(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035971
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】プロトン抵抗測定装置、プロトン抵抗測定システム及びプロトン抵抗測定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240308BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20240308BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240308BHJP
【FI】
H01M4/86 Z
H01M8/1018
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140637
(22)【出願日】2022-09-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年9月7日に第70回高分子討論会にて公開 (2)令和4年2月16日に令和3年(2021)年度卒業論文試問にて公開 (3)令和4年3月17日に電気化学会第89回大会にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】水田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 衡平
(72)【発明者】
【氏名】林 灯
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE05
5H126AA05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層の厚み方向のプロトン抵抗を定量的に測定することが可能な測定装置を提供する。
【解決手段】電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極と、前記被検電極を厚み方向に挟持する第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜と、前記被検電極を挟持する前記第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜を厚み方向に挟持する第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極と、からなる測定用積層体と、 前記測定用積層体を厚み方向に挟持する第1電極及び第2電極と、を備えるプロトン抵抗測定装置。当該プロトン抵抗測定装置と、前記第1電極及び第2電極に接続され、電流遮断法を実行する評価装置と、を備えるプロトン抵抗測定システムを使用して、電流遮断法によって前記電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定するプロトン抵抗測定装置であって、
前記被検電極と、
前記被検電極を厚み方向に挟持する第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜と、
前記被検電極を挟持する前記第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜を厚み方向に挟持する第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極と、
からなる測定用積層体と、
前記測定用積層体を厚み方向に挟持する第1電極及び第2電極と、
を備えることを特徴とするプロトン抵抗測定装置。
【請求項2】
前記被検電極が、電極触媒粒子を担持されてない電子伝導性材料とプロトン伝導性電解質のみで構成される請求項1に記載のプロトン抵抗測定装置。
【請求項3】
前記第1電極及び第2電極が、前記第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極と密着する側にガス流路を有する請求項1に記載のプロトン抵抗測定装置。
【請求項4】
前記第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極が、それぞれ電極触媒微粒子が担持された炭素材料からなる触媒層と、炭素材料からなるガス拡散層とからなる請求項1に記載のプロトン抵抗測定装置。
【請求項5】
前記第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜が、プロトン伝導性高分子膜である請求項1に記載のプロトン抵抗測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のプロトン抵抗測定装置と、
前記第1電極及び第2電極に接続され、電流遮断法を実行する評価装置と、
を備えることを特徴とするプロトン抵抗測定システム。
【請求項7】
