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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035978
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】毛髪の矯正処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/36 20060101AFI20240308BHJP
   A61Q 5/04 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61K8/36
A61Q5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140648
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】505165550
【氏名又は名称】新井 幸三
(71)【出願人】
【識別番号】513295663
【氏名又は名称】古根川 一弥
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】新井 幸三
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC241
4C083AC242
4C083AC401
4C083AC402
4C083AC641
4C083AC642
4C083AC661
4C083AC662
4C083AC791
4C083AC792
4C083BB53
4C083CC31
4C083DD23
4C083EE07
4C083EE21
(57)【要約】
【課題】グリオキシル酸による毛髪の矯正処理においてpH3.5以上においても毛髪に対するグリオキシル酸の反応性を高める。
【解決手段】グリオキシル酸による毛髪の矯正処理方法において、pH3.5以上において毛髪に対するグリオキシル酸の反応性を高め得る活性剤を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリオキシル酸による毛髪の矯正処理方法において、
pH3.5以上において毛髪に対するグリオキシル酸の反応性を高め得る活性剤を用いることを特徴とする毛髪の矯正処理方法。
【請求項2】
前記活性剤が、毛髪中のミクロフィブリル(IF)タンパク質を構成する結晶性タンパク質中の疎水性相互作用による凝集力を弱める役割を有する請求項1記載の毛髪の矯正処理方法。
【請求項3】
前記活性剤が、ミクロフィブリル(IF)タンパク質中のα-ヘリックスを構成する極性アミノ酸残基に強固に結合した吸着水からなる網目を緩める脱水作用のある分子構造を有する請求項2記載の毛髪の矯正処理方法。
【請求項4】
前記活性剤が、短鎖のエチレングリコール鎖(n=3~10)からなる親水性のエーテル結合を有する請求項3記載の毛髪の矯正処理方法。
【請求項5】
前記活性剤が、分子中にNH3およびCOOイオン、またはSO 若しくはOSO イオンを供給するサイトを有する請求項3記載の毛髪の矯正処理方法。
【請求項6】
前記活性剤が、分子中にn>8のC2n+1直鎖基を有する請求項3記載の毛髪の矯正処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛髪の矯正処理方法に関し、詳しくはグリオキシ酸による毛髪の矯正処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーマは毛髪を新しい形態に永久固定(セット)する美容処理の一つである。パーマ処理は直毛をウェーブ状の形に変化させる処理であるとともに、くせ毛を直毛状の形態にして永久固定(セット)する処理のことである。
【0003】
毛髪には水中或いは高湿度下では無定形のマトリックス(KAP)タンパク質とα-型ヘリックス構造を含む結晶性のミクロフィブリル(IF)タンパク質とがほぼ等量存在する。形態固定に関係するタンパク質はIFを構成する結晶性のタンパク質であることが知られている。一般に永久に形態を固定する方法は、架橋結合を導入し共有結合によってIF分子間を強固に結合させる方法のことである。或いは元々IF分子中に存在するジスルフィド(SS)架橋結合を変形した後で新しい位置に移動させ再架橋することによって元の形を望ましい形態に変形しセットする方法である。このようなセットには還元後酸化反応が利用され、主としてウェーブパーマに応用されて、既に50年以上が経過している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、ストレートパーマの架橋剤としてグリオキシル酸(GA)が上市され、美容界に新風を吹き込んでいる。GA(OHC-COOH)は強い酸性条件、例えばpH1.6、濃度2M溶液を毛束表面に塗布し180℃アイロンでスルーして1回あたり2秒間の操作を3回繰り返して、はじめて永久セットが可能となる(図1参照)。GAとIF結晶性タンパク質との反応が如何に困難であるかが分かる。強酸性、高温化のアイロンの扱いは美容師にとっても施術者側にとっても危険を伴い且つ毛髪のダメージを誘発する処理であり、反応条件を改良し、より穏和な条件でIFタンパク質との反応速度を増加させるような新しい方法の創出が要求されている。
