bの表示部が堅牢化する。シリカ表面には、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、クロル基、メルカプト基、イソシアヌレート基、イソシアネート基などの官能基が導入されていてもよい。シリカ粒子は、シランカップリング剤で処理された表面改質粒子であることが好ましい。シランカップリング剤は一般式:XR-Si(Y)3で表される分子中に2個以上の異なった反応基を有するアルコキシシラン化合物で、例えば、X=アミノ基(アミノシラン)、ビニル基(ビニルシラン)、エポキシ基(エポキシシラン)、メタクリル基(メタクリルシラン)、アクリル基(アクリルシラン)、クロル基(クロルシラン)、メルカプト基(メルカプトシラン)、イソシアヌレート基(イソシアヌレートシラン)、イソシアネート基(イソシアネートシラン)、など(R=アルキル鎖)、Y=メトキシ基、エトキシ基などである。シリカの表面改質は、シリカのシラノール基の、-Si-R-Si(Y)3修飾であるが、シリカのシロキサン結合部分の、(-O)3Si-RX修飾であってもよい。
【0026】
本発明の産業資材シートの製造方法は、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム、の3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)布帛に軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工、または軟質塩化ビニル樹脂フィルムを積層して、軟質塩化ビニル樹脂被覆層を形成する工程、3)液状合成ゴムを架橋ゴムに転化して、軟質塩化ビニル樹脂被覆層の全域にゴム架橋を形成する工程、4)表面加飾エンボスを施し刻印領域Aを形成する工程を含む。2)の布帛への軟質塩化ビニル樹脂組成物(ペーストゾル)の塗工は、ディッピング(浸漬~含浸~ロール圧搾~ペーストゾルの熱処理ゲル化)、または、グラビアコート法、コンマコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、バーコート法、ドクターナイフコート法などのコーティング(含浸被覆~ペーストゾルの熱処理ゲル化)により皮膜厚0.05~0.3mm厚の範囲で形成し、産業資材シートの厚さを0.35~1.0mm程度の範囲に製造する。また、軟質塩化ビニル樹脂フィルムは、軟質塩化ビニル樹脂組成物(コンパウンド)のカレンダー圧延成型、またはTダイス押出成型により0.1~0.3mm厚の範囲で形成し、産業資材シートの厚さを0.35~1.0mm程度の範囲に製造する。3)の液状合成ゴムをゴム架橋ネットワークへの転化は、ジアミン、トリアミン、テトラミン、ポリアミン、ジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート:HMDI)、トリイソシアネート(例えばHMDIの環状3量体によるイソシヌレート)、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどによる架橋剤、特に官能基数が3または4の架橋剤によって緻密、かつ複雑なゴム架橋ネットワークとすることができる。液状合成ゴムのゴム架橋ネットワークへの転化は、軟質塩化ビニル樹脂組成物のゲル化と同時に行うことで、軟質塩化ビニル樹脂被覆層全体に均質なゴム架橋ネットワークが形成される。液状合成ゴムと架橋剤との反応は、等モル比反応が好ましいが、余剰の液状合成ゴムが軟質塩化ビニル樹脂被覆層内に残存してもよい。残存する液状合成ゴムは可塑剤と相溶し、軟質塩化ビニル樹脂被覆層のガラス転移温度を下げる効果、すなわち耐寒性付与剤として作用する。残存する液状合成ゴムは、塩化ビニル樹脂100質量部に対して10質量部以内である。4)の表面加飾エンボスによる刻印領域Aの形成は、産業資材シートの長手方向に周期的に形成され、その形成位置が片側端部であって、鏡面エンボス(艶)、梨地エンボス(艶消)、柄エンボス(意匠)、文字刻印(メーカー名、商品名などの凹凸刻印)などで、特にメーカー名、商品名などの刻印表示により、他社類似品との識別効果を得る。
【0027】