請求項6に記載のプロトン抵抗測定システムを使用して、電流遮断法によって前記電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定するプロトン抵抗測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池等に用いられるプロトン伝導性電解質を含む電極(電極層)内のプロトン抵抗を測定するための測定装置、測定システム及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、PEFC)は、電解質膜と前記電解質膜の両面に積層された電極(電極触媒層)とを含む膜電極接合体(Membrane and Electrode Assembly、MEA)と、前記膜電極接合体の両面に積層されたガス拡散層(Gas Diffusion Layer、GDL)とからなる発電モジュールを、ガス流路が形成された2つのセパレータで挟持した構造のセルを基本単位として構成されている。
膜電極接合体における電極(電極触媒層)は、電極材料及びプロトン伝導性電解質(典型的には、プロトン伝導体であるイオノマー)とから構成される。また、電解質膜には、プロトン伝導性電解質の薄膜(典型的には、ナフィオン膜)が用いられている。
【0003】
PEFCの電解質膜のプロトン伝導度の標準化された測定方法に関して、新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization、NEDO)のPEFCセル評価解析プロトコルとして、電解質膜の膜面に沿った方向(膜平面方向)のプロトン伝導度を交流インピーダンス法にて測定する方法(非特許文献1)が提案されている。しかしながら、PEFCにおいては、電解質膜片面に設けられたアノードから反対面に設けられたカソードにプロトンが移動するため、電解質膜の膜厚方向(厚み方向)のプロトン伝導度を正確に測定することが、より重要である。
電解質膜の膜厚方向(厚み方向)のプロトン伝導度は、例えば
図10に概念図を示す市販の電解質膜用のプロトン伝導測定装置100を用いて、測定可能である。
図10に示すように、従来型のプロトン伝導測定装置100では、水素雰囲気下、電極にPt(白金)プレート(ガス非透過)111~114を使用した4端子法(Ptプレート111及び112を電流用、Ptプレート113及び114を電圧用として使用)で、電解質膜120に交流を印加することによって、電解質膜120のプロトン抵抗をオーミック抵抗(流れる電流と両端の電位差(電圧)が、オームの法則に従って線形に変化する抵抗)として測定することができる。そして、得られたプロトン抵抗と膜厚から、電解質膜120のプロトン伝導度を算出することができる。
【0004】
一方、PEFCにおいて、電解質膜のプロトン伝導度のみならず、プロトン伝導性電解質を含む電極層のプロトン伝導度もPEFCの性能に大きく影響する。そのため、高性能なPEFCを開発するためには、MEAを構成する電極層におけるプロトン抵抗を高精度に測定することが求められている。
しかしながら、PEFCの電極層内のプロトン伝導度を直接測定する手法は確立されていない。
【0005】
電極層内のプロトン伝導度の直接的測定の数少ない報告例として、特許文献1に、有効イオン電導度(プロトン伝導度)及び有効電子伝導度を求めるためのイオン電流及び電子電流を測定する装置が開示されている。特許文献1記載の装置では、2つのポテンショスタットとバイアス電源とを備え、各ポテンショスタットが、作用極と、参照極と、対極と、電流計と、作用極及び参照極間の電圧を測定する電圧計と、測定された電圧値に応じた電圧を作用極及び対極間に印加する電源とを有し、イオン伝導体、電子伝導体が形成された電極材料を測定対象とし、対極及び参照極がイオン伝導体に接続され、作用極が電子伝導体に接続され、電極材料の開回路電位差を設定値としてポテンショスタットを作動させ、且つ、バイアス電源が作用極間に電圧を印加した測定状態において、電流計の測定値をイオン電流及び電子電流として決定している。
当該測定装置では、多孔性電極のイオン伝導度及び電子伝導度の同時測定が可能であるが、2台のポテンショスタットを使用する6端子法で測定するので、測定装置が高額になるという問題がある。
【0006】
一方、本発明者等は、これまでにPEFCの電極層内のプロトン抵抗の測定を試みてきた(非特許文献2)。
当該測定方法では、上述した従来型の電解質膜用のプロトン伝導測定装置を使用し、電極材料及びプロトン伝導性電解質からなる電極層のプロトン抵抗を測定するために、2枚のナフィオン膜で電極層を挟み込んだ測定用積層体を使用し、電極層を挟み込むナフィオン膜で電極層内の電子の移動をブロックすることを試みた。しかしながら、
図11(A)に示す交流電流を印加する測定法(交流インピーダンス法)では、電極層内の電子移動を排除できないという問題がある。
図11(A)は、ナフィオン膜131及び132で電極層140を挟み込んだ測定用積層体に交流電流を印加した場合の概念図であり、ナフィオン膜131及び132内の電子移動は排除できるが、電極層140内の電子移動は排除できない。
また、
図11(B)に示す直流電流を印加する方法では、電子の移動の影響を排除でき、プロトン伝導度を評価できるようになったものの、市販のプロトン伝導測定装置では電極にPtプレート(ガス非透過)が使用され、電極(Ptプレート)と電解質膜(ナフィオン膜)が直接接触する構造であるため、測定時に水素の供給が制限され、水素の拡散抵抗が影響して、プロトン抵抗を定量的に評価できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のPEFCセル評価解析プロトコル(2022年3月版)、3.セル性能評価プロトコル(1)電解質膜A. 膜単体での評価方法 M 1(III 1 1)試験名:プロトン伝導度測定方法 1/2
