(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035983
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ダイカスト成形品の品質予測方法及び品質予測装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/32 20060101AFI20240308BHJP
B22D 18/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B22D17/32 J
B22D18/02 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140654
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591172054
【氏名又は名称】株式会社明和eテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
(57)【要約】
【課題】ダイカスト装置から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測できる、ダイカスト成形品の引け巣予測方法及び引け巣予測装置、品質予測方法及び品質予測装置、並びに検査方法を提供する。
【解決手段】成形品の引け巣の状態と、当該成形品を成形したときの射出圧力値の時間変化を示す波形との相関関係を求め、当該相関関係を用いて、新たな成形品の引け巣の状態を予測する。また、射出圧力値の特徴量から、引け巣の状態が検査基準を満たすクラスタと、当該検査基準を満たさないクラスタとを予め生成し、当該クラスタを用いて、新たな成形品の引け巣の状態が検査基準を満たすか否かを予測する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサにより実行される、ダイカスト成形品の引け巣予測方法において、
前記プロセッサは、
ダイカスト装置を用いて成形した成形品の引け巣の状態と、前記ダイカスト装置が前記成形品を成形したときに出力した、射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形と、を対応させたデータを用いて、前記引け巣の状態と前記射出圧力波形との相関関係を求め、
前記ダイカスト装置を用いて新たな前記成形品を成形する場合に、新たな前記成形品を成形したときに出力される前記射出圧力波形と、前記相関関係とを用いて、新たな前記成形品の引け巣の状態を予測する、引け巣予測方法。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記ダイカスト装置が、第1圧力で成形型のキャビティに溶湯を射出した後、前記第1圧力より高い第2圧力で前記キャビティに前記溶湯を射出する場合は、前記第1圧力の時間変化を示す波形を前記射出圧力波形として用いる、請求項1に記載の引け巣予測方法。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記成形品の内部に生じた引け巣の直径の総和と、前記射出圧力波形とを対応させたデータを用いて前記相関関係を求める、請求項1に記載の引け巣予測方法。
【請求項4】
前記成形品の内部に生じた引け巣の直径の総和と、前記射出圧力波形とを対応させたデータは、前記射出圧力波形に対応する前記直径の総和と、前記相関関係を用いて前記射出圧力波形から予測された前記直径の総和との相関係数が0.8以上となるデータである、請求項3に記載の引け巣予測方法。
【請求項5】
プロセッサにより実行される、ダイカスト成形品の品質予測方法において、
前記プロセッサは、
ダイカスト装置から出力された射出圧力値から特徴量を予め抽出し、
前記特徴量を複数のクラスタに予め分類し、
前記ダイカスト装置を用いて成形された成形品が引け巣の状態の検査基準を満たすか否かの情報に基づいて、複数の前記クラスタを、前記検査基準を満たす前記クラスタと、前記検査基準を満たさない前記クラスタとに予め分類し、
前記ダイカスト装置を用いて新たな前記成形品を成形する場合は、前記ダイカスト装置から出力された新たな前記射出圧力値から新たな前記特徴量を抽出し、
新たな前記特徴量が属する前記クラスタを特定し、
特定された前記クラスタの分類結果から、新たな前記成形品の前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測する、品質予測方法。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記ダイカスト装置から出力された前記射出圧力値を用いてオートエンコーダを学習させ、
前記オートエンコーダのエンコーダを用いて前記射出圧力値から前記特徴量を抽出する、請求項5に記載の品質予測方法。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記ダイカスト装置が、第1圧力で成形型のキャビティに溶湯を射出した後に、前記第1圧力より高い第2圧力で前記キャビティに前記溶湯を射出する場合は、前記第1圧力の値を前記射出圧力値として用いる、請求項5に記載の品質予測方法。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記成形品の内部に生じた引け巣の直径の総和と、前記射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形とを対応させたデータを用いて、前記引け巣の状態と前記射出圧力波形との相関関係を求め、
前記射出圧力波形に対応する前記直径の総和と、前記相関関係を用いて前記射出圧力波形から予測された前記直径の総和との相関係数が0.8以上となる場合の前記射出圧力値を用いて、複数の前記クラスタを生成する、請求項5に記載の品質予測方法。
【請求項9】
成形品ごとに付された識別番号と、前記識別番号と関連付けられて出力された、前記成形品を成形したときの射出圧力値とを取得し、
請求項5~8のいずれか一項に記載の品質予測方法により、前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測し、
前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすと予測した場合は、前記成形品が前記検査基準を満たすことを前記識別番号と対応させて記録するとともに、前記成形品を合格製品として搬出する指示を出力し、
前記引け巣の状態が前記検査基準を満たさないと予測した場合は、前記成形品が前記検査基準を満たさないことを前記識別番号と対応させて記録するとともに、前記成形品の前記引け巣の状態を解析する指示を出力する、前記プロセッサにより実行される、ダイカスト成形品の検査方法。