また本発明の産業資材シートに防汚層(0.005~50μm)を設けることにより、軟質塩化ビニル樹脂被覆層が保護され、煤塵付着、紫外線劣化、摩耗摩滅のダメージを緩和する。防汚層によって長期間使用しても産業資材シート、すなわちテント膜縫製物、及び防水シート縫製物の外観を美麗に保つことができるので、使用役目を終えたテント膜縫製物、及び防水シート縫製物を防草シートに再利用することができる。防汚層は、アクリル系樹脂、フッ素系共重合樹脂、アクリル-シリコーン共重合樹脂、アクリルーフッ素共重合樹脂、アクリル-ウレタン共重合樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合樹脂とのブレンド、及びこれらの樹脂にシリカ微粒子、コロイダルシリカ、オルガノシリケート、シランカップリング剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系互変異性体、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体など)などを含む透明層である。これらの防汚層の形成は、これらの塗料のグラビアコートで塗布・乾燥して塗膜化する方法、あるいはフッ素含有樹脂フィルム、またはフッ素含有樹脂/アクリル系樹脂層などの複層フィルムを接着剤もしくは熱溶融により積層する方法である。また、これらの防汚層上には更に、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン・光触媒性酸化タングステンなど)を含む光触媒層を設けることもできる。
【0028】
特に本発明の産業資材シートは刻印領域Aを有し、この刻印領域Aは前記長尺シートの長手方向に周期的に形成され、その形成位置が片側端部であって、刻印領域Aが、表示部、及び背景からなり、「鏡面凸部(表示部)/梨地凹部(背景)」、「鏡面凹部(表示部)/梨地凸部(背景)」、「梨地凸部(表示部)/鏡面凹部(背景)」、及び「梨地凹部(表示部)/鏡面凸部(背景)」、から選ばれた1パターン以上の、鏡面部と梨地部の併用が目視コントラスト効果の向上となることで、刻印深さが0.3mm程度でも刻印領域Aが鮮明となる。本発明において鏡面は光反射を伴う艶外観、梨地は微細凹凸で光が乱反射した艶消し外観を意味する。また表示部は、文字、数字、記号、図形(マーク)、から選ばれた1種以上の凹部、または/及び、凸部の集合で、具体的に、メーカー名、商品名、品番、登録番号、素材表示、読取コード、などである。凸部の高さ(凹部の深さ)は0.03mm~0.2mmである。刻印領域Aの形状は、長方形、正方形、多角形、楕円形、円形など、特に規定はないが、長方形、楕円形が好ましい。刻印領域Aのサイズは、最小で高さ3cm×幅3cm、最大で高さ15cm×幅15cmの正方形、多角形、円形など、及び最小で高さ3cm×幅5cm、最大で高さ10cm×幅25cmの長方形、楕円形などである。刻印領域Aのサイズが小さ過ぎると表示内容の判読が困難となり、大き過ぎるとテント膜縫製物、防水シート縫製物の外観に影響する。刻印領域Aは産業資材シートの製造時に長手方向に周期的に形成され、その形成位置は産業資材シートの幅方向に対する右端または左端である。本発明のテント膜縫製物、及び防水シート縫製物は、産業資材シートの端部を3~10cm重ね合わせたラップ連結で溶着されるので、このラップ部となる端から3~10cmを除く右端または左端に刻印領域Aを形成、特に裏面に刻印領域Aを形成することが好ましい。刻印領域Aはエンボスロールにより一定間隔で連続賦形され、エンボスロールには文字、数字、記号、図形(マーク)が反転してデザインされる。例えば30インチ径のエンボスロールに1ヶ所の刻印の場合、約240cm間隔で刻印領域Aが連続賦型される。刻印領域Aにより産業資材シートの製造メーカー情報を明確とする。エンボスは100~180℃に設定のエンボスロールと対のゴムロールによる圧着で行い、エンボス後の冷却(空冷と水冷ロール)により刻印表示が固定される。刻印領域Aはテント膜縫製物の内側、防水シート縫製物の内側になるようにして、煤塵、風雨、紫外線、などのダメージから保護することが好ましい。例えば、刻印領域A「PET&PVC」は、材質がポリエステル繊維織物と塩化ビニル樹脂であることを表し、この刻印領域Aの鮮明性が長期間維持されることによって、後のリサイクル(防草シート)/廃棄の分別を容易なものとする。
【0029】
また、本発明のテント膜縫製物、及び防水シート縫製物は、産業資材シートの端部を3~10cm重ね合わせたラップ連結で溶着される。この溶着は加熱金型の押圧により行い、具体的に、幅3~10cm、長さ100cmの長方形の金型バーを装着した高周波溶着機(高周波ウエルダー)によって溶着時間3~5秒押圧し、高周波で軟質塩化ビニル系樹脂被覆層の塩化ビニル系樹脂を分子振動させ、その摩擦熱で軟質塩化ビニル系樹脂被覆層を溶融させてシート端部を溶着し、冷却時間5~10秒の押圧で固着させる。このテント膜縫製物、及び防水シート縫製物のラップ連結部に刻印領域Bが設けられ、この刻印領域Bは高周波溶着時に金型バーの押圧によりスタンプされるものである。刻印領域Bは金型バーにデザインされ、刻印領域Bの高さは3~10cm、長さ3~15cmで、例えば100cm長さの金型バーの端部、または中央部の少なくとも1ヶ所にデザインされる。