【非特許文献2】的場太一、PEFCカソード内プロトン伝導と耐久性の相関性検討、九州大学大学院修士論文(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の通り、電極層内のプロトン伝導度が重要な要素の一つであるにもかかわらず、直接測定する手法が十分に確立されていないのが実情である。
かかる状況下、本発明は、電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層内のプロトン抵抗を定量的に測定することが可能なプロトン抵抗測定装置、測定システム及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定するプロトン抵抗測定装置であって、
前記被検電極と、
前記被検電極を厚み方向に挟持する第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜と、
前記被検電極を挟持する前記第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜を厚み方向に挟持する第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極と、
からなる測定用積層体と、
前記測定用積層体を厚み方向に挟持する第1電極及び第2電極と、
を備えるプロトン抵抗測定装置。
<2> 前記被検電極が、 前記被検電極が、電極触媒粒子を担持されてない電子伝導性材料とプロトン伝導性電解質のみで構成される<1>に記載のプロトン抵抗測定装置
<3> 前記第1電極及び第2電極が、前記第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極と密着する側にガス流路を有する<1>または<2>に記載のプロトン抵抗測定装置。
<4> 前記第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極が、それぞれPtが担持された炭素材料からなる触媒層と、炭素材料からなるガス拡散層とからなる<1>から<3>のいずれかに記載のプロトン抵抗測定装置。
<5> 前記第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜が、プロトン伝導性高分子膜である<1>から<4>のいずれかに記載のプロトン抵抗測定装置。
<6> <1>から<5>のいずれかに記載のプロトン抵抗測定装置と、
前記第1電極及び第2電極に接続され、電流遮断法を実行する評価装置と、
を備えるプロトン抵抗測定システム。
<7> <6>に記載のプロトン抵抗測定システムを使用して、電流遮断法によって前記電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定するプロトン抵抗測定方法。
<8> 電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定するプロトン抵抗測定装置に使用するための膜電極接合体であって、前記被検電極と、前記被検電極を厚み方向に挟持する第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜と、前記被検電極を挟持する前記第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜を厚み方向に挟持する第1触媒層及び第2触媒層と、からなる膜電極接合体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層内のプロトン抵抗を定量的に測定することが可能なプロトン抵抗の測定装置、測定システム及び測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るプロトン抵抗測定装置の例を示す断面模式図である。
【
図2】電子伝導性ガス拡散電極の例を示す断面模式図である。
【
図3】被検電極及び電子伝導性ガス拡散電極の触媒層の作製手順の例を示す図である。
【
図4】本発明に係るプロトン抵抗測定システムの構成を示す概念図である。
【
図5】測定用積層体の等価回路を示す回路図である。
【
図6】電流遮断法における電圧の時間変化例を示す説明図である。
【
図7】作製した膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))の外観写真(平面図)である。
【
図8】実施例で使用したセルフォルダの写真であり、(a)セパレータ流路部分,(b)セルフォルダ全体図である。
【
図9】実施例で使用したプロトン抵抗測定システムの構成を示す図である。
【
図10】従来型の電解質膜用プロトン伝導測定装置の例を示す概念図である。
【
図11】従来型の電解質膜用プロトン伝導測定装置を使用して電極のプロトン抵抗を測定する場合の電子及びプロトンの移動を示す模式図である((A)交流印加時、(B)直流印加時)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0015】
本発明のプロトン抵抗測定装置は、電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定するプロトン抵抗測定装置であって、前記被検電極と、前記被検電極を厚み方向に挟持する第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜と、前記被検電極を挟持する前記第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜を厚み方向に挟持する第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極と、からなる測定用積層体と、前記測定用積層体を厚み方向に挟持する第1電極及び第2電極と、を備えることを特徴とする。