【請求項10】
ダイカスト装置を用いて成形した成形品の引け巣の状態と、前記ダイカスト装置が前記成形品を成形したときに出力した、射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形と、を対応させたデータを用いて、前記引け巣の状態と前記射出圧力波形との相関関係を求める関係取得部と、
前記ダイカスト装置を用いて新たな前記成形品を成形する場合に、新たな前記成形品を成形したときに出力される前記射出圧力波形と、前記相関関係とを用いて、新たな前記成形品の引け巣の状態を予測する状態予測部と、を備える、引け巣予測装置。
【請求項11】
ダイカスト装置から出力された射出圧力値から特徴量を抽出する抽出部と、
前記特徴量を複数のクラスタに分類し、
前記ダイカスト装置を用いて成形された成形品が引け巣の状態の検査基準を満たすか否かの情報に基づいて、複数の前記クラスタを、前記検査基準を満たす前記クラスタと、前記検査基準を満たさない前記クラスタとに分類する分類部と、
前記クラスタの分類結果から、前記成形品の前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測する適合予測部と、を備え、
前記抽出部は、前記ダイカスト装置を用いて新たな前記成形品を成形する場合は、前記ダイカスト装置から出力された新たな前記射出圧力値から新たな前記特徴量を抽出し、
前記適合予測部は、新たな前記特徴量が属する前記クラスタを特定し、
特定された前記クラスタの分類結果から、新たな前記成形品の前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測する、品質予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト成形品の引け巣予測方法及び引け巣予測装置に関するものである。また、本発明は、ダイカスト成形品の品質予測方法及び品質予測装置、並びに当該品質予測方法を用いたダイカスト成形品の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形型のキャビティに合金の溶湯を加圧注入する場合に、キャビティを複数の体積要素に分割し、溶湯の温度変化に基づいて体積要素毎に溶湯の流動が停止する凝固時間を算出し、凝固時間に基づいて体積要素毎に加圧注入の圧力が作用する押湯作用時間を算出し、凝固時間と押湯作用時間を対比して体積要素毎に出力値を算出し、出力値に基づいて引け巣が発生する範囲を判定する鋳造解析方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、キャビティ形状を複数の体積要素に分割する処理と、体積要素毎に凝固時間及び押湯作用時間を算出する処理とが必要であり、その実施は主としてソフトウェアによるシミュレーションを用いることになる。そのため、上記従来技術では、ソフトウェアによるシミュレーションを用いることなく、ダイカスト装置から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測することができないという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ダイカスト装置から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測できる、ダイカスト成形品の引け巣予測方法及び引け巣予測装置、ダイカスト成形品の品質予測方法及び品質予測装置、並びにダイカスト成形品の検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明は、成形品の引け巣の状態と、当該成形品を成形したときの射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形との相関関係を求め、当該相関関係を用いて、新たな成形品の引け巣の状態を予測することによって上記課題を解決する。また、本発明の第2発明は、射出圧力値の特徴量から、引け巣の状態が検査基準を満たすクラスタと、当該検査基準を満たさないクラスタとを予め生成し、当該クラスタを用いて、新たな成形品の引け巣の状態が検査基準を満たすか否かを予測することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ダイカスト装置から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る成形システムの実施形態の一例を示すブロック図である。
【
図2】表示装置に表示される射出圧力波形の一例を示す図である。
【
図3】表示装置に表示される射出圧力波形の他の例を示す図である。
【
図4】ダイカスト成形品の引け巣の直径の総和の一例を示すデータである。
【
図5】
図4に示すデータを用いて学習されたニューラルネットワークから出力された、引け巣の直径総和の予測値の一例を示すグラフである。
【
図6】射出圧力値のデータから抽出された特徴量を示す特徴量マップの一例である。
【
図7】
図6に示す特徴量からクラスタを生成する過程を示すデンドログラムの一例である。
【
図8】
図6に示す特徴量にから取得された判定用特徴量マップの一例である。
【
図9】
図1に示す引け巣予測装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図1に示す品質予測装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図1に示す検査装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
[成形システムの構成]
図1は、本発明に係る成形システム10を示すブロック図である。成形システム10はダイカストにより成形品を成形する装置群であり、
図1に示すように、ダイカスト装置1と、表示装置2と、制御装置3とを備える。また、制御装置3は、制御装置3における処理に必要な情報が格納されたサーバSと接続している。成形システム10を構成する各装置は、有線LAN規格、無線LAN規格などの各種通信規格に対応する通信インターフェースにより接続され、互いに情報を授受できる。
【0011】