刻印領域Bには、テント膜縫製メーカー、または防水シート縫製メーカーの情報をデザインされ、これは具体的に、縫製メーカー、読取コード、シンボルマークなどである。金型バーは平面で、これらの情報表示を凸部鏡面、凸部梨地、凹部鏡面、凹部梨地などで鋳造した刻印領域Aと同じ4パターン、あるいは金型バー全面に等間隔凸ストライプが形成され、文字や図形の形になるストライプに凸部を除外して情報表示を鋳造したものが使用できる。刻印領域Bは金型バーにより賦形され、金型バーには文字、数字、記号、図形(マーク)が反転してデザインされる。刻印領域Bにより、テント膜縫製物、または防水シート縫製物の縫製メーカー情報を明確とする。刻印領域Bはテント膜縫製物の内側、防水シート縫製物の内側に1~3mの間隔で設け、煤塵、風雨、紫外線、などのダメージから保護することが好ましい。例えば、刻印領域B「HIRAOKA」は、縫製メーカーが平岡織染株式会社であることを表し、この刻印領域Bの鮮明性が長期間維持されることによって、メーカーへの照会を可能とする。
【0030】
現在は、5~10年で使用を終えたテント膜縫製物、防水シート縫製物などは、解体して埋立廃棄されているが、使用を終えた縫製物であっても穴開きなどの破損がない限り、初期と遜色ない防水性、及び遮光性を保持している。従ってテント膜縫製物、及び防水シート縫製物の健全な廃材は、空地、休耕地、太陽電池発電装置設置エリア、鉄道軌跡法面などの防草シートとして再利用が可能で、防水性は植物(特に雑草)への水供給を断ち、遮光性は植物(特に雑草)の光合成を断つ役目として、雑草荒廃化の抑止に貢献できる。すなわち植物の繁殖を抑止するのに適した厚さ0.35~1.0mmの耐久素材なのである。防草シートへの再利用は、テント膜縫製物、防水シート縫製物を任意のサイズに解体して地面、法面に敷設し、アンカーピンなどで地面に固定する従来の防草シート同様に使用できる。テント膜構造物では特に、白、アイボリーが入手し易く、またトラック幌、防水シートでは特に、ダークグリーン、オリーブドラブなどが入手し易い。この再利用だと新品の防水シートを必要とせず、防水シートを製造するための石化原料の消費が押さえられるので、将来的な二酸化炭素排出の可能性減に繋がる。ところで防草シートに再利用する際に、利用者がテント膜縫製物、防水シート縫製物などの材質などの情報を知らずに、闇雲に防草シートを敷設することは、廃材投棄と変わりない行為となる。そこでテント膜縫製物、及び防水シート縫製物の基礎情報(刻印領域B)、及びテント膜縫製物、防水シート縫製物を構成する産業資材シートの基礎情報(刻印領域A)が明確になることで、防草シートへの再利用と、再利用後の廃棄処分に対する企業(会社)責任を果たすことを可能とする。刻印領域A、刻印領域Bの何れも不明だと防草シート施工、及び廃棄の責任の所在が分からなくなるので、テント膜縫製物、防水シート縫製物などの廃材を防草シートに再利用するには、少なくとも刻印領域Aの情報を必要とする。
【0031】
次に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
本発明の実施例及び比較例に用いた試験方法は下記の通りである。
(1)スコット形屈曲往復摩耗試験(JIS L1096 8.19.2 B法準拠)
産業資材シートから刻印領域Aを含む25mm幅×120mm長さの試験片を採取
し、25℃環境に24時間静置した後、スコット形試験機に装着し、1kgf荷重の
負荷で1000回及び2000回の往復屈曲を25℃の恒温室内で行い、試験後の表
面状態を観察し、動的耐寒性を下記のように判定した。
1:刻印領域Aの表示部に顕著な摩耗、摩滅を認めない
2:刻印領域Aの表示部に顕著な摩滅を認めるが、判別はできる
3:刻印領域Aの表示部が摩滅して判別できない
(2)刻印領域Aの耐摩耗性:JIS L1096 8.19.3 C法)テーバ形法
産業資材シートから採取した刻印領域Aを含む直径13cmの円盤を試験片として、
テーバ形摩耗試験機に装着(摩耗輪CS-10)し、刻印領域Aに荷重2.45Nで
1000回転、及び2000回転の摩耗負荷を施した後、刻印領域Aの拡大鏡観察を
行い、刻印領域Aの表示部の識別性を判定した。
1:刻印領域Aの表示部に顕著な摩耗、摩滅を認めない
2:刻印領域Aの表示部に顕著な摩滅を認めるが、判別はできる
3:刻印領域Aの表示部が摩滅して判別できない
(3)刻印領域Aの形成
3-1)産業資材シートの製造時に、産業資材シートの端部10cmを除く右端に
刻印領域Aを30インチ径エンボスロールにより240cm間隔で8m/min速度
で連続賦形した。エンボスロールの刻印は「PET&PVC」の反転ゴシック体文字
(1文字:2cm×2cm線幅5mm鏡面:文字間5mm)表示部による凹状鏡面
(高低差0.5mm)、背景が梨地凸部にデザインされたものを使用し、産業資材シー