なお、以下において、第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜を総称して「プロトン伝導膜」、第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極を総称して「ガス拡散電極」と呼ぶ場合がある。
【0016】
また、本発明のプロトン抵抗測定システムは、電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定するシステムであって、上記本発明のプロトン抵抗測定装置と、第1電極及び第2電極に接続され、電流遮断法を実行する評価装置と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の電極層のプロトン抵抗測定方法は、電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定する方法であって、上記本発明のプロトン抵抗測定システムを使用して、電流遮断法によって前記電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる被検電極の厚み方向のプロトン抵抗を測定することを特徴とする。
【0018】
このような構成であれば、第1電極及び第2電極と第1プロトン伝導膜及び第2プロトン伝導膜との間に、水素ガスが通過できる第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極が設けられているので、従来型のプロトン伝導測定装置を使用した場合と比較して、よりスムーズに水素の供給を行うことが可能となる。
更に、第1電極及び第2電極にガス流路を設けた場合、外部から水素ガスを第1電子伝導性ガス拡散電極及び第2電子伝導性ガス拡散電極に供給することが容易となる。このように水素の供給を容易化することにより、水素の拡散抵抗の影響が抑制され、電極層からなる被検電極へのプロトンの供給がスムーズに行われるので、直流電流の印加する電流遮断法によって電極層内のプロトン抵抗を定量的に測定することが可能となる。
【0019】
以下に本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るプロトン抵抗測定装置10の断面模式図である。
図1に示す通り、プロトン抵抗測定装置10は、被検電極11、被検電極11を厚み方向に挟持するプロトン伝導膜12a及び12b(第1プロトン伝導膜、第2プロトン伝導膜)、並びにプロトン伝導膜12a及び12bを厚み方向に挟持する電子伝導性ガス拡散電極13a及び13b(第1電子伝導性ガス拡散電極、第2電子伝導性ガス拡散電極)からなる測定用積層体と、測定用積層体を厚み方向に挟持する電極14a及び14b(第1電極、第2電極)を備える。なお、
図1において、上側に位置する面を上面、下側に位置する面を下面とし、上下方向が厚さ方向となる。
【0021】
(被検電極)
被検電極11は、固体高分子形燃料電池(PEFC)や固体高分子形水電解装置の電極(アノード、カソード)を模擬した電極で、厚み方向のプロトン抵抗を測定する対象となるものである。本実施形態では、被検電極11は、電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層からなる。
【0022】
被検電極11を構成する電極材料やプロトン伝導性電解質は、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置における電極(電極触媒層)で使用される材料(例えば、特許第6598159号公報、特許第6779470号公報参照)が使用される。
【0023】
本実施形態に係る被検電極11は、「電極触媒粒子を担持されてない電子伝導性材料」(電極材料)と「プロトン伝導性電解質」からなる電極層からなる。
被検電極11である電極層が含む電極材料を構成する電子伝導性材料は、電子伝導性を有する材料であればよく、炭素材料、電子伝導性酸化物材料等が使用できるが、典型的には炭素材料である。
なお、固体高分子形燃料電池又は固体高分子形水電解装置は、通常、電極材料として、電子伝導性を有する材料(典型的には炭素材料)を担体とし、これに電極触媒微粒子(典型的にはPt等の貴金属微粒子)を高分散担持したものを用いるが、被検電極11のプロトン抵抗をより高精度に測定できる点で、被検電極11を構成する電極材料は、電極触媒微粒子を担持させていないことが好ましい。
【0024】
被検電極11である電極層が含むプロトン伝導性電解質としては、PEFCの電解質材料として用いられる公知のフッ素系電解質材料、炭化水素系電解質材料等を使用することができる。例えば、プロトン伝導性電解質として、プロトン伝導体であるイオノマーが使用され、典型的にはパーフルオロスルホン酸ポリマーを使用することができる。
【0025】
パーフルオロスルホン酸ポリマーは、スルホン酸基を有する側鎖がフッ素樹脂の主鎖に結合した重合体であり、電気陰性度の高いフッ素原子を導入する事で化学的に非常に安定し、スルホ基の解離度が高く、高いプロトン伝導性が実現できる。