ダイカスト装置1は、溶融した金属(以下、「溶湯」とも言う。)を高速且つ高圧で成形型に射出して金属成形品を鋳造する装置である。本実施形態では、ダイカスト装置1を用いて成形された金属成形品をダイカスト成形品と言うこととする。ダイカスト装置1は、たとえば、ダイカスト成形品の材料となる金属を溶融させて溶湯にする加熱炉と、溶湯を成形型に射出する筒状のスリーブと、スリーブの内面と摺動し、溶湯を成形型に押し込むチップと、チップを移動させるロッドと、成形型の型締め機構及びロッドに圧力を加える油圧装置と、成形型などを冷却する冷却装置と、成形型の可動側を移動させるトグル装置とを備える。これに加え、ダイカスト装置1は、メディアを用いてダイカスト成形品のバリを除去する装置、ダイカスト成形品を次の工程に搬出する装置(たとえばロボットアーム及び無人搬送車)などを備えていてもよい。
【0012】
ダイカスト成形品に用いる金属は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、銅などの非鉄金属及びそれらの合金であり、たとえば、Al-Si-Cu系のADC12、Mg-Al-Zn系のMDC1D、Zn-Al-Cu系のZDC1などが挙げられる。また、成形型は、SKD61のような工具用鋼からなる金型であり、たとえば鋼材を切削して製作する。
【0013】
表示装置2は、成形システム10の稼働に従事するオペレータに対して情報を提供する装置であり、ダイカスト装置1に設けられた液晶ディスプレイ、オペレータが装着するウェアラブル端末のディスプレイなどが挙げられる。表示装置2は、オペレータが制御装置3に指示を入力するための入力装置を備えてもよい。入力装置としては、ユーザの指触又はスタイラスペンによって入力されるタッチパネル、ユーザの音声による指示を取得するマイクロフォンなどが挙げられる。また、表示装置2は、出力装置としてのスピーカーを備えてもよい。
【0014】
制御装置3は、ダイカスト装置1及び表示装置2の動作を制御して協働させ、ダイカスト成形品を成形させる装置である。制御装置3は、たとえばコンピュータであり、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)31と、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)32と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)33とを備える。CPU31は、ROM32に格納されたプログラムを実行し、制御装置3が有する機能を実現するための動作回路である。なお、ROM32はHDD(Hard Disk Drive)でもよい。
【0015】
制御装置3は、ダイカスト装置1の動作を制御するため、ダイカスト装置1に備え付けられたセンサから、装置の状態を示す情報を取得する。たとえば、制御装置3は、ロッドに設けられた圧力センサから、溶湯を成形型に射出する射出圧力の情報を取得する。これに加え、制御装置3は、ロッドを移動させる油圧装置に設けられたセンサから、溶湯を成形型に射出する射出速度の情報を取得してもよい。これに加え、制御装置3は、チップの位置を示す射出位置の情報と、成形型のキャビティの真空度の情報とを取得してもよい。なお、射出位置は、溶湯を射出する前のチップ又はロッドの初期位置を0mmとし、成形型に近づく方向を正の方向とする。
【0016】
制御装置3は、オペレータにダイカスト装置1の状態を通知するため、ダイカスト装置1から取得した情報を表示装置2に表示させる。この場合に、制御装置3は、オペレータがダイカスト装置1の状態を確認しやすいように、ダイカスト装置1のセンサから取得した値をグラフに変換して表示装置に出力し、表示させてもよい。たとえば、制御装置3は、
図2に示すような射出圧力値の波形を表示装置2に表示させる。
【0017】
図2は、表示装置2に表示される射出圧力値の射出圧力波形の一例を示す図である。ダイカストの成形プロセスは、
図2に示すように、低速且つ低圧で成形型に溶湯を射出する低速射出工程と、低速射出工程より高速且つ高圧で溶湯を射出する高速射出工程と、溶湯を射出した後に鋳巣の発生を抑制する増圧工程とを含む。低速射出工程では、スリーブ内の空気を巻き込まないように0.1~0.7m/s程度の射出速度で溶湯を射出し、高速射出工程では、成形型のキャビティの大部分(おおよそ90~95%)に溶湯が充填された後、キャビティの限られた未充填空間に溶湯を充填させるため、2~3m/s程度の射出速度で溶湯を押し込む。低速射出工程の射出圧力は、おおよそ5MPa以下であり、高速射出工程の射出圧力は、10MPa程度である。
【0018】
増圧工程では、チップはほとんど移動せず(すなわち、射出速度はほぼ0m/s)、高速射出工程の射出圧力より高い射出圧力(具体的には30~70MPa程度)の圧力を溶湯に加え続ける。これにより、溶融した金属がキャビティで固化して収縮する際に生じる成形品の変形を抑制し、成形品の内部に鋳巣(特に引け巣)が発生することを抑制できる。このように、成形型のキャビティに溶湯を充填した後に追加の溶湯を射出することを押湯とも言う。
【0019】
制御装置3がダイカスト装置1から取得する情報の中で、射出圧力値はダイカスト成形品の引け巣の状態と関係していることが知られている。引け巣とは、収縮孔とも言い、ダイカスト成形品の成形プロセスにおいて生じる凝固収縮欠陥孔のことである。溶湯が溶融状態から固体状態に変化するときに、相変化により収縮が発生する部分に溶湯が補給されないと、収縮した部分が空隙として成形品内部に残り、引け巣となる。ダイカスト成形品では引け巣は必ず発生するが、引け巣の状態が検査基準を超えた場合には欠陥として認識される。
【0020】
同じダイカスト装置1でダイカスト成形品を成形し続けると、成形型の冷却不足や製品形状、溶湯の温度のばらつきなどに因り、ダイカスト成形品に検査基準を満たさない引け巣が生じることがある。ダイカスト成形品に引け巣が生じる場合は、たとえば
図3に示すような射出圧力値の波形が表示装置2に表示される。すなわち、ダイカスト成形品の内部に検査基準を満たさない引け巣が生じると、まず、低速射出工程の射出圧力波形が変化し、圧力値が上下に変化して波形が乱れる。そして、この状態でダイカスト成形品を成形し続けると、増圧工程の圧力が高くなる部分(具体的には、
図3で破線で囲まれた範囲Xの部分)で圧力値が上下に変化して射出圧力波形が乱れる。
【0021】
範囲Xの部分の射出圧力の変化は低速射出工程における変化に比べて大きく、ダイカスト成形品に引け巣欠陥が発生したことが、オペレータ又は制御装置3によって比較的容易に発見される。ところが、ダイカスト成形品の引け巣欠陥が発生し始める低速射出工程では、射出圧力の変化が範囲Xの部分の変化に比べて小さいため、オペレータが目視で欠陥の発生を発見することは難しく、従来の異常検知方法では引け巣欠陥の発生を検出することができなかった。
【0022】
そこで、本実施形態の制御装置3は、ダイカスト成形品の引け巣の状態が検査基準を満たすか否かを自動的に判定するため、