【0005】
そこで本発明の目的は、グリオキシル酸による毛髪の矯正処理においてpH3.5以上においても毛髪に対するグリオキシル酸の反応性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、グリオキシル酸による毛髪の矯正処理方法において、pH3.5以上において毛髪に対するグリオキシル酸の反応性を高め得る活性剤を用いることを特徴とするものである。
【0007】
本発明においては、前記活性剤が、毛髪中のミクロフィブリル(IF)タンパク質を構成する結晶性タンパク質中の疎水性相互作用による凝集力を弱める役割を有するものが好ましく、また、ミクロフィブリル(IF)タンパク質中のα-ヘリックスを構成する極性アミノ酸残基に強固に結合した吸着水からなる網目を緩める脱水作用のある分子構造を有することが好ましい。
【0008】
また、本発明においては、前記活性剤が、短鎖のエチレングリコール鎖(n=3~10)からなる親水性のエーテル結合を有するものが好ましく、また、分子中にNH およびCOOイオン、またはSO 若しくはOSO イオンを供給するサイトを有することが好ましく、さらに、分子中にn>8のC2n+1直鎖基を有するものが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリオキシル酸による毛髪の矯正処理においてpH3.5以上においても毛髪に対するグリオキシル酸の反応性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】GA架橋法の説明図である。
図2】2本鎖の断面方から見たコイルドコイル構造の模式図である。
図3】羊毛ケラチンIFタンパク質TypeIのアミノ酸結合順序を示す説明図である。
図4】強固に凝集したIF分子の相互侵入網目鎖モデルを示す模式図である。
図5】エチレンオキシド鎖による毛髪の活性位置に吸着した水←H-O-Hの脱水作用模式図である。
図6】本発明によるパーマ処理を示す模式図である。
図7】本発明に係る活性剤による矯正毛の形態維持効果の検証を示す説明図である。
図8】実験例の毛髪の伸長率と強度との関係を示すグラフである。
図9】実験例の毛髪の伸長率と強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、毛髪に対するグリオキシル酸の反応性を増加させるのに、界面活性剤が利用できないかを考えた。市販されている多種類の活性剤のリストから合目的の活性剤を実験的に試行錯誤して選択することは無理である。そこでIF構造の側面からGAとの反応性を増加させる因子を探り、いくつかの仮説を立ててその条件を探索し、その条件にマッチした活性剤を市販されている多数の活性剤から選択する方法を試みた。
【0012】
IF分子集合体結晶の構造単位はαヘリックスからなるコイルド-コイルロープ2本鎖はTypeIおよびTypeIIタンパク質鎖から構成されている。両者は疎水性相互作用によって凝集している。反応性を増加させるには鎖間を緩めてやればよい(図2参照)。すなわち、2本鎖に凝集する分子間力に相当する平均の疎水基を持つ活性剤がこの条件に合致する。従って、GAを含む処理溶液は180℃の高温下の条件での処理に耐え、疎水性基による凝集力を弱める役割を担う必要がある。
【0013】
第1の条件は、ヘリックスのアミノ酸結合順序a,b,c,d,e,f,gの7つのペプチドのうちaおよびdの疎水性残基との相互作用を打消すような疎水基の平均長さがn-プロピル基或いはイソプロピル基に相当する基が存在することが望ましい(図3参照)。
【0014】
また、第2は、α-ヘリックスを構成する極性アミノ酸残基に強固に結合した吸着水がある。この吸着水は通常の乾燥条件下では脱離しない程強固に吸着し、ジスルフィド網目の近傍に存在する厚さ1Åの吸着水からなる網目(相互進入網目)として存在する(図4参照)。この水和網目を緩めるために、水素結合を通して結合した吸着水と水素結合を形成して吸着水を取り去るような脱水作用のある分子構造を持つことが望ましい。具体的には、短鎖のエチレングリコール鎖(n=3~10)からなる親水性のエーテル結合を持つ試薬が候補として挙げられる(図5参照)。
【0015】
第3は、イオン相互作用がαヘリックス2本鎖の安定性に大きく関わっているので、イオン相互作用を減殺する役割を担っていなければならないから、分子中にNH およびCOOイオン或いはSO (スルフォン酸イオン)やOSO (硫酸イオン)を供給するサイトが必要である(図2参照)。
【0016】
また、第4は、比較的長い疎水基を同時にもつ分子容の大きい活性剤の方が分子振動によってIF反応サイトから離脱することなく元の反応位置に留まると予想されるので、分子中にn>8以上のC2n+1直鎖グループを持つことが望ましい(図5参照)。
【実施例0017】
以下本発明を実施例に基づき説明する。
上記第1,第2,第3,および第4,の条件を満たす活性剤をリストアップした。活性剤の構造に基づいて選択された原料名と成分名を表1に示す。すべての条件を満たす構造を持つ活性剤は少なく試料番号1,2および4の3種類が反応性を増加し得る構造を持つと推定された。また、一部満たすものとして3,7および10がリストアップされた。なお、表1に未処理と比較されるコントロール(水洗)試料の値を示した。