【0026】
パーフルオロスルホン酸ポリマーの市販品としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アクイビオン(登録商標、ソルベイ社製)などが好適例として挙げられる。
【0027】
被検電極11は、上面及び下面が略正方形の直方体の形状をしている。正方形の大きさは、例えば1辺を1cmとする。なお、本実施形態では、被検電極11の上面及び下面は正方形であるが、上面及び下面は平面であればよく、正方形でなくてもよい。
【0028】
(プロトン伝導膜)
プロトン伝導膜12a及び12b(第1プロトン伝導膜、第2プロトン伝導膜)は、被検電極11を厚み方向に挟持している。具体的には、第1プロトン伝導膜であるプロトン伝導膜12aの下面が被検電極11の上面と密着し、第2プロトン伝導膜であるプロトン伝導膜12bの上面が被検電極11の下面と密着している。
【0029】
プロトン伝導膜12a及び12bは、上面及び下面が長方形の形状をしており、プロトン伝導膜12a及び12bの上面及び下面は、被検電極11の上面及び下面より面積が大きくなっている。
そして、プロトン伝導膜12aの下面の中心と被検電極11の上面の中心が一致するように、またプロトン伝導膜12bの上面の中心と被検電極11の下面の中心が一致するようにそれぞれ密着している。なお、プロトン伝導膜12a及び12bの上面及び下面は、平面であるならば、長方形でなくても良い。
【0030】
プロトン伝導膜12a及び12bは、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置における電解質膜(例えば、特許第6598159号公報、特許第6779470号公報参照)を使用できる。
本実施形態では、プロトン伝導膜12a及び12bとしてナフィオン膜が使用されているが、他のプロトン伝導性高分子膜や、プロトン伝導性セラミック膜を使用してもよい。
【0031】
また、プロトン伝導膜12a及び12bの厚み方向のプロトン抵抗は既知であるか、事前に測定されている。
【0032】
なお、本実施形態では、プロトン伝導膜12a及び12bには同一のナフィオン膜を使用しているが、本発明の目的を損なわない限り、材質や膜厚が異なるプロトン伝導膜を使用してもよい。
【0033】
(電子伝導性ガス拡散電極)
ガス拡散電極13a及び13b(第1電子伝導性ガス拡散電極、第2電子伝導性ガス拡散電極)は、被検電極11を挟持しているプロトン伝導膜12a及び12bを、厚み方向に挟持している。具体的には、ガス拡散電極13aの下面がプロトン伝導膜12aの上面と密着し、ガス拡散電極13bの上面がプロトン伝導膜12bの下面と密着している。
【0034】
ガス拡散電極13a及び13bは、上面及び下面が正方形の直方体の形状をしており、その正方形は被検電極11の上面及び下面と同様な形状(例えば1辺が1cmの正方形)である。そして、ガス拡散電極13aの下面の中心とプロトン伝導膜12aの上面の中心が一致するように、またガス拡散電極13bの上面の中心とプロトン伝導膜12bの下面の中心が一致するように、それぞれ密着している。なお、ガス拡散電極13a及び13bの上面及び下面は、被検電極11の上面及び下面と同様な形状であるならば、正方形でなくても良い。
【0035】
ガス拡散電極13a及び13bは、公知の固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置におけるガス拡散電極を模したものであり(例えば、特許第6598159号公報、特許第6779470号公報参照)、電極反応がおこる触媒層及び気体の反応活性物質(水素ガス)や反応生成物(水蒸気)を拡散させるガス拡散層からなる。
図2は、ガス拡散電極13a及び13bの断面模式図であり、ガス拡散電極13aは、触媒層13a-1とガス拡散層13a-2が厚さ方向に重ね合わされた構造となっており、ガス拡散電極13bは、ガス拡散層13b-2と触媒層13b-1が厚さ方向に重ね合わされた構造となっている。つまり、触媒層13a-1及び13b-1がプロトン伝導膜12a及び12bとそれぞれ密着し、ガス拡散層13a-2及び13b-2が電極14a及び14bとそれぞれ密着している。
【0036】
本実施形態において、触媒層13a-1及び13b-1は、例えば、電子伝導性を有する炭素材料を担体として用いて、Pt等の電極触媒粒子を担体に高分散担持させた構造となっている。ガス拡散層13a-2及び13b-2は、例えば、集電体及びガスを拡散させる働きを行う炭素材料からなる。
【0037】
このような構造のガス拡散電極13a及び13bを使用することにより、被検電極11の上面又は下面への水素の供給をスムーズに行うことが可能となり、水素の拡散抵抗の影響を抑制することができる。
【0038】
ここで、被検電極11、プロトン伝導膜12a及び12b並びに触媒層13a-1及び13b-1からなる測定用積層体(ガス拡散層なし)の作製方法の例について
図3に基づいて説明する。この作製方法は公知の固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置における膜電極接合体(MEA)の製造方法を模したものである。
本明細書において、測定用積層体(ガス拡散層なし)を、「膜電極接合体」と称す場合がある。
【0039】
本実施形態では、被検電極11並びにガス拡散電極の触媒層13a-1及び13b-1をスプレー印刷法で作製している。なお、スプレー印刷法で膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))の作製方法は実施例にて詳述する。