図1に示すように引け巣予測装置4及び検査装置5を備えることとした。引け巣予測装置4は、射出圧力値の射出圧力波形から引け巣の状態(特に引け巣の直径総和)を予測するための装置であり、検査装置5における機械学習に用いるデータの選別にも用いられる。検査装置5は、その一部として品質予測装置を含むものであり、ダイカスト成形品が検査基準(特に引け巣の状態の検査基準)を満たすか否かを判定するための装置である。
【0023】
引け巣予測装置4及び検査装置5は、たとえば、制御装置3と同様のコンピュータである。本実施形態では、引け巣予測装置4及び検査装置5は制御装置3に含まれ、引け巣予測装置4及び検査装置5における処理は、制御装置3のCPU31、ROM32及びRAM33を用いて行われるものとする。ROM32に格納されたプログラムは、引け巣予測装置4及び検査装置5がそれらの機能を実現するためのプログラムを備え、CPU31がROM32に格納されたプログラムを実行することで、当該機能が実現される。
【0024】
図1には、引け巣予測装置4の機能を実現する機能ブロックとして、関係取得部41及び状態予測部42を便宜的に抽出して示し、検査装置5の機能を実現する機能ブロックとして、取得部51、抽出部52、分類部53、適合予測部54、記録部55及び出力部56を便宜的に抽出して示す。以下、
図1に示す各機能ブロックが有する機能について説明する。
【0025】
まず、引け巣予測装置4の関係取得部41及び状態予測部42について説明する。
【0026】
関係取得部41は、ダイカスト成形品の引け巣の状態と、射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形との相関関係を求める機能を有する。引け巣予測装置4は、関係取得部41の機能により、ダイカスト装置1がダイカスト成形品を成形したときに出力した射出圧力波形と、当該ダイカスト成形品の引け巣の状態とを対応させたデータを用いて、機械学習により引け巣の状態と射出圧力波形との相関関係を求める。射出圧力波形と引け巣の状態とを対応させたデータは予めサーバSに格納されており、引け巣予測装置4は、必要に応じて当該データをサーバSから取得する。
【0027】
ダイカスト成形品の引け巣の状態とは、引け巣の大きさ、位置、形状、数などのことを言う。引け巣の状態の情報は、たとえば、ダイカスト成形品に対してコンピューター断層撮影法(CT)による走査を行い、走査結果を適宜の欠陥解析ソフトウェア(たとえばVolume Graphics社のVG Studio Max)で処理することで取得できる。これに代え、又はこれに加え、ダイカスト成形品を切断し、成形品の内部に生じた引け巣の状態(形状、位置、大きさなど)を測定してもよい。本実施形態では、ダイカスト成形品の引け巣の状態として、特に、ダイカスト成形品に生じた引け巣の直径の総和(単位:mm)を用いた。引け巣の直径の総和が大きいほど、引け巣の数が多いこと及び/又は引け巣の大きさが大きいことを示す。
【0028】
射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形とは、たとえば、
図2及び3に示す射出圧力値の波形である。引け巣予測装置4では、引け巣の状態と射出圧力波形との相関関係を求める場合に、たとえば、射出圧力波形の画像情報を用いて機械学習を行う。一例として、引け巣予測装置4は、
図2に示す範囲Yの画像を射出圧力波形として取得する。つまり、ダイカスト装置1が、低速射出工程において低圧(第1圧力)で成形型のキャビティに溶湯を射出した後、高速射出工程において高圧(第1圧力より高い第2圧力)でキャビティに溶湯を射出する場合は、低速射出工程における、第1圧力の時間変化を示す射出圧力波形を用いてもよい。
【0029】
機械学習を用いて引け巣の状態と射出圧力波形との相関関係を求めるためには、引け巣の状態の情報と射出圧力波形の画像情報のセットが所定数以上の必要になる。所定数は、機械学習が適切に行える範囲内で適宜の数を設定できるが、たとえば50~500セット以上である。引け巣予測装置4が求める相関関係は、引け巣の状態が適切に予測できるものであれば特に限定されない。相関関係としては、たとえば、機械学習により学習された畳み込みニューラルネットワークが挙げられる。
【0030】
たとえば、引け巣予測装置4は、射出圧力波形の画像情報が入力される入力層と、畳み込み演算によって、入力層に入力された画像情報からカーネルによって規定された特徴を抽出する中間層と、抽出された特徴に対応する引け巣の状態の情報を出力する出力層を備えるニューラルネットワークを生成する。中間層では、出力層から出力される引け巣の状態の情報が、予め測定された引け巣の状態の情報に対応するように、パラメータの重み付けが調整される。
【0031】
上述のとおり、引け巣欠陥が生じる場合の低速射出工程における射出圧力の変化は比較的小さい。そのため、低速射出工程における射出圧力波形の画像情報を用いると、通常通りにカーネルを設定してプーリングを行うだけでは、中間層で特徴部分が消失してしまいニューラルネットワークを適切に学習させることができない場合がある。この場合、引け巣予測装置4は、関係取得部41の機能によりパディングの処理を行い、カーネルを用いた畳み込み演算後の出力データのサイズが小さくなり過ぎないようにする。たとえば、畳み込み演算の前後でデータのサイズが変化しないようにパディングの処理を行う。
【0032】
またこれに代え、又はこれに加え、低速射出工程における射出圧力波形の画像情報のみを用いる場合は、低速射出工程以外の工程における射出圧力波形の画像情報を用いる場合より入力データに対してカーネルを適用するストライドを小さく設定してもよい。このように、出力データのサイズを調整することで中間層の数を調整する(たとえば増やす)ことができ、ニューラルネットワークを適切に学習させることができる。
【0033】
状態予測部42は、ダイカスト装置1を用いて新たな成形品を成形する場合に、新たな成形品を成形したときに出力される射出圧力波形と、関係取得部41の機能により求めた相関関係とを用いて、新たな成形品の引け巣の状態を予測する機能を有する。引け巣予測装置4は、状態予測部42の機能により射出圧力波形の画像情報を取得し、たとえば学習させたニューラルネットワークに当該画像情報を入力して引け巣の直径の総和を予測する。
【0034】
図4は、VG Studio Maxで計測した、ダイカスト成形品の内部に生じた引け巣の直径の総和を示すデータである。横軸はダイカスト成形品毎に付される識別番号を示し、縦軸は測定された直径総和(単位:mm)を示す。
図4に示す直径総和は、ダイカスト成形品をCTで走査した結果のデータからVG Studio Maxを用いて抽出したものであり、検出された空隙のうち最小外接球径が直径2.0~2.0×10