トの端部の長手方向に沿って横書とした。刻印領域Aは180℃に設定のエンボスロー
ルと対のゴムロールによる圧着で行い、エンボス後の冷却(空冷と水冷ロール)により
刻印表示が固定される。得られる刻印領域Aは、鏡面凸部(表示部)を含む梨地凹部
(背景:高さ3.5cm×幅19cm)である。エンボスロールにおいて刻印領域A以
外は鏡面である。
3-2)上記1)同様、「PET&PVC」の反転ゴシック体文字(1文字:2cm×
2cm線幅5mm鏡面:文字間5mm)表示部による凸状鏡面(高低差0.5mm)、
背景が梨地凹部にデザインされたエンボスロールを使用して得られる刻印領域Aは、鏡
面凹部(表示部)を含む梨地凸部(背景:高さ3.5cm×幅19cm)で、このエン
ボスロールにおいて刻印領域A以外は鏡面である。
3-3)上記1)同様、「PET&PVC」の反転ゴシック体文字(1文字:2cm×
2cm線幅5mm梨地:文字間5mm)表示部による凹状梨地(高低差0.5mm)、
背景が鏡面凸部にデザインされたエンボスロールを使用して得られる刻印領域Aは、梨
地凸部(表示部)を含む鏡面凹部(背景:高さ3.5cm×幅19cm)で、このエン
ボスロールにおいて刻印領域A以外は梨地である。
3-4)上記1)同様、「PET&PVC」の反転ゴシック体文字(1文字:2cm×
2cm線幅5mm梨地:文字間5mm)表示部による凸状梨地(高低差0.5mm)、
背景が鏡面凹部にデザインされたエンボスロールを使用して得られる刻印領域Aは、梨
地凹部(表示部)を含む鏡面凸部(背景:高さ3.5cm×幅19cm)で、このエン
ボスロールにおいて刻印領域A以外は梨地である。
(4)刻印領域Bの形成
2枚の産業資材シートの同一方向の端部同士を4cm幅で直線状に平行に重ね合わせ
てラップ縫製部を設け、4cm幅×30cm長のウエルドバー(刻印刃)を装着した高
周波ウエルダー融着機(山本ビニター株式会社製YTO-8A型:高周波出力8KW)
を用い、陽極電流1.0A条件の発振でラップ縫製部をウエルドバーに一致させた状態
で押圧し、軟質塩化ビニル樹脂被覆層を高周波発振で溶融させて縫製物を得た。ウエル
ドバーの刻印は、ウエルドバーの中央に「HIRAOKA」の反転ゴシック体文字(1
文字:2cm×2cm線幅5mm鏡面:文字間5mm)表示部による凸状鏡面(高低差
0.5mm)、背景が梨地凹部にデザインされてなる刻印領域Bで、このウエルドバー
において刻印領域B以外は鏡面である。
【0032】
〔実施例1〕
〈布帛(1)〉
20番手双糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り300T/m)を経糸条、10番手単糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り400T/m)を緯糸条として、経糸条の打込密度54本/インチ、及び緯糸条の打込密度46本/インチで平織製織した空隙率が毛羽で外観上0、質量240g/m2の5号の布帛を用いた。
布帛に炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート/塩化ビニル樹脂共重合体エマルジョン(固形分5質量%)による撥水処理(浸漬、熱処理)を行い、軟質塩化ビニル樹脂被覆層に異常を生じた場合の雨水の浸透防止(吸水防止)とした。これを布帛(1)とした。
〈軟質塩化ビニル樹脂被覆層〉
下記〈配合1〉の軟質塩化ビニル樹脂被覆層形成用の塩化ビニル樹脂組成物ペースト(塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム、の3種を少なくとも含む)を主体とする加工液を調製した。次に、この加工液が充填された液浴中に布帛(1)をディッピング(浸漬)し、布帛(1)に〈配合1〉の加工液を常圧で含浸させた後、布帛(1)を液浴から引き上げると同時に、ゴム製マングルロールで圧搾し、余分な加工液を除去して、軟質塩化ビニル樹脂被覆層を仮形成した。次に、180℃の熱風炉で3分間ゲル化熱処理を行うことで軟質塩化ビニル樹脂被覆層290g/m2を布帛(1)の全面に形成し、段落〔0031〕の3-1)に記載の刻印領域Aを裏面に設け、質量530g/m2のダークグリーンの防水帆布(1)を得た。この防水帆布(1)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
ゲル化熱処理は、塩化ビニル樹脂組成物ペーストを軟質塩化ビニル樹脂に転化すると同時に、液状合成ゴムを架橋して架橋ゴムに転化させることで、得られる軟質塩化ビニル樹脂被覆層内の全域に、三次元架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったハイブリッドを形成させる工程である。