まず、被検電極11並びに触媒層13a-1及び13b-1の基となる分散液を作製する。例えば、
図3に示されるように、(1)試薬瓶に触媒粉末又は炭素担体粉末を入れ、これに純水、エタノール及びイオノマー溶液を加え、(2-1)作製した分散液に撹拌子を入れ、スターラーで攪拌する。その後、(2-2)分散性を向上させるために、超音波ホモジナイザーを用いて超音波攪拌を行う。この際、熱が発生するので、氷水による冷却を行う。これらの工程により、スプレー印刷用の分散液が作製される。
【0040】
次いで、(3)作製された分散液24を、スプレー印刷機29により、プロトン伝導膜12a及び12bにスプレー印刷する。具体的には、プロトン伝導膜12aの上面に触媒層13a-1が塗着するようにスプレー印刷し、プロトン伝導膜12aの下面に被検電極11が塗着するようにスプレー印刷し、プロトン伝導膜12bの下面に触媒層13b-1が塗着するようにスプレー印刷する。その後、触媒層13a-1及び被検電極11が塗着したプロトン伝導膜12a並びに触媒層13b-1が塗着したプロトン伝導膜12bを、一定時間(例えば一晩)だけ自然乾燥させる。
【0041】
(4)触媒層13a-1及び被検電極11が塗着したプロトン伝導膜12a並びに触媒層13b-1が塗着したプロトン伝導膜12bを、触媒層13a-1、被検電極11及び触媒層13b-1が同軸上に位置するように重ね合わせ、所定時間(例えば190秒)だけホットプレス30により圧着する。
【0042】
以上の工程により、被検電極11、プロトン伝導膜12a及び12b並びに触媒層13a-1及び13b-1からなる膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))が作製され、この膜電極接合体の上面及び下面にガス拡散層13a-2及び13b-2を挿入することにより、目的とする測定用積層体が作製される。
【0043】
(第1電極、第2電極)
電極14a及び14b(第1電極、第2電極)は、被検電極11、プロトン伝導膜12a及び12b並びにガス拡散電極13a及び13bからなる測定用積層体を、厚さ方向に挟持している。具体的には、電極14aの下面がガス拡散電極13aの上面と密着し、電力14bの上面がガス拡散電極13bの下面と密着している。
【0044】
本実施形態の電極14a及び14bは、公知のPEFC用セルフォルダのセパレータを転用して使用している。PEFC用セルフォルダとしては、例えば、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトで開発されたMEA用セルフォルダを使用することができる。
また、本実施形態の電極14a及び14bには、ガス拡散電極13aの上面と密着する電極14aの下面側と、ガス拡散電極13bの下面と密着する電極14bの上面側にはガス流路が形成されており、ガス拡散電極13a及び13bそれぞれにガスを流入することができるようになっている。
【0045】
このような構造のプロトン抵抗測定装置10を使用して、被検電極11の厚み方向のプロトン抵抗を測定するプロトン抵抗測定システムについて説明する。
図4にプロトン抵抗測定装置10を使用したプロトン抵抗測定システム1の構成例(プロトン抵抗測定装置10周辺の拡大模式図)を示す。なお、実験で使用したプロトン抵抗測定システムの全体構成については実施例で後述する。
【0046】
プロトン抵抗測定システム1は、プロトン抵抗測定装置10の他に、評価装置40並びに調節手段51及び52を備える。また、プロトン抵抗測定装置10には、ガスを供給及び排出するためのチューブ31~34が付設されており、チューブ31及び32を介してプロトン抵抗測定装置10にガスが供給され、チューブ33及び34を介してプロトン抵抗測定装置10からガスが排出される。
【0047】
調節手段51及び52は、それぞれチューブ31及び32においてプロトン抵抗測定装置10と接続しており、プロトン抵抗測定装置10に適切な温度及び湿度のガスを適量供給するために、ガスの流量、温度及び湿度を調節する。例えば、調節手段51及び52が流量計、加湿器及びヒーターを備え、これらを使用してガスの流量、温度及び湿度を調節する。
【0048】
プロトン抵抗測定装置10に供給されるガスとして、例えば、直流測定では過電圧の小さな反応を選択する必要があり、水素雰囲気において水素の酸化還元反応を使用するので、アノードである電極(例えば電極14a)には加湿水素を、カソードである電極(例えば電極14b)には加湿窒素を使用する。なお、プロトン抵抗測定装置10内の測定用積層体が適切な温度(80℃~120℃)を保持するように、プロトン抵抗測定装置10を恒温器等に収納する。
【0049】
評価装置40は、プロトン抵抗測定装置10内の被検電極11の厚み方向のプロトン抵抗を測定する。具体的には、評価装置40は電流遮断法でプロトン抵抗を測定する。
【0050】
電流遮断法は、電流を瞬間的に遮断した際の電圧降下から抵抗値を測定する方法である。測定用積層体中の被検電極11のプロトン抵抗を測定する場合、測定値には電流と電圧が線形に変化するオーミック成分と非線形に変化する非オーミック成分が混在し、オーミック成分であるプロトン抵抗を算出するためには、オーミック成分と非オーミック成分を分離する必要があるので、電流遮断法によりこの分離を行い、プロトン抵抗を算出する。
【0051】