3mmの大きさの空隙を引け巣として抽出した。引け巣を抽出する際のVG Studio Maxの設定は標準的な設定(たとえばデフォルトの設定)を用い、欠陥性は1.0以上とし、エッジ距離計算はメッシュ1とした。欠陥性は、空隙が本当に引け巣であるか否か(つまり、CTの画像データから引け巣を誤認していないか)を判定するための閾値であり、エッジ距離計算は、ブローホールを引け巣として検出することを回避するための、ダイカスト成形品のエッジと空隙との距離の設定である。
図4に示すデータの総数は300であり、本実施形態では、この300の各直径総和に対応する射出圧力波形の画像情報と対応させたデータを用いて、畳み込みニューラルネットワークを学習させた。射出圧力波形の画像情報は、低速射出工程において低圧で溶湯を射出したときの画像情報である。
【0035】
学習させたニューラルネットワークを、学習に用いたデータを使って評価した。具体的には、ニューラルネットワークの学習に用いた射出圧力波形の画像情報を当該ニューラルネットワークに入力し、出力された直径総和の予測値を、入力した画像情報に対応する実際の直径総和と比較した。比較の結果を
図5に示す。
図5の横軸は実際に計測された直径の総和を示し、縦軸は予測された直径の総和を示す。
図5に示すとおり、予測された直径総和は回帰直線Lに近い位置に分布しており、学習されたニューラルネットワークにより予測された直径総和は、実際の直径総和と強い相関関係を持つことが分かる。
【0036】
また、
図5に示す結果に対して相関係数(たとえば、実際の直径総和と、予測された直径総和との共分散を、それぞれの直径総和の標準偏差で割ることで求められるピアソンの積率相関係数)を計算すると、相関係数r=0.985であった。一般的に相関係数が0.8以上であると相関関係が強いと解釈されるため、予測された直径総和は実際の直径総和と強い相関関係を持つことが分かる。
【0037】
さらに、ニューラルネットワークの学習に用いていないデータを用いて相関関係を確認した。当該データに対応する実際の直径総和と、当該データの画像情報から予測された直径総和を比較すると二つの値は近く、
図5に点Zとして示す結果が得られた。よって、本実施形態において生成された畳み込みニューラルネットワークは、適切に引け巣の状態を予測できる相関関係であると言える。
【0038】
ダイカスト成形品の引け巣の状態の情報は、ダイカスト成形品をCTで走査した結果を適宜の欠陥解析ソフトウェアで処理して取得するが、CTの走査結果及び欠陥解析の処理は必ずしも正確ではなく、引け巣の大きさや形状を誤って認識する場合がある。そのため、引け巣予測装置4において相関関係を求めるときに用いるデータは、引け巣の状態を誤認識した適切でないデータを除外したものであることが好ましい。
【0039】
このような適切でないデータの全てを除外する必要はないが、本実施形態では、射出圧力波形に対応する直径の総和と、相関関係を用いて射出圧力波形から予測された直径の総和との相関係数が0.8以上となるデータであれば、相関関係を求めるために問題なく使用できると判定する。
【0040】
次に、検査装置5の取得部51、抽出部52、分類部53、適合予測部54、記録部55及び出力部56について説明する。
【0041】
取得部51は、
図1に示すサーバSから、過去にダイカスト装置1から出力された射出圧力値を取得する機能を有する。検査装置5は、取得部51の機能によりサーバSから射出圧力値を取得する場合に、引け巣予測装置4において、射出圧力波形に対応する直径の総和と、相関関係を用いて予測された直径の総和との相関係数が0.8以上になると判定された場合の射出圧力値を取得する。引け巣の状態を誤認識した適切でないデータが含まれていると、後述するクラスタリングで適切なクラスタを生成できないからである。
【0042】
検査装置5がサーバSから取得する射出圧力値は、成形品ごとに付された識別番号と、当該成形品を成形したときの射出圧力値とが関連付けられたものでもよい。ダイカスト成形品の識別番号と射出圧力値との関連付けは、射出圧力値がサーバSに格納された後にサーバSの機能を用いて行ってもよく、ダイカスト装置1から出力された時点で検査装置5により行われてもよい。また、ダイカスト装置1から出力されるときに、ダイカスト装置1の機能により関連付けられてもよい。
【0043】
抽出部52は、ダイカスト装置1から出力された射出圧力値から特徴量を抽出する機能を有する。特徴量を抽出する方法と特に限定されないが、たとえば、検査装置5は、抽出部52の機能により、ダイカスト装置1から出力された射出圧力値を用いてオートエンコーダを学習させ、学習させたオートエンコーダのエンコーダを用いて射出圧力値から特徴量を抽出する。
【0044】
特徴量とは、ある射出圧力値を復元するために特に必要な情報である。すなわち、ある射出圧力値からある特徴量を抽出した場合は、当該特徴量から当該射出圧力値を求めることができる。ただし、特徴量からの射出圧力値の復元は必ずしも完全な復元でなくともよく、一部の復元であってもよい。特徴量の抽出には、特徴抽出器であるエンコーダと復元器であるデコーダからなるオートエンコーダ(自己符号化器)を用いることができる。
【0045】
具体的には、オートエンコーダのエンコーダ(入力層)に射出圧力値を入力し、入力した射出圧力値がデコーダ(出力層)から出力されるように、中間層におけるノードのつながりの重み付けを変化させる。学習により、オートエンコーダに入力された射出圧力値と出力されたものとが一致するように重み付けを変化させることで、射出圧力値の復元に必要となる特徴量だけを抽出し、抽出した特徴量から効率的に元の射出圧力値を生成するネットワークが形成される。すなわち、入力された射出圧力値をより正確に復元できるオートエンコーダは、正確な復元ができないオートエンコーダより射出圧力値の特徴量を的確に抽出できる。
【0046】
学習されたオートエンコーダのエンコーダを用いて抽出された特徴量の一例を
図6に示す。当該オートエンコーダの学習には、1セット3000点の射出圧力値のデータを340セット用いた。本実施形態の特徴量はベクトルであり、たとえば
図6に示すようなxy平面上のベクトルである。
図6に示す1つの点が、あるダイカスト成形品について取得された射出圧力値から抽出された特徴量に対応している。本実施形態では、1個のダイカスト成形品につき3000点の射出圧力値のデータが取得されており、全部で340個のダイカスト成形品について特徴量の抽出を行った。つまり、
図6には340個の特徴量が示されている。
【0047】
なお、
図6に示す場合では、オートエンコーダの学習に用いた射出圧力値のデータと、特徴量の抽出に用いた射出圧力値のデータは同じものであるが、オートエンコーダの学習に用いる射出圧力値のデータと、特徴量の抽出に用いる射出圧力値のデータは異なるデータであってもよい。また、オートエンコーダの学習に用いた射出圧力値のデータの数は上述のものに限られず、オートエンコーダが適切に特徴量を抽出できる範囲内で適宜の値を設定できる。オートエンコーダの学習に用いる射出圧力値のデータは、たとえば予めサーバSに格納されている。