〈配合1〉軟質塩化ビニル樹脂被覆層形成用の加工液
ペースト塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
ジイソノニルフタレート(DINP可塑剤) 60質量部
ブタジエン系液状ゴム※ 10質量部
イソシアヌレート(HMDI※の3量体:NCO架橋剤) 2質量部
塩素化パラフィン(防炎剤兼可塑剤) 5質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 4質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 20質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤(トリアジン系互変異性体) 0.5質量部
酸化チタン(白顔料) 1質量部
フタロシアニングリーン(緑顔料) 3質量部
カーボンブラック(黒顔料) 0.5質量部
トリクロロエチレン(希釈溶剤) 20質量部
※ブタジエン系液状ゴム:ブロック共重合成分としてスチレンを15質量%含み、
分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状
※HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
HMDIの3量体(イソシアヌレート)は3個のイソシアネート基を有する
【0033】
〔実施例2〕
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合2〉の加工液に変更し、段落〔0031〕の3-2)に記載の刻印領域Aを裏面に設けた以外は実施例1と同様として、質量530g/m2のダークグリーンの防水帆布(2)を得た。この防水帆布(2)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
〈配合2〉の加工液は、〈配合1〉のブタジエン系液状ゴム10質量部を、イソプレン系液状ゴム10質量部に置換したもので、イソプレン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてアクリロニトリルを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量2500の性状である。
【0034】
〔実施例3〕
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合3〉の加工液に変更し、段落〔0031〕の3-3)に記載の刻印領域Aを裏面に設けた以外は実施例1と同様として、質量530g/m2のダークグリーンの防水帆布(3)を得た。この防水帆布(3)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
〈配合3〉の加工液は、〈配合1〉のブタジエン系液状ゴム10質量部を、β-ファネルセン系液状ゴム10質量部に置換したもので、β-ファネルセン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてブタジエンを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量5000の性状である。
【0035】
〔実施例4〕
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合4〉の加工液に変更し、段落〔0031〕の3-4)に記載の刻印領域Aを裏面に設けた以外は実施例1と同様として、質量530g/m2のダークグリーンの防水帆布(4)を得た。この防水帆布(4)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
〈配合4〉の加工液は〈配合1〉の加工液に、表面改質シリカ粒子を2質量部追加したものである。
表面改質シリカ粒子は、乾式シリカ(ゲル法:平均粒子径2μm、BET比表面積300m2/g)を、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)の5質量%水溶液中で24℃×3時間攪拌したものを分離、乾燥したもので、シリカのシラノール基に結合する-Si-R-Si(OCH3)3修飾と、シロキサン部分に結合する(-O)3Si-R-NH2修飾が混在する。
【0036】
〔実施例5〕
〈布帛(2)〉
1000デニール(1111dtex)のポリエチレンテレタレート(PET)繊維(フィラメント数192本)からなり、S撚50T/mを施したPETマルチフィラメント糸条を経糸群及び緯糸群に用い、経糸群は1インチ間16本の織組織とし、また緯糸群は1インチ間16本の織組織とする平織物を用いた。この織物の質量は150g/m2、空隙率(目抜け部総和)は14%であった。