【0018】
【表1】
【0019】
図1は、未処理毛の縮毛外形である。前処理として、試料表面に2MGA溶液を塗布し15分後、1分間水洗しドライヤーでほぼ完全になるまで乾燥させた。図中に、前処理後の外形と毛髪組織との間の関係を示した。くせ毛の毛髪繊維の湾曲している外側には毛髪組織のオルソコルテックス組織の分布が多く感察される。湾曲の内側にはパラコルテックス組織成分が多く、分布の非対称性が外形に現れている。平アイロンを用いて180℃、pH1.8のGA水溶液塗布乾燥条件下にスルー法で3回根元から毛先に向かって約2秒間アイロンすると一時的にセットされた形態の不安定なセット毛髪が得られた。通常、シャンプー水洗緩和処理を行い、毛髪内部に蓄積された緩和成分を除去すると永久セットされた状態にある安定化された毛髪が得られる。
【0020】
図1右端の電子顕微鏡写真で見られるように矯正毛の断面は円形に近く未処理毛の楕円形の状態とは異なりコルテックス内の組織構造が破壊された形態変化が起こっていることが分かる。扁平率、E=1-(b/a)の値も処理により大きく減少していることからも明らかである。
【0021】
前述したようにpH1.6の酸性条件としてこの方法を利用するのは危険であり酸性度としてpH3.5以上のよりマイルドな条件が要求されている。この問題を解決する方法の一つとして、毛髪に対するGAの反応性を高くすることが出来れば可能となる。GAの求核性に着目してGA分子内の電荷を制御する混合溶媒法を用いて試験したが、美容サロン内で応用可能な方法を見出すことは出来なかった。これらのことが本発明の背景にある。
【0022】
図6は、pH3.5の条件で180℃3回スルーし、緩和処理として52℃水中1時間の条件で行い、シャンプー等の活性剤を用いずに緩和処理を行いシャンプー洗浄剤に影響を受けないようにした。この条件は羊毛工業に於いて実験的に行われている方法である。
【0023】
図7に矯正処理毛のGA活性剤溶液(pH=3.5)処理による形態維持効果を検証した結果を示す。ここで、下段に表示した番号は表1の試料番号である。未処理毛は縮毛(くせ毛)でカラーおよびパーマ処理履歴が無い日本人女性(成人)から採取された毛髪である。酸性度の高いpH1.6の条件下で行った矯正処理では、直毛状態が永久的に保持されたが、コントロール試料(試料No.0)では、形態が維持できず元のくせ毛の形態に戻ってしまった。しかし、試料No.2および4は永久的に直毛状形態が維持され、表1に予測されたように反応性の増大がGAによるIFへの架橋反応を増進させ形態安定化が起こったものと考えられる。
【0024】
(強伸度曲線における破断強度)
毛髪は加齢と共にねじり剛性が低下すること、またこの物性低下はIF分子の配向度の減少に起因することが小角X-線散乱法を用いて定量的に扱われ報告されている。加齢によって漸減するIF分子の配向性は低分子量の水溶性タンパク質(CMADK)水溶液中に浸漬することによってねじり剛性が向上することも同じ著者によって見出されている。半値幅で計算された年齢50代以上のIF分子配向度は22°と計算された。低分子量CMADK水溶液5%(w/v)中に浸漬処理することによって20代の値は19.7°に向上した。すなわちIF分子の配向度の改善値(19.7/22=0.895)は処理によって約10%増加したことが分かる。
【0025】
本発明では、CMADKタンパク質に代えて、ある特定の活性剤を応用しIF分子の配向性を制御することはできないか、引いてはIF分子結晶の配向性を低下させ安定な結晶に乱れを生じさせ、化学試薬に対する反応性を増加させることが出来るか否かを検討した。一般に破断強度は分子の配向性に大きく影響されるので、強伸度曲線の破断強度を測定して配向性を間接的に評価し、活性剤と毛髪IF結晶との相互作用を研究した。IF結晶の乱れの誘発と活性剤の分子構造との関係を究明し、ダメージを受けた毛髪を活性剤によって元の毛髪或いはそれに近い性能を有する物性に回復させることができるか否かを検討した。ブリーチ処理した試料をダメージ毛のコントロールとして用い活性剤を塗布して処理した強度データを未処理試料の値と比較した。
【0026】
(実験方法)
1.修復の基準となるダメージ毛の作成
ダメージ毛髪試料の作成:およそ1gの毛束を作成(未処理と思われる毛髪)し、H3%およびNH1.5%溶液にて15分間ブリーチした(ダメージ処理と洗浄を兼ねる)。
【0027】
2.処理方法
(1)活性剤処理:1g毛束を、浴比100倍のpH7.0に調整した純分3%活性剤溶液に浸漬し、40℃のインキュベーターにて150分間振とうした(30日分のシャンプー処理と仮定する)。
(2)浴比100倍の精製水で、水中と空気中を1秒に1往復するすすぎ動作を行いながら、30秒間洗った。精製水をとりかえながら、2回繰り返した。
(3)ドライヤーで乾燥させた。
【0028】
3.引張試験
TENSILON STB-1225SII型、雰囲気空気中、気温25℃、湿度50%RH 延伸速度2mm/min、試料長20mm,n数=5.の条件下、各種界面活性剤に毛束を一定時間浸し、その前後の引っ張り特性について力学測定を行った。得られた結果を図8および図9に夫々示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9