【0048】
また、検査装置5は、引け巣予測装置4の場合と同様に、ダイカスト装置1が、低圧(第1圧力)で成形型のキャビティに溶湯を射出した後に、高圧(第1圧力より高い第2圧力)でキャビティに溶湯を射出する場合は、低圧の値を射出圧力値として用いてもよい。なお、
図6に示す特徴量は、射出圧力値として、低速射出工程における射出圧力値(つまり低圧の射出圧力値)のデータを用いている。
【0049】
分類部53は、抽出部52の機能により抽出した特徴量を複数のクラスタに分類する機能を有する。検査装置5は、分類部53の機能により、単リンク法、完全リンク法、ウォード法、重心法などの公知のクラスタリングの手法を用いて特徴量を複数のクラスタに分類する。
【0050】
具体的なクラスタの生成方法を
図7に示す。
図7は、
図6に示す特徴量からクラスタを生成する過程を示すデンドログラムの一例である。横軸は各ダイカスト成形品の識別番号を示し、縦軸は、
図6に示す特徴量同士の距離(クラスタが生成された後はクラスタ同士の距離)を示す。
図7に示すクラスタの生成ではウォード法を用い、クラスタ閾値を4に設定してクラスタリングを行った。その結果、C1~C10の10個のクラスタが生成された。
【0051】
なお、クラスタリングの方法はウォード法に限られず、他の方法を用いてもよい。また、クラスタ閾値は、複数のクラスタを、検査基準を満たすクラスタと、検査基準を満たさないクラスタとに分類できる範囲内で適宜の値を設定できる。
【0052】
また、分類部53は、ダイカスト装置1を用いて成形された成形品が引け巣の状態の検査基準を満たすか否かの情報に基づいて、複数のクラスタを、検査基準を満たすクラスタと、検査基準を満たさないクラスタとに分類する機能を有する。検査装置5は、分類部53の機能により、識別番号に対応する成形品の引け巣の状態の情報と、引け巣の状態が検査基準を満たすか否かの情報とをサーバSから取得する。そして、検査基準を満たすか否かの情報と、クラスタに属する成形品の識別番号とを比較し、そのクラスタに属する成形品が検査基準を満たすか否かを判定する。この判定を各クラスタに行うことで、複数のクラスタを、検査基準を満たすクラスタと、検査基準を満たさないクラスタとに分類できる。
【0053】
たとえば、
図7に示すクラスタC1について、クラスタC1に属する成形品の識別番号と、当該識別番号の成形品が検査基準を満たすか否かの情報とをサーバSから取得する。そして、クラスタC1に属する成形品が検査基準を満たすとの情報が取得された場合は、クラスタC1を検査基準を満たすクラスタに分類する。これに対し、クラスタC10に属する成形品の識別番号と、当該識別番号の成形品が検査基準を満たすか否かの情報とをサーバSから取得し、クラスタC10に属する成形品が検査基準を満たさないとの情報が取得された場合は、クラスタC10を検査基準を満たさないクラスタに分類する。
【0054】
上述の判定を繰り返すことで、
図7に示すクラスタのうちクラスタC1~C6は検査基準を満たすクラスタに分類され、クラスタC7~C10は検査基準を満たさないクラスタに分類されたとする。このクラスタの分類結果を
図6に示す特徴量のマップに反映すると、たとえば
図8に示すような判定用特徴量マップが生成される。
図8に示す範囲Aは、クラスタC1~C6に属する、検査基準を満たす成形品の特徴量が含まれる範囲であり、範囲Bは、クラスタC7~C10に属する、検査基準を満たさない成形品の特徴量が含まれる範囲である。生成された判定用特徴量マップはサーバSに格納される。
【0055】
なお、引け巣予測装置4を用いて、引け巣の状態を誤認識した適切でないデータを除外したデータを用いてクラスタを生成すると、
図8に示すような、検査基準を満たすクラスタと検査基準を満たさないクラスタとに適切に分類された判定用特徴量マップが得られるが、引け巣の状態を誤認識したデータ含むデータでクラスタを生成すると、
図8に示すような、検査基準を満たすクラスタと検査基準を満たさないクラスタとに適切に分類された判定用特徴量マップが得られない場合がある。適切な判定用特徴量マップが得られなかった場合は、クラスタの生成に用いる射出圧力値のデータを見直し、再度クラスタの生成を行う。
【0056】
図8に示す判定用特徴量マップを用いると、ダイカスト装置1を用いて新たな成形品を成形した場合に、新たな成形品の特徴量が範囲Aに属するか範囲Bに属するかを判定することで、新たな成形品が検査基準を満たすか否かを予測できる。検査装置5は、新たなダイカスト成形品が成形された場合は、抽出部52の機能により、ダイカスト装置1から出力された新たな射出圧力値から新たな特徴量を抽出し、分類部53の機能により、必要に応じてサーバSから当該判定用特徴量マップを取得する。
【0057】
適合予測部54は、クラスタの分類結果から、成形品の引け巣の状態が検査基準を満たすか否かを予測する機能を有する。検査基準とは、ダイカスト成形品を想定使用環境で使用した場合に破損が生じない基準であり、ダイカスト成形品の形状及び材料などに因る。検査基準としては、引け巣の発生したの位置が、ボルト加工する穴同士の間に存在しないこと、引け巣が、ダイカスト成形品の形状を特徴付ける輪郭の表面近くに存在しないこと、漏洩試験を行った場合に漏洩が生じないこと、引け巣の直径総和が所定範囲以下であることなどが挙げられる。検査装置5は、適合予測部54の機能により、新たな成形品の特徴量が属するクラスタを特定し、特定されたクラスタの分類結果から、新たな成形品の引け巣の状態が検査基準を満たすか否かを予測する。
【0058】
たとえば、新たな成形品の特徴量が
図8に示す範囲Aに含まれる場合は、引け巣の状態が検査基準を満たすと予測する。この場合、記録部55の機能により、当該成形品が検査基準を満たすことを識別番号と対応させてサーバSに記録する。またこれとともに、出力部56の機能により、当該成形品を合格製品として搬出する指示を表示装置2へ出力し、オペレータに通知する。またこれに代え、又はこれに加え、ロボットアーム及び無人搬送車などの、ダイカスト成形品を次の工程に搬出する装置に対してダイカスト成形品を合格製品として搬出する指示を出力してもよい。なお、サーバSへの記録と表示装置2への出力は、同じタイミングであってもよく、一方が他方より早いタイミングであってもよい。
【0059】
これに対し、新たな成形品の特徴量が