この布帛に炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート/塩化ビニル樹脂共重合体エマルジョン(固形分5質量%)による撥水処理(浸漬、熱処理)を行い、テント膜シート縫製物の裁断断面からの雨水の浸透防止(吸水防止)とした。これを布帛(2)とした。
〈軟質塩化ビニル樹脂被覆層〉
下記〈配合5〉の軟質塩化ビニル樹脂被覆層形成用の塩化ビニル樹脂組成物コンパウンド(塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム、の3種を少なくとも含む)を調製した。布帛(2)を基材として、その両面に〔配合5〕の塩化ビニル樹脂組成物コンパウンドからなる厚さ0.2mmのカレンダー成型フィルムを表裏の軟質塩化ビニル樹脂被覆層として、ラミネーターでの熱圧着による溶融ラミネートを施し、さらに段落〔0031〕の3-1)に記載の刻印領域Aを裏面に設けて、厚さ0.7mm、質量830g/m2のホワイトのテント膜用ターポリン(1)を得た。このテント膜用ターポリン(1)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
〔配合5〕:軟質塩化ビニル樹脂組成物(コンパウンド)
ストレート塩化ビニル樹脂(K値71.5) 100質量部
ジイソノニルフタレート(DINP可塑剤) 60質量部
ブタジエン系液状ゴム※ 10質量部
イソシアヌレート(HMDI※の3量体:NCO架橋剤) 2質量部
塩素化パラフィン(防炎剤兼可塑剤) 5質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 4質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 20質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤(トリアジン系互変異性体) 0.5質量部
酸化チタン(白顔料) 3質量部
※ブタジエン系液状ゴム:ブロック共重合成分としてスチレンを15質量%含み、
分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状
※HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
HMDIの3量体(イソシアヌレート)は3個のイソシアネート基を有する
【0037】
〔実施例6〕
実施例5の〈配合5〉のコンパウンドを、〈配合6〉のコンパウンドに変更し、段落
〔0031〕の3-2)に記載の刻印領域Aを裏面に設けた以外は実施例5と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のホワイトのテント膜用ターポリン(2)を得た。このテント膜用ターポリン(2)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
〈配合6〉のコンパウンドは、〈配合5〉のブタジエン系液状ゴム10質量部を、イソプレン系液状ゴム10質量部に置換したもので、イソプレン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてアクリロニトリルを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量2500の性状である。
【0038】
〔実施例7〕
実施例5の〈配合5〉のコンパウンドを、〈配合7〉のコンパウンドに変更し、段落〔0031〕の3-3)に記載の刻印領域Aを裏面に設けた以外は実施例5と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のホワイトのテント膜用ターポリン(3)を得た。このテント膜用ターポリン(3)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
〈配合7〉のコンパウンドは、〈配合5〉のブタジエン系液状ゴム10質量部を、β-ファネルセン系液状ゴム10質量部に置換したもので、β-ファネルセン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてブタジエンを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量5000の性状である。
【0039】
〔実施例8〕
実施例5の〈配合5〉のコンパウンドを、〈配合8〉のコンパウンドに変更し、段落〔0031〕の3-4)に記載の刻印領域Aを裏面に設けた以外は実施例5と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のホワイトのテント膜用ターポリン(4)を得た。このテント膜用ターポリン(4)の縫製物の縫製部裏面に、段落〔0031〕の(4)に記載の刻印領域Bを設けた。