プロトン抵抗測定装置10内の測定用積層体は、
図5に示されるように、オーミック抵抗Rs、電荷移動抵抗Rp及び二重層容量Cdで構成される等価回路で表すことができる。電流遮断法では、このような等価回路に定常的に流している電流Iを瞬間的に遮断し、そのときの電圧Eの時間変化を測定する。
図6は電流Iを瞬間的に遮断した場合の電圧Eの時間変化を示す波形図で、縦軸が電圧E、横軸が時間tである。
図6に示されるように、定常的に流れていた電流Iを、時間t1で遮断すると、電流Iは0となり、オーミック抵抗Rsにおける電圧(電位降下)が0となるが、電荷移動抵抗Rpにおける電圧は二重層容量Cdの電荷によって変化が遅いので、電流遮断の数(十)μ秒後では変化が見られない。その後、二重層容量Cdの電荷が電荷移動抵抗Rpを通して放電されるので、放電を開始する時間t2から電圧Eは非線形的に降下し、開回路電圧に到達する。このような電圧降下において、線形的な降下はオーミック抵抗Rsに起因して発生するので、この降下での電圧差ΔE(=E1-E2)を電流Iの値で除算することにより、オーミック抵抗Rsを算出することができる。
【0052】
測定用積層体のオーミック抵抗Rsには、被検電極11のプロトン抵抗の他に、プロトン伝導膜12a及び12bのプロトン抵抗も含まれている。しかしながら、上述のように、プロトン伝導膜12a及び12bのプロトン抵抗は既知又は事前に測定されているので、オーミック抵抗Rsからプロトン伝導膜12a及び12bのプロトン抵抗を減算することにより、被検電極11のプロトン抵抗を算出することができる。
【0053】
評価装置40は、プロトン抵抗測定装置10内の電極14a及び14bと接続しており、プロトン抵抗測定装置10に電流を流すための直流電流源、電流を遮断するためのスイッチ及び電圧を測定するための電圧計を備えており、これらを使用して、上述の電流遮断法により、被検電極11のプロトン抵抗を求める。
【0054】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではなく、本発明の目的を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【0055】
例えば、上記実施形態では、プロトン伝導性電解質を含む電極層を被検電極としてプロトン抵抗を測定しているが、電解質膜を被検電極とし、電解質膜のプロトン抵抗を測定することも可能である。
【実施例0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
1.測定用積層体の作製
図1に準じる測定用積層体を作製した。
測定サンプルである被検電極11には、以下の(A),(B)を使用した。
(A):Ptを担持していない炭素担体粉末(Vulcan)及びNafionイオノマー(5%Nafion,Aldrich)からなる電極層(Vulcan層)
(B):Ptを担持させた炭素担体粉末(Pt/Vulcan)及びNafionイオノマー(5%Nafion,Aldrich)からなる電極層(Pt/Vulcan層)
また、電解質膜(第1プロトン伝導膜12a及び第2プロトン伝導膜12b)にはNafion膜((デュポン社製、Nafion212、4cm×6cm、膜厚:51μm)を使用した。
ガス拡散電極13a,13bにおける触媒層13a-1,13b-1には、田中貴金属社製の標準触媒(TEC10E50E,46.5%Pt/KB、以下「Pt/KB」)を使用した。
【0058】
図3にスプレー印刷法を用いた測定用積層体の作製手順を示す。
まず、試薬瓶に所定量の触媒粉末又は炭素担体粉末を入れ、所定量の超純水、エタノール、Nafionイオノマー溶液を加えて分散液を得た。得られた分散液に撹拌子を入れ、スターラーで1時間以上攪拌した。次いで、分散性を向上させるために、超音波ホモジナイザーを用いて、氷冷で30分間の超音波攪拌を行った。
【0059】
次いで、得られた分散液を,スプレー印刷機により、Nafion膜(第1プロトン伝導膜12a、第2プロトン伝導膜12b)にスプレー印刷を行った。
図3(右図)に示す通り、1枚のNafion膜(第1プロトン伝導膜12aに相当)は片面にPt/KB(アノード、触媒層13a-1に相当)、もう一方の面にはサンプル(被検電極11に相当)をスプレー印刷した。もう1枚のNafion膜(第2プロトン伝導膜12bに相当)には片面にのみPt/KB(カソード、触媒層13b-1に相当)をスプレー印刷した。また,スプレー印刷の際には、印刷機のホットプレートを60℃に加熱し、超純水及びエタノールの蒸発を促進した。
【0060】
被検電極11(サンプル)、ガス拡散電極13a,13b(Pt/KB)の塗布面積(電極面積)はそれぞれ1cm2とした。Ptを含むアノード、カソード(触媒層13a-1,13b-1)はPt量を0.3mgPt/cm2に固定し、Ptを含まない被検電極11(上記(A))においても、アノード、カソードとカーボン担体の量を等しくなるようにした。
【0061】
スプレー印刷から1晩以上自然乾燥させた後、片面にPt/KB(アノード、触媒層13a-1に相当)、もう一方の面にはサンプル(被検電極11)が塗布された電極付きNafion膜(第1プロトン伝導膜12a)と、片面のみにPt/KB(カソード、触媒層13b-1に相当)が塗布されたNafion膜(第2プロトン伝導膜12b)を1セットとし、塗布された部分がきれいに重なるように重ね合わせた後、132℃、0.3kNで190秒間ホットプレスを行うことで、