図8に示す範囲Bに含まれる場合は、引け巣の状態が検査基準を満たさないと予測する。この場合、記録部55の機能により、成形品が検査基準を満たさないことを識別番号と対応させてサーバSに記録する。またこれとともに、出力部56の機能により、当該成形品の引け巣の状態を解析する指示を表示装置2へ出力し、オペレータに通知する。またこれに代え、又はこれに加え、ダイカスト成形品を次の工程に搬出する装置に対し、ダイカスト成形品を、引け巣の状態を解析する工程に搬出する指示を出力してもよい。引け巣の状態を解析する工程とは、たとえばCTによる走査を用いた非破壊検査などである。なお、サーバSへの記録と表示装置2への出力は、同じタイミングであってもよく、一方が他方より早いタイミングであってもよい。
【0060】
[成形システムにおける処理]
図9を参照して、引け巣予測装置4が情報を処理する際の手順を説明する。
図9は、本実施形態の成形システム10において実行される、情報の処理を示すフローチャートの一例である。以下に説明する処理は、引け巣予測装置4による処理を実行する指示を制御装置3が取得した場合に、制御装置3のプロセッサであるCPU31により実行される。
【0061】
まず、ステップS1にて、関係取得部の機能により、ダイカスト装置1から出力された射出圧力値の時間変化を示す波形をサーバSから取得し、続くステップS2にて、成形品の内部に生じた引け巣の直径総和の情報をサーバSから取得する。ステップS3にて、成形品の識別番号、射出圧力値の波形及び引け巣の直径総和の情報を紐付け、続くステップS4にて、引け巣の直径総和と射出圧力値の波形を対応させたデータを出力する。ステップS5にて、ステップS4で出力されたデータを用いてニューラルネットネットワークを学習させ、続くステップS6にて、学習したニューラルネットネットワークを用いて引け巣の直径総和を予測し、続くステップS7にて、状態予測部42の機能により、引け巣の直径総和の測定値と予測値との相関係数を算出する。
【0062】
ステップS8にて、相関係数が所定値以上であるか否かを判定し、相関係数が所定値以上であると判定した場合は、ステップS9に進み、学習したニューラルネットネットワークを出力する。これに対し、相関係数が所定値未満であると判定した場合は、ステップS5に進み、再度ニューラルネットワークの学習を行う。
【0063】
次に、
図10を参照して、品質予測装置が情報を処理する際の手順を説明する。
図10は、本実施形態の成形システム10において実行される、情報の処理を示すフローチャートの一例である。以下に説明する処理は、品質予測装置による処理を実行する指示を制御装置3が取得した場合に、制御装置3のプロセッサであるCPU31により実行される。
【0064】
まず、ステップS11にて、取得部51の機能により、ダイカスト装置から出力された射出圧力値を取得し、続くステップS12にて、抽出部52の機能により、取得した射出圧力値を用いてオートエンコーダを学習させ、続くステップS13にて、学習させたオートエンコーダのエンコーダを用いて射出圧力値の特徴量を抽出する。ステップS14にて、分類部53の機能により特徴量マップを生成し、続くステップS15にて特徴量をクラスタリングし、続くステップS16にて、検査基準を満たすクラスタと満たさないクラスタに分類する。
【0065】
ステップS17にて、抽出部52の機能により、ダイカスト装置から出力された新たな射出圧力値を取得し、続くステップS18にて、学習させたオートエンコーダのエンコーダを用いて新たな射出圧力値の特徴量を抽出する。ステップS19にて、適合予測部54の機能により、抽出した特徴量が属するクラスタを特定し、続くステップS20にて、特定したクラスタの分類から検査基準を満たすか否かを予測する。
【0066】
ステップS20にて、特定したクラスタの分類から検査基準を満たすか否かを予測し、続くステップS21にて、学習に用いたデータから予測が正しいか否かを判定する。予測が正しいと判定した場合は、ステップS22に進み、出力部56の機能により、特徴量マップを出力する。これに対し、予測が正しくないと判定した場合は、ステップS11に進み、再度特徴量の抽出とクラスタの生成を行う。
【0067】
次に、
図11を参照して、検査装置5が情報を処理する際の手順を説明する。
図10は、本実施形態の成形システム10において実行される、情報の処理を示すフローチャートの一例である。以下に説明する処理は、ダイカスト装置1によりダイカスト成形品を成形するたびに、制御装置3のプロセッサであるCPU31により実行される。
【0068】
まず、ステップS31にて、取得部51の機能により、ダイカスト装置から出力された射出圧力値を取得し、続くステップS32にて、抽出部52の機能により、学習させたオートエンコーダのエンコーダを用いて射出圧力値の特徴量を抽出し、続くステップS33にて、適合予測部54の機能により、抽出した特徴量が属するクラスタを特定し、続くステップS34にて、特定したクラスタの分類から検査基準を満たすか否かを予測する。
【0069】
ステップS35にて、ステップS34の予測結果が検査基準を満たす予測であったか否かを判定する。検査基準を満たすと予測した場合は、ステップS36に進み、記録部55の機能により、成形品が検査基準を満たすことを識別番号と対応させて記録し、続くステップS37にて、出力部56の機能により、成形品を合格製品として搬出する指示を表示装置2に出力する。
【0070】
これに対し、検査基準を満たさないと予測した場合は、ステップS38に進み、記録部55の機能により、成形品が検査基準を満たさないことを識別番号と対応させて記録し、続くステップS39にて、出力部56の機能により、成形品の引け巣の状態を解析する指示を表示装置に出力する。
【0071】
[本発明の実施態様]
以上のとおり、本実施形態によれば、プロセッサにより実行される、ダイカスト成形品の引け巣予測方法において、前記プロセッサは、ダイカスト装置1を用いて成形した成形品の引け巣の状態と、前記ダイカスト装置1が前記成形品を成形したときに出力した、射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形と、を対応させたデータを用いて、前記引け巣の状態と前記射出圧力波形との相関関係を求め、前記ダイカスト装置1を用いて新たな前記成形品を成形する場合に、新たな前記成形品を成形したときに出力される前記射出圧力波形と、前記相関関係とを用いて、新たな前記成形品の引け巣の状態を予測する、引け巣予測方法が提供される。これにより、ダイカスト装置1から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測できる。
【0072】
また、本実施形態の引け巣予測方法によれば、前記プロセッサは、前記ダイカスト装置1が、第1圧力で成形型のキャビティに溶湯を射出した後、前記第1圧力より高い第2圧力で前記キャビティに前記溶湯を射出する場合は、前記第1圧力の時間変化を示す波形を前記射出圧力波形として用いてもよい。これにより、ダイカスト成形品に引け巣欠陥が生じ始めた初期の段階で欠陥の発生を検出できる。