〈配合8〉の加工液は〈配合5〉のコンパウンドに、表面改質シリカ粒子を2質量部追加したものである。表面改質シリカ粒子は、乾式シリカ(ゲル法:平均粒子径2μm、BET比表面積300m2/g)を、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)の5質量%水溶液中で24℃×3時間攪拌したものを分離、乾燥したもので、シリカのシラノール基に結合する-Si-R-Si(OCH3)3修飾と、シロキサン部分に結合する(-O)3Si-R-NH2修飾が混在する。
【0040】
〔実施例9〕
実施例1の防水帆布(1)の縫製物(幅203cm×長さ10mの防水帆布2枚を、幅402cm×長さ10mに縫製)の使用済み廃品を、雑草を刈り取った空き地に敷き詰め、アンカーピンで地面に固定して6~8月の3ヶ月間放置した結果、使用済み廃品の下での雑草の生育は認められず、実施例1の防水帆布(1)の縫製物の使用済み廃品は防草シートの用途に適することが実証された。
【0041】
[実施例10]
実施例5のテント膜用ターポリン(1)の縫製物(幅203cm×長さ10mのテント膜用ターポリン2枚を、幅402cm×長さ10mに縫製)の使用済み廃品を、雑草を刈り取った空き地に敷き詰め、アンカーピンで地面に固定して6~8月の3ヶ月間放置した結果、使用済み廃品の下での雑草の生育は認められず、実施例5のテント膜用ターポリン(1)の縫製物の使用済み廃品は防草シートの用途に適することが実証された。
【0042】
【0043】
【0044】
実施例1~4の防水帆布(1)~(4)及び、実施例5~8のテント膜用ターポリン
(1)~(4)は、何れも表示部と背景から構成される刻印領域Aを有し、何れも表示部と背景の外観が、鏡面と梨地のコントラストをなすものであり、このコントラスト構成によって、刻印深さが0.3mm程度でも表示部の視認性が格段に向上する効果を得た。
そしてこれらの実施例では軟質塩化ビニル樹脂被覆層にゴム架橋が形成されていて、その形成は、液状合成ゴムを架橋ゴムに転化して、軟質塩化ビニル樹脂被覆層の全域にゴム架橋ネットワークを形成したものである。転化前の軟質塩化ビニル樹脂被覆層内には液状合成ゴム分子が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態で存在し、この液状合成ゴムが架橋したことで軟質塩化ビニル樹脂被覆層内の全域に、ゴム架橋ネットワークが網羅するハイブリッドが形成され、軟質塩化ビニル樹脂被覆層、すなわち刻印領域Aの耐摩耗性、耐摩滅性が向上していた。従って刻印領域Aの刻印深さが0.3mm程度でも表示部が容易に摩耗、摩滅して、表示部が不鮮明となるような心配がないことが実証された。
また、実施例4の合成帆布(4)、実施例8のテント膜用ターポリン(4)は、液状合成ゴムがシリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)と結合(架橋剤介在)して、ゴム架橋構造中にシリカ(シランカップリング剤処理)を中継点に含むことで、ゴム架橋がさらに強靭化して、軟質塩化ビニル樹脂被覆層(刻印領域A)の耐摩耗性、耐摩滅性をさらに向上させることができた。特に液状合成ゴムがシリカ粒子表面のシラノール基と結合してゴム架橋構造中にシリカを中継点として介在させるためには、シランカップリング剤の関与がゴム架橋の形成補助に有効であった。
これら実施例1~8の防水帆布、及び、テント膜用ターポリンに設けられた刻印領域A「PET&PVC」は、材質がポリエステル繊維織物と塩化ビニル樹脂であることを表し、この刻印領域Aの鮮明性が長期間維持されることによって、後のリサイクル(防草シート)/廃棄の分別を容易なものとする。また、これらを溶着縫製した防水帆布縫製物及び、テント膜縫製物の溶着部に設けられた刻印領域B「HIRAOKA」は、縫製メーカーが平岡織染株式会社であることを表し、この刻印領域Bの鮮明性が長期間維持されることによって、リサイクル/廃棄時の判断照会を可能とする。
実施例9では実施例1の防水帆布(1)の縫製物の使用済み品が防草シートの用途に再利用できることが実証され、また実施例10では実施例5のテント膜用ターポリン(1)の縫製物の使用済み品が防草シートの用途に再利用できることが実証された。従って、同様の実施例2~4の防水帆布(2)~(4)、及び実施例6~8のテント膜用ターポリン(2)~(4)についても、その廃材の防草シートへの再利用は可能である。テント膜縫製物、及び防水シート縫製物の廃材が防草シートとして再利用できるようになれば、新品の防草シートが不要となり、石化原料の消費が押さえられ、さらには二酸化炭素排出減に繋がる。