図1に準じる膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))を得た。
図7に作製した膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))の実際の写真に示す。なお、この段階の膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))は、外側に触媒層13a-1、触媒層13b-1(それぞれアノード、カソード)を有し、ガス拡散層13a-2,ガス拡散層13b-2(
図2参照)を有していない。
【0062】
作製した膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))は、以下の膜電極接合体A,Bである。
膜電極接合体A:被検電極11に「(A):Ptを担持していない炭素担体粉末(Vulcan)及びNafionイオノマーからなる電極層(Vulcan層)」を使用した膜電極接合体
膜電極接合体B:被検電極11に「Ptを担持させた炭素担体粉末(Pt/ Vulcan)及びNafionイオノマーからなる電極層(Pt/Vulcan層))」を使用した膜電極接合体
【0063】
作製した膜電極接合体(測定用積層体(ガス拡散層なし))の触媒層13a-1,触媒層13b-1(それぞれアノード、カソード)上に、ガス拡散層13a-2,ガス拡散層13b-2としてカーボンペーパー(未撥水処理GDL)を設置して、第1ガス拡散電極13a(触媒層13a-1及びガス拡散層13a-2),第2ガス拡散電極13b(触媒層13b-1及びガス拡散層13b-2)を形成することで、
図1に準じる測定用積層体を形成した。この測定用積層体を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトで開発されたMEA用セルフォルダ(NEDO治具、1cm×1cm)に設置し、セルフォルダを2.0N・mのトルクで締め付けてセルフォルダに測定用積層体を固定することで、
図1に準じるプロトン抵抗測定装置10を得た。
【0064】
図8は、実験で使用したMEA用セルフォルダの写真であり、(a)セパレータの流路部分,(b)セルフォルダ全体図である。なお、セパレータは
図1のプロトン抵抗測定装置10における第1電極14a,第2電極14bに相当する。
【0065】
図8(a)に示すように、使用したセルフォルダのセパレータ(第1電極14a,第2電極14b)は、ガス流路を有する構造(面積1cm×1cm)となっている。これがPEFCの反応部に相当する測定用積層体のガス拡散電極13a,13b(面積1cm×1cm)と密着するように配置される。ガス流路は、3本のサーペンタイン流路を持つ構造であり、反応ガス(H
2)や不活性ガス(N
2)を供給し、化学反応によって生成した水をセル外に速やかに排出することができる。
【0066】
測定用積層体を設置したMEA用セルフォルダ(プロトン抵抗測定装置10)を、
図4に準じる構成のプロトン抵抗測定システムに設置した。
図9に実施例で使用したプロトン抵抗測定システムの構成を示す。
プロトン抵抗測定装置10への供給ガスとしては、直流測定では過電圧の小さい反応を選択する必要があり、水素雰囲気において水素の酸化還元反応を利用するため、プロトン抵抗測定装置10に配置された測定用積層体のアノード側(第2ガス拡散電極13b)に加湿水素、カソード側(第1ガス拡散電極13a)に加湿窒素を供給した(なお、
図8(b)セルフォルダ全体図では、
図9と異なりアノードが下側(カソードが上側)となっている。)。評価装置40として、BioLogic社製の電気化学評価装置(SP-240)を用いて測定を行った。
【0067】
<評価結果>
膜電極接合体Aを含む測定用積層体を使用し、これに含まれる被検電極(電極層)のプロトン抵抗の評価を行った。
まず、セルフォルダに固定した測定用積層体を恒温器(ヤマト科学株式会社製,DKN302)の中に入れ、セルフォルダにガス供給用のチューブおよびBioLogic社製の電気化学評価装置(SP-240)の配線を接続した。セル温度とガス加湿温度が適温になったのを確認した。サンプル内の電解質膜を十分に含水させてプロトン導電性を確保するため、十分に加湿されたアノードおよびカソードガス(H2およびN2)を供給しながら、1時間定常運転を行ったのちに電流遮断法によって、測定用積層体(全体)のオーミック抵抗を測定した。測定用積層体を構成するNafion膜(第1プロトン伝導膜12a及び第2プロトン伝導膜12bに相当)のオーミック抵抗を別途測定し、測定用積層体全体のオーミック抵抗からNafion膜(第1プロトン伝導膜12a及び第2プロトン伝導膜12bの2枚分)のオーミック抵抗を差し引くことで、被検電極のオーミック抵抗を算出し、これを目的とする被検電極のプロトン抵抗とした。
【0068】
電流遮断法の条件は、表1の通りである。
【0069】
【0070】
表2に、評価結果を示す。本発明のプロトン抵抗測定方法により、被検電極(電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層)の厚み方向のプロトン抵抗を定量的に評価できることが確認された。
【0071】
本発明のプロトン抵抗測定装置、プロトン抵抗測定システム及びプロトン抵抗測定方法によれば、電極材料とプロトン伝導性電解質とを含む電極層内のプロトン抵抗を定量的に測定することが可能となるため、産業上有望である。