【0073】
また、本実施形態の引け巣予測方法によれば、前記プロセッサは、前記成形品の内部に生じた引け巣の直径の総和と、前記射出圧力波形とを対応させたデータを用いて前記相関関係を求めてもい。これにより、より相関係数の高い相関関係を求めることができる。
【0074】
また、本実施形態の引け巣予測方法によれば、前記成形品の内部に生じた引け巣の直径の総和と、前記射出圧力波形とを対応させたデータは、前記射出圧力波形に対応する前記直径の総和と、前記相関関係を用いて前記射出圧力波形から予測された前記直径の総和との相関係数が0.8以上となるデータであってもよい。これにより、引け巣の状態を誤検知したデータを使用することを抑制できる。
【0075】
また、本実施形態によれば、プロセッサにより実行される、ダイカスト成形品の品質予測方法において、前記プロセッサは、ダイカスト装置1から出力された射出圧力値から特徴量を予め抽出し、前記特徴量を複数のクラスタに予め分類し、前記ダイカスト装置1を用いて成形された成形品が引け巣の状態の検査基準を満たすか否かの情報に基づいて、複数の前記クラスタを、前記検査基準を満たす前記クラスタと、前記検査基準を満たさない前記クラスタとに予め分類し、前記ダイカスト装置1を用いて新たな前記成形品を成形する場合は、前記ダイカスト装置1から出力された新たな前記射出圧力値から新たな前記特徴量を抽出し、新たな前記特徴量が属する前記クラスタを特定し、特定された前記クラスタの分類結果から、新たな前記成形品の前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測する、品質予測方法が提供される。これにより、ダイカスト装置1から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測できる。
【0076】
また、本実施形態の品質予測方法によれば、前記プロセッサは、前記ダイカスト装置1から出力された前記射出圧力値を用いてオートエンコーダを学習させ、前記オートエンコーダのエンコーダを用いて前記射出圧力値から前記特徴量を抽出してもよい。これにより、より的確に特徴量を抽出できる。
【0077】
また、本実施形態の品質予測方法によれば、前記プロセッサは、前記ダイカスト装置1が、第1圧力で成形型のキャビティに溶湯を射出した後に、前記第1圧力より高い第2圧力で前記キャビティに前記溶湯を射出する場合は、前記第1圧力の値を前記射出圧力値として用いてもよい。これにより、ダイカスト成形品に引け巣欠陥が生じ始めた初期の段階で欠陥の発生を検出できる。
【0078】
また、本実施形態の品質予測方法によれば、前記プロセッサは、前記成形品の内部に生じた引け巣の直径の総和と、前記射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形とを対応させたデータを用いて、前記引け巣の状態と前記射出圧力波形との相関関係を求め、前記射出圧力波形に対応する前記直径の総和と、前記相関関係を用いて前記射出圧力波形から予測された前記直径の総和との相関係数が0.8以上となる場合の前記射出圧力値を用いて、複数の前記クラスタを生成してもよい。これにより、適切なクラスタを生成できる。
【0079】
また、本実施形態のによれば、成形品ごとに付された識別番号と、前記識別番号と関連付けられて出力された、前記成形品を成形したときの射出圧力値とを取得し、上述の品質予測方法により、前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測し、前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすと予測した場合は、前記成形品が前記検査基準を満たすことを前記識別番号と対応させて記録するとともに、前記成形品を合格製品として搬出する指示を出力し、前記引け巣の状態が前記検査基準を満たさないと予測した場合は、前記成形品が前記検査基準を満たさないことを前記識別番号と対応させて記録するとともに、前記成形品の前記引け巣の状態を解析する指示を出力する、前記プロセッサにより実行される、ダイカスト成形品の検査方法が提供される。これにより、検査基準を満たさないと予測されるダイカスト成形品を合格製品として搬出することを抑制できる。
【0080】
また、本実施形態によれば、ダイカスト装置1を用いて成形した成形品の引け巣の状態と、前記ダイカスト装置1が前記成形品を成形したときに出力した、射出圧力値の時間変化を示す射出圧力波形と、を対応させたデータを用いて、前記引け巣の状態と前記射出圧力波形との相関関係を求める関係取得部41と、前記ダイカスト装置1を用いて新たな前記成形品を成形する場合に、新たな前記成形品を成形したときに出力される前記射出圧力波形と、前記相関関係とを用いて、新たな前記成形品の引け巣の状態を予測する状態予測部42と、を備える、引け巣予測装置4が提供される。これにより、ダイカスト装置1から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測できる。
【0081】
また、本実施形態によれば、ダイカスト装置1から出力された射出圧力値から特徴量を抽出する抽出部52と、前記特徴量を複数のクラスタに分類し、前記ダイカスト装置1を用いて成形された成形品が引け巣の状態の検査基準を満たすか否かの情報に基づいて、複数の前記クラスタを、前記検査基準を満たす前記クラスタと、前記検査基準を満たさない前記クラスタとに分類する分類部53と、前記クラスタの分類結果から、前記成形品の前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測する適合予測部54と、を備え、前記抽出部52は、前記ダイカスト装置1を用いて新たな前記成形品を成形する場合は、前記ダイカスト装置1から出力された新たな前記射出圧力値から新たな前記特徴量を抽出し、前記適合予測部54は、新たな前記特徴量が属する前記クラスタを特定し、特定された前記クラスタの分類結果から、新たな前記成形品の前記引け巣の状態が前記検査基準を満たすか否かを予測する、品質予測装置が提供される。これにより、ダイカスト装置1から出力されたデータに基づいて引け巣の状態を予測できる。
【符号の説明】
【0082】
10…成形システム
1…ダイカスト装置
2…表示装置
3…制御装置
31…CPU(プロセッサ)
32…ROM
33…RAM
4…引け巣予測装置
41…関係取得部
42…状態予測部
5…検査装置(品質予測装置)
51…取得部
52…抽出部
53…分類部
54…適合予測部
55…記録部
56…出力部
S…サーバ
X,Y…範囲