【0045】
[比較例1]
実施例1に用いた刻印領域A「PET&PVC」の反転ゴシック体文字(1文字:2cm×2cm線幅5mm鏡面:文字間5mm)表示部による凹状鏡面(高低差0.5mm)、背景が梨地凸部からなるデザインにおいて、背景を鏡面凸部とした以外は、実施例1と同様として、防水帆布(5)を得た。
【0046】
[比較例2]
実施例1に用いた刻印領域A「PET&PVC」の反転ゴシック体文字(1文字:2cm×2cm線幅5mm鏡面:文字間5mm)表示部による凹状鏡面(高低差0.5mm)、背景が梨地凸部からなるデザインにおいて、表示部を凹状梨地(高低差0.5mm)とした以外は、実施例1と同様として、防水帆布(6)を得た。
【0047】
[比較例3]
実施例5に用いた刻印領域A「PET&PVC」の反転ゴシック体文字(1文字:2cm×2cm線幅5mm鏡面:文字間5mm)表示部による凹状鏡面(高低差0.5mm)、背景が梨地凸部からなるデザインにおいて、背景を鏡面凸部とした以外は、実施例5と同様として、テント膜用ターポリン(5)を得た。
【0048】
[比較例4]
実施例5に用いた刻印領域A「PET&PVC」の反転ゴシック体文字(1文字:2cm×2cm線幅5mm鏡面:文字間5mm)表示部による凹状鏡面(高低差0.5mm)、背景が梨地凸部からなるデザインにおいて、表示部を凹状梨地(高低差0.5mm)とした以外は、実施例5と同様として、テント膜用ターポリン(6)を得た。
【0049】
【0050】
[比較例5]
実施例1の〈配合1〉の加工液から、ブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部を省略した以外は実施例1と同様として、質量530g/m2のダークグリーンの防水帆布(7)を得た。
防水帆布(7)の軟質塩化ビニル樹脂被覆層にはゴム架橋ネットワークが形成されておらず、従って軟質塩化ビニル樹脂被覆層に形成された刻印領域Aは、耐摩耗性、耐摩滅性に劣り、スコット形屈曲往復摩耗試験、及びテーバ型摩耗試験の結果、刻印領域A「PET&PVC」の表示が摩滅で判別不能となっていた。
【0051】
[比較例6]
実施例1の〈配合1〉の加工液のブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部を、分子両末端に官能基を有さない平均分子量3000のブタジエン系液状ゴム10質量部に置換した以外は実施例1と同様として、質量530g/m2のダークグリーンの防水帆布(8)を得た。
防水帆布(8)の軟質塩化ビニル樹脂被覆層にはゴム架橋ネットワークが形成されておらず、従って軟質塩化ビニル樹脂被覆層に形成された刻印領域Aは、耐摩耗性、耐摩滅性に劣り、スコット形屈曲往復摩耗試験、及びテーバ型摩耗試験の結果、刻印領域A「PET&PVC」の表示が摩滅で判別不能となっていた。
【0052】
[比較例7]
実施例1の〈配合1〉の加工液のブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部を、ブタジエンゴム粉末(登録商標「カネエース」M-711:株式会社カネカ)10質量部に置換した以外は実施例1と同様として、質量530g/m2のダークグリーンの防水帆布(9)を得た。
防水帆布(9)の軟質塩化ビニル樹脂被覆層にはゴム架橋ネットワークが形成されておらず、従って軟質塩化ビニル樹脂被覆層に形成された刻印領域Aは、耐摩耗性、耐摩滅性に劣り、スコット形屈曲往復摩耗試験、及びテーバ型摩耗試験の結果、刻印領域A「PET&PVC」の表示が摩耗で判別困難となっていた。
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上の実施例、及び比較例から明らかな様に、本発明によれば、テント膜縫製物(パビリオン、テントハウス、日除けテントなど)及び防水シート縫製物(トラック幌、荷台カバー、野積みシート、フロアシートなど)の産業資材シートの用途において、特に、出所、品番、材質などの刻印が、例え刻印深さが0.5mm以下に浅くても、刻印領域Aとして鮮明、かつ堅牢に表示されるので、長期経年でのリサイクル/廃棄の仕分け判断が容易となること、さらにこの刻印表示に基づいての、テント膜縫製物(テント膜構造物から金属フレームを外したもの)、及び防水シート縫製物の廃材を防草シートとして再利用することにより、新品の防草シートが不要となる分、石化原料の消費が押さえられ、さらには二酸化炭素排出減に繋がる。
【符号の説明】
【0055】
1―1:鏡面凸部(表示部)
1-2:梨地凹部(背景)
2-1:鏡面凹部(表示部)
2-2:梨地凸部(背景)
3-1:梨地凸部(表示部)
3-2:鏡面凹部(背景)
4-1:梨地凹部(表示部)
4-2:鏡面凸部(背景)